以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の光走査装置を適用した画像形成装置1の内部構造の概略図である。画像形成装置1は例えば、コピー、プリンター、スキャナー及びファクシミリーの機能を有するデジタル複合機に適用することができる。画像形成装置1は装置本体100、原稿読取部200及び原稿給送部300を備える。
装置本体100の上に原稿読取部200が配置されており、原稿読取部200の上に原稿給送部300が配置されている。
原稿給送部300は自動原稿送り装置として機能し、原稿載置部301に置かれた複数枚の原稿を連続的に原稿読取部200に送ることができる。
原稿読取部200は露光ランプ等を搭載したキャリッジ、ガラス等の透明部材により構成された原稿台、CCD(Charge Coupled Device)センサー及び原稿読取スリット(いずれも不図示)を備える。CCDセンサーは読み取った原稿を画像データとして出力する。
装置本体100は用紙貯留部101、画像形成部103及び定着部105を備える。用紙貯留部101は装置本体100の最下部に配置されており、用紙の束を貯留することができる二つの用紙カセット101a,101bを備える。
用紙カセット101a,101bのうち、選択されたカセットに貯留された用紙の束において、最上位の用紙がピックアップローラー(不図示)の駆動により、装置本体100の用紙搬送路107へ向けて送出される。用紙は用紙搬送路107を通って、画像形成部103へ搬送される。
用紙搬送路107は装置本体100の一方の側面(図1において右側の側面)に沿って下方から上方に向かって略垂直方向に延設され、上方で他方の側面(図1において左側の側面)に向かうように湾曲して、原稿読取部200の下方に沿って略水平方向に延びている。そして、その端部に排出トレイ131が設けられている。
画像形成部103は搬送されてきた用紙にトナー画像を形成する。画像形成部103はトナー画像を転写ベルト117に転写する順番に従って配置された、イエロー画像形成部111Y、マゼンタ画像形成部111M、シアン画像形成部111C、ブラック画像形成部111BKを備える。これらのユニットは同様の構成を有しており、イエロー画像形成部111Yを例にして説明する。
イエロー画像形成部111Yは感光体ドラム113及び露光部115を備える。感光体ドラム113の周りには帯電部119、現像部121及びクリーニング部123が配置されている。帯電部119は感光体ドラム113の周面を一様に帯電させる。露光部115は画像データ(原稿読取部200から出力された画像データ、パソコンから送信された画像データ、ファクシミリー受信の画像データ等)に対応して変調された光ビームを生成し、一様に帯電された感光体ドラム113の周面に照射する。これにより、感光体ドラム113の周面にはイエローの画像データに対応する静電潜像が形成される。この状態で感光体ドラム113の周面に現像部121からイエロートナーを供給することにより、周面にはイエローの画像データに対応するトナー画像が形成される。
転写ベルト117は感光体ドラム113と1次転写ローラー125により挟まれた状態で反時計周りに動くことができる。イエローのトナー画像は感光体ドラム113から転写ベルト117に転写される。感光体ドラム113の周面に残っているイエロートナーはクリーニング部123によって除去される。以上がイエロー画像形成部111Yの説明である。
イエロー画像形成部111Y、マゼンタ画像形成部111M、シアン画像形成部111C、ブラック画像形成部111BKの上方には、対応する色のトナーを収容したコンテナー、すなわち、イエロートナーコンテナー127Y、マゼンタトナーコンテナー127M、シアントナーコンテナー127C、ブラックトナーコンテナー127BKが配置されている。各色の現像部121には、対応するコンテナーからトナーが補給される。
上述したように転写ベルト117にはイエローのトナー画像が転写され、このトナー画像に重ねてマゼンタのトナー画像が転写され、同様に、シアンのトナー画像、ブラックのトナー画像が重ねて転写される。これにより転写ベルト117にカラーのトナー画像が形成される。このように各色のパターンのトナー画像を転写ベルト117に重畳して転写することにより、転写ベルト117にカラーのトナー画像が形成される。カラーのトナー画像は2次転写ローラー129によって、先ほど説明した用紙貯留部101から搬送されてきた用紙に転写される。
カラーのトナー画像が転写された用紙は、定着部105に送られる。定着部105は加熱ローラーと定着ローラーとを備える。これらのローラーによって、カラーのトナー画像が転写された用紙が挟まれる。これにより、カラーのトナー画像と用紙に熱と圧力が加えられて、カラーのトナー画像を用紙に定着させる。用紙は排紙トレイ131に排紙される。
図2は、図1に示す画像形成装置1の構成を示すブロック図である。画像形成装置1は装置本体100、原稿読取部200、原稿給送部300、操作部400、制御部500及び通信部600がバスによって相互に接続された構成を有する。装置本体100、原稿読取部200及び原稿給送部300に関しては、既に説明したので、説明を省略する。
操作部400は操作キー部401と表示部403を備える。表示部403はタッチパネル機能を有しており、ソフトキーを含む画面が表示される。ユーザーは画面を見ながらソフトキーを操作することによって、コピー等の機能の実行に必要な設定等をする。
操作キー部401にはハードキーからなる操作キーが設けられている。具体的にはスタートキー、テンキー、ストップキー、リセットキー、コピー、プリンター、スキャナー及びファクシミリーを切り換えるための機能切換キー等が設けられている。
スタートキーはコピー、ファクシミリー送信等の動作を開始させるキーである。テンキーはコピー部数、ファクシミリー番号等の数字を入力するキーである。ストップキーはコピー動作等を途中で中止させるキーである。リセットキーは設定された内容を初期設定状態に戻すキーである。
機能切換キーはコピーキー及び送信キー等を備えており、コピー機能、送信機能等を相互に切り替えるキーである。コピーキーを操作すれば、コピーの初期画面が表示部403に表示される。送信キーを操作すれば、ファクシミリー送信及びメール送信の初期画面が表示部403に表示される。
制御部500はCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び画像メモリー等により構成される。CPUは画像形成装置1を動作させるために必要な制御を、装置本体100等の画像形成装置1の上記構成要素に対して実行する。ROMは画像形成装置1の動作の制御に必要なソフトウェアを記憶している。RAMはソフトウェアの実行時に発生するデータの一時的な記憶及びアプリケーションソフトの記憶等に利用される。画像メモリーは画像データ(原稿読取部200から出力された画像データ、パソコンから送信された画像データ、ファクシミリー受信の画像データ等)を一時的に記憶する。
通信部600はファクシミリー通信部601及びネットワークI/F部603を備える。ファクシミリー通信部601は相手先ファクシミリーとの電話回線の接続を制御するNCU(Network Control Unit)及びファクシミリー通信用の信号を変復調する変復調回路を備える。ファクシミリー通信部601は電話回線605に接続される。
ネットワークI/F部603はLAN(Local Area Network)607に接続される。ネットワークI/F部603はLAN607に接続されたパソコン等の端末装置との間で通信を実行するための通信インターフェイス回路である。
本実施形態に係る光走査装置3は、露光部115、回路(電気回路、電子回路)及びマイクロコンピューター等で構成される。図3は、露光部115を構成する光学部品の配置関係を示す図である。
露光部115は光源31、光偏向部10及び二つの走査レンズ33,35等を備える。光源31は例えば、レーザーダイオードであり、画像データに対応して変調された光ビームLBを射出する。
光源31と光偏向部10との光路上には、コリメーターレンズ37及びシリンドリカルレンズ39が配置されている。コリメーターレンズ37は光源31から射出された光ビームLBを平行光にする。シリンドリカルレンズ39は平行光にされた光ビームLBを線状に集光する。線状に集光された光ビームLBは光偏向部10に入射される。
光偏向部10と感光体ドラム113との光路上には、走査レンズ33と走査レンズ35が配置されている。光偏向部10のミラー部11に入射された光ビームLBは、ミラー部11で反射、偏向されて、走査レンズ33,35により感光体ドラム113に結像される。すなわち、光ビームLBを感光体ドラム113に走査することにより、感光体ドラム113に静電潜像が形成される。
露光部115はさらに、BDレンズ41及びBDセンサー43を備える。感光体ドラム113の一方の側部113aから他方の側部113bへ向けて、光ビームLBが感光体ドラム113を走査し、有効走査範囲Rを超えた光ビームLBは、BDレンズ41で集光されてBDセンサー43で受光される。BD(Beam Detect)センサー43は感光体ドラム113に走査(主走査)を開始する基準となるBD信号を生成する。
光偏向部10は圧電駆動型のMEMSミラーである。但し、光偏向部10に用いることができるMEMSミラーは、圧電駆動型に限定されない。図4は光偏向部10の原理を示す図であり、図5は図4に示す光偏向部10をA−A線に沿って切断した断面図である。光偏向部10はミラー部11、フレーム13、トーションバー15及びミラー駆動部17a,17b,17c,17dを備える。
フレーム13の形状は矩形である。フレーム13は長手方向に延びる一対の辺部13a,13bと、長手方向と直交する方向に延びる一対の辺部13c,13dとにより構成される。フレーム13の中心部にはミラー部11が配置されている。ミラー部11は、長軸方向がフレーム13の長手方向と合致した楕円形状を有する。光ビームはミラー部11に入射され、ミラー部11で反射、偏向される。
トーションバー15はミラー部11の楕円の短軸方向に延びており、その一端が梁19により支持され、その他端が梁21により支持されている。トーションバー15は、ミラー部11と一体形成されている。梁19,21はそれぞれ一対の辺部13c,13dにより支持されている。
梁19上には、トーションバー15より辺部13c側にミラー駆動部17aが形成され、トーションバー15より辺部13d側にミラー駆動部17bが形成されている。梁21上には、トーションバー15より辺部13c側にミラー駆動部17cが形成され、トーションバー15より辺部13d側にミラー駆動部17dが形成されている。
ミラー駆動部17aは図5に示すように、下部電極23、PZT薄膜25及び上部電極27により構成される。ミラー駆動部17b,17c,17dはミラー駆動部17aと同じ構成を有する。以下、ミラー駆動部17a,17b,17c,17dを区別する必要がなければ、ミラー駆動部17と記載する。光偏向部10では、ミラー駆動部17に駆動信号が入力されることにより、駆動信号に応じた駆動力でミラー部11が駆動振動する。
図6は図5と同じ断面において、ミラー駆動部17a,17cのPZT薄膜25が伸び、かつミラー駆動部17b,17dのPZT薄膜25が縮むように、ミラー駆動部17に駆動電圧を印加した状態を示す図である。図6では梁19,21が撓んでおり、これによりトーションバー15と一緒にミラー部11が傾いている。
以下、ミラー駆動部17a,17cのPZT薄膜25が伸び、かつミラー駆動部17b,17dのPZT薄膜25が縮む動作を第1の動作とし、ミラー駆動部17a,17cのPZT薄膜25が縮み、かつミラー駆動部17b,17dのPZT薄膜25が伸びる動作を第2の動作として説明する。第1の動作と第2の動作とが交互に繰り返されるようにミラー駆動部17に対し駆動電圧を印加して梁19,21を撓ませることにより、ミラー部11がトーションバー15を軸にして振動し、偏向角θが変動する。尚、図4に示す符号NLはミラー部11が振動していないときのミラー部11の法線を示している。
駆動電圧の周波数をミラー部11の共振周波数と一致させると、ミラー部11が共振し、偏向角θの最大値を大きくすることができる。ミラー部11を共振させた状態で、ミラー部11で光ビームを反射、偏向させることにより、光ビームを感光体ドラム113に走査する。
上述したように、ミラー部11の偏向角の変動範囲を目標変動範囲にするために、又は、偏向角変位波の位相を目標値にするために、駆動信号が補正される。この補正による過渡応答が原因で、変動範囲を目標変動範囲に到達させるのに時間を要し、偏向角変位波の位相を目標値に到達させるのに時間を要していた。また、過渡応答が原因で、ミラー部11が過剰に振動する可能性があることを本発明者は見出した。本実施形態に係る光走査装置3は、これらの問題を解決できる構成を備える。
図7は、本実施形態に係る光走査装置3の構成を示すブロック図である。光走査装置3は光源31、光偏向部10、変位波演算部51、最大偏向角決定部53、補正値演算部55、許容範囲判定部69、位相差判定部57、補正値演算部59、許容範囲判定部71、駆動信号生成部73及び増幅部67を備える。
光偏向部10において、ミラー駆動部17は入力される駆動信号に応じた駆動力でミラー部11を駆動振動させる。
駆動信号生成部73はミラー駆動部17へ出力される駆動信号を生成し、第1のパルス信号生成部61、第2のパルス信号生成部63及び信号合成部65を備える。
第1のパルス信号生成部61は第1のパルス信号を予め定められた周期で、駆動信号としてミラー駆動部17へ出力する。本実施形態において、第1のパルス信号は矩形波である。第1のパルス信号はパルス状であればよく、矩形波に限定されない。
第2のパルス信号生成部63は第1のパルス信号が補正される場合、一時的に第2のパルス信号を生成する。本実施形態において、第2のパルス信号は一個の矩形波によって構成され、第2のパルス信号のパルス幅は第1のパルス信号のパルス幅と同じにされている。第2のパルス信号はパルス状であればよく、矩形波に限定されない。第2のパルス信号のパルスの数は、一個に限定されない。第2のパルス信号のパルス幅は、第1のパルス信号のパルス幅と異なっていてもよい。
ミラー駆動部17が電圧で動作する場合、第1のパルス信号及び第2のパルス信号は電圧信号であり、ミラー駆動部17が電流で動作する場合、第1のパルス信号及び第2のパルス信号は電流信号となる。
信号合成部65は第1のパルス信号が補正される場合、第1のパルス信号と第2のパルス信号とを合成した信号を生成して、駆動信号としてミラー駆動部17へ出力し、第1のパルス信号が補正されない場合、第1のパルス信号を駆動信号としてミラー駆動部17へ出力する。
増幅部67は信号合成部65から出力された駆動信号を増幅する。増幅された駆動信号がミラー駆動部17に入力される。
変位波演算部51はBDセンサー43(図3)が光ビームLBを受光して出力したBD信号を利用して、ミラー駆動部17によって振動させられているミラー部11の偏向角の変位を時間軸に沿って波形状に表した偏向角変位波を演算する。
最大偏向角決定部53は変位波演算部51によって演算された偏向角変位波から、ミラー部11の偏向角の最大値を決定する。そして、最大偏向角決定部53は偏向角の最大値(言い換えれば、偏向角の変動範囲)と予め定められた目標最大値(言い換えれば、目標変動範囲)との大小を判定する。変位波演算部51と最大偏向角決定部53とにより、第3の判定部が構成される。第3の判定部は、ミラー駆動部17によって振動させられているミラー部11の偏向角を測定し、ミラー部11の偏向角の変動範囲と予め定められた目標変動範囲との大小を判定する。
補正値演算部55は最大偏向角決定部53によって偏向角の最大値が予め定められた目標最大値と異なると判定された場合、偏向角の最大値を目標最大値にするために、第1のパルス信号の最大値の補正値を演算する。
第1のパルス信号生成部61は補正値演算部55によって補正値が演算された場合、補正値により補正された第1のパルス信号を生成する。言い換えれば、ミラー部11の偏向角の最大値(変動範囲)が目標最大値(目標変動範囲)になるような駆動力をミラー部11に付与する信号に第1のパルス信号を補正する。
第2のパルス信号生成部63は最大偏向角決定部53によってミラー部11の偏向角の最大値(変動範囲)が目標最大値(目標変動範囲)よりも小さいと判定されて、又は大きいと判定されて、第1のパルス信号が補正される場合、補正前又は補正後の第1のパルス信号と合成される第2のパルス信号を一時的に生成する。
ミラー部11の偏向角の最大値が目標最大値よりも小さい場合、第2のパルス信号生成部63は、第1のパルス信号と第2のパルス信号とを合成した信号(以下、合成信号と記載する場合もある)が、補正後の第1のパルス信号による駆動力よりも大きな駆動力をミラー部11に付与するように、第2のパルス信号の値を設定して、第2のパルス信号を生成する。
これに対して、ミラー部11の偏向角の最大値が目標最大値よりも大きい場合、第2のパルス信号生成部63は、合成信号が、補正後の第1のパルス信号による駆動力よりも小さな駆動力をミラー部11に付与するように、第2のパルス信号の値を設定して、第2のパルス信号を生成する。
但し、過渡応答の影響で、第1のパルス信号が補正された後の駆動信号の値である補正後信号値が許容範囲外となる場合、次に説明するように、第2のパルス信号の値を調整して、補正後信号値を予め定められた値に規制する。予め定められた値については、次の許容範囲判定部69の説明箇所で説明する。第1のパルス信号が補正される場合、ミラー駆動部17には、補正後の第1のパルス信号が駆動信号として入力されたり、合成信号が駆動信号として入力されたりする。従って、第1のパルス信号が補正された後の駆動信号とは、補正後の第1のパルス信号や合成信号を意味する。
許容範囲判定部69(第1の判定部の一例)は、最大偏向角決定部53によって偏向角の最大値が目標最大値よりも小さいと判定されて、又は大きいと判定されて、第1のパルス信号が補正される場合、第1のパルス信号が補正された後の駆動信号の値である補正後信号値が、許容範囲外か否かを、第2のパルス信号の生成前に判定する。許容範囲とは、第1のパルス信号が補正された後の駆動信号が過渡応答の影響を受けている場合に、ミラー部11の偏向角の最大値が予め定められた上限値を超えない駆動信号の値の範囲である。上述した予め定められた値とは、許容範囲の最大値であり、ミラー部11の偏向角の最大値が予め定められた上限値となる駆動信号の値である。上限値はミラー部11の破壊等を考慮して決められる。
駆動信号生成部73は補正後信号値が許容範囲外と判定された場合、合成信号の絶対値を小さくすることにより、補正後信号値を予め定められた値に規制し、補正後信号値が許容範囲外と判定されない場合、補正後信号値の規制を実行しない。合成信号の絶対値を小さくするとは、例えば、第2のパルス信号の初期値が予め定められており、第2のパルス信号生成部63は、第2のパルス信号の初期値の絶対値よりも小さい絶対値を有する第2のパルス信号を生成することをいう。
次に、位相差判定部57(第2の判定部の一例)について説明する。駆動信号である第1のパルス信号によって、ミラー駆動部17にミラー部11を駆動させて、ミラー部11を振動させる。このため第1のパルス信号と偏向角変位波には、位相差が生じる。この位相差は、MEMSミラーの共振周波数によって決まる。位相差判定部57は、第1のパルス信号と偏向角変位波との位相差が予め定められた目標値と異なるか否かを判定する。
補正値演算部59は位相差判定部57によって位相差が目標値と異なると判定された場合、位相差を目標値にするために、第1のパルス信号の位相の補正値を演算する。
第1のパルス信号生成部61は補正値演算部59によって第1のパルス信号の位相の補正値が演算された場合、第1のパルス信号の位相を補正し、その補正値により補正された位相を有する第1のパルス信号を予め定められた周期で駆動信号としてミラー駆動部17へ出力する。
第2のパルス信号生成部63は第1のパルス信号の位相が補正される場合、この補正がされる前に一時的に第2のパルス信号を生成する。詳しくは、第2のパルス信号生成部63は、第1のパルス信号の中で第2のパルス信号と合成されるパルスのパルス中心の位相と、第2のパルス信号のパルス中心の位相と、が異なる(例えば、90度異なる)タイミングで第2のパルス信号を生成する。これについては後で説明する。
信号合成部65は第1のパルス信号の位相が補正される場合、補正前の第1のパルス信号と第2のパルス信号とを合成した信号を生成して駆動信号として出力する。信号合成部65は第1のパルス信号の位相が補正されない場合、第1のパルス信号を駆動信号として出力する。
許容範囲判定部71(第1の判定部の一例)は、第1のパルス信号の位相が補正される場合、第1のパルス信号の位相が補正された後の駆動信号の値である補正後信号値が、許容範囲外か否かを、第2のパルス信号の生成前に判定する。許容範囲とは上述したように、ミラー部11の偏向角の最大値が予め定められた上限値を超えない駆動信号の値の範囲である。
駆動信号生成部73は補正後信号値が許容範囲外と判定された場合、合成信号の絶対値を小さくすることにより、補正後信号値を予め定められた値に規制し、補正後信号値が許容範囲外と判定されない場合、補正後信号値の規制を実行しない。本実施形態では第2のパルス信号の値を調整して合成信号の絶対値を小さくする。即ち、第2のパルス信号生成部63は補正後信号値が許容範囲外と判定された場合、第2のパルス信号の値の絶対値を小さくすることにより、補正後信号値を予め定められた値に規制し、補正後信号値が許容範囲外と判定されない場合、補正後信号値の規制を実行しない。予め定められた値とは、許容範囲判定部69の説明箇所で説明した予め定められた値と同じ意味である。
第1のパルス信号の位相の補正について説明する。図8は、第1のパルス信号の一例を示すグラフである。縦軸が第1のパルス信号の値(V)を示し、横軸が時間(秒)を示している。第1のパルス信号は連続して生成される矩形波であり、最大値が1.0V、最小値が−1.0V、周期が0.001秒である。
時刻0.0015秒において、第1のパルス信号の位相を2μ秒遅らせる補正が開始される。これによる第1のパルス信号の位相の変化を図9で示す。図9は、図8において時刻0.00172秒〜0.00178秒の区間を拡大したグラフである。縦軸が第1のパルス信号の値(V)を示し、横軸が時間(秒)を示している。第1のパルス信号の位相を補正した場合、時刻0.00175秒の近傍で、第1のパルス信号の位相を補正しない場合と比べて、第1のパルス信号の立ち上がりが2μ秒遅れている。
偏向角変位波について説明する。図10は、偏向角変位波の一例を示すグラフである。縦軸がミラー部11の偏向角(rad)を示し、横軸が時間(秒)を示している。偏向角変位波は正弦波であり、最大値が約1rad、最小値が約−1rad、周期が0.001秒である。
次に、第1のパルス信号と第2のパルス信号との合成について説明する。図11は、第2のパルス信号の一例を示すグラフである。図12は、第2のパルス信号と合成される第1のパルス信号の一例を示すグラフである。図13は、第2のパルス信号が合成された第1のパルス信号、即ち、合成信号の一例を示すグラフである。図11〜図13の縦軸と横軸は、図8の縦軸と横軸と同じである。
図11を参照して、第2のパルス信号は一個の孤立パルスであり、最大値が0.1Vであり、最小値が0Vである。第2のパルス信号は第1のパルス信号の位相の補正前の0.0010秒から補正開始の0.0015秒までの期間に生成されている。
図11及び図12を参照して、第2のパルス信号生成部63は第1のパルス信号の位相の補正がされる前の第1のパルス信号で構成されるパルス列の最後に生成されたパルスと合成されるタイミングで第2のパルス信号を生成する。第2のパルス信号と合成されるパルスは、位相補正前の第1のパルス信号のパルスであればよく、最後に生成されたパルスに限定されない。第2のパルス信号生成部63は第1のパルス信号のパルス幅と同じパルス幅を有する第2のパルス信号を生成する。パルス幅とは、パルス信号の立ち上がり部の位置から立ち下がり部の位置までの長さ、又はパルス信号の立ち下がり部の位置から立ち上がり部の位置までの長さをいう。
第2のパルス信号生成部63は位相補正前の第1のパルス信号を構成するパルス列の最後に生成されたパルスのパルス中心の位相と、第2のパルス信号のパルス中心の位相とが、90度異なるタイミングで第2のパルス信号を生成する。パルス中心とは、パルス信号の立ち上がり部の位置の座標(位相)と立ち下がり部の位置の座標(位相)とを加算して二で割った位置の座標(位相)をいう。第2のパルス信号の場合、時刻0.00125秒の箇所の座標がパルス中心となる。第1のパルス信号の最後のパルスの場合、時刻0.0010秒の箇所の座標がパルス中心となる。
図13を参照して、第1のパルス信号の中で第2のパルス信号と合成された箇所は、最大値が1.0Vから1.1Vに上がり、最小値が−1.0Vから−0.9Vに上がっている。
本実施形態では、ミラー部11の偏向角変位波の位相を目標値にするために、第1のパルス信号の位相を補正する場合、この補正前に、第2のパルス信号を生成して、補正前の第1のパルス信号と第2のパルス信号とを合成した信号を駆動信号としてミラー駆動部17へ出力している。これにより、偏向角変位波の位相を目標値に到達する時間を短くできる。これについて説明する。
時刻0.001500秒において、第1のパルス信号の位相を2μ秒遅らせる補正が開始されている。これによる偏向角変位波を図14〜図16で示す。図14は、補正時刻(0.001500秒)での偏向角変位波を示すグラフである。図15は、補正時刻から0.05秒経過後の偏向角変位波を示すグラフである。図16は、補正時刻から0.15秒経過後の偏向角変位波を示すグラフである。
図14〜図16において、縦軸がミラー部11の偏向角(rad)を示し、横軸が時間(秒)を示している。図14では時刻0.001480秒〜0.001520秒の区間が示される。図15では0.05秒経過後の時刻0.051480秒〜0.051520秒の区間が示される。図16では0.15秒経過後の時刻0.151480秒〜0.151520秒の区間が示される。
実線のグラフは、本実施形態の場合、すなわち第2のパルス信号を生成した後、第1のパルス信号の位相を補正した場合を示している。点線のグラフは、比較例の場合、すなわち、第2のパルス信号を生成しないで、第1のパルス信号の位相を補正した場合を示している。一点鎖線のグラフは、第1のパルス信号の位相を補正しない場合を示している。
図14を参照して、本実施形態の場合、第1のパルス信号の位相の補正を開始した直後に、偏向角変位波の位相を2μ秒遅らせることができる。これに対して、図14〜図16を参照して、比較例の場合、第1のパルス信号の位相の補正の開始後、0.15秒経過しても、偏向角変位波の位相を2μ秒遅らせることができない。すなわち、位相を補正した第1のパルス信号がミラー駆動部17に入力されて、ミラー部11は即座に応答せず、遅れて応答している。
以上説明したように本実施形態によれば、ミラー部11を駆動させる駆動信号である第1のパルス信号の位相を補正する場合、第1のパルス信号の中で第2のパルス信号と合成されるパルスのパルス中心の位相と、第2のパルス信号のパルス中心の位相と、を同じでなく、異なるようにしている。これにより、第1のパルス信号の位相を補正した後の駆動信号に含まれる過渡応答の原因となる成分を打ち消すことができるので、ミラー部11の応答の遅れを抑制でき、その結果、偏向角変位波の位相を目標値に到達する時間を短くすることが可能となる。実施形態で説明したように、本発明者が実行したシミュレーションによれば、第1のパルス信号の中で第2のパルス信号と合成されるパルスのパルス中心の位相と、第2のパルス信号のパルス中心の位相と、が90度異なるようにすれば、偏向角変位波の位相を目標値に到達する時間を短くできることを確認した。
本実施形態では偏向角変位波の位相として、偏向角変位波と第1のパルス信号との位相差を例に説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、基準となる他の信号と偏向角変位波との位相差でもよいし、位相差でなく偏向角変位波自身の位相でもよい。
以上の通り、本実施形態によれば、偏向角変位波の位相を目標値に補正する場合、目標値に到達する時間を短くできる。
次に、本実施形態によれば、ミラー部11の偏向角の変動範囲を補正する場合、目標変動範囲に到達する時間を短くできることについて説明する。
図7で説明したように、本実施形態に係る光走査装置3よれば、ミラー部11の偏向角の変動範囲(言い換えれば、偏向角の最大値)を目標変動範囲(言い換えれば、目標最大値)にするために、第1のパルス信号を補正する場合に、第2のパルス信号を生成し、ミラー駆動部17に入力させている。これにより、ミラー部11の偏向角の変動範囲が目標変動範囲に到達する時間を短くできる効果が生じる。この効果を、第2のパルス信号を用いない比較例と比較して説明する。
比較例は、第1のパルス信号をミラー駆動部17に入力させるだけであり、第2のパルス信号は用いられない。ミラー駆動部17に入力される第1のパルス信号は、予め設定された周期で生成された矩形波信号である。図17は、比較例において、ミラー部11に作用するトルクと時間との関係を示すグラフである。横軸は時間(秒)を示し、縦軸はトルク(相対値)を示している。図18は、比較例において、ミラー部11の偏向角と時間との関係を示すグラフである。横軸は時間(秒)を示し、縦軸はミラー部11の偏向角(rad)を示している。ミラー部11に作用するトルクとミラー部11の偏向角との対応関係が分かるように、図17と図18は時間の範囲(0から0.02)を同じにしている。ミラー部11に作用するトルクは、ミラー部11に付与される駆動力を意味する。図19は、図18(比較例)おいて、横軸の時間の範囲を長くし(0〜0.1)、縦軸の偏向角の範囲を限定(0.9〜1.02)したグラフである。比較例では、目標変動範囲における偏向角の最大値を1.04radに設定している。
比較例では、図17及び図19に示すように、時間が0.01のときに、偏向角の最大値が0.93radで目標偏向角である1.04radよりも小さいため、ミラー部11に作用するトルクの絶対値を大きくする補正(ここでは、第1のパルス信号の波高値を大きくする補正)をして、ミラー部11の偏向角の変動範囲を大きくしている。第1のパルス信号の値は、ミラー部11に作用するトルクの値と一対一に対応するため、第1のパルス信号の絶対値が大きくなると、ミラー部11に作用するトルクの絶対値が大きくなり、ミラー部11の偏向角が大きくなる。
図18はミラー部11の偏向角を示しているが、時間0.01(第1のパルス信号を補正した時間)前後で、ミラー部11の偏向角の変動範囲の変化が明確に現れていない。
そこで、図19を参照すると、比較例では、0.1秒経過しても、偏向角の最大値が目標偏向角である1.04radに到達していないことが分かる。つまり、補正後の第1のパルス信号をミラー駆動部17に入力しても、ミラー部11は即座に応答せず、遅れて応答している。
次に、第2のパルス信号を用いる本実施形態について説明する。図20は、本実施形態において、ミラー部11に作用するトルクと時間との関係を示すグラフである。図21は、第2のパルス信号に関して、ミラー部11に作用するトルクと時間との関係を示すグラフである。図20及び図21は図17と同様に、横軸が時間(秒)を示し、縦軸がトルク(相対値)を示している。図22は、本実施形態において、ミラー部11の偏向角と時間との関係を示すグラフである。図22は図18と同様に、横軸が時間(秒)を示し、縦軸がミラー部11の偏向角(rad)を示している。ミラー駆動部17に入力される第1のパルス信号は、比較例と同様の矩形波である。ミラー駆動部17に入力される第2のパルス信号は、半周期の矩形波である。本実施形態では、比較例と同様に、目標変動範囲における偏向角の最大値を1.04radに設定している。
本実施形態では、時間が0.01のときに、偏向角の最大値が0.93radで目標値である1.04radよりも小さいため、比較例と同様に、ミラー部11の偏向角の変動範囲を大きくする。具体的には、最初に、半周期の矩形波である第2のパルス信号を生成して、補正前の第1のパルス信号と合成した信号を駆動信号として。ミラー駆動部17に入力させる。ここでは、補正前の第1のパルス信号の最大値の部分と第2のパルス信号とが合成されている。次に、補正した第1のパルス信号を生成して、ミラー駆動部17に入力させる。
本実施形態において、第1のパルス信号の補正前の波高値及び補正後の波高値は、比較例での第1のパルス信号の補正前の波高値及び補正後の波高値と同じにされている。第2のパルス信号のパルス幅は第1のパルス信号のパルス幅と同じにされている。合成信号の波高値は補正した第1のパルス信号の波高値より大きくされている。従って、合成信号によりミラー部11に付与されるトルク(駆動力)は、補正後の第1のパルス信号によりミラー部11に付与されるトルク(駆動力)よりも大きい。
図22はミラー部11の偏向角を示しており、時間0.01直後にミラー部11の偏向角の変動範囲が大きくなっていることが分かる。これを明確に示すのが図23及び図24である。図23は、図20において、横軸の時間の範囲を0.009〜0.012に限定し、縦軸のトルクの範囲を0.99〜1.01に限定したグラフである。図24は、図22おいて、横軸の時間の範囲を0.009〜0.012に限定し、縦軸の偏向角の範囲を0.9〜1.04に限定したグラフである。本実施形態によれば、図24に示すように、時間が0.011を経過する前に、偏向角の最大値が、目標偏向角である1.04radに到達している。
以上説明したように、本実施形態に係る光走査装置3によれば、第1のパルス信号が補正される場合に第2のパルス信号が生成される。ミラー部11の偏向角を大きくする場合、第1のパルス信号と第2のパルス信号とを合成した信号によりミラー部11に付与される駆動力は、補正後の第1のパルス信号によりミラー部11に付与される駆動力よりも大きい。これは、例えば、補正した第1のパルス信号と比べて波高値が大きく、パルス幅が同じである合成信号を半周期だけ(1パルスだけ)生成することを意味する。
このように、ミラー部11の偏向角を大きくするために第1のパルス信号が補正される場合、ミラー駆動部17には補正した第1のパルス信号に加えて上述した補正した第1のパルス信号に対するミラー部11の応答の遅れを抑制するための合成信号が入力される。従って、補正した第1のパルス信号のみがミラー駆動部17に入力される方式よりも、ミラー駆動部17がミラー部11を駆動する駆動力を大きくできるので、ミラー部11の偏向角を大きくする場合にミラー部11の偏向角の変動範囲が目標変動範囲に到達する時間を短くすることが可能となる。
次に、ミラー部11の偏向角を小さくする場合を簡単に説明する。図25は、本実施形態において、ミラー部11の偏向角を小さくする場合に、ミラー部11に作用するトルクと時間との関係を示すグラフである。図26は、第2のパルス信号に関して、ミラー部11に作用するトルクと時間との関係を示すグラフである。図25及び図26は、図20と同様に、横軸が時間(秒)を示し、縦軸がトルク(相対値)を示している。
第1のパルス号生成部61が生成する補正した第1のパルス信号の波高値は、補正する前の第1のパルス信号の波高値より小さい。第2のパルス信号生成部63は時刻0.01秒において、半周期の第2のパルス信号を生成する。第2のパルス信号により生じるトルクは、マイナスにされている。時刻0.01秒において、第1の駆動信号生成部61が生成した第1のパルス信号と第2のパルス信号生成部63が生成した第2のパルス信号とを合成した信号が駆動信号となる。ここでは、補正する前の第1のパルス信号の最大値の部分と第2のパルス信号とが合成されている。
ミラー部11の偏向角を小さくする場合、合成信号によりミラー部11に付与される駆動力は、補正した第1のパルス信号によりミラー部11に付与される駆動力よりも小さい。これは、例えば、補正した第1のパルス信号と比べて波高値が小さく、パルス幅が同じである合成信号を半周期だけ(1パルスだけ)生成することを意味する。
従って、補正した第1のパルス信号のみがミラー駆動部17に入力される方式よりも、ミラー駆動部17がミラー部11を駆動する駆動力を小さくできるので、ミラー部11の偏向角を小さくする場合に、ミラー部11の偏向角の変動範囲が目標変動範囲に到達する時間を短くすることが可能となる。
次に、本実施形態によれば、ミラー部11の過剰な振動を抑制できることを説明する。ミラー部11の偏向角の変動範囲を目標変動範囲にするために、又は、偏向角変位波の位相を目標値にするために、駆動信号が補正される。この補正による過渡応答が原因でミラー部11が過剰に振動する。この振動の抑制について、ミラー部11の偏向角の変動範囲を目標変動範囲にするために、第1のパルス信号の位相を補正する場合を例にして説明する。図27は、第1のパルス信号の位相の補正値及び第2のパルス信号の補正値等の具体例を示す表である。この表に記載されている具体的数値は、仮定の値であり、実験やシミュレーションで得た値ではない。図27の欄(1)には、第1のパルス信号の位相の補正値が示されている。
欄(2)には、第2のパルス信号の値が初期値(0.1V)のもとで第1のパルス信号の位相を補正した場合に、過度応答期間中の駆動信号(補正後の第1のパルス信号や合成信号)の最大値及びそのときのミラー部11の偏向角が示されている。駆動信号が最大値のときにミラー部11の偏向角が最大値になる。偏向角の上限値は、ミラー部11の破壊を考慮して定められ、例えば、1.4radとし、そのときの駆動信号の値を例えば、3.2V(駆動信号の最大値)とする。
欄(3)には、偏向角の最大値が上限値を超えているか否かが示されている。欄(4)には、偏向角の最大値が上限値を超える場合に、偏向角の最大値を上限値に規制できる第2のパルス信号の補正値が示されている。
図7に示す許容範囲判定部71は、図27に示すデータを保持しており、第1のパルス信号の位相が補正された後の駆動信号の値が許容範囲外と判定された場合、第2のパルス信号の値の絶対値を小さくするために、補正値を第2のパルス信号生成部63に送る。第2のパルス信号生成部63は、その補正値で補正された第2のパルス信号を生成する。これにより、第1のパルス信号の位相の補正がされた後の駆動信号の値を許容範囲内(この例では最大値)に規制する。
第2のパルス信号の値の絶対値を小さくする補正をした場合、第2のパルス信号の値が初期値(0.1V)の場合と比べて、過渡応答期間中において、偏向角の最大値を小さくできることを、シミュレーションで確認した。これについて説明する。図28は、このシミュレーションに用いた偏向角変位波を示すグラフである。縦軸がミラー部11の偏向角(rad)を示し、横軸が時間(秒)を示している。偏向角変位波は正弦波であり、最大値が約1rad、最小値が約−1rad、周期が0.001秒である。
図29及び図30は、図28において、横軸の時間の範囲を長くし(0〜0.2)、縦軸の偏向角の範囲を限定(0.934〜0.935)したグラフである。図29は、第2のパルス信号の値の絶対値を小さくする補正をした場合、図30は、第2のパルス信号の値が初期値の場合を示している。
第2のパルス信号の値の絶対値を小さくする補正をした場合(図29)、及び、第2のパルス信号の値が初期値の場合(図30)のいずれも、過渡応答の影響で、第1のパルス信号の位相を補正した直後は、偏向角の最大値が目標偏向角を超えており、徐々に目標偏向角に収束するが、第2のパルス信号の値の絶対値を小さくする補正をした場合(図29)は、第2のパルス信号の値が初期値の場合(図30)と比べて、偏向角の最大値を大きく規制できることが分かる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1のパルス信号が補正される場合、第1のパルス信号が補正された後の駆動信号の値である補正後信号値が、許容範囲外か否かを、第2のパルス信号の生成前に判定する。第2のパルス信号生成部63は、補正後信号値が許容範囲外と判定された場合、第2のパルス信号の値の絶対値を小さくすることにより、補正後信号値を予め定められた値(許容範囲の最大値であり、ミラー部11の偏向角の最大値が予め定められた上限値となる駆動信号の値)に規制する。よって、第1のパルス信号の補正によって生じる過渡応答が原因でミラー部が過剰に振動することを抑制できる。
次に、本実施形態に係る光走査装置3を適用した画像形成装置1について説明する。図3を参照して、光源31から射出された光ビームLBを感光体ドラム113(像担持体の一例)に走査して静電潜像を形成する。本実施形態に係る光走査装置3(図7)は、片側主走査を実行して静電潜像を形成する。片側主走査とは、一方の側部113aから他方の側部113bへ向けて感光体ドラム113を、光ビームLBで主走査方向に走査する主走査を実行し、他方の側部113bから一方の側部113aへ向けて感光体ドラム113を走査しないことをいう。片側主走査によれば、両側主走査に比べて、画像の形成速度は劣るが、画像の再現性を向上させることができる。
第1のパルス信号が補正される場合、主走査終了後、次の主走査を開始する前に(言い換えれば、主走査終了後、次の主走査をするために、ミラー部11の偏向角が逆方向に変動している期間に)、第2のパルス信号生成部63は第2のパルス信号を生成し、そして、第1のパルス信号生成部61は補正がされた第1のパルス信号を生成する。
本実施形態に係る光走査装置3を適用した画像形成装置1の動作を、第1のパルス信号の位相の補正を例にして、主に、図3、図7及び図31を用いて説明する。図31はその動作を説明するフローチャートである。画像形成装置1が画像形成動作を開始する(ステップS1)。画像形成動作とはコピージョブやプリンタージョブ等を実行する動作をいう。この動作には、光ビームLBを感光体ドラム113に走査する以下の動作が含まれる。第1のパルス信号生成部61は第1のパルス信号を生成し、第1のパルス信号がミラー駆動部17に入力される。これにより、ミラー駆動部17がミラー部11を駆動して、ミラー部11を共振させる。ミラー部11が共振した状態で、光源31は画像データに対応して変調された光ビームLBを照射する。光ビームLBはミラー部11で反射、偏向されて、回転する感光体ドラム113を走査する。
位相差判定部57が、第1のパルス信号と偏向角変位波との位相差が目標値と異なるか否かを判定する(ステップS2)。位相差判定部57が、位相差が目標値と異なると判定した場合(ステップS2でYes)、補正値演算部59は位相差を目標値にするために、第1のパルス信号の位相の補正値を演算する。そして、制御部500は主走査終了後(すなわち、画像データに応じた光ビームLBの出力終了後)、次の主走査を開始する前(すなわち、次の画像データに応じた光ビームLBの出力を開始する前)の期間か否かを判断する(ステップS3)。
制御部500が主走査終了後、次の主走査を開始する前の期間と判断しない場合(ステップS3でNo)、言い換えれば、主走査の期間中と判断した場合、ステップS3を繰り返す。
制御部500が主走査終了後、次の主走査を開始する前の期間と判断した場合(ステップS3でYes)、第2のパルス信号生成部63は1パルスの第2のパルス信号の出力を開始し、第1のパルス信号生成部61は位相の補正をした第1のパルス信号の出力を開始する(ステップS4)。これにより、位相差が目標値に調整される。
制御部500は画像の印刷を終了したか判断する(ステップS5)。制御部500は画像の印刷を終了したと判断した場合(ステップS5でYes)、制御部500は画像形成動作を終了させる。制御部500が画像の印刷を終了したと判断しない場合(ステップS5でNo)、ステップS2に戻る。
位相差判定部57が、位相差が目標値と異なると判定しない場合(ステップS2でNo)、言い換えれば、位相差が目標値と一致している場合、ステップS5へ進む。
本実施形態に係る光走査装置3を適用した画像形成装置1は、以下の効果を有する。一方の側部113aから他方の側部113bへ向けて感光体ドラム113を主走査する期間(すなわち、画像データに応じた光ビームLBの出力する期間)に、第1のパルス信号の位相を補正すると、その主走査する期間に偏向角変位波の位相が変わることにより、画像の再現性が低下するおそれがある。この画像形成装置1によれば、第1のパルス信号の位相が補正される場合、主走査終了後、次の主走査を開始する前に(言い換えれば、主走査終了後、次の主走査をするために、ミラー部11の偏向角が変動している期間に)、第2のパルス信号を生成し、そして位相が補正された第1のパルス信号を生成する。従って、次に、一方の側部113aから他方の側部113bへ向けて感光体ドラム113を主走査するときには、位相差を目標値に調整することが可能となるので、画像の再現性が低下するのを防止できる。
特に、タンデム型の画像形成装置に対して本実施形態は有効である。タンデム型とは、図1に示すような画像形成装置1を指す。画像形成装置1はタンデムに配置された四つの感光体ドラム113を備える。四つの感光体ドラム113とはイエロー画像形成部111Yの感光体ドラム113、マゼンタ画像形成部111Mの感光体ドラム113、シアン画像形成部111Cの感光体ドラム113、ブラック画像形成部111BKの感光体ドラム113をいう。画像形成装置1は、さらに、四つの感光体ドラム113のそれぞれに対応して設けられた四つの現像部121と、四つの感光体ドラム113のそれぞれに対応して設けられた四つの露光部115(光走査装置3)と、四つの感光体ドラム113に形成されたトナー画像が重ねて転写されることにより、カラーのトナー画像が形成される転写ベルト117と、を備える。
タンデム型ではカラーを構成する複数の色(例えば、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック)に応じて、光走査装置3が設けられている。これらの光走査装置3において、偏向角変位波の位相が一致していないと、カラー画像に色ズレが生じる。タンデム型の画像形成装置1に本実施形態に係る光走査装置3を適用しているので、四つの光走査装置3のそれぞれにおいて、偏向角変位波の位相を補正する場合に、目標値に到達する時間を短くできる。
尚、上記実施形態では、本発明を画像形成装置に適用した場合について説明したが、本発明は、画像形成装置に限られず、プロジェクターやバーコードリーダー等の光走査装置に適用することもできる。