以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載されるパワーユニット10の一例を示す概略図である。図1に示すように、パワーユニット10は、動力源としてエンジン11および走行用モータ12を有している。また、パワーユニット10には変速機構としての無段変速機13が設けられており、無段変速機13にはプライマリプーリ14およびセカンダリプーリ15が設けられている。プライマリプーリ14の一方側には、トルクコンバータ16を介してエンジン11が連結される一方、プライマリプーリ14の他方側には、走行用モータ12が連結されている。また、セカンダリプーリ15には、トルクリミッタとして機能するヒューズクラッチ17を介して、駆動輪出力軸18が連結されている。この駆動輪出力軸18には、ディファレンシャル機構19およびアクスル軸20を介して駆動輪21が連結されている。また、エンジン11のクランク軸22には、駆動ベルト23を介してモータジェネレータ24が連結されている。モータジェネレータ24は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)であり、モータジェネレータ24を用いてクランク軸22を始動回転させることが可能となる。
エンジン11と走行用モータ12との間には、解放状態と締結状態とに切り換えられる入力クラッチ(油圧クラッチ)30が設けられている。入力クラッチ30は、トルクコンバータ16のタービン軸31に連結されるクラッチハブ32と、プライマリ軸33に連結されるクラッチドラム34とを備えている。クラッチハブ32には摩擦板35が取り付けられており、クラッチドラム34には摩擦板35に対向する摩擦板36が取り付けられている。また、クラッチドラム34にはピストン37が組み込まれており、ピストン37の背面側には締結油室38が区画されている。締結油室38に作動油を供給することにより、ピストン37を締結方向に移動させて摩擦板35,36を互いに押し付けることができ、入力クラッチ30を締結状態に切り換えることが可能となる。一方、締結油室38から作動油を排出することにより、図示しないリターンスプリングによってピストン37を解放方向に移動させて摩擦板35,36の押し付けを解除することができ、入力クラッチ30を解放状態に切り換えることが可能となる。また、締結油室38に供給される作動油の圧力を調整することにより、入力クラッチ30をスリップ状態に制御することが可能となる。なお、入力クラッチ30のスリップ状態とは、いわゆる半クラッチ状態であり、摩擦板35,36同士が滑りながら押し当てられる状態である。このように、入力クラッチ30は摩擦クラッチとして機能している。
入力クラッチ30を解放状態に制御することにより、プライマリプーリ14とエンジン11とを切り離すことが可能となる。これにより、走行モードをモータ走行モードに設定することができ、エンジン11を停止させて走行用モータ12の動力のみを駆動輪21に伝達することが可能となる。一方、入力クラッチ30を締結状態に制御することにより、プライマリプーリ14とエンジン11とを接続することが可能となる。これにより、走行モードをエンジン走行モードとしてのパラレル走行モードに設定することができ、走行用モータ12およびエンジン11の動力を駆動輪21に伝達することが可能となる。なお、エンジン走行モードとしては、走行用モータ12とエンジン11との双方を駆動するパラレル走行モードに限られることはなく、エンジン動力を駆動輪21に伝達する走行モードであれば如何なる走行モードであっても良い。例えば、エンジン走行モードとして、走行用モータ12を空転或いはトルクを発生させない状態とし、エンジン動力のみを駆動輪21に伝達するエンジン走行モードを採用しても良い。
エンジン11と入力クラッチ30との間に設けられるトルクコンバータ16は、クランク軸22にフロントカバー40を介して連結されるポンプインペラ41と、このポンプインペラ41に対向するとともにタービン軸31に連結されるタービンランナ42とを備えている。また、滑り要素であるトルクコンバータ16には、定常走行等における動力伝達効率を向上させるため、フロントカバー40とタービン軸31とを直結するロックアップクラッチ43が設けられている。
無段変速機13は、走行用モータ12に連結されるプライマリ軸33と、これに平行となるセカンダリ軸44とを有している。プライマリ軸33にはプライマリプーリ14が設けられており、プライマリプーリ14の背面側にはプライマリ室45が区画されている。また、セカンダリ軸44にはセカンダリプーリ15が設けられており、セカンダリプーリ15の背面側にはセカンダリ室46が区画されている。さらに、プライマリプーリ14およびセカンダリプーリ15には駆動チェーン47が巻き掛けられている。プライマリ室45に供給されるプライマリ圧とセカンダリ室46に供給されるセカンダリ圧とを調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン47の巻き付け径を変化させることが可能となる。これにより、プライマリ軸33からセカンダリ軸44に対する無段変速が可能となる。
以下、モータ走行モードからパラレル走行モードへの切り換えに備えた入力クラッチ30の締結制御について説明する。図2は本発明の一実施の形態である車両用制御装置50の構成を示す概略図である。図2において図1に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図2に示すように、車両用制御装置50は、パワーユニット10とこれの制御系とを備えている。また、車両用制御装置50には、第1モード設定部、第2モード設定部およびクラッチ制御部として機能する制御ユニット51が設けられている。制御ユニット51には、タービン軸31の回転速度(以下、タービン回転数と記載する)を検出するタービン回転センサ52、プライマリ軸33の回転速度(以下、プライマリ回転数と記載する)を検出するプライマリ回転センサ53、セカンダリ軸44の回転速度を検出するセカンダリ回転センサ54、走行用モータ12の回転速度を検出するモータ回転センサ55、駆動輪21の回転速度(以下、車速と記載する)を検出する車輪速センサ56が接続されている。制御ユニット51には、運転者によるアクセルペダルの操作状況を検出するアクセル開度センサ57、運転者によるブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキスイッチ58等が接続されている。また、制御ユニット51はモータジェネレータ24や図示しない補機類に接続されており、制御ユニット51からの制御信号によってエンジン11の作動状態が制御されている。さらに、制御ユニット51は走行用モータ12のインバータ59に接続されており、制御ユニット51からの制御信号によって走行用モータ12の作動状態が制御されている。なお、制御ユニット51は、制御信号等を演算するCPU、制御プログラム、演算式およびマップデータ等を格納するROM、一時的にデータを格納するRAM等によって構成される。
走行モードとしてモータ走行モードを設定する際には、制御ユニット51によって後述するバルブユニット60を制御することにより、締結油室38から作動油が排出されて入力クラッチ30が解放状態に制御される。一方、走行モードとしてパラレル走行モードを設定する際には、制御ユニット51によってバルブユニット60を制御することにより、締結油室38に作動油が供給されて入力クラッチ30が締結状態に制御される。また、制御ユニット51は、アクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル開度と記載する)や車速等に基づいて走行モードを設定する。例えば、制御ユニット51は、アクセルペダルが小さく踏み込まれた場合、つまり車両に対する要求駆動トルクが小さい場合には、入力クラッチ30を解放するとともにエンジン11を停止するモータ走行モードを設定する。一方、制御ユニット51は、アクセルペダルが大きく踏み込まれた場合、つまり車両に対する要求駆動トルクが大きい場合には、入力クラッチ30を締結するとともにエンジン11を駆動するパラレル走行モードを設定する。すなわち、モータ走行モードが設定されている状態のもとで、アクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、走行モードがモータ走行モードからパラレル走行モードに切り換えられるため、エンジン11を始動するとともに入力クラッチ30を締結する必要がある。このように、エンジン11を始動して入力クラッチ30を締結することは、アクセルペダルが踏み込まれてからパラレル走行モードでの加速走行を行うまでの応答性を低下させる要因であった。そこで、車両用制御装置50は、パラレル走モードへの切り換えに備え、モータ走行モードにおいて予め入力クラッチ30を締結状態に制御している。
以下、入力クラッチ30の締結制御について詳細に説明する。図3はモータ走行モードにおける車速Vとクラッチ圧Pcとの関係の一例を示す線図である。なお、図3にはモータ走行モードでの減速走行から停車を経て加速走行を行う走行状況が示されている。また、図3に示されるクラッチ圧Pcとは、バルブユニット60から入力クラッチ30の締結油室38に供給される作動油の目標圧力である。図3に示すように、車速Vが所定の閾値Vaを上回る状況では、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ1(Ph1)に設定されることで、クラッチ圧Pcがゼロに設定されて入力クラッチ30が解放状態に制御される。そして、車速Vが所定の閾値Vbを下回ると、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ2(Ph2)に設定され、クラッチ圧Pcが所定の目標油圧P1に引き上げられる。フェーズ2とは、入力クラッチ30の締結油室38を作動油で満たすための制御状態であり、フェーズ2の維持時間は、入力クラッチ30が前回解放されてからの経過時間に基づいて設定される。すなわち、入力クラッチ30の解放時間が長くなる程に、締結油室38から作動油が多く流出することから、作動油を充填するフェーズ2の維持時間も長く設定される。
所定の維持時間が経過してフェーズ2が完了すると、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ3(Ph3)に設定される。フェーズ3においては、プライマリ軸33の回転がタービン軸31に伝達され始める初期のスリップ状態に入力クラッチ30を制御するため、クラッチ圧Pcが所定の待機圧P2に向けて調整される。また、フェーズ3での目標値となる待機圧P2は、入力クラッチ30の個体差で締結されることが無いように、入力クラッチ30を締結する際の学習制御等によって調整される。なお、待機圧P2の学習制御は、例えば、図示しないセレクトレバーを操作して走行レンジを切り換えるタイミング、つまり入力クラッチ30を解放状態から締結状態に切り換えるタイミング等で実施される。そして、前述したフェーズ3の制御中に、車速Vが所定の閾値Vdを下回ると、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ4(Ph4)に設定され、クラッチ圧Pcが徐々に引き上げられる。このフェーズ4においては、タービン回転数とプライマリ回転数との回転数差が所定範囲に収束するか否か、つまり入力クラッチ前後の回転速度が同期したか否かが判定される。フェーズ4において、タービン回転数とプライマリ回転数との回転数差が所定範囲に収束したと判定された場合には、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ5(Ph5)に設定され、クラッチ圧Pcが所定の目標油圧P3に向けて急速に引き上げられる。このフェーズ5を実行することにより、入力クラッチ30はスリップ状態から締結状態に制御される。このように、モータ走行モードでの走行中に、車速Vが閾値Vbを下回る場合には、入力クラッチ30がスリップ状態から締結状態に向けて制御される。
入力クラッチ30の締結状態は、車速Vが所定の閾値Vcを上回るまで継続される。車速Vが閾値Vcを上回ると、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ6(Ph6)に設定され、クラッチ圧Pcが所定の目標油圧P4に向けて急速に引き下げられる。クラッチ圧Pcが目標油圧P4に到達すると、入力クラッチ30の制御状態がフェーズ7(Ph7)に設定され、クラッチ圧Pcが待機圧P2に向けて徐々に引き下げられる。このように、入力クラッチ30をスリップ状態に制御するフェーズ7においても、フェーズ3と同様に、クラッチ圧Pcを待機圧P2に制御している。すなわち、フェーズ3における入力クラッチ30のスリップ状態と、フェーズ7における入力クラッチ30のスリップ状態とは、同じ締結力で制御されるスリップ状態となっている。そして、車速Vが閾値Vaを上回ると、入力クラッチ30の制御状態が再びフェーズ1(Ph1)に設定され、クラッチ圧Pcがゼロに設定されて入力クラッチ30が解放状態に制御される。このように、モータ走行モードでの走行中に、車速Vが閾値Vcを上回る場合には、入力クラッチ30がスリップ状態から解放状態に向けて制御される。
ここで、図4(a)〜(c)はモータ走行モードにおける入力クラッチ30の作動状態を示す説明図である。前述したように、モータ走行モードにおいて、制御ユニット51は、車速に基づき入力クラッチ30の作動状態を制御している。すなわち、図4(a)に示すように、車両減速時に車速Vが閾値Vb以上になると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30が解放状態に制御される。また、図4(b)に示すように、車両減速時に車速Vが閾値Vbを下回ると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30がスリップ状態に制御される。さらに、図4(c)に示すように、車両減速時に車速Vが閾値Vdを下回ると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30が締結状態に制御される。このように、モータ走行モードでの車両減速時には、エンジン11の停止状態を維持したまま、入力クラッチ30が解放状態からスリップ状態を経て締結状態に制御される。
続いて、モータ走行モードでの車両加速時について説明する。図4(c)に示すように、車両加速時に車速Vが閾値Vcを下回ると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30が締結状態に制御される。また、図4(b)に示すように、車両加速時に車速Vが閾値Vc以上になると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30がスリップ状態に制御される。さらに、図4(a)に示すように、車両加速時に車速Vが閾値Va以上になると、エンジン11を停止させたまま入力クラッチ30が解放状態に制御される。このように、モータ走行モードでの車両加速時には、エンジン11を停止状態に維持したまま、入力クラッチ30が締結状態からスリップ状態を経て解放状態に制御される。なお、車両走行中に入力クラッチ30がスリップ状態や締結状態に制御されると、エンジン11のクランク軸22が停止した状態のもとで、トルクコンバータ16のタービン軸31が回転することになる。すなわち、車両走行中に入力クラッチ30がスリップ状態や締結状態に制御されると、トルクコンバータ16はポンプインペラ41とタービンランナ42とを相対回転させるスリップ状態となる。
なお、前述した図3に示される走行状況とは、減速から停車を経て加速する走行状況であることから、入力クラッチ30の制御状態は、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3、フェーズ4、フェーズ5、フェーズ6、フェーズ7の順に移行している。しかしながら、前述した各フェーズの移行順序に限られることはなく、車速が増減した場合には、他の順序で入力クラッチ30の制御状態が移行することになる。例えば、図3に符号V1で示すように、フェーズ2の実行中に車速が上昇して閾値Vaを上回る場合には、制御状態がフェーズ1に移行して入力クラッチ30が解放状態に制御される。また、図3に符号V2で示すように、フェーズ4の実行中に車速が上昇して閾値Vcを上回る場合には、制御状態がフェーズ6に移行して入力クラッチ30が解放過程でのスリップ状態に制御される。さらに、図3に符号V3で示すように、フェーズ7の実行中に車速が低下して閾値Vdを下回る場合には、制御状態がフェーズ4に移行して入力クラッチ30が締結過程でのスリップ状態に制御される。
ここで、図5はクラッチ圧Pc、タービン回転数Nt、プライマリ回転数Npおよびエンジン回転数Neの推移を示す線図である。図5にはモータ走行モードからパラレル走行モードに切り換えられる走行状況が示されている。また、図5においては、図面の理解を容易にするため、部分的に回転数Nt,Np,Neが重なる場合であっても、回転数Nt,Np,Neを若干ずらして記載している。なお、図5に示される所定値A1とは、走行モードを設定するためにアクセル開度Accと比較される値である。本実施の形態においては、アクセル開度Accが所定値A1を下回る場合に走行モードとしてモータ走行モードを設定し、アクセル開度Accが所定値A1以上となる場合に走行モードとしてパラレル走行モードを設定している。
図5に示すように、車速Vが閾値Vbを下回ると(符号α1)、入力クラッチ30が解放状態からスリップ状態に制御される。これにより、入力クラッチ30を介してプライマリ軸33からタービン軸31に動力が伝達され、タービン回転数Ntがプライマリ回転数Npに向けて上昇する。さらに、車速Vが低下して閾値Vbを下回ると(符号α2)、クラッチ圧Pcが徐々に引き上げられる。タービン回転数Ntとプライマリ回転数Npとが同期すると(符号α3)、クラッチ圧Pcが急速に引き上げられて入力クラッチ30は締結状態に制御される。その後、アクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度Accが所定値A1を超えると(符号α4)、走行モードとしてパラレル走行モードが設定され、エンジン11が始動されてエンジン回転数Neが上昇する(符号α5)。また、パラレル走行モードの設定に伴って入力クラッチ30は締結状態に維持されることから、エンジン回転数Neに向けてタービン回転数Ntおよびプライマリ回転数Npが上昇する。このように、アクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、事前に締結された入力クラッチ30を締結状態に保持したままエンジン11が始動されるため、走行モードをモータ走行モードからパラレル走行モードに素早く切り換えることが可能となる。すなわち、モータ走行モードにおいて予め入力クラッチ30を締結したので、エンジン11始動後に入力クラッチ前後の回転数を同期させる必要が無く、モータ走行モードからパラレル走行モードに切り換える際の応答性を高めることが可能となる。
以下、無段変速機13や入力クラッチ30等に対する作動油の供給について説明する。図2に示すように、無段変速機13等に対して作動油を供給するため、パワーユニット10には、プライマリ軸33等によって回転駆動される第1オイルポンプ61(以下、メカポンプと記載する)と、電動モータ62によって回転駆動される第2オイルポンプ63(以下、電動ポンプと記載する)とが設けられている。また、パワーユニット10には、作動油の供給先や圧力を制御するため、複数の電磁バルブや油路によって構成されるバルブユニット60が設けられている。そして、メカポンプ61や電動ポンプ63から吐出された作動油は、バルブユニット60を経て、無段変速機13やトルクコンバータ16等に供給される。
メカポンプ61は、一方向クラッチ64を備えたチェーン機構65を介してプライマリ軸33に連結されている。すなわち、メカポンプ61は、チェーン機構65からなる第1駆動系66を介してプライマリ軸33に連結されている。このように、メカポンプ61は、第1駆動系66を介して、動力伝達経路67の一部を構成するプライマリ軸33に連結されている。動力伝達経路67とは、走行用モータ12と駆動輪21とを接続する動力伝達経路、つまり動力伝達要素群や動力伝達要素を意味している。本実施の形態において、動力伝達経路67は、走行用モータ12に固定されるロータ軸68、プライマリ軸33、セカンダリ軸44、ヒューズクラッチ17、駆動輪出力軸18、ディファレンシャル機構19およびアクスル軸20等によって構成される。また、メカポンプ61は、一方向クラッチ69を備えたチェーン機構70を介してトルクコンバータ16に固定される中空軸71に連結されている。すなわち、メカポンプ61は、チェーン機構70、中空軸71およびトルクコンバータ16からなる第2駆動系72を介して、エンジン11のクランク軸22に連結されている。
一方向クラッチ64は、正転方向に回転するプライマリ軸33からメカポンプ61に動力を伝達する一方、これとは逆向きの動力伝達を遮断している。同様に、一方向クラッチ69は、正転方向に回転する中空軸71からメカポンプ61に動力を伝達する一方、これとは逆向きの動力伝達を遮断している。すなわち、プライマリ軸33が中空軸71よりも速く回転する場合には、走行用モータ12側のプライマリ軸33によってメカポンプ61が駆動される一方、中空軸71がプライマリ軸33よりも速く回転する場合には、エンジン11側の中空軸71によってメカポンプ61が駆動される。なお、プライマリ軸33の正転方向とは、前進走行時におけるプライマリ軸33の回転方向である。また、中空軸71の正転方向とは、エンジン駆動時におけるクランク軸22の回転方向である。
このように、メカポンプ61は、走行用モータ12側のプライマリ軸33によって駆動される構造を有するとともに、エンジン11側の中空軸71によって駆動される構造を有している。これにより、エンジン11が駆動されるパラレル走行モードにおいては、エンジン11によってメカポンプ61を駆動することができ、メカポンプ61からバルブユニット60に作動油を供給することが可能となる。また、エンジン11が停止されるモータ走行モードにおいても、プライマリ軸33が回転する車両走行時には、プライマリ軸33によってメカポンプ61を駆動することが可能となる。また、モータ走行モードにおいては、車速低下に伴ってプライマリ軸33の回転速度が所定値を下回ると、メカポンプ61の吐出圧力が低下することから電動ポンプ63を駆動している。これにより、メカポンプ61と電動ポンプ63との双方からバルブユニット60に作動油を供給することができ、無段変速機13等を制御する油圧系の基本油圧であるライン圧を確保することが可能となる。なお、モータ走行モードでの車両停止時においても、電動ポンプ63の駆動状態を継続することにより、油圧系のライン圧を確保している。また、モータ走行モードでの車速上昇に伴ってプライマリ軸33の回転速度が所定値を上回ると、メカポンプ61の吐出圧力が回復することから電動ポンプ63は停止される。
前述したように、モータ走行モードにおいて、車速が低下して所定値を下回る場合には、電動ポンプ63が駆動される。車速が緩やかに低下する場合、つまり電動ポンプ63の回転速度が緩やかに低下する場合には、ライン圧の不足を招くことなく、車速に基づいて電動ポンプ63の起動タイミングを決定することが可能となる。しかしながら、車速が急速に低下する場合、つまり電動ポンプ63の回転速度が急速に低下する場合には、メカポンプ61の吐出圧力も急速に低下することから、車速だけに基づいて電動ポンプ63の起動タイミングを決定すると、電動ポンプ63の起動が遅れて一時的にライン圧が不足するおそれがある。そこで、車両用制御装置50は、後述するメカポンプ61の動作判定(以下、ポンプ動作判定と記載する)を実行し、メカポンプ61が吐出圧力不足であると判定された場合には、電動ポンプ63を駆動するとともに、作動油の消費を抑制するライン圧確保制御を実行する。
以下、車両用制御装置50によって実行されるポンプ動作判定およびライン圧確保制御について説明する。ポンプ動作判定およびライン圧確保制御を実行するため、制御ユニット51は、ポンプ動作判定部およびポンプ制御部として機能している。図6は制御ユニット51によって実行されるポンプ動作判定の手順の一例を示すフローチャートである。図6に示すように、ステップS1〜S4では、ポンプ動作判定を実施するための前提条件について判定される。なお、ステップS1〜S4の前提条件を満たさない状況とは、メカポンプ61の吐出圧力不足が発生しない状況である。
ステップS1では、現在の走行モードがモータ走行モードであるか否かが判定される。モータ走行モードが設定されている場合には、ステップS2に進み、ブレーキスイッチ58の検出信号に基づいて、ブレーキペダルが踏まれているか否かが判定される。ステップS2において、ブレーキスイッチ58からON信号が出力されており、ブレーキペダルの踏み込みによる車両制動時であると判定された場合には、ステップS3に進み、モータ回転センサ55によって検出される実モータ回転数N1が、所定の速度閾値Xaを下回るか否かが判定される。実モータ回転数N1が速度閾値Xaを下回る場合には、ステップS4に進み、実モータ回転数N1が減速中であるか否かが判定される。そして、ステップS4において、実モータ回転数N1が減速中であると判定された場合には、ステップS1〜S4の各前提条件を満足することから、ステップS5に進み、ポンプ動作判定が開始される。なお、ステップS1〜S4のいずれかにおいて、前提条件を満たしていないと判定された場合には、ポンプ動作判定を行うことなくルーチンを抜ける。
ステップS5では、車輪速センサ56からの検出信号に基づいて、走行用モータ12の回転速度である予測モータ回転数N2が算出される。すなわち、ステップS5では、アクスル軸20の回転速度、ディファレンシャル機構19の終減速比、無段変速機13の変速比に基づいて、走行用モータ12の予測モータ回転数N2が算出される。続いて、ステップS6では、予測モータ回転数N2から実モータ回転数N1を減算することで回転数差ΔNが算出される。ステップS7では、回転数差ΔNが、判定閾値Xbを上回るか否かが判定される。ここで、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回る状況とは、後述するように、車両の急減速に伴って走行用モータ12の回転速度が急低下する状況、つまりメカポンプ61の回転速度が急低下する状況である。すなわち、ステップS7において、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回る場合には、メカポンプ61の回転速度が急低下して吐出圧力不足に陥る状況であることから、ステップS8に進み、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態であると判定される。
ここで、図7はポンプ動作判定において急減速状態であると判定される際の回転数差ΔNの変化状況を示す説明図である。図7に示すように、モータ走行モードにおいて、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれると、図示しない油圧ブレーキ機構等によって駆動輪21に制動力が加えられる。特に、凍結路面等の低μ路においてブレーキ操作が為された場合には、駆動輪21の回転速度N3が急速に低下することから、ヒューズクラッチ17の負荷が増大してヒューズクラッチ17がスリップを開始することになる。ここで、走行用モータ12と駆動輪21との間の動力伝達経路67を、ヒューズクラッチ17を境に分けて考える。すなわち、動力伝達経路67を、走行用モータ12側のプライマリ軸33等によって構成される動力伝達経路67aと、駆動輪21側の駆動輪出力軸18等によって構成される動力伝達経路67bとに分けて考える。前述したように、ヒューズクラッチ17がスリップすると、走行用モータ12側の動力伝達経路67aから、駆動輪21側の動力伝達経路67bが切り離された状態となる。さらに、ブレーキ操作が為されている場合には、走行用モータ12が回生状態に制御されることから、動力伝達経路67aに回生トルクつまり制動トルクが加えられた状態となっている。すなわち、ヒューズクラッチ17がスリップした場合には、走行用モータ12によって制動される動力伝達経路67aから、回転質量体である動力伝達経路67bが切り離されるため、動力伝達経路67aの減速速度が動力伝達経路67bの減速速度を上回る現象が発生する。
すなわち、ヒューズクラッチ17のスリップを伴う制動時には、動力伝達経路67aの回転速度に基づき算出される実モータ回転数N1が、動力伝達経路67bの回転速度に基づき算出される予測モータ回転数N2よりも、急速に低下することになる。このため、実モータ回転数N1と予測モータ回転数N2との速度差である回転数差ΔNの大きさを判定することにより、ヒューズクラッチ17をスリップさせるような制動状況を素早く検出することが可能となる。また、前述したように、ヒューズクラッチ17をスリップさせるような制動状況とは、動力伝達経路67aの回転速度つまりメカポンプ61の回転速度が急低下する状況である。すなわち、回転数差ΔNの大きさを判定することにより、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態を素早く検出することが可能となる。
また、前述の説明では、実モータ回転数N1と予測モータ回転数N2との回転数差ΔNに基づいて、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態であるか否かを判定(以下、急減速判定と記載する)している。しかしながら、メカポンプ61の吐出圧力不足を判定する方法としては、前述した判定方法に限られることはなく、メカポンプ61の回転状態や吐出状態等の作動状態に基づく判定方法であれば、如何なる判定方法を採用しても良い。例えば、実モータ回転数N1の減速速度の絶対値が所定値を超える場合に、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態であると判定しても良い。また、メカポンプ61の回転速度の減速速度の絶対値が所定値を超える場合や、駆動輪21の回転速度N3の減速速度の絶対値が所定値を超える場合等に、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態であると判定しても良い。さらに、メカポンプ61の吐出圧力を検出する油圧センサを用いることにより、メカポンプ61の吐出圧力の減少速度の絶対値が所定値を超える場合に、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態であると判定しても良い。
続いて、急減速判定後に実行されるライン圧確保制御について説明する。図8はポンプ動作判定において急減速状態であると判定される際の回転数差ΔNの変化状況を示す説明図である。図8に示すように、ステップS11では、急減速判定が為されているか否かが判定される。ステップS11において、急減速判定されている場合には、ステップS12に進み、電動ポンプ63の駆動が開始され、ステップS13に進み、入力クラッチ30の締結動作が禁止される。続いて、ステップS14では、所定時間に渡ってライン圧が所定値を上回って確保されているか否かが判定される。ステップS14において、ライン圧が確保されていないと判定された場合には、ステップS12に戻り、電動ポンプ63の駆動状態が継続されるとともに、入力クラッチ30の締結禁止が継続される。一方、ステップS14において、ライン圧が確保されていると判定された場合には、ステップS15に進み、入力クラッチ30の締結禁止が解除される。このように、メカポンプ61の吐出圧力不足を伴う急減速状態である場合には、電動ポンプ63から作動油を供給するとともに、入力クラッチ30の締結動作を禁止して作動油の消費を抑制している。これにより、油圧系における作動油の収支を改善することができるため、油圧系におけるライン圧不足の発生を回避することができ、無段変速機のクランプ力不足等を回避して正常に動作させることが可能となる。
ここで、図9はポンプ動作判定およびライン圧確保制御を実行したときのライン圧の変動状況を示す線図である。図9には、モータ走行モードでの走行中にブレーキペダルが踏み込まれ、車両が急減速して停止するまでの状況が示されている。なお、符号Pcは入力クラッチ30に供給されるクラッチ圧を示し、符号Pmはメカポンプ61から吐出される作動油の圧力を示し、符号Peは電動ポンプ63から吐出される作動油の圧力を示している。また、符号Pinはポンプ61,63からバルブユニット60に入力される作動油の圧力を示し、符号TPLは制御ユニット51が設定する目標ライン圧を示し、符号PLは実際に確保されるライン圧を示している。
図9に示すように、モータ走行モードでの走行中にブレーキペダルが踏み込まれ、低下する車速Vが閾値Vbを下回った場合には、パラレル走行モードに備えて入力クラッチ30の締結制御が開始される(符号β1)。続いて、車両制動中に急減速判定が為されると(符号β2)、電動ポンプ63の駆動が開始されるとともに(符号β3)、入力クラッチ30の締結動作が禁止される(符号β4)。そして、ライン圧の確保が確認されて急減速判定が解除されると(符号β5)、入力クラッチ30の締結禁止が解除され、車速Vが閾値Vbを下回ることから入力クラッチ30の締結動作が再開される(符号β6)。このように、急減速判定が為された場合には、電動ポンプ63から作動油を供給するとともに、入力クラッチ30の締結動作を禁止することにより、油圧系におけるライン圧不足の発生を回避している。すなわち、図9に符号X1で示すように、急減速判定にも関わらず入力クラッチ30の締結動作を継続することは、メカポンプ61の吐出圧力不足が発生している状態のもとで、入力クラッチ30によって作動油を消費することになる。このため、符号X2で示すように、バルブユニット60への入力圧力Pinと、これを元に調圧されるライン圧PLとが一時的に落ち込むおそれがあるが、矢印X3で示すように、急減速判定が解除されてから入力クラッチ30を締結させることにより、ライン圧PLの過度な落ち込みを回避することが可能となるのである。
なお、前述の説明では、ライン圧確保制御において、電動ポンプ63を駆動するとともに入力クラッチ30の締結動作を禁止しているが、これに限られることはない。例えば、急減速判定が為された場合に、メカポンプ61の回転速度を上昇させるためにエンジン11を始動しても良い。すなわち、メカポンプ61と電動ポンプ63との双方からバルブユニット60に作動油を供給することにより、ライン圧不足をより確実に解消することが可能となる。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、ブレーキペダルの踏み込みによる車両制動時にポンプ動作判定を実行しているが、これに限られることはなく、車間距離等に応じて自動的に車両を制動する自動ブレーキによる車両制動時にポンプ動作判定を実行しても良い。また、前述の説明では、油圧クラッチとして複数枚の摩擦板を備えた多板式の入力クラッチ30を用いているが、これに限られることはなく、油圧クラッチとして単板式の入力クラッチを採用しても良い。
前述の説明では、車速として駆動輪21の回転速度を用いているが、これに限られることはなく、プライマリ軸33やセカンダリ軸44等の回転速度に基づいて車速を算出しても良い。また、前述の説明では、変速機構としてチェーンドライブ式の無段変速機13を用いているが、これに限られることはなく、ベルトドライブ式やトラクションドライブ式の無段変速機であっても良く、遊星歯車式や平行軸式の自動変速機であっても良い。さらに、メカポンプ61や電動ポンプ63としては、内接式のギヤポンプであっても良く、外接式のギヤポンプであっても良い。
なお、モータ走行モードでの走行中に入力クラッチ30を締結する速度範囲としては、例えば10km/h以下や5km/h以下であることが好ましいが、この速度範囲に限られることはない。モータ走行モードで入力クラッチ30を締結する速度範囲としては、エンジン11、トルクコンバータ16および入力クラッチ30等の仕様に基づいて決定される。