JP2014223182A - 血液バッグ - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性を損なうことなく、輸血におけるより高い安全性と赤血球の溶血抑制とを共に満足し得る血液バッグを提供することにある。【解決手段】塩化ビニル系樹脂に対し、ジ(2−エチルヘキシル)−1,2,3,6−テトラハイドロフタレート(DOTP)またはジイソノニル−1−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(DINCH)と、前記DOTPおよび前記DINCH以外の可塑剤とを配合してなる樹脂組成物から成形されたことを特徴とする血液バッグとする。【選択図】図1

Description

本発明は血液バッグに関する。
血液バッグに要求される性質としては、採血、輸血または血液成分分離などの操作を容易にするための柔軟性や、これらの操作に対する強度、低水蒸気透過性、耐熱性、安全性等が挙げられる。可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルは上記要求性能をほぼ満たすことから、現在血液バッグ用材料として主流を占めている。
このような軟質ポリ塩化ビニルは、柔軟性を付与するために可塑剤の使用が必須であり、例えばポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)のようなフタル酸エステルが50〜70質量部使用されている。
DEHPは、血液保存時に血液バッグから経時的に血液中に溶出し、血液成分である各種細胞の、特に赤血球の表面の細胞膜を保護する作用を有し、赤血球の溶血を抑制するという効果(以下、「溶血抑制効果」という。)が知られている(例えば非特許文献1および2参照)。
Larry J. Dumontら、Exploratory in vitro study of red blood cell storage containers formulated with an alternative plasticizer, Transfusion, Vol.52(7), pp1439 - 1445 (2012)、2011年12月 ▲配▼島由二ら、赤血球寿命に及ぼす可塑剤の影響評価に関する研究、第33回日本バイオマテリアル学会大会、ポスター発表要旨、79頁、2011年11月
しかしながら、DEHPは、げっ歯類での精巣毒性が確認され、世界各国でその使用を控える傾向にある。そのため、輸血を必要とする患者にとって、輸血におけるより高い安全性と優れた溶血抑制効果という2つの効果を同時に享受することが望まれている。
したがって、本発明の目的は、可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性を損なうことなく、輸血におけるより高い安全性と優れた溶血抑制効果とを共に満足し得る血液バッグを提供することにある。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニル系樹脂に対し、特定の化合物と可塑剤とを併用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち、本発明は、以下(1)〜(7)を特徴とする。
(1)塩化ビニル系樹脂に対し、ジ(2−エチルヘキシル)−1,2,3,6−テトラハイドロフタレート(DOTP)およびジイソノニル−1−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(DINCH)のうちの少なくとも一方と、前記DOTPおよび前記DINCH以外の可塑剤とを配合してなる樹脂組成物から成形されたことを特徴とする血液バッグ。
(2)前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DOTPを1〜80質量部配合することを特徴とする上記(1)に記載の血液バッグ。
(3)前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DINCHを5〜80質量部配合することを特徴とする上記(1)に記載の血液バッグ。
(4)前記塩化ビニル系樹脂の重合度が、480〜4100であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の血液バッグ。
(5)前記DOTPおよび前記DINCH以外の前記可塑剤が、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、エポキシ化大豆油、フタル酸ジイソデシル、テレフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)およびアセチルクエン酸トリブチルのうちの少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の血液バッグ。
(6)前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DOTPおよび前記DINCH以外の前記可塑剤を1〜80質量部配合することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の血液バッグ。
(7)赤血球濃厚血液製剤用血液バッグまたは全血製剤用血液バッグであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の血液バッグ。
本発明の血液バッグは、塩化ビニル系樹脂に対し、特定の化合物と可塑剤とを配合してなる樹脂組成物から成形されたことを特徴としているので、可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性を損なうことなく、輸血におけるより高い安全性と優れた溶血抑制効果とを共に満足し得る血液バッグを提供することができる。とくに、DOTPおよびDINCH以外の可塑剤として、血液保存時において血液バッグ内の液体中へ溶出しにくい物質を配合すれば、血液バッグ内の液体中へ溶出する可塑剤の総量をなるべく低く抑えながらも、軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性、輸血における安全性および溶血抑制効果のいずれをも高いレベルで満たす、優れた血液バッグを提供することができる。
実施例1における溶血率の結果を示すグラフである。 実施例2における溶血率の結果を示すグラフである。 比較例1における溶血率の結果を示すグラフである。 比較例2および3における溶血率ならびにブランク試験の結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態をさらに詳しく説明する。
実施形態に係る血液バッグは、塩化ビニル系樹脂に対し、ジ(2−エチルヘキシル)−1,2,3,6−テトラハイドロフタレート(以下、単に「DOTP」という。)およびジイソノニル−1−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(以下、単に「DINCH」という。DINCHはBASF社の登録商標)のうちの少なくとも一方と、DOTPおよびDINCH以外の可塑剤(以下、単に「本発明の可塑剤」ともいう。)とを配合してなる樹脂組成物から成形されるものである。
(塩化ビニル系樹脂)
実施形態に係る血液バッグは、塩化ビニル系樹脂を基材として使用する。塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂のほか、塩化ビニルと共重合可能な他のビニル単量体との共重合体も包含する。当該他のビニル単量体としては、エチレン、プロピレン、マレイン酸エステル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
また、加工性という観点から、塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、480〜4100が好ましく、1000〜2500がより好ましい。
(溶血抑制剤)
DOTPまたはDINCHは、塩化ビニル系樹脂の可塑剤として公知の化合物であるが、本発明においては、これら2つの化合物を溶血抑制剤として使用する。実施形態に係る血液バッグに用いるDOTPまたはDINCHとしては、市販されているものを利用することができる。例えばDOTPは、新日本理化社製の商品名「サンソサイザーDOTP」(サンソサイザーは新日本理化社の登録商標)として、DINCHは、BASF社製の商品名「Hexamol DINCH」(HexamolおよびDINCHはBASF社の登録商標)として、それぞれ商業的に入手可能である。
実施形態に係る血液バッグに用いるDOTPとしては、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、1〜80質量部配合するのが好ましい。塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、DOTPを1〜80質量部配合することにより、塩化ビニル系樹脂に対するDEHPの配合量を減らす(またはゼロとする)ことができ、輸血における高い安全性を得ながらも十分な溶血抑制効果を得ることが可能となる。より好ましいDOTPの配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5〜60質量部であり、さらに好ましくは10〜35質量部である。
実施形態に係る血液バッグに用いるDINCHとしては、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5〜80質量部配合するのが好ましい。塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、DINCHを5〜80質量部配合することにより、塩化ビニル系樹脂に対するDEHPの配合量を減らす(またはゼロとする)ことができ、輸血における高い安全性を得ながらも十分な溶血抑制効果を得ることが可能となる。より好ましいDINCHの配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、10〜60質量部であり、さらに好ましくは20〜35質量部である。
(可塑剤)
実施形態に係る血液バッグに用いる本発明の可塑剤としては、例えば、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)(TOTM)、エポキシ化大豆油(ESBO)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、テレフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHTP)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHA)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)等が挙げられる。本発明の可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、例えば、1〜80質量部であり、好ましくは20〜60質量部である。塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、本発明の可塑剤を1質量部以上配合することにより、塩化ビニル系樹脂に対して柔軟性を付与することが可能となり、80質量部以下とすることにより、血液バッグとしての操作性および作業性を損なわない程度の柔軟性に留めることができるようになる。
上記した本発明の可塑剤のうち、TOTM、ESBO、DIDP、DEHTP、DEHAおよびATBCのうちの少なくとも一種を用いることが好ましい。これらの可塑剤は、血液保存時において血液バッグ内の液体中へ溶出しにくい物質であるため、上記した可塑剤を配合することにより、血液バッグ内の液体中へ溶出する可塑剤の総量をなるべく低く抑えながらも、軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性、輸血における安全性および溶血抑制効果のいずれをも高いレベルで満たす、優れた血液バッグを提供することができる。該形態におけるDOTPまたはDINCHの配合量は、DOTPが塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、例えば1〜35質量部であり、DINCHが塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、例えば5〜35質量部であり、上記で例示したこれらの化合物の配合量の範囲においても極めて少ない量となる。
また、実施形態に係る血液バッグにおいては、血液バッグを成形するための樹脂組成物として、必要に応じて安定化剤等の公知の各種添加剤を配合することもできる。
実施形態に係る血液バッグの製造方法は、従来の方法に従えばよく、特に制限されない。例えば、樹脂組成物からなるペレットを準備し、押出機を用いてT−ダイ成形法によってシート成形し、得られたシートを所望のサイズに裁断、製袋化することにより、実施形態に係る血液バッグを製造することができる。なお、T−ダイ成形法以外の公知の方法(例えばインフレーション成形法やヒートプレス法など)によって樹脂組成物を血液バッグに成形加工できることは言うまでもない。血液バッグを構成する該シートの厚さは、例えば0.1〜1mmであり、好ましくは本発明の効果の観点から0.3〜0.5mmである。また、血液バッグの容積は、例えば200〜500mLである。
実施形態に係る血液バッグは、例えば、赤血球濃厚血液製剤用血液バッグ(赤血球製剤用バッグ)である。なお、本発明は赤血球濃厚血液製剤用血液バッグに限定されず、例えば、血液保存液が収容された全血製剤用血液バッグ(採血バッグ)や、赤血球濃厚血液製剤用血液バッグに添加する前の赤血球保存液(赤血球保存用添加液とも呼ばれる。)が収容された赤血球保存液用バッグなどの血液バッグにも適用可能である。血液保存液および赤血球保存液としては、従来から公知の各種保存液を使用することができ、特に制限されないが、血液保存液としては例えばACD−A液、CPD液またはCPDA液などを用いることができ、赤血球保存液としては例えばMAP液やSAGM液などを用いることができる。これらの血液保存液および赤血球保存液を代表して、CPD液およびMAP液の組成の一例を以下に示す。
<CPD液> 単位:w/v%
クエン酸ナトリウム水和物:2.63
クエン酸水和物:0.327
ブドウ糖:2.32
リン酸二水素ナトリウム:0.251
<MAP液> 単位:w/v%
D−マンニトール:1.457
アデニン:0.014
リン酸二水素ナトリウム:0.094
クエン酸ナトリウム水和物:0.150
クエン酸水和物:0.020
ブドウ糖:0.721
塩化ナトリウム:0.497
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
<赤血球濃厚液の組成>
実施例および比較例では、血液バッグに収容する液体として赤血球濃厚液を用いた。赤血球濃厚液は、血液保存液(例えばCPD液)を28mL混合したヒト血液200mLまたは血液保存液を56mL混合したヒト血液400mLに、赤血球保存液(例えばMAP液)を46mLまたは92mL混和したもので、血液保存液を少量含有する濃赤色の液体である。静置すると、主として赤血球からなる沈層と無色の液層とに分かれる。
<GC−MS/MS分析条件>
GC−MS/MS分析の各種条件について、表1に示す。
Figure 2014223182
<GC条件>
装置:ガスクロマトグラフ TRACE GC(商品名、Thermo Fisher Scientific社製)
注入口およびトランスファーライン温度:250℃
スプリットレス注入
注入量:1μL
オーブン温度:60℃(2分保持)→20℃/分→310℃(10分保持)
キャリアーガス:He(1mL/分)
カラム:DB−5MS(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー社製)
<MS−MS条件>
装置:Quantum XLS(商品名、Thermo Fisher Scientific社製)
イオンソース温度:250℃
EI:70eV
コリジョンガス:Ar(1.0mTorr)
(実施例1)
以下の配合割合に従い、各成分を混練することにより、樹脂組成物(試料1〜4)をそれぞれ調製した。
ポリ塩化ビニル樹脂(平均重合度=1700):100質量部
DOTP:35、60、85または110質量部
ESBO:8質量部
なお、試料1のDOTP配合量が35質量部であり、以下順に試料2〜4の配合量を示している。
得られた各樹脂組成物を、ヒートプレス機を用いてそれぞれシート状に成形し、所定のサイズに裁断し、これを試料1〜4に係るシートとした。なお、ヒートプレス条件としては、加熱温度180℃、プレス時間2分、プレス圧力20MPaとした。裁断されたシートのサイズは、100mm×100mm×厚さ0.45mmである。
試料1〜4に係るシートのそれぞれについて、所定サイズ(6.4cm)に裁断した試験片を、赤血球濃厚液5mL(ヘマトクリット値59%)に4℃で浸漬し、経時的に該赤血球濃厚液を採取して、溶血率を算出するとともに可塑剤溶出量を測定した。
溶血率を算出するにあたっては、採取した赤血球濃厚液50μLに対し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mLを加えて遠心分離し、その上清の413nmにおける吸光度を測定し、得られた吸光度より各試料の溶血率を算出した。
可塑剤溶出量を測定するにあたっては、採取した赤血球濃厚液50μLに対し、1%NaCl水溶液1mL、DEHP−d0.1μgおよびヘキサン1mLを添加し、15分間振とう後、遠心分離した。そして、得られたヘキサン層を無水NaSOにより脱水した後、GC−MS/MS分析(DB−5MSカラム:0.25mm×30m、膜厚0.25μm)に供して測定した。LOD(Limit of Detection:検出限界)およびLOQ(Limit of Quantification:定量下限)については、FUMI理論を実践するプログラムTOCO(Total Optimization of Chemical Operations)を使用して算出した。
結果を図1および表2に示す。
(実施例2)
以下の配合割合に従い、各成分を混練することにより、樹脂組成物(試料5〜8)をそれぞれ調製した。
ポリ塩化ビニル樹脂:100質量部
DINCH:35、60、85または110質量部
ESBO:8質量部
なお、試料5のDINCH配合量が35質量部であり、以下順に試料6〜8の配合量を示している。
実施例2においても、実施例1の場合と同様に、試料5〜8に係るシートを作製し、各試料から得られた試験片をもとにして、溶血率を算出するとともに可塑剤溶出量を測定した。試験手順や試験条件については、実施例1の場合と同様であるため、その記載を省略する。
結果を図2および表2に示す。
(比較例1)
以下の配合割合に従い、各成分を混練することにより、樹脂組成物(試料9〜12)をそれぞれ調製した。
ポリ塩化ビニル樹脂:100質量部
DIDP:35、60、85または110質量部
ESBO:8質量部
なお、試料9のDIDP配合量が35質量部であり、以下順に試料10〜12の配合量を示している。
比較例1においても、実施例1の場合と同様に、試料9〜12に係るシートを作製し、各試料から得られた試験片をもとにして、溶血率を算出するとともに可塑剤溶出量を測定した。試験手順や試験条件については、実施例1の場合と同様であるため、その記載を省略する。
結果を図3および表2に示す。
(比較例2)
以下の配合割合に従い、各成分を混練することにより、樹脂組成物(試料13)を調製した。
ポリ塩化ビニル樹脂:100質量部
DEHP:55質量部
ESBO:8質量部
比較例2においても、実施例1の場合と同様に、試料13に係るシートを作製し、各試料から得られた試験片をもとにして、溶血率を算出するとともに可塑剤溶出量を測定した。試験手順や試験条件については、実施例1の場合と同様であるため、その記載を省略する。
結果を図4および表2に示す。
(比較例3)
以下の配合割合に従い、各成分を混練することにより、樹脂組成物(試料14)を調製した。
ポリ塩化ビニル樹脂:100質量部
TOTM:85質量部
ESBO:8質量部
比較例3においても、実施例1の場合と同様に、試料14に係るシートを作製し、各試料から得られた試験片をもとにして、溶血率を算出するとともに可塑剤溶出量を測定した。試験手順や試験条件については、実施例1の場合と同様であるため、その記載を省略する。
結果を図4および表2に示す。
(ブランク試験)
シートを浸漬させない赤血球濃厚液をブランク(試料15)として、実施例1と同様の試験手順で吸光度を測定するとともにGC−MS/MS分析を行った。
結果を図4および表2に示す。
Figure 2014223182
図1は、実施例1における溶血率の結果を示すグラフである。図2は、実施例2における溶血率の結果を示すグラフである。図3は、比較例1における溶血率の結果を示すグラフである。図4は、比較例2および3における溶血率ならびにブランク試験の結果を示すグラフである。
なお、各図において、グラフの縦軸は溶血率であり、溶血率が高いほど溶血抑制効果が低く、溶血率が低いほど溶血抑制効果が高いことを意味する。
まず、試料14に係るシート(比較例3・TOTM)について、図4の結果から分かるように、溶血率は試料15に係るシート(ブランク)のデータとほぼ同等で、70日目(10週目)では溶血率が28.2%に達していた。可塑剤溶出量は、表2に示すように、70日目においても0.27μg/mLと非常に低い値を示した。これより、可塑剤としてのTOTMは、溶血抑制効果を有さず、シートからほとんど溶出しないことが確認できた。
次に、試料13に係るシート(比較例2・DEHP)について、図4の結果から分かるように、溶血率は試料14に係るシート(比較例3・TOTM)よりも低く、70日目では溶血率が10.9%であった。可塑剤溶出量は、表2に示すように、21日目(3週目)において28.3μg/mL、70日目において53.1μg/mLであった。これより、可塑剤としてのDEHPは、ある程度の溶血抑制効果を有してはいるものの、シートからの溶出量も比較的多いことが確認できた。
次に、試料9〜12に係るシート(比較例1・DIDP)について、図3の結果から分かるように、溶血率は試料13に係るシート(比較例2・DEHP)よりも高く、70日目では溶血率が22.3%〜35.7%であった。可塑剤溶出量は、表2に示すように、21日目において1.40μg/mL〜1.87μg/mL、70日目において4.80μg/mL〜5.96μg/mLであった。これより、可塑剤としてのDIDPは、TOTMに比べれば溶血抑制効果が認められるものの、DEHPよりも溶血抑制効果が低く、シートからの溶出量は少ないことが確認できた。なお、DIDPの溶血抑制効果が低かった理由について、本発明者らが考えるに、DIDP自体としては溶血を抑制する作用を有するものの、可塑剤溶出量が少ないことに起因して溶血率が低い値を示さなかったと推測する。
次に、試料1〜4に係るシート(実施例1・DOTP)について、図1の結果から分かるように、溶血率は試料9〜12に係るシート(比較例1・DIDP)および試料13に係るシート(比較例2・DEHP)よりも低く、70日目では溶血率が5.2%〜7.8%であった。可塑剤溶出量は、表2に示すように、21日目において44.2μg/mL〜58.4μg/mL、70日目において78.4μg/mL〜150μg/mLであった。これより、可塑剤としてのDOTPは、DEHPよりも高い溶血抑制効果を有し、シートからの溶出量についてはDEHPと同等以上であることが確認できた。
最後に、試料5〜8に係るシート(実施例2・DINCH)について、図2の結果から分かるように、溶血率は試料9〜12に係るシート(比較例1・DIDP)よりも低く、試料13に係るシート(比較例2・DEHP)のデータとほぼ同等であり、70日目では溶血率が9.2%〜12.4%であった。可塑剤溶出量は、表2に示すように、21日目において9.34μg/mL〜11.3μg/mL、70日目において26.1μg/mL〜36.5μg/mLであった。これより、可塑剤としてのDINCHは、DEHPと同等の溶血抑制効果を有し、シートからの溶出量についてはDEHPやDOTPよりは少ないが一定量以上の溶出が認められた。
以上をまとめると、可塑剤としてのDOTPおよびDINCHは、DEHPと同等またはそれ以上の溶血抑制効果を有することが確認できた。シートからの溶出量については、DOTP(実施例1)、DINCH(実施例2)およびDEHP(比較例2)の3種類で比べると、DOTP>DEHP>DINCHの順で溶出量が多いということが確認できた。これらの結果から言えることは、DEHPに代えてDOTPまたはDINCHを用いたとしても十分な溶血抑制効果を期待できるということである。DOTPおよびDINCHについて、現在のところ安全性に関する指摘がなされていないことから、本発明の血液バッグにおいて、塩化ビニル系樹脂に対し、DOTPおよびDINCHのうちの少なくとも一方を配合することにより、DEHPの配合量を減らす(またはゼロとする)ことができ、結果として、可塑剤を含有した軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性を損なうことなく、輸血におけるより高い安全性と優れた溶血抑制効果とを共に満足し得るものを提供することができる。
特にDOTPについては、DEHPよりも少ない配合量であってもシートからの溶出量が多かったことからいえば、塩化ビニル系樹脂に対するDOTPの配合量をある程度の量に抑えつつ、その分TOTMやESBOなどの可塑剤(血液保存時において血液バッグ内の液体中へ溶出しにくい可塑剤)を多めに配合することができる。つまり、本発明の血液バッグは、血液バッグ内の液体中へ溶出する可塑剤の総量をなるべく低く抑えながらも、軟質ポリ塩化ビニルに要求される各種物性、輸血における安全性および溶血抑制効果のいずれをも高いレベルで満たす、優れた血液バッグであることが確認できた。

Claims (7)

  1. 塩化ビニル系樹脂に対し、ジ(2−エチルヘキシル)−1,2,3,6−テトラハイドロフタレート(DOTP)およびジイソノニル−1−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(DINCH)のうちの少なくとも一方と、前記DOTPおよび前記DINCH以外の可塑剤とを配合してなる樹脂組成物から成形されたことを特徴とする血液バッグ。
  2. 前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DOTPを1〜80質量部配合することを特徴とする請求項1に記載の血液バッグ。
  3. 前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DINCHを5〜80質量部配合することを特徴とする請求項1に記載の血液バッグ。
  4. 前記塩化ビニル系樹脂の重合度が、480〜4100であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液バッグ。
  5. 前記DOTPおよび前記DINCH以外の前記可塑剤が、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、エポキシ化大豆油、フタル酸ジイソデシル、テレフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)およびアセチルクエン酸トリブチルのうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の血液バッグ。
  6. 前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、前記DOTPおよび前記DINCH以外の前記可塑剤を1〜80質量部配合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液バッグ。
  7. 赤血球濃厚血液製剤用血液バッグまたは全血製剤用血液バッグであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の血液バッグ。
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