JP2014200291A - 潤滑コート剤および医療デバイス - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた潤滑性と耐久性を発揮する潤滑性被膜(表面潤滑層)を形成できる潤滑コート剤を提供する。
【解決手段】繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する、潤滑コート剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、潤滑コート剤および医療デバイスに関する。
カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等生体内に挿入される医療デバイスは、血管などの組織損傷を低減させ、かつ術者の操作性を向上させるため、優れた潤滑性を示すことが要求される。このため、潤滑性を有する親水性高分子を基材層表面に被覆する方法が開発され実用化されている。このような医療デバイスにおいて、親水性高分子が基材層表面から溶出・剥離してしまうことは、安全性や操作性の維持といった点で問題である。このため、親水性高分子によるコーティングには、優れた潤滑性のみならず磨耗や擦過等の負荷に対する耐久性も要求される。
これらの要求を満たすべく、特許文献1には、医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有する親水性高分子化合物(例えばジメチルアクリルアミド−ダイアセトンアクリルアミドブロックコポリマー)と一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成したことを特徴とする医療用具が開示されている。
上記特許文献1に記載の方法によれば、比較的良好な潤滑性を示す表面潤滑層を、ある程度強固に基材層に固定することができる。しかしながら、近年の医療デバイスの小型化・細径化の進歩は著しく、生体内において、屈曲性が高く、狭い病変部位へと医療デバイスをアプローチする医療手技が広まりつつある。したがって、複雑な病変部位でもデバイスの操作性を良好に保つため、従来よりもさらにデバイス表面に強固に固定化でき、かつ潤滑性を高める技術が要求されている。
一方、近年の潤滑性表面の研究によると、これまでより優れた潤滑性を実現できる表面設計が報告されている。例えば、特許文献2には、表面開始リビングラジカル重合法などによりデバイス表面に高密度なポリマーブラシ層(濃厚ポリマーブラシ)を形成することで、優れた低摩擦性を発現することが報告されている。しかしながら、上記特許文献2に記載されるような表面開始リビングラジカル重合法により、デバイス表面に直接ポリマーをグラフトする方法は、複雑なポリマーの重合制御技術を必要とするばかりでなく、形成されるポリマー層がごく薄く、デバイスを構成する基材層の影響を強く受けるため、複雑な医療デバイスへ実用化するには依然としてハードルが存在している。
上記特許文献2では、デバイス表面に存在するポリマー鎖密度を高めることで従来技術以上の潤滑性を発現する可能性が示唆されている。このような観点から、高密度なグラフト鎖を有するポリマーを作製した後、該ポリマー鎖同士を架橋させることで、高密度なポリマーブラシ様の表面特性を有するハイドロゲルを作製する研究も報告されている(例えば、非特許文献1参照)。上記非特許文献1で作製されたハイドロゲル表面は、表面開始リビングラジカル重合法で形成された濃厚ポリマーブラシ表面と同等の低摩擦性を発現することから、簡便なコーティング操作により優れた潤滑性を付与できる可能性を示している。
特開2001−145695号公報 特開2006−316169号公報
辻井敬亘ら、Polymer Preprints,Japan,59,No.1(2010)
しかしながら、上記非特許文献1で形成されるハイドロゲルはその強度が弱く、潤滑性を十分維持できず、実用化にはやはり課題が残る。
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、優れた潤滑性と耐久性を発揮する潤滑性被膜(表面潤滑層)を形成できる潤滑コート剤を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、優れた潤滑性と耐久性を発揮する潤滑性被膜(表面潤滑層)を有する医療デバイスを提供することにある。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを潤滑コート剤に使用し、また、かようなブロックコポリマーを含む表面潤滑層を形成することによって、上記目的を達成できることを知得して、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記諸目的は、繰り返し単位を有する、分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する、潤滑コート剤によって達成できる。また、上記諸目的は、基材層上に、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する表面潤滑層を有する、医療デバイスによって達成できる。
本発明の潤滑コート剤によれば、優れた潤滑性と耐久性を発揮する潤滑性被膜(表面潤滑層)を形成することができる。また、本発明によれば、優れた潤滑性と耐久性を発揮する潤滑性被膜(表面潤滑層)を有する医療デバイスを得ることができる。
本発明に係る医療デバイスの代表的な実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。 図1の実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。 各実施例および比較例で用いた表面潤滑維持性評価試験装置(摩擦測定機)の模式図である。 実施例1における表面潤滑維持性評価試験結果を示す図面である。 比較例1における表面潤滑維持性評価試験結果を示す図面である。 比較例2における表面潤滑維持性評価試験結果を示す図面である。
<潤滑コート剤>
本発明の第一は、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する、潤滑コート剤を提供する。
本発明は、親水性ドメインとして、親水性側鎖の分子量が120以上となるように繰り返し単位の鎖長が制御された高密度グラフト鎖を使用することを特徴とする。このように、繰り返し単位を有し、かつ分子量が120以上である親水性側鎖を含むことにより、ブロックコポリマーは、親水性部位を高密度で有するため、親水性が向上し、潤滑性(湿潤時の潤滑性;以下、特記しない限り、「潤滑性」は「湿潤時の潤滑性」を意図する)が良好となる。つまり、高密度グラフト鎖を有する親水性ドメインを使用することにより、従来の直鎖状ブロックコポリマーよりも優れた潤滑性および耐久性を発現する表面潤滑層を形成することができる。ゆえに、本発明に係るブロックコポリマーは、コーティングと乾燥のみの簡便な工程で濃厚ポリマーブラシに匹敵する潤滑性、および耐久性を発現できる。
また、本発明の潤滑コート剤は、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤をさらに含んでいると好ましい。このように、ヒドラジド化合物からなる架橋剤を含むことにより、当該架橋剤と、ブロックコポリマーに含まれるカルボニル基を有する反応性ドメインとが反応する。これにより、反応性ドメインが架橋され、より強固な潤滑性被膜(表面潤滑層)を形成することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[ブロックコポリマー]
本発明に係るブロックコポリマーは、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を有する。
(親水性ドメイン)
本発明において、親水性ドメインは、繰り返し単位を有し、かつ分子量が120以上である親水性側鎖を有する少なくとも1つの親水性単量体が繰り返し結合した構造からなることを特徴の一つとしている。ここで、親水性側鎖は、少なくとも一つの親水性単量体を構成要素としたポリマー(オリゴマー)ユニットを有する、式:−(繰り返し単位)−Rで表わされる分子量が120以上である側鎖を意図する。ここで、上記親水性側鎖は一つの構成要素が連なったホモポリマー型であってもよく、二つ以上の構成要素がランダムあるいはブロックに連なったコポリマー型であってもよい。親水性側鎖の分子量の下限は、120以上であり、150以上が好ましく、200以上がより好ましい。親水性側鎖の分子量が120未満であると、十分な潤滑性を得ることが難しいが、親水性側鎖の分子量を120以上とすることにより、親水性部位が高密度に保持されるため、潤滑性を極めて向上させることができる。また、親水性側鎖の分子量の上限は特に制限されないが、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらにより好ましく、1500以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが特に好ましい。親水性側鎖の分子量が大きすぎる場合には、親水性側鎖による立体障害により、反応性ドメインの反応性(後述する架橋剤と反応性ドメインの反応性)が低下する場合がある。したがって、親水性側鎖の分子量を5000以下とすることにより、強固な潤滑性被膜が得やすくなる。通常、分子量の測定はGPC法や光散乱法、NMR法による測定が一般的であるが、本明細書においては、親水性側鎖の分子量(重量平均分子量)は、標準物質としてポリスチレン、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC法により測定した値を示すものとする。
親水性側鎖の分子量は、比較的揃っていることが好ましい。具体的には、分子量分布が1.5以下、より好ましくは1.3以下であることが望ましい。分子量分布が大きすぎると、潤滑コート剤による潤滑性被膜最表層に存在する親水性側鎖の密度が低下し、潤滑性、耐久性が低減する場合がある。なお、本明細書において、分子量分布は、上記同様GPC法により測定している。
親水性側鎖を構成する繰り返し単位は、親水性ドメインが湿潤時に潤滑性を発揮できるものであれば特に制限されない。具体的には、エチレンオキサイド(−CHCHO−)、プロピレンオキサイド(−CHCHCHO−)およびイソプロピレンオキサイド(−CH(CH)CHO−または−CHCH(CH)O−)等のアルキレンオキサイドや、アクリル酸、メタクリル酸やその塩、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、ヒドロキシエチルメタクリレート、およびビニルイミダゾールに由来する繰り返し単位などが挙げられる。これらのうち、繰り返し単位が、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドであることが好ましく、エチレンオキサイドであることがより好ましい。
また、上記繰り返し単位の繰り返し単位数(上記式:−(繰り返し単位)−R中のn)は、親水性側鎖の分子量が120以上となれば特に制限されないが、親水性側鎖の分子量が5,000以下となるような数であることが好ましい。具体的には、繰り返し単位の繰り返し単位数(上記式:−(繰り返し単位)−R中のn)は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。また、繰り返し単位の繰り返し単位数(上記式:−(繰り返し単位)−R中のn)は、110以下、85以下、50以下、30以下、20以下の順で好ましい。このような範囲であれば、親水性側鎖による立体障害が少ないため、反応性ドメインと架橋剤との反応が阻害されず、表面潤滑層を基材層に強固に固定化できる。すなわち、親水性側鎖は、繰り返し単位としてエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを3〜20個有することが好ましい。
さらに、親水性側鎖を表す式:−(繰り返し単位)−R中のRは、特に制限されないが、水素原子、直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基、直鎖または分岐鎖のアルコキシ基などが挙げられる。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち、Rは、水素原子、メチル基、メトキシ基であることが好ましい。
ブロックコポリマーの親水性ドメインは、上記親水性側鎖を有する少なくとも1つの親水性単量体が繰り返し結合した構造を有する。親水性ドメインを構成する主鎖部分(親水性単量体の親水性側鎖以外の部分)としては、親水性ドメインが体液や水系溶媒と接触する際に潤滑性を発現すれば、特に制限されない。
具体的には、親水性ドメインを構成する主鎖部分としては、アクリル酸骨格、メタクリル酸骨格、スチレン骨格等が挙げられる。これらのうち、合成の容易性や操作性、潤滑性の観点から、アクリル酸骨格またはメタクリル酸骨格がより好ましい。したがって、親水性ドメインを構成する親水性単量体は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート等のポリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種であると好ましい。なお、親水性ドメインは、上記親水性単量体1種単独から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記親水性単量体2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。後者の場合、親水性ドメインを構成する各構成単位は、ブロック状であってもまたはランダム状であってもよい。
親水性ドメインの製造方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、繰り返し単位を有し分子量が120以上である側鎖を有するマクロモノマーを重合することによって製造することができる。ここで、マクロモノマーは、例えば、末端に反応性官能基を有するポリマー(またはオリゴマー)と、二重結合を有して上記反応性官能基と反応できる官能基を有する化合物とを反応させることで形成することができる。末端に反応性官能基を有するポリマー(またはオリゴマー)は反応性官能基を有する重合開始剤を用いて親水性単量体を重合したり、反応性官能基を有する連鎖移動剤を用いて重合を行ったりすることで作製することができる。側鎖の分子量を制御するためには、リビング重合法によりポリマーを重合した後、二重結合性を付与することが好ましい。また、親水性ドメインを製造する別の方法としては、重合開始基を有するモノマーを重合して重合開始基を有するポリマーを作製した後、その重合開始基を基点として親水性側鎖を重合する方法が挙げられる。この方法では後から形成される親水性側鎖の分子量を制御するために、親水性側鎖を重合する手法としてリビング重合を選択することが望ましい。一般的なラジカル重合法では一部の重合開始基から分子量の大きな側鎖が生成してしまい、高密度な側鎖を形成させることが困難な場合がある。
なお、本発明において、親水性ドメインは、繰り返し単位を有する分子量が120以上の側鎖を有する親水性単量体のみから形成されてもよいが、当該親水性単量体以外の他の単量体を含んでいてもよい。この場合、他の単量体は、本発明に係る親水性ドメインによる効果(特に湿潤時の潤滑性)を阻害しないものであれば特に制限されない。例えば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、糖、リン脂質を側鎖に有する単量体を例示できる。かような単量体として、より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、ヒドロキシエチルメタクリレートなどが例示できる。ここで、他の単量体の含有量は、本発明に係る親水性ドメインによる効果(特に湿潤時の潤滑性)を阻害しないものであれば特に制限されないが、親水性ドメインに存在する側鎖の密度をある程度維持することを考慮すると、繰り返し単位を有する分子量が120以上の側鎖を有する親水性単量体の割合が、親水性ドメインを構成する単量体全体の、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。他の単量体を含む場合、繰り返し単位を有する分子量が120以上の側鎖を有する親水性単量体の割合の上限は特に制限されないが、99モル%程度であることが好ましい。
本発明において、親水性ドメインの分子量(重量平均分子量)は、特に制限されないが、潤滑性被膜(表面潤滑層)の潤滑性などを考慮すると、10,000〜100,000,000であることが好ましく、50,000〜50,000,000であることがより好ましい。このような分子量であれば、本発明に係るブロックコポリマーは、その親水性ドメインにより、優れた潤滑性を発揮できる。
(反応性ドメイン)
本発明において、ブロックコポリマーは、反応性ドメインとしてカルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する。そして、少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤を添加することにより、ブロックコポリマー同士が架橋剤を介して架橋することでポリマーネットワークが密になるため強固な被膜を形成することができ、基材層からの剥離を抑制・防止する効果(耐久性)が向上する。
上記したようなカルボニル基を有する単量体は、一分子中に少なくとも一個のカルボニル基を含有するものであれば特に制限されない。具体的には、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン類等が挙げられるが、具体的には、下記式(1):
Figure 2014200291
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトンアクリルアミド、あるいはダイアセトンメタアクリルアミドが好ましく使用できる。なお、上記カルボニル基を有する単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記式(1)で表される、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドは、以下で詳述する架橋剤の存在下において、常温架橋性を示す。すなわち、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド中のカルボニル基は、架橋剤の存在下で穏和な条件で架橋しうるものである。このため、上記化合物を含む潤滑コート剤は、加熱などを必要とせず、基材自体の物性を損なうことのない穏和な条件で、簡便に、架橋あるいは基材表面に固定化できる。
なお、本発明において、反応性ドメインは、カルボニル基を有する単量体のみから形成されてもよいが、当該単量体以外の他の単量体を含んでいてもよい。この場合、他の単量体は、本発明に係る反応性ドメインによる効果(特に表面潤滑層の耐久性向上)を阻害しないものであれば特に制限されない。かような単量体として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(n−又はiso−)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、sec−又はtert−)ブチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレンなどが例示できる。また、ここで、他の単量体の含有量は、本発明に係る反応性ドメインによる効果(特に表面潤滑層の耐久性向上)を阻害しないものであれば特に制限されないが、カルボニル基を有する単量体の割合が、反応性ドメインを構成する単量体全体の、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。他の単量体を含む場合、カルボニル基を有する単量体の割合の上限は特に制限されないが、99モル%程度が好ましい。
本発明において、反応性ドメインの分子量(重量平均分子量)は、特に制限されないが、潤滑性被膜(表面潤滑層)の耐久性などを考慮すると、1,000〜10,000,000であることが好ましく、2,000〜5,000,000であることがより好ましい。このような分子量であれば、被膜強度を高め、表面潤滑層を基材層に強固に固定化できる。
(親水性ドメインと反応性ドメインの重合)
本発明に係るブロックコポリマーは、上記親水性ドメインおよび反応性ドメインを有する。ここで、親水性ドメインと反応性ドメインの比率(より具体的には、親水性単量体と、カルボニル基を有する単量体のモル比)は、上記効果を奏する限り特に制限されない。良好な潤滑性、耐久性の発現、被膜の強度などを考慮すると、親水性ドメインと反応性ドメインの比率(親水性ドメインを構成する単量体:反応性ドメインを構成する単量体のモル比)は、100:1〜1:1であることが好ましく、80:1〜5:1であることがより好ましく、50:1〜10:1であることがより好ましい。このような範囲であれば、潤滑コート剤による被膜は、親水性ドメインにより潤滑性を十分発揮でき、また、反応性ドメインにより十分な耐久性、被膜強度を発揮できる。
本発明に係るブロックコポリマーの製造方法は、特に制限されず、例えば、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法など、従来公知の重合法を適用して製造可能である。これらのうち、親水性ドメイン、反応性ドメインの分子量および分子量分布のコントロールがしやすいという点で、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11−263819号公報、特開2002−145971号公報、特開2006−316169号公報等に記載される方法、ならびにJ. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995);Macromolecules, 28, 7901 (1995);Science, 272, 866 (1996);Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)等に記載される原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、マクロ開始剤を用いた重合法としては、例えば、カルボニル基を有する反応性ドメインと、パーオキサイド基等のラジカル重合性基を有するマクロ開始剤を作製した後、そのマクロ開始剤と親水性ドメインを形成するための単量体を重合させることで親水性ドメインと反応性ドメインとを有するブロックコポリマーを製造する方法が挙げられる。
また、ブロックコポリマーの重合においては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法が用いられうる。重合において適宜使用される溶媒としては、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族系有機溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系有機溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性有機溶媒が使用できる。なお、前記溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いることもできる。
[架橋剤]
本発明において、潤滑コート剤は、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤をさらに含んでいると好ましい。
かような架橋剤は、上記したブロックコポリマーの反応性ドメインと反応して共有結合を形成するため、架橋剤を含む潤滑コート剤は、基材層上に強固な潤滑性被膜(表面潤滑層)を形成することができる。ヒドラジン残基は、穏和な条件、特に常温での反応によりカルボニル基との間に共有結合を形成するため、基材自体が本来要求されている物性を損なうことなく、潤滑性被膜(表面潤滑層)を強固に基材表面に固定化することが可能となる。またこのような反応では、プロトン供与性の溶媒を用いることができ、反応時の作業域の厳密な水分管理等を行う必要がないという利点を有する。
このような架橋剤としては、分子内に少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物であれば特に限定されない。例えば、カルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等のヒドラジド化合物、或いは二個のヒドラジン残基を有するように処理した重合体若しくは共重合体、または、モノマーの時点で二個のヒドラジン残基を有するように予め処理したモノマーの重合体或いは共重合体が挙げられる。このうち、特に好ましいのはカルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジドである。かような架橋剤を添加することにより、ブロックコポリマー同士が架橋剤を介して架橋することで強固な被膜を形成し、基材層からの剥離を抑制・防止する効果(耐久性)が向上する。なお、上記ヒドラジド化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ヒドラジド化合物と反応性ドメインとの架橋反応は、常温で進行し、通常触媒の添加は不要であるが、必要に応じて、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸コバルト等の水溶性金属塩等の添加や加熱乾燥を行うことにより促進されうる。したがって、潤滑コート剤は、適宜これらの水溶性金属塩をさらに含んでいてもよい。
これらの架橋剤は、潤滑コート剤中、上記ブロックコポリマー100wt%に対して、0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%となる比率で含有されることが望ましい。なお、2種以上の架橋剤を用いるときは、これら架橋剤の合計の割合が、上記範囲内であると好ましい。
当該架橋剤は、上記ブロックコポリマーを含む潤滑コート剤中に共存してもよいし、ブロックコポリマーを含む潤滑コート剤(第1の潤滑コート剤)とは別の溶液(第2の潤滑コート剤)として調製された形態であってもよい。つまり、1つの潤滑コート剤中に、ブロックコポリマーおよび架橋剤が共に含まれる形態であってもよいし、上記ブロックコポリマーを含む溶液を基材等の対象物に被覆して被膜を形成した後、当該被膜に対して架橋剤を別途添加するような態様であってもよい。かような潤滑コート剤の態様については、以下で詳述する。
[医療デバイス]
上記の通り、本発明に係る潤滑コート剤を用いて形成される被膜は、湿潤時の潤滑性、耐久性に優れる。ゆえに、本発明に係る潤滑コート剤は、医療デバイスの被膜の形成に好適に使用できる。したがって、本発明の第二は、基材層上に、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する表面潤滑層を有する、医療デバイスを提供する。
以下、添付した図面を参照して本発明の医療デバイスの好ましい実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る医療デバイス(以下、単に「医療デバイス」とも略記する)の代表的な実施形態の表面の積層構造を模式的に表した部分断面図である。図2は、図1の実施形態の応用例として、表面の積層構造の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。なお、図1および図2中の各符号は、それぞれ、下記を表わす。符号1は、基材層を;符号1aは、基材層コア部を;符号1bは、基材表面層を;符号2は、表面潤滑層を;および符号10は、本発明に係る医療デバイスを、それぞれ表わす。
図1、図2に示されるように、本実施形態の医療デバイス10では、基材層1と、基材層1の少なくとも一部に固定化された(図中では、図面内の基材層1表面の全体(全面)に固定化された例を示す)ブロックコポリマーを含む表面潤滑層2と、を備える。表面潤滑層2は、少なくとも、繰り返し単位を有し分子量が120以上の親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含む。そして、表面潤滑層2は、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤由来の構成単位をさらに含んでいると好ましい。
以下、本実施形態の医療デバイスを構成部材ごとに詳しく説明する。
(基材層(基材))
本実施形態で用いられる基材層としては、いずれの材料から構成されてもよく、その材料は特に制限されない。具体的には、基材層1を構成する材料は、金属材料、高分子材料、およびセラミックスなどが挙げられる。ここで、基材層1は、基材層1全体が上記いずれかの材料で構成されても、または、図2に示されるように、上記いずれかの材料で構成された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆して、基材表面層1bを構成した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆されて、基材表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆されて、あるいは基材層コア部1aを形成する補強材料と高分子材料とが複合化されて、基材表面層1bを形成してなるものなどが挙げられる。また、基材層コア部1aは、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療デバイスの部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。また、基材層コア部1aと基材表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、基材表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療デバイスの部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。
上記基材層1を構成する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療デバイスに一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル−チタン合金、ニッケル−コバルト合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等の各種合金などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
また、上記基材層1を構成する材料のうち、高分子材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療デバイスに一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
(基材層への潤滑コート剤による潤滑性被膜(表面潤滑層)の形成方法)
本発明の医療デバイスの作製方法(基材層への潤滑コート剤による潤滑性被膜(表面潤滑層)の形成方法)は、本発明に係るブロックコポリマーを使用する以外は特に制限されず、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。
たとえば、具体的には、(1)ブロックコポリマーおよび架橋剤を含有する溶液を基材層表面に塗布した後、該ブロックコポリマーと該架橋剤とを反応させる方法、または、(2)ブロックコポリマーを含有する溶液(第1の潤滑コート剤)を基材層表面に塗布した後、架橋剤を有する溶液(第2の潤滑コート剤)を基材層表面に塗布して該ブロックコポリマーと該架橋剤とを反応させる方法が挙げられる。上記方法の中でも、一回の塗布操作でよく、簡便なコートプロセスにより表面潤滑層の形成が可能である点で、上記(1)の方法が好ましい。このような方法により、医療デバイス表面に潤滑性、耐久性を付与することができる。
上記方法において、本発明に係るブロックコポリマーおよび/または架橋剤を溶解するのに使用される溶媒としては、本発明に係るブロックコポリマーおよび/または架橋剤を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、ブロックコポリマーと架橋剤を含む溶液をそれぞれ別に調整する場合は、それぞれの溶媒は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
コート液中の本発明に係るブロックコポリマーの濃度は、特に限定されない。塗布性、所望の効果(潤滑性および耐久性)が得られるなどの観点からは、コート液中の本発明に係るブロックコポリマーの濃度は、0.01〜20wt%、より好ましくは0.05〜15wt%、さらに好ましくは0.1〜10wt%である。ブロックコポリマーの濃度が上記範囲であれば、得られる表面潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。また、1回のコーティング操作で所望の厚みの均一な表面潤滑層を容易に得ることができ、操作性(例えば、コーティングのしやすさ)、生産効率の点で好ましい。なお、ブロックコポリマーの濃度が小さすぎる場合、基材層表面に十分な量のブロックコポリマーを固定化することが難しいことがあるが、0.01wt%以上とすることにより、基材層表面に十分な量のブロックコポリマーを固定化することができる。また、ブロックコポリマーの濃度が大きすぎる場合、コート液の粘度が高くなりすぎて、均一な厚さのブロックコポリマーを基材層に固定化するのが困難な場合や基材層表面に素早く被覆するのが困難な場合がある。したがって、20wt%以下とすることにより、均一な厚さのブロックコポリマーを基材層に容易に固定化することができ、また、基材層に対し素早く被覆することができる。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
また、コート液中の架橋剤の濃度は、特に限定されない。表面潤滑層を強固に基材層に固定化するうえでは、ブロックコポリマーの重量に対して0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%である。架橋剤の濃度が上記範囲であれば、表面潤滑層を基材層に強固に固定化できる。
なお、ブロックコポリマーと架橋剤とが同一の溶媒に溶解しにくいような場合などにおいては、上記の(2)の方法のように、ブロックコポリマーのみを溶解したコート液により基材層表面をコーティングして被膜を形成した後、架橋剤のみを溶解したコート液を該被膜に含浸させて、表面潤滑層を形成してもよい。
基材層表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。
なお、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の細く狭い内面に表面潤滑層を形成させる場合、コート液中に基材層を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、表面潤滑層の形成を促進できる。
また、基材層の一部にのみ表面潤滑層を形成させる場合には、基材層の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液を基材層の一部にコーティングすることで、基材層の所望の表面部位に、表面潤滑層を形成することができる。
基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め表面潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分を着脱可能な適当な部材や材料で保護した上で、基材層をコート液中に浸漬して、コート液を基材層にコーティングした後、表面潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分の保護部材を取り外すことで、基材層の所望の表面部位に表面潤滑層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、表面潤滑層を形成することができる。例えば、基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療デバイスの所定の表面部分に、コート液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、医療デバイスの構造上、円筒状のデバイスの外表面と内表面の双方が、表面潤滑層を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
このようにブロックコポリマーおよび/または架橋剤を含むコート液中に基材層を浸漬した後は、コート液から基材層を取り出して、乾燥する。ここで、乾燥条件は、基材層上にブロックコポリマーを含む表面潤滑層が形成できる条件であれば、特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは70〜150℃である。また、乾燥時間は、好ましくは30分〜24時間、より好ましくは1〜10時間である。このような条件であれば、基材層表面にブロックコポリマーおよび架橋剤の被膜を形成し、また、被膜中のブロックコポリマーの反応性ドメインと、架橋剤との架橋反応が起こることで、基材層から容易に剥離することのない、強固な表面潤滑層を形成することができる。乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、大気圧下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
上記方法により、基材層表面にブロックコポリマーおよび架橋剤からなる表面潤滑層が形成される。これにより、本発明による医療デバイスは、湿潤下での優れた潤滑性および耐久性を発揮できる。
(本発明の医療デバイス10の用途)
本発明の医療デバイス10は、体液や血液などと接触して用いるデバイスのことであり、体液や血液、生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減が可能なものである。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等が挙げられるが、その他にも以下の医療デバイスが示される。
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
(f)人工気管、人工気管支など。
(g)体外循環治療用の医療デバイス(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
[表面潤滑層の形成]
(実施例1)
アジピン酸2塩化物72.3g中に50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間、塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44gおよび水120gよりなる溶液中に滴下し、−5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
続いて、このPPO1g、カルボニル基を有する単量体としてのダイアセトンアクリルアミド(DAA)9gをジオキサンに溶解させて、65℃で2時間、撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して、分子内にパーオキサイド基を有するポリDAA(PPO−DAA)を得た。
続いて、得られたPPO−DAA0.15gを重合開始剤として、親水性単量体としての分子量300(側鎖の分子量:約215、繰り返し単位としてエチレンオキサイドの数:約4.5)のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA300)15gと共にジオキサンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、ポリエチレングリコール鎖を側鎖に有するPEGMA300を構成単位とした親水性ドメインと、DAAを構成単位とした反応性ドメインとを有するブロックコポリマー(1)(PEGMA300:DAA=50:1(モル比))を得た。
得られたブロックコポリマー(1)を3wt%の濃度になるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ブロックコポリマー(1)に対して20wt%となるようにアジピン酸ジヒドラジドを加えて、コート液を調製した。ナイロン(登録商標)エラストマー(ELG5660、EMS社製)15mm×50mm×1mmのプレスシートを、上記で調製したコート液にディップコートし、120℃で3時間加熱することにより、ナイロン(登録商標)エラストマーシート上に表面潤滑層を形成し、サンプル(1)を得た。
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたPPO−DAA0.15gを重合開始剤として、親水性単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)5.0g(DMAAは繰り返し単位を有する親水性側鎖を持たない)と共にジオキサンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、DMAAを構成単位とした親水性ドメインと、DAAを構成単位とした反応性ドメインとを有するブロックコポリマー(2)(DMAA:DAA=50:1(モル比))を得た。得られたブロックコポリマー(2)を、3wt%の濃度になるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ブロックコポリマー(2)に対して20wt%のアジピン酸ジヒドラジドを加えて、コート液を調製した。実施例1と同様に、ナイロン(登録商標)エラストマーシート上に調製したコート液をコートし、120℃で3時間加熱することにより、ナイロン(登録商標)エラストマーシート上に表面潤滑層を形成し、サンプル(2)を得た。
(比較例2)
実施例1と同様にして得られたPPO-DAA0.15gを重合開始剤として、親水性単量体としてのジエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(DEGMA)(側鎖の分子量:約103、繰り返し単位としてエチレンオキサイドの数:2)9.9gと共にジオキサンに溶解し、80℃で5時間、窒素雰囲気下で重合させた。重合後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、DEGMAを構成単位とした親水性ドメインと、DAAを構成単位とした反応性ドメインとを有するブロックコポリマー(3)(DEGMA:DAA=50:1(モル比))を得た。得られたブロックコポリマー(3)を、3wt%の濃度になるようにジメチルホルムアミドに溶解し、ブロックコポリマー(3)に対して20wt%となるようにアジピン酸ジヒドラジドを加えて、コート液を調製した。実施例1と同様に、ナイロン(登録商標)エラストマーシート上に調製したコート液をコートし、120℃で3時間加熱することにより、ナイロン(登録商標)エラストマーシート上に表面潤滑層を形成し、サンプル(3)を得た。
[表面潤滑層の耐久性評価]
上記実施例1および比較例1〜2で得られたサンプル(1)〜(3)について、下記方法にしたがって、図3に示される摩擦測定機(トリニティーラボ社製、ハンディートライボマスターTL201)20を用いて、表面潤滑層の耐久性を評価した。
すなわち、上記各サンプル16をシャーレ12中に固定し、サンプル16全体が浸る高さの水17中に浸漬した。このシャーレ12を、図3に示される摩擦測定機20の移動テーブル15に載置した。円柱状ゴム端子(φ10mm、R1mm)13をサンプル16に接触させ、端子上に200gの荷重14をかけた。速度100cm/min、移動距離2cmの設定で、移動テーブル15を水平に50回往復移動させた際の摺動抵抗値を測定した。1往復目から50往復目までの摺動抵抗値を往復回数毎に平均し、摺動抵抗値としてグラフにプロットすることにより、50回の繰り返し摺動に対する潤滑耐久性を評価した。実施例1にて作製したサンプルの評価結果を図4に、比較例1にて作製したサンプルの評価結果を図5に、比較例2にて作製したサンプルの評価結果を図6にそれぞれ示す。なお、評価は、実施例1および比較例1〜2で得られたサンプル(1)〜(3)において、それぞれ同様の手順で作製した3つのサンプルを評価した。
図4より、実施例1のサンプル(1)では初回から良好な潤滑性を示し、50回往復後においても良好な潤滑性を維持していることが示された。一方、比較例1の繰り返し単位を有する親水性側鎖を持たないブロックコポリマーによるサンプル(2)は、図5に示されるように初期の摺動抵抗値が実施例1と比べて高く、50回往復移動において徐々に摺動抵抗値が増大したことから、潤滑性・耐久性共に実施例1よりも劣っていた。また、比較例2の側鎖の分子量が小さい(側鎖の分子量が120未満である)ブロックコポリマーによるサンプル(3)では、図6に示されるように潤滑性を全く示さず、親水性自体が不十分であるものと考えられた。
以上の結果より、本発明に係るブロックコポリマーを含む表面潤滑層を有する医療デバイスは、従来技術に比べて優れた潤滑性を発現でき、さらに容易に剥離することがなく、その潤滑性を永続的に発現することができる。
1 基材層、
1a 基材層コア部、
1b 基材表面層、
2 表面潤滑層、
10 医療デバイス、
12 シャーレ、
13 円柱状ゴム端子、
14 荷重、
15 移動テーブル、
16 サンプル、
17 水、
20 摩擦測定機。

Claims (7)

  1. 繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する、潤滑コート剤。
  2. 一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑コート剤。
  3. 前記親水性単量体の親水性側鎖の分子量が5000以下である、請求項1または2に記載の潤滑コート剤。
  4. 前記親水性側鎖は、繰り返し単位としてエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを3〜20個有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑コート剤。
  5. 前記親水性単量体が、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑コート剤。
  6. 基材層上に、繰り返し単位を有し分子量が120以上である親水性側鎖を有する、親水性単量体由来の構成単位を有する親水性ドメインと、カルボニル基を有する単量体由来の構成単位を有する反応性ドメインと、を含むブロックコポリマーを含有する表面潤滑層を有する、医療デバイス。
  7. 前記表面潤滑層が、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤由来の構成単位をさらに含む、請求項6に記載の表面潤滑層を有する医療デバイス。
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