JP2014117223A - 調味エキスの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 原料である魚節等の魚加工品について、その全量を無駄なく調味素材として利用できる技術を開発することを目的とする。また、だし抽出のための魚節等を製造することなく、生魚を直接の原料として好適な調味素材を製造する技術を開発することを目的とする。
【解決手段】 (i) 生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, のいずれか1以上の原料が、前記原料と前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを20〜75%(容量/容量)で含むように調整した溶媒、とが接触する条件、(ii) 温度140〜205℃及び圧力0.36〜12.5MPaの高温高圧条件、(iii) 前記原料と亜臨界状態になった水を1分間以上接触させる条件、の全てを満たすようにして亜臨界水処理を行うを特徴とする、調味エキスの製造方法、;前記製造方法により得られた調味エキス、;前記調味エキスを含有してなる飲食品、;を提供する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, を原料として、所定濃度のエタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことを特徴とする、調味エキスの製造方法に関する。
また、本発明は、前記方法により原料全量が、ペースト状又は液状となったものであり且つだしとしての旨味及び風味が好適に付与された、調味エキスに関する。
・魚節類の食材としての利点と課題
魚節類のだしは、旨味成分であるイノシン酸や多くの呈味成分や香味成分を含む組成物であり、風味全体として好適な嗜好性を発揮する食品素材である。
魚節類だしを含む飲食品としては、つゆ、ぽん酢、吸い物、味噌汁、煮物用調味液、鍋物用調味液、調味酢、たれ類、ドレッシング類などが挙げられるが、いずれも日本人の嗜好性に良く合い、日常食にて重要な地位を占める飲食品ばかりである。
ここで、魚節類には、煮干し品のような小魚由来のものも含まれるが、硬い食材であるカツオ節等では、その利用のためには特別の工程が必要となる。具体的には、魚節を利用するには、削り節にする方法が良く知られているが、食品業界においては、臼やハンマーミル等を用いて、粉砕や微細化する方法が採用されている。
しかし、これらの方法はいずれも多くの労力やコストを要する方法であり、原料に油脂分や水分が多い場合、装置等に付着して粉砕等が不可能となる。
また、魚節類のだしは、原料である魚節を削ったものや粉砕物に対して、温水や熱湯等を用いて水溶性成分(遊離アミノ酸, イノシン酸など)を抽出し、上清を抽出液として回収することで得られる液である。
当該工程では、抽出後のだし粕(抽出残渣)が副産物として大量に生成され、その大部分は廃棄される。そのため、原料重量全体に対する原料を構成する成分の回収率は、‘極めて微量’に過ぎないのが現状である。
これに対して、水産加工残渣にカツオ節の製造工程で産出される鰹の煮汁を混合し、酵素分解することで、調味料を得ることが試みられているが(特許文献1 参照)、工程の煩雑さと酵素分解によるコスト及び時間の点で実用的ではない。
・生魚からのだし製造
魚節類に含まれる旨味成分, 風味成分の大部分は、生魚から魚節類を製造する工程において生成されるものである。具体的には、核酸やタンパク質が、ペプチドやアミノ酸に分解されたり、様々な反応が起こることによって生成される。
そのため、生魚を抽出原料とした場合、生臭い抽出物が得られるだけで、旨味や風味が良好なだしを抽出することはできない。
・コスト的な問題
このように、良好なだしを抽出製造するためには、一度、生魚を魚節等に加工する工程が必須である。また、硬いカツオ節等の場合では、さらに砕いたり削ったりする工程が必要となる。このような工程を経ることは、だしを製造する上でのコスト向上の大きな要因となっている。
そこで、カツオ節の製造工程を簡略化して、短縮された加工期間でかつ低コストで製造するための様々な方法が開発されているが(例えば、特許文献2等 参照)、これは従来の製造方法の合理化の範疇であり、革新的な技術ではなかった。
特開平09-000218号公報 特開2002-165554号公報
本発明は、上記課題を解決し、原料である魚節等の魚加工品について、その全量を無駄なく調味素材として利用できる技術を開発することを目的とする。
また、本発明は、だし抽出のための魚節等を製造することなく生魚を直接の原料として、好適な調味素材を製造する技術を開発することを目的とする。
(1) 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料である魚節等の魚加工品を、所定濃度のエタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料の全量をペースト化又は液化でき, 且つ, だしとしての旨味及び風味が好適な調味エキスとできることを見出した。
当該得られた調味エキスの旨味や風味の力価は、通常の抽出だしよりも遥かに高いものであった。
また、本発明者らは、当該処理が奏するペースト又は液化作用は、カツオ節(魚節類の中でも特に硬いもの)を未粉砕のまま丸ごと用いた場合でも、それを完全にペースト状にできる程強力であることを見出した。
さらに、本発明者らは、原料としてだし粕を用いて同様の処理を行った場合でも、得られた処理物は、完全にペースト又は液化して、だしとしての旨味及び風味が好適な調味エキスとなることを見出した。
(2) また、本発明者らは、原料として生魚を用いて同様の処理を行った場合でも、得られた処理物は、完全にペースト化又は液化して、だしとしての旨味及び風味が好適な調味エキスとなることを見出した。
なお、得られた調味エキスは、魚節等から抽出しただしの旨味や風味よりも、高い力価を有するものであった。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
・即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、以下(A)に記載の原料に対して、以下(B1)〜(B3)に記載の全てを満たす条件にて亜臨界水処理を行うを特徴とする、調味エキスの製造方法に関する。
(A): 生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, のいずれか1以上のもの。
(B1): 前記原料と、;前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを20〜75%(容量/容量)で含むように調整した溶媒、;とが接触する条件。
(B2): 温度140〜205℃及び圧力0.36〜12.5MPaの高温高圧条件。
(B3): 前記原料と亜臨界状態になった水を1分間以上接触させる条件。
・また、〔請求項2〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを25〜60%(容量/容量)で含むように調整した溶媒である、請求項1に記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項3〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の原料と溶媒の接触を、前記原料の乾燥重量1に対して前記原料中の水分及び溶媒の総液量の比を3以上に調整して行うものである、請求項1又は2に記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項4〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対して有機酸を0.2〜10%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項5〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対しクエン酸を0.2〜3%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜4のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項6〕に係る本発明は、前記生魚が、サバ科, アジ科, サンマ科, サケ科, ニシン科, トビウオ科, 若しくは, カタクチイワシ科, に属する1以上の魚の魚体、;前記魚体における魚肉、;又は、前記魚体における魚肉を含む部分、;であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項7〕に係る本発明は、前記魚加工品が、魚節類であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項8〕に係る本発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造された調味エキスに関する。
・また、〔請求項9〕に係る本発明は、前記調味エキスが、前記亜臨界水処理により前記原料の全量が、ペースト状, 又は, 液状, になったものであり、且つ、だしとしての旨味及び風味が付与されたものである、請求項8に記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項10〕に係る本発明は、前記調味エキスが、溶媒中に平均粒子径1〜100μmの粒子が分散した状態のものである、請求項8又は9に記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項11〕に係る本発明は、前記調味エキスが、必要に応じて乾燥処理を行って固形状, 又は, 粉末状, に加工したものである、請求項8〜10のいずれかに記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項12〕に係る本発明は、請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる飲食品に関する。
・また、〔請求項13〕に係る本発明は、請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる調味料に関する。
本発明により、原料である魚節等の魚加工品の全量をペースト化又は液化し、だしとしての旨味及び風味が好適な調味エキスとすることが可能となる。即ち、抽出残渣を全く生じることなく、原料の全量を調味エキスとすることが可能となる。
また、本発明により、硬い魚加工品であるカツオ節を原料に用いた場合であっても、別途の前処理を行うことなく、調味エキスを製造することが可能となる。
また、本発明により、従来は廃棄対象となっていただし粕等の未利用有価物からも、だしの旨味や風味を有する調味エキスを製造する原料として有効利用することが可能となる。
また、本発明により、生魚を魚節等に加工することなく、生魚を直接原料とした場合でも、だしの旨味や風味を有する調味エキスを製造することが可能となる。
(A): 実施例1の亜臨界水処理において、当該処理に供した原料のカツオ節粗砕品を撮影した写真像図である。 (B): 水を用いて通常の亜臨界水処理を行い、得られた処理物を撮影した写真像図である。(B-i)は分離した濾液を、(B-ii)は未分解残渣を示す。 (C):エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行い、得られたペースト状の処理物を撮影した写真像図である。 実施例13において各種有機酸を添加してエタノール存在下での亜臨界水処理を行い、得られた処理物を撮影した写真像図である。
本発明は、生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, を原料として、所定濃度のエタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことを特徴とする、調味エキスの製造方法に関する。
また、本発明は、当該方法により原料全量がペースト状又は液状となったものであり且つだしとしての旨味及び風味が好適に付与された、調味エキスに関する。
〔対象原料〕
本発明の亜臨界水処理に供する原料としては、以下に示すような魚又は魚に由来するものを原料として用いることができる。
・生魚
本発明において、亜臨界水処理に供する原料としては、生食が可能な魚の生肉, 又は, 生食はできなくても調理後の食用が可能な魚の生肉, であれば、如何なる魚の生肉をも原料とすることができる。
ここで‘魚’とは、分類学上の魚類である無顎上綱(ヤツメウナギの仲間)又は顎口上綱(サメやエイ等の軟骨魚類、一般的な魚である硬骨魚類)のいずれかに属する動物を指す。特に、硬骨魚類は、海水と淡水のあらゆる水生環境に適応し、極めて多様な種類が存在する。
ここで‘無顎上綱’に属する魚は、ほとんどが絶滅種であるが、現生種で食用可能な魚類としては、ヌタウナギ、ヤツメウナギの仲間を挙げることができる。
また、‘顎口上綱’に属する魚としては、軟骨魚類および硬骨魚類に属する食用可能な全ての魚を挙げることができる。特に、硬骨魚類は、海水と淡水のあらゆる水生環境に適応し、極めて多様な種類が存在する。
ここで、軟骨魚類としては、サメ、エイの仲間を挙げることができる。また、硬骨魚類としては、極めて膨大な種類のものが該当するが、一例を挙げると、スズキ、アカメ、アマダイ、コバンザメ、ムツ、シイラ、アジ、イサキ、キス、タイ、ハタ、チョウチョウウオ、カマス、タチウオ、サバ、ハゼ、チョウザメ、ウナギ、ウツボ、アナゴ、ハモ、ニシン、カタクチイワシ、コイ、ドジョウ、ナマズ、サケ、ハダカイワシ、タラ、アンコウ、キンメダイ、トゲウオ、ボラ、サヨリ、トビウオ、サンマ、カレイ、ヒラメ、フグ、カワハギ、マンボウ、カサゴ、の仲間(目又は科)に属する魚などを挙げることができる。
これらの中でも、特には、サバ科に属するカツオ、サバ、ソウダカツオ、マグロ、;アジ科に属するマアジ(アジ)、シマアジ、ブリ、;サンマ科に属するサンマ、;サケ科に属するサケ、マス、;ニシン科に属するウルメイワシ、マイワシ、キビナゴ、ニシン、;トビウオ科に属するトビウオ(アゴ)、;カタクチイワシ科に属するカタクチイワシ、;などを挙げることができる。
また、対象原料として用いる生魚の状態としては、腐敗が進行しなていない魚体であれば問題なく用いることができる。好ましくは、鮮度の良好な魚体(生きている状態のもの、死後数時間しか経過していないもの、冷蔵や冷凍保存したものなど)を用いることが望ましい。
また、切断処理(切り身にする処理など)、磨り潰す処理(すり身にする処理など)を行ったものを用いることもできる。
対象原料として用いる生魚の部位としては、魚肉の部分を好適に用いることができる。 魚肉としては、背肉や腹肉を最も好適に用いることができるが、腹皮(内臓付近の脂身部分:トロ, ハラモ, ハラミなどに相当)、ヒレ部分(胸鰭、尾鰭、背鰭など)、アタマ、ノドの部分も好適に用いることができる。なお、魚肉の質は、魚の種類によって赤身と白身のものがあるが、いずれをも用いることが可能である。
また、魚肉を切り分けた後の粗(アラ:下ろし身をとった後の残渣)や切り落とし部分を用いることもできる。
なお、対象の魚が大型魚(例えばカツオのような魚)の場合、操作性の点から、魚肉や各部位を適度に切り分けて用いることが望ましい。
一方、対象の魚が小魚(例えば、稚魚や、カタクチイワシのような魚)である場合、魚を丸ごとそのまま用いることが、処理の手間を省く点で好適である。
・魚加工品
本発明において、亜臨界水処理に供する原料としては、上記魚の加工品であり食品や調味素材に該当するものであれば、如何なるものを原料とすることができる。
ここで、加工とは、原料の魚に何等かの物理的, 化学的, 生物的な処理を行い、調味料を含む飲食品に適した状態にすることを指す。
例えば、加熱処理(煮る, 蒸す, 焼くなど)、乾燥処理(風乾, 日陰干しなど)、燻製処理、天日干し、塩蔵処理、冷蔵処理、冷凍処理、酵素処理、発酵処理、;などの処理を挙げることができる。
ここで、魚加工食品として具体的には、魚節類(カツオ節などの製品)、煮干品(広義の意味では魚節製品に含まれる)、素干し品(干物など)、塩干し品(干物など)、塩蔵品、燻製品、練り製品(カマボコ, チクワ, 薩摩揚げ, 魚肉ソーセージなど)、冷凍食品、発酵食品、水産物缶詰, などを挙げることができる。
また、魚を加工する際に発生する魚滓類や成型工程で発生する粗(アラ)や切り落とし部分をさらに加工したもの、を用いることもできる。
・魚節類
本発明の原料としては、上記魚加工品の中でも特に魚節類を好適に用いることができる。ここで、魚節類とは、魚体を煮てから固くなるまで乾燥させた加工品全般を指す。魚節類は、主には、だし抽出の材料や調味素材として使用される。
大型魚の節の場合、魚体からアタマ、ヒレ、腹皮を取り除いた魚肉部分を用いて製造されるが、小型魚の場合、魚形を留めたままでそのまま用いられる場合が多い。
魚節類として、具体的には、カツオ節(カツオ)、マグロ節(マグロ)、サバ節(サバ, ゴマサバ)、ソウダ節(ソウダガツオ)、アジ節(ムロアジ)、アゴ節(トビウオ)、イワシ節(カタクチイワシ、マイワシ)、ウルメ節(ウルメイワシ)、サケ節(サケ)、サンマ節(サンマ)、モルディブフッシュ(ハガツオ)、などを挙げることができる。
また、煮干し(カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシ、キビナゴ、アジ、サバ、トビウオなど)も、広い意味で魚節類に含まれる魚加工品である。
魚節類は、その加工工程の差異によって様々な製品に分類することができる。例えば、茹でて干した工程のみで製造した生節, 生利節など、;さらに焙乾工程を行った裸節, 荒節など、;さらに天日干しとカビ付けを繰り返して水分を落として熟成させた本節, 枯節, 本枯節など、;を挙げることができる。
本発明の原料としては、これらの如何なる状態のものであっても、好適に原料として用いることができる。即ち、本発明では、生節などの柔らかい状態の製品だけでなく、本節などの硬い木のようになった状態であっても、原料全量をペースト化することが可能となる。
魚節類の形状やサイズとしては、未粉砕品(丸ごと)、粗砕品、粉砕品、厚削り、薄削り、粉状(粉末、微粉)など、特に限定はなく如何なるものを用いることができる。
なお、本発明の処理方法では、原料の粉砕や微細化工程を省略したい場合、カツオ節の未粉砕品をそのまま丸ごと処理し、原料全量をペースト化又は液化することが可能である。
また、処理時間を短縮したい場合であれば、体積に対する表面積の割合が小さいもの, サイズ自体が小さいもの, を用いることが好適である。
・魚加工品からの水溶性成分抽出残渣
本発明の原料としては、前記魚加工品から水や熱湯にて水溶性成分(旨味成分であるイノシン酸、呈味成分や香味成分である遊離アミノ酸など)を抽出した後の残渣についても、好適に原料として用いることができる。
当該残渣には、だし成分は含まれていないが不溶性のタンパク質を大量に含有する。本発明の処理では、これらのタンパク質から、旨味成分及び風味成分を大量に生成させることが可能となる。
このような残渣として具体的には、前記した魚節類からだしを抽出した後の残渣である‘だし粕’を挙げることができる。本発明においては、原料としてだし粕を用いることで、原料コストを大幅に削減することができ好適である。
・原料の組み合わせ
本発明では、これらの原料のいずれを用いた場合でも、全量がペースト化又は液化された好適な調味エキスを得ることができるが、原料によって風味は異なったものとなる。
そこで本発明では、最終製品とする飲食品の性質を考慮して、原料を任意に選択して用いることが好ましい。
例えば、つゆやだしの素を製造する場合は、カツオ節, 又は, そのだし粕, を用いることが好ましい。また、ぽん酢を製造する場合には、生魚(ペースト状又は液状の処理物にした場合に、甘い風味が付与される性質があるため)を用いることが好適である。
また、最終製品の風味を変化させるために、2種類以上を混合して用いる態様も可能である。
〔エタノール存在下での亜臨界水処理〕
・亜臨界水処理について
本発明では、前記原料を「亜臨界状態の水」と接触させる工程を必須とするものである。ここで、‘亜臨界状態の水’とは、水を常圧での沸点(100℃)から臨界温度(374℃)の範囲で加圧(高温高圧処理)することにより、外見は液体を保っているが、通常の液体の水分子よりも極めて高いエネルギーが付与されている水の状態を指す。
当該亜臨界状態の水は、比誘電率が低くイオン積が大きい等、通常の液体の水の状態とは全く異なる性質を有する。
本発明では、原料である生魚や魚加工品等が、亜臨界状態の水と接触することによって、当該原料に含まれるタンパク質等が加水分解され、水溶性ペプチドや遊離アミノ酸等が生成される。
なお、水以外の亜臨界状態となった溶媒(例えば、二酸化炭素)を用いた場合では、所望の加水分解作用を期待することができない。
なお、本発明では、臨界点である374℃以上で且つ22MPa以上である「臨界状態の水」で処理することは、好適ではない。
臨界状態の水分子は、亜臨界状態の水分子よりもさらに高いエネルギーを有し、全く異なる性質を示す。そのため、臨界状態の水で処理した場合、所望の性状や風味適性を有する処理物を得ることができないからである。
本発明の亜臨界水処理は、原料が溶媒と接触した状態で行うことが必要である。少なくとも一部が接触していれば、接触部分から徐々に分解され、ペースト状又は液状とすることができる。
好ましくは原料の少なくとも半分が、最も好ましくは原料の全体が、溶媒に浸漬した状態にて行うことにより、効率的な当該処理を行うことが可能となる。
なお、当該亜臨界水処理は、必ずしも原料と溶媒が均一に混ざった状態で処理に供することを要しない。但し、原料の形状が、粉砕物、粒状物、擂潰物、流動物などである場合には、攪拌や混合等を行って原料と溶媒が均一に混ざった状態にして行うと、処理時間の短縮となる。
・エタノールによる増幅作用
本発明における亜臨界水処理は、‘前記原料’と‘所定濃度のエタノールを含む水からなる溶媒’とを接触する条件にした後に、亜臨界水処理を行うことを必須とする技術である。なお、本発明の亜臨界水処理においては、エタノールは、亜臨界状態となった水分子が原料タンパク質等を加水分解する作用を「顕著に増幅する(劇的に強める)」働きをするものと認められる。即ち、エタノールの分子自体が高い加水分解力を発揮するわけではない。
従って、本発明における原料全量をペースト状又は液状にして好適な調味素材にできる効果は、エタノールが亜臨界水処理を顕著に増幅する作用によって奏される効果であると認められる。
なお、エタノールを含まない水で亜臨界水処理(従来法での亜臨界水処理)を行った場合では、処理液と大量の未分解残渣が分離し、ペースト状又は液状の処理物を生成されない(実施例1, 図1 参照)。
さらに、当該処理物は、旨味を全く有さず、むしろ苦味を有する。そのため、それ自体を単独で調味素材として用いることができない(実施例1 参照)。
また、エタノール以外のアルコールを含む水を用いた場合、旨味や風味が良好な処理物を得ることができず、調味素材として用いることができない。
・エタノール濃度
当該亜臨界水処理の効果を増幅する作用は、具体的には、「原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを所定濃度(容量/容量: 以下(v/v)と表記する場合あり。)で含むように(即ち、終濃度で)調整した溶媒」を用いた場合に発揮される技術である。
当該エタノール濃度(終濃度)は、生魚等の含水量の多い原料を用いる場合には、含水率に特に注意する必要がある。
当該増幅作用が強く発揮されるエタノール濃度(終濃度)としては、20%(v/v)以上、好ましくは25%(v/v)以上、さらには30%(v/v)以上、を挙げることができる。また、上限値としては、75%(v/v)以下、好ましくは60%(v/v)以下、さらには45%(v/v)以下、さらには40%(v/v)以下を挙げることができる。
具体的には、特に25〜60%(v/v)、最適には30〜40%(v/v)の範囲にあるエタノール濃度で処理を行った場合、性状及び風味適性の両方が極めて好適な処理物を得ることが可能となる。
エタノール濃度が当該濃度範囲を外れる場合(所定濃度より低すぎる場合, 又は, 高すぎる場合)、エタノールによる当該増幅作用は十分に発揮されない。即ち、原料全量のペースト化又は液化を達成することができず、処理物に良好な旨味や風味を付与することができない。
・エントレーナーとしての有機酸
本発明の亜臨界水処理に用いる溶媒としては、上記のように所定濃度のエタノールを含む水を用いることが必須であるが、さらに防腐や風味付けの目的のために、エントレーナーとして有機酸を含有させることが好適である。
なお、各種エントレーナーを含む溶媒としては、「原料中の水分と溶媒の総液量に対して、エントレーナーを所定濃度(質量/容量: 以下(w/v)と表記する場合あり。)で含むように(即ち、終濃度で)調整した溶媒」として調整することが可能となる。また、当該エントレーナー濃度(終濃度)は、生魚等の含水量の多い原料を用いる場合には、含水率を考慮して計算する必要がある。
本発明において‘有機酸’を溶媒に含有させた場合、亜臨界水処理の加水分解効率をさらに向上させる効果が発揮される。そのため、有機酸は、分解が困難な原料(例えば、カツオ節のだし粕など)を用いた場合に、好適なエントレーナーと認められる。
当該向上作用を奏する有機酸としては、具体的には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酢酸などを挙げることができる。
ここで、有機酸の濃度が、0.2%(w/v)以上、好ましくは0.25%(w/v)以上、さらには0.5%(w/v)以上、さらには0.75%(w/v)以上であると当該向上作用が好適に奏されるものとなり好適である。濃度が低すぎる場合、十分な向上作用を期待することができない。
また、上限値としては、有機酸の種類によって異なるが、例えば、10%(w/v)以下、好ましくは8%(w/v)以下、さらには7%(w/v)以下、さらには6%(w/v)以下、さらには5%(w/v)以下、さらには3%(w/v)以下、さらには2%(w/v)以下、さらには1%(w/v)以下、を挙げることができる。
・クエン酸の効果
本発明においては、上記有機酸のうち‘クエン酸’を所定濃度で含有させた場合、原料をより微細に分解し、極めて流動性の高い‘液状’の処理物とすることが可能となる。
そのため、クエン酸は、分解が困難な原料(例えば、カツオ節のだし粕など)を用いた場合に、極めて好適なエントレーナーと認められる。
ここで、クエン酸濃度としては、上記した有機酸濃度を採用することができる。但し、特に高い流動性を有する‘液状’の処理物を得るためには、クエン酸濃度を0.2〜3(w/v)、好ましくは0.25〜2%(w/v)、さらには0.5〜1.5%(w/v)、さらには0.75〜1%(w/v)とすることが好適である。
なお、ここで‘液状’とは、固形分と水分の混合物が「さらさらと流れるような性状」を指す。当該状態の処理物は、少しの振盪等により、固形分と水分が均一に混ざった液体の状態にすることができ、製造現場での各作業工程(容器への充填等)や調味料の取り扱いを、格段にスムーズに行うことが可能となる。
また、当該処理物が液状になる原理としては、クエン酸がカルシウムイオン等をキレートし、高分子の凝集やゲル化が抑制されることにより奏されるものと考えられる。一方、クエン酸が高濃度で存在する場合には、タンパク質等の酸変性による凝集が起こるため、液状にはならずにペースト状になると考えられる。
・酢酸の効果
上記有機酸のうち‘酢酸’を含有させた場合、他の有機酸と同様に、加水分解向上させる作用を期待することができるが、それに加えて、処理物に優れた防腐効果を付与することが可能となる。
但し、酢酸を含有させた場合、その処理物にゲル化する傾向が付与される傾向がある。そのため、ペースト状処理物の流動性を確保するために、酢酸濃度を2%(w/v)以下、好ましくは1%(w/v)以下、にすることが望ましい。
・他のエントレーナー
また、本発明の亜臨界水処理に用いる溶媒としては、風味付け等の目的のために、有機酸以外にも様々な化合物や食品素材を含有させることが可能である。
例えば、塩酸等の無機酸、;水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物、;食塩、砂糖、醤油、食酢、みりん、酒などの調味料、;を添加することが可能である。
なお、‘水酸化ナトリウム’を含有させた場合には、処理物に旨味を付与することが可能となる。これは、水酸化ナトリウム自体によって原料タンパク質の加水分解作用が促進され、タンパク質やペプチドが遊離アミノ酸レベルに迄分解されることにより奏される効果と認められる。
・原料と溶媒の固液比
本発明における亜臨界水処理は、原料と溶媒の固液比を所定比率に調整して行うことで、処理物の性状と風味適性をさらに向上させることが可能である。
具体的には、固体(原料乾燥重量)1に対する液体(原料中の水分及び溶媒の総液量)の比を1以上、好ましくは2以上、さらには3以上、さらには4以上を挙げることができる。なお、当該固液比は、生魚等の含水量の多い原料を用いる場合には、含水率に特に注意して計算する必要がある。
当該固液比をこのような値に調整することによって、極めて好適な性状と風味適性の処理物を得ることが可能となる。
固体に対する液体の割合が少なすぎる場合、加水分解作用の増幅作用が十分に発揮されず、ペースト化作用が十分に発揮されない。また、処理物に旨味及び風味も十分に付与されず、苦味が目立ったものとなる。
一方、固体に対する液体の量が多い場合、重大な支障は生じにくいが、微粒子の沈殿が発生したり、液量が多過ぎて旨味や風味が薄くなり過ぎる場合がある。このような場合には、別途の濃縮工程等を行うことが必要となる。
そのため、溶媒量の上限としては、固体1に対する液体の比を30以下、好ましくは20以下、さらには15以下、さらには10以下、さらには8以下、さらには7以下に調整することが好適である。
・温度条件
本発明の亜臨界水処理は、140〜205℃の温度条件で行うことが必要である。当該温度範囲で処理を行うことにより、処理物には前記した性状および風味適性を付与することが可能となる。
ここで、当該温度より低い場合、亜臨界水処理における加水分解作用自体が弱過ぎてしまい、原料全量をペースト化又は液化することができない。
また、当該温度より高い場合、加水分解作用自体が強過ぎてしまい、処理物の焦げや苦味が強くなり、調味素材として好適な処理物を得ることができない。
当該亜臨界水処理では、処理温度が高いほど加水分解作用が強まる傾向がある。そのため、原料の十分なペースト化又は液化を行うためには、好ましくは150℃以上の温度で処理を行うことが好適である。
また、処理物に焦げや苦味が付与されることを回避するためには、好ましくは200℃以下の温度で当該処理を行うことが好適である。
・処理時間
本発明の亜臨界水処理では、前記原料と亜臨界状態となった水を少なくとも1分間以上接触させること(即ち、亜臨界水処理を1分間以上行うこと)によって、処理物に前記した性状および風味適性を付与することが可能となる。
なお、当該処理おける十分なペースト化又は液化作用を発揮させるためには、好ましくは5分間以上、さらには10分間以上の処理を行うことが好適である。
また、処理時間の上限としては、数時間以内であれば特に制限はないが、例えば、180分間以下、好ましくは120分間以下、さらには90分間以下、特には60分間以下を挙げること。
但し、高温での処理の際には、処理時間が長くなると分解が進み過ぎ、焦げ及び苦味が付与される傾向がある。そこで、例えば、190℃以上で処理を行う場合には、30分間以下、特に20分間以下にて処理を行うことが望ましい。
・圧力条件
本発明における亜臨界水処理の加水分解作用は、圧力条件による影響をほとんど受けない。そのため、当該圧力条件としては、上記温度にて水の亜臨界状態が担保される圧力であれば如何なる圧力でも採用できる。例えば、0.36〜12.5MPaの圧力条件であれば問題なく採用することができる。
なお、加圧や減圧等の圧力調節を行う操作や機器の手間を考慮すると、上記温度における飽和水蒸気圧で処理を行うことが好適である。
〔処理物の特徴〕
・処理物の性状
上記工程を経て得られた亜臨界水処理物は、上記エタノールによって増幅された亜臨界水処理での加水分解作用によって、原料の全量がペースト状又は液状となった性状を示す。具体的には、溶媒中に平均粒子径1〜100μm、好ましくは2〜50μm、さらには4〜40μm、さらには5〜30μmの粒子が分散した状態のものとすることができる。
ここで、上記各種条件の組み合わせによっては、処理後に静置することにより若干の微粒子の残渣が発生(沈殿)する可能性がある(例えば、実施例中の「△評価のもの」)。
本発明では、このような処理物についても、軽い再懸濁などの操作により分散する程度の残渣であれば、本発明の調味エキスとして問題なく採用することができる。
なお、上述のように、エントレーナーとして有機酸(特に特定濃度範囲のクエン酸)を含む溶媒を用いた場合には、処理物の流動性を劇的に向上させることが可能となる。
・風味適性
上記工程を経て得られた亜臨界水処理物は、原料中のタンパク質の加水分解により生成された旨味成分, 風味成分を大量に含むものとなる。そのため、当該処理物は、得られた全量を風味適性が良好な調味エキスとすることができる。
なお、当該風味適性は、用いた原料の種類によって異なるものとなる。そのため、本発明では、原料の種類や組み合わせを変えることによって、最終製品(飲食品)の種類に適した風味適性を有する調味エキスを製造することが可能となる。
・乾燥エキス
得られた処理物は、‘所望に応じて’乾燥処理を行うことで、固形状のエキス, 又は, 粉末状のエキス, の形状とすることができる。
なお、乾燥処理としては、処理物に含まれる旨味成分, 風味成分などが変性や劣化を伴わない方法であれば、加熱乾燥、天日乾燥、凍結乾燥などの常法により行うことができる。
〔飲食品〕
上記得られた調味エキス(ペースト状物, 液状物, 固形物, 乾燥物など)は、調味素材として、飲食品に好適に含有させることができる。
当該調味エキスの旨味及び風味の力価は、通常のだしよりも大幅に高いため、飲食品の製造工程において添加することによって、次の目的を達することが可能となる。
例えば、(i) 常法の製造レシピに加えて、本発明の調味エキスをさらに添加することによって、「通常の飲食品よりも風味が全体的に向上した飲食品」を製造することが可能となる。
また、(ii) 原料の使用量を削減し、その削減分の風味を補うように当該調味エキスを添加することによって、「原料の使用量を削減し, 且つ, 通常の飲食品の風味はそのままの飲食品」を製造することが可能となる。例えば、魚節類だしなどに代替して添加することができる。
本発明の調味エキスは、様々な飲食品に対して用いることが可能である調味素材であるが、具体的には、魚節類のだしを含有する飲食品の全てを対象とすることができる。
例えば、つゆ(麺つゆ, てんつゆ, 鍋つゆなど)、ぽん酢、だしの素、吸い物(乾燥粉末品を含む)、味噌汁(乾燥粉末品を含む)、煮物用調味液、鍋物用調味液、調味酢、たれ類、ドレッシング類、ふりかけ類などに対して、好適に含有させることができる。
本発明の調味エキスの飲食品への添加量(含有量)は、対象の飲食品の種類、添加の目的によって異なるため、一概に決定はできないが、所望の風味適性が奏される量を適宜調節して決定すればよい。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
〔実施例1〕『エタノール存在下における亜臨界水処理の影響』
極めて硬い魚加工品であるカツオ節に対して、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行った場合の影響を調べた。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
原料と溶媒の固液比(原料重量と溶媒容量の比)が1:5となるように、カツオ節の粗砕品(12g:図1A 参照)及び表1に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクター(オーエムラボテック(株)-MMJを外部から加圧できるように改造したもの)の反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表1に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表1に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、加圧は耐圧ステンレスチューブをリアクターと窒素ガスボンベに接続し、充填圧14.7Mpaの窒素ガスで行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。
「処理物の性状」については、‘処理物の状態’および‘残渣の程度’を目視にて観察した。
なお、未分解の原料残渣の程度の評価は、「◎」:沈殿が全く生じない、「○」:僅かな粒子が存在するが沈殿は生じない、「△」:僅かに沈殿が生じる、「×」:固液分離が必要な程度に沈殿が生じる、の4段階で評価した。
「処理物の風味適性」については、処理物が有する‘旨味の強さ’および‘その他の風味の特徴’を官能評価にて調べた。
なお、旨味の強さの評価は、「◎」:極めて強い旨味を感じる、「○」:強い旨味を感じる、「△」:僅かな旨味を感じる、「×」:旨味をほとんど感じない、の4段階で評価した。これらの評価結果を、表1に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表1B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるカツオ節の全量が完全なペースト状になることが示された(試料1-1:図1C 参照)。
なお、当該ペーストを構成する粒子径の粒度分布を測定したところ、粒子の体積頻度の分布は、正規分布を示した。当該粒子の平均径は、10.7±8.334μmで、中位径(メディアン径)は、8.56μmであった。なお、平均径/中位径の値は、1.25であった。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)、亜臨界水処理を行った場合では、処理液と残渣が分離し、処理物がペースト化しなかった(試料1-2〜1-3:分離した濾液は図1B-i, 未分解の残渣を図1B-iiに示した)。
・処理物の風味適性(表1C 参照)
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物は、旨味を極めて好適に有するものであった(試料1-1)。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)、亜臨界水処理を行った処理物では、旨味をほとんど有さなかった(試料1-2〜1-3)。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことにより、極めて硬い魚加工品であるカツオ節を完全にペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
この結果は、エタノールに、亜臨界水処理による原料の加水分解作用を劇的に強める性質があるためと推測された。
〔実施例2〕『溶媒の検討』
カツオ節をペースト化するための亜臨界水処理を行うにあたり、エタノール以外のアルコールを含む水が使用可能かを検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及び表2に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表2に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表2に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び香りに関する各種評価を行った。
ここで、性状の評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。また、香りの評価は、カツオ節に由来する香りに関して、「◎」:カツオ節の香りを極めて強く感じる、「○」:カツオ節の香りを好適に感じる、「△」:僅かなカツオ節の香りを感じる、「×」:カツオ節の香りをほとんど感じない、の4段階で評価した。得られた結果を表2に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表2B 参照)
その結果、溶媒としてメタノール, エタノール, 1-ブタノール, 2-ブタノール, 2-プロパノール, プロピレングリコール, グリセリン, を含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物では、原料であるカツオ節の全量が、ペースト状になることが示された(試料2-1〜2-5, 2-8〜2-9)。
特に、メタノール, エタノール, 2-プロパノールでの処理物では、沈殿が全く生じないものとなった(試料2-1, 2-2, 2-5)。
一方、リナロール, テルピネン-4-オール, を含む水を用いた処理物では、処理液と残渣が分離し、処理物がペースト化しなかった(試料2-7〜2-8)。
・処理物の風味適性(表2C 参照)
溶媒としてエタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物では、カツオ節本来の香りを極めて好適に有するものであった(試料2-2)。
一方、それ以外のアルコールを用いた処理物では、カツオ節の香りを全く呈さないものであった。逆に、各溶媒に由来する異臭が付与されたものとなった(試料2-1, 2-3〜2-9)。
・総合評価
亜臨界水処理において原料をペースト化させる効果は、1〜3価の低級アルコールを水に添加した場合に発揮される効果であると推測された。特に、1価の低級アルコールの一種である、メタノール, エタノール, 2-プロパノールでは、その効果が大きいものと認められた。
しかし、エタノール以外の溶媒を用いた場合、処理物の香りは調味素材として採用できるものでなかった。
以上により、多くのアルコールのうちエタノールを水に添加して亜臨界水処理を行った場合でのみ、極めて硬い魚加工品であるカツオ節を完全にペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
〔実施例3〕『エタノール濃度の検討』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、カツオ節全量をペースト化することが可能なエタノール濃度の検討を行った。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及び表3に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表3に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表3に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表3に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表3B 参照)
その結果、エタノール濃度20〜75%の水を用いて亜臨界水処理を行った場合、カツオ節の全量がペースト状になることが示された(試料3-3〜3-10)。
特に、エタノール濃度25〜45%の水を用いた場合の処理物では、沈殿がほとんど生じないものとなった(試料3-4〜3-7)。さらに、エタノール濃度30〜40%の水を用いた場合の処理物では、沈殿自体が全く生じなかった(試料3-5〜3-6)。
一方、エタノール濃度が低すぎる場合(エタノール濃度10%以下の水:試料3-1〜3-2), 又は, 高すぎる場合(エタノール濃度90%の水:試料3-11)では、処理物がペースト化せずに、処理液と未分解の原料残渣が分離した。
・処理物の風味適性(表3C 参照)
エタノール濃度10〜75%の水を用いた場合の処理物では、旨味を好適に有するものであった(試料3-2〜3-10)。
特に、エタノール濃度20〜75%の水を用いた場合の処理物では、極めて好適な旨味を有するものであった(試料3-3〜3-10)。
一方、エタノールを含まない場合(エタノール濃度0%の水:試料3-1), 又は, 高過ぎる場合(エタノール濃度90%の水:試料3-11)の処理物では、旨味をほとんど呈さなかった。
・総合評価
以上により、エタノール濃度20〜75%の水を用いて亜臨界水処理を行うことで、原料であるカツオ節を完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
なお、原料をペースト化させる効果を鑑みると、エタノール濃度25〜45%(特には30〜40%)の水を用いることが、特に好適であることが示された。
〔実施例4〕『温度条件の影響』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、温度条件が処理物に与える影響を検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及び表4に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表4に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表4に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表4に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表4B 参照)
その結果、亜臨界水処理の温度を140℃以上で行った処理物では、原料であるカツオ節の全量が、ペースト状になることが示された(試料4-2〜4-10)。特に、150℃以上での処理物では、沈殿が全く生じないものとなった(試料4-4〜4-10)。
一方、温度が低すぎる場合(130℃:試料4-1)では、処理液と残渣が分離し、処理物がペースト化しなかった。
この結果から、原料をペースト化するためには、亜臨界水処理の温度が高い方が好適であることが示された。
・処理物の風味適性(表4C 参照)
亜臨界水処理の温度を205℃以下で行った処理物は、旨味を好適に有するものとなった(試料4-1〜4-9)。特に、200℃以下での処理物では、極めて好適な旨味及び風味を有するものとなった(試料4-1〜4-8)。
一方、温度が高すぎた場合(220℃:試料4-10)では、焦げたような苦味が強く呈されるようになり、風味適性が好適でなかった。
・総合評価
以上により、140〜205℃の温度条件で亜臨界水処理を行うことによって、原料であるカツオ節を完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
ここで、処理物の性状の観点を踏まえると、原料をペースト化するためには、処理温度が高い方が好適である傾向が示された。一方、処理物に好適な旨味を付与するためには、処理温度が低い方が好適となる傾向があった。
これらの観点を鑑みると、特には150〜200℃で処理を行うことが好適であることが示された。
〔実施例5〕『処理時間の影響』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、処理時間が与える影響を検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及び表5に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表5に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表5に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表5に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表5B 参照)
その結果、1分以上の亜臨界水処理を行った処理物では、原料であるカツオ節の全量がペースト状になることが示された(試料5-1〜5-3)。特に、10分以上の処理物では、沈殿が全く生じないものとなった(試料5-2〜5-3)。
・処理物の風味適性(表5C 参照)
1分以上の亜臨界水処理を行った処理物は、旨味を好適に有するものとなった(試料5-1〜5-3)。特に、10分以上の処理物では、極めて好適な旨味を有するものとなった(試料5-2〜5-3)。
・総合評価
以上により、1分以上という極めて短時間の亜臨界水処理により、原料であるカツオ節を完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
また、原料のペースト化の程度, 及び, 処理物の旨味の度合い, を向上させるためには、処理時間が長い方が好適であり、10分以上の処理を行うことが好適であることが示された。
〔実施例6〕『圧力の検討』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、圧力条件が与える影響を検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及び表6に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表6に示す温度及び圧力(試料6-1における圧力は、160℃における飽和水蒸気圧)にて、表6に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表6に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表6B 参照)
その結果、0.6〜12.5Mpaの圧力で亜臨界水処理を行った処理物では、原料であるカツオ節の全量がペースト状になり、沈殿が全く生じないものとなった(試料6-1〜6-5)。
なお、この結果から、飽和水蒸気圧以上の圧力の違いは、処理物の性状に影響を与えないことが示された。
・処理物の風味適性(表6C 参照)
0.6〜12.5Mpaの圧力で亜臨界水処理を行った処理物は、旨味を極めて好適に有するものであった(試料6-1〜6-5)。
なお、この結果から、飽和水蒸気圧以上の圧力の違いは、処理物の風味適性に影響を与えないことが示された。
・総合評価
以上により、0.6〜12.5Mpaの圧力条件で亜臨界水処理を行うことで、カツオ節を完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
なお、亜臨界水処理における圧力の違いは、処理物の性状や風味適性に影響を与えないものと認められた。
〔実施例7〕『固液比の検討』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、原料と溶媒の混合物の固液比の条件が与える影響を検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
原料と溶媒の固液比(原料乾燥重量に対する原料中の水分と溶媒の総液量の比)が表7に示した比となるように、カツオ節の粗砕品及び表7に示す溶媒を混合した。固液比の調整は、溶媒60mLに対する原料の量を変更することにより調製した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表7に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表7に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表7に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表7B 参照)
その結果、固液比を1:2〜1:15の範囲に調整して、亜臨界水処理をした処理物では、原料であるカツオ節の全量がペースト状になることが示された(試料7-1〜7-9)。
特に、固液比1:4より液体比率を多くした場合の処理物では、沈殿がほとんど生じないものとなった(試料7-3〜7-9)。さらに固液比1:4〜1:7の範囲での処理物では、沈殿が全く生じないものとなった(試料7-3〜7-6)。
さらに固液比1:5での処理物で、抜群に取扱い性の良い性状のものとなった(表では単に「◎」と記載)。
・処理物の風味適性(表7C 参照)
固液比を1:2〜1:15の範囲に調製して、亜臨界水処理をした処理物は、旨味を好適に有するものであった(試料7-1〜7-9)。
特に、固液比1:4より液体比率を多くした場合の処理物では、好適な旨味を有するものであった(試料7-3〜7-9)。さらには、固液比1:4〜1:7での処理物では、極めて好適な旨味と性状を有するものであった(試料7-3〜7-6)。
・総合評価
以上より、原料と溶媒の混合物における固液比を1:2〜1:15の範囲に調製して亜臨界水処理を行うことによって、カツオ節原料を完全にペースト化してその全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
なお、処理物の性状と風味適性の両方の観点を鑑みると、固液比1:4〜1:15(特には1:4〜1:7)の範囲に調製して処理を行うことが好適であることが示された。
〔実施例8〕『原料の検討:カツオ節の粉砕度』
エタノールを含む水を用いた亜臨界水処理が、粉砕度の異なる様々な形状のカツオ節に対しても適用可能であるかを検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
表8に示す形状のカツオ節(12g)及び表8に示す溶媒(60mL) を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表8に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表8に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表8に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表8B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、粉末〜未粉砕品のいずれの形状のカツオ節を用いた場合でも、全量が完全にペースト状になった(試料8-1〜8-4)。
特に、カツオ節ほぼ丸ごと(反応容器100mLに入り得るように切断した未粉砕品)を用いた場合であっても、粉砕等の前処理を行うことなく完全にペースト化できることが示された(試料8-4)。
・処理物の風味適性(表8C 参照)
粉砕品〜未粉砕品のいずれの形状のカツオ節を用いた場合であったも、極めて好適な旨味を有することが示された(試料8-1〜8-4)。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、いかなる形状のカツオ節を原料に用いた場合であっても、ペースト化してその全量を調味素材として利用できることが示された。
特に、カツオ節をほぼ丸ごとを用いた場合であっても完全にペースト化できたことから、極めて硬い原料を用いた場合でも、粉砕等の前処理を行うことなく容易にペースト状にし、調味素材を製造できることが示された。
〔実施例9〕『原料の検討:カツオ節製造における副産物』
エタノールを含む水を用いた亜臨界水処理が、カツオ節製造における副産物に対しても適用可能であるかを検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
表9に示すカツオ節製造工程の副産物(乾燥粗砕品12g)及び表9に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表9に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表9に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表9に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表9B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるアタマ節, ノド節, ハラモ節の全量が、完全なペースト状になることが示された(試料9-1〜9-3)。
・処理物の風味適性(表9C 参照)
アタマ節, ノド節, ハラモ節のいずれの原料を用いた場合であっても、旨味を極めて好適に有するものとなることが示された(試料9-1, 9-3)。
なお、ノド節とハラモ節を用いた場合には、さらに甘味が付与されたものとなった。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、カツオ節の製造工程から生じる様々な副産物の乾燥物をペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
また、原料として用いる部分の違いにより、異なる風味が付与されることが示された。
〔実施例10〕『原料の検討:生魚』
エタノールを含む水を用いた亜臨界水処理が、カツオの生肉に対しても適用可能であるかを検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
表10に示すカツオの生肉(40g)及び表10に示す溶媒(32mL)を混合した。なお、これらの生肉の水分含量は約70%であるため、固液比は約1:5となった。また、エタノール濃度は、生肉に含まれる水分と溶媒の総液量に対して35%になるように調整した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表10に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表10に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表10に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表10B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるカツオの生肉の全量が、完全なペースト状になることが示された(試料10-1〜10-5)。
・処理物の風味適性(表10C 参照)
カツオの生肉を用いた場合であっても、極めて好適な旨味を有することが示された(試料10-1〜10-5)。
なお、背肉の切り身の場合、ノド肉の場合、たたき(表面を炙った肉)のいずれを原料に用いた場合でも、旨味の程度に差は見られなかった。
また、生肉を原料とした場合、甘味が付与される傾向があった(試料10-1〜10-3)。
また、温度を200℃(高めの温度)にして行った処理物は、香ばしさが付与される傾向が見られた(試料10-4〜10-5)。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、カツオの生肉をペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
なお、生肉を原料とした場合、甘味が付与された処理物になる傾向があることが示された。
〔実施例11〕『原料の検討:他の魚加工品』
エタノールを含む水を用いた亜臨界水処理が、他の魚加工品に対しても適用可能であるかを検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
表11に示す魚加工品(12g)及び表11に示す溶媒(60mL)を混合した。なお、煮干としては、カタクチイワシの煮干を用いた。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表11に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表11に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表11に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表11B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるマグロ節, 煮干の全量が完全なペースト状になることが示された(試料11-1, 11-3)。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)、亜臨界水処理を行った場合では、処理液と残渣が分離し、処理物がペースト化しなかった(試料11-2, 11-4)。
・処理物の風味適性(表11C 参照)
マグロ節や煮干しを原料とした場合でも、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物は、旨味を極めて好適に有するものであった(試料11-1, 11-3)。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)亜臨界水処理を行った処理物では、旨味をほとんど有さなかった(試料11-2, 11-4)。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことにより、カツオ節以外の様々な魚加工品を完全にペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
〔実施例12〕『原料の検討:だし粕』
エタノールを含む水を用いた亜臨界水処理が、だし粕に対しても適用可能であるかを検討した。
(1)「だし粕の調製」
粗砕したカツオ節に、約98℃の温水を約6倍量加えて、ドリップ方式によって通常のカツオ節だしを抽出した。そして、残渣として残っただし粕を回収した。
(2)「亜臨界水処理物の調製」
上記調製しただし粕(12g)及び表12に示す溶媒(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表12に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表12に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表12に示した。
(3)「結果」
・処理物の性状(表12B 参照)
その結果、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるだし粕の全量が、ペースト状になることが示された(試料12-2〜12-6)。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)、亜臨界水処理を行った場合では、処理液と残渣が分離し、処理物がペースト化しなかった(試料12-1)。
・処理物の風味適性(表12C 参照)
だし粕を原料とした場合でも、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物は、旨味を極めて好適に有するものであった(試料12-2〜12-6)。
一方、通常の条件で(エタノールを含まない水を用いて)、亜臨界水処理を行った処理物では、旨味をほとんど有さなかった(試料12-1)。
・総合評価
以上により、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うことにより、従来は廃棄対象となっていた未利用有価物であるだし粕をペースト化して、その全量を調味素材として利用できることが示された。
〔実施例13〕『有機酸の効果』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、溶媒中の有機酸が処理物に与える影響を検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
上記調製しただし粕(12g)及び表13に示す溶媒(60mL)を混合した。なお、有機酸の含有量は、「%(有機酸重量/全体容量):以下、(w/v)と記載した。」で示した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表13に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表13に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表13に示した。また、各処理物の写真像図を図2に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表13B 参照)
その結果、エタノール及び1%(w/v)の有機酸を含む水を用いて亜臨界水処理を行うことによって、原料であるだし粕の全量が完全にペースト状又は液状になることが示された(試料13-1〜13-6)。
特に、‘クエン酸’を含むようにして得た処理物では、処理物の加水分解がさらに進み、‘液状’の性状を有する処理物となることが示された(試料13-1)。なお、有機酸を添加した場合の溶媒のpHは、いずれもpH4前後であったことから、当該液状化作用は、pHによる作用ではないことが示された。
なお、‘酢酸’を含むようにして得た処理物では、原料であるだし粕の全量が完全にペースト状になるものの、冷却後に若干(流動性が保持されている程度)のゲル状の性質が付与されることが示された(試料13-6)。
一方、有機酸を加えないでエタノールを含む水のみで行った場合では、原料であるだし粕はペースト化するものの、残渣の発生が見られた(試料13-7)。
・処理物の風味適性(表13C 参照)
エタノールと有機酸を含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物は、やや酸味を呈するが、好適な旨味を有することが示された(試料13-1〜13-6)。また、旨味の程度は、有機酸を添加しない場合と同程度であった(試料13-1〜13-7)。
・総合評価
以上により、エタノールに加えて有機酸を含む溶媒を用いて亜臨界水処理を行うことによって、ペースト化が困難である原料についても完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
特に、クエン酸を低濃度で添加することによって、さらに性状の優れた液状処理物を得ることが可能であることが示された。
〔実施例14〕『クエン酸による液状化作用』
エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行うにあたり、溶媒中のクエン酸が処理物に与える影響を詳細に検討した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
上記調製しただし粕(12g)及び表14に示す溶媒(60mL)を混合した。なお、クエン酸の含有量は、「%(クエン酸重量/全体容量):以下、(w/v)と記載した。」で示した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加し封入し、反応容器内の水が亜臨界状態となる表14に示す温度及びその飽和水蒸気圧にて、表14に示す時間の亜臨界水処理を行った。
なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
冷却後、得られた処理物について、性状及び風味適性に関する各種評価を行った。なお、具体的な評価は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。得られた結果を表14に示した。
(2)「結果」
・処理物の性状(表14B 参照)
その結果、エタノールを含む水に1%(w/v)のクエン酸を含むようにして亜臨界水処理を行うことで、処理物の加水分解がさらに進み、‘液状’の性状を有する処理物となることが示された(試料14-3)。
ところが、クエン酸濃度を2.5%(w/v)に高めた場合では、やや液状の性状を有するもののペースト状の処理物となった(試料14-2)。また、クエン酸濃度を5%まで高めた場合では、完全なペースト状の処理物となった(試料14-1)。
一方、クエン酸を加えないでエタノールを含む水のみで行った場合では、原料であるだし粕はペースト化するものの、残渣の発生が見られた(試料14-4)。
・処理物の風味適性(表14C 参照)
エタノールとクエン酸を含む水を用いて亜臨界水処理を行った処理物は、好適な旨味を有することが示された(試料14-1〜14-3)。また、旨味の程度は、酢酸を添加しない場合と同程度であった(試料14-1〜14-4)。
・総合評価
以上により、エタノールに加えてクエン酸を含む溶媒を用いて亜臨界水処理を行うことによって、ペースト化が困難である原料についても完全にペースト化して、その全量を好適な調味素材として利用できることが示された。
さらに、クエン酸濃度を低濃度にすることによって、性状の特に優れた液状処理物を得ることが可能であることが示された。
〔実施例15〕『液体状調味料としての使用:つゆ』
ペースト状の亜臨界水処理物を、つゆに混合して調味料とした場合の効果を検証した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及びエタノール濃度35%の水(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加して封入し、亜臨界水処理(160℃, その飽和水蒸気圧, 20分間)を行い、ペースト状の亜臨界水処理物を得た。なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
(2)「つゆの官能評価」
市販の2倍濃縮つゆを水で2倍希釈し、得られたペースト状処理物を表15に示す所定割合(全量に対する割合)にて添加し、よくかき混ぜて各つゆを調製した(試料15-1〜15-3)。
なお、対照として、ペースト状処理物を添加しない以外は同様にして、通常のつゆを調製した(試料15-4)。
また、比較品として、ペースト状処理物の代わりに全量に対して2%容量のカツオ節だし(実施例12(1)において抽出したカツオ節だし)を添加したこと以外は同様にして、つゆを調製した(試料15-5)。
得られた各つゆについて、つゆの香り, 及び, つゆを用いてそうめんを食した際の総合的な風味, 呈味, 美味しさ, について、4段階(I〜IV)の官能評価を行った。
なお、官能評価は、対照(試料15-4:通常のつゆ)と同等の場合は「I」と評価し、対照に対する好適な印象が強くなる程、大きい数字(最大「IV」)で評価した。結果を表15に示した。
(3)「結果」
その結果、ペースト状の亜臨界水処理物を混合して調製したつゆ(試料15-1〜15-3)は、通常のつゆ(試料15-4:対照)と比べて、その香りが顕著に向上したものとなることが示された。
また、そうめんを食した場合の総合的な風味, 呈味, 美味しさの全ても、顕著に向上したものとなっていた(試料15-1〜15-3)。具体的には、カツオ節のだしの風味が強められたものとなっていた。
これらの効果は、全量に対して0.5〜2.0%という微量を添加した場合でも、極めて高い効果が発揮されていた。
当該効果は、常法で抽出した同体積のカツオ節だしを添加した場合(試料15-5:比較)よりも、遥かに大きな力価であると認められた。
この結果から、魚肉加工品(カツオ節)を原料として、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行って得たペースト状の処理物は、調味料として極めて好適に用いることができることが示された。
〔実施例16〕『液体状調味料としての使用:ぽん酢』
ペースト状の亜臨界水処理物を、ぽん酢に混合して調味料とした場合の効果を検証した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオの背肉の切り身(40g)及びエタノール濃度35%の水(32mL)を混合した。なお、これらの生肉の水分含量は約70%であるため、固液比は約1:5となった。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加して封入し、亜臨界水処理(200℃, その飽和水蒸気圧, 1分間)を行い、ペースト状の亜臨界水処理物を得た。なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
(2)「ぽん酢の調製」
市販のぽん酢に、得られたペースト状処理物を表16に示す所定割合(全量に対する割合)にて添加し、よくかき混ぜて各ぽん酢を調製した(試料16-1〜16-3)。
なお、対照として、ペースト状処理物を添加しない以外は同様にして、通常のぽん酢を調製した(試料16-4)。
また、比較品として、ペースト状処理物の代わりに全量に対して2%容量のカツオ節だし(実施例12(1)において抽出したカツオ節だし)を添加したこと以外は同様にして、ぽん酢を調製した(試料16-5)。
得られた各ぽん酢について、ぽん酢の香り, 及び, ぽん酢を用いて冷奴(豆腐)を食した際の総合的な美味しさ等, について、4段階(I〜IV)の官能評価を行った。なお、官能評価は、実施例15と同様にして行った。結果を表16に示した。
(3)「結果」
その結果、カツオの生肉由来のペースト状の亜臨界水処理物を混合して調製したぽん酢(試料16-1〜16-3)は、通常のぽん酢(試料16-4:対照)と比べて、その香りが顕著に向上したものとなることが示された。
また、冷奴を食した場合の総合的な風味, 呈味, 美味しさの全ても、顕著に向上したものとなっていた(試料16-1〜16-3)。具体的には、甘い鰹の風味が付与されたものとなっていた。
これらの効果は、全量に対して0.5〜2.0%という微量を添加した場合でも、極めて高い効果が発揮されていた。
これは、常法で抽出した同体積のカツオ節だしを添加した場合(試料16-5:比較)よりも、遥かに大きな力価であると認められた。
この結果から、生の魚肉(生カツオ)を原料として、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行って得たペースト状の処理物は、調味料として極めて好適に用いることができることが示された。
さらに、通常のだしを加えた場合に対しても、顕著にカツオ節のだしの風味が強いことが示された。
〔実施例17〕『粉末状調味料としての使用:だしの素』
粉末状の亜臨界水処理物を、だしの素に混合して調味料とした場合の効果を検証した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節の粗砕品(12g)及びエタノール濃度35%の水(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加して封入し、亜臨界水処理(180℃, その飽和水蒸気圧, 20分間)を行い、ペースト状の亜臨界水処理物を得た。なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
得られたペースト状処理物を金属製のバットに注ぎ広げ、送風オーブンを用いて60℃にて一晩乾燥させた。そして、得られた乾燥物を粉砕し、粉末状の亜臨界水処理物を得た。
(2)「味噌汁の官能評価」
上記粉末状処理物, 食塩, 砂糖を、重量比で1:2:2の比率で混合し、だしの素を調製した。そして、得られただしの素(1g)を味噌汁(180mL)に添加してよくかき混ぜて味噌汁を調製した(試料17-1)。
なお、対照として、粉末状処理物を添加しない以外は同様にして、通常の味噌汁を調製した(試料17-2)。
また、比較品として、ペースト状処理物の代わりに市販のだしの素(1g)を味噌汁(180mL)に添加したこと以外は同様にして、味噌汁を調製した(試料17-3)。
得られた各味噌汁について、味噌汁の総合的な香り, 風味, 呈味, 美味しさ, について、4段階(I〜IV)の官能評価により行った。なお、官能評価は、実施例15と同様にして行った。結果を表17に示した。
(3)「結果」
その結果、カツオ節由来の粉末状の亜臨界水処理物を混合して調製しただしの素を、味噌汁に添加した場合、その香り, 風味, 呈味, 美味しさの全てが、顕著に向上したものとなることが示された(試料17-1)。具体的には、カツオ節のだしの風味が強められたものとなっていた。
当該効果は、市販のだしの素を添加した場合(試料17-3:比較)よりも、遥かに大きな力価であると認められた。
この結果から、魚肉加工品(カツオ節)を原料として、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行って得た処理物は、粉末状に加工した場合でも、調味料として極めて好適に用いることができることが示された。
〔実施例18〕『粉末状調味料としての使用:だしの素(だし粕の利用)』
だし粕を原料として調製した亜臨界水処理物について、調味料として使用した場合の効果を検証した。
(1)「亜臨界水処理物の調製」
カツオ節のだし粕(12g)、及び、エタノール濃度35%, 酢酸濃度1%の水(60mL)を混合した。
これを、高圧マイクロリアクターの反応容器内に添加して封入し、亜臨界水処理(160℃, その飽和水蒸気圧, 20分間)を行い、ペースト状の亜臨界水処理物を得た。なお、当該処理の具体的な操作は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。
得られたペースト状処理物を金属製のバットに注ぎ広げ、送風オーブンを用いて60℃にて一晩乾燥させた。そして、得られた乾燥物を粉砕し、粉末状の亜臨界水処理物を得た。
(2)「だしの素の調製」
上記粉末状処理物, 食塩, 砂糖を、重量比で7:2:1の比率で混合し、だしの素を調製した。得られただしの素(1g)を味噌汁(180mL)に添加してよくかき混ぜて味噌汁を調製した(試料18-1)。
なお、対照として、粉末状処理物を添加しない以外は同様にして、通常の味噌汁を調製した(試料18-2)。
また、比較品として、ペースト状処理物の代わりに市販のだしの素(1g)を味噌汁(180mL)に添加したこと以外は同様にして、味噌汁を調製した(試料18-3)。
得られた各味噌汁について、味噌汁の総合的な香り, 風味, 呈味, 美味しさ, について、4段階(I〜IV)の官能評価により行った。なお、官能評価は、実施例15と同様にして行った。結果を表18に示した。
(3)「結果」
その結果、だし粕由来の粉末状の亜臨界水処理物を混合して調製しただしの素を、味噌汁に添加した場合、その香り, 風味, 呈味, 美味しさの全てが、顕著に向上したものとなることが示された(試料18-1)。具体的には、カツオ節のだしの風味が強められたものとなっていた。
当該効果は、市販のだしの素を添加した場合(試料18-3:比較)よりも、遥かに大きな力価であると認められた。
この結果から、通常は廃棄対象となる未利用有価物のだし粕を原料とした場合でも、エタノールを含む水を用いて亜臨界水処理を行って得た処理物は、調味料として極めて好適に用いることができることが示された。

本発明は、魚節類だしを含有する飲食品(つゆ、ぽん酢等)を扱う食品業界において、従来品より嗜好性が高められた製品の提供や、製造コストを大幅に削減できる技術となることが期待される。
また、本発明は、従来は廃棄対象であった未利用有価物であるだし粕を有効利用する技術となることが期待される。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
・即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、以下(A)に記載の原料に対して、以下(B1)〜(B3)に記載の全てを満たす条件にて亜臨界水処理を行うことを特徴とする、調味エキスの製造方法に関する。
(A): 生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, のいずれか1以上のもの。
(B1): 前記原料と、;前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを20〜75%(容量/容量)で含むように調整した溶媒、;とが接触する条件。
(B2): 温度140〜205℃及び圧力0.36〜12.5MPaの高温高圧条件。
(B3): 前記原料と亜臨界状態になった水を1分間以上接触させる条件。
・また、〔請求項2〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを25〜60%(容量/容量)で含むように調整した溶媒である、請求項1に記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項3〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の原料と溶媒の接触を、前記原料の乾燥重量1に対して前記原料中の水分及び溶媒の総液量の比を3以上に調整して行うものである、請求項1又は2に記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項4〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対して有機酸を0.2〜10%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項5〕に係る本発明は、前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対しクエン酸を0.2〜3%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜4のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項6〕に係る本発明は、前記生魚が、サバ科, アジ科, サンマ科, サケ科, ニシン科, トビウオ科, 若しくは, カタクチイワシ科, に属する1以上の魚の魚体、;前記魚体における魚肉、;又は、前記魚体における魚肉を含む部分、;であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項7〕に係る本発明は、前記魚加工品が、魚節類であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の調味エキスの製造方法に関する。
・また、〔請求項8〕に係る本発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造された調味エキスに関する。
・また、〔請求項9〕に係る本発明は、前記調味エキスが、前記亜臨界水処理により前記原料の全量が、ペースト状, 又は, 液状, になったものであり、且つ、だしとしての旨味及び風味が付与されたものである、請求項8に記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項10〕に係る本発明は、前記調味エキスが、溶媒中に平均粒子径1〜100μmの粒子が分散した状態のものである、請求項8又は9に記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項11〕に係る本発明は、前記調味エキスが、必要に応じて乾燥処理を行って固形状, 又は, 粉末状, に加工したものである、請求項8〜10のいずれかに記載の調味エキスに関する。
・また、〔請求項12〕に係る本発明は、請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる飲食品に関する。
・また、〔請求項13〕に係る本発明は、請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる調味料に関する。

Claims (13)

  1. 以下(A)に記載の原料に対して、以下(B1)〜(B3)に記載の全てを満たす条件にて亜臨界水処理を行うを特徴とする、調味エキスの製造方法。
    (A): 生魚, 魚加工品, 又は, 魚加工品からの水溶性成分抽出残渣, のいずれか1以上のもの。
    (B1): 前記原料と、;前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを20〜75%(容量/容量)で含むように調整した溶媒、;とが接触する条件。
    (B2): 温度140〜205℃及び圧力0.36〜12.5MPaの高温高圧条件。
    (B3): 前記原料と亜臨界状態になった水を1分間以上接触させる条件。
  2. 前記(B1)に記載の溶媒が、前記原料中の水分と溶媒の総液量に対してエタノールを25〜60%(容量/容量)で含むように調整した溶媒である、請求項1に記載の調味エキスの製造方法。
  3. 前記(B1)に記載の原料と溶媒の接触を、前記原料の乾燥重量1に対して前記原料中の水分及び溶媒の総液量の比を3以上に調整して行うものである、請求項1又は2に記載の調味エキスの製造方法。
  4. 前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対して有機酸を0.2〜10%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の調味エキスの製造方法。
  5. 前記(B1)に記載の溶媒が、原料中の水分と溶媒の総液量に対しクエン酸を0.2〜3%(質量/容量)以下で含むように調整した溶媒である、請求項1〜4のいずれかに記載の調味エキスの製造方法。
  6. 前記生魚が、サバ科, アジ科, サンマ科, サケ科, ニシン科, トビウオ科, 若しくは, カタクチイワシ科, に属する1以上の魚の魚体、;前記魚体における魚肉、;又は、前記魚体における魚肉を含む部分、;であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の調味エキスの製造方法。
  7. 前記魚加工品が、魚節類であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の調味エキスの製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造された調味エキス。
  9. 前記調味エキスが、前記亜臨界水処理により前記原料の全量が、ペースト状, 又は, 液状, になったものであり、且つ、だしとしての旨味及び風味が付与されたものである、請求項8に記載の調味エキス。
  10. 前記調味エキスが、溶媒中に平均粒子径1〜100μmの粒子が分散した状態のものである、請求項8又は9に記載の調味エキス。
  11. 前記調味エキスが、必要に応じて乾燥処理を行って固形状, 又は, 粉末状, に加工したものである、請求項8〜10のいずれかに記載の調味エキス。
  12. 請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる飲食品。
  13. 請求項8〜11のいずれかに記載の調味エキスを含有してなる調味料。
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JP2014217310A (ja) * 2013-05-08 2014-11-20 静岡県 魚介類からの有用物の抽出分離方法
CN112956671A (zh) * 2021-03-22 2021-06-15 正大食品(襄阳)有限公司 一种浓缩猪骨素的制备方法及其应用

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