JP2014011000A - イオン伝導体およびこれを用いた電気化学デバイス - Google Patents

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Abstract

【課題】
本発明は、アニオン伝導電解質を用いた電気化学デバイスにおいて、イオン伝導体として、層状覆水酸化物を形成するカチオン種とカチオン交換基を有する高分子樹脂を複合化させ、二酸化炭素や炭酸イオンが混入しても高いOH-伝導性を示す電解質をえるためのイオン伝導体の構造、その構成材料、その製造方法、およびこれを用いた燃料電池を提供するものである。
【解決手段】
金属水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体において、前記金属酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、前記高分子樹脂がカチオン交換基を含むことを特徴とするものである。
【選択図】 図1

Description

本発明は、イオン伝導体およびこれを用いた電気化学デバイスに関するものである。
イオン伝導体は、イオン吸着物としてだけではなく、電気化学デバイス、特に燃料電池や二次電池の電解質材料として用いられる。
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。
燃料としての水素,メタノール、エタノール、ヒドラジンなどの還元性物質と、酸化剤としての空気,酸素などの酸化性ガスとを、それぞれ燃料極(アノード),空気極(カソード)に供給する。そして、電極層に含まれる触媒上で進行する酸化還元反応によって生じる電子を取り出し、電気エネルギーとするものである。
燃料電池は、電解質膜の材料や作動温度などによって、固体高分子型,リン酸型,溶融炭酸塩型,固体酸化物型などにわけることができる。
この中で、パーフルオロスルホン酸系樹脂,スルホン化芳香族炭化水素系樹脂などに代表されるプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜を用い、アノード側で水素を酸化し、カソード側で酸素を還元することで発電を行う固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell;PEFC)は、比較的低温で発電でき、出力密度の高い電池として知られている。
また、燃料として水素の代わりに液体であるメタノール,メタノール水溶液を用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell;DMFC)も、近年になって脚光を浴びている。DMFCは、燃料,空気の供給方法によって、アクティブタイプ(燃料,空気を強制的に供給),セミアクティブタイプ(燃料,空気の一方を強制的に供給),パッシブタイプ(燃料,空気を自然供給)などに分類される。
PEFC,DMFCの発電は、アノードとカソードで固体高分子電解質膜をはさんだ構成の膜電極接合体(Membrane-Electrode Assembly;MEA)で行われる。アノードおよびカソードの触媒電極層は、触媒金属,触媒金属が担持された電子伝導体,プロトン伝導性を有する高分子樹脂(プロトン導電性樹脂)が混在している。
プロトン伝導性樹脂は、アイオノマー,バインダとも呼ばれ、その役割としては、電子伝導体間を結着させることや、触媒金属上で反応したプロトンを効率よく電解質膜へと移動させることなどが挙げられる。
PEFCやDMFCに使用されるプロトン伝導性を有する電解質膜としては、前記のスルホン酸基を有するポリマーが用いられているため、触媒電極層中のプロトン伝導性樹脂にも、同様にパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマーが用いられている。
前述の膜電極接合体に用いられる触媒金属としては広くPt合金微粒子が用いられる。これは酸解離係数(pKa)が1以下のスルホン酸を含んだバインダに被覆された、いわゆる強酸性条件下で、高い触媒活性を示し、かつ、酸性条件下でも耐溶解性に優れる、ことが理由としてあげられる。
近年、Ptよりも安価な金属材料を用いた触媒研究が進められているが、強酸性条件下での耐溶解性が高いという観点で、その材料は貴金属に限定される。Ptをはじめとする貴金属は資源量に限りがあり、大量普及に向けた課題となっている。
これに対して、近年、非貴金属触媒の開発が進められ、さらに、非貴金属触媒でも十分な溶解性、触媒活性が確保できる燃料電池が検討されている。
このような燃料電池としては、トリメチルアミン基を一例とする4級アミン基を有する電解質などを用いて、燃料電池内をアルカリ雰囲気とし、水酸化物イオン(OH-)をキャリアとして利用するアニオン交換膜形燃料電池(Anion-exchange Membrane Fuel Cell;AMFC)が注目を集めている。
AMFCでは、電極内が塩基性雰囲気であるために、ニッケルや鉄、コバルトなどの遷移金属においても十分な溶解性が保持されることが期待できる。また、酸性雰囲気に比べて塩基性雰囲気の方が高い活性を示す触媒材料も多いことから、低コスト、高効率の燃料電池として期待されている。
ただし、アニオン交換樹脂は、空気中に存在する二酸化炭素を吸収しやすく、結果として、アニオン交換樹脂内に炭酸イオンが存在し、イオン伝導度を低下させる主因となる。また、電極内の電解質樹脂に炭酸イオンが混入すると、電極内のイオンパスが少なくなり、触媒の有効活用が困難となる。
さらに、燃料にメタノール水溶液やエタノール水溶液を用いた場合、アノード反応でギ酸イオンや炭酸イオンが生成し、電極内の電解質樹脂の水酸化物イオン伝導性を大きく損なう原因となる。
特許文献1では、AMFCにおける電解膜中の炭酸イオンを定期的に除去するために、外部電源を用いて水を電気分解し、発生したOH-イオンを膜内に導入する構成の燃料電池システムを提案している。しかし、OH-発生装置の分だけ、燃料電池の効率を低下させることとなるため、このような補機は極力ないことが望ましい。
一方、アニオン伝導性電解質材料についても検討がなされている。
特許文献2では、スルホン酸基(スルホナト基)を有するパーフルオロアルキルポリマーにエチレンジアミンなどの複数のアミン基を含んだ分子を修飾し、スルホン酸基とアミン基のイオン結合を利用して両者を固定し、その他のアミン基を用いてOH-伝導経路を形成できることを報告している。ただし、この発明においても、前述の炭酸イオンによるアミン基の中和に対する明確な対策は打ち出されてない。また、使用中に修飾分子が水中に溶出することも懸念される。
また、特許文献3および非特許文献1では、アニオン伝導性電解質材料として、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide;LDH)を用いた燃料電池について報告されている。特許文献5ではマグネシウムやニッケルなどの二価の金属イオンとアルミニウムなどの三価の金属イオンを含んだ複水酸化物を含んだ燃料電池電極について開示されている。同様に、非特許文献1では、層状の複水酸化物の層間に挿入される無機アニオン種の種類とOH-伝導性の関連性について開示しており、この中でアニオン種に炭酸イオンを含んだ場合においても比較的高いアニオン伝導性を示すことが確認されており、二酸化炭素が存在する環境でもOH-イオンを伝導することが報告されている。また、このLDHを用いた電解質膜や電極触媒層についても開示されている。
特開2010−182589号公報 特開2010−045024号公報 特開2010−113889号公報
Solid State Ionics 192 (2011) 185、Advanced Materials 22, 4401 (2010)
しかし、特許文献3および非特許文献1で用いるLDHは、粉末状であり、それ自身の結着性が乏しい。これを解決するために、特許文献3では、特別な結着剤を添加せず電極を作成しており、この構成では長期発電中にLDHが欠落する可能性がある。また、LDHと触媒粒子が点で結着しているため、連続したイオン伝導経路を確保することは難しい。また、非特許文献1では、LDHを用いた電解質膜の作成にあたり、フッ素系の結着剤を用いているが、この構成では粒子間のイオン伝導性確保が難しい。また、LDHは層間に水を含むような条件で高いイオン伝導性を示し、低加湿雰囲気では水が消失するためイオン伝導度が下がる。疎水性の高いフッ素系の結着剤を用いることで水が抜けやすくなり、イオン伝導度を下げる一因となる。さらに非特許文献1では、電極触媒層にLDHと結着剤としての4級アミンポリマーを用いているが、前述のとおり、このポリマーはCO2存在下でのイオン伝導度が下がるため、連続的なイオン導電経路は確保しにくい。
以上のように、これまでのアニオン伝導体を用いた膜電極接合体に関する公知技術においては、耐CO2性が高く、かつ、アニオン伝導の連続性や電極結着性も実用レベルに向上させることが困難であった。
以上では、燃料電池に着目して課題を述べたが、リチウムをはじめとする金属およびそのイオンを負極に、空気極を正極に用いた金属-空気電池や、微生物の代謝反応をアノードで進行させ、空気極をカソードとした微生物電池において、アニオン伝導性電解質を用いる場合にも、同様の課題が存在する。
本発明では、CO2あるいは炭酸イオンが存在する環境においても高いアニオン伝導性を示し、かつ、結着性や保水性に優れたイオン伝導体を実現できるイオン伝導体、およびこれを用いた電気化学デバイスを提供することを目的とする。
本発明者等は、炭酸イオン共存化においても高いアニオン伝導性を示す材料として層状複水酸化物に着目し、その結着性、保水性を高めるために、その周囲に高分子樹脂を配置したイオン伝導体について鋭意検討し、高分子樹脂の種類や樹脂と複水酸化物を複合化させる工程を制御することで、以上に述べた課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
本発明に係る実施態様の1つであるイオン伝導体は、金属複水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体であり、前記金属複水酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、前記高分子樹脂がカチオン交換基を含むことを特徴とする。
本発明によって、二酸化炭素や炭酸イオン共存化でも高いOH-伝導性を示し、かつ、結着性に優れたイオン伝導体を与えることができ、これを用いた電気化学デバイスの性能を向上させるものである。
また、電極内のアルカリ雰囲気を高く保つことで、非貴金属触媒を用いることが可能となり、電気化学デバイスの低コスト化にも貢献できるものである。
本実施例で説明した燃料電池の概略断面図である。 電極触媒層内の模式図である。 本実施例に係るイオン伝導体の模式図である。 本実施例に係るイオン伝導体の模式図である。 本実施例に係る携帯情報端末の模式図である。 本実施例に係る金属―空気二次電池の断面模式図である。 本実施例に係る微生物電池の断面模式図である。
本発明に係る実施態様の1つであるイオン伝導体は、金属複水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体であり、前記金属複水酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、前記高分子樹脂がカチオン交換基を含むことを特徴とするイオン伝導体である。
ここで、カチオンの組成 [M2+ 1-x3+ x(OH)2x+について説明する。二価の金属イオン種(M2+)と三価の金属イオン(M3+)との混合物であり、全体の金属イオンに対する三価の金属イオンの物質量分率をx(0≦x≦1)とする。この金属イオン種1モルに対し、水酸化物イオンが2モル配位された構成である。xが0、すなわち全てが二価の金属イオンである場合、金属複水酸化物の電荷はゼロとなるが、xが0よりも大きい場合、三価のイオンの存在により金属複水酸化物の電荷は正となる。そのため、金属組成と結晶構造により上記組成であることを確認することができる。
また、高分子樹脂がカチオン交換基を含むということは、高分子内の主鎖あるいは側鎖にカチオン交換基を含むということである。カチオン交換基としては、スルホン酸基やリン酸基、カルボキシル基などを挙げることができるが、本発明にかかる実施態様の一つであるイオン伝導体において、特にカチオン交換基の酸解離定数(pKa)が2<pKa<7の範囲にあるような場合、優れたアニオン導電性を示す。
この構成では、上記金属複水酸化物からなるカチオンとカチオン交換基を有する高分子樹脂の界面にはイオン結合が生じる。筆者らは、この界面が存在するとOH-伝導性が発現することを確認した。この詳細なメカニズムについては定かではないが以下のように考えることができる。界面に水が存在する際、水がプロトンと水酸化物イオンに解離するが、ここで、プロトンはいわゆる弱酸性であるカチオン交換基に補足されやすく、一方、水酸化物イオンはアルカリ性の強い金属カチオン近傍にいるため移動度が増し、結果としてOH-が伝導する。本発明のイオン伝導体では、連続したカチオン交換基近傍にこのような界面が多く形成されることによって、樹脂内にOH-伝導性を付与することができる。
また、この構成では、カチオン交換基を有する高分子樹脂には保水性があるため、OH-伝導に必要な水分子を多く樹脂内に取り持つことができ、比較的広い湿度範囲内でもOH-伝導体として動作することができる。
また、本発明に係る実施態様の1つであるイオン伝導体は、金属水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体であり、前記金属酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、さらに前記高分子樹脂と前記金属酸化物との間に共有結合が形成されていることを特徴とするものである。このような構成では金属複水酸化物が層状となって形成されるLDH周囲に高分子樹脂が強固に結合しているため、粒子間の結着性に優れた構成となる。
さらに、前記高分子樹脂と前記金属酸化物の間にシラン結合が存在する場合、両者の結合がより強固となり望ましい。ここでシラン結合とは、有機高分子内に含まれるシラノール基と金属酸化物表面に形成される結合であり、シリコン原子と酸素原子、金属原子が供給結合する(Si−O−M;Mは金属原子)ものである。
本発明に係る実施態様である前述のイオン伝導体において、高分子樹脂内に分散している金属複水酸化物の結晶子径が10nm以下である場合、高分子との間の界面量が増えるため望ましい。また、このイオン伝導体を電極触媒層に用いた場合、数十nmの大きさの空孔を持つ触媒凝集体内部にも金属複水酸化物が侵入することができるようになり、触媒表面までのOH-伝導経路が確保されるため望ましい。
本発明に係る実施態様の一つであるイオン伝導体は、金属カチオンとカチオン交換基を含む高分子樹脂の複合物であり、金属カチオンの価数が2以上であり、イオン伝導体がカチオン交換基を含み、水酸化物を伝導することを特徴とするものである。ここでは、カチオン交換基にイオン結合した多価カチオンがOH-伝導部位となる。この構成では、OH-伝導部位の密度が増加するため望ましい。
さらに、高分子樹脂がカチオン交換基としてリン酸基、カルボキシル基のうち一つを含む場合、多価金属カチオンとの結合部位のアルカリ性が高まるため望ましい。
本発明に係る実施態様である前述のイオン伝導体において、前記金属酸化物を構成する二価のカチオンがMg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Ra2+の少なくともひとつを含み、三価のカチオンが、Al3+、La3+の少なくともひとつを含む場合、OH-が伝導しやすくなるため望ましい。
本発明に係る実施態様の1つであるイオン伝導体は、以下の(1)、(2)の工程を経ることで作製できる。
(1)カチオン交換基を有する高分子樹脂に対し二価および三価の金属カチオンを配位させる工程。
(2)アルカリ処理によってカチオン交換基の周囲に複水酸化物カチオンを形成させる工程。
本発明に係る実施態様の一つであるイオン伝導体を用いて電気化学反応の触媒を結着させた電極触媒層は、炭酸イオンの影響を受けないため、安定かつ高効率な電極となる。
本発明に係る実施態様の一つである電解質膜は、前述のイオン伝導体を含むことを特徴とするものである。この構成では、炭酸イオンの影響を受けない、OH-伝導電解質膜として利用できる。
本発明に係る実施態様の一つである膜電極接合体は、固体高分子電解質膜を挟んで形成される燃料電池用の膜電極接合体であり、アノード、カソード、固体高分子電解質膜の少なくともひとつが本発明のイオン伝導体を含むことを特徴とするものである。
本発明の実施態様の1つである膜電極接合体を発電部に用い、ガス拡散層,空気(酸素)を供給する部材と、集電用部材とを用いて構成される燃料電池は、キャリアとしてOH-を使用したものとなり、その伝導度は炭酸イオンの影響を受けにくく、さらに、電解質であるイオン伝導体の結着性も高いため、長期にわたり安定な発電が可能な燃料電池とすることが出来る。ここで、燃料を供給する部材としては、ポンプ等により導入された燃料を、セパレータを介してガス拡散層に供給する一連の部材を、また、空気(酸素)を供給する部材としては、ブロア等により導入された空気(酸素)を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材を示すものである。なお、燃料は水素ガス、メタノール、エタノールなどのアルコールを用いることができる。さらに、燃料として、ヒドラジンやアンモニアなどの含窒素化合物を用いることができる。
燃料はアノードで電気化学的に酸化され、カソードでは酸素が還元され、両電極間には電気的なポテンシャルの差が生じる。このときに外部回路として負荷が両電極間にかけられると、電解質中にイオンの移動が生起し、外部負荷には電気エネルギーが取り出される。このために各種の燃料電池は、大型発電システム,小型分散型コージェネレーションシステム,電気自動車電源システム等に期待は高く、実用化開発が活発に展開されている。
本発明の実施態様の1つである電極触媒層を空気極に用い、さらに有機物を代謝する際に電子を放出する微生物を含んだ槽をアノードとし、その間をOH-伝導性の液体、あるいは本発明の実施態様の1つである電解質膜を用い、ガス拡散層,空気(酸素)を供給する部材と、集電用部材とを用いて構成される微生物電池は、キャリアとしてOH-を使用したものとなり、その伝導度は炭酸イオンの影響を受けにくく、さらに、電解質であるイオン伝導体の結着性も高いため、長期にわたり安定な発電が可能な燃料電池とすることが出来る。ここで、燃料を供給する部材としては、ポンプ等により導入された燃料を、セパレータを介してガス拡散層に供給する一連の部材を、また、空気(酸素)を供給する部材としては、ブロア等により導入された空気(酸素)を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材を示すものである。なお、燃料はグルコースなど、微生物が代謝可能な有機化合物を用いることができる。
本発明の実施態様の1つである電極触媒層に空気を供給する電極系を正極に用い、リチウムやマグネシウム、アルミニウムなどの金属/金属カチオンの電気化学反応が可逆的に進行する電極系を負極に用い、その間をOH-伝導性の液体、あるいは本発明の実施態様の1つである電解質膜を用い、ガス拡散層,空気(酸素)を供給する部材と、集電用部材とを用いて構成される金属―空気電池は、キャリアとしてOH-を使用したものとなり、その伝導度は炭酸イオンの影響を受けにくく、さらに、電解質であるイオン伝導体の結着性も高いため、長期にわたり安定な充電/放電が可能な二次電池とすることが出来る。ここで、燃料を供給する部材としては、ポンプ等により導入された燃料を、セパレータを介してガス拡散層に供給する一連の部材を、また、空気(酸素)を供給する部材としては、ブロア等により導入された空気(酸素)を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材を示すものである。
このように本発明の実施態様では、[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+で表されるカチオンとカチオン交換基をもつ高分子樹脂の界面を利用してOH-伝導を促進することで、二酸化炭素や炭酸イオン共存化でも高いOH-伝導性を示し、かつ、結着性に優れたイオン伝導体を与えることができ、これを用いた電気化学デバイスの性能を向上させるものである。
以下に本発明による実施例について、図面を用いて記述する。
図1に、膜電極接合体を用いた燃料電池のセル構成の一例を示す。
図1において、101がセパレータ、103がアノード触媒層、102がアノード拡散層、104がプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜、105がカソード触媒層、106がカソード拡散層、107がガスケットである。
セパレータ101は、電子伝導性を有し、その材質としては、緻密黒鉛プレート,黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料を樹脂によって成型したカーボンプレート,ステンレスやチタンなどの金属、あるいはそれを耐食性,耐熱性に優れた導電性塗料や貴金属めっきで被覆したものを用いることが望ましい。
アノード触媒層103とカソード触媒層105および固体高分子電解質膜104を一体化したものを膜電極接合体(Membrane-Electrode-Assembly)と称す。この場合、触媒層と拡散層とが一体化していることもある。
アノードおよびカソードに用いられる触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属粒子が、比表面積の高い電子伝導体の上に担持された構造を有するものが用いられる。電子伝導体としては、カーボンブラックが広く用いられる。
図2には、本実施例にかかる触媒として、カーボンブラックを担体とした触媒の模式図を示す。触媒はカーボンブラックの上に触媒金属粒子202が担持された構造を有する。
カーボンブラックは、20〜40nmのカーボン一次粒子201が数珠状に集まったカーボン構造体203を形成している。その構造体203内に形成される細孔は一次細孔204と呼ばれ、カーボン一次粒子の大きさと同程度となる。具体的には、40nm以下であり、触媒金属粒子の多くは一次細孔内に存在することが知られている。また、カーボン構造体203の間には40nmから1000nmの範囲の大きさの細孔が存在し、これらは二次細孔205と称される。この構造体の周囲には、触媒表面にキャリアイオンを伝導するための電解質(以下、電極電解質)を配置させる。
本実施例は、図1の燃料電池のうち、キャリアイオンをOH-としたアニオン交換形燃料電池の電解質膜、電極電解質に使用することのできるイオン伝導体に関するものである。
図3から図4を用いて、本実施例について説明する。
図3では、耐CO2性に優れたOH-伝導体として、[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+で表される金属複水酸化物カチオン300とカチオン交換基を有する高分子樹脂310の複合体を用いている。このような構成では、金属複水酸化物カチオン300と高分子樹脂310内のカチオン交換基の間にイオン結合が生じる。図3に、その界面の模式図を示す。カチオン交換基を適切に選択することにより、この界面においてプロトン(H+)よりもOH-の伝導性を増すことができ、イオン伝導体全体としてOH-を伝導できるようになる。
[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+で表される金属複水酸化物カチオンを構成する二価の金属としては、アルカリ土類金属であるBe2+,Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Ra2+の他に二価のカチオンとなりうる遷移金属、Fe2+、Zn2+、Ni2+、Co2+などを挙げることができる。また、三価の金属カチオンとしては、Al3+、Fe3+、Co3+、Mn3+を挙げることができる。三価の金属カチオンの存在比xは0から1の範囲を取りうる。xが多いとカチオン全体の価数が増大し、OH-伝導サイトが増大するため望ましい一方で、多すぎると均質な複水酸化物が形成されにくくなる。その範囲としては、0.1から0.5の間が望ましく、さらに望ましくは0.2から0.4の間が望ましい。
図3で用いるカチオン伝導性高分子樹脂としては、リン酸基やカルボキシル基を含む高分子量体であればよい。
リン酸基を有するポリマーの例としては、ホスホン化ポリエーテルエーテルケトン,ホスホン化ポリエーテルスルホン,ホスホン化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン,ホスホン化ポリスルフィッド,ホスホン化ポリフェニレン等のスルホン化エンジニアプラスチック系電解質や、ホスホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン,ホスホアルキル化ポリエーテルスルホン,ホスホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン,ホスホアルキル化ポリスルホン,ホスホアルキル化ポリスルフィッド,ホスホアルキル化ポリフェニレン,ホスホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン等のホスホアルキル化エンジニアプラスチック系電解質を用いることができる。また、脂肪族の炭化水素の側鎖にホスホン酸が配位されたものを用いることができる。
カルボキシル基を有するポリマーの例としては、上記のエンジニアリングプラスティックに対し、カルボキシル基を修飾したものを用いることができる。また、脂肪族の炭化水素の側鎖にカルボン酸が配位されたものやカルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。カルボキシルメチルセルロースは、通常水に対し大きく膨張し、その水溶液は透明となるが、本発明で[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+と複合させたものでは、水に対して不溶となり、電解質膜や電極電解質に用いることができる。
本実施例にかかる電極触媒層に用いられる触媒として、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金,金,銀,パラジウム,イリジウム,ロジウム,ルテニウム,鉄,コバルト,ニッケル,クロム,タングステン,マンガン,バナジウム,チタンあるいはそれらの合金が挙げられる。その他に、上記金属の1つの金属元素を有する、ペロブスカイト構造、スピネル構造、パイロクロア構造などとなる複合酸化物を用いることができる。材料の資源量、価格の観点からは、白金以外の材料であると大量普及に適した電極触媒層を得ることができる。特にパラジウムやニッケル、鉄、コバルト、タングステンなどが望ましい。白金以外の材料を用いる場合には、固体高分子電解質への金属溶解が懸念されるが、本発明のイオン伝導体を電極電解質に用いることで、耐溶解性を向上させることができる。
白金を用いた場合においても、耐溶解性が増すため、望ましい膜電極接合体が得られる。白金系触媒を用いた場合、アノードにはPtRu合金触媒が、カソードにはPt触媒が用いられることが多く、これらがカーボンブラック上に担持された構成となる。触媒となる金属の粒径は、通常は2〜30nmである。
本実施例にかかる触媒金属は、比表面積の大きなカーボン材料に担持されることが望ましい。触媒は微粒子化した方が、比表面積が増えるため、単位重量あたりの活性が高くなる。カーボンブラックに担持することで、触媒を凝集させること無く、微粒子として維持することができる。用いるカーボンブラックの比表面積は、10〜1000m2/gの範囲から選ばれることが望ましい。比表面積が小さすぎると、カーボンブラックを添加する効果があまり得られず、比表面積が大きすぎると、カーボンブラックの表面に形成されている細孔が多く、この細孔に触媒粒子が入り込み、細孔に入り込んだ触媒粒子は、電池作動時、反応に寄与しにくくなるためである。例えば、ケッチェンブラック,ファーネスブラック,チャンネルブラック,アセチレンブラック等のカーボンブラックや、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素、あるいは、活性炭,黒鉛等を用いることができ、これらは単独あるいは混合して使用することができる。
以上の中で大きな比表面積を有するケッチェンブラックを使用することが触媒電極層の活性増大に望ましい。
電極触媒層には、上述の触媒と本発明のイオン導電体の他に、電極構造を適切に制御するため、あるいは、触媒層内のイオン伝導性をさらに向上させるため、本発明のイオン伝導体以外の他にイオン伝導体を加えることができる。このようなイオン伝導体としては、また、4級アミン基などのアニオン交換基を有するポリマーを挙げることができる。
本発明にかかる電解質膜としては、本発明のイオン伝導体のみで形成されるものの他に、その他の電解質ポリマーを加えることができる。電解質ポリマーとしては、4級アミン基などのアニオン交換基を有するポリマーを挙げることができる。
また、電解質膜の強度や耐燃料透過性を向上させるために電解質膜中に多孔質基材を含めた構造にすることもできる。
本実施例にかかる多孔質基材の材料としては、多孔質性の樹脂基材を用いることができる。その材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などを挙げることができる。
また、電解質膜の中には、過酸化水素ラジカルを捕捉、あるいは分解できる材料を含むことが望ましい。このような構成にすることで、電池反応で発生した過酸化水素が電解質膜内に侵入した際に、そのラジカルを捕捉、分解できるため、電解質膜の分解劣化を防ぐことができる。
ラジカル捕捉剤の例としてヒンダートフェノール系のラジカル捕捉剤が挙げられる。ヒンダートフェノール系ラジカル捕捉剤としては、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ‐t−ペンチルフェニル)エチル]‐4,6−ジ‐t−ペンチルフェニルアクリレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピンなどが挙げられ、特に限定はされない。
また、ラジカル分解剤としては、Mn、Cr、Co、Cu、Ce、Rb、Co、Ir、Ag、Rh、Ti、Zr、Al、Sbなどの金属カチオンあるいはこれら金属の酸化物粒子を用いることができる。
本発明におけるラジカル捕捉剤およびラジカル分解剤の添加量については特に限定されるものではないが、ラジカル捕捉剤とラジカル分解剤の総添加量は、高分子電解質材料100重量部に対して1重量部から50重量部が好ましい。総添加量が1重量部未満では過酸化水素ラジカルに対する耐久性が不十分であり、50重量部を越えると外周部の電解質と枠体との電解質膜との接合性が低下するため好ましくない。
図3の構成では、[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+からなる層状複水酸化物が粒子として、高分子樹脂のイオン交換基近傍に存在している。このときの層状複水酸化物の粒子サイズとしては、できる限り小さいことが望ましい。これは、粒子サイズが小さくなることで、粒子と高分子樹脂との接触界面が増大し、その界面を伝導するOH-の伝導度が増すためである。また、電極電解質として用いる場合、粒子サイズが図2に示した触媒担体凝集体内部の細孔よりも小さいと、細孔内部にまで進入でき、触媒近傍までのイオン経路が確保できるため望ましい。望ましい結晶粒子サイズとしては1−100nm、特に望ましくは3−40nm、さらに望ましくは3−10nmが望ましい。
図3の構成のように、高分子樹脂のイオン交換基近傍に[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+からなる層状複水酸化物を形成させる方法としては、カチオン交換基を有する高分子樹脂を、二価および三価の金属カチオンを含んだ水溶液を含浸し、カチオン交換基に金属イオンを配位させた後、アルカリ処理によってカチオン交換基の周囲に水酸化物カチオンを形成する方法を挙げることができる。
図3の構成のイオン伝導体を含んだ電極触媒層を製造する方法としては、作製したイオン伝導体を適切な溶媒に溶解あるいは分散し、これを触媒、必要に応じて添加物質と混合させ、ペースト状にし、これを乾燥させ、任意の形状の薄膜電極とする方法を挙げることができる。あるいは、触媒とカチオン交換基を持つ高分子樹脂をあらかじめ混合させたペーストを準備させた後、金属カチオンを加え、アルカリ処理によりペースト内で本発明のイオン伝導体を形成させることもできる。さらに、触媒とカチオン交換基を持つ高分子樹脂をあらかじめ混合させたペーストを準備、乾燥させ電極を作製した後、金属カチオンを含む水溶液を含浸し、その後アルカリ処理を施すことで形成することもできる。
図3の構成のイオン伝導体を含んだ電解質膜を製造する方法としては、作製したイオン伝導体を適切な溶媒に溶解あるいは分散し、これを平板基板上に塗布、乾燥させることで得る方法を挙げることができる。その他の方法としては、カチオン交換基を持つ高分子樹脂を分散、溶解させたワニスを平板基板上に塗布、乾燥させることでフィルムを得、これを金属カチオンを含んだ水溶液に浸漬させた後、アルカリ処理によりフィルム内部で本発明のイオン伝導体を形成させることもできる。
触媒ペーストや電解質膜用のワニスに用いることのできる溶媒としては、イオン伝導体を溶解、分散でき、洗浄後に触媒を被毒しないものであれば、特に限定されない。例えば、水の他に、エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、n−プロパノール,iso−プロパノール,t−ブチルアルコール等のアルコール類、及び1−メチル−2−ピロリドンなどの高極性溶媒を用いることができる。またはこれらの2つ以上を混合して使用することもできる。
図4の構成は、[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+からなる層状複水酸化物粒子の表面と高分子樹脂が共有結合したものである。このような構成にすることにより、粒子内のイオン伝導を損ねることなく、表面に強固な接着物質を設けることができ、電解質膜や電極電解質に用いることができる。
図4における層状複水酸化物粒子の層間には、先述のアニオンが挿入され、電荷補償が行われている。
図4における層状複水酸化物粒子表面と高分子樹脂の間に形成される共有結合としては、シラン結合(M−O−Si:Mは金属原子)を挙げることができる。これは、層状複水酸化物表面の酸素原子と高分子樹脂に結合しているシリコン原子とが共有結合したものである。
本発明の実施例の一形態である膜電極接合体は図3〜4の構造を有するイオン伝導体を含んだ電極触媒層と固体高分子電解質膜の積層で形成できる。
製造した膜電極接合体内に本発明の実施様態であるイオン伝導体が含まれているかどうかは、得られた膜電極接合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その中に層状複水酸化物からなる粒子が含まれているかどうかを確認すればよい。あるいは、膜電極接合体の薄片を透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて層状複水酸化物からなる粒子が存在するかどうかを確認することができる。観察された粒子の元素をSEMやTEMに付属されているエネルギー分散型X線分光装置(EDX)やSTEMに付属されているエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いてで組成のマッピングを行うことでより明確になる。
イオン伝導体内の無機固体が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+で構成されるかどうかは、X線回折分析(XRD)による結晶構造解析、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)による金属比組成評価、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)を用いた層間アニオンの同定を経て確認することができる。
イオン伝導体内の高分子電解質がカチオン交換基を含むポリマーから構成されるかどうかは、核磁気共鳴法(NMR)やフーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)を用いた、分子構造、官能基同定により確認することができる。
また、イオン伝導体と高分子樹脂の間に前述のシラン結合が含まれているかどうかは、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認することができる。
本実施例では、[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+で構成されるカチオンを含んだ無機固体粒子を高分子樹脂で結着し、さらにカチオン交換基を有する高分子樹脂を導入することでその界面でのOH-伝導性を可能とする。結果として、CO2や炭酸イオンが共存する環境においても良好なOH-伝導性を保ち、これを電解質に用いた電気化学デバイスの性能を向上させることができる。また、燃料電池に応用した場合、触媒金属に安価で電気化学的に卑な金属を用いることができるため、安価な膜電極接合体を提供することができる。
以下、本実施例をさらに詳しく説明するが、ここに開示した実施例のみに限定されるものではない。

[比較例1 4級アミン基を有する電解質薄膜の作成]
(1−1)撹拌機, 温度計, 塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた500mLの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、30gのポリエーテルスルホン(PES),二硫化炭素250mLを入れ、さらに50mLのクロロメチルメチルエーテルを加えた後、無水塩化すず(IV)1mLと二硫化炭素20mLの混合溶液を滴下し、46℃で120時間加熱撹拌した。次いで、該反応溶液をメタノール1リットル中に落とし、ポリマーを析出させた。析出した沈殿をミキサーで粉砕してメタノールで洗浄し、クロロメチル化ポリエーテルスルホンを得た。
(1−2)撹拌機, 温度計, 塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた500mLの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、30gのポリエーテルスルホン(PES),二硫化炭素250mLを入れ、さらに50mLのクロロメチルメチルエーテルを加えた後、無水塩化すず(IV)1mLと二硫化炭素20mLの混合溶液を滴下し、46℃で120時間加熱撹拌した。次いで、該反応溶液をメタノール1リットル中に落とし、ポリマーを析出させた。析出した沈殿をミキサーで粉砕してメタノールで洗浄し、クロロメチル化ポリエーテルスルホンを得た。
(1−3)前記のクロロメチルポリエーテルスルホンをトリメチルアミンに浸漬し、12時間加熱還流した。該反応溶液をエタノール中に入れ、ポリマーを析出させ、析出した沈殿をミキサーで粉砕してエタノールで洗浄した。その後KOH水溶液に浸漬、水洗し、乾燥させることで、トリメチルアミン化ポリエーテルスルホンを得た。トリメチルアミノ基の塩基当量は1.3mmol/gであった。以降ポリマーAと呼ぶ。
(1−4)ポリマーAをNMPを用いて溶解し、これをガラス基板上にキャストし、4級アミン基を有する電解質膜Aを作製した。

[比較例2 4級アミン基を有する電解質を用いた膜電極接合体の作成]
(2−1)プロパノールを主成分とする溶媒に、白金が70重量%担持されたカーボンブラックと、トクヤマ製AS−4(5重量%)を、重量比で1:0.2となるように添加し、マグネッチックスターラーにて12時間、攪拌し、Pt/C触媒スラリーとした。
(2−2)(2−1)で得たPt/Cスラリーをスプレーコーターに注入し、5重量%PTFE処理を施したカーボンペーパー(東レ、TGP−H−060)上にスプレー塗布を行った。塗布量はPt重量で1mg/cm2とした。電極面積は30mm×30mmとした。
(2−3)(2−2)で得た電極触媒層を2枚用意し、(1−4)で得た電解質膜Aの両面から挟み込み、熱圧着を実施した。ホットプレス温度は120℃、プレス圧力は80kg/cm2とした。プレス後の膜電極接合体は0.1Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄後、超純水でリンス処理を施し、乾燥させた。電極サイズは30mm×30mmとした。

[比較例3 Mg−Al系LDHの作成]
(3−1)100mLのコニカルビーカーに硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)26H2O)を5.77g、硝酸アルミニウム(Al(NO3)39H2O)を2.81g入れ、水で溶解、25mLに定容し、マグネシウム0.9M、アルミニウム0.3Mの水溶液Aを得た。
(3−2)100mLのコニカルビーカーに炭酸ナトリウム(Na2CO3)を0.795g入れ、25gに定容し、0.3M炭酸ナトリウム水溶液Bを得た。
(3−3)水溶液B25mLに水溶液A25mLを滴下し、攪拌したものに対し、0.2MNaOHを滴下し、pH=10になるようにした。
(3−4)(3−3)で得たアルカリ性の反応溶液を、ふたつきのフッ素系樹脂容器に入れ、アルミジャケットで密閉し、80℃の恒温槽にて18時間加熱処理を施した。
(3−5)得られた反応物を水で希釈し500mLとしたものを遠心分離処理し、上澄み液を捨て、沈殿物を水で洗浄しさらに500mLの水を加え、再度遠心分離処理を施した。この処理を上澄み液のpHが8以下になるまで繰り返した後、沈殿物を80℃で乾燥し、白色の粉末物質Cを得た。
(3−6)得られた粉末物質CをICPで分析したところ、AlとMgが1:3の割合で含まれていることを確認した。また、XRDの結果より、[Mg2+ 0.67Al3+ 0.33(OH)20.33+(からなる層状複水酸化物が得られることを確認した。(003)の回折ピークから算出される層間距離は(0.784nm)、シェラー式を用いて計算される結晶子サイズは約50nmであることを確認した。SEMで形状を観察したところ、1−10μmサイズの扁平粒子を確認した。FT−IR分析から層間に炭酸イオンが含まれていることを確認した。これをLDH-Cとする。
(3−7)得られたLDH-Cについて、10重量%の割合でポリフッ化ビニリデン(PVdF)粒子を添加し、成形機にて500μm厚の電解質膜Cを作製した。

[比較例4 Mg−Al系LDHを含んだ電解質を用いた膜電極接合体の作成]
(4−1)プロパノールを主成分とする溶媒に、白金が70重量%担持されたカーボンブラックと、(3−6)で得たLDH-Cを結着させるためのPVdFをそれぞれ1:0.2:0.05の重量比で添加、マグネッチックスターラーにて12時間、攪拌後、分散機処理を施し、LDH入りPt/C触媒スラリーDを作製した。
(4−2)(4−1)で得たPt/CスラリーDをスプレーコーターに注入し、5重量%PTFE処理を施したカーボンペーパー(東レ、TGP−H−060)上にスプレー塗布を行った。塗布量はPt重量で1mg/cm2とした。電極面積は30mm×30mmとした。
(4−3)(1−4)で得た電解質膜Aに対し、(2−2)で得た電極触媒層をアノード側に、(4−2)で得た電極触媒層をカソード側に配置し、熱圧着を実施した。ホットプレス温度は120℃、プレス圧力は80kg/cm2とした。プレス後の膜電極接合体は0.1Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄後、超純水でリンス処理を施し、乾燥させた。電極サイズは30mm×30mmとした。

[実施例1 カルボキシル基ポリマーと複合化したLDH]
(5−1)カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下CMC)3.63gを水に分散、25mLに定容した。
(5−2)(5−1)に対し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、(3−1)で得たマグネシウムおよびアルミニウム入り水溶液Aを25mL添加した。この際、液中に樹脂が析出する様子が確認された。
(5−3)攪拌を継続した状態で、0.2MNaOHを滴下し、pHを10に調整した。
(5−4)(5−3)で得たアルカリ性の反応溶液を、ふたつきのフッ素系樹脂容器に入れ、アルミジャケットで密閉し、80℃の恒温槽にて18時間加熱処理を施した。
(5−5)得られた反応物を水で希釈し500mLとしたものを遠心分離処理し、上澄み液を捨て、沈殿物を水で洗浄しさらに500mLの水を加え、再度遠心分離処理を施した。この処理を上澄み液のpHが8以下になるまで繰り返した後、沈殿物を80℃で乾燥し、白色の粉末物質Eを得た。
(5−6)得られた粉末物質EをICPで分析したところ、AlとMgが1:3の割合で含まれていることを確認した。また、XRDの結果より、[Mg2+ 0.67Al3+ 0.33(OH)20.33+からなる層状複水酸化物が得られることを確認した。(003)の回折ピークから算出される層間距離は(0.808nm)、シェラー式を用いて計算される結晶子サイズは約5nmであることを確認した。SEMで形状を観察したところ、10−100nmサイズの扁平粒子を確認した。FT−IR分析から層間に炭酸イオンが含まれていることを確認した。また、NMR分析から粉末物質E内にCMC骨格が存在することを確認した。これをLDH-Eとする。
(5−7)(5−6)で得たLDH-Eは水、N−メチル-2ピロリドン(NMP)、ジメチルスホキシド(DMSO)などには不溶であったが、水とNMPの混合中には分散した。この分散液をガラス基板上にキャストし、乾燥させることで電解質膜Eを得た。

[実施例2 カルボキシル基ポリマーと炭酸ナトリウムと複合化したLDH]
(6−1)カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下CMC)3.63gと炭酸ナトリウム0.795gを水に分散、25mLに定容した。
(6−2)(6−1)に対し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、(3−1)で得たマグネシウムおよびアルミニウム入り水溶液Aを25mL添加した。この際、液中に樹脂が析出する様子が確認された。
(6−3)攪拌を継続した状態で、0.2MNaOHを滴下し、pHを10に調整した。
(6−4)(6−3)で得たアルカリ性の反応溶液を、ふたつきのフッ素系樹脂容器に入れ、アルミジャケットで密閉し、80℃の恒温槽にて18時間加熱処理を施した。
(6−5)得られた反応物を水で希釈し500mLとしたものを遠心分離処理し、上澄み液を捨て、沈殿物を水で洗浄しさらに500mLの水を加え、再度遠心分離処理を施した。この処理を上澄み液のpHが8以下になるまで繰り返した後、沈殿物を80℃で乾燥し、白色の粉末物質Fを得た。
(6−6)得られた粉末物質FをICPで分析したところ、AlとMgが1:3の割合で含まれていることを確認した。また、XRDの結果より、[Mg2+ 0.67Al3+ 0.33(OH)20.33+から成る層状複水酸化物が得られることを確認した。(003)の回折ピークから算出される層間距離は0.788nm、シェラー式を用いて計算される結晶子サイズは約5nmであることを確認した。SEMで形状を観察したところ、10−100nmサイズの扁平粒子を確認した。FT−IR分析から層間に炭酸イオンが含まれていることを確認した。また、NMR分析から粉末物質F内にCMC骨格が存在することを確認した。これをLDH-Fとする。
(6−7)(6−6)で得たLDH-Eは水、N−メチル-2ピロリドン(NMP)、ジメチルスホキシド(DMSO)などには不溶であったが、水とNMPの混合中には分散した。この分散液をガラス基板上にキャストし、乾燥させることで電解質膜Fを得た。

[実施例3 リン酸基ポリマーと複合化したLDH]
(7−1)(1−2)で得たクロロメチルポリエーテルスルホンをホスホン酸トリエチルエステルに浸漬し、12時間加熱還流した。該反応溶液をエタノール中に入れ、ポリマーを析出させ、析出した沈殿をミキサーで粉砕してエタノールで洗浄し、ホスホメチル化ポリエーテルスルホンを得た。ホスホメチル基の酸当量は1.3mmol/gであった。以降ポリマーGと呼ぶ。
(7−2)(7−1)で得たポリマーGを水とNMPの混合溶媒に溶解させ、25mLに定容した。
(7−3)(7−2)に対し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、(3−1)で得たマグネシウムおよびアルミニウム入り水溶液Aを25mL添加した。この際、液中に樹脂が析出する様子が確認された。
(7−4)攪拌を継続した状態で、0.2MNaOHを滴下し、pHを10に調整した。
(7−5)(7−4)で得たアルカリ性の反応溶液を、ふたつきのフッ素系樹脂容器に入れ、アルミジャケットで密閉し、80℃の恒温槽にて18時間加熱処理を施した。
(7−6)得られた反応物を水で希釈し500mLとしたものを遠心分離処理し、上澄み液を捨て、沈殿物を水で洗浄しさらに500mLの水を加え、再度遠心分離処理を施した。この処理を上澄み液のpHが8以下になるまで繰り返した後、沈殿物を80℃で乾燥し、白色の粉末物質Gを得た。
(7−7)得られた粉末物質GをICPで分析したところ、AlとMgが1:3の割合で含まれていることを確認した。また、XRDの結果より、[Mg2+ 0.67Al3+ 0.33(OH)20.33+の層状複水酸化物が得られることを確認した。(003)の回折ピークから算出される層間距離は0.788nm、シェラー式を用いて計算される結晶子サイズは約5nmであることを確認した。SEMで形状を観察したところ、10−100nmサイズの扁平粒子を確認した。FT−IR分析から層間に炭酸イオンが含まれていることを確認した。また、NMR分析から粉末物質G内にリン酸ポリマー骨格が存在することを確認した。これをLDH-Gとする。
(7−8)(7−7)で得たLDH-Gは水、N−メチル-2ピロリドン(NMP)、ジメチルスホキシド(DMSO)などには不溶であったが、水とNMPの混合中には分散した。この分散液をガラス基板上にキャストし、乾燥させることで電解質膜Gを得た。

[比較例5 スルホン酸基ポリマーと複合化したLDH]
(8−1)(1−2)で得たクロロメチルポリエーテルスルホンを撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた1000mLの4ツ口丸底フラスコに入れ、N-メチルピロリドン600mLを加えた。これに、チオ酢酸カリウム9gとN-メチル-2-ピロリドン(NMP)50mLの溶液を加え、80℃に加熱し3時間加熱撹拌した。反応液を水1リットル中に落とし、ポリマーを析出させた。その後、加熱乾燥してアセチルチオポリエーテルスルホンを得た。アセチルチオポリエーテルスルホンを同様に4ツ口丸底フラスコに入れ、さらに酢酸、過酸化水素水を加え、45℃で加熱し4時間加熱した。その後、6Nの水酸化ナトリウム水溶液1L入れ、攪拌した。ポリマーを濾過、洗浄し、スルホメチル化ポリエーテルスルホン20g(以降ポリマーH)を得た。このポリマーの数平均分子量は90,000であり、スルホン基当量は1.4mmol/gであった。
(8−2)(8−1)で得たポリマーHを水とNMPの混合溶媒に溶解させ、25mLに定容した。
(8−3)(8−2)に対し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、(3−1)で得たマグネシウムおよびアルミニウム入り水溶液Aを25mL添加した。この際、液中に樹脂が析出する様子が確認された。
(8−4)攪拌を継続した状態で、0.2MNaOHを滴下し、pHを10に調整した。
(8−5)(8−4)で得たアルカリ性の反応溶液を、ふたつきのフッ素系樹脂容器に入れ、アルミジャケットで密閉し、80℃の恒温槽にて18時間加熱処理を施した。
(8−6)得られた反応物を水で希釈し500mLとしたものを遠心分離処理し、上澄み液を捨て、沈殿物を水で洗浄しさらに500mLの水を加え、再度遠心分離処理を施した。この処理を上澄み液のpHが8以下になるまで繰り返した後、沈殿物を80℃で乾燥し、白色の粉末物質Hを得た。
(8−7)得られた粉末物質HをICPで分析したところ、AlとMgが1:3の割合で含まれていることを確認した。また、XRDの結果より、[Mg2+ 0.67Al3+ 0.33(OH)20.33+からなる層状複水酸化物が得られることを確認した。(003)の回折ピークから算出される層間距離は0.815nm、シェラー式を用いて計算される結晶子サイズは約5nmであることを確認した。SEMで形状を観察したところ、10−100nmサイズの扁平粒子を確認した。FT−IR分析から層間に炭酸イオンが含まれていることを確認した。また、NMR分析から粉末物質H内にリン酸ポリマー骨格が存在することを確認した。これをLDH-Hとする。
(8−8)(8−7)で得たLDH-Hは水、N−メチル-2ピロリドン(NMP)、ジメチルスホキシド(DMSO)などには不溶であったが、水とNMPの混合中には分散した。この分散液をガラス基板上にキャストし、乾燥させることで電解質膜Hを得た。

[実施例4 カルボキシル基ポリマーと複合化したLDHを含んだ電解質を用いた膜電極接合体の作成]
(9−1)プロパノール、水、NMPを含む溶媒に、白金が70重量%担持されたカーボンブラックと、(5−6)で得たLDH-Eを1:0.2の重量比で添加、マグネッチックスターラーにて12時間、攪拌後、分散機処理を施し、LDH入りPt/C触媒スラリーIを作製した。
(9−2)(9−1)で得たPt/CスラリーIをスプレーコーターに注入し、5重量%PTFE処理を施したカーボンペーパー(東レ、TGP−H−060)上にスプレー塗布を行った。塗布量はPt重量で1mg/cm2とした。電極面積は30mm×30mmとした。
(9−3)(1−4)で得た電解質膜Aに対し、(2−2)で得た電極触媒層をアノード側に、(9−2)で電極触媒層をカソード側に配置し、熱圧着を実施した。ホットプレス温度は120℃、プレス圧力は80kg/cm2とした。プレス後の膜電極接合体は0.1Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄後、超純水でリンス処理を施し、乾燥させた。電極サイズは30mm×30mmとした。

[実施例5 Pd/C触媒、カルボキシル基ポリマーと複合化したLDHを含んだ電解質を用いたアルカリ型DMFC用膜電極接合体]
(10−1)カーボンブラック1.0gと、1.11gのPdCl2と、0.48gのホルムアルデヒドと、1000mlの純水を混合し、昇温、攪拌しながら、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下することでpHを8に保持し、カーボンブラック上にパラジウムを還元、析出させ、担持した。その後、反応溶液をろ過、純水でよく洗浄した後、大気中、80℃で乾燥することで、カーボンブラック上にPd粒子が担持された触媒(Pd/C触媒)を得た。
(10−2)プロパノール、水、NMPを含む溶媒に、(10−1)で得たPd/C触媒と、(5−6)で得たLDH-Eを1:0.2の重量比で添加、マグネッチックスターラーにて12時間、攪拌後、分散機処理を施し、LDH入りPd/C触媒スラリーJを作製した。
(10−3)(10−2)で得たPd/CスラリーJをスプレーコーターに注入し、5重量%PTFE処理を施したカーボンペーパー(東レ、TGP−H−060)上にスプレー塗布を行った。塗布量はPd重量で1mg/cm2とした。電極面積は30mm×30mmとした。
(10−4)(1−4)で得た電解質膜Aに対し、(10−2)で得た電極触媒層をアノード側に、(9−2)で電極触媒層をカソード側に配置し、熱圧着を実施した。ホットプレス温度は120℃、プレス圧力は80kg/cm2とした。プレス後の膜電極接合体は0.1Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄後、超純水でリンス処理を施し、乾燥させた。電極サイズは30mm×30mmとした。

[比較例6 Pd/C触媒、4級アミン基を有する電解質を用いたアルカリ型DMFC用膜電極接合体]
(11−1)プロパノールを主成分とする溶媒に、Pd/C触媒と、トクヤマ製AS−4(5重量%)を、重量比で1:0.2となるように添加し、マグネッチックスターラーにて12時間、攪拌し、Pd/C触媒スラリーとした。トクヤマ製AS−4は、4級アミン基を有する高分子電解質を含む。
(11−2)(11−1)で得たPd/CスラリーKをスプレーコーターに注入し、5重量%PTFE処理を施したカーボンペーパー(東レ、TGP−H−060)上にスプレー塗布を行った。塗布量はPd重量で1mg/cm2とした。電極面積は30mm×30mmとした。
(11−3)(1−2)で得た電解質膜Aに対し、(11−2)で得た電極触媒層をアノード側に、(2−2)で得た電極触媒層をカソード側に配置し、熱圧着を実施した。ホットプレス温度は120℃、プレス圧力は80kg/cm2とした。プレス後の膜電極接合体は0.1Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄後、超純水でリンス処理を施し、乾燥させた。電極サイズは30mm×30mmとした。

[キャリアイオンの評価]
比較例1、3、5および実施例1〜3の電解質薄膜について、キャリアイオンの評価を実施した。評価には、非特許文献1などで提案されている水蒸気濃淡電池での電位測定を用いた。これは、Ptなどの触媒金属を電解質膜の両面に配置し、その両面に接する空気の相対湿度に差を設けた際の電位の符号によってイオン伝導体のキャリアがアニオンかカチオンかを判別するものである。各比較例、実施例の電解質膜の両側にPtをスパッタ形成し、加湿空気を供給する流路を設けたカーボンプレートではさみ、その両側に相対湿度70%、相対湿度0%の空気を供給し、その起電力の符号を比較した。

[イオン伝導度の測定]
比較例1、3、5および実施例1〜3の電解質薄膜のイオン伝導度は、四端子法を用いて、面内方向の伝導度測定により計測した。試料は、湿度およびガス雰囲気制御可能なチャン場内に封入され、湿度50%と100%、N2雰囲気と1%CO2混入雰囲気でイオン伝導度を評価した。

[燃料電池セルの作成]
比較例2、4、6、実施例4から5で得た膜電極接合体に対し、電極外周にシールガスケットを貼り合わせ、その両側からカーボンからなるセパレータではさみこむことで燃料電池セルを作成した。

[燃料電池セルのエージング(水素燃料)]
比較例2、4と実施例4については、アノード、カソード側に相対湿度100%の窒素ガスを24時間以上供給した後、アノード側に加湿水素、カソード側に加湿酸素を供給し、電子負荷装置を用いて、電流をとりながらエージング処理を実施した。0.25A/cm2での電流密度におけるセル電圧が安定するのを待ち、エージングを終了した。その後、カソード側に流すガスを加湿酸素、加湿空気、メタノール混入空気に変えて、0.25A/cm2における発電電位を評価した。

[燃料電池セルのエージング(メタノール燃料)]
比較例6と実施例5については、アノード側に1MKOH、1Mメタノール混合水溶液を、カソード側に相対湿度100%の窒素ガスを24時間以上供給した後、アノード側に1Mメタノール、カソード側に加湿酸素を供給し、電子負荷装置を用いて、電流をとりながらエージング処理を実施した。0.15A/cm2での電流密度におけるセル電圧が安定するのを待ち、エージングを終了した。その後、0.15A/cm2における発電電位を評価した。

[結果と考察]
表1に比較例1、3、5および実施例1〜3で得られる電解質膜の仕様と、水蒸気濃淡電池の平均的な起電力(EMF)、各雰囲気条件下でのイオン伝導度を示す。
表1において、比較例1、3、実施例1から3において水蒸気濃淡電池の起電力は負の値となった。比較例1のキャリアイオンはアニオンであることから、比較例3、実施例1から3のキャリアイオンもアニオンであることがわかる。一方、LDHとスルホン酸ポリマーを複合させた比較例5では起電力がゼロに近く、イオン伝導度もないことがわかった。これは両者のイオン結合が強固であり、局所的にも電荷が釣り合っているため、プロトンもアニオンも伝導しにくいためであると言える。一方、カチオン交換基に比較的弱酸であるリン酸基やカルボキシル基を設けると、OH-伝導が促進されることがわかる。
比較例1のイオン伝導度は、CO2混入のないAr雰囲気では高いものの、CO2混入雰囲気では1/10近くまで減少する。一方、伝導基に層状複水酸化物を用いている、比較例3、実施例1から3では、CO2混入雰囲気でも高いイオン伝導度が保持されていることがわかる。これにより本発明の実施例はCO2に対する耐性の高い電解質であると言える。
比較例3に比べて、実施例1から3のイオン伝導度は同等以上であった。これは、粒子内のOH-伝導だけではなく、ポリマーと複合させることでその界面でのOH-伝導が促進された結果と言える。LDH作成時に炭酸イオンも導入した実施例2では粒子内でのOH-伝導性が高いため、全体での伝導度も高くなったと言える。また、比較例3では、低加湿条件においてイオン伝導度が下がっている。これはイオン伝導に必要な水が抜け出てしまったからと考えられる。これに対し、吸水性の高いカルボキシル基ポリマーを含んだ実施例1から3では保水性が高いために低加湿条件でも高いイオン伝導が達成されると言える。特に、保水性の高いリン酸ポリマーを用いた実施例3では高加湿条件と同等のイオン伝導度が得られている。
表2には、比較例2、4と実施例4を用いたPEFC発電試験結果を示す。この試験ではアノード供給ガスを水素に固定し、カソード供給ガスを加湿酸素、加湿空気、メタノール混入空気としている。加湿酸素は加圧ボンベより供給しておりその純度は99.5%以上である。電極内に4級アミノ基を有するポリマーを含んだ比較例2では、純酸素条件では発電電圧は良好であるものの、加湿空気、メタノール混入空気条件では、極端に性能が低下する。加湿空気中には二酸化炭素が混入しており、これが炭酸イオンとして電極内に含まれることで電極内のOH-イオン伝導度が低下し過電圧が増大したと考えられる。さらにメタノール混入ガスではメタノールが触媒上で酸化されギ酸イオンや炭酸イオンとなるため、イオン伝導低下が著しくなると考えられる。イオン伝導体としてLDHを含んだ実施例4では、各ガスによる性能変化は小さいものの、全体的に発電性能が低い。これは、電極内に含まれるイオン伝導体がLDH粉末のみのため触媒とイオン伝導体との接触面積が小さく、有効に使用できる触媒量が少ないためと考えられる。一方、層状複水酸化物カチオンとカルボキシル基含有ポリマーの複合体を含んだ実施例4では、他と比べて発電性能が高く、かつ、炭酸イオンが混入しやすい条件でも比較的性能を保てることがわかる。
表3には、Pdをアノード触媒として用いた実施例5と比較例6のDMFC発電試験結果を示す。電極内に4級アミノ基を有するポリマーを含んだ比較例6の発電性能に比べて、層状複水酸化物カチオンとカルボキシル基含有ポリマーの複合体を含んだ実施例5の発電電位は高い。カソードは同じ仕様であるため、この発電電圧の差は、それぞれのアノード電位の差と考えることができる。DMFCアノードではメタノールが酸化されギ酸あるいは炭酸イオンが形成し、電極内のOH-伝導度を損ね、アノード電位が上昇し結果として発電電圧が低くなると予想されるが、実施例5では発生アニオンによる悪影響を受けにくく、アノード電位が低く保たれるために、高発電電位になったと解釈できる。
また、実施例4および5は、触媒としてPt/CやPd/Cを用いているが、これを他の金属触媒に変更することも可能であり、ニッケルやコバルト、鉄、タングステンなどを含んだ触媒としても同様の効果が得られる。
本発明の実施態様のひとつである膜電極接合体を、燃料電池発電システムの一例として、携帯用情報端末に実装した例を図5に示す。
この携帯用情報端末は、2つの部分を、燃料カートリッジ506のホルダーをかねたヒンジ507で連結された折たたみ式の構造をとっている。
1つの部分は、タッチパネル式入力装置が一体化された表示装置501,アンテナ502を内蔵した部分を有する。
1つの部分は、燃料電池503,プロセッサ,揮発及び不揮発メモリ,電力制御部,燃料電池及び二次電池ハイブリッド制御,燃料モニタなどの電子機器及び電子回路などを実装したメインボード504,リチウムイオン二次電池505を搭載した部分を有する。
このようにして得られる携帯用情報端末は、燃料電池503の出力が高く、さらに燃料電池内の触媒を安価な非白金材料とすることができるため、安価な情報端末となる。さらに、空気中あるいは発電で発生する二酸化炭素の影響を受けにくいため、その影響を排除するためのフィルタ類が不要であり小型・軽量機器として使用することができる。
図6には、本発明のイオン伝導体を用いたリチウム―空気二次電池の模式図を示す。図中のアニオン伝導性の電解質膜604や空気極に用いるカソード触媒電極層605内に本発明のイオン伝導体を用いることによって、空気極から取り込まれる二酸化炭素による性能低下がなく、空気極反応の過電圧の低いリチウム―空気二次電池を得ることができる。また、空気極に用いる触媒を安価な非白金材料とすることができるため、安価な電池とすることができる。
図7には、本発明のイオン伝導体を用いた微生物燃料電池の模式図を示す。この電池ではアノード極内の微生物702が燃料水溶液中703の有機分子を代謝する際のエネルギーを電子として取り出し、空気極では酸素の還元反応が進行する。図中のアニオン伝導性の電解質膜704や空気極に用いるカソード触媒電極層705内に本発明のイオン伝導体を用いることによって、空気極から取り込まれる二酸化炭素による性能低下がなく、空気極反応の過電圧の低い微生物電池を得ることができる。また、空気極に用いる触媒を安価な非白金材料とすることができるため、安価な電池とすることができる。
101 セパレータ
102 アノード拡散層
103 アノード触媒層
104 固体高分子電解質膜
105 カソード触媒層
106 カソード拡散層
107 ガスケット
201 電子伝導体(カーボン一次粒子)
202 触媒金属粒子
203 触媒粒子構造体
204 触媒粒子構造体内部の細孔 (一次細孔,<40 nm)
205 触媒粒子構造体間の細孔 (二次細孔,>40 nm)
206 電極電解質
300、400 層状複水酸化物粒子
310、410 高分子樹脂
301、401 水酸化物イオン
302、402 二価金属イオン
303、403 三価金属イオン
311 カチオン交換基
312、412 高分子主鎖
411 シラン結合部位
501 表示装置
502 アンテナ
503 燃料電池
504 メインボード
505 リチウムイオン二次電池
506 燃料カートリッジ
507 ヒンジ
601 負極集電体
602 負極
603 電解液
604 アニオン伝導性電解質膜
605 カソード触媒電極層
606 カソードガス拡散層
607 ガスケット
608 正極集電体
701 アノード集電体
702 微生物アノード電極
703 燃料水溶液
704 アニオン伝導性電解質膜
705 カソード触媒電極層
706 カソードガス拡散層
707 ガスケット
708 カソード用流路付き集電体

Claims (20)

  1. 金属複水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体において、
    前記金属複水酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、
    前記高分子樹脂がカチオン交換基を含むことを特徴とするイオン伝導体。
  2. 請求項1に記載のイオン導電体において、
    前記カチオン交換基の酸解離定数(pKa)が2<pKa<7の範囲であることを特徴とするイオン伝導体。
  3. 請求項1に記載のイオン導電体において、
    前記高分子樹脂の前記カチオン交換基としてリン酸基、カルボキシル基のうち少なくとも一つを含むことを特徴とするイオン伝導体。
  4. 請求項1に記載のイオン伝導体において、
    前記金属酸化物を構成する二価のカチオンがMg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Ra2+の少なくともひとつを含み、三価のカチオンが、Al3+、La3+の少なくともひとつを含むことを特徴とするイオン伝導体。
  5. 請求項1に記載のイオン伝導体において、
    前記金属複水酸化物の結晶子サイズが10nm以下であることを特徴とするイオン伝導体。
  6. 金属複水酸化物と高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体において、
    前記金属複水酸化物が[M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含み、
    前記高分子樹脂と前記金属複水酸化物との間に共有結合が形成されていることを特徴とするイオン伝導体。
  7. 請求項6に記載のイオン導電体において、
    前記高分子樹脂と前記金属複水酸化物の間にシラン結合が存在することを特徴とするイオン伝導体。
  8. 請求項6に記載のイオン伝導体において、
    前記金属酸化物を構成する二価のカチオンがMg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Ra2+の少なくともひとつを含み、三価のカチオンが、Al3+、La3+の少なくともひとつを含むことを特徴とするイオン伝導体。
  9. 請求項6に記載のイオン伝導体において、
    前記金属複水酸化物の結晶子サイズが10nm以下であることを特徴とするイオン伝導体。
  10. 金属カチオンと高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体において、
    前記金属カチオンの価数が2以上であり、
    イオン伝導体がカチオン交換基を含み、
    水酸化物を伝導することを特徴とするイオン伝導体。
  11. 請求項10に記載のイオン導電体において、
    前記高分子樹脂がリン酸基、カルボキシル基のうち少なくとも一つを含むことを特徴とするイオン伝導体。
  12. 触媒粒子と請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含むことを特徴とする電極触媒層。
  13. 請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含むことを特徴とするアニオン伝導性電解質膜。
  14. アノードとカソードが、固体高分子電解質膜を挟んで形成される燃料電池用の膜電極接合体において、
    前記アノード、前記カソード、又は、前記固体高分子電解質膜の少なくともひとつが請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含むことを特徴とする膜電極接合体。
  15. 請求項14に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とするアニオン伝導型燃料電池。
  16. 請求項15に記載のアニオン伝導型燃料電池において、
    燃料にメタノール、エタノール、ヒドラジンのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする燃料電池。
  17. 触媒粒子と請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含む触媒電極層を空気極に用いることを特徴とする微生物燃料電池システム。
  18. 活物質と請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含んだ金属−空気電池用電極層。
  19. 活物質と請求項1、6又は10のいずれかに記載のイオン伝導体を含む電極層を備えたことを特徴とする金属−空気電池。
  20. [M2+ 1-x3+ x(OH)2x+の組成で表されるカチオンを含む金属複水酸化物とカチオン交換基を含む高分子樹脂の複合物からなるイオン伝導体の作製方法であって、
    カチオン交換基を有する高分子樹脂に対して二価および三価の金属カチオンを配位した後、アルカリ処理によってカチオン交換基の周囲に水酸化物カチオンを形成することを特徴とするイオン伝導体の作製方法。
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