JP2014007037A - 非水電解質二次電池の製造方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池 - Google Patents

非水電解質二次電池の製造方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 電極合材ペーストに基づいて良好な性状の活物質層を形成することにより電極板を製造し,その電極板を用いる非水電解質二次電池の製造方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】 電極材料として,少なくとも活物質と導電材と結着剤とを用いる。導電材には反磁性体のものを用いる。そしてまず,導電材および結着剤を溶媒とともに攪拌する第1の攪拌と,活物質を添加して攪拌する第2の攪拌とにより電極合材ペーストを製造する。次に,その電極合材ペーストを集電箔に塗工し,塗工した電極合材ペーストの集電箔から遠い表面側ほど磁束密度の高い磁場を印加させ,少なくとも磁場を印加させ始めた後に,集電箔上の電極合材ペーストを乾燥させることにより活物質層を形成して電極板を製造する。さらにその電極板を用いて非水電解質二次電池を製造する。
【選択図】図2

Description

本発明は,非水電解質二次電池を製造する方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池に関する。より詳細には,電極板における活物質層を電極合材ペーストに基づいて適切に形成し,その電極板により非水電解質二次電池を製造する方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池に関するものである。
非水電解質二次電池は通常,正負の電極板をセパレータとともに捲回したものをケースに収納した構成のものである。電極板は,集電箔となる金属箔に,活物質や結着剤などの電極材料を溶媒に分散させた電極合材ペーストを塗工し乾燥させることにより活物質層を形成してなる帯状のものである。また,その電極合材ペーストは,活物質や結着剤などの電極材料を溶媒中に分散させることにより製造される。
ここで,活物質層の性状は,その非水電解質二次電池の品質の良否に大きく影響する。つまり,良好な活物質層が形成された電極板を用いることにより,電池特性やサイクル特性,安全性などに優れた高品質な非水電解質二次電池を製造することができる。例えば特許文献1には,活物質層の組成や構成がその厚さ方向に異なる電極板を備えることにより,高い性能を有するようにした非水電解質二次電池が開示されている。
特開平9−320569号公報
ところで特許文献1にも記載されているように,従来,活物質層の組成や構成をその厚さ方向に異なるものとする具体的な方法として,活物質層を多層構造とする方法がとられている。すなわち,異なる組成の電極合材ペーストを複数用意し,それらを集電箔上に重ねるように塗工し,その後,乾燥させることによって多層構造の活物質層を形成する方法である。
しかしながら,多層構造の活物質層を形成する場合,多層にするために複数の塗工工程が必要となる。これにより,電極板の生産性が低下し,また,電極板の製造コストが高くなってしまうという問題があった。さらに,多層構造の活物質層では,その層間における密着強度が低くなりがちである。このため,多層構造の活物質層では,その層間において剥離が生じやすいことが知られている。活物質層に剥離が生じた場合,その剥離箇所の抵抗は大きくなる。これにより,非水電解質二次電池においては,充放電性能を十分に発揮することができなくなってしまうという問題があった。
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,電極合材ペーストに基づいて良好な性状の活物質層を形成することにより電極板を製造し,その電極板を用いる非水電解質二次電池の製造方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池を提供することである。
この課題の解決を目的としてなされた本発明の非水電解質二次電池の製造方法は,電極材料を溶媒中に分散させることにより電極合材ペーストを製造し,その電極合材ペーストに基づいて形成された活物質層を有する電極板を用いて非水電解質二次電池を製造する非水電解質二次電池の製造方法であって,電極材料として,少なくとも活物質と導電材と結着剤とを用い,導電材として,反磁性体のものを用い,導電材および結着剤を溶媒とともに攪拌する第1の攪拌と,第1の攪拌後のペーストに活物質を添加して攪拌する第2の攪拌とにより電極合材ペーストを製造し,その電極合材ペーストを集電箔に塗工し,塗工した電極合材ペーストの集電箔から遠い表面側ほど磁束密度の高い磁場を印加させ,少なくとも磁場を印加させ始めた後に,集電箔上の電極合材ペーストを乾燥させることにより活物質層を形成して電極板を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法である。
まず,上記の方法により完成した電極合材ペーストにおいて,結着剤は,活物質よりも導電材と強く結合した状態となっている。結着剤は,活物質よりも導電材と長く攪拌されているからである。本発明ではさらに,電極合材ペーストを集電箔に塗工後,これらに対して磁場を印加する。印加する磁場は,電極合材ペーストの集電箔から遠い表面側ほど磁束密度の高い磁場である。このため,反磁性体である導電材は,磁場に反発し,電極合材ペースト内を集電箔側へと移動する。また,導電材と強く結合している結着剤も,磁場に反発する導電材とともに電極合材ペースト内を集電箔側へと移動する。そして,電極合材ペーストはその状態で乾燥される。このため,完成した活物質層においても,導電材および結着剤は,活物質層の集電箔側ほど多く存在している。
このような活物質層が形成された電極板を用いて製造された非水電解質二次電池は,過充電や内部短絡が生じた場合の温度上昇時において安全である。結着剤は,温度上昇時に導電材の接触を解除し,さらに導電材の表面を被覆することにより,活物質層の導電性を低下させる性質を有している。そして,本発明に係る活物質層では,結着剤は,集電箔側ほど多く存在しているため,温度上昇時に活物質層における集電箔側の部分の導電性を著しく低下させる。つまり,本発明に係る非水電解質二次電池では,温度上昇とともに充放電反応が起こりにくくなる。これにより,本発明の非水電解質二次電池は,過充電時や内部短絡時などにおいて,電池内の温度が過度に上昇することが抑制されているため,安全性が高い。
また,本発明に係る活物質層の表面側には,導電材が少ない。これにより,活物質層には,内部短絡時に非水電解質二次電池の内部温度を急激に上昇させるような大電流が流れることはない。このため,本発明に係る非水電解質二次電池は,内部短絡時の温度上昇が緩やかである。なお,本発明に係る活物質層は,その表面側には抵抗成分である結着剤も少ないため,通常の充放電時に流れる程度の電流に対しては良好な導電性が保たれている。さらに,本発明に係る非水電解質二次電池は,活物質層の表面側ほど抵抗成分である結着剤が少ないことにより,良好な出力特性を有する。加えて,本発明に係る非水電解質二次電池は,活物質層の集電箔側ほど結着剤が多く存在することにより,集電箔と活物質層との密着強度が高い。このため,サイクル寿命についても良好である。
また,上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,磁場の印加を,活物質層における導電材および結着剤の集電箔側への集中度である下のR1,R2の値がいずれも1.5以上2.5以下の範囲内となるように行うことが好ましい。
導電材の集中度R1=3*X1/(X1+Y1+Z1)
結着剤の集中度R2=3*X2/(X2+Y2+Z2)
ここで,
X1:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
X2:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
Y1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
Y2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
Z1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における導電材の平均存在比率
Z2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における結着剤の平均存在比率
とする。
導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が1.5未満の場合には,結着剤の集電箔側への偏りが不十分であることにより,温度上昇時に活物質層の導電性を低下させる効果が小さいからである。また,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が2.5を超えた場合には,活物質層の中央および表面側の電子伝導性が低下し過ぎるため,サイクル寿命が低下してしまうからである。
また本発明は,少なくとも活物質と導電材と結着剤とからなる活物質層を集電箔上に備える電極板を有する非水電解質二次電池であって,活物質層における導電材および結着剤の集電箔側への集中度である下のR1,R2の値がいずれも1.5以上2.5以下の範囲内であることを特徴とする非水電解質二次電池にもおよぶ。
導電材の集中度R1=3*X1/(X1+Y1+Z1)
結着剤の集中度R2=3*X2/(X2+Y2+Z2)
ここで,
X1:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
X2:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
Y1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
Y2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
Z1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における導電材の平均存在比率
Z2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における結着剤の平均存在比率
とする。
本発明によれば,電極合材ペーストに基づいて良好な性状の活物質層を形成することにより電極板を製造し,その電極板を用いる非水電解質二次電池の製造方法,および,その方法により製造された非水電解質二次電池が提供されている。
電極合材ペーストの製造手順を説明するための図である。 活物質層の形成に使用する電極板製造装置の概略構成図である。 塗工後,磁場を印加する前の電極合材ペーストを説明するための図である。 磁場を印加した後の電極合材ペーストを説明するための図である。 活物質層の電極材料の分布の確認方法を説明するための図である。 過充電試験における最高到達温度と,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2との関係を示すグラフである。 サイクル試験における内部抵抗増加率と,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2との関係を示すグラフである。
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池(以下,単に二次電池という)について本発明を具体化したものである。
本形態では,次の手順により,二次電池を製造する。
1.電極合材ペースト(以下,単にペーストという)の製造
2.活物質層の形成
3.下工程(裁断,捲回,収納など)
このうち,「3.下工程(裁断,捲回,収納など)」については従来と特段に変わるところはない。本形態の二次電池の製造方法の特徴は,「1.ペーストの製造」および「2.活物質層の形成」にある。また,その方法により製造された本形態の二次電池の特徴は,電極板の活物質層にある。以下,上記手順に沿って「1.ペーストの製造」より説明する。
ペーストは,活物質層を形成するための電極材料を,溶媒中に均一に分散させることにより得られる。本形態のペーストの製造手順を,図1により説明する。図1に示すように,本形態のペーストの製造には,活物質と,導電材と,結着剤と,溶媒とを用いる。
活物質は,完成後の活物質層において,充放電に寄与する成分である。また,本形態では,活物質として,完成後のペースト内において,後述する磁場の影響の少ないものを用いる。すなわち,活物質が後述する磁場より受ける反発力または吸引力は,活物質が完成後のペーストの粘度によりそのペースト内を移動するのに必要とする力に比して小さいことが好ましい。具体的には,磁場の影響を受けにくい常磁性体などの活物質が好ましい。このような活物質として,正極板を製造する場合であれば,三元系のLiNi1/3Co1/3Mn1/3,ニッケル酸リチウム(LiNiO),リチウムマンガンスピネル(LiMn)などのリチウム遷移金属複合酸化物などを用いることができる。また,負極板を製造する場合には,活物質として,スズ化合物やシリコンと炭素の複合体などを用いることができる。
導電材は,活物質層の導電性を高くするための成分である。また,本形態においては,導電材として,反磁性体を用いる。そして,導電材が後述する磁場により受ける反発力は,導電材が完成後のペーストの粘度によりそのペースト内を移動するのに必要とする力に比して大きいことが好ましい。すなわち,後述する磁場が印加された際に,その磁場と反発する方向へ,完成後のペースト内を移動することができる導電材を用いるのである。このような導電材として,黒鉛やカーボンブラックなどを用いることができる。
結着剤は,活物質層の各成分を互いに結着させつつ,活物質層を集電箔の表面に結着させるための成分である。結着剤としては,例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE),スチレンブタジエンゴム(SBR)などを用いることができる。なお,このような樹脂素材である結着剤は磁場の影響を受けない。このため,結着剤は単独では,後述する磁場により,完成後のペースト内を移動することはない。また,溶媒には,N−メチルピロリドン(NMP)などの有機溶剤や水などを用いることができる。
本形態では,上記のような電極材料および溶媒を用い,図1に示すように,第1攪拌と第2攪拌との2つの攪拌工程を行うことによりペーストを製造する。また,第1攪拌では,導電材と結着剤とを,溶媒とともに攪拌する。第2攪拌では,第1攪拌後のペーストにさらに活物質を添加して攪拌を行う。これら2つの攪拌工程により,ペーストが完成する。
ここで,本形態では,第1攪拌において導電材と結着剤とを添加し,第2攪拌において活物質を添加している。このため,結着剤は,活物質よりも導電材と長く攪拌されている。これにより,完成したペーストにおいて,結着剤は,活物質とは弱く,導電材とは強く結合した状態となっている。また完成したペースト内においては当然,電極材料は溶媒中に均一に分散している。
次に,「2.活物質層の形成」について説明する。本形態の活物質層の形成には,例えば,図2に示すような電極板製造装置1を用いることができる。電極板製造装置1は,巻出部2と,塗工部3と,磁場発生部4と,乾燥部5と,巻取部6とを有している。電極板製造装置1は,電極板の基材である集電箔10を,巻出部2より矢印Tの向きに送り出しつつ搬送させ,それを巻取部6により回収するウェブハンドリングにより電極板を製造する装置である。
このため,巻出部2には,集電箔10がロール状にセットされている。なお,集電箔10には,磁場の影響を受けにくい材質のものを用いることが好ましい。例えば,正極板を製造する場合であればアルミニウム箔を,負極板を製造する場合であれば銅箔を用いることができる。また,巻出部2より送り出される集電箔10の図2における上面を第1面とし,第1面と反対の下面を第2面とする。集電箔10の第1面には,巻出部2より送り出されるときにおいて,まだ何も形成されていない。そして,電極板製造装置1は,集電箔10の第1面に,活物質層を形成するためのものである。
塗工部3は,集電箔10の第1面に,「1.ペーストの製造」により完成させたペーストを塗工するためのものである。塗工部3には,従来よりペーストの塗工に用いられているものを用いることができる。例えば,塗工ダイやロッドコーター,グラビアコーターなどを用いることができる。
磁場発生部4は,図2に示すように,搬送中の集電箔10の図中上側に位置し,図中矢印で示す磁束Fを発生させるものである。つまり,磁束発生部4は,集電箔10に向かって,その第1面側より,集電箔10の搬送方向Tと直行する厚さ方向(図2中上下方向)の磁場を印加するためのものである。また,磁束Fの磁束密度は,磁場発生部4に近い図2に矢印で示す磁束Fの根本側(図中上側)ほど大きい。つまり,磁場発生部4は,集電箔10の第1面に塗工されたペーストの集電箔10から遠い表面側(図2中上側)ほど,磁束密度が高い磁場を印加する。本形態においては,磁場発生部4としてネオジム磁石を用いている。しかし,その他の磁石や電磁石を磁場発生部4として用いてもよい。なお,図2中の磁束Fは下向きの矢印で示されているが,磁場発生部4の下部の磁極の極性は,N極であってもS極であってもよい。
また,塗工部3から磁場発生部4までの距離は,塗工部3により集電箔10の第1面に塗工されたペーストが,搬送中に乾燥しない程度とされている。つまり,ペーストは,塗工された後,流動性のある状態で磁場発生部4による磁場を通過する。
乾燥部5は,集電箔10の第1面に塗工されたペースト中の溶媒を除去するためのものである。乾燥部5としては,従来よりペーストの乾燥に用いられているものを用いることができる。例えば,加熱炉や熱風乾燥装置,加熱ヒーターを備えた加圧ローラー対などである。巻取部6は,巻出部2より矢印Tの向きに送り出され,塗工部3,磁場発生部4,乾燥部5をこの順で通過した集電箔10を,ロール状に巻き取りつつ回収するためのものである。
本形態では,活物質の形成を,上記の電極板製造装置1を用いて,次の概略工程によって行う。
2−1.塗工
2−2.磁場の印加
2−3.乾燥
また以下,上記概略工程に沿って,図3および図4を参照しつつ順に説明する。
最初に「2−1.塗工」について説明する。巻取部2より矢印Tの向きに送り出された集電箔10は,まず,塗工部3に到達する。前述したように,塗工部3は,「1.ペーストの製造」により完成させたペーストを,集電箔の第1面に塗工するものである。よって,塗工部3を通過した直後の集電箔10の第1面には,図3に示すように,ペースト20が塗工されている。
図3に示すように,集電箔10に塗工された直後のペースト20中には,活物質21および導電材22が均一に存在している。なお,図3においては,電極材料のうち活物質21および導電材22のみを示しているが当然,結着剤も存在している。結着剤については,活物質21や導電材22と結合した状態で,ペースト20中に均一に存在している。
次いで,「2−2.磁場の印加」について説明する。図2に示すように,塗工部3を通過した集電箔10およびその第1面のペースト20は,次に,磁場発生部4の下側を通過する。すなわち,集電箔の第1面のペースト20は,流動性のある状態で,磁場発生部4により印加されている磁場の中を通過する。
図4に,磁場発生部4を通過した後の集電箔10およびペースト20を示す。図4に示すように,磁場発生部4を通過した後においても,活物質21は,ペースト20中に均一に存在している。前述したように,活物質21は,磁場の影響を受けにくい材料のものである。このため,活物質21は,磁場発生部4を通過する際に,ペースト20内を移動しないからである。また,活物質21がペースト20内を移動したとしても,その移動量はわずかだからである。
一方,ペースト20中の導電材22は,その厚さ方向の集電箔10側(図4中下側)ほど多くなるように偏在している。導電材22には,反磁性体の材料を用いているからである。すなわち,導電材22は,磁場発生部4を通過する際にその磁場に反発し,磁場発生部4から離れる向き(図2中および図4中下向き)にペースト20内を移動しているのである。また,磁場発生部4による磁場は,集電箔10の第1面に塗工されたペースト20の表面側ほど,磁束密度が高いものである。このため,反磁性体である導電材22は,集電箔10側ほど多く存在している。
また,結着剤は,磁場の影響を受けないものである。しかし,ペースト20中の結着剤は,導電材22と同様に,その厚さ方向における集電箔10側(図4中下側)ほど多くなるように偏在している。前述したように,結着剤は,「1.ペーストの製造」において,活物質21よりも導電材22と強く結合しているからである。すなわち,結着剤は,強く結合している導電材22とともに,磁場発生部4から離れる向きにペースト20内を移動しているのである。
なお,集電箔10については,磁場の影響を受けにくいアルミニウム箔や銅箔を用いている。このため,集電箔10は,磁場発生部4による磁場を通過する際に,これに吸引され,または反発してうねるようなことはない。
そしてその後の「2−3.乾燥」は,集電箔10およびペースト20が図4の状態で乾燥部5を通過することによりなされる。すなわち,ペースト20においては,活物質21が均一に存在している状態で,また,導電材22および結着剤が集電箔10側ほど多く存在している状態で,乾燥部5を通過する。そして,乾燥部5を通過することによりペースト20内の溶媒が除去され,活物質21および導電材22が結着剤によって結着することにより活物質層が形成される。
その活物質層において,活物質21は,活物質層の厚さ方向に均一に存在している。一方,導電材22は,活物質層の厚さ方向の集電体10側ほど多く存在している。結着剤についても,導電材22と同様,活物質層の厚さ方向の集電体10側ほど多く存在している。またこれにより,活物質層は,その集電箔10側ほど多い結着剤によって集電箔10の第1面に結着されている。また,集電箔10の第2面についても,第1面と同様の方法で活物質層を形成することができる。以上により,電極板が製造される。
そして,本形態により得られた電極板を用いて,「3.下工程(裁断,捲回,収納など)」により,二次電池が製造される。すなわち,得られた電極板は,これを収納する電池ケースや電池仕様に合わせた大きさに裁断される。また,裁断後の正負の電極板を,これらの間にはセパレータを挟み込みつつ捲回または平積みにより積層して電極体となし,この電極体を電池ケースに収納することで二次電池が製造される。また,セパレータなどには,従来より用いられているものを用いればよい。
そして,この本形態に係る二次電池は,以下に挙げる点について良好である。
(a)二次電池の内部温度上昇時の安全性
(b)内部短絡時の温度上昇の抑制
(c)出力特性
(d)サイクル寿命
まず,「(a)二次電池の内部温度上昇時の安全性」について説明する。二次電池には,過充電や内部短絡が生じるおそれがある。過充電は,二次電池がその満充電容量を超えて充電されることにより生じる。内部短絡は,例えば負極板にリチウム金属が析出することによりこれがセパレータを貫通し,正極板と負極板とが短絡することにより生じる。これら過充電や内部短絡は,二次電池の内部温度を過度に上昇させるおそれがある。よって,内部温度が過度に上昇することを抑制することが重要である。
ところで,通常使用時の二次電池において,電極板の活物質層の導電性は,導電材が互いに接触した状態で結着剤によって固定されていることにより,良好に保たれている。また,集電箔と活物質層との導電性は,活物質層内の導電材が集電箔に接触した状態で結着剤によって固定されていることにより,良好に保たれている。
ここで,結着剤は,温度上昇に伴い軟化して流動性が高くなる性質を有している。このため,二次電池の内部温度が上昇した際には,導電材を固定している結着剤の流動性が高くなることにより,導電材同士および導電材と集電箔との接触が解除されることとなる。さらには,流動性の高くなった結着剤は,導電材の表面を被覆する。すなわち,温度上昇によって流動性が高くなった結着剤は,活物質層内の導電性を低下させる性質を有する。
そして,本形態に係る電極板において,結着剤は,上記のように活物質層の厚さ方向の集電箔側ほど多く存在している。このため,二次電池の内部温度が上昇した際には,結着剤が軟化することにより,活物質層の集電箔に近い部分の導電性が著しく低下する。つまり,本形態に係る電極板においては,温度上昇とともに充放電反応が起こりにくくなる。よって,本形態に係る二次電池は,過充電時や内部短絡時などにおいて,その内部温度が過度に上昇することが抑制されているため,安全性が高い。
また,本形態に係る二次電池では,「(b)内部短絡時の温度上昇の抑制」が好適にされる。つまり,内部短絡時に,二次電池の内部温度が上昇しにくいのである。上記のように,本形態に係る電極板の活物質層は,その厚さ方向の集電箔側ほど多くの導電材が存在している。すなわち,活物質層の集電箔から遠い表面側においては,逆に,導電材が少ない。このため,本形態に係る電極板には,内部短絡時において,二次電池の内部温度を急激に上昇させるような大電流が流れることがない。これにより,二次電池の内部短絡時の温度上昇が抑制されている。
なお,本形態に係る電極板は,活物質層の表面側の導電材が少ないものである。しかし,その活物質層の表面側には,抵抗成分である結着剤も少ない。このため,通常の充放電時に流れる程度の電流に対しては良好な導電性が保たれており,内部短絡時のような異常な大電流が流れることのみが抑制されている。
次に,「(c)出力特性」について説明する。従来の活物質層の形成方法では,活物質層は,ペーストを塗工し,乾燥することにより形成されている。つまり,本形態のような「2−2.磁場の印加」はされていない。そして,従来の活物質層の形成方法では,その乾燥により,ペースト中の結着剤にマイグレーションが生じてしまうことが問題となっていた。すなわち,乾燥時における溶媒は,集電箔より遠ざかる向きにペースト内を移動し,最終的には活物質層の表面から大気へ蒸発する。この溶媒の移動に伴い,ペースト中の結着剤は,集電箔より遠ざかる向きに移動しがちである。さらに,乾燥工程が加熱乾燥の場合,ペースト内には熱対流が生じる。そして,熱対流によるペースト中の結着剤の移動も,集電箔より遠ざかる向きの方が優勢である。このため,従来の活物質の形成方法により製造した電極板においては,その活物質層の表面側ほど,抵抗成分である結着剤が多くなるように偏在してしまう。よって,従来の方法に係る二次電池においては,電極板の活物質層の表面付近に多く存在する結着剤が充放電を阻害することにより,出力特性が低下してしまうという問題があった。
これに対し,本形態においては,結着剤は,ペーストの乾燥前に印加される磁場により,導電材とともにペースト内を集電箔側に移動している。このため,乾燥によるマイグレーションが生じたとしても,乾燥後の活物質層の集電箔側には多くの結着剤が存在している。すなわち,活物質層の表面側には,抵抗成分である結着剤が少ないのである。これにより,本形態においては,良好な出力特性の二次電池を製造することができる。
また,本形態に係る二次電池は,「(d)サイクル寿命」についても良好である。上記の「(c)出力特性」で述べたように,従来の活物質層の形成方法では,乾燥により結着剤のマイグレーションが生じる。つまり,活物質層の集電箔付近の結着剤が少ないことにより,集電箔と活物質層との密着強度が低下するおそれがある。そして電極板において,集電箔と活物質層との密着強度が不十分であることによりこれらが剥離した場合,その剥離箇所では集電体と活物質層との間の抵抗が高くなる。このため,従来の二次電池においては,電極板の内部抵抗が上昇しやすく,サイクル寿命の短いものとなってしまうという問題があった。
しかし,本形態に係る電極板では,活物質層の集電箔に近い部分の結着剤の量が十分である。このため,本形態に係る電極板においては,集電箔と活物質層との密着強度が高い。よって,本形態においては,電極板の内部抵抗の上昇が抑制され,サイクル寿命の長い二次電池を製造することができる。
なお,上記の「2.活物質層の形成」では,「2−2.磁場の印加」後,「2−3.乾燥」を行う方法について説明している。しかし,「2−2.磁場の印加」を,「2−3.乾燥」中にも行うこととしてもよい。乾燥中にも磁場を印加することにより,その磁場に反発する導電材と強く結合している結着剤のマイグレーションを抑制する効果があるからである。すなわち,「2−2.磁場の印加」は,ペーストが流動性を有するうちに開始されていればよく,乾燥により溶媒がある程度除去されてペーストの流動性がなくなった後には行う必要がない。
本発明者らは,本発明の効果を確認するため,実施例の二次電池と比較例の二次電池とを作製し,それらを用いた試験を行った。実施例は,上記した本形態を正極板に適用した二次電池である。一方,比較例1,2の二次電池は,本形態とは異なる方法により作製した正極板を用いて構成したものである。正極板以外については,実施例および比較例1,2のいずれにおいても,同様のものを用いた。そこで,まず,実施例および比較例1,2の正極板について説明する。
実施例および比較例1,2の正極板の作製方法について説明する。実施例および比較例1,2の正極板はいずれも,以下に示す材料を用いて作製した。
集電箔:アルミニウム箔
活物質:LiNi1/3Co1/3Mn1/3
導電材:アセチレンブラック
結着剤:PVDF
溶媒 :NMP
また,これらを用いた正極板の活物質層の形成条件を以下の表1に示す。なお,表1において,斜体字は,上記した本形態とは異なる条件により行ったことを示している。
Figure 2014007037
表1中「電極材料比率」の項目は,正極用ペーストに用いた電極材料の割合を示す。また,実施例および比較例1には,正極用ペーストとして,表1中に示す電極材料比率により作製した1種類のペーストのみを用いた。一方,比較例2には,正極用ペーストとして,表1中「集電箔側」,「中央」,「表面側」で示す3種類の異なる電極材料比率のペーストを用いた。そして,比較例2の正極板は,集電箔に「集電箔側」,「中央」,「表面側」のペーストをこの順で,それぞれ均等な厚みとなるように塗工し,その後,溶媒を除去することにより作製したものである。つまり,比較例2の正極板は,3層構造の活物質層を有するものである。
表1中「ペーストの製造」の項目について説明する。正極用ペーストは,実施例および比較例1,2のいずれにおいても,特殊機化工業株式会社製の「T.K.ハイビスディスパーミックス3D−5型」の攪拌機を用いて作製した。また,実施例の「第1攪拌+第2攪拌」とは,上記した本形態の「1.ペーストの製造」と同様,活物質以外の材料の攪拌を行い,その攪拌後のペーストに活物質を添加して攪拌を行うものである。一方,比較例1,2の「一括攪拌」とは,本形態の「1.ペーストの製造」と異なり,最初から活物質を添加して攪拌を行うものである。
「第1攪拌+第2攪拌」および「一括攪拌」の詳細な手順について以下に示す。なお,結着剤と溶媒とは,これらを予め混合させた結着剤溶液として用いた。また,「一括攪拌」においては,結着剤溶液を複数回に分けてペースト中に添加しており,その割合を括弧を付して示している。
「第1攪拌+第2攪拌」
導電材+結着剤溶液
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:30分]

活物質添加
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:30分]
「一括攪拌」
活物質+導電材+結着剤溶液(30%)
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:30分]

結着剤溶液(30%)添加
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:30分]

結着剤溶液(15%)添加
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:10分]

結着剤溶液(25%)添加
[プラネタリ回転数:35rpm 攪拌時間:10分]
また,表1中「磁場の印加」の項目を「あり」としている実施例においては,上記した本形態の「2.活物質層の形成」の手順により正極板を作製した。すなわち,実施例の正極活物質層は,「2−1.塗工」,「2−2.磁場の印加」,「2−3.乾燥」の手順により形成した。一方,表1中「磁場の印加」の項目を「なし」としている比較例1,2においては,「2−1.塗工」,「2−3.乾燥」の手順により正極活物質層を形成しており,「2−2.磁場の印加」を行っていない。
また,本発明者らは,表1の条件で形成した実施例および比較例1,2のそれぞれの正極活物質層について,その厚さ方向における電極材料の分布の確認を行った。その確認方法を図5により説明する。まず,図5に破線で区切るように,集電箔上に形成した正極活物質層を,その厚さ方向(図中上下方向)に下側より「集電箔側」,「中央」,「表面側」とする。「集電箔側」,「中央」,「表面側」はいずれも等しい厚さである。また,図5中1点鎖線で示す位置,つまり「集電箔側」,「中央」,「表面側」のそれぞれの厚さ方向における中央位置を,X,Y,Zとした。
すなわち,X位置は,正極活物質層のうち,その厚さ方向について集電箔から正極活物質層の厚さの1/6の距離の位置である。Y位置は,正極活物質層のうち,その厚さ方向について集電箔から正極活物質層の厚さの1/2の距離の位置である。Z位置は,正極活物質層のうち,その厚さ方向について集電箔から正極活物質層の厚さの5/6の距離の位置である。また,「集電箔側」,「中央」,「表面側」とは,活物質層の厚さにおける以下の範囲内をいう。
集電箔側:活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間
中央:集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間
表面側:集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間
そして,実施例および比較例1,2の正極活物質層の集電箔側,中央,表面側の範囲内の位置からそれぞれ,ミクロトームにより薄膜状のサンプルを採取した。以下,これらをサンプルX,Y,Zという。また,採取したサンプルX,Y,Zの重量を測定した。次に,サンプルX,Y,Zより活物質のみを除去し,導電材および結着剤よりなる残留サンプルX,Y,Zを得てそれらの重量を測定した。活物質の除去には,塩酸と硫酸との混酸を用いた。そして,サンプルX,Y,Zのそれぞれにおける活物質の重量を,活物質の除去前の重量と活物質の除去後の残留サンプルX,Y,Zの重量とを比較することにより求めた。さらに,残留サンプルX,Y,Zについてそれぞれ熱天秤測定を行うことにより,その重量減少からサンプルX,Y,Zのそれぞれの位置における導電材の重量および結着剤の重量を求めた。以上によって求めた活物質層の集電箔側,中央,表面側のそれぞれの位置における活物質,導電材,結着剤の各重量より,電極材料の平均比率を確認した。その結果を以下の表2に示す。
Figure 2014007037
ここで,表2に示す「導電材比率」および「結着剤比率」について説明する。まず,「X(集電箔側)」,「Y(中央)」,「Z(表面側)」の各位置における「活物質層組成比率」のうちの導電材の存在比率をそれぞれX1,Y1,Z1とした。そして,表2に示す「導電材比率」は,「X(集電箔側)」については次式(1)により,「Y(中央)」については次式(2)により,「Z(表面側)」については次式(3)により求めた値である。
3*X1/(X1+Y1+Z1) (1)
3*Y1/(X1+Y1+Z1) (2)
3*Z1/(X1+Y1+Z1) (3)
また,「X(集電箔側)」,「Y(中央)」,「Z(表面側)」の各位置における「活物質層組成比率」のうち,結着剤の存在比率をそれぞれX2,Y2,Z2とした。そして,表2に示す「結着剤比率」は,「X(集電箔側)」の位置については次式(4)により,「Y(中央)」の位置については次式(5)により,「Z(表面側)」の位置については次式(6)により求めた値である。
3*X2/(X2+Y2+Z2) (4)
3*Y2/(X2+Y2+Z2) (5)
3*Z2/(X2+Y2+Z2) (6)
表2に示すように,実施例の導電材比率および結着剤比率はともに,正極活物質層のZ,Y,Xの順に高くなっている。集電箔側ほど導電材比率が高いのは,ペーストを集電箔に塗工後,その乾燥前に「磁場の印加」を行ったからである。つまり,磁場に反発した導電材が,ペースト内を集電箔側に向かって移動したためである。また,結着剤は,「第1攪拌+第2攪拌」により製造されたペーストにおいて,導電材と強く結合した状態となっている。よって,結着剤も,「磁場の印加」において,強く結合している導電材とともに,ペースト内を集電箔側に向かって移動している。このため,結着剤比率についても,正極活物質層の集電箔側ほど高くなっている。
一方,表2に示すように,比較例1の結着剤比率は,正極活物質層のX,Y,Zの順に高くなっている。これは,集電箔への塗工時においてはペースト内に一様に分布していた結着剤に,その後の乾燥においてマイグレーションが生じたことによるものである。なお,比較例1では「磁場の印加」を行っていないため,導電材比率については,正極活物質層のX,Y,Zのいずれの位置においても同じである。
また,表2に示すように,比較例2の導電材比率および結着剤比率はともに,正極活物質層のZ,Y,Xの順に高くなっている。表1において説明したように,比較例2の正極活物質層は,その集電箔側ほど,導電材比率および結着剤比率が高いペーストを用いて形成しているからである。
そして,以上のような正極活物質層を形成した正極板をそれぞれに用い,実施例および比較例1,2の二次電池を作製した。なお,上記の活物質層組成比率の確認のために用いた正極板は,二次電池を構成するためのものではない。活物質層組成比率の確認用の正極板とは別に,それぞれ同じ条件で作製した正極板を用いることにより,実施例および比較例1,2の二次電池を作製した。
また,実施例および比較例1,2の二次電池にはいずれも,負極板として,前述した「一括攪拌」により負極用ペーストを作製し,「磁場の印加」を「なし」とした従来の方法により活物質層を形成したものを用いた。負極板には,集電箔として銅箔を,活物質として炭素被覆球形化天然黒鉛を用いた。また,セパレータとしては,無機フィラーよりなる耐熱性の微多孔膜を表面に形成したポリオレフィン系のものを用いた。また,実施例および比較例1,2の二次電池の電池容量はいずれも,5Ahとした。
そして,実施例および比較例1,2の二次電池について,次のA,B,C,Dの試験を行った。
A.過充電試験
[充電電流:25A(5C) 上限電圧:20V 環境温度:60℃]
B.内部短絡試験
[短絡方法:釘刺し SOC:100%(4.1V充電) 環境温度:60℃]
C.低温出力試験
[SOC:40% 環境温度:−30℃]
D.サイクル試験
サイクル試験条件
[充放電電流:5A(1C) SOC範囲:20〜85% 環境温度:25℃]
内部抵抗(IV抵抗)測定条件
[電流:30A(6C) SOC:20% 環境温度:25℃]
「A.過充電試験」および「B.内部短絡試験」は,二次電池の温度を測定しつつ行った。そして,「A.過充電試験」では,充電開始後,最も高温となった時の温度を「最高到達温度」とした。また,「B.内部短絡試験」では,二次電池の釘刺しによる短絡後,3分経過時における温度を「3分後の温度」とし,最も高温となった時の温度を「最高到達温度」とした。「C.低温出力試験」では,二次電池からの「出力」を測定した。「D.サイクル試験」では,二次電池のサイクル試験前の内部抵抗に対する2500サイクル時の内部抵抗の比を「内部抵抗増加率」とした。これらの試験の結果を以下の表3に示す。また,表3には,それぞれの結果について,良好である場合には「○」を,そうでない場合には「×」を付している。
Figure 2014007037
まず,「A.過充電試験」および「B.内部短絡試験」の「最高到達温度」については,表3に示すように,比較例1において「×」であった。これは,比較例1の二次電池が,過充電または内部短絡によって,最終的に250℃以上もの熱暴走状態となってしまったためである。これに対し,実施例および比較例2においては「○」であった。実施例および比較例2の正極板は,表2に示すように,正極活物質層の集電箔側の結着剤比率の高いものである。よって,「(a)二次電池の内部温度上昇時の安全性」において説明したように,二次電池の温度が上昇することにより,正極活物質層の集電箔側の導電性が著しく低下する。これにより,実施例および比較例2では,過度の温度上昇が抑制されている。
「B.内部短絡試験」の「3分後の温度」については,比較例1において「×」であった。一方,実施例および比較例2においては,「○」であった。表3に示す「3分後の温度」より,比較例1は,内部短絡試験の開始後3分の間に,急激に温度が上昇していることがわかる。一方これと比較し,実施例および比較例2においては,温度の上昇が緩やかであることがわかる。内部短絡時の二次電池の温度は,電極板に,通常の充放電時と比べて大電流が流れることにより上昇する。そして,表2に示すように,比較例1の正極板は,正極活物質層の表面側の導電材比率が高い。よって,比較例1においては,正極板に内部短絡による大電流が流れてしまったことにより,急激に温度が上昇している。一方,表2に示すように,実施例および比較例2の正極板は,正極活物質層の表面側の導電材比率が低い。このため,「(b)内部短絡時の温度上昇の抑制」において説明したように,二次電池の内部温度を急激に上昇させるような大電流が流れないのである。よって,実施例および比較例2においては,内部短絡時の温度上昇が好適に抑制されている。
また,「C.低温出力試験」の結果については,比較例1,2において「×」であり,実施例においてのみ「○」であった。「(c)出力特性」において説明したように,二次電池の出力特性は,電極板の活物質層の表面側に抵抗成分である結着剤が多いほど,低くなる。つまり,表2に示すように,比較例1においては,表面側の結着剤比率が高いことにより,出力が低いのである。比較例2は,表2に示すように,正極活物質層の表面側の結着剤比率が低いものである。しかし,表2に示す結着剤比率は,図5に示す正極活物質層の表面側の中央位置Zにおける結着剤比率である。つまり,比較例2の正極活物質層の表面においては,乾燥による結着剤のマイグレーションにより,表2に示すZの位置よりも結着剤比率が高かったと考えられる。これにより,比較例2においても,出力が低かったと考えられる。これに対し,実施例の正極活物質層は,表2に示すように表面側の結着剤比率が低く,さらには,その表面においても結着剤比率が低いと考えられる。実施例の正極活物質層は,その集電箔側ほど結着剤比率が高いものだからである。よって,実施例の二次電池は,高い出力特性を有している。
「D.サイクル試験」の結果については,比較例1,2において「×」であり,実施例においてのみ「○」であった。「(d)サイクル寿命」において説明したように,サイクル試験に伴う内部抵抗の増加は,主に,電極板に剥離が生じることによるものである。そして,比較例1の正極板は,正極活物質層の集電箔側の結着剤比率が低いため,集電箔と正極活物質層との密着強度が低い。このため,比較例1においては,サイクル試験に伴い正極板に剥離箇所が発生することにより,内部抵抗が高くなっているのである。また,比較例2の正極板は,集電箔の上に3層構造の正極活物質層を形成してなるものである。このため,比較例2においては,サイクル試験に伴い3層構造の正極活物質層の層間において剥離箇所が発生することにより,内部抵抗が高くなったと考えられる。これに対し,実施例の正極活物質層は,多層構造ではなく,その集電箔側ほど結着剤比率が高い。このため,実施例においては,正極板の密着強度が高いことにより,サイクル試験における内部抵抗増加率が低い。
よって,表3に示すように,実施例の二次電池は,すべての試験の結果において良好であった。これに対し,比較例1の二次電池は,すべての試験の結果が良好ではなかった。また,比較例2のように,多層構造により本形態のような組成を有する活物質層を形成しても,本形態の効果をすべて満足させることはできなかった。なお,比較例2においては,その正極板の製造に複数の塗工工程が必要であるため,生産性の低下や製造コストが高価になるといった問題も生じる。従って,本形態により,高品質なリチウムイオン二次電池を製造できることが確認された。
ここで,本実施形態のうち「1.ペーストの製造」および「2.活物質層の形成」の一方のみを同様に実施しても,本発明の効果をすべて満足するような品質の高い二次電池を製造することはできない。本実施形態のうち,「1.ペーストの製造」のみを同様に実施しても,その後の「2.活物質層の形成」における「2−2.磁場の印加」を実施しなければ,導電材と結着剤とを集電箔側へ移動させることができないからである。また,本実施形態のうち「1.ペーストの製造」を実施しなかった場合,「2.活物質層の形成」の「2−2.磁場の印加」により,結着剤を集電箔側に好適に移動させることができない。例えば,一括混練においても,ある程度の結着剤は導電材と結合する。しかし,一括混練では,結着剤を活物質よりも導電材と強く結合させることができない。このため,磁場を印加した際に導電材とともに移動する結着剤は少ないのである。
さらに,本発明者らは,電極板の活物質層の厚さ方向における導電材および結着剤の好ましい分布について調査を行った。その調査には,上記の実施例の二次電池と同様の方法で作製した複数の二次電池を用いた。それら複数の二次電池はそれぞれ,正極活物質層の形成において磁場の印加条件を異なるものとすることにより,「X(集電箔側)」,「Y(中央)」,「Z(表面側)」の「導電材比率」および「結着剤比率」が異なるように製造したものである。そして,それら複数の二次電池を用い,上記した条件と同じ条件で「A.過充電試験」と「D.サイクル試験」とを行った。
「A.過充電試験」の結果を図6に,「D.サイクル試験」の結果を図7に示す。図6および図7の横軸はいずれも,活物質層における導電材の集電箔側への集中度R1,および,結着剤の集電箔側への集中度R2を示している。ここで,導電材の集中度R1は,正極活物質層のX(集電箔側)の位置における導電材比率(3*X1/(X1+Y1+Z1))である。また,結着剤の集中度R2は,正極活物質層のX(集電箔側)の位置における結着剤比率(3*X2/(X2+Y2+Z2))である。また,縦軸は,図6においては最高到達温度を,図7においては内部抵抗増加率(サイクル試験前の内部抵抗に対する2500サイクル時の内部抵抗の比)を示している。
図6に示す過充電試験の結果,最高到達温度は,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が1.5未満の場合に高く,1.5以上の場合に低くなっている。これより,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が1.5未満の場合には,過充電時における温度上昇の抑制効果が低いことがわかる。これは,温度上昇時に活物質層の導電性を低下させる結着剤の集電箔側への偏りが不十分であるからと考えられる。これに対し,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が1.5以上の場合には,集電箔側に存在する結着剤の量が十分であることにより,温度上昇が好適に抑制されていると考えられる。これより,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2は,1.5以上が好ましいことがわかった。
また,図7に示すサイクル試験の結果,内部抵抗増加率は,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が2.5以下の場合に低く,2.5を超えている場合に高くなっている。すなわち,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2は,2.5以下が好ましいことがわかった。導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2が2.5を超えた場合,活物質層の中央および表面側の電子伝導性が低下し過ぎたことにより,内部抵抗増加率が高くなってしまったと考えられる。よって,これらの結果より,導電材の集中度R1および結着剤の集中度R2は,1.5以上,2.5以下であることが好ましいことがわかった。
また,本形態により,溶媒として水を主体に用いる水系のペーストによって正極板を製造する場合には,さらに,集電箔の腐食を抑制することができる。前記したように,正極活物質は,リチウム遷移金属複合酸化物である。このような正極活物質が分散した水系ペーストは,正極活物質から溶出するリチウムイオンによりアルカリ性になりやすい。そして,正極板の集電箔であるアルミニウム箔は,アルカリ性のペーストによって腐食されやすい。ここで,本形態では,ペーストの塗工後に磁場を印加することにより,導電材および結着剤を集電箔側に移動させている。これにより,アルミニウム箔は導電材および結着剤と多く接触することとなるため,その分,アルミニウム箔とアルカリ性ペーストとの接触を少なくすることができる。よって,水系ペーストを用いた場合におけるアルミニウム箔の腐食を抑制することができる。
以上詳細に説明したように,本実施の形態では,電極板の活物質層を,活物質と導電材と結着剤とを溶媒中に分散させてなる電極合材ペーストを用いて形成している。電極合材ペーストは,導電材と結着剤とを溶媒とともに攪拌する第1攪拌と,第1の攪拌後のペーストに活物質を添加して攪拌する第2攪拌とにより製造されたものである。さらに,その電極合材ペーストを集電箔に塗工後,磁場を印加させ,乾燥することにより活物質層を形成する。印加する磁場は,集電箔に塗工した電極合材ペーストの,集電箔から遠い表面側ほど磁束密度の高い磁場である。そして,完成した電極板を用いることにより,高品質なリチウムイオン二次電池,すなわち,高品質な非水電解質二次電池を製造することができる。
1 電極板製造装置
2 巻出部
3 塗工部
4 磁場発生部
5 乾燥部
6 巻取部
10 集電箔
20 電極合材ペースト
21 活物質
22 導電材

Claims (3)

  1. 電極材料を溶媒中に分散させることにより電極合材ペーストを製造し,前記電極合材ペーストに基づいて形成された活物質層を有する電極板を用いて非水電解質二次電池を製造する非水電解質二次電池の製造方法において,
    前記電極材料として,少なくとも活物質と導電材と結着剤とを用い,
    前記導電材として,反磁性体のものを用い,
    前記導電材および前記結着剤を前記溶媒とともに攪拌する第1の攪拌と,
    前記第1の攪拌後のペーストに前記活物質を添加して攪拌する第2の攪拌とにより前記電極合材ペーストを製造し,
    前記電極合材ペーストを集電箔に塗工し,
    塗工した前記電極合材ペーストの前記集電箔から遠い表面側ほど磁束密度の高い磁場を印加させ,
    少なくとも前記磁場を印加させ始めた後に,前記集電箔上の前記電極合材ペーストを乾燥させることにより前記活物質層を形成して前記電極板を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
  2. 請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,
    前記磁場の印加を,前記活物質層における導電材および結着剤の集電箔側への集中度である下のR1,R2の値がいずれも1.5以上2.5以下の範囲内となるように行うことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法,
    導電材の集中度R1=3*X1/(X1+Y1+Z1)
    結着剤の集中度R2=3*X2/(X2+Y2+Z2)
    ここで,
    X1:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
    X2:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
    Y1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
    Y2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
    Z1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における導電材の平均存在比率
    Z2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における結着剤の平均存在比率
    とする。
  3. 少なくとも活物質と導電材と結着剤とからなる活物質層を集電箔上に備える電極板を有する非水電解質二次電池において,
    前記活物質層における導電材および結着剤の集電箔側への集中度である下のR1,R2の値がいずれも1.5以上2.5以下の範囲内であることを特徴とする非水電解質二次電池,
    導電材の集中度R1=3*X1/(X1+Y1+Z1)
    結着剤の集中度R2=3*X2/(X2+Y2+Z2)
    ここで,
    X1:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
    X2:集電箔の厚さ方向について,活物質層の集電箔側の位置と集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
    Y1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における導電材の平均存在比率
    Y2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの1/3の距離の位置と集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置との間における結着剤の平均存在比率
    Z1:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における導電材の平均存在比率
    Z2:集電箔の厚さ方向について,集電箔側から活物質層の厚さの2/3の距離の位置と活物質層の表層との間における結着剤の平均存在比率とする。
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