JP2013253074A - 下痢防止剤および経腸栄養剤の投与方法 - Google Patents

下痢防止剤および経腸栄養剤の投与方法 Download PDF

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Abstract

【課題】胃を介さずに直接小腸に栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する下痢防止剤を提供する。
【解決手段】ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液からなり、経腸栄養剤の経管投与前後に経管投与することを特徴とする下痢防止剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液からなり、胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する下痢防止剤に関する。
食事を取れない患者の胃や腸に管を挿入し、栄養を投与する経管栄養法において、鼻から栄養チューブを挿入して胃内や腸内まで到達させる経鼻管法と、胃壁と腹壁とに跨って穴を開けて造設された胃瘻から胃に経腸栄養剤を供給する経胃瘻法とが一般的に知られている。
鼻から栄養チューブを挿入する経鼻管法に比べて経胃瘻法は患者の精神的負担を軽くできるとして、近年経胃瘻法の普及が急速に進んでいる。
一方、胃癌等の疾病のため胃を切除している場合や胃食道逆流による誤嚥性肺炎を繰り返す場合には、この胃瘻増設による経胃瘻法は不適であり、そのような症例では、腸に増設する腸瘻を用いる経腸瘻法か、従来の鼻から栄養チューブを挿入する経鼻管法で栄養チューブの先端を小腸内まで誘導留置して栄養剤を投与する必要がある。あるいは、最近では首の付け根に穴を開けて増設する頸部食道瘻増設術が新たに開発され、この頸部食道瘻から栄養チューブの先端を小腸内まで誘導留置して栄養剤を投与することもできる。
しかしながら、経腸瘻法や経鼻管法、経頸部食道瘻法によって直接腸に経腸栄養剤を投与した場合、副作用として著しい下痢が起こることが問題となっている。また、この下痢は経管栄養を行っている患者の褥瘡(床ずれ)を悪化させることも知られており、患者本人や医療従事者の負担を増加させている。
経管栄養法における副作用を軽減する方法としては、基本的には経腸栄養剤の投与速度を落とし、ゆっくりと投与することが第一選択として行われる。しかしながら投与速度を落とすと、1回の食事(経腸栄養剤投与)に数時間もの時間がかかることもあり、これは患者の精神的、肉体的負担を増加させることはもとより、患者を長時間、起座位(上半身を起こした姿勢)で保持させることで褥瘡のリスクを高めるという弊害にもつながる。
経管栄養法における副作用を軽減するその他の方法としては、特許文献1に流動食経管摂取による嘔吐を予防するための嘔吐予防食品が開示されている。また、特許文献2には、胃の中に流動食が一定以上たまることで起こるダンピングを予防する方法が開示されている。また、特許文献3には、流動食をゲル状にすることで、胃食道逆流を抑制する胃瘻および腸瘻に適したゲル状流動食が開示されている。
しかし、特許文献1、2には、経鼻胃管栄養補給法や頸部食道腸瘻によって直接腸に経腸栄養剤を経管投与したときの下痢を防止することは記載されていなかった。また、特許文献3に記載されているようなゲル状流動食は、あくまで胃瘻や腸瘻といった比較的チューブ径が太く、チューブの長さも短いものに適した流動食であり、このようなゲル状流動食を経鼻管法や経頸部食道瘻法の極めて細く長いチューブに使用することはできなかった。
WO2000/013529 特開2000−217544 特開2008−237186
胃癌等の疾病のため胃を切除している場合や胃食道逆流による誤嚥性肺炎を繰り返す場合に、経鼻管法や経頸部食道瘻法、腸瘻栄養法によって栄養チューブ先端を小腸内まで留置して経腸栄養剤を投与することがあるが、そのような場合、胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与することにより、著しい下痢を引き起こし、さらには褥瘡を悪化させることが問題となっている。また、経鼻管法や経頸部食道瘻法は栄養チューブが極めて細く長い。そのため、チューブが詰まりやすく、高粘度の栄養剤は使用できない。そこで、経鼻管法や経頸部食道瘻法にも適用できる下痢防止剤が求められている。
そこで本発明は、胃を介さずに直接腸に経腸栄養剤を投与する際の下痢を防止し、また、経鼻管法や経頸部食道腸瘻法の細く長いチューブにも適用できる下痢防止剤を提供することを目的とする。
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液からなり、経腸栄養剤の経管投与前後に経管投与することを特徴とする下痢防止剤を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)胃を介さず直接腸へ経管投与する経腸栄養剤の経管投与前後に経管投与し、
経腸栄養剤の前記投与の際に起こる下痢を予防あるいは防止する経管投与用下痢防止剤であって、
ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液からなることを特徴とする上記経管投与用下痢防止剤、
(2)胃を介さず直接腸へ経管投与する経腸栄養剤の投与方法であって、
ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液を
直接腸へ経管投与し、その後30分以内に経腸栄養剤の投与を開始し、経腸栄養剤の投与開始後60分以内に経腸栄養剤の投与を終了する経腸栄養剤の投与方法、
(3)(1)記載の経管投与用下痢防止剤において、
前記増粘剤の有効成分が少なくともローメトキシペクチンであり、
該ローメトキシペクチンが、エステル化度5〜15%、粘度平均分子量が10000〜35000であり、
前記増粘剤を有効成分として含む溶液が、カルシウム濃度9ppm以下、粘度(25℃)1〜30mPa・sであり、
前記増粘剤を有効成分として含む溶液100mLと、
0.019mol/L塩化カルシウム、0.020mol/Lクエン酸ナトリウムを溶解させたカルシウム・ナトリウム水溶液200mLとを
混合したときの粘度(25℃)が700〜10000mPa・s、である
(1)記載の経管投与用下痢防止剤、
(4)(2)記載の経腸栄養剤の投与方法において、
前記増粘剤の有効成分が少なくともローメトキシペクチンであり、
該ローメトキシペクチンが、エステル化度5〜15%、粘度平均分子量が10000〜35000であり、
前記増粘剤を有効成分として含む溶液が、カルシウム濃度9ppm以下、粘度(25℃)1〜30mPa・sであり、
前記増粘剤を有効成分として含む溶液100mLと、
0.019mol/L塩化カルシウム、0.020mol/Lクエン酸ナトリウムを溶解させたカルシウム・ナトリウム水溶液200mLとを
混合したときの粘度(25℃)が700〜10000mPa・s、である
(2)記載の経腸栄養剤の投与方法、
である。
本発明は、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含むことを特徴とし、経管栄養実施時に胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する下痢防止剤を提供することができる。これにより、胃切除などの事情により、胃を介さずに直接小腸に栄養剤を投与しなければならない患者の負担を軽減し、長期に経管栄養法を行う患者のQOL(Quality of life)を向上させることができる。
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
本発明の下痢防止剤は、食事を取れない患者の胃や腸に管を挿入し、栄養を投与する経管栄養法において、栄養チューブの先端を小腸内まで誘導留置して、胃を介さず直接腸に栄養剤を投与する際の副作用として起こる著しい下痢を防止する下痢防止剤である。
本発明における下痢防止剤は、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む。
本発明において「ローメトキシルペクチン(以下、「LMペクチン」ともいう)」とは、エステル化度が50%以下のペクチンをいう。LMペクチンにはカルシウムと反応して粘度を上げる性質があり、本発明ではこの反応あるいは性質を利用している。すなわち、LMペクチンが経腸栄養剤の中に含まれているカルシウムと腸内で反応して粘度を上げることにより下痢を予防/防止するものである。LMペクチンとしては、例えば、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ等の柑橘ペクチンやリンゴペクチン等があげられる。
本発明に用いるLMペクチンは、経管栄養実施時に胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する観点から、経腸栄養剤1000kcalに対して3g以上とするとよく、好ましくは6g以上である。
本発明に用いるLMペクチンは、エステル化度が5〜15%であることができる。LMペクチンのエステル化度は低すぎるとカルシウムイオンとの反応時に強固な不溶性のゲルとなり消化吸収の面から好ましくないため、5%以上が好ましい。適度な粘度に増粘させる点から、LMペクチン水溶液のエステル化度を5〜15%、より好ましくは6〜13%とすることができる。
本発明に用いるLMペクチンは、平均分子量が10000〜35000、好ましくは12000〜27000とすることができる。ここで、平均分子量は極限粘度法により算出される平均分子量である。LMペクチンの平均分子量が大きすぎるとカルシウムイオンとの反応により強固な不溶性のゲルが生成され、消化吸収の面から好ましくない。適度な粘度に増粘させる点から、LMペクチン水溶液の平均分子量を35000以下、さらには27000以下、16000以下とすることができる。反対に、平均分子量が小さすぎると、LMペクチン水溶液のカルシウムイオンとの反応性が低く、経腸栄養剤を十分に増粘させることができないので、平均分子量を10000以上、さらには12000以上、14000以上とすることができる。また、LMペクチンの平均分子量を上述の範囲とすることにより、LMペクチン水溶液の粘度を、経管投与に適した30mPa・s(25℃)以下に調整することが容易となる。
本発明において、LMペクチンを用いた際の溶液(下痢防止剤)は、粘度(25℃)が30mPa・s以下、さらには10mPa・s以下とすることができる。LMペクチン溶液の粘度が高すぎると、経管投与で使用される内径1〜5mm程度のチューブを通してLMペクチン溶液を投与することが困難となるが、LMペクチン溶液の粘度を上述の範囲とすることにより、LMペクチン溶液は経管投与に適したものとなり、特に、経鼻管法や経頸部食道腸瘻法の細く長いチューブにも問題なく使用できるものとなる。なお、経腸栄養剤を適度に増粘させる点から、LMペクチン溶液の粘度(25℃)は、1mPa・s以上とすることができる。
本発明において、LMペクチンを用いた際の溶液(下痢防止剤)は、カルシウム濃度が9ppm以下とすることができる。従来の一般的なのエステル化度が10%程度のLMペクチンは、カルシウムを1000ppm以上含有するため、LMペクチンを1質量%水溶液となるように希釈した場合でも、その水溶液のカルシウム濃度は、10ppm以上になる。このような従来のLMペクチンを水溶液にすると、それを常温で10日間程度保存している間に澱が生じる。そのため、これを経腸栄養剤の増粘剤として使用する者等に品質上の不安を抱かせてしまう。また、澱がチューブに付着するとチューブの閉塞を引き起こし、チューブが詰まる危険性がある。これに対し、本発明ではLMペクチン溶液におけるカルシウム濃度を9ppm以下、さらには4.5ppm以下とすることにより、LMペクチン水溶液の保存中の澱の発生を抑制することができる。原料となるLMペクチンとして、カルシウム含量が低いものを選択することにより、あるいはLMペクチン溶液にカルシウム低減処理を施すことにより上記カルシウム濃度のLMペクチンを用いることができる。
本発明において、LMペクチンを用いた際の溶液(下痢防止剤)は、本発明のLMペクチン溶液100mLと、カルシウム・ナトリウム水溶液(塩化カルシウム0.019mol/L、クエン酸ナトリウム0.020mol/Lの水溶液)200mLとを30秒間撹拌し、LMペクチン溶液とカルシウム・ナトリウム水溶液とを混合してから5分後の粘度(25℃)をBH型粘度計で20rpm、液温25℃で測定した場合に、700〜10000mPa・s、好ましくは1400〜8000mPa・sとすることで、胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢に対し、防止効果の高い経管投与用下痢防止剤を得ることができる。
本発明において「アルギン酸」および「アルギン酸ナトリウム(以下、「アルギン酸Na」ともいう)」とは、海草から抽出して得られる親水コロイド性多糖類をいう。これら多糖類はカルシウムと反応してゲル化する性質があり、本発明ではこの反応あるいは性質を利用している。すなわち、アルギン酸およびアルギン酸Naが経腸栄養剤の中に含まれているカルシウムと腸内で反応して粘度を上げることにより下痢を予防/防止するものである。
本発明に用いるこれら多糖類は、経管栄養実施時に胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する観点から、経腸栄養剤1000kcalに対して6g以上、好ましくは9g以上である。
本発明において「カッパカラギーナン」、「イオタカラギーナン」、および「ラムダカラギーナン」とは、それぞれカッパ型、イオタ型、およびラムダ型に分類されるカラギーナンをいう。前2者はカルシウムと反応してゲル化し、粘度を上げる性質があり、また、ラムダ型のものは乳蛋白質、例えば、カゼインナトリウム、アルブミン、ホエーなどと反応してゲル化し、粘度を上げる性質がある。特に、イオタ型カラギーナンはマグネシウムとも反応してゲル化する性質があり、本発明ではこれらの反応あるいは性質を利用している。
本発明に用いる上述のカラギーナンは、経管栄養実施時に胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する観点から、経腸栄養剤1000kcalに対して0.3g以上、好ましくは0.5g以上である。
本発明において「ジェランガム」とは、シュードモナスエロデアの産生する多糖類をいう。この多糖類はカルシウムと反応してゲル化し、粘度を上げる性質があるので本発明において利用し得る。
本発明に用いる上述のジェランガムは、経管栄養実施時に胃を介さずに直接小腸に経腸栄養剤を投与する際の著しい下痢を防止する観点から、経腸栄養剤1000kcalに対して0.3g以上、好ましくは0.5g以上である。
本発明の下痢防止剤は、一態様として、上記した増粘剤の1種又は2種以上を有効成分として含む溶液からなるものである。増粘剤の組合せは任意である。ここにおいて「溶液」とは、水溶液をいう。具体的には、増粘剤を清水に溶かして溶液とするが、経鼻管法や経頸部食道腸瘻法の細く長いチューブにも適用できる観点から、増粘剤の濃度は1〜12%が好ましい。
本発明の下痢防止剤は、食品、医薬品等の配合成分の一つとして使用してもよく、あるいはそのまま食品、医薬品等として使用してもよい。本発明の下痢防止剤の様態は、流動性のある溶液であれば特に限定されないが、経鼻管法や経頸部食道腸瘻法の細く長いチューブにも適用できる観点から、25℃の時の溶液粘度が50mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下である。
なお、本発明の下痢防止剤は、その包材や容器の形態に関しては特に限定されず、例えば、ポリエチレン製やアルミ製のパウチ袋などが好ましく用いられる。
次に、本発明の下痢防止剤の製造方法について説明する。本発明の下痢防止剤は上述の原料を清水に溶解させ、所望の容器に充填密封すれば特に限定されないが、長期間保存させる場合には、好ましくは105〜121℃で5〜60分間加熱滅菌する。なお、得られた溶液を食用酸、例えばクエン酸やリン酸でpHを調整(pH3〜4)した場合は、加熱温度は90〜95℃程度にまで下げてもよい。また、LMペクチン溶液などの増粘剤を含む溶液は、容器に充填する前に、好ましくは105〜121℃に加熱し、次いで、無菌的に所望の容器に充填密封してもよい。
本発明において、「経腸栄養剤」とは、腸を介した経管栄養に使用できる栄養剤のことをいい、特に限定されず、組成の違いから分類される天然濃厚流動食、半消化態栄養剤、成分栄養剤など、また、特定の疾患用途に栄養成分を調整した肝不全用、腎不全用、糖尿病用、呼吸不全用、高度侵襲用など、さらに法律に基づいて分類された医薬品の栄養剤、食品の流動食などいずれでもよいが、日本人の食事摂取基準等に基づき、一日に必要な栄養素が過不足無く摂取できるように、蛋白質、糖質、油脂、ビタミン等の含有量を調整して経腸栄養剤だけで栄養成分が充足できるように設計した経腸栄養剤が好ましい。
本発明の下痢防止剤は、経管栄養法を実施している患者に用いることができる。その投与方法としては、経腸栄養剤を投与する前または後に、あるいは同時に本発明の下痢防止剤を経管投与することができる。例えば、下痢防止剤であるLMペクチン溶液を投与した後、通常摂取している経腸栄養剤を投与する。本発明の下痢防止剤は、このように経腸栄養剤を使用している患者に用いることができるが、その際下痢を予防/防止し得るのは、経腸栄養剤と下痢防止剤が腸内で混ざり合い、LMペクチン等の多糖類が、流動食に含まれているカチオン(カルシウム、マグネシウムなど)と、あるいは別途補充したこれらカチオン溶液中のカチオンと反応して適度にゲル化し、その結果腸内の経腸栄養剤の粘度が上昇し、下痢予防になっているものと推察される。
本発明の経腸栄養剤の投与方法は、経腸栄養剤を、胃を介さず直接腸へ経管投与する方法であって、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液を直接腸へ経管投与し、その後30分以内に経腸栄養剤の投与を開始し、経腸栄養剤の投与開始後60分以内に経腸栄養剤の投与を終了する経腸栄養剤の投与方法である。
経腸栄養剤を、胃を介さず直接腸へ経管投与する方法としては、経腸瘻法や経鼻管法、経頸部食道瘻法によって投与することができる。投与する手順としては、経腸栄養剤を投与する前または後に、あるいは同時に本発明の下痢防止剤を経管投与すればよいが、下痢防止の効果を発揮しやすい点から本発明の下痢防止剤を直接腸へ経管投与し、その後30分以内に経腸栄養剤の投与を開始し、経腸栄養剤の投与開始後60分以内に経腸栄養剤の投与を終了することが好ましい。下痢防止剤を投与後30分以上経過すると、下痢防止剤が腸から吸収あるいは排出されてしまい、その後に経腸栄養剤を投与しても腸内の経腸栄養剤の粘度上昇が十分に起こらない。また、経腸栄養剤の投与時間が60分以上になっても、同様に下痢防止剤腸から吸収あるいは排出されてしまい腸内の経腸栄養剤の粘度上昇が十分に起こらない。また、経腸栄養剤の投与時間が長いと患者の起座位保持時間が長くなり褥瘡のリスクが上がるため好ましくない。
次に、本発明を実施例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
5%LMペクチン溶液を100mLずつアルミパウチに充填密封し、110℃で30分間加熱滅菌し、本発明の下痢防止剤とした。
〔実施例2〕
5%LMペクチン溶液にクエン酸溶液を加え、pHを4.0に調整し、95℃以上で10分間加熱し、アルミパウチ袋に50mlずつホットパックし、本発明の下痢防止剤とした。
〔実施例3〕
1%イオタカラギーナン溶液を100mLずつアルミパウチに充填密封し、110℃で30分間加熱滅菌し、本発明の下痢防止剤とした。
〔実施例4〕
4%ラムダカラギーナン溶液を100mLずつアルミパウチに充填密封し、110℃で30分間加熱滅菌し、本発明の下痢防止剤とした。
〔実施例5〕
7%アルギン酸ナトリウムとLMペクチン(2対1)溶液にクエン酸溶液を加え、pHを3.8に調整し、アルミパウチ袋に100mLずつ充填し、95℃で10分間加熱し、本発明の下痢防止剤とした。
〔試験例1〕
本発明の下痢防止剤の経腸栄養剤に対する増粘効果を確認した。具体的には、市販の経腸栄養剤(1kcal/mL:カルシウム60mg/100mL含有)400mLに実施例1〜5の下痢防止剤100mLを加え、スパーテルで100回撹拌したものをBH形粘度計(25℃;ローターNo.2、20rpm)で、5回転後の示度から粘度を測定した。試験結果を表1に示す。
表1より、実施例1〜5の下痢防止剤は同程度に経腸栄養剤を増粘させる効果があることが確認できた。
〔試験例2〕
胃切除後の脳梗塞症例において頸部食道瘻増設を行い、栄養チューブの先端を空腸内に留置し経管栄養を実施した。この患者において、実施例1の下痢防止剤100mLを投与した後、すぐに経腸栄養剤(ジャネフK−LEC)400mL(400kcal)を経管投与した。なお、1回の経腸栄養剤の投与時間を20〜30分で行い、この栄養管理を1日3回、約9ヵ月間継続した。
試験例2の症例は、試験期間に下痢や褥瘡の症状はみられなかった。また、良好な経管栄養管理が実施でき、栄養状態が良好に維持された。さらに、毎回30分以内という短時間の投与時間により、患者の起座位保持時間が短くなり患者本人や医療従事者の負担が軽減した。
〔試験例3〕
アルコール性脳神経障害と脳内出血にて経口困難となった胃切除後症例において頸部食道瘻増設を行い、栄養チューブの先端を空腸内に留置し経管栄養を実施した。この患者において、実施例1の下痢防止剤100mLを投与した後、すぐに経腸栄養剤(ジャネフK−LEC)300mL(300kcal)を経管投与した。なお、1回の経腸栄養剤の投与時間20〜30分で行い、この栄養管理を1日3回、約2週間継続した。
試験例3の症例は、試験期間に下痢や褥瘡の症状はみられなかった。毎回30分という短時間の投与時間により、患者の起座位保持時間が短くなり患者本人や医療従事者の負担が軽減した。また、良好な経管栄養管理が実施でき、栄養状態が良好に維持され、経口摂取可能となり退院することができた。
〔実施例6〕
エステル化度7%のLMペクチンを用いて、3%LMペクチン溶液を作成し、100mLずつアルミパウチに充填密封し、110℃で30分間加熱滅菌し、本発明の下痢防止剤とした。
〔実施例7〕
エステル化度11%のLMペクチンを用いて、3%LMペクチン溶液を作成し、100mLずつアルミパウチに充填密封し、110℃で30分間加熱滅菌し、本発明の下痢防止剤とした。
〔試験例4〕
実施例6および7で使用したLMペクチンについて、極限粘度法により、平均分子量を次のように測定した。
即ち、3%LMペクチン水溶液を0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液にて希釈し試料溶液を作成した。具体的には、BL型粘度計(東機産業株式会社製)ローターNo.10、12rpm、25℃の条件で測定した粘度が20mPa・s未満の時は、3%LMペクチン水溶液原液を40mL、20mL、10mL、5mL15mL、7.5mL、2.5mL正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に40mLとした溶液を試料溶液とした。また、BL型粘度計で測定した粘度が20mPa・s以上の時は、3%LMペクチン水溶液原液を8mL、4mL、2mL、1mL正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に40mLとした溶液を試料溶液とした。この試料溶液および0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液(ブランク)について、日本薬局方(第十五改正)一般試験法の粘度測定法(第1法毛細管粘度計法)により20.0±0.1℃で比粘度を測定し(式(A))、各濃度における還元粘度を算出した(式(B))。還元粘度を縦軸に、試料溶液のLMペクチン濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求めた。ここで求められた極限粘度をOwensの式(式(C))に代入し、平均分子量を算出した(H.
S. Owens, H. Lotzkar, T. H. Sxhultz, W. D. Maclay J. Am. Chem. Soc. 1946, 68 (8)1628-1632.)。
測定の結果、実施例6および実施例7の平均分子量はそれぞれ14808(実施例6)、15802(実施例7)であった。
〔試験例5〕
実施例6および7の溶液(下痢防止剤)について、経腸栄養剤に対する増粘効果、カルシウム濃度、粘度(25℃)、カルシウム・ナトリウム水溶液との反応性を測定した。結果を表2に示す。
経腸栄養剤に対する増粘効果は試験例1と同様の方法で測定した。
LMペクチン溶液のカルシウム濃度は、ICP発光分光分析法により測定した。
LMペクチン溶液の粘度(25℃)は、BL型粘度計(東機産業株式会社製)でローターNo.10、12rpm、液温25℃で測定した。
カルシウム・ナトリウム水溶液との反応性は、以下の方法で測定した。
塩化カルシウム・二水和物0.019mol/L、クエン酸ナトリウム・二水和物0.020mol/Lのカルシウム・ナトリウム水溶液を調製した。
LMペクチン溶液100mLとカルシウム・ナトリウム水溶液200mLとの合計300mLを500m300mLビーカーに計りとり、30秒間撹拌し、LMペクチン溶液とカルシウム・ナトリウム水溶液とを混合してから5分後の粘度をBH型粘度計(株式会社東京景計器株式会社製)でローターNo.2、20rpm、液温25℃で測定した。

Claims (4)

  1. 胃を介さず直接腸へ経管投与する経腸栄養剤の経管投与前後に経管投与し、
    経腸栄養剤の前記投与の際に起こる下痢を予防あるいは防止する経管投与用下痢防止剤であって、
    ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液からなることを特徴とする上記経管投与用下痢防止剤。
  2. 胃を介さず直接腸へ経管投与する経腸栄養剤の投与方法であって、
    ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナン、およびジェランガムから選択される1種又は2種以上の増粘剤を有効成分として含む溶液を
    直接腸へ経管投与し、その後30分以内に経腸栄養剤の投与を開始し、経腸栄養剤の投与開始後60分以内に経腸栄養剤の投与を終了する経腸栄養剤の投与方法。
  3. 請求項1記載の経管投与用下痢防止剤において、
    前記増粘剤の有効成分が少なくともローメトキシペクチンであり、
    該ローメトキシペクチンが、エステル化度5〜15%、粘度平均分子量が10000〜35000であり、
    前記増粘剤を有効成分として含む溶液が、カルシウム濃度9ppm以下、粘度(25℃)1〜30mPa・sであり、
    前記増粘剤を有効成分として含む溶液100mLと、
    0.019mol/L塩化カルシウム、0.020mol/Lクエン酸ナトリウムを溶解させたカルシウム・ナトリウム水溶液200mLとを
    混合したときの粘度(25℃)が700〜10000mPa・s、である
    請求項1記載の経管投与用下痢防止剤。
  4. 請求項2記載の経腸栄養剤の投与方法において、
    前記増粘剤の有効成分が少なくともローメトキシペクチンであり、
    該ローメトキシペクチンが、エステル化度5〜15%、粘度平均分子量が10000〜35000であり、
    前記増粘剤を有効成分として含む溶液が、カルシウム濃度9ppm以下、粘度(25℃)1〜30mPa・sであり、
    前記増粘剤を有効成分として含む溶液100mLと、
    0.019mol/L塩化カルシウム、0.020mol/Lクエン酸ナトリウムを溶解させたカルシウム・ナトリウム水溶液200mLとを
    混合したときの粘度(25℃)が700〜10000mPa・s、である
    請求項2記載の経腸栄養剤の投与方法。
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