JP2013252129A - フライ用油脂 - Google Patents

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Abstract

【課題】 食品としての風味を損なうことなく、連続的なフライ調理時の酸価上昇を抑制したフライ用油脂を提供すること。
【解決手段】油脂にナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を混合した、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有することを特徴とする、連続的なフライ調理時の酸価上昇が抑制されたフライ用油脂。ナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有するように混合することを特徴とする、フライ用油脂の連続的なフライ調理時の酸価上昇抑制方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、連続的なフライ調理時の酸価上昇を抑制したフライ用油脂に関する。
油脂は、酸素、光、熱などによって、酸化、分解、重合、加水分解反応を起こし、着色やにおいの発生、発煙といった劣化を生じることが知られている。特にフライ調理の場合、熱や酸素による酸化反応と、水分と熱による加水分解反応とが複合的に重なり合うため、劣化が速く進行し、揚げ物の風味や外観に悪影響を及ぼす。そのため、フライ油は短期間で廃棄・交換しなければならず、経済的、環境的に負担が大きく、フライ油の劣化抑制技術が必要とされている。
フライ油の劣化を抑制する技術として、使用後の食用油を対象に、ろ過や吸着剤などで劣化成分を除去させる方法(特許文献1)、あるいは、揚げ物槽内の油中に電解液を電気分解することにより水素を供給するための水素供給手段を備えたフライヤー(特許文献2)、水槽部とその上方の油槽部からなる揚げ物槽を有し、揚げかすが油槽部を通過して水槽部に沈降していくようにした揚げ物器(特許文献3)などフライヤーのハード面での改良は進んでいる。
一方、フライ油自身の改良は遅れており、主に酸素や熱によって起こる酸化劣化を抑制するための発明、例えば、リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有し、トコフェロール類中にδ-トコフェロールを27質量%以上の量で含有する、トコフェロール類が50〜2700ppmの量で添加された加熱調理用食用油脂(特許文献4)など、抗酸化剤を用いる方法が主流である。
弁当及びそうざいの衛生規範にて、揚げ物処理中の油脂の交換の指標の一つとして、酸価2.5と定められている。フライヤー稼動時間の中で、フライ時間の長い業態では、油脂の劣化の中でも、酸価の上昇が速く、酸価を指標としてフライ油の廃棄時期を管理している。また、酸価が過度に上昇すると、発煙や目や鼻への刺激などの現象を伴うことがある。
これらの劣化を抑制する方法としては、フィチン酸金属塩を添加することで油脂の加水分解を防止する方法(特許文献5)、ステアリン酸カルシウムなどのカルシウム塩を添加することで、油脂の加熱の際の油煙の発生を抑制する方法(特許文献6)などがある。しかし、特許文献5・6に記載の方法は、食品添加物として認可されていない物質の利用や、揚げ種に悪影響を及ぼしかねない程の添加量が必要である等、実際にフライ調理の現場で使用することは難しい。
さらには、原子吸光光度法による定量により、ナトリウム、カリウムから選ばれる1以上の成分を油脂に0.1〜1μmol/g含有する(ナトリウムとして2.3〜23ppmに相当)ことを特徴とする、加熱による酸価の上昇が抑制された加熱調理油脂が開発されている(特許文献7)。
しかし、特許文献7では、加熱による酸価の上昇抑制のみに着目しており、油脂の着色や風味等の変化や調理品(揚げ物)への影響の有無など、実用性を考慮した評価が行われていない。
特開2005−213309号公報 特開2003−24219号公報 特開平8−33579号公報 特開2011−55825号公報 特開昭54−081309号公報 特開2008−019432号公報 特許第4798310号公報
本発明の目的は、食品としての風味を損なうことなく、連続的なフライ調理時の酸価上昇を抑制したフライ用油脂を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を油脂中に0.5〜2.0mg/kg含有させることで、食品の風味を損なうことなく、また、フライ油の着色を促進せずに、酸価の上昇を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明者らは、本発明の検討過程において、ナトリウムおよび/またはカリウムを高濃度(3.0mg/kg以上、特に9.0mg/kg以上)に添加したフライ油は、着色が顕著に速いこと、フライ調理中にフライ油脂から添加剤由来の不快臭の発生が観察されること確認している(比較例1〜5参照)。
本発明は以下に記載する、連続的なフライ調理時の酸価上昇を抑制するフライ用油脂、および方法に関する。
1.油脂にナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を混合した、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有することを特徴とする、連続的なフライ調理時の酸価上昇が抑制されたフライ用油脂。
2.ナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有するように混合することを特徴とする、フライ用油脂の連続的なフライ調理時の酸価上昇抑制方法。
本発明により、連続的なフライ調理時の酸価上昇を抑制したフライ用油脂、すなわち劣化が遅いフライ用油脂を提供することができる。
本発明のフライ用油脂を使用することで、フライヤー稼動時間の中で、フライ調理時間の長い業態において、油脂の劣化が抑制されるため、フライ用油脂の使用期間の延長が可能となる。この技術は、風味の良い揚げ物を提供することができるにとどまらず、広く揚げ物の工業生産の合理化に寄与するものである。また、フライ油の劣化による品質の低下が抑制されることで、より長時間加熱調理に使用できるため、油脂の交換頻度を減らすことができ、廃棄油脂の削減によって環境への負荷を軽減させることができる。
本発明のフライ用油脂は連続的なフライ調理時の酸価上昇が抑制されたフライ用油脂であり、フライ調理時間の長い業態において、油ちょうして製造されるあらゆるフライ食品(揚げ物)がフライ調理の対象となる。フライ調理時間の長い業態とは、フライ油を1回の使用で廃棄することなく、1日のフライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を足し(この操作を「差し油」、「足し油」等という)、酸価が2.5に達するまでの一定期間、油を取り替えることなく使用するような業態のことである。
本発明のフライ用油脂を得るのに使用できる原料油脂は、特に限定がなく、食用として用いられるものであればよい。たとえば、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、パーム油、米油、小麦胚芽油、オリーブ油、ゴマ油等、およびこれらの高オレイン油、それらの分別油、硬化油、エステル交換油等が挙げられる。これらの中から選ばれる1種または2種以上を混合してもよい。さらには、これらの油の中で、リン脂質や遊離脂肪酸を含まない、高度に精製されたものが好ましく、通常140〜240℃程度の使用温度におかれるフライ調理に適した油脂であるのが好ましい。
本発明のフライ用油脂は、ナトリウム、カリウムから選ばれる1以上の成分を油脂中に含有することを特徴とする。
油脂中へナトリウムおよび/またはカリウムを含有させる形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、これらは、水溶性、油溶性を問わないが、食品添加物として利用可能なものを選択することが望ましい。
具体的には、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、カゼインナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。この中でも炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムが好ましい。
上記のナトリウム塩、カリウム塩を油脂に含有させる方法は、乳化剤を併用して溶解もしくは均一分散させる方法や脱水処理等の公知の手法を用いることができる。油脂中のナトリウム、カリウムの含有量は、下記の分析法で管理することができる。
[分析法1]
〈油脂中のナトリウム、カリウム含有量の定量方法〉
乾式灰化法にて試料を調製し、ICP発光分析法により定量する。なお、定量下限0.5mg/kgで実施する。試験法の詳細は「2.1.1.21乾式分解 2.1.1.3 一斉分析法、衛生試験法・注解、2010年度版、日本薬学会編」を参照すればよい。
また、ICP発光分析法に替えて、原子吸光光度法による定量も可能である。原子吸光光度法による定量を行う際には、「2.1.1.21乾式分解 2.1.1.4 各個試験、衛生試験法・注解、2010年度版、日本薬学会編」を参照すればよい。
油脂中のナトリウムおよび/またはカリウムの含有量が、上記分析法にて、0.5〜2.0mg/kgであることで、連続的なフライ調理において、フライ油の着色を促進することなく酸価上昇を抑制するという効果を発揮することができる。
一方、油脂中のナトリウムおよび/またはカリウムの含有量が、上記分析法にて、2.0mg/kgより多くなると、フライ油の着色が促進され、特に9.0mg/kgより多くなると、フライ油の着色が著しく促進され、さらにはフライ調理中にフライ油から添加剤由来の不快臭が強く感じられるようになるため、好ましくない。
また、油脂中のナトリウムおよび/またはカリウムの含有量が、上記分析法にて、2.0mg/kgより多くなると、油脂の酸価上昇抑制効果は弱まり、特に5.0mg/kgより多くなると、逆に油脂の酸価上昇を促進する現象が見られるようになるため、好ましくない。
ここで、油脂の酸価上昇抑制効果とは、ナトリウムおよび/またはカリウムを含有させない場合と比較した酸価の抑制率である。また、油脂の着色度とは、ナトリウムおよび/またはカリウムを含有させない場合と比較したフライ調理による油脂の着色度合いの促進率であり、何れも以下の分析法により算出し、評価することができる。
[分析法2]
〈油脂の酸価上昇抑制効果の算出・評価方法〉
1.油脂の酸価を基準油脂分析法(2.3.1-酸価、基準油脂分析法(I)、日本油化学会制定、1996年度版、社団法人日本油化学会)に従って分析する。
2.ナトリウム/カリウムを含まないフライ油(対照品)の酸価をA、同じ油にナトリウム/カリウムを含む油の酸価をBとし、
「酸価上昇抑制効果(%)=(A-B)×100/A」
を算出する。
3.評価は、酸価上昇抑制効果(%)で行う。酸価上昇抑制効果(%)が正の値の場合は、対照品に比べて酸価の上昇を抑制していることを示している。特に酸価上昇抑制効果が10%以上である場合は酸価の上昇が効果的に抑制されており、好ましいといえる。
〈油脂の着色度の算出・評価方法〉
1.油脂の着色度合いを基準油脂分析法(2.2.2.1-色(ロビボンド法)、基準油脂分析法(I)、日本油化学会制定、1997年度版、社団法人日本油化学会)に従って、1インチセルを使用して分析する。
2.上記ロビボンド法での分析値を「Y値+R値×10」として数値化する。
3.ナトリウム/カリウムを含まないフライ油(対照品)の色(Y値+R値×10)をC、同じ油にナトリウム/カリウムを含む油の色(Y値+R値×10)をDとし、「着色度(%)=(D−C)×100/C」を算出する。
4.評価は、着色度(%)で行う。着色度(%)が正の値の場合は、対照品よりも着色していることを示しており、特に着色度が20%を超える場合は着色が明らかに促進しているため、好ましくないといえる。すなわち、着色度は20%未満であることが好ましく、15%未満であることがより好ましい。
また、本発明のフライ用油脂には、必要に応じて、食用乳化剤、酸化防止剤、シリコーン等を添加することができる。
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
試験1〜7で使用した試料の詳細は以下の通りである。
キャノーラ油:昭和キャノーラ油(昭和産業製)
大豆油:グリーンサラダ油(昭和産業製)
乳化剤:サンソフトNo.818R(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル製剤)(太陽化学製)
炭酸ナトリウム(炭酸Na):特級炭酸ナトリウム(無水)(和光純薬製)
炭酸カリウム(炭酸K):特級炭酸カリウム(無水)(和光純薬製)
クエン酸三ナトリウム(クエン酸三Na):特級クエン酸三ナトリウム(二水和物)(和光純薬製)
リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸二Na):特級リンゴ酸二ナトリウム水和物(東京化成製)
[試験1:実施例1〜2、比較例1〜2]
30%炭酸ナトリウム水溶液を調製し、この水溶液を、乳化剤と共に、キャノーラ油へ添加し、ナトリウム含有フライ用油脂を調製した。表1のナトリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。なお、表中のナトリウム含有量(表中では「Na含有量」と表記)「<0.5」とは「検出せず(定量下限0.5mg/kg)」を意味する(以下同様)。また、対照区1は、ナトリウム含有フライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。
上記油脂組成物について、以下のフライ試験を行った。マッハフライヤーに試験油を3.5kg張り込み、油温を180℃±5℃に加熱し、30分毎に、冷凍コロッケ2個を5分間揚げた。40時間目のフライ油の酸価と着色を測定し、対照区1に対する酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。結果を表1に示す。
[試験2:実施例3〜4、比較例3]
実施例1と同様に、ナトリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例1と同様にフライ試験を実施した。対照区2はナトリウム含有フライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。また、表2のナトリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。
フライ試験40時間目のフライ油の酸価と着色を測定し、対照区2に対する酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。結果を表2に示す。
なお、試験2では、試験1で使用したキャノーラ油と製造ロットが異なるキャノーラ油を使用した。以下同様に、試験毎に、異なる製造ロットの原料油脂を使用した。
試験1の結果から、ナトリウム含有量が0.5〜2.0mg/kgの油脂はフライ調理における酸価上昇が効果的に抑制され、油脂の着色度も対照区1と差が無いといえる範囲であった(実施例1〜2)。一方、比較例1では、対照区1よりも酸価は小さいが上昇抑制の効果があるといえるレベルではなかった上に、着色が促進されて好ましくない状態であった。特に、ナトリウム含有量が5.0mg/kg以上の油脂では、酸価上昇抑制効果は見られず、着色も促進されることがわかった(比較例2)。
試験2は、原料油脂に、製造ロットの異なるキャノーラ油を用いた試験である。試験2の結果は、試験1と同様に、ナトリウム含有量が0.5〜2.0mg/kgの油脂はフライ調理における酸価上昇が効果的に抑制され、油脂の着色度も対照区2と差が無いといえる範囲であった(実施例3〜4)。一方、ナトリウム含有量が9.0mg/kg以上の油脂では、酸価の上昇を促進することと、著しい着色が起こることが確認された(比較例3)。特に、比較例3では、加熱直後のフライ調理開始前の状態から着色が始まることが観察されたことから、添加剤(炭酸ナトリウム)の過剰添加によるものと推定された。
[試験3:実施例5〜6]
30%炭酸ナトリウム水溶液の替わりに、30%炭酸カリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様にカリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例1と同様にフライ試験を実施した(実施例5)。また、30%炭酸ナトリウム水溶液の替わりに、30%クエン酸三ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様にナトリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例1と同様にフライ試験を実施した(実施例6)。対照区3には、これらフライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。また、表3のナトリウム/カリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。
フライ試験40時間目のフライ油の酸価と着色を測定し、対照区3に対する酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。結果を表3に示す。
ナトリウムに替えて、カリウムを含有するフライ用油脂でも、着色に悪影響を及ぼさずに、酸価の上昇を抑制する効果を確認した(実施例5)。また、炭酸ナトリウム以外のナトリウム化合物でも着色に悪影響を及ぼさずに、酸価の上昇を抑制する効果があることを確認した(実施例6)。
[試験4:実施例7]
30%炭酸ナトリウム水溶液の替わりに、30%リンゴ酸二ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様にナトリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例1と同様にフライ試験を実施した(実施例7)。対照区4には、このフライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。また、表4のナトリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。
フライ試験40時間目のフライ油の酸価と着色を測定し、対照区4に対する酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。結果を表4に示す。
試験4の結果から、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム以外のナトリウム化合物でも着色に悪影響を及ぼさずに、酸価の上昇を抑制する効果があることを確認した(実施例7)。
[試験5:実施例8、比較例4]
キャノーラ油の替わりに、大豆油を用いた以外は、実施例1と同様にナトリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例1と同様にフライ試験を実施した。対照区5はナトリウム含有フライ用油脂の調製に用いた大豆油と同ロットのものを用いた。また、表5のナトリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。
フライ試験40時間目のフライ油の酸価と着色を測定し、対照区5に対する酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。結果を表5に示す。
試験5の結果から、原料油脂の油種に関係なく、ナトリウム含有量が0.5〜2.0mg/kgの油脂は、着色に悪影響を及ぼさずに、酸価の上昇を抑制する効果を確認した(実施例8)。
[試験6:実施例9、比較例5]
実施例1と同様に、ナトリウム含有フライ用油脂を調製した。表6のナトリウム含有量は、ICP発光分析での定量値を記載した。対照区6はナトリウム含有フライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。
いわゆる業務用途で使われるフライ油(業務用フライ油)の場合、油はフライヤー中で連続的に種物に吸収されて減少する。そのため、短時間毎に差し油をする必要があり、差し油をしない系と比較して、酸価上昇が遅くなると言われている。
試験6では、上記油脂組成物について、実際の業務用フライ油脂の使用を想定して、以下のフライ試験を行った。
マッハフライヤーに試験油を3.5kg張り込み、油温を180℃±5℃に加熱し、1時間毎に冷凍コロッケ5個を5分間揚げた。10時間毎に油をろ過して揚げカスを除去した後に残油量を計測し、3.5kgとなるように差し油をした。フライ試験60時間目に、差し油をしない状態でのフライ油の酸価と着色を測定し、酸価上昇抑制効果(%)と着色度(%)を算出した。また、フライ調理開始1日目に、コロッケをフライ調理している間のにおいの強さの官能評価を行った。においの強さは、対照区6と同等であれば「○」、弱い場合は「◎」、強い場合は「△」と表記した。結果を表6に示す。
試験6の結果から、実際の業務用フライ油の使用を想定した差し油をした系でも、ナトリウム含有量が0.5〜2.0mg/kgの油脂は、着色に悪影響を及ぼさずに酸価の上昇を抑制できることが確認され、フライ調理中のにおいの強さも、対照区6と差がないといえる範囲であった(実施例9)。一方、ナトリウム含量が10mg/kg以上の油脂では、酸価の上昇を促進することと、著しい着色が起こることに加えて、フライ調理中のにおいも強くなることが確認された(比較例5)。比較例5のフライ調理中のにおいは、具体的には、薬品臭や不快な甘いにおいであった。
[試験7:実施例10]
30%炭酸ナトリウム水溶液の替わりに、30%リンゴ酸二ナトリウム水溶液を用いた以外は実施例1と同様にナトリウム含有フライ用油脂を調製し、実施例9と同様にフライ試験を実施した(実施例10〜11)。対照区7には、このフライ用油脂の調製に用いたキャノーラ油と同ロットのものを用いた。結果を表7に示す。
試験7の結果から、炭酸ナトリウム以外のナトリウム化合物でも、実際の業務用フライ油の使用を想定した差し油をした系において、ナトリウム含有量が0.5〜2.0mg/kgの油脂は、着色に悪影響を及ぼさずに酸価の上昇を抑制できることが確認され、フライ調理中のにおいの強さも、対照区7と差がないといえる範囲であった(実施例10〜11)。
フライヤー稼動時間の中で、フライ時間の長い業態において、フライ油の劣化が遅い製品、いわゆる酸価の上昇が遅いフライ油を提供することができる。
業務用フライ油が使用される食品工場や店舗の調理場では、天ぷら、コロッケ、唐揚げ、カツ、魚フライなどの様々な揚げ物を製造する。このような調理場では、家庭でフライ調理する場合と異なり、フライ油を1回の使用で廃棄することはなく、1日のフライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を差し油により追加し、酸価が2.5に達するまでの一定期間、油を取り替えることなく使用する。
業態によって、揚げ種の種類や揚げ個数が異なるため、差し油量や油の交換の頻度は異なるが、フライ油の劣化が抑制されれば、フライ用油脂組成物の使用期間の延長が可能となり、風味の良い揚げ物を提供することができるにとどまらず、広く揚げ物の工業生産の合理化に寄与するものである。すなわち、フライ油の酸化による品質の低下が抑制され、加熱による色調の悪化が抑制され、より長時間加熱調理に使用できるため、業務用フライ油を使用する幅広い業態において、油脂の交換頻度を減らすことができ、廃棄油脂の削減によって環境への負荷を軽減させることができる。

Claims (2)

  1. 油脂にナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を混合した、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有することを特徴とする、連続的なフライ調理時の酸価上昇が抑制されたフライ用油脂。
  2. ナトリウムおよび/またはカリウムを含有する添加物を、ICPによる定量により、ナトリウムおよび/またはカリウムとして0.5〜2.0mg/kg含有するように混合することを特徴とする、フライ用油脂の連続的なフライ調理時の酸価上昇抑制方法。
























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