JP2013251333A - 熱電変換素子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】有機酸を含む電解質溶液を用いてアルミニウム基板を陽極酸化処理する工程、得られた陽極酸化アルミニウム基板を、該有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理する工程、アニール処理した陽極酸化アルミニウム基板上に熱電変換材料を成膜して熱電変換層を形成する工程、及び、該熱電変換層をアニール処理する工程、を含む熱電変換素子の製造方法、及び当該方法により得られた熱電変換素子。
【選択図】図1
Description
非特許文献1には、熱電変換材料としてZnAlOを用いて、特許文献1にはBi等を含む熱電材料を用いて、内部に気孔構造を形成することで熱伝導率を低下させる方法が記載されている。特許文献2〜4には、陽極酸化アルミニウム基板を熱電変換モジュールの基板として用いることが提案されている。また、非特許文献2には、陽極酸化アルミニウム基板上にフラッシュ蒸着法によりBiSbTe材料を成膜することで、多孔質状の薄膜が得られること、及び当該薄膜は石英基板上に同じ金属材料で形成した薄膜と比較して熱伝導率が低下することが報告されている。
しかしながら、これらの素子では導電率やゼーベック係数が十分とはいえなかった。
まず、熱電変換性能を向上させるため、熱電変換層のアニール処理(結晶化処理)について検討した。従来の製法どおり、アルミニウム基板を無機酸で陽極酸化処理し、この上に熱電変換層を形成し、熱電変換層をアニール処理したところ、基板に変形(膨張/収縮)が生じ、これにより熱電変換層にひび、われ等が発生することがわかった。さらに、この素子では、熱電変換層に白濁・黄変等が見られ、ゼーベック係数が低下していた。本発明者らはこれらの現象に着目し、陽極酸化処理に用いた酸が基板上に残留し、これが熱電変換層のアニール処理時に熱分解等していることが原因ではないかと考えた。特に、硫酸やリン酸等の無機酸を使用しているため、これらから生じた硫黄元素やリン元素が予期せぬドーピング作用を熱電変換層に及ぼし、その結果、ゼーベック係数が低下させるのではないかと考えられた。
そこで、本発明者らは、熱電変換層のアニール処理を行っても良好なゼーベック係数得られる熱電変換素子の製造方法、特に陽極酸化アルミニウム基板の製造工程についてさらに検討を行った。その結果、アルミニウム基板の陽極酸化を従来の無機酸ではなく有機酸の浴中で行い、得られた陽極酸化アルミニウム基板を有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理しておくことで、その後、基材上の熱電変換材料の成膜の際に、アニール処理しても熱電変換層にひびや割れが発生せず、しかも高い導電率とゼーベック係数とを備えた熱電変換素子が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき成されたものである。
<1> 有機酸を含む電解質溶液を用いてアルミニウム基板を陽極酸化処理する工程、得られた陽極酸化アルミニウム基板を、該有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理する工程、アニール処理した陽極酸化アルミニウム基板上に熱電変換材料を成膜して熱電変換層を形成する工程、及び、該熱電変換層をアニール処理する工程、を含む熱電変換素子の製造方法。
<2> 前記陽極酸化アルミニウム基板をアニール処理する工程が、250℃以上400℃未満で行われることを特徴とする<1>項記載の熱電変換素子の製造方法。
<3> 前記有機酸がシュウ酸であることを特徴とする<1>又は<2>項記載の熱電変換素子の製造方法。
<4> 前記陽極酸化アルミニウム基板上に熱電変換層を形成する工程の前に、陽極酸化アルミニウム基板にコロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、及び電子線照射処理から選ばれるいずれかの処理を行うことを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項記載の熱電変換素子の製造方法。
<5> 前記熱電変換層を形成する工程において、熱電変換材料の成膜が、気相蒸着法又は印刷法により行われることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載の熱電変換素子の製造方法。
<6> 前記熱電変換材料として、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)、Pb(鉛)、Se(セレン)、Zn(亜鉛)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、Ge(ゲルマニウム)、及びFe(鉄)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1項に記載の熱電変換素子の製造方法。
<7> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱電変換素子。
性能指数ZT=S2・σ・T/κ (A)
S(V/K):熱起電力(ゼーベック係数)
σ(S/m):導電率
κ(W/mK):熱伝導率
T(K):絶対温度
(1)有機酸を含む電解質溶液を用いてアルミニウム基板を陽極酸化処理する工程:[基板の陽極酸化処理工程]
(2)得られた陽極酸化アルミニウム基板を、電解質溶液に用いた有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理する工程:[基板のアニール処理工程]
(3)アニール処理後の陽極酸化アルミニウム基板上に、熱電変換材料を成膜して熱電変換層を形成する工程:[熱電変換層の成膜工程]
(4)形成した熱電変換層をアニール処理する工程:[熱電変換層のアニール処理工程]
上記(1)〜(4)の各工程の前後には、必要により他の工程が追加されてもよい。
また、陽極酸化処理の電解質溶液として無機酸浴ではなく有機酸浴を用い、陽極酸化処理後に基板を有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理することで、基板上に残留した酸が除去される。これにより、熱電変換層のアニール処理時に起こる、酸の熱分解物等による熱電変換層への悪影響を防ぐことができる。また、陽極酸化処理の電解液に無機酸を使用しないため、硫酸やリン酸由来の硫黄元素やリン元素によって熱電変換層に制御できないドーピング作用が生じることも防止できる。
その結果、熱電変換層にアニール処理を施してもゼーベック係数が低下することなく、高い導電率とゼーベック係数とを備えた熱電変換素子を製造することができる。
以下、図面を適宜参照して、本発明の製造方法の各工程を詳細に説明する。
本発明では、熱電変換素子の基板として、陽極酸化アルミニウム基板を用いる。これは、アルミニウム基板に陽極酸化処理を施して、基板表面に多孔質の陽極酸化皮膜を形成させることで得られる。
アルミニウムの陽極酸化皮膜は、基底層であるバリアー層とその上に形成された多孔質層とからなり、多孔質層は規則的に配列した複数の細孔(マイクロポア)を有している。本発明の熱電変換素子では、この多孔質層の上に熱電変換層が成膜される。
陽極酸化皮膜の構造の一例を図2に示す。アルミニウム陽極酸化皮膜14には、断面形状が略直管形状で、ハニカム状に配列するマイクロポア16が形成されている。
陽極酸化に用いるアルミニウム基板は特に限定されず、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板、低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に高純度アルミニウムを蒸着させた基板、シリコンウエハ、石英、ガラス等の表面に蒸着、スパッタ等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板、アルミニウムをラミネートした樹脂基板、等を用いることができる。
熱処理は、200〜350℃で30秒〜2分程度施すのが好ましい。具体的な方法としては、例えば、アルミニウム基板を加熱オーブンに入れる方法が挙げられる。このような熱処理を施すことにより、陽極酸化皮膜の表面に形成されるマイクロポアの配列の規則性が向上する。
また、熱処理後のアルミニウム基板は、急速に冷却するのが好ましい。冷却する方法としては、例えば、水等に基板を直接投入する方法が挙げられる。
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム基板表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去する処理である。後述の各処理における有機成分を原因とする欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
また、脱脂処理には、通常の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム基板の表面の凹凸、例えば、アルミニウム基板の圧延時に発生した圧延筋等をなくして、電着法等による封孔処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。
鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
また、リン酸−硝酸法、Alupol I法、Alupol V法、Alcoa R5法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
アルミニウム基板の陽極酸化処理は通常の方法により行うことができる。例えば、自己規則化法を用いることができる。自己規則化法とは、陽極酸化皮膜に形成されるマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウム基板を使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させる。この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
陽極酸化処理は、電解質溶液中でアルミニウム基板を陽極として電気分解を行い、基板表面を酸化して、表面に酸化アルミニウムの多孔質皮膜を形成させる処理である。
本発明では、陽極酸化処理の電解質溶液として、有機酸を含む電解質溶液を用いる。有機酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、イタコン酸、酒石酸、りんご酸、クエン酸、グリコール酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等が挙げられる。これらの酸は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、イタコン酸、酒石酸、りんご酸、クエン酸が好ましく、シュウ酸が特に好ましい。
また、電解液を流動させる方法は、特に限定されないが、例えば、スターラーのような一般的なかくはん装置を使用する方法が用いられる。特に、かくはん速度をデジタル表示でコントロールできるようなスターラーを用いると、平均流速が制御できるため、好ましい。このようなかくはん装置としては、例えば、「マグネティックスターラーHS−50D(AS ONE製)」等が挙げられる。
脱膜処理は、上記陽極酸化処理によりアルミニウム基板表面に形成した陽極酸化皮膜を溶解させて除去する処理である。脱膜処理では、アルミニウム基板は溶解させず、酸化アルミニウム(アルミナ)からなる陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
陽極酸化皮膜は、アルミニウム基板に近くなるほど規則性が高くなるため、脱膜処理により一度陽極酸化皮膜を除去して、アルミニウム基板の表面に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に露出させて、規則的な窪みを得ることができる。
アルミナ溶解液としては、酸溶液又はアルカリ溶液を用いることができ、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の酸またはこれらの混合物の水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム等のアルカリの水溶液が挙げられる。また、クロム化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、リチウム塩、セリウム塩、マグネシウム塩、ケイフッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、マンガン化合物、モリブデン化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物、ハロゲン単体等を含有する水溶液を用いることもできる。
ジルコニウム系化合物としては、例えば、フッ化ジルコンアンモニウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウムが挙げられる。
チタン化合物としては、例えば、酸化チタン、硫化チタンが挙げられる。
リチウム塩としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウムが挙げられる。
セリウム塩としては、例えば、フッ化セリウム、塩化セリウムが挙げられる。
マグネシウム塩としては、例えば、硫化マグネシウムが挙げられる。
マンガン化合物としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カルシウムが挙げられる。
モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウムが挙げられる。
マグネシウム化合物としては、例えば、フッ化マグネシウム・五水和物が挙げられる。
バリウム化合物としては、例えば、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウム、塩素酸バリウム、塩化バリウム、フッ化バリウム、ヨウ化バリウム、乳酸バリウム、シュウ酸バリウム、過塩素酸バリウム、セレン酸バリウム、亜セレン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、亜硫酸バリウム、チタン酸バリウム、水酸化バリウム、硝酸バリウム、あるいはこれらの水和物等が挙げられる。上記バリウム化合物の中でも、酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウムが好ましく、酸化バリウムが特に好ましい。
ハロゲン単体としては、例えば、塩素、フッ素、臭素が挙げられる。
酸水溶液の酸濃度は、0.01mol/L以上であるのが好ましく、0.05mol/L以上であるのがより好ましく、0.1mol/L以上であるのが更に好ましい。上限は特にないが、一般的には10mol/L以下であるのが好ましく、5mol/L以下であるのがより好ましく、1mol/L以下であるのが更に好ましい。不要に高い濃度は経済的でないし、より高いとアルミニウム基板が溶解するおそれがある。
アルミナ溶解液として酸水溶液を用いる場合、酸水溶液の温度は、20〜60℃であるのが好ましい。
浸せき法は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板をアルミナ溶解液に浸せきさせる処理である。浸せき処理の際にかくはんを行うと、ムラのない処理が行われるため、好ましい。
浸せき処理の時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
また、陽極酸化皮膜の溶解量は、陽極酸化皮膜全体の0.001〜50質量%であるのが好ましく、0.005〜30質量%であるのがより好ましく、0.01〜15質量%であるのが更に好ましい。溶解量が上記範囲であると、陽極酸化皮膜の表面の配列が不規則な部分を溶解させて、マイクロポアの配列の規則性を高くすることができるとともに、マイクロポアの底部分に陽極酸化皮膜を残存させて、再陽極酸化処理(a−3)で実施する陽極酸化処理の起点を残すことができる。
上記脱膜処理により陽極酸化皮膜を除去して、アルミニウム基板の表面に規則的な窪みを形成した後、再び陽極酸化処理を施すことで、マイクロポアの規則化度がより高い陽極酸化皮膜を形成することができる。
再陽極酸化処理は、通常の方法を用いることができるが、上述した陽極酸化処理(a−1)と同一の条件で行われるのが好ましい。再陽極酸化処理を行う場合、再陽極酸化処理で電解質溶液として用いた有機酸も、後述のアニール処理により分解・除去する必要があるため、電解質溶液に用いる有機酸は、前記陽極酸化処理(a−1)で使用したのと同じものであることが好ましい。
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、ポア径の均一性が向上する点で、好ましい。
再陽極酸化処理による陽極酸化皮膜の厚さの増加量は、0.1〜100μmであるのが好ましく、0.5〜50μmであるのがより好ましい。増加量が上記範囲であると、ポアの配列の規則性をより高くすることができる。
陽極酸化処理により得られた陽極酸化アルミニウム基板は、熱電変換材料を成膜する前に、アニール処理を施す。
アニール処理前に、陽極酸化アルミニウム基板を、ダイシング、レーザー加工、ギロチンカッター等の通常の方法で所望の大きさにカットしておいてもよい。
アニール処理には、電気炉、ランプアニール炉、オーブン、イナートオーブン等を用いることができる。
さらに、陽極酸化アルミニウム基板の反りや伸びを低減するために、アルミニウムの軟化温度である250℃〜350℃よりも高い温度でアニールすることが好ましい。なお、アニール処理温度の上限値としては、アルミニウムの再結晶温度である400℃未満が好ましい。すなわち、陽極酸化アルミニウム基板のアニール温度としては、134℃以上、400℃未満で行うことが好ましく、250℃以上、400℃未満で行うことがより好ましく、350℃以上、400℃未満で行うことがさらに好ましい。
アニール処理を行う雰囲気は、大気下でも、窒素、アルゴン等不活性ガス下でもよい。
なお、陽極酸化処理の前処理(脱脂処理等)、又は陽極酸化処理の間や後に行う脱膜処理にも酸溶液を使用する場合があるが、これらの処理で使用される酸は陽極酸化アルミニウム基板上に残存しないため、熱電変換層に影響を及ぼすことはないものと考えられる。そのため、上記アニール処理では、陽極酸化に用いた電解質溶液中に含まれる有機酸のみを除去できればよい。
また、熱電変換層を形成する前に、陽極酸化アルミニウム基板のみをアニール処理することで、熱電変換層形成後に行うアニール処理時に基板が熱膨張又は熱収縮して、基板に反りやひび等の変形が生じることを防止できる。基板に反りやひび等の変形が生じると、それが原因となって、熱電変換層にもひび、割れ等が発生する。熱電変換層のひびや割れは、導電率やゼーベック係数の低下につながる。
本発明の製造方法では、陽極酸化処理に用いた有機酸の分解・除去を、より完全なものとするため、上記アニール処理工程に加えて、陽極酸化アルミニウム基板の有機酸分解処理工程を設けてもよい。当該処理により、陽極酸化処理後の基板に残った有機酸の分解を促進できるとともに、基板表面の洗浄効果により熱電変換材料の基板密着性が向上する。その結果、熱電変換層のひび、割れをより低減でき、さらに優れた熱電変換性能を発揮する素子が得られる。
具体的には、陽極酸化アルミニウム基板に、特開昭57−11931、特開平5−339397、特開平10−67869等に記載のコロナ処理、特開平11−169806、特開2009−262046等に記載のUVオゾン処理、特開2000−250017、特開2006−272319等に記載の大気圧プラズマ処理、特開2001−237213、特開2010−89014等に記載の低圧プラズマ処理、特開平5−74750、特開2004−53563等に記載の電子線照射処理を行うことができる。
上記処理は、処理方法に応じて、大気下、不活性ガス雰囲気下、真空下でのいずれかで行うことができる。
熱電変換層を構成する熱電変換材料には、熱電変換材料として通常用いられている無機材料が使用できる。好ましい熱電変換材料としては、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)、Pb(鉛)、Se(セレン)、Zn(亜鉛)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、Ge(ゲルマニウム)、Fe(鉄)等が挙げられ、これらの材料2種以上からなる混合物を用いることがより好ましく、Bi2Te3、Bi0.3Sb1.7Te3、PbTe、Zn4Sb3、CoSb3、MnSi、Mg2Si、SiGe、FeSi2を用いることがより好ましい。
熱電変換層は、上述の熱電変換材料を、アニール処理した陽極酸化アルミニウム基板上に成膜して形成する。熱電変換材料の成膜方法は特に限定されないが、気相蒸着法、印刷法(塗布法)により行うことが好ましい。
気相蒸着法としては、特に限定されず、熱電変換材料を陽極酸化アルミニウム基板上に堆積して熱電変換層を成膜できる方法であればよい。例えば、パルスレーザー堆積法、スパッタリング法、真空蒸着法、電子線蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマアシスト蒸着法、イオンアシスト蒸着法、反応性蒸着法、レーザーアブレーション法、エアロゾルデポジション法等の物理蒸着法、熱CVD法、触媒化学気相成長法、プラズマCVD法、有機金属気相成長法等の化学気相成長法を好適に採用できる。これらの方法の内で、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法が好ましい。
印刷法により熱電変換層を塗布して成膜する場合、熱電変換材料をあらかじめ粉砕し、溶媒等に分散して調製した熱電変換材料の塗布液を用いる。2種以上の熱電変換材料を用いる場合は、これらを混合して塗布液を調製する。
粉砕処理は、処理後の材料粒子の粒径が、100nmから100μmとなるように行うことが好ましい。
また、粉砕処理の代わりに、ポリオール法や液中プラズマ法等の公知の方法により、還元法による粒子生成法を用いてもよい。
印刷法は、ダイコート、ブレードコート、バーコート、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート、インクジェット法等を用いることができる。
塗布後は、必要に応じて乾燥処理を行う。例えば、熱風を吹き付けることにより溶媒を揮発、乾燥させることができる。
成膜後、熱電変換層をアニール処理する。このアニール処理により、熱電変換材料の結晶化が進行して熱電変換性能が向上する。結晶化は、上述した気相蒸着時の基板加熱によってもある程度進行するが、成膜後にアニール処理を施すことで、十分な結晶化が成され熱電変換性能を一層向上させることができる。
熱電変換層のアニール処理は、熱電変換層の結晶化度を高めて熱電変換性能を向上させるために有用な処理である。しかし、基板に陽極酸化アルミニウムを用いた場合、従来の製造方法では、当該処理によりかえってゼーベック係数が低下するという問題が生じることが本発明者らの検討によりわかった。本発明の製造方法では、前述した陽極酸化アルミニウム基板のみのアニール処理工程を経ることでこの問題を改善し、熱電変換層のアニール処理を行ってもゼーベック係数が低下することなく良好な熱電変換性能を備えた素子が得られる。
アニール処理時の雰囲気については、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスを用いることができる。熱電変換層の還元を行いたい場合には、アルゴン/水素、窒素/水素ガスなどを用いることができる。この時の圧力は、特に限定的ではなく、減圧、大気圧、加圧のいずれでもよい。
アニール処理時間は、熱電変換層の大きさや厚さなどによって異なるが、熱電変換層の結晶化が十分に進行するまで行えばよく、通常、10分〜12時間程度、好ましくは1時間〜4時間の処理時間とすればよい。
印刷法により成膜を行った場合は、塗布液中の有機溶媒やバインダーの乾燥、分解等を促進するため、UVオゾン処理、プラズマ処理等を併せて行ってもよい。
また、結晶化を促進するため、レーザーアニール処理を併せて行ってもよい。
気相蒸着法による成膜の場合、熱電変換層の膜厚は、50nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましい。
印刷法による成膜の場合、熱電変換層の膜厚は、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
本発明の熱電変換素子は、温泉熱発電、腕時計用電源、半導体駆動電源、小型センサー用電源、太陽熱発電、廃熱発電等の用途に好適に用いることができる。
(A)前処理(電解研磨処理)
高純度アルミニウム基板(住友軽金属社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)を10cm四方の面積で陽極酸化処理できるようカットし、以下の組成の電解研磨液を用い、電圧25V、液温度65℃、液流速3.0m/minの条件で電解研磨処理を施した。
陰極はカーボン電極とし、電源は、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
<電解研磨液組成>
・85質量%リン酸(和光純薬社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
電解研磨処理後のアルミニウム基板に、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で1時間陽極酸化処理を施した。さらに、陽極酸化処理後の基板に、0.5mol/Lリン酸の混合水溶液を用いて、40℃の条件で25分間浸漬して脱膜処理を施した。以上の処理を、この順に4回繰り返した。
その後、基板に、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で4時間再陽極酸化処理を施した。さらに、0.5mol/Lリン酸の混合水溶液を用いて40℃の条件で25分間浸漬させて脱膜処理を施し、アルミニウム基板表面に、マイクロポアが直管状で且つハニカム状に配列された陽極酸化皮膜を形成させた。
なお、陽極酸化処理および再陽極酸化処理ともに、陰極はステンレス電極とし、電源は、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置としては、NeoCool BD36(ヤマト科学社製)を用い、かくはん加温装置として、ペアスターラー PS−100(EYELA社製)を用いた。電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
陽極酸化アルミニウム基板をダイシング法によりカットし、350℃の電気炉中で2時間アニール処理を行い、そのまま電気炉中で室温まで基板を冷却した。
上記製造例で得られたシュウ酸処理による陽極酸化アルミニウム基板を用いて、熱電変換素子を作製した。
熱電変換材料としてZn4Sb3(純度4N)からなるターゲットを作製し、マグネトロンスパッタ装置を用い、基板の温度を150℃に維持しながら、成膜を行った。このとき、熱電変換層の膜厚は200nmであった。さらに、アルゴンガスで置換した電気炉を用い、350℃で2時間アニール処理を行い、熱電変換層を形成した。
上記製造例で得られたシュウ酸処理による陽極酸化アルミニウム基板に、さらに下記(D)プラズマ処理を施した基板を用いた以外は実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
(D)プラズマ処理
上記製造例で得られたシュウ酸処理による陽極酸化アルミニウム基板に、窒素流量70mL/分、処理理時間1分間、RFパワー80Wの条件で神港精機社製のEXAM型プラズマクリーニング装置を用いて窒素プラズマ処理を行った。
上記製造例において(C)アニール処理を行わない基板を用いた以外は実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
上記製造例において(B)陽極酸化処理でシュウ酸の代わりにリン酸を用いた以外は実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
上記製造例において(B)陽極酸化処理でシュウ酸の代わりに硫酸を用いた以外は実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
熱電変換層のアニール処理を行わない以外は実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製した。
熱電変換層のアニール処理の前後において、外観を目視で評価した。
評価基準
A:熱電変換層のアニール処理前後で、変化なし
B:熱電変換層のアニール処理後に、熱電変換層に割れ/ヒビが発生
C:熱電変換層のアニール処理後に、熱電変換層に黄変/白濁が発生
導電率は、「低抵抗率計:ロレスタGP」(機器名、(株)三菱化学アナリテック製)を用い表面抵抗率(単位:Ω/□)を測定し、触針型膜厚計により膜厚(単位:cm)を測定し、下記式より導電率(S/cm)を算出した。
(導電率)=1/((表面抵抗)×(膜厚))
評価基準
A:導電率が10S/cm以上
B:導電率が10S/cm未満
熱電特性測定装置 MODEL RZ2001i(製品名、オザワ科学社製)を用い、温度100度の大気雰囲気で測定を行い、熱起電力(ゼーベック係数:μV/k)を測定した。
これに対し、基板のアニール処理をしなかった比較例1−1では、熱電変換層にひびやわれが発生し、ゼーベック係数が低下した。陽極酸化処理に無機酸を用いた比較例1−2、1−3では、熱電変換層に黄変や白濁が発生し、ゼーベック係数が大きく低下した。熱電変換層のアニール処理をしなかった比較例1−4では、導電率が悪く、ゼーベック係数も測定できないほど低かった。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにBi0.3Sb1.7Te3を用いた以外には実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表2に示す。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにBi0.3Sb1.7Te3を用いた以外には実施例1−2と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表2に示す。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにBi0.3Sb1.7Te3を用いた以外には比較例1−3と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表2に示す。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにBi0.3Sb1.7Te3を用いた以外には比較例1−4と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表2に示す。
これに対し、陽極酸化処理に無機酸を用いた比較例2−1では、熱電変換層の白濁が生じ、ゼーベック係数も低下した。熱電変換層のアニール処理をしなかった比較例2−2では、導電率が悪かった。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにMnSiを用いた以外には実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表3に示す。
熱電変換材料としてZn4Sb3の代わりにCoSb3を用いた以外には実施例1−1と同様にして、熱電変換素子を作製し、性能を評価した。結果を表3に示す。
2:陽極酸化皮膜
3:アルミニウム基板
14:陽極酸化皮膜
16:マイクロポア
Claims (7)
- 有機酸を含む電解質溶液を用いてアルミニウム基板を陽極酸化処理する工程、得られた陽極酸化アルミニウム基板を、該有機酸の沸点、分解温度又は昇華温度以上でアニール処理する工程、アニール処理した陽極酸化アルミニウム基板上に熱電変換材料を成膜して熱電変換層を形成する工程、及び、該熱電変換層をアニール処理する工程、を含む熱電変換素子の製造方法。
- 前記陽極酸化アルミニウム基板をアニール処理する工程が、250℃以上400℃未満で行われることを特徴とする請求項1記載の熱電変換素子の製造方法。
- 前記有機酸がシュウ酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱電変換素子の製造方法。
- 前記陽極酸化アルミニウム基板上に熱電変換層を形成する工程の前に、陽極酸化アルミニウム基板にコロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、及び電子線照射処理から選ばれるいずれかの処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の熱電変換素子の製造方法。
- 前記熱電変換層を形成する工程において、熱電変換材料の成膜が、気相蒸着法又は印刷法により行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換素子の製造方法。
- 前記熱電変換材料として、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)、Pb(鉛)、Se(セレン)、Zn(亜鉛)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、Ge(ゲルマニウム)、及びFe(鉄)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱電変換素子の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られた熱電変換素子。
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