JP2013151771A - 衣服 - Google Patents

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Abstract

【課題】
本発明は、着用者の上半身の動きや状態を適切な姿勢に誘導し、肩甲骨周辺の運動追従性および着用快適性を向上させる衣服を提供する。
【解決手段】
本発明の衣服は、前身頃と後身頃を含む身頃部を有し、前身頃を構成する素材と後身頃を構成する素材とが同一であり、後身頃の身幅が前身頃の身幅よりも短いことを特徴とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、着用者の上半身の動きや状態を適切な姿勢に誘導する機能を有する衣服に関する。
近年、身体の健康促進やスタイル向上を目的として、背筋を伸ばし立位の身体状態を垂直に保ち、胸を張らせることによって猫背等の姿勢を改善し、肩こり等につながる筋肉の緊張を軽減させる考え方が普及している。そして、上述の背筋を伸ばして立位の身体状態を垂直に保ち胸を張らせる状態を、着用することで得られる機能性衣服が販売されている。これらの機能性衣服は、素材の伸長応力を利用して左右の肩甲骨部を身体の後ろ中心部へ引っ張るなど、身体の部位別に異なる負荷を与える機能を持っている。
このような機能性衣服として、たとえば上半身部を有し身体に密着する編織物を用い、着用者の姿勢を適切な状態に導く設計がされているものが知られている。特に伸長率の異なる素材を用いることにより身体の部位毎に異なる負荷を与えるものが知られている。いずれの機能性衣服も衣服素材の伸長応力により背筋を伸ばすことを促進することで外観上の姿勢の良さを得られることを目的としており、その効果をより大きくするため高い伸長応力の素材が使用されている。
このため、市販されている機能性衣服は、着用時の締付けが大きく、強く圧迫されるものが多く、スポーツ時のみの着用など短時間での使用に適しており、長時間着用しているときの快適性が劣っている。また、衣服の締め付けは着脱性にも影響し、着脱時の通過部位引っかかりなど着用者の負担感となっている。
機能性衣服に関する技術としては、例えば伸長応力の異なる素材を組み合わせて、肩甲骨上角から下角にかかる領域に、伸長応力の高い素材を配置し、部位別の強弱を切り替えたもの(特許文献1、4)、生地裁断方向を切り替えることにより、タテヨコ伸長応力の差を利用して部位別の強弱を切り替えたもの(特許文献2)、緊締部材を身生地に貼りあわせて部位別の強弱を切り替えたもの(特許文献3)、同一生地で組織を切り替える等ことにより部位別の強弱を切り替えたもの(特許文献5)などが開示されている。
特許4431616号 特開2001−164401号 特開2010−095803号 特開2006−161207号 特開2007−138335号
しかしながら、特許文献1、3、4の異なる素材を組み合わせて、部位別の強弱を切り替えたものは、緊締部素材と本体素材の少なくとも2つの異なる素材を使用する必要があり、使用できる素材の組み合わせに制限があるため、様々な素材を自由に使用できない。すなわち素材の汎用性に乏しい。さらに、2つの異なる素材を使用する必要があるので、生産性に劣る。
特許文献2の裁断方向を切り替えたものは、バイヤス裁断など斜めにカットしたりすることにより生地の使用量すなわち用尺が増えて生産性が悪い。さらに、裁断方向による洗濯後の寸法変化率の違いが衣服上の同一方向に生じてしまう結果、ひずみなど生じる。
特許文献5の同一生地で組織を切り替えたものは、編みの切り替えにより部分的に組織を変えるため一着ずつ編成する必要があり、少量生産向きの手法で生産性に劣る。
このように従来の機能性衣服は、いずれも素材の汎用性、生産性、着用時の快適性において十分な性能を満足しうるものではない。
前記課題を達成できる本発明の衣服は、前身頃と後身頃を含む身頃部を有し、
前記前身頃を構成する素材と前記後身頃を構成する素材とが同一であり、
前記後身頃の身幅が前記前身頃の身幅よりも短い、衣服である。
本発明の衣服は、着用時に左右の肩甲骨部を身体の後ろ中心部へ引っ張る機能を有しながらも、1つの素材のみで構成することができる。そのため、複数の素材を使用する必要がないので、衣服を製造するに際し、複数の素材を組み合わせる工程を省略できる。また、生地生産工程と縫製工程を短縮し生産性を高めることができる。また、本発明の好ましい態様の衣服は、着用時の快適性の因子である圧迫感を低減させ、かつ着脱性を向上させることができる。
図1は、衣服の正面図である。 図2は、衣服の背面図である。 図3は、本発明の好ましい態様の衣服の背面図である。 図4は、本発明の他の好ましい態様の衣服の背面図である。 図5は、図1に示した衣服の前身頃の展開図である。 図6は、図3に示した衣服の後身頃の展開図である。 図7は、図4に示した衣服の後身頃の展開図である。 図8は、本発明のさらに他の態様の後身頃の展開図である。 図9は、人体の背面から見た筋・骨格図である。 図10は、(a)本発明の衣服着用時の人体上面図と、(b)本発明の衣服未着用時の人体上面図である。 図11は、衣服を構成する素材の伸長率−伸長応力曲線の一例である。
以下、図面を用いて本発明の衣服を詳細に説明する。
図1に衣服の正面図の例を、図2に衣服の背面図の例を、図3および図4に本発明の好ましい態様の衣服の背面図の例を示す。本発明の衣服1の構成部材としては、前身頃2と後身頃3の少なくとも2つの部材がある。図1〜4の例では、前身頃2と後身頃3とは、それぞれ袖4、衿5とで接合部8にて接合され、さらに前身頃2と後身頃3も接合部8で接合され、一体の衣服本体1となっている。符号6は前身頃2の身幅であり、符号7は後身頃3の身幅である。
前身頃2は衣服本体1を組み立てる前のパーツとして前身頃パーツ2aで構成されている。図1の前身頃3を構成する前身頃パーツ2aの例を図5に示す。
後身頃3は衣服本体1を組み立てる前のパーツとして後身頃パーツ3aで構成されている。図3の後身頃3を構成する後身頃パーツ3aの例を図6に、図4の後身頃3を構成する後身頃パーツ3aの例を図7に示す。図6および図7の後身頃パーツ3aの例では、各後身頃パーツ3aを接合前の状態で並べたときに、くり貫き部9ができるような形状となっている。くり貫き部9については後ほど詳しく説明する。それぞれの後身頃パーツ3aの身幅に該当する箇所の長さ7aの合計値が、接合後の後身頃3の身幅7となる。
前身頃パーツ2aおよび後身頃パーツ3aは、さらに小さなパーツに分割されていてもよい。図6の後身頃パーツ3aをさらに小さなパーツに分割した例を図8に示す。
人体の首から肩周辺の筋・骨格構造は、図9に示すような構造となっている。肩甲骨21、上腕骨22から始まり、腱板23は肩甲骨21に、肩甲骨21は僧帽筋24に、僧帽筋24は広背筋に、広背筋は骨盤へとつながっている。そして、それぞれが引き合い身体動作を起こす機構となっている。
肩甲骨21は、上下左右前後6方向に立体的に動く機構となっており、丈方向の上端部に上角21a、下端部に下角21bが位置している。猫背など姿勢の前傾傾向は肩甲骨の前方傾斜の状態である。
一方、肩甲骨21の左右間の領域には僧帽筋24が通っており、僧帽筋24の筋力は肩甲骨21を内側へ引き寄せる引張応力と関連がある。僧帽筋24の筋力が弱い(弱まる)と、肩甲骨21が左右外側に開く挙動が生じるとされ、特に女性は肩甲骨21を寄せる僧帽筋24の筋力が弱く、男性に比べて左右に開きやすいことが知られている。
本発明の衣服は、着用時に身体に対して肩甲骨左右間の背中心方向に伸長応力を与えることにより僧帽筋の筋力をサポートし、肩甲骨左右を背中心方向へ誘導することにより立位姿勢を垂直状態に近づけたり胸を張った姿勢へ誘導し、姿勢改善を促すとともに僧帽筋の緊張を軽減する。
本発明の衣服は、前身頃2と後身頃3とが同一の素材で構成されている。本発明の衣服は、後述するような構造を有しているので、前身頃2と後身頃3とを別の素材で構成しなくとも着用時に肩甲骨左右を背中心方向へ誘導できる。そして、前身頃2の素材と後身頃3の素材とを同一にできるので、衣服を製造するに際し、複数の素材を組み合わせる工程を省略できる。また、生地生産工程と縫製工程を短縮し生産性を高めることができる。
衣服を構成する各部材の素材は、合成繊維または天然繊維を用いた繊維織編物が汎用性に優れ好ましい。合成繊維および天然繊維の種類は限定されないが、耐洗濯性や原糸・編織設計の汎用性を考慮すると、ポリエステルやナイロン繊維などを単独で使用したり、さらにポリウレタン、レーヨン、アクリル、綿繊維などと複合して使用することが好適である。
編織設計においては、織物、編物いずれでもよいが、より好ましくは高い伸長特性を有し、かつ組織構造により吸汗・速乾機能などを付与できる点で編物が好適である。編組織は経編、緯編いずれでも構わないが、より好ましくは人体の周方向、すなわち衣服の締め付け方向であるヨコ方向に比較的高い伸長性を有する緯編が好適である。
本発明の衣服は、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも短くなるように構成されている。そして、このような構成となっていることで、人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ動かし、引寄せた姿勢時の胸幅と背幅との関係(胸幅>背幅)に近づけることができ、衣服本体1を着用した時に人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ引寄せた姿勢を再現させやすく、かつ衣服の外観上も人体形状に沿った良好なシルエットを得ることができる。後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも長いと、体の前傾姿勢時の胸幅と背幅との関係(胸幅<背幅)に近づくことにより、目的とする人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ引寄せる姿勢を再現させられないだけでなく、衣服の外観上も前傾姿勢すなわち猫背様のシルエットとなりやすい。
また、本発明の衣服は、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも短くなるように構成されていることで、下記式で示される伸長率2(%)が伸長率1(%)よりも大きくなり、結果的に肩甲骨を背中心方向へ誘導する伸長応力が得られている。
・伸長率1(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−前身頃2の身幅6}/前身頃2の身幅6)×100
・伸長率2(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−後身頃3の身幅7}/後身頃3の身幅7×100
ここで、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、この衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズのことである。
衣料規格としては、例えばJIS L 4002(1997年版)および4003(1997年版)「少年(少女)用衣料のサイズ」、JIS L 4004(2001年版)および4005(2001年版)「成人女子(男子)用衣料のサイズ」、JIS L 4006(1998年版)「ファンデーションのサイズ」、社団法人 日本スポーツ用品工業協会(JASPO)が定めるJASPO規格サイズ(成人男子、成人女子、ジュニア)などが挙げられる。衣料サイズは、体型区分表示、単数表示、範囲表示などいずれの表示方法で表したサイズであってもよい。例えば、本発明の衣服をJIS L 4004(2001年版)「成人男子用衣料のサイズ」の範囲表示Mサイズに基づいて設計する場合、その規格のチェスト寸法範囲は88〜96cmであるため、「特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値」は92cmとなる。
伸長率1は、衣服本体1を構成する前身頃2のパターン身幅寸法と人体寸法との差を基に、衣服を着用した際に、前身頃2を構成する素材が身幅方向にどの程度伸長されるか模擬的に求めたものである。
伸長率2は、衣服本体1を構成する後身頃3のパターン身幅寸法と人体寸法との差を基に、衣服を着用した際に、後身頃3を構成する素材が身幅方向にどの程度伸長されるかを模擬的に求めたものである。後身頃3が複数の後身頃パーツ3aで構成されている場合、上記式における後身頃3の身幅7は、各後身頃パーツ3aの身幅7aの合計値を用いる。
本発明の衣服は、後身頃3を構成する素材の伸長率2における身幅方向の伸長応力2が、前身頃2を構成する素材の伸長率1における身幅方向の伸長応力1よりも大きいことが好ましい。
伸長率1,2における伸長応力とは、図11に示すように別途求めた素材の身幅方向における伸長−応力曲線を用いて求めた、伸長率1、2それぞれの地点での伸長応力の値である。
伸長率1における身幅方向の伸長応力1とは、衣服本体1を着用したときの前身頃の身幅方向にかかる伸長応力を、伸長率2における伸長応力2とは、衣服本体1を着用したときの後身頃3の身幅方向にかかる伸長応力を、伸長率1、2および素材の伸長−応力曲線より模擬的に求めたものである。
通常、衣服素材の伸長率と伸長応力は比例関係にあり、伸長率が大きくなるほど伸長応力も大きくなる。そして、本発明の衣服は、前身頃2と後身頃3とが同一の素材で構成されており、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも短く、伸長率2が伸長率1よりも大きくなるので、必然的に伸長応力2は伸長応力1よりも大きくなる。つまり、衣服本体1を着用した時に、後身頃3の身幅方向にかかる伸長応力が前身頃2の身幅方向にかかる伸長応力よりも大きくなり、素材の伸長応力を肩甲骨左右間の背中心方向に集中させることができる。
後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも長いと、伸長率2が伸長率1よりも小さくなるので、伸長応力2が伸長応力1よりも小さくなってしまう。その結果、衣服本体1を着用したときに、後身頃3の身幅方向にかかる伸長応力が前身頃2の身幅方向にかかる伸長応力よりも小さくなり、素材の伸長応力が前方方向へ分散してしまい、目的とする肩甲骨左右間の背中心に素材の伸長応力を集中させる効果が得られない。
本発明の衣服は、衣服本体1を着用した時の後身頃3の身幅方向にかかる伸長率および伸長応力を、前身頃2の身幅方向にかかる伸長率および伸長応力より高くすることにより、衣服本体1を着用した時に素材の伸長応力を肩甲骨左右間に集中させ、立位姿勢を垂直状態に近づけたり胸を張った姿勢へ誘導させることができる。
本発明の衣服は、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比(前身頃2の身幅6/後身頃3の身幅7)が1.1以上であることが好ましい。より好ましくは1.1〜1.6の範囲である。前記比率が1.1以上であると、人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ動かし、引寄せた姿勢時の胸幅と背幅との比(胸幅/背幅)に近づけることができ、衣服本体1を着用した時に人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ引寄せた姿勢を再現させやすくなる。
後身頃3の身幅7を前身頃2の身幅6よりも短くする衣服の設計は特に限定するものではないが、本発明の衣服は、後身頃3を構成する各後身頃パーツ3aを接合せずに並べた平面状態で、人体の形状や人体の寸法とは無関係に素材の一部が切り抜かれた部分、すなわちくり貫き部9が存在することが好ましい。つまり、くり貫き部9が存在する後身頃パーツ3aは、各後身頃パーツ3aを接合せずに並べた平面状態では、あたかも人体の形状や人体の寸法に一致している後身頃3から生地の一部分が切り抜かれた部分が形成される。くり貫き部9は接合部8によって一体的に接合され、最終的な後身頃3はくり貫き部9による開口のない外観となる。そして、この最終的な後身頃3の身幅7の寸法は、くり貫き部9が塞がれた分だけ人体の身幅寸法よりも短くなる。さらに、各後身頃パーツ3aを接合せずに並べた平面状態の身幅(くり貫き部の幅も含む)を、前身頃2の身幅7と同じにしておけば、最終的な後身頃3の身幅7の寸法は、くり貫き部9が塞がれた分だけ前身頃2の身幅7よりも短くできる。
一般的に、衣服の縫製においては着用時に立体感を持たせたり、局所的に寸法を狭める目的でダーツやタックなどの手法を用いることがあるが、これらはいずれも人体形状に沿うように考慮され、衣服の仕上寸法が人体寸法に対して若干のゆとりを持つよう設計されるものであり、本願でいうくり貫き部9とは異なる。
衣服着用時に局所的に大きな伸長応力を与えたい部位にくり貫き部9を設けることで、その部位の仕上寸法と人体寸法間に大きい寸法差が生じ、衣服着用時に衣服の当該部位が人体によって押し広げられ、それに伴い素材の伸長と応力を発生させることができる。
通常、衣服本体1に局所的に大きな伸長応力を与えたい場合、その部位に伸長率および伸長応力の異なる素材を切り替えて配置したり、当該部位の組織や糸使いを変化させる方法が用いられる。本発明の衣服では、くり貫き部9を形成する方法により、単一の素材で組織、糸使いを変更することなく、異なる伸長と応力を得ることができる。
くり貫き部9の例を図6に示す。図6の例では、後身頃3の身幅7の中央部周辺にくり貫き部9が形成されている。後身頃3は複数の後身頃パーツ3aで構成され、各後身頃パーツ3aの身幅7aの合計値が人体寸法より短くなっている。さらに、身幅7aの合計値と人体寸法との差分が身幅中央部で最大となるように、くり貫き部9が身幅の中央部周辺にカーブを描いて形成されている。
くり貫き部9の別の例を図7に示す。図7の例では、後身頃3の肩甲骨左右周辺にくり貫き部9が形成されている。後身頃3は複数の後身頃パーツ3aで構成され、後身頃パーツ3aの身幅7aの合計値が人体寸法より短くなっている。さらに、身幅7aの合計値と人体寸法との差分が身幅中央部で最大となるように、くり貫き部9が肩甲骨左右周辺にカーブを描いて形成されている。
くり貫き部9は、後身頃パーツ3aを接合したときのくり貫き部9の接合部が、人体の肩甲骨左右の間を通るように形成されることが好ましい。このような位置にくり貫き部9が形成されることで、衣服本体1着用時に人体の肩甲骨左右を後方背中心部へ誘導する伸長応力が大きく、立位姿勢を垂直状態に近づけたり胸を張った姿勢へ誘導することができる。
くり貫き部9の接合部が、人体の左肩甲骨と右肩甲骨の間ではなく外側を通る場合、衣服本体1着用時に身体の肩甲骨左右を外側へ押し広げる挙動が生じ、猫背等の姿勢を導く恐れがある。
また、くり貫き部9は、後身頃パーツ3aを接合したときのくり貫き部9の接合部が、肩甲骨上角から肩甲骨下角にかけて存在するような長さであることが好ましい。このような長さにすることで、肩甲骨の可動領域をカバーし、衣服本体1着用時に肩甲骨左右を後方背中心部へ誘導する伸長応力を効率的に与えることができる。くり貫き部9の接合部が、肩甲骨上角から肩甲骨下角にかけて存在しない場合、衣服本体1着用時に肩甲骨稼動領域に対する伸長応力が働きにくく、姿勢変化の挙動が得られにくくなる。
このくり貫き部9を形成する方法以外にも、後身頃3の身幅7を人体寸法より短くする、あるいは前身頃2の身幅6よりも短くする方法はある。例えば、後身頃3全体の寸法を幅方向に縮小する方法や、脇線上端および袖ぐり下端の位置を身幅7方向の内側へ左右それぞれ移動し、身幅7寸法を縮小する方法である。本発明においては、いずれの方法を用いてもよいが、くり貫き部9を形成する方法が特に好ましい。
くり貫き部9を形成する方法は、脇線上端や袖ぐり下端の位置を変更しないので、後身頃3と接合する袖部の接合部の形状を変更する必要がなく、着用時の快適性や運動追従性が損なわれない。また、くり貫き部9の大きさを変えるのみで伸長応力を自由に調節することができ、仕様の汎用性に優れる。さらにくり貫き部9に伸長応力が集中するので、肩甲骨左右間の背中心にくり貫き部9を配置するなどして肩甲骨引き寄せ効果をより高めやすく、姿勢の改善性にも優れる。
本発明の衣服は、前身頃2と後身頃3以外に、袖4、衿5、ポケットなどが付加されていてもよい。
本発明の衣服は、衣服組立時に各パーツを接合する接合部8を有する。各パーツの接合部8の接合手段は、ミシンによる縫製、テープによる接着、溶着加工などいずれでもよい。これらの中でもミシン縫製が強度と生産性のバランスに優れているので好ましい。なお、接合部8の形状は生地端を露出しない面状に形成されていることが、肌への接触を低減でき好ましい。
本発明の衣服は、前記式で求めた伸長率1における伸長応力1が1〜30gf/cmの範囲、かつ伸長率2における伸長応力2が20〜100gf/cmの範囲であることが好ましい。
伸長応力1が30gf/cmより大きいと、前身頃2の圧迫感が強くなり胸部などに不快感が生じる原因となりやすい。伸長応力が1gf/cm未満であると、前身頃2に伸長応力がほとんど加わらず、後身頃3側のみに伸長応力が偏るため、着用時に違和感や不快感が生じる可能性がある。伸長応力1は、5〜20gf/cmの範囲であるのがさらに好ましい。
伸長応力2が100gf/cmよりも大きいと、肩甲骨左右を背中心に導く力が必要以上に加わり、前傾姿勢など通常の身体動作を妨げるうえ、圧迫により不快感が生じる可能性がある。伸長応力2が20gf/cm未満であると、後身頃3の肩甲骨左右間の領域に伸長応力がほとんど加わらず、立位姿勢を垂直状態に近づけたり胸を張った姿勢へ誘導しにくくなる。伸長応力2は、20〜60gf/cmの範囲がさらに好ましい。
伸長応力1を1〜30gf/cmの範囲、かつ伸長応力2を20〜100gf/cmの範囲とすることにより、着用快適性に優れ、かつ立位姿勢を垂直状態に近づけたり胸を張った姿勢へ誘導させやすくなる。
本発明の衣服は、前身頃2と後身頃3とを構成する素材の14.7N伸長時の伸長率3が身幅方向において70%以上であることが、人体運動時の皮膚伸びに追従でき好ましい。ここでいう伸長率3とは、衣服の形状や寸法に関係なく、使用素材の物理特性としての伸長の大きさを実測定により求めるものであり、衣服本体1着用時を想定して前身頃2、後身頃3の伸長の大きさを簡易式より求めた前述の伸長率1、伸長率2とは異なる。
伸長率3は、JIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」に基づいて測定する。このJISで定められている定速伸長形の試験機を使用し、前身頃2と後身頃3とを構成する素材をつかみ間隔20cm、引張速度20cm/minで引張荷重14.7Nまで伸長させた時の伸長率を求める。
伸長率3が70%未満であると、前身頃2と後身頃3とを構成する素材が人体運動時の皮膚伸びに追従できず運動に支障をきたしたり、着脱性が悪くなる場合がある。なお、前身頃2と後身頃3とを構成する素材の衣服丈方向および身幅方句の両方の14.7N伸長時の伸長率が70%以上であるとさらに好ましいが、少なくとも人体を締め付ける周方向に属する値、すなわち身幅方向の伸長率が70%以上であることが好ましい。
また、前身頃2と後身頃3とを構成する素材は、使用や着用時に引っ張り伸長が繰り返し加わることから、14.7Nで伸長した後で伸長力を開放したときの伸長回復率が85〜100%の範囲であることが、着用前後のひずみや寸法変化が少なく繰り返し使用に耐え好ましい。
伸長回復率は、JIS L 1096(2010年版) B−1法(定荷重法)に基づいて測定する。荷重を取り除いた後の印間長さは荷重解放後30秒後に測定した値を用いる。
伸長回復率が85%未満であると、着用時に前身頃2と後身頃3とを構成する素材が伸ばされ元の衣服に対する寸法変化が大きいため、繰り返し使用に耐えられず着用感が大きく異なったものとなる。伸長回復率は90〜100%がさらに好ましい。
前身頃2と後身頃3とを構成する素材が、皮膚伸びに追従した伸長率3と伸長回復特性を備えていると、運動追従性と寸法安定性を得ることができる。
本発明の衣服は、前身頃2と後身頃3とを構成する素材の、14.7N伸長時の伸長率3の身幅方向と丈方向における値の比(身幅方向の伸長率3/丈方向の伸長率3)が0.5〜2.0の範囲であることが好ましい。伸長率3の身幅方向と丈方向における値の比がこの範囲内であると、衣服本体1を着用して運動した時の人体の丈方向および身幅方向の皮膚伸びに対し、衣服本体1の丈方向および身幅方向の伸長バランスが良く、運動追従性に優れる。
伸長率3の身幅方向と丈方向の比が0.5未満であると、前身頃2と後身頃3とを構成する素材の伸長が丈方向に偏り、衣服本体1を着用した時の身幅方向への運動追従性が悪くなる場合がある。逆に伸長率3の身幅方向と丈方向の比が2.0を越えると、衣服本体1素材の伸長が身幅方向に偏り、衣服本体1を着用した時の丈方向への運動追従性が悪くなる場合がある。伸長率3の身幅方向と丈方向の比は0.8〜1.2の範囲がより好ましい。前身頃2と後身頃3とを構成する素材の伸長率3の丈方向と幅方向における値を近づけ両方向の伸長バランスを取ることにより、衣服本体1を着用した時の運動追従性がよくなる。
本発明の衣服は、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の下限値よりも、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計寸法が短いことが好ましい。ここで、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、本発明の衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズのことである。本発明の衣服は、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6よりも短くなるように構成されているので、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計寸法は、通常の衣服よりも短くなり、それにより肩甲骨を背中心方向へ誘導する伸長応力が得られている。そして、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計寸法を、さらに特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の下限値よりも短くすることで、肩甲骨を背中心方向へ誘導する伸長応力をより高めることができる。
衣料規格としては、前述の各種以上規格が適用される。例えば、本発明の衣服をJIS L 4004(2001年版)「成人男子用衣料のサイズ」の範囲表示Mサイズに基づいて設計する場合、その規格のチェスト寸法範囲は88〜96cmであるため、「特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の下限値」は88cmとなる。
なお、本発明の衣服は、衣服本体1の形状が袖4部を有しないいわゆるノースリーブやタンクトップと呼ばれるタイプのものであってもよい。また、袖4部を有する場合はその袖4の仕様をラグラン仕様としたりセットイン仕様としてもよい。また、衣服本体1の前見頃および後見頃が人体胸部及び肩甲骨周辺部を覆う一方、腹部及び背面下部を覆わない、いわゆるハーフ形状としてもよい。
衣服本体1の服種においては、主に肌着、ファンデーション、カップ付きインナー、カットソー、ジャケットの用途に好適に用いられる。
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例において用いた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性について被験者10人によるモニター評価を実施した。評価基準を表1に示す。被験者全員の評価点数の合計点数を各評価結果とし、各評価結果の合計点数を総合評価とした。総合評価が15点以上あれば良好な衣服であり、点数が大きいほど優れている。
(測定)
[伸長率1、2]
製作した衣服の前身頃および後身頃の身幅寸法と、その衣料を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズとの関係から伸長率1、2を下式のとおり求めた。なお、各サイズのチェストまたはバスト寸法は範囲表示区間の中間値を用いた。
・伸長率1(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−前身頃の身幅}/前身頃の身幅)×100
・伸長率2(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−後身頃の身幅}/後身頃の身幅×100
ここで、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、この衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズのことである。
[伸長応力1、2]
JIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」に基づいて測定した。このJISで定める定速伸長形の試験機を使用し、前身頃および後身頃を構成する素材をつかみ間隔20cm、引張速度20cm/minの条件で、身幅方向に伸長率1まで伸長させた時の伸長応力を伸長応力1、伸長率2まで伸長させた時の伸長応力を伸長応力2としてそれぞれ求めた。
[伸長率3]
JIS L 1096(2010年版)「織物及び編物の生地試験方法」に基づいて測定した。このJISで定める定速伸長形の試験機を使用し、前身頃および後身頃を構成する素材をつかみ間隔20cm、引張速度20cm/minで引張荷重14.7N(1.5Kgf)まで伸長させた時の伸長率を丈方向、身幅方向についてそれぞれ求めた。
[伸長率3の比]
前身頃および後身頃を構成する素材の伸長率3の丈方向と身幅方向における値から、延伸率3の比を下記式により求めた。
・伸長率3の比=身幅方向の伸長率3/丈方向の伸長率3。
[伸長回復率]
JIS L 1096(2010年版) B−1法(定荷重法)に基づいて測定した。前身頃および後身頃を構成する素材の丈方向、身幅方向についてそれぞれ (1)元の印間の長さ、(2)14.7N(1.5kgf)の荷重を加え1時間保持後の印間の長さ、(3)荷重を取り除いた後30秒後の印間の長さ、を測定し、回復率を求めた。
[肩甲骨突点間距離変化率]
図10(a)(b)に示すとおり、衣服本体1着用前後における立位姿勢での肩甲骨内側突点の左右間距離10を(株)サン・エンジニアリング社製三次元計測器で計測し、着用前後での変化率を下記式により求めた。
・変化率(%)=(着用後の肩甲骨内側突点の左右間距離10―着用前の肩甲骨内側突点の左右間距離10)/着用前の肩甲骨内側突点の左右間距離10×100
なお、同一衣服サイズの被験者10名にて測定したときの平均値を評価結果とし、−5%以下を良好とした。
(評価)
[姿勢改善性]
同一衣服サイズの被験者10名にて衣服本体1を着用し、立位姿勢をとったときの姿勢の改善性、すなわち肩甲骨左右が背中心方向へ誘導される感覚の有無を4段階で評価した。評価点数が高いほど姿勢改善性に優れている。モニター評価者10人の評価点数合計を評価結果とし、評価点数合計が5点以上の場合を良好とした。評価基準を表1に示す。
[運動追従性]
同一衣服サイズの被験者10名にて衣服本体1を着用し、上肢下垂前屈動作を行った時の衣服の追従性を4段階で評価した。評価点数が高いほど運動追従性に優れている。モニター評価者10人の評価点数合計を評価結果とし、評価点数合計が5点以上の場合を良好とした。評価基準を表1に示す。
[着用快適性]
同一衣服サイズの被験者10名にて衣服本体1を着用し、立位姿勢を取った時の着圧・圧迫に対する快適性を4段階で評価した。評価点数が高いほど着用快適性に優れている。モニター評価者10人の評価点数合計を評価結果とし、評価点数合計が5点以上の場合を良好とした。評価基準を表1に示す。
実施例、比較例はいずれも、JIS L 4004(2001年版)「成人男子用衣料のサイズ」で定められた範囲表示のMサイズに基づいて設計した。
[実施例1]
図5の前身頃パーツ2aと図6の後身頃パーツ3aを使用して、図1の正面図と図3の背面図とで示される衣服1を作製した。衣服本体1の素材としてポリエステル88%、ポリウレタン12%の交編天竺生地を作製した。得られた素材の伸長率3は丈方向、身幅方向それぞれ120%、150%、伸長回復率は丈方向、身幅方向それぞれ91%、93%であり、伸長率3の比は1.25であった。次に、成人用男子用Mサイズの前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5のパターンを作製し、素材の丈方向が各パーツの身丈、袖4丈方向となるように型入れして裁断した。
前身頃2は、図5に示すように1枚の前身頃パーツ2aより構成した。前身頃2の身幅6の寸法は、JIS L 4004(2001年版)範囲表示のMサイズチェスト寸法範囲88〜96cmの中間値である92cmに対して伸長率1が18%となるように39cmとした。
後身頃3は、図6に示すとおり身幅中点を境に左右に2分割した2枚の後身頃パーツ3aより構成した。後身頃3の身幅7の寸法は、Mサイズチェスト寸法範囲の中間値92cmに対して伸長率2が53%となるように30cmとした。この30cmを2分割した15cmを、各後身頃パーツ3aの身幅7aの寸法とした。次に、得られた身幅寸法に基づいて2枚の後身頃パーツ3aを接合する接合部8のラインを描き、くり貫き部9を1箇所形成した。このくり貫き部9は、後身頃パーツ3aを接合したときに、左右肩甲骨の中心を上角からウエストにかけてくり貫き部9の接合部が存在するように形成されている。
得られた前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5を、フラットシーマミシンを用いて図1および図3のとおり接合部8で縫製接合して衣服本体1を構成した。
得られた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性を表1の評価基準により評価した。衣服の伸長応力1、2はそれぞれ12gf/cm、40gf/cmであった。前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比は1.13、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計は69cmであり、JIS規格のチェスト寸法範囲の下限88cmを下回るものであった。表2に各数値と評価結果を示す。
[実施例2]
図5の前身頃パーツ2aと図7の後身頃パーツ3aを使用して、図1の正面図と図4の背面図とで示される衣服1を作製した。衣服本体1の素材として綿51%、アクリル24%、レーヨン20%、ポリウレタン5%の交編天竺生地を作製した。得られた素材の伸長率3は丈方向、幅方向それぞれ70%、90%、伸長回復率は丈方向、幅方向それぞれ80%、86%であり、伸長率3の比は1.28であった。次に、成人用男子用Mサイズの前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5のパターンを作製し、素材の丈方向が各パーツの身丈、袖4丈方向となるように型入れして裁断した。
前身頃2は、図5に示すように1枚の前身頃パーツ2aより構成し、前身頃2の身幅6の寸法は、JIS L 4004(2001年版)範囲表示のMサイズチェスト寸法範囲88〜96cmの中間値である92cmに対して、伸長率1が39%となるように33cmとした。
後身頃3は、図7に示すとおり左右肩甲骨内側近傍に該当する位置を境に左右および中央に3分割した3枚の後身頃パーツ3aより構成し、後身頃3の身幅7の寸法は、Mサイズチェスト寸法範囲の中間値92cmに対して、伸長率2が59%となるように29cmとした。これを3分割した時の寸法を各後身頃パーツ3aの身幅7aの寸法とした。次に、得られた身幅寸法に基づいて3枚の後身頃パーツ3aを接合する接合部8のラインを描き、くり貫き部9を形成した。このくり貫き部9は、後身頃パーツ3aを接合したときに、左右肩甲骨の間でほぼ左右肩甲骨に沿って上角から下角にかけてくり貫き部9の接合部が存在するように形成されている。
得られた前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5を、フラットシーマミシンを用いて図1および図4のとおり接合部8で縫製接合して衣服本体1を構成した。
得られた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性を表1の評価基準により評価した。衣服の伸長応力1、2はそれぞれ32gf/cm、48gf/cmであった。前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比は1.13、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計は62cmであり、JIS規格のチェスト寸法範囲の下限88cmを下回るものであった。表2に各数値と評価結果を示す。
[実施例3]
図1の正面図と図2の背面図とで示される衣服1を作製した。後身頃3は、くり貫き部9が形成されていない1枚の後身頃パーツ3aで構成した。
後身頃パーツ3aは、脇線上端および袖ぐり下端の位置を前身頃パーツ2aよりも、身幅7方向の内側へ左右それぞれ移動して身幅7を前身頃2の身幅6よりも短い30cmにした。さらに、袖4の袖付線の長さおよび端点位置を袖ぐり位置に合わせた。これら以外は実施例1と同一となるよう、衣服本体1を構成した。
得られた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性を表1の評価基準により評価した。衣服の伸長応力1、2および前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計は実施例1と同じく69cmであり、JIS規格のチェスト寸法範囲の下限88cmを下回るものであった。表2に各数値と評価結果を示す。
[比較例1]
図1の正面図と図2の背面図とで示される衣服1を作製した。衣服本体1の素材は実施例1と同じ素材を用いた。後身頃3は、くり貫き部9を有さない1枚の後身頃パーツ3aで構成した。
成人用男子用Mサイズの前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5のパターンを作製し、素材の丈方向が各パーツの身丈、袖4丈方向となるように型入れして裁断した。
前身頃2の身幅6の寸法は、JIS L 4004(2001年版)範囲表示のMサイズチェスト寸法範囲88〜96cmの中間値である92cmに対して、伸長率1が−16%となるように55cmで寸法設定した。後身頃3の身幅7の寸法も、伸長率2が−16%となるように55cmで寸法設定した。つまり、衣服1を着用したときに前身頃2も後身頃6も伸長しない。
得られた前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5を、フラットシーマミシンを用いて図1および図2のとおり接合部8で縫製接合して衣服本体1を構成した。
得られた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性を表1の評価基準により評価した。衣服の伸長応力1、2はともに0gf/cmで、伸長応力はなかった。前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比は1.0、前身頃の身幅6と後身頃3の身幅7との合計は110cmであり、JIS規格のチェスト寸法範囲の下限88cmはもちろん、上限96cmも上回るものであった。表2に各数値と評価結果を示す。
[比較例2]
図1の正面図と図2の背面図とで示される衣服1を作製した。後身頃3は、くり貫き部9が形成されていない1枚の後身頃パーツ3aで構成した。衣服本体1の素材にはポリエステル100%シングルトリコット生地を使用し、素材の伸長率3は丈方向、幅方向それぞれ130%、50%、伸長回復率は丈方向、幅方向それぞれ80%、75%であり、伸長率3の比は0.38であった。
成人用男子用Mサイズの前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5のパターンを作製し、素材の丈方向が各パーツの身丈、袖4丈方向となるように型入れして裁断した。
前身頃2の身幅6の寸法は、JIS L 4004(2001年版)範囲表示のMサイズチェスト寸法範囲88〜96cmの中間値である92cmに対して、伸長率1が12%となるように41cmで寸法設定した。後身頃3の身幅7の寸法は、伸長率2が8%となるように42.5cmで寸法設定した。
得られた前身頃パーツ2a、後身頃パーツ3a、袖4および衿5を、フラットシーマミシンを用いて図1および図2のとおり接合部8で縫製接合して衣服本体1を構成した。
得られた衣服の姿勢改善性、運動追従性、着用快適性を表1の評価基準により評価した。衣服の伸長応力1、2はそれぞれ130gf/cm、120gf/cmであった。前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との比は0.8、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計は83.5cmであり、JIS規格のチェスト寸法の下限88cmを下回るものであった。表2に各数値と評価結果を示す。
実施例1〜3の衣服は、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6に対して短く構成されることによって、左右の肩甲骨部を身体の後ろ中心部へ引っ張る姿勢改善性に優れた衣服となった。
実施例1の衣服は、伸長率1における伸長応力1が1〜30gf/cmの範囲、かつ伸長率2における伸長応力2が20〜100gf/cmの範囲であるので、伸長率1における伸長応力1が30gf/cmを越える実施例2の衣服よりも着用快適性に優れていた。
実施例1〜3の衣服は、衣服素材の14.7N伸長時の伸長率3が身幅方向において70%以上であり、伸長率3が身幅方向において70%未満である比較例2の衣服よりも運動追従性に優れていた。また、実施例1の衣服の方が、実施例2の衣服よりも身幅方向における伸長率3が大きいので、より運動追従性が優れていた。
また、実施例1および2の衣服は、いずれもくり貫き部9の接合部が左右肩甲骨の間の上角からウエストにかけて存在しているので、くり貫き部9の接合部がなく脇線上端および袖ぐり下端の形状を変えた実施例3の衣服よりも姿勢改善性、運動追従性、着用快適性の全てにおいて優れていた。
比較例1の衣服は、前身頃2の身幅3と後身頃3の身幅7の長さ同じであり、前身頃2の身幅3と後身頃3の身幅7との合計寸法が、寸法にゆとりがあり着用快適性は優れているが、姿勢改善性のない衣服であった。
比較例2の衣服は、前身頃2の身幅6と後身頃3の身幅7との合計寸法がJIS規格で定める衣料サイズのチェストまたはバスト寸法の下限値を下回っているが、後身頃3の身幅7が前身頃2の身幅6に対して長く構成されているので、左右の肩甲骨部を身体の後ろ中心部へ引っ張る機能がなく、姿勢改善性のない衣服であった。
本発明は、着用者の上半身の動きや状態を適切な姿勢に誘導し、肩甲骨周辺筋肉の緊張を軽減させる機能性衣服として利用することができる。
1 :衣服本体
2 :前身頃
2a :前身頃パーツ
3 :後身頃
3a :後身頃パーツ
4 :袖
5 :衿
6 :前身頃の身幅
7 :後身頃の身幅
7a :分割された後身頃の身幅
8 :接合部
9 :くり貫き部
10 :肩甲骨内側突点の左右間距離
21 :肩甲骨
21a:肩甲骨上角
21b:肩甲骨下角
22 :上腕骨
23 :腱板
24a:僧帽筋上部
24b:僧帽筋中部
24c:僧帽筋下部
25 :後頭骨
26 :胸椎
27 :鎖骨
28 :三角筋
X :伸長率(%)
Y :伸長応力(gf/cm)
A :丈方向
B :身幅方向
(測定)
[伸長率1、2]
製作した衣服の前身頃および後身頃の身幅寸法と、その衣料を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズとの関係から伸長率1、2を下式のとおり求めた。なお、各サイズのチェストまたはバスト寸法は範囲表示区間の中間値を用いた。
・伸長率1(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−前身頃の身幅}/前身頃の身×100
・伸長率2(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−後身頃の身幅}/後身頃の身幅×100
ここで、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、この衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズのことである。

Claims (9)

  1. 前身頃と後身頃を含む身頃部を有し、
    前記前身頃を構成する素材と前記後身頃を構成する素材とは同一であり、
    前記後身頃の身幅が前記前身頃の身幅よりも短い、衣服。
  2. 前記後身頃が、複数の後身頃パーツが接合して構成されており、
    前記複数の後身頃パーツは、これら各後身頃パーツを接合せずに並べた平面状態でくり貫き部を形成する形状であり、
    前記複数の後身頃パーツを接合した状態で、前記くり貫き部を塞ぐ接合部が、人体の肩甲骨上角から肩甲骨下角にかけて左肩甲骨と右肩甲骨との間を通っている、請求項1の衣服。
  3. 前記前身頃の身幅と前記後身頃の身幅との比(前身頃の身幅/後身頃の身幅)が1.1以上である、請求項1または2の衣服。
  4. 前記後身頃の下記式で求めた伸長率2が、前記前身頃の下記式で求めた伸長率1よりも大きく、
    前記前身頃および後身頃を構成する素材の、前記伸長率2における身幅方向の伸長応力2が、前記伸長率1における身幅方向の伸長応力1よりも大きい、請求項1〜3のいずれかの衣服。
    ・伸長率1(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−前身頃の身幅}/前身頃の身幅)×100
    ・伸長率2(%)={(特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の中間値/2)−後身頃の身幅}/後身頃の身幅×100
    ただし、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、前記衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズである。
  5. 前記伸長応力1が1〜30gf/cm、かつ前記伸長応力2が20〜100gf/cmである、請求項4の衣服。
  6. 前記前身頃および後身頃を構成する素材の、14.7N伸長時の伸長率3が身幅方向で70%以上である、請求項1〜5のいずれかの衣服。
  7. 前記前身頃および後身頃を構成する素材の、14.7N伸長時の伸長率3の身幅方向と丈方向との比(身幅方向の伸長率3/丈方向の伸長率3)が0.5〜2.0である、請求項1〜6のいずれかの衣服。
  8. 前記前身頃および後身頃を構成する素材の、14.7N伸長後の伸長回復率が身幅方向で85〜100%である、請求項1〜7のいずれかの衣服。
  9. 前記前身頃の身幅と前記後身頃の身幅との合計寸法が、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズのチェストまたはバスト寸法範囲の下限値よりも短い、請求項1〜8のいずれかの衣服。
    ただし、特定の衣料規格で定められた特定の衣料サイズとは、前記衣服を設計するに際して基準とした衣料規格および衣料サイズである。
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