以下添付図面に従って、本発明に係る平版印刷版用支持体の製造方法及び製造装置の好ましい実施の形態について詳述する。
本発明の製造方法によって製造される平版印刷版用アルミニウム支持体(以下「平版印刷版用支持体」という)は、アルミニウムウェブの表面に表面処理を施すことによって、砂目形状をアルミニウムウェブの表面に形成させたものである。
図1に示すように、平版印刷版用支持体は、アルミニウムウェブを砂目立てする粗面化処理工程と、粗面化面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化処理工程とにより製造される。そして、製造された平版印刷版用支持体の粗面化面に、感光層形成液や感熱層形成液などの製版層形成液を塗布する塗布工程と、塗布層を乾燥する乾燥工程を経て平版印刷版のウェブが製造される。なお、塗布層の上に更にオーバーコート層等の従来公知の層と形成してもよい。このように製造された平版印刷版のウェブは、所定サイズのシートに裁断され、平版印刷版となる。
平版印刷版用支持体の製造装置は、アルミニウムウェブの面に砂目形状を形成させる各種の粗面化装置と、陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化装置とを組み合わせたものが好適に使用される。例えば、リールから送り出されて連続走行するアルミニウムウェブは、機械的粗面化装置(例えばブラシグレインの場合)、アルカリエッチング装置、酸によるデスマット装置及び異なる電解液を用いた電解粗面化装置を直列に適宜配置した複数種類の粗面化装置によって処理される。そして、これらの粗面化装置の後段に、粗面化面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化装置が設けられる。
このような装置構成の表面処理により得られたアルミニウムウェブは、2種以上の異なる周期の凹凸を重畳した構造がアルミニウムウェブ表面に形成され、平版印刷版としたときの耐刷性及び耐汚れ性に優れる。
以下に、平版印刷版用支持体に使用されるアルミニウムウェブ、及び上記した各種の粗面化装置並びに陽極酸化装置について詳細に説明する。
<アルミニウムウェブ(圧延アルミ)>
本実施形態のアルミニウムウェブ12として使用されるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属である。アルミニウム板には、既述したように、アルミニウム合金板も含まれており、以下、これらを総称してアルミニウム板という。
アルミニウム板としては、アルミニウム合金がラミネートされ又は蒸着されたプラスチックフィルム又は紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。また、アルミニウム板は、Bi、Ni等の元素や不可避不純物を含有することができる。
アルミニウム板は、従来より公知公用の素材のもの、例えば、JIS A1050、JIS A1100、JIS A3003、JISA3004、JIS A3005、国際登録合金3103A等のアルミニウム板を適宜利用することができる。
また、アルミニウム板の製造方法は、連続鋳造方式及びDC鋳造方式のいずれでもよく、DC鋳造方式の中間焼鈍や、均熱処理を省略したアルミニウム板も用いることができる。最終圧延においては、積層圧延や転写等により凹凸を付けたアルミニウム板を用いることもできる。また、アルミニウム板は、連続した帯状のシート材又は板材である、アルミニウムウェブであってもよく、製品として出荷される平版印刷版原版に対応する大きさ等に裁断された枚葉状シートであってもよい。
また、アルミニウム板の厚さは、通常、0.05〜1mm程度であり、0.1mm〜0.5mmであるのが好ましい。この厚さは印刷機の大きさ、印刷版の大きさ及びユーザの希望により適宜変更することができる。
アルミニウムウェブとしては、通常、アルミ純度が99.5wt%以上の純アルミニウムまたはアルミニウム合金が使用されるが、本発明の平版印刷版用支持体の製造装置では、99.4wt%以下、特に99.0wt%以下(例えば98.5wt%)の低純度アルミニウムウェブの使用において特に有効である。
<機械的粗面化装置>
図2は、機械的粗面化装置として好適に用いられるブラシグレイン法の図である。
ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴34Aの表面に、ナイロン(商標名)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛34Bを多数植設したローラ状ブラシ34を用いる。そして、回転するローラ状ブラシ34に研磨剤タンク36から研磨剤を含有するスラリー液38を噴きかけながら、アルミニウムウェブ12の表面の一方または両方を擦ることにより行う。この場合、アルミニウムウェブ12を挟んだローラ状ブラシ34の反対側に、ローラ状ブラシ34の径と略同等の距離離間した一対のローラ40、40を設け、アルミニウムウェブ12を押えつけながら擦ることが好ましい。
また、アルミニウムウェブ12を挟んだローラ状ブラシ34の反対側には、機械的粗面化装置で発生する使用済みの研磨剤をスラリー液から分離して後記するアルカリエッチング装置42に搬送する分離・搬送ライン43が設けられる。
分離・搬送ライン43は、主として、アルミニウムウェブ12から落流するスラリー液38を受ける受け容器43A、受け容器43Aとアルカリエッチング装置42の濾過助剤添加装置77とを繋ぐ配管43B、及び配管43Bに設けられたポンプ43C及び分離装置43Dで構成される。分離装置43Dとしては、例えば遠心分離機を使用することができる。これにより、受け容器43Aに溜まったスラリー液38は、分離装置43Dで研磨剤が分離された後、分離された研磨剤がアルカリエッチング装置42に搬送されて濾過助剤として使用される。したがって、分離装置43D後のポンプ43Cは粒体を搬送可能なものが使用される。
ローラ状ブラシ34及びスラリー液38の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。ローラ状ブラシ34を用いる場合、曲げ弾性率が、好ましくは10,000〜40,000kg/cm2、より好ましくは15,000〜35,000kg/cm2であり、かつ、毛腰の強さが好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下であるブラシ毛を用いる。ブラシ毛34Bの直径は、一般的には、0.2〜0.9mmである。ブラシ毛34Bの長さは、ローラ状ブラシ34の外径および胴34Aの直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
研磨剤は公知の物を用いることができる。例えば、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤;これらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましい。特に、ケイ砂は、パミストンに比べて硬く、壊れにくいので粗面化効率に優れる点で好ましい。研磨剤の平均粒径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、3〜50μmであるのが好ましく、6〜45μmであるのがより好ましい。研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、スラリー液38として用いる。スラリー液38には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。スラリー液の比重は0.5〜2であるのが好ましい。
機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理と比較してより安価に、平均波長5〜100μmの凹凸のある表面を形成することができるため、粗面化処理の手段として有効である。
機械的粗面化処理方法としては、例えば、アルミニウムウェブ表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウムウェブ表面を砂目立てするボールグレイン法、特開平6−135175号公報及び特公昭50−40047号公報に記載されているナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てする上記のブラシグレイン法を用いることができる。また、凹凸面をアルミニウム板に圧接する転写方法を用いることもできる。即ち、特開昭55−74898号、特開昭60−36195号、特開昭60−203496号の各公報に記載されている方法のほか、転写を数回行うことを特徴とする特開平6−55871号公報、表面が弾性であることを特徴とした特願平4−204235号明細書(特開平6−024168号公報)に記載されている方法も適用可能である。
また、放電加工、ショットブラスト、レーザー、プラズマエッチング等を用いて、微細な凹凸を食刻した転写ロールを用いて繰り返し転写を行う方法や、微細粒子を塗布した凹凸のある面を、アルミニウム板に接面させ、その上より複数回繰り返し圧力を加え、アルミニウムウェブ12に微細粒子の平均直径に相当する凹凸パターンを複数回繰り返し転写させる方法を用いることもできる。転写ロールへ微細な凹凸を付与する方法としては、特開平3−8635号、特開平3−66404号、特開昭63−65017号の各公報等に記載されている公知の方法を用いることができる。また、ロール表面にダイス、バイト、レーザー等を使って2方向から微細な溝を切り、表面に角形の凹凸をつけてもよい。このロール表面には、公知のエッチング処理等を行って、形成させた角形の凹凸が丸みを帯びるような処理を行ってもよい。また、表面の硬度を上げるために、焼き入れ、ハードクロムメッキ等を行ってもよい。そのほかにも、機械的粗面化処理としては、特開昭61−162351号公報、特開昭63−104889号公報等に記載されている方法を用いることもできる。本発明においては、生産性等を考慮して上述したそれぞれの方法を併用することもできる。これらの機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理の前に行うのが好ましい。
[アルカリエッチング装置]
図3は、アルカリエッチング装置42の全体構成図である。
図3に示すように、アルカリエッチング装置42は、主として、エッチング処理を行う処理槽44と、該処理槽44とアルカリ液貯留槽46との間でアルカリ液48を循環使用する循環ライン50と、循環使用されているアルカリ液48の組成濃度を一定に保つ組成濃度調整ライン52と、循環使用されているアルカリ液48を濾過する濾過ライン54と、で構成される。
処理槽44には、複数のガイドローラ56がVの字状に配置される。これにより、連続走行するアルミニウムウェブ12は、処理槽44に進入したあと処理槽44から進出する。また、処理槽44には、アルミニウムウェブ12の走行経路に沿って、アルカリ液48をアルミニウムウェブ12面に吹き付ける複数のノズル58、58…が配設される。なお、図4では、アルカリ液48をアルミニウムウェブ12面に吹き付けるようにしたが、処理槽44内のアルカリ液48にアルミニウムウェブ12を浸漬させながら走行するようにしてもよい。
処理槽44の底部からアルカリ液貯留槽46の上部に第1配管60が配設されるとともに、アルカリ液貯留槽46の側面から各ノズル58に第2配管62が配設される。なお、図3では、1つのノズル58に第2配管62が連結されている図で示してあるが、実際には全てのノズル58にアルカリ液48が供給されるように配管される。
ノズル58から供給されるアルカリ液48の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜120秒であるのが好ましい。
また、第2配管62には供給ポンプ64が配設される。これにより、処理槽44とアルカリ液貯留槽46との間でアルカリ液48を循環使用する循環ライン50が形成される。
また、アルカリ液貯留槽46の側面から槽上部に第3配管66が配設されるとともに、第3配管66の途中には、ポンプ67と、アルカリ液貯留槽46に貯留されているアルカリ液48の組成に対応して変動する特性であるアルカリ液特性を連続的に測定する測定装置68が設けられる。また、高濃度(例えば35質量%)のアルカリ(例えば水酸化ナトリウム)をアルカリ液貯留槽46に補充する第1補充配管70と、水をアルカリ液貯留槽46に補充する第2補充配管72とが設けられるとともに、それぞれの補充配管70、72はバルブ70A,72Aが設けられる。これにより、アルカリ液48の組成濃度調整ライン52が形成される。
測定装置68は、アルカリ液48の比重と電導度を測定し、測定結果に基づいて第1及び第2の補充配管70,72のバルブ70A,72Aをそれぞれ制御して、循環使用されるアルカリ液48の組成濃度が一定に保持されるようにする。
即ち、アルカリ液48の比重及び電導度と、アルカリ液48のアルカリ濃度及びアルミイオン濃度とは、従来技術で説明した特許文献1の図3に示すように密接な関係がある。したがって、アルカリ液の比重及び電導度を測定して、第1及び第2の補充配管70、72から水及び高濃度アルカリを添加することで、アルカリ液のアルカリ濃度及びアルミイオン濃度を一定に調整することができる。アルカリ濃度及びアルミイオン濃度は、粗面化面におけるピット(孔)の孔径分布に影響するため調整する必要がある。
また、アルカリ液貯留槽46の側面から第4配管74が濾過装置76の入口に延設されるとともに、第4配管74には、ポンプ75が設けられる。そして、濾過装置76で濾過された濾過済みアルカリ液48が濾過装置76の出口から第5配管78を介してアルカリ液貯留槽46の上部に戻される。濾過装置76の近傍には、濾過助剤を濾過装置76に添加する濾過助剤添加装置77が設けられる。この濾過助剤添加装置77には、前記した機械的粗面化装置の受け容器43Aから配管43Bが延設されている。なお、本実施の形態では、濾過助剤添加装置77から機械的粗面化装置で使用済みの研磨剤を使用するようにしたが、使用前の新しい研磨剤を使用することもできる。
第5配管78の途中には、コンプレッサ80からの圧縮エアを導入する第1エア配管82が接続される。これにより、濾過装置76の運転を停止して、コンプレッサ80を運転すると、圧縮エアが濾過装置76内に送り込まれ、ろ材である濾過膜のエア逆洗が行われる。即ち、濾過膜に付着した固形物が剥離され、濾過装置76の底部に落下する。なお、図示しないが、エア逆洗を行う場合には、第5配管78のアルカリ液貯留槽46近傍に設けられたバルブ(図示せず)を閉じる。
濾過装置76の底部には、落下した固形物を外部に排出する開閉弁つきの排出口84が設けられ、開閉弁を開くことによって、アルカリ液48を含んだ固形物が濾過装置76から受け容器86に排出される。これにより、アルカリ液48の濾過ライン54が形成される。
濾過装置76としては、ろ材として濾布や中空糸膜等の濾過膜を用いた濾過膜方式を好適に使用することができる。しかし、この方式に限定するものではなく、アルカリ液48中に析出する固形物を効率的に濾過できる方式であれば、どのような方式でもよく、カートリッジ、金網、濾過助剤、粒状、繊維状の濾過や磁性分離などの各種方式を採用してもよい。
アルカリエッチング処理において、アルミニウムウェブ12からアルカリ液48中に溶けだして析出する固形物の粒径は、5〜100μmの間で分布しており、平均粒径が20μm程度である。したがって、濾過膜方式の場合、濾過膜の孔径は1〜30μmの範囲で適宜選択することが好ましい。濾過膜の孔径のより好ましい範囲は5〜30μmの範囲であり、特に好ましくは5〜20μmの範囲である。
固形物としては、アルミニウムウェブ12に含まれる微量金属(Si,Fe,Cu,Mn,Mg,Zn等)の水酸化物が主たるものである。
また、循環使用されているアルカリ液48の固形物濃度を測定する固形物濃度測定手段と、測定した固形物濃度に基づいてアルカリ液の固形物含有量が100ppm以下になるように濾過装置76を制御する制御手段と、備えることが好ましい。より好ましい固形物含有量は50ppm以下である。即ち、エッチング性能を低下させないためには、循環使用されるアルカリ液中の固形物含有量は100ppm以下の濃度に維持する必要がある。
図3は、制御手段を、組成濃度調整ライン52の測定装置68で兼用した場合であり、測定装置68で測定される比重及び電導度の少なくとも1つの測定結果からアルカリ液中の固形物濃度を求める。即ち、比重及び電導度と、固形物濃度との検量線を作成し、検量線から固形物濃度を求める。そして、測定装置68は、測定された固形物濃度に基づいて濾過ライン54のポンプ75をON−OFFして、循環使用されているアルカリ液48の固形物含有量が100ppm以下になるようにする。
なお、比重、電導度以外に、循環使用されているアルカリ液48の濁度、色度と固形物濃度との検量線を作成し、固形物濃度を求めるようにしてもよい。
例えば、濁度を利用して固形物濃度を求める場合、濁度を150(NTU)以下に保つことにより、アルカリ液中の固形物含有量を100ppm以下になるようにすることができる。また、濁度を80(NTU)以下に保つことにより、アルカリ液中の固形物含有量を50ppm以下になるようにすることができる。
ちなみに、アルミニウムウェブ12として、アルミ純度が98.65%の低純度のアルミニウム板を使用し、アルカリエッチングを3段行った場合、1段目と2段目のアルカリエッチング装置では、固形物の析出量は200ppm/時間となる。また、3段目のアルカリエッチング装置では、固形物の析出量は30ppm/時間となる。
アルミ濃度が低純度のアルミニウムウェブ12を使用すると、アルカリ液を1時間循環使用するとエッチング性能に悪影響のでる固形物濃度に達してしまう。これは、低純度のアルミニウムウェブ12の場合には、高純度のアルミニウムウェブ12に比べて上記した微量金属(Si,Fe,Cu,Mn,Mg,Zn等)の含有量が多く、アルカリエッチング処理によってアルカリ液中に溶け出して析出する固形物量が多くなるためである。
したがって、低純度のアルミニウムウェブ12を使用する場合には、アルカリ液中の固形物除去量を多くする必要があり、濾過装置76を備えたアルカリエッチング装置42が特に有効となる。また、アルカリエッチング装置16及び18は、アルカリエッチング装置20に比べて濾過装置76で濾過する固形物の除去量を多くする必要がある。
固形物の除去量が多い場合、例えばアルカリ液中の固形物濃度が200〜1500ppm範囲では、濾過膜が目詰まりし易く短時間で濾過速度が低下し易い。したがって、濾過助剤添加装置77から濾過助剤として研磨剤をアルカリ液48に添加させることが好ましい。
濾過助剤として使用する研磨剤の種類は、機械的粗面化装置で説明したスラリー液38中に含有される研磨剤と同様である。研磨剤の種類の中でも特にパミストンとケイ砂が好ましい。濾過助剤として好ましいパミストンの組成は次の通りである。
・シリカ(ケイ酸分:SiO2)…70〜80質量%
・アルミナ(Al2O3)…10〜20質量%
・酸化鉄(Fe2O3)…3質量%以下
・*その他の成分…100質量%の残り
研磨剤の粒径としては、メジアン径で3〜50μmの範囲が好ましく、6〜45μmの範囲がより好ましい。研磨剤のメジアン径は濾過速度と関係し、3〜50μmの範囲が濾過速度の低下を抑制する効果が大きい。また、3〜50μmの範囲の研磨剤は濾材(濾過膜)からの剥離性もよい。
研磨剤の粒径分布は、1〜200μmの分布範囲が好ましく、5〜100μmの分布範囲であることが特に好ましい。
アルカリ液48に添加する研磨剤の添加量としては、0.03〜1.00g/Lの範囲であることが好ましく、0.05〜0.30g/Lの範囲がより好ましい。研磨剤の添加量が0.03〜1.00g/Lの範囲において、濾過速度の低下抑制効果が比較的大きなレベルから大きなレベルに維持でき、且つ濾過膜上に堆積する研磨剤の堆積量も小さく濾過膜の洗浄頻度を少なくできるからである。
また、濾過助剤として使用する研磨剤は、未使用の研磨剤を使用してもよいが、上記したように、機械的粗面化装置で使用した使用済みの研磨剤を使用することがより好ましい。これは、機械的粗面化装置で使用することにより、研磨剤の粒体の角が取れて丸みをおびるため、研磨剤で濾過膜を傷つけ難くなる。また、研磨剤が丸みをおびることによって、濾過膜上に堆積した研磨剤同士の間に空隙が形成され易くなり、固形物と研磨剤が混ざった濾過ケーク層による目詰まりを抑制できる。更には研磨剤の有効利用にも寄与する。
この場合、珪藻土やパーライトのような通常の濾過助剤でもある程度の濾過速度低下抑制効果を得ることはできるが、通常の濾過助剤よりも硬い研磨剤を使用することで一層の改善を図ることができる。また、珪藻土やパーライトは、アルカリ液濃度が20〜35質量%、アルカリ液温度が50〜80℃のアルカリエッチング条件下でアルカリ液に対して溶解性を有する。これにより、アルカリエッチングの性能に悪影響をもたらす懸念がある。これに対して、上記した種類の研磨剤は、珪藻土やパーライトに比べてアルカリ液への溶解性が極めて小さく、アルカリエッチングに悪影響をもたらす懸念もない。
このように、アルカリ液48中の固形物の濾過を行う際の濾過助剤として研磨剤を使用することにより、濾過膜上に固形物と研磨剤とが混ざった濾過ケークが形成される。濾過ケーク中の研磨剤は硬いため、高い濾過圧が加わっても濾過ケークが圧縮されず、アルカリ液が通過する空隙が確保され易くなる。これによって、長時間の濾過においても濾過速度の低下を抑制できる。この場合、濾過装置76に対してアルカリ液を1回だけ通過させることに限定されず、ポンプ75によって複数回の循環濾過を行うこともできる。特に、濾過開始時には、十分な厚みの濾過ケークが形成されていないので、複数回の循環濾過を行うことが好ましい。
また、上記の如く固形物の除去量が多い場合には、図には示さなかったが、アルカリ液中の固形物濃度が200〜1500ppm範囲では、濾過ライン54に複数の濾過装置76を直列に配置して、複数段濾過することも良い方法である。この場合、上流側の濾過装置76から下流側の濾過装置76にいくにしたがって、濾過膜の孔径を小さくすることが好ましい。例えば、第1段濾過と第2段濾過との2段濾過を行う場合には、第1段濾過では、孔径が10〜30μmの濾過膜で濾過し、第2段濾過では、孔径が1〜10μm未満(例えば1〜8μm)の濾過膜で濾過する。更に好ましくは、第1段濾過では、孔径が10〜20μmの濾過膜で濾過し、第2段濾過では、孔径が5〜10μm未満(例えば5〜8μm)の濾過膜で濾過するとよい。
このように、アルカリエッチング装置42では、循環使用するアルカリ液48の組成濃度調整に加えて、アルカリエッチング処理によりアルミニウムウェブ12からアルカリ液中に溶け出して析出した固形物を濾過装置76で濾過するようにした。これにより、アルカリエッチング処理において、アルカリ液48を循環使用してもエッチング性能が低下することを効果的に抑制することができる。したがって、最終製品である平版印刷版の耐刷性や耐汚れ性能を悪化させることを効果的に防止できる。
特に、低純度のアルミニウムウェブ12を使用した場合であってもエッチング性能が低下することはないので、平版印刷版用支持体の製造コスト削減に大きく寄与する。
また、濾過ライン54には、図3に示すように、濾過された固形物からアルカリ液48を脱液する脱液ライン88を併設することが好ましい。
即ち、受け容器86からは第6配管90が脱液機92まで延設されるとともに、第6配管90には受け容器86の固形物を脱液機92に送るポンプ94が設けられる。脱液機92としては、固形物からアルカリ液48を脱液できるものであればどのようなものでもよいが、例えばベルト式脱液機を好適に使用できる。
ベルト式脱液機は、横方向に長尺な脱液用容器96の入口96A側と出口96B側とに設けた一対のローラ98,98同士の間に無端状の帯状不織布100を掛け渡し、帯状不織布100が回転走行するように構成する。更に、脱液用容器96の天井面から第2エア配管102が前記したコンプレッサ80まで延設される。これにより、帯状不織布100の上に乗って搬送される固形物中のアルカリ液48は、重力及びコンプレッサからの圧縮エアによって帯状不織布100を透過し、脱液用容器96の底部に溜まる。この結果、固形物中のアルカリ液48が脱液されるとともに、脱液された固形物は出口96Bの下方に設けられた固形物受け容器104内に落下する。
また、脱液用容器96の底部に溜まったアルカリ液48は、ポンプ105を有する第7配管106を介してアルカリ液貯留槽46に戻される。これにより、固形物中に残存するアルカリ液を再利用するための脱液ライン88が形成される。
この脱液ライン88では、固形物のアルカリ含有量が80質量%以下、好ましくは60質量%以下になるように脱液することが好ましい。
以下にアルカリエッチング処理の好ましい態様を説明する。
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行わない場合、エッチング量は、0.1〜10g/m2であるのが好ましく、1〜5g/m2であるのがより好ましい。エッチング量が0.1g/m2 未満であると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等が残存する場合があるため、後段の電解粗面化処理において均一なピット生成ができずムラが発生してしまう場合がある。一方、エッチング量が1〜10g/m2であると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等の除去が十分に行われる。上記範囲を超えるエッチング量とするのは、経済的に不利となる。
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行う場合、エッチング量は、3〜20g/m2であるのが好ましく、5〜15g/m2であるのがより好ましい。エッチング量が3g/m2 未満であると、機械的粗面化処理等によって形成された凹凸を平滑化できない場合があり、後段の電解処理において均一なピット形成ができない場合がある。また、印刷時に汚れが劣化する場合がある。一方、エッチング量が20g/m2を超えると、凹凸構造が消滅してしまう場合がある。
電解粗面化処理の直後に行うアルカリエッチング処理は、酸性電解液中で生成したスマットを溶解させることと、電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。電解粗面化処理で形成されるピットは電解液の種類によって異なるためにその最適なエッチング量も異なるが、電解粗面化処理後に行うアルカリエッチング処理のエッチング量は、0.1〜5g/m2であるのが好ましい。硝酸電解液を用いた場合、塩酸電解液を用いた場合よりもエッチング量は多めに設定する必要がある。電解粗面化処理が複数回行われる場合には、それぞれの処理後に、必要に応じてアルカリエッチング処理を行うことができる。
アルカリ液48に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、及びカセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
アルカリ液48の濃度等のアルカリ条件は、上記した通りである。
アルミニウムウェブ12をアルカリ液48に接触させる方法としては、例えば、アルカリ液48を入れた槽の中にアルミニウムウェブ12を通過させる方法、アルミニウムウェブ12をアルカリ液48を入れた槽の中に浸漬させる方法、アルカリ液48をアルミニウムウェブ12の表面に噴きかける方法が挙げられる。
<電解粗面化装置>
図4は、ラジアル型交流電解槽を備えた電解粗面化装置の一例の断面模式図を示す。
図4に示されるように、電解粗面化装置108は、酸性電解液が貯留される電解槽110Aが内部に設けられた電解槽本体110と、電解槽110A内部に、水平方向に伸びる軸線の周りに回転可能に配設され、帯状に連続した薄板であるアルミニウムウェブ12を矢印方向、即ち図4における左方から右方に向かって送る送りローラ114と、を備えている。
電解槽110Aの内壁面は、送りローラ114を囲むように略円筒状に形成され、電解槽110Aの内壁面上には、半円筒状の電極116A及び116Bが送りローラ114を挟んで設けられている。電極116A及び116Bは、それぞれ円周方向に沿って複数の小電極(図示せず)に分割され、各小電極の間には、それぞれ絶縁層(図示せず)が介装されている。小電極は、例えば、グラファイトや金属等を用いて形成でき、絶縁層は、例えば塩化ビニル樹脂等により形成できる。絶縁層の厚さは、1〜10mmが好ましい。また、電極116A及び116Bの何れにおいても、小電極は、それぞれAC電源118に接続されている。
AC電源118は、交番波形電流を電極116A及び116Bに供給する機能を有する。AC電源118は、誘導電圧調整器及び変圧器を用いて商用交流を電流・電圧調整することにより正弦波を発生させる正弦波発生回路、商用交流を整流する等の手段により得られた直流から台形波電流又は矩形波電流を発生させるサイリスタ回路等が挙げられる。
電解槽110Aの上部には、電解粗面化処理時において、アルミニウムウェブ12が導入及び導出される開口部120が形成されている。開口部120における電極116Aの上流側末端近傍には、後で詳しく説明する電解液貯留槽142と電解槽110Aとの間で酸性電解液を循環使用する配管122が設けられている。
電解槽110Aの上方における開口部120近傍には、アルミニウムウェブ12を電解槽110A内部に案内する一群の上流側案内ローラ124Aと、電解槽110A内で電解粗面化処理されたアルミニウムウェブ12を電解槽110Aの外部に案内する下流側案内ローラ124Bとが配設されている。
電解槽本体110における電解槽110Aの下流側には、溢流槽112が設けられている。溢流槽112は、電解槽110Aから溢流した酸性電解液を一時貯留し、電解槽110Aの液面高さを一定に保持する機能を有する。
電解槽本体110における電解槽110Aの下流側には、補助電解槽126が設けられている。補助電解槽126は、電解槽110Aよりも浅く、底面が平面状に形成されている。そして、底面上には、円柱状の補助電極128が複数本設けられている。また、補助電解槽126の上流側には、電解液貯留槽142と補助電解槽116との間で酸性電解液を循環使用する配管125が設けられているとともに、下流側には酸性電解液が溢流する補助溢流槽127が設けられる。この補助溢流槽127に、排出配管127Aが設けられる。
補助電極128は、白金等の高耐食性の金属又はフェライト等から形成されたものが好ましく、また、板状であってもよい。補助電極128は、AC電源118における電極116Bが接続される側に、電極116Bに対して並列に接続され、中間には、サイリスタ130Aが、点弧時においてAC電源118における電極116Bに接続された側から補助電極128に向う方向に電流が流れるように接続されている。
また、AC電源118における電極116Aが接続された側にも、サイリスタ130Bを介して補助電極128に接続されている。サイリスタ130Bは、点弧時にAC電源118における電極116Aに接続された側から補助電極128に向う方向に電流が流れるように接続されている。
サイリスタ130A、130Bの何れを点弧したときも、補助電極128にはアノード電流が流れる。従って、サイリスタ130A、130Bを位相制御することにより、補助電極128に流れるアノード電流の電流値を制御でき、アルミニウムウェブ12がカソードの時に流れる電気量Qcとアノードの時に流れる電気量Qaとの比率Qc/Qaも制御できる。
なお、図4において、符号132はスリットであり、符号134は電解液通路である。また、電解液貯留槽142と電解槽110Aとの間で循環される酸性電解液は、上記した循環配管122の他に、電解槽110Aの下部に設けた配管131から電解液通路134に供給されるようにしてもよい。
また、電解粗面化装置108には、酸性電解液を循環使用する循環ライン136と、循環使用されている酸性電解液から固形物を濾過する濾過ライン138と、酸性電解液の組成濃度調整を行う組成濃度調整ライン139と、が設けられる。
電解槽110Aに設けられた溢流槽112の排出配管112A及び補助電解槽126の補助溢流槽127の排出配管127Aが、電解液貯留槽142の上部まで延設される。即ち、図5において、排出配管112A,127Aの符号Aが、電解液貯留槽142の配管140の符号Aに接続される。
また、電解液貯留槽142の側面から延設された配管152が、濾過装置156の入口に接続されるとともに、濾過装置156の出口から延設された配管153が電解槽110Aの配管122、131及び補助電解槽126の配管125に接続される。即ち、図5において、配管153の符号Bと、配管122、131、125の符号Bとが接続される。そして、配管152にはポンプ154が設けられる。これにより、電解槽110A及び補助電解槽126と、電解液貯留槽142との間で酸性電解液を循環使用する循環ライン136と、循環されている酸性電解液中の固形物を濾過する濾過ライン138が形成される。
濾過装置156としては、アルカリエッチング装置42における濾過装置76と同様に、濾過膜で濾過する方式を好適に採用することができる。しかし、電解粗面化処理において、アルミニウムウェブ12から酸性電解液に溶け出して析出する固形物の粒径は、0.1〜10μm(平均1.5μm)程度であり、アルカリエッチング処理に比べて細かい。したがって、濾過膜の孔径は、0.1〜5μmの範囲から適宜選択することが好ましい。また、電解粗面化処理において、アルミニウムウェブ12から酸性電解液に溶け出す固形物の量は、約3ppm/時間と少なく、濾過装置156もカートリッジ、金網、濾過助剤、粒状、繊維状の濾過や磁性分離などの何れも採用することができ、特にカートリッジ型を好ましく使用することができる。
また、電解液貯留槽142の側面から槽上部に循環配管141が設けられ、循環配管141の途中には、ポンプ144と、電解液貯留槽142に貯留されている酸性電解液の組成に対応して変動する特性である電解液特性を連続的に測定する測定装置146と、が設けられる。また、電解液貯留槽142には、高濃度の酸(塩酸、硝酸等)を補充する酸補充配管148が設けられるとともに、水を補充する水補充配管150が設けられ、それぞれの補充配管148、150にはバルブ148A、150Aが設けられる。これにより、酸性電解液の組成濃度を一定に保持するための組成濃度調整ライン139が形成される。
測定装置146は、アルカリエッチング装置の測定装置68と同様に、酸性電解液の比重及び電導度を測定して、測定結果に応じて補充配管148、150のバルブを制御する。
なお、図4では、酸性電解液中の固形物濃度の測定は、アルカリエッチング装置42の場合と同様に、組成濃度調整ライン139に設けた測定装置146で兼用して比重及び電導度から求める場合で示した。しかし、濁度や色度を測定する測定装置を別途設けて、酸性電解液中の固形物濃度を測定してもよい。
以下に電解粗面化処理の好ましい態様を説明する。
電解粗面化処理には、通常の交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いられる電解液を用いることができる。中でも、塩酸または硝酸を主体とする電解液を用いることで、特徴的な凹凸構造を表面に形成させることができる。電解粗面化処理としては、陰極電解処理の前後に酸性溶液中での交番波形電流による第1及び第2の電解処理を行うことが好ましい。陰極電解処理により、アルミニウムウェブ12の表面で水素ガスが発生してスマットが生成することにより表面状態が均一化され、その後の交番波形電流による電解処理の際に均一な電解粗面化が可能となる。この電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
電解液である酸性溶液としては、硝酸、塩酸のほかに、米国特許第4,671,859号、同第4,661,219号、同第4,618,405号、同第4,600,482号、同第4,566,960号、同第4,566,958号、同第4,566,959号、同第4,416,972号、同第4,374,710号、同第4,336,113号、同第4,184,932号の各明細書等に記載されている電解液を用いることもできる。
酸性溶液の濃度は0.5〜2.5質量%であるのが好ましいが、スマット除去処理での使用を考慮すると、0.7〜2.0質量%であるのが特に好ましい。また、液温は20〜80℃であるのが好ましく、30〜60℃であるのがより好ましい。
塩酸または硝酸を主体とする水溶液は、濃度1〜100g/Lの塩酸または硝酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物または塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、塩酸または硝酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、塩酸または硝酸の濃度0.5〜2質量%の水溶液にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。
更に、Cuと錯体を形成しうる化合物を添加して使用することによりCuを多く含有するアルミニウム板に対しても均一な砂目立てが可能になる。Cuと錯体を形成しうる化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のアンモニアの水素原子を炭化水素基(脂肪族、芳香族等)等で置換して得られるアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸塩類が挙げられる。また、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩も挙げられる。温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
電解粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、サイン波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は1〜3msecであるのが好ましい。1msec未満であると、アルミニウムウェブ12の進行方向と垂直に発生するチャタマークという処理ムラが発生しやすい。TPが3msecを超えると、特に硝酸電解液を用いる場合、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
台形波交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−195300公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものが好ましい。台形波交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
(硝酸電解)
硝酸を主体とする電解液を用いた電解粗面化処理により、平均開口径0.5〜5μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、5μmを超えるハニカムピットも生成する。このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜1000C/dm2であるのが好ましく、50〜300C/dm2であるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜100A/dm2 であるのが好ましい。また、高濃度または高温の硝酸電解液を用いると、平均開口径0.2μm以下の小波構造を形成させることもできる。
(塩酸電解)
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電解を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径が0.01〜0.2μmであり、アルミニウムウェブ12の表面の全面に均一に生成する。このような砂目を得るためには電解反応が終了した時点でのアルミニウムウェブ12のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜100C/dm2であるのが好ましく、20〜70C/dm2であるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜50A/dm2 であるのが好ましい。
このような塩酸を主体とする電解液での電気化学的粗面化処理では、アノード反応にあずかる電気量の総和を400〜1000C/dm2と大きくすることでクレーター状の大きなうねりを同時に形成することも可能であるが、この場合は平均開口径10〜30μmのクレーター状のうねりに重畳して平均開口径0.01〜0.4μmの微細な凹凸が全面に生成する。したがって、この場合、平均開口径0.5〜5μmの中波構造を重畳させられないため、本発明の特徴である表面の砂目形状を作ることができない。
上記の硝酸、塩酸等の電解液中で行われる第1及び第2の電解粗面化処理の間に、アルミニウムウェブ12は陰極電解処理を行うことが好ましい。この陰極電解処理により、アルミニウムウェブ12表面にスマットが生成するとともに、水素ガスが発生してより均一な電解粗面化処理が可能となる。この陰極電解処理は、酸性溶液中で陰極電気量が好ましくは3〜80C/dm2、より好ましくは5〜30C/dm2で行われる。陰極電気量が3C/dm2 未満であると、スマット付着量が不足する場合があり、また、80C/dm2を超えると、スマット付着量が過剰となる場合があり、いずれも好ましくない。また、電解液は上記第1及び第2の電解粗面化処理で使用する溶液と同一であっても異なっていてもよい。
<デスマット装置>
電解粗面化処理またはアルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(デスマット処理)が行われる。用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。デスマット処理は、例えば、アルミニウムウェブ12を塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウムウェブ12を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウムウェブ12を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウムウェブ12を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウムウェブ12の表面に噴きかける方法が挙げられる。
デスマット処理においては、酸性溶液として、上述した電解粗面化処理において排出される硝酸を主体とする水溶液もしくは塩酸を主体とする水溶液の廃液、または、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を主体とする水溶液の廃液を用いることができる。デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。デスマット処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウムおよびアルミニウム合金成分が溶け込んでいてもよい。
<陽極酸化装置>
以上のように処理されたアルミニウムウェブ12には、更に、陽極酸化処理が施される。
図5は、陽極酸化装置160の一例を示す構成図である。
陽極酸化装置160において、アルミニウムウェブ12は、図5中の矢印で示すように搬送される。電解液162が貯溜された給電槽164にてアルミニウムウェブ12は給電電極166によって(+)に荷電される。そして、アルミニウムウェブ12は、給電槽164においてローラ168によって上方に搬送され、ニップローラ170によって下方に方向変換された後、電解液162が貯溜された電解処理槽172に向けて搬送され、ローラ174によって水平方向に方向転換される。
ついで、アルミニウムウェブ12は、電解電極176によって(−)に荷電されることにより、その表面に陽極酸化皮膜が形成され、電解処理槽172を出たアルミニウムウェブ12は後工程に搬送される。
陽極酸化装置160において、ローラ168、ニップローラ170及びローラ174によって方向転換手段が構成され、アルミニウムウェブ12は、給電槽164と電解処理槽172との槽間部において、ローラ168、170及び174により、山型及び逆U字型に搬送される。給電電極166と電解電極176とは、直流電源178に接続されている。
図5の陽極酸化装置160では、給電槽164と電解処理槽172とを1枚の槽壁180で仕切り、アルミニウムウェブ12を槽間部において山型及び逆U字型に搬送した。これによって、槽間部におけるアルミニウムウェブ12の長さを最短にすることができる。よって、陽極酸化装置160の全体長を短くできるので、設備費を低減することができる。また、アルミニウムウェブ12を山型及び逆U字型に搬送することによって、各槽164及び172の槽壁にアルミニウムウェブ12を通過させるための開口部を形成する必要がなくなる。よって、各槽164及び172内の液面高さを必要レベルに維持するのに要する送液量を抑えることができるので、稼働費を低減することができる。
また、図5の陽極酸化装置160には、電解粗面化装置108と同様に、電解液を循環使用する循環ライン182と、循環使用されている電解液中の固形物を濾過する濾過ライン184と、電解液の組成濃度調整を行う組成濃度調整ライン186と、が設けられる。
給電槽164の排出配管164A及び電解処理槽172の排出配管172Aが電解液貯留槽188の上部まで延設される。即ち、図5において、排出配管164A,172Aの符号Aが、電解液貯留槽188の配管190の符号Aに接続される。
また、電解液貯留槽188の側面から延設された配管201が、濾過装置203の入口に接続されるとともに、濾過装置203の出口から延びた配管202が、給電槽164の配管204及び電解処理槽172の配管206に連結される。即ち、図5において、配管204及び配管206の符号Bが、配管202の符号Bに接続される。
そして、配管201にはポンプ208が設けられる。これにより、給電槽164及び電解処理槽172と、電解液貯留槽188との間で電解処理液を循環使用する循環ライン182と、循環されている電解処理液中の固形物を濾過する濾過ライン184が形成される。
濾過装置203としては、電解粗面化装置108における濾過装置156と同様に、濾過膜で濾過する方式を好適に採用することができる。しかし、陽極酸化処理において、アルミニウムウェブ12から電解処理液に溶け出して析出する固形物の粒径は、電解粗面化処理と同様で0.1〜10μm(平均1.5μm)程度である。
したがって、濾過膜の孔径は、0.1〜5μmの範囲から適宜選択することが好ましい。また、陽極酸化皮膜処理において、アルミニウムウェブ12から電解処理液に溶け出す固形物の量は、約5ppm/時間と少なく、濾過装置203もカートリッジ、金網、濾過助剤、粒状、繊維状の濾過や磁性分離などの何れも採用することができ、特にカートリッジ型を好ましく使用することができる。
また、電解液貯留槽188の側面から槽上部に循環配管192が設けられ、循環配管192の途中には、ポンプ194と、電解液貯留槽188に貯留されている電解処理液の組成に対応して変動する特性である電解処理液特性を連続的に測定する測定装置196と、が設けられる。また、電解液貯留槽188には、高濃度の酸(例えば硫酸)を補充する酸補充配管198が設けられるとともに、水を補充する水補充配管200が設けられ、それぞれの補充配管198、200にはバルブ198A,200Aが設けられる。これにより、電解処理液の組成濃度を一定に保持するための組成濃度調整ライン186が形成される。
測定装置196は、電解粗面化装置108の測定装置146と同様に、電解処理液の比重及び電導度を測定して、測定結果に応じて補充配管198、200のバルブ198A,200Aを制御する。
なお、図5では、電解処理液中の固形物濃度の測定は、アルカリエッチング装置42の場合と同様に、組成濃度調整ライン186に設けた測定装置196で兼用して比重及び電導度から求める場合で示した。しかし、濁度や色度を測定する測定装置を別途設けて、電解処理液中の固形物濃度を測定してもよい。
以下に陽極酸化処理の好ましい態様を説明する。
陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
この際、少なくともアルミニウムウェブ12、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第2、第3の成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
陽極酸化処理の条件は、使用される電解処理液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間15秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
また、特開昭54−81133号、特開昭57−47894号、特開昭57−51289号、特開昭57−51290号、特開昭57−54300号、特開昭57−136596号、特開昭58−107498号、特開昭60−200256号、特開昭62−136596号、特開昭63−176494号、特開平4−176897号、特開平4−280997号、特開平6−207299号、特開平5−24377号、特開平5−32083号、特開平5−125597号、特開平5−195291号の各公報等に記載されている方法を使用することもできる。
中でも、特開昭54−12853号公報および特開昭48−45303号公報に記載されているように、電解処理液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解処理液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解処理液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸に硫酸アルミニウム等を添加することにより調製することができる。
硫酸を含有する電解処理液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブ12と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。アルミニウムウェブ12に直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブ12の一部に電流が集中していわゆる「焼け」が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/m2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2またはそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブ12に、電解処理液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。このような条件で陽極酸化処理を行うことによりポア(マイクロポア)と呼ばれる孔を多数有する多孔質皮膜が得られるが、通常、その平均ポア径は5〜50nm程度であり、平均ポア密度は300〜800個/μm2程度である。
陽極酸化皮膜の量は1〜5g/m2 であるのが好ましい。1g/m2未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2 を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2であるのがより好ましい。また、アルミニウムウェブ12の中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
陽極酸化処理に用いられる電解装置としては、特開昭48−26638号、特開昭47−18739号、特公昭58−24517号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
なお、本実施の形態では、電解粗面化処理及び陽極酸化処理で発生する酸性液中の固形物濾過に濾過助剤を使用しなかったが、濾過助剤を使用してもよい。この場合の濾過助剤としてはアルカリエッチグ処理で使用する研磨剤に限定されず、珪藻土やパーライトのような通常の濾過助剤も使用できる。
[実施例A]
次に、本実施の形態のアルカリエッチング装置を使用した実施例を説明する。
[試験方法]
試験は、アルカリ液48の循環ライン、濾過ライン、組成濃度調整ラインについて下記の条件で行った。
(循環ライン)
アルカリエッチング装置42の処理槽44において、幅1000mm、厚み0.3mmで、アルミ純度が99.0wt%のアルミニウムウェブ12を、アルカリ液48でエッチングするとともに、アルカリ液48を処理槽44とアルカリ液貯留槽46との間で循環使用した。
そして、循環使用するアルカリ液中に溶解するアルミニウム溶解量が5g/m2になるようなエッチング条件でアルミニウムウェブ12を連続的にアルカリエッチングした。アルカリエッチング処理するアルカリ液48の液温は65℃(50〜80℃中心)とした。
(組成濃度調整ライン)
循環使用されているアルカリ液48を測定装置68で測定し、その測定結果に基づいて補充配管70、72から水及び高濃度アルカリを補充することによって、アルカリ濃度(NaOH濃度)を25質量%、且つアルミイオン濃度を5質量%で一定に保持するようにした。
(濾過ライン)
図6の表に示すように、実施例1〜14については、濾過装置76により表に示す濾過条件でアルカリ液48を濾過するとともに、比較例1〜3については、循環使用されるアルカリ液48を濾過しなかった。また、濾過装置76で濾過する前のアルカリ液中の固形物含有量は、120、190、200、500、500、1500ppmの6水準において試験した。
実施例1〜14における濾過装置76は、ろ材として濾過膜による濾過膜方式のものを使用し、実施例1〜9は2段濾過を行い実施例10〜14は1段濾過を行った。2段濾過の場合には、1段目と2段目の濾過膜の孔径を図6の表の如く変えた。また、固形物含有量の測定装置としては、濁度を利用した測定装置を別途設けて使用した。
[評価方法]
実施例1〜14について、濾過前後のアルカリ液中の固形物含有量(濃度)を測定するとともに、製造された平版印刷版用支持体の砂目形状の均一性について、倍率が200倍の電子顕微鏡(SEM)を用いて評価した。また、アルカリ液48の廃棄量の多少によって経済性を評価した。これらの評価を総合して総合評価を行い、○、△、×の3段階評価を行った。そして、総合評価が△以上を合格とした。
なお、図6の表の項目の「新液補充量」とは、未使用の高濃度アルカリ液の補充量であり、従来通りの新液補充量を1とした。また、「廃液量評価」とは、「新液補充量」と同量をアルカリ液貯留槽46から定期的に抜き取るアルカリ液48の量であり、従来通りの抜き取り量を1とした。
[試験結果]
図6の表の実施例1〜5は、濾過装置76で濾過する前のアルカリ液中の固形物含有量が1500ppm(濁度600NTU)の場合であり、濾過後の固形物含有量をエッチング性能に悪影響のでない100ppm以下(濁度150NTU以下)に低減することができた。特に実施例4のように、1段目濾過の孔径を10μmとし、2段目濾過の孔径を1μmとすることによって、濾過後の固形物含有量を10ppm(濁度10NTU)まで低減できた。また、実施例1〜5の「砂目均一性」は全て均一の結果であり、総合評価も全て○であった。
また、実施例6〜8は、濾過装置76で濾過する前のアルカリ液中の固形物含有量が500ppm(濁度350NTU)の場合であり、濾過後の固形物含有量をエッチング性能に悪影響のでない50ppm以下(濁度80NTU以下)に低減することができた。また、実施例6〜8の「砂目均一性」は全て均一の結果であったが、総合評価を△とした。△とした理由は、濾過寿命及び経済性の点で実施例1〜5よりも劣るためである。
即ち、実施例6の場合、1段目濾過の孔径を5μm、2段目濾過の孔径を8μmとし、1段目の孔径が2段目の孔径よりも小さくした結果、1段目の濾過膜の濾過寿命が短くなった。また、実施例7のように、1段目濾過の孔径を10μm、2段目濾過の孔径を0.5μmとし、1段目の孔径が2段目の孔径よりも大きくしたが、2段目の孔径が小さ過ぎた結果、2段目の濾過膜の濾過寿命が短くなった。
実施例6の結果から、複数段濾過を行う場合には、1段目の孔径が2段目の孔径よりも大きくすることが好ましいことが分かる。更に、実施例4と実施例7の対比から分かるように、2段目の孔径は1μm以上であることが好ましい。
また、実施例8のように、新液補充量を従来の補充量の3倍に増加させ、且つ液の再利用を行わないことにより、アルカリ液の廃液量が従来の3倍となり、経済的には劣った。この結果から、新液を補充しないで濾過を行うとともに、濾過装置76でから排出された固形物中のアルカリ液を脱液して再利用することが経済的に好ましいことが分かる。
実施例9は、濾過装置76で濾過する前のアルカリ液中の固形物含有量が200ppm(濁度250NTU)の場合であり、1段目の濾過膜の孔径を30μm、2段目の濾過膜の
孔径を8μmとした。その結果、濾過後の固形物含有量は、エッチング性能に悪影響のでない80ppm(濁度120NT)に低減することができた。また、実施例9の「砂目均一性」は均一の結果であり、総合評価も○であった。
実施例10〜14は、濾過装置76で濾過する前のアルカリ液中の固形物含有量が190ppm(濁度250NTU)の場合であり、濾過膜の孔径が30μm、20μm、5μm、1μm、0.1μmの5水準で1段濾過のみを行った場合である。その結果、濾過後の固形物含有量は、エッチング性能に悪影響のでない90ppm以下(濁度140NT以下)に低減することができた。また、実施例10〜14の「砂目均一性」は均一の結果であり、実施例10〜13は総合評価も○であったが、実施例14は、濾過寿命の点で△とした。即ち、実施例14は、濾過膜の孔径が0.1μmと小さ過ぎるために、濾過寿命が短くなった。したがって、1段濾過の場合にも濾過膜の孔径は実施例10〜13のように1〜30μmの範囲を行うことが好ましい。
上記の実施例1〜14に対して、比較例1〜2のように循環使用されているアルカリ液を濾過しない場合には、アルカリ液中の固形物含有量は低減することはない。この結果、比較例1及び2のようにアルカリ液48の循環使用によって固形物含有量が100ppmを超えると、砂目が不均一になり、最終的に製造される平版印刷版の耐刷性や耐汚れ性能に悪影響が出る。
比較例3は、循環使用されているアルカリ液を濾過しない代わりに新液補充量を従来の5倍まで増加させた場合である。新液補充量を5倍にしたことによりアルカリ液中の固形物含有量は500ppmから100ppmに低下した。これにより、砂目は均一になるが、アルカリ液48の廃液量も従来の5倍となるため、ランニングコストが増大し経済的に劣る。
[実施例B]
実施例Bは、アルカリ液48中の固形物濾過において、濾過助剤として研磨剤を使用した場合と使用しない場合とで濾過速度に与える影響を調べた。合わせて、アルカリ液48に対する研磨剤の適切な添加量を調べた。
[試験条件]
(濾過助剤を使用した濾過条件)
*アルカリ液の固形物含有量…200ppm
*濾過膜…孔径が30μmのポリプロピレン製の濾布を使用
*研磨剤…メジアン径が30μで粒径分布が3〜100μmのパミストンを使用し、図7の表に示すように、研磨剤の添加量を0〜1.2g/Lの範囲で変化させた。
〈パミストンの組成〉
・シリカ(ケイ酸分:SiO2)…75質量%
・アルミナ(Al2O3)…15質量%
・酸化鉄(Fe2O3)…2質量%
・*その他の成分…100質量%の残り
*アルカリ液の組成濃度…実施例Aと同様に、循環使用されているアルカリ液48を測定装置68で測定し、その測定結果に基づいて補充配管70、72から水及び高濃度アルカリを補充することによって、アルカリ濃度(NaOH濃度)を25質量%、且つアルミイオン濃度を5質量%で一定に保持するようにした。また、アルカリ液48の液温は65℃(50〜80℃中心)とした。
[評価方法]
濾過圧力100mPaのときの濾過速度、及び濾過膜表面への固形物堆積による濾過膜の洗浄頻度(指数)を調べ、総合評価を行った。洗浄頻度は、研磨剤を添加しない試験7の洗浄頻度を指数1とした。また、総合評価の○は「良い」、△は「普通」、×は「悪い」の3段階で評価し、△以上を合格とした。
[試験結果]
先ず、濾過されるアルカリ液48に研磨剤を添加しない試験1と、研磨剤を添加した試験2〜8とを対比した。
その結果、研磨剤を添加しない試験1は、洗浄頻度は少ないものの濾過速度が0.1(m/hr)と小さく、実用面での総合評価が×となった。
これに対して、研磨剤を添加した試験2〜8は、研磨剤の添加量によってバラツキがあるものの、研磨剤を添加しない試験1よりも明らかな濾過速度抑制効果が認められた。
また、研磨剤の適切な添加量を調べるために、試験2の0.03(g/L)から試験8の1.2(g/L)まで添加量を段階的に大きくしていった。
その結果、添加量が0.03(g/L)の試験2では、添加しない試験1に比べて濾過速度の低下は抑制されるものの、抑制効果が小さいことが分かる。これに対して、添加量が0.05〜0.3(g/L)の試験3、4、5では、濾過速度が0.8〜1.0(m/hr)と高いレベルで推移し、濾過速度の低下促成効果が大きいことが分かる。
しかし、研磨剤の添加量を0.8(g/L)や1.0(g/L)まで多くした試験6や7では、濾過速度は0.6〜0.7(m/hr)と比較的高いレベルを維持しているが、濾過膜の洗浄頻度が試験3〜5の2.5倍〜5倍と多くなる。更に研磨剤の添加量を1.2(g/L)まで多くすると、濾過膜の洗浄頻度が試験3〜5の5倍〜10倍と大幅に増加するだけでなく、濾過速度も0.3(m/hr)に低下してしまう。これにより、実用面での総合評価が×になる。
したがって、アルカリ液に対する研磨剤の添加量は、0.03〜1.0(g/L)の範囲が適量であり、特に0.05〜0.3(g/L)の範囲が濾過速度の低下抑制効果及び洗浄頻度の両方において良い結果であった。