JP2013060319A - リチウムマンガン(iv)ニッケル(iii)系酸化物、その酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びそのリチウムイオン二次電池を搭載した車両 - Google Patents

リチウムマンガン(iv)ニッケル(iii)系酸化物、その酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びそのリチウムイオン二次電池を搭載した車両 Download PDF

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Abstract

【課題】 リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物及びその酸化物を含む正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両を提供する。
【解決手段】 Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されることを特徴とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物、それを含む正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びそのリチウムイオン二次電池を搭載した車両に関するものである。
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。現在、この要求に応える高容量二次電池としては、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極材料として炭素系材料、を用いた非水二次電池が商品化されている。このような非水二次電池はエネルギー密度が高く、小型化および軽量化が図れることから、幅広い分野で電源としての使用が注目されている。しかしながら、LiCoO2は希少金属であるCoを原料として製造されるため、今後、資源不足が深刻化すると予想される。さらに、Coは高価であり、価格変動も大きいため、安価で供給の安定している正極材料の開発が望まれている。
そこで、Coの使用を減らすために、Coに代えて、構成元素の価格が安価で供給が安定しているマンガン(Mn)及びニッケル(Ni)を基本組成に含むリチウムマンガンニッケル系酸化物の使用が有望視されている。例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.5Mn0.52などが検討されている。この場合、Niは2価、Mnは4価をとることで平均価数として3価になることが知られており、Niの量はMnの量と必ず一致またはMnのほうが少なくなって、Mnと同数のNiの価数は2となるのが一般的である。
このようなリチウムマンガン(IV)ニッケル(II)系酸化物は、非特許文献1に記載のように岩塩ドメインと呼ばれる電気化学的に不活性な不規則配列岩塩相の領域が出来てしまうため、高容量化が困難であることが知られている。
しかしながら、このようなリチウムマンガンニッケル系酸化物において、更なる高容量化が要望されている。
J.Electrochem.Soc.,140,p.1862(1993)
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、リチウムマンガンニッケル系酸化物の容量を向上することである。本発明は、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物及びその酸化物を含む正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を正極活物質として用いることによってリチウムイオン二次電池の容量を高容量とできることを見出した。
すなわち本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は、Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されることを特徴とする。
なお、言うまでもなく、不可避的に生じるLi、Mn、MeまたはOの欠損により、上記組成式からわずかにずれた複合酸化物をも含む。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を含むことを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いることを特徴とする。
また本発明の車両は上記のリチウムイオン二次電池を搭載したことを特徴とする。
本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は、今までになかった新規物質である。上記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物をリチウムイオン二次電池用正極活物質として用いると、最初の放電時に3価のNiが2価まで価数が低下する。本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は、その一部が不可逆容量となると考えられているLi2MnO3を固溶体の形で含んでいるが、上記Niの価数の低下によりその不可逆容量を低減することが出来る。そのためその正極活物質を含むリチウムイオン二次電池は、高容量な電池とすることが出来、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は電池容量を充分に確保した車両とすることが出来る。
実施例1及び実施例2の複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の活物質あたりの放電容量(mAh/g)と電圧(V)の関係を示すグラフである。
以下に、本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物、そのリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池及びそのリチウムイオン二次電池を搭載した車両を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
<リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物>
本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は、Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されることを特徴とする。
なお、Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2は、Li2MnO3とLiNizMew2との固溶体であり、一般式をαLi2MnO3・(1−α)LiNizMew2(0<α<1)と書き表すことが可能である。
上記したように従来のリチウムマンガンニッケル系酸化物の場合、Niは2価、Mnは4価をとることで平均価数として3価になることが知られており、Niの量はMnの量と必ず一致またはMnのほうが少なくなって、Mnと同数のNiの価数は2となるのが一般的である。
2価のNiがリチウムマンガンニッケル系酸化物に存在すると、リチウムサイトに2価のNiが混入し、その領域は局所的に岩塩ドメインと呼ばれる不規則配列岩塩相となってしまう。この岩塩ドメインはそれ自体が電気化学的に不活性であるのみならず、リチウムサイトに混入した2価のNiがリチウムイオンの二次元拡散を阻害する。
本発明の場合、Niは3価、Mnは4価となっている。本発明ではNi元素として3価のNiのみを含むリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の合成に成功した。本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物では上記の岩塩ドメインが出来ない。そのためこの酸化物を正極活物質として用いることにより高容量のリチウムイオン二次電池とすることが出来る。
なお、Liは、原子比で60%以下さらには45%以下がHに置換されていてもよい。また、Mnはほとんどが4価のMnであるのが好ましいが、50%未満さらには80%未満が他の遷移金属で置換されていてもよい。Meを構成する金属としては、電極材料とした場合の充放電可能な容量の観点から、Nb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnから選ばれる。
このリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の構造は、X線回折(XRD)、電子線回折などにより確認することができる。また、高分解能の透過電子顕微鏡(TEM)を用いた高分解能像で、構造を観察可能である。
またNiの価数については、X線光電子分光(XPS)測定を行うことで確認出来る。XPS測定では物質の表面の元素分布がわかる。また物質全体の元素の価数については、透過型のX線吸収微細構造(XAFS(X-ray Absorption Fine Structure))測定を行うことによって確認出来る。
以下に、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法の各工程を説明する。もちろん上記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は下記に記載の製造方法及び実施例の製造方法で製造されるものに限定されない。
本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法は、原料混合物調製工程、溶融反応工程及び回収工程を含み、必要に応じて、前駆体合成工程を含む。
原料混合物調製工程は、少なくとも、金属化合物原料と溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する工程である。
金属化合物原料は、Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物及びNiを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、及び金属塩から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を含む。溶融塩原料は、水酸化リチウムを50質量%以上含む。
Mnを供給する原料として、Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物を用いる。この第一の金属化合物は、金属化合物原料に必須である。具体的には、二酸化マンガン(MnO2)、三酸化二マンガン(Mn23)、一酸化マンガン(MnO)、四酸化三マンガン(Mn34)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)などが挙げられる。
またここに列挙した酸化物のMnの一部がNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、などで置換された金属化合物でもよいし、ここに列挙した水酸化物のMnの一部がNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Tiなどで置換された金属化合物でもよいし、ここに列挙した金属塩のMnの一部がNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Tiなどで置換された金属化合物でもよい。
これらのうちの一種あるいは二種以上を必須の第一の金属化合物として用いればよい。なかでも、MnO2は、入手が容易であるとともに、比較的高純度のものが入手しやすいため好ましい。ここで、金属化合物のMnは、必ずしも4価である必要はなく、4価以下のMnであってもよい。これは、高酸化状態で反応が進むため、2価や3価のMnであっても4価になるためである。Mnの一部を置換する金属元素についても同様に価数を問わない。
Niを供給する原料として、Niを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、及び金属塩から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を用いる。この第二の金属化合物も金属化合物原料に必須である。第二の金属化合物として、具体的には酸化ニッケル(NiO)、硝酸ニッケル(Ni(NO32・6H2O)、硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)などを用いることが出来る。
本発明の製造方法によれば、Li、Mn、Niの他に他の金属元素を含む複合酸化物を製造することもできる。その場合には、上記の第一の金属化合物及び第二の金属化合物に加え、Nb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも一つの金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第三の金属化合物をさらに金属化合物原料に加えればよい。
第三の金属化合物の具体例として、酸化コバルト(CoO、Co34)、硝酸コバルト(Co(NO32・6H2O)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、硝酸アルミニウム(Al(NO33・9H2O)などが挙げられる。これらのうちの一種あるいは二種以上を第三の金属化合物として用いればよい。
また、二種以上の金属元素を含む原料を用いてあらかじめ前駆体を合成しておいてもよい。すなわち、原料混合物調製工程の前に、Mn及び/またはNiを必須とした少なくとも二種の金属を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行ってもよい。また原料混合物調製工程の前に、Mn、Ni及び/または上記Meを必須とした少なくとも二種の金属を含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る前駆体合成工程を行ってもよい。
水溶液は、水溶性の無機塩、具体的には金属元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などを水に溶解することによって作成できる。この水溶液をアルカリ金属水酸化物、アンモニア水などでアルカリ性にすると、前駆体は沈殿物として生成される。
このようにして沈殿物を金属化合物原料の少なくとも一部として用いることで、副生成物の生成が抑制され、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を高純度で得ることが出来る。
溶融塩原料は、Liの供給源となるが、製造されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む。本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法では、水酸化リチウムを50質量%以上含む溶融塩を用いるが、水酸化リチウムは、Liの供給源のみならず、溶融塩の酸化力や金属化合物原料の溶解度を調整する役割を果たす。
溶融塩原料に含まれるLiに対する、目的のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物に含まれるLiの理論組成(酸化物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で1未満であればよいが、0.02〜0.7が好ましく、0.03〜0.5さらには0.04〜0.25であることがさらに好ましい。0.02未満であると、使用する溶融塩原料の量に対して生成するリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の量が少なくなるため、製造効率の面で望ましくない。また、0.7より大きいと金属化合物原料を分散させる溶融塩の量が不足し、溶融塩中でリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が凝集したり粒成長したりすることがあるため望ましくない。
溶融塩原料は、実質的に水酸化リチウムのみからなるのが望ましい。ただし、水酸化リチウムは、大気中の二酸化炭素を吸収して炭酸リチウムとなる性質があるため、不純物として微量の炭酸リチウムを含む場合がある。
溶融塩原料として過酸化リチウムなどの酸化物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、硝酸リチウムなどの金属塩を含まないほうがよい。水酸化リチウムの溶融塩は、リチウム化合物のうち最も塩基性が高い。水酸化リチウムを単独で使用することで、目的とするリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の合成に好適な酸化力を示す。なお、水酸化リチウムは、水和物を用いてもよい。使用可能な水酸化リチウムとしては、LiOH、LiOH・H2Oなどが挙げられる。
溶融反応工程は、原料混合物を溶融して反応させる工程である。反応温度は溶融反応工程における原料混合物の温度であり、溶融塩原料の融点以上であればよい。反応温度が、500℃未満では溶融塩の反応活性が不十分であり、所望のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を選択率よく製造することが困難である。
反応温度が550℃以上であれば、結晶性の高いリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が得られる。反応温度の上限は、水酸化リチウムの分解温度未満であり、900℃以下さらには850℃以下が望ましい。4価のMnを供給する第一の金属化合物として二酸化マンガンを使用するのであれば、反応温度は500〜700℃さらには550〜650℃が望ましい。反応温度が900℃より高いと、溶融塩の分解反応が起こるため望ましくない。この反応温度で30分以上さらに望ましくは1〜6時間保持すれば、原料混合物は十分に反応する。上記反応温度において、反応温度が高いほうが金属化合物原料の溶解度があがる。
また、溶融反応工程を酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガス及び/またはオゾンガスを含むガス雰囲気中で行うと、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が単相で得られやすい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。なお、酸素濃度を高くするほど、合成されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の粒子径は小さくなる傾向にある。
このようにしてリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が得られる理由は、次のように推測される。リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を合成するには、高酸化状態でありかつ反応活性が高いことが必要である。このような状態は溶融塩の強い塩基性及び高い反応温度によりもたらされると考えられる。
水酸化リチウムの溶融塩は強い塩基性である。溶融塩原料として水酸化リチウムを用い、同時に反応温度が高温であると原料混合物の溶融塩の塩基性は十分に強くなり反応活性が高くなる。さらに塩基性の溶融塩では、水酸化イオンは酸素イオンと水とに分解し、水は高温の溶融塩から蒸発する。その結果、原料混合物の溶融塩は、高塩基濃度と脱水環境が得られ、所望のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の合成に適した高酸化状態が形成される。このような高酸化状態は金属の価数を上げる力が強いため、Niは3価になると考えられる。
さらに原料混合物を溶融塩とし、溶融塩中で原料を反応させることにより、微粒子状のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が得られる。これは溶融塩中で原料がイオンの状態で均一に混合されるためである。
回収工程は、溶融反応工程にて生成したリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を回収する工程である。回収方法に特に限定はないが、溶融反応工程にて生成したリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物は水に不溶であるため、溶融塩を十分に冷却して凝固させて固体とし、固体を水に溶解することでリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が不溶物として得られる。水溶液を濾過して得られた濾物を乾燥して、リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を取り出せばよい。
また、回収工程では、溶融反応工程後の原料混合物を徐冷してからリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を回収するほうがよい。すなわち、反応終了後の高温の原料混合物を、加熱炉の中に放置して炉冷してもよいし、加熱炉から取り出して室温にて空冷してもよい。具体的に規定するのであれば、溶融反応工程後の原料混合物の温度が、450℃以下になる(つまり、溶融塩が凝固する)まで、2℃/分以上50℃/分以下、さらには3〜25℃/分の速度で冷却することで、結晶性の高いリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物が得られる。このような冷却方法は、層状岩塩構造をもつリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の合成に有利である。
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を含む。本発明のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物では、電気化学的に不活性である岩塩ドメインが出来ない。そのためこの酸化物を含む正極活物質を用いることによりリチウムマンガン(IV)ニッケル(II)系酸化物からなる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池よりも高容量のリチウムイオン二次電池とすることが出来る。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を単独、あるいは上記のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物とともに、さらに一般のリチウムイオン二次電池に用いられる例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.5Mn0.52、LiCoO2、LiMn24、Sなどのうちから選ばれる一種以上の他の正極活物質を含んでもよい。
<リチウムイオン二次電池>
以下に、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、主として、正極、負極および非水電解質を備える。また、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備える。
正極は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質と、正極活物質を結着する結着剤と、を含む。さらに、導電助材を含んでもよい。正極活物質は、上記で説明したので説明を省略する。結着剤および導電助材にも特に限定はなく、一般のリチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。
導電助材は、電極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、正極活物質および導電助材を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
正極に対向させる負極は、負極活物質である金属リチウムをシート状にして、あるいはシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成することができる。金属リチウムのかわりに、リチウム合金またはリチウム化合物も用いることができる。
また、正極同様、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質と結着剤とからなる負極を使用してもよい。負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
正極および負極は、少なくとも正極活物質または負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるのが一般的である。そのため、正極および負極は、活物質および結着剤、必要に応じて導電助材を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
集電体は、金属製のメッシュや金属箔を用いることができる。集電体としては、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。電極合材層形成用組成物の塗布方法としては、ドクターブレード、バーコーターなどの従来から公知の方法を用いればよい。
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
電解質としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質などを用いることができる。その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は特に限定されるものではないが、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることが好ましい。そのような鎖状エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートに代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピロン酸メチルなどの有機溶媒が挙げられる。
これらの鎖状エステルは、単独でもあるいは2種以上を混合して用いてもよく、特に、低温特性の改善のためには、上記鎖状エステルが全有機溶媒中の50体積%以上を占めることが好ましく、特に鎖状エステルが全有機溶媒中の65体積%以上を占めることが好ましい。
ただし、有機溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、放電容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘電率の高い(誘電率:30以上)エステルを混合して用いることが好ましい。このようなエステルの具体例としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートに代表される環状のカーボネートや、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイトなどが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のエステルが好ましい。そのような誘電率の高いエステルは、放電容量の点から、全有機溶媒中10体積%以上、特に20体積%以上含有されることが好ましい。また、負荷特性の点からは、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiCF3CO2、Li224(SO32、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiCn2n+1SO3(n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPF6やLiC49SO3などが好ましく用いられる。
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm3、特に0.4〜1.5mol/dm3程度が好ましい。
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5〜50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。特に、5〜20μmと薄いセパレータを用いた場合には、充放電サイクルや高温貯蔵などにおいて電池の特性が劣化しやすく、安全性も低下するが、少なくとも上記のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は安定性と安全性に優れているため、このような薄いセパレータを用いても安定して電池を機能させることができる。
以上の構成要素によって構成されるリチウムイオン二次電池の形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極と負極との間にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を集電用リードなどで接続し、この電極体に上記電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、リチウムイオン二次電池が完成する。
リチウムイオン二次電池を使用する場合には、はじめに充電を行い、正極活物質を活性化させる。ただし、上記のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を正極活物質として用いる場合には、初回の充電時にリチウムイオンが放出されるとともに酸素が発生する。そのため、電池ケースを密閉する前に充電を行うのが望ましい。
以上説明した本発明のリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器、情報関連機器の分野の他、たとえば、夜間電力で充電し、昼間に住宅、工場または事務所に給電する電池や、昼間に太陽電池で充電し、夜間に給電する電池といった定置用分野や自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、このリチウムイオン二次電池を車両に搭載すれば、リチウムイオン二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
<車両>
本発明の車両は、上記リチウムイオン二次電池を搭載したものである。本発明の車両は高容量のリチウムイオン二次電池を搭載しているので、安定した性能の動力源を有する車両とすることが出来る。
なお車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
<実施例1>
溶融塩原料として0.20molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(8.4g)と、金属化合物原料として0.02molのNiMnCo酸化物と、を混合して原料混合物を調製した。
NiMnCo酸化物は、以下のようにして調整した。
0.67molのMn(NO32・6H2O(192.3g)と0.16molのCo(NO32・6H2O(46.6g)と0.16molのNi(NO32・6H2O(46.5g)とを500mlの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。
この金属塩含有水溶液を氷浴中でスターラーを用いて撹拌しながら、1.2molのLiOH・H2O(50g)を300mlの蒸留水に溶解させたものを2時間程度かけて滴下して水溶液をアルカリ性とし、金属水酸化物沈殿物を析出させた。この金属水酸化物沈殿物の溶液を5℃に保持したまま酸素雰囲気下で1日熟成を行った。
得られた金属水酸化物沈殿物を濾過し、蒸留水を用いて洗浄することによりMn:Co:Ni=0.67:0.16:0.16の金属水酸化物前駆体を得た。得られた金属水酸化物前駆体を500℃2時間焼成することで、金属酸化物前駆体であるNiMnCo酸化物を得た。
原料混合物を坩堝にいれて、700℃の電気炉内に移し、大気中700℃で2時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、黒色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉内で室温まで冷却後、電気炉から取り出した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと黒色の生成物をビーカー内へ移し、200mLのイオン交換水に浸した。ビーカー内のイオン交換水をスターラーで撹拌した。攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。ここで黒色の生成物は水に不溶性であるため、イオン交換水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に黒色固体の濾物と、が得られた。得られた濾物をさらにアセトンを用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
得られた黒色粉末を濃塩酸に溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はLi(Li0.25Mn0.5Ni0.125Co0.125)O2であることが確認出来た。ICP測定結果から、得られた黒色粉末のMn:Co:Niの比は仕込み組成と同じ0.67:0.16:0.16であることも確認出来た。
また得られた黒色粉末のX線光電子分光(XPS)測定を行った。得られた結果はNi3+は100%であった。このため、合成された組成は66Li2MnO3−34LiNi0.5Co0.52であると予想された。
<実施例2>
溶融塩原料として0.20molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(8.4g)と、金属化合物原料として0.02molの上記したNiMnCo酸化物と、を混合して原料混合物を調製した。
原料混合物を坩堝にいれて、700℃の電気炉内に移し、大気中600℃で2時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、黒色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉内で室温まで冷却後、電気炉から取り出した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと黒色の生成物をビーカー内へ移し、200mLのイオン交換水に浸した。ビーカー内のイオン交換水をスターラーで撹拌した。攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。ここで黒色の生成物は水に不溶性であるため、イオン交換水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に黒色固体の濾物と、が得られた。得られた濾物をさらにアセトンを用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
得られた黒色粉末を濃塩酸に溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はLi(Li0.25Mn0.5Ni0.125Co0.125)O2とLi(Li0.2Mn0.54Ni0.13Co0.13)O2の固溶体であることが確認出来た。ICP測定結果から、得られた黒色粉末のMn:Co:Niの比は仕込み組成と同じ0.67:0.16:0.16であることも確認出来た。
また得られた黒色粉末のXPS測定を行った。得られた結果はNi3+は39.5%であった。この計算は(3価のピーク割合)=(3価のピーク)÷(3価のピーク+2価のピーク)として計算した。この時Niの残りの60.5%はNi2+であった。
なお、Ni3+はLiCoNiO2の固溶体を形成している可能性があるため、合成された固溶体組成は50Li2MnO3−50LiNi1/3Mn1/3Co1/3ではなく、50Li2MnO3−30LiNi1/3Mn1/3Co1/32−20LiNi1/2Co1/22などに近い組成になっていることが予想される。
<実施例3>
溶融塩原料として0.20molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(8.4g)と、金属化合物原料として0.02molのNi:Mn=1:1の組成比の酸化物と、を混合して原料混合物を調製した。
Ni:Mn=1:1の組成比の酸化物は、以下のようにして調整した。
0.5molのMn(NO32・6H2O(143.5g)と0.5molのNi(NO32・6H2O(145.4g)とを500mlの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。
この金属塩含有水溶液を氷浴中でスターラーを用いて撹拌しながら、1.2molのLiOH・H2O(50g)を300mlの蒸留水に溶解させたものを2時間程度かけて滴下して水溶液をアルカリ性とし、金属水酸化物沈殿物を析出させた。この金属水酸化物沈殿物の溶液を5℃に保持したまま酸素雰囲気下で1日熟成を行った。
得られた金属水酸化物沈殿物を濾過し、蒸留水を用いて洗浄することによりNi:Mn=1:1の金属水酸化物前駆体を得た。得られた金属水酸化物前駆体を500℃2時間焼成することで、金属酸化物前駆体であるNi:Mn=1:1の組成比の酸化物を得た。
原料混合物を坩堝にいれて、700℃の電気炉内に移し、大気中700℃で2時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、黒色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉内で室温まで冷却後、電気炉から取り出した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと黒色の生成物をビーカー内へ移し、200mLのイオン交換水に浸した。ビーカー内のイオン交換水をスターラーで撹拌した。攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。ここで黒色の生成物は水に不溶性であるため、イオン交換水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に黒色固体の濾物と、が得られた。得られた濾物をさらにアセトンを用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
得られた黒色粉末を濃塩酸に溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はLi(Li0.2Mn0.4Ni0.4)O2であることが確認出来た。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はNi:Mn=1:1の比であることも分かった。
また得られた黒色粉末のXPS測定を行った。得られた結果からNi3+は100%であることがわかった。このため得られた組成は50Li2MnO3−50LiNiO2であると予想された。
<比較例1>
0.11molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(4.62g)と0.10molのNiMnCoが1:1:1で含まれる酸化物を加えて、原料混合物を調製した。
原料混合物を乳鉢でよく混合した後、坩堝にいれて、酸素雰囲気(酸素ガス濃度100%)中1000℃で12時間加熱した。得られた粉末、乳鉢と乳棒を用いて粉砕したのち、坩堝にいれて、さらに酸素雰囲気(酸素ガス濃度100%)中1000℃で12時間加熱した。
得られた黒色粉末を濃塩酸に溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はLiNi1/3Mn1/3Co1/32であることが確認出来た。得られた黒色粉末のXPS測定を行った。その結果得られた黒色粉末にはNi3+のピークは全く確認できなかった。
<比較例2>
0.11molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(4.62g)と0.10molのNi:Mn=1:1の組成比の酸化物を加えて、原料混合物を調製した。
原料混合物を乳鉢でよく混合した後、坩堝にいれて、酸素雰囲気(酸素ガス濃度100%)中1000℃で12時間加熱した。
得られた粉末を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕したのち、坩堝にいれて、さらに酸素雰囲気(酸素ガス濃度100%)中1000℃で12時間加熱した。
得られた黒色粉末を濃塩酸に溶かし、50倍に希釈した後、発光分光分析(ICP)測定を行った。ICP測定結果から、得られた黒色粉末はLiNi1/2Mn1/22であることが確認出来た。得られた黒色粉末のXPS測定を行った。その結果得られた黒色粉末にはNi3+のピークは全く確認できなかった。
<X線吸収微細構造(XAFS(X-ray Absorption Fine Structure))測定>
実施例1および比較例1の酸化物について、透過XAFS測定を行ってNiの価数を求めた。透過XAFS測定を行うことで粒子表面だけでなく粒子全体のNiの価数がわかる。
XAFSのデータはSPring8の軟X線ビームラインを用いて収集した。このXAFSのデータについて、検量線を用いて変換してバルクのNi価数を求めた。詳細な算出方法については、既報の論文(T.Nonaka,C.Okuda,Y.Seno,K.koumoto,and Y.Ukyo,J.Electrochem.Soc.,154,A353(2007))に準じた。比較データは、2価のNiの標準サンプルとしてシミュレーション値を用い、3価のNiの標準サンプルとしてNCA(Li(Ni-Co-Al)O2)を用い、各々についてNi−K吸収端(エッジ)エネルギーを収集して作成した。
NCAのNi3+のエッジエネルギーは8340〜8341eVの間(約8340.8)であり、Ni2+のシミュレーション結果の、Ni2+のエッジエネルギーは8338〜8339eVの間(約8338.5)であった。このことは、エッジエネルギーが約8340.8eV以上だとNiは3価であり、エッジエネルギーが約8338.5eV以上だとNiは2価であることを指す。
実施例1および比較例1の酸化物の透過XAFS測定結果では、エッジエネルギーが実施例1は8341〜8342eVの間(約8341.2eV)、比較例1は8339〜8340eVの間(約8339.5eV)であった。
この結果から、実施例1では酸化物粒子の内部の組成全体のNiは3価であり、比較例1ではNiは2価であることが確認出来た。
<リチウムイオン二次電池>
実施例1及び実施例2で得られた複合酸化物を正極活物質として用い、リチウムイオン二次電池を作製した。
正極活物質として90質量部の各複合酸化物、導電助材として5質量部のカーボンブラック(KB)、結着剤(バインダー)として5質量部のポリフッ化ビニリデン、を混合し、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として分散させ、スラリーを調製した。次いで、このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布して乾燥させた。その後、厚さ60μmに圧延し、直径11mmφのサイズで打ち抜き、正極を得た。また、正極に対向させる負極は、金属リチウム(φ14mm、厚さ200μm)とした。
正極および負極の間にセパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解した非水電解質を注入して、リチウムイオン二次電池を得た。
<充放電試験>
試験は充放電電流値を正極の容量を200mAh/gとして計算した場合の0.2Cに相当する電流で、放電電位を2.0V vs Li/Li+、充電電位を4.6V vs Li/Li+としこれを1サイクルとした。室温(25℃)で充放電を行い、活物質あたりの放電容量(mAh/g)を調べた。
実施例1の複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池及び実施例2の複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池の1サイクル目の活物質あたりの放電容量(mAh/g)と電圧(V)(VS.Li/Li+)の関係を示すグラフを図1に示す。
図1より、1サイクル目の実施例1の放電容量は220mAh/g、実施例2の放電容量は205mAh/gであった。この際の1サイクル目の充放電効率は実施例1では75%、実施例2では71%であった。
実施例1のNi3+は、100%、実施例2のNi3+は39.5%であり、Ni3+の割合が大きいほど充放電の効率が良い事が分かった。これは1サイクル目の放電時にNi価数が3+であったものが2+まで低下することにより、不可逆容量を低減できたためと考えられる。
(付記)
(付記1)
Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法であって、
Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物及びNiを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、及び金属塩から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムを50質量%以上含み、前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で該原料混合物を反応させる溶融反応工程と、
前記溶融反応工程にて生成した前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を得ることを特徴とするリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法。
(付記2)
前記溶融塩原料に含まれるLiに対する、前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物に含まれるLiの理論組成(酸化物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.02〜0.7である付記1記載のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法。
(付記3)
Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法であって、
Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物及び金属塩から選ばれる一種以上の第一の金属化合物及びNiを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、及び金属塩から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムを50質量%以上含む溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で該原料混合物を反応させ、反応温度が550℃〜900℃である溶融反応工程と、
前記溶融反応工程にて生成した前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を得ることを特徴とするリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法。
(付記4)
Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法であって、
二酸化マンガンからなる第一の金属化合物及びNiを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物、及び金属塩から選ばれる一種以上の第二の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムを50質量%以上含む溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で該原料混合物を反応させ、反応温度が500℃〜700℃である溶融反応工程と、
前記溶融反応工程にて生成した前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記リチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を得ることを特徴とするリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物の製造方法。

Claims (4)

  1. Li(LixMn(IV)yNi(III)zMew)O2(x+y+z+w=1、0<x<0.33、0<y<0.67、z>0、w≧0、かつMeはNb、Al、Fe、F、Mg、Co、Ti、及び3価のMnのうちから選ばれる少なくとも1つの金属)で表されるリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物。
  2. 請求項1に記載のリチウムマンガン(IV)ニッケル(III)系酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  3. 請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池。
  4. 請求項3に記載のリチウムイオン二次電池を搭載した車両。
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