以下に、本発明の非水電解質二次電池用活物質の製造方法を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
<非水電解質二次電池用活物質の製造方法>
以下に、本発明の非水電解質二次電池用活物質の製造方法の各工程を説明する。本発明は、リチウムおよびリチウムを除く一種以上の金属元素を含みリチウムを可逆的に吸蔵放出可能なリチウム含有複合酸化物からなる非水電解質二次電池用活物質の製造方法である。本発明の製造方法は、主として前駆体調製工程、溶融反応工程および回収工程を含み、必要に応じて、乾燥工程、プロトン置換工程、焼成工程、などを含む。
前駆体調製工程は、リチウム含有複合酸化物の前駆体を合成する工程である。ここで、「前駆体」とは、目的のリチウム含有複合酸化物を得る前段階の材料である。つまり、前駆体には、目的のリチウム含有複合酸化物は基本的に含まれないことは言うまでもない。また、前駆体は、目的のリチウム含有複合酸化物の理論組成と同じ配合割合のリチウムおよび金属元素を含んでもよいが、そうした前駆体は原子レベルの混合物であるのが好ましい。前駆体に化合物が含まれる場合には、目的のリチウム含有複合酸化物の理論組成よりもリチウムが欠損している化合物であるのが好ましい。
前駆体調製工程に採用される前駆体の製造方法として、たとえば、金属元素とリチウムとを原子レベルで混合させる方法、金属元素を含む金属塩とリチウム塩とを反応させる方法、などが挙げられる。
前駆体調製工程は、リチウムを除く一種以上の金属元素とリチウムとを原子レベルで混合させて、目的のリチウム含有複合酸化物の前駆体を合成する工程であるのが望ましい。本発明では、金属元素およびリチウムを含む溶液から沈殿合成を用いて前駆体を合成する方法を用いる。こうした方法として、Liを必須で含む二種以上の金属イオンを含む溶液から難溶性の塩を沈殿させる方法(たとえば共沈法)が知られている。たとえば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などの水溶性の無機塩を水に溶解し、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水などで水溶液をアルカリ性にすると、沈殿物が生成される。生成された沈殿物は、溶媒を蒸発させて溶液から回収されるとよい。具体的には、常圧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、薄層乾燥、流動床乾燥、泡沫乾燥、などにより沈殿物を乾燥させることで、リチウムを含む前駆体が容易に得られる。このとき、得られた沈殿物を濾過せずに乾燥させて、溶液から前駆体を回収する。これは、リチウムが溶液中にイオンとして存在するので、濾過を行うと、得られる前駆体にリチウムが残存し難くなるためである。
特に、前駆体調製工程は、一種以上の金属イオンを含む金属塩含有溶液に水酸化リチウム溶液を加えて沈殿物を沈殿させる工程と、得られた沈殿物を濾過せずに乾燥させて前記溶液から回収して前記前駆体を得る工程と、を含むとよい。金属塩含有溶液に水酸化リチウム溶液を添加することで、金属水酸化物の沈殿物が得られる。その後、溶媒を蒸発させて、リチウムおよび上記金属元素を含む前駆体を得るとよい。
回収された沈殿物は、焼成してもよい。焼成温度:300〜700℃さらには450〜550℃、焼成時間:1〜4時間さらには1.5〜2.5時間で焼成するとよい。
あるいは、前駆体調製工程は、金属塩とリチウム塩とを反応させて、目的のリチウム含有複合酸化物の前駆体を合成する工程であるとよい。金属塩は、リチウムを除く一種以上の金属元素を必須で含むが、該金属元素とともにリチウムを含んでいてもよい。具体的には、金属塩とリチウム塩とを焼成して前記前駆体を合成するとよい。たとえば、二次電池の活物質として使用可能なリチウム含有複合酸化物を合成するいわゆる固相法において、金属塩とリチウム塩とが完全に反応せず、活物質としての充放電特性が不十分なリチウム含有複合酸化物が得られる程度に焼成するとよい。焼成は、平均粒径が0.1〜1μm程度の金属塩およびリチウム塩を、焼成温度:300〜700℃さらには450〜550℃、焼成時間:1〜4時間さらには1.5〜2.5時間行うとよい。焼成温度が300℃未満では十分な反応が進みにくく、単なる金属塩粉末とリチウム塩粉末との混合粉末でしかないため、前駆体として好ましくない。焼成温度が700℃を越えると、金属塩とリチウム塩との反応が十分に進むため二次電池の活物質として使用可能な程度のリチウム含有複合酸化物が生成されやすく、もはや前駆体ではなくなる。
また、金属塩とリチウム塩とを機械的に混合することで、混合の際に発生するエネルギーにより金属塩とリチウム塩とが一部反応した混合物を前駆体として使用してもよい。
前駆体調製工程にて使用可能な金属塩およびリチウム塩としては、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、硝酸塩、塩化物、硫化物、等が挙げられる。具体的には、リチウム塩として、水酸化リチウム(LiOHまたはLiOH・H2O)、炭酸リチウム(Li2CO3)、塩化リチウム(LiCl)等が挙げられる。金属塩としては、Mn供給源であれば、二酸化マンガン(MnO2)、三酸化二マンガン(Mn2O3)、一酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn3O4)水酸化マンガン(Mn(OH)2)、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2・6H2O)等が挙げられる。Co供給源であれば、酸化コバルト(CoO、Co3O4)、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、塩化コバルト(CoCl2・6H2O)、硫酸コバルト(Co(SO4)・7H2O)、等が挙げられる。Ni供給源であれば、酸化ニッケル(NiO)、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)、硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O)、塩化ニッケル(NiCl2・6H2O)、等が挙げられる。Fe供給源であれば、水酸化鉄(Fe(OH)3)、塩化鉄(FeCl3・6H2O)、酸化鉄(Fe2O3)、硝酸鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硫酸鉄(FeSO4・9H2O)、等が挙げられる。金属塩は、これらのうちの一種以上を使用することができる。また、上記の金属塩とともに、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3・9H2O)、酸化銅(CuO)、硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のうちの一種以上をともに用いてもよい。
上記のような方法により得られる前駆体は、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む粉末として得られることが多い。本発明の製造方法では、二次粒子を含む前駆体を使用しても、前駆体にLiが含まれることから前駆体のアルカリ溶融が抑制され、後に詳説する溶融反応工程において、二次粒子の形態が崩壊することはほとんどない。
また、リチウムを除く金属元素とリチウムとの前駆体におけるモル比は、目的のリチウム含有複合酸化物に含まれる金属元素とリチウムとの化学量論比と同程度、あるいは、化学量論比よりもリチウムの含有割合が僅かに少なくなるように調製されるのが望ましい。
なお、いずれの方法を用いても、得られる前駆体に含まれる金属元素の価数に特に限定はない。これは、本発明の複合酸化物の製造方法では、溶融塩原料の酸化状態を調整することで、合成されるリチウム含有複合酸化物に含まれる金属元素の価数を調整可能であるためである。たとえば、溶融塩原料全体を100モル%としたとき、水酸化リチウムを50モル%以上含む場合には、高酸化状態の溶融塩中で反応が進むため、たとえば2価や3価のMnであっても4価のMnになる。
溶融反応工程は、前駆体を、リチウムを含む溶融塩原料を溶融した溶融塩中で反応させる工程である。
リチウムを含む溶融塩原料として使用可能なリチウム塩として、水酸化リチウム(無水物または一水和物)、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等が挙げられる。特に望ましくは、水酸化リチウムを含む溶融塩原料である。水酸化リチウムは、リチウム塩のうち最も塩基性が高いため、溶融塩の酸化力を高めることを目的として使用される。したがって、得られるリチウム含有複合酸化物に含まれるリチウム含有複合酸化物中の金属元素の平均価数を、前駆体に含まれるリチウム含有複合酸化中の金属元素の平均価数以上とする場合には、溶融塩原料に占める水酸化リチウムの割合を、好ましくは90モル%以上、95モル%以上、さらには100モル%とするとよい。水酸化リチウムを多く用いることで、高い価数の金属元素を含むリチウム含有複合酸化物を高品質で効率よく合成することができる。
また、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを含む溶融塩原料を使用することで、合成されるリチウム含有複合酸化物の構造を制御することが可能となる。たとえば、LiおよびMnを必須として含むリチウムマンガン系酸化物の結晶構造は、リチウムマンガン系酸化物に含まれるMnの平均価数に応じて異なる。溶融反応工程で使用される溶融塩の酸化力に応じてMnの価数が変化するため、合成されるリチウム含有複合酸化物の結晶構造も変化する。たとえば水酸化リチウムは、前述の通り、リチウム塩のうち最も塩基性が高いため、溶融塩の酸化力を高めることを目的として使用される。したがって、結晶構造が層状岩塩構造に属するリチウムマンガン系酸化物を合成するためには、水酸化リチウムを多く含む溶融塩原料を用いてMnの価数を高めるとよい。一方、スピネル構造または斜方晶の層状構造に属するリチウムマンガン系酸化物を合成する場合には、水酸化リチウムとともに硝酸リチウムを含む溶融塩原料を用い、Mnの価数が低くなるように酸化力を低く調整するとよい。さらに、硝酸リチウムは低融点のリチウム塩であるため、水酸化リチウムに硝酸リチウムを添加することで溶融塩原料の融点が低下するので、スピネル構造または斜方晶の層状構造が得られやすい温度範囲での反応が可能となる。
溶融反応工程にて高い酸化力を得るためには、溶融塩原料は、硝酸リチウムに対する水酸化リチウムの割合(水酸化リチウム/硝酸リチウム)がモル比で1以上さらには10を越えるように硝酸リチウムおよび水酸化リチウムを含むとよい。硝酸リチウムに対する水酸化リチウムの割合が1を越える、1.25以上さらには1.5以上であれば、溶融塩の酸化力を十分に高めることができ、層状岩塩構造を有するリチウム含有複合酸化物の合成に好適である。溶融塩原料に占める水酸化リチウムの含有割合が多いほど、溶融塩の酸化力は高まる。そのため、実質的に水酸化リチウムのみからなる溶融塩原料を使用してもよい。ただし、溶融塩原料に占める他の成分(たとえば硝酸リチウム)の占める割合が少なくなると、溶融塩の融点は上昇する。一方、硝酸リチウムに対する水酸化リチウムの割合(水酸化リチウム/硝酸リチウム)がモル比で0.05以上1未満さらには0.1〜0.9さらには0.2〜0.8であれば、溶融塩の酸化力は低く調整され、スピネル構造または斜方晶の層状構造を有するリチウムマンガン系酸化物が生成しやすくなる。
上記の前駆体および溶融塩原料の使用割合に特に限定はなく、溶融塩原料を溶融した際に、前駆体が溶融塩中に良好に分散され、前駆体と溶融塩とが十分に接触するような量を選択すればよい。たとえば、前駆体に含まれるリチウムを超えるモル比のリチウムが溶融塩原料に含まれていれば、前駆体に対して十分な溶融塩が存在すると言える。さらに望ましくは、溶融塩原料に含まれるリチウムに対する前駆体に含まれるリチウムの割合(前駆体のLi/溶融塩原料のLi)がモル比で0.02以上0.9以下とするとよい。0.02未満であると、使用する溶融塩原料の量に対して処理される前駆体の量が少なくなるため、製造効率の面で望ましくない。また、0.9を超えると前駆体を分散させる溶融塩の量が不足し、溶融塩中で前駆体が凝集したり粒成長したりすることがあるため望ましくない。さらに望ましい(前駆体のLi/溶融塩原料のLi)割合は、モル比で0.02〜0.7さらには0.05〜0.2である。
溶融反応工程に先立ち、少なくとも溶融塩原料を乾燥させる乾燥工程を行うとよい。乾燥工程は、主に、溶融塩原料に含まれる水酸化リチウム一水和物を脱水することを目的とするが、無水水酸化リチウムを用いる場合であっても、他の溶融塩原料および前駆体として吸湿性の高い化合物を使用する場合には、有効である。溶融反応工程において水酸化リチウムを含む溶融塩原料からなる溶融塩中に存在する水は、非常にpHが高くなる。pHの高い水の存在下で溶融反応工程が行われると、その水が坩堝と接触することで、坩堝の種類によっては坩堝の成分が微量ではあるが溶融塩に溶出する可能性がある。乾燥工程では、溶融塩原料などから水分が除去されるため、坩堝の成分の溶出抑制につながる。また、乾燥工程において溶融塩原料等から水分を除去することで、溶融反応工程において水が沸騰して溶融塩が飛散するのを防止できる。乾燥工程は、真空乾燥器を用いるのであれば、80〜150℃で2〜24時間真空乾燥するとよい。
溶融反応工程での反応温度は、溶融塩の温度に相当し、溶融塩原料の融点以上である。基本的には、融点以上で反応を行えばよく、反応温度が高いほどリチウム含有複合酸化物を効率よく生成させられるが、反応温度が低いほど微細な微粒子状の二次凝集体が得られる傾向にある。また、前駆体にマンガンが含まれる場合には、反応温度は、合成するリチウム含有複合酸化物の構造に応じて適宜選択すればよい。たとえば、スピネル構造のリチウムマンガン系酸化物を合成する場合には、それほど高い反応活性が必要ではないため、300〜550℃さらには350〜450℃程度であればよい。一方、層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を合成するには、350℃未満では溶融塩の反応活性が十分ではなく層状岩塩構造を有する所望の生成物を高純度で合成することが困難である。また、反応温度が350℃以上であれば、得られるリチウム含有複合酸化物の結晶構造が安定する。したがって、水酸化リチウムと硝酸リチウムとの混合溶融塩であって融点が350℃未満であっても、反応温度は350℃以上とする。好ましい反応温度の下限は、400℃以上、450℃以上、500℃以上さらには550℃以上である。反応温度が高いほど、層状岩塩構造をもつリチウムマンガン系酸化物を選択率よく合成することができ、また、結晶性の高いリチウムマンガン系酸化物が得られるが、硝酸リチウムは高温(約600℃)になると激しく分解する。そのため、硝酸リチウムを含む溶融塩原料を使用する場合には、550℃以下であれば比較的安定した条件の下で合成を行うことができる。硝酸リチウムを用いず、水酸化リチウムの溶融塩中で反応させる場合には、反応温度は500〜800℃さらには600〜750℃が望ましい。
上記の反応温度で、いずれの場合も、30分以上さらに望ましくは1〜6時間保持すれば、十分である。
また、溶融反応工程を酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガスおよび/またはオゾンガスを含む雰囲気中で行うと、層状岩塩構造を有する反応生成物が単相で得られやすい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。なお、酸素濃度を高くするほど、微細な粒子からなる二次凝集体が得られる傾向にある。
回収工程は、微粒子を有する反応生成物と溶融塩との混合物から、反応生成物を回収する工程である。回収工程は、以下に説明する冷却工程および分離工程を含むとよい。
冷却工程は、溶融反応工程後の溶融塩を冷却する工程である。冷却工程では、反応終了後の高温の溶融塩を、加熱炉の中に放置して炉冷してもよいし、加熱炉から取り出して室温にて空冷してもよい。冷却により溶融塩は凝固するため、冷却工程後には、合成されたリチウム含有複合酸化物(反応生成物)と溶融塩との混合物が固形物で得られる。
分離工程は、冷却工程により凝固した溶融塩を極性プロトン性溶媒に溶解させて、溶融塩から反応生成物を分離する工程である。なお、極性プロトン性溶媒は、凝固した溶融塩(つまり水酸化リチウムなどの溶融塩原料)を溶解することができるため本工程に採用されるが、プロトン供与性をもつ溶媒であるため、リチウム含有複合酸化物にLi欠損が生じやすい。しかし、プロトン性溶媒は、非プロトン性溶媒に比べてイオンを安定化させる効果があるので、電解質である水酸化リチウムを溶解するのに適しているため、本工程に好適である。具体的には、イオン交換水などの純水、エタノールなどのアルコール類、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。溶融塩は極性プロトン性溶媒に容易に溶解し、極性プロトン性溶媒に溶解しにくいリチウム含有複合酸化物は溶液中に溶け残る。そのため、溶融塩とリチウム含有複合酸化物粉末とは、容易に分離される。リチウム含有複合酸化物粉末の回収方法に特に限定はないが、溶液を遠心分離したり濾過したりして、回収可能である。回収後のリチウム含有複合酸化物を乾燥させてもよい。
また、回収工程の後に、リチウム含有複合酸化物のLiの一部を水素(H)に置換するプロトン置換工程を行ってもよい。プロトン置換工程では、回収された複合酸化物を希釈した酸などの溶媒に接触させることで、Liの一部が容易にHに置換する。
また、回収されたリチウム含有複合酸化物粉末を焼成する焼成工程を行ってもよい。焼成により、残留応力が除去され、表面の不純物および分離工程において生じたLi欠損が低減されたリチウム含有複合酸化物が得られる。焼成温度は、400〜800℃さらには400〜700℃が望ましい。焼成温度が400℃未満では、リチウム含有複合酸化物の活物質としての特性の向上が期待できない。焼成温度が700℃を越えると、粒成長しやすいため、望ましくない。この焼成温度で20分以上さらには0.5〜6時間保持するのが望ましい。
焼成は、酸素含有雰囲気中で行われるとよい。加熱焼成工程は、酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガスおよび/またはオゾンガスを含むガス雰囲気中で行うのがよい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。回収されたリチウム含有複合酸化物がスピネル構造のリチウムマンガン系酸化物を含む場合には、酸素含有雰囲気中で焼成することで、4価のMnを多く含むスピネル構造化合物(Li4Mn5O12)が得られる。
<非水電解質二次電池用活物質>
本発明の製造方法により得られる非水電解質二次電池用活物質は、前述の通り、溶融反応工程において溶融塩中で前駆体を反応させても、前駆体の形状が保たれる。つまり、粒径の大きな前駆体であれば、反応生成物の粒径も大きくなる。また、前駆体が複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む粉末であっても、二次粒子の形状が保たれたままで反応生成物が得られる。その結果、本発明の製造方法により得られる非水電解質二次電池用活物質は、ナノオーダーの微粒子が複数凝集した二次凝集体からなると考えられる。
また、本発明の製造方法によれば、Liおよび金属元素(Li以外)を含み、Liを可逆的に吸蔵放出可能なリチウム含有複合酸化物が得られる。金属元素の具体例としては、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、等の遷移金属元素、さらに、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)などを含んでもよい。
得られるリチウム含有複合酸化物は、4価のマンガンを含み層状岩塩構造に属する結晶構造を有するリチウムマンガン系酸化物を含むとよい。また、Co、Ni、Feのうちの一種以上を含む層状岩塩構造のリチウム含有複合酸化物を含んでもよい。これらを組成式で表すのであれば、xLi2M1O3・(1−x)LiM2O2(0≦x≦1であって、M1は4価のMnを必須とする一種以上の金属元素、M2は3価のCo、3価のNiおよび3価のFeの少なくとも一種を必須とする一種以上の金属元素あるいは4価のMnを必須とする二種以上の金属元素)である。なお、Liは、原子比で60%以下さらには45%以下がHに置換されてもよい。また、M1はほとんどが4価のMnであるのが好ましいが、50%未満さらには80%未満が他の金属元素で置換されていてもよい。M2はほとんどが3価のCo、3価のNiまたは3価のFeであるのが好ましいが、50%未満さらには80%未満が他の金属元素で置換されていてもよい。置換元素としては、電極材料とした場合の充放電可能な容量の観点から、Ni、Al、Co、Fe、Mg、Tiから選ばれる少なくとも一種の金属元素が好ましい。なお、言うまでもなく、不可避的に生じるLi、M1、M2またはOの欠損により、上記組成式からわずかにずれた複合酸化物をも含む。
なお、本発明の複合酸化物の製造方法により得られるリチウム含有複合酸化物は、組成式:Li1.33―yM1 0.67−zM2 y+zO2(M1は4価のMnを必須とする一種以上の金属元素、M2は3価のCo、3価のNiおよび3価のFeの少なくとも一種を必須とする一種以上の金属元素あるいは4価のMnを必須とする二種以上の金属元素、0≦y≦0.33、0≦z≦0.67)とも表される。いずれの表記方法であっても、同じ組成物を表す。
具体的には、LiCoO2、LiNioO2、LiFeO2、Li2MnO3、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Mn0.5O2、または、これらのうちの2種以上を含む固溶体などが挙げられる。前述の通り、これらを基本組成とすればよく、Mn、Fe、CoおよびNiの一部は、他の金属元素で置換されていてもよい。また、不可避的に生じる金属元素または酸素の欠損により、上記組成式から僅かに外れていてもよい。
また、Mnを含むリチウムマンガン系酸化物では、溶融反応工程の条件(溶融塩の組成および温度)によっては、価数の低い(たとえば平均酸化数が3〜3.5価)Mnを含む反応生成物が得られる。そのため、リチウム含有複合酸化物は、スピネル構造または斜方晶の層状構造のリチウムマンガン系酸化物を含んでもよい。具体的には、平均酸化数が3.5価のMnを含むリチウムマンガン系酸化物(たとえばスピネル構造のLiMn2O4)または3価のMnを含むリチウムマンガン系酸化物(たとえば斜方晶の層状構造のLiMnO2)が挙げられる。前述の通り、これらを基本組成とすればよく、Mnの一部は、他の金属元素で置換されていてもよい。また、不可避的に生じる金属元素または酸素の欠損により、上記組成式から僅かに外れていてもよい。さらに、リチウム含有複合酸化物は、層状岩塩構造およびスピネル構造の両結晶構造からなってもよい。
また、リチウム含有複合酸化物は、スピネル構造をもつLi4Ti5O12であってもよい。
<二次電池>
以上説明した本発明の製造方法により得られる非水電解質二次電池用活物質は、たとえばリチウムイオン二次電池用正極活物質として用いることができる。以下に、上記リチウム含有複合酸化物を含む正極活物質を用いた非水電解質二次電池を説明する。非水電解質二次電池は、主として、正極、負極および非水電解質を備える。また、一般の非水電解質二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備える。
正極は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質と、正極活物質を結着する結着剤と、を含む。さらに、導電助材を含んでもよい。正極活物質は、既に説明した本発明の活物質を単独、あるいは本発明の活物質とともに、一般の非水電解質二次電池に用いられる一種以上の他の正極活物質を含んでもよい。
また、結着剤および導電助材にも特に限定はなく、一般の非水電解質二次電池で使用可能なものであればよい。導電助材は、電極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、正極活物質および導電助材を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
正極に対向させる負極は、負極活物質である金属リチウムをシート状にして、あるいはシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成することができる。金属リチウムのかわりに、リチウム合金またはリチウム化合物をも用いることができる。また、正極同様、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質と結着剤とからなる負極を使用してもよい。負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
正極および負極は、少なくとも正極活物質または負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるのが一般的である。そのため、正極および負極は、活物質および結着剤、必要に応じて導電助材を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
なお、活物質、結着剤および導電助材の配合割合は、従来の非水電解質二次電池に倣って設定すればよい。
集電体は、金属製のメッシュや金属箔を用いることができる。集電体としては、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。電極合材層形成用組成物の塗布方法としては、ドクターブレード、バーコーターなどの従来から公知の方法を用いればよい。
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
電解質としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質などを用いることができる。その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は特に限定されるものではないが、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることが好ましい。そのような鎖状エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートに代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピロン酸メチルなどの有機溶媒が挙げられる。これらの鎖状エステルは、単独でもあるいは2種以上を混合して用いてもよく、特に、低温特性の改善のためには、上記鎖状エステルが全有機溶媒中の50体積%以上を占めることが好ましく、特に鎖状エステルが全有機溶媒中の65体積%以上を占めることが好ましい。
ただし、有機溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、放電容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘導率の高い(誘導率:30以上)エステルを混合して用いることが好ましい。このようなエステルの具体例としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートに代表される環状のカーボネートや、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイトなどが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のエステルが好ましい。そのような誘電率の高いエステルは、放電容量の点から、全有機溶媒中10体積%以上、特に20体積%以上含有されることが好ましい。また、負荷特性の点からは、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPF6やLiC4F9SO3などが好ましく用いられる。
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm3、特に0.4〜1.5mol/dm3程度が好ましい。
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5〜50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。特に、5〜20μmと薄いセパレータを用いた場合には、充放電サイクルや高温貯蔵などにおいて電池の特性が劣化しやすく、安全性も低下するが、上記の複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は安定性と安全性に優れているため、このような薄いセパレータを用いても安定して電池を機能させることができる。
以上の構成要素によって構成される非水電解質二次電池の形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極と負極との間にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を集電用リードなどで接続し、この電極体に上記電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、非水電解質二次電池が完成する。
特に、本発明の製造方法により得られる複合酸化物のうち4価のMnを含む複合酸化物(たとえばLi2MnO3)を正極活物質として使用する非水電解質二次電池であれば、はじめに充電を行い、正極活物質を活性化させる。ただし、上記の複合酸化物を正極活物質として用いる場合には、初回の充電時にリチウムイオンが放出されるとともに酸素が発生する。そのため、電池ケースを密閉する前に充電を行うのが望ましい。
以上説明した本発明の製造方法により得られる複合酸化物を用いた二次電池は、携帯電話、パソコン等の通信機器、情報関連機器の分野の他、自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、この二次電池を車両に搭載すれば、二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
以上、本発明の非水電解質二次電池用活物質の製造方法、さらには二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、本発明の非水電解質二次電池用活物質の製造方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
<前駆体の調製I>
1.0molの硝酸マンガン(Mn(NO3)2・6H2O、192.3g)を500mLの蒸留水に溶解させてMn塩含有水溶液を得た。また、50g(2.0mol)のLiOH・H2Oを300mLの蒸留水に溶解させて、水酸化リチウム水溶液を得た。Mn塩含有水溶液をスターラで攪拌しつつ、水酸化リチウム水溶液の全量を2時間かけて滴下して、水溶液をアルカリ性とした。こうして、水溶液中に金属水酸化物の沈殿を析出させた。この沈殿溶液を酸素雰囲気中で1日熟成した。その後、濾過せずに減圧乾燥することで溶媒を除去し、沈殿物を回収した。得られた混合物粉末を坩堝に入れて、500℃2時間の仮焼成を行った。仮焼成後の粉末を、乳鉢を用いて粉砕し、Li含有前駆体Iを得た。この前駆体Iに含まれる金属元素は、LiとMnとの比が、原子比で2:1であった。
また、比較例として、Liを含有しない前駆体I’を合成した。1.0molの硝酸マンガン(Mn(NO3)2・6H2O、192.3g)を500mLの蒸留水に溶解させてMn塩含有水溶液を得た。また、48g(1.2mol)のNaOHを300mLの蒸留水に溶解させて、水酸化ナトリウム水溶液を得た。Mn塩含有水溶液をスターラで攪拌しつつ、水酸化ナトリウム水溶液の全量を2時間かけて滴下して、水溶液をアルカリ性とした。こうして、水溶液中に金属水酸化物の沈殿を析出させた。この沈殿溶液を酸素雰囲気中で1日熟成した。その後、濾過および洗浄を行い、沈殿物(Liを含有しない前駆体)を回収した。得られた混合物粉末を坩堝に入れて、500℃2時間の仮焼成を行った。仮焼成後の粉末を、乳鉢を用いて粉砕し、Liを含有しない前駆体I’を得た。この前駆体I’の組成は、発光分光分析(ICP)による測定から、Mn3O4であることがわかった。
<実施例1−1>
得られたLi含有前駆体Iを溶融塩中で反応させて、Li2MnO3を合成した。
溶融塩原料として0.10molの水酸化リチウム(LiOH・H2O、4.2g)および0.10molの硝酸リチウム(LiNO3、6.9g)の混合物を準備した。ここに、0.010molのLi含有前駆体I(1g)を加えて、さらに混合した。
溶融塩原料およびLi含有前駆体Iの混合物を坩堝に入れて、真空乾燥容器にて120℃で4時間真空乾燥した。その後、乾燥機を大気圧に戻し、原料混合物の入った坩堝を取り出し、直ちに500℃の電気炉に移し、500℃の電気炉内で1時間加熱した。このとき、坩堝の中の原料混合物は融解して溶融塩となり、茶色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。生成物は水に不溶性であるため、水は茶色の懸濁液となった。茶色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に茶色固体の濾物と、が得られた。
得られた濾物をさらにアセトンを用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の茶色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、茶色粉末を得た。
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成はLi2MnO3であると確認された。
なお、Mnの価数評価は、次のように行った。0.05gの試料を三角フラスコに取り、シュウ酸ナトリウム水溶液(1%)40mLを正確に加え、さらにH2SO4を50mL加えて窒素ガス雰囲気中90℃水浴中で試料を溶解した。この溶液に、過マンガン酸カリウム水溶液(0.1N)を滴定し、微紅色にかわる終点(滴定量:V1)まで行った。別のフラスコに、シュウ酸ナトリウム水溶液(1%)20mLを正確に取り、上記と同様に過マンガン酸カリウム水溶液(0.1N)を終点まで滴定した(滴定量:V2)。V1およびV2から下記の式により、高価数のMnがMn2+に還元された時のシュウ酸の消費量を酸素量(活性酸素量)として算出した。
活性酸素量(%)={(2×V2−V1)×0.00080/試料量}×100
上記の式において、V1およびV2の単位はmL、試料量の単位はgである。そして、試料中のMn量(ICP測定値)と活性酸素量からMnの平均価数を算出した。
<比較例1−1>
上記のLiを含有しない前駆体I’を溶融塩中で反応させて、Li2MnO3を合成した。合成手順は、Li含有前駆体IのかわりにLiを含有しない前駆体I’(1g)を使用した他は、実施例1−1と同様とした。
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成はLi2MnO3であると確認された。
<実施例1−2>
上記Li含有前駆体Iを溶融塩中で反応させて、実施例1−1とは異なる条件でLi2MnO3を合成した。
溶融塩原料として0.20molの水酸化リチウム(LiOH・H2O、8.4g)を準備した。ここに、0.010molのLi含有前駆体I(1g)を加えて、さらに混合した。
溶融塩原料およびLi含有前駆体Iの混合物を坩堝に入れて、真空乾燥容器にて120℃で4時間真空乾燥した。その後、乾燥機を大気圧に戻し、原料混合物の入った坩堝を取り出し、直ちに700℃の電気炉に移し、700℃の電気炉内で1時間加熱した。このとき、坩堝の中の原料混合物は融解して溶融塩となり、茶色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。生成物は水に不溶性であるため、水は茶色の懸濁液となった。茶色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に茶色固体の濾物と、が得られた。
得られた濾物をさらにアセトンを用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の茶色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、茶色粉末を得た。
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成はLi2MnO3であると確認された。
<比較例1−2>
上記のLiを含有しない前駆体I’を溶融塩中で反応させて、Li2MnO3を合成した。合成手順は、Li含有前駆体IのかわりにLiを含有しない前駆体I’(1g)を使用した他は、実施例1−2と同様とした。
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成はLi2MnO3であると確認された。
<前駆体の調製II>
0.268molのMn(NO3)2・6H2O(76.93g)と0.064molのCo(NO3)2・6H2O(18.63g)0.064molのNi(NO3)2・6H2O(18.61g)とを500mLの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。この水溶液をスターラを用いて撹拌しながら、50g(1.2mol)のLiOH・H2Oを300mLの蒸留水に溶解させた水溶液の全量を2時間かけて滴下して水溶液をアルカリ性とし、金属水酸化物の沈殿を析出させた。この沈殿溶液を酸素雰囲気下で1日熟成した。その後、濾過せずに減圧乾燥することで溶媒を除去し、沈殿物を回収した。得られた混合物粉末を坩堝に入れて、500℃2時間の仮焼成を行った。仮焼成後の粉末を、乳鉢を用いて粉砕し、Li含有前駆体IIを得た。この前駆体IIに含まれる金属元素は、Liと他の金属元素との比が、原子比で2:1であった。
また、比較例として、Liを含有しない前駆体II’を合成した。0.268molのMn(NO3)2・6H2O(76.93g)と0.064molのCo(NO3)2・6H2O(18.63g)0.064molのNi(NO3)2・6H2O(18.61g)とを500mLの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。この水溶液をスターラを用いて撹拌しながら、48g(12mol)のNaOHを300mLの蒸留水に溶解させた水溶液の全量を2時間かけて滴下して水溶液をアルカリ性とし、金属水酸化物の沈殿を析出させた。この沈殿溶液を酸素雰囲気下で1日熟成した。その後、濾過および洗浄を行い、沈殿物(Liを含有しない前駆体)を回収した。得られた混合物粉末を坩堝に入れて、500℃2時間の仮焼成を行った。仮焼成後の粉末を、乳鉢を用いて粉砕し、Liを含有しない前駆体II’を得た。この前駆体II’は、X線回折測定により、Mn3O4、Co3O4およびNiOの混合相からなることが確認された。
<実施例2>
以下の手順により、Li2MnO3とLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2の混合相を合成した。
溶融塩原料としての0.20molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(8.4g)に前駆体(1.0g)を加えて原料混合物を調製した。
原料混合物を坩堝に入れて、真空乾燥容器にて120℃で4時間真空乾燥した。その後、乾燥機を大気圧に戻し、原料混合物の入った坩堝を取り出し、直ちに700℃の電気炉に移し、700℃で1時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、黒色の生成物が沈殿していた。
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出し、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。黒色の生成物は水に不溶性であるため、水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に黒色固体の濾物と、が得られた。
得られた濾物をさらにイオン交換水を用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で6時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
得られた黒色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成は0.5(Li2MnO3)・0.5(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2)であると確認された。
<比較例2>
上記のLiを含有しない前駆体II’を溶融塩中で反応させて、Li2MnO3を合成した。合成手順は、Li含有前駆体IIのかわりにLiを含有しない前駆体II’(1g)を使用した他は、実施例2と同様とした。
得られた黒色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよびMnの平均価数分析によれば、組成は0.5(Li2MnO3)・0.5(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2)であると確認された。
<評価>
<粉末の観察>
実施例2および比較例2の手順で得られた複合酸化物粉末を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図1(実施例2)および図2(比較例2)に示した。
<電池特性の評価>
実施例1−2、比較例1−2、実施例2および比較例2の手順で得られた四種類の複合酸化物のそれぞれを正極活物質として用い、リチウム二次電池を作製した。
上記のうちのいずれかの複合酸化物、導電助剤としてのアセチレンブラック、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比で88:6:6の割合でNMP溶媒に混合した。次いで、この混合物を集電体であるアルミニウム箔に塗工し、120℃で12時間以上真空乾燥後、プレスを行った。なお、混合物の塗布量および乾燥後のプレス強度は、いずれの複合酸化物を用いた電極作製においても一定とした。その後、電極をφ14mmで打ち抜き、本実施例の正極とした。正極活物質の異なる四種類の電極について、それぞれ厚さおよび重さを測定し、測定結果から電極密度を算出した。結果を表1に示した。
正極に対向させる負極は、金属リチウム(φ14mm、厚さ400μm)とした。
正極および負極の間にセパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを1:2(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解した非水電解質を注入して、リチウム二次電池を得た。
作製した四種類のリチウム二次電池を用いて25℃一定温度下において充放電試験を行った。充電は0.2Cのレートで4.5Vまで定電流充電を行い、その後0.02Cの電流値まで4.5V一定電圧で充電を行った。放電は2.0Vまで0.2Cのレートで行った。それぞれの二次電池について、初回放電容量を表1に示した。
実施例1−2および実施例2の手順で得られた複合酸化物粉末を用いて作製された正極は、比較例1−2および比較例2の手順で得られた複合酸化物粉末を用いたものよりも、電極密度が高かった。この結果は、得られた複合酸化物の粒子形状に起因する。図1より、実施例2の手順で得られた複合酸化物粉末は、ナノオーダーの複数の微粒子が凝集して平均粒径にして10μmの二次粒子を構成している。一方、比較例2の手順で得られた複合酸化物粉末には、図2においてナノオーダーの複数の微粒子は観察されたが、微粒子が凝集して二次粒子を構成する様子は確認できなかった。つまり、本発明の製造方法により得られた複合酸化物粉末は、ナノオーダーの微粒子が複数凝集した二次粒子の形態であることから、十分な充填密度で電極を構成することができた。
また、同じ組成の活物質で比較した場合に、実施例と比較例とで放電容量に大きな差はなかった。つまり、本発明の製造方法によれば、高密度で高容量の非水電解質二次電池用活物質を得られることがわかった。