JP2013040635A - 高硬度ステンレス鋼製タッピンねじおよびその製造方法 - Google Patents

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雅和 石原
Masayuki Saito
正幸 齋藤
Kazuhiro Ueha
一博 上羽
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Abstract


【課題】低炭素鋼で構成されるワークに対してめねじを形成しつつねじ込むことができる高硬度ステンレス鋼製タッピンねじおよびその製造方法を得る。
【解決手段】
圧造加工と転造加工により、駆動部を有する頭部とねじ山を有する脚部とが一体成形されたねじ素材1aを成形する。このねじ素材1aは、オーステナイト系、フェライト系またはマルテンサイト系のステンレス鋼から構成されており、このねじ素材1aに対し、無電解ニッケルめっき処理を行ってニッケル−リン合金めっき皮膜22aを形成し、これに続いて亜鉛めっき処理を行って亜鉛めっき皮膜23aを形成する。このようなニッケル−リン合金めっき皮膜と亜鉛めっき皮膜とから成る積層構造の表面処理皮膜を形成した後、低温熱処理を行って吸蔵水素を放出させつつニッケル−リン合金めっき皮膜を硬化させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、ワークに形成された下穴にめねじを形成しながらねじ込まれる高硬度ステンレス鋼製タッピンねじおよびその製造方法に関する。
従来、高硬度ステンレス鋼製タッピンねじとしては、特許文献1に示されたステンレス鋼製タッピンねじが知られている。このタッピンねじは、フェライト系またはオーステナイト系ステンレス鋼製のねじ素材に無電解ニッケル−リン合金めっきを施し、その後、このねじ素材を400℃程度の温度で約1時間の熱処理することにより得られるものである。熱処理を行うことにより、前記ニッケル−リン合金めっき皮膜(以下、Ni−P皮膜という)は、Hv1450程度の硬度まで硬化されることから、ねじ込みにおけるめねじ形成時にねじ山や頭部の破損を防止し、良好に締め付けることができるというものである。
特開平11−287227号公報
しかし、上記従来のタッピンねじでは、熱処理によりNi−P皮膜を硬化させ、タッピンねじの表面硬度を高硬度に高めてはいるものの、Ni−P皮膜等のめっき皮膜はねじ込みに伴うめねじ形成時にそのほとんどが剥離してしまう。こうしためっき皮膜の剥離は、めねじ形成の初期段階、すなわちタッピンねじのめねじ形成用のねじ山がワークの下穴に食い付いて行く段階で発生することが多く、このため、上記のように硬化させたNi−P皮膜を備えていても、実際のめねじ形成の大半がNi−P皮膜のなくなったねじ素材、すなわち硬度の低いオーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼部分で行われることになってしまう。結果、ねじ込み時に容易にねじ山がむしれたり摩耗したりして破損し、めねじを形成することができなくなり、タッピンねじの締結ができなくなる等の問題が発生していた。
本発明は上記課題に鑑みて創成されたものであり、低炭素鋼で成るワークへのねじ込み性能を有する高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ及びその製造方法を得ることを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、駆動部を有する頭部と、この頭部に一体に形成されて周囲にねじ山を有する脚部とからなるステンレス鋼製のねじ素材に表面処理を施したタッピンねじにおいて、前記ねじ素材の脚部にねじ山を転造加工し、ねじ山が形成されたねじ素材にニッケル−リン合金めっき皮膜を形成し、これに続いて亜鉛めっき皮膜を形成して積層構造の表面処理皮膜を形成し、その後に低温熱処理を行うことを特徴とする。
なお、前記ねじ素材はオーステナイト系、フェライト系またはマルテンサイト系の何れかのステンレス鋼製とする。ねじ素材をマルテンサイト系ステンレス鋼から得る場合には、前記ニッケル−リン合金めっき皮膜を形成する前にねじ素材を焼入れにより硬化させておくことが望ましい。また、前記亜鉛めっき皮膜に続いてクロメート化成皮膜を形成してもよい。
また本発明は、駆動部を有する頭部を形成する圧造加工工程と、この頭部に一体形成された脚部の周囲にねじ山を転造成形する転造加工工程とからステンレス鋼製のねじ素材を形成するタッピンねじの製造方法において、前記転造加工工程に続いてねじ山が転造成形されたねじ素材にニッケル−リン合金めっきを行うニッケル−リン合金めっき処理工程を配置し、この無ニッケル−リン合金めっき処理工程に続いてねじ素材に亜鉛めっきを行う亜鉛めっき処理工程を配置し、前記ニッケル−リン合金めっき処理工程および亜鉛めっき処理工程によりニッケル−リン合金めっき皮膜および亜鉛めっき皮膜が積層形成されたねじ素材に対し熱処理を行ってニッケル−リン合金めっき皮膜の初期結晶化とねじ素材に吸蔵された水素の放出とを同時に行う低温熱処理工程と配置して成ることを特徴とするものでもある。
なお、前記ねじ素材はオーステナイト系、フェライト系またはマルテンサイト系の何れかのステンレス鋼製とする。ねじ素材をマルテンサイト系ステンレス鋼から得る場合は、ニッケル−リン合金めっき処理工程の前に焼入れによりねじ素材を硬化する高温熱処理工程を配置することが望ましい。また、前記亜鉛めっき処理工程に続いて亜鉛めっきされたねじ素材に耐食性を向上させるクロメート化成皮膜を形成するクロメート処理工程を配置してもよい。
本発明によれば、ねじ素材にNi−P皮膜、亜鉛めっき皮膜およびクロメート皮膜を積層形成することにより、タッピンねじに亜鉛めっき皮膜による滑りやすさとNi−P皮膜による硬度とを付加することができる。これにより、めねじ形成時のNi−P皮膜の剥離を抑制してタッピンねじのねじ山の破損を防止し、ワークにめねじを良好に形成することができ、熱処理により硬化させることが困難なフェライト系またはオーステナイト系ステンレス鋼を材料とするタッピンねじを、従来ねじ込みが困難であったSPCCやSECCといった低炭素鋼製のワークに対しても正しく締結することが可能となる等の利点がある。また、ねじ素材の防食に対しても有効な亜鉛めっき皮膜やNi−P皮膜がめねじ形成時に損なわれても、ねじ素材がステンレス鋼で構成されていることから、タッピンねじの耐食性を維持できる等の利点もある。この効果は、特にオーステナイト系やフェライト系のステンレス鋼をタッピンねじの材料として用いた場合に顕著である。さらに、亜鉛めっき処理後にクロメート処理を行ってクロメート化成皮膜を形成することにより、ねじ込み時の滑りやすさを向上させて前述の皮膜保護効果を高めることができるとともに、タッピンねじの美観を向上することができる等の利点もある。
また、本発明によれば、Ni−P皮膜上に亜鉛めっき皮膜を積層して形成した後に低温熱処理を行っているため、この低温熱処理によってニッケル−リン合金めっき処理工程および亜鉛めっき処理工程でねじ素材に吸蔵された水素を除去すると同時に、Ni−P皮膜の硬度の均一化と向上を図ることができる。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼製タッピンねじの水素脆化による遅れ破壊を防止する効果と、低炭素鋼に対して必要となるセルフタップ性能を確保する効果とを合理的に得ることができる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼製タッピンねじにあっては、この低温熱処理を行うことで、前述の吸蔵水素の放出効果ならびにNi−P皮膜硬度の均一化と向上効果に加え、焼入れにより硬化させたねじ素材の硬度を維持しつつ焼戻しによる強度的特性を向上することができる。
本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじにおけるねじ山先端の要部拡大一部切欠断面図である。 本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの要部拡大図である。 本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの正面図である。 本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの底面図である。 本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造工程を示す概略工程図である。 本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造工程の他の例を示す概略工程図である。
以下、本発明の実施の形態を図1ないし図5に基づき説明する。図3および図4において、1は高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの一例であるオーステナイト系ステンレス鋼製のタッピンねじであり、頭部2とこれに一体に形成された脚部3とを備えている。前記頭部2にはタッピンねじ1にドライバビット(図示せず)からねじ込み駆動力が伝達される凹状の駆動部4が形成されている。この頭部2と一体の前記脚部3には、一条のねじ山10が頭部2の座面5の近くから脚部3の先端にかけて螺旋状に形成してある。このねじ山10は、脚部3の途中から頭部側にかけては一般的なタッピンねじと同様の高さで、その高さの等しい完全ねじ山部となった通常ねじ山部11となっている。また、この通常ねじ山部11に連続するねじ山10の脚部3の先端側は、脚部3の先端に達するにつれてねじ山10の高さが徐々に低くなる不完全ねじ山部となった案内ねじ山部12となっている。これら通常ねじ山部11と案内ねじ山部12とからなるねじ山10のねじ山頂部は、その全長に渡って断面円弧形状に形成されている。
図2に示すように、ねじ山10は追い側フランク面13と進み側フランク面14とから構成されており、これらフランク面13、14による角度(α)は、つる巻き線に対する直角断面において60°±5°の範囲となるように構成されている。そして、これらフランク面13,14から構成されるねじ山頂点部は断面円弧形状の頂面15とフランク面13,14とが滑らかに接続されるように構成されている。この結果、図5に示す無電解ニッケルめっき処理工程23において、めっき皮膜がねじ山10表面に均等に形成されることを可能にしている。一方、このねじ山10の谷部を形成する谷面16と、前記フランク面13,14とについても円弧形状の弧状面17で接続してある。このように、ねじ山10は山頂および谷面16がそれぞれ円弧で接続されているため、このねじ素材1aに無電解ニッケルめっき処理を施しても皮膜に筋状のひびや割れが発生することがない。
図4に示すように、前記脚部3は、その底面図および軸直角断面において略三角形状となっており、ねじ込み時の雌ねじ形成時の抵抗が軽減されるようになっている。しかも、前記案内ねじ山部12の先端近くに位置する前記略三角形状の三頂点で形成される軌跡円の直径は、ワーク(図示せず)に形成されている下穴(図示せず)の直径と同径か、これより僅かに大きく、かつ前記通常ねじ山部11より小さいねじ山径に設定されている。このため、ねじ込み開始時における下穴には、僅かにねじ山稜線による筋状の雌ねじ(図示せず)が形成される程度となっている。
案内ねじ山部12は、通常ねじ山部11に近づくにつれてねじ山10が高くなっていることから、このタッピンねじ1をワークの下穴にねじ込むに伴って、下穴には雌ねじが形成されるようになっている。なお、本実施の形態では脚部3の軸直角断面が略三角形状のタッピンねじ1について説明したが、脚部3を円形形状としたタッピンねじであってもよく、この場合は、前記略三角形状となったタッピンねじ1に比べ、ねじ山10と雌ねじとの接触箇所が多くなることから、ねじ込み時のトルクが僅かに高くなる傾向がある。
図5は、このようなオーステナイト系ステンレス鋼製のタッピンねじ1を加工するための製造工程図であり、20は所定長さのオーステナイト系ステンレス鋼素材(図示せず)に頭部2を形成するための圧造加工工程である。この工程で頭部2が一体形成された素材は次に配置されている転造加工工程21に移り、ここで脚部3の周囲にねじ山10が転造成形される。このようにして得られたねじ素材1aには、続く工程で表面硬度を高めるとともに、ねじ込み時の滑りやすさを付与するために積層構造の表面処理皮膜が形成される。この表面処理皮膜を形成するため、まずは転造加工工程21に続いて、ニッケル−リン合金めっき処理工程の一例である無電解ニッケルめっき処理工程22が配置されている。この工程22において、ねじ素材1aは次亜リン酸水溶液に浸漬され、その表面には硬度の高いNi−P皮膜22aが形成される(図1参照)。
前記無電解ニッケルめっき処理工程22の次には、亜鉛めっき処理工程23が配置されている。この亜鉛めっき処理工程23は電気亜鉛めっきを行う工程であり、この工程で、ねじ素材1a表面のNi−P皮膜22a上には亜鉛めっき皮膜23aが積層形成される(図1参照)。この亜鉛めっき皮膜23aを形成することにより、後工程であるクロメート処理工程25において形成されるクロメート化成皮膜25aの密着性を向上させるとともに、タッピンねじ1に耐食性能とねじ込み時の滑りやすさを付加している。
前記亜鉛めっき処理工程23の次には低温熱処理工程24が設けられており、この低温熱処理工程24において、前工程でNi−P皮膜22aと亜鉛めっき皮膜23aが積層形成されたタッピンねじ1にベーキングが行われる。前記無電解ニッケルめっき処理工程22においては、脱水素反応により水素原子が生じる。この水素原子は、一部が水素ガスとなり、一部がニッケル−リン合金の生成に貢献する。また、亜鉛めっき処理工程23においては、陰極となるタッピンねじ1から水素原子・水素ガスが発生する。これら各めっき処理工程22,23において発生した水素は、一部がねじ素材1a内に吸蔵され、所謂水素脆性破壊をもたらす原因になると考えられており、こうしたねじ素材1aに吸蔵された水素を取り除く処理として、一般にベーキングが行われている。
低温熱処理工程24におけるベーキングは、日本工業規格(以下、JISという)B1044に従って行われる。すなわち、亜鉛めっき処理後4時間以内、好ましくは1時間以内に、ねじ素材1aを200℃〜230℃の温度に加熱し、この温度で所定時間(6時間以上)保持した後、常温まで自然冷却することにより行う。これにより、無電解ニッケルめっき処理工程22および亜鉛めっき処理工程23においてねじ素材1aに吸蔵された水素を放出し、タッピンねじ1の水素脆化を防ぐことが可能となる。同時に、熱処理を行っていないアモルファス状態ではタッピンねじの部分々々で硬度のばらつきが大きいNi−P皮膜22aの結晶化を促し、皮膜硬度の均一化と向上を図る。このNi−P皮膜22aの硬度の均一化および向上により、タッピンねじ1自体の表面硬度が高くなる。ベーキング後にタッピンねじ1のサンプル4本を抽出し、それぞれの表面硬度を測定したところ、Hv548〜616の範囲にあった。
タッピンねじとしてのセルフタップ性能、すなわち、ねじ込み時に相手材にめねじを形成可能な性能を有するためには表面硬度が重要な要素であり、これについては、JIS B1055に鋼製のタッピンねじの最低値としてHv450が規定されている。これは、ねじ込むワークをSPCCやSECCといった低炭素鋼とした場合の値であるが、このJIS規格の最低値から見て、本タッピンねじ1は低炭素鋼に対して有効なセルフタップ性能を有していると判断できる。
前記低温熱処理工程の後には、クロメート処理工程25が配置されており、この工程25において、ねじ素材表面の前記亜鉛めっき皮膜23a上にはクロメート化成皮膜25aが形成される。このクロメート化成皮膜25aにより、ねじ素材表面の耐食性はさらに向上するとともに、その美観も向上する。このように、ねじ素材1aに表面処理を行って得られたタッピンねじ1は、図1に示すように、三層となった積層構造の表面処理皮膜22a,23a,25aを有することになり、その耐久性及び美観が優れたものとなる。
次に、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼製のタッピンねじ1を、あらかじめワークに形成された下穴にねじ込む場合について説明する。タッピンねじ1にドライバビット(図示せず)を係合させて回転を付与し、タッピンねじ1のワークへのねじ込みを開始すると、図2および図3に示されたタッピンねじ1の脚部3の案内ねじ山部12が下穴に押し込まれる。続いて、通常ねじ山部11が下穴に食い付き、ワークにめねじを形成し、最終的に座面5がワークに着座して締付トルクが高まってねじ込みは完了する。本タッピンねじ1にはNi−P皮膜22aの硬化によってタッピンねじに求められる表面硬度が確保されており、かつクロメート化成皮膜25aと亜鉛めっき皮膜23aによる潤滑効果が付与されている。このため、ねじ込み作業においてNi−P皮膜22aが剥離するのを抑制または遅延させ、タッピンねじ1のねじ山10がめねじ形成時のワークとの摩擦等によりむしれたり、摩滅したりするのを防ぎ、タッピンねじ1をワークに良好にねじ込むことができる。また、めねじ形成に伴ってNi−P皮膜22a、亜鉛めっき皮膜23aおよびクロメート化成皮膜25aが剥離してしまっても、ねじ素材1aがステンレス鋼であることから、締結後も優れた耐食性を維持することが可能になる。
また、本タッピンねじ1のねじ山10は、隣接するねじ山のフランク面13,14が全て円弧形状の面で接続されているので、無電解ニッケルめっき処理工程22や亜鉛めっき処理工程23によって形成されるめっき皮膜22a,23aが曲面に沿って滑らかに形成されている。このため、腐食の発生原因が解消されて耐食性が向上する。しかも、このような滑らかなねじ山形状であることから、転造時に肌荒れの発生が解消されてねじ山10の表面が滑らかになり、ここに前記表面処理皮膜を形成することによって耐食性を長く維持させることができる。さらに、肌荒れが少ないことでねじ込み時のねじ込みトルクが安定し、自動ねじ締め機によるねじ込み時のトルク管理も容易になる。
なお、本発明に係る高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼同様、熱処理による硬化が困難なフェライト系ステンレス鋼を用いてもよい。このようなフェライト系ステンレス鋼製のタッピンねじについても、上述同様の効果を得ることができる。
また、タッピンねじの材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼を用いてもよい。マルテンサイト系ステンレス鋼は、1050℃付近の温度で焼入れを行うことにより、Hv600〜700まで硬度を高めることができる。焼戻しでは、500〜550℃の温度まではHv500〜650の硬度を維持し、引張り強度等の強度面での特性が向上する。これよりも高温で焼戻しを行うと、硬度はHv250程度まで一気に低下するが、一方で強度は大幅に向上する。
タッピンねじ1の材質をマルテンサイト系ステンレス鋼とする場合には、図5に示す製造工程でタッピンねじ1を製造することにより、上述のオーステナイト系ステンレス鋼製またはフェライト系ステンレス鋼製のタッピンねじ同様の効果を得ることができる。しかしながら、タッピンねじ1の材質をマルテンサイト系ステンレス鋼とする場合には、図6に示すように、製造工程上、無電解ニッケルめっき処理工程22の前に高温熱処理工程26を設けるとさらによい。この工程26でねじ素材1aに1050℃付近の温度で焼入れを行うことにより、ねじ素材1aそのものの硬度をHv600〜700まで高められる。そして、その後の200〜230℃の低温熱処理では、若干の焼戻しを行って強度的特性を向上させる。この時、焼入れされたねじ素材1aの硬度は前述のHv500〜650程度までしか低下しない。このように、タッピンねじ1の材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼を用いた場合には、低温熱処理工程24によってねじ素材1aの硬度を低炭素鋼へのねじ込みに必要な硬度に保った状態で、吸蔵水素の放出、Ni−P皮膜22aの硬化を行うことができる。また、ねじ素材1aそのものの硬度とNi−P皮膜22aの硬度とにより、めねじ形成に必要な硬度の厚さを十分に確保し、タッピンねじ1のセルフタップ性能を高めることができる。
以上の本発明の実施形態では、ニッケル−リン合金めっき処理工程の一例として無電解ニッケルめっき処理工程を挙げたが、これを例えば電気ニッケル−リン合金めっき処理工程としてもよい。
本発明の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ及びこのねじの製造方法は、タッピンねじ以外の締結部品である小ねじ、ボルト、リベット、ナット等にも適用でき、オーステナイト系ステンレス鋼製、フェライト系ステンレス鋼製あるいはマルテンサイト系ステンレス鋼製の締結部品の大量生産に貢献できるものである。
1 タッピンねじ
1a ねじ素材
2 頭部
3 脚部
4 駆動部
5 座面
10 ねじ山
11 通常ねじ山部
12 案内ねじ山部
13 追い側フランク面
14 進み側フランク面
15 頂面
16 谷面
17 弧状面
20 圧造加工工程
21 転造加工工程
22 無電解ニッケルめっき処理工程
22a ニッケル−リン合金めっき皮膜
23 亜鉛めっき処理工程
23a 亜鉛めっき皮膜
24 低温熱処理工程
25 クロメート処理工程
25a クロメート化成皮膜
26 高温熱処理工程

Claims (12)

  1. 駆動部を有する頭部と、この頭部に一体に形成されて周囲にねじ山を有する脚部とからなるステンレス鋼製のねじ素材に表面処理を施したタッピンねじにおいて、
    前記ねじ素材の脚部にねじ山を転造加工し、ねじ山が形成されたねじ素材にニッケル−リン合金めっき皮膜を形成し、これに続いて亜鉛めっき皮膜を形成することにより積層構造の表面処理皮膜を形成し、その後に低温熱処理を行うことを特徴とする高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  2. ねじ素材は、オーステナイト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項1に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  3. ねじ素材は、フェライト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項1に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  4. ねじ素材は、マルテンサイト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項1に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  5. ねじ素材は、ニッケル−リン合金めっき皮膜を形成する前に焼入れにより硬化されていることを特徴とする請求項4に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  6. 亜鉛めっき皮膜に続いてクロメート化成皮膜を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  7. 駆動部を有する頭部を形成する圧造加工工程と、この頭部に一体形成された脚部の周囲にねじ山を転造成形する転造加工工程とからステンレス鋼製のねじ素材を形成するタッピンねじの製造方法において、
    前記転造加工工程に続いてねじ山が転造成形されたねじ素材にニッケル−リン合金めっきを行うニッケル−リン合金めっき処理工程を配置し、このニッケル−リン合金めっき処理工程に続いてねじ素材に亜鉛めっきを行う亜鉛めっき処理工程を配置し、前記ニッケル−リン合金めっき処理工程および亜鉛めっき処理工程によりニッケル−リン合金めっき皮膜および亜鉛めっき皮膜が積層形成されたねじ素材に対し熱処理を行ってニッケル−リン合金めっき皮膜の結晶化とねじ素材に吸蔵された水素の放出とを同時に行う低温熱処理工程と配置して成ることを特徴とする高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造方法。
  8. ねじ素材は、オーステナイト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項7に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造方法。
  9. ねじ素材は、フェライト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項7に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造方法。
  10. ねじ素材は、マルテンサイト系ステンレス鋼で成ることを特徴とする請求項7に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造方法。
  11. ニッケル−リン合金めっき処理工程の前に焼入れによりねじ素材を硬化する高温熱処理工程を配置して成ることを特徴とする請求項10に記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじ。
  12. 亜鉛めっき処理工程に続いて亜鉛めっきされたねじ素材に耐食性を向上させるクロメート皮膜を形成するクロメート処理工程を配置して成ることを特徴とする請求項7ないし請求項11の何れかに記載の高硬度ステンレス鋼製タッピンねじの製造方法。
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