JP6799424B2 - タッピンねじ - Google Patents

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本発明は、相手材に自ら雌ねじを成形しながら締結できるタッピンねじに関するものである。
従来、屋外に設置される製品で、錆びにくいようにするために、ねじと相手材ともにステンレス材が用いられることは周知である。そのような場合、ねじとしては相手材に設けた開口にねじ込むことでタップするといういわゆるセルフタップを行いながら締結されるタッピンねじが周知である(例えば、特許文献1参照)。そのステンレス部材に、タッピンねじでセルフタップ締結したい場合、相手材の材質がSUS410製のような、比較的柔らかいとされるステンレス板であれば可能であるといわれている。
また、タッピンねじと相手材との素材が何れも同一のSUS410である場合、タッピンねじを相手材よりも高い硬度に設定して硬度差を持たせることで、ねじ山つぶれの発生を防ぐ必要がある。このため、タッピンねじにのみ「光輝焼入」(真空窒化処理)を施して相手材よりも高い硬度を付加することで、同一の素材であっても、安定したセルフタップを可能としていた。
特開2015−86975号公報
しかしながら、上述のタッピンねじを用いた場合であっても、相手材がSUS304やSUS316のようにタッピンねじの素材であるSUS410よりも硬いとされる素材を用いるとなると、表面を光輝焼入したSUS410製タッピンねじであっても、セルフタップに必要な相手材との硬度差が十分に得られず、同程度の硬度差になってしまうため、ねじ込み時にタッピンねじのねじ山が相手材をタップすることができないという、いわゆる「ねじ山つぶれ」が発生してしまう。このため、斯かる場合ではタッピンねじを用いず、相手材に設けた開口にさらにタップ処理を施したうえで締結するのが一般的である。この場合は勿論相手材にタップ処理を施す手間を別途要してしまうことはいうまでもない。
本発明は、上記のような課題を解消することを目的としており、ステンレス素材を用いたタッピンねじにおいて、当該タッピンねじの素材と同等もしくは高い硬度を有する相手材に対してもセルフタップを可能とした新規のタッピンねじを提案するものである。
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
(1)すなわち、本発明に係るタッピンねじは、ステンレス素材からなる心部及びこの心部に表面硬化処理を行った硬化層を有するねじ本体と、前記硬化層の表面を被覆する亜鉛ニッケル合金めっきとを具備し、前記亜鉛ニッケル合金めっきのニッケル含有量が15〜18%であることを特徴とするタッピンねじである。
(2)また、本発明に係るタッピンねじは、前記ねじ本体の心部の硬度がHV350〜HV500であるとともに前記硬化層の硬度がHV500〜HV650であり、前記亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がHV300〜HV500であることを特徴とする(1)記載のタッピンねじである。
)また、本発明に係るタッピンねじは、前記亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がナノインデンテーション硬さ5000〜7000N/mmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のタッピンねじである。
)また、本発明に係るタッピンねじは、前記亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法が0.005〜0.020mmであることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載のタッピンねじである。
)また、本発明に係るタッピンねじは、前記ねじ本体を構成するステンレス素材が、SUS410であることを特徴とする(1)〜()の何れかに記載のタッピンねじである。
)また、本発明に係るタッピンねじは、締結する相手材がステンレス素材であり、前記ねじ本体を構成するステンレス素材よりも硬度が同等かそれ以上に高く設定されているステンレス素材であることを特徴とする(1)〜()の何れかに記載のタッピンねじである。
)また、本発明に係るタッピンねじは、前記ねじ本体を構成するステンレス素材がSUS410であり、前記相手材を構成するステンレス素材がSUS304又はSUS316であることを特徴とする(6)に記載のタッピンねじである。
本発明は、以上説明した構成であるから、ステンレス製のタッピンねじにおいて当該タッピンねじを構成する素材よりも硬度が同等かそれ以上に高い素材の相手材に対してもセルフタップ締結が実現される。その結果、相手材に対するタップ穴の加工を回避することができる。これにより、ねじと相手材との締結構造を構成するための工程を省くことで、より簡易かつ迅速なねじ締結構造を得ることができる。
本発明の実施例の特性をグラフとして示す図。 同上。 同上。 本発明の実施例及び比較例の特性を表として示す図。 同実施例及び比較例のねじ込み最大トルク(TS)をグラフとして示す図。 同実施例及び比較例のねじ込み最大トルク(TS)と被膜のナノインデンテーション硬さ(HIT)との関係をグラフとして示す図。 図5に係る要部の拡大図。
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るタッピンねじは、ステンレス素材からなる心部及びこの心部に表面硬化処理を行った硬化層を有するねじ本体と、硬化層の表面を被覆する亜鉛ニッケル合金めっきとを具備することを特徴とするタッピンねじである。
このようなものであれば、亜鉛ニッケル合金めっきにより表面の強度すなわち被膜強度が有効に高められながらねじ込み時の最大トルクを有効に低減させることができる。これにより、ねじ込み時の被膜の剥離を有効に抑えつつ相手材に対するタップすなわちセルフタップを有効に実現し得るタッピンねじを提供することができる。すなわち本発明によれば、ステンレス製のタッピンねじにおいて当該タッピンねじを構成する素材よりも硬度が高い相手材に対してもセルフタップ締結が実現される。その結果、相手材に対するタップ穴の加工を回避することができる。これにより、ねじと相手材との締結構造を構成するための工程を省くことで、より簡易かつ迅速なねじ締結構造を得ることができる。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、ねじ本体の心部の硬度がビッカース硬さHV350〜HV500であるとともに硬化層の硬度がビッカース硬さHV500〜HV650であり、亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がビッカース硬さHV300〜HV500であることを特徴とするタッピンねじである。
すなわち本実施形態に係るタッピンねじによれば、相手材がねじ本体よりも硬度が同等かそれ以上に高い材質であっても有効にセルフタップ締結を実現できる。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、亜鉛ニッケル合金めっきのニッケル含有量が、15〜18%であることを特徴とするタッピンねじである。
ここで、ニッケル含有量が10%よりも小さいとねじ込みトルクが大きくなり過ぎることにより被膜の剥離が著しく多くなる傾向にある。またニッケル含有量が18%よりも大きいと被膜の耐食性が低下してしまう傾向にある。そして被膜の剥離を低減しつつねじ込み(最大)トルクを有効に抑えるためにはニッケル含有量を12%よりも大きくすることが望ましく、15%よりも大きくすることが更に望ましい。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、亜鉛ニッケル合金めっきの超微小硬さ試験(計装化押し込み硬さ試験またはナノインデンテーション法ともいう)による硬度がナノインデンテーション硬さ(HIT)5000〜7000N/mmであることを特徴とするタッピンねじである。なお、超微小硬さ試験による測定硬度は、ナノインデンテーション硬さ(HIT)又はインデンテーション硬さ(HIT)と呼ばれる。
すなわち亜鉛ニッケル合金めっきのナノインデンテーション硬さが5000〜7000N/mmであれば被膜の剥離を有効に抑えながら相手材に対する好適なセルフタップを実現することができる。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法が0.005〜0.020mmであることを特徴とするタッピンねじである。
すなわち亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法が0.005mmよりも小さいと被膜の剥離を容易に招来してしまう。また亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法が0.020mmよりも大きい値とすることは、タッピンねじの各部寸法を変化させることから、例えば十字穴であればその寸法が小さくなるため、当該十字穴に嵌り込むビットが奥深く嵌り難い。同様に、亜鉛ニッケル合金めっきが必要以上に厚く被覆されるとおねじの外径が大きくなるので、ねじの規格寸法から外れ易くなるなどの問題もある。よって、亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法は、上述したような問題を招かないように、0.005〜0.020mmの範囲に設定されている。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、ねじ本体を構成するステンレス素材が、SUS410であることを特徴とするタッピンねじである。
すなわち亜鉛ニッケル合金めっきに起因する上記の効果を最も享受し得るステンレス素材としては、ねじ本体を構成するステンレス素材がSUS410である構成を挙げることができる。
また、本実施形態に係るタッピンねじは、締結する相手材がステンレス素材であり、ねじ本体を構成するステンレス素材よりも硬度が同等かそれ以上に高いステンレス素材であることを特徴とするタッピンねじである。斯かる構成であれば、本実施形態に係る亜鉛ニッケル合金めっきによるねじ込みトルク低減の効果と、より確実なセルフタップをし得る効果とを有効に享受し得る。
また、本発明に係るタッピンねじは、ねじ本体を構成するステンレス素材がSUS410であり、相手材を構成するステンレス素材がSUS304又はSUS316であることを特徴とするタッピンねじである。
このようなものであれば、ステンレス製のねじ本体を有するタッピンねじと、当該タッピンねじよりも硬度が高い相手材との間であっても好適なタッピンねじの締結構造を実現することができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
以下、本発明の実施例について図1〜図7を参照して説明する。なお本実施例は本発明を何ら限定するものではない。
工業電気めっきとして、ねじへの大量生産が確立されているニッケルめっきと亜鉛めっきとがあるが、ニッケルめっきはその被膜硬度が比較的高いめっきとして知られており、また、亜鉛めっきは、潤滑性および低摩擦性の高い被膜を得られるめっきとして知られている。
<比較例1〜3>
まず本発明の実施例に含まれない比較例として、光輝焼入(真空窒化)したSUS410製ねじである比較例1に加え、上述した2種類のめっきを光輝焼入したSUS410製ねじにそれぞれ被覆した比較例2(ニッケルめっき)及び比較例3(亜鉛めっき)として設定し、SUS304製のステンレス板(焼入れ無し)に対してセルフタップが可能にならないか検討した。
<実施例1〜3>
そして本実施例では、潤滑性および低摩擦性を示す亜鉛めっきと高い被膜硬度特性を有するニッケルめっきを合わせた「亜鉛ニッケル合金めっき」を塗布して、同様にセルフタップ実験を実施した。
その際、ニッケル含有量は、下記の三種類であり、下記ニッケル量を除いた被膜の成分は、全て亜鉛成分である。
実施例1:ニッケル量大 15〜18wt.%:中央ニッケル量 16.5wt.%
実施例2:ニッケル量中 12〜16wt.%:中央ニッケル量 14wt.%
実施例3:ニッケル量小 10〜14wt.%:中央ニッケル量 12wt.%
<試験方法>
上記比較例1〜3、実施例1〜3ともに、ねじ本体として光輝焼入(真空窒化)を施したSUS410製のねじ(φ4×10mm)を用いた。そして相手材としてはねじ本体に用いたSUS410よりも硬度が高いSUS304製、厚さ2mm(実測値1.87mm)のステンレス板を用いた。当該ステンレス板に対し下穴としてφ3.6mm(実測値φ3.59〜3.60mm)のパンチ穴を施した部分に上記比較例1〜3、実施例1〜3に係るタッピンねじを締結した。当該試験では、試験機としてAX100(日東精工(株)製ACサーボモータ搭載のねじ締めドライバ)を用い、回転数100rpm、推力196N(20Kgf)にてタッピンねじの締結試験を行った。当該試験に際し、ねじ込み(最大)トルク(TS)、ナノインデンテーション硬さ(HIT)及び、ねじ山の破損度合い並びに被膜の破損度合いを調査した。
<試験結果>
図1では、今回用いるねじ本体と相手材の硬度をビッカース硬さ(Hv)により表している。図2では、図1のねじ本体および相手材、実施例1〜3における亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をナノインデンテーション硬さ(HIT)により表している。
ここで図3においては敢えて実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)により便宜上図示している。具体的に説明すると、ねじ本体に被膜されためっきの硬度測定は、その被膜厚さが薄いため、ビッカース硬さ(Hv)を測定できないことから、ナノインデンテーション硬さ(HIT)を採用しなければならない。そこで本明細書では説明の便宜上、ねじ本体と亜鉛ニッケル合金めっきとの相対的なナノインデンテーション硬さ(HIT)の値に基づき、敢えて実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)に換算し直して図示している。詳細には、図2における実施例1と、表面からの距離が0.5mmであるねじ本体のナノインデンテーション硬さ(HIT)の値が略同じである点から、実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)に換算し、図3において図示している。
図4では、実施例1〜3に加え、比較例1〜3に関しての、ねじ込み(最大)トルク(TS)、ナノインデンテーション硬さ(HIT)の数値を示している。このようにこれら実施例1〜3では、ねじ本体の心部の硬度がビッカース硬さHV350〜HV500であるとともに硬化層の硬度がビッカース硬さHV500〜HV650であり、亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がビッカース硬さHV300〜HV500であること、並びに、亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がナノインデンテーション硬さ(HIT)5000〜7000N/mmであること、という条件を共に満たしている。
加えて図5では、上記実施形態1〜3、比較例1、2に加え、亜鉛めっきを処理した比較例1〜3におけるねじのねじ込み最大トルクの値をそれぞれ示したものである。同図によるとねじ込み最大トルク(TS)は、めっきを何ら施していない未処理品である比較例1の4.1Nmに対し、比較例3では2.2Nmまで低下し、潤滑性および低摩擦性を有することを示した。しかしながら、セルフタップ後のねじ山を元素分析すると、比較例3では被膜が完全に剥離していることが判った。
また、ニッケルめっきを施した比較例2は、ねじ込み最大トルク(TS)が比較例3とは逆に、未処理品の4.1Nmに対し、4.4Nmと若干高くなった。セルフタップ後のねじ山を同様に分析すると、亜鉛めっきほどではないが、部分的に被膜が大きく剥がれていた。すなわち被膜が剥がれると、「ねじ山つぶれ」が発生しやすくなるため、なるべく剥がれない方が良いことが明らかとなった。
そしてなんらめっきを施していない比較例1ではねじ山が破損される、換言すればセルフタップが有効に実現されていないという結果となった。
続いて、実施例1〜3について説明する。まず、中央ニッケル量が約15wt.%以下の実施例2と実施例3では、被膜の剥離量は、ニッケルめっきを施した比較例2と同様に部分的であるが大きく剥がれた。しかし、ニッケル量大の実施例1であれば、ねじ込みトルクが最も低い値を示し、剥離量が最も少ない結果を得た。
図6では実施例1〜3、比較例2、3におけるねじ込み(最大)トルク(TS)及び
ナノインデンテーション硬さ(HIT)の関係を示している。図7は同図において特に実施例1〜3に着目し、要部を図示している。ねじ込みトルクは、ニッケル含有量が多くなるにつれて、低下する傾向を示した。これは、ニッケルが多くなることによって被膜硬度が高くなることから、被膜自体の強度が上がることによって、相手材との摩擦によって引き起こされる被膜剥離を抑制したと思われる。ニッケル量が18wt.%を超えると、被膜の耐食性が低下することが既に分かっている。従って、亜鉛ニッケル合金めっきの適正ニッケル量は、耐食性とねじ込み性を両立した、15〜18wt.%である実施例1が最も良いということが判明した。

Claims (7)

  1. ステンレス素材からなる心部及びこの心部に表面硬化処理を行った硬化層を有するねじ本体と、前記硬化層の表面を被覆する亜鉛ニッケル合金めっきとを具備し、
    前記亜鉛ニッケル合金めっきのニッケル含有量が15〜18%であることを特徴とするタッピンねじ。
  2. 前記ねじ本体の心部の硬度がHV350〜HV500であるとともに前記硬化層の硬度がHV500〜HV650であり、
    前記亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がHV300〜HV500であることを特徴とする請求項1記載のタッピンねじ。
  3. 前記亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がナノインデンテーション硬さ5000〜7000N/mm である請求項1又は2に記載のタッピンねじ。
  4. 前記亜鉛ニッケル合金めっきの厚み寸法が0.005〜0.020mmである請求項1〜3の何れかに記載のタッピンねじ。
  5. 前記ねじ本体を構成するステンレス素材が、SUS410である請求項1〜4の何れかに記載のタッピンねじ。
  6. 締結する相手材がステンレス素材であり、前記ねじ本体を構成するステンレス素材よりも硬度が同等かそれ以上に高く設定されている請求項1〜5の何れかに記載のタッピンねじ。
  7. 前記ねじ本体を構成するステンレス素材がSUS410であり、前記相手材を構成するステンレス素材がSUS304又はSUS316である請求項6に記載のタッピンねじ。
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