JP2015183208A - 複合硬質膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐摩耗性、耐熱性、化学安定性及び潤滑性を備える複合硬質膜を提供する。【解決手段】α型またはα型とγ型の混相である酸化アルミニウム膜と、該酸化アルミニウム膜の直下に形成されたチタン酸化物下地膜とからなる複合硬質膜であって、該酸化アルミニウム膜は、β‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤のうち、少なくともどれか一つのキレート化剤を含有するアルミナゾルを使用したゾルーゲル法により形成され、ナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上であり、該酸化アルミニウム膜中には、好ましくは、5〜20nmの平均粒径を有する微粒チタン酸化物が、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合で2〜20原子%含有されている複合硬質膜。【選択図】なし
Description
本発明は、すぐれた硬さと耐摩耗性、耐熱性、化学安定性を有する複合硬質膜に関し、特に、機械産業、半導体産業などにおいて基材の保護を目的として使用するのに好適な複合硬質膜に関する。
従来から機械産業、半導体産業などにおいては耐摩耗性、耐食性など母材の保護の観点からアルミナコーティングが行われている。これらアルミナコーティング膜の形成には通常、化学蒸着法、物理蒸着法、ゾルーゲル法が用いられ、成膜条件によって、δ、θ、γといった様々な結晶構造のアルミナコーティング膜が得られるが、なかでも、α型酸化アルミニウム膜は高い熱安定性を示すことから、各産業に好まれて使用されてきた。
例えば、特許文献1に示すように、耐摩耗性および耐熱性に優れたα型結晶構造主体のアルミナ膜を有する積層皮膜を、低温条件下で、中間膜を介さず形成することを目的として、AlとTiを必須とする金属成分とB、C、N、O等との化合物からなる硬質皮膜をPVD法により酸化することによって、酸化物含有層を形成し、該酸化物含有層上にα型結晶構造を主体とするアルミナ膜を形成した積層皮膜が提案されている。
また、例えば、特許文献2に示すように、α型の結晶構造のアルミナに匹敵する機械的特性、耐久性があってかつ、酸やアルカリの溶液による分解を受けない、準安定型の結晶形態をもつアルミナコーティング構造体をゾル−ゲル法により作製することを目的として、母材とアルミナ膜からなるアルミナコーティング構造体の母材上に先ず第1のアルミナ膜からなる層をゾルーゲル法で形成し、次いで、第2のアルミナ膜からなる層をスパッタ法で形成したアルミナコーティング構造体が提案されている。
前記特許文献1に記載されるPVD法を利用した積層皮膜、あるいは、前記特許文献2に記載されるゾル−ゲル法を利用したアルミナコーティング構造体においては、ある程度目的とする特性は得られるものの、化学蒸着法で形成されるα型酸化アルミニウムに比して、硬度、耐摩耗性、熱的安定性は十分でない。
しかし、化学蒸着法によりすぐれた特性のα型酸化アルミニウムを得ようとした場合には、一般的に、1000℃以上の成膜温度が必要とされることから、より低温で形成することが可能なすぐれた硬度、耐摩耗性、熱的安定性を有するα型酸化アルミニウムを主体とする硬質膜が望まれている。
しかし、化学蒸着法によりすぐれた特性のα型酸化アルミニウムを得ようとした場合には、一般的に、1000℃以上の成膜温度が必要とされることから、より低温で形成することが可能なすぐれた硬度、耐摩耗性、熱的安定性を有するα型酸化アルミニウムを主体とする硬質膜が望まれている。
本発明者等は、前記課題を解決すべく、CVD法による成膜されるα型酸化アルミニウムを代替することが可能な種々の方法について検討したところ、ゾルーゲル法で酸化アルミニウム膜を形成する際に、酸化アルミニウム膜の直下にチタン酸化物下地膜を予め形成しておき、この上に、特にβ‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤のうち少なくとも一つを含有するアルミナゾルを塗布し、熱処理を行うと、ゾル−ゲル法で成膜された酸化アルミニウムは下地のチタン酸化物が起点となり、α型酸化アルミニウムへと比較的低温下で変態することを見出し、チタン酸化物下地膜と酸化アルミニウム膜とからなる耐摩耗性、耐熱性、化学安定性を備えた複合硬質膜を形成し得ることを見出したのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 平均膜厚が0.5〜5.0μmであるα型またはα型とγ型の混相である酸化アルミニウム膜と、該酸化アルミニウム膜の直下に形成された平均膜厚が0.2〜2.0μmであるチタン酸化物下地膜とからなり、該酸化アルミニウム膜は、ゾルーゲル法により形成され、ナノインデンテーション法で測定した硬度(H)が15GPa以上であることを特徴とする複合硬質膜。
(2) 前記酸化アルミニウム膜は、β‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤のうち少なくとも一つのキレート化剤を含有するアルミナゾルを使用したゾルーゲル法により形成された酸化アルミニウム膜であることを特徴とする前記(1)に記載の複合硬質膜。
(3) 前記酸化アルミニウム膜中には、5〜20nmの平均粒径を有する微粒チタン酸化物が、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合で2〜20原子%含有されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の複合硬質膜。
(4) 前記酸化アルミニウム膜の直下に形成されたチタン酸化物下地膜は、ゾルーゲル法により形成された下地膜であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の複合硬質膜。
(5) 工具基体表面に、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のチタン酸化物下地膜が被覆され、該チタン酸化物下地膜の表面に、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の酸化アルミニウム膜が被覆されていることを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
「(1) 平均膜厚が0.5〜5.0μmであるα型またはα型とγ型の混相である酸化アルミニウム膜と、該酸化アルミニウム膜の直下に形成された平均膜厚が0.2〜2.0μmであるチタン酸化物下地膜とからなり、該酸化アルミニウム膜は、ゾルーゲル法により形成され、ナノインデンテーション法で測定した硬度(H)が15GPa以上であることを特徴とする複合硬質膜。
(2) 前記酸化アルミニウム膜は、β‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤のうち少なくとも一つのキレート化剤を含有するアルミナゾルを使用したゾルーゲル法により形成された酸化アルミニウム膜であることを特徴とする前記(1)に記載の複合硬質膜。
(3) 前記酸化アルミニウム膜中には、5〜20nmの平均粒径を有する微粒チタン酸化物が、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合で2〜20原子%含有されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の複合硬質膜。
(4) 前記酸化アルミニウム膜の直下に形成されたチタン酸化物下地膜は、ゾルーゲル法により形成された下地膜であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の複合硬質膜。
(5) 工具基体表面に、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のチタン酸化物下地膜が被覆され、該チタン酸化物下地膜の表面に、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の酸化アルミニウム膜が被覆されていることを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の複合硬質膜は、基体の種類に制約されることなく、あらゆる種類の基体上に形成することができ、また、大規模な成膜装置を必要とせず、成膜に際しての反応ガスの取り扱い、歩留まり等に対して特段の注意を必要とせず、低温で成膜できることからCVD、PVD法のような高温作業を必要とせず、また、ゾル−ゲル法という湿式成膜であるため、表面平滑性にすぐれた複合硬質膜を得ることができる。
本発明で使用することができる基体の具体例としては、例えば、ガラス、ステンレス鋼、Ti合金、超硬合金、サーメット等を挙げることができる。
本発明で使用することができる基体の具体例としては、例えば、ガラス、ステンレス鋼、Ti合金、超硬合金、サーメット等を挙げることができる。
本発明の複合硬質膜は、基体上に、予めチタン酸化物下地膜を形成し、この上に、酸化アルミニウム膜をゾルーゲル法により形成することによって、複合硬質膜を形成する。
チタン酸化物としては、Ti2O3やTiO2、Ti3O5、Ti4O7などのチタン酸化物(以下、「Ti酸化物」とも記す。)を用いることができるが、Ti2O3を用いることが好ましい。
チタン酸化物としては、Ti2O3やTiO2、Ti3O5、Ti4O7などのチタン酸化物(以下、「Ti酸化物」とも記す。)を用いることができるが、Ti2O3を用いることが好ましい。
チタン酸化物下地膜は、基体上に、CVD、PVD等の通常の成膜手段によって形成することができるが、ゾルーゲル法によって形成することもできる。
ゾルーゲル法によって、チタン酸化物下地膜を形成する手順は、例えば、次のとおりである。
チタンのアルコキシド(例えば、チタンイソプロポキシド)に溶媒としてアルコール(例えば、エタノール、1−ブタノール)や水を添加し、必要に応じ、例えばアセチルアセトン(AcAc)、アセト酢酸エチル(EAcAc)、ジピバロイルメタンなどのキレート化剤を添加し、チタニアゾルを調製する。そして、前記チタニアゾルをスピンコート法やディップコート法などにより塗布し、所定の温度で乾燥処理した後、所定の膜厚となるまで塗布と乾燥を繰り返したのち、1時間の焼成工程を経て、成膜対象基体上にチタン酸化物下地膜を形成する。
ゾルーゲル法によって、チタン酸化物下地膜を形成する手順は、例えば、次のとおりである。
チタンのアルコキシド(例えば、チタンイソプロポキシド)に溶媒としてアルコール(例えば、エタノール、1−ブタノール)や水を添加し、必要に応じ、例えばアセチルアセトン(AcAc)、アセト酢酸エチル(EAcAc)、ジピバロイルメタンなどのキレート化剤を添加し、チタニアゾルを調製する。そして、前記チタニアゾルをスピンコート法やディップコート法などにより塗布し、所定の温度で乾燥処理した後、所定の膜厚となるまで塗布と乾燥を繰り返したのち、1時間の焼成工程を経て、成膜対象基体上にチタン酸化物下地膜を形成する。
本発明の複合硬質膜は、前記で形成したチタン酸化物下地膜の上に、ゾル−ゲル法により酸化アルミニウム膜を形成する。
酸化アルミニウムの結晶形態にはα、κ、γ、δ、θがあり、ゾルーゲル法を用いて酸化アルミニウム膜を形成した場合、γ型の結晶構造を有する結晶粒から構成される酸化アルミニウム膜が主に形成される。
しかし、γ型酸化アルミニウムは高い潤滑性を有するものの、硬さ、耐摩耗性が十分でないことから、α型酸化アルミニウムとγ型酸化アルミニウムの混相とすることによって、硬さ、耐摩耗性と潤滑性を兼ね備えた複合硬質膜を形成することができる。
また、α型酸化アルミニウム単相とすることによって、より硬さ、耐摩耗性にすぐれた複合硬質膜を得ることができる。
酸化アルミニウムの結晶形態にはα、κ、γ、δ、θがあり、ゾルーゲル法を用いて酸化アルミニウム膜を形成した場合、γ型の結晶構造を有する結晶粒から構成される酸化アルミニウム膜が主に形成される。
しかし、γ型酸化アルミニウムは高い潤滑性を有するものの、硬さ、耐摩耗性が十分でないことから、α型酸化アルミニウムとγ型酸化アルミニウムの混相とすることによって、硬さ、耐摩耗性と潤滑性を兼ね備えた複合硬質膜を形成することができる。
また、α型酸化アルミニウム単相とすることによって、より硬さ、耐摩耗性にすぐれた複合硬質膜を得ることができる。
本発明の複合硬質膜は、酸化アルミニウム膜中に、微粒(平均粒径5〜20nm)のチタン酸化物を微量(Alとの合量に占める割合で、2〜20原子%)含有することによって、酸化アルミニウム膜の硬さ、耐摩耗性を維持したまま潤滑性を高めることができる。
酸化アルミニウム膜に含有されるチタン酸化物の平均粒径が5nm未満である場合、あるいは、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が2原子%未満の場合には、チタン酸化物含有による潤滑性向上効果は期待できず、一方、チタン酸化物の平均粒径が20nmを超える場合、あるいは、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が20原子%を超える場合には、チタン酸化物が酸化アルミニウム膜から脱落し易くなり、摺動部材として適さなくなることから、酸化アルミニウム膜に含有されるチタン酸化物の平均粒径は5〜20nmであること、また、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が2〜20原子%であることが望ましい。
酸化アルミニウム膜に含有されるチタン酸化物の平均粒径が5nm未満である場合、あるいは、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が2原子%未満の場合には、チタン酸化物含有による潤滑性向上効果は期待できず、一方、チタン酸化物の平均粒径が20nmを超える場合、あるいは、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が20原子%を超える場合には、チタン酸化物が酸化アルミニウム膜から脱落し易くなり、摺動部材として適さなくなることから、酸化アルミニウム膜に含有されるチタン酸化物の平均粒径は5〜20nmであること、また、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合が2〜20原子%であることが望ましい。
チタン酸化物については、チタン酸化物を含有する酸化アルミニウム膜を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによってその結晶粒の大きさを測定することができる。
本発明でいうチタン酸化物の平均粒径とは、エネルギー分散型X線分光法装置を付属した透過型電子顕微鏡を用い、酸化アルミニウム膜の縦断面を10万倍の観察視野範囲0.2×0.3μmで5視野に対して元素マッピング分析し、Ti酸化物微粒子の数の平均値を求めると共に、その結果を平面と仮定して、酸化アルミニウム膜に分散含有される該微細Ti酸化物粒の面積を円の面積として算出した場合の近似円の直径を5点測定し、その平均値と定義される。
また、酸化アルミニウム膜中におけるチタン酸化物の含有割合は、例えば、酸化アルミニウム膜の縦断面視野領域0.2μm×0.3μmの範囲でTEMに付属されたエネルギー分散形X線分析装置による観察視野範囲内の定量分析を5視野実施し、その平均値を求めることによって、酸化アルミニウム膜におけるアルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合を求めることができる。
本発明でいうチタン酸化物の平均粒径とは、エネルギー分散型X線分光法装置を付属した透過型電子顕微鏡を用い、酸化アルミニウム膜の縦断面を10万倍の観察視野範囲0.2×0.3μmで5視野に対して元素マッピング分析し、Ti酸化物微粒子の数の平均値を求めると共に、その結果を平面と仮定して、酸化アルミニウム膜に分散含有される該微細Ti酸化物粒の面積を円の面積として算出した場合の近似円の直径を5点測定し、その平均値と定義される。
また、酸化アルミニウム膜中におけるチタン酸化物の含有割合は、例えば、酸化アルミニウム膜の縦断面視野領域0.2μm×0.3μmの範囲でTEMに付属されたエネルギー分散形X線分析装置による観察視野範囲内の定量分析を5視野実施し、その平均値を求めることによって、酸化アルミニウム膜におけるアルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合を求めることができる。
ゾル−ゲル法による酸化アルミニウム膜は、例えば、以下の手順によって形成することができる。
まず、アルミナゾルの調製を行う。
アルミニウムのアルコキシド(例えば、アルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)、アルミニウムイソプロポキシド)に溶媒としてアルコール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール)、必要に応じて水や界面活性剤を添加し、さらに、キレート化剤(例えば、アセチルアセトン(AcAc)、アセト酢酸エチル(EAcAc)、トリエタノールアミン(TEA))を添加した後、例えば100〜200℃に設定したオイルバス等に浸し、撹拌する。
アルミニウムのアルコキシド(例えば、アルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)、アルミニウムイソプロポキシド)に溶媒としてアルコール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール)、必要に応じて水や界面活性剤を添加し、さらに、キレート化剤(例えば、アセチルアセトン(AcAc)、アセト酢酸エチル(EAcAc)、トリエタノールアミン(TEA))を添加した後、例えば100〜200℃に設定したオイルバス等に浸し、撹拌する。
ここで、β‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤は、非常に強いキレート能を有しており、ゾル中のAl元素と安定な錯体を作りやすく、ゾル中ではもちろん、乾燥工程や焼成工程中においても、比較的高温までアルミニウム原子を封鎖するため、縮重合反応が進行しにくく、O−Al−Oの結合を徐々に形成させることができる。このため、下部のTi酸化物下地膜が結晶化の最初の起点となりやすく、所定の温度に達すると一斉にα型酸化アルミニウム膜がTi酸化物下地膜を起点として変態し、該複合硬質膜の表面方向に成長したナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上と高く、耐摩耗性に優れた緻密な疑似柱状組織を形成することができる。一方、上記キレート化剤を使用しない、縮重合反応が促進されやすい状態においては、縮重合反応が乾燥工程や焼成工程においてはもちろん、ゾル中でも過度に進むため、O−Al−Oの結合が多数生じ、結果として特にゾル中においては比較的大きなコロイド粒子が形成しやすく、該コロイド粒子が焼成時に優先的に結晶化が開始する起点となるため、Ti酸化物下地膜からの結晶化は起きにくく、焼成工程中に比較的低温下で膜中での局所的な結晶化が起きてしまい、ポアが形成されやすい耐摩耗性に乏しい粒状の組織となりやすい。
キレート化剤はAl原子と安定な錯体を形成するキレート化剤が望ましく、一般的にエチドロン酸などのホスホン酸類キレート化剤やグルコン酸などのアルドン酸類キレート化剤、シュウ酸、マロン酸などのジカルボン酸類が知られるが、特にβ‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤が望ましい。β‐ジケトン類は、例えば、アセチルアセトンや3−メチル−2,4 −ペンタンジオン、3−イソプロピル−2,4 −ペンタンジオン、2,2 −ジメチル−3,5 −ヘキサンジオンなどが挙げられ、β−ケトエステル類は、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルが挙げられる。また、アルカノールアミン類のキレート化剤は、例えば、エチレンジアミン(EDA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)を挙げることができるが、キレート能が強いトリエタノールアミン(TEA)を用いることが望ましい。
キレート化剤はAl原子と安定な錯体を形成するキレート化剤が望ましく、一般的にエチドロン酸などのホスホン酸類キレート化剤やグルコン酸などのアルドン酸類キレート化剤、シュウ酸、マロン酸などのジカルボン酸類が知られるが、特にβ‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤が望ましい。β‐ジケトン類は、例えば、アセチルアセトンや3−メチル−2,4 −ペンタンジオン、3−イソプロピル−2,4 −ペンタンジオン、2,2 −ジメチル−3,5 −ヘキサンジオンなどが挙げられ、β−ケトエステル類は、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルが挙げられる。また、アルカノールアミン類のキレート化剤は、例えば、エチレンジアミン(EDA)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)を挙げることができるが、キレート能が強いトリエタノールアミン(TEA)を用いることが望ましい。
本発明に使用するアルミナゾルは、上記に挙げたキレート化剤とAl元素の錯体形成を十分に促進させるために、一般的な有機合成で使用されるようなオイルバス等による加熱処理を用いることが望ましく、ゾルの成分にもよるが100〜200℃の温度で加熱処理を行うことが望ましい。
本発明においては、焼成温度はもちろん、キレート化剤種によっても硬さを制御することが可能であるが、一般的な保護膜として使用される耐摩耗性を備えるにはナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上ないと、短時間の使用で磨滅してしまい、保護膜としての効果が発揮されない。
酸化アルミニウム膜の平均膜厚が0.5μm未満であると、一般的な保護膜として使用される、特に耐摩耗性が要求される分野においてはすぐに磨滅してしまうため、保護膜としての効果が小さく、5.0μmより大きいと焼成時にガスとして発生する酸化アルミニウム膜中に含有される有機分等が、酸化アルミニウム膜中でポアやクラックを形成しやすくなるため、剥離などを引き起こしやすい。また、下地のチタン酸化物下地膜は酸化アルミニウム膜のα化を誘起させる効果があるため、0.2μmより薄いと酸化アルミニウム膜が十分α化せず、2.0μmより厚いと脆弱層となりやすいとともに、微粒チタン酸化物が酸化アルミニウム膜中に含有されるようになる1000℃以上の焼成温度では、非常に多くの微粒チタン酸化物が混入されやすくなるため、酸化アルミニウムの特性を落とすこととなる。
上記の方法で調製したアルミナゾルに、以下に示すような方法で、チタン酸化物下地膜を形成した基材を浸漬し、チタン酸化物下地膜表面にアルミナゾルを所定膜厚になるまで塗布し、これを所定温度条件で乾燥し、さらに所定条件で焼成することによって、本発明の複合硬質膜を作製することができる。
まず、上記の方法で調製したアルミナゾルに、チタン酸化物下地膜を形成した基材を浸漬し、これを、引き上げ速度:200μm/secで引き上げ、膜厚目安:0.2μm/浸漬にて、所定の膜厚になるまで浸漬・引き上げを繰り返し、例えば、浸漬回数20回で、4μmの膜厚の酸化アルミニウムゾルを、チタン酸化物下地膜の表面に、被覆する。
まず、上記の方法で調製したアルミナゾルに、チタン酸化物下地膜を形成した基材を浸漬し、これを、引き上げ速度:200μm/secで引き上げ、膜厚目安:0.2μm/浸漬にて、所定の膜厚になるまで浸漬・引き上げを繰り返し、例えば、浸漬回数20回で、4μmの膜厚の酸化アルミニウムゾルを、チタン酸化物下地膜の表面に、被覆する。
次いで、チタン酸化物下地膜表面に、所定膜厚の酸化アルミニウムゾルを被覆した上記基材を、例えば、100〜600℃で10分乾燥処理を施して酸化アルミニウムゾルのゲル化を促し、次いで、窒素フロー雰囲気中にて、900〜1100℃の温度範囲で約1時間焼成処理を行うことによって、α型またはα型とγ型の混相からなる酸化アルミニウム膜を形成し、本発明の複合硬質膜を作製することができる。
上記乾燥処理の温度を100℃〜600℃としているのは、有機溶媒や界面活性剤などの熱分解を生じさせるために必要な下限乾燥条件が、100℃×10分程度であること、また、ゲルの急激な体積収縮によるクラック・剥離等の発生を防止するための上限乾燥条件が、600℃×10分程度であることから、上記のような乾燥条件で乾燥を行った。
また、焼成温度が900℃未満では、α型酸化アルミニウムの結晶粒の生成速度がおそく、非晶質やγ型酸化アルミニウムが生成されたりするため硬さが十分でなく、焼成温度が1000℃以上になると、α型酸化アルミニウムの結晶粒の生成が始まり硬さが増加し、焼成温度が1100℃以下であれば、所定の硬さ(ナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上)、耐摩耗性、耐熱性、化学安定性を備える複合硬質膜を作製することができることから、焼成条件を、窒素フロー雰囲気中にて、900〜1100℃の温度範囲で約1時間とした。
なお、チタン酸化物下地膜の上に酸化アルミニウム膜を形成することから、1000℃以上の温度で酸化アルミニウム膜を焼成した場合には、チタン酸化物下地膜からチタン酸化物が酸化アルミニウム膜中に混入するようになるが、混入したチタン酸化物の平均粒径、平均含有割合が、それぞれ、5〜20nm、2〜20原子%である場合には、硬さの低下はなく摺動性が向上するため、摺動部材としてすぐれた耐摩耗性、摺動性を発揮する複合硬質膜となる。
また、ゾルーゲル法によって、チタン酸化物下地膜を形成した場合には、酸化アルミニウム膜との界面の化学結合が促進されることから、界面の密着性が向上するとともに、該チタン酸化物下地膜はPVD法やCVD法と比較して平滑に形成されるため、該チタン酸化物下地膜の上層に酸化アルミニウム膜を形成させた本発明の複合硬質膜の表面平滑性も向上し、より一段と摺動性が向上する。
摺動性を発揮するための望ましい表面粗さRaは、0.15μm以下であり、これより大きいと摺動部材や切削工具等に被覆した場合に、複合硬質膜表面に不均一な応力が付加されるため、剥離や異常摩耗が発生しやすくなる。
また、焼成温度が900℃未満では、α型酸化アルミニウムの結晶粒の生成速度がおそく、非晶質やγ型酸化アルミニウムが生成されたりするため硬さが十分でなく、焼成温度が1000℃以上になると、α型酸化アルミニウムの結晶粒の生成が始まり硬さが増加し、焼成温度が1100℃以下であれば、所定の硬さ(ナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上)、耐摩耗性、耐熱性、化学安定性を備える複合硬質膜を作製することができることから、焼成条件を、窒素フロー雰囲気中にて、900〜1100℃の温度範囲で約1時間とした。
なお、チタン酸化物下地膜の上に酸化アルミニウム膜を形成することから、1000℃以上の温度で酸化アルミニウム膜を焼成した場合には、チタン酸化物下地膜からチタン酸化物が酸化アルミニウム膜中に混入するようになるが、混入したチタン酸化物の平均粒径、平均含有割合が、それぞれ、5〜20nm、2〜20原子%である場合には、硬さの低下はなく摺動性が向上するため、摺動部材としてすぐれた耐摩耗性、摺動性を発揮する複合硬質膜となる。
また、ゾルーゲル法によって、チタン酸化物下地膜を形成した場合には、酸化アルミニウム膜との界面の化学結合が促進されることから、界面の密着性が向上するとともに、該チタン酸化物下地膜はPVD法やCVD法と比較して平滑に形成されるため、該チタン酸化物下地膜の上層に酸化アルミニウム膜を形成させた本発明の複合硬質膜の表面平滑性も向上し、より一段と摺動性が向上する。
摺動性を発揮するための望ましい表面粗さRaは、0.15μm以下であり、これより大きいと摺動部材や切削工具等に被覆した場合に、複合硬質膜表面に不均一な応力が付加されるため、剥離や異常摩耗が発生しやすくなる。
本発明の複合硬質膜は、基体表面に形成したチタン酸化物下地膜の上に、ゾル−ゲル法によってα型またはα型とγ型の混相からなる酸化アルミニウム膜が成膜された複合硬質膜であって、ナノインデンテーション法による硬度(H)が15GPa以上を超える高硬度を備えるため、耐摩耗性、耐熱性、化学安定性にすぐれ、また、複合硬質膜中に所定粒径、所定含有割合の微粒チタン酸化物を含有する場合には、硬さを維持したまま潤滑性が向上し、さらに、酸化アルミニウム膜がゾルーゲル法により成膜されているためすぐれた表面平滑性を有し、特に、チタン酸化物下地膜をゾルーゲル法により基体上に形成した場合には、さらに、一段と潤滑性、表面平滑性が向上することから、本発明の複合硬質膜を、耐摩耗部材、摺動部材の硬質膜として用いた場合には、すぐれた耐摩耗性、摺動特性を発揮することができる。
つぎに、本発明を実施例により具体的に説明する。
ここでは、本発明の複合硬質膜を、WC基超硬合金製切削工具の硬質被覆層として適用した場合について説明する。
ここでは、本発明の複合硬質膜を、WC基超硬合金製切削工具の硬質被覆層として適用した場合について説明する。
(a)まず、基体材料として、いずれも、平均粒径1〜3μmのTiCN粉末:4.4質量、ZrC粉末:0.3質量%、NbC粉末4.2質量%、Cr3C2粉末0.8%およびCo粉末:8.4質量%残部WC粉末からなる配合組成の原料粉末を焼結してWC基超硬合金焼結体を作製し、次いで、切刃部にR:0.05mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金焼結体からなる基体を製造した。
(b)次いで、上記基体に対して、表1に示す条件のゾルーゲル法でチタン酸化物下地膜(以下、単に「下地膜」という)1〜8を形成し、また、表2に示す熱CVD法で下地膜9〜11を形成し、さらに、表3に示すRFマグネトロンスパッタリング法で下地膜12〜14を形成した。なお、熱CVD法によるチタン酸化物下地膜は表2に示す成膜条件にてTiNを0.5μm成膜したのちに形成させた。
(c)次いで、酸化アルミニウム膜をゾル−ゲル法で下地膜の上に形成するためのアルミナゾルの調製を、次のように行った。
表4に示す所定量のアルミニウムのアルコキシドであるアルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)に、同じく表4に示す所定量の有機溶媒及びキレート化剤を添加してアルミナゾルを調製した。
最終的な溶液組成は、モル比で、
(アルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)):(各種有機溶媒):(各種キレート化剤)
=1:(5〜15):(0.5〜2.0)
になるように調整を行った。
また、十分にキレート化が進むよう表4に示す条件にてオイルバスによる加熱処理を行い、均一ゾル溶液とした。
表4に示す所定量のアルミニウムのアルコキシドであるアルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)に、同じく表4に示す所定量の有機溶媒及びキレート化剤を添加してアルミナゾルを調製した。
最終的な溶液組成は、モル比で、
(アルミニウムセカンダリブトキシド(ASB)):(各種有機溶媒):(各種キレート化剤)
=1:(5〜15):(0.5〜2.0)
になるように調整を行った。
また、十分にキレート化が進むよう表4に示す条件にてオイルバスによる加熱処理を行い、均一ゾル溶液とした。
(d)次いで、下地膜1〜14の形成された基体を、前記アルミナゾル中へ浸漬し、また、引き上げ速度200μm/secで引き上げ、目標膜厚に応じて、浸漬−引き上げを繰り返すことにより、アルミナゾルを塗布した。
なお、狙い膜厚は、0.2μm/浸漬である。
なお、狙い膜厚は、0.2μm/浸漬である。
(e)前記塗布したアルミナゾルは、表5に示す所定条件の乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥を繰り返した後、同じく表5に示す条件で焼成処理を行った。また、前記記載のとおり、チタン酸化物を酸化アルミニウム膜中に含有させるためにはチタン酸化物下地膜上に成膜している試料を1000℃以上で焼成処理する。このような工程で、下地膜と酸化アルミニウム膜からなる表6に示す本発明の複合硬質膜(以下、「本発明膜」という)1〜14を作製し、また、本発明膜1〜14を硬質被覆層として備える表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「本発明工具」という)1〜14を作製した。
比較のため、以下の製造方法で比較例の複合硬質膜(以下、「比較例膜」という)1〜14を作製するとともに、比較例膜1〜14を硬質被覆層として備える表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「比較例工具」という)1〜14を作製した。
即ち、前記(a)で作製した基体に対して、前記(b)の工程で表1に示す条件で下地膜1〜6を形成し、また、表2に示す条件で下地膜9〜11を形成し、さらに、表3に示す条件で下地膜12〜14を形成した。
次いで、下地膜1〜6,9〜14を形成した基体及び下地膜の形成を行わなかった基体に対して、前記(c)の工程で、表7に示す条件(表4に示す本発明の条件とは異なる条件)でアルミナゾルを調製し、加熱処理したのち、前記(d)の工程と同じ条件でアルミナゾル中へ浸漬−引き上げを繰り返して、目標膜厚のアルミナゾルを塗布し、前記(e)の工程で表8に示す条件(表5に示す本発明の条件とは異なる条件)で乾燥処理および焼成処理を行うことにより、下地膜と酸化アルミニウム膜からなる表9に示す比較例の複合硬質膜(以下、「比較例膜」という)1〜14を作製し、また、比較例膜1〜14を硬質被覆層として備える表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「比較例工具」という)1〜14を作製した。
なお、比較例膜7,8については、下地膜を形成していないので、正しくは、酸化アルミニウム膜のみの硬質膜であるが、便宜上、比較例膜7,8についても複合硬質膜と呼ぶことにする。
次いで、下地膜1〜6,9〜14を形成した基体及び下地膜の形成を行わなかった基体に対して、前記(c)の工程で、表7に示す条件(表4に示す本発明の条件とは異なる条件)でアルミナゾルを調製し、加熱処理したのち、前記(d)の工程と同じ条件でアルミナゾル中へ浸漬−引き上げを繰り返して、目標膜厚のアルミナゾルを塗布し、前記(e)の工程で表8に示す条件(表5に示す本発明の条件とは異なる条件)で乾燥処理および焼成処理を行うことにより、下地膜と酸化アルミニウム膜からなる表9に示す比較例の複合硬質膜(以下、「比較例膜」という)1〜14を作製し、また、比較例膜1〜14を硬質被覆層として備える表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、「比較例工具」という)1〜14を作製した。
なお、比較例膜7,8については、下地膜を形成していないので、正しくは、酸化アルミニウム膜のみの硬質膜であるが、便宜上、比較例膜7,8についても複合硬質膜と呼ぶことにする。
前記本発明膜1〜14及び比較例膜1〜14について、ナノインデンテーション硬さ(H)を測定した。
具体的な測定法は、次のとおりである。
まず、圧子としてバーコビッチ圧子を用い、基材の影響がないよう前記複合硬質膜の膜厚の約1/10以下の深さになるように荷重100mgで押し込み、最大押し込み深さhmaxを測定し、前記荷重からナノインデンテーション硬さを算出した。
具体的な測定法は、次のとおりである。
まず、圧子としてバーコビッチ圧子を用い、基材の影響がないよう前記複合硬質膜の膜厚の約1/10以下の深さになるように荷重100mgで押し込み、最大押し込み深さhmaxを測定し、前記荷重からナノインデンテーション硬さを算出した。
また、本発明膜1〜14及び比較例膜1〜14について、酸化アルミニウム膜におけるチタン酸化物の平均粒径及びアルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合を求めた。
具体的な測定法は、次のとおりである。
本発明膜1〜14及び比較例膜1〜14について、エネルギー分散型X線分光法装置を付属した透過型電子顕微鏡を用い、酸化アルミニウム膜の縦断面を10万倍の観察視野範囲0.2×0.3μmで5視野に対して元素マッピング分析し、チタン酸化物微粒子の数の平均値を求めると共に、その結果を平面と仮定して、酸化アルミニウム膜に分散含有される該微粒チタン酸化物粒の面積を円の面積として算出した場合の近似円の直径を5点測定し、その平均値を該微粒Ti酸化物粒の平均粒径とした。
また、酸化アルミニウム膜中の全金属元素に占めるチタンの含有割合を縦断面視野領域0.2μm×0.3μmの範囲でTEMに付属されたエネルギー分散形X線分析装置による観察視野範囲内の定量面分析を5視野実施し、その平均値を求めることにより測定した。
具体的な測定法は、次のとおりである。
本発明膜1〜14及び比較例膜1〜14について、エネルギー分散型X線分光法装置を付属した透過型電子顕微鏡を用い、酸化アルミニウム膜の縦断面を10万倍の観察視野範囲0.2×0.3μmで5視野に対して元素マッピング分析し、チタン酸化物微粒子の数の平均値を求めると共に、その結果を平面と仮定して、酸化アルミニウム膜に分散含有される該微粒チタン酸化物粒の面積を円の面積として算出した場合の近似円の直径を5点測定し、その平均値を該微粒Ti酸化物粒の平均粒径とした。
また、酸化アルミニウム膜中の全金属元素に占めるチタンの含有割合を縦断面視野領域0.2μm×0.3μmの範囲でTEMに付属されたエネルギー分散形X線分析装置による観察視野範囲内の定量面分析を5視野実施し、その平均値を求めることにより測定した。
また、酸化アルミニウム膜の表面粗さRaはレーザー顕微鏡を用いて10μm×10μmの範囲で測定し、それを各測定箇所で10点ずつ測定してその平均を算出した。
さらに、チタン酸化物膜と酸化アルミニウム膜の平均膜厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標膜厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表6、9に、測定結果を示す。
さらに、チタン酸化物膜と酸化アルミニウム膜の平均膜厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標膜厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表6、9に、測定結果を示す。
つぎに、本発明工具1〜14および比較例工具1〜14について、以下に示す高速連続切削試験を行い、切削試験結果の良否から、本発明膜1〜14及び比較例膜1〜14の硬度、耐摩耗性、潤滑性を評価した。
切削条件:
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度:320m/min、
切り込み:1.3mm、
送り:0.04mm/rev、
切削時間:1.5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
上記切削試験後の切刃の逃げ面摩耗幅を測定するとともに、摩耗の状態を観察し、その結果を表10に示す。
切削条件:
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度:320m/min、
切り込み:1.3mm、
送り:0.04mm/rev、
切削時間:1.5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
上記切削試験後の切刃の逃げ面摩耗幅を測定するとともに、摩耗の状態を観察し、その結果を表10に示す。
表6、9、10に示される結果から、本発明の複合硬質膜1〜14は、酸化アルミニウム膜が、α型またはα型とγ型の混相である酸化アルミニウム膜として構成され、ナノインデンテーション硬さが高いため、切削工具用の硬質膜として適用した場合に、すぐれた耐摩耗性を示す。また、酸化アルミニウム膜中に存在するチタン酸化物によって、すぐれた潤滑性を発揮し、さらに、表面平滑性と潤滑性が相まって、溶着の発生、欠損の発生もなく、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する。
これに対して、比較例の複合硬質膜1〜14は、ナノインデンテーション硬さが十分でないため、切削工具用の硬質膜として適用した場合に、十分な耐摩耗性を発揮することはできない。さらに、表面平滑性、潤滑性も十分でないため、溶着、欠損の発生により工具寿命が短いことは明らかである。
本発明の複合硬質膜は、チタン酸化物膜からなる下地膜とゾル−ゲル法によって形成した酸化アルミニウム膜とから構成され、すぐれた硬さ、耐摩耗性、耐熱性、化学安定性、潤滑性及び表面平滑性を備えることから、切削工具用の硬質膜のみならず、耐摩耗部材、摺動部材等の硬質膜として、幅広い分野に用いられることが期待できる。
Claims (5)
- 平均膜厚が0.5〜5.0μmであるα型またはα型とγ型の混相である酸化アルミニウム膜と、該酸化アルミニウム膜の直下に形成された平均膜厚が0.2〜2.0μmであるチタン酸化物下地膜とからなり、該酸化アルミニウム膜は、ゾルーゲル法により形成され、ナノインデンテーション法で測定した硬度(H)が15GPa以上であることを特徴とする複合硬質膜。
- 前記酸化アルミニウム膜は、β‐ジケトン類、β−ケトエステル類、アルカノールアミン類のキレート化剤のうち、少なくともどれか一つを含有するアルミナゾルを使用したゾルーゲル法により形成された酸化アルミニウム膜であることを特徴とする請求項1に記載の複合硬質膜。
- 前記酸化アルミニウム膜中には、5〜20nmの平均粒径を有する微粒チタン酸化物が、アルミニウムとの合量に占めるチタンの平均含有割合で2〜20原子%含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合硬質膜。
- 前記酸化アルミニウム膜の直下に形成されたチタン酸化物下地膜は、ゾルーゲル法により形成された下地膜であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合硬質膜。
- 工具基体表面に、請求項1乃至4のいずれか一つに記載のチタン酸化物下地膜が被覆され、該チタン酸化物下地膜の表面に、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の酸化アルミニウム膜が被覆されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
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