JPH0533804A - オーステナイト系ステンレス鋼製ドリルネジの製造方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】オーステナイト系ステンレス鋼の素材の冷間加
工硬化性の良さを充分に活かし、鉄板材にも穿孔・タッ
ピングできる充分な硬化をもち、粒界腐食や他の腐食に
よる弊害等も生じない、オーステナイト系ステンレス鋼
製のドリルネジの製造方法を提供する。 【構成】オーステナイト系ステンレス鋼の素材から、冷
間加工にてドリルネジを製造するもので、上記素材をヘ
ッダー加工にて頭部１と軸部２を成形し、上記軸部２の
先部を、切刃９と受け面１０が対向するダイス面８をも
つ一対のポインターダイス７による圧造にて、最先端ま
で切刃５のあるポイント部４付きのドリル部３に成形
し、上記軸部２をローリングダイスによるネジ加工にて
ネジ部６に成形した後、全表面をパッシベート処理し、
その後に時効処理を行う。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、オーステナイト系ステ
ンレス鋼製のドリルネジの製造方法に関するものであ
り、特に建築構造物の屋根材や側壁材、あるいは化学プ
ラント等の如く高強度・高耐食性が必要とされる主とし
て鉄板材を締結用のドリルネジを、オーステナイト系ス
テンレス鋼で製造する方法に係るものである。

【０００２】

【従来の技術】ドリルネジは、ネジの先部に下穴穿設用
のドリル部を一体成形してなるネジである。このドリル
ネジの素材として、近時はオーステナイト系ステンレス
鋼を用いたものが多く提案されている（例えば実開昭６
０−７５４６１号公報、実開昭６２−４０３２０号公報
・特開昭平２−１４２９１１号公報参照）。

【０００３】これは、オーステナイト系ステンレス鋼が
もつ特性の一つである耐食性の良さに着目し、従来のカ
ーボン鋼製のドリルネジでは達成不可能な耐用年数の増
大を狙ったものである。しかし、オーステナイト系ステ
ンレス鋼は一般に、冷間加工性がカーボン鋼より劣るた
め、銅を添加して冷間加工硬化性を低く押さえた鋼種
（例えばＪＩＳ ＳＵＳ−ＸＭ７）によりドリルネジが
製造されている。

【０００４】ところが、この鋼種のオーステナイト系ス
テンレス鋼は、強度の冷間加工を施してもビッカース硬
度（Ｈｖ）が３００〜４００程度でしかない。そのため
このドリルネジは、アルミ材用のドリルネジとしては使
用可能であっても、鉄板材用のドリルネジとしては硬度
不足で、使用不可能である。そこで何らかの硬化処理を
必要とするが、オーステナイト系ステンレス鋼は焼入れ
硬化性を有さぬので、焼入れ以外の硬化処理方法で硬度
を上げる必要がある。オーステナイト系ステンレス鋼の
加工処理として、従来は次のような手段がとられてい
る。

【０００５】ａ ドリルネジの頭部とネジ部の一部をオ
ーステナイト系ステンレス鋼で、またドリル部とネジ部
の一部を浸炭焼入れしたカーボン鋼で構成するものと
し、そのネジ用部とドリル用部を溶接で接合した後に、
ドリル部やネジ部を形成するもの（例えば特開昭平２−
１４２９１１号公報参照）。

【０００６】ｂ オーステナイト系ステンレス鋼製のド
リルネジの全体またはドリル部とネジ部の一部に、浸炭
・窒化硬化処理を行って硬化層を形成するもの（例えば
実開昭６２−４０３２０号公報参照）。

【０００７】ｃ オーステナイト系ステンレス鋼製のド
リルネジの全体、またはドリル部とネジ部の一部に、Ｐ
ＶＤ（Ｐｈｙｓｉｃａｌ Ｖａｐｏｒ Ｄｉｐｏｓｉｔ
ｉｏｎ）法またはその類似法により、窒化チタン等の硬
い皮膜をコーティングするもの、あるいは無電解メッキ
によりニッケル燐合金の硬質皮膜を形成するもの（例え
ば上記実開昭６０−７５４６１号公報参照）。

【０００８】ｄ ネジの頭部とネジ部を硬質のオーステ
ナイト系ステンレス鋼で、またドリル部を浸炭硬化処理
したカーボン鋼で形成しておき、両者を圧着して接合す
るもの（例えば上記特開昭平２−１４２９１１号公報参
照）、等がそれである。

【０００９】

【発明が解決しようとする課題】従来は上記の如く、オ
ーステナイト系ステンレス鋼製のドリルネジの製造に、
浸炭・窒化処理等の硬化処理を施すことは不可欠で、こ
れらの硬化処理無しに穿孔・タッピングに充分な硬度を
与えることは不可能視されてきた。ところが、上記従来
のオーステナイト系ステンレス鋼製ドリルネジの硬化処
理手段には、次のような問題点がある。

【００１０】上記ａのオーステナイト系ステンレス鋼製
のネジ用部に、浸炭焼入れしたカーボン鋼製のドリル用
部を溶接で接合するものは、その接合の後にドリル部や
ネジ部を形成し、後で浸炭焼入れを施している。そのた
め、オーステナイト系ステンレス鋼が熱処理時に最も影
響を受ける粒界腐食の問題が不可避である。また冷間加
工で硬化されたオーステナイト系ステンレス鋼製のネジ
用部が、上記浸炭焼入れ時に軟化されてしまい、引っ張
り強度の低下を招いている。

【００１１】上記ｂのオーステナイト系ステンレス鋼製
のドリルネジの全体または一部に、浸炭・窒化硬化処理
で硬化層を形成するものは、上記ａの場合と同様に浸炭
・窒化処理の温度によっては粒界腐食の問題が生じる。
また、浸炭・窒化された硬化層は酸化され易いので、赤
錆が生じ被工作物を酸化させるおそれがある。さらに硬
化層が薄いと穿孔・タッピング性能が低下するし、厚い
と硬化層が剥離することがある。

【００１２】上記ｃのドリルネジの全体または一分に、
ＰＶＤ法またはその類似法にて窒化チタン等の皮膜をコ
ーティングするものは、上記ｃと同様に、粒界腐食の問
題が生じるし、硬化皮膜が酸化され易く赤錆が生じて被
工作物を酸化させ、また硬化層が薄いと穿孔・タッピン
グ性能が低下し、厚いと硬化層が剥離する。また無電解
メッキでニッケル燐合金の硬質皮膜を形成するものも、
やはり硬質皮膜が剥離してしまい実用性に欠ける。

【００１３】上記ｄのオーステナイト系ステンレス鋼製
のネジ部に、浸炭焼入れしたカーボン鋼製のドリル部を
圧着で接合するものは、ネジ部が冷間加工硬化され充分
なタッピング能力を有するとともに耐食性も維持され、
またドリル部は充分な硬度を有する。しかし両者の接合
を圧着手段によっているため、生産性が低いし使用時に
ドリル部が脱落するおそれがある、等がそれである。

【００１４】本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼
製の一体物のドリルネジの製造方法に関し、上記従来の
問題点の解消を課題として研究した結果、生まれたもの
である。即ち本発明の目的は、オーステナイト系ステン
レス鋼の材料特性を充分に生かすことにより、冷間加工
硬化性の良さを充分に維持して生産性の向上とコストダ
ウンを図りながら、引っ張り強度を維持するとともに、
ネジ部やドリル部特に先端のポイント部に充分な硬化を
与えて、鉄板材にも穿孔・タッピング可能に硬度を高
め、かつ粒界腐食や他の腐食による弊害が生じないよう
な、オーステナイト系ステンレス鋼製のドリルネジの製
造方法を提供することにある。

【００１５】

【課題を解決するための手段】本発明に係るオーステナ
イト系ステンレス鋼製ドリルネジの製造方法は、オース
テナイト系ステンレス鋼の素材から、冷間加工にてドリ
ルネジを製造するものであって、オーステナイト系ステ
ンレス鋼の素材を、ヘッダー加工にて頭部１と軸部２を
成形し（図１参照）、上記素材の軸部２の先部を、各ダ
イス面８の切刃９が相手方の受け面１０と対向する一対
のポインターダイス（７）による圧造にて、最先端まで
切刃５のあるポイント部４付きのドリル部３に成形し
（図８・図２参照）、その後に上記軸部２を、ローリン
グダイスによるネジ加工にてネジ部６に成形し（図３参
照）、全表面をパッシベート処理し、最後に時効処理を
行うようにしたものである。上記構成において、時効処
理（析出硬化処理）の処理条件は、オーステナイト系ス
テンレス鋼が鋭敏化（粒界腐食）しない温度および時間
とする。

【００１６】

【作用】本発明のオーステナイト系ステンレス鋼製ドリ
ルネジの製造方法は、上記の如くオーステナイト系ステ
ンレス鋼の素材を、ヘッダー加工にて頭部１と軸部２を
成形して、その後に上記軸部２の先部を、切刃９と受け
面１０とが対向状となったダイス面８をもつ一対のポイ
ンターダイス７による圧造にて、最先端まで切刃５のあ
る尖頭状のポイント部４付きのドリル部３に成形し、そ
の後に上記軸部２をローリングダイスによるネジ加工に
てネジ部６に成形し、全表面のパッシベート処理をした
後に時効処理を施している。

【００１７】上記のように、本発明のドリルネジ製造方
法は、オーステナイト系ステンレス鋼の素材から、冷間
加工の圧造によりドリルネジを製造するため、冷間加工
率が高くなっている。即ち、例えばポイント部４の成形
において、オーステナイト系ステンレス鋼の素材は、一
方のポインターダイス７の切刃により他方のポインター
ダイス７の受け面１０に押し付けられ、圧造されること
でポイント部４が成形される。従来のようにポインター
ダイスの切刃同士が素材のファイバー（金属組織）の流
れを切断してポイント部を形成するのでない。それゆ
え、この製造方法は冷間加工率が高く、製造されたドリ
ルネジは大きな冷間加工硬化を受けてしており、特に先
端のポイント部４の硬度が非常に大きくなり、穿孔性能
が向上する。しかも最後に時効処理をも施しているの
で、内部の窒素その他の化合物が表面に析出して、この
点からも表面の硬度が一層増大している。

【００１８】また、このドリルネジ製造方法では浸炭・
窒化処理等の硬化処理を施す必要がないので、この製造
方法で製造されたドリルネジは、浸炭・窒化処理時の高
温による粒界腐食が生じず、耐食性も保持され、かつ引
っ張り強度も充分に維持されている。さらに、全体がオ
ーステナイト系ステンレス鋼を高硬度にした一体物のド
リルネジであるため、ドリルネジの使用時にドリル部の
脱落や硬化層の剥離等が生じない。なお、浸炭・窒化処
理等の硬化処理手段を設けなくてもよいから、製造工程
と製造設備が簡素化され、製造コストの低減も図れてい
る。

【００１９】

【実施例】本発明に係るドリルネジ製造方法の実施例と
して、ドリルネジの素材は１８Ｃｒ−１２Ｎｉオーステ
ナイト系ステンレス鋼で、冷間加工硬化性を一層高める
ため、それに少しの窒素を添加したものを用いる。その
代表的化学成分の一例を示すと、重量パーセントでＣが
０．０８、Ｓｉが０．８、Ｍｎが１．５、Ｎｉが１２、
Ｃｒが１８、Ｎが０．２２、その他若干量のＡｌ、Ｖ等
を含むものである。時効処理の処理条件は、上記の如く
オーステナイト系ステンレス鋼が鋭敏化しない温度×時
間であり、ここでは摂氏５００度で２時間とした。

【００２０】また本発明のドリルネジ製造方法の実施に
用いる金型としては、特にドリル部先端のポイント部で
加工硬化性を一層高めるため、同一形状で各ダイス面８
の切刃９が相手方の受け面１０と対向状となる一対のポ
インターダイス７を用いる。即ち図８で示す如く、各ポ
インターダイス７のダイス面８には、ドリル部３の各切
刃５側のねじれ角構成面１１の最先端近くに対応して、
切刃形成用の湾曲凹部１２を圧造可能な湾曲凸部１３を
設け、かつドリル部３の他側の各ねじれ角の逃げ角構成
面１４の最先端近くに対応して、補強用の湾曲凸部１５
を圧造可能な湾曲凹部１６を設けてある。

【００２１】本発明のドリルネジ製造方法により、上記
の金型を用いてドリルネジを製造すると、ドリルネジ先
端のポイント部４は、各ポインターダイス７の湾曲凸部
１３により、各切刃５側のねじれ角構成面１１の最先端
近くに、すくい角形成用の湾曲凹部１２が成形されるの
で、最先端まですくい角をもつ切刃５が成形される。同
時に上記ポインターダイス７の湾曲凹部１６により、上
記ポイント部４の各逃げ面１７を間にした他側の各ねじ
れ角の逃げ角構成面１４の最先端近くに、補強用の湾曲
凸部１５が成形されので、上記すくい角形成用の湾曲凹
部１２で減少した各ランド部の逃げ面１７の幅が拡大補
強される（図６参照）。

【００２２】上記の場合に特に先端のポイント部４は、
各ダイス面８の切刃９がオーステナイト系ステンレス鋼
の素材を相手方の受け面１０に押し付け、圧造により成
形さている。そのため冷間加工率が非常に高く、冷間加
工硬化が大であるため、ポイント部４の硬度は非常に大
きい。それに加えて時効処理を施したことにより、ポイ
ント部４の表面硬度はさらに向上している。

【００２３】上記実施例により製造したドリルネジを硬
度測定を行ったところ、最も硬度が必要とされるポイン
ト部４の切刃５の表面硬度は、ビッカース硬度（Ｈｖ）
がほぼ５００以上になっていた。これは、特に高硬度が
要求される鉄板材用のドリルネジとして必要かつ充分な
硬度であり、高い穿孔性・タッピング性を有しているこ
とが確認された。

【００２４】

【発明の効果】以上で明らかな如く、本発明に係るオー
ステナイト系ステンレス鋼製ドリルネジの製造方法は、
従来の製造方法と異なり、オーステナイト系ステンレス
鋼の材料特性を充分に活かし、良好な冷間加工硬化性を
維持して生産性の向上とコストダウンを図りながら、引
っ張り強度を保持するとともに、鉄板材用ドリルネジと
しても必要かつ充分な硬度を与えて穿孔・タッピング性
能を高め、かつ粒界腐食やその他の腐食等による弊害が
生じないものを製造できる。

【００２５】即ち、本発明のドリルネジ製造方法では、
オーステナイト系ステンレス鋼を素材として、従来と異
なり圧造による冷間加工硬化および時効処理硬化により
ドリルネジを製造している。そのため、オーステナイト
系ステンレス鋼の素材に対する冷間加工率を高めて、大
きな冷間加工硬化を得ることができるとともに、時効処
理によって一層硬度を増大させることができる。

【００２６】したがって、このドリルネジ製造方法で
は、全体がオーステナイト系ステンレス鋼製のドリルネ
ジでありながら、また従来のような浸炭・窒化処理等の
硬化処理を施すこと無しに、鉄板材用ドリルネジとして
も必要かつ充分な硬度を持ち、高度な穿孔性・タッピン
グ性能をもつドリルネジを製造することができる。

【００２７】またこのドリルネジ製造方法は、上記の如
く浸炭・窒化処理等の硬化処理が不要であるから、従来
と異なり引っ張り強度も充分に保持させることができ、
粒界腐食を無くすとともに耐食性を維持したドリルネジ
を製造できる。さらに浸炭・窒化処理等の硬化処理手段
を必要としないので、製造工程と製造設備を簡素化する
ことができ、製造コストを低減することもできる。な
お、 体が一体物のドリルネジを製造するので、ドリル
ネジ使用時にドリル部や硬化層が脱落・剥離することも
無くせる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明によるドリルネジ製造方法の実施例で、
オーステナイト系ステンレス鋼の素材から、頭部と軸部
を成形した正面図である。

【図２】図１で示す軸部の先部に、先端まで切刃のある
ポイント部付きドリル部を成形した正面図である。

【図３】図１で示す軸部に、ネジ部を成形した正面図で
ある。

【図４】本発明によるドリルネジ製造方法の実施例で製
造されたドリルネジのドリル部を示す拡大斜視図であ
る。

【図５】図４で示すドリル部の正面図である。

【図６】図４で示すドリル部の底面図である。

【図７】図４で示すドリル部の側面図である。

【図８】本発明よるドリルネジ製造方法の実施例で使用
した金型の拡大斜視図である。

【図面の簡単な説明】

１−頭部 ２−軸部 ３
−ドリル部 ４−ポイント部 ５−切刃 ６
−ネジ部 ７−ポインターダイス ８−ダイス面 ９
−切刃 １０−受け面 １１−ねじれ角構成面 １
２−湾曲凹部 １３−湾曲凸部 １４−逃げ角構成面 １
５−湾曲凸部 １６−湾曲凹部 １７−逃げ面

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 【請求項１】オーステナイト系ステンレス鋼の素材か
   ら、冷間加工にてドリルネジを製造するものであって、 オーステナイト系ステンレス鋼の素材を、ヘッダー加工
   にて頭部１と軸部２を成形し、 上記素材の軸部２の先部を、各ダイス面８の切刃９が相
   手方の受け面１０と対向する一対のポインターダイス
   （７）による圧造にて、最先端まで切刃５のあるポイン
   ト部４付きのドリル部３に成形し、 その後に上記軸部２を、ローリングダイスによるネジ加
   工にてネジ部６に成形し、 全表面をパッシベート処理してから、時効処理を行うこ
   とを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼製ドリ
   ルネジの製造方法。