JP2012234938A - 低温用熱伝達材 - Google Patents

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Abstract

【課題】例えば液体窒素温度(77K)以下のような低温、特に20K以下の極低温でかつ磁束密度1T以上の強磁場中でも高い熱伝導率を有することで、優れた熱伝導特性を有する熱伝達材を提供する。
【解決手段】77K以下の低温かつ磁束密度1T以上の磁場中で用いる熱伝達材であって、純度が99.999質量%以上であり、かつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムを含んで成ることを特徴とする熱伝達材である。
【選択図】図2

Description

本発明は、例えば77K以下の低温、特に20K以下の極低温において優れた導電性を示す熱伝達材、とりわけ例えば1T以上の強磁場中で用いても優れた導電性を示す熱伝達材に関する。
例えば、医療用のMRI(磁気共鳴画像診断装置)や分析用のNMR(核磁気共鳴分析
装置)あるいはリニアモーターカー等、多くの分野で超電導磁石が用いられている。液体ヘリウムを用いてその沸点4.2K(ケルビン)に冷却された低温超電導コイルや、冷凍機で20K程度に冷却された高温超電導コイルが超電導磁石として使われている。
これら超伝導コイルを効率的にかつ均一に冷却するには、液体窒素の沸点77K以下の低温、特に20K以下の極低温において熱伝導率の高い熱伝達材が必要である。
そして、特許文献1には、低温において高い熱伝導率を発現する熱伝達材として、アルミニウムの冷間加工材が開示されている。
また、特許文献2には磁気共鳴アセンブリの構造が示されており、冷凍機と冷凍容器の間に位置する熱伝達材(熱バスバー)として、極低温での熱伝導特性が高い純度99.999質量%以上(以下、「5N」(5ナイン)と表記する場合がある。同様に例えば純度99.9999質量%以上を「6N」(6ナイン)と、純度を示す質量パーセント表記において、先頭から連続する9の数の後にNをつけて表記する場合がある。)アルミニウムまたは純度99.99質量%以上(4N)のアルミニウムが使用可能であることが記されている。
さらに、アルミニウム以外にも純度99.99質量%以上(4N)の無酸素銅等の銅を用いた熱伝達材が知られている。
特開2007−063671号公報 特開2004−283580号公報
しかし、これら低温で高い熱伝導特性を有する材料も超電導コイル(超電導磁石)の近傍、すなわち例えば超電導コイルからの磁場が1T以上である強磁場化では、熱伝導率が低下し、高い熱伝導特性が得られないという問題がある。
これは、磁気抵抗効果によるものである。磁気抵抗効果は、外部磁場によって電気抵抗が変化する現象として知られている。
銅は顕著な磁気抵抗効果を有し、低温では磁場中で電気抵抗が著しく増大することが知られており、また、アルミニウムも銅ほどではないが、大きな磁気抵抗効果を有し、低温では磁場中で電気抵抗が著しく増大することが知られている。
そして、これら銅、アルミニウムおよびこれらの合金を含む多くの金属は、電気抵抗と熱伝導率が密接に関係しており、電気抵抗が増大(導電性が低下)すると、熱伝導率も低下する。
この結果、強磁場下で用いる熱伝達材の熱伝導特性が低下することに伴い、超電導コイルの冷却効率が低下するという問題があった。
そこで、本願発明は、例えば液体窒素温度(77K)以下のような低温、特に20K以下の極低温でかつ磁束密度1T以上の強磁場中でも高い熱伝導率を有することで、優れた熱伝導特性を有する熱伝達材を提供することを目的とする。
本発明の態様1は77K以下の低温かつ磁束密度1T以上の磁場中で用いる熱伝達材であって、純度が99.999質量%以上であり、かつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムを含んで成ることを特徴とする熱伝達材である。
本願発明者らは、アルミニウム(Al)でも純度を99.999質量%以上でかつ鉄の含有量を1質量ppm以下にすることで磁気抵抗効果を著しく抑制できることを見出した。そして、このようなアルミニウムからなる熱伝達材は、例えば77K以下の極低温かつ磁束密度1T以上の強磁場中で用いても高い熱伝導性を有し、優れた熱伝導特性を示す。
本発明の態様2は、前記アルミニウムの純度が99.9999質量%以上であることを特徴とする態様1に記載の熱伝達材である。
本発明の態様3は、前記アルミニウムの純度が99.99998質量%以上であることを特徴とする態様1に記載の熱伝達材である。
本発明の態様4は、前記アルミニウムが金属間化合物AlFeを含むことを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載の熱伝達材である。
本発明の態様5は、態様1〜4のいずれかに記載の熱伝達材を用いた超電導磁石冷却用熱伝達材である
本願発明により、例えば液体窒素温度(77K)以下のような低温、特に20K以下の極低温でかつ磁束密度1T以上の強磁場中でも高い熱伝導率を有することで、優れた熱伝導特性を有する熱伝達材を提供することができる。
導電性指数と印加した磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。 熱伝導率と印加した磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。 シート状サンプルの両端の温度差と磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。
本願発明に係る熱伝達材は磁束密度1T以上の磁場中でも用いるために、純度が99.999質量%以上、かつ鉄の含有量が1質量ppmであるアルミニウムを含んで成ることを特徴としている。
本願発明者らは、純度を99.999質量%以上かつ鉄の含有量が1質量ppmのアルミニウムは磁束密度1T以上の磁場が印加されても磁気抵抗効果が顕著には出現せず、従って熱伝導率導の低下が抑制されることを初めて見出し、本願発明に至ったものである。
例えば、特開2009−242865号公報および特開2009−242866号公報に示されるように、アルミニウムは、5N(純度99.999質量%以上)および6N(純度99.9999質量%以上)のように純度が高くなるほど、例えば液体ヘリウム温度のような極低温での電気抵抗が減少することが知られていた。
また、例えば特開2010−106329号公報に示されるように、純度が99.999質量%以上であり、かつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムも知られていた。
しかし、アルミニウムは4N程度まで純度を上げることで磁場を印加しない状態では、極低温の電気伝導性を向上できるものの、磁束密度1T以上の強磁場を印加すると顕著な磁気抵抗効果が現れて導電性が低下することが知られており、5Nおよび6Nレベルの高純度材においても、4Nレベル材と同様に強磁場下では高い導電性を得ることができないと考えられていた。
このため、磁束密度1T以上の磁場中でも用いる熱伝達材に純度が99.999質量%以上でありかつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムが用いられることがなかったと考えられる。
そして、5Nレベル以上かつ鉄の含有量が1質量ppm以下の高純度アルミニウムにおいては、従来、考えられていたような強磁場下での比抵抗の低下(すなわち熱伝導率の低下)が生じないことを本願発明者が初めて見出したのは上述の通りである。
なお、詳細は後述の実施例で述べるが、熱伝達材として一般的に用いられる銅については、5Nあるいは6N以上の高純度材であっても強磁場中では顕著な導電性の低下が認められることから、高純度にすることで強磁場中でも高い導電性を維持するという本願発明者が見出した現象は、アルミニウムに特有のものである。
本願発明に係る熱伝達材では、上述のようにアルミニウム中に含まれる鉄の量を1質量ppm以下に制御している。
これは、詳細を後述するように、強磁性元素である鉄の量を制御することにより、確実に磁気抵抗効果を抑制し、強磁場中での(強磁場が印加されたことによる)熱伝導率の低下を確実に抑制できるからである。
なお、本願発明に係る熱伝達材は、温度が77K(−196℃)以下、より好ましくは20K(−253℃)以下でかつ磁束密度1T以上の磁場が印加される状態で用いることでその効果を顕著に示す。
本願に係る熱伝達材について詳細を説明する前に、なぜ電気伝導性に優れる材料を用いた熱伝達材は、高い熱伝導率を有するかを説明しておく。
銅、アルミニウムおよびその合金を含む多くの金属では、自由電子の移動が電気伝導の主たるメカニズムであり、自由電子を移動し易くすることで導電性を高めることができる。一方、自由電子はこれら金属の熱伝導にも大きく寄与しており、自由電子が容易に運動できることで高い熱伝導率を得ることができる。
一般的な金属の熱伝導率と電気伝導度の関係としてウィーデマン・フランツ則(W・F則)が知られているが、高純度金属のより正確な関係式としては、高純度アルミニウムの約40K以下の熱伝導率は以下の(1)式により、また高純度の銅の約40K以下の熱伝導率は以下の(2)式によりより求めることができることが知られている(両式ともTEION KOGAKU, Vol. 39 (2004), No. 1 pp.25-32より引用)。
κ=1/(1.83×10−7×T+1.09/RRR/T) (1)

κ=1/(6.41×10−8×T2.4+0.685/RRR/T) (2)


ここで、κ:熱伝導率(W/m/K)、T:温度(K)、RRR:残留抵抗比
残留抵抗比RRRは、以下の(3)式で示される。

RRR=ρ297K/ρ (3)

ここで、ρ297K:温度297Kでの比抵抗(nΩcm)、ρ:温度T(K)での比抵抗(nΩcm)
ここで、銅およびアルミニウムのρ297Kは、純度および外部から印加される磁場の影響をほとんど受けず、概ね一定(例えば、アルミニウムのρ297Kは約2700、銅のρ297Kは約1500)であることが知られている。
従って、(1)〜(3)式より、銅およびアルミニウムは導電性が向上するほど(比抵抗が小さくなるほど)熱伝導率が大きくなることが判る。
以下の本願発明に係る熱伝達材の詳細を説明する。
(1)不純物レベル
上述のように本願に係る熱伝達材は、純度が99.999質量%以上でかつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムを含んで成ることを特徴としている。純度は好ましくは99.9999質量%以上であり、より好ましくは99.99998質量%以上(以下、「6N8」という場合がある)である。純度が高いほど、強磁場下において導電性の低下が少ないからである。さらに、99.9999質量%以上の純度では、磁場を印加しない場合よりも1T以上の強磁場中の方が、比抵抗が小さくなる場合があるからである。
また、鉄の含有量は好ましくは0.1質量ppm以下である。
より確実に強磁場中での導電性の低下を抑制できるからである。
鉄を1質量ppm以下にすることにより、強磁場中での導電性の低下を抑制できるメカニズムについては、未だ不明な点も多いが、現時点で推測可能なメカニズムは、鉄が強磁性元素であるために強磁場の影響を受けやすく、この結果、1質量ppmを超えて存在すると導電性に与える影響が大きくなり、強磁場下での導電性を低下させるおそれがあるためであり、0.1ppmでは強磁性体であることによる影響をほぼ完全に排除できるためであると推定される。ただし、この推定されるメカニズムは本願発明の技術的範囲を制約するものではない。
また、鉄以外の強磁性元素としてNiおよびCoが知られているが、これらは既知のアルミニウム高純度化プロセスにおいて容易に除去されるため、その数値があまり問題とされることがない。ただし、これらNiおよびCoも1ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以下であることがより好ましい。
なお、アルミニウムの純度については、いくつかの方法において定義可能である。例えばアルミニウムの含有量の測定により求めてもよい。しかし、比較的簡便にかつ高精度にアルミニウムの純度を求める方法として、超高純度アルミニウムに不純物として含まれ得る以下の33元素の含有量(質量パーセント)を測定し、これらの含有量の合計を100パーセントから引くことにより求めるのが好ましい。
ここで不純物として含まれ得る33元素とは、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ボロン(B)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、白金(Pt)、水銀(Hg)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)である。
これらの元素の含有量は、例えばグロー放電質量分析法により求めることができる。
(2)精製方法
このような高純度のアルミニウムは、任意の精製(精錬)方法を用いて得てよい。以下に、本願発明に係る高純度アルミニウムを得るための精製方法をいくつか例示する。ただし、これらの方法に限定されるものではないことはいうまでもない。
・三層電解法
高純度のアルミニウムを得る方法の1つとして、Al−Cu合金層に市販の比較的純度の低いアルミニウム(例えば純度99.9%のJIS−H2102の特1種程度のグレード)を投入し、溶融状態で陽極とし、その上に例えばフッ化アルミニウムおよびフッ化バリウム等を含む電解浴を配置し、陰極に高純度のアルミニウムを析出させる三層電解法を用いることができる。
三層電解法では主に純度99.999質量%以上の純度のアルミニウムを得ることができる。またアルミニウム中の鉄の含有量を比較的容易に1質量ppm以下に抑制することができる。
・一方向凝固法
例えば三層凝固法により得た高純度アルミニウムの純度をさらに高めるために一方向凝固法を用いることができる。
一方向凝固法によって、Feの含有量とTi、V、CrおよびZrの各含有量とを選択的に低減することができる。
一方向凝固法とは、例えば炉体移動式管状炉を用い、炉心管内でアルミニウムを溶解させた後、炉体を炉心管から引き抜くことにより、端部から一方向に凝固させる方法であり、凝固開始端側ではTi、V、CrおよびZrの各元素の含有量が選択的に多くなることが知られており、かつ、凝固終了端側(凝固開始端の反対側)ではFeの含有量が選択的に多くなる。よって、得られた鋳塊の凝固開始端側と凝固終了端側とを切り取ることにより、FeとTi、V、CrおよびZrの各元素の含有量を確実に低減することが可能になる。具体的に、一方向凝固法で得られた鋳塊のどの部分を切り取るかについては、例えば、凝固方向に沿って適当な間隔で元素含有量を分析するなどして、Feの含有量とTi、V、CrおよびZrの合計含有量とが充分に低減された部分のみを残すように決定すればよい。
三層電解法による精製と一方向凝固法による精製の実施順序は、特に制限されないが、通常は、まず三層電解法で精製し、その後、一方向凝固法で精製される。また、三層電解法による精製と一方向凝固法による精製は、例えば、交互に繰り返し行ってもよいし、いずれか一方もしくは両方を各々繰り返し行ってもよいが、特に、一方向凝固法による精製
は、繰り返し行うことが好ましい。
このように三層凝固法と一方向凝固法を組み合わせることにより純度99.9999質量%以上の純度のアルミニウムを得ることができる。また、アルミニウム中の鉄の含有量を比較的容易に1質量ppm以下、更には0.1質量ppm以下に抑制することができる。
・帯溶融法
さらに、純度の高い、例えば純度99.99998質量%以上のアルミニウムを得るのに帯溶融法を用いることができる。また帯溶融法を適切に用いるとアルミニウム中の鉄の含有量をより確実に、1質量ppm以下、更には0.1質量ppm以下に抑制することができる。
とりわけ、本願発明者らが発明した帯溶融法によるアルミニウムの精製方法(特願2010−064544に記載の方法)を用いることが効果的である。
すなわち、アルミニウム中の不純物を帯溶融精製(zone melting process)により除去する際に、不純物が加熱したアルミニウム中に拡散するのを防止するために、アルミニウムが配置されるボートの表面に予めアルミナ層を形成し、かつ溶融したアルミニウムからの不純物の分離を確実に行うために帯溶融精製を圧力3×10−5Pa以下、より好ましくは3×10−6Pa〜2×10−5Paの真空中で行うことが好ましい。
さらに、帯溶融精製を行う前に、帯溶融精製を行うアルミニウム原料の表面層を予め溶解除去する前処理を実施することが好ましい。前処理の方法は特に限定されるものでなく、アルミニウム原料の表面層を除去するために当該技術分野で用いられている各種の処理を用いることができる。
前処理として、例えば酸処理、電解研磨などが挙げられる。
また、帯溶融精製(帯溶融法)で使用する上述のボートは、グラファイトボートが好ましく、上述のアルミナ層を形成後不活性ガスまたは真空中でベーキングしておくことが好ましい。
さらに、帯溶融精製時にアルミニウムが溶融している溶融部の幅は、アルミニウム原料の断面寸法wAlに対して、wAl×1.5以上wAl×6以下とすることが好ましい
また、精製に用いる原料のアルミニウムは例えば上述の三層凝固法と一方向凝固法を組み合わせることにより得る等、例えば純度99.9999質量以上の高純度アルミニウムを用いることが好ましい。
帯溶融は例えば、高周波加熱のための高周波コイルを移動することで、溶融部を原料アルミニウムの一方の端部から他方の端部に向けて移動させ、原料アルミウム全体を帯溶融精製することができる。不純物金属元素成分のうち包晶系成分(Ti、V、Cr、As、Se、Zr、Mo)は溶融開始部に、共晶系成分(上述の不純物元素33元素から包晶系7元素を除いた26元素)は溶解終了部に濃縮する傾向があるため、アルミニウム原料の両端部を除く領域で高純度アルミニウムを得ることが可能である。
溶融部を例えばアルミニウム原料の長手方向の一端から他端までの間のように所定の間移動させた後は、高周波加熱を終了し、溶融部を凝固させる。凝固後、アルミニウム材を切り出す(例えば両端部を切り落とす)ことにより、精製された高純度のアルミニウム材が得られる。
長手方向(溶融部の移動方向)に複数本のアルミニウム原料を配置している場合は、長手方向のアルミニウム原料を接触させて、長手方向に1個のアルミニウム原料として、一方の端部(すなわち、複数のアルミニウム原料の端部のうち長手方向に隣接するアルミニウム原料がない2つの端部の一方)から他方の端部(すなわち、複数のアルミニウム原料の端部のうち長手方向に隣接するアルミニウム原料がない2つの端部の他方)に移動させるのが好ましい。
接触するアルミニウム原料の端部同士が帯溶融時に接合し、長い一本のアルミウム材を得ることができるからである。
なお、上述したようにアルミニウム原料の一方の端から他方の端まで帯溶融(帯溶融精製)した後、再度、一方の端から他方の端まで帯溶融を繰り返すことができる。
繰り返し数(パス数)は通常1以上20以下である。パス数をこれ以上多くしても、精製効果の向上は限定的である。
包晶系7元素を効果的に精製するため、パス数は3以上が好ましく、5以上がさらに好ましい。パス数がこれより少ないと、包晶系7元素は移動しにくいため、十分な精製効果が得られない。
また、長手方向に複数のアルミニウム原料を互いに接触させて配置した場合、パス数が3より少ないと接合後の精製材(アルミニウム材)の形状(特に高さ寸法)が不均一となって、精製中に溶融幅が変動して均一な精製効果が得られにくい場合があるからである。
(3)成形方法
上述の精製方法により得られた高純度アルミニウムの鋳塊は、各種の方法を用いて所望の形状に成形される。
以下に成形方法を例示する。なお成形方法はこれらに限定されるものではない。
・圧延
例えば、得ようとする熱伝達材が板材や線材である場合に圧延は効果的な成形方法である。
圧延加工は、例えば、鋳塊を一対のロールの間に挟み込むことにより圧力を加えながら、これらロール間に鋳塊を通過させる方法など、通常の方法を採用して行えばよい。圧延加工を行う際の具体的な手法や条件(処理温度、処理時間、加工率など)は、特に制限されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
圧延加工により最終的に得られる板材および線材のサイズは限定されるものではないが、好ましいサイズとして、板であれば厚さ0.1mm〜3mm、線材であれば直径0.1mm〜3mmを例示することができる。
0.1mmより薄いと断面積が小さくなり熱伝達材としての十分な伝導特性を有しにくくなる場合がある。また3mmより厚いと可撓性を利用して変形させることが難しくなる場合がある。厚さ0.1mm〜3mmの場合に可撓性を利用して曲面状の容器側面に配置できるなど、取り扱いが容易であるという利点を有する。
なお、言うまでもないが圧延加工により得ることができる形状は、板や線材(ワイヤー)に限定されるものではなく、例えばパイプやH型形状も圧延により得ることができる。
鋳塊を予め加熱し、室温以上の温度にした状態で圧延を行う熱間圧延または温間圧延でもよく、また鋳塊を予め加熱しない冷間圧延でもよい。また、熱間または温間圧延と冷間圧延を組み合わせてもよい。
なお、前記圧延するに際しては、あらかじめ所望の形状に鋳造し、切削するなどの処理を施すこともできる。鋳造を行うには、例えば、超高純度アルミニウムを加熱溶融して溶湯とし、得られた超高純度アルミニウム溶湯を鋳型内で冷却固化させるといった通常の方法を採用すればよいが、これに限定されるものではない。鋳造の際の条件等も特に制限されないが、加熱温度は通常700〜800℃であり、加熱溶融は通常、真空中あるいは不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)雰囲気下で、黒鉛製等のルツボ内で行なわれる。
・圧延以外の成形方法
また、圧延以外の成形方法として、引き抜き(伸線)または押出しを行ってもよい。引き抜きまたは押出しにより得る形状は限定されないが、例えば断面が円形のワイヤーを得るのに引き抜きまたは押出しは適している。
引き抜きを行う前に圧延により圧延線材(圧延ロッド)を得て、圧延線材を引き抜くことで所望のワイヤー形状を得てもよい。
なお、得られるワイヤーの断面は円形に限定されるものではなく、例えば、楕円、方形等の異形断面を有していてもよい。
また、引き抜きまたは押出し以外に鋳塊を切削することで所望の形状を得てもよい。
(4)焼鈍
さらに、上記圧延加工等の成形方法により得られた本発明の成形品は必要に応じて焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を施すことにより、通常、鋳塊から被成形材を切り出す際や成形加工の際に生じることがある歪みを除去することができる。
焼鈍処理の条件は特に制限されないが、400〜600℃で1時間以上保持する方法が好ましい。
温度が400℃より低いと鋳塊に含まれる歪(転位)が十分に低減されない。そして、歪(転位)は電気抵抗を高める要因となるため、優れた導電特性を発揮できない場合があるからである。熱処理温度が600℃より高いと、不純物、特に鉄のマトリックスへの固溶が進行する。固溶した鉄は電気抵抗を高める効果が大きいため、導電特性が低下する場合
がある。
より好ましくは、430〜550℃で1時間以上保持する。
この温度範囲であれば、充分に歪を除去できるとともに、鉄がマトリクスに固溶することなく、アルミニウムとの金属間化合物として存在するからである。
さらに、以下の理由にもよる。
鉄とアルミニウムの金属間化合物としては、AlFe、AlFeおよびAlFe(m〜4.5)等の複数の種類が知られている。そして、この温度範囲(430〜550℃)で焼鈍後の高純度アルミニウム材に存在する鉄とアルミニウムの金属間化合物の過半(例えば体積比で50%以上、好ましくは70%以上)がAlFeであると考えられる。
このAlFeは、析出物として存在していても、ほとんど導電性に悪影響を与えることがないという利点を有する。
AlFeの存在及びその体積比は、化学溶媒による基体溶解およびろ過収集を行い、ろ過収集された残渣を分析電子顕微鏡(分析TEM)で観察および分析することにより確認および測定することができる。
なお、本願発明に係る熱伝達材は、上述の99.999質量%以上の高純度アルミニウムのみから成ってもよいが、例えば、保護被覆を設ける等、各種の機能を持たせるために当該高純度アルミニウム以外の部分を含んでもよい。
また、本願発明に係る熱伝達材は、超電導磁石を冷却する熱伝達材を具体的用途として例示したが、これに限定されものではなく、例えば、NMRで測定する試料を冷却するための熱伝達材等の低温下(77K以下)でかつ強磁場(1T以上)下で用いられる各種用途の熱伝達材として用いることができる。
実施例サンプルとして、詳細を以下に示す実施例1(純度99.999質量%以上、5N−Al)、実施例2(純度99.9999質量%以上、6N−Al)および実施例3(純度99.99998質量%以上、6N8−Al)を作製した後、比抵抗を測定した。
また、比較例として純度が4Nレベルのアルミニウムである比較例1(4N−Al)および、純度が3Nレベルのアルミニウムである比較例2(3N−Al)を以下に示す。比較例1および2の比抵抗は計算により求めた。
さらに、銅についても比較するため、純度が5Nレベルの銅のサンプルを準備し、比較例3として、比抵抗を測定した。
また、銅については文献値データを比較例として用いた。比較例4は4Nレベルの銅サンプルであり、比較例5は5Nレベルの銅サンプルであり、比較例6は6Nレベルの銅サンプルである。
(1)高純度アルミニウム材の作成
最初に実施例1〜3に用いた高純度アルミニウム材の作製方法を以下に示す。
・実施例1
純度99.92質量%の市販のアルミニウムを三層電解法により精製して、純度99.999質量%以上で鉄含有量が1質量ppm以下の高純度アルミニウムを得た。
詳しくは、Al−Cu合金層に99.92質量%の市販のアルミニウムを投入し、電解浴の組成を41%AlF−35%BaF−14%CaF−10%NaFとして、760℃で電気を流し、陰極側に析出した高純度アルミニウムを採取した。
この高純度アルミニウム中の各元素含有量について、グロー放電質量分析法(サーモエレクトロン社製「VG9000」を使用)にて分析したところ、表1に示す通りであった。
・実施例2
上記三層溶解法で得られた高純度アルミニウムを一方向凝固法により精製して、純度99.9999質量%以上で鉄含有量が0.1ppm以下の高純度アルミニウムを得た。
詳しくは、ルツボ(内寸法:幅65mm×長さ400mm×高さ35mm)の中に2kgの三層溶解法で得た高純度アルミニウムを入れ、これを、炉体移動式管状炉の炉心管(石英製、内径100mm×長さ1000mm)の内部に収容し、1×10−2Paの真空雰囲気にて炉体(ルツボ)を700℃に温度制御して、高純度アルミニウムを溶解させた後、炉体を30mm/時の速度で炉心管から引き抜くことにより端部から一方向に凝固させた。そして、長さ方向において凝固開始端より50mmの位置から凝固開始端より150mmの位置までを切り出し、幅65mm×長さ100mm×厚さ30mmの塊状の超高純度アルミニウムを得た。
この超高純度アルミニウム中の各元素含有量について、上記と同様、グロー放電質量分
析法にて分析したところ、表1に示す通りであった。
・実施例3
次に以下に示す帯溶融法により、純度99.99998質量%以上で鉄含有量が0.1ppm以下の高純度アルミニウムを得た。
上記の一方向凝固法で得られた6Nアルミニウム塊から、約18mm×18mm×100mmの四角柱あるいは類似形状に切削加工で切出し、純水で希釈した20%塩酸水溶液で3時間酸洗浄したアルミニウム原料を得た。
このアルミニウム原料を用いて以下の方法で帯溶融法を実施した。
帯溶融精製装置の真空チャンバ(外径50mm、内径46mm、長さ1400mmの石英管)内部に、グラファイトボートを配置した。グラファイトボートの原料配置部には、住友化学株式会社製の高純度アルミナ粉末AKPシリーズ(純度99.99%)を押圧しながら塗布してアルミナ層を形成した。
グラファイトボートを真空下にて高周波加熱しベーキングした。
ベーキングは10−5〜10−7Paの真空中で、帯溶融に用いる高周波加熱コイル(加熱コイル巻数3、内径70mm、周波数約100kHz)にて加熱し、100mm/時間の速度でボートの一端から他端まで移動して、グラファイトボート全体を順に加熱して行った。
上記のアルミニウム原料9本、合計重量約780gを、グラファイトボートに設けた20×20×1000mmの原料配置部に配置した。アルミニウム原料は9本全体で概ね四角柱とみなせるように配置した、アルミニウム原料の断面寸法w=18mm、長さL=900mm、L=w×50であった。
チャンバ内を密閉し、ターボ分子ポンプおよび油回転ポンプにより圧力が1×10−5Pa以下になるまで排気した。その後、高周波加熱コイル(高周波コイル)によりアルミニウム原料の長手方向の一端を加熱し溶融させ溶融部を形成した。
溶融部の溶融幅が約70mmとなるように高周波電源(周波数100kHz、最大出力5kW)の出力を調整した。そして高周波コイルを毎時100mmの速度で移動させ、溶融部を約900mm移動させた。このときのチャンバ内の圧力は5×10−6〜9×10−6Paであった。溶融部の温度を放射温度計にて測定した結果、660℃〜800℃であった。
その後、徐々に高周波出力を下げて溶融部を凝固させた。
そして、高周波コイルを溶融開始位置(最初に溶融部を形成した位置)まで移動させ、チャンバ内を真空に維持したまま、溶融開始位置で再度アルミニウム原料を加熱溶融させて溶融部を形成した。この溶融部を移動させて帯溶融精製を繰り返した。溶融幅約70mm、溶融部の移動速度毎時100mmでの帯溶融精製を、合計3回(3パス)行った時点で、溶融開始部から終了部まで形状がほぼ均一となり、それ以降(以下に示す7パスの間)は均一な形状を維持した。
次に、溶融幅約50mm、溶融部の移動速度毎時60mmにて帯溶融精製を7パス実施した。溶融幅は精製原料(アルミニウム原料)の断面寸法wに対し、w×2.8〜w×3.9であった。
合計10パス終了後にチャンバを大気開放し、アルミニウムを取り出し、長さ約950mmの精製アルミニウム材を得た。
得られたアルミニウム材を切出して、上記と同様にグロー放電質量分析法組成分析を行った結果を表1に示す。
Figure 2012234938
次いで、上記で得られた実施例1〜3の高純度アルミニウム材それぞれを切削加工し、幅6mm×厚さ6mm×長さ100mmの伸線用素材を得た。伸線用素材表面の切削加工による汚染元素を除去するために、塩酸:純水=1:1の比率で作製した酸にて1時間の酸洗浄を行い、30分以上流水洗浄した。
得られた伸線用素材を溝付きロール圧延および線引きにより、0.5φまで伸線(引き抜き)した。伸線した試料を石英治具に固定し、真空中にて500℃で3時間保持した後炉冷したものを比抵抗測定用のサンプルとした。
さらに、比較例3のサンプルとして市販の5Nレベルの高純度銅(NewMet Koch社製99.999%Cu、0.5φ)を石英治具に固定し、有機溶剤洗浄し、真空中にて500℃で3時間保持した後炉冷したものを比抵抗測定用のサンプルとした。
(2)比抵抗の導出
・比抵抗の測定
実施例1〜3および比較例3のサンプルについては比抵抗を実際に測定した。
測定は、得られた上記のサンプルを液体ヘリウム(4.2K)中に浸漬した後、サンプルに印加する磁場を磁束密度0T(磁場を印加せず)〜15Tまで変化させて、4端子法で測定した。
磁場はサンプルの長手方向に平行な方向に印加した。
・比抵抗の算出
表1に示す組成を有する比較例1および比較例2については、文献:R.J.Corruccini, NBS Technical Note,218(1964)に記載の以下の(4)式を用いて計算した。(4)式では、Δρが磁場中での比抵抗の増加量である。ρRTは磁場が印加されないときの室温での比抵抗であり、3N以上の高純度Alではほぼ一定値として扱えるため2753nΩcmとした。ρは磁場が印加されないときの4.2Kでの比抵抗であり、純度により大きく変化するので、今回4N−Alでは9.42nΩcm(RRR=285)、3N−Alでは117nΩcm(RRR=23)の実験値を用いた。これらの式は磁場がサンプルの長手方向に垂直な場合に得られた式であるが、平行な場合の同様の式が得られていないため、今回比較のために使用した。RRRは残留抵抗比とも呼ばれ、297Kでの比抵抗とヘリウム温度(4.2K)での比抵抗の比である。
Figure 2012234938
・比抵抗の文献からの引用
比較例4〜6については、その比抵抗を文献:Fujiwara S. et.al.,Int. Conf. Process. Mater. Prop., 1st (1993),909-912.より得た。なお、これらの文献値では、磁場の印可方向とサンプルの長手方向の関係は記載されていない。
このようにして導出した実施例1〜3および比較例1〜6の比抵抗を表2に示す。
Figure 2012234938
表2より、従来のアルミニウム製(4Nレベル)の熱伝達材に相当する比較例2のサンプルは磁場のない時(0T)に比べ、磁場の強度(磁束密度)の増加とともに比抵抗が増えて、15Tでは、3倍程度にまで増加していることが判る。
これに対して、実施例1〜3は、そもそも磁場のない状態で、比較例2と比べ10分の1以上と比抵抗が小さい上に、磁場が増加しても比抵抗の増加が小さい。
実施例1(5Nレベル)では、15Tの比抵抗は、磁場のない場合に比べ約1.5倍と比較例2と比べ明らかに増加が小さい。
実施例2(6Nレベル)では、磁場のない場合と比べ、15Tでもその比抵抗の増加は10%以内と非常に小さくなっている。また、磁束密度が1〜12Tの範囲では、その比抵抗の値は、磁場を印加しない場合より小さくなっており磁気抵抗抑制効果が顕著に表れている。
実施例3(6N8レベル)に至っては1〜15Tのいずれの磁束密度においても比抵抗が磁場のない場合より低くなっており磁気抵抗抑制効果が極めて顕著に表れている。
図1は、導電性指数と印加した磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。導電性指数は4Nのアルミニウムの強磁場中での比抵抗を示す比較例2を基準として、それぞれのサンプルの導電性の大小を示す指数である。すなわち、それぞれの磁束密度において、比較例2の比抵抗の値をそれぞれのサンプルの比抵抗の値で割ることにより求める。この指数の値が大きいほど、比較例2サンプルと比べて、その磁束密度(強磁場)下での導電性が優れていることを示す。
実施例サンプルが極めて顕著な効果を示すことから、縦軸の導電性指数は対数で示した。
図1から判るように実施例サンプルは、磁場がない場合で、比較例2と比べ導電性が13〜28倍程度高い。そして磁場が印加されるとともに、比較例2と比べた導電性が増加し、1Tでは16倍(実施例1)〜65倍(実施例3)であり、15Tでは、26倍(実施例1)〜96倍(実施例1)とさらに増加している。
また、図1からは銅のサンプル(比較例3〜6)がいずれも右肩下がりの曲線を示しており、比較例2と比べ、磁場の強度が増加するほど磁気抵抗の効果が強くなることを示している。すなわち、銅の場合は、喩え6Nレベルまで純度を高めても磁気抵抗による導電性の低下を抑制することができないことを示しており(表1からも比較例3〜6のサンプルは15Tでの比抵抗が磁場のないときの比抵抗に比べ5〜18倍程度高くなっていることが判る)、本願発明者らが見出した、純度を99.999質量%以上まで高めることにより、磁場中での導電性の低下を抑制できるという効果がアルミニウムに特有のものであることを示している。
なぜ、高純度化による磁気抵抗抑制効果がアルミニウムに出現し、銅に出現しないかは、不明であるが、電気抵抗要因の違いに起因していると推定できる。つまり、高純度銅の主要な電気抵抗要因は結晶粒界や転位による伝導電子の散乱であり、高純度化しても電気抵抗要因の変化は小さく、従って磁気抵抗も変化が小さいと考えられる。一方、高純度アルミニウムの主要な電気抵抗要因は不純物原子による伝導電子の散乱であり、高純度化するほど電気抵抗要因が減るため、5N以上のアルミニウムでは磁場中での電気抵抗増加が小さいという優れた特性が現れたのではないかと思われる。ただし、この推定のメカニズムは、本願発明の技術的範囲を制限するものではない。
次に、表2の結果からそれぞれのサンプルの熱伝導率を算出した。
表2の結果と上述の(3)式より残留抵抗比RRRを算出した結果を表3に示す。(3)式のρは表2の値(すなわち4.2Kでの比抵抗)を用いた。ρ297Kは、上述したように銅およびアルミニウムでは、純度および外部から印加される磁場の影響をほとんど受けず、概ね一定であり、高純度金属では一定値として扱えることからアルミニウムのρ297Kとして2753nΩcm、銅のρ297Kとして1500nΩcmを用いた。
Figure 2012234938
次に表3のRRRの値と、(1)式および(2)式を用いて、熱伝導率を算出した。
図2は熱伝導率と印加した磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。
図2から、従来のアルミニウム製(4Nレベル)の熱伝達材に相当する比較例2および高純度(6N)銅製の熱伝達材に相当する比較例6を含め、全ての比較例で強磁場の強度が高くなると熱伝導率が低下している。磁束密度15Tでは、比較例の中で最も高い熱伝導率を示す比較例3でも1238W/m/Kに留まっている。
これに対して、実施例1〜3は、磁場の強度が上昇しても熱伝導率の低下が抑制されている。
実施例1では、1Tで熱伝導率が低下した後は15Tまで安定しており、15Tでも9500W/m/K程度と高い熱伝導率を示している。
実施例2では、1T〜12Tまで、熱伝導率が磁場を印加しないときより高くなっており、15Tでも25000W/m/K程度と高い熱伝導率を示している。
実施例3では、1T〜15Tまで、熱伝導率が磁場を印加しないときより高くなっており、15Tでの熱伝導率は33000W/m/K程度と非常に高い値となっている。
このようにして求めた熱伝導率を用いて、サンプルの一端を冷凍機に接続し、他端に入熱を与えたときにサンプルの両端で生じる温度差を計算した。
より詳細には、幅wが100mm、長さLが400mm、厚さ0.5mmのシート状の熱伝達材の一端を冷凍機に接続し、他端に2Wの入熱Qを与えた時に、400mm離れた両端間で生ずる温度差を計算した。
より詳細には、幅wが100mm、長さLが400mm、厚さ0.5mmのシート状の熱伝達材の一端を、約4Kに冷却された冷凍機の冷却ステージに接続し、400mm離れた他端に2Wの入熱Qを与えた時に、両端間で生ずる温度差を計算した。
両端間の温度差ΔTは、(5)式により求めた。
ΔT=Q×(L/1000)/(w/1000)/(t/1000)/λ (5)

ここで、Q:入熱(W)、L:シート状サンプルの長さ(mm)、w:シート状サンプルの幅(mm)、t:シート状サンプルの厚さ(mm)、λ:熱伝導率(W/m/K)
図3は、このようにして求めた、シート状サンプルの両端の温度差と磁場(磁束密度)との関係を示すグラフである。実施例サンプルと比較例サンプル差が大きいことから縦軸の温度差は対数で示した。
実施例1〜3は、ほとんど温度差が無く、15Tにおいても、実施例1がΔT=1.7Kであり、実施例2がΔT=0.6Kであり、実施例3では0.5Kである。
これに対して、比較例は、いずれも磁場の強さが上昇するとともにΔTも大きくなっている。15Tにおいて比較例の中で最もΔTが小さい比較例3でも13Kであり、従来のアルミニウム製(4Nレベル)の熱伝達材に相当する比較例2の15TでのΔTは42Kなっている。
しかもこれらの値は熱伝導率λの温度変化を考慮しておらず、これを考慮すると比較例ではΔTがさらに大きくなる。
このように極低温の強磁場下でも高い熱伝導率を有し、優れた熱伝導特性を示す、本願発明に係る熱伝達材を用いると、従来の熱伝達材と比べ断面積を小さくできることから、超電導磁石を含む装置の小型化、軽量化を行うことができる。
本願発明により、例えば液体窒素温度(77K)以下のような低温、特に20K以下の極低温でかつ磁束密度1T以上の強磁場中でも高い熱伝導率を有することで、優れた熱伝導特性を有する熱伝達材を提供することができる。

Claims (5)

  1. 77K以下の低温かつ磁束密度1T以上の磁場中で用いる熱伝達材であって、純度が99.999質量%以上であり、かつ鉄の含有量が1質量ppm以下であるアルミニウムを含んで成ることを特徴とする熱伝達材。
  2. 前記アルミニウムの純度が99.9999質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達材。
  3. 前記アルミニウムの純度が99.99998質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達材。
  4. 前記アルミニウムが金属間化合物AlFeを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝達材。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝達材を用いた超電導磁石冷却用熱伝達材。
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