JP2012156247A - R−t−b系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

R−t−b系焼結磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】磁石の中心部まで重希土類元素RHを導入するR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】R−T−B系焼結磁石の製造方法において、磁石素材と重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)の金属または合金からなるRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に投入する工程、磁石素材とRH拡散源とを処理室内で連続的または断続的に移動させながら800℃以上1000℃以下の熱処理を10分以上行うRH拡散工程をした後、作製した磁石中間体に表面加工を行ってから再度RH拡散工程を行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、R214B型化合物(Rは希土類元素)を主相として有するR−T−B系焼結磁石(TはFeを含む遷移金属元素)の製造方法に関し、特に、軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有し、かつ、軽希土類元素RLの一部が重希土類元素RH(DyおよびTbからなる群から選択された少なくとも1種)によって置換されているR−T−B系焼結磁石の製造方法に関している。
Nd2Fe14B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。Ndの一部または全部は他の希土類元素Rに置き換えられても良く、Feの一部は他の遷移金属元素に置き換えられても良いため、Nd2Fe14B型化合物は、R214B化合物と表現される場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)に置き換えられ得る。
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力が低下するため、高温暴露後に減磁する不可逆減磁が起こる。不可逆減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。これを満足するためには、常温での保磁力を高めるか、もしくは要求温度までの保磁力変化を小さくする必要がある。
214B化合物相中の軽希土類元素RLであるNdを重希土類元素RH(Dy、Tbの少なくともいずれか一方)で置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石用の原料合金中に重希土類元素RHを多く添加することが有効であると考えられてきた。しかし、R−T−B系焼結磁石において、軽希土類元素RL(NdまたはPr)を重希土類元素RHで置換すると、保磁力が向上する一方、残留磁束密度が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
そこで、近年、残留磁束密度を低下させないように、より少ない重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石の保磁力を向上させることが検討されている。本願出願人は、既に特許文献1において、R−Fe−B系合金の焼結磁石体表面にDy等の重希土類元素RHを供給しつつ、該表面から重希土類元素RHを焼結磁石体の内部に拡散させる(以下「蒸着拡散」という)方法を開示している。特許文献1では、高融点金属材料からなる処理室の内部において、R−T−B系焼結磁石体とRHバルク体とが所定間隔をあけて対向配置される。処理室は、複数のR−T−B系焼結磁石体を保持する部材と、RHバルク体を保持する部材とを備えている。このような装置を用いる方法では、処理室内にRHバルク体を配置する工程、保持部材を載せる工程、保持部材の上に焼結磁石体を配置する工程、更にその上に保持部材を載せる工程、保持部材の上に上方のRHバルク体を配置する工程、処理室を密閉して蒸着拡散を行う工程という一連の作業が必要となる。
特許文献2は、Nd−Fe−B系金属間化合物磁性材料の磁気特性を向上させることを目的として、低沸点のYb金属粉末とNd−Fe−B系焼結磁石成形体とを耐熱密封容器内に封入して加熱し、それによってYb金属の被膜を焼結磁石成形体の表面に均一に堆積し、この被膜から焼結磁石の内部に希土類元素を拡散させることを開示している(特許文献2の実施例5)。
国際公開第2007/102391号 特開2004−296973号公報
特許文献1の方法では、処理室内において、R−T−B系焼結磁石体と重希土類元素RHからなるRHバルク体とを離間して配置する必要があるため、配置のための工程に手間がかかり、量産性に劣るという問題がある。また、DyやTbの供給が昇華によってなされるため、R−T−B系焼結磁石体への拡散量を増加してより高い保磁力を得るには長時間を要し、特にTbは、飽和蒸気圧がDyよりも低いため、拡散量を多くすることが困難であった。
一方、特許文献2の方法によると、Yb、Eu、Smのように飽和蒸気圧の高い希土類金属であれば、R−T−B系焼結磁石体への被膜の形成と被膜からの拡散とを同一温度範囲(例えば800〜850℃)の熱処理によって実行することが可能であるが、特許文献2によれば、DyやTbのように蒸気圧の低い希土類元素を収着するためには、高周波加熱用コイルを用いた誘導加熱により希土類金属を選択的に高温に加熱することが必要になる。このようにDyやTbからなる収着源を焼結磁石体よりも高い温度に加熱する場合は、収着源と磁石体とを離間させることが必要になり、特許文献1に記載の方法と同様の問題が生じえる。また、特許文献2の技術思想及び方法によれば、焼結磁石体の表面にDyやTbの被膜が厚く(例えば数十μm以上)形成されるため、焼結磁石体の表面近傍において主相結晶粒の内部にまでDyやTbが拡散してしまうため、残留磁束密度の低下が発生することになる。
また、R−T−B系焼結磁石体の表層から重希土類元素を導入しているため、磁石の中心部まで保磁力が向上することがなく、保磁力の向上が磁石表層に留まる場合がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、残留磁束密度を低下させることなくDyやTbの重希土類元素RHを焼結磁石体の表面から内部に拡散させる工程が量産に適したものであるR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することである。
R−T−B系焼結磁石の製造方法は、磁石素材を準備する工程と、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)の金属または合金からなるRH拡散源を準備する工程と、前記磁石素材と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、前記磁石素材と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、800℃以上1000℃以下で10分以上の熱処理を行い、前記磁石素材に重希土類元素RHが拡散された磁石中間体を作製するRH拡散工程Aと、前記磁石中間体の表面を加工する加工工程と、前記磁石中間体と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に前記処理室または他の処理室内に装入する工程と、前記磁石中間体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、800℃以上1000℃以下で10分以上の熱処理を行うRH拡散工程Bとを包含する。
ある実施形態において、前記加工工程において、前記磁石中間体の表面から10μm以上の深さまでの領域を除去する。
ある実施形態において、前項RH拡散源は、Feが30質量%以上80質量%以下含まれる。
ある実施形態において、前記RH拡散工程Aおよび前記RH拡散工程Bは、前記処理室を回転させる工程を含む。
ある実施形態において、前記RH拡散工程Aおよび前記RH拡散工程Bにおける前記熱処理は、前記処理室の内部圧力を1kPa以下に調整して行う。
本発明によれば、比較的雰囲気圧力が高い条件でも、DyやTbの重希土類元素RHを焼結磁石体の表面から中心部に拡散させることが可能になる。また、本発明では、拡散処理中に例えば処理室を回転、揺動、振動させることにより、加熱により拡散源が溶けて焼結磁石体と接合してしまう溶着を避けることができる。さらに処理室内に所定の配置関係で拡散源と焼結磁石体とを配置する必要がなくなるため、投入作業が簡単であり、量産性に優れている。
本発明の好ましい実施形態で使用される拡散装置の構成を模式的に示す断面図である。 拡散処理工程時におけるヒートパターンの一例を示すグラフである。
ここで、R−T−B系焼結磁石について、第1回目のRH拡散工程完了前を「磁石素材」、第1回目のRH拡散工程完了後を「磁石中間体」、最終のRH拡散工程完了後を「R−T−B系焼結磁石」と区別して表記する。
また、第1回目のRH拡散工程を「RH拡散工程A」、第2回目を「RH拡散工程B」と区別して表記する。
また、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的で行う第1熱処理は、第1回目を「第1熱処理A」、第2回目を「第1熱処理B」と区別して表記する。
本発明の製造方法では、まず、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)の金属または合金からなるRH拡散源を準備する。次に、磁石素材とRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室(または処理容器)内に投入し、それらを800℃以上1000℃以下の温度に保持する。このとき、例えば、処理室を回転または揺動させたり、処理室に振動を加えたりすることにより、磁石素材とRH拡散源とを処理室内にて連続的にまたは断続的に移動して、磁石素材とRH拡散源との接触部の位置を変化させたり、磁石素材とRH拡散源とを近接・離間させながら、重希土類元素RHの気化・昇華による供給と磁石素材への拡散とを同時に実行する(RH拡散工程A)。
本発明では、RH拡散源と磁石素材とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に投入し、連続的または断続的に移動させることができるので、磁石素材とRH拡散源とを所定位置に並べる載置の時間が不要となる。
RH拡散工程Aにおける処理室内の圧力は任意であり、特に制限されない。処理室を回転または揺動させたり、処理室に振動を加えたりすることにより、RH拡散源を800℃以上1000℃以下で連続的または断続的に磁石素材とともに移動させることで、処理室内でRH拡散源と磁石素材との接触点が増加し、重希土類元素RHを磁石素材内部に拡散させることができる。また、800℃以上1000℃以下という温度範囲が、磁石素材においてRH拡散が促進される温度範囲であり、重希土類元素RHを磁石素材内部に拡散させやすい状況でRH拡散ができる。
なお、本発明において、「磁石素材とRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に投入する」とは、前記の通り、投入工程後のRH拡散工程Aにおいて磁石素材とRH拡散源とが処理室内にて連続または断続的に移動することで、RH拡散源と磁石素材とが一定箇所に固定して長時間(例えば、850℃で2分以上)接触または近接した状態に拘束されないように投入することを意味する。従って、本発明では、特許文献1に記載するように磁石素材とRH拡散源を所定位置に配置する必要はない。
RH拡散工程Aにおいて磁石素材とRH拡散源とを処理室内にて連続的または断続的に移動する方法としては、磁石素材に欠けや割れを発生させることなく、連続的にまたは断続的にRH拡散源と磁石素材との接触部を移動させたりRH拡散源と磁石素材とを近接・離間させることが可能であれば、前記の通り処理室を回転・揺動したり、外部から処理室に振動を加えたりする方法の他、処理室内に攪拌手段を設ける等、種々の方法が可能となる。
本発明によれば、RH拡散源が磁石素材と近接または接触するため、重希土類元素RHが効果的に磁石素材に供給され、その内部に粒界を通じて拡散することができる。
本発明では、RH拡散工程Aを行った磁石中間体の表面を加工する。加工により磁石中間体の表面の重希土類元素RH濃度とRH拡散源の重希土類元素濃度との差が大きくなり、RH拡散が中心部に向かってより進む。
好ましい実施形態では、加工により、磁石中間体表面を10μm以上除去する。
この後、加工をした磁石中間体に対してRH拡散工程Bを行う。このRH拡散工程Bでは、RH拡散工程Aと同様に磁石中間体とRH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、800℃以上1000℃以下で10分以上の熱処理を行う。表面加工後に行うRH拡散工程Bは、重希土類元素RHを表面領域からR−T−B系焼結磁石の内部深くに拡散させる効果を発揮する。
1回のRH拡散工程を長時間継続すると、重希土類元素RHが磁石素材に導入されにくくなる。これは、磁石表面領域で、RH拡散源から供給された重希土類元素RHが磁石粒界相からのNdまたはPrと反応して化合物を形成してしまうためと考えられる。そこで、適切なタイミングで最初のRH拡散工程を完了し、その後、磁石中間体の表面に存在する上記化合物を磁石表面から除去することが好ましい。こうして、磁石中間体の表面の加工を行った後、RH拡散工程Bを行えば、R−T−B系焼結磁石の表面の重希土類元素RH濃度とRH拡散源の重希土類元素濃度との差が大きくなり、再度、RH拡散源から重希土類元素RHをスムーズに磁石中間体内に供給しつつ、磁石中間体の内部深くに重希土類元素RHを拡散させることが可能になる。本発明によれば、焼結磁石表面の保磁力が過度に増加することがなくなり、焼結磁石内部と焼結磁石表面とで保磁力の差異が減少する。このため、減磁曲線の角形性も改善される。
なお、重希土類元素RHの膜(RH膜)を磁石素材の表面に形成した後、熱処理により磁石素材の内部に拡散させる従来技術では、RH膜と接する表層領域で主相結晶粒の内部にまで重希土類元素RHが拡散し、保磁力HcJが向上するが残留磁束密度Brが低下してしまう。これに対し、本発明では、磁石素材表面に飛来した重希土類元素RHを粒界拡散によって速やかに磁石素材内部に浸透させていくために、磁石素材表面に重希土類元素RHの被膜を形成することはない。従って、磁石素材の表層領域においても、主相結晶粒の内部に重希土類元素RHが拡散しにくく、残留磁束密度Brの低下を抑制し、保磁力HcJを効果的に向上させることが可能になる。
また、処理室を回転または揺動させたり、処理室に振動を加えたりすることにより、RH拡散源と磁石素材との接触部を移動させながら、重希土類元素RHの気化・昇華および直接接触による供給と磁石素材への拡散とを同時に実行することにより、RH拡散源と磁石素材を所定位置に並べる載置の時間が不要となる。
上記説明から明らかなように、本発明では、必ずしも原料合金の段階において重希土類元素RHを添加しておく必要はない。すなわち、希土類元素Rとして軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を含有する公知の磁石素材を用意し、その表面から重希土類元素RHを磁石素材の内部に拡散する。従来の重希土類元素の被膜を磁石表面に形成した方法では残留磁束密度Brを低下させずに焼結磁石内部の奥深くまで重希土類元素RHを拡散させることは困難であったが、本発明によれば、重希土類元素RHの粒界拡散により、磁石素材の内部に位置する主相の外殻部にも重希土類元素RHを効率的に供給することが可能になる。もちろん、本発明は、原料合金の段階において重希土類元素RHが添加されているR−T−B系焼結磁石に対して適用しても良い。ただし、原料合金の段階で多量の重希土類元素RHを添加したのでは、本発明の効果を充分に奏することはできないため、相対的に少ない量の重希土類元素RHが添加され得る。
[磁石素材]
まず、本発明では、重希土類元素RHの拡散の対象とする磁石素材としてR−T−B系焼結磁石体を用意する。このR−T−B系焼結磁石体は、以下の組成からなる。
希土類元素R:12〜17原子%
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):5〜8原子%
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでもよい)および不可避不純物:残部
Tの一部は以下の添加元素Mと置換されてもいい。
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2原子%
ここで、希土類元素Rは、主として軽希土類元素RL(Nd、Pr)から選択される少なくとも1種の元素であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記組成のR−T−B系焼結磁石体は、任意の製造方法によって製造される。
以下、作製されたR−T−B系焼結磁石体に対して行うRH拡散源、RH拡散処理工程を詳細に説明する。
[RH拡散源]
RH拡散源、すなわち、DyおよびTbの少なくとも一方からなる重希土類元素RHまたはそれらを含有する合金で、形状・大きさは特に限定されない。合金の場合は、重希土類元素RHを20質量%以上含有する合金であるのが好ましい。RH拡散源は、磁石素材および磁石中間体よりも大きくても良いし、小さくても良い。処理室の回転や振動によって接触点が速やかに移動しやすい観点から、RH拡散源の表面には曲面が形成されていることが好ましい。RH拡散源の好ましい形状の例は、例えば、球状、楕円球状、円柱状であり、切粉などの粉末状であってもよい。但し、粉末状の場合、粒径200μm以下の粉末が多いと溶着が生じ易くなるため好ましくない。RH拡散源の大きさは、磁石素材および磁石中間体よりも小さくても、大きくても良い。ただし、処理室内において、処理室の回転、揺動、振動に応じて動きやすい大きさであることが好ましい。
RH拡散源は、重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなる合金を用いるのがより好ましい。重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなる合金は、RH拡散処理で磁石素材および磁石中間体から染み出てくるNd、PrがRH拡散源のFeと結合しない。したがって、RH拡散源を変質させることなく使用することができる。
重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなるRH拡散源は磁石素材および磁石中間体と反応しにくいので、RH拡散を行っても磁石素材および磁石中間体の表面に供給される重希土類元素RHが供給過多とならない。
また、重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなる合金はRH拡散工程により変質しないので、RH拡散が促進される800℃から1000℃で好適に用いることができる。
本発明のRH拡散源に含まれるFeの質量比率は好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
RH拡散源は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、Dy、Tb以外に、Nd、Pr、La、Ce、Zn、Zr、Sn、FeおよびCoからなる群から選択された少なくとも1種を含有してもよい。さらに、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ga、Nb、Mo、Ag、In、Hf、Ta、W、Pb、SiおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種を含んでいてもよい。
[RH拡散工程]
1つの例として、図1を参照しながら、本発明による拡散処理工程を説明する。
図1に示す例では、磁石素材1およびRH拡散源2がステンレス製の筒3の内部に置かれている。この例では、筒3が「処理室」として機能する。筒3の材料は、ステンレスに限定されず、1000℃を超える温度に耐える耐熱性を有し、磁石素材1およびRH拡散源2と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、W、及びそれらの合金を用いてもよい。オーステナイト系ステンレスにAlまたはCoを添加したFe―Cr−Al系合金、Fe―Cr−Co系合金を用いてもよい。筒3には開閉または取り外し可能な蓋5が設けられている。また筒3の内壁には、RH拡散源と磁石素材とが効率的に移動と接触を行い得るように、突起物を設置することができる。筒3の長軸方向に垂直な断面形状も、円に限定されず、楕円または多角形、あるいはその他の形状であってもよい。図1に示す状態の筒3は、ジョイントによって真空ポンプなどの排気装置6に連結されている。排気装置6の働きにより、筒3の内部は、大気から遮蔽された状態(密閉状態)で減圧または加圧され得る。筒3の内部には、不図示のガスボンベからArなどの不活性ガスが導入され得る。
筒3は、その外周部に配置されたヒータ4によって加熱される。筒3の加熱により、その内部に収納された磁石素材1およびRH拡散源2も加熱される。筒3は、中心軸の回りに回転可能に支持されており、ヒータ4による加熱中も可変モータ7によって回動することができる。筒3の回転速度は、磁石素材1とRH拡散源2とが溶着しないように、例えば筒3の内壁面の周速度を毎秒0.005m以上に設定され得る。回転速度が低くなると、磁石素材とRH拡散源との接触部の移動が遅くなり、溶着が発生しやすくなる。好ましい回転速度は、拡散温度のみならず、RH拡散源の形状やサイズによっても異なる。
図1では筒3は回転しているが、本発明では磁石素材1とRH拡散源2とがRH拡散工程中で溶着しないように筒3内で前記磁石素材と前記RH拡散源とが相対的に移動可能かつ近接または接触可能であるなら、筒3には回転を加えるのではなく揺動または振動を加えてもいいし、回転、揺動および振動のうち複数の動作を併せて行なってもよい。
また、磁石素材1およびRH拡散源2をあらかじめ投入した別の容器そのままを筒3の内部に置いてもよい。別の容器は一つだけでなく、複数個内部においてもよい。
次に、図1の処理装置を用いて行う拡散処理を説明する。
まず、ジョイントおよび蓋5を筒3から取り外し、筒3の内部を開放する。複数の磁石素材1およびRH拡散源2を筒3の内部に装入した後、再び、ジョイントおよび蓋5を筒3に取り付ける。排気装置6により、筒3の内部を真空引きする。筒3の内部圧力が充分に低下した後、ジョイントおよび蓋5を外す。その後、モータ7によって筒3を回転させながら、ヒータ4による加熱を実行する。
熱処理時における筒3の内部は不活性雰囲気中であることが好ましい。本明細書における「不活性雰囲気」とは、真空、または不活性ガスを含むものとする。また、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、磁石素材1およびRH拡散源2との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。不活性ガスの圧力は、大気圧よりも低い値を示すように減圧されることが好ましい。筒3の内部における雰囲気ガス圧力が大気圧に近いと、例えば特許文献1に示された技術ではRH拡散源2から重希土類元素RHが磁石素材1の表面に供給されにくくなる。しかし、本発明においては、RH拡散源と磁石素材とが相対的に移動可能かつ近接または接触可能にしているため、重希土類元素RHの拡散量が大きくできるので、筒3の雰囲気ガス圧力は1kPa以下であれば充分である。また、真空度と拡散量との相関は比較的小さく、真空度を更に高めても、重希土類元素RHの拡散量(保磁力の向上度)は大きくは影響されない。雰囲気圧力(処理室内の雰囲気圧力)は、0.1以上100kPa以下の範囲内に設定され得る。拡散量は、雰囲気圧力よりも磁石素材の温度に敏感である。
本発明の実施形態では、重希土類元素RHを含むRH拡散源2と磁石素材1とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に装入する工程と、重希土類元素RHを含むRH拡散源2と磁石素材1とを処理室内で連続的・断続的に回転させつつ、加熱することにより、RH拡散源から重希土類元素RHを磁石素材の表面に供給しつつ、内部に拡散させる。
本発明の好ましい実施形態では、RH拡散源および磁石素材の温度を800℃以上1000℃以下の範囲内に保持する。温度範囲は、処理室内で前記磁石素材と前記RH拡散源とが相対的に移動し接触しながら、重希土類元素RHが磁石素材内部組織の粒界相を伝って内部へ拡散する好ましい温度領域であり、磁石素材内部への拡散が効率的に行われることになる。保持時間は、RH拡散処理工程をする際の磁石素材とRH拡散源の投入量の比率、RH拡散処理をする磁石素材の形状、RH拡散源の形状、および、RH拡散処理によって磁石素材に拡散されるべき重希土類元素RHの量(拡散量)などを考慮して決められる。
好ましい実施形態では、RH拡散源には、重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなる合金を用いる。重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなる合金はRH拡散工程時にRH拡散源が磁石素材から染み出すNd、Prにより変質することを抑制するので、RH拡散源および磁石素材の温度を800℃以上1000℃以下の範囲内に保持することができる。
処理温度が1000℃を超えると、RH拡散源と磁石素材とが溶着してしまう問題が生じ易いため好ましくない。また、処理温度が1000℃を超えると、重希土類元素RHの供給量が過多となり、磁石の残留磁束密度Brの低下が懸念されるため好ましくない。
一方、処理温度が800℃未満では、処理に長時間を要する場合があるため好ましくない。
処理時間を短縮するという観点から、処理温度を850℃以上に設定してもよい。
RH拡散工程時における雰囲気ガスの圧力(処理室内の雰囲気圧力)は、0.1以上100kPa以下の範囲内に設定され得る。
[第1熱処理A]
RH拡散工程後に、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的で磁石素材1に対する第1熱処理を行っても良い。第1熱処理は、重希土類元素RHがRH拡散源2から磁石素材1に供給されない状態で、すなわち分離した後で700℃以上1000℃以下の温度で実行される。この第1熱処理では、磁石素材1の表面に対して重希土類元素RHの更なる供給は生じないが、磁石素材1において重希土類元素RHの拡散が生じるため、磁石素材1の表面側から奥深くに重希土類元素RHを拡散し、磁石全体として保磁力を高めることが可能になる。第1熱処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。
[拡散工程の間に行う表面加工]
本発明の製造方法の好ましい実施形態では、RH拡散工程Aが完了(第1熱処理Aを行う場合は第1熱処理が完了後)した磁石中間体に対して、表面を加工してからRH拡散工程Bを行う。表面の加工は例えば砥石やショットブラストなどによる研磨で行う。
好ましい加工量は、磁石中間体の表面から10μm以上である。RH拡散工程Aにより重希土類元素RHの濃度が高くなったRH拡散源に近くなり、濃度勾配を利用した拡散が進みにくくなった磁石中間体の表面近傍の粒界相中において、10μm以上加工することで、磁石中間体の表面の重希土類元素RH濃度とRH拡散源の重希土類元素濃度との濃度差が大きくなり、RH元素が再び活発に拡散する。
表面を加工された磁石中間体にRH拡散工程Bを行う。磁石中間体内部へより多く拡散させることにより、磁石中間体表面と内部との保磁力の差が小さくなる。磁石中間体表面と内部との保磁力の差が小さくなった焼結磁石は角形性が大きく改善される。
狙いとする磁気特性に応じて、RH拡散工程Bの条件は、先に行ったRH拡散工程Aの条件と同じであってもよいし、処理室内部圧力、温度、処理時間条件を変えてもよい。また、使用するRH拡散源の組成とは別の組成でもよい。
RH拡散工程Bにより、加工によって減少した焼結磁石の表面における重希土類元素RHの濃度が高まり、重希土類元素RHを焼結磁石内部へさらに拡散させることができる。
[第1熱処理B]
また、RH拡散工程B後においても、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的でR−T−B系焼結磁石に対する第1熱処理Bを行っても良い。第1熱処理Bは、RH拡散源を取り除いた後、重希土類元素RHが実質的に拡散し得る700℃以上1000℃以下の範囲で行い、より好ましくは750℃以上850℃以下の温度で実行される。第1熱処理Bの時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第1熱処理Bを行う熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。好ましいのは100kPa以下である。また、第1熱処理工程Bは、RH拡散工程Bから連続して行ってもよい。
[第2熱処理]
必要に応じて保磁力を高めるため第2熱処理(400℃〜700℃)を行うが、第1熱処理、第2熱処理(400℃〜700℃)の両方を行う場合は、第1熱処理(700℃〜900℃)の後に行うことが好ましい。第1熱処理(700℃〜900℃)と第2熱処理(400℃〜700℃)とは、同じ処理室内で行っても良い。第2熱処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第2熱処理を行う熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。好ましいのは100kPa以下である。なお、第1熱処理を行わずに第2熱処理のみを行ってもよいし、第1熱処理BをしないときはRH拡散工程Bのあとに行ってもよい。
(実施例1)
まず、組成比Nd=30.0、Dy=0.5、B=1.0、Co=0.9、Al=0.2、Cu=0.1(質量%)の磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体の磁石を得た。作製した磁石素材の磁気特性をB−Hトレーサによって測定したところ、熱処理(500℃)後の特性で保磁力HcJは1100kA/m、残留磁束密度Brは1.40Tであった。
次に、図1の装置を用いてRH拡散処理を実行した。筒の容積:128000mm3、磁石素材の投入重量(又は投入個数):50g(5個)、RH拡散源の投入重量:50gであった。
次に、以下の表1に示す各条件のもと、図1の装置を用いてRH拡散工程AおよびRH拡散工程Bを実行した。RH拡散処理後における磁石素材の各面を0.2mmずつ研削し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体に加工した後、その磁石特性をB−Hトレーサにて評価した。
RH拡散工程A時における処理室の温度を図2に示す。図2は、加熱開始後における処理室温度の変化(ヒートパターン)を示すグラフである。図2の例では、ヒータによる昇温を行いながら、真空排気を実行する。昇温レートは、約10℃/分である。不活性ガスを導入しつつ処理室内の圧力が50Paのレベルに達するまで、例えば約600℃に温度を保持する。所定圧力に達した後、処理室の回転を開始し、表1の拡散処理温度に達するまで昇温を行う。昇温レートは約3℃/分である。拡散処理温度に達した後、表1に記載の時間だけ、その温度に保持する。その後、ヒータによる加熱を停止し、室温程度まで降温させ、回転を止める。その後、磁石素材に重希土類元素RHが拡散された磁石中間体を取り出し、別の熱処理装置に装入してから内部圧力を10Paで第1熱処理A(900℃、3時間)を行った。
表1中のサンプル11から22までについて、RH拡散工程Aおよび第1熱処理工程Aが済んだ磁石中間体の表面を深さ10μmまで除去し、その後にRH拡散工程Aと同様の方法でRH拡散工程Bを行った。磁石中間体の表面層の除去は、ショットブラスト法によって行った。
RH拡散工程Bは、サンプル11から22に対し、表1に記載の通りRH拡散源を別に用意しRH拡散工程Bを行った。拡散処理温度はサンプル11では900℃、サンプル15は800℃としRH拡散工程Aと異なっている。その他のサンプルの拡散処理温度はRH拡散工程Aのときと同じ温度である。それ以外はRH拡散工程Aの条件と同じ条件で行った。RH拡散工程B後、第1熱処理B(900℃、3時間)を行った。
一方、サンプル1から10については、RH拡散工程A、第1熱処理A後、RH拡散工程Bを行わず第2熱処理(500℃、3時間)を行った。サンプル11から22については、RH拡散工程A、第1熱処理A、RH拡散工程B、第1熱処理Bを経た後、第2熱処理(500℃、3時間)を行った。
サンプル23については、RH拡散工程A(900℃、12時間)、第1熱処理A(900℃、6時間)、第2熱処理(500℃で3時間)を行った。
表1において、「1回目」の欄には、RH拡散工程Aで使用したRH拡散源の組成(Dy、Tb、Feの質量比率)が示されている。また、「2回目」の欄には、RH拡散工程Bで使用したRH拡散源の組成(Dy、Tb、Feの質量比率)が示されている。「周速度」の欄には、図1の処理室(直径100mmの筒3)の内壁面の周速度が示されている。「温度」「時間」「圧力」の欄には、拡散処理中の保持される処理室温度およびその時間そして処理容器内の内部圧力が示されている。「ΔHcJ」の欄には、熱処理後における焼結磁石の磁石表面および中心部についての保磁力HcJが示されている。「ΔBr」の欄には、熱処理後における焼結磁石の磁石表面および中心部についての保磁力HcJおよび残留磁束密度Brが示されている。サンプル1から10ではRH拡散工程A、第1熱処理A後の保磁力増加量を示し、サンプル11から22ではRH拡散工程B、第1熱処理B後の保磁力増加量を示す。
磁石中心部については、RH拡散工程A後またはRH拡散工程B後のR−T−B系焼結磁石の中央部を7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体に加工した後、その磁石特性をB−Hトレーサにて評価した。
Figure 2012156247
表1より、本発明のサンプル11から22における焼結磁石表面の保磁力HcJの向上度ΔHcJは、RH拡散工程A、第1熱処理A、第2熱処理を行う場合(サンプル1から6)と比べてほとんど変化していないが、焼結磁石中央部の保磁力の向上度ΔHcJが向上していた。
また、本発明のサンプル16における焼結磁石表面の保磁力HcJの向上度ΔHcJは、サンプル23と比べてほとんど変わらなかったが、焼結磁石中央部の保磁力向上度ΔHcJが向上していた。
サンプル23は、RH拡散工程の処理時間がサンプル5と比べて2倍である12時間であるが、磁石表面の保磁力HcJの向上度ΔHcJは10kA/m向上しただけでほとんど変化していなかった。また、磁石中央部の保磁力HcJの向上効果も10kA/m向上しただけでほとんど変化していなかった。
本発明のRH拡散工程で実行可能なヒートパターンは、図2に示す例に限定されず、他の多様なパターンを採用することができる。また、真空引きは拡散処理が完了し、磁石素材および磁石中間体が充分に冷却されるまで行ってもよい。
また、RH拡散工程の回数は2回に限定されず、3回以上に分けて行ってもよい。
本発明によれば、磁石全体として高残留磁束密度、高保磁力のR−T−B系焼結磁石を作製することができる。高温下に晒されるハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に好適である。
1 磁石素材
2 RH拡散源
3 ステンレス製の筒(処理室)
4 ヒータ
5 蓋
6 排気装置

Claims (5)

  1. 磁石素材を準備する工程と、
    重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)の金属または合金からなるRH拡散源を準備する工程と、
    前記磁石素材と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、
    前記磁石素材と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、800℃以上1000℃以下で10分以上の熱処理を行い、前記磁石素材に重希土類元素RHが拡散された磁石中間体を作製するRH拡散工程Aと、
    前記磁石中間体の表面を加工する加工工程と、
    前記磁石中間体と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に前記処理室または他の処理室内に装入する工程と、
    前記磁石中間体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、800℃以上1000℃以下で10分以上の熱処理を行うRH拡散工程Bと
    を包含するR−T−B系焼結磁石の製造方法。
  2. 前記加工工程において、前記磁石中間体の表面から10μm以上の深さまでの領域を除去する請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
  3. 前項RH拡散源は、Feが30質量%以上80質量%以下含まれる請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
  4. 前記RH拡散工程Aおよび前記RH拡散工程Bは、前記処理室を回転させる工程を含む、請求項1から3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
  5. 前記RH拡散工程Aおよび前記RH拡散工程Bにおける前記熱処理は、前記処理室の内部圧力を1kPa以下に調整して行う、請求項1から4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
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