本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明の構成を簡単に説明する。
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法では、まず、複数個のR−T−B系焼結磁石を準備する工程Aと、RH供給源を準備する工程Bとを実行する。ここで、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種、TはFeまたはFeとCoである。また、RH供給源は、重希土類元素RHからなる金属又は重希土類元素RHを25原子%以上含む合金であって、重希土類元素RHはDy及び/又はTbである。
次に、RH供給源が複数個のR−T−B系焼結磁石の一部に対向し、かつ離間した状態で、複数個のR−T−B系焼結磁石とRH供給源とを配置する工程Cを行う。好ましい実施形態において、この工程Cは、少なくとも1つの開口部を有する処理容器の中に複数個のR−T−B系焼結磁石を挿入する工程c1と、処理容器の外部にRH供給源を配置し、処理容器の開口部を介して、RH供給源を複数個のR−T−B系焼結磁石の一部に対向させる工程c2とを含む。
その後、減圧雰囲気中において、相互に離間した状態にある複数個のR−T−B系焼結磁石およびRH供給源を加熱し、RH供給源から重希土類元素RHを蒸発させ、重希土類元素RHの蒸気をRH供給源と対向する複数個のR−T−B系焼結磁石の一部の対向面に供給することによって、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散を同時に行う工程Dを行う。
また、この減圧雰囲気中において、複数個のR−T−B系焼結磁石とRH供給源を離間及び加熱した状態で互いの配置関係を変化させ、複数のR−T−B系焼結磁石の一部の対向面とは異なる他の一部の対向面に重希土類元素RHの蒸気を供給することによって、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散を同時行うとともに、工程Dにて磁石内部に拡散された重希土類元素RHをさらに拡散させる工程Eを行う。
上記の工程Dおよび工程Eは、例えば処理容器の運動(振動、搖動、回転など)を行うことにより、RH供給源に対する複数個のR−T−B系焼結磁石の配置関係を変化させながら実行することができる。また、処理容器内に収容された複数個のR−T−B系焼結磁石を他の冶具などによって撹拌してもよい。
工程Dおよび工程Eが、RH供給源に対する複数個のR−T−B系焼結磁石の配置関係を変化させながら実行されると、RH供給源から見たとき、複数個のR−T−B系焼結磁石に含まれる一部のR−T−B系焼結磁石の陰に他のR−T−B系焼結磁石が位置するようにして変化させられ得る。すると、複数個のR−T−B系焼結磁石に含まれる各々のR−T−B系焼結磁石の表面のうち、RH供給源から蒸発した重希土類元素RHの蒸気が供給される領域が、配置関係の変化に伴って変化することになる。
このように本発明によれば、減圧雰囲気中において、複数個のR−T−B系焼結磁石とRH供給源との配置関係を変化させながら、R−T−B系焼結磁石とRH供給源を加熱することにより、RH供給源から個々のR−T−B系焼結磁石に対する重希土類元素RHの供給が断続的に行われることになる。ある特定のR−T−B系焼結磁石の表面に着目すると、RH供給源に対向しているときは、RH供給源から蒸発した重希土類元素RHの供給を受けるが、RH供給源に対向していないときは、重希土類元素RHの供給を受けないことになる。すなわち、RH供給源に対向しているときは、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散が同時に行われ、RH供給源に対向していないときは、R−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散のみが行われることになる。
本発明によれば、このように「RH供給」が断続的に行われた状態でR−T−B系焼結磁石が加熱されるため、重希土類元素RHの供給量と拡散量とを適切に調整することが可能になる。その結果、R−T−B系焼結磁石の表面に重希土類元素RHが過剰に供給されるという従来の問題が解決し、焼結磁石体の表層領域においても、重希土類元素RHが主相粒内部に拡散することが抑制され、Brを実質的に低下させずにHcJを向上させることができる。
(1)製造装置の実施形態1
以下に、本発明の製造装置を、その実施形態(実施形態1)を示す図面に基づき説明する。
図1及び図2は、本発明に係るR−T−B系焼結磁石の製造装置の一例を模式的に示す説明図であり、図1は製造装置の正面図、図2は製造装置の側面図である。各図において同じ部分には同じ符号を付している。
本発明によるR−T−B系焼結磁石の製造装置1は、処理装置2内に、処理容器3と、処理容器3を回転させる回転装置4と、RH供給源5と、加熱装置7、17とを有している。処理容器3は、外周面に複数の開口部8を有しており、内部に複数個のR−T−B系焼結磁石9が挿入されている。RH供給源5は、そのRH供給面6が処理容器3の外周面に向くようにして保持部材10上に載置されている。加熱装置7は処理容器3を加熱し、加熱装置17はRH供給源5を加熱するように配置されている。各構成部材について以下に詳述する。
処理装置2は、処理装置2の内部のガスを排出する真空排気装置(図示せず)と処理装置2の内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入装置(図示せず)を備えている。処理装置2には、一般に工業的に使用されている熱処理炉などを用いることができる。また、加熱処理装置を備えていない形態の処理装置2を、一般的な熱処理炉内に収容して使用してもよい。後者の場合、処理装置2は密閉せずに、処理装置2内の真空排気、不活性ガス導入は熱処理炉に付属する真空排気装置、不活性ガス導入装置で行うことができる。なお、熱処理炉を使用する場合でも、熱効率を向上させるために、処理装置2内に加熱装置7、17を配置し、さらに処理装置2内壁に断熱材を配置してもよい。
図示されている処理容器3の形状は横型の筒状である。この処理容器3には、複数個のR−T−B系焼結磁石9を挿入することができる。図1及び図2の例においては、円筒状の処理容器3を用いているが、処理容器3の形状は、図示されている形状に限定されず、多角形の筒状であってもよい。処理容器3の外周面には複数の開口部8が設けられている。処理容器3の外周面は、いわゆるパンチングメタルのように複数の穴を有する金属板又は合金板(以下「パンチングメタル」という)や、金属製あるいは合金製の網(以下「金網」という)のようなもので形成されていることが好ましい。パンチングメタルの場合はパンチングメタルに設けられた複数の穴が開口部8として機能し、金網の場合は金網の網目が開口部8として機能する。
処理容器3の外周面の全面積に対する全ての開口部8の合計面積の比率(開口率)は40%以上であることが好ましい。40%未満では、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9への重希土類元素RHの供給量が少なくなるため好ましくない。一方、開口率が100%に近くなりすぎると、処理容器3の強度が低下する可能性がある。したがって、開口率は、40%以上で、処理容器3自体の強度並びに挿入される複数個のR−T−B系焼結磁石9の大きさ、重量などに応じて決定されることが好ましい。
図示されている処理容器3は、前記パンチングメタルや金網を丸めて筒状に成形した構造物(以下「筒状胴部」という)と、その筒状胴部の両端を閉じる金属製あるいは合金製の蓋部材とから構成されている。該蓋部材を開閉することによって、処理容器3内にR−T−B系焼結磁石9を挿入又は回収することができる。なお、図1の例においては、筒状胴部の外径よりも蓋部材の外径が大きい。また、蓋部材の外周面が回転装置4の回転軸に接している。この回転軸が回転することにより、処理容器3が回転する。本実施形態で好適に使用され得る処理容器3の構成は、このような例に限定されない。筒状胴部の外径と蓋部材の外径とを同径として、筒状胴部と蓋部材の両外周面が回転装置4の回転軸に接するようにしてもよい。また、筒状胴部の両端をコルク栓のように蓋部材で閉じ、蓋部材の外径よりも筒状胴部の外径を大きくして、筒状胴部の外周面が回転装置4の回転軸に接するようにしてもよい。さらに、蓋部材もパンチングメタルや金網から形成されていてもよい。
回転装置4は、図1、2の例においては、2本の回転軸上に処理容器3を載置して処理容器3を回転させる構成を有している。しかし、処理容器3を回転させることができれば、回転装置4の構成、機構、位置などは特に限定されない。例えば、図1、2の例において、2本の回転軸のうち一方の回転軸のみを回転させてもよい。また、図3に示すように、回転装置14を処理容器3の回転軸と同軸に配置してもよい。この場合、例えば回転装置14の先端に係合片31を、処理容器3の両端面に係合片32を設け、係合片31と32を係合させて回転装置14により処理容器3を回転させる。
RH供給源5は、重希土類元素RHからなる金属又は重希土類元素RHを含む合金である。重希土類元素RHは、前述したように、Dy及び/又はTbである。RH供給源5としては、例えば、Dyメタル、Tbメタル、DyFe合金、TbFe合金などを用いることができる。この場合、RH供給源5は、Dy、Tb、Fe以外に他の元素を含んでいてもよい。RH供給源5は、塊状(バルク体)、サイコロ状、板状、粉末状、球状、線状、チップ状、薄片状などいかなる形状でもあってもよく、大きさも特に限定されない。図1、2の例においては、平板状のDyメタルをRH供給源5として用いている。
RH供給源5は、保持部材10により固定されていることが好ましい。加熱装置17の構成にもよるが、RH供給源5が塊状や平板状のようなハンドリングしやすい形状およびサイズを有する場合は、加熱装置17に直接配置することも可能である。しかし、例えば、温度制御装置の故障や操作ミスなどにより温度が上がり過ぎ、RH供給源5が溶融してしまうと、加熱装置17が損傷するおそれがある。従って、加熱装置17あるいは処理装置2の保護を図るためにも保持部材10を用いることが好ましい。
保持部材10の形状は特に限定されない。図1、2に示されるように、RH供給源5を処理容器3の下側に配置する場合は、皿状あるいは板状の保持部材10の上にRH供給源5を載置し、RH供給源5を保持できればよい。RH供給源5を処理容器3の上側や側面に配置する場合は、固定部材などによりRH供給源5が落ちないように保持部材10に固定すればよい。
また、図4に示すように、複数の保持部材10にRH供給源5を分けて配置してもよい。図4は処理容器3の回転軸に直交する方向に保持部材10を並列配置した場合を示す。例えば、回転軸と平行な方向に複数の保持部材10を並列して配置してもよい。シャーレ状の保持部材10を複数個配置するなど、保持部材10の形状、個数などは特に限定されない。保持部材10の材質も特に限定されない。一般的に用いられている耐熱性の材料を選定すればよい。
図1、2の例では、RH供給源5の上面の全体が、処理容器3の外周面に対向している。言い換えると、RH供給源5の表面と処理容器3との間には、RH供給源5の表面から蒸発した重希土類元素RHの蒸気を遮蔽する部材が設けられていない。なお、RH供給源5の表面と処理容器3との間には、RH供給源5の表面から蒸発した重希土類元素RHの蒸気を、RH供給源5の表面の面積よりも小さい面積を有する領域に収束させる収束部材を配置してもよい。図1、2の例では、収束部材などを介さずにRH供給源5から直接に重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石に供給する。本明細書では、RH供給源5の、R−T−B系焼結磁石9に対向する側の全表面を、「RH供給面」と称することにする。「RH供給面」は、RH供給源5がR−T−B系焼結磁石9に重希土類元素RHの蒸気を供給する時の実効的な供給面を定義する。
収束部材を用いる場合は、図5及び図6に示すように、保持部材10と収束部材とが一体化された、つまり、保持部材10にRH供給面6の形状および位置を規定する開口部を設けた構成を採用してもよい。また、図7に示すように、保持部材10とは別に、RH供給面6の形状および位置を規定する開口部を有する収束部材51を設けることができる。なお、図5〜図7の保持部材10においては、処理容器3の回転軸方向にRH供給面6を小さくする開口部を設けているが、回転軸に直交する方向にRH供給面6を小さくしてもよい。回転軸に平行な方向と垂直な方向の両方に角錐状に収束させたり、漏斗のように円錐状に収束させてもよい。
RH供給源5は、そのRH供給面6が処理容器3の外周面と対向するように配置される。したがって、処理容器3に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石9は、複数の開口部8を介して、RH供給源5のRH供給面6と対向する。収束部材を使用する場合、RH供給源5のRH供給面6の形状および位置は、収束部材の開口部の形状および位置によって規定される。
図8は、図1の構成において、処理容器3をRH供給面6(RH供給源5)側から見た面、すなわち、処理容器3のRH供給面6との対向面を模式的に示す説明図である。図1の例においては、処理容器3内の内部空間の約30体積%の部分にR−T−B系焼結磁石9が挿入されている。このように、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9の体積割合が50%よりも小さい場合を説明する。この場合、図8に示すように、RH供給面6を含む平面(基準平面)に対して、処理容器3を投影した領域は、L1×S1の範囲である。一方、処理容器3の内部に挿入された複数のR−T−B系焼結磁石9を上記の基準平面に投影した領域は、L2×S2の範囲によって規定される。図8の例では、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9の体積割合が50%よりも小さいため、処理容器3を投影した領域の中に、R−T−B系焼結磁石9が投影されない領域として、L2×S3の範囲が生じている。
本発明の好ましい実施形態では、基準平面に投影したR−T−B系焼結磁石9の領域(L2×S2の範囲)よりも、RH供給面6の大きさを小さくしている。以下、このことによる効果を説明する。
図9は、図1のX−X断面を模式的に示す説明図である。処理容器3内には約30体積%のR−T−B系焼結磁石9が挿入されている。図9(a)は処理容器3が回転していない状態、図9(b)は処理容器3が図中矢印の方向に回転している状態を示す。図10は、図9において、R−T−B系焼結磁石9の挿入量を増やし、処理容器3内に約50体積%のR−T−B系焼結磁石9を挿入した場合を模式的に示す説明図であり、図10(a)は処理容器3が回転していない状態、図10(b)は処理容器3が図中矢印の方向に回転している状態を示す。
図9(a)に示すように、処理容器3が回転していない状態では、図8の場合と同様に、処理容器3のRH供給面6との対向面(図中S1の範囲)において、処理容器3の開口部8からR−T−B系焼結磁石9が露出している部分(図中S2の範囲)と、R−T−B系焼結磁石9が露出していない部分(図中S3の範囲)とが存在する。また、処理容器3の開口部8からR−T−B系焼結磁石9が露出している部分(図中S2の範囲)は、処理容器3のRH供給面6との対向面(図中S1の範囲)よりも小さくなっている。
しかし、図9(b)に示すように、処理容器3が図中矢印の方向に回転している状態では、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9は回転方向に移動するため、図中S2の範囲が図中右側へずれることとなる。
また、図10のように、処理容器3内に約50体積%のR−T−B系焼結磁石9を挿入した場合においては、図10(a)に示すように、処理容器3が回転していない状態では、R−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域(図中S2の範囲)と、処理容器3の基準平面に対する投影領域(図中S1の範囲)とはほぼ同じ範囲であるが、図10(b)に示すように、処理容器3が図中矢印の方向に回転している状態では、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9は回転方向に移動するため、基準平面上にR−T−B系焼結磁石9が投影されない領域(図中S3の範囲)ができ、回転していない状態に比べ図中S2の範囲が小さくなる。
このように、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9の体積割合、すなわち、R−T−B系焼結磁石9の挿入量、処理容器3の回転の有無並びに回数数などによって、図中S2の範囲、すなわち、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域の範囲は変化する。本発明の好ましい実施形態においては、R−T−B系焼結磁石9の挿入量、処理容器3の回転数などを調整し、当該範囲の変化を想定して、RH供給面6の大きさを、当該範囲よりも小さくなるように構成する。
上記の通り、RH供給面6は、図1や図4に示すように、収束部材を用いない場合、RH供給源5の上面そのものがRH供給面6となり、RH供給源5の上面から直接重希土類元素RHを供給する。従って、RH供給源5の上面の大きさを、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域の範囲より小さくなるように構成する。
一方、図5〜図7に示すように、保持部材10にRH供給面6を設けたような構成や、保持部材10とは別にRH供給面6を有する収束部材51を設ける構成の場合、RH供給面6の大きさが、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域の範囲より小さくなるように構成されていれば、RH供給源5の大きさは特に限定されない。すなわち、図6及び図7に示すように、RH供給源5そのものは、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域の範囲よりも大きくなっていても差し支えない。
このように、本発明の好ましい実施形態では、RH供給面6の大きさが、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9の基準平面に対する投影領域の範囲より小さくなるように構成されている。なお、RH供給源5と、RH供給源5(RH供給面6)に対向するR−T−B系焼結磁石9と離間距離が後述するように300mm以下であれば、RH供給源5が処理容器3から離れていても本発明の効果を十分に得ることができる。
加熱装置7、17は、処理容器3及びRH供給源5を加熱するために配置される。図1では、加熱装置7は処理容器3、すなわち処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9を、加熱装置17はRH供給源5を加熱するように配置されている。図1のように配置することにより、処理容器3とRH供給源5をそれぞれ独立して加熱することができる。例えば、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9の温度を950℃以下で、RH供給源5は950℃を超える温度で加熱するような場合に好都合である。
加熱装置は図1に示される構成に限定されるものではない。例えば、図11に示すように、加熱装置27で処理容器3とRH供給源5を同時に加熱したり、あるいは図12に示すように、加熱装置27で処理容器3とRH供給源5を同時に加熱できるようにするとともに、RH供給源5のみを加熱することができる加熱装置17をさらに配置するような構成としてもよい。加熱装置7、17、27は、加熱対象に応じて温度調節範囲が設定できればよく、例えば、650℃〜1200℃の範囲で温度調節できるものであれば、装置の構成などは特に限定されない。例えば、一般に工業的に使用されている加熱装置などを用いることができる。
処理容器3内に挿入される複数個のR−T−B系焼結磁石9には、公知のR−T−B系焼結磁石を適用することができる。
以上の通り、本発明のR−T−B系焼結磁石の製造装置は、
内部のガスを排出する真空排気装置と、
内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入装置と、
少なくとも1つの開口部を有し、複数個のR−T−B系(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種、TはFeまたはFeとCo)焼結磁石が挿入される処理容器と、
前記処理容器の外部に配置されたRH供給源(RH供給源は、重希土類元素RHからなる金属又は重希土類元素RHを25原子%以上含む合金であって、RHはDy及び/又はTbである。)と、
前記処理容器および前記RH供給源を加熱する加熱装置と、
前記RH供給源が前記複数個のR−T−B系焼結磁石の一部に対向し、かつ離間した状態で、前記RH供給源と前記複数個のR−T−B系焼結磁石との配置関係を変化させるように前記複数個のR−T−B系焼結磁石を移動させる駆動装置と、
を備える。
本発明は、先述した特許文献1(国際公開第2007/102391号)にて提案されている「蒸着拡散法」における問題を解決することを目的とする。蒸着拡散法は、R−T−B系焼結磁石体と重希土類元素RHバルク体とを対向させて配置し、これらを加熱することにより、バルク体から重希土類元素RHを焼結磁石体の表面に供給しつつ、重希土類元素RHを焼結磁石体の内部に拡散させるものである。つまり、重希土類元素RHの供給と重希土類元素RHの拡散が同時に進行している。
しかし、重希土類元素RHの供給量と重希土類元素RHの拡散量のバランスがとれている間は問題ないが、例えば、処理を行うに伴って重希土類元素RHの拡散量が徐々に低下した場合、重希土類元素RHの供給量が過多となり、焼結磁石体の表層領域において主相粒内部に拡散する重希土類元素RH量が増え、R−T−B系焼結磁石体のBrが低下するおそれがある。
本発明においては、上記のR−T−B系焼結磁石の製造装置1を用い、処理装置2内を減圧雰囲気として、回転装置4によって処理容器3を回転させ処理容器3内の複数個のR−T−B系焼結磁石9を撹拌する。そして、処理容器3内に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石9を加熱装置7によって加熱するとともに、RH供給源5を加熱装置17によって加熱し、重希土類元素RHを蒸発させる。RH供給面6の大きさは、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9を基準平面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の範囲よりも小さくなっているので、蒸発した重希土類元素RHの蒸気はRH供給面6から開口部8を介してR−T−B系焼結磁石9の対向面に供給される。
処理容器3は回転しているため、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9は回転方向に徐々に高く持ち上げられ、ある地点まで上昇すると、雪崩落ちるような状態で落下してゆく。これらの動きを繰り返すことにより処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9は撹拌され、絶えず処理容器3内を移動することとなる。従って、R−T−B系焼結磁石9に重希土類元素RHの蒸気が供給されるのは、RH供給面6に対向する領域付近を移動している時だけであり、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHが供給されない。つまり、RH供給面6に対向する領域付近を移動している時だけ重希土類元素RHの供給と重希土類元素RHの拡散が同時に進行しており、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHの拡散のみが行なわれることとなる。
このように、本発明によれば、重希土類元素RHの拡散のみが行われる状態が存在するため、重希土類元素RHの供給量が過多となっても、R−T−B系焼結磁石表面に供給された重希土類元素RHを焼結磁石体内部に効率よく拡散させることができる。従って、焼結磁石体の表層領域においても重希土類元素RHが主相粒内部に拡散することが抑制され、Brを実質的に低下させずにHcJを向上させたR−T−B系焼結磁石を製造することができる。また、効率よく拡散できるため、重希土類元素RHの使用量を削減することもできるという効果を奏することができる。
一方、RH供給面6の大きさが、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9を基準平面に投影した領域の範囲よりも広い場合、すなわち、図8におけるL2×S2の範囲よりも広い場合は、上記の本発明の効果が十分得られないこととなる。
図13は、図1において、RH供給面6の大きさを、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9を基準平面に投影した領域の範囲よりも大きくした場合を模式的に示す説明図である。図13においては、収束部材などを用いていないため、RH供給面6はRH供給源5の上面そのものとなっており、RH供給源5から直接重希土類元素RHを供給する。
図13に示す製造装置を用い、処理装置2内を減圧雰囲気として、回転装置4によって処理容器3を回転させ処理容器3内の複数個のR−T−B系焼結磁石9を撹拌する。そして、処理容器3内に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石9を加熱装置7によって加熱するとともに、RH供給源5を加熱装置17によって加熱し、重希土類元素RHを蒸発させる。
図13において、点線及び一点鎖線は蒸発した重希土類元素RHの蒸気の動きを示す。蒸発した重希土類元素RHの蒸気はある程度の直進性を有しているため、RH供給面6と処理容器3が対向している部分では、図中点線にて示すように、処理容器3の開口部8からR−T−B系焼結磁石9に重希土類元素RHの蒸気が供給される。しかし、RH供給面6と処理容器3が対向していない部分では、図中一点鎖線にて示すように、重希土類元素RHの蒸気は処理装置2内に放出されることとなる。また、RH供給面6と処理容器3が対向している部分でも、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9が開口部8から露出している範囲以外の部分、すなわち、図8におけるL2×S3の範囲に供給された重希土類元素RHの蒸気は処理容器3の開口部8を通過して処理装置2内に放出されることとなる。
処理装置2内に放出された重希土類元素RHの蒸気は、図13において一点鎖線で示すように、処理装置2内の加熱装置7に当たって反射したり、あるいは加熱装置7のない部分では処理装置2に当たって反射されたりして、処理容器3のRH供給面6との対向面とは逆の方向、すなわち、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9が回転方向に徐々に高く持ち上げられ、雪崩落ちるような状態で落下している最中にも重希土類元素RHの蒸気が供給されることとなる。
上記の通り、本発明においては、重希土類元素RHの供給と重希土類元素RHの拡散が同時に進行している状態と、重希土類元素RHの拡散のみが行なわれている状態が繰り返されることにより、上記本発明の効果を奏することができるが、図13のように、RH供給面6の大きさを、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9を基準平面に投影した領域の範囲よりも大きくした場合は、RH供給面6の対向面付近を移動している時に加えて、それ以外の場所を移動している時にも重希土類元素RHが供給されることなり、これによって重希土類元素RHの供給量が過多となって、本発明の効果が損なわれることとなる。
RH供給源5と、RH供給源5(RH供給面6)に対向するR−T−B系焼結磁石9と離間距離は、300mm以下であることが好ましい。300mmを超えると、処理容器3内のR−T−B系焼結磁石9への重希土類元素RHの供給量が少なくなるため好ましくない。また、300mmを超えると、処理容器3内に挿入されたR−T−B系焼結磁石9を基準平面に投影した領域の範囲以外の部分にも重希土類元素RHが供給されることとなり、上述した本発明の効果が損なわれることとなる。
(2)製造装置の実施形態2
次に、本発明の製造装置の他の実施形態(実施形態2)を図面に基づき説明する。
図14及び図15は、本発明に係るR−T−B系焼結磁石の製造装置の一例を模式的に示す説明図であり、図14は製造装置の断面図、図15は製造装置の上面図である。各図において同じ部分には同じ符号を付している。
図14及び図15に示す本発明のR−T−B系焼結磁石の製造装置31は、処理装置32内に、処理容器33と、RH供給源35と、加熱装置37、47を有している。処理容器33は開口部38を有しており、内部に複数個のR−T−B系焼結磁石39が挿入されている。処理容器33内には複数個のR−T−B系焼結磁石39を撹拌するための撹拌羽根52が配置されている。撹拌羽根52は回転軸に固定されており、回転軸は処理装置32外に設置される回転装置34に接続されている。RH供給源35は、そのRH供給面36が処理容器33の開口部38に向くようにして保持部材40によって固定されている。加熱装置37は処理容器33を、加熱装置47はRH供給源35を加熱するように配置されている。各構成部材について以下に詳述する。
処理装置32には、処理装置32内部のガスを排出する真空排気装置(図示せず)と処理装置32内部に不活性ガスを導入する不活性ガス導入装置(図示せず)を備えている。処理装置32には、一般に工業的に使用されている熱処理炉などを用いることができる。また、加熱処理装置を備えていない形態の処理装置32を、一般的な熱処理炉内に収容して使用してもよい。後者の場合、処理装置32は密閉せずに、処理装置32内の真空排気、不活性ガス導入は熱処理炉に付属する真空排気装置、不活性ガス導入装置で行うことができる。なお、熱処理炉を使用する場合でも、熱効率を向上させるために、処理装置32内に加熱装置37、47を配置し、さらに処理装置32内壁に断熱材を配置するなどの構成としてもよい。
処理容器33は上部に開口部38を有するボウル状をなしており、複数個のR−T−B系焼結磁石39を挿入することができるようになっている。処理容器33には一般的に用いられている耐熱性の材料などを選定することができる。
RH供給源35は、処理容器33の開口部38の上部に配置される。RH供給源35において、重希土類元素RHは上記図1に示す製造装置にて用いた重希土類元素RHと同様の金属あるいは合金である。RH供給源35の形状は特に限定されないが、塊状(バルク体)であることが好ましい。図14においては、平板状のDyメタルを用いている。
RH供給源35は、保持部材40により固定されていることが好ましい。図14では、下向きに重希土類元素RHを供給できるようにボルトとナットでRH供給源35を固定しているが、RH供給源35を固定することできれば、固定方法は特に限定されない。また、複数の保持部材40にRH供給源35を分けて配置してもよい。保持部材40の形状、個数などは特に限定されない。さらに、保持部材40の材質も特に限定されない。一般的に用いられている耐熱性の材料などを選定することができる。
RH供給源35は、RH供給面36を備えている。図14においては、RH供給源35の下面そのものがRH供給面36となっている。つまり、収束部材などを介さずにRH供給源35から直接重希土類元素RHを供給する構成となっている。
収束部材は、上記図1に示す製造装置にて用いた収束部材を転用することができる。すなわち、保持部材40にRH供給面36を設けたような構成や、保持部材40とは別部材として、角錐状や円錐状に収束させてRH供給面36を設けた収束部材を配置する構成などを採用することができる。
RH供給源35は、そのRH供給面36が処理容器33の開口部38と対向するように配置される。従って、処理容器33に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石39は、開口部38を介して、RH供給源35のRH供給面36と対向する。そして、RH供給面36は、処理容器33内に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲よりも小さくなっている。
本構成の製造装置31は、上記図1に示す製造装置と同様に、RH供給面36の大きさを、処理容器33内に挿入されたR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲よりも小さくすることを特徴とする。
図14及び図15に示す構成の製造装置31では、処理容器33の開口部38は、処理容器33のRH供給面36との対向面の断面積に相当する。従って、RH供給面36の大きさを、処理容器33の前記断面積よりも小さくなるように構成する。
RH供給面36は、収束部材を用いない場合は、RH供給源35の下面そのものがRH供給面36となり、RH供給源35から直接重希土類元素RHを供給する。従って、RH供給源35の大きさを、処理容器33内に挿入されたR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲より小さくなるように構成する。
保持部材40にRH供給面36を設けたような構成や、保持部材40とは別部材としてRH供給面36を規定する開口部を設けた収束部材を配置する構成の場合、RH供給面36の大きさが、処理容器33内に挿入されたR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲より小さくなるように構成されていれば、RH供給源35の大きさは特に限定されない。
このように、本発明の好ましい実施形態では、RH供給面36の大きさが、処理容器33内に挿入されたR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲より小さくなるように構成されている。RH供給源35と、RH供給源35(RH供給面36)に対向するR−T−B系焼結磁石39と離間距離が後述するように300mm以下であれば、RH供給源35が処理容器33から離れていても本発明の効果を十分に得ることができる。例えば、RH供給源35とRH供給源35を加熱する加熱装置47を処理装置32外に配置し、処理装置32外から収束部材や連通部材を通じて重希土類元素RHを処理装置32内に送り込み、収束部材や連通部材のRH供給面36から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石39に供給することも可能である。
加熱装置37、47は、処理容器33及びRH供給源35を加熱するために配置される。図14では、加熱装置37は処理容器33、すなわち処理容器33内のR−T−B系焼結磁石39を、加熱装置47はRH供給源35を加熱するように配置されている。図14のように配置することにより、処理容器33とRH供給源35をそれぞれ独立して加熱することができる。例えば、処理容器33内のR−T−B系焼結磁石39の温度を950℃以下で、RH供給源35は950℃を超える温度で加熱するような場合に好都合である。
加熱装置は図14に示される構成に限定されるものではない。一つの加熱装置で処理容器33とRH供給源35を同時に加熱したり、あるいは、一つの加熱装置で処理容器33とRH供給源35を同時に加熱できるようにするとともに、RH供給源35のみを加熱することができる加熱装置をさらに配置するような構成としてもよい。加熱装置37、47は、加熱対象に応じて温度調節範囲が設定できればよく、例えば、650℃〜1200℃の範囲で温度調節できるものであれば、装置の構成などは特に限定されない。例えば、一般に工業的に使用されている加熱装置などを用いることができる。
処理容器33内に挿入される複数個のR−T−B系焼結磁石39には、公知のR−T−B系焼結磁石を適用することができる。
処理容器33内に配置される、複数個のR−T−B系焼結磁石39を撹拌するための撹拌羽根52は、処理容器33内のR−T−B系焼結磁石39を撹拌することができれば、図14に示される形状に限定されず、公知の撹拌装置や混合装置などに使用されているものを適用することができる。また、撹拌羽根52を回転させる回転装置34も、撹拌羽根52を回転させることができれば、構成、機構、位置などは特に限定されない。
図14及び図15に示すR−T−B系焼結磁石の製造装置31を用い、処理装置32内を減圧雰囲気として、回転装置34によって撹拌羽根52を回転させ、処理容器33内の複数個のR−T−B系焼結磁石39を撹拌する。そして、処理容器33内に挿入された複数個のR−T−B系焼結磁石39を加熱装置37によって加熱するとともに、RH供給源35を加熱装置47によって加熱し、重希土類元素RHを蒸発させる。RH供給面36の大きさは、処理容器33内に挿入されたR−T−B系焼結磁石39を基準平面に投影した領域の範囲よりも小さくなっているので、蒸発した重希土類元素RHの蒸気はRH供給面36から開口部38を介してR−T−B系焼結磁石39の対向面に供給される。
R−T−B系焼結磁石39は撹拌羽根52によって撹拌されているため、絶えず処理容器33内を移動することとなる。従って、R−T−B系焼結磁石39に重希土類元素RHの蒸気が供給されるのは、RH供給面36の対向面付近を移動している時だけであり、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHが供給されない。つまり、RH供給面36の対向面付近を移動している時だけ重希土類元素RHの供給と重希土類元素RHの拡散が同時に進行しており、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHの拡散のみが行なわれることとなる。
このように、本発明によれば、重希土類元素RHの拡散のみが行われる状態が存在するため、RHの供給量が過多となっても、R−T−B系焼結磁石表面に供給された重希土類元素RHを焼結磁石体内部に効率よく拡散させることができる。従って、焼結磁石体の表層領域においても重希土類元素RHが主相粒内部に拡散することが抑制され、Brを実質的に低下させずにHcJを向上させたR−T−B系焼結磁石を製造することができる。また、効率よく拡散できるため、重希土類元素RHの使用量を削減することもできるという効果を奏することができる。
(3)製造方法の実施形態
以下に、本発明の製造方法を説明する。本発明の製造方法は、上述した本発明の製造装置(実施形態1及び2)を用いることが好ましいが、本発明の製造方法を実施できるのであれば、製造装置は特に限定されるものではない。なお、以下の説明においては、主として、実施形態1の製造装置を用いた場合を示す。
まず、複数個のR−T−B系焼結磁石を準備する(工程A)。R−T−B系焼結磁石には、公知のR−T−B系焼結磁石を用いる。好ましい実施形態において、準備したR−T−B系焼結磁石は、少なくとも1つの開口部を有する処理容器の中に挿入する。処理容器が製造装置から着脱できる場合は、処理装置外にてR−T−B系焼結磁石を処理容器に挿入した後、処理容器を処理装置内に設置する。処理容器としては、実施形態1の製造装置にて用いた筒状容器などを用いることができる。
好ましい実施形態において、処理容器の外周面は、パンチングメタルや金網のようなもので形成されている。パンチングメタルの場合はパンチングメタルに設けられた複数の穴が開口部として機能し、金網の場合は金網の網目が開口部として機能する。開口部の開口率は40%以上であることが好ましい。40%未満では、処理容器内のR−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給量が少なくなるため好ましくない。一方、開口率が100%に近くなりすぎると、処理容器の強度が低下する可能性がある。したがって、開口率40%以上で、処理容器自体の強度並びに挿入される複数個のR−T−B系焼結磁石の大きさ、重量などに応じて決定されることが好ましい。
次に、RH供給源を準備する(工程B)。RH供給源は、上述した製造装置の実施形態にて説明したものを用いる。ここでは、板状のDyメタルを用い、Dyメタルは皿状の保持部材に載置する。保持部材が処理装置から着脱できる場合は、処理装置外にてRH供給源を保持部材に載置した後、処理装置内に設置する。もちろん、処理装置がRH供給源を直接設置できる構造になっている場合、保持部材は不要である。
保持部材上にRH供給源を載置した場合は、RH供給源の上面そのものがRH供給面となっている。つまり、収束部材などを介さずにRH供給源から直接重希土類元素RHを供給する構成となる。収束部材を用いる場合は、保持部材にRH供給面の形状および位置を規定する開口部を設けた構成を採用してもよい。また、保持部材とは別に、RH供給面の形状および位置を規定する開口部を有する収束部材を設けることができる。
次に、RH供給源が複数個のR−T−B系焼結磁石の一部に対向し、かつ離間した状態で、複数個のR−T−B系焼結磁石とRH供給源とを配置する(工程C)。好ましい実施形態において、この工程Cは、少なくとも1つの開口部を有する処理容器の中に複数個のR−T−B系焼結磁石を挿入する工程c1と、処理容器の外部にRH供給源を配置し、処理容器の開口部を介して、RH供給源を複数個のR−T−B系焼結磁石の一部に対向させる工程c2とを含む。このとき、RH供給源の上面の大きさ、すなわち、RH供給面の大きさを、処理容器内に挿入されたR−T−B系焼結磁石の基準平面に対する投影領域の範囲より小さくなるように構成することが好ましい。
その後、減圧雰囲気中において、相互に離間した状態にある複数個のR−T−B系焼結磁石およびRH供給源を加熱し、RH供給源から重希土類元素RHを蒸発させ、重希土類元素RHの蒸気をRH供給源と対向する複数個のR−T−B系焼結磁石の一部の対向面に供給することによって、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散を同時行う(工程D)。
また、この減圧雰囲気中において、複数個のR−T−B系焼結磁石とRH供給源を離間及び加熱した状態で互いの配置関係を変化させ、複数のR−T−B系焼結磁石の一部の対向面とは異なる他の一部の対向面に重希土類元素RHの蒸気を供給することによって、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給とR−T−B系焼結磁石内部への重希土類元素RHの拡散を同時に行うとともに、工程Dにて磁石内部に拡散された重希土類元素RHをさらに拡散させる(工程E)。
好ましい実施形態において、工程D及び工程Eは、処理容器の運動によってRH供給源に対する複数個のR−T−B系焼結磁石の配置関係を変化させながら実行する。また、他の好ましい実施形態において、工程Dおよび工程Eは、RH供給源に対する複数個のR−T−B系焼結磁石の配置関係を変化させながら実行し、その配置関係は、RH供給源から見たとき、複数個のR−T−B系焼結磁石に含まれる一部のR−T−B系焼結磁石の陰に他のR−T−B系焼結磁石が位置するようにして変化させられる。さらに他の好ましい実施形態において、複数個のR−T−B系焼結磁石に含まれる各々のR−T−B系焼結磁石の表面のうちで前記RH供給源から蒸発した前記重希土類元素RHの蒸気が供給される領域が、配置関係の変化に伴って変化する。
前記工程D及び工程Eにおいて、実施形態1の製造装置を用いる場合、加熱装置により処理容器を加熱することにより処理容器内のR−T−B系焼結磁石を加熱するとともに、回転装置によって処理容器を回転させて処理容器内のR−T−B系焼結磁石を撹拌する。また、処理容器の加熱及び回転と同時、あるいは処理容器を加熱及び回転させた後、加熱装置によってRH供給源を加熱する。なお、処理容器内のR−T−B系焼結磁石の撹拌は、処理容器を回転させてもよいし、振動、揺動させてもよい。また、処理容器内部にじゃま板を配置した処理容器を回転させることによって撹拌してもよい。さらに、処理容器内に撹拌羽根を配置して、処理容器は回転させずに固定したままで、撹拌羽根を回転させて処理容器内のR−T−B系焼結磁石を撹拌してもよい。
また、前記工程D及び工程Eにおいて、工程中の雰囲気は減圧雰囲気である。好ましい実施形態において、減圧雰囲気は10-3Pa〜10Paである。減圧雰囲気にするには、例えば、真空排気装置により製造装置内のガスを排出して減圧雰囲気とする。その場合、大気から直接当該減圧雰囲気にしてもよいし、不活性ガスにて置換を行いながら当該減圧雰囲気にしてもよい。また、真空排気装置(例えば油拡散ポンプなど)にて高真空雰囲気にした後、不活性ガスで当該減圧雰囲気に調整するなどの方法を採用することができる。
上記工程によって、RH供給源を加熱することによって蒸発した重希土類元素RHの蒸気を、RH供給面から、処理容器内の複数のR−T−B系焼結磁石の一部の対向面に供給することができる。
そのため、R−T−B系焼結磁石がRH供給面に対向する領域を移動している時にだけ重希土類元素RHが供給され、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHが供給されない。つまり、RH供給面に対向する領域付近を移動している時だけ重希土類元素RHの供給と重希土類元素RHの拡散が同時に進行しており、それ以外の場所を移動している時は重希土類元素RHの拡散のみが行なわれることとなる。
従って、「RH供給」が断続的に行われた状態でR−T−B系焼結磁石が加熱されるため、重希土類元素RHの供給量と拡散量とを適切に調整することが可能になる。その結果、R−T−B系焼結磁石の表面に重希土類元素RHが過剰に供給されるという従来の問題が解決し、焼結磁石体の表層領域においても、重希土類元素RHが主相粒内部に拡散することが抑制され、Brを実質的に低下させずにHcJを向上させることができる。
また、本発明によれば、筒状やボウル状の処理容器を用いることができるため、一度に大量のR−T−B系焼結磁石に蒸着拡散できるとともに、R−T−B系焼結磁石を配置するための工数を削減できるなど生産性を向上させることができる。
さらに、本発明によれば、筒状やボウル状の処理容器にR−T−B系焼結磁石を挿入できるので、R−T−B系焼結磁石の配置位置や保持部材や載置部に起因するHcJのばらつきが低減された、HcJの均一性に優れたR−T−B系焼結磁石を製造することができる。
さらに、本発明によれば、効率よくR−T−B系焼結磁石に重希土類元素RHを蒸着拡散できるので、重希土類元素RHの使用量を削減することができる。
本発明の製造方法において、加熱工程は、処理容器とRH供給源を同時に加熱したり(以下「同時加熱」という)、処理容器とRH供給源をそれぞれ別々に加熱したり(以下「別加熱」という)することができる。また、処理容器内に挿入されるR−T−B系焼結磁石の量を多くした場合、あるいは蒸気圧が高いRH供給源を使用する場合などは、第1の加熱装置で処理容器とRH供給源を同時に加熱するとともに補助的に第2の加熱装置を用いてRH供給源のみを強加熱(以下「併用加熱」という)することもできる。
加熱温度は、同時加熱の場合、処理容器内のR−T−B系焼結磁石とRH供給源が800℃〜950℃になるように加熱することが好ましい。別加熱の場合はR−T−B系焼結磁石が800℃〜950℃、RH供給源が650℃〜1200℃になるように加熱することが好ましい。併用加熱の場合は、第1の加熱装置によって、処理容器内のR−T−B系焼結磁石とRH供給源を800℃〜950℃になるように加熱し、第2の加熱装置によって、RH供給源のみを650℃〜1200℃に加熱することが好ましく、特にRH供給源のみを強加熱する場合は、RH供給源が950℃を超え1200℃以下になるように加熱することが好ましい。
R−T−B系焼結磁石の加熱温度が800℃未満では、R−T−B系焼結磁石に重希土類元素RHを効率的に拡散導入することができず、950℃を超えるとR−T−B系焼結磁石が粒成長し磁石特性が低下するため好ましくない。また、RH供給源を別に加熱する場合、650℃未満では効率的な重希土類元素RHの供給ができず、1200℃を超えるとRH供給源が溶けてしまうおそれがあるため好ましくない。加熱温度は、使用するRH供給源の種類あるいは処理雰囲気に応じて最適な温度を適宜選定することが好ましい。
本発明においては、重希土類元素RHの拡散のみが行われる状態が存在するため、重希土類元素RHの供給量が過多となっても、R−T−B系焼結磁石表面に供給された重希土類元素RHを焼結磁石体内部に効率よく拡散させることができる。例えば、RH供給源としてDyメタルを用いる場合、雰囲気を一定とすると、温度が高い方がより蒸発しやすい。従って、R−T−B系焼結磁石は800℃〜950℃の範囲で加熱しておき、上記の別加熱や併用加熱によって、Dyメタルのみを比較的高温で加熱して重希土類元素RHの供給量を過多状態にすることにより、蒸着拡散処理の時間を短縮することができるなどの効果を得ることができる。
一方、低温でも蒸発しやすいRH供給源の場合は、R−T−B系焼結磁石は800℃〜950℃の範囲で加熱しておき、上記の別加熱によって、RH供給源を比較的低温で加熱することにより、効率よく拡散することができるなどの効果を得ることができる。
本発明の製造方法において、処理容器を回転させることによりR−T−B系焼結磁石を撹拌する場合、すなわち、図1に示すような筒状容器を用いる場合、処理容器の回転数は0.2〜1rpmであることが好ましい。0.2rpm未満及び1rpmを超えるとR−T−B系焼結磁石を効率よく撹拌することが困難となる。撹拌羽根を回転させることによりR−T−B系焼結磁石を撹拌する場合は、処理容器の大きさ、撹拌羽根の形状及び大きさなどにより、撹拌羽根の最適な回転数を選定することが好ましい。
本発明の製造方法において、R−T−B系焼結磁石は、処理容器の内部空間の20〜50体積%(但し、R−T−B系焼結磁石間の空隙は除く)の部分に収容されることが好ましい。また、形状や大きさに応じて個数を調整して挿入することが好ましい。さらに、挿入する複数個のR−T−B系焼結磁石の総表面積M1とRH供給源のRH供給面の面積M2の比率M1/M2が20〜400となるように、R−T−B系焼結磁石の個数、形状、大きさに応じて、RH供給源のRH供給面の面積を選定することが好ましい。但し、RH供給面の大きさは、上記の通り、複数個のR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の範囲よりも小さくすることが好ましい。
本発明の製造方法において、RH供給源と、RH供給源(RH供給面)に対向するR−T−B系焼結磁石との離間距離は、300mm以下であることが好ましい。300mmを超えると、処理容器内のR−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給量が少なくなるため好ましくない。また、300mmを超えると、処理容器内に挿入されたR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の範囲以外の部分にも重希土類元素RHが供給されることとなり、上述した本発明の効果が損なわれることとなる。
本発明の製造方法において、上記工程の後、R−T−B系焼結磁石に対して熱処理を施してもよい。好ましい態様としては、700℃〜1000℃で1時間〜12時間の熱処理を行う第1の熱処理と、400℃〜700℃で1時間〜6時間の熱処理を行なう第2の熱処理の組合せが挙げられる。この熱処理によれば、第1の熱処理は上記工程によって焼結磁石内に拡散導入された重希土類元素RHを磁石内部に向かって全体的により均質に拡散させることができ、第2の熱処理は焼結磁石の磁石特性を向上させることができる。なお、第1の熱処理と第2の熱処理はいずれか一方のみでもかまわない。
第1の熱処理及び第2の熱処理は、上記工程後、上記工程と同じ雰囲気のままで、RH供給源の加熱をせずに、つまり、R−T−B系焼結磁石に重希土類元素RHを供給しないで、R−T−B系焼結磁石のみを加熱することによって行なうことができる。この時、処理容器は運動(回転)の要否は問わない。あるいは、上記工程を終了し、R−T−B系焼結磁石を処理容器から回収した後、別の熱処理炉で非酸化性雰囲気中において熱処理してもかまわない。
実施例1
焼結体の組成がNd19.3Pr5.7Dy4.3B0.95Co2.0Al0.15Cu0.1Ga0.08残部Fe(mass%)からなるR−T−B系焼結磁石を準備した。R−T−B系焼結磁石の寸法は5×15×25(mm)、表面積は1150mm2、体積は1875mm3であった。また、R−T−B系焼結磁石の磁石特性は、Br=1.35T、HcJ=1750kA/mであった。
実験には図1に示す製造装置を用いた。処理容器として表1に示す2種類の大きさの円筒状容器を用意した。いずれもの処理容器も外周面はパンチングメタルからなり、直径8mmの複数の円形の穴が設けられており、開口部の開口率は58%である。この処理容器内に前記R−T−B系焼結磁石を40体積%挿入した。
RH供給源には表1に示す種々の大きさの板状のDyメタルを用意した。RH供給源は皿状の保持部材に載置した。収束部材は使用しなかった。従って、RH供給源の上面そのものがRH供給面となり、RH供給源の上面から直接重希土類元素RHを供給する構成となっている。
R−T−B系焼結磁石が挿入された処理容器と、RH供給源を載置した保持部材を処理装置内に設置した。設置に際しては、図8及び図9(b)に示すように、処理容器が回転している際に、処理容器内に挿入されたR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域(図8のL2×図9(b)のS2の範囲)に重希土類元素RHの蒸気が供給されるようにRH供給面(RH供給源)を対向配置した。また、RH供給面(RH供給源)とRH供給面(RH供給源)に対向するR−T−B系焼結磁石は表1に示す距離になるように配置した。
処理装置の蓋を閉め、処理装置内を真空排気装置で真空引きし、処理装置内の圧力を10-2Paにした後、加熱装置によってR−T−B系焼結磁石の温度が900℃となるように処理容器を加熱するとともに、処理容器を回転装置により0.5rpmで回転させ、処理容器内のR−T−B系焼結磁石を撹拌した。同時に、加熱装置によってRH供給源を1050℃となるように加熱することによって蒸着拡散処理を6時間行った。処理後のR−T−B系焼結磁石の磁石特性を表2に示す。
表1において、直径[S1]は処理容器の直径(図9(b)の図中S1と同じ)、範囲[S2]は処理容器が回転している際にR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の処理容器の直径方向の寸法(図9(a)の図中S2と同じ)、長さ[L1]は処理容器の長さ(図8の図中L1と同じ)、長さ[L2]は処理容器が回転している際にR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の処理容器の長さ方向の寸法(図8の図中L2と同じ)、面積A1は前記[S1]と[L1]の積、面積A2は前記[S2]と[L2]の積である。
また、表1において、RH供給面の縦、横とは、本実施例の場合、収束部材を使用していないので、板状RH供給源の縦と横の寸法と同じである。面積A3は前記縦寸法と横寸法の積である。距離はRH供給面とRH供給面に対向するR−T−B系焼結磁石との距離を示す。
表2において、ΔHcJは、処理前のR−T−B系焼結磁石の保磁力(1750kA/m)と処理後の保磁力の差分を示す。またRH供給源歩留とは、処理前後のRH供給源の重量の差分と、処理後のR−T−B系焼結磁石において拡散導入された重希土類元素RHの重量(成分分析による測定結果)との比率を示す。
表2に示す通り、好ましい実施形態によるR−T−B系焼結磁石は、処理前のR−T−B系焼結磁石に対して、残留磁束密度Brを低下させずに、保磁力HcJが大幅に向上していることが分かる。また、処理容器とRH供給面との距離が比較的長い試料No.3及びNo.8、あるいはRH供給面の大きさが前記面積A2よりも大きい試料No.11及びNo.12に比べて保磁力HcJが向上していることが分かる。
実施例2
実施例1と同じR−T−B系焼結磁石を用いて、図14に示す製造装置にて処理を行った。処理容器として表3に示す大きさの円筒状容器を用意した。この処理容器内に前記R−T−B系焼結磁石を40体積%挿入した。RH供給源には表3に示す3種類の大きさの板状のDyメタルを用意した。RH供給源は皿状の保持部材にボルトで固定した。収束部材は使用しなかった。従って、RH供給面はRH供給源の下面の大きさと等しくなっている。
R−T−B系焼結磁石が挿入された処理容器と、RH供給源を固定した保持部材を処理装置内に設置した。設置に際しては、図14に示すように、処理容器内のR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の範囲よりも小さい範囲に重希土類元素RHの蒸気が供給されるようにRH供給面(RH供給源)を対向配置した。また、RH供給面(RH供給源)とRH供給面に対向するR−T−B系焼結磁石の距離は、表3に示す距離になるように配置した。
処理装置の蓋を閉め、処理装置内を真空排気装置で真空引きし、処理装置内の圧力を10-2Paにした後、加熱装置によってR−T−B系焼結磁石の温度が900℃となるように処理容器を加熱するとともに、撹拌羽根を回転装置により回転させ、処理容器内のR−T−B系焼結磁石を撹拌した。同時に、加熱装置によってRH供給源を1050℃となるように加熱することによって蒸着拡散処理を6時間行った。処理後のR−T−B系焼結磁石の磁石特性を表4に示す。
表3において、直径は処理容器の内径寸法であり、面積A4はRH供給源との対向面の断面積、すなわち、処理容器内のR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域の面積である。RH供給面の縦、横の寸法、面積A5及び距離の定義は実施例1と同様である。また、表4における、ΔHcJ、RH供給源歩留の定義も実施例1と同様である。
表4に示す通り、好ましい実施形態によるR−T−B系焼結磁石は、処理前のR−T−B系焼結磁石に対して、残留磁束密度Brを低下させずに、保磁力HcJが大幅に向上していることが分かる。また、処理容器とRH供給面との距離が比較的長い試料No.15に比べて保磁力HcJが向上していることが分かる。このように、図14の製造装置を用いても、図1の製造装置と用いた場合と同様の効果を奏することができる。
実施例3
焼結体の組成がNd30.3Dy0.5B1.0Co0.9Al0.2Cu0.1残部Fe(mass%)からなるR−T−B系焼結磁石を準備した。R−T−B系焼結磁石の寸法は3×20×25(mm)、表面積は12.7cm2、体積は1.5cm3であった。また、R−T−B系焼結磁石の磁石特性は、Br=1.40T、HcJ=1030kA/mであった。
実験には図1に示す製造装置を用いた。処理容器は実施例1の試料No.4の処理に用いたものと同じものを用いた。この処理容器内に表5に示す磁石挿入量となるように前記R−T−B系焼結磁石を挿入した。RH供給源は実施例1の試料No.4の処理に用いたものと同じものを用いた。但し試料No.27はDyメタルの代わりにDy80Fe20(mass%)合金を、試料No.28はDyメタルの代わりにTbメタルを使用した。
R−T−B系焼結磁石が挿入された処理容器と、RH供給源を載置した保持部材を処理装置内に設置した。設置に際しては、図8及び図9(b)に示すように、処理容器が回転している際に、処理容器内に挿入されたR−T−B系焼結磁石を基準面(RH供給面を含む平面)に投影した領域(図8のL2×図9(b)のS2の範囲)に重希土類元素RHの蒸気が供給されるようにRH供給面(RH供給源)を対向配置した。また、RH供給面(供給源)とRH供給面(供給源)に対向するR−T−B系焼結磁石の距離は実施例1の試料No.4と同じ距離になるように配置した。
処理装置の蓋を閉め、処理装置内を真空排気装置で真空引きし、処理装置内を表5に示す圧力にした後、加熱装置によってR−T−B系焼結磁石を表5に示す温度となるように処理容器を加熱するとともに、処理容器を回転装置により0.5rpmで回転させ、処理容器内のR−T−B系焼結磁石を撹拌した。同時に、加熱装置によってRH供給源を表5に示す温度となるように加熱することによって表5に示す処理時間で蒸着拡散処理を行った。蒸着拡散処理後、表5に示す条件で第1の熱処理を行なった。処理後のR−T−B系焼結磁石の磁石特性を表6に示す。
表5において、M1は処理容器内に挿入した複数個のR−T−B系焼結磁石の総表面積、M2はRH供給面の面積を示す。表6において、ΔHcJは、処理前のR−T−B系焼結磁石の保磁力(1030kA/m)と処理後の保磁力の差分を示す。また、RH供給源歩留とは、処理前後のRH供給源の重量の差分と、処理後のR−T−B系焼結磁石において拡散導入された重希土類元素RHの重量(成分分析による測定結果)との比率を示す。
表6に示す通り、好ましい実施形態によるR−T−B系焼結磁石は、処理前のR−T−B系焼結磁石に対して、残留磁束密度Brを低下させずに、保磁力HcJが大幅に向上していることが分かる。これに対して、試料No.20は、RH供給源の加熱温度が比較的高いため重希土類元素RHの供給量が過多となって好ましい実施形態に比べて残留磁束密度Brが低下しており、また、R−T−B系焼結磁石の挿入量が比較的少ないためRH供給源の歩留が低下している。また、処理容器内の空隙が比較的少ない、つまりR−T−B系焼結磁石の挿入量が比較的多い試料No.21は、R−T−B系焼結磁石の撹拌不足により、保磁力HcJにばらつきが生じていた。つまり、表6に示すように保磁力HcJが低いものと、保磁力HcJが高いものとが混在していた。さらに、処理雰囲気の圧力が比較的高い試料No.26は、保磁力HcJがほとんど向上していないことが分かる。
また、表6に示す通り、RH供給源としてDy80Fe20(mass%)合金(試料No.27)あるいはTbメタル(試料No.28)を使用しても、Dyメタルを用いた場合と同様の効果を奏することができる。
実施例4
図1に示す製造装置により、実施例3と同じR−T−B系焼結磁石を用いて、処理容器の外周面の形状と処理容器の回転数を表7に示すように変化させる以外は、実施例1の試料No.4と同じ条件にて実験を行い、RH供給源の歩留と処理後のR−T−B焼結磁石のカケ発生率を調査した。その結果を表7に示す。
表7に示す通り、開口率が比較的低い場合、あるいは、開口部の大きさが比較的小さな場合は、重希土類元素RH供給量の歩留が低下することが分かる。また、処理容器の回転数が多い場合はカケ発生率が高くなることが分かる。
このように、本発明によれば、実施例1〜4に示すように、RH供給源の歩留まりが50%以上であり、重希土類元素RHを効率よくR−T−B系焼結磁石体内部に拡散させることができる。