JP6432418B2 - 拡散処理装置およびそれを用いたr−t−b系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

拡散処理装置およびそれを用いたr−t−b系焼結磁石の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、拡散処理装置およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法に関し、特に、軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有し、かつ、軽希土類元素RLの一部が重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)によって置換されているR214B型化合物(Rは希土類元素、TはFeを含む遷移金属元素)を主相として有するR−T−B系焼結磁石の製造方法に好適に用いられる拡散処理装置に関する。
Nd2Fe14B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。Ndの一部または全部は他の希土類元素Rに置き換えられても良く、Feの一部は他の遷移金属元素に置き換えられても良いため、Nd2Fe14B型化合物は、R214B型化合物と表現される場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)に置き換えられ得る。
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力が低下するため、高温暴露により減磁する不可逆減磁が起こる。不可逆減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。これを満足するためには、常温での保磁力を高めるか、もしくは要求温度までの保磁力変化を小さくする必要がある。
214B型化合物相中の軽希土類元素RLであるNdを重希土類元素RH(主にDy、Tb)で置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石用の原料合金中に重希土類元素RHを多く添加することが有効であると考えられてきた。しかし、R−T−B系焼結磁石において、軽希土類元素RL(Nd、Pr)を重希土類元素RHで置換すると、保磁力が向上する一方、残留磁束密度が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
そこで、近年、残留磁束密度を低下させないように、より少ない重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石の保磁力を向上させることが検討されている。本願出願人は、既に特許文献1において、R−Fe−B系合金の焼結磁石片の表面にDy等の重希土類元素RHを供給しつつ、重希土類元素RHを焼結磁石片の内部に拡散させる(以下「蒸着拡散」という)方法を開示している。
特許文献1の方法では、処理室内において、R−T−B系焼結磁石片と重希土類元素RHからなるRHバルク体とを離間して配置する必要があるため、配置のための工程に手間がかかり、量産性に劣るという問題がある。また、DyやTbの供給が昇華によってなされるため、R−T−B系焼結磁石片への拡散量を増加してより高い保磁力を得るには長時間を要する場合がある。
そこで、本願出願人は、特許文献2に、R−T−B系焼結磁石片を準備する工程と、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)の金属または合金からなるRH拡散源を準備する工程と、R−T−B系焼結磁石片とRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、R−T−B系焼結磁石片とRH拡散源とを処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、500℃以上850℃以下の熱処理を10分以上行うRH拡散工程とを包含する、R−T−B系焼結磁石の製造方法を開示した。
特許文献2の方法によれば、500℃以上850℃以下という温度にも関わらず、RH拡散源がR−T−B系焼結磁石片と近接または接触するため、RH拡散源から重希土類元素RHが供給され、粒界を通じてその内部に拡散することができる。
本願出願人は、さらに、特許文献3に、希土類元素の含有量によって定義されるR量が31質量%以上37質量%以下であるR−T−B系焼結磁石片を準備する工程と、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有するRH拡散源を準備する工程と、焼結磁石片とRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、焼結磁石片とRH拡散源とを処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、焼結磁石片およびRH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程とを包含する、R−T−B系焼結磁石の製造方法を開示した。
特許文献3に記載の製造方法によると、R−T−B系焼結磁石片(RH拡散工程実施前の磁石)内部に短時間で重希土類元素RHを拡散し、Brを低下させることなくHcJを向上させることができる。また、700℃以上1000℃以下の広い温度域のRH拡散工程でもR−T−B系焼結磁石片とRH拡散源とが溶着を起こさず、R−T−B系焼結磁石片内部に重希土類元素RHを拡散することができる。
参考のために特許文献2および3の開示内容の全てを本明細書に援用する。
国際公開第2007/102391号 国際公開第2011/007758号 国際公開第2013/108830号
しかしながら、特許文献2および3に記載されている製造装置では、拡散処理のために、焼結磁石片、RH拡散源およびオプショナルな撹拌補助部材(拡散処理において撹拌補助部材は必ずしも必要ではなく、任意で用いることができる)が投入された円筒状の処理室を回転させる際に、回転速度を制限しても、焼結磁石片同士の接触による焼結磁石片の欠けが発生する場合がある、および/または、処理室に投入可能な焼結磁石片の量が少なく、スループットが低いという問題がある。
焼結磁石片同士の接触による焼結磁石片の欠けは、焼結磁石片の投入量が少ないほど多く発生する傾向がある。これは、焼結磁石片の投入量が少ないと円筒状の処理室における「焼結磁石片の見かけの体積充填率」が低く、円筒状の処理室が回転した時に焼結磁石片が移動する距離が大きくなるので、焼結磁石片同士が接触した時の衝撃が大きくなるためと考えられる。ここで、「焼結磁石片の見かけの体積充填率」は、オプショナルな撹拌補助部材を使用するときは、焼結磁石片と撹拌補助部材との合計の見かけの体積充填率のことを言う。なお、RH拡散源は焼結磁石片と撹拌補助部材の隙間に存在し、見かけの体積充填率にはほとんど影響しないので考慮しない。
焼結磁石片同士の接触による焼結磁石片の欠けを抑制するために、焼結磁石片の見かけの体積充填率を高めることが考えられるが、特許文献2および3に記載されている製造装置では、後述するように、円筒状の処理室における焼結磁石片の見かけの体積充填率を40%までしか増やすことができない場合があった。
このように特許文献2および3に記載されている製造装置は焼結磁石の見かけの体積充填率を高くできないので、欠けが発生したり処理室に投入可能な焼結磁石片の量が少なく、スループットが低くなる場合がある。
特に、近年需要が高まっている自動車の動力源用のモータや産業機器用モータに使用される焼結磁石片は、小型で長尺な形状(例えば、長さ30mm×幅10mm×厚さ5mm)を有しており、特に欠けや割れが発生しやすい。また、低価格化の要求は強く、歩留りの向上に加えて、処理室内への焼結磁石片の投入量を増やしスループットを高めることも求められている。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、上記の従来の製造装置よりも焼結磁石片の欠けの発生を低減し、高い量産効率で拡散処理を行うことが可能な拡散処理装置およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することを主な目的とする。
本発明の実施形態による拡散処理装置は、複数のR−T−B系焼結磁石片と、DyまたはTbを含む重希土類元素RHを含むRH拡散源とを受容する処理空間を画定する円筒状の第1壁部と、前記処理空間を長さ方向に延びる3つの処理室に分割する3つの仕切り壁と、前記処理空間の長さ方向の一端に設けられ、前記3つの処理室にそれぞれが対応するよう配置された3つの第1開口部を有する第1蓋と、
前記処理空間の長さ方向の他端に設けられ、前記3つの処理室にそれぞれが対応するよう配置された3つの第2開口部を有する第2蓋と備え、傾斜可能および回転可能に支持された拡散炉と、前記第1壁部の外側に設けられたヒーターとを有する。
ある実施形態において、前記3つの仕切り壁は、隣接する2つの仕切り壁が100°以上の角度をなす様に配置されている。
ある実施形態において、前記3つの第1開口部のそれぞれは、前記処理空間の外縁を下辺とし、前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは前記処理空間の外縁で形成される円の半径の2分の1以下であり、前記3つ処理室のそれぞれを二等分する線と、前記3つの第1開口部を二等分する線とは略一致し、前記3つの開口部のそれぞれが有する2つの側辺のなす角は25°以上55°以下である。
ある実施形態において、前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは、前記処理空間の外縁で形成される円の半径の30%以上50%以下である。
ある実施形態において、前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは、前記処理空間の外縁で形成される円の半径の30%以上40%以下である。
ある実施形態において、前記第2蓋が有する前記3つの第2開口部は、前記第1蓋が有する前記3つの第1開口部と同じ要件を満足する。
ある実施形態において、前記第1蓋の前段に設けられた供給パイプをさらに有し、前記供給パイプの排出口は投入口よりも小さい。
ある実施形態において、前記第2蓋の後段に設けられた冷却部をさらに有し、前記冷却部は、冷却空間を画定する円筒状の第2壁部と、壁部にらせん状に設けられた邪魔板とを有する。
本発明の実施形態によるR−T−B系焼結磁石の製造方法は、希土類元素の含有量によって定義されるR量が29質量%以上40質量%以下であるR−T−B系焼結磁石片を準備する工程と、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含有するRH拡散源を準備する工程と、上記のいずれかに記載の拡散処理装置の前記3つの処理室に、前記焼結磁石片と前記RH拡散源とを投入する工程と、前記焼結磁石片と前記RH拡散源とを前記3つの処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記焼結磁石片および前記RH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程とを包含する。
ある実施形態において、R−T−B系焼結磁石の製造方法は、前記RH拡散源は、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有する。
本発明の実施形態によると、従来の製造装置よりも焼結磁石片の欠けの発生を低減し、高い量産効率で拡散処理を行うことが可能な拡散処理装置およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法が提供される。
本発明の実施形態による拡散処理装置100の模式的な横断面図である。 拡散処理装置100が有する拡散炉20の模式的な断面図である。 拡散炉20が有する第1蓋30aおよび第2蓋30bの模式的な正面図である。 拡散処理装置100が有する冷却部50の模式的な分解斜視図である。 (a)はR−T−B系焼結磁石片1の模式的な斜視図であり、(b)はRH拡散源2の模式的な斜視図であり、(c)は撹拌補助部材3の模式的な斜視図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による拡散処理装置100およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示するものに限られない。図1〜図4を参照して、本発明の実施形態による拡散処理装置100の構造およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態による拡散処理装置100の模式的な横断面図であり、図2は、拡散処理装置100が有する拡散炉20の模式的な断面図である。図3は、拡散炉20が有する第1蓋30aおよび第2蓋30bの模式的な正面図であり、図4は、拡散処理装置100が有する冷却部50の模式的な分解斜視図である。
図1に、本発明の実施形態による拡散処理装置100の模式的な横断面図を示す。拡散処理装置100は、拡散炉20と、拡散炉20の前段に設けられた磁石片の供給部10と、拡散炉20の後段に設けられた冷却部50とを有している。拡散処理装置100は、架台60、油圧シリンダ61およびロール62およびロール62に結合されたモータ(不図示)によって、傾斜可能および回転可能に支持されている。拡散処理装置100によって拡散処理を受ける磁石片は、図1の右から左に移動する。図1における右側を前段、左側を後段ということがある。
拡散処理装置100が有する拡散炉20は、特許文献3に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法におけるRH拡散処理をより高い量産効率で行うことができる。拡散炉20には、例えば、図5(a)〜(c)に模式的に示す磁石片1、RH拡散源2および撹拌補助部材3が投入される。撹拌補助部材3はオプショナルに混合され、省略され得る。
磁石片1は、例えば、図5(a)に示す様に、小型で長尺な形状(例えば、長さ30mm×幅10mm×厚さ5mm)を有していてもよい。磁石片1の組成は、例えば、希土類元素の含有量によって定義されるR量が29質量%以上40質量%以下であるR−T−B系焼結磁石片である。Rが29質量%未満であると高い保磁力が得られない恐れがある。一方Rが40質量%を超えると磁石片1の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、粉末の著しい酸化や発火などを生じる恐れがある。好ましくは、特許文献3に記載のようにR量は31質量%以上37質量%以下である。短時間で重希土類元素RHを拡散し、Brを低下させることなくHcJを向上することができるからである。
R−T−B系焼結磁石片1は、以下の組成を有することが好ましい。
R量:29質量%以上40質量%以下、好ましくは31質量%以上37質量%以下
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):0.85質量%以上1.2質量%以下
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2質量%以下
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでいてもよい)および不可避不純物:残部
ここで、Rは、希土類元素であり、例えば、Nd、Pr、Dy、Tbである。主として軽希土類元素RLであるNd、Prから選択される少なくとも1種が含有されるが、重希土類元素RHであるDy、Tbの少なくとも一方を含有していてもよい。
好ましくは、有効希土類量:28質量%以上35質量%以下にする。有効希土類量は、次式で算出される。有効希土類量=R量(質量%)−(6×O量(質量%)+8×C量(質量%)+10×N量(質量%))
ここで、O量、C量、N量に掛ける係数は、それぞれの不純物がつくる化合物(Nd23、Nd23、NdN)の質量倍より算出した係数である。
RH拡散源2は、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含有する。好ましくは、RH拡散源2は、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有し、典型的には合金である。RH拡散源2の形態は、例えば、図5(b)に示すように、球状(例えば、直径2mm以下)である。RH拡散源2の形態は、この他、線状、板状、ブロック状、粉末など任意であってよい。ボールやワイヤ形状を有する場合、その直径は例えば数mm〜数cmに設定され得る。粉末の場合、その粒径は、例えば、0.05mm以上5mm以下の範囲に設定され得る。RH拡散源2の形状・大きさは、特に限定されない。
攪拌補助部材3は、RH拡散源2と磁石片1との接触を促進し、また攪拌補助部材3に一旦付着した重希土類元素RHを磁石片1へ間接的に供給する役割をする。さらに、攪拌補助部材3は、処理室内24Sにおいて、磁石片1同士や磁石片1とRH拡散源2との接触による欠けや溶着を防ぐ役割もある。攪拌補助部材3は、例えば、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、または、これらの混合物のセラミックスから好適に形成され得る。また、Mo、W、Nb、Ta、Hf、Zrとを含む族の元素、または、これらの混合物からも形成され得る。撹拌補助部材3の形態は、例えば、図5(c)に示す様に、球状(例えば、直径5mm)である。
なお、撹拌補助部材3を多く投入し過ぎると磁石片1とRH拡散源2とが均一に撹拌されない場合があり、1回の拡散処理によって、保磁力の向上効果が十分に得られない、および/または、保磁力にバラツキが発生することがある。したがって、撹拌補助部材3の投入量は多過ぎないように調整する。好ましい投入量は、重量比率で磁石片1:RH拡散源2:撹拌補助部材3=1:1:1である。
特許文献2および3に記載の製造装置では、図5(a)に示したような小型で長尺な形状の磁石片1を拡散処理すると、回転速度を制限しても、磁石片1の欠けが発生する、および/または、処理室に投入可能な磁石片1の量が少なく、スループットが低いという問題があった。
本発明の実施形態による拡散処理装置100は、以下に説明する特徴を備える拡散炉20を有しているので、図5(a)に示したような磁石片1を高い量産効率で拡散処理を行うことができる。
図1に示す様に、拡散炉20は、磁石片1と、RH拡散源2とオプショナルな撹拌補助部材3(いずれも図5参照)を受容する処理空間24Sを画定する円筒状の第1壁部(第1外壁22および第1内壁24を含む、第1内壁24と同じ参照符号で表すことにする。)24と、処理空間24Sを長さ方向に延びる3つの処理室24Sa、24Sb、24Scに分割する3つの仕切り壁26とを有している(図2参照)。仕切り壁26は、必要に応じて設けられる支柱26pによって、互いに支持される。支柱26pは3つの仕切り壁26の内の2対の仕切り壁26の間(例えば図2中の処理室24Saおよび24Sb内)に設けてもよい。
なお、ここでは、第1壁部を第1外壁22と第1内壁24との二重構造にすることによって、処理空間24Sの断熱性を高めている。第1外壁22と第1内壁24との間には不図示の緩衝材等が充填されてもよい。第1壁部を第1内壁24だけで構成してもよい。
拡散炉20は、処理空間24Sの長さ方向の一端に設けられた第1蓋30aと、処理空間24Sの長さ方向の他端に設けられた第2蓋30bとを有している。第1蓋30aは、図3に示す様に、3つの処理室24Sa、24Sb、24Sc(図2参照)にそれぞれが対応するよう配置された3つの第1開口部32a、32b、32cを有している。第2蓋30bは、処理空間24Sの長さ方向の他端に設けられ、3つの処理室24Sa、24Sb、24Scにそれぞれが対応するよう配置された3つの第2開口部32a、32b、32c(第1開口部と同じ参照符号で示す。)を有している。第1蓋30aと第2蓋30bはここで例示するように同じ構造を有していてもよいが、それぞれが独立に、後述する要件を満足すればよい。
拡散処理装置100(供給部10、拡散炉20、冷却部50を有する)は、公知の傾斜機構および回転機構によって、傾斜可能および回転可能に支持されている。図1に示す例では、拡散処理装置100が載置された架台60を、油圧シリンダ61を上昇させることにより傾斜させ、拡散処理装置100を傾斜させる。また、不図示のモータによりロール62を回転させることにより拡散処理装置100を回転させる。このように図1に示した拡散処理装置100は、傾斜可能および回転可能に支持されている。磁石片1を処理空間24S内に投入する際、および磁石片1を処理空間24Sから排出する際に、図1に示した拡散処理装置100全体が、図1中、左下がりに傾斜させられる。傾斜角は例えば、3°〜12°である。拡散処理の間には、拡散処理装置100は、ほぼ水平に保たれる。
拡散処理装置100が傾斜させられている間も、水平に保たれている間も、拡散処理装置100は回転させられる。拡散炉20の第1壁部24の外側に設けられたヒーター42によって加熱されている間にも、中心軸27の周りに回転される。中心軸27は、第1壁部24と一体に形成された中央パイプ28内に挿入されている(図2参照)。拡散炉20の処理空間24Sの外周(第1壁部24の内周)の周速度は毎秒0.01m以上に設定され得る。磁石片1の欠けを防止するために、毎秒0.5m以下に設定することが好ましい。
磁石片1を処理空間24S内に投入するとき、拡散処理装置100が傾斜した状態で回転して、最下点の近傍に来た第1開口部32a、32bおよび32cのいずれか(例えば、図3の第1開口部32b)から磁石片1が処理空間24S内に投入される。逆に、磁石片1を処理空間24S内に投入するとき、拡散処理装置100が傾斜した状態で回転して、最下点の近傍に来た第2開口部32a、32bおよび32cのいずれか(例えば、図3の第2開口部32b)から磁石片1が処理空間24Sから排出されてしまうが、後述する冷却部50の邪魔板56が時計周りと反対周りの回転を行うことにより、排出された磁石片1が邪魔板56により処理空間内24S内に戻される。その結果、処理空間24S内に磁石片1を投入することができる。磁石片1の投入が終了すると拡散処理装置100は、ほぼ水平に保たれ、拡散処理が行われる。そして、拡散処理後、再度、拡散処理装置100全体が図1中、左下がりに傾斜し、後述する冷却部50の邪魔板56が時計周りに回転することにより、磁石片1が処理空間24Sから排出される。
特許文献2および3に記載の拡散処理装置における円筒状の処理室(拡散炉20における仕切り壁26がない処理空間24S全体に相当)は、磁石片1を見かけの体積充填率で40%までしか投入できなかった(図2における中央パイプ28の直下が上限)。見かけの体積充填率が40%を超えると処理空間24S内に投入された磁石片1が供給パイプ12を塞いでしまい、供給パイプ12から磁石片1を拡散炉20内へ投入できなくなる場合があるためである。また、拡散炉20を回転している間に、磁石片1に欠けが発生するという問題があった。欠けの発生は、処理室内の磁石片1の見かけの体積充填率が低いほど高くなる傾向があった。
本発明の実施形態による拡散処理装置100が有する拡散炉20は、3つの仕切り壁26によって分割された3つの処理室24Sa、24Sbおよび24Scを有しており、第1蓋30aには、処理室24Sa、24Sbおよび24Scに対応する第1開口部32a、32bおよび32cが設けられている。その結果、処理室24Sa、24Sbおよび24Scのそれぞれにおける磁石片1の見掛けの体積充填率を50%超にまで高めることができる。さらに、見かけの体積充填率を50%超にまで高めること、処理室24Sa、24Sbおよび24Scの3つの処理室とすることにより、特許文献2および3に記載の拡散処理装置よりも磁石片1の移動距離を短くすることができるので、磁石片1の欠けの発生率を低減させることができる。
3つの仕切り壁26は、隣接する2つの仕切り壁26が100°以上の角度(図2中のθa、θbおよびθc)をなす様に配置されている。ここでは、θa=θb=θc=120°の例を示している。θa=θb=θcが100°未満であると、隣接する2つの仕切り壁26の間に磁石片1が挟まることがある。特に、4分割以上の分割数にすると、隣接する2つの仕切り壁26がなす角が90°以下となり、仕切り壁26の間に挟まる磁石片1が多く発生した。第1壁部(第1外壁22および第1内壁24)の材料としては、例えば、ステンレス鋼をあげることができる。ステンレス鋼に限られず、700℃以上1000℃以下の温度に耐える耐熱性を有し、磁石体1およびRH拡散源2と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、Wまたはそれらの少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
図3を参照して、第1蓋30aの構造を詳細に説明する。
第1蓋30aが有する3つの第1開口部32a、32bおよび32cのそれぞれは、処理空間24Sの外縁を下辺とし、3つの第1開口部32a、32bおよび32cのそれぞれの高さは、処理空間24Sの外縁で形成される円の半径(図3中のr24)の2分の1以下であり、3つ処理室24Sa、24Sbおよび24Scのそれぞれを二等分する線と、3つの第1開口部32a、32bおよび32cを二等分する線とは略一致し、3つの第1開口部32a、32bおよび32cのそれぞれが有する2つの側辺のなす角(「開き角」ということがある。)θsは25°以上55°以下であることが好ましい。3つの第1開口部32a、32bおよび32cのそれぞれの高さは、処理空間24Sの外縁で形成される円の半径(図3中のr24)の30%以上50%以下が好ましく、更に好ましくは30%以上40%以下である。第2蓋30bが有する第2開口部32a、32bおよび32cも同様である。第1蓋30aと第2蓋30bとは同じ構造を有していてもよいが、異なってもよい。ただし、第2蓋30bの第2開口部32a、32bおよび32cのそれぞれが独立に上記の要件を満足することが好ましい。
第1蓋30aの第1開口部32a、32bおよび32cが上記の範囲よりも狭いと、磁石片1が拡散炉20の処理空間24S内に投入される速度が遅く、スループットが低下する。また、第1蓋30aの第1開口部32a、32bおよび32cが上記の範囲よりも広いと、処理室24Sa、24Sbおよび24Scのそれぞれにおける磁石片1の見掛けの体積充填率を50%超に高めることができない。さらに、拡散炉20が回転している際に、上方の位置にある第1開口部32a、32bまたは32cから、磁石片1が落下する可能性が高まり、歩留り(欠けが発生していない磁石片の割合)の低下を招くおそれがある。
例えば、処理空間24Sの体積が830000cm3(長さ3200mm、断面半径(図3の半径r24)575mm)のとき、開口部32a、32bおよび32cの高さ(図3中のh32)が100mmで、開き角θsが40°のとき、磁石片1の見掛けの体積充填率は52%となり得る。このとき、磁石片1(図5(a))の歩留りは、例えば、約99%であり得る。これに対し、円筒状の処理室(拡散炉20における仕切り壁26がない処理空間24S全体に相当)を用いると、磁石片1の見掛けの体積充填率は約40%で、磁石片1の歩留りは約90%であった。なお、上記の実施例および比較例(拡散炉20における仕切り壁26がない処理空間24S全体に相当)では、いずれも、磁石片1:寸法25mm×10mm×5mm、拡散源2:DyFe合金、形状は粒形で、大きさが1mm〜1.5mm、撹拌補助部材3:直径5mmのジルコニアの球を使用した。また、投入比率は、いずれも重量比率で磁石片1:拡散源2:撹拌補助部材3=1:1:1とした。投入量は、総重量(磁石片1、拡散源2、撹拌補助部材3の合計重量)で、実施例は1400kg、比較例は1100kgであった。
このように、拡散炉20を備える拡散処理装置100を用いることによって、従来よりも高い量産効率で磁石片1の拡散処理を行うことができる。なお、磁石片1の歩留りは、欠けにより欠落した部分が2mm角相当以上の場合に、欠けが発生しているものとしてカウントした。
再び、図1を参照する。
拡散処理装置100は、拡散炉20の前段に供給部10をさらに有する。供給部10は、供給パイプ12を有し、第1蓋30aの前段に設けられた供給パイプ12から、拡散炉20の処理空間24Sに磁石片1を投入する。磁石片1は、RH拡散源2および撹拌補助部材3とともに、供給パイプ12から供給される。供給パイプ12は、図1に示したように、供給パイプ12の排出口(拡散炉20側の開口)は投入口(図1中右側の開口)よりも小さいことが好ましい。このような構成を有する供給パイプ12を用いると、直管を用いる場合よりも、磁石片1の投入をスムーズに行うことができる。これは、図5(a)に示した磁石片1のように小型で長尺な形状の磁石片1は、先細の供給パイプ12を通過する際に、長さ方向を下(図1中の左)に向けて概ね揃うためと考えられる。
供給パイプ12を通過することによって概ね揃えられた磁石片1は、緩衝材で形成された斜面14上に落下する。斜面14は、緩衝材のコーン状に削り取られた内面として形成されている。斜面14上に堆積された磁石片1は、第1蓋30aの第1開口部32a、32bおよび32cのいずれかから処理室24Sa、24Sbおよび24Scのいずれかに投入される。
拡散炉20の処理室24Sa、24Sbおよび24Scで重希土類元素RHの拡散処理を受けた磁石片1は、第2蓋30bから上述したように排出され、第2蓋30bの後段に設けられた冷却部50へと導かれる。冷却部50は、冷却空間52Sを画定する円筒状の第2壁部52と、第2壁部52にらせん状に設けられた邪魔板56とを有する。
邪魔板56は、拡散炉20が第1方向(図1の 左側から拡散処理装置100を見たとき時計回り方向)に回転するとき、処理空間24S内の磁石片1を冷却空間52Sに送出することができる。一方、拡散炉20が第1方向とは反対の第2方向(時計周りと反対周り)に回転するとき、磁石片1を処理空間24S内に保持することができる。磁石片1を処理空間24Sに投入する工程およびRH拡散工程においては、拡散路20は第2方向に回転する。邪魔板56の直径は内壁24の内径より小さくしてもよい。その場合、第2壁部52と邪魔板56との間にできるクリアランスは、磁石片1が漏れ落ちないように設定することが好ましい。
冷却部50は、円筒状の凸部54を有している。円筒状の凸部54は、第2蓋30bを通過した磁石片1が冷却空間52Sの下部に選択的に供給されるように導く。
冷却部50は、第2壁部52を冷却するために例えば水を供給する冷却機構をさらに有してもよい。このとき、磁石片1は第2壁部52の近傍を通過するように導かれることが好ましい。
本発明の実施形態によるR−T−B系焼結磁石の製造方法は、拡散処理装置100を用いること以外、特許文献3に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法と同様に実施することができる。
RH拡散工程では、磁石片1とRH拡散源2とを拡散処理装置100の3つの処理室24Sa、24Sb、24Sc内にて連続的または断続的に移動させながら、焼結磁石片1およびRH拡散源2を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱する。なお、RH拡散工程において、処理空間24Sは、不活性雰囲気であることが好ましい。本明細書における「不活性雰囲気」とは、真空、または不活性ガスを含むものとする。また、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、焼結磁石体1およびRH拡散源2との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。不活性ガスの圧力は、10-2Pa以上大気圧以下であることが好ましい。また、RH拡散源2および磁石体1の温度を700℃以上1000℃以下の範囲内に保持する。処理温度が1000℃を超えると、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが溶着してしまう問題が生じ易く、一方、処理温度が700℃未満では、処理に長時間を要する。
拡散処理装置100を用いると、従来の製造装置よりも焼結磁石片の欠けの発生を低減し、高い量産効率で拡散処理を行うことができる。
本発明は、高残留磁束密度、高保磁力のR−T−B系焼結磁石の製造に好適に用いられる。このような磁石は、高温下に晒されるハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に好適である。
10 供給部
20 拡散炉
30a 第1蓋
30b 第2蓋
50 冷却部

Claims (10)

  1. 複数のR−T−B系焼結磁石片と、DyまたはTbを含む重希土類元素RHを含むRH拡散源とを受容する処理空間を画定する円筒状の第1壁部と、
    前記処理空間を長さ方向に延びる3つの処理室に分割する3つの仕切り壁と、
    前記処理空間の長さ方向の一端に設けられ、前記3つの処理室にそれぞれが対応するよう配置された3つの第1開口部を有する第1蓋と、
    前記処理空間の長さ方向の他端に設けられ、前記3つの処理室にそれぞれが対応するよう配置された3つの第2開口部を有する第2蓋と備え、傾斜可能および回転可能に支持された拡散炉と、
    前記第1壁部の外側に設けられたヒーターと
    を有する、拡散処理装置。
  2. 前記3つの仕切り壁は、隣接する2つの仕切り壁が100°以上の角度をなす様に配置されている、請求項1に記載の拡散処理装置。
  3. 前記3つの第1開口部のそれぞれは、前記処理空間の外縁を下辺とし、前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは前記処理空間の外縁で形成される円の半径の2分の1以下であり、前記3つ処理室のそれぞれを二等分する線と、前記3つの第1開口部を二等分する線とは略一致し、前記3つの開口部のそれぞれが有する2つの側辺のなす角は25°以上55°以下である、請求項1または2に記載の拡散処理装置。
  4. 前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは、前記処理空間の外縁で形成される円の半径の30%以上50%以下である、請求項3に記載の拡散処理装置。
  5. 前記3つの第1開口部のそれぞれの高さは、前記処理空間の外縁で形成される円の半径の30%以上40%以下である、請求項3に記載の拡散処理装置。
  6. 前記第2蓋が有する前記3つの第2開口部は、前記第1蓋が有する前記3つの第1開口部と同じ要件を満足する、請求項3から5のいずれかに記載の拡散処理装置。
  7. 前記第1蓋の前段に設けられた供給パイプをさらに有し、前記供給パイプの排出口は投入口よりも小さい、請求項1から6のいずれかに記載の拡散処理装置。
  8. 前記第2蓋の後段に設けられた冷却部をさらに有し、前記冷却部は、冷却空間を画定する円筒状の第2壁部と、壁部にらせん状に設けられた邪魔板とを有する、請求項1から7のいずれかに記載の拡散処理装置。
  9. 希土類元素の含有量によって定義されるR量が29質量%以上40質量%以下であるR−T−B系焼結磁石片を準備する工程と、
    重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含有するRH拡散源を準備する工程と、
    請求項1から8のいずれかに記載の拡散処理装置の前記3つの処理室に、前記焼結磁石片と前記RH拡散源とを投入する工程と、
    前記焼結磁石片と前記RH拡散源とを前記3つの処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記焼結磁石片および前記RH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程と、
    を包含する、R−T−B系焼結磁石の製造方法。
  10. 前記RH拡散源は、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有する、請求項9に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
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