JP2012126944A - 75GPa未満の低ヤング率を有するα+β型チタン合金およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で 4.4%以上5.5%未満のAl、1.4%以上2.3%未満のFe、1.5%以上5.0%未満のMoを含有し、不純物としてSiが0.1%未満、Cが0.01%未満に抑制され、残部Ti及び不可避的不純物からなるα+β型チタン合金であって、ミクロ組織において、β相ないしマルテンサイト相の合計の面積率が55%以上であり、且つ、これらの相内の合金成分が、Mo当量で3.85%以上11.0%未満であり、ヤング率が75GPa未満であるチタン合金である。850℃を超え950℃以下の温度から水冷以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施した後、冷間加工を施すことにより製造できる。
【選択図】図1
Description
(1)質量%で、4.4%以上5.5%未満のAl、1.4%以上2.3%未満のFe、1.5%以上5.0%未満のMoを含有し、不純物としてSiが0.1%未満、Cが0.01%未満に抑制され、残部Ti及び不可避的不純物からなるチタン合金であって、ミクロ組織において、β相もしくはマルテンサイト相内の合金成分が、Mo当量=[%Mo]+2.9×[%Fe]+1.1×[%Ni]+1.6×[%Cr]+1.6×[%Mn]―[%Al]からなる式において、Mo当量が3.85%以上、10.00%未満であり、当該Mo当量範囲にあるβ相もしくはマルテンサイト相の1相ないし2相の合計の面積率が55%以上、99%未満であり、ヤング率が75GPa未満であることを特徴とするα+β型チタン合金。
(2)前記Feの一部を、質量%で0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnの1種または2種以上で代替したことを特徴とする、上記(1)に記載のα+β型チタン合金。
(3)溶体化処理後に冷間加工を施されてなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のα+β型チタン合金。
(4)850℃を超え950℃以下の温度から水冷以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施した後、冷間加工を施すことを特徴とする、上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のα+β型チタン合金の製造方法。
Alはα安定化元素であり、固溶強化によって強度を高める作用がある。さらに、Alはβ相内のω相の生成を抑制することによりヤング率の上昇を抑制することから4.4%以上とした。しかしながら、添加量を多くすると、β安定化元素の添加量を多くする必要があること、さらに、高温、室温での延性低下を避けるため、上限を5.5%未満とした。
Feは比較的安価なβ安定化元素であり、さらに固溶強化により強度を高める作用がある。比較的高価なβ安定化元素の添加量を低減し、コスト上昇を抑制するため下限を1.4%とした。しかしながら、添加量が多くなり過ぎると、凝固時に偏析しやすいため数百kg以上の大型インゴットでは偏析が顕著になることから、上限を2.3%とした。
ヤング率を低くするためには、ヤング率の低いβ相もしくはマルテンサイト相を室温で多く残存させる必要がある。上述したようにFeのみでβ相やマルテンサイト相を室温で安定させようとすると、Feの添加量が必要以上に多くなり、偏析の問題がある。MoはFeと同様にβ安定化元素であり、β相を室温で安定させる効果があり、且つ、Moは凝固時にFeと逆偏析を示すため、溶解時に材料を均質化しやすくなる。前記AlおよびFeの成分範囲において、多量のβ相もしくはマルテンサイト相を室温でも安定化させるためには、Moを1.5%以上添加する必要がある。しかし、Moは比較的高価な元素であるため、添加量が多くなるとコストが高くなってしまう。さらに、Moを多量に添加すると凝固時の偏析が顕著となることから、上限を5.0%とした。
不純物元素として、SiとCは多量に含有すると、室温延性、冷間加工性、熱間加工性を低下させてしまう場合があり、Siは0.1%未満、Cは0.01%未満であれば、問題ないレベルであることを見出し、各々の上限とした。なお、Si、Cは不可避的不純物として含有が避けられないことから、実質的な含有量の下限値は、通常、Siで0.005%以上、Cで0.0005%以上である。
本発明においては必要に応じて、Feの一部を、0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnの1種または2種以上で代替する。これは、Feの一部をFeと同様の働きをする安価な元素で置換するものである。
代表的な不純物として、O,N,Hが上げられる。JIS H 4600の60種(Ti−6Al−4V)同様に、各々、Oは0.2%以下、Nが0.05%以下、Hは0.015%を上限とすることが好ましい。さらに、室温延性や冷間加工性をよりよくするために、Oは0.15%以下、Nは0.02%以下、Hは0.01%以下とすることがより好ましい。
ヤング率は合金成分のみでは決定せず、β相やマルテンサイト相の面積率等ミクロ組織によって大きく変化する。例えば、上記合金成分においても、特許文献7に記載されているように750℃で1時間の焼鈍した場合には、β相やマルテンサイト相の面積率が約20%となりヤング率は約115GPaと通常のα+β型チタン合金と変わらない値となる。低ヤング率を得るには、下記式で記述されるMo当量が3.85%以上10.00%以下であるβ相、そのようなβ相から溶体化処理後の水冷や加工誘起変態によって生じるマルテンサイト相、或いは、熱弾性マルテンサイト的な性質を有する双晶界面が必要となることが分かった。ミクロ組織において、上記Mo当量範囲内となるβ相もしくはマルテンサイト相であって、且つ、それらの合計の面積率が55%以上であれば、最終製品のチタン合金として75GPa未満の低ヤング率が得られることから、これを下限とした。一方で、β相もしくはマルテンサイト相単相にすると、熱処理時にβ相が非常に粗大化してしまい、疲労特性や延性を著しく低下させることから、上限を99%とした。なお、上記範囲のMo当量であるβ相やマルテンサイト相以外の結晶としては、α相及び不可避的不純物相が観察される。不可避的不純物相とは、例えば微細なω相などが挙げられる。
Mo当量=[%Mo]+2.9×[%Fe]+1.1×[%Ni]+1.6×[%Cr]+1.6×[%Mn]―[%Al]
チタン合金中のβ相もしくはマルテンサイト相の測定方法について説明する。β相もしくはマルテンサイト相は、断面の埋め込み研磨試料を硝フッ酸水溶液でエッチングした光学顕微鏡写真で容易に判別でき、更には約500〜550℃で4時間程度熱処理(デコレーション熱処理)を施した後に観察すると、より鮮明に識別できる。図1に光学顕微鏡観察写真の例を示す。図1(a)は、本発明の請求項1の例として930℃から水冷した試料に10%の冷間加工を施したもの、(b)はβ相ないしマルテンサイトをより識別しやすくするために(a)の試料を550℃4時間のデコレーション熱処理したものである。なお、図1ではエッチングに硝酸濃度が約12%、フッ酸濃度が約1.5%の硝フッ酸水溶液を用いている。図1(a)にて実線矢印で示した粒径約5μmの黒くなっている延伸した結晶粒が加工により延伸したβ相である。さらに、針状に観察される結晶粒がマルテンサイト相である。また、図1(b)に示すようにデコレーション熱処理を施すと、β相ないしマルテンサイト相内に微細なα相が析出し、熱処理前にβ相ないしマルテンサイト相であった場所が黒くなり、より鮮明に区別することが出来る。これらの写真から画像解析装置を用いて、観察測定視野におけるβ相ないしマルテンサイト相が占有する総面積率を計測し、その値をβ相ないしマルテンサイト相の合計の面積率とした。
β相もしくはマルテンサイト相とα相は、それぞれ濃化しやすい元素が異なることから、光学顕微鏡やSEMの観察で容易に判別することが出来る。そのため、組織観察によりβ相もしくはマルテンサイト相と判別された結晶粒をEDX(Energy Dispersive X-ray Spectrometry)分析することによりβ相もしくはマルテンサイト相の含有元素量を容易に測定可能である。また、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いれば、より広範囲におけるβ相もしくはマルテンサイト相の含有元素量を測定することが出来る。
上述のとおり、チタン合金において、低ヤング率発現にはβ相もしくはマルテンサイト相に含まれる合金成分が大きく影響する。すなわちMo当量が3.85%以上、10.00%未満であり、当該Mo当量範囲にあるβ相もしくはマルテンサイト相の1相ないし2相の合計の面積率が55%以上であることが必要とされる。ここではその理由について説明する。
α+β型チタン合金では、α+βの2相高温域から水冷以上の速度で冷却することによりβ相を残留させる、もしくはα''マルテンサイト相やα’マルテンサイト相を生成することができる。しかしながら、上述のMo当量が低くなるとマルテンサイト相が安定化してしまい低ヤング率が得られない。マルテンサイト相を安定にしないためにはMo当量の下限を3.85%以上とする必要があることから、前述のとおりこれを下限とした。好ましくは、4.00%以上である。一方、β相内のMo当量を10.00%以上にすると、β相が安定に成り過ぎてしまいヤング率が上昇することから、本発明では前述のとおり10.00%を上限とした。β相を不安定にすることで低ヤング率が得られることから、好ましくは9.00%%未満である。
[溶体化熱処理:温度]
本発明のチタン合金は、上記チタン合金の組成を含有した上で、溶体化熱処理工程において、850℃以上、940℃未満の温度から水冷以上の冷却速度で冷却することとした。本発明では、上記のようにβ相もしくはマルテンサイト相内の含有元素量およびその範囲内にあるそれらの相の面積率を規定している。本発明合金のβ変態点温度は945〜960℃であり、850℃未満の温度で熱処理すると、本成分範囲内ではβ相内のMo当量が10.00%以上となってしまい例え後述の冷間加工を施してもヤング率が75GPa以上となり高くなることから、下限を850℃とした。好ましくは、880℃以上である。一方、β変態点を超える温度で熱処理を行うと上述したように金属組織が粗大化して疲労特性と延性を悪化させることがある。そのため、本発明では熱処理温度の上限をβ変態点直下となるよう950℃以下とした。
本発明では、上記温度で熱処理後、冷却速度は水冷以上としている。冷却速度が空冷となると冷却中にβ相粒内に微細なα相が析出するなどし、β相ないしマルテンサイト相の面積率は大きく減少する。また、β安定化元素がβ相へ拡散するため、β相内のMo当量が上昇する。さらにβ相の面積率が低くなるため、ヤング率は非常に高くなる。一方、水冷以上の冷却速で冷却すると、β相やマルテンサイト相内粒内にα相が析出せず、不安定な残留β相もしくはマルテンサイト相を室温で多量に残存させることができ、75GPa未満のヤング率を得られることから、冷却速度を水冷以上とした。
本発明では、溶体化処理後に冷間加工を施すことにより、75GPa未満の低ヤング率を得られることを特徴としている。これは、上述のように、β相の加工誘起マルテンサイト変態やβ相もしくはマルテンサイト相内に熱弾性マルテンサイト的な特徴を有する双晶界面が導入されることにより、ヤング率が低くなるためである。本発明の合金成分においても、上述のβ相もしくはマルテンサイト相内のMo当量を本発明の範囲内にすることで、溶体化処理後の冷間加工により、75GPa未満のヤング率を得ることが出来る。さらに好ましくは70GPa未満のヤング率である。なお、冷間加工については、例えば、伸線加工において0.5%以上の加工率(伸線加工の場合は加工前後の断面積の差を加工前の面積で割った割合)の冷間加工が施されるだけでも、ヤング率の低下に寄与するものである。
Claims (4)
- 質量%で、4.4%以上5.5%未満のAl、1.4%以上2.3%未満のFe、1.5%以上5.0%未満のMoを含有し、不純物としてSiが0.1%未満、Cが0.01%未満に抑制され、残部Ti及び不可避的不純物からなるチタン合金であって、ミクロ組織において、β相もしくはマルテンサイト相内の合金成分が、Mo当量=[%Mo]+2.9×[%Fe]+1.1×[%Ni]+1.6×[%Cr]+1.6×[%Mn]―[%Al]からなる式において、Mo当量が3.85%以上、11.00%未満であり、当該Mo当量範囲にあるβ相もしくはマルテンサイト相の1相ないし2相の合計の面積率が55%以上、99%未満であり、ヤング率が75GPa未満であることを特徴とするα+β型チタン合金。
- 前記Feの一部を、質量%で0.15%未満のNi、0.25%未満のCr、0.25%未満のMnの1種または2種以上で代替したことを特徴とする、請求項1に記載のα+β型チタン合金。
- 溶体化処理後に冷間加工を施されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のα+β型チタン合金。
- 850℃を超え950℃以下の温度から水冷以上の冷却速度で冷却する溶体化熱処理を施した後、冷間加工を施すことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のα+β型チタン合金の製造方法。
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