JP5578041B2 - 二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材及びその製造方法 - Google Patents
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(1)質量%で4.0%以上5.5%未満のAl、1.1%以上3.1%未満のFeを含有し、4.0%未満のCrまたは、8.0%未満のVのうち1種以上を含有し、下記式で表されるMo当量が4.5以上9.4%未満であり、且つ、Si:0.1%未満、C :0.01%未満に抑制し、残部Ti及び不可避的不純物からなることを特徴とする、二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材。
Mo当量=2.9×[%Fe]+1.6×[%Cr]+0.67×[%V]+[%Mo]−[%Al]
(2)光学顕微鏡組織で、α相が45面積%以下であり、残部がβ相またはβ相とマルテンサイト相、及び不可避的な相であることを特徴とする、前記(1)に記載の二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材。
(3)最終焼鈍工程において、β変態点−100℃からβ単相域上限までの温度範囲内から水冷以上の冷却速度で冷却することを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材の製造方法。
形状記憶特性を発現させるためには、多量のβ相を室温で安定にさせる必要がある。それに対して、β安定化元素の添加量を多くしすぎると、合金コストの上昇や、添加元素の凝固時の偏析、さらにはβ相が安定化になりすぎ形状記憶特性を発現しなくなるため、添加元素を適量添加する必要がある。本発明では添加元素の添加量を、β相安定度の指標として一般に用いられる、下記に示すMo当量により調整することとした。
Mo当量=2.9×[%Fe]+1.6×[%Cr]+0.67×[%V]+[%Mo]−[%Al]
チタン合金では、α+β高温領域またはβ単相領域での加熱後、冷却することによりβ相を多量に残留させることができる。一般的にチタン合金において形状記憶特性はβ相が加工時に加工誘起マルテンサイト変態により変形したものが、熱処理により逆変態しβ相に戻ることにより生じる。したがって、β相量を一定量以上確保する一方で、加工誘起マルテンサイト変態を生じさせ易くするために、β相自体の安定度をある程度低下させる必要がある。しかしながら、上述のMo当量が低過ぎると、必要なβ相量を確保できないばかりか、冷却時にβ相の大部分がマルテンサイト相を生成してしまうため、好ましくない。冷却時にβ相を残留させるために熱処理温度を下げすぎると、α相の面積率が上昇する。後述するように、二方向の形状記憶特性を発現させるためにはα相の面積率を45%以下にする必要がある。このため、本発明の成分系の近傍およびその範囲内における実験室レベルの100g真空アーク溶解試料40チャージを用いた検討試験において、β相安定化の指標であるMo当量の下限を4.5%以上とする必要があることが判明した。しかし、逆にMo当量が高くなりすぎると、β相が安定になりすぎ、変形時に加工誘起マルテンサイト変態が生じなくなり、二方向の形状記憶特性を発現しない。前記検討試験では、Mo当量の上限を9.4%とする必要のあることが判明した。
Alはα安定化元素であり、β相を安定にするためには極力添加量を少なくする必要がある。しかしながら、Alはβ相内のω相の生成を抑制することから4.0%以上とした。しかしながら、添加量を多くすると、β安定化元素の添加量も多くなること、また、冷間加工性が劣化することから、上限を5.5%とした。
一方、Feは、β安定化置換型固溶元素であり、添加量にしたがって室温でのβ相の安定化度が増していく。比較的高価な添加元素を極力低減するためには1.1%以上の添加が必要である。しかしながら、凝固時に偏析しやすいため、添加量を多くするとその影響が顕著にあらわれる。そのため、添加量の上限を3.1%とした。
β相を室温で安定化させ、且つ、二方向の形状記憶特性を発現させるためには、β安定化元素であるCr、Vの一種以上の添加量を適切な範囲に制限する必要がある。CrはMoに比べ、β安定化能が高い元素であり、添加量をより少なくすることができる。しかしながら、Crは凝固時に偏析しやすいため、添加の上限を4.0%とした。それに対して、Vは偏析を生じににくく、製造しやすい特徴を有する。しかしながら、Vは原料として高価であるため添加量を多くするとコストが高くなるという問題があるため、上限を8.0%とした。CrとVの一種以上を、前記Mo当量が4.5以上となるように含有させればよい。
不純物元素として、SiとCは多量に含有すると室温延性、冷間加工性、熱間加工性を低下させてしまう場合があり、Siは0.1%未満、Cは0.01%未満であれば、問題ないレベルであることを見出し、各々の上限とした。なお、Si、Cは不可避的不純物であとして含有が避けられないことから、実質的な含有量の下限値は、通常、Siで0.005%以上、Cで0.0005%以上である。
二方向の形状記憶特性は、β相の残留量によって変化する。たとえば、工業生産条件から外れるような、α単相域の比較的低温で長時間焼鈍した場合は、β相が50%を大きく下回ることがあり、その状態で部材を変形させると、α相が塑性変形(不可逆変形)してしまい、これに力学的に拘束され、部材全体として二方向の形状記憶特性は発現しない。
上述したように、形状記憶特性を発現させるためにはβ相をある程度不安定にする必要がある。そのため、合金組成ないし熱処理温度によりβ相のマルテンサイト変態温度(Ms温度)が室温付近になるようにする必要がある。但し、マルテンサイト単相となると形状記憶特性は発現しなくなる。そのため、合金成分系ないし熱処理条件により、初析α相以外の相は、β相単相ないしβ相とマルテンサイト相の2相とする必要がある。なお、β相もしくはマルテンサイト相の有無は光学顕微鏡ないしX線回折により容易に判別することができる。
本発明のチタン合金は、上記チタン合金の組成を含有した上で、最終焼鈍工程において、β変態点−100℃よりも高温から水冷以上の冷却速度で冷却することにより、45%未満の初析α相と残部がβ相単相もしくはβ相とマルテンサイト相及び不可避的な相とすることができる。β変態点温度については、示差熱分析計を用いて求めることができる。
Claims (3)
- 質量%で4.0%以上5.5%未満のAl、1.1%以上3.1%未満のFeを含有し、4.0%未満のCrまたは、8.0%未満のVのうち1種以上を含有し、下記式で表されるMo当量が4.5以上9.4%未満であり、且つ、Siを0.1%未満、Cを0.01%未満に抑制し、残部Ti及び不可避的不純物からなることを特徴とする、二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材。
Mo当量=2.9×[%Fe]+1.6×[%Cr]+0.67×[%V]+[%Mo]−[%Al] - 光学顕微鏡組織で、α相が45面積%以下であり、残部がβ相またはβ相とマルテンサイト相、及び不可避的な相であることを特徴とする、請求項1に記載の二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材。
- 最終焼鈍工程において、β変態点−100℃からβ単相域上限までの温度範囲内から水冷以上の冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項1又は2に記載の二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材の製造方法。
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