JP2006089803A - 超弾性チタン合金及びその製造方法 - Google Patents

超弾性チタン合金及びその製造方法 Download PDF

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忠 古原
Kimisuke Ono
公輔 小野
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Abstract

【課題】 従来の超弾性チタン合金に比して、材料コストを低減することができ、かつ多量生産に適した溶解鋳造法で製造することができる超弾性チタン合金を提供する。
【解決手段】 本発明のチタン合金は、mass%で、V :8.0〜12.0%、Fe:1.0〜3.0%、Al:2.0〜4.0%、N :0.05〜0.40%を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、室温での組織がβ単相とされたものである。このチタン合金は、前記成分のチタン合金を溶解して鋳造し、得られたチタン合金の鋳塊を加熱し、熱間塑性加工を施した後、β単相に加熱した後、急冷することによって容易に製造される。
【選択図】 なし

Description

本発明は、室温で超弾性を発現するβ型チタン合金に関する。
室温で組織がβ単相を呈するβ型チタン合金は、V、Mo、Nbなどのβ安定化元素を添加して、高温で安定なβ相を室温において発現させた合金である。このチタン合金は、冷間加工性に優れ、また熱処理性にも優れるため、ゴルフクラブのヘッドやフェース,釣り具などのスポーツ用品、眼鏡フレームや時計部品などの装身具、カテーテルなどの医療用器具、その他、バネ,ボルト,自転車ギアなどの素材として好適に用いられる。
β型チタン合金は、体心立方構造の結晶構造を有し、もともと弾性は高い方であるが、特許第3375083号公報(特許文献1)や特開2002−332531号公報(特許文献2)には、従来のβ型チタン合金に比して非常に高い弾性変形能を示す超弾性チタン合金として、30〜60mass%のバナジウム族元素を有し、あるいはさらにZr,Hf,Scの1種以上を合計で20mass%以下添加し、残部が実質的にチタンで形成されたチタン合金が記載されている。
特許第3375083号公報 特開2002−332531号公報
しかしながら、前記超弾性チタン合金は、V,Nb,Taなどのバナジウム族元素やZr,Hf,Scを多量に添加したものであり、材料コストが非常に高い。さらに、これらのチタン合金は優れた超弾性特性を示すものの、焼結合金であるため、多量生産に適した通常の溶解鋳造法よって製造することができない。このため、生産性が非常に低く、製造コストもかなり高くなる。これらの理由から、前記超弾性チタン合金は、汎用性に劣り、限られた使用分野での適用が試みられているに過ぎない。
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、従来の超弾性チタン合金に比して、材料コストを低減することができ、かつ多量生産に適した溶解鋳造法で製造することができる超弾性チタン合金を提供することを目的とする。
本発明者は、すべり変形を生じさせることなく、室温で非常に大きな弾性を発現させるには、加えられた応力に対してマルテンサイト変態(加工誘起変態)を起こさせ、これによって大きな変形を得る一方、応力を除いた際にマルテンサイトが元の母相(β相)に復元するようにすればよいとの着想を基に、マルテンサイト加工誘起変態を起こす温度(この温度はMs点よりもやや高い。)が、Af点(マルテンサイトから母相に変態が終了する温度)以上となり、しかもこれらの温度が室温以下となる成分を鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のチタン合金は、mass%(以下、単に「%」と表示する。)で、V :8.0〜12.0%、Fe:1.0〜3.0%、Al:2.0〜4.0%、N :0.05〜0.40%を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、室温での組織がβ単相とされたものである。
このチタン合金は、V添加量が12.0%以下とされているので、材料コストを低減することができ、また溶解鋳造法によって製造することができるので、大量生産が可能で、製造コストを低減することができる。このチタン合金は、弾性能が非常に優れるので、眼鏡フレーム、ゴルフクラブヘッド,そのヘッド本体やフェース部等のゴルフクラブ部材、カテーテル等の医療用器具の素材として好適に使用される。
また、本発明のチタン合金は、前記成分を有するチタン合金を溶解して鋳造し、得られたチタン合金の鋳塊を加熱し、熱間塑性加工を施し、その後β単相に加熱した後、急冷することによって容易に製造される。
本発明の超弾性チタン合金によれば、β安定化元素であるVの添加量が8.0〜12.0%とされており、また溶解鋳造法により製造することができるので、材料コスト、製造コストを低減することができ、汎用性に優れた超弾性チタン合金を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、前記超弾性チタン合金を溶解、鋳造により容易に製造することができる。
本発明のチタン合金は、化学組成がV :8.0〜12.0%、Fe:1.0〜3.0%、Al:2.0〜4.0%、N :0.05〜0.40%を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、室温での組織がβ単相とされたものである。まず、本発明のチタン合金の成分設計について説明するが、本発明のチタン合金はベース合金であるTi−(8.0〜12.0%)V−(1.0〜3.0%)Fe−(2.0〜4.0%)Al合金にNを添加してN量を0.05〜0.40%に調整したものと考えることができる。
前記ベース合金は、航空機部材用α+β型チタン合金として知られたTi−10V−2Fe−3Al合金(数値はmass%)と同類であり、このベース合金は多量生産可能な溶解鋳造法で製造することができ、またβ型チタン合金としたとき、Ms点が室温より若干高い程度である。このベース合金のMs点、Af点を室温以下に下げるために用いられるのがNである。
通常のチタン合金では、Nは不純物元素として扱われ、積極的に添加されることは少ない。添加される場合も、強度を上げることを目的として添加される。しかし、Nは母相(β相)の強度を上げると共に、Ms点、Af点を下げる作用を有する。このため、Nを所定量添加することで、Ms点を下げ、母相の降伏応力を向上させてすべり変形を生じ難くすることによって、応力誘起マルテンサイト変態が起こる温度領域(母相の降伏応力以下でマルテンサイト加工誘起変態開始応力以上となる温度領域)を広げると共にAf点も下げ、室温で超弾性を発現させることができるようになる。
ここで、本発明のチタン合金の成分限定理由を説明する。
V:8.0〜12.0%
Vはβ安定化元素であり、急冷したときに室温でβ単相にするために添加される。β単相にするためには少なくとも8.0%が必要であり、8.5%以上が好ましい。しかし、添加し過ぎると、Ms点が下がり過ぎ、それに伴って加工誘起変態が生じ難くなり、室温で超弾性を得ることができないようになる。このため、V量の下限を8.0%、好ましくは8.5%とし、その上限を12.0%、好ましくは11.0%とする。
Fe:1.0〜3.0%
Feは安価なβ安定化元素であり、急冷したときに室温でβ相にするために少なくとも1.0%が必要であり、好ましくは1.5%以上添加するのがよい。しかし、Feは共析型の添加元素であり、添加し過ぎるTiとFeの金属間化合物を析出し脆化するので、上限を3.0%、望ましくは2.5%とする。
Al:2.0〜4.0%
Alは332双晶と呼ばれるすべり変形を抑える作用を有する。しかし、添加し過ぎると加工性を劣化させる。このため、下限を2.0%、好ましくは2.5%とし、その上限を4.0%、好ましくは3.5%とする。
N:0.05〜0.40%
Nは上記のとおり、合金の降伏応力を上げると共にMs点及びAf点を室温以下に低下させるために添加する。このためには少なくとも0.05%が必要であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.13%以上添加するのがよい。一方、N添加量が過多になると降伏応力が高くなり過ぎ、加工性が劣化するので、上限を0.4%、好ましくは0.35%とする。
本発明のチタン合金は、上記必須成分のほか、残部がTi及び不可避的不純物からなるが、補助元素として下記の範囲でZr、Snの1種又は2種を添加することができる。
Zr:6.0%以下
Zrは母相の強度を上げることができる。過多に添加すると、加工性が劣化し、また高価な元素であるためコスト高を招来する。このため、添加量は6.0%以下に止めるのがよい。
Sn:4.0%以下
SnもZrと同様、母相の強度を上げる作用を有するが、比重が大きく、また過多に添加すると加工性が劣化する。このため、添加量は4.0%以下に止めるのがよい。
本発明のチタン合金は室温で、β相(β単相)組織を有するものでるが、前記β相とは、X線回折で観察したとき、β相のみであればよく、同観察方法で観察されないわずかなα相等の存在は許容される。また、室温とは、0℃〜40℃の温度範囲をいう。
本発明のチタン合金の工業的製造方法としては、上記成分を有するチタン合金をVAR(真空アーク溶解炉)などを用いて溶解し、溶融合金を鋳造して得られた鋳塊を1000℃〜1200℃に加熱し、必要に応じて均質化のために数時間から数十時間程度保持した後、70〜90%程度の圧下率で圧延、鍛造などの熱間塑性加工(粗加工)を行う。次いで、700℃〜900℃に加熱し、50〜70%程度の圧下率で熱間塑性加工(仕上加工)を行う。その後、β変態点以上に5〜120分加熱した後、水冷など(製品のサイズが小さいときは空冷でもよい。)により急冷し、室温でβ相のチタン合金を得る。
前記熱間塑性加工は、粗加工と仕上加工との二段に分けて行ったが、50〜90%程度の圧下率で一段の熱間塑性加工を施してもよい。また、必要に応じて、熱間加工後、一旦冷却した後、あるいはβ変態点以上に加熱し、急冷した後、10〜90%程度の冷間加工を施してもよい。熱間加工後に冷間加工を施す場合は、その後、β変態点以上に加熱して急冷し、組織をβ相とする。
本発明のチタン合金は、耐食性、比強度に優れ、良好な加工性(機械加工性を含む冷間加工性、熱間加工性)を備え、室温で弾性変形能に極めて優れるため、産業機械、自動車やバイク等の輸送機械、船舶航空宇宙機器、精密機器、家電品、眼鏡フレームなどの装身具、ゴルフクラブヘッドあるいはそのヘッド本体やフェース部等のゴルフクラブ部材,テニスラケット等のスポーツ用品、カテーテル等の医療用器具などの素材として好適に使用される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
下記組成のベース合金を、アーク溶解法により溶製し、さらにNを添加して種々のN含有量のチタン合金を溶製した。その溶湯を鋳込み、直径50mm×長さ15mmの鋳塊(120g)を得た。得られた鋳塊を1050℃に加熱し、20mmφまで熱間鍛造した。さらに780℃で10mmφまで熱間鍛造した後、1000℃で30分間加熱保持し、水焼入れを行った。
・ベース合金組成(残部Ti及び不可避的不純物)
V:10.0%、Fe:2.0%、Al:3.1%、N:0.003%
得られた丸棒から板厚1mm×板幅5mm×長さ30mmの曲げ試験片を採取して形状回復試験を行い、形状回復率を求めた。前記形状回復試験は、図1に示すように、試験片Sを水平状態から110°曲げた後(このときの試験片の表面の最大ひずみは2.5%であった。)、応力を除去し、応力を除去したあとの試験片が水平面となす角度θを測定するものであり、形状回復率は下記式により算出した。形状回復率が高いほど、元の状態に戻り易く、弾性能は高い。
形状回復率(%)=(110°−θ°)/110°×100
また、前記丸棒から引張試験片を採取し、ASTM E8に準拠して引張試験を行い、試料の引張強さを求めた。測定温度はいずれの試験も25℃である。これらの測定結果を表1に示す。また、N含有量と変形回復率との関係を整理したグラフを図2に示す。
Figure 2006089803
表1及び図1より、ベース合金では形状回復率が60%であったのに対し、0.06%とわずかなNを含有させるだけで、形状回復率は77%に上がり、0.10%のN添加により、形状回復率は90%となり、0.2%のN添加で94%に達した。この結果から、本発明のチタン合金は、高い弾性能を有し、特にN量が0.10%以上のものでは、室温において3%程度までの歪に対して優れた超弾性を示すことが確認された。
実施例における形状回復試験要領を示す説明図である。 実施例におけるN含有量と形状回復率との関係を示すグラフである。

Claims (5)

  1. mass%で、
    V :8.0〜12.0%、
    Fe:1.0〜3.0%、
    Al:2.0〜4.0%、
    N :0.05〜0.40%
    を含み、残部がTiおよび不可避的不純物からなり、室温での組織がβ単相である超弾性チタン合金。
  2. 請求項1に記載した超弾性チタン合金を素材として使用した眼鏡フレーム。
  3. 請求項1に記載した超弾性チタン合金を素材として使用したゴルフクラブ部材。
  4. 請求項1に記載した超弾性チタン合金を素材として使用した医療用器具。
  5. 請求項1に記載した成分を有するチタン合金を溶解して鋳造し、得られたチタン合金の鋳塊を加熱し、熱間塑性加工を施した後、β単相に加熱した後、急冷する請求項1に記載した超弾性チタン合金の製造方法。




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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2007327132A (ja) * 2006-06-09 2007-12-20 Kobe Steel Ltd プレス加工性に優れたチタン合金およびプレス成形部材
JP2012107282A (ja) * 2010-11-16 2012-06-07 Nippon Steel Corp 二方向の形状記憶特性を有するチタン合金部材及びその製造方法

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