JP2012072222A - 環状ポリフェニレンスルフィド混合物およびその製造方法 - Google Patents

環状ポリフェニレンスルフィド混合物およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】有機溶剤に対する溶解性の劣る成分の含有量を低減した環状ポリフェニレンスルフィド混合物およびその溶液を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物であり、m=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して15重量%未満であり、かつm=5の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする環状ポリフェニレンスルフィド混合物。
【化1】
Figure 2012072222

(式中、mは4〜20の整数であり、重合度を表している。)
【選択図】なし

Description

本発明は環状ポリフェニレンスルフィド混合物に関する。より詳しくはポリフェニレンスルフィド混合物とそれらを含有する溶液およびその製造方法に関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
このため、PPSをベースとする塗料は金属の防錆、防食、電気絶縁処理などの分野で用いられている。このPPSをベースとする塗料は、通常、粉体状もしくはスラリー状の塗料を被塗装物の表面に塗布した後、これを熱溶融させて塗膜を形成する方法が知られている(例えば特許文献1〜3)。
上記ベースレジンであるPPSの具体的な製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており、この方法はPPSの工業的製造方法として幅広く利用されている。しかしながら、この方法では直鎖のPPSしか得られず、クロロナフタレンなどのごく限定された溶媒にしか溶解せず、塗料やコーティング剤への応用は困難であった。また、このPPSは低分子量成分を多く含み、重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度が非常に大きく、分子量分布の広いものであり、塗料に用いた場合、十分な機械特性が発現せず、また塗膜形成の加熱時のガス成分が多く、塗膜にボイドが発生しやすいという問題があった。
さらに、この製造方法では塩化ナトリウム等の副生塩が多量に生成するため、重合反応後には副生塩の除去工程が必要であるが公知の処理では副生塩の完全な除去が難しく、市販の汎用的なPPS品中にはアルカリ金属含有量で1000〜3000ppm程度が含有されている。このように生成ポリマー中にアルカリ金属塩が残存していると、電気特性等の物性低下を招くといった問題が生ずる。従って、このようなポリフェニレンスルフィドを原料として用いた成形品を電気・電子部品の分野に適用しようとすると、ポリフェニレンスルフィド中のアルカリ金属による電気特性の低下が大きな障害となり、改善が望まれていた。
上記のような問題点を解決するため、直鎖PPSとは異なる分子形態を有し、有機溶媒への溶解性に優れた環状PPSを利用する試みが行われている。
環状PPSの製造方法としては、たとえばジアリールジスルフィド化合物を超希釈条件下で酸化重合する方法が提案されている(たとえば特許文献4参照)。この方法では環状PPSが高選択で生成し、線状PPSはごく少量しか生成しないと推測され、確かに環状PPSが高収率で得られると考えられる。しかしながら、この方法では超希釈条件で反応を行うことが必須とされており、反応容器単位容積あたりに得られる環状PPSはごくわずかであり、効率的に環状PPSを得るとの観点では課題の多い方法であった。また該方法の反応温度は室温近傍であるため、反応に数十時間の長時間が必要であり生産性に劣る方法であった。さらに該方法で副生するPPSは原料のジアリールジスルフィド由来のジスルフィド結合を含む分子量の低いものであり、熱安定性の低い実用価値の無いものであった。また、この方法で副生するPPSは、目的物である環状PPSと分子量が近いために、環状PPSと副生するPPSの分離が困難であり高純度な環状PPSを効率よく得ることは極めて困難であった。加えて、該方法では酸化重合の進行のために例えばジクロロジシアノベンゾキノンなど高価な酸化剤が原料のジアリールジスルフィドと等量必要であり、安価に環状PPSを得ることはできなかった。酸化重合を金属触媒の存在下、酸化剤として酸素を利用する方法も提案されており、この方法では酸化剤が安価であるが、反応の制御が困難で多種多量の副生オリゴマーが生成し、また他方では反応に極めて長時間が必要など課題が多く、いずれの場合でも純度の高い環状PPSを安価に効率良く得ることはできなかった。
環状PPSの他の製造方法として、4−ブロモチオフェノールの銅塩をキノリン中の超希釈条件下で加熱する方法が開示されている。この方法も前記特許文献4と同様に超希釈条件が必須であり、また反応に長時間が必要であり生産性の極めて低い方法であった。さらにこの方法では副生する臭化銅を生成物である環状PPSから分離することが困難であり、得られる環状PPSは純度の低いものであった(例えば特許文献5参照)。また、この方法で得られる環状PPSは環状PPSの4量体、5量体、6量体、およびそれ以上の単量体のものをそれぞれ20%、40%、20%、20%含む混合物であることが開示されている。
これら上記の手法で得られる環状PPSは、結晶性の高い、有機溶剤に対して難溶な環状オリゴマーを多く含んでおり、結果として有機溶剤に対する溶解性が低下し、それらの溶液の利用は困難であった。
また汎用的な原料からの環状PPSの製造方法として、ジハロゲン化芳香族化合物としてp−ジクロロベンゼンと、アルカリ金属硫化物として硫化ナトリウムを有機極性溶媒であるN−メチルピロリドン中で反応させ、ついで加熱減圧下で溶媒を除去後、水で洗浄することで得られたPPSを、塩化メチレンで抽出して得られた抽出液の飽和溶液部分から回収する方法が開示されている(たとえば特許文献6参照)。この方法では生成物の大部分が高分子量PPSであり、環状PPSが極微量(収率1%未満)しか得られないという問題があった。この手法により得られる環状PPSは、重合度が主に7〜15であり、有機溶剤に対する溶解性という点では課題がある。
その他環状PPSの利用として、環状PPSを添加剤として用いた線状PPSおよび熱可塑性結晶性樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献7〜9)。しかしながら、これらで開示されている環状PPSは、結晶性が高く溶解性に劣る6量体や8量体を多量に含むため、高濃度溶液を得ることができず、その利用は制限されていた。
特開平1−297474号公報 特開平3−220269号公報 特開平5−295301号公報 特許第3200027号公報 米国特許第5869599号公報 特開平05−163349号公報 特開平10−077408号公報 特開2008−179775号公報 特開2008−189900号公報
そこで本発明は、上述の問題を鑑み、有機溶剤に対する溶解性の劣る成分の含有量を低減した環状ポリフェニレンスルフィド混合物およびその溶液を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、
1.下式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物であり、m=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して15重量%未満であり、かつm=5の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする環状ポリフェニレンスルフィド混合物、
Figure 2012072222
(式中、mは4〜20の整数であり、重合度を表している。)
2.m=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して10重量%未満であり、かつm=5の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする上記1に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物、
3.前記環状ポリフェニレンスルフィド混合物100重量部に対して、m=4の含有量が0〜3重量部、m=5の含有量が15〜35重量部、m=6の含有量が0〜10重量部、m=7の含有量が15〜40重量部、かつ、m=8の含有量が0〜7重量部である、上記1または2のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物、
4.上記1〜3のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物と有機溶剤とを含む環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液、
5.前記環状ポリフェニレンスルフィド混合物を全溶液重量に対して1〜50重量%含む上記4に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液、
6.上記有機溶剤が、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホランおよびN,N−ジメチルイミダゾリジノンから選ばれる少なくとも1種である上記4または5に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液、
7.上記4〜6のいずれか1項に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液を溶液成形させた後、加熱重合することにより得られるポリフェニレンスルフィド成形品、
8.成形品がフィルムまたはシート状である上記7に記載のポリフェニレンスルフィド成形品、
9.環状ポリフェニレンスルフィド混合物からm=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィドを除去することを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の製造方法、を提供するものである。
本発明によれば、有機溶剤に対する溶解性の高い環状ポリフェニレンスルフィド混合物が提供され、それらを成形加工することにより優れた表面外観や低ガス性を有する成形品を得ることができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
(1)環状ポリフェニレンスルフィド
本発明における環状ポリフェニレンスルフィドとは、下記一般式(1)で表される、m=4〜20の整数で表される化合物であり、mは4〜20の混合物でもよい。
Figure 2012072222
上記式中の繰り返し単位mは、4〜20の整数であり、4〜15が好ましく、4〜12がさらに好ましい。mの数が20より大きいと、有機溶剤に対する溶解性が低下するため好ましくない。
本発明の環状PPSは、m=4、m=6およびm=8の環状PPS単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して15重量%未満であり、かつm=5の環状PPS単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする。m=4、m=6およびm=8の環状PPS単量体の含有量の合計は、12重量%未満がより好ましく、10重量%未満が特に好ましい。15重量%以上では、有機溶剤に対する溶解性が低下する。またm=5の環状PPS単量体の含有量は、17重量%以上が好ましく、20重量%以上が特に好ましい。20重量%未満では、溶解性に優れた成分の比率が低下し高濃度溶液を得ることができなくなるため好ましくない。
また本発明の環状PPS混合物は、環状PPS混合物100重量部に対して、m=4の含有量が0〜3重量部、m=5の含有量が15〜35重量部、m=6の含有量が0〜10重量部、m=7の含有量が15〜40重量部、かつ、m=8の含有量が0〜7重量部であることが好ましい。この範囲内では、溶解性と溶液安定性のバランスが取れ、溶液のハンドリング性が高くなると同時に、得られる成形品の外観が良好となる。なお、ここでの溶液安定性とは、環状PPS混合物を有機溶剤に溶解せしめた後、溶液を室温で1時間静置した際に固体が析出しないことを意味する。
ここで、環状PPS混合物中のそれぞれの環状PPS単体の含有率は、環状PPS混合物を紫外(UV)検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際の、PPS構造を有する化合物に帰属される全ピーク面積に対する、環状PPS単体に帰属されるそれぞれのピーク面積の割合として求めることができる。ここで、PPS構造を有する化合物とは、少なくともPPS構造を有する化合物であり、例えば環状PPS化合物や線状のPPSであり、フェニレンスルフィド以外の構造をその一部に有する(例えば末端構造として)化合物もここでいうPPS構造を有する化合物に属する。なお、この高速液体クロマトグラフィーで成分分割された各ピークの定性は、各ピークを分取液体クロマトグラフィーで分取し、赤外分光分析における吸収スペクトルや質量分析を行うことで可能である。
このような環状PPS化合物は、公知のPPSの製造方法によって、PPSと環状PPS化合物を含むPPS混合物を得た後、該PPS混合物から環状PPS化合物を抽出し、さらにm=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分を除去することにより得ることができる。以下にその製造方法について説明する。
(2)環状PPS化合物の原料となるPPS混合物の製造方法
PPS混合物の製造方法としては、公知の技術を用いることができ、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱して、PPS混合物およびアルカリ金属ハライドを含む反応溶液を調製し、該反応液をたとえば水等で処理することでPPS混合物(PPSと環状PPS化合物)を得る方法や、ジフェニルジスルフィド類もしくはチオフェノール類を酸化重合することでPPS混合物を得る方法が例示できる。ただし、これら方法で一般に得られるPPS混合物中に含まれる環状PPS化合物は通常5重量%未満と低いため、環状PPS化合物を5重量%以上含むPPS混合物を得るためには、たとえばPPS混合物の重合の際に、重合溶媒を多量に用いるなどの特殊な方法が必要であり、このような方法で効率よく多量のPPS混合物を得ることは経済的に不利であり、工業的には成立に難がある。
前記以外のPPS混合物の製造方法としては、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱し重合した後、220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のPPSと顆粒状PPS以外のPPS混合物、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む反応液から顆粒状のPPSを取り除いた際に得られる回収スラリーからPPS混合物を得る方法が好ましく例示できる。なお、ここで顆粒状PPSとは平均目開き0.175mmの標準ふるい(80meshふるい)で回収できるPPS成分を指す。
前記回収スラリーからPPSを回収する方法としては、たとえば回収スラリーから少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物を得て、これに水を添加した後、所望に応じて酸を加えて、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去してPPS混合物を分離回収して得る方法や、回収スラリーからPPS混合物を析出させ固体状成分としてPPSを回収する方法、たとえば回収スラリーに水を加えることでPPSを析出させた後に公知の固液分離法であるデカンテーション、遠心分離及び濾過などの手法によって、固体成分としてPPSを得る方法などを例示することができる。
(3)環状PPS化合物の抽出
本発明ではPPS化合物を、前記式(1)記載の環状PPS化合物(m=4〜20)が溶解可能な溶剤と接触させて環状PPS化合物を抽出する。
ここで用いる溶剤としては環状PPS化合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境において環状PPS化合物は溶解するが、線状PPSは溶解しにくい溶剤が好ましく、線状PPSは溶解しない溶剤がより好ましい。PPSを前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはPPSや環状PPS化合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、PPS混合物を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランがより好ましく例示できる。
PPSを溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPPSや溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
PPS混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環状PPS化合物の溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記したように、PPS混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
PPS混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状PPSの溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても溶剤への溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
PPSを溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえばPPS混合物と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のPPS混合物に溶剤をシャワーすると同時に環状PPSを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。PPSと溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえばPPS重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比が小さすぎるとPPS混合物と溶剤の混合が困難になるだけでなく、環状PPS化合物の溶剤への溶解が不十分になる傾向にある。浴比が大きい方が一般に環状PPS化合物の溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不利益が生じることがある。なお、PPSと溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。またソックスレー抽出法は、その原理上、PPSと溶剤の接触を繰り返し行う場合と類似の効果が得られるので、この場合も小さな浴比で十分な効果を得られる場合が多い。
PPSを溶剤と接触させた後に、環状PPS化合物を溶解した溶液が、残りの固形状のPPSを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。このようにして分離した溶液については、後述する溶剤の除去を行う。一方、残存した固体成分については、環状PPS化合物がまだ残存している場合、具体的には重量基準で0.05重量%以上の環状PPS化合物が残存している場合には、再度溶剤との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よく環状PPS化合物を得ることができる。また、環状PPS化合物がほとんど残存していない、具体的には環状PPS化合物の残存が重量基準で0.05重量%未満の場合には、残存溶剤を除去することで、残存した固体状のPPSは、高純度なPPSとして好適にリサイクル可能である。
(4)環状PPS化合物溶液からの溶剤の除去
本発明では前述のようにして得られた前記式(1)で表される環状PPS化合物(m=4〜20)を含む溶液から溶剤の除去を行い、環状PPS化合物を得る。ここで溶剤の除去は、たとえば加熱し、常圧以下で処理する方法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できるが、より収率よく、また効率よく環状PPS化合物を得るとの観点では常圧以下で加熱して溶剤を除去する方法が好ましい。なお、前述の様にして得られた環状PPS化合物を含む溶液は温度によっては固形物を含む場合もあるが、この場合の固形物も環状PPS化合物に属するものであるので、溶剤の除去時に溶剤に可溶の成分とともに回収する事が望ましく、これにより収率よく環状PPS化合物を得られるようになる。
溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
(5)その他後処理
前記(2)〜(4)に記載の方法により得られた環状PPS化合物は、m=5の環状PPS単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含む、m=4〜20の環状PPS化合物として好適に用いることができるが、さらに以下に述べる後処理を付加的に施すことによってよりいっそう純度の高い環状PPS化合物を得ることが可能である。
前記(2)〜(4)までの操作によって得られた環状PPS化合物は、用いた溶剤の特性によっては、PPS中に含まれる不純物成分を含む場合がある。このような少量の不純物を含む環状PPS化合物を不純物は溶解するが、環状PPS化合物は溶解しない、もしくは環状PPS化合物の溶解しにくい第二の溶剤と接触させることで、不純物成分を選択的に除去することが可能な場合が多い。
環状PPS化合物を前記第二の溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。第二の溶剤として好ましい溶剤としては、目的とする環状PPS化合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタンが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、酢酸エチルが特に好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
環状PPS化合物を第二の溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、上限温度は使用する第二の溶剤の常圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい第二の溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。
環状PPS化合物を第二の溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状PPS化合物中の不純物の第二の溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても第二の溶剤への不純物の溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
環状PPS化合物を第二の溶剤と接触させる方法としては固体状の環状PPS化合物と第二の溶剤を必要に応じて攪拌して混合する方法、各種フィルター上の環状PPS化合物固体に第二の溶剤をシャワーすると同時に不純物を第二の溶剤に溶解させる方法、固体状の環状PPS化合物を第二の溶剤を用いたソックスレー抽出を用いる方法や、溶液状の環状PPS化合物もしくは溶剤を含む環状PPS化合物スラリーを第二の溶剤と接触させて、第二の溶剤の存在下で環状PPS化合物を析出させる方法などを用いることができる。なかでも溶剤を含む環状PPS化合物スラリーを第二の溶剤と接触させる方法は、操作後に得られる環状PPS化合物の純度が高く、有効な方法である。
環状PPS化合物を第二の溶剤と接触させた後には、環状PPS化合物が第二の溶剤中に析出したスラリーが得られるので、公知の固液分離法を用いて固体状の環状PPS化合物を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。固液分離後に得られた環状PPS化合物中に不純物がまだ残存している場合は、再度環状PPS化合物と第二の溶剤とを接触させて、さらに不純物を除去することも可能である。
(6)m=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分の除去
m=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分の除去は、m=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分およびm=5を有する環状PPS成分を含むそれ以外のmを有する環状PPSのいずれか一方が溶解しやすく、他方が溶解しにくい溶剤を用い、両成分の溶解性の差を利用して達成することができる。その中でも、m=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分が溶解しにくく、その他の環状PPS成分(特にm=5を有する環状PPS成分)が溶解しやすい溶剤による抽出操作や晶析操作が好ましく用いられる。また、フラクションコレクターや分取用カラムを備えた分取用高速液体クロマトグラフィーを用いて成分分割を行い、m=4、m=6およびm=8を有する環状PPS以外の成分を分取してもよい。
抽出または晶析操作で用いる溶剤としてはm=4、m=6およびm=8を有する環状PPS成分が溶解しにくく、その他の環状PPS成分が溶解しやすい溶剤であれば特に制限はないが、用いる溶剤としては環状PPS化合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、PPS混合物を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。またこれらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として用いることもできる。
環状PPSを溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によって環状PPSや溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
環状PPS混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環状PPS化合物の溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記したように、PPS混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
環状PPS混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎるとその他環状PPSの溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても溶剤への溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られないし、m=4、m=6およびm=8の成分が多く溶解する場合もあるため好ましくない。
抽出の方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえば環状PPS混合物と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のPPS混合物に溶剤をシャワーすると同時にm=4、m=6およびm=8以外の環状PPSを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。環状PPSと溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえば環状PPS重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比が小さすぎると環状PPS混合物と溶剤の混合が困難になるだけでなく、その他環状PPS化合物の溶剤への溶解が不十分になる傾向にある。
晶析の方法は、公知の一般的な手法を用いることが可能であるが、例えば異なる温度における溶剤への溶解度差を利用し結晶を析出させ、析出結晶を除去する再結晶法が例示できる。
(7)環状PPS高濃度溶液
かくして得られた環状PPS化合物は前記式(1)におけるmが4〜20であり、本発明の環状PPSは、m=4、m=6およびm=8の環状PPS単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して15重量%未満であり、かつm=5の環状PPS単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする。この時、従来の線状PPSやm=4、m=6およびm=8の成分を15重量%より多く含有する環状PPS混合物と比較して環状PPSが高濃度で溶剤に溶解する。なお、ここで言う高濃度とは、溶液全重量に対して5重量%以上の濃度であることを指す。
ここで用いる溶剤としては上記の環状PPS化合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できる。その中でも、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホランおよびN,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホランおよびN,N−ジメチルイミダゾリジノンが特に好ましい。またこれらの溶媒は1種類または2種以上の混合物として用いることもできる。
環状PPSを溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によって環状PPSや溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
環状PPS混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環状PPS化合物の溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記したように、PPS混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
本発明の環状PPS溶液は、全溶液重量に対して5〜50重量%であり、好ましくは7〜50重量%であり、最も好ましくは10〜50重量%である。5重量%未満だと、後述する溶液製膜時に厚膜化しにくく、またピンホールが形成されやすく好ましくない。50重量%より高濃度であると、過溶解した環状PPSの析出が起こりやすく、溶液が不均一となるため好ましくない。
(8)本発明の環状PPSからなる成形品
上記(7)で得られた本発明の環状PPS溶液は、溶解性に劣るm=4、m=6およびm=8を有する環状PPSの含有量が小さく、溶解性に優れたm=5を有する環状PPSの含有量が大きいことから、環状PPSが析出することなく高濃度とすることができ、溶液成形時のハンドリング性や後述する加熱重合後に得られる成形品の外観に優れるといった特徴を有している。
本発明の環状PPSおよびその溶液の成形方法としては、公知のいかなる方法を用いてもよいが、例えば基材状に溶液を流延し薄膜化した後、加熱または減圧により溶媒を揮発せしめフィルム状に成形する方法(溶媒キャスト法)を好ましく例示できる。また溶液を薄膜化する方法としては、流延ダイを用いる方法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビアコート法またはディップコート法などが好ましく用いられる。この時用いられる基材としては、通常公知の材料を用いることができるが、ステンレスなどの金属からなるエンドレスベルト、ドラム、ポリエチレンフタレート、ポリイミド、ポリスルホンなどのポリマーからなるフィルム、硝子、剥離紙などが挙げられる。
また本発明では、環状PPSを溶液成形した後、環状PPSの加熱重合を行うことを特徴とする。加熱重合は、溶液製膜と同時に行ってもよく、環状PPS溶液を流延し薄膜化した後、加熱または減圧により溶媒を揮発せしめフィルム状に成形する際に、後述する条件において環状PPSの加熱重合を行う方法が例示できる。
加熱重合温度は、環状PPSの融点以上400℃以下が好ましく、好ましくは250℃以上380℃以下、より好ましくは280℃以上350℃以下である。融点未満では、均一な樹脂層を形成することが困難となり、また環状PPS化合物のPPSへの転化が不十分になりやすく、また400℃を超えると、好ましくない副反応により、得られるPPSの特性への悪影響が顕在化する場合がある。また環状PPS化合物の重合性や最終的に得られる成形品の厚みむらや機械物性の面から、加熱重合温度は280℃以上350℃以下が最も好ましい。
なお、ここで環状PPS化合物が溶融解する温度は、環状PPS化合物中のmの組成やPPSオリゴマー量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば環状PPS化合物を示差走査型熱量計で分析することで環状PPS化合物の融点(Tm)を把握することが可能である。
環状PPS化合物の加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は、非酸化性雰囲気で行うこともでき、減圧条件下で行うこともできる。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることもできる。これにより環状PPS間、加熱により生成したPPS間、及びPPSと環状PPS間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは環状PPS化合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によっては環状PPS化合物に含まれる分子量の低い環状PPS化合物が揮散しやすくなる傾向にある。
加熱重合時間としては1分以上〜180分以下が例示でき、3分〜150分が好ましく、5分〜120分がより好ましい。1分未満では環状PPS化合物のPPSへの転化が不十分になりやすく、180分を超えると、成形加工時間が長くなり、生産性が著しく悪化することや、好ましくない副反応により、得られるPPSの特性への悪影響が顕在化する場合がある。また環状PPS化合物の重合性や最終的に得られる成形品の厚みむらや機械物性の面から、加熱重合時間は5分〜120分が最も好ましい。
本発明の方法で得られる成形品の形態に制限はなく、無孔体であっても多孔質体であってもかまわない。これらの形態の制御は、環状PPS溶液の組成、孔径調整剤の有無、溶媒の種類、濃度、成形時の膜厚み、成形条件等により行うことができる。
かかるPPS成形品には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の各種添加剤を含有せしめることもできる。これらは環状PPS溶液に添加しても、環状PPS溶液を溶液成形せしめた後に添加しても構わない。これら他の添加剤としては、例えば、直鎖状、環状または多分岐状の熱可塑性樹脂や、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、炭酸カルシウム、ケイ砂、ワラステナイト、硫酸バリウム、ガラスビーズ、酸化チタンなどの各種強化材、非板状充填材、あるいは酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、抗菌剤等が挙げられる。
上記直鎖状、環状または多分岐状の熱可塑性樹脂の具体例としては、エポキシ基含有オレフィン系共重合体、その他のオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリアルキレンテレフタレート樹脂、その他のポリエステル樹脂、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。

本発明の環状PPSを溶液成形および加熱重合せしめた後に得られるPPS樹脂成形品は、上述の通り加熱重合によって環状PPSが高重合度化するため、好ましい態様において、分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が2.5以下であり、より好ましくは2.3以下、さらに好ましくは2.1以下、いっそう好ましくは2.0以下であり、低分子量成分の含有量が少ないという特徴を有する。分散度が2.5を越える場合はPPS成形品に含まれる低分子成分の量が多くなり、このことは形成時のガス発生量の増大による成形品の外観の悪化や機械特性低下に繋がるため望ましくない。また加熱重合後に得られるPPSの分子量は、PPS樹脂本来の特徴を維持する観点からも、重量平均分子量(Mw)で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは20,000以上である。重量平均分子量が10,000未満では成形品の機械強度のみならず、PPS樹脂本来の特性が損なわれる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、更に好ましくは200,000未満であり、この範囲内では優れた機械強度、PPS樹脂本来の特性を有する樹脂成形品を得ることができる。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用し、ポリスチレン換算した値として求めることができる。
以上のことから、本発明の環状PPS混合物は難溶解性成分の含有量が小さく、高濃度の安定溶液を得ることができる。またそれらの成形品はPPS樹脂の特性である、耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性、不純物の非溶出性、非透水性、寸法安定性に優れ、外観に優れ低ガス性であるという特徴から、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム、回路基板、絶縁基板、モーター絶縁フィルム、トランス絶縁フィルム、離型用フィルム、耐熱・耐薬品プレコート板、電気・電子部品、電線等の電気絶縁被覆、自動車部品、ケミカルプラント、給湯管、温泉配管、船舶・海水プラント、油田用パイプ等の耐熱・耐薬品・防食被覆、精密濾過膜、限外濾過膜、気体分離膜の支持膜や各種コーティング剤などに有効に適用できる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<環状PPS混合物中の環状PPS単体の含有率測定>
環状PPS混合物中のそれぞれの環状PPS単体の含有率は、紫外(UV)検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際の、PPS構造を有する化合物に帰属される全ピーク面積に対する、環状PPS単体に帰属されるそれぞれのピーク面積の割合として求めた。条件を以下に示す。
装置:島津製作所 LC−10Avpシリーズ
カラム:関東化学 Mightysil RP−18GP 150−4.6
検出器:島津製作所 SPD−M10P フォトダイオードアレイ(検出波長:254nm)
<分子量測定>
環状PPSおよびPPSの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流速:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<融点測定>
環状PPSおよびPPSの融点はセイコー電子工業製ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、下記条件にて測定した。なお、融点は2nd Runの値を用いた。
1st Run
・30℃×1分 ホールド
・30℃から350℃へ昇温,昇温速度20℃/分
・昇温後×1分 ホールド
・0℃へ降温,降温速度20℃/分
2nd Run
・0℃×1分 ホールド
・0℃から350℃へ昇温,昇温速度20℃/分(この時のTmをDSC曲線より測定する)。
[参考例1](環状PPSの原料となるPPS混合物の製造例
以下、本参考例において、本文(2)記載の環状ポリアリーレンスルフィドの原料となるPPS混合物の製造例について説明する。
<PPS混合物の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム82.7kg(700モル)、96%水酸化ナトリウム29.6kg(710モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を114.4kg(1156モル)、酢酸ナトリウム17.2kg(210モル)、及びイオン交換水100kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水143kgおよびNMP2.8kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン103kg(703モル)、NMP90kg(910モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水12.6kg(700モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を200kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)200kgを50kg/1バッチスケールで、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、濾液成分としてスラリー(C)を約150kg、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂(粗PPS樹脂(D))50kg得た。
得られたスラリー(C)150kgを50kg/1バッチで脱揮装置に仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。この固形物にイオン交換水200kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのフィルターで減圧吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水200kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥し、目的のPPS混合物を2kg得た。
次に、ここで得られたPPS混合物を用いた環状PPS混合物の製造例について下記に説明する。
[参考例2](環状PPS化合物の製造)
参考例1の方法で得られたPPS混合物を2kgに、溶剤としてクロロホルム50kgを用いて、浴温約80℃で抽出法により3時間PPS混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物(cPPS−1)840g(PPS混合物に対し、収率42%)を得た。
このようにして得られたcPPS−1は、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド骨格を有する化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置:日立製M−1200H)、更にマトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)およびGPCによる分子量情報より、この固形物は表1に示す繰り返し単位数4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、環状PPSの重量分率は約87%、13%は直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPS(Mw=2000)、Tm=226℃であった。また、m=4を有する環状PPS単量体の存在比率は0.4重量%、同様にm=5は14重量%、m=6は20重量%、m=8は12重量%であった。
次に、参考例2で得られた環状PPSからm=4,m=6およびm=8の環状PPS単量体を除去した環状PPS混合物および溶液の製造方法について以下に説明する。
[実施例1]
上記参考例2で得られた環状PPS混合物500gに、溶剤としてメチルエチルケトン(以下、MEKと略する場合もある)10kgを用いて、浴温約120℃で抽出法により5時間環状PPS混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてMEKを留去した後、70℃で6時間真空乾燥機し、環状PPS混合物(cPPS−2)320g(環状PPS混合物に対する収率64%)を得た。
得られた環状PPS(cPPS−2)の高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、繰り返し単位数4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、環状PPSの重量分率は約98%、2%は直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPS(Mw=2000)、Tm=248℃であった。また、m=4を有する環状PPS単量体の存在比率は0.6重量%、同様にm=5は21重量%、m=6は5.3重量%、m=8は4.0重量%であった。
得られた環状PPS(cPPS−2)を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解し環状PPSの高濃度溶液を得た。得られた溶液ついて、下記の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
<環状PPSの溶液安定性評価>
加熱溶解終了後1時間放冷後の溶液の析出物の有無を目視で評価した。
○ 析出物なし
△ 溶解後析出物あり
× 全量溶解せず。
[実施例2]
上記参考例2で得られた環状PPS混合物100gとNMP300gを混合し、100℃で2時間加熱撹拌した。加熱撹拌終了後、1時間室温で静置した後、5℃に冷却し析出物を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過した。得られたろ液からエバポレーターを用いてNMPを留去した後、110℃で12時間真空乾燥機し、環状PPS混合物(cPPS−3)43g(環状PPS混合物に対する収率43%)を得た。
このようにして得られた環状PPS混合物(cPPS−3)の赤外分光分析における吸収スペクトルより、当該固形物はポリフェニレンスルフィドであることが判明した。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、繰り返し単位数4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、環状PPSの重量分率は約98%、2%は直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPS(Mw=2000)、Tm=252℃であった。また、m=4を有する環状PPS単量体の存在比率は0.4重量%、同様にm=5は19重量%、m=6は3.6重量%、m=8は1.8重量%であった。
得られた環状PPS(cPPS−3)を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解し環状PPSの高濃度溶液を得た。得られた溶液ついて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
参考例1で得られた粗PPS樹脂(D)20kgにNMP約50リットルを加えて85℃で30分間洗浄し、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別した。得られた固形物を50リットルのイオン交換水で希釈して、70℃で30分撹拌後、80メッシュふるいで濾過して固形物を回収する操作を合計5回繰り返した。このようにして得られた固形物を、130℃で熱風乾燥し、線状PPS(LPPS−1)を得た。得られたポリマーの赤外分光分析による吸収スペクトルは参考例で得られたPPS混合物の吸収と一致した。
得られたLPPS−1のGPC測定の結果、得られたLPPS−1の重量平均分子量は59600、分散度は3.78であることがわかった。
得られたLPPS−1を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解した。得られた溶液ついて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
参考例2で得られた環状PPS(E)を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解した。得られた溶液ついて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
攪拌機、脱水塔およびジャケットを装備した15Lの反応器に、NMP5Lおよび硫化ナトリウム(純度:Na2S 60%)1875gを仕込み、攪拌下ジャケットにより加熱し、内温が約205℃に達するまで脱水塔を通じて脱水を行った。次いで、p−ジクロロベンゼン2151gを添加し、250℃に昇温後、3時間反応させた。反応終了後、反応混合物を約100℃まで冷却し、反応器内を減圧後、再加熱することにより、脱水塔を通じて主としてNMPからなる留出液5200gを留去した。反応器系内を常圧に戻し、水8Lを添加して水を含むスラリーとし、80℃で15分間加熱攪拌した後、該スラリーを反応器下部の取り出し口から抜き出し、遠心分離してポリマーを回収した。さらに、ポリマーを反応器に戻し、水8Lを添加し、180℃で30分間加熱攪拌を行い、冷却後、スラリーを反応器下部の取り出し口から抜き出し、遠心分離してポリマーを回収した。得られたポリマーをジャケット付きリボンブレンダーに移して乾燥を行った。得られたポリマーは1400gであった。次いで、このポリフェニレンスルフィド1200gを塩化メチレン30kgを溶媒とし、ソックスレー抽出を行った。その後、飽和塩化メチレン抽出液をメタノールに投入し、沈澱物を濾過、乾燥し、環状PPS混合物(cPPS−4)13gを得た。
このようにして得られたcPPS−4の赤外分光分析における吸収スペクトルより、当該固形物はポリフェニレンスルフィドであることが判明した。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、繰り返し単位数7〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、環状PPSの重量分率は約96%、4%は直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPSであり、Tm=262℃であった。
得られたcPPS−4を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解した。得られた溶液ついて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
上記参考例2で得られた環状PPS混合物500gに、溶剤としてシクロヘキサン10kgを用いて、浴温約120℃で抽出法により8時間環状PPS混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてシクロヘキサンを留去した後、70℃で6時間真空乾燥機し、環状PPS混合物(cPPS−5)210g(環状PPS混合物に対する収率21%)を得た。
得られた環状PPS(cPPS−5)の高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、繰り返し単位数4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、環状PPSの重量分率は約98%、2%は直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPS(Mw=2000)、Tm=241℃であった。また、m=4を有する環状PPS単量体の存在比率は0.1重量%、同様にm=5は5.7重量%、m=6は5.4重量%、m=8は4.3重量%であった。
得られた環状PPS(cPPS−5)を、NMPを溶剤として用い、5〜25重量%の濃度で150℃で1時間加熱溶解し環状PPSの高濃度溶液を得た。得られた溶液ついて、下記の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
Figure 2012072222
表1より明らかな様に、本発明の環状PPS、従来までの線状PPSなどと比較して、有機溶剤に対して易溶であり、析出物がない安定高濃度溶液を得ることができることが分かる。
[実施例3〜4]
上記実施例1および2で得られた環状PPS混合物を、NMPに20重量%の濃度になるように150℃で1時間加熱溶解し、その後1時間放冷し、ドープ溶液を調製した。得られたドープ溶液を、ガラスプレート上に0.05mmの厚さになるようにスパイラルバーコーターで塗布した後、150℃に暖めたブロックヒーター上に載せて1時間加熱し、さらに200℃で30分加熱乾燥した。その後、330℃の温度に設定したオーブン中に入れて窒素雰囲気下で1時間加熱重合を行い、膜厚約20μmの褐色フィルムを得た。
これらのフィルムについて、下記評価を行った。結果を表2に示す。
<フィルム外観評価>
上記PPSフィルムについて、下記基準に基づき、目視にて判定した。
◎ 非常に優れている。
○ 優れている
× 外観不良(肌荒れ、ボイド、フクレあり)。
<PPSフィルムの分子量および分子量分布測定>
ガラスプレートからPPSフィルムについて、上述の環状PPSと同様の方法でGPC測定を行い、ポリスチレン換算分子量を測定した。
<PPSフィルムのガス発生量>
ガス発生量は、加熱時重量減少率により評価し、熱重量分析機を用い下記条件で行った。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
重量減少率△Wfは(b)の昇温において、100℃時の試料重量(W1)を基準として、330℃到達時の試料重量(W2)から下式を用いて算出した。
ΔWf=(W1−W2)/W1×100(重量%)。
[比較例5〜7]
上記比較例2〜4で得られた環状PPS混合物を、NMPに3重量%の濃度になるように150℃で1時間加熱溶解し、その後1時間放冷し、ドープスラリーを調製した。得られたドープスラリーを、ガラスプレート上に0.10mmの厚さになるようにスパイラルバーコーターで塗布した後、150℃に暖めたブロックヒーター上に載せて2時間加熱し、さらに200℃で30分加熱乾燥した。その後、330℃の温度に設定したオーブン中に入れて窒素雰囲気下で1時間加熱重合を行い、膜厚約10μmの褐色フィルムを得た。
これらのフィルムについて、実施例3〜4と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
Figure 2012072222
表2の結果から明らかなように、本発明の環状PPSからなるフィルムは、高濃度溶液を調製可能であり、また加熱重合後に得られるフィルムは低分子成分に由来する分解ガス発生量が少なく、ボイド等の欠点の少ない外観に優れていることが分かる。一方、従来技術で得られる難溶性分を含む環状PPSを用いた場合、高濃度溶液を調製することができず、不均一なスラリーをドープすることにより、得られるフィルムの外観に欠点が発生し均一なフィルムを得ることができない。

Claims (9)

  1. 下式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物であり、m=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して15重量%未満であり、かつm=5の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする環状ポリフェニレンスルフィド混合物。
    Figure 2012072222
    (式中、mは4〜20の整数であり、重合度を表している。)
  2. m=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量の合計が、全単量体の合計に対して10重量%未満であり、かつm=5の環状ポリフェニレンスルフィド単量体の含有量が全単量体の合計に対して15重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物。
  3. 前記環状ポリフェニレンスルフィド混合物100重量部に対して、m=4の含有量が0〜3重量部、m=5の含有量が15〜35重量部、m=6の含有量が0〜10重量部、m=7の含有量が15〜40重量部、かつ、m=8の含有量が0〜7重量部である、請求項1または2のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物と有機溶剤とを含む環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液。
  5. 前記環状ポリフェニレンスルフィド混合物を全溶液重量に対して5〜50重量%含む請求項4に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液。
  6. 上記有機溶剤が、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホランおよびN,N−ジメチルイミダゾリジノンから選ばれる少なくとも1種である請求項4または5に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液。
  7. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液を溶液成形させた後、加熱重合することにより得られるポリフェニレンスルフィド成形品。
  8. 成形品がフィルムまたはシート状である請求項7に記載のポリフェニレンスルフィド成形品。
  9. 環状ポリフェニレンスルフィド混合物からm=4、m=6およびm=8の環状ポリフェニレンスルフィドを除去することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の製造方法。
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