JP2017105981A - ポリアリーレンスルフィドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの重合反応に際し、高温、長時間を要し、ポリアリーレンスルフィド中に金属残留を生じる従来の触媒技術の欠点を解決し、金属量の少ないポリアリーレンスルフィドを短時間で得ることのできる製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】式(A)で表され、かつ式中の繰り返し数m=4〜50である環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーを、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の、末端SH基を有するアリーレンスルフィド化合物の存在下で加熱する。(Arはアリーレン基を表す。)【選択図】なし

Description

本発明はポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものであり、さらに詳しくはポリアリーレンスルフィドプレポリマーをアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)に代表されるポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
このポリアリーレンスルフィドの具体的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており、この方法はポリアリーレンスルフィドの工業的製造方法として幅広く利用されている。しかしながら、この製造方法は高温、高圧、かつ強アルカリ条件下で反応を行うことが必要であり、さらに、N−メチルピロリドンのような高価な高沸点極性溶媒を必要とし、溶媒回収に多大なコストがかかるエネルギー多消費型で、多大なプロセスコストを必要とするといった課題を有している。
一方、ポリアリーレンスルフィドの別の製造方法として、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することによるポリアリーレンスルフィドの製造方法が開示されている。この方法では、高分子量で、狭い分子量分布を有し、加熱した際の重量減少が少ないポリアリーレンスルフィドを得ることが期待できるが、環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応が完結するには高温、長時間を要した(例えば特許文献1)。
環式ポリフェニレンスルフィドと、環式ポリフェニレンスルフィド合成時に副生する線状ポリフェニレンスルフィドとの混合物を加熱する、ポリフェニレンスルフィドの重合方法も知られている(非特許文献1)。この方法はポリフェニレンスルフィドの安易な重合法であるが、環式ポリフェニレンスルフィド合成時に副生する線状ポリフェニレンスルフィドの存在は、環式ポリフェニレンスルフィドの重合反応を促進するものではなく、得られるポリフェニレンスルフィドの重合度は低く実用に適さないポリフェニレンスルフィドであった。
官能基を有する工業的に有用なポリアリーレンスルフィドの製造方法として、環式ポリアリーレンスルフィド組成物を、反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下で加熱する方法も知られており、反応性官能基として具体的にはアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基が開示されている(特許文献2)。この方法では反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドを得られる他、アミノ基およびヒドロキシル基を有するスルフィド化合物に限っては、環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応を促進する効果も有していた。
この他、高温、長時間を要していた環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応を促進する各種触媒技術としては、これまでに、ラジカル発生能を有する化合物、イオン性化合物、遷移金属化合物などを使用する方法が知られている。
特許文献3、非特許文献2には、ラジカル発生能を有する化合物として、例えば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物が開示されており、具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が開示されている。
特許文献4および5には、アニオン重合において開環重合触媒になり得るイオン性化合物が開示されており、具体的には例えばチオフェノールのナトリウム塩のようなアニオン種を生成する硫黄のアルカリ金属塩を用いる方法が開示されている。また、特許文献4には、カチオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物として、塩化鉄(III)などのルイス酸、プロトン酸、トリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、アルキル化剤またはシリル化剤などを用いる方法も挙げられている。
特許文献6には、アニオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物とルイス酸を共存させる方法が開示されており、具体的にはチオフェノールのナトリウム塩と塩化銅(II)を共存させる方法が開示されている。
特許文献7および8には、重合触媒として遷移金属化合物を用いる方法が開示されており、特許文献7には、0価遷移金属化合物として具体的には例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどを用いる方法が、特許文献8には、低原子価鉄化合物として具体的には例えば塩化鉄などを用いる方法が開示されている。
国際公開第2007/034800号 国際公開第2012/057319号 米国特許第5869599号明細書 特開平5−163349号公報 特開平5−105757号公報 特開平5−301962号公報 国際公開第2011/013686号 特開2012−92315号公報
ポリマー(Polymer),vol.37,No.14,1996年(第3111〜3116ページ) マクロモレキュールズ(Macromolecules),30,1997年(第4502〜4503ページ)
特許文献2に記載の、環式ポリアリーレンスルフィド組成物を反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下で加熱する方法において、一部のスルフィド化合物は環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応を促進する効果を有していたが、重合反応の促進効果としては不十分であった。
特許文献3および非特許文献2に記載のラジカル発生能を有する化合物、特許文献4および5に記載のアニオン重合触媒になり得るイオン性化合物をそれぞれ重合触媒として用いる方法、また、特許文献6に記載のアニオン重合触媒となり得るイオン性化合物とルイス酸を共存させる方法は、環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応の促進効果としては不十分で、環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応が完結するには高温、長時間を要した。
特許文献4に記載のカチオン重合触媒となり得るイオン性化合物を重合触媒として用いる方法は、これら開環重合触媒の効果に関する具体的な開示はなく、効果は明らかでなかった。
また、イオン性化合物などの金属化合物を用いる方法では、用いた金属がポリアリーレンスルフィド中に残留するという課題があった。
特許文献7および8に記載の遷移金属化合物を重合触媒として用いる方法では、環式ポリアリーレンスルフィドの重合反応を促進し、重合反応の低温化、短時間化が可能であったが、用いた遷移金属がポリアリーレンスルフィド中に残留するという課題があった。
このように、従来の技術による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの重合反応においては、触媒による重合反応の促進効果と、ポリアリーレンスルフィド中の金属量低減を両立することが困難であった。
本発明は、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの重合反応に際し、高温、長時間を要し、ポリアリーレンスルフィド中に金属残留を生じる従来の触媒技術の欠点を解決し、金属量の少ないポリアリーレンスルフィドを短時間で得ることのできる製造方法を提供することを課題とするものである。
本発明は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを下記一般式で示されるアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法である。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)式(A)で表され、かつ式中の繰り返し数m=4〜50である環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーを、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の、式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物の存在下で加熱することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(Arはアリーレン基を表す。)
(nは数平均重合度を表し1以上50以下の範囲である。)
(2)式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物のnが10以上であることを特徴とする(1)に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(3)式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物のnが20以上であることを特徴とする(1)に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
(4)加熱を非酸化性雰囲気下で行うことを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱によるポリアリーレンスルフィドの製造において、従来法と比較して、金属量の少ないポリアリーレンスルフィドを、短時間で得ることができる。
以下に、本発明実施の形態を説明する。
<ポリアリーレンスルフィド>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arはアリーレン基を表し、Arとしては式(C)〜(M)などで表される単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。
(R、Rは水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、RとRは同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、式(N)〜(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは30,000以上、さらに好ましくは40,000以上、よりいっそう好ましくは45,000以上である。重量平均分子量が10,000以上では加工時の成形性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が高くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドは、分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が狭い特長を有する傾向にある。本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドの分散度は2.5以下が好ましく、2.2以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましい。分散度が2.5以下ではポリアリーレンスルフィドに含まれる低分子成分の量が少なくなる傾向が強く、このことはポリアリーレンスルフィドを成形加工用途に用いた場合の機械特性向上、加熱した際のガス発生量の低減および溶剤と接した際の溶出成分量の低減などの効果を奏する。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィド構造中にチオール基を有することにより、例えばエポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂などの他樹脂、例えば金、銅などの金属や金属酸化物などとの反応性、接着性に優れる傾向にある。
また、従来幅広く利用されている、ポリアリーレンスルフィドの製造方法では、硫黄化合物に由来するチオラート末端、ポリハロ芳香族化合物に由来するハロゲン末端が存在し、溶媒由来の末端として例えばN−メチル−2−ピロリドンに由来する末端が存在する場合もある。それに対し、本発明のポリアリーレンスルフィドはチオール基を導入するためこれら末端構造量が低減し、低ハロゲン、低金属であるという特長を有する傾向にある。さらに、本発明のポリアリーレンスルフィドの末端構造がチオール基で比較的高純度化される影響と推測しているが、結晶化温度が高温化する傾向が見られる。本発明のポリアリーレンスルフィドの結晶化温度に特に制限はないが、溶融結晶化速度が速く成形加工時間を短時間化でき、結晶化が均一に進行する傾向にあるという観点からは、220℃以上であることが好ましく、225℃以上であることがより好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィドは、従来法と異なりその製造方法においてN−メチルピロリドンのような溶媒を必要としないこと、また、公知のラジカル発生能を有する化合物やイオン性化合物などの触媒を使用しないことなどから、加熱加工時のガス発生量が少ない傾向にある。
このガス発生量は、一般的な熱重量分析によって求められる、下記式で表される、加熱した際の重量減少率ΔWから評価できる。
ΔW=(W−W)/W×100(%)…(R)
なお、ΔWは常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から350℃まで昇温速度20℃/分で昇温した後、350℃で30分保持する温度プログラムで熱重量分析を行った際に、熱重量分析前の試料重量(W)、350℃到達時の試料重量(W)、350℃で30分保持後の試料重量(W)から求められる値である。
この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際の温度領域に近く、このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドの方が品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気であることを指す。この分析における非酸化性雰囲気とはすなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中のポリアリーレンスルフィドの酸化などが起こったり、実際にポリアリーレンスルフィドの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、ポリアリーレンスルフィドの実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、ΔWの測定においては、好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。ΔWの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは上記にて加熱した際の重量減少率ΔWが1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.4%以下であることがよりいっそう好ましく、0.3%以下であることがさらにいっそう好ましい。
ΔWが前記範囲である場合には、例えばポリアリーレンスルフィドを成形加工する際に発生ガス量が少ないといった特長を有する傾向にあり好ましく、また、押出成形時の口金やダイス、また射出成形時の金型への付着物が少なくなり生産性が向上する傾向もあるため好ましい。
本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱する際に金属化合物を用いないことから、金属含有量が少ない特長を有する傾向にある。ポリアリーレンスルフィドが電気特性に優れ、またポリアリーレンスルフィドをフィルム、シート、繊維などに加工し用いる際の物性に優れるという観点から、ポリアリーレンスルフィドの金属含有量を示す灰分量は、ポリアリーレンスルフィド重量に対して1.5重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましく、0.3重量%以下であることがよりいっそう好ましい。
また、本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物非存在下で加熱して得られるポリアリーレンスルフィドに比べて良色調となる傾向にある。本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドは、末端構造がチオール基で比較的高純度化される影響と推測している。調色が容易となる観点から、L*値は50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱することを特徴とし、この方法によれば容易に前述した特性を有する本発明のポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
本発明の製法における、ポリアリーレンスルフィドに含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量は30%以下であることが好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド量が30%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得られる傾向にある。
<ポリアリーレンスルフィドプレポリマー>
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマーとは式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する前記式(A)のごとき環式ポリアリーレンスルフィドを、少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含むものが好ましい。Arとしては前記式(C)〜(M)などで表される単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。
なお、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(C)〜(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位として前記式(Q)のp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリアリーレンスルフィドが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる前記式(A)中の繰り返し数mは4〜50である。ここで下限は4以上であり、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上がよりいっそう好ましく、8以上がさらにいっそう好ましい。mが小さい環式ポリアリーレンスルフィドは反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点ではmを前記範囲にすることが好ましい。一方上限は50以下であり、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。後述するようにポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの重合反応はポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなるとポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解する温度が高くなる傾向にある。そのため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応をより低い温度で行うためには、mを前記範囲にすることが好ましい。
また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドは、mが単一の環式ポリアリーレンスルフィド、mが異なる値を有する環式ポリフェニレンスルフィドの混合物のいずれでもよいが、mが異なる値を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方がmが単一の環式ポリアリーレンスルフィドよりも融解する温度が低い傾向があり、mが異なる値を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの重合反応を行う際の加熱温度をより低くできるため好ましい。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド以外の成分は、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記式(C)〜(M)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(C)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記式(N)〜(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが含有する前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドよりも少ないことが特に好ましい。すなわちポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このようなポリアリーレンスルフィドプレポリマーを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。従って、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比の値が大きいほど、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。この重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を超えるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得るためには、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法によれば該重量比が100以下のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを用いても、重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比は、HPLCを用いて定量したポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド量から算出することができる。例えばポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド以外の成分がポリアリーレンスルフィドオリゴマーである場合には、
重量比=前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド量(%)/(100−前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィド量(%))
と算出できる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの末端構造は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの合成方法にもよるが、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中、希薄条件下で、硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物を反応させる場合には、原料の仕込み比率などに応じて存在量は異なるものの、通常は硫黄化合物に由来するチオラート末端、ポリハロ芳香族化合物に由来するハロゲン末端が存在し、溶媒由来の末端としてN−メチル−2−ピロリドンに由来する末端が存在する場合もある。
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に用いるポリアリーレンスルフィドプレポリマーの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000未満が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
<アリーレンスルフィド化合物>
本発明において、前記式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物が重合触媒として用いられる。
nは数平均重合度を表し、1以上50以下の範囲である。アリーレンスルフィド化合物は、前記範囲を満たすnの範囲であれば、nが単一のアリーレンスルフィド化合物でもよいし、nが異なるアリーレンスルフィド化合物の混合物でもよい。nは1以上であればよいが、nが大きくなるほど、加熱の際の、アリーレンスルフィド化合物の系外への留出を抑制できるため、添加量に対して高効率に重合反応を促進することができ、得られるポリアリーレンスルフィドの加熱時のガス発生量が少ない傾向となる観点で、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。一方、nが50を超えると、アリーレンスルフィド化合物とポリアリーレンスルフィドプレポリマーとの相溶性が低くなると推測され、相溶性が低くなるとポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果が得られにくくなると考えられるため好ましくない。
アリーレンスルフィド化合物はp−体、m−体、o−体のいずれでもよく、共重合体でもよく、またこれらの混合物であってもよい。得られるポリアリーレンスルフィドの結晶化温度が高くなり、耐熱性が高くなる傾向にある観点からは、主要構成単位として前記式(Q)のp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するアリーレンスルフィド化合物が好ましい。
アリーレンスルフィド化合物の加熱時のガス発生量は、熱重量分析を用い、下記式(S)で表される、加熱時の重量減少率ΔWで評価できる。
ΔW=(W−W)/W×100(%)…(S)
(ここでΔWは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、熱重量分析前の試料重量(W)、100℃到達時の試料重量(W)、330℃到達時の試料重量(W)から求められる値である)
添加したアリーレンスルフィド化合物が、系外に留出しにくく、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果を得やすい観点で、ΔWは95%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下がよりいっそう好ましい。△Wが小さいほど、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱時のガス発生量が少なくなる傾向にあり、また、アリーレンスルフィド化合物の重合時の系外への留出を抑制できる傾向にあるため、より効率的にポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果を得られる傾向にある。
上記△Wは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。この分析における非酸化性雰囲気とはすなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。不活性雰囲気であれば、測定中にアリーレンスルフィド化合物の酸化などが起こりにくく、アリーレンスルフィド化合物の加熱時のガス発生量をより正確に測定することができる。
また、△Wの測定においては、50℃から350℃まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱において頻用されうる温度領域である。このような温度領域における重量減少率は、実際のポリアリーレンスルフィドプレポリマー加熱時のアリーレンスルフィド化合物の系内からの留出量に関連し、重量減少率が少ないアリーレンスルフィド化合物は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー加熱時の系外への留出を抑制でき、添加量に対して高効率に重合反応を促進し、また得られるポリアリーレンスルフィドの加熱時のガス発生量が少ない傾向となる。
なお、△Wの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
アリーレンスルフィド化合物の両末端に存在するチオール基は、例えばIR、NMR、質量分析などにより分析可能である。具体的には、例えばIRでは、SH結合に由来する2560cm−1の吸収の面積からチオール基の存在量を見積もることが可能である。1,4−ベンゼンチオールや、4,4’−ジチオビスベンゼンチオールなど、一般的に入手可能なベンゼンチオールなどにおける2560cm−1の吸収の面積との比較から、チオール基の存在量を算出することができる。
アリーレンスルフィド化合物は、一般的に入手可能なものを用いることも、原料から合成して得たものを用いることも可能である。
原料から合成する場合には、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのスルフィド化剤とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる際に、硫化ナトリウムなどのスルフィド化剤を大過剰に用い、さらに反応生成物回収の際に酸性水溶液で洗浄、回収する方法を挙げることができる。
ポリハロ芳香族化合物とスルフィド化剤のモル比としては、求めるアリーレンスルフィド化合物の分子量にもよるが、ポリハロ芳香族化合物/スルフィド化剤が50/100から95/100を好ましい範囲として例示できる。ポリハロ芳香族化合物/スルフィド化剤が50/100以上であれば、原料が効率よく反応し未反応物が残存しにくく、高収率で目的のアリーレンスルフィド化合物を得られる傾向にある。また、ポリハロ芳香族化合物/アルカリ金属硫化物が95/100以下であれば、スルフィド化剤が過剰量となり、両末端にチオール基を有するアリーレンスルフィド化合物を得られる傾向にある。なお、ポリハロ芳香族化合物に対するスルフィド化剤の量が多いほど、得られるアリーレンスルフィド化合物の分子量は低くなる傾向にある。
原料から合成する場合の濃度は、原料のモル比、アリーレンスルフィド化合物に求める分子量、溶媒種、反応温度などにより異なるため一様には規定できないが、硫黄原子を基準とした濃度で0.4M以上2M以下を好ましい範囲として例示できる。硫黄原子を基準とした濃度が0.4M以上であれば、ポリハロ芳香族化合物とスルフィド化剤の反応が十分な速度で進行する傾向にある。また、硫黄原子を基準とした濃度が2M以下であれば、前記式(B)中のnが大きくなりすぎず、アリーレンスルフィド化合物とポリアリーレンスルフィドプレポリマーとの相溶性が低くなりにくいアリーレンスルフィド化合物が得られる傾向にある。
反応の温度は、原料のモル比、濃度、アリーレンスルフィド化合物に求める分子量、溶媒種などにより異なるため一様には規定できないが、通常120℃以上350℃以下を好ましい範囲として例示できる。下限としては通常120℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは225℃以上であり、120℃以上であれば、ポリハロ芳香族化合物とスルフィド化剤の反応が速やかに進行する傾向にある。上限としては通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは310℃以下、さらに好ましくは300℃以下であり、350℃以下であれば副反応が生じにくい傾向にある。
反応の時間は、温度、濃度、アリーレンスルフィド化合物に求める分子量、溶媒種などにより異なるため一様には規定できないが、0.1時間以上を好ましい範囲として例示できる。通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であり、0.1時間以上であればポリハロ芳香族化合物とスルフィド化剤の反応が十分に進行する傾向にある。反応時間に特に上限はないが、40時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは10時間以内、より好ましくは6時間以内も採用できる。
反応生成物回収の際に洗浄に用いる酸性水溶液としては、塩酸水溶液や酢酸水溶液などが例示でき、これらの酸性水溶液を用いることで、両末端にチオール基を有するアリーレンスルフィド化合物が得られ、また洗浄時に副生する塩化物や酢酸塩などを十分に洗浄除去することが可能である。
酸性水溶液を用いた洗浄時のpHとしては、溶媒を含む反応生成物と酸性水溶液の混合物において、6以下を好ましい範囲として例示でき、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。この範囲では、両末端にチオール基を有するアリーレンスルフィド化合物を得ることができる。
酸性水溶液を用いた洗浄時の、溶媒を含む反応生成物と酸性水溶液の比としては、反応時の濃度、溶媒種、酸性水溶液のpHなどにより異なるため一様には規定できないが、反応生成物/酸性水溶液が1/1から1/20の範囲を好ましい範囲として例示できる。この範囲であれば、両末端にチオール基を有するアリーレンスルフィド化合物を十分に析出させ分離、回収することができ、使用する酸性水溶液が多すぎず効率よくアリーレンスルフィド化合物を得られる傾向にある。
<アリーレンスルフィド化合物の添加量および添加方法>
使用するアリーレンスルフィド化合物の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィドの分子量や、目的とする重合反応促進効果、重合条件、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの組成、アリーレンスルフィド化合物の分子量などにより異なるが、通常、重合促進効果の観点からの下限としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.001モル%以上が好ましく、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上、よりいっそう好ましくは0.5モル%以上が例示できる。0.001モル%ではポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応が十分に進行する。一方、上限としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して20モル%以下が好ましく、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下が例示できる。20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができ、また、アリーレンスルフィド化合物の存在に起因する、ポリアリーレンスルフィド中に含まれる比較的低分子量のポリアリーレンスルフィド量が少なくなる傾向にあるため好ましい。なお、ここでいうアリーレンスルフィド化合物の濃度とは、数平均重合度nから算出されるアリーレンスルフィド化合物の数平均分子量基準での濃度をいう。
アリーレンスルフィド化合物の添加に際しては、そのまま添加してもよいが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中に均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを溶融し分散させる方法、アリーレンスルフィド化合物を溶融し分散させる方法、あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法、あるいはポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱時に繊維状物質を共存させる場合にはあらかじめ繊維状物質上に分散させる方法などが挙げられる。
機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。
溶媒を用いて分散させる方法として、具体的にはポリアリーレンスルフィドプレポリマーを適宜な溶媒に溶解または分散し、これにアリーレンスルフィド化合物を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを溶融し分散させる方法としては、固体状態のポリアリーレンスルフィドプレポリマーにアリーレンスルフィド化合物を添加した後、加熱によりポリアリーレンスルフィドプレポリマーを溶融させる方法、あらかじめポリアリーレンスルフィドプレポリマーを溶融した後にアリーレンスルフィド化合物を添加する方法などが例示できる。
アリーレンスルフィド化合物を溶融し分散させる方法としては、固体状態のポリアリーレンスルフィドプレポリマーにアリーレンスルフィド化合物を所定量加えた後、加熱によりポリアリーレンスルフィドプレポリマーおよびアリーレンスルフィド化合物を溶融させる方法、あらかじめアリーレンスルフィド化合物を溶融した後にポリアリーレンスルフィドプレポリマーを添加する方法などが例示できる。
あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒にアリーレンスルフィド化合物を所定量加え分散あるいは溶解させた後、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内で溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
あらかじめ繊維状物質上に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒にアリーレンスルフィド化合物を所定量加え分散あるいは溶解させた後、繊維状物質に塗布するか散布するか含浸させるなどした後、溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
アリーレンスルフィド化合物の添加に際しては、より均一な分散を可能とするため、平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
また、本発明で用いるアリーレンスルフィド化合物は、非酸化性雰囲気下で添加することも、大気中で添加することも可能である。
アリーレンスルフィド化合物を添加する際の温度は、添加に用いる方法が実施可能な温度範囲であれば特に制限はないが、上限としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応が進行しにくい温度領域であることが好ましく、例えば300℃以下、好ましくは260℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは220℃以下、よりいっそう好ましくは200℃以下、さらにいっそう好ましくは180℃以下が例示できる。また、使用するアリーレンスルフィド化合物の量および分子量にもよるが、アリーレンスルフィド化合物がポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合反応を促進しにくい温度領域であることが好ましい。
<ポリアリーレンスルフィドの製造条件>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドを製造する際の加熱温度は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限はない。ただし、加熱温度が、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解する温度未満では、ポリアリーレンスルフィドを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解する温度は、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばポリアリーレンスルフィドプレポリマーを示差走査型熱量計で分析することで把握することが可能である。ただし、一般に融解する温度には幅があり、融点以上でも融解にともなう吸熱が継続する傾向があるため、均一に融解させるためには、加熱温度はポリアリーレンスルフィドプレポリマーの融点以上であることが好ましく、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの融点よりも10℃以上高い温度が好ましく、20℃以上高い温度がより好ましい。なお、融点は示差走査熱量計により測定することができる。
加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーが融解し、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーとアリーレンスルフィド化合物が相溶しやすく、反応しやすくなり、短時間でポリアリーレンスルフィドを得ることができる。一方、温度が高すぎるとポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィド、環式ポリアリーレンスルフィド以外のポリアリーレンスルフィドオリゴマー、加熱により生成したポリアリーレンスルフィドなどの間での、架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィドの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示できる。この温度以下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。また加熱温度は、加熱あるいは冷却に要するエネルギー低減や時間短縮が可能になり生産性が向上することから低い方がより好ましい。このことから、好ましい加熱温度として400℃以下、より好ましくは360℃以下といった温度が例示できる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とはポリアリーレンスルフィドプレポリマーが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気であることを指す。ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱における非酸化性雰囲気とはすなわち酸素濃度が5体積%となる減圧条件、脱揮条件、あるいは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、不活性ガスの中では特に経済性および取扱いの容易さの面から窒素雰囲気が好ましい。これによりポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィド、環式ポリアリーレンスルフィド以外のポリアリーレンスルフィドオリゴマー、加熱により生成したポリアリーレンスルフィドなどの間での、架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱は、減圧条件、脱揮条件、大気圧(常圧)条件、加圧条件のいずれの条件下でも行うことが可能である。
減圧条件下とは、重合反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる低分子量の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドおよびアリーレンスルフィド化合物に含まれる低分子量成分が揮散しにくく、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応を効率よく進行させることができる。一方好ましい上限以下では、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくく、加熱系内におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比が大きくなりやすいため、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある点で好ましい。また、余剰のアリーレンスルフィド化合物、すなわち重合反応に関与しなかったアリーレンスルフィド化合物が存在し揮散する可能性もあり、その場合も本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。さらに、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー、重合反応に関与しなかったアリーレンスルフィド化合物が加熱系内に残存しにくいためと考えられるが、得られるポリアリーレンスルフィドのガス発生量が少ない傾向になるため好ましい。減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。
脱揮条件下とはポリアリーレンスルフィドプレポリマーをアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する条件のことである。前記気体状態の成分としては、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーおよびアリーレンスルフィド化合物の組成および分子量、脱揮条件の詳細などにより発生の有無やその程度は異なるが、例えばポリアリーレンスルフィドプレポリマーが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー、アリーレンスルフィド化合物に含まれる低分子量成分などが例示できる。前記条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であれば特に限定はされないが、例えば連続的な減圧条件下での脱揮や、連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件、発生した気体状態の成分を冷却し系外に捕集する条件などが挙げられる。脱揮条件下で加熱することにより、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくく、加熱系内におけるポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比が大きくなりやすいため、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある点で好ましい。また、余剰のアリーレンスルフィド化合物、すなわち重合反応に関与しなかったアリーレンスルフィド化合物が存在し揮散する可能性もあり、その場合も本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。さらに、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー、重合反応に関与しなかったアリーレンスルフィド化合物が加熱系内に残存しにくいためと考えられるが、得られるポリアリーレンスルフィドのガス発生量が少ない傾向になるため好ましい。
連続的な減圧条件下での脱揮における、連続的な減圧条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であればよく、例えば重合反応を行う系内全体が連続的に減圧されていてもよいし、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などを用いて加熱する場合には、常圧あるいは加圧条件下にある型内、押出機内、溶融混練機内などから一部が減圧装置に連結され連続的に減圧されていてもよい。連続的に減圧し脱揮を行うことで、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマー、重合反応に関与しなかったアリーレンスルフィド化合物を、より効率よく加熱系内から除去可能になることにより、より高重合度のポリアリーレンスルフィドを得られる傾向にある。連続的に減圧する場合、反応系内の雰囲気は一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。
連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件において、反応系内の雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましい。
系内へ流入するガスの温度は、流入するガスの流量、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、安定なガス温度制御の面から0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、安定な系内の加熱温度制御の面からはさらに、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、系内の加熱温度と同温度であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
また、系内へ流入するガスの流量は、流入するガスの温度、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーをアリーレンスルフィド化合物存在下で加熱する際に発生する気体状態の成分を加熱系内から除去可能であり、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する効果の面からは、1分間に系内へ流入するガスの流量は、系内の容積の1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱は、50kPa以上の条件下で行うことも好ましい。50kPa以上の条件下であれば、加熱時にアリーレンスルフィド化合物が揮散しにくい傾向にあり、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすい傾向にある点、また、得られるポリアリーレンスルフィド構造中にチオール基を導入しやすく、例えばエポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂などの他樹脂、例えば金、銅などの金属や金属酸化物などとの接着性、反応性に優れる傾向にある点で好ましい。
加熱時にアリーレンスルフィド化合物が揮散しにくいという観点から、50kPa以上の条件下であればよいが、70kPa以上であることがより好ましく、90kPa以上であることがさらに好ましく、大気圧下であることがよりいっそう好ましく、大気圧よりも高い加圧条件下であることがさらにいっそう好ましい。加圧条件の上限としては特に制限はないが、反応装置の取り扱いの容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。また、加熱を50kPa以上の条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから目的の圧力条件にすることが好ましい。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱は、減圧条件、脱揮条件、大気圧(常圧)条件、加圧条件を組み合わせて行うことも可能である。
例えば、加熱時にアリーレンスルフィド化合物が揮散しにくい傾向にある大気圧条件あるいは加圧条件で加熱した後、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくい傾向にある減圧条件あるいは脱揮条件で加熱する方法を望ましい方法として挙げることができる。この場合、大気圧(常圧)条件あるいは加圧条件により、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすい傾向、得られるポリアリーレンスルフィド構造中にチオール基を導入しやすく、例えばエポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂などの他樹脂、例えば金、銅などの金属や金属酸化物などとの接着性に優れる傾向にあり、さらに減圧条件あるいは脱揮条件により、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくく、得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量が大きくなる傾向、ガス発生量が少ない傾向になるため好ましい。
反応時間は、使用するポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける前記式(A)の環式ポリアリーレンスルフィドの含有率、繰り返し数m、分子量などの各種特性、使用するアリーレンスルフィド化合物の分子量、添加量、また加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては0.1時間以上が例示でき、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上が例示できる。0.1時間以上ではポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応が進行する傾向にある。一方上限としては100時間以下が例示でき、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下が例示できる。100時間以下では好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱を、加熱の際の雰囲気を組み合わせて行う場合には、求めるポリアリーレンスルフィドの特性に応じて任意の比率で反応時間を設定することができる。
例えば、減圧条件あるいは脱揮条件を用いることでガス発生量を少なくする観点では、減圧条件あるいは脱揮条件以外の条件、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー、アリーレンスルフィド化合物の特性、求めるポリアリーレンスルフィドの特性にもよるが、減圧条件あるいは脱揮条件での加熱を反応時間の5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましく、25%以上とすることがさらに好ましく、50%以上とすることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が速く、短時間でポリアリーレンスルフィドを得やすくなる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましい。
前記加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
前記したポリアリーレンスルフィドプレポリマーの加熱は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下でポリアリーレンスルフィドプレポリマーをポリアリーレンスルフィドへと重合反応させることで、ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成することができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリアリーレンスルフィド単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりポリアリーレンスルフィドを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができないこと、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のポリアリーレンスルフィドプレポリマーは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリアリーレンスルフィドと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法によれば、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーがポリアリーレンスルフィドへと重合反応しうるため、繊維状物質とポリアリーレンスルフィドが良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことを前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性および引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記したポリアリーレンスルフィドプレポリマーのポリアリーレンスルフィドへの重合反応は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<環式ポリフェニレンスルフィド量測定>
ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー、あるいは、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物に含まれる環式ポリフェニレンスルフィド量の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー、あるいは、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却後、孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分の環式ポリフェニレンスルフィド量を定量した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:株式会社島津製作所製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<分子量測定>
ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.1重量%)。
<赤外分光法によるチオール基分析>
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物が有するチオール基の分析は、赤外分光法(IR)を用いて下記方法で行った。
芳香環由来の1475cm−1の吸収の面積を内部標準としたチオール基由来の2560cm−1の吸収の面積を、チオール基量既知の4,4’−チオビスベンゼンチオールの測定における同面積と比較してチオール基の存在量を相対評価した。IRの測定条件を以下に示す。
装置:株式会社島津製作所製 IRPrestige−21
光源:高輝度セラミック光源
検出器:DLATGS検出器
分解能:4cm−1。
<フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物量算出>
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物量は、下記方法で算出した。
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物の分子量測定から、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物の数平均分子量を算出した(Mn(1)とする)。この混合物が環式ポリフェニレンスルフィドを含む場合には、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分に関する数平均分子量を算出しMn(1)とした。
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物をIR測定し、芳香環由来の1475cm−1の吸収の面積を内部標準としたチオール基由来の2560cm−1の吸収の面積を、チオール基量既知の4,4’−チオビスベンゼンチオールの測定における同面積と比較し、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物の末端が全てチオール基とした場合の数平均分子量を算出した(Mn(2)とする)。この混合物が環式ポリフェニレンスルフィドを含む場合には、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分の末端が全てチオールとした場合の数平均分子量を算出しMn(2)とした。
分子量測定およびIR測定それぞれから算出した数平均分子量の比から、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中の、全末端に対するチオール末端の割合を算出した(Mn(1)/Mn(2)=Xとする)。
ここで、チオール基は、(a)フェニレンスルフィド鎖の両末端に存在する場合、すなわちフェニレンスルフィド化合物である場合、(b)片末端に存在する場合、(c)両末端ともに存在しない場合の三通りの可能性がある。そのため、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物の割合をYとすると、Yは(a)、(b)、(c)の存在割合によって異なる。最大値は(a)と(c)のみの組み合わせであった場合のXである。最小値はX≧0.5の場合とX<0.5の場合とで異なる。X≧0.5の場合には(a)と(b)のみが存在する組み合わせのときに最小値をとり、全末端に対するチオール末端の割合Xは下記式で示すことができる。
X=チオール末端量/全末端量=Y×2((a)のチオール末端量)+(1−Y)×1((b)のチオール末端量)/2(全末端量)
よって、X≧0.5の場合の最小値はY=2X−1と示すことができる。X<0.5の場合には(b)と(c)のみが存在する組み合わせがありえるため、最小値はY=0となる。前記三通りのフェニレンスルフィド鎖の末端組成を定量することは困難であるが、フェニレンスルフィド化合物の調製において末端組成は平均的に存在すると考えられるため、本発明において、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物の割合Yは、前記最大値と最小値の相加平均値とした。すなわち、X≧0.5の場合にはY={X+(2X−1)}/2=(3X−1)/2、X<0.5の場合にはY=X/2とした。
なお、チオール基以外の末端構造は、フェニレンスルフィド化合物調製条件から、p−ジクロロベンゼンに由来する塩素、N−メチル−2−ピロリドンに由来する末端と推測される。
<フェニレンスルフィド化合物の加熱時重量減少率の測定>
フェニレンスルフィド化合物の加熱時重量減少率は、熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から350℃まで昇温(この際の昇温速度20℃/分)
(c)プログラム温度350℃で30分保持。
<示差走査型熱量計を用いた熱物性測定>
ポリフェニレンスルフィドの融点および結晶化温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて下記方法で行った。2nd Runの昇温時吸熱ピーク温度および降温時発熱ピーク温度をそれぞれ融点および結晶化温度として示した。
装置:パーキンエルマー社製 DSC7
雰囲気 :窒素気流下
試料量 :約10mg
試料容器 :アルミニウム製標準容器
測定条件
1st Run
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から340℃まで昇温(この際の昇温速度40℃/分)
(c)プログラム温度340℃で1分保持
(d)プログラム温度340℃から100℃まで降温(この際の降温速度40℃/分)
2nd Run
(e)プログラム温度100℃で1分保持
(f)プログラム温度100℃から340℃まで昇温(この際の昇温速度40℃/分)
(g)プログラム温度340℃で1分保持
(h)プログラム温度340℃から100℃まで降温(この際の降温速度40℃/分)。
<色調測定用フィルムの作製>
340℃に設定したプレス機の金型間に、ポリアリーレンスルフィドおよびスペーサーを配置し、340℃で4分間、約40kgf/cmの圧力をかけ加熱した。その後、150℃に設定したプレス機の金型間で10分間アニール処理し、結晶化フィルムを得た(厚み約0.2mm)。
<PASの色調測定>
結晶化フィルムを用い、以下の条件で色調を測定した。
装置:日本電色工業(株) SE−2000(分光式色彩計:JIS Z−8722、ASTM E 308、ASTM E 313、ASTM D 1925に準拠)
<灰分量の測定>
灰分量の測定は下記方法で行った。
試料約3gを石英るつぼに量り取り、電気炉を用いて550℃で6時間以上(重量変化がなくなるまで)加熱し、灰化した。量り取った試料重量に対する灰化物重量の割合(重量%)を算出した。
<電子スピン共鳴法(ESR)によるラジカル検出>
電子スピン共鳴法(ESR)を用い、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応時のラジカル検出有無を調べた。
ポリフェニレンスルフィドプレポリマー、あるいは、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと触媒の混合物を、300℃で5分間加熱後、液体窒素で急冷し得た固体約20mgを、ESR試料管に仕込み、下記条件で測定した。g値はMnマーカーを基準に求め、Mn2+の6本のシグナルのうち3本目のg値を2.034、4本目のg値を1.981として算出した。
装置:日本電子社製 JES−FE3T、アドバンテスト社製 TR5212
キャビティー:TE011、円筒型
測定温度:室温
中心磁場:3270G
磁場掃引幅:200G
変調:100kHz、5G
マイクロ波:9.21GHz、4mW
掃引時間:60s
時定数:0.1s
データ点数:4095点。
参考例1(ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製)
撹拌機および上部に抜き出しバルブを具備したオートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液1.65kg(水硫化ナトリウム0.79kg(14.1モル))、水酸化ナトリウムの48重量%水溶液1.23kg(水酸化ナトリウム0.59kg(14.7モル))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)35.95kg(362.6モル)、およびp−ジクロロベンゼン2.12kg(14.4モル)を仕込んだ。
反応容器を室温・常圧下にて窒素雰囲気下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで25分かけて昇温した。次いで、250℃まで35分かけて昇温し、250℃で120分反応を行った。次いで、内温を250℃に保持しながら、抜き出しバルブを徐々に開放し、溶媒26.6kgを40分かけて留去した。その後、オートクレーブを室温近傍にまで冷却し、内容物を回収した。
内容物の温度が100℃になるように窒素下にて加熱撹拌を行なった後、100℃で20分間保持し、目開き20μmの金網を用いて濾別した。得られた濾液を40リットルのメタノールに滴下し、室温で30分撹拌後、析出成分を回収した。回収した固形分にイオン交換水2.5リットルを加えスラリーとして、80℃で30分攪拌後、濾過して固形分を回収する操作を3回繰り返した。得られた固形分を減圧下80℃で8時間乾燥し、乾燥固体としてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを得た。
得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーを高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、環式ポリフェニレンスルフィドを85重量%含有していることがわかった。また、得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーについてGPC測定を行った結果、重量平均分子量は1,100であり、分散度は1.4であった。
参考例2(フェニレンスルフィド化合物の調製1)
撹拌機を具備したオートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液14.02g(水硫化ナトリウム6.73g(0.120モル))、水酸化ナトリウムの48重量%水溶液10.50g(水酸化ナトリウム5.04g(0.126モル))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)120mL、およびp−ジクロロベンゼン15.88g(0.108モル)を仕込んだ。
反応容器を室温、常圧下にて窒素雰囲気下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで25分かけて昇温した。次いで、235℃まで35分かけて昇温し、235℃で3時間反応を行った。その後、オートクレーブを室温近傍にまで冷却した。
内容物にイオン交換水および塩酸を添加してpHを4〜5に調整し、室温で撹拌、洗浄した。ガラスフィルター(目開き約10μm)で濾過し、得られた固形分にイオン交換水500mLを添加し、80℃で15分撹拌後、濾過して固形分を回収する操作を3回繰り返した。得られた固形分を減圧下70℃で8時間乾燥し、乾燥固体としてフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を得た。
得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、環式ポリフェニレンスルフィドを6重量%含有していることがわかった。また、GPC測定を行った結果、数平均分子量は2,700であり、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分に関する数平均分子量は2,800であった(全てが式(B)で表されるフェニレンスルフィド化合物とした場合の数平均重合度n=24.6)。
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のチオール基の存在量を、IRを用いて評価した結果、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分に関する数平均重合度n=29.2であり、全てが式(B)で表されるフェニレンスルフィド化合物とした場合の数平均分子量は3,300と算出された。
数平均分子量の比から、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中の末端のうち85%がチオール基であることがわかり、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物の割合は、78%と算出した。その他末端構造は、フェニレンスルフィド化合物調製条件から、p−ジクロロベンゼンに由来する塩素、N−メチル−2−ピロリドンに由来する末端と推測される。
得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWは2.9%であった。
参考例3(フェニレンスルフィド化合物の調製2)
撹拌機を具備したオートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液14.02g(水硫化ナトリウム6.73g(0.120モル))、水酸化ナトリウムの48重量%水溶液10.50g(水酸化ナトリウム5.04g(0.126モル))、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)120mL、およびp−ジクロロベンゼン14.99g(0.102モル)を仕込んだ。
反応容器を室温、常圧下にて窒素雰囲気下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで25分かけて昇温した。次いで、235℃まで35分かけて昇温し、235℃で3時間反応を行った。その後、オートクレーブを室温近傍にまで冷却した。
内容物にイオン交換水および塩酸を添加してpHを4〜5に調整し、室温で撹拌、洗浄した。ガラスフィルター(目開き約10μm)で濾過し、得られた固形分にイオン交換水500mLを添加し、80℃で15分撹拌後、濾過して固形分を回収する操作を3回繰り返した。得られた固形分を減圧下70℃で8時間乾燥し、乾燥固体としてフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を得た。
得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、環式ポリフェニレンスルフィドを9重量%含有していることがわかった。また、GPC測定を行った結果、数平均分子量は1,400であり、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分に関する数平均分子量は1,500であった(全てが式(B)で表されるフェニレンスルフィド化合物とした場合の数平均重合度n=12.2)。
フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のチオール基の存在量を、IRを用いて評価した結果、環式ポリフェニレンスルフィド以外の成分に関する数平均重合度n=14.2であり、全てが式(B)で表されるフェニレンスルフィド化合物とした場合の数平均分子量は1,700と算出された。
数平均分子量の比から、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中の末端のうち88%がチオール基であることがわかり、フェニレンスルフィド化合物を含む混合物中のフェニレンスルフィド化合物の割合は、82%と算出した。その他末端構造は、フェニレンスルフィド化合物調製条件から、p−ジクロロベンゼンに由来する塩素、N−メチル−2−ピロリドンに由来する末端と推測される。
得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWは3.7%であった。
実施例1
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例2で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.1モル%(数平均重合度n=24.6のフェニレンスルフィド化合物単位で0.075モル%(=0.1モル%×78%×2,700/2,800))混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2.5時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは9%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は47,900、分散度は2.2であることがわかった。DSC測定の結果、融点は277℃、結晶化温度は225℃であった。結果を表1に示した。
実施例2
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例2で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%(数平均重合度n=24.6のフェニレンスルフィド化合物単位で0.38モル%(=0.5モル%×78%×2,700/2,800))混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら1時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤みを帯びた濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは4%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は35,400、分散度は2.1であることがわかった。DSC測定の結果、融点は277℃、結晶化温度は228℃であった。加熱時重量減少率の測定の結果、ΔWは0.4%であった。結果を表1に示した。
実施例3
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例3で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%(数平均重合度n=12.2のフェニレンスルフィド化合物単位で0.38モル%(=0.5モル%×82%×1,400/1,500))混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら1時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤みを帯びた濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは3%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は36,300、分散度は2.3であることがわかった。DSC測定の結果、融点は281℃、結晶化温度は235℃であった。結果を表1に示した。
実施例4
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、フェニレンスルフィド化合物として4,4‘−チオビスベンゼンチオール(東京化成工業株式会社製、ΔW=91.5%)を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%(数平均重合度n=1)混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは3%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は45,500、分散度は2.3であることがわかった。DSC測定の結果、融点は279℃、結晶化温度は224℃であった。結果を表1に示した。
実施例5
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、フェニレンスルフィド化合物として4,4‘−チオビスベンゼンチオール(東京化成工業株式会社製、ΔW=91.5%)を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1.0モル%(数平均重合度n=1)混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら1時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤みを帯びた濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは4%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は35,600、分散度は2.1であることがわかった。DSC測定の結果、融点は281℃、結晶化温度は228℃であった。色調測定の結果、L*は57であった。結果を表1に示した。
実施例6
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例2で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%(数平均重合度n=24.6のフェニレンスルフィド化合物単位で0.38モル%)混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま50分加熱、続いて真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら10分加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤みを帯びた濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは3%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は32,500、分散度は2.0であることがわかった。加熱時重量減少率の測定の結果、ΔWは0.3%であった。結果を表1に示した。
実施例7
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例2で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して0.5モル%(数平均重合度n=24.6のフェニレンスルフィド化合物単位で0.38モル%)混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま1時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、赤みを帯びた濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは5%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は28,400、分散度は1.9であることがわかった。加熱時重量減少率の測定の結果、ΔWは0.8%であった。結果を表1に示した。
比較例1
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら1時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは57%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例2
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは35%であることがわかった。結果を表1に示した。
比較例3
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら4時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは12%であることがわかった。色調測定の結果、L*は53であった。結果を表1に示した。
比較例4
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー300mgをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら6時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、濃茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは3%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は51,600、分散度は2.3であることがわかった。DSC測定の結果、融点は277℃、結晶化温度は218℃であった。加熱時重量減少率の測定の結果、ΔWは0.3%であった。結果を表1に示した。
実施例1では、比較例3よりも短時間の加熱で、比較例3よりも環式ポリフェニレンスルフィド量が減少していた。
実施例2、実施例6、実施例7と比較例1の比較、実施例3と比較例1の比較、実施例4と比較例2の比較、実施例5と比較例1の比較では、いずれの実施例も、同時間の加熱で比較例よりも環式ポリフェニレンスルフィド量が減少していた。
これらの結果から、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーをフェニレンスルフィド化合物存在下で加熱することで、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応がより進行することがわかった。
また、実施例2、実施例6、実施例7の比較では、加熱時条件を変更しても、ここに例示した重合条件(フェニレンスルフィド化合物分子量および添加量、加熱条件など)では、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応が十分に進行することがわかった。
実施例1と実施例2の比較、実施例4と実施例5の比較から、フェニレンスルフィド化合物量が多いほどポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果が高いことが、また、フェニレンスルフィド化合物量が少ないほど高分子量のPPSが得やすいことがわかった。
実施例2、実施例6、実施例7、実施例3では、実施例4よりも少ないフェニレンスルフィド化合物添加量で、短時間で環式ポリフェニレンスルフィド量が減少しており、フェニレンスルフィド化合物の分子量が高い方が、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果が高いことがわかった。フェニレンスルフィド化合物の分子量が高い方が、重合時の系外への留出が抑制されるためと考えている。
実施例2、実施例6、実施例7の比較では、加熱時条件が脱揮条件のみの実施例2、常圧条件と脱揮条件の組み合わせの実施例6、常圧条件のみの実施例7の順に高分子量のPPSが得やすいことがわかった。加熱時条件として脱揮条件を用いる場合ほど、ポリフェニレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくいため、一方、加熱時条件として常圧条件を用いる場合ほど、フェニレンスルフィド化合物が揮散しにくくポリフェニレンスルフィド構造中にチオール基が導入されやすいためと考えている。
実施例2、実施例6では、実施例7に対して加熱時重量減少率が小さい、すなわちガス発生量が少ないことがわかった。加熱時条件として脱揮条件を用いることで、ポリフェニレンスルフィドオリゴマーが加熱系内に残存しにくいためと考えている。
また、実施例1から5と、比較例4の比較から、フェニレンスルフィド化合物存在下で得られたポリフェニレンスルフィドは、結晶化温度が高温化する傾向にあることがわかった。
実施例5、比較例3の比較から、フェニレンスルフィド化合物存在下で得られたポリフェニレンスルフィドは、フェニレンスルフィド化合物非存在下で得られたポリフェニレンスルフィドに比べ、色調に優れることがわかった。
実施例8
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、参考例2で得られたフェニレンスルフィド化合物を含む混合物を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1.0モル%(数平均重合度n=24.6のフェニレンスルフィド化合物単位で0.75モル%(=1.0モル%×78%×2,700/2,800))混合し、混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは12%であることがわかった。灰分量は0.28重量%であった。また、重合初期段階のラジカル検出有無を調べるため、加熱時間を5分とし、液体窒素で急冷し得た固体をESR測定した結果、硫黄に起因するラジカルは検出されなかった。結果を表2に示した。
比較例5
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー5gをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは75%であることがわかった。また、重合初期段階のラジカル検出有無を調べるため、加熱時間を5分とし、液体窒素で急冷し得た固体をESR測定した結果、硫黄に起因するラジカルは検出されなかった。結果を表2に示した。
比較例6
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、ジフェニルジスルフィドを、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1.0モル%混合し、混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは14%であることがわかった。また、重合初期段階のラジカル検出有無を調べるため、加熱時間を5分とし、液体窒素で急冷し得た固体をESR測定した結果、g=2.008およびg=2.0046の、硫黄に起因する2種類のラジカル(硫黄上のラジカルもしくは硫黄上に非局在化したラジカルと考えられる)が観測された。結果を表2に示した。
比較例7
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、チオフェノールのナトリウム塩を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1.0モル%混合し、混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら2時間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは71%であることがわかった。灰分量は0.67重量%であった。結果を表2に示した。
比較例8
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))を、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1.0モル%混合し、混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込んだ。アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、固体に含まれる環式ポリフェニレンスルフィドは15%であることがわかった。灰分量は2.23重量%であった。また、重合初期段階のラジカル検出有無を調べるため、加熱時間を5分とし、液体窒素で急冷し得た固体をESR測定した結果、硫黄に起因するラジカルは検出されなかった。結果を表2に示した。
実施例8では、比較例5と同時間の加熱で、比較例5よりも環式ポリフェニレンスルフィド量が減少していた。加熱温度300℃においても、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーをフェニレンスルフィド化合物存在下で加熱することで、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応がより進行することがわかった。
実施例8と比較例6の比較から、フェニレンスルフィド化合物、ラジカル発生能を有する化合物のいずれもポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応を促進可能であった。しかし、比較例6ではESR測定で硫黄に起因するラジカルが検出されたのに対し、実施例8では検出されず、実施例8におけるフェニレンスルフィド化合物の重合反応の促進効果はラジカルに由来するものではないことがわかった。
実施例8と比較例7の比較から、フェニレンスルフィド化合物の方が、アニオン重合開環重合触媒になり得るイオン性化合物であるチオフェノールのナトリウム塩よりも、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果が高いことがわかった。また、フェニレンスルフィド化合物を重合触媒として用いる方が、ポリアリーレンスルフィド中に含まれる金属量が少ないことがわかった。
実施例8と比較例8を比較すると、比較例8では、実施例8よりも短い加熱時間で実施例8に近い量まで環式ポリフェニレンスルフィド量が減少しており、0価遷移金属化合物はポリフェニレンスルフィドプレポリマーの重合反応の促進効果が高いことがわかった。しかし、フェニレンスルフィド化合物を重合触媒として用いる方が、ポリアリーレンスルフィド中に含まれる金属量が少ないことがわかった。

Claims (4)

  1. 式(A)で表され、かつ式中の繰り返し数m=4〜50である環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含むポリアリーレンスルフィドプレポリマーを、ポリアリーレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%の、式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物の存在下で加熱することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
    (Arはアリーレン基を表す。)
    (nは数平均重合度を表し1以上50以下の範囲である。)
  2. 式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物のnが10以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  3. 式(B)で表されるアリーレンスルフィド化合物のnが20以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  4. 加熱を非酸化性雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
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