JP2012069393A - 電極材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐高温酸化性に優れ、比抵抗が小さく、高温時にNiを含有する化合物粒が電極表面に形成され難い点火プラグ用電極の構成材料に適した電極材料、点火プラグ用電極、及び点火プラグを提供する。
【解決手段】自動車の内燃機関の点火プラグの電極に利用される電極材料であって、質量%で、Al:0.005%〜0.2%,Si:0.3%〜0.5%,Cr:0.6%〜1.2%,Ti:0.05%〜0.5%,Y:0.3%〜1.0%含有し、残部がNi及び不可避不純物から構成される。この電極材料は、Yの含有による高温下での粒成長の抑制、Al,Siの低減による酸化物層の膨張・亀裂・剥離の抑制、かつTiの含有による内部酸化の抑制などにより、耐高温酸化性に優れる。また、Al,Si,Crの含有により、化合物粒の形成が抑えられ、Al,Siが比較的少ないことで、比抵抗を低く抑えられる。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車などに具える内燃機関の点火プラグの電極に利用される電極材料、この電極材料からなる電極、及びこの電極を具える点火プラグに関するものである。特に、高温での耐酸化性に優れ、かつ火花により消耗し難く、電極表面に化合物粒が形成され難い点火プラグ用電極が得られる電極材料に関するものである。
従来、自動車のガソリンエンジンなどの内燃機関の点火には、点火プラグ(スパークプラグ)が用いられている。点火プラグは、代表的には、棒状の中心電極と、中心電極の端面に対向するように離間して配置された接地電極とを具える。上記中心電極と接地電極との間で火花放電を行い、この放電により両電極間に流入する燃料混合気体に点火する。
上記電極材料として、特許文献1では、Al,Si,Cr,Mn,Yを含有するニッケル合金を開示している。
特許第4295501号公報
点火プラグの電極に求められる特性として、酸化し難く(耐酸化性、特に高温での耐酸化性に優れ)、火花により消耗し難く(耐火花消耗性に優れ)、電極表面にニッケルを含有する化合物粒(後述)が形成され難いことが望まれる。特許文献1に記載される電極材料は、特定の元素を含有することでこれらの要求を満たしている。
近年、環境保全対策などのために自動車などの燃費を向上することが望まれている。例えば、内燃機関における燃焼温度を高めることで燃費を向上することができる。しかし、燃焼温度を更に高めることで、点火プラグの電極は、従来よりも更に高温環境で使用されることになる。例えば、従来の一般的な自動車のガソリンエンジンの使用時の最高到達温度は900℃〜1000℃程度であり、燃焼温度を高めた場合、この温度よりも+100℃程度といった高温環境になり得る。
上述のように昨今、点火プラグの使用環境は、従来よりも非常に高温となってきており、更に酸化し易い環境と言える。従って、上述の種々の要求特性の中でも、耐高温酸化性により優れることが望まれる。
酸化抑制効果を高めるには、特許文献1に記載されるAlやSiの含有量を多くすることが効果的である。しかし、添加元素の増量は、比抵抗の増大を招き、その結果、火花により消耗し易くなる。従って、耐火花消耗性を考慮すると、AlやSiなどの添加元素の含有量の増加により、更なる高温環境に対して耐酸化性を向上することには限界がある。また、Alは、点火プラグの使用時に雰囲気中の窒素と反応して窒化物(AlN)を形成する。ここで、ニッケル合金からなる電極は、使用時、表面に酸化物層が形成され、この表面の酸化物層により、内部への酸化をある程度抑制している。しかし、上記窒化物が形成されると、熱膨張により酸化物層に亀裂が生じたり、酸化物層が剥離したりして、酸化が進行し易くなる傾向にある。このことからも、Alを単に多くしても、耐高温酸化性の向上に限界がある。
また、上述のような更なる高温環境では、電極を構成する結晶粒が成長して粗大になり易い。粗大化により結晶粒界が短くなると、電極の外部から酸素が上記結晶粒界を伝って電極内部に侵入し易く、侵入度合い(深度)が深くなり、電極内部で酸化し易くなる。従って、更なる高温環境での使用では、粒成長の抑制による耐酸化性の向上も望まれる。
一方、点火プラグの使用時、電極の母相のニッケルと、ガソリンやエンジンオイル等に由来する雰囲気中の元素(アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、リンなど)とが反応して、電極表面、特に、電極において火花放電が行われる部分(主として中心電極及び接地電極において互いに対向する面)の周囲に、ニッケルを含む粒状の化合物(以下、化合物粒と呼ぶ)が形成されたり、この化合物粒の付着箇所の融点が部分的に低下して母相が溶融して、当該化合物粒が更に大きくなるという現象が生じる。上記化合物粒が形成・成長され続けると、エンジンの点火状態が不安定になったり、最悪の場合、当該化合物粒が脱落してエンジンを破損させる恐れがある。
そこで、本発明の目的は、耐高温酸化性に優れる上に、火花により消耗し難く、化合物粒が形成され難い電極材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記電極材料から構成された点火プラグ用電極、及びこの電極を具える点火プラグを提供することにある。
本発明者らは、特に、高温環境での使用に適した点火プラグ用電極の構成材料として、より好ましい組成を種々検討した結果、以下の知見を得た。
(1) Tiは、酸化抑制効果(特に、内部酸化の抑制効果)が高い。
(2) Tiを特定の範囲で含有することで、Tiの含有による比抵抗の増加が抑えられ、かつAl及びSiの含有量を低減できる。
(3) Tiは、Alの窒化を抑制することができる。
(4) Yは、特に、高温下での結晶粒の成長を効果的に抑制して、結晶粒が微細な状態を維持し易いことで、酸化抑制に効果がある。
(5) Siは、酸化抑制の効果がAlよりも高い傾向にある上に、化合物粒の生成を抑制することができる。
(6) Crは、酸化抑制効果、及び化合物粒の生成抑制に効果がある。
上記知見から、点火プラグの電極材料として、Al,Si,Cr,Yを含有することに加えて、Tiを特定の範囲で含有することを規定する。かつ、Tiの含有に伴ってAl及びSiの含有量を比較的少なくすること、AlよりもSiを多く含有すること、Yの含有量を比較的多くすることを規定する。
本発明の電極材料は、点火プラグの電極に用いられる電極材料であり、質量%で、Alを0.005%以上0.2%以下、Siを0.3%以上0.5%以下、Crを0.6%以上1.2%以下、Tiを0.05%以上0.5%以下、Yを0.3%以上1.0%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物からなる。
上記特定の組成のニッケル合金から構成される本発明電極材料は、(1) Al,Si,Cr,Yに加えて、Tiを特定の範囲で含有することで、酸化抑制効果、特に内部酸化の抑制効果が高い、(2) Tiの含有により、Alの窒化を抑制して、酸化物層の膨張、亀裂、剥離などの発生を抑制できる、(3) Yを特定の範囲含有することで、高温下での結晶粒の成長を抑制できる、(4) SiをAlよりも多く含有することで、酸化抑制効果が高い、といった点から、高温環境で使用した場合にも耐酸化性に優れる。
かつ、本発明電極材料は、(1) Al及びSiの含有量が比較的少ないことで、比抵抗が小さく、火花により消耗し難い、(2) Al,Si,Crを特定の範囲で含有する、特に、CrをAl,Siよりも多く含有することで、使用時に上述した化合物粒の形成や成長を効果的に抑制できる上に、AlやSiを多く含有する場合よりも比抵抗の増大を招き難く、耐火花消耗性にも優れるといった効果を奏する。
本発明の別の形態として、更にMnを含む形態が挙げられる。具体的には、質量%で、Alを0.005%以上0.2%以下、Siを0.3%以上0.5%以下、Crを0.6%以上1.2%以下、Mnを0.05%以上0.2%以下、Tiを0.05%以上0.5%以下、Yを0.3%以上1.0%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物からなる形態が挙げられる。
MnもCrと同様に、上記化合物粒の発生を抑制する効果があることから、Crと共にMnも添加することができる。上記効果を得るには、Mnの含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.2質量%以下であると、比抵抗の増大を招き難い。
本発明の一形態として、Alの含有量が0.05質量%以上0.2質量%以下である形態が挙げられる。
上記形態によれば、Alを0.05質量%以上含有することで、Alの含有による酸化抑制効果を十分に得ることができる。
本発明の一形態として、Bを0質量%超0.05質量%以下含有する形態が挙げられる。
上記形態によれば、Bを含有することで、熱間加工性を向上することができ、電極材料の生産性を向上することができる。
本発明の一形態として、上記電極材料の常温での比抵抗が20μΩ・cm以下である形態が挙げられる。
上記形態によれば、比抵抗が小さいことで耐火花消耗性にも優れる。
本発明の一形態として、上記電極材料を1000℃×72時間加熱したとき、この加熱後の電極材料の平均結晶粒径が300μm以下である形態が挙げられる。
上記形態によれば、特定の組成から構成されることで1000℃といった非常に高い温度環境で使用された場合でも結晶粒が成長し難く(粗大になり難く)、平均結晶粒径が小さい状態を維持できる。従って、上記形態によれば、高温での耐酸化性に優れる。
上記本発明電極材料から構成された本発明点火プラグ用電極や本発明点火プラグ用電極を具える本発明点火プラグは、1000℃程度、或いはそれ以上といった非常に高温な環境で使用される場合でも、耐高温酸化性に優れる。更に、耐火花消耗性に優れる上に、上述した化合物粒も生じ難いことからも、本発明点火プラグ用電極や本発明点火プラグは、長期に亘り良好に使用できると期待される。
本発明電極材料により構成される本発明電極、及びこの電極を具える本発明点火プラグは、耐高温酸化性に優れる。
図1は、酸化状態を説明するための電極材料の光学顕微鏡写真である。
以下、本発明をより詳しく説明する。なお、元素の含有量は、断りが無い限り質量%とする。
[電極材料]
(組成)
本発明電極材料は、Al,Si,Cr,Y及びTiを添加元素とし、残部がNi及び不可避不純物のニッケル合金から構成される。Niを主成分(97質量%以上(より好ましくは98質量%以上))とすることで、塑性加工性に優れる上に、比抵抗が小さく(導電率が高く)、点火プラグの電極に用いられた場合に火花による消耗を低減できる。
《Al,Si》
Al及びSiは酸化抑制の効果が高い元素であり、両元素を含有することで、電極材料の表面にAlやSiの酸化物を形成して、電極材料の内部に酸素が侵入することを低減し、酸化、特に内部酸化を抑制することができる。また、AlやSiを後述するCrやMnと同時に含有することで、上述した化合物粒の発生を抑制する効果がある。AlやSiが多いほど、電極材料の表面に酸化物が形成され易く、内部酸化の抑制や化合物粒の発生・成長の抑制を図れるが、多過ぎると、電極材料の表面に形成された酸化物層が膨張して亀裂(クラック)が入ったり破裂したり、剥離したりする。酸化物層の亀裂や剥離により、経時的に酸化が進行する。また、AlやSiが多いほど、比抵抗が大きくなり易く、耐火花消耗性の低下を招く。そこで、本発明電極材料では、Al及びSiの双方を含有すると共に、その含有量を比較的少なくし、代わって内部酸化の抑制効果が高い元素として、Tiを含有する。具体的な含有量はAl:0.005%以上0.2%以下、Si:0.3%以上0.5%以下とする。Alの含有量は、0.05%以上0.2%以下がより好ましい。また、Siは、Alよりも酸化抑制効果が高い傾向にあることから、本発明電極材料では、上記のようにSiをAlよりも多めに含有する。
《Y》
Yは、主として、母相のNiと金属間化合物を形成して、金属間化合物として存在し、極一部は、Niに固溶して存在する。この金属間化合物の所謂ピン止め効果により、本発明電極材料は、900℃以上、更には1000℃以上といった非常に高温環境でも結晶粒の粒成長を効果的に抑制できる。そのため、本発明電極材料からなる本発明電極は、上述のような非常に高温の環境で使用されても、結晶粒が微細な状態を維持でき、酸素の侵入を低減できることから、内部酸化を効果的に抑制できる。このように優れた耐酸化性、特に耐高温酸化性を有するには、Yを0.3%以上含有することが好ましく、Yが多いほど、結晶粒を微細に維持でき、耐高温酸化性に優れる傾向にある。また、Yの含有量を1.0%以下とすることで、比抵抗の増大による電極の熱劣化を抑制して耐火花消耗性に優れる上に、塑性加工性の低下を抑制して所定の形状の電極に加工し易く、電極の製造性に優れる。更に、Yは、他の希土類元素と比較して水素を吸蔵し難いことから、製造工程で水素を含有する雰囲気で熱処理を行った場合でも、本発明電極材料は、水素脆化が生じ難い。Yのより好ましい含有量は、0.3%以上0.75%以下である。
《Cr,Mn》
上述のようにAlやSiと共にCr、適宜Mnを含有することで、上述した化合物粒が生じ難い。この理由は、AlやSiと共にCrやMnがガソリンやエンジンオイル中に含まれるPなどといった雰囲気中の元素と反応することで、母相のNiとPなどとの反応を抑制し、NiとPなどとの化合物が電極材料に付着することを低減できるため、と考えられる。特に、Crは、Mnよりも化合物粒の発生を抑制する効果が高い傾向にある。また、CrやMnも内部酸化の抑制に効果がある上に、Crは、AlやSiよりも比抵抗を増大させ難い。そこで、本発明電極材料では、上述のようにAlやSiを少なめにしてCrを含有する。また、本発明電極材料は、適宜Mnを含有する。CrやMnの含有量が多いほど、上記化合物粒の発生・成長や内部酸化を抑制し易いが、多過ぎると、比抵抗が大きくなり過ぎる。従って、Crの含有量は、0.6%以上1.2%以下とする。特に、Crの含有量は1.0%以下が好ましい。Mnを含有する場合、Mnの含有量は、0.05%以上0.2%以下が好ましい。
《Ti》
本発明電極材料は、Tiを含有することを最大の特徴とする。Tiは、上述のように内部酸化を効果的に抑制でき、この効果は、Tiの含有量が多いほど顕著であるが、多過ぎると、比抵抗の増大を招く。また、Tiは、上述のようにAlの窒化物(AlN)の生成を抑制し、Alの窒化物の形成による熱膨張によって酸化物層に亀裂が生じるなどして酸化が進行することを効果的に抑制できる。上記効果を十分に得るために、Tiの含有量を0.05%以上0.5%以下とする。特に、Tiの含有量は、0.1%以上0.3%以下がより好ましい。
《B》
Bを0.05%以下の範囲、好ましくは0.001%以上0.02%以下含有することで、熱間加工性に優れ、本発明電極材料や本発明電極の生産性を高められる。
上記電極材料の添加元素の含有量は、原料として添加する元素の量を調整することで、上記特定の範囲にすることができる。上記添加元素の他、高温強度が望まれる場合、Cを微量に含有することを許容する。但し、Cが多過ぎると、加工性が悪くなる傾向にあるため、Cの含有量は0.05質量%以下が好ましい。
(耐酸化性)
本発明電極材料は、900℃以上、更に1000℃以上といった高温環境下に長時間曝した場合であっても、耐高温酸化性に優れており、例えば、結晶粒が微細な組織を維持することができる。具体的には、上記電極材料を1000℃×72時間加熱した場合に、この加熱後の電極材料の平均結晶粒径が300μm以下を満たすことができる。「1000℃×72時間」との条件は、従来の一般的な自動車のガソリンエンジンにおける使用時の最高到達温度と同等程度或いはそれ以上の温度条件であり、かつ加熱時間が長いため、非常に厳しい条件を模したものである。このような厳しい条件の加熱を行った場合でも、電極材料を構成する結晶粒が小さいほど、上述のように電極材料の内部への酸素の侵入を抑制でき、耐高温酸化性に優れる、と評価することができる。そこで、本発明では、耐酸化性の評価の指標として、「1000℃×72時間加熱後の平均結晶粒径」を採用する。この平均結晶粒径は、上記添加元素の含有量により変化させることができ、例えば、200μm以下、更に150μm以下、特に100μm以下を満たす電極材料とすることができる。上述のように平均粒径が小さいほど、結晶粒界が長くなることで、電極材料内部への酸素の侵入を防止し易く、下限は特に設けない。「1000℃×72時間加熱後の平均結晶粒径」は、特にYの含有量が多いほど小さくなる傾向にある。
(比抵抗)
本発明電極材料は、比抵抗が小さく、例えば、常温(代表的には20℃程度)での比抵抗が20μΩ・cm以下を満たすことができる。比抵抗は、主として添加元素の含有量により変化し、添加元素の含有量が少ないほど、比抵抗が小さくなる傾向にある。比抵抗は小さいほど好ましく、特に下限を設けない。
(形状)
本発明電極材料は、代表的には、伸線加工により形成された線材が挙げられる。断面形状は、矩形状、円形状など、種々の形状とすることができる。
[製造方法]
本発明電極材料は、代表的には、溶解→鋳造→熱間圧延→冷間伸線及び熱処理という工程により得られる。また、Yを含有する金属間化合物を電極材料中に十分に存在させるには、例えば、溶解時や鋳造時の雰囲気を酸素濃度が低くなるように制御することが挙げられる。Yは酸化物を形成し易いため、低酸素雰囲気で鋳造などを行うことで、Yの酸化物の形成を抑制して、金属間化合物を形成し易い。
冷間伸線後、最終熱処理(軟化処理)を行う場合、非酸化性雰囲気(例えば、水素雰囲気、窒素雰囲気などの酸素濃度が低い或いは酸素を実質的に含有しない雰囲気)で700℃〜1000℃、特に、800℃〜950℃程度で行うことが好ましい。このような軟化処理を行うことで、電極材料を所定の電極形状に加工し易かったり、当該軟化処理以前の加工による加工歪みを除去して、電極材料の比抵抗を小さくすることができる。
[点火プラグ用電極]
本発明電極材料は、点火プラグに具える中心電極及び接地電極のいずれの構成材料にも好適に利用することができる。上記接地電極は、中心電極と比較して、自動車のエンジンなどの内燃機関において、燃焼室の中心に近い位置に配置されることが多い。本発明電極材料は、上述のように高温での特性に優れることから、特に、上記接地電極の構成材料に好適に利用することができる。本発明電極は、上記電極材料を適宜な長さに切断したり、更に所定の形状に成形したりすることで製造することができる。
[点火プラグ]
本発明電極は、自動車のエンジンといった内燃機関において、点火に利用する点火プラグの構成部材として好適に利用することができる。本発明点火プラグは、代表的には、絶縁碍子と、この絶縁碍子を保持する主体金具と、上記絶縁碍子内に保持され、当該絶縁碍子の先端から一部が突出された中心電極と、上記主体金具の先端側の面に一端を溶接され、他端が中心電極の端面に対向するように設けられた接地電極と、上記絶縁碍子の後端に設けられた端子金具とを具えるものが挙げられる。公知の点火プラグの電極に代えて、本発明電極を利用することができる。
以下、本発明のより具体的な形態を説明する。
一般的な自動車のガソリンエンジンの点火に利用される点火プラグ用電極の材料として、ニッケル合金からなる線材(電極材料)を複数作製し、その特性を評価した。
各線材は、以下のように作製した。通常の真空溶解炉を用いて、表1に示す組成(単位は質量%)のニッケル合金の溶湯を作製した。溶湯の原料には、市販の純Ni(99.0質量%以上Ni)、各添加元素の粒を用いた。また、不純物や介在物などを低減、除去するために溶湯の精錬を行った。いずれの試料も実質的にCが含有されないように上記精錬具合を調整した。そして、酸素濃度が低くなるように雰囲気を管理して、上記溶解を行い、溶湯温度を適宜調整して真空鋳造を行い、鋳塊(2ton)を得た。
得られた鋳塊を再加熱して鍛造加工を施し、約150mm角のビレットを得た。このビレットに熱間圧延を施し、線径5.5mmφの圧延線材を得た。この圧延線材に冷間伸線及び熱処理を組み合わせて施し、線径2.5mmφと線径4.2mmφの各冷間伸線材を得た。線径2.5mmφの冷間伸線材には、圧延加工を施して、1.5mm×2.8mmの平角線状となるように変形し、平角線材を得た。得られた平角線材、及び線径4.2mmφの冷間伸線材に最終熱処理(軟化処理、温度:800℃〜1000℃、非酸化性雰囲気(窒素雰囲気又は水素雰囲気)、連続軟化炉使用)を施して、軟材(電極材料)を得た。得られた各軟材を適宜な長さに切断した後、所定の形状に適宜成形して、一般的な普通乗用車に用いられている点火プラグ用接地電極(1.5mm×2.8mmの平角線を使用)、点火プラグ用中心電極(線径4.2mmφを使用)を作製し、試料とした。
得られた各試料(ここでは上記軟材)の組成をICP発光分光分析装置を用いて調べたところ、表1に示す組成と同様であり、残部は、Ni及び不可避不純物であった。また、いずれの試料もNiの含有量が90質量%以上であった(試料No.1〜8は98質量%以上Ni)。組成の分析は、上記ICP発光分光分析法による他、原子吸光光度法などでも行える。表1において「-(ハイフン)」は、検出限界未満であり、実質的に含有されていないことを示す。更に、Yを含む各試料をSEM及びEDXによる元素分析、又はEPMAを用いて調べたところ、YとNiとの金属間化合物が存在していることが確認できた。
《比抵抗》
作製した各試料(軟材)の比抵抗を測定した。その結果を表2に示す。比抵抗(常温)は、電気抵抗測定装置を用いて、直流四端子法により測定した(評点間距離GL=100mm)。
《耐酸化性》
作製した各試料(軟材)について、耐高温酸化性を評価した。その結果を表2に示す。耐高温酸化性は、上述した1.5mm×2.8mmの平角の軟材により作製した接地電極と、線径4.2mmφの軟材により作製した中心電極とを1000℃に昇温した大気炉に挿入し、1時間加熱した後、当該炉の外に取り出して30分間空冷し、再度1時間加熱するという操作を加熱時間が合計72時間となるまで繰り返す高温酸化試験を行った。
上記高温酸化試験後、接地電極の断面を光学顕微鏡で観察し(倍率:50〜200倍)、この顕微鏡観察像(写真)を用いて当該電極の酸化している領域(酸化物層)の厚さを測定した。ここで、Ni合金からなる電極に酸化物層が形成されると、図1に示すように二層構造になる。具体的には、電極の最表面及びその近傍に形成され、添加元素の含有量が高く、Niの含有が少ない表面酸化物層と、表面酸化物層の内部に形成されて、Niの含有が多い内部酸化物層とを具える。なお、図1に示す電極は、従来の電極であり、900℃×72時間の条件で上記高温酸化試験を行った説明用サンプルである。この試験では、内部酸化物層及び表面酸化物層のそれぞれの厚さを測定した。具体的には、内部酸化物層の厚さは、Ni合金から構成される母相領域と内部酸化物層との境界から内部酸化物層と表面酸化物層との境界までの平均厚さ、表面酸化物層は、上記両酸化物層の境界から上記電極の最表面までの平均厚さを測定した。平均厚さは、上記観察像に画像処理などを施すことで容易に求められる。電極内部への酸素の侵入度合いが少ないほど、内部酸化物層が薄くなり、内部酸化し難いと言える。なお、中心電極については、接地電極と同様の傾向であったため、結果を記載していない。
そして、耐高温酸化性は、上記表面酸化物層及び内部酸化物層の合計厚さが200μm以上の場合、耐高温酸化性が従来品と同等程度であったとして×、上記合計厚さが200μm未満であるものを○と評価し、上記膨張や亀裂、剥離があったものはその旨を記載した。上記合計厚さが190μm未満で、上記膨張や亀裂がほとんど無い場合を特に良好であるとして◎と評価した。
《平均結晶粒径》
上記高温酸化試験後の各試料について、接地電極の断面を光学顕微鏡(倍率:50〜200倍)で観察し、この顕微鏡観察像(写真)に対して、交線法(ライン法)を利用して平均結晶粒径を算出した。その結果を表2に示す。また、測定した平均結晶粒径が300μm以下のものを○、300μm超のものを×と評価した。
《耐火花消耗性》
耐火花消耗性は、電極材料の比抵抗と相関がある。そこで、作製した上記各試料について、常温での比抵抗が20μΩ・cm超のものを耐火花消耗性が劣るとして×、20μΩ・cm以下のものを耐火花消耗性が優れるとして○とした。その結果を表2に示す。
《化合物粒の発生状態》
作製した上記各試料について、以下のようにして化合物粒の発生状態を調べた。その結果を表2に示す。上述した1.5mm×2.8mmの平角の軟材にエンジンオイルを塗布し、当該軟材を雰囲気制御が行える環状の加熱炉にセットする。ここでは、一般的な自動車のガソリンエンジンにおける燃焼温度(900℃〜1000℃程度)よりも100℃程度燃焼温度が高くなるように加熱炉を1100℃まで加熱し、試験用のガソリンエンジン(排気量2000cc、6気筒)から排出される排ガスを当該炉内に流しながらエンジン内を模擬した雰囲気で試料を合計60時間保持する。この加熱試験後の各試料の表面状態を拡大鏡で観察した。
上記観察の結果、大きな化合物粒が存在して、試料が大きく膨れていたり、全面的に化合物粒が発生している場合を×、化合物粒が発生し、試料表面の凹凸が大きな場合を従来材並みとして△、化合物粒の発生が軽微である場合を○、化合物粒の発生がほとんど見られない場合を◎と評価した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、Al,Si,Cr,Y,及びTiを特定の範囲で含有する試料No.1〜8は、1000℃、或いはそれ以上といった高温であっても耐酸化性に優れることが分かる。具体的には、試料No.1〜8はいずれも、表面酸化物層の厚さと内部酸化物層の厚さとの差が小さく、内部酸化物層が極端に厚くなっていない。この理由の一つは、AlやSiを少なめに含有すると共に、Cr及びTiを適量含有することで、内部酸化が抑制できたためであると考えられる。また、試料No.1〜8はいずれも、酸化物層の膨張、亀裂や剥離が実質的に生じていない。この理由の一つは、AlやSiを少なめに含有したためであると考えられる。更に、試料No.1〜8はいずれも、上述のような高温に曝されても結晶粒が微細である。この理由の一つは、Yを適量含有したためであると考えられる。このことから試料No.1〜8はいずれも、優れた耐高温酸化性を有することができたと考えられる。
加えて、試料No.1〜8はいずれも、比抵抗が20μΩ・cm以下と小さいことが分かる。この理由の一つは、AlやSiを過剰に含有していないためであると考えられる。また、比抵抗が小さいことから試料No.1〜8を点火プラグ用電極に利用する場合、耐火花消耗性に優れると考えられる。更に、試料No.1〜8はいずれも、化合物粒が発生し難いことが分かる。この理由の一つは、Al,Si,及びCr、適宜Mnを含有することで、雰囲気中の元素と、母相のNiとが低融点の化合物を生成することを抑制することができたためであると考えられる。
これに対して、上記特定の元素を特定の範囲で含有していない試料No.100,120〜127は、特に内部酸化物層が厚くなったり、酸化物層に膨張・亀裂・剥離が生じたり、化合物粒が発生したり、結晶粒が粗大になっていることが分かる。即ち、上記特定の元素を特定の範囲で含有していない線材から点火プラグ用電極を形成し、この電極が従来よりも高温環境で使用される場合、耐高温酸化性や耐火花消耗性を十分に有することができず、化合物粒も発生し易いと言える。
上述のように、Al,Si,Cr,Y,及びTi、適宜Mnを特定の範囲で含有する電極材料は、耐高温酸化性に優れる上に、比抵抗が小さく、かつ化合物粒が発生し難い。従って、この電極材料から作製された点火プラグ用電極は、従来よりも更に温度が高い環境(例えば、従来温度+100℃程度の超高温環境)であっても、良好に使用できると期待される。また、上記電極は、酸化物層が過剰に形成され難い上に、酸化物層の膨張、亀裂、剥離が生じ難く、比抵抗も小さくて火花による消耗が少なく、かつ上述の化合物粒が形成、成長され難いことから、長寿命であると期待される。
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、電極材料の組成、形状、大きさなどを適宜変更することができる。また、接地電極と中心電極とで組成を異ならせることもできる。
本発明電極材料は、自動車のエンジンといった種々の内燃機関の点火プラグ用電極の構成材料に好適に利用することができる。本発明電極は、上記点火プラグの構成部品に好適に利用することができる。本発明点火プラグは、上記内燃機関の点火用部材に好適に利用することができる。

Claims (8)

  1. 点火プラグの電極に用いられる電極材料であって、
    質量%で、
    Alを0.005%以上0.2%以下、
    Siを0.3%以上0.5%以下、
    Crを0.6%以上1.2%以下、
    Tiを0.05%以上0.5%以下、
    Yを0.3%以上1.0%以下含有し、残部がNi及び不可避不純物からなることを特徴とする電極材料。
  2. 更に、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
  3. Alの含有量が0.05質量%以上0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
  4. Bを0.05質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極材料。
  5. 前記電極材料の常温での比抵抗が20μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極材料。
  6. 前記電極材料を1000℃×72時間加熱したとき、この加熱後の電極材料の平均結晶粒径が300μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極材料。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の電極材料から構成されたことを特徴とする点火プラグ用電極。
  8. 請求項7に記載の点火プラグ用電極を具えることを特徴とする点火プラグ。
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