以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、所謂、デジタルカメラ等の撮像装置に搭載される、ズーム機能を備えるレンズ鏡筒を具体例として取り上げることとする。
図1は、本発明の実施形態に係るレンズ鏡筒の概略構造を示す断面図であり、レンズ鏡筒が画角の最も広い撮影位置(以下「WIDE位置」という)にある状態を示している。このレンズ鏡筒は、第1レンズ群10、第2レンズ群20、プリズム5、固定筒62、カム筒61及び直進ガイド筒63を備えている。
第1レンズ群10は、1群鏡筒11に1群レンズ1が保持された構造を有し、第2レンズ群20は、2群鏡筒21に2群レンズ2が保持された構造を有している。1群レンズ1と2群レンズ2とを通して入射した光束は、1群レンズ1及び2群レンズ2の光軸A(第1の光軸)に対して略90°の角度で交差する光軸B(第2の光軸)の方向にプリズム5により屈曲されて、撮像素子8に導かれる。
プリズム5は、屈曲系の光学素子の一例である。プリズム5は、保持部材6に保持されており、保持部材6に保持された状態で光軸Bに沿って移動可能である。プリズム5と撮像素子8との間には、光軸Bに沿って、第3レンズ群30、第4レンズ群40及び光学フィルタ7が配置されている。
第3レンズ群30は、前地板32に固定されたシャッタ機構(不図示)と、後地板34に保持された3群レンズ3とを備え、前地板32と後地板34とは互いにねじ等により結合されている。第3レンズ群30が、光軸Bに沿って移動することで変倍動作(ズーミング)が行われる。第4レンズ群40は、4群レンズホルダ41に4群レンズ4が保持された構造となっており、第4レンズ群40が光軸Bに沿って移動することにより、変倍動作と合焦動作(フォーカシング)が行われる。光学フィルタ7としては、空間周波数の高い光をカットするためのローパスフィルタ機能や赤外光をカットする機能等を有するものが用いられる。
図2は、図1に示すレンズ鏡筒の概略構造を示す別の断面図であり、レンズ鏡筒が画角の最も狭い撮影位置(以下「TELE位置」という)にある状態を示している。レンズ鏡筒がTELE位置にある状態では、第1レンズ群10が光軸Aに沿って被写体側に繰り出すと共に、第2レンズ群20が光軸Aに沿って後退してプリズム5に接近した位置で停止する。第3レンズ群30は、光軸Bに沿ってプリズム5に向かって移動して、プリズム5に接近した位置で停止する。また、第4レンズ群40は、光軸Bに沿って撮像素子8に向かって移動し、撮像素子8に接近した位置で停止する。
図3は、図1に示すレンズ鏡筒の概略構造を示す別の断面図であり、レンズ鏡筒がデジタルカメラの本体に収納された状態(以下「SINK位置」という)を示している。レンズ鏡筒がSINK位置にある状態では、プリズム5、第3レンズ群30及び第4レンズ群40は、互いに干渉しないように光軸Bに沿って撮像素子8側に移動する。これにより、第2レンズ群20及び第1レンズ群10の後方に収納空間が形成され、第2レンズ群20及び第1レンズ群10は、形成された収納空間へ光軸Aに沿って後退し、収納される。
固定筒62の内周部には、カム筒61の外周部に設けられたカムピン(不図示)がカム係合するカム溝62a(図6参照)が、周方向に略等間隔で複数箇所に形成されている。カム筒61の外周部には、駆動ギア60(図4参照)と噛合するギア部61a(図4参照)が形成されており、駆動ギア60から駆動力がギア部61aに伝達されることで、カム筒61の回転駆動が行われる。このとき、固定筒62のカム溝62aとカム筒61の外周部に設けられたカムピンとのカム作用により、カム筒61は光軸Aに沿って進退する。また、カム筒61の内周部には不図示の1群カム溝及び2群カム溝が形成されている。
直進ガイド筒63は、カム筒61の内周側に配置されており、カム筒61と一体となって回転可能、且つ、光軸A方向に移動可能となっている。カム筒61と直進ガイド筒63との間には第1レンズ群10を構成する1群鏡筒11が配置されており、1群鏡筒11の外周部に設けられたカムピン(不図示)がカム筒61の内周部に設けられた1群カム溝とカム係合している。また、直進ガイド筒63の外周部には、光軸Aに沿って延びる直進溝(不図示)が形成されており、この直進溝に1群鏡筒11の内周部に設けられた凸部(不図示)が係合することにより、1群鏡筒11の回転方向の動きが規制されている。
直進ガイド筒63の内周側に第2レンズ群20が配置されており、第2レンズ群20を構成する2群鏡筒21の外周部に設けられたカムピン(不図示)が、カム筒61の内周部に設けられた2群カム溝にカム係合する。また、直進ガイド筒63には光軸A方向に貫通溝(不図示)が形成されており、この貫通溝に2群鏡筒21の外周部に設けられたカムピンの根元に配置された係合部が係合することにより、2群鏡筒21の回転方向の動きが規制されている。
カム筒61が回転すると、1群鏡筒11の内周部に設けられた凸部が直進ガイド筒63に形成された直進溝を光軸A方向に摺動しながら、1群鏡筒11がカム筒61に対して光軸Aに沿って進退する。この動作は、カム筒61の内周部に設けられた1群カム溝と1群鏡筒11の外周部に設けられたカムピンとのカム作用によって実現される。したがって、カム筒61が固定筒62に対して光軸Aに沿って進退すると、カム筒61に対して1群鏡筒11が光軸Aに沿って進退して、1群レンズ1がSINK位置(収納位置)と撮影位置(WIDE位置〜TELE位置)との間を移動する。これと同様の動作によって2群レンズ2も収納位置と撮影位置との間を移動する。なお、以上の説明に係る構成は、一般的なカム筒を用いたレンズ移動機構の構成である。
次に、図4〜図11を参照して、カム筒61にモータの駆動力を伝達する伝達機構、及びプリズム5にモータの駆動力を伝達する伝達機構について説明する。
図4は、カム筒61及びプリズム5を駆動する機構の一部を分解して示す斜視図である。また、図5は、図4のカム筒61及びプリズム5を駆動する機構の一部の更に一部分を示す斜視断面図である。
図4及び図5において、SWモータ51は、第1レンズ群10及び第2レンズ群20をSINK位置とWIDE位置の間で移動させるための駆動源である。TWモータ53は、第1レンズ群10及び第2レンズ群20をTELE位置とWIDE位置との間で移動させるための駆動源である。SWモータ51のモータ軸にはウォームギア52が圧入され、TWモータ53のモータ軸にはウォームギア54が圧入されている。
ウォームギア52とウォームギア54との間には、被写体側(図4及び図5の上側)から順に光軸Aと平行に、ズームリングギア55、ズームキャリアギア56及び太陽ギア列57が同軸で配置されている。
太陽ギア列57は、3段の平ギアからなる太陽ギア57a〜57cを備えており、太陽ギア57aと斜歯ギアとが噛合することによって斜歯ギアを介してウォームギア52と噛合している。
ズームキャリアギア56は、ギア部56aと、ギア部56aにおいて被写体側を向く面に周方向に略等間隔で突設された3本の軸部56bを備え、3本の軸部56bにはそれぞれズーム遊星ギア58が軸支されている。ギア部56aにはウォームギア54が斜歯ギア等を介して噛合しており、ズーム遊星ギア58は太陽ギア57bと噛合している。
ズームリングギア55は、内歯ギア55aと外歯ギア55bとを備えている。内歯ギア55aはズーム遊星ギア58と噛合し、外歯ギア55bはアイドラギア59を介して駆動ギア60と噛合しており、駆動ギア60はカム筒61のギア部61aと噛合している。
上述の通り、TWモータ53及びSWモータ51とギア部61aとの間に配置されるギア列が、カム筒61にTWモータ53及びSWモータ51の駆動力を伝達する伝達機構を構成している。
次に、プリズム駆動部80について説明する。プリズム駆動部80では、図4に示されるように、太陽ギア列57の下側で被写体側から順に、プリズム遊星ギア83、プリズムキャリア81、トーションバネ84及びプリズムディレイギア82が、太陽ギア列57と同軸に配置されている。
プリズムキャリア81の被写体側を向く面には、3本の軸部が周方向に略等間隔で突設されており、これら3本の軸部にはそれぞれ、プリズム遊星ギア83が軸支されている。プリズム遊星ギア83は、太陽ギア57c及びギア地板(不図示)に固定された内歯ギア(不図示)と噛合している。
プリズムディレイギア82は、プリズムキャリア81に回転自在に軸支されている。プリズムディレイギア82のギア部には、光学素子駆動ギアとしてのプリズム駆動ギア85が噛合している。プリズムキャリア81及びプリズムディレイギア82にはそれぞれ、掛止部81b及び掛止部82bが互いに対向する方向に延びるように形成されており、掛止部81bは掛止部82bよりも径方向内側に配置されている(図8参照)。
トーションバネ84は、後に説明する図8に示されるように、コイル部と、コイル部の軸方向両端から径方向外側に延びる2本の腕部84a,84bとを備えている。2本の腕部84a,84bは、プリズムディレイギア82及びプリズムキャリア81の掛止部82b,81bに掛止される。トーションバネ84は、掛止部82b及び掛止部81bが同位相に配置された状態でプリズム駆動部80に組み込まれる(図8(b)参照)。このとき、トーションバネ84は、腕部84aが掛止部81bに掛止されると共に腕部84bが掛止部82bに掛止されて、プリチャージされている。
この状態で、プリズムディレイギア82の回転を自由にして、プリズムキャリア81を回転させると、プリズムキャリア81、プリズムディレイギア82及びトーションバネ84が一体的に回転する。一方、プリズムディレイギア82の回転を規制した状態で、プリズムキャリア81を回転させると、トーションバネ84をオーバーチャージしながらプリズムキャリア81のみが回転する。
図6は、プリズム5を保持する保持部材6とプリズム駆動部80の一部を示す平面図である。保持部材6は、互いに平行配置されて光軸B方向に延びる2本のガイド軸86,87に対してそれぞれ移動可能に係合する係合部6a,6bを備えている。係合部6aにはラックギア6cが形成されており、ラックギア6cはプリズム駆動ギア85と噛合している。このような構造によって、プリズム駆動ギア85の回転動作がラックギア6cに伝達されると、保持部材6がプリズム5と一体となって光軸Bに沿って進退する。
このように本実施形態では、太陽ギア列57とラックギア6cとの間に配置したギア列により、プリズム5にSWモータ51及びTWモータ53の駆動力を伝達する伝達機構を構成している。また、カム筒61にTWモータ53及びSWモータ51の駆動力を伝達する伝達機構を、カム筒61の光軸A方向の投影範囲に配置している。
再び図4及び図5を参照して、カム筒61とプリズム5の動作について説明する。SWモータ51を駆動させてTWモータ53を停止させた場合、SWモータ51から駆動力が太陽ギア列57に伝達されて太陽ギア列57が回転する。一方、TWモータ53に接続されているズームキャリアギア56は停止した状態となる。そのため、ズーム遊星ギア58は、公転せずに自転のみする。
例えば、太陽ギア57bの歯数を9、ズーム遊星ギア58の歯数を10、ズームリングギア55の内歯ギア55aの歯数を30とした場合、太陽ギア列57の回転は1/3.33倍に減速されてズームリングギア55に伝達される。これにより、ズームリングギア55の外歯ギア55bの回転がアイドラギア59を介して駆動ギア60に伝達され、駆動ギア60の回転がカム筒61のギア部61aに伝達されて、カム筒61が回転駆動される。
このときのズームリングギア55の回転方向は、太陽ギア列57の回転方向の逆方向となる。このとき、太陽ギア列57の回転がプリズム遊星ギア83を経てプリズムキャリア81に伝達される。ここで、保持部材6が光軸B方向に移動可能な場合、トーションバネ84とプリズムディレイギア82がプリズムキャリア81と一体に回転し、保持部材6を光軸B方向で進退させる。一方、保持部材6の光軸B方向の移動が規制されている場合、プリズムディレイギア82も回転できないため、トーションバネ84がオーバーチャージされながらプリズムキャリア81の回転が吸収される。
SWモータ51を停止させ、TWモータ53を駆動させた場合、SWモータ51に接続されている太陽ギア57は停止し、TWモータ53に接続されているズームキャリアギア56は回転する。そのため、ズーム遊星ギア58は自転し、且つ、公転する。例えば、太陽ギア57bの歯数を9、ズーム遊星ギア58の歯数を10、ズームリングギア55の内歯ギア55aの歯数を30とすると、ズームキャリアギア56の回転は1.3倍に増速されてズームリングギア55に伝達される。こうして、上記のSWモータ51を駆動させてTWモータ53を停止させた場合と同様に、カム筒61が回転駆動される。
このときのズームリングギア55の回転方向は、ズームキャリアギア56の回転方向と同じ方向になる。そして、このとき、太陽ギア57が停止しているため、プリズムキャリア81も停止しており、保持部材6には駆動力は伝達されない。
SWモータ51とTWモータ53とを同時に駆動させた場合、ズームリングギア55には、合成された回転数が伝達される。例えば、太陽ギア57をCW(時計回り)方向に1rpm、ズームキャリアギア56をCW方向に1rpmの各回転速度で回転させた場合を考える。この場合、太陽ギア列57によってズームリングギア55に伝達されるはずの回転速度は、CCW(反時計回り)方向に0.3rpmであり、ズームキャリアギア56によってズームリングギア55に伝達されるはずの回転速度は、CW方向に1.3rpmである。よって、これらの回転速度を合成すると、ズームリングギア55はCW方向に1rpmの回転速度で回転することになる。
ここで、太陽ギア列57をCW方向に1.3rpm、ズームキャリアギア56をCW方向に0.3rpmの各回転速度で回転させた場合を考える。太陽ギア57によってズームリングギア55に伝達されるはずの回転速度は、CCW方向に0.39rpmであり、ズームキャリアギア56によってズームリングギア55に伝達されるはずの回転速度は、CW方向に0.39rpmである。よって、これらの回転速度を合成すると、ズームリングギア55は停止することになる。
以上の説明から、SWモータ51とTWモータ53の回転速度と回転方向を適切に選択することにより、カム筒61を停止させた状態でプリズム5を駆動することができることがわかる。また、SWモータ51に接続したギア列の減速比は大きく、TWモータ53に接続したギア列の減速比は小さくなることがわかる。この点については後述する。
次に、図7乃至図9を参照して、第1レンズ群10及び第2レンズ群20を光軸A方向に繰り出して、プリズム5を撮影位置に配置する動作について説明する。
図7は、固定筒62の内周側展開図である。固定筒62の内周部には、カム筒61の外周部に設けられたカムピンがカム係合するカム溝62aが周方向に略等間隔で複数箇所に形成されている。また、固定筒62の後端部には、プリズム5を保持する保持部材6が光軸B方向に進退する際に通り抜ける切り欠き62bが形成されている。図7中の符号62c,62d,62eは、カム筒61の外周部に設けられたカムピンの位置の例示であるが、これについては後に説明する。
図8は、プリズムキャリア81とプリズムディレイギア82との位相関係及びトーションバネ84のチャージ量を模式的に示す図である。レンズ鏡筒がSINK位置にあるとき、カム筒61の外周部に設けられたカムピンは、固定筒62のカム溝62a内で図7中の位置62cに配置されている。このとき、プリズムキャリア81とプリズムディレイギア82とは、図7(a)に示すように、トーションバネ84をオーバーチャージさせる位相関係にある。
図9は、プリズム5を保持する保持部材6が撮影側ストッパ6eに当接した状態を示す斜視図である。図7(a)に示される状態では、保持部材6は、トーションバネ84のチャージ力によって光軸Bの退避方向(撮像素子8側)に付勢されているが、図9に示すように、撮影側ストッパ6eに当接することよって退避方向への移動が規制されている。
レンズ鏡筒をSINK位置から撮影位置へ移動させるためには、まず、SWモータ51をカム筒61の繰り出し方向(被写体側)に回転させる。このとき、カム筒61の外周部に設けられたカムピンは、固定筒62のカム溝62aを図7の右方向に移動し、第1レンズ群10及び第2レンズ群20が、リフトを有する区間で光軸Aに沿って繰り出し方向に移動する。この繰り出し動作の間、プリズムキャリア81も保持部材6を撮影位置に繰り出す方向に回転するが、トーションバネ84がオーバーチャージの状態であるため、プリズムディレイギア82は停止したままとなる。そのため、保持部材6は、退避位置から動かない。
カム筒61が光軸A方向に繰り出して、保持部材6が撮影位置側に移動できる空間が形成されると、図8(b)に示すように、プリズムキャリア81の掛止部81bとプリズムディレイギア82の掛止部82bとの位相が一致する。SWモータ51をカム筒61の繰り出し方向にさらに回転させると、カム筒61の外周部に設けられたカムピンは、固定筒62のカム溝62aを図7の右方向に移動し、同時に保持部材6が撮影位置に向けて移動する。
カム筒61がWIDE位置に達した後、SWモータ51をカム筒61の繰り出し方向に駆動した状態で、TWモータ53をカム筒61の繰り込み方向に駆動する。これにより、カム筒61はWIDE位置で停止した状態で、保持部材6のみが光軸B方向に沿って撮影位置に向けて移動を続ける。
保持部材6は、撮影位置に達すると、図9に示したように、撮影側ストッパ6eに当接して停止し、保持部材6の停止と同時にプリズムディレイギア82も停止する。このとき、SWモータ51をカム筒61の繰り出し方向に駆動し続けることで、プリズムキャリア81が保持部材6を撮影位置に繰り出す方向に回転させ続け、図8(c)に示されるように、トーションバネ84をオーバーチャージさせる。トーションバネ84をある程度オーバーチャージすると、トーションバネ84の作用によって保持部材6が撮影側ストッパ6e側に付勢されるため、撮影時に保持部材6の位置や姿勢を安定させることができるという効果が得られる。
ここで、撮影位置では保持部材6は常に撮影側ストッパ6eに付勢されるため、保持部材6を支持しているガイド軸86には、プリズム駆動ギア85の圧力角方向に生じる分力が加わる。図10は、保持部材6を支持するガイド軸86に加わる、プリズム駆動ギア85の圧力角方向に生じる分力を示す図である。この分力Fは、ガイド軸86に対して直角な方向に加わるため、ガイド軸86を変形させるおそれがある。ガイド軸86が変形すると、ガイド軸86に支持された第3レンズ群30、第4レンズ群40が偏芯するという問題が引き起こされる。
このような問題が生じないように、本実施形態に係るレンズ鏡筒では、ガイド軸86を挟んでプリズム駆動ギア85と略対向する位置に、ガイド軸86の変形量を規制するためのガイド軸規制部材6dを配置している。そこで、次に、図11を参照してガイド軸86とガイド軸規制部材6dとの関係について説明する。
図11は、ガイド軸86とガイド軸規制部材6dとの関係を示す断面図である。ガイド軸86とガイド軸規制部材6dの嵌め合いは、両者のクリアランスが0(ゼロ)となることが望ましい。クリアランスが0であれば、ガイド軸86がプリズム駆動ギア85から力を受けてもガイド軸86の変形を抑えることができるため、第3レンズ群30、第4レンズ群40の偏芯精度が実質的に低下することがない。
しかしながら、実際には、加工公差上、ガイド軸86とガイド軸規制部材6dとのクリアランスをゼロにすることは困難であるため、本実施形態においては、例えば、15μmのクリアランスを設けている。ガイド軸規制部材6dを配置したことによって、ガイド軸86の変形量はクリアランス量に依存するようになる。そのため、ガイド軸86はプリズム駆動ギア85から力を受けて変形しても、第3レンズ群30、第4レンズ群40の偏芯精度を、設けられたクリアランスの範囲内で、安定に維持することができるようになる。
以上の通り、本実施形態では、ガイド軸86を挟んでプリズム駆動ギア85と略対向する位置にガイド軸規制部材6dを配置したことにより、ガイド軸86に支持された第3レンズ群30、第4レンズ群40に偏芯倒れが発生することを抑制することができる。
トーションバネ84が一定のオーバーチャージ状態に達した時点で、SWモータ51とTWモータ53とを停止させる。こうして、第1レンズ群10、第2レンズ群20及びプリズム5は、撮影位置としてのWIDE位置に配置されて、撮影状態となる。カム筒61がWIDE位置に達すると、カム筒61の外周部に設けられたカムピンは、固定筒62のカム溝62a内の、図7に示される位置62dに移動する。その後、第3レンズ群30及び第4レンズ群40を不図示のモータを駆動させて、光軸B方向の所定の位置に移動させる。
レンズ鏡筒をWIDE位置からSINK位置に移動させる場合は、上記のSINK位置からWIDE位置への移動に関する説明に係る動作と逆の動作を行う。すなわち、まず、不図示のモータを駆動して、第3レンズ群30と第4レンズ群40とを光軸Bに沿って撮像素子8側に退避させる。続いて、TWモータ53をカム筒61の繰り出し方向に駆動し、同時にSWモータ51をカム筒61の繰り込み方向に駆動する。これにより、カム筒61は回転せず、プリズムキャリア81のみが保持部材6を撮影位置に繰り出す方向に回転する。
図8(c)に示した状態でのトーションバネ84のオーバーチャージ分だけプリズムキャリア81が回転すると、プリズムキャリア81の掛止部81bとプリズムディレイギア82の掛止部82bの位相が、図8(b)に示されるように一致する。このとき、プリズムディレイギア82は、プリズムキャリア81、トーションバネ84と一体的に保持部材6を退避位置に繰り込む方向に回転して、保持部材6が退避方向に移動する。
保持部材6が退避位置に移動して、カム筒61の後方に収納可能な空間が形成されると、TWモータ53が停止し、SWモータ51のみがカム筒61を繰り込む方向に駆動を続ける。これにより、カム筒61が繰り込みを開始する。保持部材6が退避位置まで移動すると、退避側端部材(不図示)に当接して停止し、同時にプリズムディレイギア82も停止する。
SWモータ51は、カム筒61を収納位置まで繰り込ませるために駆動し続けるので、プリズムキャリア81は、トーションバネ84をオーバーチャージしながら、保持部材6を退避位置に繰り込む方向に回転し続ける。カム筒61がSINK位置に収納されて、第1レンズ群10及び第2レンズ群20が収納されると、SWモータ51が停止する。
レンズ鏡筒をWIDE位置とTELE位置の間で変倍動作する場合は、TWモータ53のみを駆動することにより、保持部材6を光軸B方向に移動させることなく第1レンズ群10と第2レンズ群20とを光軸A方向に移動させることができる。レンズ鏡筒のTELE位置では、カム筒61の外周部に設けられたカムピンは、固定筒62のカム溝62aの、図7に示される位置62eに配置される。
次に、SWモータ51に接続したギア列の減速比を大きく、TWモータ53に接続したギア列の減速比を小さく設定することにより得られる効果について説明する。
一般的に、固定筒62のカム溝62aのリフト角が大きいSINK位置から撮影領域までの領域の方が、WIDE位置からTELE位置までの撮影領域よりも、カム筒61の駆動負荷が大きい。また、SINK位置から撮影領域までの領域では、レンズバリア(不図示)の作動負荷が更に加わる場合が多いため、減速比が大きいギア列を用いて、モータのトルクを増幅する必要がある。一方、WIDE位置からTELE位置までの撮影領域では、動画等の撮影中にレンズ駆動音が録音されないように、モータの回転数を低く押さえる必要がある。しかし、そのために減速比の大きいギア列を用いると、カム筒61の回転速度が極端に遅くなってしまう。
そこで、本実施形態では、カム筒61の負荷が大きいSINK位置から撮影領域までの領域では、減速比の大きいギア列を介してSWモータ51の駆動力をカム筒61に伝達してカム筒61を駆動する。また、WIDE位置からTELE位置までの撮影領域では、減速比の小さいギア列を介してTWモータ53の駆動力をカム筒61に伝達してカム筒61を駆動する。これにより、動画撮影中にモータの駆動音が小さくなるようにTWモータ53を低速回転させても、快適な変倍動作速度を得ることができる。
また、本実施形態では、SWモータ51とTWモータ53を異なる種類のモータにすることができる。例えば、SWモータ51にはDCモータを使用し、TWモータ53にはステッピングモータを使用することができる。ステッピングモータは、DCモータに比べて低速での安定した制御が可能なため、動画撮影中の低速駆動に好適である。
更に、ステッピングモータを選択する際に、駆動方式を選択することができる。例えば、駆動方式がマイクロステップ駆動方式であるステッピングモータを用いれば、更に静粛性の高い駆動が可能になる。また、例えば、駆動方式が2相励磁駆動方式であるステッピングモータを用いれば、高トルク駆動が可能である。よって、静粛性が必要な動画撮影中の変倍動作にはマイクロステップ駆動を用い、静止画撮影中の変倍動作には2相駆動を用いるとよい。
次に、第1レンズ群10及び第2レンズ群20の光軸A方向の位置を検出するためのパルスギア列70について説明する。図4及び図5に示したように、パルスギア列70は、アイドラギア59に接続されている。パルスギア列70の最終段のパルス板71には、複数枚の羽根が設けられており、これらの羽根が通過した回数をフォトインタラプタ72によってカウントすることで、カム筒61の回転量を検出する。パルスギア列70の増速比とパルス板71の羽根の枚数は、光学設計によって決まる必要な分解能が得られるように決定される。
ところで、本来、モータの駆動力の伝達にギア列を用いる場合は、滑りによる回転量のロス等がないため、モータの回転量に対してカム筒の回転量は減速比によって線形に定まる。ところが、実際には、ギアのバックラッシュや噛み合い誤差によって、モータの回転量に対するカム筒の回転量にはばらつきが生じる。
しかし、1つのモータで1つのカム筒を駆動する従来のレンズ鏡筒では、ギア列を一度組み立ててしまえば、モータを駆動してもギアの噛み合い関係は不変である。つまり、毎回同じ歯同士が噛み合うため、モータの回転量に対するカム筒の回転量のばらつきの状態は、毎回同じはずである。実際に、カム筒の回転量をモータの回転量から計算によって求めると、実際の回転量との誤差は小さい。
本実施形態のようにズーム遊星ギア58を用いて2つのモータ(SWモータ51とTWモータ53)の回転量を合成して1つのカム筒61を駆動する場合、一方のモータを回転させると他方のモータとズームリングギア55との間の噛み合う歯の関係が変化する。つまり、本実施形態に係るレンズ鏡筒を備えるカメラの電源をONする毎に、毎回違う歯同士が噛み合うため、モータの回転量に対するカム筒61の回転量のばらつきの状態が異なる。そのため、モータの回転量から計算によってカム筒61の回転量を求めても、実際の回転量との誤差が大きくなってしまうおそれがある。
このような問題が生じないように、本実施形態では、ズーム遊星ギア58の出力ギアであるズームリングギア55とカム筒61との間のアイドラギア59からパルスギア列70を分岐させている。これにより、パルスギア列70とカム筒61のギアの噛み合い関係は不変となる。よって、従来のレンズ鏡筒と同等の誤差でカム筒61の回転量を検出することができる。
以上説明したように、本実施形態では、カム筒61にモータ(SWモータ51とTWモータ53)の駆動力を伝達する伝達機構の光軸A方向の投影範囲に、プリズム5(保持部材6)に対してモータの駆動力を伝達する伝達機構を配置している。これにより、モータの駆動力をカム筒61及びプリズム5(保持部材6)に伝達する各伝達機構の、カム筒61の光軸A方向から見たときの占有面積を小さくすることができる。よって、例えば、本実施形態に係るレンズ鏡筒を備えたデジタルカメラ等の撮像装置の小型化を図ることが可能になる。また、本実施形態では、カム筒61及びプリズム5を共通のモータで駆動することができるので、プリズム5(保持部材6)を駆動するモータを専用に設ける場合に比べて、デジタルカメラ等の撮像装置の小型化と低コスト化を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成に関し、材質、形状、寸法、形態、数、配置箇所等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜、設定し、また、変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、屈曲系光学素子としてプリズム5を例示したが、これに限定されず、例えば、ミラー等であってもよい。また、上記実施形態では、屈曲系光学素子を第2レンズ群20の後方に配置した場合を例示したが、例えば、第1レンズ群10と第2レンズ群20との間に配置してもよい。