ところで、機関始動直後は機関温度が低いため、上記のようにサブポンプによって潤滑油を供給する構成や、リリーフ圧を低くする構成を採用した場合には、サブポンプによって潤滑油が供給されたり、リリーフ圧が低くされたりして潤滑油の循環量が制限されることとなる。
供給通路内の潤滑油は、機関停止中に供給通路から流れ出てしまうため、機関始動時には供給通路内の潤滑油が抜けてしまっていることが多い。そのため、機関始動時に上記のように潤滑油の循環量が制限された場合には、供給通路内の油圧が比較的低い状態が継続することとなる。その結果、潤滑油が供給通路の末端までなかなか行き渡らなくなってしまい、ひいては被潤滑部の一部で潤滑油の供給不足が生じてしまうおそれがある。
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は内燃機関に作用するポンプの駆動負荷を極力低減して内燃機関の燃料消費量を抑制する一方で、機関始動時に潤滑油の供給不足が発生してしまうことを抑制することのできる潤滑油供給システムの制御装置を提供することにある。
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関によって駆動される機関駆動式のポンプを備え、前記内燃機関の駆動力を利用して潤滑油を循環させる潤滑油供給システムの制御装置であり、潤滑油の需要が小さいときに潤滑油の循環量を制限する低圧制御を実行して前記内燃機関に作用する前記ポンプの駆動負荷を低減する潤滑油供給システムの制御装置において、潤滑油の温度の代替値である油温推定値を算出する油温推定値算出手段を備え、前記内燃機関が始動されたときに、機関始動時の機関冷却水の温度に基づいて第1の判定値を設定し、前記油温推定値が同第1の判定値以上になるまでの間、前記低圧制御の実行を禁止することをその要旨とする。
上記構成によれば、油温推定値が、機関始動時の冷却水温に基づいて設定された第1の判定値以上になるまでの間、低圧制御の実行が禁止されるようになるため、機関始動直後には循環量が制限されずに潤滑油が循環されるようになる。そのため、機関始動直後は、供給通路内の潤滑油の油圧が、低圧制御を実行した場合と比較して高い状態に保持されるようになる。その結果、機関停止中に供給通路内の潤滑油が流れ出してしまい、供給通路内に潤滑油が残っていないような状況下で機関始動がなされた場合であっても、供給通路の末端まで速やかに潤滑油を行き渡らせることができるようになる。
尚、機関始動時の機関冷却水の温度が低いとき、すなわち、機関始動時の機関温度が低く、潤滑油の温度が低くなっていることが推定されるときには、潤滑油の粘度が高くなっていることが推定される。潤滑油の粘度が高い場合には、供給通路の末端まで潤滑油を到達させるためには高い油圧でより長い期間に亘って潤滑油を圧送する必要がある。この点、上記請求項1に記載の発明にあっては、機関始動時の機関冷却水温に基づいて第1の判定値を設定するとともに、潤滑油の温度の代替値である油温推定値が第1の判定値以上になるまでの間、低圧制御の実行を禁止するようにしている。そのため、上記請求項1に記載の発明によれば、潤滑油の温度が低く、潤滑油の粘度が高いことが推定されるときには、それに応じて低圧制御の実行を禁止して潤滑油の油圧を比較的高い状態に保持する期間を長くすることができる。
したがって、潤滑油の粘度に合わせて低圧制御の実行を禁止する期間の長さを調整することができ、必要以上に長い期間に亘って低圧制御の実行を禁止してしまうことや、供給通路の末端まで潤滑油を行き渡らせることができていないにも拘らず低圧制御が開始されてしまうようになることを好適に抑制することができるようになる。
すなわち、上記請求項1に記載の発明によれば、内燃機関に作用するポンプの駆動負荷を極力低減して内燃機関の燃料消費量を抑制する一方で、機関始動時に潤滑油の供給不足が発生してしまうことを抑制することができるようになる。
尚、具体的には、請求項2に記載されているように機関始動時の機関冷却水の温度が低いときほど、第1の判定値を大きな値に設定するようにすれば、潤滑油の温度が低く、潤滑油の粘度が高いことが推定されるときほど、低圧制御の実行を禁止する期間を長くすることができるようになる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油供給システムの制御装置において、機関温度の代替値である機関温度推定値を算出する機関温度推定値算出手段を備え、前記油温推定値が前記第1の判定値以上になったあと、機関冷却水の温度に基づいて第2の判定値を設定し、前記機関温度推定値が前記第2の判定値未満のときには前記低圧制御を実行する一方、前記機関温度推定値が前記第2の判定値以上のときには前記低圧制御の実行を禁止する油圧切替え制御を実行することをその要旨とする。
潤滑油の循環量を低減させる低圧制御を実行すれば、ポンプの駆動負荷を低減することができるため、内燃機関の燃料消費量を抑制することができる。しかし、潤滑油の循環量を制限したことにより、機関温度が過剰に上昇してしまった場合には、機関各部が熱による損傷を受けることになり、内燃機関の耐久性が著しく低下してしまうこととなる。
これに対して、上記請求項3に記載の構成によれば、油温推定値が第1の判定値以上になって低圧制御の実行が許可されたあと、機関温度推定値に基づく油圧切替え制御が実行されるようになり、機関温度推定値が第2の判定値以上になったときには、低圧制御の実行が禁止されるようになる。そのため、機関温度が過剰に高くなる前に低圧制御の実行を停止して潤滑油の循環量の制限を解除し、潤滑油の循環量を増大させることができるようになり、機関温度が過剰に高くなることを好適に抑制することができるようになる。
尚、機関冷却水の温度が低く、機関冷却水が循環することによって効果的に機関温度の上昇を抑制することができる状態にあることが推定される場合には、低圧制御を実行して潤滑油の循環量を制限し続けたとしても、機関各部に熱による損傷が生じる可能性が低いことが推定される。
これに対して、上記請求項3に記載の発明にあっては、低圧制御の実行可否を決定するための判定値である第2の判定値を機関冷却水の温度に基づいて設定するようにしているため、熱による損傷が生じる可能性の大きさに即したかたちで低圧制御の実行可否を決定することができる。
尚、具体的には、請求項4に記載されているように機関冷却水の温度が低いときほど、第2の判定値を大きな値に設定するようにすれば、機関温度の過剰な上昇を抑制しつつ、低圧制御の実行期間を極力長くしてより好適に内燃機関の燃料消費量を抑制することができるようになる。
内燃機関における燃焼によって発生する熱量が大きいときほど、潤滑油の温度は上昇しやすくなる。すなわち、内燃機関における燃焼による発熱量と潤滑油の温度の変化とは高い相関を有している。
機関回転速度を参照すれば単位時間当りの燃料行程の回数を推定することができ、燃料噴射量を参照すれば1回の燃焼行程において発生する熱量を推定することができる。したがって、油温推定値算出手段としては、請求項5に記載されているように、機関回転速度と燃料噴射量とに基づいて油温推定値を算出する構成を採用することが望ましい。
請求項5に記載されているように、機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて油温推定値を算出する構成を採用すれば、機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて、潤滑油の温度の変化と高い相関を有する内燃機関における発熱量を推定し、それに基づいて油温推定値を算出することができるようになる。
尚、車両に搭載される内燃機関の潤滑油供給システムの制御装置にあっては、車速が高くなるほど、車両の走行に伴ってエンジンルーム内に導入される走行風の量が多くなるため、内燃機関及びそこに循環されている潤滑油の温度は上昇し難くなる。すなわち、車速が高いときほど走行風による冷却効果が高くなり、潤滑油の温度は上昇し難くなる。
そこで、請求項6に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、車速を参照して油温推定値を算出する構成を採用すれば、車速の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上で油温推定値を算出することができるようになり、より的確に潤滑油の温度変化を推定することができるようになる。
また、機関冷却水の温度が低いときほど、機関冷却水による冷却効果が高くなり、内燃機関及びそこに循環されている潤滑油の温度は上昇し難くなる。そこで、請求項7に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、機関冷却水の温度を参照して油温推定値を算出する構成を採用すれば、機関冷却水の温度の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上で油温推定値を算出することができるようになり、より的確に潤滑油の温度変化を推定することができるようになる。
請求項8に記載の発明は、請求項3又は請求項4に記載の潤滑油供給システムの制御装置において、前記機関温度推定値算出手段は、機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて前記機関温度推定値を算出することをその要旨としている。
内燃機関における燃焼によって発生する熱量が大きいときほど、機関温度は上昇しやすくなる。すなわち、内燃機関における燃焼による発熱量と機関温度の変化とは高い相関を有している。
上述したように、機関回転速度を参照すれば単位時間当りの燃料行程の回数を推定することができ、燃料噴射量を参照すれば1回の燃焼行程において発生する熱量を推定することができる。したがって、機関温度推定値算出手段としては、請求項8に記載されているように、機関回転速度と燃料噴射量とに基づいて機関温度推定値を算出する構成を採用することが望ましい。
上記請求項8に記載の構成のように機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて機関温度推定値を算出する構成を採用すれば、機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて、機関温度の変化と高い相関を有する内燃機関における発熱量を推定し、それに基づいて機関温度推定値を算出することができるようになる。
尚、車両に搭載される内燃機関の潤滑油供給システムの制御装置にあっては、車速が高くなるほど、車両の走行に伴ってエンジンルーム内に導入される走行風の量が多くなる。そのため、車速が高いときほど走行風による冷却効果が高くなり、機関温度は上昇し難くなる。
そこで、請求項9に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、車速を参照して機関温度推定値を算出する構成を採用すれば、車速の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上で機関温度推定値を算出することができるようになり、より的確に機関温度の変化を推定することができるようになる。
また、機関冷却水の温度が低いときほど、機関冷却水による冷却効果が高くなり、機関温度は上昇し難くなる。そこで、請求項10に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、機関冷却水の温度を参照して機関温度推定値を算出する構成を採用すれば、機関冷却水の温度の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上で機関温度推定値を算出することができるようになり、より的確に機関温度の変化を推定することができるようになる。
請求項11に記載の発明は、請求項3又は請求項4記載の潤滑油供給システムの制御装置において、前記油温推定値算出手段及び前記機関温度推定値算出手段は、前記油温推定値並びに前記機関温度推定値として、前記内燃機関のピストンの温度の代替値であるピストン温度推定値を算出することをその要旨とする。
内燃機関のピストンは、潤滑油によって潤滑されている部位の中でも特に燃焼によって発生する熱の影響を受けやすい。また、ピストンは潤滑油によって潤滑及び冷却されているため、ピストンの温度と潤滑油の温度とは高い相関を有している。そのため、油温推定値並びに機関温度推定値としてピストンの温度の代替値であるピストン温度推定値を算出し、算出されたピストン温度推定値に基づいて低圧制御の実行可否を決定する構成を採用することもできる。
すなわち、機関始動時には算出されたピストン温度推定値が第1の判定値以上になるまで低圧制御の実行を禁止する一方、ピストン温度推定値が第1の判定値以上になったあとは、ピストン温度推定値と第2の判定値との大小関係に基づいて低圧制御の実行可否を決定する構成を採用することもできる。
尚、内燃機関における燃焼によって発生する熱量が大きいときほど、ピストンの温度は上昇しやすくなる。すなわち、内燃機関における燃焼による発熱量とピストンの温度の変化とは高い相関を有している。
上述したように、機関回転速度を参照すれば単位時間当りの燃料行程の回数を推定することができ、燃料噴射量を参照すれば1回の燃焼行程において発生する熱量を推定することができる。したがって、ピストン温度推定値算出手段としては、請求項12に記載されているように、機関回転速度と燃料噴射量とに基づいてピストン温度推定値を算出する構成を採用することが望ましい。
請求項12に記載されている構成のように機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいてピストン温度推定値を算出する構成を採用すれば、機関回転速度と、燃料噴射量とに基づいて、ピストン温度の変化と高い相関を有する内燃機関における発熱量を推定し、それに基づいてピストン温度推定値を算出することができるようになる。
尚、車両に搭載される内燃機関の潤滑油供給システムの制御装置にあっては、車速が高くなるほど、車両の走行に伴ってエンジンルーム内に導入される走行風の量が多くなる。そのため、車速が高いときほど走行風による冷却効果が高くなり、機関温度並びにピストンの温度は上昇し難くなる。
そこで、請求項13に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、車速を参照してピストン温度推定値を算出する構成を採用すれば、車速の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上でピストン温度推定値を算出することができるようになり、より的確にピストンの温度の変化を推定することができるようになる。
また、機関冷却水の温度が低いときほど、機関冷却水による冷却効果が高くなり、機関温度並びにピストンの温度は上昇し難くなる。そこで、請求項14に記載されているように機関回転速度及び燃料噴射量に加え、機関冷却水の温度を参照してピストン温度推定値を算出する構成を採用すれば、機関冷却水の温度の変化に伴う冷却効果の変化を加味した上でピストン温度推定値を算出することができるようになり、より的確にピストンの温度の変化を推定することができるようになる。
尚、ピストンの温度の代替値であるピストン温度推定値に基づいて低圧制御の実行可否を決定するようにした場合には、内燃機関のその他の部位の温度が過剰に上昇している場合であっても、ピストンの温度が過剰に上昇していない場合には、低圧制御が引き続き継続されることとなる。その結果、機関冷却水が沸騰してしまったり、ピストン以外の部分で熱による損傷が発生してしまったりするおそれがある。そのため、ピストン温度推定値に基づいて低圧制御の実行可否を決定するようにした場合には、請求項15に記載されているように機関冷却水の温度に上限温度を設定し、機関冷却水の温度が上限温度以上になった場合には、ピストン温度推定値の大きさに拘らず、低圧制御の実行を禁止する構成を採用することが望ましい。
こうした構成を採用すれば、ピストンの温度が低く、ピストン温度推定値が第2の判定値よりも小さい場合であっても、機関冷却水の温度が上限温度まで上昇したときには、低圧制御の実行が禁止されて潤滑油の循環量が増大されるようになり、内燃機関の温度及び機関冷却水の温度の上昇が抑制されるようになる。
これにより、機関冷却水が沸騰してしまったり、ピストン以外の部分で熱による損傷が発生してしまったりすることを抑制することができるようになる。
潤滑油の循環量を制限することにより、ポンプの駆動負荷を低減するための構成としては、請求項16に記載されているように、潤滑油の供給通路にリリーフ圧を変更することのできるリリーフ弁を設ける構成を採用することができる。こうした構成を採用すれば、リリーフ弁のリリーフ圧を低くすることにより、低圧制御を実行することができるようになる。
以下、この発明にかかる潤滑油供給システムの制御装置を、車両に搭載される内燃機関を統括的に制御する電子制御装置として具体化した一実施形態について、図1〜7を参照して説明する。尚、図1は本実施形態にかかる潤滑油供給システムの概略構成を示す模式図である。
本実施形態にかかる潤滑油供給システムは、図1に破線で示されるように内燃機関10の出力軸11に連結された機関駆動式のポンプ20を備えている。本実施形態にかかる潤滑油供給システムは、内燃機関10の駆動力を利用してこのポンプ20を駆動し、このポンプ20によってオイルパン22に貯留された潤滑油を圧送することにより、被潤滑部である内燃機関10の各部に潤滑油を供給するものである。
図1に示されるように、ポンプ20には供給通路21が接続されており、この供給通路21を通じてオイルパン22に貯留された潤滑油を被潤滑部に供給する。尚、内燃機関10の被潤滑部に供給されて潤滑に供された潤滑油は、内燃機関10の内部を伝い落ちて内燃機関10の下部に取り付けられたオイルパン22に再び貯留されるようになっている。
図1に示されるように供給通路21におけるポンプ20よりも下流側の部分には、リリーフ弁30が設けられている。このリリーフ弁30には、供給通路21におけるポンプ20よりも上流側の部位に接続する還流通路23が接続されている。
これにより、供給通路21内の潤滑油の油圧がリリーフ圧以上になったときには、リリーフ弁30が開弁し、供給通路21内の潤滑油の一部が、還流通路23を通じて供給通路21におけるポンプ20よりも上流側の部位に還流されるようになっている。
リリーフ弁30は、後述するように、油圧切替え弁40を制御することによってリリーフ圧を2段階に変更することができるように構成されている。尚、油圧切替え弁40は、内燃機関10を統括的に制御する電子制御装置100からの駆動指令に基づいて駆動される。
電子制御装置100は、内燃機関10の制御にかかる演算処理や、油圧切替え弁40の制御を通じた潤滑油の油圧制御にかかる演算処理等を実行する中央演算処理装置(CPU)を備えている。また、電子制御装置100は、演算処理のための演算プログラムや演算マップ、そして各種のデータが記憶された読み出し専用メモリ(ROM)、演算の結果を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えている。
電子制御装置100には、出力軸11の回転角に基づいて機関回転速度NEを検出するクランク角センサ101、内燃機関10の内部に形成されたウォータジャケット内を循環する機関冷却水の水温TWを検出する水温センサ102が接続されている。また、電子制御装置100には、車速Vを検出する車速センサ103、内燃機関10に導入される吸入空気量GAを検出するエアフロメータ104、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルポジションセンサ105等も接続されている。
電子制御装置100は、これら各種センサ101〜105から出力される信号を取り込み、取り込まれた信号に基づいて燃料噴射量Qや点火時期の制御等にかかる各種の演算を実行するとともに、潤滑油の循環量を制御して供給通路21を通じて内燃機関10に供給される潤滑油の油圧及び循環量を制御するために油圧切替え弁40を操作する。
以下、本実施形態にかかる潤滑油供給システムにおけるリリーフ弁30の構成並びに動作について図2及び図3を参照して更に詳しく説明する。尚、図2及び図3は本実施形態にかかる潤滑油供給システムにおけるリリーフ弁30の構成を示す模式図であり、図2はリリーフ弁30が高リリーフ圧状態にあるときの状態を示しており、図3はリリーフ弁30が低リリーフ圧状態にあるときの状態を示している。
上述したように供給通路21におけるポンプ20よりも下流側の部分には、リリーフ弁30が設けられている。図2に示されるようにリリーフ弁30にあっては、そのハウジング内に、円筒状のスリーブ31が軸方向に摺動可能に収容されている。そして、このスリーブ31の径方向の側壁には、同側壁を貫通するリリーフポート32が形成されている。また、スリーブ31の内部には、このリリーフポート32を開閉するようにスリーブ31の軸方向、すなわち図2における上下方向に摺動可能に有底円筒状の弁体35が収容されている。
リリーフ弁30のハウジングの図2における下方の底面には支持部材37が固定されている。そして、この支持部材37と弁体35との間には圧縮されたスプリング36が収容されている。これにより、弁体35は、スプリング36によって図2における上方、すなわちリリーフポート32を閉塞する方向に常に付勢されている。
これにより、リリーフ弁30にあっては、供給通路21を流れる潤滑油の油圧が増大して弁体35に作用する油圧が増大したときに、矢印で示されるように弁体35がスプリング36の付勢力に抗して図2における下方に変位し、リリーフポート32が開口するようになっている。
図2の右側に示されるようにリリーフポート32は、還流通路23内に開口するように形成されている。そのため、弁体35が開弁位置、すなわちリリーフポート32が開口される位置まで変位することにより、リリーフポート32を介して供給通路21と還流通路23とが連通されるようになる。
そして、こうしてリリーフポート32を介して供給通路21と還流通路23とが連通されると、供給通路21を流れる潤滑油の一部が還流通路23を通じてポンプ20の上流側に還流されるようになる。
要するに、このリリーフ弁30にあっては、スプリング36の付勢力の大きさによってリリーフ圧が決定されている。すなわち、供給通路21を流れる潤滑油が弁体35を図2における下方に付勢する付勢力が、スプリング36の付勢力よりも大きくなったときにリリーフポート32が開口されて供給通路21を流れる潤滑油の一部がポンプ20の上流側に還流されるようになる。
図2の下方に示されるようにスリーブ31の底面31aと、支持部材37が固定されているハウジングの底面との間には背圧室38が形成されている。この背圧室38には、供給通路21を流れる潤滑油の一部が分岐通路41及び背圧通路42を通じて導かれるようになっている。
上述したようにスリーブ31は、リリーフ弁30のハウジング内において、その軸方向に摺動可能に支持されている。これにより、このリリーフ弁30にあっては、スリーブ31の底面31aに作用する油圧に起因して同スリーブ31を図2における上方へ付勢する付勢力と、頂面31bに作用する油圧に起因して同スリーブ31を下方へ付勢する力との大小関係に応じて、スリーブ31がハウジング内で上下方向に変位するようになっている。
尚、スリーブ31は、背圧室38内の油圧が作用する底面31aの面積が、供給通路21を流れる潤滑油の油圧が作用する頂面31bの面積よりも大きくなるようにその形状が設計されている。そのため、背圧室38が分岐通路41及び背圧通路42を通じて供給通路21と連通され、スリーブ31の底面31a及び頂面31bに等しい油圧が作用するようになったときには、底面31aの受圧面積が頂面31bの受圧面積よりも大きい分だけスリーブ31を上方に付勢する力が大きくなる。
その結果、スリーブ31が上方に変位し、図3に示されるようにハウジング内の上方に位置するようになる。
図2の左側に示されるように供給通路21に接続されている分岐通路41と、背圧室38に接続されている背圧通路42との間には油圧切替え弁40が設けられている。この油圧切替え弁40には、更にドレン通路43が接続されており、油圧切替え弁40は、図3に示されるように分岐通路41と背圧通路42とを連通する状態と、図2に示されるように背圧通路42とドレン通路43とを連通する状態とを切替えることができるようになっている。
ドレン通路43は供給通路21におけるポンプ20よりも上流側の部位に接続されており、油圧切替え弁40が背圧通路42とドレン通路43とを連通する状態に切替えられているときに背圧室38内の潤滑油を供給通路21におけるポンプ20よりも上流側の部分に還流させる。
本実施形態の潤滑油供給システムにあっては、油圧切替え弁40を操作することにより、背圧室38内の油圧を制御し、ハウジング内におけるスリーブ31の位置を変更することによってリリーフ圧を変更する。
具体的には、図3に示されるように分岐通路41と背圧通路42とを連通するように油圧切替え弁40を操作し、供給通路21内の潤滑油の一部を背圧室38に導入するようにした場合には、スリーブ31の底面31aに供給通路21内の潤滑油の油圧と等しい油圧が作用するようになる。
その結果、スリーブ31の底面31aに作用する油圧に起因してスリーブ31を図3における上方に付勢する力が、スリーブ31の頂面31bに作用する油圧に起因してスリーブ31を図3における下方に付勢する力よりも大きくなり、スリーブ31が上方に変位して図3に示されるようにリリーフ弁30のハウジングにおける上方に位置するようになる。
一方で、図2に示されるように背圧通路42とドレン通路43とを連通するように油圧切替え弁40を操作した場合には、背圧室38内の潤滑油がドレン通路43を通じて供給通路21におけるポンプ20よりも上流側の部分に還流されるようになり、背圧室38内の油圧が低下する。
その結果、スリーブ31の頂面31bに作用する油圧に起因してスリーブ31を図2における下方に付勢する力が、スリーブ31の底面31aに作用する油圧に起因してスリーブ31を図2における上方に付勢する力よりも大きくなり、スリーブ31が下方に変位して図2に示されるようにリリーフ弁30のハウジングにおける下方に位置するようになる。
このようにスリーブ31がハウジング内において下方に位置している場合には、スリーブ31が図3に示されるように上方に位置している場合よりも、弁体35を開弁位置までにさせたときのスプリング36の圧縮量が多くなる。すなわち、このときには、スリーブ31が上方に位置している場合と比較して弁体35がスプリング36から受ける付勢力が大きくなり、リリーフポート32が開口するときの供給通路21内の潤滑油の油圧、すなわちリリーフ圧が高くなる。
一方で、図3に示されるようにスリーブ31がハウジング内において上方に位置している場合には、スリーブ31が下方に位置している場合よりも、弁体35を開弁位置まで変位させたときのスプリング36の圧縮量が少なくなる。すなわち、このときには、スリーブ31が下方に位置している場合と比較して弁体35がスプリング36から受ける付勢力が小さくなり、リリーフ圧が低くなる。
このように本実施形態の潤滑油供給システムによれば、油圧切替え弁40を操作して背圧室38内の油圧を制御し、スリーブ31をスプリング36の伸縮方向に変位させることにより、リリーフ圧が高くなる高リリーフ圧状態(図2に示される状態)と、リリーフ圧が低くなる低リリーフ圧状態(図3に示される状態)とを切替えることができる。
本実施形態の潤滑油供給システムにあっては、機関冷却水の水温TW等に基づいて内燃機関10における潤滑油の需要の大きさを推定し、潤滑油の需要がそれほど大きくないときには、油圧切替え弁40を操作して低リリーフ圧状態に切替える低圧制御を実行するようにしている。
このように潤滑油の需要が小さいときに、低リリーフ圧状態に切替えて供給通路21内を流れる潤滑油の油圧を低下させる低圧制御を実行すれば、潤滑油の循環量を制限し、内燃機関10に作用するポンプ20の駆動負荷を低減して内燃機関10の燃料消費量を抑制することができるようになる。すなわち、必要な量に合わせて潤滑油の循環量を制限し、必要以上に潤滑油を圧送することによるポンプ20の余分な駆動を抑制して、燃料を節約することができるようになる。
また、内燃機関10の暖機が完了していない機関冷間時に、このように低リリーフ圧状態とする低圧制御を実行することにより、機関各部の冷却に供される潤滑油の循環量が低減されて機関各部の温度が内燃機関10の燃焼熱によって速やかに上昇するようになり、暖機の早期完了を図ることもできるようになる。
ところで、供給通路21内の潤滑油は、機関停止中に供給通路21から流れ出てしまう。そのため、機関始動時には、供給通路21内の潤滑油が抜けてしまっていることが多い。
このように供給通路21内に潤滑油が充填されていないときに、低圧制御が実行されて潤滑油の循環量が制限された場合には、潤滑油が供給通路21の末端までなかなか行き渡らなくなってしまい、被潤滑部の一部で潤滑油の供給不足が生じてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態の潤滑油供給システムにあっては、機関始動直後に一時的に低圧制御の実行を禁止する始動時油圧制御を実行するようにしている。以下、図4〜7を参照して本実施形態にかかる潤滑油供給システムにおける潤滑油の油圧制御について説明する。
尚、図4は機関始動時に実行される始動時油圧制御にかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。この始動時油圧制御は、機関始動がなされる度に電子制御装置100によって実行される。
図4に示されるようにこの始動時油圧制御を実行すると、電子制御装置100は、まずステップS100において、機関始動が開始されたときの機関冷却水の水温TWである始動時水温TWstを参照し、この始動時水温TWstに基づいて第1の判定値Xを設定する。尚、第1の判定値Xは、図5に示されるように、始動時水温TWstが低いときほど大きな値に設定される。
こうして始動時水温TWstに基づいて第1の判定値Xを設定すると、ステップS110へと進み、電子制御装置100は内燃機関10の内部を循環する潤滑油の油温を推定するために、内燃機関10のピストンの温度の代替値であるピストン温度推定値Aを算出する。
ここで、潤滑油の油温を推定するために、ピストン温度推定値Aを算出するのは、ピストンは潤滑油によって潤滑及び冷却されており、ピストンの温度と潤滑油の温度が高い相関を有しているからである。
尚、ピストン温度推定値Aは、内燃機関10における燃焼による発熱量と、機関冷却水並びに走行風による冷却よって奪われる熱量とを機関回転速度NE、燃料噴射量Q、車速V、水温TWに基づいて推定することによって算出される。
具体的には、ピストン温度推定値Aは、下記の数式に示されるような関係を利用して算出される。
上記の数式における始動時水温TWstを変数とする関数f(TWst)は機関始動時のピストン温度を示す関数である。すなわち、機関始動時の機関温度並びにピストンの温度は始動時水温TWstと略等しい温度になっていることが推定されるため、ここでは始動時水温TWstに基づいて機関始動時のピストンの温度を推定するようにしている。
そして、上記の数式における機関回転速度NEと燃料噴射量Qとを変数とする関数f(NE,Q)は内燃機関10における燃焼による発熱に起因する温度変化を示す関数であり、車速Vを変数とする関数f(V)は走行風による冷却に起因する温度変化を示す関数である。また上記の数式における水温TWを変数とする関数f(TW)は、機関冷却水による冷却に起因する温度変化を示す関数である。
そのため、上記の数式に示されるこれらの関数f(NE,Q),f(V),f(TW)の積分値は、ピストンの温度の変化量であり、上記の数式に示され関係を利用することにより、機関始動時のピストンの温度を示す値とピストンの温度の変化量とを加算してピストン温度推定値Aを算出することができるようになる。
尚、内燃機関10における燃焼に起因する発熱量は、機関回転速度NEが高く、単位時間当りの燃焼行程の回数が多いときほど高くなるとともに、燃料噴射量Qが多く、1回の燃焼行程において燃焼に供される燃料の量が多いときほど高くなる。そのため、上記の数式における関数f(NE,Q)により算出される値は機関回転速度NEが高いときほど、また燃料噴射量Qが多いときほど大きな値になる。
また、走行風による冷却効果は、車速Vが高く、より多くの空気がエンジンルーム内に導入されるときほど大きくなる。そのため、上記の数式における関数f(NE)により算出される値は車速Vが速いときほど、大きな値になる。
そして、機関冷却水による冷却効果は、水温TWが低いときほど大きくなる。そのため、上記の数式におけるf(TW)により算出される値は水温TWが低いときほど、大きな値になる。
尚、上記の数式における各関数の内容は、各パラメータ(機関回転速度NE,燃料噴射量Q,車速V,水温TW)に基づいて内燃機関10のピストンの温度を的確に推定することができるように、予め行う実験やシミュレーションの結果に基づいて設定されるものである。
ステップS110を通じてピストン温度推定値Aを算出すると、ステップS120へと進み、電子制御装置100は算出されたピストン温度推定値Aが第1の判定値X未満であるか否かを判定する。
そして、ステップS120において、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X未満である旨の判定がなされた場合(ステップS120:YES)には、ステップS130へと進み、低圧制御の実行を禁止する。
こうして低圧制御の実行が禁止されると、油圧切替え弁40が図2に示されるように背圧通路42とドレン通路43とを連通する状態に保持されて潤滑油供給システムが高リリーフ圧状態に保持される。
このように、ステップS130を通じて低圧制御の実行が禁止された場合には、ステップS110へと戻り、電子制御装置100はそのときの機関回転速度NE,燃料噴射量Q,車速V,水温TWに基づいて再びピストン温度推定値Aを算出する。
一方、ステップS120において、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上である旨の判定がなされた場合(ステップS120:NO)には、ステップS140へと進み、電子制御装置100は、低圧制御の実行の禁止を解除し、低圧制御の実行を許可する。
すなわち、この始動時油圧制御にあっては、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になるまでピストン温度推定値Aを繰り返し算出し、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X未満の間は低圧制御の実行を禁止する。そして、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になったときに低圧制御の実行を許可する。
尚、第1の判定値Xは、上述したように始動時水温TWstが低いときほど大きな値になるように設定されているが、始動時水温TWstに基づいて決まるそれぞれの値の大きさは、ピストン温度推定値Aが同第1の判定値X以上まで増大したことに基づいて潤滑油が供給通路21の末端に行き渡るまで高リリーフ圧状態における潤滑油の循環が継続されたことを判定することができるように、予め行う実験やシミュレーションの結果に基づいて設定されている。
これにより、この始動時油圧制御を通じてピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になるまで低圧制御の実行を禁止することにより、供給通路21の末端に潤滑油が行き渡るようになるまでの間、高リリーフ圧状態を継続させることができるようになっている。
ステップS140において、低圧制御の実行を許可すると、電子制御装置100はこの始動時油圧制御を終了し、図6に示される油圧切替え制御を開始する。尚、図6は油圧切替え制御にかかる一連の処理の流れを示すフローチャートである。
この油圧切替え制御は、始動時油圧制御を通じて低圧制御の実行が許可されたことを条件に、電子制御装置100によって所定の制御周期で繰り返し実行される。
図6に示されるようにこの油圧切替え制御を開始すると、電子制御装置100は、まずステップS200において水温TWが上限温度TWlim未満であるか否かを判定する。
尚、上限温度TWlimは、水温TWがこの上限温度TWlim以上になった場合に、それに基づいて内燃機関10に熱による損傷が生じたり、機関冷却水が沸騰してしまったりする水準まで機関冷却水及び内燃機関10の温度が上昇してしまう可能性が高いことを判定することができるように、その大きさが設定されている。
ステップS200において、水温TWが上限温度TWlim以上である旨の判定がなされた場合(ステップS200:NO)には、ステップS250へと進み、電子制御装置100は低圧制御を実行せずに、潤滑油供給システムを高リリーフ圧状態にすることにより、潤滑油の供給量を増大させ、機関各部を冷却する。
ステップS250を通じて潤滑油供給システムを高リリーフ圧状態にすると、電子制御装置100はこの処理を一旦終了する。
一方、ステップS200において水温TWが上限温度TWlim未満である旨の判定がなされた場合(ステップS200:YES)には、ステップS210へと進み、電子制御装置100は水温センサ102によって検出されている水温TWを参照し、水温TWに基づいて第2の判定値Yを設定する。
尚、第2の判定値Yは図7に示されるように水温TWが低いほど大きな値に設定される。
こうして水温TWに基づいて第2の判定値Yを設定すると、ステップS220へと進み、電子制御装置100は機関温度を推定するために、始動時油圧制御におけるステップS110と同様にピストン温度推定値Aを算出する。
ここで、機関温度を推定するために、ピストン温度推定値Aを算出するのは、ピストンが、内燃機関10における燃焼によって発生する熱の影響を受けやすく、内燃機関10を構成する部品の中でも特に潤滑油の循環量を制御することによる温度管理の重要性が高い部品であるからである。
ステップS220を通じてピストン温度推定値Aを算出すると、ステップS230へと進み、電子制御装置100は算出されたピストン温度推定値Aが第2の判定値Y未満であるか否かを判定する。
そして、ステップS230において、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Y未満である旨の判定がなされた場合(ステップS230:YES)には、ステップS240へと進み、電子制御装置100は油圧切替え弁40を分岐通路41と背圧通路42とを連通する状態に切替えて低圧制御を実行する。
こうして低圧制御を実行すると電子制御装置100はこの油圧切替え制御を一旦終了する。
一方、ステップS230において、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Y以上である旨の判定がなされた場合(ステップS230:NO)には、ステップS250へと進み、電子制御装置100は油圧切替え弁40を背圧通路42とドレン通路43とを連通する状態に切替えて、油圧供給システムを高リリーフ圧状態にする。
尚、第2の判定値Yは、上述したように水温TWが低いときほど大きな値になるように設定されているが、水温TWに基づいて決まるそれぞれの値の大きさは、ピストン温度推定値Aが同第2の判定値Y以上まで増大したことに基づいてピストンの温度が過剰に上昇し、熱による損傷が生じるおそれのある水準に近づいていることを判定することができるように、予め行う実験やシミュレーションの結果に基づいて設定されている。
このように本実施形態の潤滑油供給システムにあっては、機関始動直後には、始動時油圧制御を通じてピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になるまで低圧制御の実行が禁止されるようになる。
これにより、図5に示されるように、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X未満のときには、供給通路21内の油圧が比較的高い状態に保持された状態で潤滑油が供給されるようになる。
例えば、図5に示されるように始動時水温TWstが「T1」である場合には、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X未満のときには、低圧制御の実行が禁止されて供給通路21内の油圧が比較的高い圧力に保持された状態が継続する。そして、図5に矢印で示されるように機関運転に伴ってピストン温度推定値Aが大きくなり、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になると低圧制御の実行が許可されて低圧制御が実行され、供給通路21内の油圧が低減されるようになる。
そして、始動時油圧制御を通じて低圧制御の実行が許可されたあとは、油圧切替え制御を通じてピストン温度推定値Aと第2の判定値Yとの大小関係に応じて油圧切替え弁40が制御されるようになる。
これにより、図7に示されるように、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Y未満のときには低圧制御が実行され、供給通路21内の油圧が低い状態に保持される一方、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Y以上のときには低圧制御が停止され、供給通路21内の油圧が高い状態に保持されるようになる。
尚、油圧切替え制御にあっては、ステップS200において水温TWが上限温度TWlim未満であるか否かを判定し、水温TWが上限温度TWlim以上であるときには、低圧制御を実行しないようにしている。そのため、図7に示されるように水温TWが上限温度TWlim以上のときには、ピストン温度推定値Aの大きさに拘らず、常に供給通路21内の油圧が高い状態に保持されるようになる。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)ピストン温度推定値Aが、始動時水温TWstに基づいて設定された第1の判定値X以上になるまでの間、低圧制御の実行が禁止されるようになるため、機関始動直後には低圧制御が実行されず、循環量が制限されずに潤滑油が循環されるようになる。そのため、機関始動直後は、供給通路21内の潤滑油の油圧が、低圧制御を実行した場合と比較して高い状態に保持されるようになる。その結果、機関停止中に供給通路21内の潤滑油が流れ出してしまい、供給通路21内に潤滑油が残っていないような状況下で機関始動がなされた場合であっても、供給通路21の末端まで速やかに潤滑油を行き渡らせることができるようになる。
尚、始動時水温TWstが低いとき、すなわち、機関始動時の機関温度が低く、潤滑油の温度が低くなっていることが推定されるときには、潤滑油の粘度が高くなっていることが推定される。潤滑油の粘度が高い場合には、供給通路21の末端まで潤滑油を到達させるためには高い油圧でより長い期間に亘って潤滑油を圧送する必要がある。この点、上記実施形態にあっては、始動時水温TWstに基づいて第1の判定値Xを設定するとともに、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になるまでの間、低圧制御の実行を禁止するようにしている。そのため、潤滑油の温度が低く、潤滑油の粘度が高いことが推定されるときには、低圧制御の実行を禁止して潤滑油の油圧を高い状態に保持する期間を長くすることができる。
したがって、潤滑油の粘度に合わせて低圧制御の実行を禁止する期間の長さを調整することができ、必要以上に長い期間に亘って低圧制御の実行を禁止してしまうことや、供給通路21の末端まで潤滑油を行き渡らせることができていないにも拘らず低圧制御が開始されてしまうようになることを好適に抑制することができるようになる。
すなわち、内燃機関10に作用するポンプ20の駆動負荷を極力低減して内燃機関10の燃料消費量を抑制する一方で、機関始動時に潤滑油の供給不足が発生してしまうことを抑制することができるようになる。
(2)始動時水温TWstが低いときほど、第1の判定値Xを大きな値に設定するようにしているため、潤滑油の温度が低く、潤滑油の粘度が高いことが推定されるときほど、低圧制御の実行を禁止する期間が長くなる。すなわち、潤滑油の温度が低く、供給通路21の末端まで潤滑油を到達させるために高い油圧でより長い期間に亘って潤滑油を圧送する必要があるときには、それにあわせて低圧制御の実行を禁止する期間を長くすることができる。
(3)潤滑油の循環量を低減させる低圧制御を実行すれば、ポンプ20の駆動負荷を低減することができるため、内燃機関10の燃料消費量を抑制することができる。しかし、潤滑油の循環量を制限したことにより、機関温度が過剰に上昇してしまった場合には、機関各部が熱による損傷を受けることになり、内燃機関10の耐久性が著しく低下してしまうこととなる。
これに対して、上記実施形態にあっては、ピストン温度推定値Aが第1の判定値X以上になって低圧制御の実行が許可されたあと、ピストン温度推定値Aに基づく油圧切替え制御が実行されるようになり、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Y以上になったときには、低圧制御の実行が禁止されるようになる。そのため、機関温度が過剰に高くなる前に低圧制御の実行を停止して潤滑油の循環量の制限を解除し、潤滑油の循環量を増大させることができるようになり、機関温度が過剰に高くなることを好適に抑制することができるようになる。
尚、水温TWが低く機関冷却水が循環することによって効果的に機関温度の上昇を抑制することができる状態にあることが推定される場合には、低圧制御を実行して潤滑油の循環量を制限し続けたとしても、機関各部に熱による損傷が生じる可能性が低いことが推定される。
これに対して、上記実施形態にあっては、低圧制御の実行可否を決定するための判定値である第2の判定値Yを水温TWに基づいて設定するようにしているため、熱による損傷が生じる可能性の大きさに即したかたちで低圧制御の実行可否を決定することができる。
(4)水温TWが低いときほど、第2の判定値Yを大きな値に設定するようにしているため、機関温度の過剰な上昇を抑制しつつ、低圧制御の実行期間を極力長くして好適に内燃機関10の燃料消費量を抑制することができる。
(5)車速Vが高くなるほど、車両の走行に伴ってエンジンルーム内に導入される走行風の量が多くなるため、車速Vが高いときほど走行風による冷却効果が高くなり、機関温度並びにピストンの温度は上昇し難くなる。
上記実施形態にあっては、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qに基づいて内燃機関10における燃焼による発熱量を推定するとともに、車速Vを参照してピストン温度推定値Aを算出するようにしている。そのため、車速Vの変化に伴う冷却効果の変化を加味した上でピストン温度推定値Aを算出することができ、より的確にピストンの温度の変化を推定することができる。
(6)また、水温TWが低いときほど、機関冷却水による冷却効果が高くなり、機関温度並びにピストンの温度は上昇し難くなる。そこで、上記実施形態にあっては、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qに基づいて内燃機関10における燃焼による発熱量を推定するとともに、水温TWを参照してピストン温度推定値Aを算出するようにしている。そのため、水温TWの変化に伴う冷却効果の変化を加味した上でピストン温度推定値Aを算出することができ、より的確にピストンの温度の変化を推定することができる。
(7)上記実施形態のように、ピストンの温度の代替値であるピストン温度推定値Aに基づいて低圧制御の実行可否を決定するようにした場合には、内燃機関10のその他の部位の温度が過剰に上昇している場合であっても、ピストンの温度が過剰に上昇していない場合には、低圧制御が引き続き継続されることとなる。その結果、機関冷却水が沸騰してしまったり、ピストン以外の部分で熱による損傷が発生してしまったりするおそれがある。これに対して、上記実施形態にあっては、上限温度TWlimを設定し、水温TWが上限温度TWlim以上になった場合には、ピストン温度推定値Aの大きさに拘らず、低圧制御の実行を禁止するようにしている。
そのため、ピストンの温度が低く、ピストン温度推定値Aが第2の判定値Yよりも小さい場合であっても、水温TWが上限温度TWlimまで上昇したときには、低圧制御の実行が禁止されて潤滑油の循環量が増大されるようになり、内燃機関10の温度及び水温TWの上昇が抑制されるようになる。
これにより、機関冷却水が沸騰してしまったり、ピストン以外の部分で熱による損傷が発生してしまったりすることを抑制することができる。
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・油温推定値算出手段としてステップS110において油温を推定するためにピストン温度推定値A算出するとともに、機関温度推定値算出手段としてステップS220において機関温度を推定するためにピストン温度推定値Aを算出する構成を示した。これに対して、油温の代替値と機関温度の代替値とをそれぞれ別々に算出して始動時油圧制御及び油圧切替え制御を実行するようにしてもよい。
すなわち、ステップS110において油温の代替値として油温推定値を算出し、ステップS120においてその油温推定値が第1の判定値X未満であるか否かを判定して、その結果に基づいて低圧制御の実行可否を決定する構成を採用することもできる。
また、ステップS220において機関温度の代替値として機関温度推定値を算出し、ステップS230においてその機関温度推定値が第2の判定値Y未満であるか否かを判定して、その結果に基づいて低圧制御を実行する構成を採用することもできる。
尚、油温推定値や機関温度推定値を算出する場合には、上述したピストン温度推定値Aの算出方法と同様に、燃焼による発熱量と冷却によって奪われる熱量とに基づく内燃機関10における熱収支に基づいて油温推定値や、機関温度推定値を算出する構成を採用することが望ましい。
・ピストン温度推定値A、油温推定値、機関温度推定値の具体的な算出方法は、上記実施形態において示した方法に限定されるものではない。すなわち、これらの推定値の算出方法は適宜変更することができる。
・上記実施形態にあっては、低圧制御としてリリーフ弁30のリリーフ圧を低下させることにより潤滑油の循環量を低減させる構成を示した。
これに対して、特許文献1に記載されているようにメインポンプに加えてサブポンプを設け、メインポンプではなくサブポンプを駆動することによって潤滑油の循環量を低減させることにより、低圧制御を実行する潤滑油供給システムの制御装置として本発明を適用することもできる。