JP2011202254A - 溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】
CO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器に用いられる貯湯槽に用いられるフェライト系ステンレス鋼に関し、貯湯槽の胴板と鏡板をTIG溶接やシーム溶接で接合される際にArバックガスシールを省略しても溶接部の耐隙間腐食性に優れた材料を提供する。
【解決手段】
CO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器などの貯湯槽を構成するフェライト系ステンレス鋼が質量%で、C:0.02%以下、Si:3.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:0.2〜3.0%、Cr:20〜30%、Mo:3.0%以下、N:0.03%以下、Ti:0.05〜0.4%、Nb:0.05〜0.6%、Al:0.02〜0.5%、Ca:0.0010%以下を含有し、あるいはさらにCu:0.1〜3.0%ならびにB:0.0003〜0.005%、W:0.01〜0.5%のいずれか1種あるいは2種以上を含有し残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
Description
本発明は、CO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器に用いられるTIG溶接などにより施工される溶接構造体において、Arバックガスシールを使用しないでも溶接隙間部の耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼に関する。
CO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器に用いられる貯湯槽などは胴板と鏡板と呼ばれる加工板をTIG溶接により接合される溶接構造体である。それらの溶接構造体を上水の温水環境で使用すると、溶接隙間部で腐食が生じやすい。これらの温水用溶接構造体用の材料としてフェライト系ステンレス鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられてきた。SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。しかし、溶接接合部で隙間腐食を起コスト、板厚を貫通して漏水に至ることもある。
このため、温水容器では腐食しやすい隙間構造の形成をできるだけ避けることが望ましい。しかし、鏡と胴の溶接接合部など、施工上、隙間の形成を回避することが難しい部位もある。耐食性の観点から、隙間腐食を防止するため隙間構造を避けた突き合わせ溶接が好ましいが、溶接が難しく、強度も得られにくい。
近年におけるCO2冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器などの貯湯容器には使用水圧の上昇により、耐圧性が要求されており、溶接構造体としての強度を得るためには重ね溶接により溶着部をしっかり確保する必要がある。その場合に胴板と鏡板で溶接隙間ができる。温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、一般にArバックガスシールを行って裏ビード側の酸化を抑制する対策が採られている。ところが、電気温水器では追い焚き機能のニース゛が高まり、蛇管を内部に装入した構造の缶体が増えてきた。この場合、溶接時にArバックガスシールを行うためのノズルを缶体内部に挿入することが難しくなり、バックガスシールなしのTIG溶接を採用せざるを得ないケースが増え、耐食性低下に対する不安要因となっている。CO2冷媒ヒートポンプ給湯器ではヒーター加熱を行わないので、ヒーター挿入のためのフランジは本来不要であるが、TIG溶接時のバックガスシール用ノズルを挿入するためにはフランジが省略できないなど、コストアップに繋がる問題が生じる。また、温水機器の使用環境によっては硬度の高い上水を使用する場合があり、腐食環境が厳しくなっている。
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし、隙間腐食の発生を避けた構造の温水器用ステンレス鋼製缶体が記載されている。鋼種としてはSUS444相当鋼が採用されている。しかし、発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接ビードから概ね10mm程度の範囲であり、上記構造では安定した耐食性向上効果が十分に得られない場合がある。また、このSUS444相当鋼をArバックガスシールを行わないTIG溶接に供すると、裏ビード部での酸化スケールの生成部分では著しい耐食性低下が生じることが予想される。
特許文献2にはTiとAlを複合添加することにより溶接時のCr酸化ロスを抑制し、溶接部での耐食性低下を改善したフェライト系ステンレス鋼が記載されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、この鋼の場合も、Arバックガスシールを行わないTIG溶接ではCrの酸化ロスを十分に抑制することはできず、溶接隙間部の耐食性の大幅な低下は避けられない。
特許文献3には、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接部の耐食性向上として21質量%を超えるCr含有量を確保し、Ni,Cuの添加でTIG溶接裏面熱影響部の耐食性を大きく改善する鋼を提案されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、隙間構造やNi量によっては十分なTIG溶接隙間部の耐食性改善効果が得られないことがあった。
上述のように、昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックガスシールを実施しにくい構造のものが増えている。一方で、製造コスト低減等の要請から溶接部に隙間を形成しないような構造の温水容器を設計することも難しい状況にある。本発明は、このような現状に鑑み、Arバックガスシールを行わないTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築したときに、どのような隙間構造であっても溶接ままの状態で上水を使用した温水環境において優れた耐食性を呈するフェライト系ステンレス鋼を開発し提供することを目的とする。
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、最も溶接隙間腐食の起こりやすい隙間部の表面に生成する酸化スケールを制御することによりArバックガスシールを行わないTIG溶接においても耐隙間腐食性を維持することができることがわかった。さらに溶接隙間の耐食性は、溶接隙間構造内部の溶接スケールに依存する。しかし、母材にCaSが多量に存在している場合、CaSが表面に露出している部分では十分な溶接スケールが形成されない。また、CaSは水溶性であり、温水器使用環境において容易に溶解する。これらの結果、CaSが存在していた部分で熱影響を受けた母材が露出し、そこを起点として隙間腐食が発生する。そのために本発明は、母材成分の最適化によりCaSの形成を抑制し、溶接部の耐食性を改善したフェライト系ステンレス鋼を提供するものである。
本発明の構成を具体的に示す。
請求項1に記載の発明は、質量%で、C:0.02%以下、Si:3.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:0.2〜3.0%、Cr:20〜30%、Mo:3.0%以下、N:0.03%以下、Ti:0.05〜0.4%、Nb:0.05〜0.6%、Al:0.02〜0.5%、Ca:0.0010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
請求項1に記載の発明は、質量%で、C:0.02%以下、Si:3.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:0.2〜3.0%、Cr:20〜30%、Mo:3.0%以下、N:0.03%以下、Ti:0.05〜0.4%、Nb:0.05〜0.6%、Al:0.02〜0.5%、Ca:0.0010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
請求項2に記載の発明は、更に質量%でCu:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.005%、W:0.01〜0.5%のいずれか1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼である。
本発明の溶接構造体を使用すると、溶接作業性が容易となり、作業性も向上するとともに温水環境における溶接部の耐食性が顕著に改善される。すなわち温水容器をTIG溶接により製造する際に、Arバックガスシールを省略しても高い信頼性が得られる。したがって本発明によれば、高耐食性が要求される上水環境での温水容器において設計自由度の拡大が可能になる。また、CO2冷媒ヒートポンプ給湯器の温水缶体ではバックガスシールのためのフランジが不要になり、コスト低減が可能になる。
本発明の溶接構造体を構成する成分元素について説明する。
C:0.02質量%以下,N:0.03質量%以下
C、Nは鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.03質量%まで含有が許容される。
C:0.02質量%以下,N:0.03質量%以下
C、Nは鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.03質量%まで含有が許容される。
Si:3.0質量%以下
SiはArガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。このため、耐食性の点ではSi含有量は低い方が好ましく、本発明では3.0質量%以下に規定する。
SiはArガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。このため、耐食性の点ではSi含有量は低い方が好ましく、本発明では3.0質量%以下に規定する。
Mn:1.0質量%以下
Mnはステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、Mn含有量は低い方が好ましく、1.0質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
Mnはステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、Mn含有量は低い方が好ましく、1.0質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
P:0.04質量%以下
Pは母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱Pは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
Pは母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱Pは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
S:0.003質量%以下、Ca:0.0010質量%以下
Sは孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明ではSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を生成するTiを必須添加するので、MnSの生成はあまり問題とならない。Caはノズル閉塞の防止等のために鋳造時にCaSiワイヤとして添加されることがあるが、Caが多量に存在するとCaSが生成され、CaSが表面に露出している部分では十分な溶接スケールが形成されない。また、CaSは水溶性であり、温水器使用環境において容易に溶解する。これらの結果、CaSが存在していた部分で熱影響を受けた母材が露出し、そこを起点として隙間腐食が発生する。また硬水など使用水にCaを多量に含む場合には白スケールとなってCaSが存在した部分にCaが析出するため析出物と隙間構造を形成し、局部的に隙間腐食環境を形成する。したがって、SやCaの含有量が低いほど溶接部の耐食性には有利であり、S含有量は0.003質量%以下、Ca:0.0010%以下に規定する。
Sは孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明ではSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を生成するTiを必須添加するので、MnSの生成はあまり問題とならない。Caはノズル閉塞の防止等のために鋳造時にCaSiワイヤとして添加されることがあるが、Caが多量に存在するとCaSが生成され、CaSが表面に露出している部分では十分な溶接スケールが形成されない。また、CaSは水溶性であり、温水器使用環境において容易に溶解する。これらの結果、CaSが存在していた部分で熱影響を受けた母材が露出し、そこを起点として隙間腐食が発生する。また硬水など使用水にCaを多量に含む場合には白スケールとなってCaSが存在した部分にCaが析出するため析出物と隙間構造を形成し、局部的に隙間腐食環境を形成する。したがって、SやCaの含有量が低いほど溶接部の耐食性には有利であり、S含有量は0.003質量%以下、Ca:0.0010%以下に規定する。
Cr:20〜30質量%
Crは不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには20質量%以上のCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。したがって本発明ではCr含有量を20〜30質量%とする。
Crは不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには20質量%以上のCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。したがって本発明ではCr含有量を20〜30質量%とする。
Mo:0.2〜3.0質量%
MoはCrとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、3.0質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は3.0質量%以下とする。
MoはCrとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、3.0質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は3.0質量%以下とする。
Nb:0.05〜0.6質量%
NbはTiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
NbはTiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
Ti:0.4質量%以下
TiはArバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
TiはArバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
Al:0.5質量%以下
AlはTiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.5質量%以下とする。
AlはTiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.5質量%以下とする。
Ni:0.2〜3.0質量%
NiはArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCr2O3の生成量を増加しスケールの耐食性を向上させるのに重要な元素である。溶接スケール部においてはCr,Fe,Ti,Al系酸化物が形成される。Niの添加によりCrの活量を上げて、4/3Cr+O2→2/3 Cr2O3の反応を促進させるために、耐食性に弊害があるFe2O3が減少され、Cr2O3の比率の高い溶接スケールが形成できる効果があることを見出した。その効果を出すためにはNiが0.2%以上必要である。ただし多量のNi含有は鋼を硬質にして、加工性を阻害するので3.0質量%以下の範囲で行う。
NiはArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCr2O3の生成量を増加しスケールの耐食性を向上させるのに重要な元素である。溶接スケール部においてはCr,Fe,Ti,Al系酸化物が形成される。Niの添加によりCrの活量を上げて、4/3Cr+O2→2/3 Cr2O3の反応を促進させるために、耐食性に弊害があるFe2O3が減少され、Cr2O3の比率の高い溶接スケールが形成できる効果があることを見出した。その効果を出すためにはNiが0.2%以上必要である。ただし多量のNi含有は鋼を硬質にして、加工性を阻害するので3.0質量%以下の範囲で行う。
Cu:0.1〜3.0質量%
Cuは、ArバックガスシールなしのTIG突合せ溶接部の耐食性において、溶接裏面熱影響部での孔食発生を抑制し、TIG溶接隙間では隙間腐食面積を小さくするが、侵食深さについては、隙間条件にもよるが逆に侵食を深くすることがある。したがって、バックガスシールなしのTIG溶接で隙間を形成する用途ではCuは耐食性を阻害する恐れがある。このため、本発明ではCuを添加しない。さらにCuの耐隙間腐食性阻害の作用は不純物レベルであっても現れるため、必要に応じてCu含有量を0.1〜3.0%とした。
Cuは、ArバックガスシールなしのTIG突合せ溶接部の耐食性において、溶接裏面熱影響部での孔食発生を抑制し、TIG溶接隙間では隙間腐食面積を小さくするが、侵食深さについては、隙間条件にもよるが逆に侵食を深くすることがある。したがって、バックガスシールなしのTIG溶接で隙間を形成する用途ではCuは耐食性を阻害する恐れがある。このため、本発明ではCuを添加しない。さらにCuの耐隙間腐食性阻害の作用は不純物レベルであっても現れるため、必要に応じてCu含有量を0.1〜3.0%とした。
B:0.0003〜0.005質量%
Bは、二次加工性の改善のために、最も重要な元素であり、その効果は、0.0003%以上で発揮される。しかし、多量に添加すると、深絞り加工性が劣化するとともに、鋳片の割れが発生するため、上限を0.005%とした。したがって必要に応じて0.0003〜0.005%添加する。
Bは、二次加工性の改善のために、最も重要な元素であり、その効果は、0.0003%以上で発揮される。しかし、多量に添加すると、深絞り加工性が劣化するとともに、鋳片の割れが発生するため、上限を0.005%とした。したがって必要に応じて0.0003〜0.005%添加する。
W:0.01〜0.5質量%
Wは、ステンレス鋼の耐食性、耐局部腐食性を向上させる。その効果は0.01%の添加で認められ、0.5%を超えるとその効果は飽和する。したがって必要に応じて0.01〜0.5%添加する。
Wは、ステンレス鋼の耐食性、耐局部腐食性を向上させる。その効果は0.01%の添加で認められ、0.5%を超えるとその効果は飽和する。したがって必要に応じて0.01〜0.5%添加する。
実施例により本発明の具体的な効果を示す。
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000〜1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000〜1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。
各供試材について、図1に示す方法にてTIG溶接隙間を形成し、腐食試験を実施した。
溶接条件は下記のとおりであり、Arバックガスシール無しで溶接した。
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
この条件の場合、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し、裏面に約4mm幅の裏ビードが形成される。溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板を溶接部から5mm以上出るように重ね、かつ10°の角度で曲げを施した後、隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った。溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料から15×40mmの試験片を切り出した。
溶接条件は下記のとおりであり、Arバックガスシール無しで溶接した。
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
この条件の場合、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し、裏面に約4mm幅の裏ビードが形成される。溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板を溶接部から5mm以上出るように重ね、かつ10°の角度で曲げを施した後、隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った。溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料から15×40mmの試験片を切り出した。
図2に溶接隙間試験片の外観を模式的に示す。溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接ビード部、熱影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。浸漬試験は80℃の1000ppmCl−水溶液に試験片と同一の表面積を有するPt板を電気的に接続し、電位差を持たせた状態で30日間浸漬した。
表2に腐食試験後の溶接隙間部の最大侵食深さを示す。
本発明例のものは、いずれも腐食試験後の最大隙間腐食深さは0.2mm未満であったが、比較例においてはS、Caの多量添加ならびにNi、Cr、Tiなどの不足により最大隙間腐食深さはいずれも0.2mm以上であった。したがって、本発明の組成を有するフェライト系ステンレス鋼を用いて、胴板と鏡板をArバックガスシールなしで溶接しても温水缶体などの貯湯環境で優れた耐隙間腐食性を有することが期待できる。
この材料はCO2冷媒ヒートポンプ給湯器、電気温水器、定置型燃料電池、エコウィルなどに使用される温水器缶体のみでなく、溶接隙間構造を有する給油管や燃料タンクの給油系部材や燃料噴射レールならびに熱交換機部などの溶接構造体にも適用できる。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.02%以下、Si:3.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:0.2〜3.0%、Cr:20〜30%、Mo:3.0%以下、N:0.03%以下、Ti:0.05〜0.4%、Nb:0.05〜0.6%、Al:0.02〜0.5%、Ca:0.0010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
- 請求項1に記載のステンレス鋼において、更に、質量%でCu:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.005%、W:0.01〜0.5%のいずれか1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
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JP2010072612A JP2011202254A (ja) | 2010-03-26 | 2010-03-26 | 溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼 |
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JP2010072612A JP2011202254A (ja) | 2010-03-26 | 2010-03-26 | 溶接部の耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼 |
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Cited By (2)
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WO2012133681A1 (ja) | 2011-03-29 | 2012-10-04 | 新日鐵住金ステンレス株式会社 | 溶接部の耐食性及び強度に優れるフェライト系ステンレス鋼およびtig溶接構造物 |
JP6206624B1 (ja) * | 2016-03-29 | 2017-10-04 | Jfeスチール株式会社 | フェライト系ステンレス鋼板 |
-
2010
- 2010-03-26 JP JP2010072612A patent/JP2011202254A/ja not_active Withdrawn
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