JP2011182655A - プロセスチーズ類およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課 題】
耐熱保形性の高いプロセスチーズ類、およびその製造方法を提供する手段に関する。
【解決手段】
プロセスチーズ類の製造において、リン酸塩を含有し、乳化後のpHを6.0〜7.0にすることにより、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類が得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規なプロセスチーズ類およびその製造方法に関する。なお、本発明において「プロセスチーズ類」とは、プロセスチーズ、チーズフード等、乳等省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、公正競争規約の成分規格等において規定されたものの他、当該技術分野における通常の意味を有する範囲のものを全て包含する。
近年伸長している日本のチーズ市場において、プロセスチーズ類はその約半分の物量を占めている。プロセスチーズ類の製造における基本的な工程は、原料であるナチュラルチーズを粉砕し、溶融塩および水を混合する配合工程、配合された原料を加熱しながら混練・攪拌し乳化する乳化工程、および乳化工程を経たチーズを冷却・成型する冷却成型工程であり、さらに、物性や風味を付与する目的で各種食品素材や食品添加物を加えることや、最終製品の物性を調整する目的でクリーミングなどのシェアリング処理を行うこともある。
ナチュラルチーズにはないプロセスチーズ類の特徴としては、充填容器しだいでさまざまな形状の製品が製造できることが挙げられる。また、近年では、加熱溶融性、糸曳き性、耐熱保形性などの機能性を付与したプロセスチーズ類が提供されており、なかでも耐熱保形性は、さまざまな調理や業務用加工食品にプロセスチーズ類を使用するうえで、多くのユーザーが求める機能の1つである。プロセスチーズ類に耐熱保形性を付与する方法としては、原料チーズに溶融塩およびアルブミンを添加し加熱乳化する方法(特許文献1)や、原料チーズに酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉を添加し加熱乳化する方法(特許文献2)、ナチュラルチーズにグルコマンナンを添加し加熱乳化する方法(特許文献3)等が開示されている。これらの方法によって得られたプロセスチーズ類は確かに耐熱保形性を有するものであるが、アルブミンやグルコマンナンの添加により、風味や組織が悪化するという問題がある。また、1〜1500MPaの静水圧を加える方法(特許文献4)や、ナチュラルチーズに溶融塩を添加し95〜120℃に加熱溶融する方法(特許文献5)も開示されているが、これらの方法では、加熱乳化時、あるいは加熱乳化後に特殊な工程を経る必要があり、生産効率が悪化するという問題がある。なお、一般的に、加熱乳化後にクリーミングやシェアリングを行うことでプロセスチーズ類に耐熱保形性を付与できることが知られているが、過度のクリーミングやシェアリングはプロセスチーズ類の組織を硬くし、食感を悪化させるという問題がある。
ところで、プロセスチーズ類においては、その製造時に用いる溶融塩の作用により、乳中のタンパク質の一つであるカゼインの構造が変化することが知られている。
乳中においてカゼインは、カゼインサブミセルという集合体を形成しており、さらにカゼインサブミセルはコロイド状リン酸カルシウムの架橋によってカゼインミセルを形成している。乳からナチュラルチーズを製造する過程においては、酵素の作用によりカゼインミセルは親水性領域で切断され、切断されたカゼインは互いに疎水結合により凝集してパラカゼインを形成している。
プロセスチーズ類を製造する際には、溶融塩の作用により原料ナチュラルチーズ中のパラカゼインを構成するカゼインサブミセル間をつなぐコロイド状リン酸カルシウムの架橋が壊され、カゼインミセルはカゼインサブミセルの状態で可溶化し、チーズ中で分散状態となる。カゼインは乳化剤としての作用を有するため、チーズ中の水と脂肪が安定な状態となり、最終的にプロセスチーズ類となる。
近年の研究によれば、プロセスチーズの製造中に可溶化して分散したカゼインサブミセルは、乳化工程中に再重合し、元のナチュラルチーズ中とは異なる構造を形成し、再び不溶化することが明らかとなっており、また、不溶化したカゼインは乳化後の撹拌により増加していくことも明らかとなっている。(非特許文献1〜3)。
特開昭52−7465 特開平6−153791 特開平9−294538 特開平4−152841 特開平8−308492
Y. Kawasaki, Milchwissenschaft, 63, 149-152 (2008) S. K. Lee et al., Lebensm.-Wiss.-Technol., 36, 339-345 (2003) I. Heertje, Food Structure, 12, 343-364 (1993)
本発明は、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類およびその製造方法の提供を課題とする。
本発明者らは、プロセスチーズ類の耐熱保形性に影響を及ぼす因子について鋭意検討を重ねたところ、従来知られていない方法による耐熱保形性を有するプロセスチーズ類、およびその製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)pHが6.0〜7.0であり、リン酸塩を含有するプロセスチーズ類、
(2)前記リン酸塩の添加量が1〜3%であることを特徴とする(1)に記載のプロセスチーズ類、
(3)全カゼイン含量に対する不溶性カゼイン含量の割合が50%以下のプロセスチーズ類において、pHが6.0〜7.0であり、かつ、リン酸塩を含有することを特徴とするプロセスチーズ類、
(4)前記リン酸塩の添加量が1〜3%であることを特徴とする、(3)に記載のプロセスチーズ類、
(5)原料チーズにリン酸塩を1〜3%添加し、加熱乳化後のpHを6.0〜7.0に調整することを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法、
または、
(6)乳化後の撹拌時間が20分以下であることを特徴とする(5)に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
本発明により、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類が得られるとともに、そのプロセスチーズ類を製造する方法を取得できる。
以下に本発明のプロセスチーズ類を得る方法について具体的に説明する。
本発明のプロセスチーズ類の原料となるナチュラルチーズについては特に限定はなく、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、ブルーチーズ、クリームチーズ、クワルクチーズ、カッテージチーズなどが例示される。この他、バター、クリーム、脱脂粉乳、ホエー粉、バターミルク粉などの乳製品や、風味付けを目的として各種食品、香料、香辛料などを加えることについても特に制限はない。
本発明に使用できる溶融塩としては、プロセスチーズ類の製造で一般に用いられるリン酸塩であればよく、オルソリン酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩などが例示できる。これら溶融塩の使用量としては原料チーズに対し1〜3%、好ましくは1.5〜2.5%加えることが望ましい。
本発明においては、原料チーズや使用する溶融塩に応じてプロセスチーズ類のpHを調整するが、このpH調整剤についても重曹、リン酸およびリン酸塩、クエン酸や乳酸などの有機酸など、通常のプロセスチーズ類の製造で用いられるものが使用できる。なお、本発明のプロセスチーズ類では、乳化後のプロセスチーズ類のpHを6.0〜7.0の範囲とし、さらに好ましくは、6.5〜7.0の範囲とする。また、プロセスチーズ類のpHが7.0以上となると、タンパク質のマイナスチャージが強くなり、軟らかい物性となることが知られている。この現象は、耐熱保形性を低くする効果であるため、本発明においてpH7.0以上のプロセスチーズ類は好ましくない。なお、pHは、プロセスチーズ5gに水45gを加え、ホモブレンダー(日本精機製、ACEホモゲナイザー)で3分間均質化し、この均質溶液のpHをpHメーターで測定したものである。
一方、乳化剤や増粘多糖類などについても、食感を妨げない程度であれば問題なく使用することができる。また、乳化に用いる乳化機については、ケトル型乳化釜、チーズクッカー、サーモシリンダー、高速せん断式乳化機など、通常プロセスチーズ類の製造に用いられるものであれば使用可能であり、それぞれの乳化機に応じて通常のプロセスチーズ類の製造と同様の操作で製造することができる。
なお、乳化後の撹拌時間を長くするほど、プロセスチーズ類の耐熱保形性は高くなるが、撹拌時間を長くした場合には、プロセスチーズ類の組織が硬くなり、食感が悪化することから、充填適性等も鑑み、適切な撹拌時間を定めることとなる。しかし、本発明によると乳化後の撹拌を行わなくとも高い耐熱保形性を有するプロセスチーズ類を得ることができるため、耐熱保形性を付与しながらも様々な物性のプロセスチーズ類とすることが出来る。また、この他にプロセスチーズ類の耐熱保形性に影響を与える因子としては、使用する溶融塩の種類による乳化作用、クリーミング作用の違いが上げられる。このため、例えば、乳化作用、クリーミング作用が強いピロリン酸塩を用いることによってプロセスチーズ類に耐熱保形性を付与することは可能であるが、溶融塩の種類はプロセスチーズ類の風味や物性にも影響する因子である。しかしながら本発明によると、耐熱保形性を有するプロセスチーズ類を製造する上で、その配合の自由度を高めることができるものである。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
ゴーダチーズ(雪印乳業製)とチェダーチーズ(雪印乳業製)をそれぞれ1500gずつ粉砕、混合し、高速せん断式乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が45%になるように加水し、ヘキサメタリン酸ナトリウム60gを加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加え、任意のpHに調整した。乳化機の羽根の回転数を1500rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点で加温、撹拌を停止し、本発明のプロセスチーズ類を得た。なお、得られたプロセスチーズ類のpHは、pH6.1(実施例品1−1)、pH6.5(実施例品1−2)、pH6.8(実施例品1−3)、pH7.0(実施例品1−4)であった。
[比較例1]
ゴーダチーズ(雪印乳業製)とチェダーチーズ(雪印乳業製)をそれぞれ1500gずつ粉砕、混合し、高速せん断式乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が45%になるように加水し、ヘキサメタリン酸ナトリウム60gを加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加え、pHを調整した。乳化機の羽根の回転数を1500rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点で加温、撹拌を停止し、プロセスチーズ類を得た。なお、得られたプロセスチーズ類のpHは、5.7であった(比較例品1)。
[試験例1]
実施例品1−1、実施例品1−2、実施例品1−3、実施例品1−4、及び比較例品1のプロセスチーズ類を、プラスチック容器に充填し冷蔵庫で5℃まで冷却し、不溶性カゼイン含量及び耐熱保形性を測定した。この結果を表1に示す。なお、不溶性カゼイン含量、耐熱保形性は、以下の方法に従って測定した。
(1)不溶性カゼイン含量の測定
まず、得られたプロセスチーズ類中の可溶性カゼイン含量の測定方法については現代チーズ学(p222表4,食品資材研究会発行)に記載の方法に従い、以下の方法で行った。プロセスチーズ類5gに水45gを加え、ホモブレンダーで5分間均質化した後、得られた溶液を4℃において14,000Gで20分間遠心分離した。遠心分離後の溶液は、沈殿層、水層、脂肪層に分離されるが、このうち水層を分取し、ケルダール法で窒素含量を測定した。得られた値にカゼインの窒素係数である6.38を乗じて可溶性カゼイン量を決定した。プロセスチーズ類中の窒素含量についてもケルダール法で測定し、プロセスチーズ類中の全カゼイン量を決定した。プロセスチーズ類中の全カゼイン量から可溶性カゼイン量を差し引いた分を、不溶性カゼイン量とし、プロセスチーズ類中の全カゼイン量に対する不溶性カゼイン量の割合を不溶性カゼイン含量とした。
(2)耐熱保形性の測定
耐熱保形性の測定はチーズを20×20×20mmの立方体に切り出し、シャーレにひいた濾紙の上に載せ、50℃の湿潤環境で2時間保持した後、過熱保持前の高さと保持後の高さを比較した。耐熱保形性は以下の式で求めた。
耐熱保形性=過熱保持後の高さ/過熱保持前の高さ×100(%)
表1に示すように、pH6.1の実施例品1-1で耐熱保形性を50%以上、pH6.5の実施例品1-2で耐熱保形性を70%以上有し、pHが高くなるにつれ、高い耐熱保形性を有することが明らかとなった。
[実施例2]
ゴーダチーズ(フォンテラ社製)1000gとチェダーチーズ(フォンテラ社製)2000gをそれぞれ粉砕、混合し、ケトル型乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が47%になるように加水し、ピロリン酸ナトリウム60gを加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加えることで任意のpHに調整した。乳化機の羽根の回転数を100rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点で加温、撹拌を停止し、本発明のプロセスチーズ類を得た。なお、得られたプロセスチーズ類のpHは、pH6.1(実施例品2−1)、pH6.5(実施例品2−2)、pH6.8(実施例品2−3)、pH7.0(実施例品2−4)であった。
[比較例2]
ゴーダチーズ(フォンテラ社製)1000gとチェダーチーズ(フォンテラ社製)2000gをそれぞれ粉砕、混合し、ケトル型乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が47%になるように加水し、ピロリン酸ナトリウム60gを加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加えることでpHを調整した。乳化機の羽根の回転数を100rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点で加温、撹拌を停止し、プロセスチーズ類を得た。なお、得られたプロセスチーズ類のpHは、pH5.7(比較例品2)であった。
[試験例2]
実施例品2−1、実施例品2−2、実施例品2−3、実施例品2−4、及び比較例品2のプロセスチーズ類を、プラスチック容器に充填し冷蔵庫で5℃まで冷却し、不溶性カゼイン含量及び耐熱保形性を測定した。この結果を表2に示す。なお、不溶性カゼイン含量、耐熱保形性は、試験例1と同様の方法に従って測定した。
表2の結果から、試験例2の比較例品2においてはpHが5.7と低いにも関わらず、86%と高い耐熱保形性を有している。これは溶融塩としてピロリン酸塩を使用していることに起因するものであり、溶融塩の性質による耐熱保形性である。しかしながら、試験例1と同様、pHが6.1以上である実施例品において、比較例品2よりも、高い耐熱保形性を有することが明らかになった。
[実施例3]
ゴーダチーズ(フォンテラ社製)1000g、チェダーチーズ(フォンテラ社製)1000g、パルメザンチーズ(フォンテラ製)500gをそれぞれ粉砕、混合し、高速せん断式乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が45%になるように加水し、オルソリン酸ナトリウム・12水和物130g(オルソリン酸ナトリウム60g相当)を加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加えることで6.5に調整した。乳化機の羽根の回転数を1000rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点を0分とし、撹拌時間を0分(実施例品3−1)、10分(実施例品3−2)、25分(実施例品3−3)とした本発明のプロセスチーズ類を得た。
[比較例3]
ゴーダチーズ(フォンテラ社製)1000g、チェダーチーズ(フォンテラ社製)1000g、パルメザンチーズ(フォンテラ製)500gをそれぞれ粉砕、混合し、高速せん断式乳化機(ニチラク機械製)に投入した。水分が45%になるように加水し、オルソリン酸ナトリウム・12水和物130g(オルソリン酸ナトリウム60g相当)を加えた。この混合物に重曹、あるいは乳酸を適宜加えることで5.7に調整した。乳化機の羽根の回転数を1000rpmとし、ジャケットに蒸気を吹き込みながら加温し、チーズの温度が90℃となった時点を0分とし、撹拌時間を0分(比較例品3−1)、10分(比較例品3−2)、25分(比較例品3−3)とした本発明のプロセスチーズ類を得た。
[試験例3]
実施例品3−1、実施例品3−2、実施例品3−3、比較例品3−1、比較例品3−2、比較例品3−3をプラスチック容器に充填し、冷蔵庫で5℃まで冷却した後、試験例1と同様の方法に従って不溶性カゼイン含量の測定および耐熱保形性の評価を実施した。結果を表3に示す。
表3の結果から、実施例品では、高い耐熱保形性を有することが明らかになった。また、pHが低い比較例品においても撹拌時間が長くなることで耐熱保形性は付与されるが、不溶性カゼイン含量も増加しており、食感の悪化が懸念されるものであった。

Claims (6)

  1. pHが6.0〜7.0であり、リン酸塩を含有するプロセスチーズ類。
  2. 前記リン酸塩の添加量が1〜3%である請求項1に記載のプロセスチーズ類。
  3. 全カゼイン含量に対する不溶性カゼイン含量の割合が50%以下のプロセスチーズ類において、pHが6.0〜7.0であり、かつ、リン酸塩を含有することを特徴とするプロセスチーズ類。
  4. 前記リン酸塩の添加料が1〜3%である請求項3に記載のプロセスチーズ類。
  5. 原料チーズにリン酸塩を1〜3%添加し、加熱乳化後のpHを6.0〜7.0に調整することを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法。
  6. 乳化後の撹拌時間が20分以下であることを特徴とする請求項5に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
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