シートパッドの尻下部に、該尻下部を上下方向に貫通する貫通孔を設けることにより、より効果的に着座者の尻下の座圧を軽減することができる。しかしながら、この場合、貫通孔がシートパッドの上面に開口しているため、このシートパッドに表皮材を装着した状態において、この表皮材のうち貫通孔を覆った部分が該貫通孔の内側に窪み、その周囲部との間に段差が生じてシートの審美性を損なうおそれがある。そのため、シートパッドに表皮材を装着した状態においても審美性を損なうことなく、着座者の尻下の座圧を十分に軽減することが可能なシートパッドが望まれている。
本発明は、シートパッドに表皮材を装着した状態においても審美性を損なうことなく、且つ着座者の尻下の座圧を十分に軽減することが可能なシートパッドと、このシートパッドに表皮材を装着してなるシートとを提供することを目的とする。
本発明(請求項1)のシートパッドは、発泡合成樹脂よりなり、着座者の尻下に配置される尻下部を有したシートパッドであって、該尻下部の下面から上面側に凹陥する凹部が設けられたシートパッドにおいて、該凹部の天井面と該尻下部の上面との間のパッド厚みTは、該尻下部の上面から下面までの厚みの1/4以下であることを特徴とするものである。
請求項2のシートパッドは、請求項1において、前記凹部の天井面と前記尻下部の上面との間のパッド厚みTは8〜25mmであることを特徴とするものである。
請求項3のシートパッドは、請求項1又は2において、前記凹部は、前記着座者の坐骨結節部の下方に配置されることを特徴とするものである。
請求項4のシートパッドは、請求項3において、前記凹部は、前記着座者の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで左右方向に延在していることを特徴とするものである。
請求項5のシートパッドは、請求項4において、前記凹部は、左右方向の中央部が、左端側及び右端側よりも前後方向の幅が狭い狭幅部となっていることを特徴とするものである。
請求項6のシートパッドは、請求項5において、前記狭幅部の前後方向の幅Cは5〜20mmであることを特徴とするものである。
請求項7のシートパッドは、請求項5又は6において、前記狭幅部の左右方向の幅Dは20〜120mmであることを特徴とするものである。
請求項8のシートパッドは、請求項5ないし7のいずれか1項において、JIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)を同規定に準拠して該シートパッドに着座させたときに、前記尻下部が上下方向に圧縮されるのに伴って前記凹部の内側の空間が狭まることにより、前記狭幅部において該凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するように構成されていることを特徴とするものである。
請求項9のシートパッドは、請求項5ないし8のいずれか1項において、前記凹部のうち前記狭幅部の両側部分は、該狭幅部よりも前後方向の幅が広くなった広幅部となっており、各広幅部がそれぞれ前記着座者の左右の坐骨結節部の下方に配置されることを特徴とするものである。
請求項10のシートパッドは、請求項9において、前記広幅部は、それぞれ略円形断面形状となっており、各広幅部の軸心線同士の間隔Aは100〜140mmであり、各広幅部の前後方向の最大長さBはそれぞれ20〜80mmであることを特徴とするものである。
請求項11のシートパッドは、請求項1ないし10のいずれか1項において、該シートパッドを構成する前記発泡合成樹脂は、JIS K 7222に準拠して測定される見掛け密度が35〜75kg/m3であることを特徴とするものである。
請求項12のシートパッドは、請求項1ないし11のいずれか1項において、該シートパッドを構成する前記発泡合成樹脂は、JIS K 6400に準拠して測定される硬さが100〜400Nであることを特徴とするものである。
本発明(請求項13)のシートは、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のシートパッドと、該シートパッドの表面を覆った表皮材とを備えてなるものである。
請求項14のシートは、請求項13において、該シートは車両用シートであることを特徴とするものである。
本発明(請求項1)のシートパッドにあっては、その尻下部に、該尻下部の下面から上面側に凹陥した凹部が設けられている。これにより、シートパッドの尻下部が軟らかいものとなっており、着座者の尻下の座圧を軽減することができるので、座り心地がよい。この凹部は、尻下部の上面までは貫通していないため、該尻下部の上面には、この凹部に起因する開口が存在しない。これにより、かかる本発明のシートパッドの表面に表皮材を装着してなる本発明(請求項13)のシートにあっては、表皮材のうち尻下部の上面を覆った部分の表面には、該尻下部を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合のような段差が生じないため、審美性が良好である。
本発明では、このシートパッドの凹部の天井面と尻下部の上面との間(以下、この部分を凹部の天井部ということがある。)のパッド厚みTは、該尻下部の上面から下面までの厚みの1/4以下と薄く、これにより凹部が奥深いものとなっているため、着座者の尻下の座圧を十分に軽減することが可能である。
請求項2の通り、この凹部の天井部の厚みTは8〜25mmであることが好ましい。この場合、凹部の天井部は、ごく薄い膜状となっているため、本発明のシートパッドにあっては、凹部が尻下部を上下方向に貫通したものでなくても、シートパッドに尻下部を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合とほぼ同等の座圧軽減効果が奏される。
なお、本発明において、シートパッドに尻下部を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合とほぼ同等の座圧軽減効果とは、着座者が、尻下部を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッドに着座した場合とほぼ同等の座り心地の良さを感じるようになることをいう。
この凹部の天井部のパッド厚みTが8mmよりも小さいと、この薄膜状の凹部の天井部を、金型を用いて発泡合成樹脂により発泡成形するのが困難になる。また、この凹部の天井部のパッド厚みTが25mmよりも大きいと、着座者は、尻下部を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッドに着座した場合に比べて座り心地が低下したと感じるようになる。
本発明においては、例えば凹部の天井面が、ドーム状等の湾曲面や円錐面など、場所によって厚みTが異なる形状となっている場合には、この凹部の天井面と尻下部の上面との間で最も薄い部分のパッド厚みTを8〜25mmとする。
請求項3の通り、この凹部は、着座者の坐骨結節部の下方に配置されることが好ましい。これにより、通常、着座者の尻下のうち最も座圧が高くなる部分において座圧が軽減されるようになるため、尻下部のソフト感が高く、座り心地がきわめて良好なものとなる。
なお、本発明では、尻下部の各坐骨結節部下方部分にのみ凹部が設けられてもよいが、この場合、尻下部のうち、これらの凹部に挟まれた部分、即ち着座者の左右の坐骨結節部同士の間に位置する部分は、各坐骨結節部下方部分に比べて硬いものとなる。そのため、この部分が着座者の坐骨結節部間に接触することにより、着座者が尻下部の各坐骨結節部下方部分とこれらの間の部分との硬さ(又はそれに起因する座圧)の違いを感取して該坐骨結節部間に加圧感(違和感)を感じるおそれがある。そこで、請求項4の通り、この凹部は、着座者の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで左右方向に延在していることが好ましい。このように構成した場合、尻下部は、各坐骨結節部下方部分だけでなく、それらの間の部分も軟らかいものとなるため、着座者の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を軽減ないし防止することが可能であり、座り心地を良好なものとすることができる。
この場合、請求項5の通り、この凹部は、左右方向の中央部が、左端側及び右端側よりも前後方向の幅が狭い狭幅部となっていることが好ましい。このように構成した場合、着座者の坐骨結節部間の下方には、この狭幅部が配置される。前述の通り、通常、シートに人が着座した場合には、この着座者の各坐骨結節部の下方において最も座圧が高くなり、坐骨結節部間の下方では、若干、それよりも座圧が低くなる傾向があるが、本発明では、この坐骨結節部間の下方には、凹部のうち狭幅部が配置されるため、坐骨結節部間の下方部分では、各坐骨結節部の下方部分よりも座圧軽減効果が低くなるので、各坐骨結節部の下方と坐骨結節部間の下方とでバランスよく座圧を軽減することができる。また、これにより、尻下部の坐骨結節部間の下方部分は、この部分に凹部が存在しない場合よりは軟らかいが、各坐骨結節部の下方部分よりは硬くなるため、着座者の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を軽減ないし防止しつつ、着座者の尻の尻下部への過度の沈み込みも防止することができる。
請求項6の通り、この狭幅部の前後方向の幅Cは5〜20mmであることが好ましい。また、請求項7の通り、この狭幅部の左右方向の幅Dは20〜120mmであることが好ましい。このように構成することにより、着座者の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を十分に軽減することが可能であると共に、着座者が過度の沈み込み感や底付き感を感じることを十分に防止することができる。なお、狭幅部の前後方向の幅Cが5mmよりも小さいと、尻下部の坐骨結節部間の下方部分が十分に軟らかくならず、着座者の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を十分に軽減することができなくなるおそれがある。また、狭幅部の前後方向の幅Cが20mmよりも大きかったり、狭幅部の左右方向の幅Dが20mmよりも小さかったりすると、尻下部の坐骨結節部間の下方部分が過度に軟らかくなり、着座者が過度の沈み込み感や底付き感を感じるようになるおそれがある。狭幅部の左右方向の幅Dが120mmよりも大きいと、狭幅部の端部が坐骨結節部下に近づきすぎるので、坐骨結節部下における座圧を効果的に低減できないおそれがある。
通常、シートパッドに人が着座した場合、この着座者の体重により尻下部が上下方向に圧縮され、これに伴って凹部は内側の空間が狭くなるように変形する。請求項8の態様では、JIS(日本工業規格) D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)を同規定に準拠してシートパッドに着座させたときに、尻下部が上下方向に圧縮されるのに伴って凹部の内側の空間が狭まることにより、狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するように構成されている。このように着座者が着座したときに狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触すると、狭幅部に隙間が開いている状態に比べて尻下部の圧縮抵抗が大きくなるため、着座者が過度の沈み込み感や底付き感を感じることを防止することが可能となる。
なお、上記の三次元座位人体模型(3DM−JM50)は、日本人の成人男性の標準的な体格を模したものである。よって、この三次元座位人体模型と同等以上の体格を有する着座者がシートパッドに着座したときには、上記の通り狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触して尻下部の圧縮抵抗が大きくなるため、比較的大柄な着座者が着座した場合でも、十分に過度の沈み込み感や底付き感を防止することができる。一方、この三次元座位人体模型よりも小さい体格を有する着座者がシートパッドに着座したときには、狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するほど尻下部の圧縮量は大きくならないので、狭幅部は隙間が開いた状態となっている。これにより、比較的小柄な着座者が着座した場合には、尻下部の圧縮抵抗が過度に大きくなることが防止され、十分にソフトな着座感を着座者に与えることができる。
以上の通り、請求項8の態様によれば、着座者の体格に応じて尻下部の圧縮特性を変化させることができる。なお、請求項8のように、着座者が着座したときに狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触する基準としてJIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)及びその着座方法を採用することは、不特定多数の着座者が着座するシートパッドの標準的な構成を規定するのにきわめて好適である。
請求項9の通り、この凹部のうち狭幅部の両側部分は、該狭幅部よりも前後方向の幅が広くなった広幅部となっており、各広幅部がそれぞれ前記着座者の左右の坐骨結節部の下方に配置されることが好ましい。このように構成することにより、各坐骨結節部の下方において十分に座圧を軽減することができる。なお、かかる請求項9の構成を上記の請求項8の態様に適用した場合には、比較的大柄な着座者が着座したことにより狭幅部において凹部のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するまで尻下部が圧縮された場合でも、各坐骨結節部の下方に配置された各広幅部には依然として隙間が存在しており、尻下部の各坐骨結節部下方部分は比較的軟らかいので、座り心地が良好に維持される。
この場合、請求項10の通り、この広幅部を略円形断面形状となるように構成し、且つ各広幅部の軸心線同士の間隔Aを100〜140mmとし、各広幅部の前後方向の最大長さBをそれぞれ20〜80mmとすることにより、各広幅部を十分に着座者の左右の坐骨結節部の下方に配置することが可能であると共に、着座者の各坐骨結節部及びその周辺部を略均一に且つ十分ソフトに支承することができる。
請求項11の通り、本発明においては、シートパッドを構成する前記発泡合成樹脂は、JIS K 7222に準拠して測定される見掛け密度が35〜75kg/m3であることが好ましい。
また、請求項12の通り、本発明においては、シートパッドを構成する前記発泡合成樹脂は、JIS K 6400に準拠して測定される硬さが100〜400Nであることが好ましい。
請求項14の通り、かかる本発明のシートパッドを備えたシートは、車両用シートとして好適である。
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態では、車両用シート及びそのシートパッドへの本発明の適用例を示しており、本発明は、運転時の着座姿勢や運転時の着座条件から、車両用シートパッドに特に好適である。ただし、本発明は、車両用以外の各種のシートパッドにも適用可能である。
[第1の実施の形態]
第1図は第1の実施の形態に係るシートパッドを備えた車両用シートの斜視図、第2図はこのシートパッドのクッションパッドの上面図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は第2図のIV−IV線に沿う断面図、第5図(a),(b)は第2図のV−V線に沿う断面図である。なお、第5図(a)は乗員が着座する前の状態を示し、第5図(b)図は乗員が着座した状態を示している。以下の説明において、前後、左右及び上下方向は、第1図のシートに着座した車両乗員にとっての前後、左右及び上下方向と一致するものとする。
第1図の通り、シートパッド1は、乗員が腰掛けるクッションパッド2と、この乗員が背中をもたれさせるバックパッド3とを有している。該クッションパッド2及びバックパッド3は、それぞれポリウレタンフォーム等の発泡合成樹脂よりなる。なお、クッションパッド2及びバックパッド3を構成する発泡合成樹脂は、ポリウレタンフォームに限定されない。本発明においては、このクッションパッド2及びバックパッド3は、JIS(日本工業規格) K 7222に準拠して測定される見掛け密度が35〜75kg/m3特に45〜75kg/m3であることが好ましく、また、JIS K 6400に準拠して測定される硬さが100〜400N特に200〜300Nであることが好ましい。乗員が着座していない状態において、尻下部4におけるクッションパッド2の上下方向の厚さは40〜100mm特に60〜80mmであることが好ましい。該クッションパッド2の下面及びバックパッド3の後面には、それぞれ、不織布等よりなる面状の補強材(図示略)が設けられていてもよい。このシートパッド1をシートフレーム(図示略)に取り付け、このシートパッド1の外面を表皮材(図示略)で被覆することにより、シートが構成される。
第2図の通り、クッションパッド2は、このシートに着座した乗員の尻下に配置される尻下部4を有している。なお、このクッションパッド2の各部の構成、配置、並びに寸法や物性等の諸元値は、JIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)及びその着座方法を標準的な乗員(着座者)及びその着座方法の基準として設定されている。第3〜5図の通り、クッションパッド2には、この尻下部4の下面から上面側に凹陥した凹部10が設けられている。この凹部10は、尻下部4の上面までは貫通しておらず、この凹部10の上部は薄膜状の天井部10aによって閉鎖されている。この天井部10aは、その周囲の尻下部4と一体に発泡成形されたものであり、その上面は、その周囲の尻下部4の上面と面一に連なっている。なお、天井部10aの構成はこれに限定されるものではなく、例えば、天井部10aとクッションパッド2の残りの部分とを別々に成形すると共に、尻下部4には、凹部10となる部分に貫通孔を設けておき、後からこの貫通孔の上端側を天井部10aで塞ぐことにより凹部10を形成するようにしてもよい。天井部10aをその周囲の尻下部4と一体成形する場合でも、この天井部10aとその他の部分とで発泡合成樹脂の密度や硬さ、あるいは発泡合成樹脂の種類を異ならせてもよい。
第3〜5図の通り、この実施の形態では、天井部10aは、その外縁側から中央部まで厚み(凹部10の天井面と尻下部4の上面との間のパッド厚み。以下、同様。)Tが略同等となっている。本発明においては、この天井部10aの厚みTは、尻下部4の上面から下面までの厚みの1/4以下となっている。より好ましくは、この天井部10aの厚みTの上限は25mm以下特に20mm以下とりわけ16mm以下であることが好ましい。また、この天井部10aの厚みTの下限は8mm以上特に10mm以上とりわけ14mm以上であることが好ましい。このように天井部10aを薄膜状とすることにより、凹部10が尻下部4の上面まで貫通していなくても、クッションパッド2に尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合とほぼ同等の座圧軽減効果が奏される。
なお、前述の通り、このクッションパッド2に尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合とほぼ同等の座圧軽減効果とは、乗員が、尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッド2に着座した場合とほぼ同等の座り心地の良さを感じるようになることをいう。より具体的には、尻下部4に凹部も貫通孔も設けられていないシートパッドに対する、尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッドの座圧軽減率をPとした場合に、このPの5〜15%特に10〜15%程度の座圧軽減効果が奏されることをいう。
天井部10aのパッド厚みTが8mmよりも小さいと、この薄膜状の天井部10aを、後述のように金型20を用いて発泡合成樹脂により発泡成形するのが困難になる。また、この天井部10aのパッド厚みTが25mmよりも大きいと、乗員は、尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッド2に着座した場合よりも座り心地が悪いと感じるようになる。
第2,3図の通り、この実施の形態では、凹部10は、シートに着座した乗員の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで左右方向に延在している。この凹部10の左右方向の中央部は、該凹部10の左端側及び右端側よりも前後方向の幅が狭い狭幅部11となっている。この実施の形態では、この凹部10のうち、狭幅部11の左右両側部分は、それぞれ、該狭幅部11よりも前後方向の幅が広くなった広幅部12,13となっており、これらの広幅部12,13がそれぞれ乗員の左右の坐骨結節部の下方に配置される。
第2図の通り、この実施の形態では、狭幅部11は、その左端側から右端側まで前後方向の幅Cが略一定となっている。なお、狭幅部11の形状はこれに限定されない。乗員がクッションパッド2に着座していない状態において、この狭幅部11の前後方向の幅Cは、5〜20mm特に5〜10mmであることが好ましい。また、この狭幅部11の左右方向の幅Dは、20〜120mm特に65〜75mmであることが好ましい。このように構成することにより、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を十分に軽減することが可能である。なお、狭幅部11の前後方向の幅Cが5mmよりも小さいと、尻下部4の坐骨結節部間の下方部分が十分に軟らかくならず、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を十分に軽減することができなくなるおそれがある。また、狭幅部11の前後方向の幅Cが20mmよりも大きかったり、狭幅部11の左右方向の幅Dが20mmよりも小さかったりすると、尻下部4の坐骨結節部間の下方部分が過度に軟らかくなり、乗員が過度の沈み込み感や底付き感を感じるようになるおそれがある。狭幅部11の左右方向の幅Dが120mmよりも大きいと、狭幅部11の端部が坐骨結節部の下方に近づきすぎるので、坐骨結節部の下方における座圧を効果的に低減できないおそれがある。
第2図の通り、この実施の形態では、各広幅部12,13は、それぞれ、その軸心線方向と直交方向の断面形状が略円形となっている。各広幅部12,13の断面形状を略円形とすることにより、乗員が着座したときに、この乗員の各坐骨結節部及びその周辺部を略均一に支承することができる。狭幅部11は、これらの広幅部12,13の軸心線C1,C2同士を結ぶ線に沿うように延設されている。なお、各広幅部12,13の断面形状及び各広幅部12,13に対する狭幅部11の配置はこれに限定されない。乗員がクッションパッド2に着座していない状態において、広幅部12,13の軸心線C1,C2同士の間隔Aは、100〜140mm特に110〜130mmであることが好ましい。また、各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(各広幅部12,13が円形である場合には直径)Bは、それぞれ20〜80mm特に35〜45mmであることが好ましい。
この広幅部12,13の軸心線C1,C2同士の間隔Aが100mmよりも小さいか、又は140mmよりも大きいと、クッションパッド2に乗員が着座したときに、各広幅部12,13がそれぞれ乗員の左右の坐骨結節部の下方に位置しなくなるおそれがある。また、各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bが20mmよりも小さいと、尻下部4の各坐骨結節部下方部分が十分に軟らかくならないおそれがある。また、各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bが80mmよりも大きいと、尻下部4の各坐骨結節部下方部分が過度に軟らかくなるおそれがある。
第3〜5図の通り、この実施の形態では、狭幅部11及び各広幅部12,13は、それぞれ、クッションパッド2の上面から下面まで形状及び大きさが略一定となっている。また、この実施の形態では、該狭幅部11及び各広幅部12,13は、軸心線方向がクッションパッド2の下面に対し略垂直となるように形成されている。なお、該狭幅部11及び各広幅部12,13の形状及び配置はこれに限定されない。例えば、狭幅部11及び各広幅部12,13は、クッションパッド2の下面に近づくほど幅C及び前後方向の最大長さ(直径)Bが大きくなるように形成されてもよく、クッションパッド2の上面に近づくほど幅C及び前後方向の最大長さ(直径)Bが大きくなるように形成されてもよく、あるいはクッションパッド2の厚さ方向の途中部分において、それよりもクッションパッド2の上面側及び下面側よりも幅C及び前後方向の最大長さ(直径)Bが大きくなるように又は小さくなるように形成されてもよい。また、狭幅部11及び各広幅部12,13は、軸心線方向がクッションパッド2の下面に対し斜めになるように形成されてもよい。また、狭幅部11及び各広幅部12,13は、クッションパッド2の下面側から上面側まで一直線状に延在していてもよく、少なくとも一部が湾曲又は屈曲した非一直線状に延在していてもよい。狭幅部11及び各広幅部12,13の断面形状は、天井部10aの直近とその他の部分とで異なっていてもよい。
通常、シートパッド1に乗員が着座した場合、この乗員の体重により尻下部4が上下方向に圧縮され、これに伴って凹部10は内側の空間が狭くなるように変形する。この実施の形態では、前述のJIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)を同規定に準拠してシートパッドに着座させたときに、尻下部4が上下方向に圧縮されるのに伴って凹部10の内側の空間が狭まることにより、狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するように、クッションパッド2を構成する発泡合成樹脂の密度や硬さ、並びに貫通孔10の各部の寸法や形状、配置等が設定されている。
次に、クッションパッド2を成形するための金型20について説明する。第6図の通り、この実施の形態では、金型20は上型21と下型22とを有している。なお、金型20は、必要に応じ中子を有していてもよい。この金型20内において、クッションパッド2は、その上面(乗員側の面)を下向きにした姿勢で成形される。即ち、下型22のキャビティ面によりクッションパッド2の上面が成形され、上型21のキャビティ面によりクッションパッド2の下面が成形される。上型21のキャビティ面からは、凹部10を形成するための凸部23が突設されている。この凸部23の外形は、凹部10の内部形状と同一形状となっている。第6図の通り、上型21と下型22とを型締めした状態においては、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間には隙間が生じる。この隙間は天井部10aを形成するためのものである。よって、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間隔は8〜25mm、より好ましくは10〜20mm、特に好ましくは14〜16mmとなっている。なお、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間隔が8mmよりも小さいと、発泡成形時に発泡合成樹脂がこれらの隙間に入り込みにくくなり、天井部10aの成形不良を生じるおそれがある。そのため、本発明では、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間隔は8mm以上とされる。この実施の形態では、上型21と下型22とを型締めした状態において、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間隔は、該凸部23の下端面の略全体にわたって略一定となっている。ただし、凸部23の下端面に形状はこれに限定されるものではなく、天井部10aの設計形状に応じて、例えば凸部23は、その中央部が外縁側よりも下方へ張り出した形状であってもよい。
この金型20を用いて凹部10付きクッションパッド2を製造する場合、上型21と下型22とを型開きして下型22内に発泡合成樹脂原料を注入した後、上型21と下型22とを型締めして該発泡合成樹脂原料を発泡させる。この発泡合成樹脂は、キャビティ内を埋めるように発泡して凸部23を該樹脂中に埋没させると共に、この凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間の隙間に入り込む。この発泡合成樹脂が硬化した後、上型21と下型22とを型開きしてクッションパッド2を脱型する。このクッションパッド2のうち、凸部23が存在していた部分が凹部10となり、該凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間の隙間に入り込んだ発泡合成樹脂により、この凹部10の上部を閉鎖した天井部10aが形成されている。脱型後、必要に応じバリ取り等の仕上げ作業を行うことにより、クッションパッド2が完成する。このように、本発明のシートパッドは、従来品に比べて製造工程が複雑化することなく、容易に製造可能である。
このように構成されたクッションパッド2を備えたシートパッド1にあっては、その尻下部4に、該尻下部4の下面から上面側に凹陥した凹部10が設けられている。これにより、該尻下部4が軟らかいものとなっており、乗員の尻下の座圧を軽減することができるので、座り心地がよい。この凹部10は、尻下部4の上面までは貫通しておらず、該尻下部4の上面には、この凹部10に起因する開口が存在しない。これにより、このシートパッド1の表面に表皮材を装着してなるシートにあっては、表皮材のうち尻下部4の上面を覆った部分の表面には、尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔を設けた場合のような段差が生じないため、審美性が良好である。また、このシートの着座面に手で触れたときに違和感が感取されることも防止ないし軽減される。
このシートパッド1にあっては、凹部10の天井部10aにおけるパッド厚みTは、尻下部4の上面から下面までの厚みの1/4以下と薄く、これにより凹部10が奥深いものとなっているため、乗員の尻下の座圧を十分に軽減することが可能である。
特に、この実施の形態では、該天井部10aの厚みTの上限は、好ましくは25mm以下、特に好ましくは20mm以下、とりわけ好ましくは16mm以下となっており、またこの厚みTの下限は、好ましくは8mm以上、特に好ましくは10mm以上、とりわけ好ましくは14mm以上となっている。即ち、この実施の形態では、該天井部10aは、ごく薄い膜状となっている。そのため、このシートパッド1にあっては、凹部10が尻下部4を上下方向に貫通したものでなくても、乗員の尻下の座圧を十分に軽減することが可能であり、乗員は、尻下部4を上下方向に貫通する貫通孔が設けられたシートパッドに着座した場合とほぼ同等の座り心地の良さを感じるようになる。
この実施の形態では、凹部10は、乗員の坐骨結節部の下方に配置されている。これにより、通常、乗員の尻下のうち最も座圧が高くなる部分において座圧が軽減されるようになるため、尻下部4のソフト感が高く、座り心地がきわめて良好なものとなる。
また、この実施の形態では、凹部10は、乗員の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで延在しているので、該尻下部4は、各坐骨結節部の下方部分だけでなく、それらの間の部分も軟らかいものとなっている。これにより、例えば各坐骨結節部の下方部分にのみ凹部が設けられている場合に比べて、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を軽減ないし防止することが可能であり、座り心地をより良好なものとすることができる。
この実施の形態では、乗員の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで延在した凹部10の左右方向の中央部は、その両側の各広幅部12,13よりも前後方向の幅が狭い狭幅部11となっており、乗員の坐骨結節部間の下方には、この狭幅部11が配置される。通常、シートに乗員が着座した場合には、この乗員の各坐骨結節部の下方において最も座圧が高くなり、坐骨結節部間の下方では、若干、それよりも座圧が低くなる傾向があるが、このように坐骨結節部間の下方に、凹部10のうち狭幅部11が配置されることにより、坐骨結節部間の下方部分では、各坐骨結節部の下方部分よりも座圧軽減効果が低くなるので、各坐骨結節部の下方と坐骨結節部間の下方とでバランスよく座圧を軽減することができる。また、これにより、尻下部4の坐骨結節部間の下方部分は、この部分に凹部10が存在しない場合よりは軟らかいが、各坐骨結節部の下方部分よりは硬くなるため、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を軽減ないし防止しつつ、乗員の尻の尻下部4への過度の沈み込みも防止することができる。
この実施の形態では、狭幅部11の前後方向の幅Cは5〜20mm、より好ましくは5〜10mmとなっており、また狭幅部11の左右方向の幅Dは20〜120mm、より好ましくは65〜75mmとなっているので、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を十分に軽減することが可能であると共に、乗員が過度の沈み込み感や底付き感を感じることを十分に防止することが可能である。
また、この実施の形態では、各広幅部12,13はそれぞれ略円形断面形状となっており、且つ各広幅部12,13の軸心線C1,C2同士の間隔Aが100〜140mm、より好ましくは110〜130mmであり、各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bがそれぞれ20〜80mm、より好ましくは35〜45mmであるため、各広幅部12,13を十分に乗員の左右の坐骨結節部の下方に配置することが可能であると共に、乗員の各坐骨結節部及びその周辺部を略均一に且つ十分ソフトに支承することができる。
この実施の形態では、クッションパッド2は、前述の通り、JIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)を同規定に準拠してシートパッド1に着座させたときに、尻下部4が上下方向に圧縮されるのに伴って凹部10の内側の空間が狭まることにより、狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するように構成されている。このように乗員が着座したときに狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触すると、狭幅部11に隙間が開いている状態に比べて尻下部4の圧縮抵抗が大きくなるため、乗員が過度の沈み込み感や底付き感を感じることを防止することが可能となる。
この三次元座位人体模型(3DM−JM50)は、日本人の成人男性の標準的な体格を模したものである。よって、この三次元座位人体模型と同等以上の体格を有する乗員がシートパッド1に着座したときには、上記の通り狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触して尻下部4の圧縮抵抗が大きくなるため、比較的大柄な乗員が着座した場合でも、十分に過度の沈み込み感や底付き感を防止することができる。一方、この三次元座位人体模型よりも小さい体格を有する乗員がシートパッド1に着座したときには、狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するほど尻下部4の圧縮量は大きくならないので、狭幅部11は隙間が開いた状態となっている。これにより、比較的小柄な乗員が着座した場合には、尻下部4の圧縮抵抗が過度に大きくなることが防止され、十分にソフトな着座感を乗員に与えることができる。
以上の通り、この実施の形態にあっては、乗員の体格に応じて尻下部4の圧縮特性を変化させることができる。なお、このように、乗員が着座したときに狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触する基準としてJIS D 4607に規定される三次元座位人体模型(3DM−JM50)及びその着座方法を採用することは、不特定多数の乗員が着座する車両用シートパッド1の標準的な構成を規定するのにきわめて好適である。
なお、この実施の形態では、凹部10のうち狭幅部11の左右両側部分は、それぞれ、該狭幅部11よりも前後方向の幅が広くなった広幅部12,13となっており、これらの広幅部12,13がそれぞれ乗員の左右の坐骨結節部の下方に配置されているので、第5図(b)の通り、比較的大柄な乗員が着座したことにより狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触するまで尻下部4が圧縮された場合でも、各坐骨結節部の下方に配置された各広幅部12,13には依然として隙間が存在しており、尻下部4の各坐骨結節部下方部分は比較的軟らかいので、座り心地が良好に維持される。
[凹部の別の形状例]
第7図〜第10図は、それぞれ、凹部の別の形状例を示す、クッションパッドの上面図であり、第11図は、凹部の天井部の別の形状例を示す、クッションパッドの断面図である。
上記の第1〜6図の実施の形態における凹部10にあっては、狭幅部11はその左端側から右端側まで前後方向の幅が略一定となっているが、狭幅部11の形状はこれに限定されない。例えば、第7図の凹部10Aのように、狭幅部11は、その左右方向の中央部において前後方向の幅が最も狭く、それよりも左端側及び右端側ほど前後方向の幅が大きくなる形状であってもよい。この場合、狭幅部11のうち前後方向の幅がもっとも小さくなっている部分の左右方向の幅が、前述の好適な幅Dの範囲内となっていることが好ましい。このような形状の凹部10Aを備えたシートパッド1にあっては、上記のように比較的大柄な乗員が着座したことにより狭幅部11において凹部10のシート前方側の内周面とシート後方側の内周面とが接触する場合、尻下部4の圧縮量が大きくなるほど、狭幅部11において該凹部10Aのシート前方側の内周面とシート後方側の内周面との接触面の左右幅が大きくなり、それに伴って尻下部4の圧縮抵抗も大きくなるため、体重の大きい乗員が着座しても、尻下部4が過度に圧縮されることを十分に防止することができる。また、このように局所的に幅が最も狭くなり、他の部分では比較的幅が大きくなるように狭幅部11を形成することにより、クッションパッド2を成形するための発泡合成樹脂の使用量を少なくすることができるので、クッションパッド2の製造コストの削減及びクッションパッド2の軽量化を図ることができる。
図示は省略するが、狭幅部11には、前後方向の幅が最も狭くなる部分が左右方向に間隔をおいて複数箇所に形成されていてもよい。その場合、この前後方向の幅が最も狭くなる各部分の左右方向の幅の合計値が、前述の好適な幅Dの範囲内となっていることが好ましい。
なお、上記の第1〜6図及び第7図の実施の形態における凹部10,10Aにあっては、狭幅部11は、左右方向に一直線状に延在しているが、狭幅部11は一直線状に延在していなくてもよく、例えば、図示は省略するが、ジグザグ状やS字状などのように、少なくとも一部が屈曲又は湾曲した非一直線状に延在していてもよい。
上記の第1〜6図の実施の形態における凹部10にあっては、各広幅部12,13の軸心線方向と直交方向の断面形状はそれぞれ円形となっているが、各広幅部12,13の断面形状はこれに限定されない。例えば、第8図の凹部10Bのように、各広幅部12,13の断面形状は多角形状であってもよい。第8図では各広幅部12,13は四角形状となっているが、三角形や五角形など、四角形以外の多角形状であってもよい。なお、図示は省略するが、各広幅部12,13の断面形状は、楕円形など、多角形以外の種々の形状とすることも可能である。
上記の各実施の形態では、凹部10,10A,10Bはそれぞれ狭幅部11を有しているが、本発明においては、例えば第9図の凹部10Cのように、凹部は狭幅部を有していなくてもよい。第9図の凹部10Cは、乗員の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで延在しているが、その断面形状は、長軸方向を左右方向とした楕円形又は長円形であり、その左右方向の途中部には狭幅部11が設けられていない。即ち、この凹部10Cは、第1〜6図における凹部10において狭幅部11の前後方向の幅Cを各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bと同等か又はそれよりも大きくした如き構成となっている。このような形状の凹部10Cを備えたシートパッド1にあっても、凹部10Cは、乗員の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで延在しているので、尻下部4は、各坐骨結節部の下方部分だけでなく、それらの間の部分も軟らかいものとなっている。これにより、例えば各坐骨結節部の下方部分にのみ凹部が設けられている場合に比べて、乗員の坐骨結節部間への加圧感(違和感)を軽減ないし防止することが可能であり、座り心地をより良好なものとすることができる。
上記の各実施の形態では、凹部10,10A〜10Cは、着座者の一方の坐骨結節部の下方から他方の坐骨結節部の下方まで左右方向に延在したものとなっているが、第10図の凹部10Dのように、各坐骨結節部の下方にのみ存在するものであってもよい。第10図の実施の形態においては、尻下部4に、左右方向に間隔をおいて1対の凹部10D,10Dが設けられている。左側の凹部10Dは着座者の左側の坐骨結節部の下方に位置するように配置され、右側の凹部10Dは着座者の右側の坐骨結節部の下方に位置するように配置されている。即ち、この実施の形態の凹部10D,10Dは、前述の第1〜6図の実施の形態における凹部10から狭幅部11を省略し、各広幅部12,13のみを残した如き構成となっている。この実施の形態では、各凹部10Dは、各々の軸心線方向と直交方向の断面形状が略円形となっている。ただし、各凹部10Dの断面形状は、上記の第8図の凹部10Bの各広幅部12,13と同様に、円形以外の種々の形状とすることができる。これらの凹部10D,10Dの軸心線C1,C2同士の間隔の好適範囲は、前述の広幅部12,13の軸心線C1,C2同士の間隔Aと同等である。また、各凹部10Dの前後方向の最大長さ(直径)の好適範囲も、前述の各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bと同等である。第10図のその他の構成は、第1〜6図と同様である。この実施の形態にあっても、尻下部4の各坐骨結節部の下方部分にはそれぞれ凹部10Dが設けられているので、各坐骨結節部の下方における座圧軽減効果が奏される。
上記の第1〜6図の実施の形態では、凹部10の天井部10aは、その外縁側から中央部まで厚みTが略同等となっているが、本発明においては、例えば第11図のように、少なくとも部分的に厚みTが異なっていてもよい。第11図の実施の形態では、天井部10aは、その中央部が外縁側よりも厚みTが小さいものとなっている。本発明では、このように天井部10aの厚みTが部分的に異なっている場合には、この天井部10aのうち最も薄い部分の厚みTを、尻下部4の上面から下面までの厚みの1/4以下とする。
上記の凹部10,10A,10B,10C,10Dの形状はいずれも一例であり、本発明のシートパッドにおける凹部の形状は、図示の形状に限定されない。
以下、実施例及び比較例について説明する。
[実施例1〜3及び比較例1,2]
各凹部10Dの天井部10aの厚みTを5mm、10mm、15mm、20mm、30mmと変更して、前述の第10図の実施の形態における車両用クッションパッド2を複数個製作した。実施例1では、この厚みTを10mmとし、実施例2では、この厚みTを15mmとし、実施例3では、この厚みTを20mmとした。また、比較例1では、この厚みTを5mmとし、比較例2では、この厚みTを30mmとした。
いずれの実施例及び比較例においても、着座者が着座していない状態における尻下部4の上面から下面までの厚み(クッションパッド2を着座者側(即ち上方)から見たときの各凹部10Dの平面視形状の図心位置(例えば、第10図の通り各凹部10Dの平面視形状が円形である場合には、この円の中心C1,C2)における尻下部4の上面から、クッションパッド2に各凹部10Dが存在しないと仮定したときの該図心位置における尻下部4の下面までの厚み)を80mmとし、凹部10D,10Dの軸心線C1,C2同士の間隔Aを約120mmとし、各凹部10Dの前後方向の最大長さ(直径)Bを約45mmとした。このクッションパッド2はポリウレタンフォーム製であり、JIS K 7222に準拠して測定された見掛け密度が約65kg/m3であり、JIS K 6400に準拠して測定された硬さが約250Nであった。
[比較例3]
尻下部4に、該尻下部4を上下方向に貫通する1対の貫通孔を有するクッションパッド2を製作した。この貫通孔は、尻下部4の上面に開放していること以外は、第10図の実施の形態における各凹部10Dと同一形状とした。他の諸元値も実施例1〜3と同様とした。
[座り心地の比較]
上記実施例1〜3及び比較例1〜3の各クッションパッド2について、それぞれ、以下の項目1〜3に関する評価を行った。なお、項目1については、実施例1〜3及び比較例1,2についてのみ評価を行った。
項目1 : 天井部10aの成形性
項目2 : 実施例1〜3及び比較例1〜3の各クッションパッド2に同一の被験者を着座させた際の座圧軽減効果(実施例1〜3及び比較例1,2については、着座者が比較例3と同等の座り心地の良さを感じたか否か)
項目3 : 実施例1〜3及び比較例1〜3の各クッションパッド2に表皮材を装着した後に、尻下部4の上面において表皮材に段差が生じたか否か
上記の評価結果について表1に示す。項目1の評価について、「○」は、天井部10aが成形不良を起こすことなく良好に成形されたことを示し、「×」は、天井部10aの成形不良が生じたことを示している。項目2について、「○」は、座圧が十分に軽減され、着座者が、座り心地が良好であると感じたことを示し、「×」は、着座者が、比較例3に比べて座り心地が低下したと感じたことを示している。項目3について、「○」は、クッションパッド2に表皮材を装着した後に、尻下部4の上面において表皮材に段差が生じなかったことを示し、「×」は、クッションパッド2に表皮材を装着した後に、尻下部4の上面において表皮材に段差が生じたことを示している。
表1の通り、各凹部10Dの天井部10aの厚みTが10〜20mmの範囲内にある実施例1〜3では、上記項目1〜3のいずれの評価結果も○であり、天井部10aの成形性が良好であり、着座者は、尻下部4を上下方向に上下方向に貫通する貫通孔が設けられた比較例3と同等の座り心地の良さを感じ、且つクッションパッド2に表皮材を装着した後に、尻下部4の上面において、表皮材に各凹部10Dに起因する段差が生じなかったことがわかる。これに対し、比較例1では、項目1の評価結果が×であり、天井部10aの成形不良が生じた。これは、金型20の凹部形成用凸部23の下端面と下型22のキャビティ面との間の隙間を小さくしすぎると、クッションパッド2の発泡成形時にこれらの間に発泡合成樹脂が流れ込みにくくなることに起因する。比較例2では、項目2の評価結果が×であり、比較例3に比べて座り心地が悪かった。これは、天井部10aの厚みTが比較的大きくなるのに伴い、比較例3に比べて各凹部10Dによる座圧軽減効果が低くなることに起因する。比較例3では、項目3の評価結果が×であり、クッションパッド2に表皮材を装着した後に、尻下部4の上面において表皮材に段差が生じた。これは、各貫通孔が尻下部4の上面に開口しているため、このクッションパッド2に表皮材を装着した場合、この表皮材のうち各貫通孔を覆った部分が該貫通孔の内側に窪むことに起因する。
以上の通り、表1から、各凹部10Dの天井部10aの厚みTが10〜20mmの範囲内にある実施例1〜3のクッションパッド2は、天井部10aの成形性が良好であり、クッションパッド2の表面に表皮材を装着した状態においても審美性を損なうことなく、且つ尻下部4を上下方向に上下方向に貫通する貫通孔が設けられたクッションパッドと同等の座り心地の良さを奏するものであることが明らかである。
[実施例4〜7]
狭幅部11の前後方向の幅Cを5mmから20mmまで5mmおきに変更して前述の第1〜6図の車両用クッションパッド2を複数個製作した。実施例4では、この幅Cを5mmとし、実施例5では、この幅Cを10mmとし、実施例6では、この幅Cを15mmとし、実施例7では、この幅Cを20mmとした。
いずれの実施例においても、着座者が着座していない状態における尻下部4の上面から下面までの厚み(クッションパッド2を着座者側(即ち上方)から見たときの凹部10の平面視形状の図心位置における尻下部4の上面から、クッションパッド2に凹部10が存在しないと仮定したときの該図心位置における尻下部4の下面までの厚み)を80mmとし、凹部10の天井部10aの厚みTを15mmとし、凹部10の広幅部12,13の軸心線C1,C2同士の間隔Aを約120mmとし、各広幅部12,13の前後方向の最大長さ(直径)Bを約45mmとし、狭幅部11の左右方向の幅Dを約75mmとした。これ以外のクッションパッド2の諸元値は、前述の実施例1〜3と同様である。
[座り心地の比較]
これらの実施例4〜7と、前述の実施例2の各クッションパッド2について、それぞれ、同一の被験者を一定時間連続して車両運転状態で着座させ、以下の項目4,5に関する聞き取り調査を行って座り心地を比較した。
項目4 : 着座者の尻が適度に尻下部に沈み込んでいるか否か
項目5 : 着座者が坐骨結節部間に加圧感を感じるか否か
上記の聞き取り結果について表2に示す。項目4の評価について、「○」は、着座者が、自分の尻が尻下部に適度に沈み込んでいると感じたことを示し、「×」は、着座者が、自分の尻が尻下部に過度に沈み込んでいると感じたか、又は着座者が底付き感を感じたことを示している。項目5の評価について、「○」は、着座者が坐骨結節部間に加圧感を感じなかったことを示し、「×」は、着座者が坐骨結節部間に加圧感を感じたことを示している。
表2の通り、狭幅部11の前後方向の幅Cが5〜20mmの範囲内にある実施例4〜7では、上記項目4,5のいずれの評価結果も○である。この結果から、狭幅部11の前後方向の幅Cが5〜20mmの範囲内にある実施例4〜7のクッションパッド2は、着座者の坐骨結節部間に加圧感を与えることを防止することができ、且つ着座者が底付き感や過度の沈み込み感を感じることも防止することができるものであり、さらに優れた乗り心地を提供することが可能であることが明らかである。
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態をもとりうる。
本発明は、車両用シートパッド以外の各種シート用シートパッドにも適用可能である。