JP2011038202A - 炭素繊維前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】単繊維の繊維断面の偏平係数を1.15〜1.30とし、かつ前記単繊維の粗面係数を1.038〜1.060とする。そして、この炭素繊維前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束において、前記炭素繊維束を構成する単繊維の繊維断面の偏平係数を1.20〜1.35とし、かつ前記炭素繊維束を構成する単繊維の粗面係数が1.030〜1.060とする。
【選択図】なし
Description
95質量%以上のアクリロニトリル単位を含有するアクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液からなる紡糸溶液を、有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液が投入された第1凝固浴中に吐出して凝固糸とするとともに、前記紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下の速度で、前記第1凝固浴中から前記凝固糸を引き取る工程と、
前記引き取られた凝固糸に対して、前記第1凝固浴と同じ条件の有機溶剤水溶液が投入された第2凝固浴中にて1.5〜2.0倍の延伸を施す工程と、
前記第2凝固浴中で延伸された繊維束に対して、3.0倍以上の湿熱延伸を施す工程と、
前記湿熱延伸された繊維束に対して、シリコーン系油剤の添油処理を行う工程と、
前記添油処理された繊維束を乾燥した後、その繊維束に対して、1.5〜2.5倍のスチーム延伸を施す工程と
を有する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法にある。
まず、本発明の炭素繊維前駆体繊維束について説明する。本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、例えば、複数のアクリロニトリル系重合体の単繊維を束ねたトウである。
アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単位を95質量%以上含有する重合体が、その炭素繊維前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の強度発現性の点で好ましい。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと、必要に応じてこれと共重合しうる単量体とを、水溶液中におけるレドックス重合、不均一系における懸濁重合、分散剤を使用した乳化重合などによって得ることができる。
本発明では、単繊維の繊維断面の偏平係数を1.15〜1.30とする。偏平係数が1.30を超えると、前駆体繊維束の集束性が低下し、焼成工程通過性が悪化する。また、偏平係数が大きいことは、紡糸工程で繊維表層の凝固が速いために緻密なスキン層が形成されて繊維内部の凝固が遅延し、細孔の多い繊維となることに起因する。したがって、その前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束のストランド強度が著しく低下する。一方、偏平係数が1.15未満の場合には、前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の機械的強度は高くなるが、単繊維間の空隙が減少するために、炭素繊維束の樹脂含浸性および開繊性が悪くなる。単繊維の繊維断面の偏平係数は、1.20〜1.30が好ましい。
単繊維の断面形状パラメーターである偏平係数および粗面係数は、以下の方法で計測される。
粗面係数=(L/π)/(4×A/π)1/2
偏平係数は、単繊維の繊維断面の長径と短径の比であり、繊維断面の偏平度の指標となる値である。また、粗面係数は、単繊維の繊維断面の周囲長から円換算した直径と実測面積から円換算した直径との比であり、繊維表面の凹凸(しわ)の指標となる値である。50本以上の単繊維についてこれらの値を計測し、平均値を求める。
次に、本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法について説明する。本発明の炭素繊維前駆体繊維束は、例えば、以下のようにして製造することができる。
本発明では、湿熱延伸を施した後の乾燥前の繊維束における膨潤度は、90質量%以下であることが好ましい。湿熱延伸糸の膨潤度が90質量%以下にある繊維束は、表層部と繊維内部とが均一に配向していることを意味する。例えば、第1凝固浴中での凝固糸の製造の際の「凝固糸の引取り速度/ノズルからの紡糸原液の吐出線速度」を下げることによって、第1凝固浴中での凝固糸の凝固を均一なものにした後、これを第2凝固浴中にて延伸することにより、内部まで均一に配向することができる。これによって、湿熱延伸糸の膨潤度を90質量%以下とすることができる。湿熱延伸糸の膨潤度は、75質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
次に、本発明の炭素繊維束について説明する。本発明の炭素繊維束は、炭素繊維束を構成する単繊維の繊維断面の偏平係数が1.20〜1.35であり、かつ炭素繊維束を構成する単繊維の粗面係数が1.030〜1.060である。このような炭素繊維束は、樹脂含浸性および開繊性が良好で、機械的強度が高いので、繊維強化複合材料の強化材として好適に用いられる。炭素繊維束を構成する単繊維の繊維断面の偏平係数は、1.25〜1.35が好ましい。炭素繊維束を構成する単繊維の粗面係数は、1.030〜1.055が好ましい。
集束性は前駆体繊維束の紡糸工程の最終ロール、すなわち前駆体繊維束をボビンに巻き取る直前のロール上での前駆体繊維束の状態を観察し、下記の基準で評価した。
○:集束しており、トウ幅が一定で、隣接する繊維束と接触しない。
△:ほぼ集束しているが、トウ幅が一定ではない、あるいはトウ幅が広い。
×:繊維束中に空間があり、集束していない。
前駆体繊維束または炭素繊維束を室温硬化型エポキシ樹脂で包埋した後、研磨機((株)マルトー製、商品名:ML−110N)により繊維軸に対して直角に断面加工した。次いで、プラズマエッチング装置(日本電子データム(株)製、商品名:JP−170)により出力50Wの条件で5分間プラズマエッチング処理を施した後、さらに、イオンコーター(日本電子データム(株)製、商品名:JFC−1100)によりAuを約10nmの厚さにスパッタリングした。得られた試験片を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JSM−6060A)によって1000倍で観察した画像を得た。得られた画像について、画像計測ソフトウェア(日本ローパー(株)製、商品名:Image−Pro PLUS)により、単繊維の断面の外形をトレースして、周長Lおよびその面積A、さらに断面の長径(最大フェレ径)D1および短径(最小フェレ径)D2を計測した。これらの値を用いて、次式により偏平係数および粗面係数を算出した。50本以上の単繊維についてこれらの値を計測し、それぞれ平均値を求めた。
粗面係数=(L/π)/(4×A/π)1/2
また、得られた炭素繊維束の評価方法は、以下の通りである。
約20cmに切り取った炭素繊維束をグリシジルエーテル中に約3cm浸し、15分間放置した。グリシジルエーテル中から炭素繊維束を取り出した後3分間放置し、下から3.5cmのところで切り落とし、残った炭素繊維束の長さ、質量を測定した。炭素繊維束の目付けから吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合を算出し、樹脂含浸性の指標とした。吸い上げたグリシジルエーテルの質量割合が3%以上を「○」、3%未満を「×」とした。
炭素繊維束を0.06g/単繊維の張力下、走行速度1m/分で金属ロール上を走行させた際のトウ幅を測定し、開繊性の指標とした。トウ幅が2mm以上を「○」、2mm未満を「×」とした。
アクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、濃度21質量%の紡糸原液を調製した。
アクリロニトリル系重合体の組成を、アクリロニトリル単位/アクリル酸メチル単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。紡糸時に毛羽が発生することなく、紡糸安定性は良好であった。得られた前駆体繊維束の集束性を確認するとともに、断面形状パラメーターを測定した。また、湿熱延伸後の繊維束を採取して、その膨潤度を測定した。
第2凝固浴槽をバイパスして、空中延伸(冷延伸)にて1.8倍延伸を施した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束の製造を試みた。しかし、紡糸安定性が悪く、前駆体繊維束を得ることができなかった。なお、湿熱延伸後の繊維束を採取して、その膨潤度を測定した。
水洗後の湿熱延伸倍率を2.3倍、スチーム延伸機倍率を3.2倍に変更した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。紡糸時に毛羽が発生することなく、紡糸安定性は良好であった。得られた前駆体繊維束の集束性を確認するとともに、断面形状パラメーターを測定した。また、湿熱延伸後の繊維束を採取して、その膨潤度を測定した。
第2凝固浴中での浴中延伸倍率が2.2倍に変更した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度1.2dtexの前駆体繊維束を得た。紡糸時に若干の毛羽が発生し、紡糸安定性に劣っていた。得られた前駆体繊維束の集束性を確認するとともに、断面形状パラメーターを測定した。また、湿熱延伸後の繊維束を採取して、その膨潤度を測定した。
第1凝固浴および第2凝固浴におけるジメチルアセトアミド水溶液の濃度を50質量%、温度を30℃に変更した以外は、実施例1と同様にして前駆体繊維束を得た。紡糸時に毛羽が発生し、紡糸安定性に劣っていた。得られた前駆体繊維束の集束性を確認するとともに、断面形状パラメーターを測定した。また、湿熱延伸後の繊維束を採取して、その膨潤度を測定した。
Claims (5)
- 単繊維の繊維断面の偏平係数が1.15〜1.30であり、かつ前記単繊維の粗面係数が1.038〜1.060である炭素繊維前駆体繊維束。
- 請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法であって、
95質量%以上のアクリロニトリル単位を含有するアクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液からなる紡糸溶液を、有機溶剤濃度55〜68質量%、温度33〜40℃の有機溶剤水溶液が投入された第1凝固浴中に吐出して凝固糸とするとともに、前記紡糸原液の吐出線速度の0.8倍以下の速度で、前記第1凝固浴中から前記凝固糸を引き取る工程と、
前記引き取られた凝固糸に対して、前記第1凝固浴と同じ条件の有機溶剤水溶液が投入された第2凝固浴中にて1.5〜2.0倍の延伸を施す工程と、
前記第2凝固浴中で延伸された繊維束に対して、3.0倍以上の湿熱延伸を施す工程と、
前記湿熱延伸された繊維束に対して、シリコーン系油剤の添油処理を行う工程と、
前記添油処理された繊維束を乾燥した後、その繊維束に対して、1.5〜2.5倍のスチーム延伸を施す工程と
を有する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。 - 前記アクリロニトリル系重合体が、95質量%以上のアクリロニトリル単位と、0.5〜4.0質量%のアクリルアミド単位とを含有する請求項2の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
- 前記湿熱延伸された繊維束の膨潤度が、90質量%以下である請求項2または3に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
- 請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束であって、前記炭素繊維束を構成する単繊維の繊維断面の偏平係数が1.20〜1.35であり、かつ前記炭素繊維束を構成する単繊維の粗面係数が1.030〜1.060である炭素繊維束。
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