JP6232814B2 - アクリル繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
前記凝固糸を熱水中で延伸して膨潤糸を得る工程と、
前記膨潤糸に油剤を付与する工程と、
油剤の付与された前記膨潤糸を乾燥する工程と、
をこの順で含むアクリル繊維の製造方法であって、
前記膨潤糸に油剤を付与する工程において、前記油剤を付与する膨潤糸の細孔径分布の領域と、前記油剤の粒度分布の領域との重なる領域が、前記細孔径分布の領域に対して30%以下であり、
前記油剤を付与する膨潤糸の平均細孔径が、前記油剤の平均粒子径よりも小さく、
前記平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計が、油剤全体の体積に対して5%以下であり、
前記膨潤糸を得る工程において、前記熱水の温度が50〜98℃であり、前記凝固糸の熱水中の滞在時間が1秒以上5秒以下であるアクリル繊維の製造方法。
本発明では、まず、アクリロニトリル系重合体を凝固液中で紡糸して凝固糸を得る。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル単位を95質量%以上含有することが好ましい。該アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと共重合可能な他の単量体の単位を1種類または2種類以上含有してもよい。該アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル;スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、β−スチレンスルホン酸ナトリウム、メタアリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体等が挙げられる。該アクリロニトリル系重合体は、水溶液中におけるレドックス重合、溶液中における溶液重合、分散剤を使用した乳化重合等によって得ることができる。重合によって得られたアクリロニトリル系重合体中に含まれる、未反応モノマー、重合触媒残留物、その他の不純物等は除去されることが好ましい。
次に、得られた凝固糸を熱水中で延伸して膨潤糸を得る。例えば、前記紡糸ドラフトの後、延伸槽内を通して凝固糸を凝固させながら延伸する。凝固糸は少なくとも熱水中で延伸されればよいが、第一延伸の後、洗浄が行われ、その後第二延伸が施されることが紡糸安定性や高強度のCFを製造する観点から好ましい。
次に、得られた膨潤糸に油剤を付与する。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、繊維内部にシリコーン系油剤が残留した場合、焼成工程においてケイ素成分が欠陥点となりやすいため、本発明の効果をより得られる観点から、油剤としてはシリコーン系油剤が好ましい。シリコーン系油剤としては、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等を用いることができ、低シリコーン油剤も用いることができる。
次に、油剤の付与された膨潤糸を乾燥する。該処理により繊維が緻密化される。乾燥緻密化の方法としては、例えば、複数の加熱ローラーに油剤の付与された膨潤糸を接触させる方法が挙げられる。
本発明に係る方法により得られるアクリル繊維を焼成することにより、炭素繊維を得ることができる。焼成方法としては、例えば耐炎化処理、炭素化処理をこの順で行う方法が挙げられる。耐炎化処理としては、例えば本発明に係る方法により得られるアクリル繊維を、220〜270℃の熱風耐炎炉内を通過させることで行うことができる。耐炎化処理は、空気、酸素、二酸化炭素、塩化水素などの各酸化性雰囲気下で行うことができるが、空気雰囲気下が低コストであるため好ましい。
油剤付与前に採取した膨潤糸を以下の方法で乾燥処理した。膨潤糸が乾燥工程で収縮変形しないように膨潤糸を定長に固定し、水/t−ブタノールの混合比(質量比)が80/20、50/50、0/100の混合液に30分ずつ順次浸漬して、膨潤糸に含まれる溶剤をt−ブタノールで置換した。次いで、この膨潤糸試料をフラスコに入れ、液体窒素中で急速凍結した後、試料温度を−30〜−20℃に保ちながら100Paの減圧下で24〜27時間凍結乾燥した。凍結乾燥した膨潤糸試料束をカミソリで約10mmに切断して約0.15g秤量し、水銀ポロシメーター(製品名:オートポアIV、(株)島津製作所製)により大気圧〜最高圧力30,000psiaの条件で細孔分布を測定した。また、該測定において、細孔径に対応する細孔体積の積算値が50%に相当するときの細孔径を膨潤糸の平均細孔径とした。
油剤の粒度分布は、乾式粒度分布測定装置(製品名:LA−910、(株)堀場製作所製)を用いて測定した。また、該測定において、メジアン径を油剤の平均粒子径とした。
前記方法により測定した膨潤糸の細孔径分布と油剤の粒度分布とを同一のグラフに表示した。これを画像解析ソフト(製品名:QuickGrain Standard、(株)イノテック製)にて解析し、膨潤糸の細孔径分布の全体領域に対する、膨潤糸の細孔径分布と油剤の粒度分布との重なる領域の割合を算出した。
前記方法により測定した膨潤糸の細孔径分布と油剤の粒度分布とを同一のグラフに表示した。これを画像解析ソフト(製品名:QuickGrain Standard、(株)イノテック製)にて解析し、油剤の粒度分布の全体領域に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の膨潤糸の細孔径分布と油剤の粒度分布の重なる領域の割合を算出した。
1300℃の高温熱処理炉にて約1.5分間処理した後に高温熱処理炉の出側にて5分間毛羽の発生数を数え、焼成工程通過性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:毛羽の発生数が20個未満である。
×:毛羽の発生数が20個以上である。
樹脂含浸炭素繊維束のストランド試験体の調製及び強度の測定を、JIS R7608に準拠して実施した。
アクリロニトリル98質量%、メタクリル酸2質量%からなる重合体をジメチルホルムアミドに溶解し、重合体の濃度が23質量%の紡糸原液を調製した。0.15mmの孔径の紡糸口金から該紡糸原液を吐出し、一旦気体層を走行させた後、直ちに凝固浴に導入し、凝固糸を得た。凝固液は、脱イオン水/ジメチルホルムアミド=20/80(質量比)、温度10℃とした。紡糸ドラフトが4.5倍になるように凝固糸を引き上げた後、凝固液中で第一延伸工程を行った。該第一延伸工程における凝固液の温度は60℃とし、凝固浴中での延伸倍率は3.0倍に設定した。その後、凝固糸を温水中で洗浄した。
第二延伸工程での熱水の温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は3%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は0%であった。焼成工程通過性は良好であり、ストランド強度は694kgf/mm2であった。評価結果を表1に示す。
第二延伸工程での熱水の温度を75℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は7%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は0%であった。焼成工程通過性は良好であり、ストランド強度は687kgf/mm2であった。評価結果を表1に示す。
膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤として平均粒子径が0.12μmのアミノ変性シリコーン油剤を用いた以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は6%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は0%であった。焼成工程通過性は良好であり、ストランド強度は689kgf/mm2であった。評価結果を表1に示す。
第二延伸工程での熱水の温度を75℃に変更し、膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤として平均粒子径が0.12μmのアミノ変性シリコーン油剤を用いた以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は12%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は0%であった。焼成工程通過性は良好であり、ストランド強度は693kgf/mm2であった。評価結果を表1に示す。
膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤として平均粒子径が0.07μmのアミノ変性シリコーン油剤を用いた以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は25%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は1%であった。焼成工程通過性は良好であり、ストランド強度は690kgf/mm2であった。評価結果を表1に示す。
第二延伸工程での熱水の温度を45℃に変更し、膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤として平均粒子径が0.07μmのアミノ変性シリコーン油剤を用いた以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は45%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は3%であった。焼成工程通過性は良好であったが、ストランド強度は600kgf/mm2であり、実施例と比較して大幅に低下した。評価結果を表1に示す。
第二延伸工程での熱水中の滞在時間を0.8秒に変更し、膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤として平均粒子径が0.07μmのアミノ変性シリコーン油剤を用いた以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は41%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は3%であった。焼成工程通過性は良好であったが、ストランド強度は617kgf/mm2であり、実施例と比較して大幅に低下した。評価結果を表1に示す。
膨潤糸に付与するアミノ変性シリコーン油剤を、平均粒子径が0.06μmであり、粒度分布が幅広く2つのピークを有する油剤に変更した以外は、実施例1と同様の条件にてアクリル繊維及び炭素繊維束を製造した。膨潤糸の細孔径分布の領域に対する、膨潤糸の細孔径分布の領域と油剤の粒度分布の領域との重なる領域の割合は22%であった。また、油剤全体の体積に対する、膨潤糸の平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計の割合は12%であった。焼成工程通過性は良好であったが、ストランド強度は580kgf/mm2であり、実施例と比較して大幅に低下した。評価結果を表1に示す。
Claims (3)
- アクリロニトリル系重合体を凝固液中で紡糸して凝固糸を得る工程と、
前記凝固糸を熱水中で延伸して膨潤糸を得る工程と、
前記膨潤糸に油剤を付与する工程と、
油剤の付与された前記膨潤糸を乾燥する工程と、
をこの順で含むアクリル繊維の製造方法であって、
前記膨潤糸に油剤を付与する工程において、前記油剤を付与する膨潤糸の細孔径分布の領域と、前記油剤の粒度分布の領域との重なる領域が、前記細孔径分布の領域に対して30%以下であり、
前記油剤を付与する膨潤糸の平均細孔径が、前記油剤の平均粒子径よりも小さく、
前記平均細孔径より小さい粒子径の油剤の体積の合計が、油剤全体の体積に対して5%以下であり、
前記膨潤糸を得る工程において、前記熱水の温度が50〜98℃であり、前記凝固糸の熱水中の滞在時間が1秒以上5秒以下であるアクリル繊維の製造方法。 - 前記膨潤糸を得る工程において、熱水中での延伸倍率が0.9倍以上2.0倍以下である請求項1に記載のアクリル繊維の製造方法。
- 前記油剤がシリコーン系油剤である請求項1又は2に記載のアクリル繊維の製造方法。
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