JPH05339813A - アクリロニトリル系繊維及びその製法 - Google Patents

アクリロニトリル系繊維及びその製法

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JPH05339813A
JPH05339813A JP4346989A JP34698992A JPH05339813A JP H05339813 A JPH05339813 A JP H05339813A JP 4346989 A JP4346989 A JP 4346989A JP 34698992 A JP34698992 A JP 34698992A JP H05339813 A JPH05339813 A JP H05339813A
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彰 初鹿野
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省治 林
Yoshitaka Imai
義隆 今井
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 短時間の焼成で高強度かつ高弾性率の炭素繊
維を製造可能なアクリロニトリル系繊維を提供する。ま
た、長時間糸切れすることなく毛羽の少ない前駆体繊維
を湿式紡糸する方法を提供する。 【構成】 アクリロニトリル96.0〜98.5重量
%、アクリルアミド1.0〜3.5重量%、およびメタ
クリル酸0.5重量%以上を構成成分とするアクリロニ
トリル系共重合体であって、この共重合体中のアクリル
アミドの重量%Aとメタクリル酸の重量%Mとが以下の
式(I)及び(II)を満たす共重合体からなる繊維で
あって、ヨウ素吸着量が繊維重量あたり1重量%以下で
あるアクリロニトリル系繊維。 X=0.21〜0.23 (I) M+AX=1.82〜2.18 (II) また、前記組成の共重合体を凝固繊維の引張弾性率を約
2.0〜3.0g/d(d=デニールは凝固繊維中の重
合体の重量に基づいたもの)として湿式紡糸する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭素繊維あるいは黒鉛
繊維の製造に適したアクリロニトリル系繊維及びその製
法に関する。
【0002】
【従来の技術】アクリルニトリル系繊維を前駆体とする
炭素繊維および黒鉛繊維(以下、一括して「炭素繊維」
という)はその優れた力学的性質により、航空宇宙用途
を始め、スポーツ、レジャー用途等の高性能複合材料の
補強繊維素材として商業的に生産・販売されている。そ
して市場においてはこれらの複合材料の高性能化のため
に高品質でかつ安価な炭素繊維が要求されている。
【0003】炭素繊維の前駆体としてのアクリルニトリ
ル系繊維(以下「前駆体繊維」という場合がある)の原
料となる共重合体の組成や紡糸方式等について従来から
数多くの提案がなされている。 例えば、共重合体の組
成については、炭素繊維の高性能化を目的としてアクリ
ロニトリル成分が高含量なものが提案されている。ま
た、紡糸方式としては乾−湿式紡糸、湿式紡糸が提案さ
れている。乾−湿式紡糸は湿式紡糸法に比べ製造コスト
が高いため製造コストを考慮すると湿式紡糸法が採用さ
れる。しかし、湿式紡糸で得られる繊維は構造の緻密性
が低くまた毛羽が多いため、これを焼成して得られる炭
素繊維の力学的性能は概して不充分である。また紡糸時
に単繊維切れが多いという問題もある。
【0004】前駆体繊維から炭素繊維を製造する場合、
前駆体繊維は耐炎化処理され、次いで炭素化処理され
る。従って前駆体繊維の原料となるアクリロニトリル系
共重合体の選定にあたっては、繊維への賦形性について
ばかりでなく、耐炎化・炭素化工程での熱化学反応特性
及び炭素繊維の性能等について充分に考慮する必要があ
る。即ち、前駆体繊維の共重合体組成は、耐炎化処理工
程における環化反応の円滑化、繊維の融着防止、処理時
間の短縮化、及び、炭素化処理後における前駆体繊維に
対する炭素繊維の収率、炭素繊維の強度、弾性率、伸度
等を考慮して最適範囲が定められるべきである。しかし
ながら、いかなる組成のものが好適であるについて、工
業的に価値のある普遍的なものとして定量的に示した例
は非常に少ない。
【0005】従来提案されてきたものからその知見を纏
めてみると、炭素繊維前駆体用のアクリロニトリル系重
合体としては、アクリロニトリルがその重合体組成にお
いてある程度以上(約90重量%以上)含有されている
ものが好ましいということ、また焼成過程を短時間で通
過するため適当な反応開始基、すなわちニトリル基の環
化縮合反応を促進する官能基(例えばカルボキシル基)
を導入することが有効であること、さらにこれらの条件
を踏まえながら、前駆体繊維への賦形を容易にすべく、
その他のコモノマーを添加するなどして最終的な重合体
組成に導くことなどであり、僅かの定性的知見でしかな
い。
【0006】これまで、例えば重合体組成中アクリロニ
トリルの占める割合が高いものの場合、溶剤への溶解性
が低下し前駆体繊維の製造は極めて限定された方法に依
らざるを得ず、原液濃度も希薄なものになることから、
炭素繊維性能・紡糸賦形性において充分満足なものとな
っていない。
【0007】また紡糸賦形における自由度を広げるべく
コモノマーの含有量を増加したものは、これを用いた前
駆体繊維の焼成熱処理においてフュージング(融着)が
生じ易く、同時に炭素化収率も低下するなど、焼成工程
通過性、炭素繊維の品質・性能の面でなお不十分であ
る。さらに、こういった諸々の課題を克服して、且つよ
り短時間に焼成炭素化が可能な、あるいはこれに有利な
原料重合体の組成を示唆したものは極めて少ない。
【0008】例を挙げると、焼成初期の耐炎化における
環化及び酸化反応性が高い重合体組成にすることで焼成
速度および炭素化収率の向上を図る方法(特公昭47ー
33019号公報)、カルボン酸ビニル単量体を用いる
等重合体組成の限定により重合体製造や紡糸工程での安
定性も配慮しながら焼成時間の短縮を試みたもの(特公
昭51ー7209号公報)、あるいは原料重合体にアミ
ン類や過酸化物を添加する方法(特公昭51ー7209
号公報、特開昭48ー87120号公報)などが提案さ
れている。
【0009】しかしこれらはいずれも重合体組成すなわ
ちコモノマーの種類・含有量の限定範囲が広く、前駆体
繊維の焼成特性などを適正なものに選定しているとは言
えない。さらに耐炎化での反応促進そのものが高速焼成
を可能にすると考えられているが、一方で得られる炭素
繊維の性能はむしろ損なわれる傾向にあり、炭素繊維の
生産性および性能の両面を満足するものは得られていな
い。また重合体へのアミン類や過酸化物等の添加物は、
紡糸原液や前駆体繊維の安定性に種々の悪影響をもたら
し工業的に優れた方法ではない。
【0010】こういった中で、アクリロニトリル/アク
リルアミド/メタクリル酸の3成分系共重合体をポリマ
ー組成とする前駆体繊維が特開昭48ー87120号公
報及び特開昭52ー34027号公報において提案され
ている。即ち、前者にはアクリロニトリル/アクリルア
ミド/メタクリル酸=96/3/1(重量%)の前駆体
繊維が、又、後者にはそれらの割合が95.5/3.0/
1.5(モル%)即ち、93.7/3.9/2.4(重量
%)の前駆体繊維が開示されている。
【0011】しかしながら、これらの公報に開示された
前駆体繊維のポリマ−組成はアクリルアミドとメタクリ
ル酸の合計組成比が過剰である。これらの前駆体繊維を
耐炎化処理すると、表層部の耐炎化反応が急速に進行
し、中心部の耐炎化反応が遅れる。こうして得られる耐
炎化繊維は断面が2重構造のものとなる。この傾向は、
耐炎化処理を短時間で行おうとする場合に顕著になる。
そして断面2重構造の耐炎化繊維からは弾性率の高い炭
素繊維を得ることは困難である。
【0012】一方、特開昭63ー35821号公報はヨ
ウ素吸着量の少ない前駆体繊維を開示しているものの、
この前駆体繊維は実質的にアクリロニトリル/イタコン
酸の2成分系であり、本願発明の前駆体繊維とは共重合
成分が異なっている。又、前駆体繊維中のアクリロニト
リルの含有量は本願発明のものより多く実質的に99重
量%以上である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記特開昭
52ー34027号公報記載の方法では、耐炎化処理時
間は50〜100分と長時間であるにも拘らず、得られ
る炭素繊維は強度が300Kg/mm2以下である。また、前
記特開昭48ー87120号公報記載の方法でも、耐炎
化処理時間は40分と長時間であり、得られる炭素繊維
は強度が400Kg/mm2以下である。即ち、従来はアクリ
ロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸の三成分系
共重合体の前駆体繊維は提案されているものの、短時間
の耐炎化処理で高性能炭素繊維を製造可能なものは知ら
れていなかった。
【0014】またこの様な三成分系共重合体を紡糸原料
として、長時間糸切れすることなく毛羽の少ない前駆体
繊維を湿式紡糸する技術は知られていなかった。
【0015】本発明の目的は、より短時間の焼成で高強
度かつ高弾性率の炭素繊維を製造可能なアクリロニトリ
ル系繊維を提供することにある。また、本発明の目的
は、長時間糸切れすることなく毛羽の少ない前駆体繊維
を湿式紡糸する方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、アクリ
ロニトリル96.0〜98.5重量%、アクリルアミド
1.0〜3.5重量%、およびメタクリル酸0.5重量
%以上を構成成分とするアクリロニトリル系共重合体で
あって、この共重合体中のアクリルアミドの重量%Aと
メタクリル酸の重量%Mとが以下の式(I)及び(I
I)を満たす共重合体からなる繊維であって、ヨウ素吸
着量が繊維重量あたり1重量%以下であるアクリロニト
リル系繊維にある。 X=0.21〜0.23 (I) M+AX=1.82〜2.18 (II) また、本発明の要旨は、前記組成の共重合体を湿式紡糸
して繊維を製造する方法において、凝固繊維の引張弾性
率を約2.0〜3.0g/d(d=デニールは凝固繊維
中の重合体の重量に基づいたもの)とすることを特徴と
するアクリロニトリル系繊維の製法にある。
【0017】本発明の前駆体繊維を構成する共重合体
は、アクリロニトリルが96.0〜98.5重量%、ア
クリルアミドとメタクリル酸の合計量が4.0〜1.5
重量%の範囲にあるアクリロニトリル系共重合体であっ
て、この共重合体中のアクリルアミドとメタクリル酸の
量が特定の範囲にある。本発明者等は、アクリロニトリ
ルとメタクリル酸を含有する前駆体繊維の耐炎化反応性
が、少量(共重合体中の含有量約1.0重量%以上)の
アクリルアミドが共存することで急激に増大すること、
及び、アクリルアミドとメタクリル酸の組成が特定範囲
にある場合に耐炎化反応特性が著しく優れていることを
見いだし、本発明を完成した。
【0018】共重合体中のアクリロニトリルが96.0
重量%未満の場合は、焼成工程で繊維の熱融着を招き炭
素繊維の品質ならびに性能を損なうこととなる。また、
重合体自体の耐熱性が低いために、前駆体繊維を紡糸す
る際、繊維の乾燥あるいは加熱ローラーによる延伸の様
な工程において、単繊維間の接着が生じ易い。また共重
合体中のアクリロニトリルの含有量が98.5重量%を
超える場合には、後で詳しく述べるように共重合体中の
アクリルアミドおよびメタクリル酸の含有量が所定量以
下となり、本願発明の目的を達成することができなくな
るため好ましくない。
【0019】アクリルアミドの含有量が1.0重量%未
満の場合前駆体繊維の構造が充分緻密なもの(すなわち
ヨウ素吸着量が1重量%以下)になり得ず、従って得ら
れる炭素繊維の性能も際立ったものとなり得ない。また
この領域では微妙な組成の変動が耐炎化反応性に大きく
影響し、安定した炭素繊維生産が困難となる。また共重
合体中のアクリルアミドの含有量が3.5重量%を超え
ると、共重合体中のアクリロニトリルの含有量が少なく
なり、前述したように共重合体の耐熱性が低下するため
に好ましくない。
【0020】メタクリル酸の含有量が0.5重量%未
満、あるいは前記の式(II)の値が1.82未満の場
合は、耐炎化反応が遅いため短時間の焼成では高性能な
炭素繊維を得ることができない。そして短時間で耐炎化
処理する場合は耐炎化温度を高温にせざるを得ないの
で、暴走反応を招き、工程通過性、安全性の面で問題と
なる。一方、前記の式(II)の値が2.18より大き
い場合は、耐炎化反応性は高くなるので、耐炎化処理時
に繊維の表層付近が急速に反応する一方、中心部の反応
が遅れるため耐炎化繊維は断面2重構造を形成する。こ
の傾向は耐炎化処理時間の短縮に従って顕著となり、炭
素繊維性能、特に弾性率が急激に低下する。
【0021】メタクリル酸の量は前記の範囲にあればよ
いが、適正な耐炎化反応性さえ確保できでばメタクリル
酸含有量はより少ない方が好ましい。これはメタクリル
酸がアクリルニトリルとの共重合においてポリマー鎖中
にブロック的に参入し易いことから、焼成段階で効率的
に環構造へ組み込まれにくいためである。
【0022】一方アクリルアミドはアクリルニトリルと
ランダム共重合性が高く、しかも熱処理によりアクリロ
ニトリルときわめて似通った形で環構造形成されると考
えられ、特に酸化性雰囲気中での熱分解は非常に少ない
ので、メタクリル酸と比較すると多量に含有させること
ができる。
【0023】本発明の前駆体繊維のヨウ素吸着量は繊維
重量あたり1重量%以下である。前駆体繊維のヨウ素吸
着量が1重量%を超えると繊維構造の微細性・緻密性が
損なわれ不均質なものとなり、繊維の欠陥点を形成する
こととなる。従ってヨウ素吸着量が1重量%を超える前
駆体繊維を用いて焼成して得られる炭素繊維は緻密性が
低下しまた構造欠陥を有するために、優れた引張強度や
引張弾性率を発揮することができない。
【0024】尚、本発明においてヨウ素吸着量とは以下
の方法によって測定される値をいう。 前駆体繊維2g
を精ひょう採取し100mlの三角フラスコに入れる。
これにヨウ素溶液(ヨウ化カリウム100g、酢酸90
g、2、4−ジクロロフェノール10g、ヨウ素50
g、を蒸留水に溶解し1000mlの溶液とする)10
0mlを入れ60℃で50分間振とうしヨウ素吸着処理
を行う。この後吸着処理糸を30分間イオン交換水にて
洗浄し、さらに蒸留水にて洗い流した後遠心脱水する。
脱水糸を300mlビーカーに入れジメチルスルホキシ
ド200mlを加え60℃にて溶解する。この溶液をN
/100硝酸銀水溶液で電位差滴定しヨウ素吸着量を求
める。
【0025】本発明の前駆体繊維は表面粗滑係数が2.
0〜4.0の範囲にあることが好ましい。表面粗滑係数
がこの範囲にあるものは湿式紡糸法によって得ることが
できる。表面の凹凸度がこの程度であると耐炎化処理時
の繊維間の融着が抑制されるので耐炎化処理時の工程通
過性が良好になる。また、得られた炭素繊維をプリプレ
−グ等のコンポジットに成形する際にマトリックス樹脂
の炭素繊維間への含浸性が向上する。
【0026】尚、表面粗滑係数とは以下の方法によって
測定される値をいう。測定に際して走査型電子顕微鏡装
置のコントラスト条件は磁気テープを標準試料として調
整される。すなわち、標準試料として高性能磁気テープ
を使用し、加速電圧:13KV、倍率:1000倍、ス
キヤンニング速度:3.6cm/秒の条件下に二次電子曲
線を像映せしめ、その平均振幅が約40mmとなる様コン
トラスト条件が調整される。ついで、かかる調整後、供
試プレカーサーの繊維軸に直角の方向(繊維直径方向)
に一次電子を走査させ、以つて繊維表面から反射される
二次(反射)電子曲線をラインプロフアイル装置を用い
てブラウン管上に像映させ、これを10000倍の撮影
倍率でフイルムに撮影する。なお、この際の加速電圧は
13KV、スキヤンニング速度は0.18cm/秒であ
る。この様にして得られた二次電子曲線写真を更に焼付
時に2倍に引き延ばして、即ち倍率は合計20000倍
として二次電子曲線図(写真)とする。その典型的な例
を図1に示す。同図においてdは繊維直径、d’は繊維
直径の左右両端部をそれぞれ20%除いた領域、即ち繊
維直径の中心部60%の直径方向長さであり、d’=
0.6dとして表わされる。また、lは d’の範囲に
おける二次電子曲線の全長(直線換算長さ)である。表
面粗滑係数はl/d’で表わされる。
【0027】次に本発明の前駆体繊維の製造法について
説明する。本発明で使用されるアクリロニトリル系重合
体の重合方法は溶液重合、スラリー重合等公知の方法の
何れにも限定されないが、未反応モノマーや重合触媒残
査、その他の不純物を極力除くことが好ましい。また前
駆体繊維紡糸での延伸や炭素繊維性能発現性などの点か
ら、重合体の重合度は極限粘度[η]が0.8以上のも
のが好ましい。紡糸賦形に際して用いる溶剤は有機、無
機の公知のものを使用することができる。
【0028】本発明の前駆体繊維は湿式紡糸法、乾−湿
式紡糸法のいずれによっても製造できるが、コストの点
から湿式紡糸法が有利である。湿式紡糸は基本的には紡
出、凝固、延伸(浴中、あるいは空気中および浴中)お
よび乾燥緻密化の工程からなる。
【0029】本発明者らは湿式紡糸における工程糸であ
る凝固繊維の引張弾性率と、この繊維を後処理して得ら
れる最終的な前駆体繊維の単繊維切れ・毛羽等前駆体繊
維としての品質を損なう現象との関係を見いだした。す
なわち凝固繊維の引張弾性率が約2.0〜3.0g/d
(d=デニールは凝固繊維中の重合体の重量に基づいた
もの)である場合、該凝固繊維をさらに延伸・洗浄・乾
燥等の後処理して得られる前駆体繊維は、単繊維切れ・
毛羽が極めて少なく、湿式紡糸法によって得られたもの
であるにもかかわらず安定した高品質を有するものであ
る。
【0030】凝固繊維の引張弾性率は以下の点を考慮し
て前記範囲に制御される。例えば共重合体の組成、溶
剤、原液濃度、凝固液濃度、ノズル、吐出量をある値に
定めた時に引張弾性率が2.0g/dより小さい場合
は、引張弾性率を増大させる条件として、原液濃度の増
加、凝固液濃度の増加、凝固液温度の上昇、紡糸ドラフ
トの増加が挙げられる。また逆に引張弾性率が3.0g
/dより大きい場合は、これと反対の条件に設定され
る。適当な条件としては、極限粘度[η]が1.5〜
2.0程度の共重合体を使用する場合は、紡糸原液の共
重合体濃度は15〜30重量%程度、凝固液濃度は65
〜75重量%程度であることが好ましい。
【0031】凝固繊維の引張弾性率が約2.0g/d未
満の場合、凝固液中など紡糸工程の初期段階において不
均一な伸張を招き、得られる繊維束の繊度も極めて不均
一なものとなる。さらに紡糸各工程での延伸性の変動が
顕著になり安定した連続紡糸が困難となる。一方、引張
弾性率が約3.0g/dを超えると、凝固浴中での単繊
維切れおよび後工程での延伸性低下を招き、機械的特
性、品質および生産の安定性のすべてにおいて満足でき
る前駆体繊維を得ることが困難となる。また凝固繊維の
引張弾性率が本発明の範囲から外れていると、前駆体繊
維から高強度・高弾性率の炭素繊維は得られ難い。
【0032】本発明において延伸方法は特に限定されな
いが通常は浴中延伸法が採用される。浴中延伸工程にお
いては凝固繊維を直接延伸してもよいし、また空気中に
て凝固繊維をあらかじめ延伸した後に浴中延伸してもよ
い。浴中延伸は通常50〜98℃の延伸浴中で1回ある
いは2回以上の多段に分割するなどして行われ、その前
後あるいは中間に水洗を行ってもよい。これらの操作に
よって凝固繊維を浴中延伸完了時までに約6倍以上延伸
されることが好ましい。
【0033】浴中延伸、洗浄後の繊維は公知のいずれの
方法のよっても油剤処理、乾燥緻密化が可能であるが、
乾燥速度、設備の簡便さ、繊維の緻密化効果などを考慮
した場合100〜200℃程度の加熱ローラーによる方
法が好ましい。また必要に応じて乾燥緻密化前あるいは
後に、繊維をさらに高温の加熱ローラーあるいは加圧ス
チームによって延伸を施してもよい。
【0034】このようにして得られた前駆体繊維は公知
の方法によって耐炎化処理、炭素化処理される。
【0035】
【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明す
る。実施例及び比較例において「%」は「重量%」を表
す。 (イ)「共重合体組成」:1H−NMR法(日本電子G
SX−400型超伝導FT−NMR)により測定した。 (ロ)「凝固繊維の引張弾性率」:凝固繊維束を採取
後、速やかに温度23℃、湿度50%の雰囲気中、試料
長(掴み間隔)10cm、引張速度10cm/minに
てテンシロンによる引張試験を行う。弾性率表示は、下
式により凝固繊維束のデニール(d;凝固繊維束900
0mあたりの重合体の占める重量)を求め、g/dにて
示した。 d=9000×f×Qp/V f:フィラメント数、Qp:ノズル1ホールあたりの重
合体吐出量(g/min)、V:凝固繊維引取速度(m
/min) (ハ)「重合体の極限粘度[η]」:25℃のジメチル
ホルムアミド溶液で測定した。 (ニ)「炭素繊維のストランド強度・弾性率」:JIS
−7601に準じて測定した。
【0036】実施例1 アクリロニトリル97.1%、アクリルアミド2.0
%、メタクリル酸0.9%からなり極限粘度[η]が
1.7の共重合体を、共重合体濃度23%でジメチルホ
ルムアミドに溶解して紡糸原液とした。この紡糸原液を
12000ホールのノズルを用いて濃度70%、温度3
5℃のジメチルホルムアミド水溶液中に湿式紡糸した。
得られた凝固繊維の引張弾性率は2.3g/dであっ
た。この凝固繊維を沸水中で7倍延伸しながら洗浄・脱
溶剤した後、シリコン系油剤溶液中に浸漬し、140℃
の加熱ローラーにて乾燥緻密化を行うことにより前駆体
繊維を得た。紡糸工程中、単繊維切れ・毛羽の発生はほ
とんど認められず、安定性は良好であった。この繊維の
ヨウ素吸着量は0.8%であり、表面粗滑係数は3.1
であった。この繊維を空気中230〜260℃の熱風循
環式耐炎化炉にて5%の伸張を付与しながら30分熱処
理し、繊維密度が1.368g/cm3の耐炎化繊維と
なし、引き続き該繊維を窒素雰囲気下最高温度600
℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに同
雰囲気下で最高温度が1400℃の高温熱処理炉にて−
5%の伸張の下、約1.5分間処理した。得られた炭素
繊維のストランド強度は476kg/mm2、ストラン
ド弾性率は26.8ton/mm2であった。尚、同前
駆体繊維を耐炎化処理時間50分で繊維密度が1.36
0g/cm3となるように耐炎化処理し、以下同条件下
で炭素化処理した場合、ストランンド強度は480kg
/mm2、ストランド弾性率は27.4ton/mm2
あった。炭素繊維性能は殆ど向上せず、耐炎化処理時間
は30分で充分であることが分かった。
【0037】比較例1〜3 実施例1において凝固浴条件を表1に示すものに変更
し、また耐炎化処理時間を50分とし、それ以外は実施
例1と同様にして前駆体繊維を得、焼成した。このとき
の凝固繊維の引張弾性率、前駆体繊維の単繊維切れ・毛
羽の程度・ヨウ素吸着量、及び炭素繊維のストランド特
性を表1に示した。尚、耐炎化処理時間が30分の場合
は炭素繊維の性能は更に低下した。
【0038】実施例2 実施例1と同様のアクリロニトリル系共重合体を用い、
共重合体濃度21%のジメチルアセトアミド溶液を紡糸
原液とし、12000ホールのノズルを用いて濃度70
%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液中に湿式
紡糸した。引き続きこの凝固繊維を空気中にて1.5倍
の延伸を施した後、沸水中で延伸しながら洗浄・脱溶剤
し、以後実施例1と同様にして前駆体繊維を得、更に焼
成した。前駆体繊維のヨウ素吸着量、炭素繊維のストラ
ンド特性等を表1に示した。
【0039】比較例4〜8 アクリロニトリル系共重合体の組成を表2の値とし、そ
れ以外の条件は全て実施例2と同様にして前駆体繊維を
得、更に焼成した。前駆体繊維のヨウ素吸着量、炭素繊
維のストランド特性等を表2に示した。尚、比較例4の
場合は耐炎化工程で燃焼・発煙が生じた。
【0040】実施例3〜5 アクリロニトリル系共重合体として表1に示す極限粘度
[η]が1.7のものを用い、共重合体濃度21%のジ
メチルアセトアミド溶液を紡糸原液とし、12000ホ
ールのノズルを用いて濃度71%、温度38℃のジメチ
ルアセトアミド水溶液中に湿式紡糸した。引き続きこの
凝固繊維を、沸水中で6倍に延伸しながら洗浄・脱溶剤
した後、シリコン系油剤溶液中に浸漬し、140℃の加
熱ローラーにて乾燥緻密化を行い、さらに高温の加熱ロ
ールを用いて1.4倍の延伸を施すことにより前駆体繊
維を得た。紡糸工程中、単繊維切れ・毛羽の発生はほと
んど認められず、安定性は良好であった。凝固繊維の引
張弾性率、そして得られた前駆体繊維のヨウ素吸着量を
表1に示した。さらにこの繊維を実施例1と同様の条件
にて焼成して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維のスト
ランド特性を表1に示した。
【0041】比較例9 凝固浴条件を濃度65%、温度38℃のジメチルアセト
ミド水溶液とした以外は実施例5と同様にして前駆体繊
維を得た。このときの凝固繊維の引張弾性率は3.3g
/d、得られた前駆体繊維のヨウ素吸着量は1.9%で
あった。紡糸工程中、凝固浴直後、熱水延伸直後のロー
ラー、および乾燥ローラーに繊維の巻き付きが生じ、ま
た得られた前駆体繊維には毛羽・毛玉が多く見られた。
さらにこの繊維を実施例1と同様の条件にて耐炎化30
分処理で焼成して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の
ストランド特性は強度460kg/mm2、弾性率2
7.2ton/mm2であったが、毛羽・単繊維切れが
多く低品質であった。
【0042】比較例10〜15 アクリロニトリル系共重合体として表3に示す極限粘度
[η]が1.7のものを用い、その他の条件は実施例3
と同様にして紡糸し、焼成した。比較例15の場合は耐
炎化処理工程で毛羽が発生し、またロ−ルへの繊維の巻
き付きが頻繁に起こった。
【0043】実施例6 表1に示す組成の極限粘度[η]が1.7の共重合体
を、共重合体濃度23%でジメチルアセトアミドに溶解
して紡糸原液とした。この紡糸原液を2000ホールの
ノズルを用いて濃度70%、温度35℃のジメチルアセ
トアミド水溶液中に湿式紡糸した。この凝固繊維を空気
中室温下で1.5倍延伸した後、沸水中で4.7倍延伸
しながら洗浄・脱溶剤した。次いでこれをシリコン系油
剤溶液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻
密化を行うことにより1.5デニ−ルの前駆体繊維を得
た。紡糸工程中、単繊維切れ・毛羽の発生はほとんど認
められず、安定性は良好であった。次いでこの繊維を実
施例1と同じ条件で焼成した。前駆体繊維のヨウ素吸着
量、炭素繊維のストランド特性等を表1に示した。
【0044】比較例16 アクリロニトリル系共重合体の組成を表3の値とし、そ
れ以外の条件は全て実施例6と同様にして前駆体繊維を
得、更に焼成した。前駆体繊維のヨウ素吸着量、炭素繊
維のストランド特性等を表3に示した。
【0045】比較例17 アクリロニトリル系共重合体の組成を表3の値とし、ま
た凝固濃度を72.5%とした以外は全て実施例6と同
様にして前駆体繊維を得、更に焼成した。前駆体繊維の
ヨウ素吸着量、炭素繊維のストランド特性等を表3に示
した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【発明の効果】本発明の前駆体用繊維は、迅速な耐炎化
処理が可能であり、従来品と比較すると炭素繊維の製造
コストを著しく低下できる。またこれから得られる炭素
繊維は優れた品質・性能を有する。更に、本発明の前駆
体繊維の製法によれば長時間糸切れすることなく毛羽の
少ない前駆体繊維を湿式紡糸することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 表面粗滑係数測定用の二次電子曲線図の一例
である。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成5年5月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正内容】
【0037】比較例1〜3凝固浴条件をそれぞれ濃度60%、温度35℃のジメチ
ルホルムアミド水溶液(比較例1)、濃度73%、温度
35℃のジメチルホルムアミド水溶液(比較例2)また
は濃度70%、温度50℃のジメチルホルムアミド水溶
液(比較例3)とし、 また耐炎化処理時間を50分と
し、それ以外は実施例1と同様にして前駆体繊維を得、
焼成した。このときの凝固繊維の引張弾性率、前駆体繊
維の単繊維切れ・毛羽の程度・ヨウ素吸着量、及び炭素
繊維のストランド特性を表1に示した。尚、耐炎化処理
時間が30分の場合は炭素繊維の性能は更に低下した。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 青木 邦廣 東京都中央区京橋ニ丁目3番19号 三菱レ イヨン株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アクリロニトリル96.0〜98.5重
    量%、アクリルアミド1.0〜3.5重量%、およびメ
    タクリル酸0.5重量%以上を構成成分とするアクリロ
    ニトリル系共重合体であって、この共重合体中のアクリ
    ルアミドの重量%Aとメタクリル酸の重量%Mとが以下
    の式(I)及び(II)を満たす共重合体からなる繊維
    であって、ヨウ素吸着量が繊維重量あたり1重量%以下
    であるアクリロニトリル系繊維。 X=0.21〜0.23 (I) M+AX=1.82〜2.18 (II)
  2. 【請求項2】 アクリロニトリル系共重合体を湿式紡糸
    して繊維を製造する方法において、凝固繊維の引張弾性
    率を約2.0〜3.0g/d(d=デニールは凝固繊維
    中の重合体の重量に基づいたもの)とすることを特徴と
    する請求項1記載のアクリロニトリル系繊維の製法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2000005440A1 (fr) * 1998-07-22 2000-02-03 Mitsubishi Rayon Co., Ltd. Fibre preimpregnee a base d'acrylonitrile destinee a former une fibre de carbone et procede de production
JP2006183174A (ja) * 2004-12-27 2006-07-13 Mitsubishi Rayon Co Ltd 耐炎化繊維の製造方法
JP2011038202A (ja) * 2009-08-10 2011-02-24 Mitsubishi Rayon Co Ltd 炭素繊維前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束

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JP2011038202A (ja) * 2009-08-10 2011-02-24 Mitsubishi Rayon Co Ltd 炭素繊維前駆体繊維束およびその製造方法、ならびに炭素繊維束

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