JP2011030195A - 圧電薄膜素子及びその製造方法、並びに圧電薄膜デバイス - Google Patents

圧電薄膜素子及びその製造方法、並びに圧電薄膜デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】圧電特性の向上を図った圧電薄膜素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に少なくとも下部電極、一般式 (NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜、及び上部電極を配した圧電薄膜素子であって、前記圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら前記の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60%以上100%以下の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が0%以上40%以下の範囲内にあることを特徴と
する。
【選択図】図18

Description

本発明は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜などを用いた圧電薄膜素子及び圧電薄膜デバイスに関する。
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工され、特に電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、逆に素子の変形から電圧を発生するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。アクチュエータやセンサの用途に利用されている圧電体としては、大きな圧電特性を有する鉛系の誘電体、特にPZTと呼ばれるPb(Zr1-xTix)O3系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられており、通常個々の元素からなる酸化物を焼結することにより形成されている。また、近年では環境への配慮から鉛を含有しない圧電体の開発が望まれており、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(一般式:(NaxyLiz)NbO3(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)(以下、LKNNという)等の開発が進められている。このLKNNは、PZTに匹敵する圧電特性を有することから、非鉛圧電材料の有力な候補として期待されている。なお、LKNNは、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)膜を含む。
一方、現在、各種電子部品の小型かつ高性能化が進むにつれ、圧電素子においても小型化と高性能化が強く求められるようになった。しかしながら、従来からの製法である焼結法を中心とした製造方法により作製した圧電材料は、その厚みが特に10μm以下の厚さになると、材料を構成する結晶粒の大きさに近づき、その影響が無視できなくなる。そのため、特性のばらつきや劣化が顕著になるといった問題が発生し、それを回避するために、焼結法に代わる薄膜技術等を応用した圧電薄膜の形成法が近年研究されるようになってきた。
最近、RFスパッタリング法で形成したPZT薄膜が高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、鉛を用いないLKNNの圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平10−286953号公報 特開2007−19302号公報
中村僖良 監修 圧電材料の高性能化と先端応用技術(サイエンス&テクノロジー刊 2007年)
圧電薄膜として非鉛圧電薄膜を形成することにより、環境負荷の小さい高精細高速インクジェットプリンタ用ヘッドや小型低価格なジャイロセンサを作成することができる。その具体的な候補として、LKNNの薄膜化の基礎研究が進められている。
しかしながら従来技術(例えば、特許文献2)では、圧電薄膜の配向等について詳細な検討がなされておらず、高い圧電定数を示す圧電薄膜素子を安定的に実現することができなかった。
本発明の目的は、圧電特性の向上を図った圧電薄膜素子、及び圧電薄膜デバイスを提供することにある。
本発明の一態様によれば、基板上に少なくとも下部電極、一般式(NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜、及び上部電極を配した圧電薄膜積層体において、前記圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら前記の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60%以上100%以下の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が0%以上40%以下の範囲内にある圧電薄膜素子が提供される。
この場合、特に、(001)成分の体積分率が結晶化度が高くなる70%以上100%以下の範囲内が好ましく、(111)成分の体積分率が0%以上30%以下の範囲内が好ましい。
また、前記圧電薄膜は、前記(001)成分と前記(111)成分とが共存した状態であることが好ましく、(111)成分の体積分率は1%より大きいほうがより好ましい。
また、前記圧電薄膜が柱状構造の粒子で構成された集合組織を有していることが好ましい。
また、前記圧電薄膜の一部に、ABO3の結晶層、ABO3の非晶質層、またはABO3の結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含むこともできる。
ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、及びBiの中から選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta及びInの中から選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。
また、前記圧電薄膜が、基板面に対して平行方向に歪を有していてもよい。
また、前記歪が、基板面に対して平行方向に引張応力状態、又は圧縮応力状態の歪を有していてもよい。また、前記圧電薄膜が、内部応力を有しない無歪の状態であってもよい。
また、前記圧電薄膜が、基板面に対して垂直あるいは平行、またあるいは両方向において不均一の歪を有していてもよい。
また、下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
また、下部電極層として、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の層を含む積層構造の電極層としてもよい。
また、上部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
また、上部電極層としてRu、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層としてもよい。
また、前記下部電極層として、その結晶配向性において、基板表面に対して垂直方向に優先配向した単層あるいは積層構造の電極層であることが好ましい。
また、前記基板はSi基板、MgO基板、ZnO基板、SrTiO3基板、SrRuO3基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板の中から選択される1種類の基板としてもよい。特に、前記基板はSi基板であることが好ましい。
本発明の他の態様によれば、基板上に、一般式(NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜を配した圧電薄膜積層体において、
前記圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら前記の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、前記優先配向している結晶軸の成分である(001)成分と(111)成分とが共存状態であり、かつ(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60%より大きく100%より小さい範囲内にあり、(111)成分の体積分率が40%より小さい範囲内にある圧電薄膜素子が提供される。
また、前記基板と前記圧電薄膜との間に下地層を有しても良い。下地層にはLaNiO3やNaNbO3を用いても良く、(111)に優先配向したPt薄膜を用いても良い。
また、本発明の他の態様によれば、上述した圧電薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイスが提供される。
本発明によれば、圧電特性に優れた圧電薄膜素子、及び圧電薄膜デバイスが提供できる。
本発明の実施例1の圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子の断面図である。 本発明の実施例1の圧電薄膜素子における2θ/θスキャンのX線回折パターンの一例を示す図である。 本発明の実施例1のKNN圧電薄膜の結晶構造を示す図である。 本発明の実施例1のKNN圧電薄膜の極図形測定における実験配置図である。 本発明の実施例1のKNN圧電薄膜の特性図であって、(a)は広域逆格子マッピングの測定結果例、(b)は広域逆格子マッピングのシミュレーション例である。 本発明の実施例1のKNN圧電薄膜(KNN−1)の特性図であって、(a)は2次元X線検出器による測定結果例、(b)は(110)回折におけるχ軸方向にそって積算計算させて求めた(111)及び(001)起因のX線反射プロファイルである。 本発明の実施例1のKNN圧電薄膜(KNN−2)の特性図であって、(a)は2次元X線検出器による測定結果例、(b)は(110)回折におけるχ軸方向にそって積算計算させて求めた(111)及び(001)起因のX線反射プロファイルである。 本発明の実施例1の特性図であって、(a)は極図形のステレオ投影図、(b)は極図形のステレオ投影図を直交座標に変換したグラフである。 本発明の実施例2の極図形であって、(a)は(001)配向を極とした(110)極図形のモデル、(b)は(111)配向を極とした(110)極図形のモデルである。 本発明の実施例2のX線回折プロファイルの特性を示す図であって、(a)は図6及び図7で示したX線回折プロファイルの測定結果に対するフィッティング解析を行った例、(b)は図10(a)のフィッティング解析により得られた積分強度に対して、補正係数を考慮した(001)と(111)の体積分率の解析結果例である。 本発明の実施例3のKNN圧電薄膜素子の断面図であって、(a)はKNN圧電薄膜の高配向膜としての概念図、(b)は高配向のKNN圧電薄膜が、基板面に対して結晶粒が傾斜していること示す概念図である。 本発明の実施例4のKNN圧電薄膜のスパッタリング成膜における成膜温度と(111)及び(001)起因の積分強度の相関図である。 本発明の実施例4のKNN圧電薄膜のスパッタリング成膜における成膜温度に対する(001)配向成分と(111)配向成分の変化を示した図である。 本発明の実施例4のKNN圧電薄膜のスパッタリング成膜における成膜温度に対する内部応力の変化を示した図である。 本発明の実施例4の(001)及び(111)優先配向が共存したKNN圧電薄膜の基板面に対して、各優先配向の結晶粒が一定の傾斜角を備えることを示す断面図である。 本発明の実施例5の圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子における、圧電薄膜の(111)起因の積分強度と圧電定数との相関図である。 本発明の実施例5の圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子における、圧電薄膜の(111)配向成分の体積分率と圧電定数との相関図である。 本発明の実施例5となる本発明の圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子における、圧電薄膜の(001)配向成分の体積分率と圧電定数との相関図である。 本発明の実施例3の圧電薄膜を用いた圧電薄膜素子を作製するためのRFスパッタリング装置の概略構成図である。 本発明の実施例5の圧電薄膜を用いた圧電薄膜付き基板(ウェハ)における圧電薄膜の(111)配向成分の体積分率とウェハ面内の圧電定数のばらつき(%)との相関図である。 本発明の一実施形態の圧電薄膜デバイスの概略構成図である。 本発明の圧電薄膜を用いたフィルタデバイスの断面模式図である。
以下、本発明に係る圧電薄膜素子の実施の形態を説明する。
[実施形態の概要]
本発明者は、圧電素子の基幹部位にあたる非鉛系の圧電薄膜において、従来技術では検討されてこなかった結晶配向性を定量的にかつ精密に制御することで、高い圧電定数を示す圧電薄膜素子、及び圧電デバイスを実現できるとの知見を得た。
圧電薄膜の結晶配向性を管理・制御しないと、高い圧電定数が得られず、また、結晶配向性が成膜箇所によって異なるため、圧電定数が素子内で不均一になる。
本発明の実施の態様によれば、構成材料である電極、圧電薄膜等を適切に選定するとともに、圧電薄膜の成膜温度などの成膜条件を制御して、圧電薄膜の優先配向している結晶軸の(001)及び(111)成分の体積分率(結晶配向性の成分比)をそれぞれ所定範囲に規定することにより、圧電特性の高い圧電薄膜素子及びその製造方法を実現することが可能となる。
[圧電薄膜素子の一基本構造]
本実施の形態の圧電薄膜素子は、基板と、前記基板の表面に形成される酸化膜と、前記酸化膜上に形成される下部電極層と、前記下部電極層上に形成される圧電薄膜と、その上に形成される上部電極層とから構成される積層構造を有する。
この圧電薄膜は、ペロブスカイト構造を有するABO3型酸化物であり、その組成として、AサイトはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、及びBiの中から選択される1種類以上の元素であり、BサイトはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta及びInの中から選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。
前記基板には、Si基板、MgO基板、ZnO基板、SrTiO3基板、SrRuO3基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板などの中から選択されるいずれか1種類の基板が挙げられる。特に、低価格でかつ工業的に実績のあるSi基板が望ましい。
基板の表面に形成される前記酸化膜は、熱酸化により形成される熱酸化膜、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜などがあげられる。なお、前記酸化膜を形成せずに、石英ガラス(SiO2)、MgO、SrTiO3、SrRuO3基板などの酸化物基板上に、直接Pt電極などの下部電極層を形成しても良い。
前記下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらを積層した構造の電極層を含む電極層であることが望ましい。また、前記下部電極層は、(111)面には配向して形成されるのが好ましく、基板とPtもしくはPtを主成分とする合金化からなる電極層との間に、基板との密着性を高めるための接着層を設けても良い。(111)面に配向したPt薄膜は、圧電薄膜に対する下地層としても機能する。
前記圧電薄膜としてのABO3型酸化物は、特に、ニオブ酸カリウムナトリウムやニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(以下、LKNNという)、一般式(NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電薄膜がよい。LKNN薄膜に、所定量のTaやVなどがドーピングされても良い。前記圧電薄膜は、RFスパッタリング法、イオンビームスパッタ法あるいはCVD法などを用いて形成される。本実施の形態ではRFスパッタリング法が採用される。
[実施形態による結晶配向制御]
従来は、LKNN膜の結晶配向性について、その詳細な解析と、それをベースにした正確な制御を行っていなかった。すなわち、これまでは当該圧電薄膜の結晶配向性について、ランダムな配向状態にあるのか、あるいは、ある1軸のみがSi基板面に対して垂直方向に優先配向になっているのか、またあるいは特定の2軸あるいはそれ以上の軸が、どの程度の比率で優先配向になっているか等が不明瞭なままになっていた。言い換えれば、当該圧電薄膜の特性決定要因の一つである結晶配向性について、わずかな変化を見出すための正確な定量化を行わず、定性的な評価結果をもとに当該圧電薄膜を作製していたため、所望の高い圧電定数を再現良く得ることが出来なかった。
実際、この(001)優先配向性の状態にあるLKNN膜について、その圧電特性は成膜箇所あるいは生産ロット毎で異なっている。その理由は、当該圧電薄膜の(001)配向の小さな変化を見出せず、更に(001)を含めた(110)や(111)及び(210)配向等について詳細な解析を行わなかったことから、前記した各結晶面の配向性の制御を厳密に行って結晶成長をさせることが困難になっているためである。
例えば、スパッタリング成膜時の投入電力(Power)を増加させることで、Arイオンなどのエネルギー粒子の衝撃により、多くのスパッタ粒子が強制的に一定方向へ基板上に打ち込まれ、その結果として、基板表面の法線方向に対して、大きく傾斜した多結晶粒の圧電薄膜が形成される。このとき、一般に知られている2θ/θスキャンと言われる簡便なX線回折法によって、結晶配向性が概ね(001)優先配向となっていることを確認できるが、本測定においては、サンプルの位置が回折角の軸(θ)以外は固定されるため、実際の結晶配向性を評価することができない。その結果、他の結晶配向成分の共存状態が不明なままとなっていることや、厳密な配向性を現した測定結果を得られないことのため、構造起因の圧電特性の劣化を把握できず、結果として、更なる圧電定数の向上や圧電薄膜の安定生産を実現できないとの知見を得た。
上記知見により、Pt薄膜と圧電薄膜との結晶配向を制御した。
[下部電極層の結晶配向性]
(Pt薄膜の結晶配向)
そこで、はじめに、LKNN膜の結晶配向性を厳密に管理および制御するために、当該圧電薄膜の初期の結晶成長面である下部電極のPt薄膜の結晶性を安定に実現すべく、成膜温度、成膜ガス及び真空度などの最適化を行った。成膜条件として、まず、成膜温度の検討をすすめ、(111)優先配向となる条件として、100〜500℃の成膜範囲が最適温度の範囲にあたることを見出した。成膜ガスとしては、Arガスや、ArとO2の混合ガス,あるいはHeまたはNeまたはKrまたはN2など少なくとも一つ以上の不活性ガスが混合したガスを用いる。
更にPt表面の平滑性を向上するため、基板との密着層であるTi層の均一性を向上させるべく、0.1から数nmの表面平滑なTiを形成し、その上部にPt電極を形成することで、Pt下部電極の表面粗さを数nmの大きさに低減かつ制御することを可能にした。
更にPt下部電極層の膜厚を精密に制御して、Pt下部電極層の表面凹凸を小さくさせ、多結晶であるPt下部電極層について、その結晶粒子のサイズを均一になるように制御して形成することも可能にした。
下部電極層は、その結晶配向性において、基板表面に対して垂直方向に優先配向した単層あるいは積層構造の電極層である。下部電極層は、Ptのみならず、Ptを主成分とする合金、またはPtもしくはPtを主成分とする薄膜(Pt薄膜)であってもよい。さらには、Au、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の層を含んでいてもよい。これらの場合でも、Pt薄膜の場合と同様に成膜温度や成膜ガスの最適化が行うことにより、LKNN薄膜の下地にあたる下部電極薄膜の結晶性を安定に実現できる。作製条件によって圧電薄膜の結晶配向性の状態が変化する。また、その圧電薄膜の内部応力(歪)が圧縮応力あるいは引張応力へと変化する。応力のない状態、すなわち無歪の状態の場合もある。
また、それらの下部電極薄膜を形成する基板の候補としては、Si、MgO、ZnO、SrTiO3、SrRuO3、ガラス、石英ガラス、GaAs、GaN、サファイア、Ge、ステンレス等の結晶あるいは非晶質あるいはそれらの複合体等が望ましく、それらの基板上に、密着層や下部電極層を形成し、その上部にLKNN膜を形成した素子について、LKNN膜の結晶配向性を詳細に比較して、実際に、優先配向性を厳密に制御できる基板の選定をすすめた。
[圧電薄膜の結晶配向]
更に、LKNN膜の優先配向性をより確実に実現するために、上記の実施の形態において、LKNN膜そのものの成膜温度、スパッタリング動作ガスの種類、動作ガス圧力、真空度、投入電力、及び成膜後の熱処理について、圧電特性が向上する結晶配向性を有する当該圧電薄膜の作製条件を見出し、最適化を図ることで達成するのも良い。これらの条件を装置毎やさまざまな環境下に応じて、作製条件や評価及び管理方法などを詳細かつ厳密に検討することによって、(001)や(111)優先配向、あるいは両者が共存して優先配向した擬立方晶のLKNN薄膜を再現よく形成できる。
多結晶あるいはエピタキシャル成長させた単結晶のLKNN膜そのものの優先配向を厳密に制御するために、例えば、(001)配向成分や(111)配向成分が一定の比率の範囲内におさまるように、成膜温度が常に一定となるように精密に設定する。実際の成膜時の加熱装置として、赤外線ランプによる熱輻射、あるいは伝熱板を介したヒータ加熱による熱伝導を用いて、最適な結晶配向成分比となる温度範囲内に収まる設定を行った。
また、前記条件に合わせて、スパッタリング投入電力、成膜装置内に導入されるガスの圧力や流量の大きさを最適な値に決めることや、適切なガス種を選ぶことによって、結晶構造としての(001)および(111)配向を含めた各種配向成分を厳密に制御し、高い圧電定数を示すLKNN膜を安定に再現良く得られる効果を期待できる。
具体的には、ArとO2の混合ガス、またはArガスまたはHeまたはNeまたはKrまたはN2など少なくとも一つ以上の不活性ガスが混合したガスによるプラズマでスパッタリング成膜を行う。LKNN圧電薄膜の成膜には、(NaxyLiz)NbO3 0≦x≦1.0、0≦y≦1.0、0≦z≦0.2 のセラミックターゲットを用いるとよい。
更に、スパッタリングターゲット材の密度も、上記状況に応じて変更させることによっても同様な効果が期待できる。
また、成膜後においても酸素中や不活性ガス中あるいは両者の混合ガス、またあるいは大気中あるいは真空中で加熱処理を行い、圧電薄膜の内部応力等の制御を行うことができる。
このようにして得られるLKNN膜は、柱状構造の結晶粒子で構成された集合組織を有する。また、前記下部電極層が(111)面に配向して形成されている場合、前記圧電薄膜層は前記下部電極層に対し所定方向に優先配向されて形成されている。
また、前記圧電薄膜層は、(001)優先配向結晶粒、(110)優先配向結晶粒および(111)優先配向結晶粒の少なくとも一つが共存した状態にあることが好ましい。このような結晶配向性の状態を実現することによって、内部応力制御による圧電特性向上が可能である。
実施例1の圧電薄膜素子を構成する圧電薄膜は、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれらの結晶構造の少なくとも一つが共存した状態を有している。また、圧電薄膜は、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向している。しかも、圧電薄膜は、前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にあるように形成されている。このような構成とすることにより、結晶方位がランダムになることや内部歪の増大による圧電定数の低下を防ぐことが出来る。(実施例5の図16〜図18)
上述した圧電薄膜の(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、または(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にはいるよう成膜するには、圧電薄膜の成膜条件、例えば、成膜温度を制御することにより実現出来る。(実施例4の図13)
[圧電薄膜の歪み]
前記圧電薄膜の結晶配向性の成分比(体積分率)を制御することによって、基板面に対して平行方向に引張応力状態の歪を有するようにしたり、或いは、基板面に対して平行方向に圧縮応力状態の歪を有するようにしたりすることができる。また、体積分率を制御することにより、前記圧電薄膜が、内部応力を有しない無歪の状態にすることが可能となる。また、体積分率を制御することにより、前記圧電薄膜を、基板面に対して垂直あるいは平行、またあるいは両方向において不均一の歪を有するようにもできる。このように圧電薄膜の体積分率を制御することにより、圧電薄膜の内部応力を制御することが可能となり、所望の内部応力を有する圧電薄膜を得ることが可能になる。(実施例4の図13、図14)
[圧電薄膜デバイス]
上記実施の形態の圧電薄膜付の基板に対して、前記圧電薄膜層の上部に上部電極層15を形成することによって、高い圧電定数を示す圧電薄膜素子を作製でき、この圧電薄膜素子を所定形状に加工したり、電圧印加手段(電圧検出手段)16を設けたりすることにより、各種のアクチュエータやセンサなどの圧電薄膜デバイスを作製することが出来る。(図21)
また、上記実施の形態の圧電薄膜付き基板に対して、前記圧電薄膜の上部に所定のパターンを有するパターン電極51を形成することによって、表面弾性波を利用したフィルタデバイスを作製することができる。(図22)
なお、表面弾性波を利用したフィルタデバイスでは、前記下部電極(Pt薄膜)は、主に下地層として機能する。
上述した圧電薄膜の上部に形成する上部電極層、又は所定のパターンを有するパターン電極は、下部電極層と同様に、PtもしくはPtを主成分とする合金、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。または、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物や圧電薄膜中に含む元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層であってもよい。
[実施の形態の効果]
本発明は、以下に挙げる一つ又はそれ以上の効果を有する。
(1)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、LKNN圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら結晶構造の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にあることにより、結晶方位がランダムになることや内部歪の増大による圧電定数の低下を防ぐことができる。
(2)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、構成材料である圧電性薄膜、電極、基板、接着層を適切に選定するとともに当該材料の作製条件の最適化を図り、そこで得た圧電薄膜の結晶配向度を精密に測定して正確に定量化を図り、圧電薄膜の原子レベル構造を厳密に制御することにより、圧電特性の向上を図ることができる。その結果、高性能な圧電薄膜デバイスを実現すると同時に、当該デバイスの製造歩留りを向上できる。
(3)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、(001)優先配向した結晶粒、及び(111)優先配向した結晶粒が共存した状態にあることにより、内部応力制御による圧電特性向上が可能である。更に応力緩和によって、膜はがれを抑制することが可能であることから、圧電薄膜の機械的強度が向上し、加工容易性に優れた圧電薄膜を提供できる。
(4)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、上記圧電薄膜素子の下部電極として、結晶配向性を制御したPt電極、あるいはPt合金、またあるいはRu、Ir乃至同酸化物やPtと圧電体薄膜中に含む元素との化合物を用いることにより、上部に形成される圧電体薄膜の結晶配向性の高精度制御や素子としての耐環境性の向上が可能となる。
(5)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、基板についても、Siのほか、MgO基板、ZnO基板、SrTiO3基板、SrRuO3基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板等を使用することにより、その上に形成した圧電体薄膜の結晶配向性を制御することができる。
(6)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、本実施の形態により、圧電特性の良好な圧電薄膜を実現することができ、高歩留りで高品質な圧電薄膜素子を得ることが可能になる。
(7)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、鉛を用いない薄膜を備えた圧電薄膜素子であるので、この圧電薄膜素子を搭載することによって、環境負荷を低減させ、かつ高性能な小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical System)等が実現できる。表面弾性波を利用した良好なフィルタ特性を有するフィルタデバイスが実現できる。
(8)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、Si基板を用いてアクチュエータやセンサを作製する場合において、圧電素子の基幹部位にあたる非鉛系の圧電薄膜において、その結晶配向性を定量的にかつ精密に制御・管理しているため、長寿命かつ高い圧電定数を示す非鉛系デバイスを安定に生産することができる。また素子内において、その結晶配向性が部位によって異ならないために、基板上に形成された圧電薄膜の圧電定数が均一となり、製造上の歩留りが向上する。
(9)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、LKNNなどを用いた配向性制御による圧電特性向上を図ることができる。
(10)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、これら圧電薄膜の結晶配向性を安定に制御することによって、圧電薄膜素子や圧電薄膜デバイスの圧電特性向上や安定化を実現できるので、高性能なマイクロデバイスを安価に提供することが可能になる。
(11)また、本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、本発明によれば、LKNN等の圧電薄膜の原子レベル構造を高精度に制御した圧電特性に優れた圧電薄膜素子や圧電薄膜デバイスが得られる。
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
図1〜図8を用いて説明する。
図1に、圧電薄膜付の基板の概要を示す断面図を示す。本実施例においては、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成し、その接着層2の上部に、下部電極層3とペロブスカイト構造のKNNの圧電薄膜層4を順に形成した圧電薄膜素子を作製した。
このとき、前記圧電薄膜層4は、結晶系としては擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶であり、その少なくとも一部にABO3の結晶あるいは非晶質あるいは両者の混合した組成でも良い。ここで、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、及びBiの中から選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta及びInの中から選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。Aサイトの圧電材料としてPbを含む構成とすることもできるが、環境面からはPbを含まない圧電薄膜が求められる。
下部電極層3としては、Pt薄膜あるいはAu薄膜を用いるとよい。またはPt合金、Ir、Ruを含む合金としてもよく、これらの積層構造としてもよい。
以下、圧電薄膜素子の製造方法を記述する。始めに、4インチの円形状のSi基板1の表面に熱酸化膜を形成し、その上に下部電極層3を形成した。なお、熱酸化膜は厚さが150nmとなるよう設けた。
下部電極層3は接着層2として形成した厚さ2nmのTi膜とこのTi膜上に電極層として形成した厚さ100nmのPt薄膜からなる。この電極層の形成にはスパッタリング法を用いた。図19に示すスパッタリング用ターゲット12として金属ターゲットを用い、成膜時のスパッタリング投入電力は100Wであり、スパッタリング用ガスには100%Arガスを使用している。また形成時には基板温度を350℃にして成膜を行って、多結晶薄膜のPtからなる薄膜を形成した。
次に、この下部電極層上に圧電薄膜層4としてKNN薄膜を形成した。KNN薄膜の成膜にもスパッタリング法を用いて形成した。KNN薄膜の形成は、基板温度を700℃〜730℃、ArとO2の5:5の混合ガスによるプラズマでスパッタリング成膜を実施した。また、ターゲットには(NaxyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0のセラミックターゲットを用いた。膜厚が3μmになるまで成膜を行った。また、成膜後において大気中で加熱処理を行った。なお、スパッタには自公転炉を用い、スパッタ時の基板とターゲット間の距離(以下、TS間距離)は50mmとした。
こうして作製したKNN膜について、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されていた。一般的なX線回折装置で結晶構造を調べた結果、基板加熱を行って形成した実施例1のPt薄膜は、図2のX線回折パターン(2θ/θスキャン測定)に示すように、基板表面に垂直な向きに(111)面に配向した薄膜が形成されていることが判った。
この(111)に優先配向したPt膜上に、KNN膜を形成した結果、作製されたKNN薄膜は、図3に示す擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であることが判明した。また、図2のX線回折パターンから分かるように、(001)、(002)、(003)の回折ピークのみを確認できることから、KNN圧電薄膜が概ね(001)に優先配向していることが予想できた。
本実施例1においては、意図的に結晶配向性を制御したKNN圧電薄膜について、当該のKNN薄膜の配向性を詳細かつ精密に評価するために、極図形(Pole figure)の測定を行った。Pole figureは、ある特定の格子面における極の広がりをステレオ投影した図であり、多結晶の配向の状態を詳細に評価することができる解析方法である。詳細については、引用例1(理学電気株式会社編、X線回折の手引き、改訂第4版、(理学電気株式会社 1986年))、引用例2(カリティ 著、新版X線回折要論、(アグネ、1980年))を参照されたい。
優先配向であることの定義は、前記した極図形の測定で明らかにすることができる。多結晶体で構成された物質(薄膜を含む)について、個々の結晶粒子が、ある一定方向に「優先配向」した状態にある場合、当該物質の極図形測定においては、特定の角度の位置にスポット状あるいはリング形状のデバイリング等、X線反射の局所的な分布を必ず見出すことが出来る。
一方、前記物質の個々の結晶粒が任意の方向にあるとき、言い換えれば「ランダム配向」にある場合は、極図形においてスポット状やリング形状のX線の反射を見出すことができない。これらのX線反射の有無によって、当該圧電薄膜が優先配向しているかいないかを判断しており、優先配向の存在の定義としている。
本実施例1の圧電薄膜素子における構造解析においては、大面積のX線検出域をもつ2次元検出器を搭載した高出力X線回折装置であるBruker AXS社製の「D8 DISCOVER with Hi Star,VANTEC2000(登録商標)」を用いた。本実施例においては、KNN薄膜の(110)を極としたPole figureを測定した。
図4に本実施例で行ったPole figureの測定配置の概念図を示す。これはSchultzの反射法と呼ばれる方法である。従来のPole figure測定では、使用されるX線検出器が0次であることが多いため、図4に示すχ(α)軸とφ(β)軸を同時に走査する必要があり、それに伴い測定に長時間を要していた。しかし、本実施例では大面積の2次源検出器(D8 DISCOVER with Hi Star,VANTEC2000(登録商標))を使用したため、前記2軸の走査に伴う0次検出器の動作がほとんど不要であることから、短時間の測定が可能になった。このため、様々な条件で作製したKNN薄膜の結晶配向性の解析結果を大量かつ迅速に取得できるようになり、本実施例の結晶構造を有するKNN圧電薄膜を実現することができた。
図5に、実施例1の圧電薄膜における広域逆格子点マップの解析結果を示す。横軸は、2θ/θであるX線回折角、縦軸は、図4に示す回折角度の軸(2θ/θ)と垂直方向にあたるχ軸である。また、右横の棒グラフはX線反射の強度を白黒階調で現したものであり、同マップ上のX線反射強度の目安である。
図5(a)にはKNNの実際の解析結果を示しており、図5(b)には、比較のための(001)/(111)配向のKNN薄膜における逆格子点シミュレーションの結果を示している。○は(001)配向KNNから回折X線、●は(111)配向KNNからの回折X線を表している。このとき使用したシミュレーションプログラムはBruker AXSが提供しているSMAP/for Cross Sectional XRD-RSMである。
両図を比較して分かるように、110回折に相当する2θ/θが約32°において、χ=45°を中心にした15°から75°の範囲で(001)配向及び(111)配向における110回折の2つを確認できた。この解析結果は当該圧電薄膜において(001)と(111)配向の共存を示唆したものである。通常の2θ/θスキャンのX線回折測定だけではχ軸方向のX線回折プロファイルを測定できないため、本実施例における解析結果は、圧電薄膜の特性向上に関わる新たな構造パラメータの一つを見出した事例である。
図6に、実施例1における実際の当該圧電薄膜のX線回折測定結果を示している。図6(a)は、X線2次元検出に記録された試料KNN−1からの回折X線を示したものであり、弧を描くような形状をもつ黒い斑点状の模様が回折X線の反射に相当する。また、弧を描く方向が前記のχ軸方向にあたり、弧に対して法線方向の矢印が2θ/θの方向に該当する。2θ/θが約32°における回折X線に注目すると、2つのX線反射の斑点が重なっている様子が見える。このとき左側の反転がKNNの(111)配向起因のX線反射であり、右側の斑点がKNN(001)配向起因のX線反射であることがわかっている。
これらの結果をもとに、扇形形状で積算範囲の設定を行うことによって、(001)と(111)配向起因の反射X線スペクトルのそれぞれを表すことができる。本実施例の積算においては、χ軸が17.5°から72.5°までの範囲において、2θ/θ軸方向の積算を31.4°から32.4°の範囲で行った。
図6(b)に、その結果を示す。横軸はχ軸、縦軸は前記した積算条件により求めたX線回折強度である。(001)及び(111)配向起因の反射X線スペクトルのそれぞれを見出すことができる。
図7に、実施例1における他の試料KNN−2薄膜における実際の当該圧電薄膜のX線回折測定結果を示している。図6と同様に、2つの配向起因のスペクトルを見出していることが分かる。但し、(001)配向起因のX線強度と(111)配向起因のX線強度の大きさが、図6で示す結果と異なっており、特に(001)配向起因と(111)配向起因の強度比に明確な違いが見出されていることが分かる。
本実施例においては、図6(b)や図7(b)のプロファイルについてフィッティング関数による計算を行い、X線反射強度及びその比の定量化を実施した。
図8に、実施例1の当該圧電薄膜の(110)極図形の測定結果例を示す。ここで図8(a)に示すように、動径方向をχ(α)軸、円周方向をφ(β)軸とした。動径方向のχ軸において、中心からの角度が45°付近に(001)の回折面に相当する環(デバイリング)が観察された。一方、35.3°付近には(111)の回折面にあたるデバイリングが見出された。特に、各々のデバイリングは同心円の配置からはずれており、中心からわずかに偏心していることが分かる。結果として、円周方向のφ軸において、0°から約80°、そして約330°から360°の範囲において、(001)配向起因と(111)配向起因の反射X線が重なっていることが分かる。このとき、それぞれの配向成分の強度を正確に計算することは非常に困難である。
従って、この問題点を解消するためには、図4に示した測定配置について、試料の面内回転方向の位置(ここではφ軸に相当)を考慮する必要がある。また、最適なφ軸が不明な場合は、極図形の測定結果をもとに、(001)配向起因と(111)配向起因の反射スペクトルが明確に分離するφ軸を決定する必要がある。そのため、各々のデバイリングの偏心状態を正確に把握し、(001)配向方向と(111)配向方向の間の角度に相当するδが最大となるφ軸の角度を求めることが重要である。
本実施例では、このδを正確に求めるために、図8(a)に示す動径方向のχ(α)軸と円周方向をφ(β)軸とした極座標系のグラフを、横軸をχ軸、縦軸をφ軸とした直交座標系のグラフに変換した。図8(b)に直交座標系に変換したχ―φのグラフを示す。図8(b)をもとに、δの角度が最大となるφ軸の位置(図8(b)中における点線)におけるX線反射プロファイルについて、各配向成分の積分強度計算を行った。尚、ここで得られる積分強度は、Gauss関数やLorents関数及びそれらのコンボリューション関数であるPseudo Voight関数、Pearson関数、及びSplit Pseudo Voight関数等の分布関数を用いたスペクトルフィッティング解析によって求められる。
上述したように実施例1によれば、配向成分の強度を正確に計算するには、(001)配向方向と(111)配向方向の間の角度に相当するδの角度が最大となるφ軸の位置におけるX線反射プロファイルについて、各配向成分の積分強度計算を行えばよいことが分かった。
(実施例2)
図9〜図10を用いて説明する。
次に、(001)配向成分と(111)配向成分の回折強度比を正確に求めるにあたり、それぞれのX線回折強度の補正値について検討を行う必要がある。そのために(001)と(111)の極図形について考察を行った。
図9に、極図形のシミュレーション結果を示す。図9(a)は(001)を極とした極図形のシミュレーション結果である。本図に示すように(001)配向のKNNの(110)回折は4つの等価な回折が寄与していることが分かる。このとき補正係数は4と考えられる。一方、(111)配向のKNNの(110)回折は、図9(b)の(111)を極とした極図形のシミュレーション結果から、3つの等価な回折が寄与しているため、補正係数は3であることが分かる。したがって、実施例1において記載した積分強度計算から求めた(001)配向と(111)配向の体積分率が1:1の時、実際の回折強度比は(001):(111)=4:3となる。
次に、図10に、実施例1に示した図6と図7の測定結果を用いて、作製条件の異なるKNN−1とKNN−2の圧電薄膜について、(001)と(111)配向成分比について解析した結果を示す。図10(a)は、図6(b)に示したX線回折のプロファイルに対し、フィッティング関数を適用したものである。滑らかな曲線が、本実施例においてフィッティング関数として用いられたPseudo Voight関数である。(111)及び(100)起因の回折プロファイルに対し、比較的良く一致していることが分かる。このとき、それぞれのプロファイルのピーク位置(本実施例ではχ軸)、積分強度及び半値幅が求められている。ここでは回折強度比を計算することが目的であるため、積分強度に注目することになる。図10(b)に解析結果をまとめた表を示す。実施例1にあげた積分強度は、KNN−1については(111)配向に関する積分強度は298、(001)配向の積分強度は2282であった。
一方、KNN−2については、前者が241、後者が2386であった。これらの積分計算結果に対して前記した補正係数で割ることによって、図10(b)に示す積分強度校正値として、それぞれ配向成分の正確な回折強度が求まる。結果として、(001)配向成分と(111)配向成分の和を100%として解析すれば、KNN−1の体積分率は、(001):(111)=85%:15%、KNN−2は、(001):(111)=88%:12%であり、試料間において、配向成分比が異なることを明らかにした。
(実施例3)
図11、図19を用いて説明する。
実施例1に関して優先配向させたKNN膜を作製することを試みた。実施例3として図11にその断面模式図を示す。また、図19にKNN薄膜を作製するためのRFスパッタリング装置の概略図を示す。酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成した上部に、下部電極層3とペロブスカイト構造のKNNの圧電薄膜層4を形成した圧電薄膜素子である。ここで、多結晶である圧電薄膜は、おのおのの柱状構造の結晶粒子(柱状結晶粒)が概ねある一定方向に整列して形成された集合組織を有している。
本実施例3において、投入電力を100Wに設定し、図19に示すスパッタリング用ターゲット12の中心と基板1中心を一致させて、KNN圧電薄膜4の成膜を行ったとき、図11(a)に示すような、(001)結晶面の法線が基板面の法線方向とほぼ一致した多結晶の圧電薄膜を作製することができた。ここで、柱状結晶粒5は基板に垂直な方向に結晶成長している。このとき、極図形のステレオ投影図による測定においては、(001)と(111)のデバイリングに偏心は見出されず、同心円状に配置されたようにプロットされた。また、前記したステレオ投影図のχ軸とφ軸を、x−y軸が直交軸となったグラフに変換させると波形曲線は見られず、直線状になった。
次に、本実施例において、投入電力を100Wに設定して、図19に示す基板1中心をスパッタリング用ターゲット12中心から数10mmシフトさせた位置に配置して成膜を行った場合、基板面の法線方向に対して、優先配向した結晶粒の結晶面の法線方向がわずかに外れて、傾斜していることを確認できた。このとき、柱状結晶粒6は基板面の法線方向に対して傾斜して結晶成長している(図11(b))。なお、シフト量は、用いる基板サイズや、所望の傾斜角により適宜決定される。4インチSi基板を用いた本実施例では、シフト量を10mmとした。
シフト量を10mmとした本実施例における極図形のステレオ投影図では、図8(a)と同様に、(001)と(111)の2つのデバイリングが観察され、図8(b)と同様に、それぞれの振幅が異なっていることが分かった。すなわち、(001)と(111)の各結晶面の基板面に対するオフ角が異なっていることを表している。このとき、(001)の振幅の解析値は9.9°であった。一方、(111)の振幅の解析値は0.52°であった。結果として、本発明の圧電薄膜は、基板面の法線方向に対して、(001)の結晶配向方向の角度は約5°傾斜しており、(111)の結晶配向方向の角度は約0.3°傾斜していることが分かった。
(実施例4)
図12〜図15を用いて説明する。
本実施例として、(001)の配向成分と(111)の配向成分の体積分率を意図的に変化させて作製した結果を示す。
図12に、スパッタリング成膜法における、成膜温度に対する(111)起因及び(001)起因の回折の積分強度の変化を示す。(001)起因の回折強度が成膜温度の上昇に従い減少していくことが分かる。一方、(111)起因の回折強度については、成膜温度が上昇するに従って、増加していくことが分かる。次に、これらの結果を用いて、実施例2で示した補正係数を考慮した体積分率の成膜温度依存性を検討した。
図13に、スパッタリング成膜法における、KNN圧電薄膜の成膜温度に対する(111)及び(001)配向成分の体積分率の変化を示す。本図に示すように、550℃から650℃の成膜温度範囲においては、(111)配向成分の体積分率はほぼ0であるが、650℃を超えると、成膜温度が増加するに従って(111)配向成分の体積分率は増加することが分かる。
一方、成膜温度に対する(001)配向成分の体積分率の変化については、(001)配向成分が550℃から650℃の範囲においては、ほぼ、100%であり、ほぼ(001)面のみの単独配向状態にあることが分かる。また、650℃を超えれば、成膜温度上昇とともに(001)配向成分の体積分率は次第に減少することが分かる。本実施例においては、成膜温度を変更することで、(111)配向成分と(001)配向成分の比を制御することが可能であることを示している。
また、図14に、スパッタリング成膜法における、KNN圧電薄膜の成膜温度に対する内部応力(歪)の変化を示す。成膜温度が高くなるに従い、圧縮応力が小さくなり、応力のない無歪の状態へと変化することが分かる。700℃〜750℃にまで成膜温度を高くすると、ほぼ無歪から、わずかに引張応力の状態へと変化することが分かる。また、本実施例における内部応力の単位例として、Paがあげられる。
図13と比較すれば分かるように、(111)の体積分率の増加によって圧縮応力が低下することを示している。すなわち、KNN圧電薄膜の(111)配向成分比の増加によって、当該圧電薄膜の内部応力緩和を実現できることを示している。結果として、結晶配向性の成分比(体積分率)を精密に制御することによって、圧電薄膜の内部応力を制御することが可能である。
圧電薄膜が(111)成分の体積分率を有することで、圧電薄膜の応力緩和が可能となり、膜はがれを抑制することできる。これにより、圧電薄膜の機械的強度が向上し、加工容易性に優れた圧電薄膜を提供できる。
上記実施の形態の一つとして、図15に断面模式図を示している。(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)9、及び(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)10が共存した状態にある。図15に示すような結晶配向性の状態を実現することによって、内部応力制御による圧電特性向上が可能である。更に応力緩和によって、膜はがれを抑制することが可能であることから、圧電薄膜の機械的強度が向上し、加工容易性に優れた圧電薄膜を提供できる。
複数枚の4インチサイズの基板から取得できた素子の歩留りを確認したところ、(111)成分が1%未満の圧電薄膜付き基板から取得した素子では、歩留りが70%に満たなかったのに対し、(111)成分が1%を超える圧電薄膜付き基板から取得した素子では、歩留りが90%を超える結果となった。
発明者の検討の結果、これはウェハ面内における圧電定数のばらつきの大きさによるものと考えられる。(111)配向成分の体積分率とウェハ面内の圧電定数のばらつき(%)の関係について確認をした結果を表1及び図20に示す。図20に示すように、ウェハ面内での圧電定数のばらつきについて、(111)配向成分の体積分率がほぼ1%となるところで、ばらつきの増大はなく、ほぼ一定となることがわかっている。ここで示す圧電定数のばらつきは、4インチウェハ面内で測定した圧電定数の標準偏差をその平均値で割った相対標準偏差である。このときその値は約23%であった。しかしながら、(111)体積分率が約0.2%では、ばらつきが15.3%〜27.1%までばらつき、同じ(111)体積分率であっても、ウェハ毎にそのばらつきの値の差が大きく、歩留り低下の原因となっている。
(実施例5)
図16〜図18を用いて説明する。
本実施例として、図16にKNN圧電薄膜の圧電特性の(111)積分強度に対する変化を示す。横軸は(111)積分強度、縦軸は圧電定数である。ここでは、例として6.7MV/mあるいは0.67MV/mで電界を印加したときの圧電定数を示す。尚、圧電定数の単位は任意単位であるが、実際の圧電定数の具体的な例としては、電極面に垂直(厚み方向)な伸縮の変化量であるd33、あるいは電極面にそった方向の伸縮の変化量であるd31がある。
圧電定数を任意単位としたのは、次の理由からである。圧電定数を求めるには、圧電体層のヤング率やポアソン比等の数値が必要であるが、圧電体層(圧電薄膜)のヤング率やポアソン比の数値を求めることは容易ではない。殊に、薄膜の場合は、バルク体と異なり、成膜時に使用される基板からの影響(拘束など)を受けるため,薄膜自身のヤング率やポアソン比(定数)の絶対値(真値)を原理的に求めることは容易ではない。そこで、現在までに知られているKNN膜のヤング率やポアソン比の推定値を用いて、圧電定数を算出した。従って、得られた圧電定数は推定値となることから、客観性を持たせるために、相対的な任意単位とした。ただし、圧電定数の算出に用いたKNN膜のヤング率やポアソン比の値は推定値とはいえ、ある程度、信頼性のある値であり、圧電定数の約80[任意単位]は、大体、圧電定数d31が80[−pm/V]であるといえる。このことは、図17及び図18にも共通する。
図16に示すように、(111)配向起因のX線強度がわずかに増加すると圧電定数が高くなる傾向が見える。しかし、本実施例で解析した(111)起因の積分強度が100を超えると、積分強度が増加するに従い、圧電定数が単調に減少することが分かる。
次に、(001)配向成分との比較を行うため、表2及び表2をグラフ化した図17にKNN圧電薄膜の圧電特性の(111)配向成分比に対する依存性を示す。横軸は(111)配向成分の体積分率、縦軸は圧電定数である。本実施例において、印加電界の大きさに関係なく、(111)配向の成分が0から20%の範囲において、(111)体積分率が増加するに従い圧電定数が増加することが分かる。
しかし、(111)体積分率が20%を超えると、当該の体積分率が増加するに従い圧電定数が減少していくことが分かる。特に、40%を超えると、本実施例で得られた最大値の約半分の値になることが分かる。言い換えれば、本実施例となる圧電薄膜においては、その最大圧電定数の5割以上を確保するためには、(111)の体積分率を40%以上にすることが望ましい。また、一般に圧電材料の圧電特性を向上させるためには、結晶化度を向上させることも重要であり、X線回折の積分強度が高くなっていることで確認できる。本実施例においては、(111)の体積分率が30%以下で、結晶化度が高くなっており、高い結晶化度を実現した上で最適な体積分率を規定すれば、より高性能な圧電薄膜を実現できる。
次に、表3及び表3をグラフ化した図18にKNN圧電薄膜の圧電特性の(001)配向成分比に対する依存性を示す。圧電定数の(001)体積分率の依存性は、(111)のそれとは逆相関にあることが分かる。すなわち、(001)配向成分が増加するに従い、圧電定数が増加することが分かる。但し、(001)体積分率が80%以上になると、圧電定数が減少する傾向にあることが分かる。また、本実施例となる圧電薄膜においては、その最大圧電定数が5割以上になるような値を実現するためには、(001)の体積分率を60%以上にすることが望ましいことを表している。尚、本実施例では(001)と(111)体積分率の合計が100%として仮定している。
以上のように、基板上に少なくとも下部電極、圧電薄膜及び上部電極を配した圧電薄膜素子において、その圧電薄膜が擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれらの結晶構造の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分としての(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、またあるいは、(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にあるように結晶配向性を精密に制御することによって、新規の高性能な圧電薄膜素子の製造が可能になることが分かった。
図17、18に示すとおり、(111)成分の体積分率が21%、(001)成分の体積分率が79%の圧電薄膜付き基板から得られた圧電薄膜素子に、印加電圧6.7Mv/mを加えた際に、圧電定数87を得た。得られた圧電薄膜素子の(001)と(111)の各結晶面の基板面に対するオフ角は、基板の法線方向に対して、(001)の結晶配向方向の角度が3.0°傾斜し、(111)の結晶配向方向の角度は0.5°傾斜していた。
このときの製造条件は、基板として厚さ0.525mmのSi基板を準備し、表面に熱酸化処理を施すことにより、Si基板の表面に200nmの酸化膜を形成した。次に、熱酸化膜上に、2nmのTi密着層、及びTi密着層上に(111)に優先配向して形成される100nmのPt下部電極は、基板温度350℃、投入電力100W、Arガス100%雰囲気、圧力2.5Pa、成膜時間1〜3分(Ti密着層)、10分(Pt下部電極)の条件で成膜した。
Pt下部電極上には、ターゲットには(NaxKyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0、ターゲット密度4.6g/cm3のセラミックターゲットを用い、膜厚が3μmとなるようKNN圧電膜の成膜を行った。成膜時の基板温度は700℃、投入電力100W、ArとO2の5:5の混合ガスを用い、圧力を1.3Paとした。また、ターゲット中心と基板の中心とのシフト量は10mmとした。また成膜後には大気雰囲気中にて700℃、2.0hrのアニール処理を行った。なお、スパッタ装置には自公転炉を用い、TS間距離を50mmとした。
このように、構成材料である電極、圧電薄膜等を適切に選定するとともに、圧電薄膜の成膜温度などの成膜条件を制御して、圧電薄膜の優先配向している(001)及び(111)成分の体積分率を制御することで、良好な圧電特性を実現することができた。また、圧電薄膜付き基板から取得した素子の歩留りも96%と十分に高い結果が得られた。
以上、本発明を限られた数の実施例に基づいて説明したが、本発明の範囲は、これら実施例に限定されない。例えば、成膜温度以外の因子である、スパッタリングターゲット組成、その成膜時の投入電力や、動作ガスの種類、当該ガスの流量や圧力、あるいは基板や下地の種類や構造等を変えることによって、結晶配向性を制御して所望の内部応力を有する圧電薄膜を得ることが可能になる。本発明の範囲は、請求項によって限定されるべきであって、請求項及びその均等の範囲内での種々の変更が含まれる。
1 Si基板
2 接着層
3 下部電極層
4 圧電薄膜
5 優先配向結晶粒
6 基板面の法線方向に対して同じ方向に優先配向した結晶粒
7 (001)優先配向結晶粒
8 (111)優先配向結晶粒
9 (001)配向方位と基板表面法線とのなす角
10 (111)配向方位と基板表面法線とのなす角

Claims (11)

  1. 基板上に少なくとも下部電極、一般式(NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜、及び上部電極を配した圧電薄膜積層体において、
    前記圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら前記の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60%以上100%以下の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が40%以下の範囲内にある圧電薄膜素子。
  2. 請求項1に記載の圧電薄膜素子において、前記(001)成分と前記(111)成分とが共存した構造である圧電薄膜素子。
  3. 請求項2に記載の圧電薄膜素子において、前記(111)成分の体積分率が1%より大きい範囲内にある圧電薄膜素子。
  4. 基板上に、一般式(NaxyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表される圧電薄膜を配した圧電薄膜積層体において、
    前記圧電薄膜が、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれら前記の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、前記優先配向している結晶軸の成分である(001)成分と(111)成分とが共存状態であり、かつ(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60%より大きく100%より小さい範囲内にあり、(111)成分の体積分率が40%より小さい範囲内にある圧電薄膜素子。
  5. 請求項4に記載の圧電薄膜素子において、前記基板と前記圧電薄膜との間に下地層を有する圧電薄膜素子。
  6. 請求項5に記載の圧電薄膜素子において、前記下地層は、Pt薄膜もしくはPtを主成分とする合金薄膜、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層である圧電薄膜素子。
  7. 請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電薄膜素子において、前記圧電薄膜が柱状構造の粒子で構成された集合組織を有している圧電薄膜素子。
  8. 請求項1乃至7のいずれかに記載の圧電薄膜素子において、前記圧電薄膜が、基板面に対して平行方向に歪を有する圧電薄膜素子。
  9. 請求項8に記載の圧電薄膜素子において、前記歪が引張応力状態、又は圧縮応力状態の歪を有する圧電薄膜素子。
  10. 請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電薄膜素子において、前記基板はSi基板である圧電薄膜素子。
  11. 請求項1乃至10のいずれかに記載の圧電薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイス。
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