ところで、上述したSOFCの作動中のセル内において、緻密な電解質層内の固体電解質(例えば、YSZ)と多孔質の空気極電極内の特定の物質(例えば、ストロンチウム)とが反応して電解質層と空気極電極との間の電気抵抗が増大する現象が発生し得る。この反応を抑制するため、本出願人は、緻密な電解質層と多孔質の空気極電極との間にセリアからなる緻密な反応防止層を介装することを提案している。
この場合、焼成前において、後に燃料極電極となるグリーン成形体と、後に電解質層となる第1グリーンシートと、後に反応防止層となる第2グリーンシートとが一体化された積層体を得て、この積層体を焼成に供することが好ましい。焼成前にてこの一体化が達成された積層体を得るため、上述した加圧成形体を活用する手法が考えられる。
具体的には、(後に燃料極電極となる)グリーン成形体に第1グリーンシートが積層され、この積層体に対してCIP(1回目のCIP)が施される。これにより、上述のように、グリーン成形体と第1グリーンシートとにCIP収縮が発生し、グリーン成形体と第1グリーンシートとが一体化された加圧成形体が得られる。次いで、この加圧成形体における第1グリーンシートの表面に第2グリーンシートが積層され、この積層体に対して2回目のCIPが施される。これにより、第1、第2グリーンシート(及び、グリーン成形体)にCIP収縮が発生し、第1、第2グリーンシートが一体化された(即ち、グリーン成形体と第1グリーンシートと第2グリーンシートとが一体化された)積層体(加圧成形体)が得られる。
なお、2回目のCIPの静水圧が1回目のCIPの静水圧以下である場合、1回目のCIPに基づくCIP収縮が既に発生している第1グリーンシートにおいて2回目のCIPにて更なるCIP収縮が発生し得ない。従って、第1、第2グリーンシートの接触部間に上述したアンカー効果が作用し得ず、第1、第2グリーンシートが一体化され得ない。従って、2回目のCIPの静水圧は1回目のCIPの静水圧よりも大きい値に設定される必要がある。
また、2回目のCIPでは、アンカー効果により第1、第2グリーンシートが一体化された状態で第1、第2グリーンシートのCIP収縮が進行していく。従って、上述したように「1回目のCIPに基づくグリーン成形体と第1グリーンシートとのCIP収縮の量が一致する」のと同様、2回目のCIPに基づく第1、第2グリーンシートのCIP収縮の量も一致する。このことは、第1グリーンシートのCIP収縮の総量(=1回目及び2回目のそれぞれのCIPに基づくCIP収縮の量の和)が、第2グリーンシートのCIP収縮の総量(=2回目のみのCIPに基づくCIP収縮の量)に対して、1回目のCIPに基づくCIP収縮の量だけ大きくなることを意味する。換言すれば、より後に積層されるグリーンシートほど、そのグリーンシートのCIP収縮の量が小さくなる。
また、上述した「グリーン成形体と第1グリーンシートと第2グリーンシートとが一体化された加圧成形体」が焼成される場合も、上述と同様、一体化が達成された状態で焼成収縮が進行していく。従って、第1、第2グリーンシート(電解質層及び反応防止層)の焼成収縮の量が一致する。
このようにCIPが2回行われる手法が採用される場合、上記加圧成形体の焼成後に得られる積層焼成体(燃料極電極と電解質層と反応防止層との積層体)にて、反応防止層にて比較的大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し易く、この引っ張り残留応力が過大な場合には反応防止層に割れ(クラック)が発生し得ることが判明した。本発明者は、この問題に対処するために種々の実験・研究を行った結果、本発明を想到するに至った。
本発明の目的は、基板と、互いに異なる材料からなる複数の層とが積層されてなる積層焼成体において、複数の層の内部にて大きな引っ張り残留応力が発生し難いものを提供することにある。
本発明に係る積層焼成体は、基板と、前記基板の上面及び下面の少なくとも1面に積層された互いに異なる材料からなる隣接する複数の層と、を含む。ここにおいて、前記基板は、多孔質でなくてもよいが多孔質であることが好ましい。前記複数の層は、緻密な層でなくてもよいが緻密な層であることが好ましい。前記基板は、燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極電極であり、前記隣接する複数層は2層であり、前記2層のうち前記基板と接触する層は固体電解質からなる電解質層であり、前記2層のうちもう一方の層はセリアからなる反応防止層であってもよい。この場合、本発明に係る積層焼成体は、SOFCのセルの一部を構成し、この積層焼成体に空気極電極を追加することでSOFCのセルが得られる。
本発明に係る積層焼成体の特徴は、この積層焼成体が以下の過程を経て得られた点にある。即ち、後に前記基板となる焼成前のグリーン成形体の上面及び下面の少なくとも1面に、後に前記複数層となる予め積層された焼成前のグリーンシートの積層体が接合剤を介在することなく積層される。次いで、この積層体に等方的な圧力を加えてこの積層体を加圧成形することで前記グリーン成形体と前記グリーンシートの積層体とが一体化された加圧成形体が得られる。そして、この加圧成形体を焼成することで本発明に係る積層焼成体が得られる。
ここにおいて、前記加圧成形は、ホットアイソスタティックプレス法により行われてもよいが、コールドアイソスタティックプレス法(CIP)により行われることが好適である。また、前記加圧成形の際の圧力は100〜700MPaであることが好適である。
上述した発明の概要の欄に記載した手法では、グリーン成形体にグリーンシートが1枚ずつ積層されていき、1枚のグリーンシートが積層される毎にCIPが施されていた。これに対し、本発明では、予め準備されたグリーンシートの積層体がグリーン成形体に一時に積層され、CIPが1回だけ施される点が異なる。
本発明によれば、加圧成形(例えば、CIP)の際、上述したアンカー効果により、グリーン成形体及びそれぞれのグリーンシートが一体化された状態でグリーン成形体及びそれぞれのグリーンシートのCIP収縮が進行していく。従って、加圧成形体において、グリーンシートの積層体を構成するそれぞれのグリーンシートのCIP収縮の量が一致する。本発明によれば、このような加圧成形体が焼成に供されることで積層焼成体が得られる。そして、本発明に係る積層焼成体において、複数の緻密層の内部にて大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し難いことが判明した。これは以下の理由に基づくと考えられる。
即ち、或るグリーンシートに対してCIPが施された後に焼成がなされる場合を考える。この場合、CIP収縮の量が小さいほど、焼成収縮の量(より正確には、単独の状態での焼成収縮の量)が大きくなることが考えられる。従って、上述した発明の概要の欄に記載した手法では、上述したように、第2グリーンシートのCIP収縮の量が第1グリーンシートのCIP収縮の量よりも小さいことに起因して、第2グリーンシートの(単独状態での)焼成収縮の量が第1グリーンシートの(単独状態での)焼成収縮の量よりも大きくなる。即ち、焼成時、第2グリーンシートは第1グリーンシートに対してより多く収縮しようとする。しかしながら、上述したように、焼成前にて第1、第2グリーンシートは既に一体化されているので、第1、第2グリーンシートの実際の焼成収縮の量は強制的に一致させられる。この結果、焼成後、第2グリーンシートには大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し易い。
これに対し、本発明では、上述したように、グリーンシートの積層体を構成するそれぞれのグリーンシートのCIP収縮の量が一致する。従って、それぞれのグリーンシートの(単独状態での)焼成収縮の量に大きな差が発生し難い。この結果、本発明に係る積層焼成体における複数の緻密層の内部では、大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し難い。
上記本発明に係る積層焼成体は、具体的には、例えば、以下の第1〜第5工程を経て製造され得る。第1工程では、後に前記複数層のそれぞれの層となる焼成前のそれぞれのグリーンシートが形成される。第2工程では、前記形成されたそれぞれのグリーンシートを積層してグリーンシートの積層体が得られる。第3工程では、後に前記基板となる焼成前のグリーン成形体の上面及び下面の少なくとも1面に、接合剤を介在することなく前記グリーンシートの積層体が積層される。第4工程では、前記第3工程後に得られた積層体に等方的な圧力を加えてこの積層体を加圧成形することで前記グリーン成形体と前記グリーンシートの積層体とが一体化された加圧成形体が得られる。第5工程では、前記得られた加圧成形体を焼成することで前記積層焼成体が得られる。
ところで、通常、グリーンシートは、変形し難い樹脂シート上に形成される。樹脂シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート製のシート(PETフィルムとも呼ばれる。)が使用される。薄いグリーンシートは、非常に変形し易く且つ破れ易い。特に、厚さが30μm以下のグリーンシートを単独の状態で取り扱うことは非常に困難である。従って、通常、樹脂シート上に形成されたグリーンシートは樹脂シートと一体で必要な平面形状に切り出され、切り出されたグリーンシートは、平面形状が同じ樹脂シートが付着した状態で取り扱われる。
このように、樹脂シートが付着した状態でグリーンシートが取り扱われる場合であって、且つ、積層焼成体において基板に積層される緻密層が2層である場合、前記第1〜第4工程は以下のように進行し得る。先ず、前記第1工程では、前記各グリーンシートが樹脂からなるシートである樹脂シート上にそれぞれ形成される。前記第2工程では、前記樹脂シートが付着したグリーンシート同士を互いに向かい合うように積層して2層のグリーンシート積層体が形成され、前記2層のグリーンシート積層体の厚さ方向の両端側にそれぞれ付着している2枚の前記樹脂シートのうちの1枚のみを取り除くことで、厚さ方向の一端側にのみ前記樹脂シートが付着した前記グリーンシート積層体が得られる。前記第3工程では、前記1枚の樹脂シートを取り除いたことで露出した前記グリーンシート積層体の平面と前記グリーン成形体の上面及び下面の少なくとも1面とが互いに向かい合うように、前記グリーン成形体と前記グリーンシート積層体とが積層される。前記第4工程では、前記第3工程後に得られた厚さ方向の一端側に前記樹脂シートが付着した状態にある積層体が前記加圧成形に供される。
このように、第4工程では、積層体の最外層に対応するグリーンシートに付着している樹脂シートも積層体と一体で加圧成形(例えば、CIP)に供される。上述したように樹脂シートは変形し難いので、加圧成形に供されても収縮し難い。一方、上述したようにグリーンシート積層体は加圧成形により収縮する。従って、最外層に対応するグリーンシートと樹脂シートとの接触部同士における相対位置関係にずれが生じる。この結果、加圧成形後、樹脂シートは最外層に対応するグリーンシートから自然に剥離し得る。
上述した本発明に係る積層焼成体において、前記積層焼成体の厚さ方向から前記積層焼成体を視たときの前記積層焼成体の形状は、円形、楕円形、正方形、又は長方形であり、前記円形の直径、前記楕円形の長径、前記正方形の1辺の長さ、又は前記長方形の長辺の長さは3cm以上であることが好適である。また、前記燃料極電極、前記電解質層、及び前記反応防止層の厚さはそれぞれ、500〜3000μm、1〜20μm、及び3〜20μmであることが好ましい。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態に係る積層焼成体を含む固体酸化物形燃料電池について説明する。
(燃料電池の全体構造)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と称呼する。)10の斜視図である。図2は、燃料電池10をy軸方向からみた部分図であり、図3は、図1に示した3−3線を含むx−z平面と平行な平面に沿って燃料電池を切断した図2に対応する部分断面図であり、図4は、図1に示した4−4線を含むx−z平面と平行な平面に沿って燃料電池を切断した図2に対応する部分断面図である。なお、x軸及びy軸は互いに直交する軸であり、z軸は、x−y平面に垂直な軸である。以下、z軸正方向を「上」方向、z軸負方向を「下」方向と呼ぶこともある。
図1〜図4から理解できるように、燃料電池10は、複数の同型のセル20と、複数の同形のインターコネクタ30とを備えている。セル20は、燃料電池10の「単セル」とも称呼される。各セル20は、対応する1つのインターコネクタ30にそれぞれ収容・固定されている。燃料電池10は、セル20を収容した状態にある複数のインターコネクタ30が積層されることにより形成されている。即ち、燃料電池10は、スタック構造を備えている。ここで、複数のインターコネクタ30の積層体が前記「集電固定部材」に対応する。
以下、先ず、図2〜図4、並びに図5〜図7を参照しながら、セル20について説明する。セル20は、大略的にはx,y,z軸の方向に沿う辺を有する直方体状(z軸方向に厚さ方向を有する薄板状)を呈していて、x軸方向に沿う辺(長辺)の長さA1、y軸方向に沿う辺(短辺)の長さB1、厚さZ1はそれぞれ、本例では、30〜300mm、15〜150mm、0.5〜5mmである(図6を参照)。
セル20は、燃料極層21(燃料極電極、アノード電極)と、一対の電解質層22と、一対の反応防止層23と、一対の空気極層24(空気極電極、カソード電極)とを備える。燃料極層21は、x,y,z軸の方向に沿う辺を有する直方体状(z軸方向に厚さ方向を有する薄板状)を呈する。燃料極層21の内部には、燃料ガス(例えば、水素ガス)が流通する燃料流路25が形成されている(特に、図7を参照)。
一対の電解質層22は、燃料極層21の上下面にそれぞれ形成されている。一対の反応防止層23は、燃料極層21の上面に形成された電解質層22の上面及び燃料極層21の下面に形成された電解質層22の下面にそれぞれ形成されている。一対の電解質層22及び一対の反応防止層23はそれぞれ、z軸方向に厚さ方向を有する薄板状を呈していて、z軸方向からみたこれらの平面形状は、z軸方向からみた燃料極層21の平面形状と一致している。
一対の空気極層24は、燃料極層21の上側に形成された反応防止層23の上面及び燃料極層21の下側に形成された反応防止層23の下面にそれぞれ形成されている。一対の空気極層24は、z軸方向に厚さ方向を有する同形の薄板状を呈する。各空気極層24には、後述する一対の貫通孔27との干渉を回避するために一対の切り欠き部24a,24aが形成されている。燃料極層21、各電解質層22、各反応防止層23、及び各空気極層24の厚さはそれぞれ、例えば、500〜3000μm、1〜20μm、3〜20μm及び3〜50μmである。
セル20の側面(4面)、具体的には、「燃料極層21、一対の電解質層22、及び一対の反応防止層23のそれぞれの側面が露呈している側面(4面)」は、側壁26(ガラス層)で覆われている。なお、燃料極層21の側面は、この側壁26に代えて電解質層22で覆われてもよい。この場合、電解質層22は、燃料極層21の周囲(上下面及び側面)を囲むように燃料極層21の表面に形成された薄膜となる。なお、セルの側面部のシール構造としては、電解質層のみで覆われた構造であっても良いし、電解質層の上に更にガラス層が被さった構造であっても良いし、ガラス層のみで覆われた構造であっても良い。
本例において、燃料極層21は、(後述する還元処理後において)Ni、及びYSZ(イットリア安定化ジルコニア)からなる多孔質の焼成体であり、燃料極電極(アノード電極)として機能する。電解質層22はYSZからなる緻密な焼成体である。反応防止層23はセリアからなる緻密な焼成体である。セリアとしては、具体的には、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。空気極層24は、LSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)からなる多孔質の焼成体であり、空気極電極(カソード電極)として機能する。
なお、反応防止層23は、燃料電池10の作動中のセル20内において、電解質層22内のYSZと空気極層24内のストロンチウムとが反応して電解質層22と空気極層24との間の電気抵抗が増大する現象の発生を抑制するために、電解質層22と空気極層24との間に介装されている。
セル20は、一対の貫通孔27を備えている。各貫通孔27は、セル20の対応する短辺の近傍であってその辺の中央部領域にそれぞれ形成されていて、各貫通孔27は燃料極層21、電解質層22、及び反応防止層23を貫通している。一対の貫通孔27は、燃料極層21の内部において燃料流路25を介して連通している(特に、図7を参照)。
また、セル20の上面の4隅には、セル20の内部の燃料極層21と電気的に接続された導体(例えば、ランタンクロマイト)からなる導電板28がそれぞれ配設されている。各導電板28の上面(即ち、導体の上面)は、外部に露呈している。後述するように、上述したスタック状態において、これらの導電板28は、自身を収容するインターコネクタ30の上方に隣接するインターコネクタ30の後述する脚部34との電気的接続部として機能する。
次に、図2〜図4、並びに図8、図9を参照しながら、インターコネクタ30について説明する。インターコネクタ30は、本例では、y軸方向中央のx−z平面に平行な平面に対して対称な形状を有する第1部分30A及び第2部分30Bに分割されている。以下、説明の便宜上、インターコネクタ30が第1、第2部分30A,30Bからなる一体物として扱われる場合もある。
インターコネクタ30は、大略的にはx,y,z軸の方向に沿う辺を有する直方体状(z軸方向に厚さ方向を有する薄板状)を呈した導電体からなる枠体(筺体)である。x軸方向に沿う辺(長辺)の長さA2、y軸方向に沿う辺(短辺)の長さB2、高さZ2はそれぞれ、本例では、40〜310mm、25〜160mm、3〜8mmである(図9を参照)。本例では、インターコネクタ30は、燃料電池用のフェライト系ステンレスであるZMG材料(日立金属(株)製)から構成されている。
インターコネクタ30(即ち、枠体)の内部には、セル20を収容するためのy軸方向に開口する(貫通する)空間が形成されている。インターコネクタ30には、セル20が収容された状態において後述する一対の連結部材40との干渉を回避するために一対の切り欠き部31,31が形成されている。
インターコネクタ30を構成する枠における上面及び下面に対応する部分にはそれぞれ、小窓(貫通孔)の縁から下方及び上方に向けて突出する複数の突起部32が形成されている。後述するように、これらの突起部32は、インターコネクタ30の内部に収容されたセル20の空気極層24との電気的接続部として機能する。
インターコネクタ30を構成する枠における上面に対応する部分の4隅であって、セル20が収容された状態においてx−y平面上にて上述の導電板28の位置に対応する位置には、窓33(貫通孔)がそれぞれ形成されている。また、インターコネクタ30を構成する枠における下面に対応する部分の4隅であって、x−y平面上にて窓33の位置に対応する位置には、下方に突出する脚部34がそれぞれ形成されている。z軸方向からみたとき、脚部34全体が窓33に含まれる。後述するように、上述したスタック状態において、これらの脚部34は、下方に隣接するインターコネクタ30内に収容されるセル20の導電板28との電気的接続部として機能する。
燃料電池10は、上記の構成を有するセル20を収容・固定した上記の構成を有する複数のインターコネクタ30が積層されたスタック構造を有する。このスタック構造を有する燃料電池10では、隣り合う2つのセル20の間におけるx−y平面上にて一対の貫通孔27の位置に対応する位置にそれぞれ、貫通孔41を備えた円筒状の連結部材40,40が介装されている。これにより、隣り合う2つのセル20が連結部材40の高さに相当する距離だけz軸方向に離間した状態で連結部材40を介して積み重なっている(特に、図4を参照)。
また、隣り合う2つのセル20におけるx−y平面上にて同じ位置にある貫通孔27同士が連結部材40の貫通孔41を介して接続・連通している。これにより、図4に示すように、貫通孔41と貫通孔27とが交互に接続されることで、z軸方向に連続的に延びる1本の燃料供給路と、z軸方向に連続的に延びる1本の燃料排気路とが形成されている。この燃料供給路と燃料排気路とは、各セル20内の燃料流路25を介して連通している。
また、各セル20の一対の空気極層24と、そのセル20を収容するインターコネクタ30の複数の突起部32とが、導電性の接着剤51(導電性ペースト)により電気的に接続・固定されている(特に、図3を参照)。また、或るインターコネクタ30の4つの窓33にそのインターコネクタ30の上方に隣接するインターコネクタ30の4つの脚部34がそれぞれ挿入されている。そして、或るセル20の導電板28(の上面)と、そのセル20を収容するインターコネクタ30の上方に隣接するインターコネクタ30の脚部34(の下面)とが、導電性の接着剤52(導電性ペースト)により電気的に接続・固定されている(特に、図3を参照)。
これにより、隣り合う2つのセル20のうち上側のセル20の空気極層24と下側のセル20の燃料極層21とが上側のセル20を収容するインターコネクタ30を介して電気的に接続されている。即ち、燃料電池10全体において、複数のセル20が電気的に直列に接続されている。
また、隣り合う2つのセル20の間に形成された空間は、酸素を含むガス(例えば、空気)が流通する空気流路Sとして利用される。上述のように、燃料極層21の上下面は電解質層22により覆われ、燃料極層21の側面は側壁26により覆われている。従って、この空気流路Sと燃料流路24とは、電解質層22及び側壁26により区画されている。
以上の構成を有する燃料電池10に対して、図10に示すように、y軸方向(の両方向)から空気が供給されるとともに、燃料供給路から燃料ガスが供給される。供給された空気は、空気流路Sを流通し、各セル20の一対の空気極層24と接触する。一方、供給された燃料ガスは、各セル20内の燃料流路25をそれぞれ通過し、燃料排気路から排気される(図4の矢印を参照)。このように、燃料流路24に燃料ガスが供給され、且つ、空気流路Sに空気が供給されることで、燃料電池10は、以下に示す化学反応式(1)及び(2)に基づく発電を行う。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極層23) …(1)
H2+O2−→H2O+2e− (於:燃料極層21) …(2)
燃料電池(SOFC)10は、電解質層22の酸素伝導度を利用して発電するので、燃料電池10としての作動温度は最低600℃以上であることが一般的である。このため、燃料電池10は、常温から作動温度(例えば800℃)まで外部の加熱機構(例えば、抵抗加熱ヒータ方式の加熱機構、或いは、燃料ガスを燃焼して得られる熱を利用する加熱機構等)により昇温された状態で使用される。
(製造方法の一例)
以下、燃料電池10の製造方法の一例について説明する。先ず、セル20の製造方法について説明する。燃料極層21内に燃料流路25を形成するため、燃料流路25と同形の図11に示す流路形成部材61が準備される。この流路形成部材61は、造孔剤(例えば、セルロース)を用いて周知の手法の1つにより形成される。また、燃料極層21の原料となる粉末62が準備される。この粉末62には、NiO、YSZ、及び造孔剤(例えば、セルロース)のそれぞれの粒子が均一に含まれる。粉末62に造孔剤が含まれているのは、燃料極層21を多孔質とするためである。
次に、図12に示すように、(1軸)プレス機を利用して、流路形成部材61が埋設されるように、粉末62が燃料極層21に対応する形状にプレス成形される。これにより、図13に示すように、流路形成部材61が埋設された直方体状の圧粉体21zが形成される。図14は、図13に示した14−14線を含むx−z平面と平行な平面に沿って圧粉体21zを切断した断面図である。
次いで、この圧粉体21zの上下面に、後に電解質層22となる第1グリーンシート22zと後に反応防止層23となる第2グリーンシート23zとの積層体が積層され、この積層体が加圧成形される。第1グリーンシート22zはYSZからなる緻密な層であり、第2グリーンシート23zはセリアからなる緻密な層である。この工程については後に詳述する。この結果、図15に示すように、圧粉体21zの上下面に第1、第2グリーンシート22z,23zが積層・一体化された積層体(加圧成形体)が得られる。
この加圧成形体が所定温度・所定時間(例えば、1400℃・1時間)にて焼成される。これにより、図16に示すように、流路形成部材61が焼失し、内部に燃料流路25が形成された燃料極層21と、燃料極層21の上下面にそれぞれ形成された一対の電解質層22と、上側の電解質層22の上面及び下側の電解質層22の下面にそれぞれ形成された一対の反応防止層23とを備えた積層焼成体が形成される。また、粉末62に含まれていた造孔剤が焼失することで、燃料極層21が多孔質となる。
次に、図17に示すように、この積層焼成体の上下面に、後に空気極層24となるグリーンシート24zが印刷法によりそれぞれ形成され、そのグリーンシート24zが所定温度・所定時間(例えば、1000℃・1時間)にて焼成される。これにより、焼成体の上下面に一対の空気極層24が形成される。
そして、図18に示すように、この焼成体に対して、周知の加工手法の1つを利用して、1対の貫通孔27が形成される。また、この焼成体に対して、内部の燃料極層21と電気的に接続されるように4つの導電板28が配設される。更には、この焼成体の側面全体を覆うように側壁26が接着剤等を利用して焼成体の側面に固設される。なお、側壁26は、ガラス塗布後に上述の焼成により同時に形成しても良いし、焼成後にガラス塗布することで形成しても良い。以上により、セル20が完成される。完成されたセル20が必要な個数だけ準備される。
次に、インターコネクタ30の製造方法について説明する。インターコネクタ30(実際には、第1、第2部分30A,30B)は、燃料電池用のフェライト系ステンレスであるZMG材料(日立金属(株)製)からなる薄板を、周知の手法(エッチング、切削、プレス等)により図8、図9に示す形状に加工することで完成される。完成されたインターコネクタ30(実際には、第1、第2部分30A,30B)が必要な個数だけ準備される。
次に、図19に示すように、準備された複数のセル20のそれぞれの上面に対して、一対の貫通孔27の位置に対応する位置に、連結部材40が接着剤(例えば、ガラスペースト)によりそれぞれ接着固定される。また、各インターコネクタ30(実際には、第1、第2部分30A,30B)の複数の突起部32に導電性ペースト(導電性の接着剤51)が塗布される。
次いで、図20に示すように、連結部材40が接着固定された各セル20が、導電性接着剤51が塗布されたインターコネクタ30(実際には、第1、第2部分30A,30B)に収容される。これにより、各セル20の一対の空気極層24と、そのセル20を収容するインターコネクタ30の複数の突起部32とが、導電性の接着剤51により電気的に接続・固定される(図3を参照)。
次に、各インターコネクタ30の脚部34(の下面)に導電性ペースト(導電性の接着剤52)が塗布される。そして、或るインターコネクタ30の4つの窓33にそのインターコネクタ30の上方に隣接するインターコネクタ30の4つの脚部34がそれぞれ挿入されように、複数のインターコネクタ30が積層される。これにより、スタック構造体が形成される。加えて、或るセル20の導電板28(の上面)と、そのセル20を収容するインターコネクタ30の上方に隣接するインターコネクタ30の脚部34(の下面)とが、導電性の接着剤52により電気的に接続・固定される(図3を参照)。即ち、複数のセル20が電気的に直列に接続される。
次に、このスタック構造体における各セル20の燃料極層21に対して、還元処理が行われる。この還元処理では、このスタック構造体に熱処理が施されて、このスタック構造体の温度が所定温度(例えば、800℃)に所定時間だけ維持される。これと同時に、燃料供給路を介して各燃料流路25内に還元ガス(本例では、水素ガス)が流入させられる。なお、上述のように、燃料流路25と空気流路Sとは電解質層22及び側壁26により区画されている。従って、還元処理中において、空気極層24の表面への還元ガスの供給を防止するための特別の処置を施すことなく空気極層24の表面への還元ガスの供給を防止することができる。
この還元ガスの流入により、燃料極層21を構成するNiO、及びYSZのうちNiOが還元される。この結果、燃料極層21がNi−YSZのサーメットとなって燃料極電極(アノード電極)として機能し得るようなる。以上にて、燃料電池10の組立が完了する。
(加圧成形体の製造)
以下、焼成前の図15に示した「圧粉体と複数枚のグリーンシートとが積層・一体化された加圧成形体」の製造方法について、図21〜図28を参照しながら説明する。先ず、図21に示すように、PETフィルムA上に形成された「後に電解質層22となるYSZからなる緻密な第1グリーンシート22z」がPETフィルムAと一体で必要な平面形状に必要な枚数だけ切り出される。切り出された第1グリーンシート22zは、平面形状が同じPETフィルムAが付着した状態で取り扱われる。
同様に、図22に示すように、PETフィルムB上に形成された「後に反応防止層23となるセリアからなる緻密な第2グリーンシート23z」がPETフィルムBと一体で必要な平面形状に必要な枚数だけ切り出される。切り出された第2グリーンシート23zは、平面形状が同じPETフィルムBが付着した状態で取り扱われる。
次に、図23に示すように、接合剤等を使用することなく、第1、第2グリーンシート22z,23z同士が互いに向かい合うように積層されて、上下両端にPETフィルムA,Bがそれぞれ付着した2層のグリーンシート積層体が形成される。積層手法としては、例えば、熱圧着法、CIP(後述)が挙げられる。次いで、図24に示すように、PETフィルムAの4隅の1つを所定の治具等で摘まむなどして、前記4隅の1つを起点としてPETフィルムAが第1グリーンシート22zから剥がされる。この結果、図25に示すように、第1グリーンシート22zの上面が露呈するとともに下端にPETフィルムBが付着した2層のグリーンシート積層体が得られる。この図25に示した積層体が必要な個数だけ準備される。
次に、図26に示すように、図13に示した圧粉体21zの上下面に、図25に示した積層体がそれぞれ、接合剤等を使用することなく、露呈している第1グリーンシート22zの平面と圧粉体21zの上下面とが互いに向かい合うように積層される。図26に示すように、圧粉体21z、及び第1、第2グリーンシート22z,23zの平面形状(z軸方向からみた形状)は同じである。これは、上述したように、焼成後の燃料極層21、電解質層22、及び反応防止層23の平面形状が同じであることに基づく。この段階では、圧粉体21z、及び第1、第2グリーンシート22z,23zは未だ一体化(接合)されていない。
次いで、圧粉体21z、及び第1、第2グリーンシート22z,23zを一体化するため、図26に示す積層体がコールドアイソスタティックプレス法(以下、「CIP」と称呼する。)により加圧成形される。具体的には、図27に示すように、この積層体が防水用のビニール袋等の袋体を用いて真空パックされる。この真空パックされた積層体が冷水中に浸された状態で、この積層体に冷水による静水圧(等方的な圧力)が加えられる。このときの圧力P1(静水圧)は、例えば、100〜700MPaである。
このように、図26に示す積層体にCIPを施すことにより、圧粉体21z、及び第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化された加圧成形体が得られる。このように一体化が達成されるのは以下の理由に基づくと考えられる。
即ち、静水圧により、圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zとは厚さ方向(z軸方向)に加えて面方向(x−y平面に平行な方向)にも力を受ける。圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zとはそれぞれ、静水圧によるこれらの力を受けて静水圧の大きさに応じた量だけ収縮する。以下、CIPによる面方向の収縮を特に「CIP収縮」とも呼ぶ。静水圧による面方向の力により、圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zのそれぞれには静水圧の大きさに応じてCIP収縮が発生する。
ここで、このように圧粉体21z、及び第1、第2グリーンシート22z,23zのそれぞれにCIP収縮が発生することと、静水圧による厚さ方向の力により圧粉体21zと第1グリーンシート22zとの接触部同士、並びに第1、第2グリーンシート22z,23zの接触部同士が押圧されること、との相乗効果により、これらの接触部間のそれぞれに噛み込み等に起因するアンカー効果が作用する。このアンカー効果により、圧粉体21zと第1グリーンシート22z、並びに第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化される(接合される)。このように一体化が達成された状態で圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zのそれぞれのCIP収縮が進行していくので、圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zのそれぞれのCIP収縮の量(CIPによる面方向の寸法減少量)は一致する。
図28は、CIP終了後の積層体の状態を示す。図28に示すように、CIP後、第2グリーンシート23zに付着していたPETフィルムBは、第2グリーンシート23zから自然に剥離する。これは、PETフィルムはCIPに供されても収縮し難いこと、並びに、グリーンシート積層体はCIPにより収縮すること、に起因して、第2グリーンシート23zとPETフィルムBとの接触部同士における面方向における相対位置関係にずれが生じることに基づく、と考えられる。
なお、このようにCIPによりPETフィルムがグリーンシートから自然に剥離するためには、CIPの圧力が1ton/cm2以上とされる必要があることが実験を通して判明している。CIPの圧力が0.5ton/cm2ではPETフィルムの全面がグリーンシートから剥離せず、CIPの圧力が0.8ton/cm2ではPETフィルムの一部のみがグリーンシートから剥離することも実験を通して判明している。
以上、本例では、予め準備された第1、第2グリーンシート22z,23zの積層体が圧粉体21zに一時に積層され、CIPが1回だけ施されることで、図15に示した「圧粉体21z、及び一対の第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化された加圧成形体」が得られる。
この加圧成形体が焼成に供されて、図16に示した「燃料極層21と一対の電解質層22と一対の反応防止層23とからなる積層焼成体」が得られる。この焼成によっても加圧成形体(積層焼成体)は収縮する。以下、焼成による面方向の収縮を特に「焼成収縮」と呼ぶ。ここで、上述のように図15に示す加圧成形体では一体化が既に達成されている。従って、一体化が達成された状態で焼成収縮が進行していく。よって、圧粉体21z(燃料極層21)、及び第1、第2グリーンシート22z,23z(電解質層22及び反応防止層23)のそれぞれの焼成収縮の量(焼成による面方向の寸法減少量)も一致する。
(作用・効果)
以下、本実施形態のように、予め準備された第1、第2グリーンシート22z,23zの積層体が圧粉体21zに一時に積層され、CIPが1回だけ施されることで図15に示す加圧成形体を得ることによる作用・効果について述べる。
本実施形態の作用・効果を説明するため、先ず、比較例として、圧粉体21zにグリーンシートが1枚ずつ積層されていき、1枚のグリーンシートが積層される毎にCIPが施されることで図15に示す加圧成形体を得る場合について、図29〜図34を参照しながら説明する。
図29に示すように、比較例では、先ず、図13に示した圧粉体21zの上下面に、図21に示した「PETフィルムAが付着した第1グリーンシート22z」がそれぞれ、接合剤等を使用することなく、露呈している第1グリーンシート22zの平面と圧粉体21zの上下面とが互いに向かい合うように積層される。この段階では、圧粉体21z、及び第1グリーンシート22zは未だ一体化(接合)されていない。
次いで、図30に示すように、図29に示す積層体に対して1回目のCIP(CIP1)が施される。このCIP1により、圧粉体21zと第1グリーンシート22zとにCIP収縮が発生し、上述したアンカー効果により、圧粉体21zと一対の第1グリーンシート22zとが一体化された加圧成形体が得られる。図31に示すように、CIP1後、第1グリーンシート22zに付着していたPETフィルムAは、上述と同じ理由により、第1グリーンシート22zから自然に剥離する。
このCIP1では、アンカー効果により圧粉体21z及び第1グリーンシート22zが一体化された状態で圧粉体21z及び第1グリーンシート22zのCIP収縮が進行していく。従って、CIP1に基づく圧粉体21z及び第1グリーンシート22zのCIP収縮の量は一致する。
次いで、図32に示すように、図31に示した「圧粉体21z及び一対の第1グリーンシート22zが一体化された積層体」の上下面に、図22に示した「PETフィルムBが付着した第2グリーンシート23z」がそれぞれ、接合剤等を使用することなく、露呈している第2グリーンシート23zの平面と図31に示した積層体の上下面とが互いに向かい合うように積層される。この段階では、第1、第2グリーンシート22z,23zは未だ一体化(接合)されていない。
次いで、図33に示すように、図32に示す積層体に対して2回目のCIP(CIP2)が施される。このCIP2により、第1、第2グリーンシート22z,23z(及び、圧粉体21z)にCIP収縮が発生し、上述したアンカー効果により、第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化された(即ち、圧粉体21zと第1、第2グリーンシート22z,23zとが一体化された)加圧成形体が得られる。図34に示すように、CIP2後、第2グリーンシート23zに付着していたPETフィルムBは、上述と同じ理由により、第2グリーンシート23zから自然に剥離する。
このCIP2では、アンカー効果により第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化された状態で第1、第2グリーンシート22z,23zのCIP収縮が進行していく。従って、CIP2に基づく第1、第2グリーンシート22z,23zのCIP収縮の量は一致する。
ここで、CIP2の圧力(静水圧)はCIP1の圧力(静水圧)よりも大きい値に設定される必要がある。これは以下の理由に基づく。即ち、CIP収縮はCIPの圧力に応じて発生する。CIP2の圧力がCIP1の圧力以下である場合、CIP1に基づくCIP収縮が既に発生している第1グリーンシート22zにおいてCIP2にて更なるCIP収縮が発生し得ない。換言すれば、CIP2により第1グリーンシート22zのCIP収縮の量が増大することはない。従って、第1、第2グリーンシート22z,23zの接触部間に上述したアンカー効果が作用し得ない。この結果、第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化され得ない。
以上のように、比較例では、第1、第2グリーンシート22z,23zのそれぞれが圧粉体21zに積層される毎にCIPが施されることで、図15に示した「圧粉体21z、及び一対の第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化された加圧成形体」が得られる。
この加圧成形体が焼成に供されて、「燃料極層21と一対の電解質層22と一対の反応防止層23とからなる積層焼成体」が得られる。上述した本実施形態の場合と同様、この場合も、加圧成形体が一体化された状態で焼成収縮が進行していく。よって、圧粉体21z(燃料極層21)、及び第1、第2グリーンシート22z,23z(電解質層22及び反応防止層23)のそれぞれの焼成収縮の量(焼成による面方向の寸法減少量)が一致する。
ここで、比較例に係る図15に示す加圧成形体の焼成後に得られる積層焼成体では、反応防止層23において緻密化が不足し易いこと、或いは、反応防止層23にて比較的大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し易くて、特に、引っ張り残留応力が過大な場合には反応防止層23に割れ(クラック)が発生し得ることが判明した。
以下、このことを示す実験について説明する。この実験では、各辺の長さ、各層の厚さ、CIPの圧力等が異なる複数種類の図15に示す加圧成形体が、上述した比較例に係る製造方法を利用してそれぞれ作製・準備された。それぞれの加圧成形体に対して焼成が施されて積層焼成体が得られた。そして、それぞれの積層焼成体が観察された。この結果を表1に示す。
この実験に使用された積層焼成体(セル)は直方体を呈していて、セルサイズ(焼成後)としては、3水準(水準1〜3)が準備された。長辺の長さA1、短辺の長さB1、及び厚さZ1はそれぞれ、水準1では、100mm、50mm、及び1.5mmで、水準2では、120mm、70mm、及び1.5mmで、水準3では、100mm、100mm、及び1.5mmであった(図6を参照)。焼成は、600℃、2hrで脱脂処理が施された後になされた。焼成条件としては、1400℃、1hrが採用された。
評価手法としては、CIP及び焼成後において、光学顕微鏡、及び電子顕微鏡(SEM)を用いて積層焼成体(セル)の表面、及び断面を観察する手法が採用された。なお、比較例1,2については、CIP1終了後に第2グリーンシート23zが積層されず、従って、CIP2がなされていない。
表1に示すように、比較例1では燃料極層と電解質層との間の積層状態(接合状態)が不良であった一方で、比較例2では燃料極層と電解質層との間の積層状態(接合状態)が良好であった。これは、燃料極層と電解質層との間の積層状態(接合状態)を良好とするためには、CIPの圧力を100Mpa以上に設定する必要があることを意味する。なお、CIPの圧力が700MPaを超えると、加圧成形体において潰れ等による変形が発生し易くなる。従って、CIPの圧力としては、100〜700MPaの範囲が好ましいと考えられる。
また、比較例3では、電解質層と反応防止層との界面に剥離部分が発生していた。これは、上述したように、CIP1の圧力とCIP2の圧力とが等しいことに基づいてCIP2実行時において第1グリーンシート22zにCIP収縮が発生し得ないことに起因すると考えられる。
表1に示すように、比較例(CIP1の圧力<CIP2の圧力)に係る製造方法を利用して得られた加圧成形体の焼成後に得られる積層焼成体(即ち、比較例4〜10)では、各層間の界面に剥離部分は発生しないものの、反応防止層23の緻密化不足が発生し易いこと、並びに、反応防止層23に割れ(クラック)が発生し易いことがわかる。
これに対し、本実施形態に係る図15に示す加圧成形体の焼成後に得られる積層焼成体では、各層間の界面に剥離部分が発生せず、反応防止層23において緻密化が不足し難く、且つ、反応防止層23にて比較的大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し難く、反応防止層23に割れ(クラック)が発生しない。
以下、このことを示す実験について説明する。この実験でも、上述の実験と同様、各辺の長さ、各層の厚さ、CIPの圧力等が異なる複数種類の図15に示す加圧成形体が、上述した本実施形態に係る製造方法を利用してそれぞれ作製・準備された。それぞれの加圧成形体に対して焼成が施されて積層焼成体が得られた。そして、それぞれの積層焼成体が観察された。この結果を表2に示す。
この実験に使用された積層焼成体(セル)も直方体を呈していて、セルサイズ(焼成後)として、上述と同じ3水準(水準1〜3)が準備された。その他、焼成条件、評価手法等についても、上述の実験の場合と同じである。なお、表2に示した実施例1,2は、表1に示した比較例1,2と同じである。
表2に示すように、本実施形態に係る製造方法を利用して得られた加圧成形体の焼成後に得られる積層焼成体(即ち、実施例3〜10)では、各層間の界面に剥離部分が発生しないこと、反応防止層23の緻密化不足が発生しないこと、並びに、反応防止層23に割れ(クラック)が発生しないことがわかる。
以下、これらの結果について図35、図36を参照しながら考察する。説明の便宜上、本実施形態に係る製造方法におけるCIPの圧力をP1とし、比較例に係る製造方法におけるCIP1、CIP2の圧力をそれぞれP2(<P1)、P1とする。また、第1グリーンシート22zのCIP収縮量及び焼成収縮量をA1,B1とし、第2グリーンシート23zのCIP収縮量及び焼成収縮量をA2,B2とする。
図35は、比較例に係る製造方法が適用された場合における第1、第2グリーンシート22z、23zの面方向の収縮量(CIP収縮量、及び、焼成収縮量)の変化の推移を示す。図35に示すように、CIP1に基づく第1グリーンシート22zのCIP収縮量が値cであり、CIP2に基づく第1グリーンシート22zのCIP収縮量が値(a−c)であるものとする。この場合、第1グリーンシート22zの(総)CIP収縮量A1は値aとなる。
一方、上述のように、CIP2に基づく第1、第2グリーンシート22z,23zのCIP収縮の量は一致する。従って、CIP2に基づく第2グリーンシート23zのCIP収縮量は値(a−c)となり、この結果、第2グリーンシート23zの(総)CIP収縮量A2は値(a−c)となる。
また、上述のように、第1、第2グリーンシート22z,23z(電解質層22及び反応防止層23)の焼成収縮量は一致する。この焼成収縮量を値bとすると、第1、第2グリーンシート22z,23zの焼成収縮量B1,B2は共に値bとなる。
この結果、図35から理解できるように、第2グリーンシート23zにおけるCIP収縮量A2と焼成収縮量B2との和(合計収縮量=(a+b)−c)は、第1グリーンシート22zにおけるCIP収縮量A1と焼成収縮量B1との和(合計収縮量=(a+b))に対して、値c(=CIP1に基づく第1グリーンシート22zのCIP収縮量)の分だけ不足している。
換言すれば、第1、第2グリーンシート22z,23zの合計収縮量が一致するためには、第2グリーンシート23zの焼成収縮量B2が値cだけ不足している。この第2グリーンシート23zの焼成収縮量B2の不足分が、上述した反応防止層23の引っ張り残留応力の原因ではないかと考えられる。
即ち、或るグリーンシートに対してCIPが施された後に焼成がなされる場合、CIP収縮量が小さいほど、焼成収縮量(より正確には、単独の状態での焼成収縮量)が大きくなり、CIP収縮量と焼成収縮量との和(合計収縮量)が略一定になると考えられる。従って、比較例では、第2グリーンシート23zのCIP収縮量A2(=a−c)が第1グリーンシート22zのCIP収縮量A1(=a)よりも小さいことに起因して、第2グリーンシート23zの(単独状態での)焼成収縮量が第1グリーンシート22zの(単独状態での)焼成収縮量よりも大きくなる。この結果、焼成時、第2グリーンシート23zは第1グリーンシート22zに対してより多く収縮しようとする。しかしながら、上述したように、焼成前にて第1、第2グリーンシート22z,23zは既に一体化されている。従って、第1、第2グリーンシート22z,23zの実際の焼成収縮の量は強制的に一致させられる(B1=B2=b)。この結果、焼成後、第2グリーンシート23zには大きな引っ張り残留応力が面方向に発生し易い、と考えられる。
これに対し、図36は、本実施形態に係る製造方法が適用された場合における第1、第2グリーンシート22z、23zの面方向の収縮量(CIP収縮量、及び、焼成収縮量)の変化の推移を示す。図36に示すように、本実施形態では、第1、第2グリーンシート22z,23zのCIP収縮量A1,A2が一致する(A1=A2=a)。従って、それぞれのグリーンシートの(単独状態での)焼成収縮の量に大きな差が発生し難い。加えて、第1、第2グリーンシート22z,23zの実際の合計収縮量が一致している(A1+B1=A2+B2=a+b)。この結果、本実施形態では、上述した反応防止層23の引っ張り残留応力が発生し難い、と考えられる。
なお、本実施形態では、圧粉体21zに積層される前の第1、第2グリーンシート22z,23zの積層体にはCIPが施されておらず、従って、第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化されていない。これに対し、圧粉体21zに積層される前の第1、第2グリーンシート22z,23zの積層体にCIPを施して第1、第2グリーンシート22z,23zを一体化することを考える。
このため、図37に示すように、図23に示す積層体に対してCIPを施した。しかしながら、この場合、図38に示すように、CIPにより第1、第2グリーンシート22z,23zにCIP収縮が発生せず(即ち、上述したアンカー効果が作用せず)、第1、第2グリーンシート22z,23zが一体化され得ないことが判明した。これは、CIPの対象となる物体の厚さが小さ過ぎる場合、物体を真空パックする袋体が物体の側面に接触し難くなることで、物体の側面に対して静水圧が十分に伝わり難いことに起因すると考えられる。
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る積層焼成体は、以下のように製造される。先ず、後に電解質層22となる第1グリーンシート22zと後に反応防止層23となる第2グリーンシート23zとを積層してグリーンシート積層体が得られる。次いで、後に燃料極層21となる圧粉体21zの上下面に接合剤を介在することなく前記グリーンシート積層体が積層される。次に、この積層体にCIPが施されて圧粉体21zとグリーンシート積層体とが一体化された加圧成形体が得られる。この加圧成形体を焼成して、「燃料極層21と一対の電解質層22と一対の反応防止層23とからなる積層焼成体」が得られる。
これにより、第1、第2グリーンシート22z,23zのCIP収縮量が一致する(図36を参照)。従って、それぞれのグリーンシートの(単独状態での)焼成収縮の量に大きな差が発生し難くなり、この結果、焼成後にて、反応防止層23の引っ張り残留応力が発生し難くなる。
本発明は、特に、圧粉体のように焼成収縮量が比較的小さいグリーン基板と、グリーンシート等のように焼成収縮量が比較的大きい複数のグリーン膜とが積層・焼成される場合において、クラックや剥離等が発生し難い点で、非常に有効である。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、セル20において、電解質層22が燃料極層21の上下面のみに形成され、燃料極層21の側面(4面)に形成されていないが、電解質層22が、燃料極層21の周囲の全て(上下面及び側面)を囲むように燃料極層21の表面に形成されていてもよい。これにより、側壁26が省略できる。この場合、電解質層22のみにより空気流路Sと燃料流路24とが区画される。
また、上記実施形態においては、燃料極層21は、白金、白金−ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、ルテニウム、ルテニウム−ジルコニアサーメット等から構成することができる。
また、空気極層24は、例えば、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物(例えば、上述のランタンストロンチウムコバルトフェライトのほか、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンフェライト)から構成することができる。これらは、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等をドープしたものであってよい。また、パラジウム、白金、ルテニウム、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ルテニウム−ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム−酸化セリウムサーメットであってもよい。
また、上記実施形態においては、セル20のx−y平面形状は長方形であるが、正方形、円形、楕円形等であってもよい。これらの場合において、円形の場合の直径、楕円形の場合の長径、正方形の場合の1辺の長さは、3cm以上であることが好適である。
また、上記実施形態においては、燃料極層21の上下両面に電解質層22、反応防止層23、及び空気極層24が形成されているが、燃料極層の21の上下面の何れか一方にのみ電解質層22、反応防止層23、及び空気極層24が形成されていてもよい。
また、上記実施形態においては、燃料極層21の上下面に電解質層22が直接積層されているが、上記(2)式で表わされる反応の速度を高めるために、燃料極層21と電解質層22との間に、燃料極活性層29が介装されてもよい。この燃料極活性層29も、燃料極層21と同様にNi及びYSZからなる多孔質の焼成体であるが、燃料極層21に比して、YSZの含有割合が大きい。
この構成では、燃料極活性層29は、上記(2)式で表わされる反応の速度を高めるために主として使用され、燃料極層21は、上記(2)式で表わされる反応で得られた電子(e−)を導電板28へ運ぶために主として使用される。燃料極層21は、燃料極集電層、或いは燃料極基板とも呼ばれる。即ち、燃料極層が、燃料極集電層21及び燃料極活性層29の2層から構成されているということもできる。燃料極活性層29の厚さは燃料極集電層21の厚さに比して十分に小さい。
この構成が製造される場合、例えば、図39に示すように、図25に示した積層体における第1グリーンシート22zの上面に、後に燃料極活性層29となる第3グリーンシート29zが形成される。この第3グリーンシート29zは、印刷法等により形成される。そして、図40に示すように、図13に示した圧粉体21zの上下面に、図39に示した積層体がそれぞれ、接合剤等を使用することなく、露呈している第3グリーンシート29zの平面と圧粉体21zの上下面とが互いに向かい合うように積層される。この積層体がCIPに供されて加圧成形体が得られ、この加圧成形体が焼成に供されて、「燃料極集電層21と一対の燃料極活性層29と一対の電解質層22と一対の反応防止層23とからなる積層焼成体」が得られる。
また、上記実施形態においては、図23〜図25に示すように、第1、第2グリーンシート22z,23zの平面形状(z軸方向からみた形状)は同じである。即ち、第1グリーンシート22zに付着しているPETフィルムAと第2グリーンシート23zに付着しているPETフィルムBの平面形状(z軸方向からみた形状)も同じである。加えて、上下両端にPETフィルムA,Bがそれぞれ付着した2層のグリーンシート積層体は極めて薄い。従って、PETフィルムA,Bにおいて対応する隅部同士が非常に近接している。このような極めて薄いグリーンシート積層体からPETフィルムAのみが剥がされる必要がある。
以上より、図24に示すように、このグリーンシート積層体からPETフィルムAのみを剥がすためにPETフィルムAのみの4隅の1つが所定の治具等で摘まれる際、誤って、PETフィルムA、及び第1、第2グリーンシート22z,23zの3層の4隅の1つが一体で摘まれる可能性がある。即ち、グリーンシート積層体からPETフィルムAに代えてPETフィルムBが誤って剥がされる事態が発生する。
このことを抑制してグリーンシート積層体からPETフィルムAのみを確実且つ容易に剥がすためには、例えば、PETフィルムAの第1グリーンシート22zに対する接着力とPETフィルムBの第2グリーンシート23zに対する接着力とに差を設けることが考えられる。このためには、例えば、グリーンシートの剥離性を確保する目的でPETフィルム上にコーティングされている離型剤(シリコン樹脂等)の特性に差を設ける、PETフィルムの表面粗さに差を設ける等の手法が考えられる。しかしながら、前者では、接着力に大きな差が生じ難く、後者では、グリーンシートの品質(表面粗さ)の管理が困難となる。特に、グリーンシートの厚さが10μm以下では、グリーンシートの焼成後において、割れ等の欠陥が発生し易い。
そこで、図41に示すように、平面形状が同じ第1樹脂シート(PETフィルムA)が付着した第1グリーンシート22zと、平面形状が同じ第2樹脂シート(PETフィルムB)が付着した第2グリーンシート23zとが向かい合うように積層された2層のグリーンシート積層体において、第1グリーンシート22z(及び第1樹脂シート(PETフィルムA))の平面形状の輪郭の全部が、第2グリーンシート23z(及び第2樹脂シート(PETフィルムB))の平面形状の輪郭の内側に存在するように、第1、第2グリーンシート22z,23zの平面形状に差を設けることが考えられる。
図41に示した例では、第2グリーンシート23z及びPETフィルムBの平面形状が第1長方形であり、第1グリーンシート22z及びPETフィルムAの平面形状が、4辺全てが前記第1長方形の輪郭の内側に存在する第2長方形となっている。
これにより、PETフィルムA,Bにおいて対応する隅部同士が比較的離れる。従って、図43に示すように、グリーンシート積層体からPETフィルムAのみを剥がすためにPETフィルムAのみの4隅の1つが所定の治具等で摘まれる際、誤って、PETフィルムA、及び第1、第2グリーンシート22z,23zの3層の4隅の1つが一体で摘まれる可能性が非常に低くなる。即ち、グリーンシート積層体からPETフィルムAのみを確実且つ容易に剥がすことができる。
第1グリーンシート22z(及び第1樹脂シート)の平面形状の輪郭の全部でなく一部のみが、第2グリーンシート23z(及び第2樹脂シート)の平面形状の輪郭の内側に存在するように第1、第2グリーンシート22z,23zの平面形状に差を設けても、同様の作用・効果が奏される。図44、図45は、この場合の例を示している。
図44に示した例では、第2グリーンシート23z及びPETフィルムBの平面形状が第1長方形であり、第1グリーンシート22z及びPETフィルムAの平面形状が、4辺のうち2辺が前記第1長方形の輪郭と重なり、残りの2辺が前記第1長方形の輪郭の内側に存在する第2長方形となっている。図45に示した例では、第2グリーンシート23z及びPETフィルムBの平面形状が第1長方形であり、第1グリーンシート22z及びPETフィルムAの平面形状が、4辺のうち3辺が前記第1長方形の輪郭と重なり、残りの1辺のみが前記第1長方形の輪郭の内側に存在する第2長方形となっている。