JP2011007204A - 離脱防止管継手およびこの管継手に用いられる押圧爪 - Google Patents

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Abstract

【課題】離脱防止管継手の押圧爪における腐食の発生を効果的に防止する。
【解決手段】受口12の内周部、または、受口12の外側における挿口14の部分に外ばめされかつ受口12に連結された環状体19の内周部に、押圧爪27が配置される。押圧爪27は、押圧ボルト33の先端部に押されて挿口14の外面に押圧された状態で挿口14に固定される。押圧爪27は、鉄系材料にて形成されるとともに、挿口14に接する部分の表面に防食層35が形成される。防食層35は、Zn−Sn系合金溶射被膜と、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜と、Zn−Al系合金溶射被膜と、のいずれかを含有する。
【選択図】図1

Description

本発明は離脱防止管継手およびこの管継手に用いられる押圧爪に関する。
管継手の一種として、互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入される形式の受挿構造の管継手がある。この受挿構造の管継手は、受口からの挿口の離脱を防止し得る構造を採用した離脱防止管継手と、離脱防止機能を有していない管継手とに大別される。離脱防止管継手は、挿口の先端の外周に形成された環状突部が、受口の内部に収容されたロックリングに、受口の奥側から当たるように構成されることで、所期の離脱防止機能を発揮する。
配管路によっては、離脱防止機能を有しない管継手に離脱防止機能を付与することが求められることがある。また受挿構造の管継手を有する管は一定長さの定尺の鋳鉄管によって形成されるのが一般的であるが、配管工事の都合によっては、この定尺の管を所要の長さに切断して用いることがある。その場合には、挿口の先端が一定範囲で切断除去されることになるため、上記の環状突部も除去されてしまい、このために、もはや離脱防止機能を発揮できなくなる。このことへの対処として、切断によって得られた切管を用いた管継手に離脱防止機能を付与することが求められることがある。
このような場合に、次のような構成が用いられている。すなわち、受口の外側における挿口の部分に、受口に連結された環状体を外ばめし、この環状体の内部に押圧爪を配置し、環状体にねじ込まれる押圧ボルトの先端部によって押圧爪を管径方向に沿った内向きに押圧することで、この押圧爪を挿口の外面に食い込ませるようにしたものが用いられている(特許文献1、2)。
このような構成により離脱防止機能を発揮させるようにした管継手では、管すなわち受口および挿口や、環状体や、押圧爪や、押圧ボルトは、いずれもダクタイル鋳鉄で形成されているのが通例である。そして、管路を地中に埋設したときの各部の防食のため、受口および挿口を構成する管の表面にはZn溶射被膜が形成され、このZn溶射被膜の上にさらに合成樹脂塗装が施されている。押圧爪の外面には、合成樹脂塗装が施されている。
実開昭60−161774号公報 実開平4−101886号公報
しかしながら、押圧爪が挿口の外面に食い込むと、その爪先端部の合成樹脂塗膜が損傷するとともに、それに対応した挿口の外面が損傷し、それらの金属部分が地下水に触れるような状態となって、爪や管の腐食が急速に進行するおそれがある。
そこで本発明は、このような問題点を解決して、押圧爪を用いた離脱防止管継手において、その押圧爪や管における腐食の発生を効果的に防止できるようにすることを目的とする。
この目的を達成するため本発明の離脱防止管継手は、互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪が配置され、押圧爪は、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定され、押圧爪は、鉄系材料にて形成されるとともに、挿口に接する部分の表面に耐食被膜が形成され、この耐食被膜は、Zn−Sn系合金溶射被膜と、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜と、Zn−Al系合金溶射被膜と、のいずれかを含有することを特徴とする。
本発明の離脱防止管継手用押圧爪は、互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪が配置され、押圧爪が、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定された構成の離脱防止管継手のための、前記押圧爪であって、鉄系材料にて形成されるとともに、挿口に接する部分の表面に耐食被膜が形成され、この耐食被膜は、Zn−Sn系合金溶射被膜と、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜と、Zn−Al系合金溶射被膜とのいずれかを含有することを特徴とする。
本発明によれば、押圧爪の表面にZn−Sn系合金溶射被膜またはZn−Sn−Mg系合金溶射被膜またはZn−Al系合金溶射被膜にて防食層が形成されているため、優れた防食効果を発揮することができ、押圧爪の先端部が管の挿口へ食い込んだ場合にも防食層による防食効果を期待することができるため、押圧爪におよび管における腐食の発生を効果的に防止することができる。
本発明の実施の形態の離脱防止管継手の断面図である。 図1の押圧爪およびその変形例を拡大して示す図である。 本発明の他の実施の形態の離脱防止管継手の要部を示す図である。
図1において、互いに接続される一方のダクタイル鋳鉄製の管11の端部には受口12が形成され、他方のダクタイル鋳鉄製の管13の端部には、受口12の内部に挿入される挿口14が形成されている。
受口12の開口部の外周にはフランジ15が一体に形成され、受口12の開口部の内周には、その開口端に向かって徐々に拡径するテーパ状のシール材圧接面16が形成されている。挿口14には環状のゴム製のシール材17が外ばめされており、このシール材17は、挿口14の外周面18とシール材圧接面16との間に配置されている。
受口12の外側における挿口14の部分には、環状体としての押輪19が外ばめされている。この押輪19は、管11、13と同様にダクタイル鋳鉄にて形成され、周方向に連続した環状に形成されたものとすることができる。あるいは、周方向に沿って適当数に分割され、その分割部がボルトなどによって接合された構成であっても構わない。
押輪19における周方向に沿った複数の位置には、フランジ20が形成されている。そして、この押輪19のフランジ20と受口12のフランジ15とにわたって、管軸方向のT頭ボルト21とナット22とを備えた締結要素23が配置されている。すなわち、押輪19の周方向に沿った複数の位置に設けられた締結要素23を作用させることで、押輪19の押圧部24によってシール材17を圧接面16に向けて押圧することができ、それによりシール材17を圧接面16と挿口14の外周面18との間で圧縮させて所要のシール機能を発揮させることが可能である。
押輪19における周方向に沿った他の複数の位置には、上記したフランジ20に代えて、押圧爪収容部25が形成されている。押圧爪収容部25における押輪19の内周部分には、収容凹部26が形成されている。収容凹部26には、ダクタイル鋳鉄によって周方向に一定の長さで形成された押圧爪27が収容されている。
押圧爪27は、その内周部に2条の爪部28a、28bが形成されている。これらの爪部28a、28bは、互いに管軸心方向に距離をおいて形成されている。その結果、爪部28a、28bどうしの間には、管軸心と平行な方向の内周面29が形成されている。また押圧爪27の外周部には、受口12から遠ざかるにつれて次第に縮径するテーパ面30が形成されている。31、32は、管軸心方向に沿った押圧爪27の端面である。
33は押圧ボルトであり、同様にダクタイル鋳鉄にて形成されている。この押圧ボルト33は、押圧爪27のテーパ面30と直交する方向に沿って押輪19にねじ込まれることで、その先端部によってテーパ面30を管径方向に沿った内向きに押圧可能である。
受口12と挿口14とを含む管11、13の外周には、Zn−Sn系合金溶射被膜またはZn−Sn−Mg系合金溶射被膜を用いた耐食被膜が形成されている。さらに、合金溶射被膜の外周に、合成樹脂塗膜が上塗りされている。
図1および図2(a)に示すように、押圧爪27の内周部、すなわち、爪部28a、28bと、内周面29と、端面31、32における内周側の部分にも、溶射被膜を用いた耐食被膜35が形成されている。この耐食被膜35としては、管11、13と同様のZn−Sn系合金溶射被膜やZn−Sn−Mg系合金溶射被膜が用いられる。あるいは、押圧爪27の耐食被膜35としては、Zn−Al系合金溶射被膜を用いることもできる。そして、耐食被膜35の上から、押圧爪27の外面全体にわたって、合成樹脂塗装が行われている。41はそれにより形成された合成樹脂塗膜である。あるいは、合成樹脂塗膜41に代えて、重塗装による塗膜42が形成された構成とすることもできる。ここにいう重塗装としては、粉体塗装、液状エポキシ塗装、タールエポキシ塗装などを挙げることができる。
あるいは、図2(b)に示すように、押圧爪27の内周部に溶射被膜を用いた耐食被膜35が形成されるとともに、それに重ねて押圧爪27の内周部に合成樹脂塗膜41が形成され、押圧爪27の外周側には重塗装による塗膜42が形成された構成とすることもできる。
さらに、図2(c)に示すように、押圧爪27の外面全体に溶射被膜を用いた耐食被膜35が形成され、さらにその外面に合成樹脂塗膜41あるいは重塗装による塗膜42が形成された構成とすることもできる。
なお、重塗装による塗膜42を形成するための塗料としては、乾燥後の塗膜が必要以上に硬くならないものを選定することが必要である。その塗膜があまりに硬過ぎると、それに反比例して塗膜が脆くなり、このため管継手に大きな抜出力が作用したときに塗膜の剥がれが生じて耐食性が著しく低下する原因となることがある。
押圧爪27および管11、13に形成される溶射被膜について、詳細に説明する。
まず、Zn−Sn系合金溶射被膜について説明する。この合金溶射被膜は、Snが1質量%を超えるとともに50質量%未満であり、かつ残部がZnであることが好適である。このように主体とするZnにSnが加えられたものであることにより、Znだけを用いた溶射被膜に比べて防食性能を向上させることができる。その防食性能は、Zn−15Al(Znが85質量%、Alが15質量%)と同程度とすることができる。Snの含有量が1質量%以下である場合や50質量%以上である場合には、Snを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
軟らかい材料であるSnを含有することで、溶射のための材料としてのZn−Sn合金線材を作製しやすいという利点もある。しかも、ZnとSnだけを含むものであるため、管11、13によって上水道の管路を構築しても衛生面の問題が生じない。
次にZn−Sn−Mg系合金溶射被膜について説明する。この溶射被膜は、Snが1質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであることが好適である。
この場合も、Znだけを用いた溶射被膜に比べて防食性能を向上させることができる。その防食性能は、Zn−15Al(Znが85質量%、Alが15質量%)と比べて、同等以上とすることができる。
Snの含有量が1質量%以下である場合および、またはMgの含有量が0.01質量%以下である場合には、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。一方、Snの含有量が50質量%以上である場合および、またはMgの含有量が5質量%以上である場合も、同様に、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜を形成した場合も、Zn−Sn系合金溶射被膜を形成した場合と同様に、線材を作製しやすく、また衛生面の問題もないという利点がある。
次にZn−Al系合金溶射被膜について説明する。図1に示すように、押圧爪27はシール材17よりも受口12の外側に設けられているため、管内の水に接することがない。このため押圧爪27は、Zn−Al系合金溶射被膜を形成しても衛生上の問題が生じることがない。
この合金溶射被膜は、Alが1質量%を超えるとともに30質量%未満であり、かつ残部がZnであることが好適である。なかでも上述のZn−15Al(Znが85質量%、Alが15質量%)を特に好ましく用いることができる。Alの含有量が1質量%以下である場合や30質量%以上である場合には、Alを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
上述の各合金溶射被膜には、Ti、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませることができる。すなわち、いずれか一つ、または二つ〜四つを、あわせて含ませることができる。その含有量は、各々が、0.001質量%以上かつ3質量%以下であることが好ましい。SnやSn−MgやAlのほかにこれらの元素を含ませることにより、その分だけ残部のZnの量が低下する。
これらの元素を含有させることで、防食性能をより向上させることができる。ただし、各々の含有量が0.001質量%未満である場合は、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。また、各々の含有量が3質量%を超える場合も、同様に、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
これらを含有させることによっても、同様に、含有量が微量であるために合金線材を問題なく作製することができ、また衛生面の問題もないという利点がある。
合金溶射被膜は、ポーラスな構成を有することがあるが、その場合はいわゆる封孔処理を施すことによって防食性能をいっそう向上させることができる。
次に合金溶射被膜の形成方法について説明する。すなわち、管11、13の表面に合金溶射被膜を形成するための方法や、押圧爪27に合金溶射被膜を形成するための方法として、公知の溶射方法、すなわちZn−Sn線材、Zn−Sn−Mg線材、Zn−Al線材(押圧爪27に合金溶射被膜を形成する場合のみ)、あるいはこれらにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を用いて、アーク溶射を行う方法を挙げることができる。あるいは、線材に代えて合金粉末を用いた溶射を行うこともできる。
上記に代えて、Zn−Sn合金溶射被膜は、Zn−Sn線材、またはこれにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を第1の線材として用いるとともに、Zn線材を第2の線材として用いて、同時にアーク溶射を行うことによって得ることもできる。同様に、Zn−Sn−Mg合金溶射被膜も、Zn−Sn−Mg線材、またはこれにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を第1の線材として用いるとともに、Zn線材を第2の線材として用いて、同時にアーク溶射を行うことによって得ることもできる。Zn−Al合金溶射被膜についても同様である。
たとえばZn−25Sn−0.5Mg(Sn:25質量%、Mg:0.5質量%、Zn:残部、以下、同様に表記することがある)の合金溶射被膜を得るために、Zn−25Sn−0.5Mg線材を2本用いて同時にアーク溶射することに代えて、Zn−50Sn−1.0Mg線材とZn線材とを等量ずつ用いて同時にアーク溶射することができる。
このようにすると、防食性能をよりいっそう向上させることができる。またZn−Sn−Mg線材の使用量を半減させることができるため、その調合に要するコストを削減することができる。
このような溶射方法を採用することで、防食性能をよりいっそう向上させることができる理由は、明らかではないが、以下の(a)(b)(c)のそれぞれ、あるいはそれらの相乗効果によるものと考えることができる。
(a)たとえばZn−Sn−Mg合金線材とZn線材とを用いて同時にアーク溶射を行った場合には、それによって形成される溶射被膜中には、Zn−Sn−Mg合金とZnとがそれぞれ分布することになる。このとき、Zn−Sn−Mg合金はZnよりも電位が低いため、これらが犠牲陽極として働く場合には、Zn−Sn−Mg合金が優先的に溶け出す。この溶け出したZn−Sn−Mg合金が被膜の表面に比較的安定した別の被膜を形成することで、それが、残りのZn−Sn−Mg合金とZnとの消耗または溶解を抑制しているためであると考えることができる。
(b)被膜中に存在しているZnが物理的な障害となってZn−Sn−Mg合金の溶解を抑制し、またZn−Sn−Mg合金が溶解した場合はその腐食生成物がZnの溶解を抑制しているためであると考えることができる。
(c)本発明者らが観察したところによると、2本のZn−25Sn−0.5Mg線材を使用して得られたZn−25Sn−0.5Mg溶射被膜の気孔率は、約15%であった。これに対し、Zn−50Sn−1.0Mg線材とZn線材とを等量ずつ使用して得られたZn−25Sn−0.5Mg溶射被膜の気孔率は、約12%であった。つまり、後者の方が気孔率が低いことから、防食性能が向上したと考えることができる。気孔率が低くなったのは、Zn−50Sn−1.0Mg線材の方がZn線材よりも軟質であることから、硬さの異なる線材を使用したことが影響しているかも知れない。
本発明によれば、Zn−Sn合金溶射被膜あるいはZn−Sn−Mg合金溶射被膜を形成したうえで、これを合金の共晶温度(198℃)以上かつ融点未満の温度で熱処理することが好ましい。このように熱処理を施すことで、防食性能をより向上させることができる。その理由は、Zn−Sn合金あるいはZn−Sn−Mg合金の共晶温度を超える温度で熱処理することでSnだけが溶解し、これによって溶射被膜中に生じていた微細な空隙が埋められることになって、鋳鉄管を地中に埋設したときに被膜中に電解質が浸入することを抑制可能となるためであると推定される。
したがって、共晶温度未満の温度で熱処理したのでは、Snが実質的に溶解せず、上記した効果が得られない。反対に熱処理温度が合金溶射被膜の融点以上であると、合金の酸化が進んで本来の防食性能が失われる。
熱処理の時間は、特に制限はないが、1秒〜60分であることが好適である。熱処理の時間がこの範囲よりも短いと、処理時間が不足して、必要な熱処理を行うことができない。
上述のように、塗膜41、42の形成は、合金溶射被膜が形成されたあとの施工とする。
この塗膜41、42によって、図2に示すように、押圧爪27における外周側の部分すなわちテーパ面30などに、電気絶縁性の高い塗膜が形成される。これにより、押圧ボルト33と押圧爪27との間を絶縁してこれらが電気的に導通することを防止でき、導通に基く腐食の発生を防止することができる。上述のように押圧爪27の外周側に重塗装による塗膜42を形成すると、電気絶縁性を特に良好にすることができる。
押圧ボルト33で押圧爪27を押圧したときに塗膜41、42が傷付いて絶縁性が阻害されることがないように、押圧ボルト33と押圧爪27との間にシート材などを配置することができる。このシート材は、金属製のものを用いれば、塗膜41、42の傷付きを確実に防止することができる。あるいは、シート材として樹脂製のものを用いれば、押圧ボルト33と押圧爪27との間の絶縁性を確保することができる。
管11、13どうしを接合する際には、押圧爪27を収容した押輪19とシール材17とを外ばめした状態で挿口14を受口12に挿入する。次に締結要素23によって押輪19を受口12に締結することで、その押圧部24によりシール材17を圧縮して所要のシール機能を発揮させる。その後に押圧ボルト33を締付ければ、押圧爪27の爪部28a、28bが挿口14の外周面に食い込むように作用する。これにより、挿口14が押圧爪27と押圧ボルト33と押輪19と締結要素23とによって受口12と一体化され、所期の離脱防止機能が発揮される。
地震発生時などにおいて、受口12と挿口14との間に大きな抜出力が作用した場合には、テーパ面30の作用によって押圧爪27の爪部28a、28bが挿口14の外周面により強く食い込んで、その抜出力に抗することができる。
このような場合には、押圧爪27の爪部28a、28bの先端や内周面29が傷付くことが懸念されるが、管11、13に溶射被膜による耐食被膜が形成されているとともに、押圧爪27にも溶射被膜による耐食被膜35が形成されているため、それに基く確実な防食効果を得ることができる。たとえば、大きな抜出力が作用したときに爪部28a、28bの先端が挿口14の外面に食い込むことによって、これらの部分の塗膜が剥がれると、普通には、その後にその部分が腐食して、管壁の腐食貫通による漏水が発生したり、所要の離脱防止性能を発揮できなくなったりする。しかし、本発明によれば、管11、13や押圧爪27に溶射被膜による耐食被膜が形成されているため、塗膜が剥がれてもこの耐食被膜により腐食の進行を防止することができる。
なお、上記においては、管11、13と押圧爪27との両方に溶射被膜による耐食被膜が形成されているものについて説明したが、本発明においては、少なくとも押圧爪27に耐食被膜35が形成されていれば足りる。管11、13は、所要の耐食性能を発揮するのであれば、溶射被膜以外の、たとえば上記した重塗装による塗膜などが形成されたものであっても差し支えない。
押輪19には、粉体塗装やエポキシ樹脂塗装によって防食性の高い塗膜を形成することができ、それによって押輪19の防食を図ることができる。その結果、押圧爪27において溶射被膜により形成された耐食被膜35や、管11、13において溶射被膜により形成された耐食被膜が防食のための犠牲陽極として作用する量を低減することができる。
図3は押圧爪の変形例を示す。この図3の押圧爪27aは、上述の押圧爪27のようにテーパ面30が形成されていることに代えて、横断面半円状の外周面36が形成されている。爪部28cは1条である。
この場合は、受口12と挿口14との間に大きな抜出力39が作用したときには、図示の状態から押圧爪27aが立ち上がるように作用し、それによって爪部28cが挿口14に大きく食い込んで、所要の離脱防止機能を発揮する。
そしてこの場合も、押圧爪27aの内周部すなわち爪部28cおよびその周辺に溶射被膜による耐食被膜35が形成されており、同様の防食機能を発揮する。
上記においては、受口12とは別体の環状体としての押輪19に押圧爪収容部25および収容凹部26を形成したものについて説明したが、これに代えて、受口12自体におけるシール材の収容部よりも開口側の内周に押圧爪収容部25および収容凹部26を形成し、これに押圧爪27を収容し、そして受口12の外面側から押圧ボルト33をねじ込むようにしてもよい。
本出願人による特願2009−138737に記載のように、挿口の先端の外周に環状突部を有した離脱防止管継手用の管を所要の長さに切断して用いる場合には、切断した管の切断端に、受挿構造の他の管であってその挿口の外周に離脱防止用の環状突部を形成したものの受口を接合し、切断した管と他の管との合計長さを上記の所要の長さとすれば、定尺よりも短い管であって定尺の管と同様の離脱防止機能を有した管を構成することができる。この場合に、本発明によれば、切断した管の切断端と他の管の受口とを、上述した押圧爪を有した本発明の離脱防止構造で接合することができる。
実際に防食試験を行った結果について説明する。
(実験例1、2)
図1に示す離脱防止管継手であって、管11、13、押輪19、押圧爪27、押圧ボルト33をすべてダクタイル鋳鉄製としたものを用いた。管11、13、としては、口径Dが75mmのものを用いた。管11、13の外周には、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜を約50μmの厚さで形成した。そして、この被膜を封孔処理したうえで、その外面に合成樹脂塗膜を約100μmの厚さで形成した。
押圧爪27は、図2(a)に示すように、その内周部にZn−Sn−Mg系合金溶射被膜35を約50μmの厚さで形成し、この被膜35を封孔処理したうえで、合金溶射被膜35を含む押圧爪27の全外面を覆うように合成樹脂塗膜41を約100μmの厚さで形成した(実験例1)。
また、実験例1の合成樹脂塗膜41に代えて、溶射被膜35を含む押圧爪27の全外面を覆うように、重塗装による塗膜42であるエポキシ樹脂粉体塗膜を約300μmの厚さで形成するように変更した(実験例2)。
押圧ボルト33と押圧爪27との間は、塗膜41、42の作用によって、あるいは必要に応じて絶縁シートを介在させることなどによって、電気的に絶縁された状態となるようにした。
このようにして得られた実験例1、2の離脱防止管継手では、上記のように管11、13の口径をD[mm]として、継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたときに、実験例1、2の離脱防止管継手とも、押圧爪27の爪部28a、28bにおいて、塗装による塗膜41あるいは塗膜42と、溶射被膜35とに剥がれが生じたが、それ以外の箇所には剥がれは認められなかった。
このように3D[kN]の抜出力を作用させた後の実験例1、2の管継手に対して、複合サイクル腐食試験(自動車技術協会(凍結防止剤対象)JASO M609.610によるもの)を実施した。詳細には、
(1)塩水噴霧(2時間、35±1℃、5%NaCl水溶液)
(2)乾燥(4時間、60±1℃、20〜30±5%RH)
(3)湿潤(2時間、50±1℃、>95%RH)
からなるサイクルを繰り返した。
試験を4か月にわたって継続した後に肉眼で観察したところ、実験例1、2の離脱防止管継手とも、押圧爪27、その爪部28a、28b、管11における押圧爪27の近傍の部分には、赤錆の発生は認められなかった。
(実験例3)
実験例1に比べて、押圧爪27は、図2(b)に示すように、その内周部にZn−Sn−Mg系合金溶射被膜35を約50μmの厚さで形成し、この被膜35を封孔処理したうえで、その被膜35の外面に合成樹脂塗膜41を約100μmの厚さで形成した。そして、押圧爪27における被膜35および合成樹脂塗膜41が形成されていない部分、すなわちその外周部には、重塗装による塗膜42として、厚さ約300μmのエポキシ樹脂粉体塗膜を形成した。それ以外は実験例1と同様とした。
そうしたところ、実験例1と同様に、継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたときに、押圧爪27の爪部28a、28bにおいて、塗装による塗膜41と、溶射被膜35とに剥がれが生じたが、それ以外の箇所には剥がれは認められなかった。また抜出力を作用させた後の管継手に対して、上述の複合サイクル腐食試験を実施し、試験を4か月にわたって継続した後に肉眼で観察したところ、押圧爪27、その爪部28a、28b、管11における押圧爪27の近傍の部分には、赤錆の発生は認められなかった。
(実験例4、5)
実験例1に比べて、図2(c)に示すように、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜35を押圧爪27の全外面を覆うように約50μmの厚さで形成し、この被膜35を封孔処理するように変更した。それ以外は実験例1と同じとした(実験例4)。
また実験例2に比べて、図2(c)に示すように、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜35を押圧爪27の全外面を覆うように約50μmの厚さで形成し、この被膜35を封孔処理するように変更した。それ以外は実験例2と同じとした(実験例5)。
そうしたところ、同様に継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたときに、押圧爪27の爪部28a、28bにおいて、塗装による塗膜41あるいは塗膜42と、溶射被膜35とに剥がれが生じたが、それ以外の箇所には剥がれは認められなかった。また抜出力を作用させた後の管継手に対して、上述の複合サイクル腐食試験を実施し、試験を4か月にわたって継続した後に肉眼で観察したところ、押圧爪27、その爪部28a、28b、管11における押圧爪27の近傍の部分には、赤錆の発生は認められなかった。
(比較例1、2)
実験例1と比べて、押圧爪27は、合金溶射被膜を形成せず、合成樹脂塗膜41のみを約100μmの厚さで形成するように変更した。それ以外は実験例1と同じとした(比較例1)。
また、実験例2と比べて、押圧爪27は、合金溶射被膜を形成せず、重塗装による塗膜42であるエポキシ樹脂粉体塗膜のみを約300μmの厚さで形成するように変更した。それ以外は実験例2と同じとした(比較例2)。
そうしたところ、比較例1、2とも、継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたときに、押圧爪27の爪部28a、28bにおいて塗装による塗膜41あるいは塗膜42に剥がれが生じたが、それ以外の箇所には剥がれは認められなかった。
しかし、抜出力を作用させた後の管継手に対して、上述の複合サイクル腐食試験を実施したところ、比較例1では試験開始後2週間で押圧爪27の全体に赤錆の発生が見られ、比較例2では試験開始後2週間で押圧爪27の爪部28a、28bに赤錆の発生が見られた。
(比較例3)
実験例1と比べて、管11、13の外周にはZn溶射被膜を約20μmの厚さで形成し、その外面に合成樹脂塗膜を約100μmの厚さで形成した。押圧爪27は、合金溶射被膜を形成せず、合成樹脂塗膜41のみを約100μmの厚さで形成するように変更した。それ以外は実験例1と同じとした。
そうしたところ、実験例1と同様に、継手部に3D[kN]の抜出力を作用させたときに、押圧爪27の爪部28a、28bにおいて塗膜41に剥がれが生じたが、それ以外の箇所には剥がれは認められなかった。
しかし、抜出力を作用させた後の管継手に対して、上述の複合サイクル腐食試験を実施したところ、試験開始後1週間で押圧爪27の全体に赤錆の発生が見られた。
12 受口
14 挿口
19 押輪
27 押圧爪
28a 爪部
28b 爪部
29 内周面
33 押圧ボルト
35 耐食被膜

Claims (2)

  1. 互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、
    受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪が配置され、
    押圧爪は、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定され、
    押圧爪は、鉄系材料にて形成されるとともに、挿口に接する部分の表面に耐食被膜が形成され、
    この耐食被膜は、Zn−Sn系合金溶射被膜と、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜と、Zn−Al系合金溶射被膜と、のいずれかを含有することを特徴とする離脱防止管継手。
  2. 互いに接合される一方の管の端部に形成された受口の内部に、他方の管の端部に形成された挿口が挿入され、
    受口の内周部、または、受口の外側における挿口の部分に外ばめされかつ受口に連結された環状体の内周部に、押圧爪が配置され、
    押圧爪が、押圧ボルトの先端部に押されて挿口の外面に押圧された状態で挿口に固定された構成の離脱防止管継手のための、前記押圧爪であって、
    鉄系材料にて形成されるとともに、挿口に接する部分の表面に耐食被膜が形成され、
    この耐食被膜は、Zn−Sn系合金溶射被膜と、Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜と、Zn−Al系合金溶射被膜とのいずれかを含有することを特徴とする離脱防止管継手用押圧爪。
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