JP2010285636A - 伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.1%未満(0%を含む)、S:0.005%以下(0%を含む)、Al:0.1%以下(0%を含む)、V:0.02〜0.2%、Nb+Ti:合計で0.02〜0.2%を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、残留オーステナイト、マルテンサイトおよびセメンタイトからなる硬質第2相を面積率で10〜50%含み、残部が焼戻しマルテンサイトからなる軟質な母相である組織であって、前記残留オーステナイトを単独では面積率で1%以上含む組織を有し、前記硬質第2相の平均粒径が円相当直径で0.6μm以下であり、前記焼戻しマルテンサイト中の円相当直径5nm以上の炭化物が、該焼戻しマルテンサイト1μm2当たり2〜20個である高強度冷延鋼板。
【選択図】なし
Description
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.25%、
Si:0.5〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
P:0.1%未満(0%を含む)、
S:0.005%以下(0%を含む)、
Al:0.1%以下(0%を含む)、
V:0.02〜0.2%、
Nb+Ti:合計で0.02〜0.2%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
残留オーステナイト、マルテンサイトおよびセメンタイトからなる硬質第2相を面積率で10〜50%含み、
残部が焼戻しマルテンサイトからなる軟質な母相である組織であって、
前記残留オーステナイトを単独では面積率で1%以上含む組織を有し、
前記硬質第2相の平均粒径が円相当直径で0.6μm以下であり、
前記焼戻しマルテンサイト中の円相当直径5nm以上の炭化物が、該焼戻しマルテンサイト1μm2当たり2〜20個である
ことを特徴とする伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜1.0%、
B:0.0002〜0.0030%の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板である。
上述したとおり、本発明鋼板は、上記特許文献1〜8と近似のTAM鋼の組織をベースとするものであるが、特に、焼戻しマルテンサイト中に析出した炭化物の分布状態が制御されるとともに、硬質第2相の粒度が制御されている点で、上記特許文献1〜8の鋼板とは相違している。
残留オーステナイト、マルテンサイトおよびセメンタイトを総合して硬質第2相と定義する。硬質第2相を一定割合以上確保して引張強度を確保しつつ、硬質第2相の割合を制限して軟質な母相である焼戻しマルテンサイトを一定割合以上確保して伸びを確保する。
残部にポリゴナルフェライトが含まれると、伸びは優れるものの、引張強度や伸びフランジ性が不足するため、残部は焼戻しマルテンサイトのみとする。
残留オーステナイトの割合を一定以上確保することで、TRIP現象を有効に作用させ、伸びを確保する。
硬質第2相を微細化させることにより焼戻しマルテンサイトフェライトと硬質第2相の界面での応力集中を低減させることで、伸びフランジ性が改善される。
焼戻しマルテンサイト中に一定密度以上で炭化物を析出させることで、引張強度が確保される。ただし、炭化物の析出密度を高くしすぎると焼戻しマルテンサイトの可塑性が低下し、伸びが確保できなくなる。なお、炭化物の粒度が小さすぎると析出強化に十分寄与しないことから、炭化物のサイズは円相当直径5nm以上とする。
TAM鋼を走査型電子顕微鏡(SEM)で組織観察した場合、図1に示すように、画像のコントラストから黒い部分と白い部分に区別でき、黒い部分は焼戻しマルテンサイトまたはポリゴナルフェライトからなる軟質な母相とし、残りの白い部分は残留オーステナイト、マルテンサイトおよびセメンタイトからなる硬質第2相とする。
上記面積率の測定の際に測定した、1視野につき100個の硬質第2相の面積から円相当直径を算出して求めた。
析出物のサイズおよびその存在密度については、各供試鋼板の抽出レプリカサンプルを作成し、0.8μm×1μmの領域3視野について倍率100000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察した。
C:0.05〜0.25%
Cは、硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率に影響し、強度と伸びに影響する重要な元素である。0.05%未満では強度が確保できなくなる一方、0.25%超では溶接に適さない。
Siは、残留オーステナイトの面積率に影響し、伸びの向上に寄与する有用な元素である。0.5%未満では、第2段階熱処理の際におけるオーステンパでのベイナイト変態時に残留オーステナイトが分解してしまうため、残留オーステナイトの面積率が確保できず、伸びを確保できなくなる。一方、3.0%超では第1段階および第2段階熱処理の際の加熱時におけるオーステナイト形成を阻害するため、硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率を確保できず、強度と伸びが確保できなくなる。Si含有量の下限は、好ましくは0.50%、さらに好ましくは1.0%であり、その上限は、好ましくは2.5%、さらに好ましくは2.2%である。
Mnは、硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率に影響し、強度と伸びに寄与する有用な元素である。0.5%未満では硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率が確保できず、強度と伸びを確保できなくなる。一方、3.0%超とするとベイナイト変態を遅らせるため、第2段階熱処理の際におけるオーステンパ時にオーステナイトへのCの濃縮が不十分となり、最終組織における残留オーステナイトの面積率を確保できず、伸びを確保できなくなる。Mn含有量の下限は、好ましくは0.8%、さらに好ましくは1.2%であり、その上限は、好ましくは2.5%、さらに好ましくは2.2%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、 旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%未満とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.005%以下とする。より好ましくは0.003%以下である。
Alは固溶強化により強度向上に寄与する。0.1%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率を確保できず、強度と伸びを確保できなくなる。
Vは第2段階熱処理で焼戻しマルテンサイト中に炭化物を形成し、焼戻しマルテンサイトの強度に影響し、鋼板全体の強度に影響する。0.02%未満では炭化物の形成が不足し、焼戻しマルテンサイトの強度が不十分となり、強度を確保できなくなる。一方、0.2%超では第1段階熱処理で炭化物が析出してしまい、焼戻しマルテンサイト中に炭化物を一定密度以上析出させることができず、焼戻しマルテンサイトを強化できなくなる。
NbとTiは冷延後の第1段階熱処理で炭化物を形成し、そのピン止め作用により旧オーステナイト粒の粗大化を抑制することで硬質第2相を微細化し、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。NbとTiの合計量が0.02%未満では、炭化物の形成が少なく、旧オーステナイト粒の粗大化抑制作用が不十分となり、硬質第2相のサイズが増大して、伸びフランジ性を確保できなくなる。一方、0.2%超では、冷延後の第1段階熱処理前に炭化物が析出してしまい、最終組織の硬質第2相を微細化できなくなり、やはり伸びフランジ性を確保できなくなる。
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜1.0%、
B:0.0002〜0.0030%の1種または2種以上
これらの元素は、固溶強化により残留オーステナイトを安定化することで、強度と伸びを向上させるのに有用な元素である。各元素の下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえない。一方、Crはその上限値を超える添加では粗大なCr7C3が形成されるようになり、伸びフランジ性が劣化してしまう。また、その他の各元素は各上限値を超える添加ではコストが高くなりすぎる。
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0005%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行う。
熱間圧延条件としては、スラブ加熱温度:1250℃以上、スラブ保持時間:10800〜18000sでスラブを加熱し、仕上圧延終了温度:900℃以上にて熱間圧延したのち、熱間圧延終了後巻取りまでの冷却速度:30℃/s以上で冷却を行った後、巻取温度:450℃以下Ms点以上で巻き取る。
熱間圧延前にTi、Nb、Vを完全に固溶させておくためである。スラブ加熱温度が1250℃未満または保持時間が10800s未満では、Ti、Nb、Vが完全には固溶せず、その後の炭化物の形成量に影響し、最終組織の焼戻しマルテンサイト中の炭化物の存在密度を確保できなくなる、または、硬質第2相のサイズを微細化できなくなり、強度もしくは伸びフランジ性を劣化させる。一方、スラブ保持時間が18000s超になると、生産性が極端に悪化するので好ましくない。
仕上圧延終了温度が900℃未満では、熱間圧延中にTi、Nb、Vが炭化物として析出してしまい、最終組織の硬質第2相を微細化できなくなり、かつ、焼戻しマルテンサイト中に一定以上の密度で炭化物を析出させることができなくなり、強度と伸びフランジ性が劣化する。
熱間圧延終了後巻取りまでTi、Nb、Vを全て固溶状態としておくためである。冷却速度が30℃/s未満では、熱間圧延終了後巻取りまでの間にTi、Nb、Vが炭化物として析出してしまい、最終組織の硬質第2相を微細化できず、かつ、焼戻しマルテンサイト中に一定以上の炭化物を析出させることができなくなり、強度と伸びフランジ性が劣化する。
上記熱間圧延終了後巻取りまでの冷却速度と同様、Ti、Nb、Vを全て固溶状態としておくためである。巻取温度が450℃超となると、巻取り中に拡散型のフェライト変態が起こり、Ti、Nb、Vが炭化物として析出してしまい、最終組織の硬質第2相を微細化できず、かつ、焼戻しマルテンサイト中に一定以上の炭化物を析出させることができなくなり、強度と伸びフランジ性が劣化する。一方、巻取温度がMs点未満になると、マルテンサイト変態が起こり、次工程の冷間圧延が難しくなる。
第1段階熱処理条件としては、第1段階加熱速度:5〜20℃/sで昇温し、第1段階加熱温度:Ac3〜Ac3+100℃にて、第1段階保持時間:1000s以下保持した後、第1段階加熱温度からMf点以下の温度まで100℃/s以上の冷却速度で急冷する。
冷間圧延後の第1段階熱処理の際における加熱時にTi、Nbの炭化物を微細に析出させ(Vは固溶した状態のままとする;後述)、これらの炭化物によるピン止め作用により該第1段階熱処理の際の加熱時におけるオーステナイト粒の粗大化を抑制するためである。すなわち、最終組織の硬質第2相のサイズは、上記冷間圧延後の第1段階熱処理の際の加熱時におけるオーステナイト粒のサイズに依存して決定される。よって、冷間圧延後の第1段階熱処理の際における加熱時にTi、Nbの炭化物を微細に析出させることで、最終組織の硬質第2相の微細化が達成できる。
冷間圧延後の第1段階熱処理の際における加熱時には、Vを固溶状態に保ちつつ、100%オーステナイト(オーステナイト単相組織)に変態させるためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトやベイナイトが形成されることを抑制し、フルマルテンサイト組織を得るためである。
第2段階熱処理条件としては、上記第1段階熱処理における冷却後、2段階加熱温度:((9Ac1+1Ac3)/10)〜((Ac1+Ac3)/2)まで再加熱し、第2段階保持時間:600s以下保持した後、オーステンパ温度:300〜500℃までを第2段階冷却速度:50℃/s以上で冷却し、該オーステンパ温度(300〜500℃)にて、オーステンパ保持時間:100〜600s保持した後、空冷以上の冷却速度で冷却すればよい。
再加熱時にマルテンサイトをオーステナイトに変態させて、面積率で10〜50%のオーステナイト組織とするためである。第2段階加熱温度が((9Ac1+1Ac3)/10)未満では、オーステナイト組織が不足し、((3Ac1+7Ac3)/10)を超えると、オーステナイト組織が過剰になる。また、第2段階保持時間が600sを超えると生産性が悪化するので好ましくない。
上記で得られたオーステナイト組織を急冷して過冷オーステナイト組織を得るためである。第2段階冷却速度が50℃/s未満では、オーステナイト組織がフェライトに変態してしまい、ベイナイト変態を起こすことができず、残留オーステナイトが不足し、伸びが確保できなくなる。
適切な硬質第2相の面積率および残留オーステナイトの面積率を得るためである。 オーステンパ温度が300℃未満では、硬質第2相の面積率を確保できず、強度が劣化する。一方、500℃超になると、Cの濃縮が少なく、残留オーステナイトの面積率を確保できず、伸びが劣化する。また、オーステンパ保持時間が100s未満では、上記と同じく、Cの濃縮が少なく、残留オーステナイトの面積率を確保できず、伸びが劣化する。一方、600sを超えると、残留オーステナイトが分解してしまい、やはり残留オーステナイトの面積率を確保できず、伸びが劣化する。
Ac3(℃)=910−203√[C]+44.7[Si]−30[Mn]+700[P]+400[Al]+400[Ti]+104[V]−11[Cr]+31.5[Mo]−20[Cu]−15.2[Ni] …式(3)
ただし、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
Claims (3)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.25%、
Si:0.5〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
P:0.1%未満(0%を含む)、
S:0.005%以下(0%を含む)、
Al:0.1%以下(0%を含む)、
V:0.02〜0.2%、
Nb+Ti:合計で0.02〜0.2%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
残留オーステナイト、マルテンサイトおよびセメンタイトからなる硬質第2相を面積率で10〜50%含み、
残部が焼戻しマルテンサイトからなる軟質な母相である組織であって、
前記残留オーステナイトを単独では面積率で1%以上含む組織を有し、
前記硬質第2相の平均粒径が円相当直径で0.6μm以下であり、
前記焼戻しマルテンサイト中の円相当直径5nm以上の炭化物が、該焼戻しマルテンサイト1μm2当たり2〜20個である
ことを特徴とする伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜1.0%、
B:0.0002〜0.0030%の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の伸び、伸びフランジ性および溶接性を兼備した高強度冷延鋼板。
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