JP2012188738A - 温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】温間での延性と深絞り性に優れた高強度鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:1.0%超え〜3.0%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下(0%を含まない)、S:0.010%以下(0%を含まない)、N:0.0020〜0.0300%以下、Al:0.0010〜0.1%を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、ミクロ組織が、全組織に対する面積率でベイナイトとベイニティックフェライトの合計:65%%以上、残留γ:5%以上、マルテンサイトと残留γの合計:35%以下、ポリゴナルフェライト:10%以下(0%を含む)、残部として前記以外の組織:5%以下(0%を含む)からなり、前記残留γ中の炭素濃度が1.3%以下であり、かつ、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔が1.4μm以上である高強度鋼板。
【選択図】図4

Description

本発明は、自動車用部材に適した高強度鋼板、詳細には、プレス成形性、特に、温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板およびその製造方法に関する。
例えば自動車部品などに使用される鋼板には、衝突安全性や車体軽量化による燃費低減などを目的として高強度が求められるとともに、形状の複雑な部品に加工するために優れた成形性も要求される。このため、高強度鋼板においては、特に更なる延性と深絞り性の向上が切望されている。
このようなニーズを受けて、材料面からは、種々の組織制御の考え方に基づき、延性を改善した高強度鋼板が多数提案されている。その中で、高強度と延性を兼ね備えた鋼板として、TRIP型(Transformation Induced Plasticity;変態誘起塑性)鋼板が注目されている。TRIP型鋼板は、鋼中にオーステナイト組織が残留しており、加工変形による応力によって残留オーステナイトがマルテンサイトに誘起変態し、加工硬化率が上昇する事により優れた延性が得られる鋼板である。
例えば、特許文献1には、C:0.16%以上0.72%以下、Si:3.0%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.07%以下、Al:3.0%以下およびN:0.010%以下とし、かつSi+Alが0.7%以上を満足させ、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率を10%以上90%以下、残留オーステナイト量を5%以上50%以下、上部ベイナイト中のベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率を5%以上とし、前記マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率、前記残留オーステナイト量および前記上部ベイナイト中のベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率の合計が60%以上、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以下(0%を含む)を満足させ、かつ前記残留オーステナイト中の平均C量を0.70%以上2.00%以下とするTRIP型ベイニティックフェライト鋼板が開示されている。
特許文献2には、C:0.10〜0.20%、Si:0.8〜2.5%、Mn:1.5〜2.5%、Al:0.01〜0.10%、P:0.1%未満(0%を含まない)、S:0.002%未満(0%を含まない)を含有し、残部:鉄および不可避不純物を満足するとともに、組織が、少なくとも、ベイニティック・フェライトと残留オーステナイトとを含み、全組織に対する面積率で、ベイニティック・フェライト:70%以上、残留オーステナイト:2〜20%、ポリゴナル・フェライト及び/又は準ポリゴナル・フェライト:15%以下(0%を含まない)を満足し、且つ、前記残留オーステナイト中に占める平均粒径5μm以下の残留オーステナイトの割合は60%以上であるTRIP型ベイニティックフェライト鋼板が開示されている。
上記特許文献1、2に開示された高張力鋼板は、高強度と延性を兼ね備えたTRIP型ベイニティックフェライト鋼板であるが、常温での成形性に関するもので、その温間成形性については考慮されていない。
また、成形面からは、温間や熱間での成形方法が提案されており、非特許文献1には、温間成形に関する技術が開示されている。この中で、引張強度が780MPa級のTRIP型鋼板を80〜230℃で成形すると、延性が向上する旨が示されているが、引張強度が980MPa以上の鋼板において温間での延性を向上させるにはどのような組織にすることが望ましいかについては、明らかにされていない。
特開2010−65272号公報 特開2008−7854号公報
プレス技術,第42巻,第12号,2004年11月,P.34−38
そこで本発明の目的は、高強度TRIP型ベイニティックフェライト鋼板について延性と深絞り性、特に温間(100〜500℃)での延性と深絞り性を高めた鋼板およびその製造方法を提供することにある。
請求項1に記載の発明は、
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C :0.10〜0.30%、
Si:1.0%超え〜3.0%、
Mn:1.0〜3.0%、
P :0.10%以下(0%を含む)、
S :0.010%以下(0%を含む)、
N :0.0020〜0.0300%以下、
Al:0.0010〜0.1%
を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
ミクロ組織が、全組織に対する面積率で
ベイニティックフェライトとベイナイトの合計:65%%以上、
残留オーステナイト:5%以上、
マルテンサイトと残留オーステナイトの合計:35%以下、
ポリゴナルフェライト:10%以下(0%を含む)
残部として前記以外の組織:5%以下(0%を含む)からなり、
前記残留オーステナイト中の炭素濃度が1.3%以下であり、かつ、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔が1.4μm以上であることを特徴とする温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板である。
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の成分組成およびミクロ組織を有する温間での延性と深絞り性に優れる温間成形用高強度鋼板である。
請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を、熱間圧延し、冷間圧延により冷延鋼板とし、ついで該冷延鋼板を、オーステナイト単相域の温度で15〜600秒間焼鈍した後、420〜490℃の保持温度域で定める冷却停止温度まで冷却するに際し、少なくとも550℃までは平均冷却速度を5℃/秒以上に制御して冷却し、該保持温度域で300秒以上保持する温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板の製造方法である。
本発明によれば、延性と深絞り性の向上、特に、温間での延性と深絞り性を著しく向上させることが可能となり、より成形性に優れた高強度TRIP型ベイニティックフェライト鋼板を提供できるようになった。本発明鋼板は、冷間でも延性が優れており、低降伏比であることから、冷間成形にも適している。
EBSPで測定した結晶方位マップである。 図1の結晶方位マップの部分拡大図である。 図1の結晶方位マップの別の部分拡大図である。 パケット界面間隔と強度・伸び(TS×EL)の関係を示す図である。 オーステンパー温度とパケット界面間隔の関係を示す図である。 パケット界面間隔とELの関係を示す図である。 引張試験温度とTSの関係を示す図である。 深絞り試験における、試験温度および成形速度と最大深絞り深さとの関係を示す図である。 深絞り成形における力のバランスを模式的に説明するための図である。 引張速度とTSの関係を示す図である。
本発明者らは、高強度と延性を兼ね備えたTRIP型鋼板、その中で特に、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトを主相とする高強度TRIP型ベイニティックフェライト鋼板について、更に、延性と深絞り性を向上させるべく、その組織と延性および深絞り性との関係について鋭意検討を行なってきた。 その結果、残留オーステナイトの分率およびその固溶炭素濃度を特定の範囲(残留オーステナイトを5%以上、かつ、残留オーステナイト中の炭素濃度を1.3%以下)に制御するとともに、組織中のベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔(以下、「ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔」のことを単に「パケット界面間隔」ともいう)を1.4μm以上に制御することにより、残留オーステナイトのTRIP効果がより一層促進し、延性、特に、温間での延性を著しく向上させることができるとともに、温間における材料強度の加工速度依存性が強まり、温間での深絞り性をも向上させることができることを見出し、該知見に基づいて本発明を完成するに至った。
以下、まず本発明鋼板を特徴づける組織について説明する。
<ベイニティックフェライトとベイナイトの合計:65%%以上>
ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト組織は均一微細で延性に富み、かつ、転位密度が高く強度が高いため、母相とする事で強度−成形性バランスを高めることが出来る。980MPa以上の強度を得るためには、組織内に65%以上のベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトが必要である。また、温間での優れた延性を得るためには5%以上の残留オーステナイトが必要であり、これはオーステンパー中にベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトを生成させ、未変態のオーステナイト相に固溶炭素を濃縮させ、Ms温度を室温以下まで低下させればよい。オーステンパーの温度および時間が不十分で、オーステナイトからのベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトへの変態が面積率で65%未満の場合、上記固溶炭素濃縮が不足し、5%以上の残留オーステナイトを生成させることができない。従って、ベイニティックフェライトとベイナイトの合計は、65%以上とする。好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。
<残留オーステナイト:5%以上>
温間での優れた延性は、金属組織内に残留オーステナイトを含有させることで、材料が加工されたときに残留オーステナイトが硬質相に変態(加工誘起変態)することによる加工硬化率の上昇により達成される。残留オーステナイトが5%以下の場合、加工硬化率の上昇量が不十分となるため温間での優れた延性が得られない。従って、残留オーステナイトは、5%以上とする。好ましくは、7%以上、さらに好ましくは9%以上である。
<マルテンサイトと残留オーステナイトの合計:35%以下>
組織内にマルテンサイト(残留オーステナイトが加工誘起変態したものも含む)と残留オーステナイトの合計が35%を超えて存在すると、強度の上昇により延性が低下し、温間での優れた延性が得られなくなる。従って、マルテンサイトと残留オーステナイトの合計は、35%以下とする。好ましくは、30%以下、さらに好ましくは25%以下である。
<ポリゴナルフェライト:10%以下(0%を含む)>
ポリゴナルフェライトは転位を含まず比較的軟質であるため、温間での延性の向上には有利だが、強度を大きく低下させる。10%を超えるポリゴナルフェライトが存在すると十分な強度を達成できなくなる。従って、ポリゴナルフェライトは、10%以下(0%を含む)とする。好ましくは、7%以下、さらに好ましくは4%以下である。
<残部として前記以外の組織:5%以下(0%を含む)>
前記以外の残部の組織としては、パーライト、残留オーステナイトが分解した擬似パーライトなどがあるが、それぞれ比較的軟質であるため、温間での延性の向上には有利だが、強度を大きく低下させる。5%を超えるパーライト、擬似パーライトなどが存在すると十分な強度を得られなくなる。従って、残部として前記以外の組織は、5%以下(0%を含む)とする。好ましくは、3%以下である。
<前記残留オーステナイト中の炭素濃度:1.3%以下>
残留オーステナイトは、温度が高いほど、炭素濃度が高いほど安定化する(加工誘起変態しにくくなる)ため、温間においては、室温に比べ残留オーステナイトがより安定化する。このとき、残留オーステナイト中の炭素量が1.3%を超えると残留オーステナイトの安定性が高くなりすぎ、温間では加工誘起変態を起こさなくなるため、温間での優れた延性が得られなくなる。従って、残留オーステナイト中の炭素濃度は、1.3%以下とする。好ましくは、1.15%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
<ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔を1.4μm以上>
上述のように、残留オーステナイトのTRIP効果を促進させることで、加工硬化率の上昇量が大きくなり、延性が向上する。これは、母相から残留オーステナイトへ分配される応力を高め、より加工誘起変態を起こしやすくする事で達成される。残留オーステナイトは主にベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面に存在し、単位界面長さあたりに存在できる残留オーステナイトの数はおおよそ一定である。そのため、パケット界面間隔を広げることにより、界面の総長さが減少し、オーステナイトの数が減少すると共に個々のサイズは大きくなる。これにより、加工時に一つ一つの残留オーステナイトが受けもつ応力が高くなり、残留オーステナイトの加工誘起変態が促進されるため、温間での優れた延性が得られる。これは、オーステンパーを比較的高温長時間に設定し、パケット界面間隔を1.4μm以上とすることで達成される。パケット界面間隔が1.4μm未満の場合、残留オーステナイトの数が多くなり細かく分布するため、残留オーステナイトに分配される応力は小さくなる。その結果、加工中の加工誘起変態が十分起こらなくなり、温間での優れた延性が得られない。したがって、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔(定義は<ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔の測定>の項で後述)を1.4μm以上とする。好ましくは、1.5μm以上、さらに好ましくは1.6μm以上である。
次に、本発明鋼板を構成する成分組成について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。
〔本発明鋼板の成分組成〕
〈C:0.10〜0.30%〉
Cは、高強度を確保し、且つ残留オーステナイトを確保するために必須の元素である。詳細には、オーステナイト相中に十分なC を固溶させ、室温でも所望のオーステナイト相を残留させる為に重要な元素である。Cが、0.10%未満では980MPa以上の高強度を得ることが困難であり、Cは0.10%以上とする。好ましくは0.13% 以上である。但し、Cが過剰になると溶接性が劣化するので、0.30%以下に抑える。好ましくは0.25%以下であり、さらに好ましくは、0.19%以下である。
〈Si:1.0%超え〜3.0%以下〉
Siは、固溶強化元素として有用である他、残留オーステナイトが分解して炭化物が生成するのを有効に抑える元素でもある。この様な観点から、本発明ではSi量を1.0%超えとする。好ましくは1.3% 以上、さらに好ましくは1.5% 以上である。しかしSiが3.0%を超えると、表面性状の劣化を招くので、3.0%以下に抑える。好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは、1.8% 以下である。
〈Mn:1.0〜3.0%〉
Mnは、Siと同様に、固溶強化元素として有用である他、オーステナイトを安定化させ、所望の残留オーステナイトを得るのに必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには1.0% 以上含有させる必要がある。好ましくは 1.5% 以上、さらに好ましくは2.0%以上である。一方、Mn量が過剰になると、鋳片割れの原因にもなるので、3.0%以下とする。好ましくは2.8%以下、さらに好ましくは、2.6%以下とする。
〈P:0.10%以下(0%を含む)〉
Pは不純物元素として不可避的に存在し、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。
〈S:0.010%以下(0%を含む)〉
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、靭性劣化、溶接割れの原因となるので、0.010%以下とする。好ましくは0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。
〈N:0.0020〜0.0300%〉
Nは本実施の形態の高強度鋼板では不可避的不純物であり、過多に含有させると粗大な窒化物が析出するため加工性が劣化する。このため、N 含有量はできるだけ少なくすることが望ましいが、0.0300% 以下であれば、本発明で目的とするような高強度材でも加工性に悪影響を及ぼさない。このため、N含有量は0.0300% 以下とする。好ましくは0.0200%以下、さらに好ましくは0.0100%以下である。なお、Nを0.0020%未満とするには大きな製造コストの増加を招くため、製造コストの点からは、その下限は0.0020%程度である。
〈Al:0.0010〜0.1%〉
Alは、鋼中の脱酸のために添加される元素であり、Alによる脱酸を行なうには0.0010%以上必要である。好ましくは 0.01% 以上、さらに好ましくは0.03% 以上である。一方、Alは、Nと結合してAlNを形成するが、0.1%を超えるとAlNが多くなりすぎて延性を劣化させるため、0.1%を上限とする。好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。
次に、本発明鋼板を得るための好ましい製造方法を以下に説明する。
〔本発明鋼板の好ましい製造方法〕
上記のような鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行う。好適な熱間圧延条件としては、スラブの加熱温度(SRT)を1000〜1300℃とし、圧延の終了温度(FDT)を870〜950℃とし、巻取り温度(CT)を350〜720℃とする。熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率(CR)は、40〜90%とするのがよい。
そして、上記冷間圧延後、引き続き、焼鈍を行う。
[焼鈍条件]
焼鈍条件としては、冷延鋼板を、オーステナイト単相域の温度で15〜600秒間焼鈍した後、420〜490℃の保持温度域で定める冷却停止温度まで冷却するに際し、少なくとも550℃までは平均冷却速度を5℃/s以上に制御して冷却し、該保持温度域で300秒以上保持する。
<オーステナイト単相域の温度で15〜600秒間焼鈍>
オーステナイト単相域の温度で焼鈍するのは、ポリゴナルフェライトの生成を抑制し、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトを母相組織とし、適切な炭素濃度の残留オーステナイト量を十分得るためであり、フェライトからオーステナイトへの逆変態促進のため15秒以上必要である。しかし、600秒を超えると、組織が粗大化し、後の420〜490℃での保持の間に十分なベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト量および残留オーステナイト量が得られず、優れた温間延性が得られなくなるので600秒以下とする。好ましくは、50〜400秒間焼鈍、より好ましくは100〜300秒間焼鈍である。オーステナイト単相域の温度とは、A3点以上をいう。ここで、A3点は、「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社、1985年5月31日発行)の273頁に記載されている次に示す計算式から算出できる。但し、本発明で規定する成分に該当しないものについては、式から除いて表示してある。
Ac3=910−203×[C]0.5−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]−30×[Mn]−11×[Cr]−20×[Cu]+700×[P]+400×[Al]+400×[Ti]
<少なくとも550℃までは平均冷却速度を5℃/秒以上に制御して冷却>
少なくとも550℃までの平均冷却速度が5℃/秒未満では、ポリゴナルフェライトが10%より多く生成する。従って、ポリゴナルフェライトを10%以下とするために、少なくとも550℃までは平均冷却速度を5℃/秒以上に制御して冷却する必要がある。好ましくは10℃/秒以上、より好ましくは15℃/秒以上である。
<420〜490℃の保持温度域で300秒以上保持>
保持温度域が、420℃未満ではベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトの核生成頻度が高くなり、組織が微細化するためパケット界面間隔が1.4μm未満となり、残留オーステナイトの加工誘起変態が抑制され、温間での優れた延性が得られない。一方、保持温度域が、490℃を超えると残留オーステナイトが分解し、5%以上の残留オーステナイトが得られず、温間での優れた延性が得られない。保持温度は必ずしも一定である必要はなく、420〜490℃の温度範囲内であれば変動しても構わない。また、保持時間が、300秒未満の場合、生成したベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトが成長する時間が不足し、パケット界面間隔が1.4μm以上のものが得られず、温間での優れた延性が得られない。従って、420〜490℃の保持温度域で300秒以上保持が必要である。保持温度は好ましくは430〜480℃であり、より好ましくは440〜470℃である。保持時間は好ましくは350秒以上、より好ましくは400秒以上である。なお、上記保持温度の範囲内であれば、ベイニティックフェライトとベイナイトの合計量が65%以上、マルテンサイトと残留γの合計量が35%以下は達成される。
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実験例1〕
表1に示す成分の鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造によりスラブとしてから、熱間圧延により板厚3.2mmの熱延鋼板を得た後、酸洗により表面スケールを除去し、1.2mmまで冷間圧延し、その後、以下に示す焼鈍を施し、各種の試料(試料No.1〜5)を作製した。
<熱延工程>
加熱温度:1200℃で3時間保持
仕上温度:890℃
巻取温度:550℃
<冷延工程>
冷延率:62.5%(3.2mm→1.2mm)
<連続焼鈍工程>
焼鈍条件を表2に示す。
焼鈍後の各試料について、金属組織、及び、室温と300℃での引張特性を以下の方法により調査した。
(金属組織)
<マルテンサイトと残留オーステナイト>
コイル長手方向の1/2、幅方向の1/2部付近より採取したサンプルの圧延方向断面における板厚の1/4部をナイタール腐食し、任意の3箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)にて3000倍で観察した。
マルテンサイト、残留オーステナイトさらにそれらの混合物はいずれもSEMでは灰色に写るため判別できる。SEM 観察(3000倍)で撮影した写真を用い、測定領域50×50μm、測定間隔0.1μmで点算法にて面積率を算出した。点算法は、上記SEM写真50μm×50μmの領域に、垂直・水平の各方向において等間隔に10本ずつ計20本の格子線を描き、これらの格子線が交差する点(格子点)に存在するマルテンサイト、残留オーステナイトさらにそれらの混合物を上記基準に従い判別し、その計数結果を総格子点数である100で除した。そして、任意に選択した3箇所のSEM写真より算出した面積率の平均値を求めた。
<ポリゴナルフェライト>
コイル長手方向の1/2、幅方向の1/2部付近より採取したサンプルの圧延方向断面における板厚の1/4部をナイタール腐食し、任意の3箇所を光学顕微鏡にて1000倍で観察した。
ポリゴナルフェライトは転位がないか、または極めて少ない下部組織を有する塊状のフェライトであり、白色に腐食されるため識別できる。光学顕微鏡観察(1000倍)により撮影した写真を用い、測定領域50×50μm、測定間隔0.1μmで点算法にて面積率を算出した。点算法は、上記光学顕微鏡写真50μm×50μmの領域に、垂直・水平の各方向において等間隔に10本ずつ計20本の格子線を描き、これらの格子線が交差する点(格子点)に存在するポリゴナルフェライトを上記基準に従い判別し、その計数結果を総格子点数である100で除した。そして、任意に選択した3視野において同様に測定し、その平均値を求めた。
<ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト>
コイル長手方向の1/2、幅方向の1/2部付近より採取したサンプルの圧延方向断面における板厚の1/4部をナイタール腐食し、任意の3箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)にて3000倍で観察した。
本発明でいうベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト組織は、転位密度が高い下部組織を有する組織を意味しており、SEM写真では共に板状で濃灰色または黒色を示す。面積率の算出方法は、上記マルテンサイトと残留オーステナイトで記載した方法と同様にして求めた。
このとき、SEM写真ではポリゴナルフェライトも同様(板状で濃灰色または黒色)に見え、判別が難しいことが多いため、上記SEM写真から求めた濃灰色または黒色部分の面積率から、上記のポリゴナルフェライト面積率を差し引き、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト組織の面積率とした。
<残留オーステナイト>
測定対象は、コイル長手方向の1/2、幅方向の1/2部付近より採取したサンプルにおける板厚の1/4部の圧延面と平行な面における任意の測定領域(約20×20μm)とする。但し、当該測定面まで研磨する際には、機械研磨による残留オーステナイトの変態を防ぐため、電解研磨を行うのがよい。次に、X線回折装置を用い、X線を照射する。本発明では、ターゲットはMoKαとし、加速電圧50kV、加速電流250mAの条件で実施した。MoのKα線を用いたX線解析によりbcc(フェライト・マルテンサイト)の(200)面、(211)面及びfcc(オーステナイト)の(200)面、(220)面、(311)面の積分反射強度を測定し、bccとfccの回折ピーク強度比を相の面積分率とし、残留オーステナイト(fcc)の面積率を測定した。
<その他の組織>
全組織(100%)から前記組織(マルテンサイトと残留オーステナイト、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイト、ポリゴナルフェライト)の占める面積率を差し引いて求めた。
<残留オーステナイト中の炭素濃度>
残留オーステナイト中の炭素濃度は、MoのKα線を用いたX線解析によりフェライトの(200)面、(211)面及びオーステナイトの(200)面、(220)面、(311)面の積分反射強度を測定し、“Journal of The Iron and Steel Institute,1968年,第206号,p.60”に示された方法にて算出した。
<ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔の測定>
ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット間隔の測定は、コイル長手方向の1/2、幅方向の1/2部付近より採取したサンプルの圧延方向断面における板厚の1/4部の、任意の3箇所、各50μm×50μmの領域においてパケット界面マップ(パケット界面の定義:結晶方位差2°)を撮影(1000倍)し、TSL製のEBSD(Electron back−scattered diffraction)測定装置を用いて測定した。より具体的には、図1に例示するように、EBSDで測定したパケット界面マップ(50μm×50μm、測定ピッチ1.5μm)に、垂直・水平の各方向において10μm等間隔にC1〜C4,L1〜L4の計8本の格子線を描き、これらの格子線と交差しているパケット界面間の距離(例えばd1、d2、d3、・・・、dn)を測定した。図2、図3には、図1のC2格子線上のL1格子線より左側、およびL4格子線より右側の拡大図をそれぞれ示す。
画像解析において、EBSDによる結晶方位測定結果の信頼性を示す値であるConfidence Index(CI値)が0.1より低い領域は転位等が多いと考えられるため、マルテンサイトであるとみなした。従って、格子線がバケット内部でCI値が0.1以下の領域とぶつかったところもバケット界面であるとみなし、例えば図2のd2、d3のようにパケット界面間の距離を測定した。
また、ある1本の格子線が同じパケットの内部を複数回通過したときは、図3に示すように、その全部についてそれぞれパケット界面間の距離を測定し、その全部のパケット界面間の距離のデータをそのまま全数に加え、平均値を求めた。例えば、格子線C2上でのパケット界面間の距離の平均値を、dC2=(d1+d2+d3+ ・・・・・ +dn)/nとして求めた。このようにして、8本全ての格子線(C1、C2、C3、C4、L1、L2、L3、L4)上でのパケット界面間の距離の平均値(dC1、dC2、dC3、dC4、dL1、dL2、dL3、dL4)をそれぞれ求め、更にそれらの平均値d(d=(dC1+dC2+dC3+dC4+dL1+dL2+dL3+dL4)/8)を求めた。そして、3箇所それぞれの測定結果(平均値d)を更に平均し、その平均した値を各試料の「ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔」と定義した。
本実施例では、FE−SEMはショットキー電解放出型走査電子顕微鏡(日本電子製JSM−6500F)を、EBSDはHIKARI(EBSD検出カメラ、EDAX/TSL製)を使用した。測定にはOIM Data Collection(ver.5.2)を、解析にはOIM Analysis(ver.5.2)を使用した。
(引張強度、伸び)
<室温での引張試験>
室温での引張試験は、JIS Z2241に準拠して、JIS Z2201に記載の13号B引張試験片(ゲージ長さ50mm、幅12.5mm)を用い、クロスヘッド速度10mm/分の条件で、試験温度20℃にて行なった。オートグラフ(島津製作所)を用いて実施した。
<温間での引張試験>
温間での引張試験は、JIS13B引張試験片(ゲージ長さ50mm、幅12.5mm)を用い、クロスヘッド速度10mm/分、試験温度300℃にて行なった。試験片の平行部3箇所(試験片中央部、平行部両端から内側に7mm)に熱電対を接触させて測温し、赤外線加熱炉(アルバック理工)を用いて、試験片を所定の温度に加熱した。試験片内の温度分布を無くすため、所定の温度にて15分以上保持した後、引張試験を実施した。
金属組織、及び、室温と300℃での引張特性を調査した結果を表3、表4に示す。
表3より、試料2〜4、8〜10、12、13は成分組成が適正範囲内にあるとともに焼鈍条件が適切であり、目標とする組織が得られている。しかし、成分組成は適正範囲内にあるものの、保持温度(オーステンパー温度)が420℃より低い試料No.1,5,6,7ではパケット界面間隔が小さく、1.4μm未満である。また、試料No.1では、保持温度が低く、ベイニティックフェライトの核生成頻度が高くなり、組織の多くの部分がベイニティックフェライトになり、残留オーステナイト面積率が4.9%と目標を下回っている。これは、ベイニティックフェライトが旧オーステナイト粒界から生成し、炭素を排出しながら成長し、未変態のオーステナイト領域が残留オーステナイトとして組織に残るため、ベイニティックフェライトが多くなると残留オーステナイトは少なくなるためであると考えられる。試料No.5では、残留オーステナイト中の炭素濃度が高くなっているのは、試料No.1の場合と同様に保持温度が低いためベイニティックフェライトの核生成頻度が高く、ベイニティックフェライト量ならびに残留オーステナイトがNo.1とほぼ同量である事に加え、No.1の場合(380℃)に比べると保持温度域が高い(400℃)ためベイニティックフェライトからオーステナイトへの炭素排出が速く、濃化が促進されたためであると考えられる。試料No.6では、保持温度が好適範囲よりも低いため、残留オーステナイト中の炭素濃度が高く、また、パケット界面間隔が狭い。これら組織変化は共に、残留γの安定性を高めるため、温間でのTRIP効果が抑制され、温間でのTS×ELが低い。試料No.7では、保持温度が好適範囲よりも低いため、パケット界面間隔が狭くなり、これにより残留γの安定性が高くなり、温間でのTRIP効果が抑制されるため、温間でのTS×ELが低い。なお、420℃以上の温度域においては、温度が上がるほどベイニティックフェライトの核生成頻度が低くなるため、生成の抑制が顕著になり、残留オーステナイトの体積分率上昇が大きく、相対的に固溶炭素濃度は低下傾向を示す。
一方、焼鈍条件は適切であるものの、Si量が適正範囲より少ない試料No.11では、残留γの生成量が不十分(5%未満)であるため、TRIP効果による加工硬化率の上昇が少なく、温間でのTS×ELが低い。
表4より、温間(300℃)での機械的性質を見てみると、パケット界面間隔が約1.5〜1.7μmある試料No.2〜4、8〜10、12、13は、TSが約1000〜1100MPa、ELが23%〜31%を有している。これは、同じ試料No.2〜4、8〜10、12、13の室温のEL約15〜18%に対し、300℃でのELは、最大約16%(約15%→約31%)向上している。一方、これに対して、パケット界面間隔が1.2μmである試料No.1は、TSが約1160MPa、ELが18%であり、パケット界面間隔が1.36μmである試料No.5のTSが約1046MPa、ELが21%であり、パケット界面間隔が1.26μmである試料No.6のTSが約1170MPa、ELが17%であり、パケット界面間隔が1.38μmである試料No.7のTSが約1080MPa、ELが20%であり、それぞれの室温のELが11%、15%、12%、16%に対し4〜7%の向上である。このように、パケット界面間隔が1.4μm以上の場合は、1.4μm未満の場合に比べ、ELの向上代は2倍以上(16%対4〜7%)である。パケット界面間隔が1.4μm以上になると伸びが著しく向上するのは、組織中での残留オーステナイトの分布が粗くなり、加工により一つ一つの残留オーステナイトに分配される応力が高くなり、温間では室温よりも、より変態誘起塑性(TRIP)が起こりやすくなるからと考えられる。逆に、パケット界面間隔が1.4μm未満では組織中での残留オーステナイトの分布が細かくなり、加工により一つ一つの残留オーステナイトに分配される応力が低下するため、温間でも変態誘起塑性(TRIP)が起こりにくくなるからと考えられる。
図4にパケット界面間隔と強度・延性(TS×EL)の関係を、図5にオーステンパー温度とパケット界面間隔の関係を、図6に延性(EL)とパケット界面間隔の関係を示す。
図4より、強度・延性(TS×EL)は、パケット界面間隔が1.4μm未満の場合は、TS×ELが約21000〜22000MPa%であるが、パケット界面間隔が1.4μmを超えると著しく向上し、パケット界面間隔が1.7μmでTS×ELは約30000MPa%になっている。
図5より、単相域に加熱し、所定の冷速で冷却し、オーステンパー温度を420℃以上に制御することにより、パケット界面間隔を1.4μm以上とすることが出来る。
図6より、300℃でのELは、パケット界面間隔が1.4μm未満の場合は20%前後であるが、パケット界面間隔が1.4μm以上になると著しく向上し、パケット界面間隔が1.7μmでELは30%を超えている。一方、室温でのELは、パケット界面間隔が1.2μmでは11%であるが、パケット界面間隔が1.3〜1.7μmではELはほぼ15%に向上している。
パケット界面間隔が1.4μm未満の場合、300℃と室温のEL差は6〜7%あり、この差は、高温化によるELの向上と考えられる。しかし、パケット界面間隔が1.4μm以上になると、高温化によるELの向上代(6〜7%)をはるかに上回るELの向上(12〜16%)が認められる。
〔実験例2〕
次に、温間での深絞り性について検討するため、上記表3および表4に示す試料No.3(発明鋼板)と試料No.5(比較鋼板)の両試料を用いて以下の実験を行った。
<温間特性(TS、EL)に及ぼす加工温度および加工速度の影響の調査>
先ず、温間特性(TS、EL)に及ぼす加工温度および加工速度の影響を把握するため、10mm/分および1000mm/分の2水準の引張速度(クロスヘッド速度)のそれぞれで、試験温度を20〜300℃の間で順次変更して引張試験を実施した。なお、引張試験条件は〔実験例1〕と同様である。
試験結果を表5および図7に示す。
表5および図7より、発明鋼板(試料No.3)は、比較鋼板(試料No.5)に比べて、特定の温度域(200℃近辺)で引張強度(TS)が著しく低下するとともに、引張速度が大きいほど引張強度(TS)の低下度合いも顕著になること、即ち、引張強度(TS)の引張速度依存性が強まることが認められる。
なお、いずれの試験温度においても加熱試験後の材料強度は試験加熱前の材料強度より低下していないことを確認している。
<温間での深絞り性の調査>
そこで、温間での深絞り性を調査するため、パンチ径50mm(パンチ肩R5mm)、ダイ径54mm(ダイ肩R7mm)、ブランク径103mm、しわ押さえ力1224kN、加工速度0.1mm/sまたは10mm/sの条件で、試験温度22℃または200℃にて深絞り試験を実施した。
試験結果を表6および図8に示す。
表6および図8より、発明鋼板(試料No.3)は、比較鋼板(試料No.5)と比較すると、室温では同程度の深絞り性を有するに過ぎないのに対し、温間、特に引張強度が著しく低下する特定の温度域(200℃近辺)では深絞り性が大幅に向上するとともに、成形速度が大きいほどその向上効果も顕著になることが認められる。
<温間での深絞り性向上の想定メカニズム>
上記のように発明鋼板において温間での深絞り性が顕著に向上するメカニズムについて考察を行った。
深絞り成形においては、図9に模式的に示すように、ブランク(素材)のフランジ部に作用する力は、
(1)当該フランジ部の縮み変形に伴う周方向圧縮力成分
(2)ダイおよびブランクホルダからの摩擦力成分
(3)ダイ肩部からの曲げおよび曲げ戻し力成分
の3つの成分からなり、これらの合計が成形荷重(P)となる。
そして、パンチ肩部の破断抵抗力が成形荷重(P)より大きい間は、ブランク(素材)が破断することなく加工が継続され、深絞り成形が可能となる。
一方、深絞り成形時のブランク(素材)の各部位における変形速度は大きく異なり、パンチ肩部では、ブランク(素材)が該パンチ肩部になじむまでの加工の初期段階を過ぎると、変形速度はフランジ部に比較して相対的に小さくなる。
ここで、図10に、表5の試験温度200℃のデータを引張速度と引張強度との関係に整理し直して示す。同図中の発明鋼板のように、材料強度の加工速度依存性の強い材料(即ち、加工速度の上昇に対して材料強度の低下度合いの大きい材料)ほど、成形荷重(P)、即ち変形速度が相対的に大きいフランジ部の変形を継続させるために必要な応力は低くなる一方で、変形速度が相対的に小さいパンチ肩部の破断強度(TS)は高く維持されるので、成形荷重(P)に対する余裕度が大きいことになり、破断することなく加工が継続できることとなり、深絞り性が良好となる。
また、発明鋼板で、特定の温度域(200℃近辺)において、引張強度が低下するとともにその引張速度依存性が強くなる理由については必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
即ち、発明鋼板は、上述したとおり、温間での延性を確保するために、オーステンパー温度を高めることでパケット界面間隔を大きくしている。このことより発明鋼板は、残留オーステナイトのサイズが大きくなり、前述したように残留オーステナイトへの加工による応力分配が高まることでマルテンサイトへの変態が促進される。一方で、母相であるベイニティックフェライトは温度が上昇することで軟化するので、引張温度が室温から200℃近辺まで上昇すると、母相軟質化の効果が強まり、残留オーステナイトへの応力分配が一時的に低減する。特に発明鋼板のようにパケット界面間隔を大きくすると200℃近辺での母材の軟質化の程度が大きくなり、マルテンサイトへの変態が大幅に抑制される。その結果、200℃近辺での引張強度が室温での引張強度より低下すると考えられる。
さらに、発明鋼板ではこの温度領域で引張速度を大きくすると、加工速度に変態速度が追随できなくなって引張強度はより一層低下し、引張速度依存性が大きくなると考えられる。
ただし、引張温度を200℃近辺からさらに高めていくと、温度上昇による母相の軟質化よりも動的ひずみ時効による加工硬化がそれを上回るため、母相強度は高温にも関わらず再び上昇し、残留オーステナイトへの応力分配が強まることで、加工誘起変態は一転して促進される。このため、250℃を超える近辺から300℃近辺の温度範囲では伸びが向上し引張強度も回復する。
<発明鋼板のその他の効果>
上記のように、発明鋼板は、延性と深絞り性を兼備した成形性に優れるものであるが、このような発明鋼板を、その室温での引張強度に対して、相対的に強度が低下する温度域(例えば100〜250℃;図7参照)にて温間成形することで、残留オーステナイトの加工誘起変態が抑制される。そのため、発明鋼板を使用して自動車部品をプレス成形するにあたり、このような温度域で加工することで、部品中の残留オーステナイト量を、通常の冷間プレスにより製造した部品よりも多くすることが可能となる。これにより、衝突時に部品が変形しても、残留オーステナイトが多く存在する分、変形による割れ発生限界が高まる効果も得られる。
また、上記のような温度域で温間加工することで引張強度が低下することから、当然プレス機への荷重負荷を低減させる効果も有する。

Claims (3)

  1. 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
    C :0.10〜0.30%、
    Si:1.0%超え〜3.0%以下
    Mn:1.0〜3.0%、
    P :0.10%以下(0%を含む)、
    S :0.010%以下(0%を含む)、
    N :0.0020〜0.0300%以下、
    Al:0.0010〜0.1%
    を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    ミクロ組織が、全組織に対する面積率で
    ベイニティックフェライトとベイナイトの合計:65%%以上、
    残留オーステナイト:5%以上、
    マルテンサイトと残留オーステナイトの合計:35%以下、
    ポリゴナルフェライト:10%以下(0%を含む)
    残部として前記以外の組織:5%以下(0%を含む)からなり、
    前記残留オーステナイト中の炭素濃度が1.3%以下であり、かつ、ベイニティックフェライトおよび/またはベイナイトのパケット界面間隔が1.4μm以上であることを特徴とする温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板。
  2. 請求項1に記載の成分組成およびミクロ組織を有する温間での延性と深絞り性に優れる温間成形用高強度鋼板。
  3. 請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を、熱間圧延し、冷間圧延により冷延鋼板とし、ついで該冷延鋼板を、オーステナイト単相域の温度で15〜600秒間焼鈍した後、420〜490℃の保持温度域で定める冷却停止温度まで冷却するに際し、少なくとも550℃までは平均冷却速度を5℃/秒以上に制御して冷却し、該保持温度域で300秒以上保持する温間での延性と深絞り性に優れる高強度鋼板の製造方法。
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