JP6042265B2 - 降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.10〜0.25%、
Si:0.50〜2.40%、
Mn:1.00〜3.00%、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.05〜0.30%、
P:0.100%以下(0%を含む)、
S:0.010%以下(0%を含む)、
N:0.006%以下(0%を含む)
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトを面積率で30〜75%含み、残部が硬さ330〜450Hvの焼戻しマルテンサイトからなる組織であって、
前記フェライトは、面積率で、
円相当直径3〜6μmのフェライト:20〜60%、
円相当直径3μm未満のフェライト:10〜20%、
円相当直径6μm超のフェライト:5%未満(0%を含む)からなり、
前記円相当直径3〜6μmのフェライト中に含まれるTi含有析出物の平均粒径が円相当直径で10nm以下であり、
かつ、前記フェライトの存在形態を規定する、下記式1で定義されるフェライト同士連結率が、0.25以下であり、
さらに、前記焼戻しマルテンサイトに周囲を取り囲まれたフェライト領域(単一のフェライト粒からなる領域、または、複数のフェライト粒同士が連結してなる領域を意味する。)の圧延方向の最大直径をDLとし、該フェライト領域の圧延方向に直角な方向の最大直径をDCとしたときに、DL/DC比が0.5〜2.0である組織を有する、
ことを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
式1:「フェライト同士連結率」=「フェライト粒子同士の界面との交点数」/(「フェライト粒子同士の界面との交点数」+「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」)
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。
前記焼戻しマルテンサイト中に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記焼戻しマルテンサイト1μm2当たり5個以下である、
請求項1に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。
成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、さらに、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(5)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷延前焼戻しを行い、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法である。
(1) 熱間圧延条件
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延終了温度:950℃以上で圧延し、次いで、第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:500℃未満で巻き取る。
(2) 冷延前焼戻し条件
冷延前焼戻し加熱温度:300〜500℃で冷延前焼戻し保持時間:1000s以下保持する。
(3) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(4) 焼鈍条件
500℃〜Ac1の温度域を20℃/s以下の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:300s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第2冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第3冷却速度で急冷する。
(5) 焼戻し条件
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
本発明鋼板は、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織において、フェライトを焼戻しマルテンサイトで取り囲んで孤立分散させるとともに、その孤立分散したフェライト領域の圧延方向とその直角方向の各最大直径の比率を制御する点で、上記特許文献3の鋼板と共通するものであるが、特に、フェライトを微細化強化するとともにTiCにより析出強化している点で、上記特許文献3の鋼板とは相違している。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼では、変形は主として変形能の高いフェライトが受け持つ。そのため、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼の伸びは主としてフェライトの面積率で決定される。
焼戻しマルテンサイトを一定以上の硬さにすることで引張強度を確保しつつ、一定以下の硬さに制限して該焼戻しマルテンサイトの変形能を高めることで、フェライトと該焼戻しマルテンサイトの界面への応力集中を抑制し、該界面で亀裂が発生し難くすることで曲げ性を向上させる。焼戻しマルテンサイトの硬さは、好ましくは350〜430Hv、さらに好ましくは370〜410Hvである。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼では、主にフェライトの降伏により降伏強度が決定される。したがって、フェライトを強化することが鋼板の降伏強度向上に有効である。
円相当直径3〜6μmのフェライトが不足すると析出強化されたフェライトの分率が低くなりすぎて降伏強度が確保できない。一方、円相当直径3〜6μmのフェライトが過剰になるとフェライトの連結率が高くなりすぎて伸びや曲げ性が低下する。また、円相当直径3μm未満のフェライトが不足すると変形能が高いフェライトが不足して伸びが確保できなくなる。一方、円相当直径3μm未満のフェライトが過剰になると降伏強度が低下する。このため円相当直径3〜6μmのフェライトは面積率で20〜60%、円相当直径3μm未満のフェライトは面積率で10〜20%とする。なお、円相当直径6μm超のフェライトは、上述したように、少量の存在は許容されるが、その上限は面積率で5%とする。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼においては、伸びや曲げ性は、フェライトの面積率だけでなく、フェライトの存在形態にも依存する。
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。
ここに、「フェライト領域」とは、単一のフェライト粒子からなる領域、または、複数のフェライト粒子同士が連結してなる領域を意味するものとする。
上記のようにフェライトを強化してフェライトと焼戻しマルテンサイトの強度差を縮小することでフェライトと焼戻しマルテンサイトの界面に歪が集中することを抑制し、さらにフェライトの連結率を低下させることで焼戻しマルテンサイトを強制的に変形させることができるが、次に破壊の起点になる可能性を有するのは、フェライトと界面を接する焼戻しマルテンサイト中に析出したセメンタイトである。このセメンタイト粒子が粗大になると変形時の応力集中が増加し、該焼戻しマルテンサイト中に亀裂が発生しやすくなるので、伸びおよび曲げ性が低下する。伸びおよび曲げ性を確保するためには、該セメンタイト粒子のサイズと存在密度を制御することが望ましい。
まず、フェライト(全体)の面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、点算法で1視野につき100点の測定を行い、コントラストの暗い領域(黒色部)をフェライトとし、残りの領域を焼戻しマルテンサイトとして、各領域の面積比率よりフェライトの面積率を算出した。
次に、焼戻しマルテンサイトの硬さについては、JIS Z 2244の試験方法に従って各供試鋼板表面のビッカース硬さ(98.07N)Hvを測定し、下記式3を用いてマルテンサイトの硬さHvMに換算を行った。なお、下記式3は、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの硬さは焼戻しマルテンサイトの硬さに等しいと仮定して導出したものである。
ただし、HvF=102+209[%P]+27[%Si]+10[%Mn]+4[%Mo]−10[%Cr]+12[%Cu](藤田利夫ら訳:「鉄鋼材料の設計と理論」(丸善株式会社)、昭和56年9月30日発行、p.10の図2.1から、低Cフェライト鋼の降伏応力の変化に及ぼす各合金元素量の影響の度合い(直線の傾き)を読み取って、その3分の1の値だけ硬さも変化すると仮定し、純鉄の硬さを102Hvとして定式化を行った。なお、Al、Nなどその他の元素はフェライトの硬さに影響しないとした。)
ここに、HvF:フェライトの硬さ、VF:フェライトの面積率(%)、[%X]:成分元素Xの含有量(質量%)である。
圧延方向から組織観察できるように各供試鋼板を圧延方向に垂直に切断して試料を切り出し、これを鏡面に研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて2000倍で組織観察を行う。そして、図1に例示するように、板厚方向(ND)が上下、圧延方向に直角な方向(TD)が左右になるように撮影し、この組織写真中に5μm間隔でTD方向に平行な線分を総長で1000μm以上になるように引き、これらの線分と、フェライト粒子同士の界面との交点(□(白抜き)で囲んだ点)およびフェライトと焼戻しマルテンサイトの界面との交点(○で囲んだ点)の数をそれぞれ求める。そして、上記式1にて「フェライト同士連結率」を算出する。「フェライト同士連結率」の値が小さいということは、フェライト粒子とフェライト粒子が連続している領域が少ないこと、つまり、フェライト粒子が連続せず、焼戻しマルテンサイトに囲まれ、孤立分散していることを示している。同図において(a)はフェライト同士連結率が0.25を超える例であり、(b)はフェライト同士連結率が0.25以下の例である。
圧延方向(L方向)と、圧延方向に直角な方向(C方向)のそれぞれから組織観察できるように、各供試鋼板を圧延方向に垂直に切断して切り出した試料と、圧延方向に平行に切断して切り出した試料をそれぞれ作成し、これらを鏡面に研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて0.5mm2以上の範囲の組織観察を行う。そして、図2に例示するように、L方向からの観察で、圧延方向に直角な方向にフェライト領域が伸びている状況を観察し、該フェライト領域の最大長さを測定し、これをフェライト領域の圧延方向に直角な方向の最大直径DCとする。また、図による例示は省略したが、上記と同様にして、C方向からの観察で、圧延方向に沿ってフェライト領域が伸びている状況を観察し、該フェライト領域の最大長さを測定し、これをフェライト領域の圧延方向の最大直径DLとする。
セメンタイト粒子のサイズおよびその存在密度については、各供試鋼板の抽出レプリカサンプルを作成し、2.4μm×1.6μmの領域3視野について倍率50000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察し、画像のコントラストから白い部分をセメンタイト粒子と判別してマーキングし、画像解析ソフトにて、前記マーキングした各セメンタイト粒子の面積Aから円相当直径D(D=2×(A/π)1/2)を算出するとともに、単位面積あたりに存在する所定のサイズのセメンタイト粒子の個数を求めた。なお、複数個のセメンタイト粒子が重なり合う部分は観察対象から除外した。
〔Ti含有析出物のサイズの測定方法〕
各供試鋼板の抽出レプリカサンプルを作成し、倍率10000倍で粒径3〜6μmのフェライトを同定し、概略900nm×770nmの領域3視野について倍率100000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察した。上記セメンタイトの測定方法と同様にして、Ti含有析出物について、サイズの測定を行った。なお、FE−TEMに付随のEDXまたはEELSを用いて析出物中にTiが存在していることを確認してサイズ測定を行った。
C:0.10〜0.25%
Cは、焼戻しマルテンサイトの面積率および該焼戻しマルテンサイト中に析出するセメンタイト量に影響し、強度、伸びおよび曲げ性に影響する重要な元素である。0.10%未満では強度が確保できなくなる。一方、0.25%超では焼戻しマルテンサイトの強度と焼戻し中におけるセメンタイトの粗大化防止が両立できなくなる。C含有量の範囲は、好ましくは0.12〜0.23%、さらに好ましくは0.14〜0.21%である。
固溶強化により伸びと曲げ性を低下させずに引張強度を高められる有用な元素である。0.50%未満では固溶強化量が減少し、フェライトの強度が低下する。一方、2.40%超ではフェライトが強化されすぎて延性が低下する。Si含有量の範囲は、好ましくは0.70〜2.20%、さらに好ましくは0.90〜2.10%である。
Mnは、固溶強化によって鋼板の引張強度を高くするとともに、鋼板の焼入れ性を向上させ、低温変態相の生成を促進する効果を有し、マルテンサイト面積率を確保するために有用な元素である。1.00%未満では固溶強化量が不足するとともに、焼入れ性が低下し適切な組織分率のフェライト−焼戻しマルテンサイト組織を確保できなくなる。一方、3.00%超とすると逆変態温度(Ac1点およびAc3点)を低下させるため、二相域加熱後の冷却時に生成するフェライト(以下、冷却フェライトとも記載することがある)が生成しにくくなり、伸びが低下する。Mn含有量の範囲は、好ましくは1.20〜2.80%、さらに好ましくは1.40〜2.60%である。
Alは脱酸材として用いられるものであるが、0.001%未満では鋼の清浄作用が十分に得られず、一方、0.10%を超えると鋼の清浄度を悪化させる。Al含有量の範囲は、好ましくは0.005〜0.080%、さらに好ましくは0.015〜0.060%である。
Tiは本発明鋼板において重要な元素である。熱間圧延工程においてTi過飽和な熱延板を作製し、冷延前焼戻しにおいて均一で微細なTiCとして析出させる。該TiCは焼鈍工程における500〜Ac1の温度域におけるフェライトの再結晶に際してピン止め粒子として作用し、粒径3〜6μmと微細で孤立分散した(低連結率の)等軸状の再結晶フェライトの確保に寄与する。また、該TiCは該再結晶フェライト粒内に平均粒径10nm以下で存在することにより、該再結晶フェライトの析出強化に寄与する。さらに該TiCは焼鈍加熱温度から500℃までの冷却過程でオーステナイトから生成する冷却フェライトをピン止めし、該冷却フェライトの微細化、孤立分散化(連結率低下)および等軸化にも寄与する。Ti含有量が0.05%未満になると、微細、低連結率かつ等軸状の、再結晶フェライトおよび冷却フェライトの確保が困難になる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、TiCの粗大化が促進されることでピン止め効果が低下し、やはり、微細かつ低連結率の、再結晶フェライトおよび冷却フェライトの確保が困難になる。Ti含有量の範囲は、好ましくは0.04〜0.30%、さらに好ましくは0.06〜0.30%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで曲げ性を劣化させるので、0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下、さらに好ましくは0.060%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで曲げ性を低下させるので、0.010%以下とする。好ましくは0.080%以下、さらに好ましくは0.060%以下である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと曲げ性を低下させるうえ、Tiと結合し粗大TiNとして析出するため、TiCのピン止め効果を低下させ、フェライトの析出強化、微細化および孤立分散化(連結率低下)を阻害する。したがって、Nの含有量は低い方が好ましく、0.006%以下とする。
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼の強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、各元素とも0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)添加することが推奨される。ただし、各元素ともその上限値を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCr:2.0%以下、Mo:0.8%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下である。
Mg :0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、CaおよびMgはそれぞれ0.0005%以上(より好ましくは0.001%以上)、REMは0.0001%以上(より好ましくは0.0002%以上)添加することが推奨される。ただし、これらの元素はそれぞれ0.01%を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCaおよびMgは0.003%以下、REMは0.006%以下である。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブ(鋼材)としてから、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延(以下、「熱延」ともいう。)した後、冷延前焼戻しを行い、冷間圧延(以下、「冷延」ともいう。)し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しする。
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延温度:950℃以上で圧延し、次いで、第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:500℃未満で巻き取る。
Tiをオーステナイト中に十分に固溶させるためである。より好ましくは1240℃以上である。ただし、高くしすぎると加熱が困難になるため、上限は1300℃とする。
オーステナイト域におけるTiCの析出・粗大化を抑制するためである。950℃未満ではオーステナイトに歪が入ると直ちにTiCが析出し粗大化する。
TiCの析出を抑制するためである。冷却速度が20℃/s未満、冷却終了温度が500℃以上では、冷却中にフェライト変態が起り、それに伴いTiCが析出し粗大化する。
TiCの析出を抑制するためである。巻取温度が500℃以上では巻取り中にフェライトが生成し、それに伴いTiCが析出し粗大化する。なお冷却負荷を過大にしない目的で、巻取り温度の下限は300℃とすることが好ましい。
上記熱間圧延後、後段の冷間圧延前に焼戻し(以下、「冷延前焼戻し」という。)を行う。この冷延前焼戻し条件としては、冷延前焼戻し加熱温度:300〜500℃で冷延前焼戻し保持時間:1000s以下保持とする。
Ti過飽和な熱延板からTiCを均一かつ微細に析出させるためである。
上記冷延前焼戻し終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率(以下、「冷延率」ともいう。)は20〜50%とする。
冷間圧延を適度に施すことにより偏平化した結晶粒を後段の焼鈍加熱時に再結晶させることで等軸状のフェライトを作りこみ、二相域加熱時にフェライト粒界にオーステナイトを形成させることで微細なフェライト粒を焼戻しマルテンサイトで取り囲んで孤立分散化させるためである。
冷間圧延率が20%未満では、焼鈍加熱時に再結晶が起こりにくくなり、孤立したフェライトが十分に得られず、伸びおよび曲げ性が低下する。一方、冷間圧延率が50%を超えると、組織が圧延方向に伸びやすくなるため、フェライト領域が偏平化して成形性の異方性が生じる。より好ましい冷間圧延率の下限は25%である。
500℃〜Ac1の温度域を20℃/s以下の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:300s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第2冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第3冷却速度で急冷する。なお、Ac1およびAc3は幸田成康監訳,「レスリー鉄鋼材料学」,丸善株式会社,1985年,p.273に記載の式を用いた。
TiCがピン止め粒子として作用する条件下で、冷延で偏平化されたフェライトの再結晶を促進し、粒径3〜6μmと微細かつ孤立分散化した等軸状のフェライトを得るためである。加熱速度が20℃/sを超えると偏平化した未再結晶フェライトが残存し、曲げ性に方向依存性が生じる。加熱速度は、より好ましくは15℃/s以下、特に好ましくは10℃/s以上である。なお、Ac1点を超える温度に到達するとフェライトの再結晶は停止しオーステナイトの生成が開始するので、Ac1点までの加熱速度を管理すればよい。
焼鈍工程における加熱時にオーステナイトを所定量生成させることで、最終組織中に焼戻しマルテンサイトの適正な分率を確保するためである。また、該温度でフェライトとオーステナイトの混合組織にすることで、微細かつ低連結率のフェライトが保持される。焼鈍加熱温度が[0.6Ac1+0.4Ac3]未満では最終組織中の焼戻しマルテンサイトの分率が不足し引張強度が低下してしまう。一方、[0.2Ac1+0.8Ac3]を超えると未再結晶フェライトの分率が不足して降伏強度が低下する。また、焼鈍保持時間が300sを超えると、再結晶フェライト粒内のTiCが粗大化して析出強化量が減少し、降伏強度が低下する。
微細かつ孤立分散した冷却フェライトを適正量生成させるためである。第2冷却速度が1℃/s未満では冷却フェライトの分率が過大になり降伏強度が低下する。一方、第2冷却速度が10℃/sを超えると冷却フェライトの分率が不足し伸びが低下する。
ベイナイトの生成を抑制するためである。第4冷却速度が200℃/s未満ではベイナイトが生成しやすくなり、ベイナイトが生成すると、セメンタイトおよびMA(martensite austenite constituent)の影響で伸びおよび曲げ性が低下する。
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
焼戻しマルテンサイトの硬さを適切に制御するとともに、該焼戻しマルテンサイト中に形成されるセメンタイトを微細化し、さらに曲げ性を改善するためである。焼戻し加熱温度Ttempが低すぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが高くなり延性が十分に得られない。一方、焼戻し加熱温度Ttempが高すぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが低下し強度が低下する。また、焼戻し保持時間ttempが長すぎると、セメンタイトが粗大化しすぎて曲げ性が低下する。また、焼戻しパラメータξが小さすぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが高くなりすぎて、曲げ性が低下する。一方、焼戻しパラメータξが大きすぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが低下しすぎて、強度が確保できなくなる。
Claims (5)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.10〜0.25%、
Si:0.50〜2.40%、
Mn:1.00〜3.00%、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.02〜0.30%、
P:0.100%以下(0%を含む)、
S:0.010%以下(0%を含む)、
N:0.006%以下(0%を含む)
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトを面積率で30〜75%含み、残部が硬さ330〜450Hvの焼戻しマルテンサイトからなる組織であって、
前記フェライトは、組織全体に対する面積率で、
円相当直径3〜6μmのフェライト:20〜60%、
円相当直径3μm未満のフェライト:10〜20%、
円相当直径6μm超のフェライト:5%未満(0%を含む)からなり、
前記円相当直径3〜6μmのフェライト中に含まれるTi含有析出物の平均粒径が円相当直径で10nm以下であり、
かつ、前記フェライトの存在形態を規定する、下記式1で定義されるフェライト同士連結率が、0.25以下であり、
さらに、前記焼戻しマルテンサイトに周囲を取り囲まれたフェライト領域(単一のフェライト粒からなる領域、または、複数のフェライト粒同士が連結してなる領域を意味する。)の圧延方向の最大直径をDLとし、該フェライト領域の圧延方向に直角な方向の最大直径をDCとしたときに、DL/DC比が0.5〜2.0である組織を有する、
ことを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。
式1:「フェライト同士連結率」=「フェライト粒子同士の界面との交点数」/(「フェライト粒子同士の界面との交点数」+「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」)
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。 - 前記焼戻しマルテンサイト中に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記焼戻しマルテンサイト1μm2当たり5個以下である、
請求項1に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 鋼材を、下記(1)〜(5)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷延前焼戻しを行い、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(1)熱間圧延条件
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延終了温度:950℃以上で圧延し、次いで、第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:500℃未満で巻き取る。
(2)冷延前焼戻し条件
冷延前焼戻し加熱温度:300〜500℃で冷延前焼戻し保持時間:1000s以下保持する。
(3)冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(4)焼鈍条件
500℃〜Ac1の温度域を20℃/s以下の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:300s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第2冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第3冷却速度で急冷する。
(5)焼戻し条件
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
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