以下に、本発明に係る車両走行制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例1に係る車両走行制御装置を表す概略構成図、図2は、実施例1の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成するためのフローチャート、図3は、速度パターンの生成処理を説明するための概略図、図4は、車両の走行コースを表す概略図、図5は、走行コースにおける定常円旋回における速度パターンを表すグラフ、図6は、走行コースにおける定常円旋回に加速度補正を加えた速度パターンを表すグラフ、図7は、走行コースにおける定常円旋回に加速度補正及び減速度補正を加えた速度パターンを表すグラフ、図8−1は、定常円旋回の速度パターンに対する加速度補正を表す説明図、図8−2は、加速度補正を実施した前後の速度パターンを表す説明図である。
本実施例の車両走行制御装置において、図1に示すように、電子制御ユニット(ECU)10には、ブレーキペダルセンサ11と、アクセルペダルセンサ12と、舵角センサ13と、G(加速度)センサ14と、ヨーレイトセンサ15と、車輪速センサ16と、白線認識センサ17と、ナビゲーションシステム18が接続されている。
ブレーキペダルセンサ11は、ドライバにより踏み込まれたブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキペダルストロークまたは踏力)を検出するものであり、検出したブレーキペダルの踏み込み量をECU10に出力する。アクセルペダルセンサ12は、ドライバにより踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するものであり、検出したアクセルペダルの踏み込み量をECU10に出力する。舵角センサ13は、ドライバにより操舵されたハンドルの操舵角を検出するものであり、検出した操舵角をECU10に出力する。
G(加速度)センサ14は、車両に作用する前後加速度と横加速度を検出するものであり、検出した各加速度をECU10に出力する。ヨーレイトセンサ15は、車両に発生しているヨーレイト(横旋回速度)を検出するものであり、検出したヨーレイトをECU10に出力する。車輪速センサ16は、車両の四輪にそれぞれ設けられ、各車輪の回転速度を検出するものであり、検出した各車輪の回転速度をECU10に出力する。ECU10は、各車輪の回転速度に基づいて車速を算出する。
白線認識センサ17は、カメラと画像処理装置を有しており、走行車線の両側にある左右の白線を検出するものであり、検出した左右の白線の位置(座標)をECU10に出力する。ECU10は、この左右の白線の位置から車両の中心を通る線(中心線)、この中心線のカーブ半径などを算出する。ナビゲーションシステム18は、車両の現在位置の検出、目的地までの経路案内などを行うシステムである。特に、このナビゲーションシステム18は、地図データベースから現在走行中の道路形状を読み出し、その道路形状情報をECU10に出力する。
また、ECU10には、スロットルアクチュエータ21、ブレーキアクチュエータ22、操舵アクチュエータ23が接続されている。
スロットルアクチュエータ21は、電子スロットル装置におけるスロットル弁を開閉すると共に、このスロットル開度を調整するものであり、ECU10は、エンジン制御信号に応じてスロットルアクチュエータ21を作動し、スロットル弁の開度を調整する。ブレーキアクチュエータ22は、ブレーキ装置に設けられるホイールシリンダへの制御油圧を調整するものであり、ECU10は、ブレーキ制御信号に応じてブレーキアクチュエータ22を作動し、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整する。操舵アクチュエータ23は、モータによる回転駆動力を減速機構を介してステアリング機構に操舵トルクとして付与するものであり、ECU10は、操舵制御信号に応じて操舵アクチュエータ23を作動し、モータにより操舵トルクを調整する。
ところで、車両をある形状の道路に沿って自動走行させる場合、道路形状に応じ、燃費、通過時間、安全性などを考慮して目標走行経路を設定すると共に速度パターンを設定する必要がある。この場合、目標走行経路は、車両がこれから将来走行する走行経路であり、曲線部分(目標曲線走行経路)を有するものである。そして、この目標走行経路には、車両の位置、車速、加速度、ヨーレイトなど車両の走行に必要な多数のパラメータから構成されている。
実施例1の車両走行制御装置は、標準的に生成された速度パターン(定常円最高速度パターン)を生成する標準速度パターンを生成手段と、目標走行経路における走行制御を実行する開始位置から走行制御を実行する終了位置に向けて速度パターンにおける速度状態の修正処理を実行する第1速度状態修正手段と、目標走行経路における走行制御を実行する終了位置から走行制御を実行する開始位置に向けて速度パターンにおける速度状態の修正処理を実行する第2速度状態修正手段とを有している。即ち、第1速度状態修正手段は、修正処理を実行するとき、目標走行経路にて、その処理の開始位置から終了位置に向けて順番に順次速度パターンにおける速度状態を修正する。また、第2速度状態修正手段は、修正処理を実行するとき、目標走行経路にて、その処理の終了位置から開始位置に向けて順番に速度パターンにおける速度状態を修正する。
この第1速度状態修正手段は、加速側の速度状態を修正処理し、第2速度状態修正手段は、減速側の速度状態を修正処理するものである。この場合、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、速度状態を低速側に修正処理する。
また、実施例1の車両走行制御装置は、目標走行経路を一定の間隔(距離または時間)に分割する走行経路分割手段を設け、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、分割された領域ごとに速度状態を修正処理し、隣接する領域の速度状態を比較し、速度が高い領域の速度状態を低速側に修正処理する。
具体的には、第1速度状態修正手段は、分割された領域ごとに速度状態を修正処理し、隣接する領域の加速度を比較し、加速度超過を抑制するように低速側に修正処理する一方、第2速度状態修正手段は、分割された領域ごとに速度状態を修正処理し、隣接する領域の減速度を比較し、減速度超過を抑制するように低速側に修正処理する。
なお、本実施例にて、上述した標準速度パターンを生成手段、第1速度状態修正手段、第2速度状態修正手段は、ECU10が機能し、各種の処理を実行する。
実施例1の車両走行制御装置を具体的に説明すると、車両の走行制御力学の分野において、車両の速度V、車両の最高速度V2、車両の横加速度Ay、重力加速度g、タイヤと路面との摩擦係数μ、道路の旋回半径Rとすると、下記の一般式(運動方程式)が設立する。
V2=Ay×R
=μ×g×R
実施例1の車両走行制御装置では、この運動方程式を前提とし、タイヤ摩擦円内の安全維持を目的として、車両がこれから走行する走行経路を生成すると共に、この走行経路に応じた速度パターンを生成する。
まず、ナビゲーションシステム18により、地図データベースからこれから走行するコースの道路形状を読み出し、目標走行経路を設定する。そして、目標走行経路を一定の微小間隔(距離)に分割する。この場合、一度、走行経路に応じた速度パターンを生成した後、目標走行経路を一定の微小間隔(時間)に分割し、後述する処理を実行するとよい。
次に、目標走行経路が一定の微小間隔に分割された複数の領域にて、道路の旋回半径Rを算出し、この旋回半径Rとタイヤと路面との摩擦係数μを用い、上述した前提条件(運動方程式)により各分割領域における車両の最高速度を算出し、各分割領域における複数の最高速度を用いて定常円最高速度パターンを生成する。この場合、摩擦係数μは、ナビゲーションシステム18から得られる情報に基づいて推定すればよい。
目標走行経路における定常円最高速度パターンが生成されると、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度を算出する。ここで、加速度超過がある場合には、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点の速度が上限加速度以下となるように、低速側に修正する。この場合、上限加速度は、車両の走行性能から求められる値と摩擦円からはみ出る値のうちの低い値に設定する。
また、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度を算出する。ここで、減速度超過がある場合には、速度の高く、且つ、走行開始点に近い点の速度が上限減速度以下となるように、低速側に修正する。この場合、上限減速度は、車両の走行性能から求められる値と摩擦円からはみ出る値のうちの低い値に設定する。
このように定常円最高速度パターンに対し、走行開始点と走行終了点との間で、加速度と減速度に応じて最高速度を修正することで、目標走行経路に応じた速度パターンが生成される。
ここで、実施例1の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理について、図2のフローチャートを用いて詳細に説明する。
実施例1の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理において、図2に示すように、ステップS11にて、設定された目標走行経路に対して、車両の仕様により速度に対する上限加速度マップを生成する。ステップS12では、タイヤと路面との摩擦係数μを設定する。この場合、通常の道路の路面では、例えば、μ=0.6を設定し、ステップS13にて、道路に積雪があったり、凍結している低μ路であると判定されたときには、ステップS14にて、例えば、μ=0.2に設定する。
ステップS15では、目標走行経路を一定の微小距離間隔(例えば、1m)に分割する。そして、目標走行経路が分割された複数の領域にて、各点の座標の配列を作成する。この場合、走行開始点の座標(0,0)とし、北にx(m)、東にy(m)離れると座標(x,y)として表現する。そして、分割された各領域における代表点、例えば、各領域における中心点または複数の点の平均点などを座標上の点とする。目標走行経路は、不均一な間隔の座標(x,y)の羅列として離散的に用意されることが想定されるが、その場合は、距離間隔ごとに一般的な線形補間処理を行う。この線形補間処理は、隣接点処理を行うに当たって、隣接区間の距離が大きく異なると計算がずれてしまうためであり、近傍の点の間隔がほぼ等しければ、遠い距離(例えば、10m)に離れた区間の距離間隔が違うことは大きな問題ではない。
具体的には、図3に示すように、あるカーブ走行路Aに対して目標走行経路Bが設定され、この目標走行経路Bをカーブ走行路Aに長手方向に沿って一定の微小間隔に分割し、複数の領域Cを区画する。この場合、目標走行経路Bと最初の分割ラインとの交点を走行開始点とし、目標走行経路Bと最後の分割ラインとの交点を走行終了点し、走行開始点と走行終了点の間で分割された各領域の中心位置の点との間隔を後述する2点間の距離Lとする。
続いて、ステップS16にて、目標走行経路が分割された複数の領域にて、走行開始点からの距離に対する旋回半径Rとその距離間隔という複数の配列を作成する。この場合、旋回半径Rは、一般的な3点を通る円の半径を求める数学的な演算方法により算出可能であるが、車両のからナビゲーションシステム18を用いて取得したデータにはノイズが含まれていることから、演算により使用する3点は、隣接するものではなく適度に離れた距離(例えば、10m)のものを使用することが望ましい。
そして、ステップS17では、道路の旋回半径R、タイヤと路面との摩擦係数μを用いて、運動方程式により各分割領域における車両の最高速度Vを算出する。ここで、走行開始点と走行終了点では、初速と終速として設定する。ステップS18にて、目標走行経路における全ての分割領域における車両の最高速度Vが算出されたと判定されたら、ステップS19にて、定常円最高速度パターンを生成する。
即ち、図4に示すような走行コースに対して、図5に示すような定常円最高速度パターンが生成される。この定常円最高速度パターンは、走行距離(横軸)に対する最高速度を表すものである。
ステップS20〜S26では、生成された目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度に基づいて最高速度を修正する。即ち、ステップS20にて、走行開始点から走行終了点側に1区間前進した領域を設定し、ステップS21では、この領域(走行開始点+1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn−1の2点間の距離Lnから通過時間dtnを算出する。
dtn=Ln/((Vn−1+Vn)/2)
続いて、このときの加速度Anを算出する。
An=(Vn−Vn−1)/dtn
ステップS22にて、最高速度Vn−1に対応する上限加速度Amax1をマップ(車両性能に応じて設定される最高速度−上限加速度マップ)から抽出すると共に、摩擦係数μに対応する最大加速度Amax2(摩擦係数μ×重力加速度g)を算出する。ここでは、上限加速度Amax1と最大加速度Amax2の低い数値を上限加速度Amaxに設定する。
Amax=min(Amax1,Amax2)
ステップS23では、加速度Anがこの上限加速度Amax以下であるかどうかを判定する。ここで、加速度Anが上限加速度Amax以下であると判定されたれ、ステップS25に移行し、加速度Anが上限加速度Amaxより大きいと判定されたら、ステップS24にて、最高速度Vnを修正する。
Vn=(Vn−1+Amax×dtn)
つまり、加速度超過がある場合には、加速度の高く、且つ、走行終了点に近い点の加速度が上限加速度以下となるように、速度を低速側に修正する。
ステップS25では、走行開始点の次点から走行終了点の前点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS26にて、処理した領域(点)から走行終了点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS21〜S24の処理を繰り返す。そして、ステップS25にて、走行開始点の次点から走行終了点の前点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS27に移行する。
この走行開始点から走行終了点に向けての最高速度の修正処理を詳細に説明すると、図8−1に示すように、最高速度Vnの地点とその手前の地点の最高速度Vn−1が設定されているとき、この2点間の距離Lnとなっている。このとき、最高速度Vnの地点と最高速度Vn−1の2点間の距離Lnの通過時間dtnを求め、このときの車両の加速度Anを算出する。そして、この加速度Amaxが上限加速度Amaxより大きければ、最高速度Vnを修正する。この場合、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点、つまり、最高速度Vnの速度を低速側に修正する。この最高速度の修正処理を各分割区間で繰り返し行うことで、図8−2に示すように、最高速度パターンが滑らかなものとなる。
定常円最高速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて最高速度Vnの修正処理を行うと、図6に示す太線のように、各カーブ走路にて、各分割区間における加速側の車両速度が適正に修正されることとなる。
ステップS27〜S33では、目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度に基づいて最高速度を修正する。即ち、ステップS27にて、走行終了点から走行開始点側に1区間後退した領域を設定し、ステップS28では、この領域(走行終了−1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn+1の2点間の距離Lnから通過時間を算出する。
dtn=Ln/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの減速度Anを算出する。
An=(Vn+1−Vn)/dtn
ステップS29にて、摩擦係数μに対応する最大減速度Amax(摩擦係数μ×重力加速度g)を算出する。
ステップS30では、加速度Anがこの上限減速度Amax以上であるかどうかを判定する。ここで、加速度Anが上限減速度Amax以上であると判定されたら、ステップS32に移行し、減速度Anが上限減速度Amaxより小さいと判定されたら、ステップS31にて、最高速度Vnを修正する。
Vn=(Vn+1+Amax×dtn)
つまり、減速度超過がある場合には、減速度の高く、且つ、走行開始点に近い点の減速度が上限減速度以下となるように、速度を低速側に修正する。
ステップS32では、走行終了点の前点から走行開始点の次点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての区間で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS33にて、処理した区間(点)から走行開始点側に1区間後退した区間を設定した後、ステップS28〜S31の処理を繰り返す。そして、ステップS32にて、走行終了点の前点から走行開始点の次点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS34に移行する。
定常円最高速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて最高速度Vnの修正処理を行うと、図7に示す太線のように、各カーブ走路にて、各分割区間における減速側の車両速度が適正に修正されることとなる。
ステップS34では、一定時間間隔処理を終了しているかどうかを判定する。ここで、一定時間間隔処理が終了していないと判定されたら、ステップS35にて、目標走行経路を一定の微小時間間隔に分割する。そして、目標走行経路が分割された複数の領域にて、各点の座標の配列を作成する。続いて、ステップS36にて、目標走行経路が分割された複数の領域にて、走行開始点からの時間に対する旋回半径Rとその時間間隔という複数の配列を作成する。
そして、前述したステップS17移行の処理と同様に、道路の旋回半径R、タイヤと路面との摩擦係数μを用いて、運動方程式により各分割領域における車両の最高速度Vを算出し、ステップS18にて、目標走行経路における全ての分割領域における車両の最高速度Vが算出されたと判定されたら、ステップS19にて、定常円最高速度パターンを生成する。
続いて、ステップS20〜S26にて、生成された目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度を算出する。そして、ステップS27〜S33にて、目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度を算出する。
その後、ステップS34にて、一定時間間隔処理を終了しているかどうかを判定し、一定時間間隔処理が終了していると判定されたら、処理を終了する。なお、必要に応じて、一定時間間隔処理を複数回繰り返し行ってもよい。
このように実施例1の車両走行制御装置にあっては、目標走行経路に沿って速度パターンを生成し、この速度パターンに基づいて車両の走行を制御するように構成し、目標走行経路における走行制御の開始位置から走行制御の終了位置に向けて速度状態の修正処理を実行する第1速度状態修正手段と、目標走行経路における走行制御の終了位置から走行制御の開始位置に向けて速度状態の修正処理を実行する第2速度状態修正手段とを設けている。
従って、最適化手法を用いることなく、目標走行経路における走行制御の開始位置から終了位置に向けて速度状態の修正処理を実行すると共に、走行制御の終了位置から開始位置に向けて速度状態の修正処理を実行することで、走行経路に応じた速度パターンを短時間で生成し、この速度パターンに基づいて車両の適正な走行制御可能とする。
また、実施例1の車両走行制御装置では、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段としてのECU10は、加速側の速度状態を修正処理すると共に、減速側の速度状態を修正処理している。この場合、ECU10は、速度状態を低速側に修正処理している。従って、加速側の速度状態を修正処理と減速側の速度状態を修正処理を別々に行い、且つ、低速側に修正処理することで、処理を簡素化することができる。
また、実施例1の車両走行制御装置では、目標走行経路を一定の間隔に分割する走行経路分割手段を設け、ECU10は、分割された領域ごとに速度状態を修正処理し、隣接する領域の速度状態を比較し、速度が高い領域の速度状態を低速側に修正処理している。この場合、ECU10は、隣接する領域の加速度または減速度を比較し、加速度超過または減速度超過を抑制するように修正処理している。従って、目標走行経路を一定の間隔に分割し、各領域ごとに速度状態を低速側に修正処理することで、高精度な速度状態の修正処理を行うことができる。
なお、上述した実施例1では、目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度を算出してから、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度を算出したが、目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度を算出してから、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度を算出してもよい。
図9は、本発明の実施例2に係る車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成するためのフローチャートである。なお、本実施例の車両走行制御装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例2の車両走行制御装置にて、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、隣接する領域の加速度または減速度と横加速度との加算ベクトルを算出し、この加算ベクトルと各領域における摩擦円とに基づいて速度を修正処理する。具体的に、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、加算ベクトルが各領域における摩擦円を超えないように、隣接する領域の速度を低速側に修正処理している。
実施例2の車両走行制御装置を具体的に説明すると、この実施例2の車両走行制御装置は、上述した実施例1における速度パターンの生成処理に継続して実行する処理を有している。即ち、実施例1における速度パターンの生成処理では、目標走行経路が、例えば、高速道路のように、緩やかに旋回半径Rが変化する曲線走行経路であれば、適正に速度パターンを生成することができる。ところが、この場合、速度パターンにて、最高速度がゆっくりと変化するものであることから、急激に旋回半径Rが変化する曲線走行経路に対しては、カーブを走行中の加速度や減速度が大きくなり、前後加速度と横加速度のベクトルを加算すると、摩擦円を破綻してしまうおそれがある。そこで、実施例2の車両走行制御装置では、加速度または減速度のベクトルと横加速度のベクトルの和が摩擦円を超えていたときには、ベクトルの和が摩擦円に収まるように加速度または減速度を低下させる。
実施例1のように、目標走行経路における速度パターンが生成されると、まず、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加速度(ベクトル)と横加速度(ベクトル)とを加算する。ここで、摩擦円が破綻する場合には、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点の加速度の加算ベクトルが摩擦円内に入るように、低速側に修正する。
また、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の減速度(ベクトル)と横加速度(ベクトル)とを加算する。ここで、摩擦円が破綻する場合には、速度の高く、且つ、走行開始点に近い点の加速度の加算ベクトルが摩擦円内に入るように、低速側に修正する。
本来、加速度と横加速度のどちらかをどの程度減少することで、摩擦円の破綻を回避することが最適であるかは、車両が走行する詳細な状況に依存し、特別なケースによっては、上述した処理が最適でない場合がある。しかし、この実施例では、加速度や減速度が抑制された隣接点においては、結果的に速度が減少して横ベクトルが減少することに着目し、結果的に隣接点において、加速度または減速度を低下させることが可能となるため、高速な処理であるにもかかわらず、急激に旋回半径Rが変化する目標走行経路に対しても、ほぼ最適な速度パターンが生成される。
ここで、実施例2の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理について、図9のフローチャートを用いて詳細に説明する。
実施例2の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成処理において、実施例1の速度パターンを生成処理(図2のフローチャート)が終了したら、図9に示すように、ステップS41〜S48では、目標走行経路における速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接点同士の加算ベクトルに基づいて最高速度を修正する。即ち、ステップS41にて、走行開始点から走行終了点側に1区間前進した領域を設定し、ステップS42では、この領域(走行開始点+1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn−1の2点間の距離Lnから通過時間dtnを算出する。
dtn=Ln/((Vn−1+Vn)/2)
続いて、このときの加速度Axnを算出する。
Axn=(Vn−Vn−1)/dtn
ステップS43では、加速度Axnが0以下であるかどうかを判定する。ここで、加速度Axnが0以下であると判定されたら、ステップS47に移行する。一方、加速度Axnが0より大きいと判定されたら、ステップS44にて、各点における旋回半径Rを抽出し、横加速度Aynを算出する。
Ayn=((Vn−1+Vn)/2)2/R
続いて、加速度Axnと横加速度Aynをベクトル加算し、加速度加算ベクトルの絶対値|A|を算出する。なお、sqrtは平方根である。
|A|=sqrt(Axn 2+Ayn 2)
ステップS45では、加速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大加速度Amax(摩擦係数μ×重力加速度g)以下であるかどうかを判定する。ここで、加速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大加速度Amax以下であると判定されたら、摩擦円が破綻していないと推定され、ステップS47に移行する。一方、加速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大加速度Amaxより大きいと判定されたら、摩擦円が破綻していると推定され、ステップS46にて、加速度Axnと最高速度Vnを修正する。
Axn=sqrt(μ×g)2−Ayn 2)
Vn=(Vn−1+Axn×dtn)
つまり、加算ベクトルが摩擦円を破綻する場合には、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点の速度が摩擦円を超えないように、低速側に修正する。
ステップS47では、走行開始点の次点から走行終了点の前点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS48にて、処理した領域(点)から走行終了点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS42〜S47の処理を繰り返す。そして、ステップS47にて、走行開始点の次点から走行終了点の前点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS49に移行する。
ステップS49〜S56では、目標走行経路における定常円最高速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接点同士の加算ベクトルに基づいて最高速度を修正する。即ち、ステップS49にて、走行終了点から走行開始点側に1区間後退した領域を設定し、ステップS50では、この領域(走行終了−1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn+1の2点間の距離Lnから通過時間を算出する。
dtn=Ln/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの減速度Axnを算出する。
Axn=(Vn+1−Vn)/dtn
ステップS51では、減速度Axnが0以上であるかどうかを判定する。ここで、減速度Axnが0以上であると判定されたら、ステップS55に移行する。一方、減速度Axnが0より小さいと判定されたら、ステップS52にて、各点における旋回半径Rを抽出し、横加速度Aynを算出する。
Ayn=((Vn−1+Vn)/2)2/R
続いて、減速度Axnと横加速度Aynをベクトル加算し、減速度加算ベクトルの絶対値|A|を算出する。
|A|=sqrt(Axn 2+Ayn 2)
ステップS53では、減速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大減速度Amax(摩擦係数μ×重力加速度g)以下であるかどうかを判定する。ここで、減速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大減速度Amax以下であると判定されたら、摩擦円が破綻していないと推定され、ステップS55に移行する。一方、減速度加算ベクトルの絶対値|A|が摩擦円の上限最大減速度Amaxより大きいと判定されたら、摩擦円が破綻していると推定され、ステップS54にて、減速度Axnと最高速度Vnを修正する。
Axn=sqrt(μ×g)2−Ayn 2)
Vn=(Vn−1+Axn×dtn)
つまり、加算ベクトルが摩擦円を破綻する場合には、速度の高く、且つ、走行開始点に近い点の速度が摩擦円を超えないように、低速側に修正する。
ステップS55では、走行終了点の前点から走行開始点の次点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての区間で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS56にて、処理した区間(点)から走行開始点側に1区間後退した区間を設定した後、ステップS50〜S55の処理を繰り返す。そして、ステップS55にて、走行終了点の前点から走行開始点の次点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、処理を終了する。
このように実施例2の車両走行制御装置にあっては、ECU10は、隣接する領域の加速度または減速度と横加速度との加算ベクトルを算出し、この加算ベクトルと各領域における摩擦円とに基づいて速度を修正処理している。具体的には、加算ベクトルが各領域における摩擦円を超えないように隣接する領域の速度を低速側に修正処理している。
従って、目標走行経路における旋回半径の変化が大きい領域であっても、摩擦円が破綻しない最高速度を設定することで、安全性を向上することができる。
図10−1及び図10−2は、本発明の実施例3に係る車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成するためのフローチャート、図11は、走行コースにおけるジャーク補正を加えた速度パターンを表すグラフ、図12−1は、速度パターンに対するジャーク補正を表す説明図、図12−2は、速度パターンに対するジャーク補正を表す説明図である。なお、本実施例の車両走行制御装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例3の車両走行制御装置にて、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、隣接する領域のジャーク(加加速度)を算出し、このジャークと予め設定された上限値及び下限値(制限値)とを比較して速度を修正処理する。
この場合、隣接する3つの領域の速度変化が凹形状(下に凸形状)をなすときには、速度が高く、且つ、修正処理進行方向側の領域の速度状態を低速側に修正処理する。また、隣接する3つの領域の速度変化が凸形状(上に凸形状)をなすときには、速度が高く且つ中間領域の速度状態を低速側に修正処理する。
実施例3の車両走行制御装置を具体的に説明すると、この実施例3の車両走行制御装置は、上述した実施例1または実施例2における速度パターンの生成処理に継続して実行する処理を有している。即ち、実施例1または実施例2における速度パターンの生成処理では、車両を一つの質点として考えているために、カーブ走路の手前でフル加速からフル減速を行うとき、最大加速度から最大減速度へ瞬時に目標最高速度が変化する速度パターンが生成される。しかし、実際の車両が走行しているとき、このような走行制御を実行すると、車両がピッチングしてしまい、車両の姿勢が乱れてしまう。
そこで、実施例3の車両走行制御装置では、車両における最大応答速度や乗心地などを考慮するために、ジャーク(加加速度)を演算し、且つ、ジャーク上限値及びジャーク下限値を設定し、ジャークがジャーク上限値及びジャーク下限値の間に収まるように速度パターンを補正する。
実施例1のように、目標走行経路における速度パターンが生成されると、まず、走行開始点から走行終了点に向けて隣接する3点内でのジャーク(加加速度)を算出する。ここで、ジャークがジャーク上限値を超えている場合には、3点の中で最も走行終了点に近い点の速度を、3点のジャークがジャーク上限値より小さくなるように、低速側に修正する。この処理は、3点の速度変化が凹形状をなす領域で、近傍加速度がプラス(+)の領域を効率良く修正できる。
また、走行終了点から走行開始点に向けて隣接する3点内でのジャーク(加加速度)を算出する。ここで、ジャークがジャーク上限値を超えている場合には、3点の中で最も走行開始点に近い点の速度を、3点のジャークがジャーク上限値より小さくなるように、低速側に修正する。この処理は、3点の速度変化が凹形状をなす領域で、近傍加速度がマイナス(−)の領域を効率良く修正できる。
続いて、再度、走行開始点から走行終了点に向けて隣接する3点内でのジャーク(加加速度)を算出する。ここで、ジャークがジャーク下限値を下回っている場合には、3点の中で中心点にある速度を、3点のジャークがジャークした下限値より大きくなるように、低速側に修正する。この処理は、3点の速度変化が凸形状をなす領域で、近傍加速度がプラス(+)の領域を効率良く修正できる。
また、走行終了点から走行開始点に向けて隣接する3点内でのジャーク(加加速度)を算出する。ここで、ジャークがジャーク下限値を下回っている場合には、3点の中で中心点にある速度を、3点のジャークがジャーク下限値より大きくなるように、低速側に修正する。この処理は、3点の速度変化が凸形状をなす領域で、近傍加速度がマイナス(−)の領域を効率良く修正できる。
上述した2回目の走行開始点から走行終了点への走査と走行終了点から走行開始点への走査では、隣接する3点の中心点にある速度を修正する。そのため、3点の中で進行方向における先頭の1点、つまり、走行開始点から走行終了点への走査では走行開始点側の点、走行終了点から走行開始点への走査では走行終了点側の点は、修正されていない。この場合、1度の走査でジャーク下限値を満たすことができないおそれがある。そこで、この収束を高速化するため、ジャーク下限値にマージンα(例えば、10%)を加えるとよい。マージンαは、大きいほど精度の良い値に対して誤差が発生することから、処理時間や制御精度により適正に設定する必要がある。なお、この修正処理により実施例1で用いた上限加速度を超えてしまうおそれがあることから、本実施例のジャークにより修正処理に対しても、この実施例1で用いた上限加速度を考慮する必要がある。
ここで、実施例3の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理について、図10−1及び図10−2のフローチャートを用いて詳細に説明する。
実施例3の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成処理において、実施例1の速度パターンを生成処理(図2のフローチャート)が終了したら、図10−1に示すように、ステップS61〜S69では、目標走行経路における速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接する3点のジャークに基づいて最高速度を修正する。この処理は、3点の速度変化が凹形状をなす領域で、近傍加速度がマイナス(−)の領域を効率良く修正できる。
即ち、ステップS61にて、走行開始点から走行終了点側に1区間前進した領域を設定し、ステップS62では、この領域(走行開始点+1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn−1と先の領域の最高速度Vn+1との各点間の距離L1,L2から通過時間dt1,dt2を算出する。
dt1=L1/((Vn−1+Vn)/2)
dt2=L2/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの加速度A1,A2を算出する。
A1=(Vn−Vn−1)/dt1
A2=(Vn+1−Vn)/dt2
更に、このときのジャーク(加加速度)Jを算出する。
J=(A2−A1)/(dt1+dt2)/2)
ステップS63では、ジャークJが上限ジャークJmax1(例えば、6m/s3)以下であるかどうかを判定する。ここで、ジャークJが上限ジャークJmax1以下であると判定されたら、ジャーク制限条件を満たしているため、ステップS65に移行する。一方、ジャークJが上限ジャークJmax1より大きいと判定されたら、ステップS64にて、ジャーク制限条件を満たすように、加速度A2を修正する。
A2=A1+Jmax1×((dt1+dt2)/2)
ステップS65では、加速度A2がマップ(車両性能に応じて設定される最高速度−上限加速度マップ)から抽出した上限加速度Amax1以下であるかを判定する。ここで、加速度A2が上限加速度Amax1以下であるかと判定されたら、ステップS67に移行する。一方、加速度A2が上限加速度Amax1より大きいと判定されたら、ステップS66にて、上限加速度Amax1を加速度A2と再修正する。ここでは、車両性能により設定された加速が不可能であるときがあり、この場合は、ジャークから設定した加速度A2よりも車両性能に応じた上限加速度Amax1を優先させる。
ステップS67にて、最高速度Vn+1を修正する。
Vn+1=Vn+A2×dt2
つまり、ジャークの超過がある場合には、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点の速度を低速側に修正する。
ステップS68では、走行開始点の次点から走行終了点の前2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS69にて、処理した領域(点)から走行終了点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS62〜S68の処理を繰り返す。そして、ステップS68にて、走行開始点の次点から走行終了点の前2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS70に移行する。
この走行開始点から走行終了点に向けてのジャークを用いた最高速度の修正処理を詳細に説明すると、図12−1に示すように、最高速度Vnの地点とその手前の地点の最高速度Vn−1とその先の地点の最高速度Vn+1が設定されているとき、この3点間におけるジャークJを算出する。そして、このジャークJが上限ジャークJmax1より大きければ、最高速度VN+1を修正する。この場合、速度の高く、且つ、走行終了点に近い点、つまり、最高速度Vn+1の速度を低速側に修正する。
ステップS70〜S77では、目標走行経路における速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接する3点のジャークに基づいて最高速度を修正する。この処理は、3点の速度変化が凹形状をなす領域で、近傍加速度がマイナス(−)の領域を効率良く修正できる。
即ち、ステップS70にて、走行終了点から走行開始点側に1区間後退した領域を設定し、ステップS71では、この領域(走行終了点−1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn+1と先の領域の最高速度Vn−1との各点間の距離L1,L2から通過時間dt1,dt2を算出する。
dt1=L1/((Vn−1+Vn)/2)
dt2=L2/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの加速度A1,A2を算出する。
A1=(Vn−Vn−1)/dt1
A2=(Vn+1−Vn)/dt2
更に、このときのジャーク(加加速度)Jを算出する。
J=(A2−A1)/(dt1+dt2)/2)
ステップS72では、ジャークJが上限ジャークJmax1以下であるかどうかを判定する。ここで、ジャークJが上限ジャークJmax1以下であると判定されたら、ジャーク制限条件を満たしているため、ステップS74に移行する。一方、ジャークJが上限ジャークJmax1より大きいと判定されたら、ステップS73にて、ジャーク制限条件を満たすように、加速度A1を修正する。
A1=A2−Jmax1×((dt1+dt2)/2)
ステップS74では、加速度A1が上限加速度Amax1以下であるかを判定する。ここで、加速度A1が上限加速度Amax1以下であるかと判定されたら、ステップS76に移行する。一方、加速度A1が上限加速度Amax1より大きいと判定されたら、ステップS75にて、上限加速度Amax1を加速度A1と再修正する。ここでは、車両性能により設定された加速が不可能であるときがあり、この場合は、ジャークから設定した加速度A1よりも車両性能に応じた上限加速度Amax1を優先させる。
ステップS76にて、最高速度Vn−1を修正する。
Vn−1=Vn−A1×dt1
つまり、ジャークの超過がある場合には、速度の高く、且つ、走行開始点に近い点の速度を低速側に修正する。
ステップS77では、走行終了点の前点から走行開始点の次2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS78にて、処理した領域(点)から走行開始点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS70〜S77の処理を繰り返す。そして、ステップS77にて、走行終了点の前点から走行開始点の次2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS79に移行する。
図10−2に示すように、ステップS78〜S83では、目標走行経路における速度パターンに対して、走行開始点から走行終了点に向けて隣接する3点のジャークに基づいて最高速度を修正する。この処理は、3点の速度変化が凸形状をなす領域で、近傍加速度がプラス(+)の領域を効率良く修正できる。
即ち、ステップS79にて、走行開始点から走行終了点側に1区間前進した領域を設定し、ステップS80では、この領域(走行開始点+1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn−1と先の領域の最高速度Vn+1との各点間の距離L1,L2から通過時間dt1,dt2を算出する。
dt1=L1/((Vn−1+Vn)/2)
dt2=L2/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの加速度A1,A2を算出する。
A1=(Vn−Vn−1)/dt1
A2=(Vn+1−Vn)/dt2
更に、このときのジャーク(加加速度)Jを算出する。
J=(A2−A1)/(dt1+dt2)/2)
ステップS81では、ジャークJが下限ジャークJmax2(例えば、−6m/s3)以上であるかどうかを判定する。ここで、ジャークJが下限ジャークJmax2以上であると判定されたら、ジャーク制限条件を満たしているため、ステップS83に移行する。一方、ジャークJが下限ジャークJmax2より小さいと判定されたら、ステップS82にて、収束を高速化するために、ジャーク下限マージン係数k(例えば、0.9)を設定する。そして、ジャーク制限条件を満たすように、加速度A1、最高速度Vnを修正する。
A1=(Vn+1−Vn−1)/(dt1+dt2)+Jmax2×dt1/2×k
Vn=Vn−1+A1×dt1
つまり、ジャークの超過がある場合には、速度の高く、且つ、中間点の速度を低速側に修正する。
ステップS83では、走行開始点の次点から走行終了点の前2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS84にて、処理した領域(点)から走行終了点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS79〜S82の処理を繰り返す。そして、ステップS83にて、走行開始点の次点から走行終了点の前2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、ステップS85に移行する。
この走行開始点から走行終了点に向けてのジャークを用いた最高速度の修正処理を詳細に説明すると、図12−2に示すように、最高速度Vnの地点とその手前の地点の最高速度Vn−1とその先の地点の最高速度Vn+1が設定されているとき、この3点間におけるジャークJを算出する。そして、このジャークJが上限ジャークJmax2より大きければ、最高速度VNを修正する。この場合、速度の高く、且つ、中間点、つまり、最高速度Vn+1の速度を低速側に修正する。
ステップS85〜S89では、目標走行経路における速度パターンに対して、走行終了点から走行開始点に向けて隣接する3点のジャークに基づいて最高速度を修正する。この処理は、3点の速度変化が凸形状をなす領域で、近傍加速度がプラス(+)の領域を効率良く修正できる。
即ち、ステップS85にて、走行終了点から走行開始点側に1区間後退した領域を設定し、ステップS86では、この領域(走行終了点−1)の最高速度Vnと手前の領域の最高速度Vn+1と先の領域の最高速度Vn−1との各点間の距離L1,L2から通過時間dt1,dt2を算出する。
dt1=L1/((Vn−1+Vn)/2)
dt2=L2/((Vn+Vn+1)/2)
続いて、このときの加速度A1,A2を算出する。
A1=(Vn−Vn−1)/dt1
A2=(Vn+1−Vn)/dt2
更に、このときのジャーク(加加速度)Jを算出する。
J=(A2−A1)/(dt1+dt2)/2)
ステップS87では、ジャークJが下限ジャークJmax2以上であるかどうかを判定する。ここで、ジャークJが下限ジャークJmax2以上であると判定されたら、ジャーク制限条件を満たしているため、ステップS89に移行する。一方、ジャークJが下限ジャークJmax2より小さいと判定されたら、ステップS88にて、収束を高速化するために、ジャーク下限マージン係数k(例えば、0.9)を設定する。そして、ジャーク制限条件を満たすように、加速度A2、最高速度Vnを修正する。
A2=(Vn+1−Vn−1)/(dt1+dt2)+Jmax2×dt2/2×k
Vn=Vn+1+A2×dt2
つまり、ジャークの超過がある場合には、速度の高く、且つ、中間点の速度を低速側に修正する。
ステップS89では、走行終了点の前点から走行開始点の次2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、全ての領域で最高速度Vnの修正処理が完了していないと判定されたら、ステップS89にて、処理した領域(点)から走行開始点側に1区間前進した領域を設定した後、ステップS86〜S89の処理を繰り返す。そして、ステップS88にて、走行終了点の前点から走行開始点の次2点まで最高速度Vnの修正処理が完了したと判定されたら、処理を終了する。
速度パターンに対して、走行終了点と走行開始点との間でジャークを用いて最高速度Vnの修正処理を行うと、図11に示す太線のように、各カーブ走路にて、各分割区間における減速から加速に変更される点での車両速度が適正に修正されることとなる。
このように実施例3の車両走行制御装置にあっては、ECU10は、隣接する領域のジャーク(加加速度)を算出し、このジャークと予め設定された制限値(上限値及び下限値)とを比較して速度を修正処理している。
従って、車両のピッチングに対して、姿勢を乱すことなく安定した速度パターンを生成することができ、車両の乗心地を向上することができる。
また、実施例3の車両走行制御装置では、隣接する領域の速度変化が凹形状をなすときには、速度が高く且つ修正処理進行方向側の領域の速度状態を低速側に修正処理する一方、隣接する領域の速度変化が凸形状をなすときには、速度が高く且つ中間領域の速度状態を低速側に修正処理する。従って、隣接する領域の速度変化に応じて最適に速度修正を行うことができる。
図13は、本発明の実施例4に係る車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成するためのフローチャートである。なお、本実施例の車両走行制御装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例4の車両走行制御装置にて、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、ジャークと予め設定された上限値及び下限値(制限値)とを比較して速度を修正処理するが、この上限値及び下限値を、目標走行経路の形状に応じて設定する。
実施例4の車両走行制御装置を具体的に説明すると、この実施例4の車両走行制御装置は、上述した実施例3における速度パターンの生成処理中に実行する処理を有している。即ち、実施例3における速度パターンの生成処理では、車両のピッチングによる車両の姿勢が乱れを防止するために、ジャークの制限値を用いて速度パターンを修正するものであるが、この場合、走行ラインが直線からカーブに変位するとき、旋回半径Rの変化が大きいと、フル制動から減速度を0に戻して操舵を行うような速度パターンとなってしまう。この速度パターンは、車両を一つの質点とみなしている範囲では最適解となるが、実際理車両においては、車両のヨーレイトを発生されるための前輪の荷重が抜けてしまい、車両を速く安全に走行することが不適切な速度パターンとなるおそれがある。
そこで、実施例4の車両走行制御装置では、走行ラインが直線からカーブに変位するとき、加速度が大きく負(例えば、−0.2G以下)で、ジャークが正の状態、即ち、ブレーキを弱めながらコーナーリングを開始している状態では、ジャークの制限値を小さく(例えば、3m/s3)設定することで、前輪の荷重抜けを防止している。上述した実施例3における速度パターンの生成処理中に、ジャークの制限値を変更するだけで流用可能であり、カーブ進入時に、ジャークの上限値を厳しくしたとしても、単純に減速しすぎた状態で進入することにはならず、その範囲内で速度調整が最適化されるように、減速開始点が調整される。直線からカーブにかけて走行する車両は、ヨーレイトの変化が大きいカーブほど前輪の荷重によりヨー方向に旋回し始める力を必要とするため、ヨーレイトの変化(ヨーレイトの微分値)が大きいカーブほどジャーク制限値を低く設定する。
ここで、実施例4の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理について、図13のフローチャートを用いて詳細に説明する。
実施例4の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成処理は、実施例3の速度パターンを生成処理(図10−1、図10−2のフローチャート)中に実行する。即ち、図13に示すように、ステップS101にて、走行開始点の領域を設定し、ステップS102では、車両の加速度が−0.2Gより小さいかどうかを判定する。ここで、車両の加速度が−0.2G以上であると判定されたら、ステップS109に移行する。
一方、ステップS102にて、車両の加速度が−0.2Gより小さいと判定されたら、ステップS103にて、ジャークが1m/s3より大きいかどうかを判定する。この場合、ジャークが正であるかどうかを判定するものであるが、誤差等を加味して1m/s3と比較する。ここで、ジャークが1m/s3以下であると判定されたら、ステップS109に移行する。一方、ステップS103にて、ジャークが1m/s3より大きいと判定されたら、ステップS104にて、車両がカーブを走行中であるかどうか、つまり、車両の旋回半径Rが300mより大きいかどうかを判定する。ここで、車両の旋回半径Rが300m以下であると判定されたら、ステップS109に移行する。
一方、車両の旋回半径Rが300mより大きいと判定されたら、ステップS105にて、上限ジャークJmax1を小さく設定する。この場合、上述した実施例3では、上限ジャークJmax1=6m/s3と設定したが、この実施例4では、上限ジャークJmax1=3m/s3に設定する。ステップS106では、処理する領域における点の速度と旋回半径Rとの関係からヨーレイトγ1を算出すると共に、その隣接点のヨーレイトγ2を算出し、その変化量からヨーレイト微分値を算出する。
ヨーレイト微分値=(γ2−γ1)dt
そして、ステップS107にて、ヨーレイト微分値が予め設定された設定値より大きいかどうかを判定し、大きいときには、ステップS108にて、上限ジャークJmax1を更に低く、例えば、上限ジャークJmax1=2m/s3に設定する。
ステップS109では、走行開始点から走行終了点まで上限ジャークの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、修正処理が完了していないと判定されたら、次の領域の修正処理をするために、ステップS102〜S109の処理を繰り返す。そして、ステップS109にて、走行開始点から走行終了点まで上限ジャークの修正処理が完了したと判定されたら、処理を終了する。
このように実施例4の車両走行制御装置にあっては、ECU10は、ジャークと予め設定された上限値及び下限値とを比較して速度を修正処理するが、この上限値及び下限値を、目標走行経路の形状に応じて設定している。
従って、車両がカーブ走路に進入するとき、前輪荷重を確保して適正なヨー旋回を可能とし、安全性が高く、且つ、乗心地のよい速度パターンを生成することができる。
図14は、本発明の実施例5に係る車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成するためのフローチャートである。なお、本実施例の車両走行制御装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例5の車両走行制御装置にて、第1速度状態修正手段及び第2速度状態修正手段は、車両を質点モデルとして速度状態を修正処理しているが、分割された領域ごとの速度状態の修正処理が完了した後、車両を剛体モデルとして横力状態を修正処理する。
実施例5の車両走行制御装置を具体的に説明すると、この実施例5の車両走行制御装置は、上述した実施例1における速度パターンの生成処理中に実行する処理を有している。即ち、実施例1における速度パターンの生成処理では、車両を一つの質点とみなしていることから、車両がスラローム走行するときに、ヨーレイトが頻繁に変化するような状況では、車両のヨーレイトに打ち勝ってヨー方向の自転を行うための横力が発生できず、タイヤがスリップしてしまうおそれがある。上述した実施例3、4では、ジャークを用いて速度を修正することで、車両の姿勢を安定させる効果があるが、本質的に、オーバースピードでカーブに進入した車両を無理やりに自転させることは物理的に硬軟であり、車両の速度を適正に低下させる必要がある。
そこで、実施例5の車両走行制御装置では、車両を一つの質点とみなすだけでなく、ヨーレイトの慣性モーメントをもった剛体として取り扱って減速させる。即ち、車両が直線走路からカーブ走路に進入して曲がるとき、ヨーレイトを増加させるために前輪の負担が増加する。ヨーレイトにこの増加した負担分が加わっても、タイヤの摩擦円内に納まるように速度を低下させる。具体的には、ヨーレイトの絶対値が増加し、且つ、ヨーレイトの変化度合(ヨーレイト微分値)が設定値より大きいときには、車両を前輪だけで自転させる場合の横力を車両全体に必要な横力(ヨーレイトの慣性モーメント×ヨーレイト微分値/車両重心位置からフロンとアクスルまでの距離)に加えて車両の速度を低下させる。一方、ヨーレイトの絶対値が減少し、且つ、ヨーレイトの変化度合(ヨーレイト微分値)が設定値より大きいときには、前輪が後輪より横力を低下すればよいため、この処理は行わない。
ここで、実施例5の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンの生成処理について、図14のフローチャートを用いて詳細に説明する。
実施例5の車両走行制御装置における走行経路に応じた速度パターンを生成処理は、実施例1の速度パターンを生成処理(図2のフローチャート)中に実行する。即ち、図14に示すように、ステップS111にて、走行開始点の領域を設定し、ステップS112では、処理する領域における点の速度と旋回半径Rとの関係からヨーレイトγ1を算出すると共に、その隣接点のヨーレイトγ2を算出する。そして、ステップS113にて、ヨーレイトγ1の絶対値がヨーレイトγ2の絶対値より小さいかどうかを判定する。
ここで、ヨーレイトγ1の絶対値がヨーレイトγ2の絶対値以上であると判定されたら、ステップS117に移行する。一方、ヨーレイトγ1の絶対値がヨーレイトγ2の絶対値より小さいと判定されたら、ステップS114にて、ヨーレイトγ1、γ2の変化量からヨーレイト微分値を算出する。
ヨーレイト微分値=(γ2−γ1)dt
そして、ステップS115にて、ヨーレイト微分値が予め設定された設定値(例えば、10deg/s2)より大きいかどうかを判定する。ここで、ヨーレイト微分値が設定値以下であると判定されたら、ステップS117に移行する。一方、ヨーレイト微分値が設定値より大きいと判定されたら、ステップS116にて、車両のヨーレイト微分値を発生させるために必要な横力Ay2を算出する。なお、Iは、ヨーレイトの慣性モーメント、Lfは、で車両重心位置からフロンとアクスルまでの距離ある。
Ay2=I×γ/Lf
また、道路の摩擦係数μと重力加速度gを用いて横力Ay1を算出する。
Ay1=μ×g
そして、道路の摩擦係数μを、ヨーレイトの慣性モーメントを考慮して見なし摩擦係数μに変更する。
見なし摩擦係数μ=μ×Ay1/(Ay1+Ay2)
ステップS117では、走行開始点から走行終了点まで見なし摩擦係数μの修正処理が完了したかどうかを判定する。ここで、修正処理が完了していないと判定されたら、次の領域の修正処理をするために、ステップS112〜S117の処理を繰り返す。そして、ステップS117にて、走行開始点から走行終了点まで見なし摩擦係数μの修正処理が完了したと判定されたら、処理を終了する。
このように実施例5の車両走行制御装置にあっては、ECU10は、分割された領域ごとの速度状態の修正処理を行うとき、車両を質点モデルとして速度状態を修正処理が完了した後、車両を剛体モデルとして横力状態の修正処理を行っている。
従って、車両がスラローム走行するようなヨーレイトが頻繁に変化する走行状態にて、車両が自転しながら走行する適正な速度パターンを生成することができる。
なお、上述した実施例では、本発明に係る車両走行制御装置を車両の自動走行制御に適用して説明したが、自動走行制御と手動走行制御が可能なものに適用してもよい。