JP2010133016A - 鉄基焼結合金およびその製造方法並びに鉄基焼結合金部材 - Google Patents

鉄基焼結合金およびその製造方法並びに鉄基焼結合金部材 Download PDF

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Abstract

【課題】低コストで各特性に優れるCuフリー鉄基焼結合金が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の鉄基焼結合金の製造方法は、Fe系粉末と強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、この粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備え、前記強化粉末は、全体を100質量%としたときに、58〜70%のMnとMnのSiに対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%のCとを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする。このFe−Mn−Si−C粉末は比較的安価に入手でき、しかもそれを用いて得られた鉄基焼結合金は従来の鉄基焼結合金よりも各種特性に優れる。従って、各特性に優れるCuフリー鉄基焼結合金の低コスト化を図れる。
【選択図】図4

Description

本発明は、強度や寸法安定性に優れ、低コストでCuフリーまたはNiフリーを可能とする鉄基焼結合金およびその製造方法並びにその鉄基焼結合金からなる鉄基焼結合金部材に関するものである。
機械部品等の構造部材の製造コストを削減するために、鉄を主成分とする原料粉末を加圧成形した粉末成形体を加熱し焼結させた鉄基焼結合金部材の利用が考えられる。鉄基焼結合金部材を用いれば、最終形状に近い製品(焼結体)を得ることも可能となり、機械加工削減や歩留り向上等によって、構造部材の製造コストや材料コストの低減を図り得る。このためには、鉄基焼結合金部材の強度と焼結前後の寸法安定性が重要となってくる。
このような観点から、これまで、Fe−Cu−C組成の原料粉末からなる粉末成形体を焼結させたFe−Cu−C系鉄基焼結合金が構造部材用として多用されてきた。Cuが鉄基焼結合金の強度向上および焼結前後の寸法精度の安定に有効な元素だからである。従って、一般的な鉄鋼材料とは異なり鉄基焼結合金の場合、Cuは、ほぼその必須成分と考えられてきた。
US6346133 US6364927 特許3309970号公報 特開昭58−210147号公報 特表平10−510007号公報 特開2005−336608号公報 特開2005−336609号公報
High Strength Si-Mn-Alloyed Sintered Steels. P.M.Int. vol17.No.1 (1985) "Effect of Sinter-Hardening on the Properties of High Temperature Sintered PM Steels",Advances in Powder Metallurgy & Particulate Materials,MPIF,2002,part13,pp1-13 "New focus on chromium may sidestep alloy cost increases",MPR.September(2004),PP16-19
しかし、Cu粉末は、単価が高く鉄基焼結合金中の使用量も比較的多い。このため、自ずと鉄基焼結合金の製造コストを上昇させることとなる。さらに、Cuは、鉄鋼材料の熱間脆性の原因となる元素であるが、製錬等で除去困難な元素である。このため、Cuを使用した鉄基焼結合金は、スクラップ等への混入が嫌われ、リサイクル性が悪い。従って、Cuを含む鉄基焼結合金の使用は、資源の有効利用を図るべき環境対策上、必ずしも好ましいものではなかった。
Cuの他に、鉄基焼結合金に多用される元素としてNiがある。NiもCuと同様に、鉄基焼結合金の強度等を向上させるのに有効な元素である。しかし、Ni粉末も高価であり、鉄基焼結合金の製造コストを上昇させる。また、Niはアレルギー性元素でもあるから、その使用が好ましくない場合もある。
上記の特許文献1、2や非特許文献1には、Cuを使用せずに、MnやSiを含有させて強度向上等を図った鉄基焼結合金が開示されている。しかし、それらはあくまでも実験室レベルのものであって、MnやSiの組成や添加方法等の点でも、後述する本発明とは異なっている。
特許文献3には、粉末成形体の超高密度成形方法が開示されている。
特許文献4〜7には、Si−Mn−Fe母合金の粉砕粉と鉄粉との混合粉末を圧縮成形および焼結させた鉄基焼結合金が開示されている。しかしこれらの特許文献に開示されている鉄基焼結合金は、後述する本発明の鉄基焼結合金と比較すると、MnとSiの組成比(Mn/Si)や、使用する強化粉末自体の組成に関してCを実質的に含有しているか否かなどの点で異なっている。
また、特許文献5では、Niに替えてMoを含有させた鉄基焼結合金をも開示している。しかし、その強度は必ずしも十分ではなく、さらなる高強度化には焼入れ、焼戻し等の熱処理を別途必要としている。言うまでもなくこのような熱処理は、多くの時間および工数を必要とし、鉄基焼結合金の製造コストを上昇させる。
これに対して非特許文献2または3には、焼結工程後の熱処理を省略しつつも、高強度の鉄基焼結合金(シンターハードニング鋼)が得られる旨が開示されている。しかし、非特許文献2は、本発明と異なり、MnやSiを含有した鉄基焼結合金を開示していない。非特許文献3には、Cr、Mn、Si、Moを含有するシンターハードニング鋼が開示されている。しかし、後述する本発明の鉄基焼結合金のように、Fe−Mn−Si−C粉末などの強化粉末を用いて製造されたものではない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、CuまたはNiの使用を抑制しつつも、強度等の機械的特性や焼結前後の寸法安定性を確保し得る鉄基焼結合金を低コストで得られる製造方法およびそのような鉄基焼結合金並びにその鉄基焼結合金からなる鉄基焼結合金部材を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、従来とは異なる組成の強化粉末(Fe−Mn−Si−C粉末)を用いることにより、強度などの機械的特性や寸法安定性に優れる鉄基焼結合金を低コストで得られることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
《鉄基焼結合金の製造方法》
(1)本発明の鉄基焼結合金は、純鉄または鉄(Fe)合金の少なくとも一方からなるFe系粉末とFe以外の合金元素を含有する強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、該粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備える鉄基焼結合金の製造方法であって、
前記強化粉末は、全体を100質量%(以下単に「%」という。)としたときに、58〜70%のマンガン(Mn)と該Mnのケイ素(Si)に対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%の炭素(C)とを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする。
(2)本発明の鉄基焼結合金の製造方法では、原料粉末を構成する強化粉末が、MnおよびSiのみならずCを含むFe合金またはFe化合物からなる。しかも、Mn、SiおよびCの組成範囲が上記のような特定範囲にある強化粉末(Fe−Mn−Si−C粉末)を用いて得られた鉄基焼結合金は、Cu粉やNi粉などを使用するまでもなく、機械的特性(強度、伸び、硬さなど)や寸法安定性などに優れた特性を示す。
さらに、そのFe−Mn−Si−C粉末の原材料は、従来のFe−Mn−Si粉末などよりも遙かに粉砕性(崩壊性)に優れる。このため、均質的で微細なFe−Mn−Si−C粉末を比較的容易に得られる。このように粒度が微細で平均的なFe−Mn−Si−C粉末を使用することにより、鉄基焼結合金の寸法安定性や機械的特性を一層高めることが可能となる。しかも、上記組成範囲のFe−Mn−Si−C粉末またはその原料は、製鋼時に使用される脱酸剤(例えば、シリコマンガン)などとして多用されており、安価に入手可能である。
従って、本発明の製造方法によれば、比較的高価なCu粉などを使用するまでもなく、入手性や低価格性に優れるFe−Mn−Si−C粉末またはその原料を用いることができる。しかも、その原料等は粉砕性に優れるので比較的容易に均質的な微粉として使用することができる。従って、原料粉末の調達または調製段階から、大きなコスト低減が図られる。しかも、得られた鉄基焼結合金は、機械的特性等に優れるのみならず寸法安定性にも優れる。従って、鉄基焼結合金からなる部材の熱処理コスト削減のみならず加工コスト削減なども図れる。
よって、本発明の製造方法によれば、原料段階から最終的な製品段階に至る製造工程全体を通じて、鉄基焼結合金または鉄基焼結合金部材の生産コストを著しく低減することが可能となる。
さらに本発明により得られた鉄基焼結合金は、機械的特性などに関して従来の鉄基焼結合金を上回るものである。このため、鉄基焼結合金部材の要求仕様が従来レベルと同程度であれば、強化粉末の使用量自体を低減したり、Fe系粉末を合金元素量の少ないより安価な粉末で代替したりすることなども可能となる。このような場合、鉄基焼結合金またはそれからなる部材の製造コストの低減をさらに進めることが可能となる。
(3)ところで、上記の強化粉末(Fe−Mn−Si−C粉末)を用いた場合、その粉末または原料がなぜ粉砕性に優れるのか、また、その粉末を用いて得られた鉄基焼結合金の各特性がなぜ従来以上に向上し得るのか、その理由やメカニズムなどは必ずしも定かではない。本発明者が鋭意研究したところ、現状では次のように考えられる。
先ず、本発明に係るFe−Mn−Si−C粉末が従来のFe−Mn−Si粉末よりも微細化し易いのは、MnとSiの組成(Mn/Siを含む)に加えて、比較的多くのCを含有している点が考えられる。すなわち、マンガン、シリコンの金属間化合物(MnSi、MnSi)に加え、マンガン炭化物(Mn23、Mnなど)も存在するためと考えられる。
次に、Fe−Mn−Si−C粉末を用いて得られた鉄基焼結合金が機械的特性や寸法安定性などに優れる理由は次のように考えられる。
先ず、Fe−Mn−Si−C粉末中に含まれるMn、SiおよびCは、もともと、リン(P)および硫黄(S)と共に鋼の五元素と呼ばれ、溶製される鉄鋼材料では一般的な強化元素である。
しかし、これまでMnおよびSiは、鉄基焼結合金の分野では実質的には殆ど使用されてこなかった。MnおよびSiは、酸素との親和力が極めて高く酸化物を作り易いため、金属組織内部に酸化物の介在した鉄基焼結合金となって、その機械的特性が劣化すると一般的に考えられていたためである。このような事情は、MnおよびSiをFe系粉末とは別の粉末として原料粉末中に加えた場合に顕著である。MnおよびSiを予め合金化させたFe系粉末を用いることも考えられるが、その場合、Fe系粉末は非常に硬質となって粉末成形体の成形自体が困難となる。
そこで本発明の製造方法では、Fe系粉末とは別の強化粉末として、MnおよびSiを原料粉末中に混在させた。そして、MnおよびSiの酸化を十分に抑止できる酸化防止雰囲気中で、MnおよびSiを含む粉末成形体の焼結を行った(焼結工程)。
いずれにしても、CuやNiを使用するまでもなく、Fe−Mn−Si−C粉末を強化粉末として使用することで、従来のFe−Cu(−C)系鉄基焼結合金を凌ぎ、機械構造用炭素鋼と同等レベルの機械的特性を発現する鉄基焼結合金を得ることに成功した。
なお、MnとSiの組成比(Mn/Si)を前述のように限定したのは、できるだけ少ない添加量で強度向上を図り、寸法変化(膨張量)を小さくするためである。
《鉄基焼結合金および鉄基焼結合金部材》
本発明は上述の製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた鉄基焼結合金およびその鉄基焼結合金からなる各種の部材(鉄基焼結合金部材)としても把握できる。
(1)この鉄基焼結合金(以下、「鉄基焼結合金部材」を含む。)は、例えば、その合金全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%と、Siが0.05〜0.6%と、Cが0.1〜0.9%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなると好適である。
(2)また、鉄基焼結合金は、その機械的特性などを向上させる合金元素を含むと好ましい。このような合金元素として、例えば、CrやMoが代表的である。CrやMoが増加すると、特別な熱処理を施すまでもなく高強度化され易くなる。勿論、焼入れ性なども向上するので、適当な熱処理を行うことで、強度、靱性、延性などを高次元で調和させることも可能となる。
このような一例を挙げると、鉄基焼結合金は、その合金全体を100%としたときに、Mnが0.1〜1.4%と、Siが0.05〜0.4%と、Cが0.1〜0.9%と、Crが0.1〜5%および/またはMoが0.1〜2%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなると好適である。
ここでMnは、特に鉄基焼結合金の強度向上に有効な元素である。Mnが過少ではその効果が乏しい。もっとも、原料粉末中に含まれる合金元素の種類によっては、Mnが微量であっても、十分な強度の鉄基焼結合金が得られる。一方、Mnが過多になると、鉄基焼結合金の伸びが減少して靱性が低下し、寸法変化も増加して寸法安定性が阻害される。そこで鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Mnの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.3%、1.2%、1.5%、1.8%および2.1%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
Siは、鉄基焼結合金の強度向上にも寄与するが、特に、鉄基焼結合金の寸法安定性に大きく寄与する。特に、この傾向は、SiがMnと共存する場合に大きい。Mnは鉄基焼結合金の寸法を増加させる傾向に作用するのに対して、Siは鉄基焼結合金の寸法を減少させる傾向に作用する。両元素が共存することでそれらの傾向が打ち消し合って、鉄基焼結合金の寸法安定性が確保されると考えられる。Siが過少では、寸法安定性が乏しく、過多になると寸法収縮量が大きくなって好ましくない。そこで鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Siの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.05%、0.1%、0.4%、0.5%および0.6%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
Cは、鉄基焼結合金の重要な強化元素である。焼結中にCが拡散して鉄基焼結合金が固溶強化されることは勿論のこと、Cを適量含むことで、鉄基焼結合金の焼入れ、焼戻しといった熱処理が可能となり、それによって鉄基焼結合金の機械的特性を一層大きく向上させることができる。Cが過少ではその効果が乏しくCが過多になると延性が低下する。そこで鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Cの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.2%、0.3%、0.8%および0.9%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
さらに本発明の場合、一般的な炭素鋼に比較して、より少ないC量で高強度の鉄基焼結合金の高強度化を図ることができる。この理由は必ずしも定かではないが、MnおよびSiが強く影響していると思われる。具体的には、MnおよびSiを添加することにより、Cの歩留りが向上し、さらには、焼入れ性も向上したためと考えられる。いずれにしても、従来よりも低炭素量側で鉄基焼結合金の高強度化を図れるため、高強度化を図りつつ高靱性を確保することが可能となる。つまり、一般的に背反関係にあるといわれる強度と靱性とを高次元で両立させた鉄基焼結合金が得られる。
(3)本明細書中でいう「改質元素」は、Fe、Mn、SiおよびC(さらにはCr、Mo)以外であって、鉄基焼結合金の特性改善に有効な元素である。改善される特性の種類は問わないが、強度、靱性、延性、寸法安定性、被削性などがある。改質元素の具体例として、V:0.1〜0.3質量%などがある。また、改質元素の導入にMnSなどの改質化合物を用いてもよい。この場合例えば、MnS:0.1〜0.5質量%とすると好ましい。
各元素の組み合わせは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、通常その含有量は微量である。
「不可避不純物」は、原料粉末中に含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。本発明に係る鉄基焼結合金の場合であれば、例えば、P、S、Al、Mg、Ca等がある。なお当然ながら、改質元素や不可避不純物の組成は特に限定されない。
(4)本明細書でいう「鉄基焼結合金」または「鉄基焼結合金部材」は、その形態を問わない。特に鉄基焼結合金は、例えば、バルク状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であっても良い。もっとも通常は、加工コスト等の低減を狙って焼結材が用いられるので、鉄基焼結合金(部材)の形状は(ニア)ネットシェイプにより最終製品形状に近い。
(5)鉄基焼結合金に含まれる合金元素の種類は特に問わないが、CuやNiを含有しない方が好ましい。Cuを実質的に含まないCuフリー鉄基焼結合金やNiを実質的に含まないNiフリー鉄基焼結合金は、リサイクル性の向上が望まれるからである。
但し、本発明は、鉄基焼結合金中にCuやNiを含有する場合を排除するものではない。上述したMnやSiと共に適量のCuやNiを含有する場合も本発明の範囲に含まれる。
本明細書でいう「機械的特性」や「寸法安定性」は、原料粉末の組成、成形圧力、焼結条件(温度、時間、雰囲気等)等によって異なる。従って、それら「機械的特性」や「寸法安定性」を一概に特定することはできない。敢えていうならば、機械的特性の一つである引張強さは、汎用的な鉄基焼結合金部材で550MPa以上、600MPa以上さらには650MPa以上であり、高強度な鉄基焼結合金部材で850MPa以上、900MPa以上、950MPa以上さらには1000MPa以上であると好ましい。寸法安定性は、焼結前後の寸法変化率で±0.5%以内、±0.3%以内、±0.1%以内さらには±0.05%以内であると好ましい。さらに伸びでいえば、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上さらには3%以上であると好ましい。
(6)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組み合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得る。
本発明によれば、強度等の機械的特性や焼結前後の寸法安定性を確保し得る鉄基焼結合金を低コストで得られる。
後述の引張試験片の形状を示す図である。 後述の試験例1に係る鉄基焼結合金について強化粉末量と寸法変化との関係を示すグラフである。 試験例1に係る鉄基焼結合金について強化粉末量とかたさとの関係を示すグラフである。 試験例1に係る鉄基焼結合金について強化粉末量と引張強さとの関係を示すグラフである。 試験例1に係る鉄基焼結合金について強化粉末量と伸びとの関係を示すグラフである。 後述の試験例2に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と寸法変化との関係を示すグラフである。 試験例2に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量とかたさとの関係を示すグラフである。 試験例2に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と引張強さとの関係を示すグラフである。 試験例2に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と伸びとの関係を示すグラフである。 後述の試験例3に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と寸法変化との関係を示すグラフである。 試験例3に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量とかたさとの関係を示すグラフである。 試験例3に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と引張強さとの関係を示すグラフである。 試験例3に係る鉄基焼結合金についてFeMSIV粉量と伸びとの関係を示すグラフである。 後述の試験例4に係る鉄基焼結合金について焼結温度と引張強さの関係を示すグラフである。 試験例4に係る鉄基焼結合金について焼結温度と伸びの関係を示すグラフである。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る鉄基焼結合金の製造方法のみならず、その鉄基焼結合金(鉄基焼結合金部材を含む)にも適宜適用される。すなわち、本発明の製造方法およびそれにより得られた鉄基焼結合金は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加され得る。下記から選択される構成は、いずれの発明にも、また、カテゴリーを越えて、重畳的または任意的に付加可能である。例えば、鉄基焼結合金の組成などに関する構成であれば、その製造方法にも関連することはいうまでもない。また、製造方法に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、鉄基焼結合金に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《原料粉末》
原料粉末は、鉄基焼結合金の主成分であるFe系粉末と、Mn、SiおよびCを含む強化粉末(Fe−Mn−Si−C粉末)とからなる。なお、以下ではFe−Mn−Si−C粉末を「FeMS粉」という。
(1)Fe系粉末
Fe系粉末は、純鉄粉でも鉄合金粉でもそれらの混合粉末でも良い。鉄合金粉に含まれる合金元素は問わない。この合金元素として、先ず、C、Mn、Si、P、S等がある。Mn、SiおよびCは、強化粉末としても添加されるが、Fe系粉末中に少量含まれていても良い。但し、C、Mn、Si等の含有量が増加すると、Fe系粉末が硬質となって成形性が低下する。そこで、Fe系粉末が鉄合金粉である場合は、C:0.02質量%以下、Mn:0.2質量%以下、Si:0.1質量%以下とするのが良い。
Fe系粉末中に含まれる他の合金元素として、Mo、Cr、Ni、V、Co、Nb、W等がある。これらの合金元素は、鉄基焼結合金の熱処理性を向上させ、鉄基焼結合金を強化する有効な元素である。
特に、原料粉末全体を100質量%としたときに、Moが0.1〜2質量%(以下、適宜単に「%」と記す。)および/またはCrが0.1〜5%となるように原料粉末が調製されると好適である。Crの上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.3%、0.5%、3%、3.2%、3.5%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。また、Moの上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.5%、0.6%、0.8%、1%、1.5%および2%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。なお、これらの合金元素は、Fe系粉末中に含まれていると取扱性や均質性に優れて好ましいが、Fe系粉末とは別の強化粉末として供給されてもよい。
(2)FeMS粉
本発明に係るFeMS粉は、FeMS粉全体を100%として、58〜70%のMnと、Mn/Siが3.3〜4.6となるSiと、1.5〜3%のCとを含み主たる残部がFeであるFe合金またはFe化合物からなる。このFeMS粉を用いることで、機械的特性や寸法安定性に優れた鉄基焼結合金を低コストで製造できる。
Mn、SiおよびCが過少だと、FeMS粉の原料(FeMS原料)が延性のある鉄合金となり、それを微粉に粉砕するのが困難となる。また、FeMS粉の原料粉末中における添加量も多くなり、鉄基焼結合金のコストを上昇させてしまう。一方、Mn、SiまたはCが過多のFeMS粉(原料)は、調達コストが上昇して好ましくない。ちなみに、そのFeMS粉の粉砕性に関していえば、特にCの存在が重要である。
そこでFeMS粉中のMnの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、FeMS粉全体を100%として、特に、58%、60%、65%、68%および70%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。また、FeMS粉中のCの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、1.5%、2%、2.5%および3%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。そしてFeMS粉中のMn/Siの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、3.3、3.6、3.8、4.2、4.4および4.6から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
FeMS粉は、含有するO量が1.5%以下、1.2%以下、1%以下さらには0.8%以下であると好ましい。原料粉末中のO量が増加すると、MnやSiによる強化作用が十分に発揮されない。さらに、粉末成形体の理論密度(ρ)に対する嵩密度(ρ)の比である成形体密度比(ρ/ρ)が96%を超えるような超高密度の粉末成形体を焼結させた場合、その内部に存在するOは焼結体に膨れ(ブリスター)を生じさせる原因となって好ましくない。
(3)原料粉末中に配合するFeMS粉の割合は、FeMS粉の組成や鉄基焼結合金の所望特性(鉄基焼結合金の組成)に応じて異なるが、本発明に係るFeMS粉の場合であれば、原料粉末全体を100質量%としたときに、0.05〜3%配合されると良い。
FeMS粉の配合量が、過少では鉄基焼結合金の特性改善が図れず、過多になると原料コストが増加したり鉄基焼結合金の寸法安定性や伸びが低下したりするので好ましくない。原料粉末全体を100質量%としたとき、FeMS粉の配合量の上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、2.1%、2.5%および3%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
(4)FeMS粉の粒径は小さい程、成形体密度比や焼結体の理論密度(ρ’)に対する嵩密度(ρ’)の比である焼結体密度比(ρ’/ρ’)が向上するのみならず寸法安定性や各種の機械的特性なども向上する傾向にある。この理由は、成分変動や偏析等の少ない均質な鉄基焼結合金が得られ易いためと思われるが、その理由は現状必ずしも定かではない。
ところで、一般的に粒径の小さい微粉は製造が困難かまたは高コストであるが、本発明に係るFeMS粉は比較的容易に微粉化し易いので低コストである。このFeMS粉は、FeMS原料を粉砕したまま用いても、例えば粒径が45μm以下(−45μm)程度の微粉となり得る。これは従来の強化粉末と比較しても、粒径が十分に小さい。
もっとも、粒径のバラツキを抑制し、さらにより粒度の小さい微粉を用いる方が、鉄基焼結合金の特性を向上させたり品質を安定させたりする上で好ましい。そこで篩い分けなどにより、分級したFeMS粉を用いると好適である。具体的には、例えば、45μm以下の他、30μm以下、20μm、10μm、8μm以下さらには6μm以下などに分級したFeMS粉を用いると好適である。FeMS粉の粒径の下限は特に拘らないが、取扱性や製造コストなどを考慮して、1μm以上さらには3μm以上であると好ましい。
なお、FeMS粉の粒子の大きさを評価する指標として、上記のような分級による他、平均粒径や粒度分布などを用いることもできる。もっとも工業的には、粒径の上限値でFeMS粉の粒子の大きさを規定する方が現実的で好ましい。従って、本明細書では、粒径の上限値によりFeMS粉の粒子の大きさを示した。例えば、「粒径が45μm以下」とは、最大粒径が45μm以下であることを示し、これを適宜「−45μm」と表記する。
(5)原料粉末は、FeMS粉以外に、強化粉末としてC系粉末を含むと好適である。鉄基焼結合金中のCは、Fe系粉末やFeMS粉からも供給され得るが、Fe系粉末の硬質化を抑制したりC量の組成調整を容易にしたりするために、原料粉末中に別途C系粉末を混在させると好ましい。このようなC系粉末として、Fe−C合金粉(セメンタイト粉末など)や各種の炭化物粉末等を使用することもできるが、Cがほぼ100%の黒鉛粉末(Gr粉末)が好適である。
いずれにしても、原料粉末は最終的に、鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Mnが0.5〜1.5%、Siが0.15〜0.6%およびCが0.2〜0.9%となるように調製されると好適である。
《製造工程》
本発明の鉄基焼結合金の製造方法は、主に成形工程と焼結工程とからなるので、これら工程について順次説明する。
〈成形工程〉
(1)成形工程は、前述したFe系粉末と強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする工程である。この際の成形圧力、粉末成形体の密度(または成形体密度比)、粉末成形体の形状等は問わない。
但し、成形圧力および成形体密度は、粉末成形体のハンドリング性を考慮して、少なくとも容易に崩壊しない程度が良い。例えば、成形圧力は、350MPa以上、400MPa以上、500MPa以上さらには550MPa以上が好ましい。成形体密度比でいうなら、80%以上、85%以上さらには90%以上が好ましい。成形圧力や成形体密度比が高くなる程、高強度の鉄基焼結合金が得られ易いが、鉄基焼結合金の用途、仕様に応じて最適な成形圧力や成形体密度比を選択すれば良い。また、成形工程は、冷間成形でも温間成形でも良く、原料粉末中に内部潤滑剤を添加しても良い。内部潤滑剤を添加する場合は、内部潤滑剤をも含めて原料粉末と考える。
(2)本発明者は、前記した特許文献3にも開示があるように、工業レベルで従来の一般的な成形圧力を超越した超高圧成形を可能とする粉末成形体の成形方法を確立している。この成形方法によれば、750MPa以上、800MPa以上、900MPa以上、1000MPa以上、1200MPa以上、1500MPa以上さらには約2000MPaといった超高圧での粉末成形も可能である。これにより得られる粉末成形体の密度は96%以上、97%以上、98%以上さらには99%にも到達し得る。この成形方法(以下、適宜「金型潤滑温間加圧成形法」という。)は概略次の通りである。
金型潤滑温間加圧成形法(成形工程)は、高級脂肪酸系潤滑剤が内面に塗布された金型へ前記原料粉末を充填する充填工程と、この金型内の原料粉末を温間で加圧して金型内面に接する原料粉末の表面に金属石鹸皮膜を生成させる温間加圧成形工程とからなる。
この成形方法に依れば、成形圧力を相当大きくしても、一般的な成形方法で生じるような不具合を生じない。具体的には、原料粉末と金型の内面との間のかじり、抜圧の過大化、金型寿命の低下等が抑止される。以下、この成形方法の充填工程および温間加圧成形工程についてさらに詳細に説明する。
(a)充填工程
原料粉末を金型(キャビティ)へ充填する前に、金型の内面に高級脂肪酸系潤滑剤を塗布しておく(塗布工程)。ここで使用する高級脂肪酸系潤滑剤は、高級脂肪酸自体の他、高級脂肪酸の金属塩であっても良い。高級脂肪酸の金属塩には、リチウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩等がある。特に、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が好ましい。この他、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸リチウム、オレイン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム等を用いることもできる。
塗布工程は、例えば、加熱された金型内に水、水溶液またはアルコール溶液等に分散させた高級脂肪酸系潤滑剤を噴霧して行える。高級脂肪酸系潤滑剤が水等に分散していると、金型の内面へ高級脂肪酸系潤滑剤を均一に噴霧し易い。加熱された金型内にそれを噴霧すると、水分等が素早く蒸発して、金型の内面へ高級脂肪酸系潤滑剤が均一に付着する。金型の加熱温度は、後述する温間加圧成形工程の温度を考慮すると好ましいが、例えば、100℃以上に加熱しておけば足る。もっとも、高級脂肪酸系潤滑剤の均一な膜を形成するために、その加熱温度を高級脂肪酸系潤滑剤の融点未満にすると好ましい。例えば、高級脂肪酸系潤滑剤としてステアリン酸リチウムを用いた場合、その加熱温度を220℃未満とすると良い。
なお、高級脂肪酸系潤滑剤を水等に分散させる際、その水溶液全体の質量を100質量%としたときに、高級脂肪酸系潤滑剤が0.1〜5質量%、さらには、0.5〜2質量%の割合で含まれるようにすると、均一な潤滑膜が金型の内面に形成されて好ましい。
また、高級脂肪酸系潤滑剤を水等へ分散させる際、界面活性剤をその水に添加しておくと、高級脂肪酸系潤滑剤の均一な分散が図れる。そのような界面活性剤として、例えば、アルキルフェノール系の界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)10、アニオン性非イオン型界面活性剤、ホウ酸エステル系エマルボンT−80等を用いることができる。これらを2種以上組み合わせて使用しても良い。例えば、高級脂肪酸系潤滑剤としてステアリン酸リチウムを用いた場合、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)10及びホウ酸エステルエマルボンT−80の3種類の界面活性剤を同時に用いると好ましい。この場合、それらの1種のみを添加した場合に較べて、ステアリン酸リチウムの水等への分散性が一層活性化されるからである。
噴霧に適した粘度の高級脂肪酸系潤滑剤の水溶液を得るために、その水溶液全体を100体積%として、界面活性剤の割合を1.5〜15体積%とすると好ましい。
この他、少量の消泡剤(例えば、シリコン系の消泡剤等)を添加しても良い。水溶液の泡立ちが激しいと、それを噴霧したときに金型の内面に均一な高級脂肪酸系潤滑剤の被膜が形成され難いからである。消泡剤の添加割合は、その水溶液の全体積を100体積%としたときに、例えば0.1〜1体積%程度であればよい。
水等に分散した高級脂肪酸系潤滑剤の粒子は、最大粒径が30μm未満であると、好適である。最大粒径が30μm以上になると、高級脂肪酸系潤滑剤の粒子が水溶液中に沈殿し易く、金型の内面に高級脂肪酸系潤滑剤を均一に塗布することが困難となるからである。
高級脂肪酸系潤滑剤の分散した水溶液の塗布には、例えば、塗装用のスプレーガンや静電ガン等を用いて行うことができる。なお、本発明者が高級脂肪酸系潤滑剤の塗布量と粉末成形体の抜出圧力との関係を実験により調べた結果、膜厚が0.5〜1.5μm程度となるように高級脂肪酸系潤滑剤を金型の内面に付着させると好ましい。
(b)温間加圧成形工程
高級脂肪酸系潤滑剤が内面に塗布された金型に充填された原料粉末を温間で加圧成形すると、金型内面に接する原料粉末(または粉末成形体)の表面に金属石鹸皮膜が生成され、この金属石鹸皮膜の存在によって工業レベルでの超高圧成形が可能になったと考えられる。この金属石鹸被膜は、その粉末成形体の表面に強固に結合し、金型の内表面に付着していた高級脂肪酸系潤滑剤よりも遙かに優れた潤滑性能を発揮する。その結果、金型の内面と粉末成形体の外面との接触面間での摩擦力を著しく低減させ、高圧成形にも拘らず、かじり等を生じさせない。また、非常に低い抜圧で粉末成形体を金型から取出せ、金型寿命の極端な短縮もなくなった。
金属石鹸被膜は、例えば、高級脂肪酸系潤滑剤と原料粉末中のFeとが温間高圧下でメカノケミカル反応を生じて形成された、高級脂肪酸の鉄塩被膜である。この代表例は、高級脂肪酸系潤滑剤であるステアリン酸リチウムまたはステアリン酸亜鉛と、Feとが反応して生成されたステアリン酸鉄皮膜である。
本工程でいう「温間」は、原料粉末と高級脂肪酸系潤滑剤との反応が促進される程度の加熱状態であれば良い。概していえば、成形温度を100℃以上とすれば良い。但し、高級脂肪酸系潤滑剤の変質を防止する観点から、成形温度を200℃以下とするのが良い。成形温度を120〜180℃とするとより好適である。
本工程でいう「加圧」は、鉄基焼結合金の仕様を考慮しつつ、金属石鹸皮膜が形成される範囲内で適宜決定されれば良い。金型寿命や生産性を考慮して、その成形圧力の上限を2000MPaとすると好ましい。成形圧力が1500MPa程度になると、得られる粉末成形体の密度も真密度に近付き(成形体密度比で98〜99%となり)、2000MPa以上に加圧してもさらなる高密度化は望めない。
なお、この金型潤滑温間加圧成形法を用いると、内部潤滑剤を使用する必要がなく、より高密度な粉末成形体が得られる。また、その粉末成形体を焼結させたときに、内部潤滑剤の分解、放出等に伴って炉内が汚染されることもない。但し、本発明では、内部潤滑剤の使用を排除するものではないことを断っておく。
〈焼結工程〉
(1)焼結工程は、成形工程で得られた粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱して焼結させる工程である。焼結温度および焼結時間は、鉄基焼結合金の所望特性、生産性等を考慮して適宜選択される。焼結温度は高い程、短時間で高強度な鉄基焼結合金が得られる。もっとも、焼結温度が高すぎると、液相が発生したり寸法収縮が大きくなったりして好ましくない。焼結温度が低すぎると、強化元素の拡散が不十分となり好ましくない。また、焼結時間が長くなって、鉄基焼結合金の生産性が低下する。そのため、焼結温度は、900℃以上さらには950℃以上が好ましく、1400℃以下さらには1350℃以下が好ましい。
特に、高強度の鉄基焼結合金を得る場合には、焼結温度を1000℃以上、1100℃以上さらには1150℃以上とするのが良い。ただし、粒度の小さいFeMS粉(具体的には8μm以下さらには5μm以下に分級した微粉)を用いるのであれば、1025℃以上さらには1075℃以上の焼結温度で高強度の鉄基焼結合金が得られる。この粒度の小さいFeMS粉とともに、粒度の小さいFe系粉末(具体的には70μm以下さらには65μm以下に分級した微粉)を用いるのであれば、950℃以上さらには1050℃以上の焼結温度で高強度の鉄基焼結合金が得られる。
焼結時間は、焼結温度、鉄基焼結合金の仕様、生産性、コスト等を考慮しつつ0.1〜3時間さらには0.1〜2時間とするのが良い。
(2)焼結雰囲気は酸化防止雰囲気が良い。合金元素であるMnおよびSiは、Oとの親和力が極めて強く非常に酸化され易い元素である。特に本発明のようなFeMS粉は、MnおよびSiの単体よりも酸化物生成自由エネルギーが低く、加熱炉内の僅かなOとも結合して、焼結体内部にMnおよびSiの酸化物を形成するおそれがある。このような酸化物の介在は、鉄基焼結合金の機械的性質を劣化させるので好ましくない。そこで、焼結雰囲気は、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等の酸化防止雰囲気が好ましい。
さらにそのような雰囲気中の残留酸素(酸素分圧)が問題となるときは、窒素ガスに水素ガス(低い露点(例えば、−30℃以下)に精製された高純度水素ガス)を数体積%(例えば、全体を100体積%としたときに2〜10体積%)混合した還元雰囲気を採用しても良い。
水素ガスの使用が好ましくない場合には、本発明の焼結工程を酸素分圧が10−19Pa以下(CO濃度で100ppm以下)に相当する極低酸素分圧の不活性ガス雰囲気内で行うとよい。焼結中にFeMS粉と原料粉末に付着等したOとが反応して複合酸化物などが形成されても、極低酸素分圧の不活性ガス雰囲気下では、その複合酸化物がさらに分解される。その結果、酸化物等が介在しない健全な組織の鉄基焼結合金が得られる。なお、極低酸素分圧の不活性ガス(Nガス)雰囲気を実現する連続焼結炉は市販されている(関東冶金工業株式会社製オキシノン炉)。
(3)さらに焼結工程の加熱に続く冷却により焼入れを行うシンターハードニングを行ってもよい。焼結工程は、通常、A1変態点(約730℃)以上の高い焼結温度(例えば、1050〜1350℃さらには1100〜1300℃)に加熱される(加熱工程)。ここで加熱された焼結体を焼結温度から室温付近まで(Ms点以下まで)急冷することで(冷却工程)、シンターハードニングがなされる。その際の冷却速度は、0.5〜3℃/秒が好ましい。この上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.5℃/秒、0.7℃/秒、2℃/秒および2.5℃/秒から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。冷却速度が大きい程、焼入れが確実になされて好ましいが、本発明の製造方法によれば、冷却速度が小さくても十分な焼入れがなされ得る。このため本発明によれば、急冷を行う強制冷却装置が必ずしも必要ではなく、設備的にも低コスト化が図られる。なお、このような傾向は、鉄基焼結合金がC、Mn、Siの他にCrおよびMoを含むときに顕著である。
《鉄基焼結合金》
(1)本発明の鉄基焼結合金は、その密度の高低を問わない。すなわち、従来の鉄基焼結合金のように、汎用的な成形圧力で成形した粉末成形体を焼結させた低密度鉄基焼結合金であっても良いし、上述した金型潤滑温間加圧成形法を用いて高圧成形した高密度粉末成形体を焼結させた高密度鉄基焼結合金であっても良い。いずれの場合であっても、FeMS粉を用いることで、鉄基焼結合金の機械的特性や寸法安定性の向上が図られ得る。
特に成形体密度比や焼結体密度比が92%以上、95%以上、96%以上さらには97%以上になると、2回成形2回焼結(2P2S)により得られる焼結体や鍛造焼結体さらには溶製材に匹敵するような高強度となって好ましい。
(2)ここで前記した特許文献7にもあるように、本発明者は、超高密度な粉末成形体(例えば、成形体密度比が96%以上)を焼結させた場合、膨れ(ブリスター)を生じ易いことを見出している。特に、原料粉末中にGr粉末などのCを含む場合に、そのような膨れが発生し易い。このような膨れが発生すると、当然ながら焼結前後の寸法安定性が極端に崩れる。
この膨れは、原料粉末の粒子表面に付着していた水分や酸化物等が、焼結工程の加熱中に還元されたり分解されたりして発生した、HO、COやCO等の様々なガスによって生じる。すなわち、このガスが、各構成粒子がぴったりと密着した状態にある焼結体内部の封孔に閉じ込められ、焼結工程の加熱中に膨張して、焼結体に膨れが発生したと考えられる。勿論、粉末成形体が従来のような低密度なら、原料粉末の粒子間にできた隙間からその発生したガスは外部へ放出されるため、上記のような膨れの発生は少ない。
もっとも本発明のようにFeMS粉を強化粉末に用いた場合、FeMS粉中のMnやSi(特にSi)が酸素ゲッターとして機能し、焼結体の膨れを防止する。これはMnやSiが、CよりもOとの親和力が強くて酸化物生成自由エネルギーが低いからである。
こうして本発明のようなFeMS粉を用いれば、高密度成形した場合でも、寸法安定性に優れた鉄基焼結合金が得られることになる。
(3)本発明に係る鉄基焼結合金の金属組織は問わない。焼結工程後の冷却速度を調整したり、焼結工程とは別に熱処理を行ったりすることで、マルテンサイト組織、ベイナイト組織、パーライト組織、フェライト組織およびそれらの複合組織など、鉄基焼結合金の要求仕様に応じた組織とすればよい。鉄基焼結合金の仕様や組成に応じて、さらに焼鈍、焼準、時効、調質(焼き入れ、焼き戻し)、浸炭、窒化等の熱処理工程が施されても良い。
(4)本発明の鉄基焼結合金の形態や用途は問わない。本発明の鉄基焼結合金からなる鉄基焼結合金部材の一例を挙げると、自動車分野では、各種プーリー、変速機のシンクロハブ、エンジンのコンロッド、ハブスリーブ、スプロケット、リングギヤ、パーキングギヤ、ピニオンギヤ等がある。その他、サンギヤ、ドライブギヤ、ドリブンギヤ、リダクションギヤ等もある。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《強化粉末の調製》
(1)Fe系粉末に配合する強化粉末として、表1に示す組成の異なる2種のFeMS粉と、Cu粉(ヘガネスAB社、DistaloyACu(Fe−10%Cu)、粒径:20〜180μm)を用意した。
先ず、FeMS粉の一つであるFeMSII粉(Fe−Mn−Si粉末)は、Arガス雰囲気中で溶製した配合組成がFe−50Mn−30Si(単位:質量%)の鋳塊(インゴット)を、大気中で粉砕したものである。次に、FeMS粉のもう一つであるFeMSIV粉(Fe−Mn−Si−C粉末)は、日本電工社製シリコマンガン(JIS3号)を大気中で粉砕したものである。
いずれの粉末も、中央化工機製の振動ミルを用いて30分間粉砕処理した。この粉砕処理したままの状態のものを、本明細書中および本明細書に添付した表および図中で「粉砕のまま」という。これらの粉砕粉をさらに篩い分けして、適宜、粒径が5μm未満(−5μm)などのように粒度の異なるFeMS粉に分級した。ちなみに「粉砕のまま」の粒径は、後述する表2からもわかるように、45μm未満(−45μm)であった。
(2)表1から明らかなように、FeMSII粉ではMn/Siの組成が1.5であるのに対して、FeMSIV粉ではMn/Siの組成が4となっている。
また、同じ粉砕処理をした「粉砕のまま」のFeMSII粉とFeMSIV粉とについて、粒度分布を測定した結果を表2に示した。この粒度分布の測定は、日機装(株)製のマイクトロラック粒度分布測定装置(MT3000II)を用いてレーザー回折・散乱法により測定した。表2中、D10、D50およびD90に対応する数値は、それぞれ、測定した粉末粒子の10%、50%および90%が含まれる粒径の最大値を示す。例えば、FeMSIV粉について観ると、D90の粒度は11.5(μm)であるから、全体の90%の粒子の粒径が11.5μm以下であることを示す。FeMSII粉とFeMSIV粉のD90の値を比べると明らかなように、同じ粉砕処理を施したにも関わらず、FeMSIV粉の方が全体の粒度が相当小さく、粉砕性(崩壊性)に優れることがわかる。
FeMSII粉のFe量はFeMS粉全体を100質量%として約16.5%であるのに対して、FeMSIV粉のFe量は約22.7%である。従って、Feの割合は、FeMSIV粉の方がFeMSII粉よりも多い。にもかかわらず、FeMSIV粉の方が粉砕性に優れていたのは、FeMSII粉と異なり、FeMSIV粉中にはCが約2.3%も存在したためと思われる。
《試験片の製造》
〈試験例1:試料No.E493〜E502、C1およびC2〉
上記の強化粉末の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。これら粉末と内部潤滑剤であるステアリン酸亜鉛(ZnSt.)を表3に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。
各種の混合粉末を用いて、密度および焼結前後の寸法変化を測定するための試験片(基礎試験片:φ23mm×厚さ10mm)と、図1に示す形状の引張試験に供する試験片(引張試験片)を製造した。
具体的には先ず、各種混合粉末を成形用金型で588MPaで加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(成形工程)。これら粉末成形体を連続焼結炉(関東冶金工業製オキシノン炉)を用いて、1150℃の窒素ガス雰囲気中でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は30分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内のCO濃度は、50〜100ppm(酸素分圧に換算で10−19〜10−21Pa相当)の極低酸素分圧雰囲気とした。
〈試験例2:試料No.E503〜E520〉
(1)試験例1の純鉄粉に代えて、成分組成がFe−1.5%Cr−0.2%Mo(単位:質量%)の鉄合金粉(CrL粉/ヘガネス社製AstaloyCrL:粒径20〜180μm)を用いて原料粉末を調製した。この際、内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表4に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。この原料粉末を用いて、試験例1に示した2種の試験片と同形状な、粉末成形体および焼結体を製造した。
(2)ただし、本試験例では、粉末成形体を次のような金型潤滑温間成形法により成形した(成形工程)。
各金型のキャビティ内周面には予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。各金型はバンドヒータで予め150℃に加熱しておいた。加熱した金型の内周面に、高級脂肪酸系潤滑剤であるステアリン酸リチウム(LiSt)を分散させた水溶液をスプレーガンにて1cm/秒程度の割合で均一に塗布した(塗布工程)。これにより、各金型の内周面には約1μm程度のLiStの被膜が形成された。
ここで用いた水溶液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものにLiStを分散させたものである。界面活性剤には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、(EO)10及びホウ酸エステルエマルボンT−80を用いて、それぞれを水溶液全体(100体積%)に対して1体積%ずつ添加した。消泡剤には、FSアンチフォーム80を用い、水溶液全体(100体積%)に対して0.2体積%添加した。LiStには、融点が約225℃で、平均粒径が20μmのものを用いた。その分散量は上記水溶液100cmに対して25gとした。LiStを分散させた水溶液をさらにボールミル式粉砕装置で微細化処理(テフロンコート鋼球(テフロンは登録商標):100時間)した。こうして得られた原液を20倍に希釈して、最終濃度1%の水溶液を上記塗布工程に供した。
LiStの均一な被膜が内面に形成された各金型のキャビティへ前述した各種原料粉末を自然充填した(充填工程)。原料粉末は、金型と同温の150℃に乾燥機で予め加熱しておいた。
金型に充填された各原料粉末を784MPaで成形して粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。いずれの粉末成形体も、金型の内面にかじり等を生じることはなく、低い抜出力で金型から容易に取出すことができた。
(3)こうして得られた粉末成形体を試験例1と同様に焼結させた。得られた各焼結体に対して、さらに大気中で200℃×1時間の焼鈍処理を施した(焼鈍工程)。
〈試験例3:試料No.E521〜E529〉
試験例2の鉄合金粉(CrL粉)に代えて、成分組成がFe−3%Cr−0.5%Mo(単位:質量%)の鉄合金粉(CrM粉/ヘガネス社製AstaloyCrM:粒径20〜180μm)を用いて原料粉末を調製した。この場合も内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表5に示すように種々配合した原料粉末を用いて、試験例2と同様な金型潤滑温間加圧成形法により成形した(成形工程)。さらに、試験例2と同様な焼結工程および焼鈍工程を行った。こうして表5に示す各種の粉末成形体および焼結体を製造した。
《測定》
(1)上記の各試験例で製造した基礎試験片を用いて、粉末成形体の密度(G.D)および焼結体の密度(S.D)と、焼結前後の寸法変化(外径変化:ΔD)とを求めた。
(2)上記の各試験例で製造した引張試験片を用いて引張試験を行い、引張強さ、0.2%耐力および伸びを求めた。また、引張試験片の側面の硬さを、ビッカース硬さ計により荷重30kgで測定した。
こうして得られた各試験片の測定結果を、試験例1については表3および図2〜5に、試験例2については表4および図6〜9に、試験例3については表5および図10〜13に示した。
《評価》
〈試験例1〉
(1)寸法変化
表3および図2からわかるように、寸法変化はFeMS粉が少ないほど、また、その粒度が小さいほど小さかった。特に粒径が5μm以下の細かなFeMSIV粉を用いた場合、従来のCu粉やFeMSII粉を用いた場合と同程度の寸法変化となった。
(2)かたさ
表3および図3からわかるように、硬さはFeMS粉が増加するほど大きくなったが、粒度による相違はほとんどなかった。また、FeMSIV粉を用いた場合、従来のCu粉やFeMSII粉を用いた場合よりも硬さが増加した。
(3)引張強さ
表3および図4からわかるように、引張強さはFeMS粉が増加するほど、また、その粒度が小さいほど大きくなった。また、同じ配合量なら、Cu粉よりもFeMS粉の方が引張強さが大きくなった。特にFeMSIV粉(−5μm)を用いた場合、Cu粉を用いた場合よりも引張強さが約20%向上した。
さらに、FeMS粉を用いた試料では、FeMS粉量が1.5〜2質量%にかけて引張強さが急に大きくなり、逆に、FeMS粉量が2.5質量%以上では引張強さの増加が鈍った。
(4)伸び
表3および図5からわかるように、伸びはFeMS粉が少ないほど、また、その粒度が小さいほど大きくなった。また、同じ配合量なら、Cu粉よりもFeMS粉の方が伸びが大きくなった。さらに、FeMS粉を用いた試料では、FeMS粉量が1.5〜2質量%にかけて引張強さが急に大きくなり、逆に、FeMS粉量が2.5質量%以上では引張強さの増加が鈍った。
(5)以上の結果から、FeMSIV粉、特にその微粉(−5μm)を用いた場合、従来のCu粉等を用いた場合と同程度の寸法変化、硬さおよび伸びを有する一方、引張強さは著しく増加することが明らかとなった。
逆にいえば、従来のCu粉の配合量よりもFeMSIV粉の配合量を少なくしても、Cu粉を用いた場合よりも高い強度が得られることがわかった。しかもその場合、硬さをほとんど変えずに、寸法変化はより小さく、伸びはより大きくなって、非常に好ましい結果となることが確認された。
FeMSIV粉はそもそも、Cu粉やFeMSII粉よりも原料コストが安価であり、しかも、その配合量を減少させつつも、従来の鉄基焼結合金と同等以上の高い特性が得られるので、鉄基焼結合金の製造コストを著しく低減し得る。
〈試験例2〉
(1)寸法変化
表4および図6からわかるように、寸法変化はFeMS粉の粒径やGr量に依らず、±0.1程度で安定していた。特に、FeMSIV粉(−5μm)を用いた場合、Gr量に関わらず寸法変化が±0.05程度で非常に安定していた。
(2)かたさ
表4および図7からわかるように、硬さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、粒度やGr量による相違は少なかった。
(3)引張強さ
表4および図8からわかるように、FeMSIV粉量が1.5質量%までは、FeMSIV粉が増加するほど引張強さも増加したが、FeMSIV粉が1.5質量%以上に増えると引張強さは減少する傾向を示した。また、引張強さは、FeMSIV粉の粒度が小さいほど大きくなる傾向にあった。またいずれの場合でも、FeMSIV粉量が1.0質量%を超えると、鉄基焼結合金の引張強さは1000MPaを超えた。
(4)伸び
表4および図9からわかるように、伸びはFeMSIV粉が少ないほど大きくなった。また、伸びはGr量が多いほど大きくなったが、FeMSIV粉の粒度の影響はほとんどなかった。
(5)以上の結果から、本試験例に係るFeMSIV粉の微粉(−5μm)を用いた鉄基焼結合金は、焼結前後で寸法変化をほとんど生じさせることなく十分な硬さをもつと共に、非常に大きな引張強さおよび伸びを示すことがわかった。
このように各特性に優れる鉄基焼結合金が、1〜1.5質量%程度のFeMSIV粉を配合することで得られたことから、超高圧成形してなる鉄基焼結合金についても、試験例1の場合と同様に、製造コストを著しく低減し得ることがわかった。
〈試験例3〉
(1)寸法変化
表5および図10からわかるように、寸法変化はFeMS粉の配合量や粒径に依らず、±0.1程度で非常に安定していた。
(2)かたさ
表5および図11からわかるように、硬さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、FeMSIV粉量が1質量%を超えるとほとんど増加しなくなった。また、粒度に依る硬さの変化はほとんどなかった。
(3)引張強さ
表5および図12からわかるように、引張強さは硬さと同様な傾向を示した。すなわち、引張強さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、FeMSIV粉量が1質量%を超えるとほとんど増加しなくなった。
ただし、硬さと異なり、粒度が小さいほど、引張強さは大きくなった。そしていずれの場合でも引張強さは1000MPaを超えたが、FeMSIV粉の微粉を用いた場合は特に引張強さが1300MPaを超える超高強度となった。
(4)伸び
表5および図13からわかるように、伸びはFeMSIV粉が少ないほど大きくなったが、ほぼ1%程度で安定していた。そしてわずかながら、FeMSIV粉の粒度が小さい方が大きな伸びが得られた。
(5)以上の結果から、本試験例に係るFeMSIV粉を用いた鉄基焼結合金は、焼結前後で寸法変化をほとんど生じさせることなく十分な硬さをもつと共に、非常に大きな引張強さを示すことがわかった。特にFeMSIV粉の微粉(−5μm)を用いた鉄基焼結合金は、いずれの特性も優れた結果となった。従って、本試験例においても、試験例2の場合と同様に、超高圧成形してなる鉄基焼結合金について製造コストを著しく低減し得る。
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《強化粉末の調製》
(1)Fe系粉末に配合する強化粉末として、表6に示すFeMS粉(FeMSCII粉)と、Cu粉(ヘガネスAB社、DistaloyACu(Fe−10%Cu)、粒径:20〜180μm)を用意した。
FeMSCII粉(Fe−Mn−Si−C粉末)は、日本電工社製シリコマンガン(JIS1号)を大気中で粉砕したものである。このFeMS粉は、表1に示すFeMSIV粉と比較して、Mn、SiおよびOの含有量が多く、Cの含有量が少ない。また、Mn/Siの組成が4となっている。
いずれの粉末も、中央化工機製の振動ミルを用いて30分間粉砕処理した。この粉砕処理したままの状態のものを、本明細書中および本明細書に添付した表中で「粉砕のまま」または「asR」という。これらの粉砕粉をさらに篩い分けして、適宜、粒径が5μm未満(−5μm)などのように粒度の異なるFeMS粉に分級した。ちなみに「粉砕のまま」の粒径は、後述する表7からもわかるように、45μm未満(−45μm)であった。
(2)同じ粉砕処理をした「粉砕のまま」のFeMSCII粉について、前述の方法で粒度分布を測定した結果を表7に示した。FeMSCII粉のD90の粒度は7.9(μm)であるから、全体の90%の粒子の粒径が7.9μm以下であることを示す。すなわち、FeMSCII粉の粒度は相当小さく、粉砕性(崩壊性)に優れることがわかった。これは、FeMSCII粉のFe量が約15.2%で少なく、また、Cが約2%も存在したためと思われる。
《試験片の製造》
〈試験例4:試料No.E599、E610、E657、E607およびE609〉
上記の強化粉末(FeMSCII粉またはCu粉末)の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。これら粉末を表8Aおよび表8Bに示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。内部潤滑剤は用いなかった。
各種の混合粉末を用いて、密度および焼結前後の寸法変化を測定するための試験片(基礎試験片:φ23mm×厚さ10mm)と、図1に示す形状の引張試験に供する試験片(引張試験片)を製造した。
具体的には先ず、各種混合粉末を〈試験例2〉で説明した金型潤滑温間成形法により150℃で588MPaで加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。これら粉末成形体を連続焼結炉(関東冶金工業製オキシノン炉)を用いて、窒素ガス雰囲気中にて900〜1150℃の範囲から選ばれる所定の温度で、それぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は30分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内のCO濃度は、50〜100ppm(酸素分圧に換算で10−19〜10−21Pa相当)の極低酸素分圧雰囲気とした。
〈試験例5:試料No.E628〜E634、E640、E641、E643およびE645〉
成分組成が異なる種々のFe系粉末を用いて原料粉末を調製した。この際、内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表9に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。使用したFe系粉末の成分組成(単位:質量%)を以下に順に示す。
DistaloyAE:Fe−4Ni−1.5%Cu−0.5%Mo(粒径20〜180μm)、DistaloyHP−1:Fe−4Ni−2%Cu−1.5%Mo(粒径20〜180μm)、AstaloyCrL:Fe−1.5%Cr−0.2%Mo(粒径20〜180μm)、AstaloyCrM:Fe−3%Cr−0.5%Mo(粒径20〜180μm)、ASC100.29:純鉄(粒径20〜180μm、またはこれを−63μmに分級)。いずれもヘガネス社製。
各種の混合粉末を用いて、密度および焼結前後の寸法変化を測定するための試験片(基礎試験片:φ23mm×厚さ10mm)と、図1に示す形状の引張試験に供する試験片(引張試験片)を製造した。
具体的には先ず、各種混合粉末を〈試験例2〉で説明した金型潤滑温間成形法により加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。加圧成形は、150℃で392MPa、588MPa、784MPaまたは1176MPaで行った。
これら粉末成形体を、1180℃でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。このとき、均熱保持時間は45分とし、焼結後の冷却速度は100℃/分とした。なお、焼結炉内は、窒素ガスに水素ガスを混合した還元雰囲気(混合割合:N−10体積%H,露点:−30℃以下)とした。
得られた各焼結体に対して、さらに大気中で200℃×1時間の焼鈍処理を施した(焼鈍工程)。
〈試験例6:試料No.E877、E879およびE881〉
上記の強化粉末(FeMSCII粉またはCu粉末)の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。FeMSCII粉は、−5μmに分級して用いた。これら粉末と内部潤滑剤であるステアリン酸亜鉛(ZnSt.)を表10に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。
各種の混合粉末を用いて、密度および焼結前後の寸法変化を測定するための試験片(基礎試験片:φ23mm×厚さ10mm)と、図1に示す形状の引張試験に供する試験片(引張試験片)を製造した。
具体的には先ず、各種混合粉末を成形用金型を用いて所定の成形圧力で加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(成形工程)。このとき、内部潤滑剤の量が0.4質量%の原料粉末に対しては成型用金型を80℃に加熱して温間成形を行い、0.8質量%の原料粉末に対しては室温成形を行った。これら粉末成形体を、1150℃でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は15分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内は、窒素ガスに水素ガスを混合した還元雰囲気(混合割合:N−3体積%H,露点:−30℃以下)とした。
《測定》
試験例4〜6で製造した基礎試験片を用いて、粉末成形体の密度(G.D)および焼結体の密度(S.D)と、焼結前後の寸法変化(外径変化:ΔD)とを求めた。また、試験例4〜6で製造した引張試験片を用いて引張試験を行い、引張強さおよび伸びを求めた。また、引張試験片の側面の硬さを、ビッカース硬さ計により荷重30kgで測定した。
こうして得られた各試験片の測定結果を、試験例4については表8A、表8B(両者を併せて単に「表8」という)、図14および図15に、試験例5については表9に、試験例6については表10に示した。
《評価》
〈試験例4〉
(1)寸法変化
表8からわかるように、1150℃よりも低温で焼結しても、寸法変化が大きく悪化することはなかった。用いる原料粉末の粒度に応じて最適な焼結温度を選定することで、寸法変化を抑制できることができることがわかった。
(2)硬さおよび引張強さ
いずれの試験片も、焼結温度が高いほど、焼結体の硬さおよび引張強さは増加した。
図14からわかるように、強化粉末としてFeMSCII粉を用いることで、低い焼結温度であっても、十分な強度を有する焼結体が得られた。E610のようなFe−Cu−C系では、銅の融点以上の焼結温度(たとえば1085℃以上)でないと、引張強さが500MPaを超える十分な強度をもつ焼結体が得られない。しかし、強化粉末としてFeMSCII粉を用いると、原料粉末の粒径によっては、950℃の低温焼結であっても、高強度な焼結体が得られた。
具体的には、−45μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E657は、1050℃以上で焼結することで500MPaを超える引張強さを示す焼結体となった。−5μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E607は、1000℃を超える温度で焼結すれば500MPaを超える引張強さを示す焼結体が得られることが予測できた。さらに、−63μmに分級した鉄系粉末とともに−5μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E609は、950℃以上で焼結することで500MPaを超える引張強さを示す焼結体となった。
(3)伸び
図15からわかるように、いずれの試験片も、2%以上の伸びを示した。強化粉末としてFeMSCIIを用いた場合には、1050℃付近で伸びは最も小さくなり、いずれも2〜2.5%程度であった。その温度よりも高い温度または低い温度で焼結するほど、伸びは向上したが、鉄系粉末およびFeMSCII粉の粒度が小さい方が伸びの上昇割合が大きい傾向にあった。
(4)以上の結果から、所定の強化粉末の粒度を微細にすることで、焼結温度を低くできることが明らかとなった。この際、鉄系粉末の粒度も微細にすることで、低温の焼結であっても高強度の鉄基焼結合金が得られることが確認された。
また、焼結温度を低温にしても、寸法変化および伸びなどの他の特性が悪化することが無いことがわかった。
〈試験例5〉
(1)寸法変化
成形圧力を1176MPaとしたことで、7.6g/cm程度の高密度材を作製することができた。
また、表9からわかるように、FeMSCII粉を用いて作製した場合の寸法変化は、低い成形圧力ではΔDの値が大きくなるような原料粉末であっても、成形圧力を高くすることで、±0.2%程度で安定した。
(2)硬さおよび引張強さ
表9からわかるように、Cuを含まない試験片であっても、CuおよびNiを含む試験片に匹敵する硬さおよび引張強さが得られた。特に、試料No.E634は、CuおよびNiを含む試料を上回る硬さおよび引張強さを示した。
(3)伸び
表9からわかるように、伸びは、成形圧力が高くなるほど大きくなった。
(4)以上の結果から、所定の強化粉末を含む原料粉末を超高圧成形してなる鉄基焼結合金についても、シンターハードニング処理により高強度化が可能であることが明らかとなった。そして、CuおよびNiを含有する鉄基焼結合金に匹敵する強度をもつ焼結体を低コストで製造できることがわかった。
〈試験例6〉
試験例6では、原料粉末の配合、成形条件、焼結温度、焼結雰囲気などを、高効率化、低コスト化などを目的としたより実用的な製造条件に設定し、本発明の鉄基焼結合金(E877およびE879)を製造した。
いずれの試料も、±0.2%程度の安定した寸法変化であった。また、成形圧力588MPaで成形して得られた試料を比較した場合、Cuを含まないE877およびE879は、Cuを含むE881よりも、硬さ、引張強さおよび伸びのいずれも優れた値を示した。E877およびE879の試料は、さらに成形圧力を高めることで、高強度化された。
なお、試験例1〜5に基づく各評価から、試験例6の製造条件において、可能な範囲で焼結温度を低めたり、さらにシンターハードニングを行ったりすることで、製造工程の省エネルギー化、鉄基焼結合金のさらなる高強度化、などの実現が可能となることがわかった。
つまり、実用的な製造条件で作製しても、高強度の鉄基焼結合金が得られることがわかった。
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Claims (15)

  1. 純鉄または鉄(Fe)合金の少なくとも一方からなるFe系粉末とFe以外の合金元素を含有する強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、該粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備える鉄基焼結合金の製造方法であって、
    前記強化粉末は、全体を100質量%(以下単に「%」という。)としたときに、58〜70%のマンガン(Mn)と該Mnのケイ素(Si)に対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%の炭素(C)とを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする鉄基焼結合金の製造方法。
  2. 前記Fe−Mn−Si−C粉末の粒径が45μm以下である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  3. 前記原料粉末中のFe−Mn−Si−C粉末の配合量は、前記原料粉末全体を100%としたときに0.05〜3%である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  4. 前記原料粉末は、さらに黒鉛(Gr)粉末を含む請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  5. 前記Fe−Mn−Si−C粉末は、全体を100質量%としたときに、酸素(O)が1.5%以下である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  6. 前記原料粉末は、前記鉄基焼結合金の全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%、Siが0.05〜0.6%およびCが0.1〜0.9%となるべく調製される請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  7. 前記焼結工程の酸化防止雰囲気は、全体を100体積%としたときに、窒素ガスに水素ガスを2〜10体積%混合した還元雰囲気である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  8. 前記焼結工程の酸化防止雰囲気は、酸素分圧が10−19Pa以下に相当する極低酸素分圧の不活性ガス雰囲気である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  9. 前記焼結工程は、前記粉末成形体を900〜1400℃に加熱して焼結体とする加熱工程と、
    該加熱された焼結体を冷却速度0.1〜3℃/秒で冷却する冷却工程とからなる請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  10. 前記原料粉末は、全体を100%としたときに0.3〜5%のクロム(Cr)および/または0.1〜2%のモリブデン(Mo)を含む請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  11. 前記Crおよび/またはMoは、前記Fe系粉末中に含まれる請求項10に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
  12. 請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られた鉄基焼結合金であって、全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%と、Siが0.05〜0.6%と、Cが0.1〜0.9%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする鉄基焼結合金。
  13. 請求項10または11に記載の製造方法により得られた鉄基焼結合金であって、全体を100%としたときに、Mnが0.1〜1.4%と、Siが0.05〜0.4%と、Cが0.1〜0.9%と、Crが0.5〜5%および/またはMoが0.1〜2%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする鉄基焼結合金。
  14. 銅(Cu)を実質的に含まないCuフリー鉄基焼結合金またはニッケル(Ni)を実質的に含まないNiフリー鉄基焼結合金である請求項12または13に記載の鉄基焼結合金。
  15. 請求項12〜14のいずれかに記載の鉄基焼結合金からなることを特徴とする鉄基焼結合金部材。
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