JP2010133016A - 鉄基焼結合金およびその製造方法並びに鉄基焼結合金部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の鉄基焼結合金の製造方法は、Fe系粉末と強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、この粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備え、前記強化粉末は、全体を100質量%としたときに、58〜70%のMnとMnのSiに対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%のCとを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする。このFe−Mn−Si−C粉末は比較的安価に入手でき、しかもそれを用いて得られた鉄基焼結合金は従来の鉄基焼結合金よりも各種特性に優れる。従って、各特性に優れるCuフリー鉄基焼結合金の低コスト化を図れる。
【選択図】図4
Description
Cuの他に、鉄基焼結合金に多用される元素としてNiがある。NiもCuと同様に、鉄基焼結合金の強度等を向上させるのに有効な元素である。しかし、Ni粉末も高価であり、鉄基焼結合金の製造コストを上昇させる。また、Niはアレルギー性元素でもあるから、その使用が好ましくない場合もある。
また、特許文献5では、Niに替えてMoを含有させた鉄基焼結合金をも開示している。しかし、その強度は必ずしも十分ではなく、さらなる高強度化には焼入れ、焼戻し等の熱処理を別途必要としている。言うまでもなくこのような熱処理は、多くの時間および工数を必要とし、鉄基焼結合金の製造コストを上昇させる。
《鉄基焼結合金の製造方法》
(1)本発明の鉄基焼結合金は、純鉄または鉄(Fe)合金の少なくとも一方からなるFe系粉末とFe以外の合金元素を含有する強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、該粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備える鉄基焼結合金の製造方法であって、
前記強化粉末は、全体を100質量%(以下単に「%」という。)としたときに、58〜70%のマンガン(Mn)と該Mnのケイ素(Si)に対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%の炭素(C)とを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする。
さらに、そのFe−Mn−Si−C粉末の原材料は、従来のFe−Mn−Si粉末などよりも遙かに粉砕性(崩壊性)に優れる。このため、均質的で微細なFe−Mn−Si−C粉末を比較的容易に得られる。このように粒度が微細で平均的なFe−Mn−Si−C粉末を使用することにより、鉄基焼結合金の寸法安定性や機械的特性を一層高めることが可能となる。しかも、上記組成範囲のFe−Mn−Si−C粉末またはその原料は、製鋼時に使用される脱酸剤(例えば、シリコマンガン)などとして多用されており、安価に入手可能である。
さらに本発明により得られた鉄基焼結合金は、機械的特性などに関して従来の鉄基焼結合金を上回るものである。このため、鉄基焼結合金部材の要求仕様が従来レベルと同程度であれば、強化粉末の使用量自体を低減したり、Fe系粉末を合金元素量の少ないより安価な粉末で代替したりすることなども可能となる。このような場合、鉄基焼結合金またはそれからなる部材の製造コストの低減をさらに進めることが可能となる。
先ず、Fe−Mn−Si−C粉末中に含まれるMn、SiおよびCは、もともと、リン(P)および硫黄(S)と共に鋼の五元素と呼ばれ、溶製される鉄鋼材料では一般的な強化元素である。
しかし、これまでMnおよびSiは、鉄基焼結合金の分野では実質的には殆ど使用されてこなかった。MnおよびSiは、酸素との親和力が極めて高く酸化物を作り易いため、金属組織内部に酸化物の介在した鉄基焼結合金となって、その機械的特性が劣化すると一般的に考えられていたためである。このような事情は、MnおよびSiをFe系粉末とは別の粉末として原料粉末中に加えた場合に顕著である。MnおよびSiを予め合金化させたFe系粉末を用いることも考えられるが、その場合、Fe系粉末は非常に硬質となって粉末成形体の成形自体が困難となる。
いずれにしても、CuやNiを使用するまでもなく、Fe−Mn−Si−C粉末を強化粉末として使用することで、従来のFe−Cu(−C)系鉄基焼結合金を凌ぎ、機械構造用炭素鋼と同等レベルの機械的特性を発現する鉄基焼結合金を得ることに成功した。
本発明は上述の製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた鉄基焼結合金およびその鉄基焼結合金からなる各種の部材(鉄基焼結合金部材)としても把握できる。
(1)この鉄基焼結合金(以下、「鉄基焼結合金部材」を含む。)は、例えば、その合金全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%と、Siが0.05〜0.6%と、Cが0.1〜0.9%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなると好適である。
ここでMnは、特に鉄基焼結合金の強度向上に有効な元素である。Mnが過少ではその効果が乏しい。もっとも、原料粉末中に含まれる合金元素の種類によっては、Mnが微量であっても、十分な強度の鉄基焼結合金が得られる。一方、Mnが過多になると、鉄基焼結合金の伸びが減少して靱性が低下し、寸法変化も増加して寸法安定性が阻害される。そこで鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Mnの上下限は、上記の数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.3%、1.2%、1.5%、1.8%および2.1%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
各元素の組み合わせは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、通常その含有量は微量である。
但し、本発明は、鉄基焼結合金中にCuやNiを含有する場合を排除するものではない。上述したMnやSiと共に適量のCuやNiを含有する場合も本発明の範囲に含まれる。
(6)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組み合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得る。
原料粉末は、鉄基焼結合金の主成分であるFe系粉末と、Mn、SiおよびCを含む強化粉末(Fe−Mn−Si−C粉末)とからなる。なお、以下ではFe−Mn−Si−C粉末を「FeMS粉」という。
(1)Fe系粉末
Fe系粉末は、純鉄粉でも鉄合金粉でもそれらの混合粉末でも良い。鉄合金粉に含まれる合金元素は問わない。この合金元素として、先ず、C、Mn、Si、P、S等がある。Mn、SiおよびCは、強化粉末としても添加されるが、Fe系粉末中に少量含まれていても良い。但し、C、Mn、Si等の含有量が増加すると、Fe系粉末が硬質となって成形性が低下する。そこで、Fe系粉末が鉄合金粉である場合は、C:0.02質量%以下、Mn:0.2質量%以下、Si:0.1質量%以下とするのが良い。
特に、原料粉末全体を100質量%としたときに、Moが0.1〜2質量%(以下、適宜単に「%」と記す。)および/またはCrが0.1〜5%となるように原料粉末が調製されると好適である。Crの上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.3%、0.5%、3%、3.2%、3.5%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。また、Moの上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.1%、0.5%、0.6%、0.8%、1%、1.5%および2%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。なお、これらの合金元素は、Fe系粉末中に含まれていると取扱性や均質性に優れて好ましいが、Fe系粉末とは別の強化粉末として供給されてもよい。
本発明に係るFeMS粉は、FeMS粉全体を100%として、58〜70%のMnと、Mn/Siが3.3〜4.6となるSiと、1.5〜3%のCとを含み主たる残部がFeであるFe合金またはFe化合物からなる。このFeMS粉を用いることで、機械的特性や寸法安定性に優れた鉄基焼結合金を低コストで製造できる。
FeMS粉の配合量が、過少では鉄基焼結合金の特性改善が図れず、過多になると原料コストが増加したり鉄基焼結合金の寸法安定性や伸びが低下したりするので好ましくない。原料粉末全体を100質量%としたとき、FeMS粉の配合量の上下限は、その数値範囲内で任意に選択され得るが、特に、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、2.1%、2.5%および3%から任意に選択した数値を上下限にすると好ましい。
いずれにしても、原料粉末は最終的に、鉄基焼結合金全体を100%としたときに、Mnが0.5〜1.5%、Siが0.15〜0.6%およびCが0.2〜0.9%となるように調製されると好適である。
本発明の鉄基焼結合金の製造方法は、主に成形工程と焼結工程とからなるので、これら工程について順次説明する。
〈成形工程〉
(1)成形工程は、前述したFe系粉末と強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする工程である。この際の成形圧力、粉末成形体の密度(または成形体密度比)、粉末成形体の形状等は問わない。
但し、成形圧力および成形体密度は、粉末成形体のハンドリング性を考慮して、少なくとも容易に崩壊しない程度が良い。例えば、成形圧力は、350MPa以上、400MPa以上、500MPa以上さらには550MPa以上が好ましい。成形体密度比でいうなら、80%以上、85%以上さらには90%以上が好ましい。成形圧力や成形体密度比が高くなる程、高強度の鉄基焼結合金が得られ易いが、鉄基焼結合金の用途、仕様に応じて最適な成形圧力や成形体密度比を選択すれば良い。また、成形工程は、冷間成形でも温間成形でも良く、原料粉末中に内部潤滑剤を添加しても良い。内部潤滑剤を添加する場合は、内部潤滑剤をも含めて原料粉末と考える。
この成形方法に依れば、成形圧力を相当大きくしても、一般的な成形方法で生じるような不具合を生じない。具体的には、原料粉末と金型の内面との間のかじり、抜圧の過大化、金型寿命の低下等が抑止される。以下、この成形方法の充填工程および温間加圧成形工程についてさらに詳細に説明する。
原料粉末を金型(キャビティ)へ充填する前に、金型の内面に高級脂肪酸系潤滑剤を塗布しておく(塗布工程)。ここで使用する高級脂肪酸系潤滑剤は、高級脂肪酸自体の他、高級脂肪酸の金属塩であっても良い。高級脂肪酸の金属塩には、リチウム塩、カルシウム塩又は亜鉛塩等がある。特に、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が好ましい。この他、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸リチウム、オレイン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム等を用いることもできる。
噴霧に適した粘度の高級脂肪酸系潤滑剤の水溶液を得るために、その水溶液全体を100体積%として、界面活性剤の割合を1.5〜15体積%とすると好ましい。
水等に分散した高級脂肪酸系潤滑剤の粒子は、最大粒径が30μm未満であると、好適である。最大粒径が30μm以上になると、高級脂肪酸系潤滑剤の粒子が水溶液中に沈殿し易く、金型の内面に高級脂肪酸系潤滑剤を均一に塗布することが困難となるからである。
高級脂肪酸系潤滑剤が内面に塗布された金型に充填された原料粉末を温間で加圧成形すると、金型内面に接する原料粉末(または粉末成形体)の表面に金属石鹸皮膜が生成され、この金属石鹸皮膜の存在によって工業レベルでの超高圧成形が可能になったと考えられる。この金属石鹸被膜は、その粉末成形体の表面に強固に結合し、金型の内表面に付着していた高級脂肪酸系潤滑剤よりも遙かに優れた潤滑性能を発揮する。その結果、金型の内面と粉末成形体の外面との接触面間での摩擦力を著しく低減させ、高圧成形にも拘らず、かじり等を生じさせない。また、非常に低い抜圧で粉末成形体を金型から取出せ、金型寿命の極端な短縮もなくなった。
本工程でいう「加圧」は、鉄基焼結合金の仕様を考慮しつつ、金属石鹸皮膜が形成される範囲内で適宜決定されれば良い。金型寿命や生産性を考慮して、その成形圧力の上限を2000MPaとすると好ましい。成形圧力が1500MPa程度になると、得られる粉末成形体の密度も真密度に近付き(成形体密度比で98〜99%となり)、2000MPa以上に加圧してもさらなる高密度化は望めない。
(1)焼結工程は、成形工程で得られた粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱して焼結させる工程である。焼結温度および焼結時間は、鉄基焼結合金の所望特性、生産性等を考慮して適宜選択される。焼結温度は高い程、短時間で高強度な鉄基焼結合金が得られる。もっとも、焼結温度が高すぎると、液相が発生したり寸法収縮が大きくなったりして好ましくない。焼結温度が低すぎると、強化元素の拡散が不十分となり好ましくない。また、焼結時間が長くなって、鉄基焼結合金の生産性が低下する。そのため、焼結温度は、900℃以上さらには950℃以上が好ましく、1400℃以下さらには1350℃以下が好ましい。
特に、高強度の鉄基焼結合金を得る場合には、焼結温度を1000℃以上、1100℃以上さらには1150℃以上とするのが良い。ただし、粒度の小さいFeMS粉(具体的には8μm以下さらには5μm以下に分級した微粉)を用いるのであれば、1025℃以上さらには1075℃以上の焼結温度で高強度の鉄基焼結合金が得られる。この粒度の小さいFeMS粉とともに、粒度の小さいFe系粉末(具体的には70μm以下さらには65μm以下に分級した微粉)を用いるのであれば、950℃以上さらには1050℃以上の焼結温度で高強度の鉄基焼結合金が得られる。
焼結時間は、焼結温度、鉄基焼結合金の仕様、生産性、コスト等を考慮しつつ0.1〜3時間さらには0.1〜2時間とするのが良い。
(1)本発明の鉄基焼結合金は、その密度の高低を問わない。すなわち、従来の鉄基焼結合金のように、汎用的な成形圧力で成形した粉末成形体を焼結させた低密度鉄基焼結合金であっても良いし、上述した金型潤滑温間加圧成形法を用いて高圧成形した高密度粉末成形体を焼結させた高密度鉄基焼結合金であっても良い。いずれの場合であっても、FeMS粉を用いることで、鉄基焼結合金の機械的特性や寸法安定性の向上が図られ得る。
特に成形体密度比や焼結体密度比が92%以上、95%以上、96%以上さらには97%以上になると、2回成形2回焼結(2P2S)により得られる焼結体や鍛造焼結体さらには溶製材に匹敵するような高強度となって好ましい。
こうして本発明のようなFeMS粉を用いれば、高密度成形した場合でも、寸法安定性に優れた鉄基焼結合金が得られることになる。
《強化粉末の調製》
(1)Fe系粉末に配合する強化粉末として、表1に示す組成の異なる2種のFeMS粉と、Cu粉(ヘガネスAB社、DistaloyACu(Fe−10%Cu)、粒径:20〜180μm)を用意した。
先ず、FeMS粉の一つであるFeMSII粉(Fe−Mn−Si粉末)は、Arガス雰囲気中で溶製した配合組成がFe−50Mn−30Si(単位:質量%)の鋳塊(インゴット)を、大気中で粉砕したものである。次に、FeMS粉のもう一つであるFeMSIV粉(Fe−Mn−Si−C粉末)は、日本電工社製シリコマンガン(JIS3号)を大気中で粉砕したものである。
また、同じ粉砕処理をした「粉砕のまま」のFeMSII粉とFeMSIV粉とについて、粒度分布を測定した結果を表2に示した。この粒度分布の測定は、日機装(株)製のマイクトロラック粒度分布測定装置(MT3000II)を用いてレーザー回折・散乱法により測定した。表2中、D10、D50およびD90に対応する数値は、それぞれ、測定した粉末粒子の10%、50%および90%が含まれる粒径の最大値を示す。例えば、FeMSIV粉について観ると、D90の粒度は11.5(μm)であるから、全体の90%の粒子の粒径が11.5μm以下であることを示す。FeMSII粉とFeMSIV粉のD90の値を比べると明らかなように、同じ粉砕処理を施したにも関わらず、FeMSIV粉の方が全体の粒度が相当小さく、粉砕性(崩壊性)に優れることがわかる。
〈試験例1:試料No.E493〜E502、C1およびC2〉
上記の強化粉末の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。これら粉末と内部潤滑剤であるステアリン酸亜鉛(ZnSt.)を表3に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。
具体的には先ず、各種混合粉末を成形用金型で588MPaで加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(成形工程)。これら粉末成形体を連続焼結炉(関東冶金工業製オキシノン炉)を用いて、1150℃の窒素ガス雰囲気中でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は30分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内のCO濃度は、50〜100ppm(酸素分圧に換算で10−19〜10−21Pa相当)の極低酸素分圧雰囲気とした。
(1)試験例1の純鉄粉に代えて、成分組成がFe−1.5%Cr−0.2%Mo(単位:質量%)の鉄合金粉(CrL粉/ヘガネス社製AstaloyCrL:粒径20〜180μm)を用いて原料粉末を調製した。この際、内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表4に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。この原料粉末を用いて、試験例1に示した2種の試験片と同形状な、粉末成形体および焼結体を製造した。
各金型のキャビティ内周面には予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。各金型はバンドヒータで予め150℃に加熱しておいた。加熱した金型の内周面に、高級脂肪酸系潤滑剤であるステアリン酸リチウム(LiSt)を分散させた水溶液をスプレーガンにて1cm3/秒程度の割合で均一に塗布した(塗布工程)。これにより、各金型の内周面には約1μm程度のLiStの被膜が形成された。
金型に充填された各原料粉末を784MPaで成形して粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。いずれの粉末成形体も、金型の内面にかじり等を生じることはなく、低い抜出力で金型から容易に取出すことができた。
(3)こうして得られた粉末成形体を試験例1と同様に焼結させた。得られた各焼結体に対して、さらに大気中で200℃×1時間の焼鈍処理を施した(焼鈍工程)。
試験例2の鉄合金粉(CrL粉)に代えて、成分組成がFe−3%Cr−0.5%Mo(単位:質量%)の鉄合金粉(CrM粉/ヘガネス社製AstaloyCrM:粒径20〜180μm)を用いて原料粉末を調製した。この場合も内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表5に示すように種々配合した原料粉末を用いて、試験例2と同様な金型潤滑温間加圧成形法により成形した(成形工程)。さらに、試験例2と同様な焼結工程および焼鈍工程を行った。こうして表5に示す各種の粉末成形体および焼結体を製造した。
(1)上記の各試験例で製造した基礎試験片を用いて、粉末成形体の密度(G.D)および焼結体の密度(S.D)と、焼結前後の寸法変化(外径変化:ΔD)とを求めた。
こうして得られた各試験片の測定結果を、試験例1については表3および図2〜5に、試験例2については表4および図6〜9に、試験例3については表5および図10〜13に示した。
〈試験例1〉
(1)寸法変化
表3および図2からわかるように、寸法変化はFeMS粉が少ないほど、また、その粒度が小さいほど小さかった。特に粒径が5μm以下の細かなFeMSIV粉を用いた場合、従来のCu粉やFeMSII粉を用いた場合と同程度の寸法変化となった。
表3および図3からわかるように、硬さはFeMS粉が増加するほど大きくなったが、粒度による相違はほとんどなかった。また、FeMSIV粉を用いた場合、従来のCu粉やFeMSII粉を用いた場合よりも硬さが増加した。
表3および図4からわかるように、引張強さはFeMS粉が増加するほど、また、その粒度が小さいほど大きくなった。また、同じ配合量なら、Cu粉よりもFeMS粉の方が引張強さが大きくなった。特にFeMSIV粉(−5μm)を用いた場合、Cu粉を用いた場合よりも引張強さが約20%向上した。
さらに、FeMS粉を用いた試料では、FeMS粉量が1.5〜2質量%にかけて引張強さが急に大きくなり、逆に、FeMS粉量が2.5質量%以上では引張強さの増加が鈍った。
表3および図5からわかるように、伸びはFeMS粉が少ないほど、また、その粒度が小さいほど大きくなった。また、同じ配合量なら、Cu粉よりもFeMS粉の方が伸びが大きくなった。さらに、FeMS粉を用いた試料では、FeMS粉量が1.5〜2質量%にかけて引張強さが急に大きくなり、逆に、FeMS粉量が2.5質量%以上では引張強さの増加が鈍った。
逆にいえば、従来のCu粉の配合量よりもFeMSIV粉の配合量を少なくしても、Cu粉を用いた場合よりも高い強度が得られることがわかった。しかもその場合、硬さをほとんど変えずに、寸法変化はより小さく、伸びはより大きくなって、非常に好ましい結果となることが確認された。
(1)寸法変化
表4および図6からわかるように、寸法変化はFeMS粉の粒径やGr量に依らず、±0.1程度で安定していた。特に、FeMSIV粉(−5μm)を用いた場合、Gr量に関わらず寸法変化が±0.05程度で非常に安定していた。
表4および図7からわかるように、硬さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、粒度やGr量による相違は少なかった。
表4および図8からわかるように、FeMSIV粉量が1.5質量%までは、FeMSIV粉が増加するほど引張強さも増加したが、FeMSIV粉が1.5質量%以上に増えると引張強さは減少する傾向を示した。また、引張強さは、FeMSIV粉の粒度が小さいほど大きくなる傾向にあった。またいずれの場合でも、FeMSIV粉量が1.0質量%を超えると、鉄基焼結合金の引張強さは1000MPaを超えた。
表4および図9からわかるように、伸びはFeMSIV粉が少ないほど大きくなった。また、伸びはGr量が多いほど大きくなったが、FeMSIV粉の粒度の影響はほとんどなかった。
このように各特性に優れる鉄基焼結合金が、1〜1.5質量%程度のFeMSIV粉を配合することで得られたことから、超高圧成形してなる鉄基焼結合金についても、試験例1の場合と同様に、製造コストを著しく低減し得ることがわかった。
(1)寸法変化
表5および図10からわかるように、寸法変化はFeMS粉の配合量や粒径に依らず、±0.1程度で非常に安定していた。
表5および図11からわかるように、硬さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、FeMSIV粉量が1質量%を超えるとほとんど増加しなくなった。また、粒度に依る硬さの変化はほとんどなかった。
表5および図12からわかるように、引張強さは硬さと同様な傾向を示した。すなわち、引張強さはFeMS粉量が増加するほど大きくなったが、FeMSIV粉量が1質量%を超えるとほとんど増加しなくなった。
ただし、硬さと異なり、粒度が小さいほど、引張強さは大きくなった。そしていずれの場合でも引張強さは1000MPaを超えたが、FeMSIV粉の微粉を用いた場合は特に引張強さが1300MPaを超える超高強度となった。
表5および図13からわかるように、伸びはFeMSIV粉が少ないほど大きくなったが、ほぼ1%程度で安定していた。そしてわずかながら、FeMSIV粉の粒度が小さい方が大きな伸びが得られた。
(1)Fe系粉末に配合する強化粉末として、表6に示すFeMS粉(FeMSCII粉)と、Cu粉(ヘガネスAB社、DistaloyACu(Fe−10%Cu)、粒径:20〜180μm)を用意した。
FeMSCII粉(Fe−Mn−Si−C粉末)は、日本電工社製シリコマンガン(JIS1号)を大気中で粉砕したものである。このFeMS粉は、表1に示すFeMSIV粉と比較して、Mn、SiおよびOの含有量が多く、Cの含有量が少ない。また、Mn/Siの組成が4となっている。
〈試験例4:試料No.E599、E610、E657、E607およびE609〉
上記の強化粉末(FeMSCII粉またはCu粉末)の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。これら粉末を表8Aおよび表8Bに示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。内部潤滑剤は用いなかった。
具体的には先ず、各種混合粉末を〈試験例2〉で説明した金型潤滑温間成形法により150℃で588MPaで加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。これら粉末成形体を連続焼結炉(関東冶金工業製オキシノン炉)を用いて、窒素ガス雰囲気中にて900〜1150℃の範囲から選ばれる所定の温度で、それぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は30分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内のCO濃度は、50〜100ppm(酸素分圧に換算で10−19〜10−21Pa相当)の極低酸素分圧雰囲気とした。
成分組成が異なる種々のFe系粉末を用いて原料粉末を調製した。この際、内部潤滑剤は用いずに、各粉末を表9に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。使用したFe系粉末の成分組成(単位:質量%)を以下に順に示す。
具体的には先ず、各種混合粉末を〈試験例2〉で説明した金型潤滑温間成形法により加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(温間加圧成形工程)。加圧成形は、150℃で392MPa、588MPa、784MPaまたは1176MPaで行った。
これら粉末成形体を、1180℃でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。このとき、均熱保持時間は45分とし、焼結後の冷却速度は100℃/分とした。なお、焼結炉内は、窒素ガスに水素ガスを混合した還元雰囲気(混合割合:N2−10体積%H2,露点:−30℃以下)とした。
得られた各焼結体に対して、さらに大気中で200℃×1時間の焼鈍処理を施した(焼鈍工程)。
上記の強化粉末(FeMSCII粉またはCu粉末)の他、Fe系粉末である純鉄粉(純Fe粉/ヘガネス社製ASC100.29、粒径20〜180μm)と、C系粉末である黒鉛(Gr)粉末(日本黒鉛社製JCPB、粒径は45μm以下)を用意した。FeMSCII粉は、−5μmに分級して用いた。これら粉末と内部潤滑剤であるステアリン酸亜鉛(ZnSt.)を表10に示すように種々配合し、ボールミルで回転混合して種々の混合粉末(原料粉末)を調製した。
具体的には先ず、各種混合粉末を成形用金型を用いて所定の成形圧力で加圧成形して、前記2種の試験片形状をもつ粉末成形体を得た(成形工程)。このとき、内部潤滑剤の量が0.4質量%の原料粉末に対しては成型用金型を80℃に加熱して温間成形を行い、0.8質量%の原料粉末に対しては室温成形を行った。これら粉末成形体を、1150℃でそれぞれ焼結させた(焼結工程)。均熱保持時間は15分とし、焼結後の冷却速度は30℃/min(0.5℃/秒)とした。なお、焼結炉内は、窒素ガスに水素ガスを混合した還元雰囲気(混合割合:N2−3体積%H2,露点:−30℃以下)とした。
試験例4〜6で製造した基礎試験片を用いて、粉末成形体の密度(G.D)および焼結体の密度(S.D)と、焼結前後の寸法変化(外径変化:ΔD)とを求めた。また、試験例4〜6で製造した引張試験片を用いて引張試験を行い、引張強さおよび伸びを求めた。また、引張試験片の側面の硬さを、ビッカース硬さ計により荷重30kgで測定した。
こうして得られた各試験片の測定結果を、試験例4については表8A、表8B(両者を併せて単に「表8」という)、図14および図15に、試験例5については表9に、試験例6については表10に示した。
〈試験例4〉
(1)寸法変化
表8からわかるように、1150℃よりも低温で焼結しても、寸法変化が大きく悪化することはなかった。用いる原料粉末の粒度に応じて最適な焼結温度を選定することで、寸法変化を抑制できることができることがわかった。
いずれの試験片も、焼結温度が高いほど、焼結体の硬さおよび引張強さは増加した。
図14からわかるように、強化粉末としてFeMSCII粉を用いることで、低い焼結温度であっても、十分な強度を有する焼結体が得られた。E610のようなFe−Cu−C系では、銅の融点以上の焼結温度(たとえば1085℃以上)でないと、引張強さが500MPaを超える十分な強度をもつ焼結体が得られない。しかし、強化粉末としてFeMSCII粉を用いると、原料粉末の粒径によっては、950℃の低温焼結であっても、高強度な焼結体が得られた。
具体的には、−45μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E657は、1050℃以上で焼結することで500MPaを超える引張強さを示す焼結体となった。−5μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E607は、1000℃を超える温度で焼結すれば500MPaを超える引張強さを示す焼結体が得られることが予測できた。さらに、−63μmに分級した鉄系粉末とともに−5μmに分級したFeMSCII粉を用いて作製した試料E609は、950℃以上で焼結することで500MPaを超える引張強さを示す焼結体となった。
図15からわかるように、いずれの試験片も、2%以上の伸びを示した。強化粉末としてFeMSCIIを用いた場合には、1050℃付近で伸びは最も小さくなり、いずれも2〜2.5%程度であった。その温度よりも高い温度または低い温度で焼結するほど、伸びは向上したが、鉄系粉末およびFeMSCII粉の粒度が小さい方が伸びの上昇割合が大きい傾向にあった。
また、焼結温度を低温にしても、寸法変化および伸びなどの他の特性が悪化することが無いことがわかった。
(1)寸法変化
成形圧力を1176MPaとしたことで、7.6g/cm3程度の高密度材を作製することができた。
また、表9からわかるように、FeMSCII粉を用いて作製した場合の寸法変化は、低い成形圧力ではΔDの値が大きくなるような原料粉末であっても、成形圧力を高くすることで、±0.2%程度で安定した。
表9からわかるように、Cuを含まない試験片であっても、CuおよびNiを含む試験片に匹敵する硬さおよび引張強さが得られた。特に、試料No.E634は、CuおよびNiを含む試料を上回る硬さおよび引張強さを示した。
表9からわかるように、伸びは、成形圧力が高くなるほど大きくなった。
試験例6では、原料粉末の配合、成形条件、焼結温度、焼結雰囲気などを、高効率化、低コスト化などを目的としたより実用的な製造条件に設定し、本発明の鉄基焼結合金(E877およびE879)を製造した。
いずれの試料も、±0.2%程度の安定した寸法変化であった。また、成形圧力588MPaで成形して得られた試料を比較した場合、Cuを含まないE877およびE879は、Cuを含むE881よりも、硬さ、引張強さおよび伸びのいずれも優れた値を示した。E877およびE879の試料は、さらに成形圧力を高めることで、高強度化された。
つまり、実用的な製造条件で作製しても、高強度の鉄基焼結合金が得られることがわかった。
Claims (15)
- 純鉄または鉄(Fe)合金の少なくとも一方からなるFe系粉末とFe以外の合金元素を含有する強化粉末とを混合した原料粉末を加圧成形して粉末成形体とする成形工程と、該粉末成形体を酸化防止雰囲気で加熱し焼結させる焼結工程と、を備える鉄基焼結合金の製造方法であって、
前記強化粉末は、全体を100質量%(以下単に「%」という。)としたときに、58〜70%のマンガン(Mn)と該Mnのケイ素(Si)に対する組成比(Mn/Si)が3.3〜4.6となるSiと1.5〜3%の炭素(C)とを含むFe合金またはFe化合物からなるFe−Mn−Si−C粉末であることを特徴とする鉄基焼結合金の製造方法。 - 前記Fe−Mn−Si−C粉末の粒径が45μm以下である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記原料粉末中のFe−Mn−Si−C粉末の配合量は、前記原料粉末全体を100%としたときに0.05〜3%である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記原料粉末は、さらに黒鉛(Gr)粉末を含む請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記Fe−Mn−Si−C粉末は、全体を100質量%としたときに、酸素(O)が1.5%以下である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記原料粉末は、前記鉄基焼結合金の全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%、Siが0.05〜0.6%およびCが0.1〜0.9%となるべく調製される請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記焼結工程の酸化防止雰囲気は、全体を100体積%としたときに、窒素ガスに水素ガスを2〜10体積%混合した還元雰囲気である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記焼結工程の酸化防止雰囲気は、酸素分圧が10−19Pa以下に相当する極低酸素分圧の不活性ガス雰囲気である請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記焼結工程は、前記粉末成形体を900〜1400℃に加熱して焼結体とする加熱工程と、
該加熱された焼結体を冷却速度0.1〜3℃/秒で冷却する冷却工程とからなる請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。 - 前記原料粉末は、全体を100%としたときに0.3〜5%のクロム(Cr)および/または0.1〜2%のモリブデン(Mo)を含む請求項1に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 前記Crおよび/またはMoは、前記Fe系粉末中に含まれる請求項10に記載の鉄基焼結合金の製造方法。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られた鉄基焼結合金であって、全体を100%としたときに、Mnが0.1〜2.1%と、Siが0.05〜0.6%と、Cが0.1〜0.9%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする鉄基焼結合金。
- 請求項10または11に記載の製造方法により得られた鉄基焼結合金であって、全体を100%としたときに、Mnが0.1〜1.4%と、Siが0.05〜0.4%と、Cが0.1〜0.9%と、Crが0.5〜5%および/またはMoが0.1〜2%と、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする鉄基焼結合金。
- 銅(Cu)を実質的に含まないCuフリー鉄基焼結合金またはニッケル(Ni)を実質的に含まないNiフリー鉄基焼結合金である請求項12または13に記載の鉄基焼結合金。
- 請求項12〜14のいずれかに記載の鉄基焼結合金からなることを特徴とする鉄基焼結合金部材。
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