JPH1180803A - 粉末冶金用鉄基混合粉 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 高強度で焼結後の矯正が可能な摺動特性に優
れた焼結体の製造が可能である粉末冶金用混合粉を提供
する。 【解決手段】 重量％で、Mn：0.03〜1.00％、Cr：0.5
〜4.0 ％を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる
アトマイズ鉄粉に、Ｂを含む化合物粉１種以上をＢ換算
で0.001 〜0.3 ％と、Ｓを含む化合物粉１種以上をＳ換
算で0.03〜0.3 ％と、あるいは黒鉛粉末とを添加、混合
して鉄基混合粉とする。鉄粉には、さらにMo、Ｖをを予
合金化して添加してもよい。また、Ｓを含む化合物粉を
添加する代わりにＳを鉄粉中に含有させてもよい。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、粉末冶金用鉄基混
合粉に関し、とくに焼結体として優れた被削性と摺動特
性を発揮し焼結のままで矯正可能な粉末冶金用鉄基混合
粉に関する。

【０００２】

【従来の技術】一般に、粉末冶金は、金属粉を金型内で
加圧して成形体としたのち、焼結して機械部品等を製造
する技術である。例えば、金属粉に鉄粉を用いる場合に
は、鉄粉にCu粉、黒鉛粉等を混合し、成形、焼結を行
い、通常5.0 〜7.2 g/cm³ 程度の密度を有する焼結体に
して自動車用機械部品等に加工している。そしてこの
際、機械部品の要求仕様に応じ、焼結体の組織をフェラ
イト＋パーライト、ベイナイト、あるいはマルテンサイ
トに適宜変化させるため、黒鉛粉の添加量や合金元素の
添加量、添加方法を調整しているのが現状である。

【０００３】しかし、焼結体は、一般に切削性が劣るの
で、溶製材（例えば、連続鋳造で製造した鋳片を圧延し
て得た材料）を切削する場合に比べると、切削に使用す
る工具の寿命が短くなる。そのため、機械加工時のコス
トが高くなるという問題が生じる。焼結体の切削性が低
い原因は、焼結体に含まれる気孔にある。気孔によっ
て、切削が断続的になったり、あるいは、焼結体の熱伝
導率が低下して、切削部の温度が上昇するためである。

【０００４】そこで、焼結体の切削性を改善するため、
従来は、ＳやMnS を鉄粉に混合する場合が多かった。こ
れらＳやMnS は、切り屑の破断を容易にしたり、あるい
は工具すくい面にＳやMnS の薄膜を形成し、該薄膜が切
削時に潤滑作用を発揮するからである。一方、ＳやMnS
を鉄粉に混合して切削性を向上させる技術に代わり、鋳
鉄において黒鉛化を促進することが知られているSi（例
えば、球状黒鉛鋳鉄、アグネ（1983) 、142 頁）を多量
に添加することにより、気孔内に黒鉛を析出させ、切削
性を向上させたFe-2.1％Si−1.4 Ｃ系焼結体が知られて
いる（例えば、球状黒鉛鋳鉄、1983年度版、アグネ出版
社）。しかし、Siを多量に含有するため、圧縮性の低下
が避けられないという問題があった。

【０００５】また、特開平7-233401号公報、特開平7-23
3402号公報には、Ｓ、Cr、Mnを含むアトマイズ鋼粉が提
案されているが、この鋼粉を焼結すると、焼結体の気孔
内に黒鉛が残留し、同時にMnS が鉄粒子内に析出し、焼
結体の切削性が飛躍的に増加するとされている。なお、
この黒鉛の残留は、焼結中に、CrとＳが鉄粉粒子内の黒
鉛の拡散を抑制するために生ずると考えられている。

【０００６】しかしながら、このような鋼粉であって
も、焼結時の雰囲気ガス中にH₂が含まれると、その焼結
体の切削性、耐摩耗性が低下するという問題があり、さ
らなる改良が熱望されていた。さらに、特開平8-176604
号公報には、Ｂ：0.001 〜0.03wt％、Cr：0.02〜0.07wt
％、Mn：0.1wt ％未満、Ｓ、Se、Teの１種以上を合計で
0.03〜0.15wt％を含有する鉄粉を焼結することにより、
一層残留黒鉛量が増加し、切削性が向上することが開示
されている。また、特開平8-209202号公報には、Ｂ：0.
001 〜0. 3wt％、Cr：0.02〜0.07wt％、Mn：0.1wt ％未
満、あるいはさらにＳ、Se、Teの１種以上を合計で0.03
〜0.15wt％を含有する鉄粉にNi、Cu、Moの１種以上が部
分合金化された鉄粉を焼結することにより、一層残留黒
鉛量が増加し、高強度で切削性に優れ、かつ矯正が可能
な焼結体が得られることが開示されている。しかしなが
ら、特開平8-176604号公報あるいは特開平8-209202号公
報に開示された技術では、残留する黒鉛量は最高で0.42
〜0.51wt％程度であり、さらに切削性向上のために多量
の黒鉛量を焼結体中に残留させることができる鉄粉が望
まれていた。

【０００７】また、特開平8-144026号公報には、Ｓ、M
o、Cuを予合金した鉄粉にNiを部分合金化した鉄粉を黒
鉛粉、BN粉末とともに混合し焼結することにより、遊離
黒鉛が析出し高強度、高靱性を具備した鉄系焼結体とな
ることが開示されている。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、自動車
等の各種駆動装置の高出力化や軽量化に対する要望は高
く、これに伴い摺動部品にはさらに苛酷な条件での使用
を余儀なくされ、高強度化することが要求されるととも
に、さらなる摺動特性の改善が要望されている。強度を
向上させるために、合金元素を添加する方法が一般的で
あり、高強度化のために、純鉄粉にMo等の合金元素を予
合金するか、あるいはNi、Cu、Mo等の合金元素の粉末を
拡散付着させることにより添加している。しかし、合金
元素を多量に添加した焼結体は、その硬度が高いため、
焼結後の矯正がほとんど不可能であるか、可能であって
も摺動特性が悪いという問題があった。

【０００９】本発明は、上記した従来技術の問題に鑑
み、高強度でしかも焼結後の矯正が可能で従来より摺動
特性に優れた焼結体の製造が可能な粉末冶金用混合粉を
提供することを目的とする。

【００１０】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、特開平8-
176604号公報に記載されたことを参考に、焼結体の摺動
特性をさらに一層向上させるため、鋭意検討した。その
結果、Ｂを含有する鉄粉は、Ｂの形態分析から、鉄粉中
のＢのほぼ100 ％が鉄粉表面にほう酸として偏析してい
るという新規な知見を得た。そこで、高強度化のために
Cr、Mnを含有した鉄粉に、ほう酸粉末、Ｓ粉末、黒鉛粉
末および潤滑剤を添加・混合し、成形、焼結して焼結体
を作製したところ、Ｂを含有する鉄粉と黒鉛粉末および
潤滑剤からなる成形体を焼結した場合に比べ、得られた
焼結体中の遊離黒鉛量が増加するという新しい知見を得
た。また、Cr、Mnに加えＳを特定量含有する鉄粉にほう
酸粉末、黒鉛粉末および潤滑剤を添加・混合し、成形、
焼結して焼結体を作製しても同様の結果が得られた。さ
らに、遊離黒鉛量が１wt％を超えると摺動特性が格段に
向上するという知見も得ている。

【００１１】また、本発明者らは、偏析防止処理を施
し、Ｂを含む化合物あるいはさらにＳを含む化合物を鉄
粉表面上に付着させるとさらに特性が向上するという知
見を得た。本発明は、上記した知見に基づいて構成され
たものである。すなわち、本発明は、鉄粉と、Ｂを含む
化合物粉１種以上と、Ｓを含む化合物粉１種以上と、あ
るいはさらに黒鉛粉、または黒鉛粉および潤滑剤とを混
合した粉末冶金用鉄基混合粉であって、前記鉄粉が重量
％でMn：0.03〜1.00％、Cr：0.5 〜4.0 ％を含み残部Fe
および不可避的不純物からなるアトマイズ鉄粉であり、
前記Ｂを含む化合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含む化合
物粉と前記Ｓを含む化合物粉とあるいはさらに前記黒鉛
粉との合計量に対し重量％で、Ｂ換算で0.001 〜0.3
％、さらに前記Ｓを含む化合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂ
を含む化合物粉と前記Ｓを含む化合物粉とあるいはさら
に前記黒鉛粉との合計量に対し重量％で、Ｓ換算で0.03
〜0.3 ％混合したことを特徴とする粉末冶金用鉄基混合
粉である。また、本発明では、前記鉄粉が重量％で、M
n：0.03〜1.00％、Cr：0.5 〜4.0 ％を含み、さらにM
o：0.05〜6.0 ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％のうちの１種また
は２種を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなるア
トマイズ鉄粉としてもよく、また、前記鉄粉が、該鉄粉
表面に前記Ｂを含む化合物粉および前記Ｓを含む化合物
粉を付着させた鉄粉としてもよい。

【００１２】また、本発明は、鉄粉と、Ｂを含む化合物
粉１種以上と、あるいはさらに黒鉛粉、または黒鉛粉お
よび潤滑剤とを混合した粉末冶金用鉄基混合粉であっ
て、前記鉄粉が重量％でMn：0.03〜1.00％、Cr：0.5 〜
4.0 ％、Ｓ：0.03〜0.3 ％を含み残部Feおよび不可避的
不純物からなるアトマイズ鉄粉であり、前記Ｂを含む化
合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含む化合物粉とあるいは
さらに前記黒鉛粉との合計量に対し重量％で、Ｂ換算で
0.001 〜0.3 ％混合したことを特徴とする粉末冶金用鉄
基混合粉であり、前記鉄粉が重量％で、Mn：0.03〜1.00
％、Cr：0.5 〜4.0 ％、Ｓ：0.03〜0.3 ％を含み、さら
にMo：0.05〜6.0 ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％のうちの１種ま
たは２種を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる
アトマイズ鉄粉としてもよく、前記鉄粉が該鉄粉表面に
前記Ｂを含む化合物粉を付着させた鉄粉としてもよい。

【００１３】また、下記に示す製造方法で焼結体とする
のが好ましい。焼結体の製造方法における第１の発明
は、鉄粉に、Ｂを含む化合物粉１種以上と、Ｓを含む化
合物粉１種以上と、あるいはさらに黒鉛粉、または黒鉛
粉および潤滑剤を混合し、混合粉とする工程と、該混合
粉を加工成形し圧粉体とする工程と、該圧粉体を焼結す
る工程とを順次施してなる焼結体の製造方法であって、
前記鉄粉は、重量％でMn：0.03〜1.00％、Cr：0.5 〜4.
0 ％を含み残部Feおよび不可避的不純物からなるアトマ
イズ鉄粉、あるいは前記鉄粉が重量％で、Mn：0.03〜1.
00％、Cr：0.5 〜4.0 ％を含み、さらにMo：0.05〜6.0
％、Ｖ：0.1 〜0.5％のうちの１種または２種を含有し
残部Feおよび不可避的不純物からなるアトマイズ鉄粉で
あり、前記Ｂを含む化合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含
む化合物粉と前記Ｓを含む化合物粉と前記黒鉛粉の合計
量に対し重量％で、Ｂ換算で0.001 〜0.3 ％、さらに前
記Ｓを含む化合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含む化合物
粉と前記Ｓを含む化合物粉と前記黒鉛粉との合計量に対
し重量％で、Ｓ換算で0.03〜0.3 ％混合することを特徴
とする焼結体の製造方法であり、前記混合粉とする工程
を、前記鉄粉に常温で液体の脂肪酸を加えて混合する一
次混合工程と、ついで前記一次混合粉に、Ｂを含む化合
物粉とＳを含む化合物粉と黒鉛粉と金属石鹸とを加え混
合する二次混合工程と、二次混合中あるいは二次混合後
昇温して、脂肪酸と金属石鹸との共溶融物を生成させ混
合する三次混合工程と、該三次混合工程後の冷却時に金
属石鹸またはワックスを加え混合する四次混合工程とを
順次施して混合粉とする工程としてもよい。

【００１４】また、この第１の発明では、前記混合粉と
する工程を、前記鉄粉に常温で液体の脂肪酸を加えて混
合する一次混合工程と、ついで前記一次混合粉に、Ｂを
含む化合物粉とＳを含む化合物粉と金属石鹸とを加え混
合する二次混合工程と、二次混合中あるいは二次混合後
昇温して、脂肪酸と金属石鹸との共溶融物を生成させ混
合する三次混合工程と、該三次混合工程後の冷却時に黒
鉛粉と金属石鹸またはワックスを加え混合する四次混合
工程とを順次施して混合粉とする工程としてもよい。

【００１５】また、この第１の発明では、前記混合粉と
する工程が、鉄粉に、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含む化合
物粉、黒鉛粉と融点の異なる２種以上のワックスを加え
混合する一次混合工程と、一次混合中あるいは一次混合
後に昇温してワックスの部分溶融物を生成させ、ついで
混合する二次混合工程と、ついで、冷却し、部分溶融物
を冷却固着させ、鉄粉粒子の表面に、少なくともＢを含
む化合物粉を固着させ、さらに冷却時に金属石鹸または
ワックスを加え混合する三次混合工程とからなる工程と
してもよい。

【００１６】また、この第１の発明では、前記混合粉と
する工程が、鉄粉に、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含む化合
物粉と融点の異なる２種以上のワックスを加え混合する
一次混合工程と、一次混合中あるいは一次混合後に昇温
してワックスの部分溶融物を生成させ、ついで混合する
二次混合工程と、ついで、冷却し、部分溶融物を冷却固
着させ、鉄粉粒子の表面に、少なくともＢを含む化合物
粉を固着させ、さらに冷却時に黒鉛粉と金属石鹸または
ワックスを加え混合する三次混合工程とからなる工程と
してもよい。

【００１７】焼結体の製造方法における第２の発明は、
鉄粉に、Ｂを含む化合物粉１種以上と、あるいはさらに
黒鉛粉、または黒鉛粉および潤滑剤を混合し、混合粉と
する工程と、該混合粉を加工成形し圧粉体とする工程
と、該圧粉体を焼結する工程とを順次施してなる焼結体
の製造方法であって、前記鉄粉は、重量％でMn：0.03〜
1.00％、Cr：0.5 〜4.0 ％、Ｓ：0.03〜0.3 ％を含み残
部Feおよび不可避的不純物からなるアトマイズ鉄粉、あ
るいは前記鉄粉が重量％で、Mn：0.03〜1.00％、Cr：0.
5 〜4.0 ％、Ｓ：0.03〜0.3 ％を含み、さらにMo：0.05
〜6.0 ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％のうちの１種または２種を
含有し残部Feおよび不可避的不純物からなるアトマイズ
鉄粉であり、前記Ｂを含む化合物粉を、前記鉄粉と前記
Ｂを含む化合物粉と前記黒鉛粉の合計量に対し重量％
で、Ｂ換算で0.001 〜0.3 ％混合することを特徴とする
焼結体の製造方法であり、前記混合粉とする工程を、前
記鉄粉に常温で液体の脂肪酸を加えて混合する一次混合
工程と、ついで前記一次混合粉に、Ｂを含む化合物粉と
黒鉛粉と金属石鹸とを加え混合する二次混合工程と、二
次混合中あるいは二次混合後昇温して、脂肪酸と金属石
鹸との共溶融物を生成させ混合する三次混合工程と、該
三次混合工程後の冷却時に金属石鹸またはワックスを加
え混合する四次混合工程とを順次施して混合粉とする工
程としてもよい。

【００１８】また、この第２の発明では、前記混合粉と
する工程を、前記鉄粉に常温で液体の脂肪酸を加えて混
合する一次混合工程と、ついで前記一次混合粉に、Ｂを
含む化合物粉と金属石鹸とを加え混合する二次混合工程
と、二次混合中あるいは二次混合後昇温して、脂肪酸と
金属石鹸との共溶融物を生成させ混合する三次混合工程
と、該三次混合工程後の冷却時に黒鉛粉と金属石鹸また
はワックスを加え混合する四次混合工程とを順次施して
混合粉とする工程としてもよい。

【００１９】また、この第２の発明では、前記混合粉と
する工程が、鉄粉に、Ｂを含む化合物粉、黒鉛粉と融点
の異なる２種以上のワックスを加え混合する一次混合工
程と、一次混合中あるいは一次混合後に昇温してワック
スの部分溶融物を生成させ、ついで混合する二次混合工
程と、ついで、冷却し、部分溶融物を冷却固着させ、鉄
粉粒子の表面に、少なくともＢを含む化合物粉を固着さ
せ、さらに冷却時に金属石鹸またはワックスを加え混合
する三次混合工程とからなる工程としてもよい。

【００２０】また、この第２の発明では、前記混合粉と
する工程が、鉄粉に、Ｂを含む化合物粉と融点の異なる
２種以上のワックスを加え混合する一次混合工程と、一
次混合中あるいは一次混合後に昇温してワックスの部分
溶融物を生成させ、ついで混合する二次混合工程と、つ
いで、冷却し、部分溶融物を冷却固着させ、鉄粉粒子の
表面に、少なくともＢを含む化合物粉を固着させ、さら
に冷却時に黒鉛粉と金属石鹸またはワックスを加え混合
する三次混合工程とからなる工程としてもよい。なお、
本発明における第１および第２の発明において、鉄粉、
黒鉛粉、Ｂを含む化合物粉、あるいはさらにＳを含む化
合物粉、ならびに潤滑剤をＶブレンダー等で混合しても
よい。

【００２１】

【発明の実施の形態】本発明の鉄基混合粉は、Mn、Crを
含む鉄粉と、Ｂを含む化合物粉１種以上と、Ｓを含む化
合物粉１種以上と、あるいはさらに黒鉛粉、または黒鉛
粉および潤滑剤とを混合したもの、あるいはMn、Crおよ
びＳを含む鉄粉と、Ｂを含む化合物粉１種以上と、ある
いはさらに黒鉛粉、または黒鉛粉および潤滑剤とを混合
したものである。

【００２２】本発明の混合粉を用いた焼結体では、正確
なメカニズムは不明であるが、Ｓ、FeS 、MnS 等のＳを
含む化合物中のＳあるいは鉄粉中に含まれるＳと、Ｂを
含む化合物中に含まれるＢとの相互作用により遊離黒鉛
が生成しやすくなると考えられる。これは、Ｓ含有量の
低い純鉄粉（Ｓ＝0.02wt％程度）と、Ｂを含む化合物粉
と混合して焼結体を作製しても焼結体中に遊離黒鉛の生
成は認められないことからも推察できる。Ｓを含む化合
物粉とＢを含む化合物粉の混合量、あるいはＳを含む鉄
粉とＢを含む化合物粉の混合量を本発明の範囲に限定す
れば、鉄粉にMn、Cr、Mo、Ｖ等を予合金化により添加し
ても、遊離黒鉛が生成しやすくなる効果は変わらない。
この遊離黒鉛が、固体潤滑作用で焼結体の摺動特性を向
上させる。

【００２３】すなわち、本発明では、摺動特性の更なる
向上のために、鉄粉とＢを含む化合物粉とＳを含む化合
物粉とあるいはさらに黒鉛粉または黒鉛粉および潤滑剤
とを混合して、あるいはＳを含む鉄粉とＢを含む化合物
粉とあるいはさらに黒鉛粉または黒鉛粉および潤滑剤と
を混合して、焼結体を作製することが肝要なのである。

【００２４】つぎに、本発明の限定理由を説明する。 鉄粉中のMn含有量：0.03〜1.00％ Mnは、焼結体内の遊離黒鉛量を減少させる元素である
が、Cr、Ｓと共存した場合には1.00％まで添加可能とな
る。しかし、Mnを1.00％を超えて含有させると、焼結体
内の遊離黒鉛量が少なくなり、焼結体の摺動特性が低下
する。また、Mnはできるだけ低減するのが望ましいが、
溶鋼成分の調整段階でMn量の低減のために要する精錬コ
ストとの兼ね合いからMnの下限は0.03％とする。

【００２５】鉄粉中のCr含有量：0.5 〜4.0 ％ Crは、焼結体の強度および摺動特性を向上させるために
予合金化して添加する。0.5 ％未満の添加では上記した
効果が認められない。一方、4.0 ％を超えて添加すると
焼結体の矯正が困難となる。このため、鉄粉中に含有す
るCr量は、0.5〜4.0 ％の範囲に限定した。

【００２６】鉄粉中のＳ含有量：0.03〜0.3 ％ Ｓは、焼結体内の遊離黒鉛量を増加させる効果を有して
いる。Ｓ含有量が0.03％未満では残留黒鉛量の増加効果
が認められない。一方、0.3 ％を超えると、焼結時に
「すす」を発生し、製品である機械部品が錆やすくな
る。このため、鉄粉中に含有するＳ量は0.03〜0.3 ％に
限定した。ＳはＳを含む化合物粉で添加しても鉄粉中に
含有させてもよく、その効果は同一である。

【００２７】さらに、必要に応じ、上記した組成のアト
マイズ鉄粉中には、Mo：0.05〜6.0％、Ｖ：0.1 〜0.5
％のうちの１種または２種を添加してもよい。Mo、Ｖ
は、焼結体の強度を高めるために予合金化して添加す
る。Moが0.05％未満、Ｖが0.1 ％未満では、焼結体の強
度の向上が認められない。また、Moが6.0％、Ｖが0.5
％を超えると焼結体の矯正が困難となるため、予合金添
加する場合には、Moは0.05〜6.0 ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％
の範囲に限定した。

【００２８】光輝焼入れ、浸炭熱処理後は遊離黒鉛が一
部鉄粒子内に再固溶しベイナイト、マルテンサイトを主
体とする組織となり高強度が得られる。アトマイズ鉄粉
は、上記した範囲の所定の組成に調整した溶鋼を高圧水
で噴霧した生粉を乾燥し、さらに還元処理を施し、粉砕
分級して製造される。乾燥処理は通常の条件でよく、と
くに限定しない。また、本発明で用いる鉄粉は、酸化し
やすいCrを含有するため、真空還元処理することが好ま
しい。

【００２９】 Ｂを含む化合物粉の配合量：Ｂ換算で0.001 〜0.3 ％ Ｂを含む化合物粉の配合量は、鉄粉とＢを含む化合物粉
とＳを含む化合物粉とあるいはさらに、黒鉛粉との合計
量に対する重量％で、Ｂ換算で0.001 〜0.3 ％とする。
なお、Ｂを含む化合物粉の配合量は、鉄粉がＳを含む鉄
粉の場合には鉄粉とＢを含む化合物粉とあるいはさらに
黒鉛粉との合計量に対し上記した配合量とする。

【００３０】Ｂを含む化合物粉としては、Ｂの酸化物、
Ｂの窒化物、ほう酸塩等が好適である。なかでも、B
₂O₃、H₃BO₃ 、ほう酸アンモニウム、六方晶BNが好まし
い。これらＢを含む化合物粉を１種以上混合して配合す
るのが好ましい。Ｂを含む化合物粉を１種以上Ｂ換算で
0.001 ％以上配合すると、焼結体中の遊離黒鉛量の増加
が著しくなり、焼結体の摺動特性が一段と向上する。一
方、Ｂを含む化合物粉の配合量が、Ｂ換算で、0.3 ％を
超えると圧縮性が低下する。このため、配合するＢを含
む化合物粉量はＢ換算で0.001 〜0.3 ％の範囲に限定し
た。

【００３１】 Ｓを含む化合物粉の配合量：Ｓ換算で0.03〜0.3 ％ Ｓを含む化合物粉の配合量は、鉄粉とＢを含む化合物粉
とＳを含む化合物粉とあるいはさらに黒鉛粉との合計量
に対する重量％で、Ｓ換算で0.03〜0.3 ％とする。Ｓを
含む化合物は、焼結体内の遊離黒鉛量を増加させる効果
を有している。Ｓを含む化合物粉の配合量がＳ換算で0.
03％未満では残留黒鉛量の増加効果が認められない。一
方、0.3 ％を超えると、焼結時に「すす」を発生し、製
品である機械部品が錆やすくなる。このため、Ｓを含む
化合物粉の配合量はＳ換算で0.03〜0.3 ％に限定した。

【００３２】Ｓを含む化合物粉としては、硫黄粉、硫化
物等が好適である。なかでも、FeS、MnS が好ましい。
これらＳを含む化合物粉を１種以上混合して使用しても
よい。 黒鉛粉の配合量：0.5 〜3.0 ％ 黒鉛粉の配合量は、鉄粉、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含む
化合物粉、黒鉛粉との合計量に対する重量％で、0.5 〜
3.0 ％が好ましい。なお、黒鉛粉の配合量は、鉄粉がＳ
を含む鉄粉の場合には鉄粉とＢを含む化合物粉と黒鉛粉
との合計量に対し上記した配合量とする。

【００３３】黒鉛粉末は摺動特性向上のために焼結後気
孔に黒鉛を残留させる黒鉛源として、また鉄中に固溶せ
しめさらに強度を高めるために添加する。0.5 ％未満で
は、摺動特性と強度が低下し、一方、3.0 ％を超えると
硬さが増加し矯正が困難となる。ついで、上記した鉄
粉、Ｂを含む化合物粉、黒鉛粉と、Ｓを含む化合物粉と
の合計量100 重量部（鉄粉がＳを含む鉄粉の場合には、
鉄粉、Ｂを含む化合物粉、黒鉛粉との合計量100 重量
部）に対し、好ましくは潤滑剤2.0 重量部以下を加え、
Ｖブレンダ等の通常の方法で１度に混合するのが好まし
い。

【００３４】潤滑剤としてはステアリン酸亜鉛、オレイ
ン酸、ステアリン酸アミドとエチレンビスマスステアリ
ン酸アミドの混合物、ステアリン酸リチウム等が好適で
ある。また、上記した鉄粉、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含
む化合物粉を、あるいは上記した鉄粉がＳを含む鉄粉の
場合には鉄粉、Ｂを含む化合物粉を、Ｖブレンダ等の通
常の方法で混合した混合粉末に、黒鉛粉、潤滑剤とをＶ
ブレンダ等の通常の方法で混合する、２回以上に分けて
混合する方法でもよい。

【００３５】また、偏析防止処理を行い、Ｂを含む化合
物粉、Ｓを含む化合物粉を鉄粉表面に付着させるように
混合してもよい。この混合方法は、以下に示すように行
うのがよい。上記した鉄粉に、常温で液体の脂肪酸を加
えて１次混合し、ついでＢを含む化合物粉、Ｓを含む化
合物粉、黒鉛粉と、金属石鹸とを加え２次混合し、２次
混合中あるいは２次混合後に昇温して脂肪酸と金属石鹸
との共溶融物を生成させ、ついで３次混合させながら冷
却し、共溶融物を冷却固着させ、共溶融物の結合力によ
り鉄粉粒子の表面に、少なくともＢを含む化合物粉とＳ
を含む化合物粉を固着させ、さらに冷却時に金属石鹸ま
たはワックスを加え４次混合を行うのがよい。この偏析
防止処理により、Ｂを含む化合物粉とＳを含む化合物粉
とを鉄粉表面に固着させた鉄粉とすることができる。こ
れにより、焼結体の遊離黒鉛生成量がＶブレンダを用い
た単純混合法に比べ増加する。

【００３６】また、上記工程のうち、２次混合時にＢを
含む化合物粉とＳを含む化合物粉と金属石鹸とを加え、
４次混合時に黒鉛粉と金属石鹸またはワックスを加える
ように、上記工程を一部変更してもよい。また、上記し
た鉄粉に、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含む化合物粉、黒鉛
粉と融点の異なる２種以上のワックスを加え１次混合
し、１次混合中あるいは１次混合後に昇温してワックス
の部分溶融物を生成させ、ついで２次混合しながら冷却
し、部分溶融物を冷却固着させ、部分溶融物の結合力に
より鉄粉粒子の表面に、少なくともＢを含む化合物粉と
Ｓを含む化合物粉を固着させ、さらに冷却時に金属石鹸
またはワックスを加え３次混合を行ってもよい。また、
上記工程のうち、１次混合時に鉄粉にＢを含む化合物粉
とＳを含む化合物粉と融点の異なる２種以上のワックス
を加え、冷却時に黒鉛粉と金属石鹸またはワックスを加
える３次混合を行うように、上記工程を一部変更しても
よい。

【００３７】また、鉄粉がＳを含む鉄粉の場合には、Ｂ
を含む化合物粉を鉄粉表面に付着させる混合方法は、以
下に示すように行うのがよい。上記した鉄粉に、常温で
液体の脂肪酸を加えて１次混合し、ついでＢを含む化合
物粉、黒鉛粉と、金属石鹸とを加え２次混合し、２次混
合中あるいは２次混合後に昇温して脂肪酸と金属石鹸と
の共溶融物を生成させ、ついで３次混合させながら冷却
し、共溶融物を冷却固着させ、共溶融物の結合力により
鉄粉粒子の表面に、少なくともＢを含む化合物粉を固着
させ、さらに冷却時に金属石鹸またはワックスを加え４
次混合を行うのがよい。この偏析防止処理により、Ｂを
含む化合物粉を鉄粉表面に固着させた鉄粉とすることが
できる。これにより、焼結体の遊離黒鉛生成量がＶブレ
ンダを用いた単純混合法に比べ増加する。

【００３８】また、上記工程のうち、２次混合時にＢを
含む化合物粉と金属石鹸とを加え、４次混合時に黒鉛粉
と金属石鹸またはワックスを加えるように、上記工程を
一部変更してもよい。また、上記したＳを含む鉄粉に、
Ｂを含む化合物粉、黒鉛粉と融点の異なる２種以上のワ
ックスを加え１次混合し、１次混合中あるいは１次混合
後に昇温してワックスの部分溶融物を生成させ、ついで
２次混合しながら冷却し、部分溶融物を冷却固着させ、
部分溶融物の結合力により鉄粉粒子の表面に、少なくと
もＢを含む化合物粉を固着させ、さらに冷却時に金属石
鹸またはワックスを加え３次混合を行ってもよい。ま
た、上記工程のうち、１次混合時に鉄粉にＢを含む化合
物粉とと融点の異なる２種以上のワックスを加え、冷却
時に黒鉛粉と金属石鹸またはワックスを加える３次混合
を行うように、上記工程を一部変更してもよい。

【００３９】混合後、所定の圧粉密度となるように加圧
成形し、焼結して焼結体を製造するのが好ましい。

【００４０】

【実施例】

（実施例１）表１に示す組成のアトマイズ合金鉄粉を以
下のように製造した。まず、所定の組成に調整した溶鋼
（溶鋼温度1630℃）を水アトマイズし、粉末とした。こ
の粉末を窒素雰囲気中で140 ℃×60min の乾燥を行って
から純水素雰囲気中で930 ℃×20min の還元処理を施し
た。冷却後、炉から取り出し、粉砕、分級し、アトマイ
ズ合金鉄粉とした。

【００４１】これらアトマイズ合金鉄粉に、表１に示す
量のＢを含む化合物粉、Ｓを含む化合物粉、黒鉛粉、潤
滑剤を、次に示す混合方法１〜５により混合し、混合粉
とした。（なお、Ｂを含む化合物粉、Ｓを含む化合物
粉、黒鉛粉の配合量は、鉄粉とＢを含む化合物粉、Ｓを
含む化合物粉、黒鉛粉の合計量に対する重量％で示
す。） 混合方法１： アトマイズ合金鉄粉に、Ｂを含む化合物粉として、表
１に示す量のほう酸（H₃BO₃ ）、酸化硼素（B₂O₃）、ほ
う酸アンモウム粉末、六方晶窒化硼素（BN）の１種以上
と、Ｓを含む化合物粉として、表１に示す量のＳ粉、Fe
S 粉、MnS 粉の１種以上と、黒鉛粉1.5 wt％と、これら
の合計量100 重量部に対しステアリン酸亜鉛１重量部を
加え、Ｖブレンダで15分間混合し混合粉とした。

【００４２】混合方法２： アトマイズ合金鉄粉に、オレイン酸0.3wt ％をスプレ
ー噴霧し３min 間均一混合し、 その後、表１に示す量のＢを含む化合物粉とＳを含む
化合物粉と、黒鉛粉1.5 wt％と、これらの合計量100 重
量部に対しステアリン酸亜鉛0.4 重量部とを添加して十
分混合したのち110 ℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
黒鉛粉とＢを含む化合物粉並びにＳを含む化合物粉をオ
レイン酸とステアリン酸亜鉛の共融体結合剤により固着
した混合粉とした。

【００４３】さらに、この混合粉に、ステアリン酸亜
鉛を、鉄粉とオレイン酸とＢを含む化合物粉とＳを含む
化合物粉および黒鉛粉との合計量100 重量部に対し、0.
3 重量部添加し、均一混合した。 混合方法３： アトマイズ合金鉄粉に、表１に示す量のＢを含む化合
物粉とＳを含む化合物粉と、黒鉛粉1.5 wt％と、ステア
リン酸アミドとエチレンビスステアリン酸アミドとの混
合物0.4 wt％とを添加し十分混合したのち110 ℃で加熱
混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
黒鉛粉とＢを含む化合物粉並びにＳを含む化合物粉をス
テアリン酸アミドとエチレンビスステアリン酸アミドと
の部分共融体結合剤により固着した混合粉とした。

【００４４】この混合粉に、ステアリン酸亜鉛を、鉄
粉とＢを含む化合物粉とＳを含む化合物粉と黒鉛粉とス
テアリン酸アミドとエチレンビスステアリン酸アミドと
の混合物との合計量100 重量部に対し、0.3 重量部を添
加して均一混合した。 混合方法４： アトマイズ合金鉄粉に、オレイン酸0.3wt ％をスプレ
ー噴霧し３min 間均一混合し、 その後、表１に示す量のＢを含む化合物粉とＳを含む
化合物粉とを加え、さらにステアリン酸亜鉛を、鉄粉と
オレイン酸とＢを含む化合物粉とＳを含む化合物粉との
合計量100 重量部に対し0.4 重量部、添加して十分混合
したのち110 ℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
Ｂを含む化合物粉とＳを含む化合物粉とをオレイン酸と
ステアリン酸亜鉛の共融体結合剤により固着した混合粉
とした。

【００４５】この混合粉に黒鉛粉を1.5 wt％と、ステ
アリン酸亜鉛を、鉄粉とＢを含む化合物粉とＳを含む化
合物粉と黒鉛粉とオレイン酸との合計量100 重量部に対
し、0.3 重量部とを添加し均一混合した。 混合方法５： アトマイズ合金鉄粉に、表１に示す量のＢを含む化合
物粉とＳを含む化合物粉と、ステアリン酸アミドとエチ
レンビスステアリン酸アミドとの混合物0.4 wt％とを添
加し十分混合したのち110 ℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
Ｂを含む化合物粉とＳを含む化合物粉をステアリン酸ア
ミドとエチレンビスステアリン酸アミドとの部分共融体
結合剤により固着した混合粉とした。

【００４６】この混合粉に、黒鉛粉を1.5 wt％と、ス
テアリン酸亜鉛を、鉄粉とＢを含む化合物粉とＳを含む
化合物粉と、ステアリン酸アミドとエチレンビスステア
リン酸アミドとの混合物と、黒鉛粉との合計量100 重量
部に対し0.3 重量部、添加して均一混合した。これら混
合粉の混合状態を概念的に図１〜図５に示す。図１は混
合方法１、図２は混合方法２、図３は混合方法３、図４
は混合方法４、図５は混合方法５の方法で混合した場合
の混合状態を示す。

【００４７】これらの混合粉を加圧成形し成形体とし
た。圧縮性は、上記した混合粉を６ton/cm² で10φ×10
mmの円柱状の成形体に成形し、その密度で評価した。密
度が大きいほど圧縮性はよい。遊離黒鉛量及び摺動特性
は、密度6.85g/cm³ になるように加圧して、円柱状の成
形体とし、その成形体を、水素10体積％を含む窒素雰囲
気中で1130℃×20minの焼結処理により得た焼結体を用
いて評価した。

【００４８】得られた焼結体内の遊離黒鉛量は、上記方
法で得られた焼結体の１部（試料）を硝酸で溶解し、残
渣をガラスフィルタで濾過して得た残渣から、赤外線吸
収法で求めた。摺動特性は、上記した方法で得られた焼
結体から、内径10mmφ×外径20mmφ×高さ８mmの円筒状
試験片を製作し、その円筒内に直径10mmφのＳ45Ｃ製シ
ャフトを孔壁とのクリアランス20μm で挿入した。そし
て、乾燥条件下で、シャフトを周速100m/minで回転させ
て、接触荷重を低荷重から段階的に増加させる方法で摺
動特性試験を実施した。シャフトと円筒内壁とが焼きつ
いたときの接触荷重をその焼結体の摺動特性とした。焼
きついたときの接触荷重が大きいほど摺動特性が良好と
した。

【００４９】これらの結果を表１に示す。

【００５０】

【表１】

【００５１】表１より、本発明の粉末冶金用鉄基混合粉
で製造した焼結体(No.1-1 〜No.1-8、No.1-17 〜No.1-2
0 ) は、矯正が可能であり、遊離黒鉛量が1.0 ％以上あ
り、焼付くときの接触荷重は６kgf/mm² 以上と高い摺動
特性を有している。このように、遊離黒鉛が１％以上と
なると、摺動特性が格段に向上する。なお、偏析防止処
理を施した焼結体No.1-17 〜No.1-20 は遊離黒鉛量が増
加している。これに対し、Ｂを含む化合物粉の配合量が
少ない焼結体No.1-9、Ｓを含む化合物粉の配合量が少な
い焼結体No.1-10 、Mn量が高い焼結体No.1-14 では、遊
離黒鉛量が少なく摺動特性が低下している。また、Cr量
の少ない焼結体No.1-11 では、焼付くときの接触荷重が
4.5kgf/mm²と摺動特性が低下している。Cr、Mn、Mo、Ｖ
量が高い焼結体No.1-13 〜No.1-16 では、焼結のままで
の矯正が不可能である。Ｂを含む化合物粉の配合が多い
焼結体No.1-12 は圧縮性が低下している。 （実施例２）表２に示す組成のアトマイズ合金鉄粉を以
下のように製造した。

【００５２】まず、所定組成に調整した溶鋼（溶鋼温
度：1630℃）を、水でアトマイズし、粉末とした。この
粉末を窒素雰囲気中で140 ℃×60min の乾燥を行ってか
ら、真空雰囲気中で1100℃×20min の熱処理を施した。
冷却後、炉から取り出し、粉砕、分級して合金鉄粉とし
た。これら合金鉄粉に、表２に示す量のＢを含む化合物
粉と、黒鉛粉および潤滑剤を、つぎに示す混合方法１Ａ
〜５Ａにより混合し、混合粉とした。なお、Ｂを含む化
合物粉、黒鉛粉の配合量は、合金鉄粉とＢを含む化合物
粉と黒鉛粉の合計量に対する重量％で示す。

【００５３】混合方法１Ａ： 合金鉄粉に、Ｂを含む化合物粉として、表２に示す量
のほう酸（H₃BO₃ ）、酸化硼素（B₂O₃) 、ほう酸アンモ
ニウム粉末、六方晶窒化硼素（BN）の１種以上と、黒鉛
粉1.5wt ％と、これらの合計量100 重量部に対しステア
リン酸亜鉛１重量部を加えてＶブレンダーで15min 間混
合し混合粉とした。

【００５４】混合方法２Ａ： 合金鉄粉に、オレイン酸0.3wt ％をスプレー噴霧し３
min 間均一混合し、 その後、表２に示す量のＢを含む化合物粉と、黒鉛粉
1.5 wt％と、これらの合計量100 重量部に対しステアリ
ン酸亜鉛0.4 重量部とを添加して十分混合したのち110
℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
黒鉛粉とＢを含む化合物粉をオレイン酸とステアリン酸
亜鉛の共融体結合剤により固着した混合粉とした。

【００５５】さらに、この混合粉に、ステアリン酸亜
鉛を、鉄粉とオレイン酸・ステアリン酸亜鉛の共融体と
Ｂを含む化合物粉と黒鉛粉との合計量100 重量部に対
し、0.3 重量部添加し、均一混合した。 混合方法３Ａ： 合金鉄粉に、表２に示す量のＢを含む化合物粉と、黒
鉛粉1.5 wt％と、ステアリン酸アミドとエチレンビスス
テアリン酸アミドとの混合物0.4 wt％とを添加し十分混
合したのち110 ℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
黒鉛粉とＢを含む化合物粉とをステアリン酸アミドとエ
チレンビスステアリン酸アミドとの部分共融体結合剤に
より固着した混合粉とした。

【００５６】この混合粉に、ステアリン酸亜鉛を、鉄
粉とＢを含む化合物粉と黒鉛粉とステアリン酸アミドと
エチレンビスステアリン酸アミドとの混合物との合計量
100重量部に対し、0.3 重量部を添加して均一混合し
た。 混合方法４Ａ： 合金鉄粉に、オレイン酸0.3wt ％をスプレー噴霧し３
min 間均一混合し、 その後、表２に示す量のＢを含む化合物粉と、ステア
リン酸亜鉛を、鉄粉とオレイン酸とＢを含む化合物粉と
の合計量100 重量部に対し0.4 重量部添加して、十分混
合したのち110 ℃で加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、鉄粉粒子に
Ｂを含む化合物粉をオレイン酸とステアリン酸亜鉛の共
融体結合剤により固着した混合粉とした。

【００５７】この混合粉に黒鉛粉を1.5 wt％と、ステ
アリン酸亜鉛を、鉄粉とＢを含む化合物粉と黒鉛粉並び
にオレイン酸とステアリン酸亜鉛の共融体結合剤との合
計量100 重量部に対し、0.3 重量部とを添加し均一混合
した。 混合方法５Ａ： 合金鉄粉に、表２に示す量のＢを含む化合物粉と、ス
テアリン酸アミドとエチレンビスステアリン酸アミドと
の混合物0.4 wt％とを添加し十分混合したのち110 ℃で
加熱混合し、 さらに混合しながら85℃以下に冷却して、Ｂを含む化
合物粉とをステアリン酸アミドとエチレンビスステアリ
ン酸アミドとの部分共融体結合剤により固着した混合粉
とした。

【００５８】この混合粉に、黒鉛粉を1.5 wt％と、ス
テアリン酸亜鉛を、鉄粉とステアリン酸アミドとエチレ
ンビスステアリン酸アミドとの混合物と黒鉛粉とＢを含
む化合物粉との合計量100 重量部に対し0.3 重量部と
を、添加して均一混合した。これら混合粉の混合状態を
概念的に図６〜図10に示す。図６は混合方法１Ａ、図７
は混合方法２Ａ、図８は混合方法３Ａ、図９は混合方法
４Ａ、図10は混合方法５Ａの方法で混合した場合の混合
状態を示す。

【００５９】これらの混合粉を加圧成形し成形体とし
た。遊離黒鉛量および摺動特性は、上記した混合粉を密
度7.0g/cm³になるように加圧して、円柱状の成形体と
し、水素10体積％を含む窒素雰囲気中で1250℃×60min
の焼結処理により得た焼結体を用いて実施例１と同様に
評価した。さらに、焼結後の矯正の可否を調査した。ま
た、焼結体をカーボンポテンシャル0.8 ％の雰囲気中で
850 ℃×30min 加熱したのち160 ℃の油中に光輝焼入れ
し、光輝焼入れ後の引張強さを測定した。

【００６０】これらの結果を表２に示す。

【００６１】

【表２】

【００６２】表２より、本発明の粉末冶金用鉄基混合粉
で製造した焼結体(No.2-1 〜No.2-8、No.2-17 〜No.2-2
0)は、遊離黒鉛量が1.0 ％以上あり、摺動特性が大幅に
向上し、光輝焼入れ後の引張強さも900MPa以上と高強度
を示している。また、焼結のままでも矯正が可能であ
る。また、Ｂを含む化合物粉の配合が少ない焼結体No.2
-9、Ｓ含有量が少ない焼結体No.2-10 、Mn量が高い焼結
体No.2-14 では、遊離黒鉛量が少なく摺動特性が低下
し、かつ矯正が不可能であった。また、合金添加量が多
い焼結体No.2-13 、No.2-14 、No.2-15 、No.2-16 は、
矯正が不可能となった。Cr含有量の少ない焼結体No.2-1
1 は摺動特性が低下している。Ｂを含む化合物粉の配合
が多い焼結体No.2-12 は圧縮性が低下している。

【００６３】また、Ｂを含む化合物粉の配合量およびＳ
含有量が同じで、混合方法の異なる焼結体No.2-3、No.2
-17 〜No.2-20 を比較すると、偏析防止処理を行った焼
結体No.2-17 〜No.2-20 のほうがNo.2-3に比べ遊離黒鉛
量が多く、摺動特性が優れている。

【００６４】

【発明の効果】本発明によれば、焼結後の矯正も可能で
あり、さらに焼結体の摺動特性が従来の鉄粉、混合粉を
用いた焼結体に比べ格段に向上する。また、本発明によ
る焼結体から機械部品を製造すれば、焼結後の矯正が可
能で、機械部品の寸法精度が高まり、その寿命も延び、
産業上、非常に有用である。

【図面の簡単な説明】

【図１】混合方法１による混合粉の混合状態を示す概念
図である。

【図２】混合方法２による混合粉の混合状態を示す概念
図である。

【図３】混合方法３による混合粉の混合状態を示す概念
図である。

【図４】混合方法４による混合粉の混合状態を示す概念
図である。

【図５】混合方法５による混合粉の混合状態を示す概念
図である。

【図６】混合方法１Ａによる混合粉の混合状態を示す概
念図である。

【図７】混合方法２Ａによる混合粉の混合状態を示す概
念図である。

【図８】混合方法３Ａによる混合粉の混合状態を示す概
念図である。

【図９】混合方法４Ａによる混合粉の混合状態を示す概
念図である。

【図10】混合方法５Ａによる混合粉の混合状態を示す概
念図である。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁶ 識別記号 ＦＩ Ｃ２２Ｃ 38/60 Ｃ２２Ｃ 38/60 (72)発明者 小倉 邦明 千葉県千葉市中央区川崎町１番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 楊 積彬 新潟県新潟市小金町３−１ 三菱マテリア ル株式会社内

Claims (6)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 鉄粉と、Ｂを含む化合物粉１種以上と、
   Ｓを含む化合物粉１種以上と、あるいはさらに黒鉛粉、
   または黒鉛粉および潤滑剤とを混合した粉末冶金用鉄基
   混合粉であって、前記鉄粉が重量％でMn：0.03〜1.00
   ％、Cr：0.5 〜4.0 ％を含み残部Feおよび不可避的不純
   物からなるアトマイズ鉄粉であり、前記Ｂを含む化合物
   粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含む化合物粉と前記Ｓを含む
   化合物粉とあるいはさらに前記黒鉛粉との合計量に対し
   重量％で、Ｂ換算で0.001 〜0.3％、さらに前記Ｓを含
   む化合物粉を、前記鉄粉と前記Ｂを含む化合物粉と前記
   Ｓを含む化合物粉とあるいはさらに前記黒鉛粉との合計
   量に対し重量％で、Ｓ換算で0.03〜0.3 ％混合したこと
   を特徴とする粉末冶金用鉄基混合粉。
2. 【請求項２】 前記鉄粉が重量％で、Mn：0.03〜1.00
   ％、Cr：0.5 〜4.0 ％を含み、さらにMo：0.05〜6.0
   ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％のうちの１種または２種を含有し
   残部Feおよび不可避的不純物からなるアトマイズ鉄粉で
   あることを特徴とする請求項１記載の粉末冶金用鉄基混
   合粉。
3. 【請求項３】 前記鉄粉が、該鉄粉表面に前記Ｂを含む
   化合物粉および前記Ｓを含む化合物粉を付着させた鉄粉
   であることを特徴とする請求項１または２記載の粉末冶
   金用鉄基混合粉。
4. 【請求項４】 鉄粉と、Ｂを含む化合物粉１種以上と、
   あるいはさらに黒鉛粉、または黒鉛粉および潤滑剤とを
   混合した粉末冶金用鉄基混合粉であって、前記鉄粉が重
   量％でMn：0.03〜1.00％、Cr：0.5 〜4.0 ％、Ｓ：0.03
   〜0.3 ％を含み残部Feおよび不可避的不純物からなるア
   トマイズ鉄粉であり、前記Ｂを含む化合物粉を、前記鉄
   粉と前記Ｂを含む化合物粉とあるいはさらに前記黒鉛粉
   との合計量に対し重量％で、Ｂ換算で0.001 〜0.3 ％混
   合したことを特徴とする粉末冶金用鉄基混合粉。
5. 【請求項５】 前記鉄粉が重量％で、Mn：0.03〜1.00
   ％、Cr：0.5 〜4.0 ％、Ｓ：0.03〜0.3 ％を含み、さら
   にMo：0.05〜6.0 ％、Ｖ：0.1 〜0.5 ％のうちの１種ま
   たは２種を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる
   アトマイズ鉄粉であることを特徴とする請求項４記載の
   粉末冶金用鉄基混合粉。
6. 【請求項６】 前記鉄粉が、該鉄粉表面に前記Ｂを含む
   化合物粉を付着させた鉄粉であることを特徴とする請求
   項４または５に記載の粉末冶金用鉄基混合粉。