JP2010053468A - 炭素繊維前駆体繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
糸条密度を高めやすい反面、製糸速度を高めにくいポリアクリロニトリル系前駆体繊維の湿式紡糸において、特定の分子量分布を有することにより製糸速度を高め、生産性およびプロセス性を損なうことなく、安定した高品質な炭素繊維前駆体繊維を得るための方法を提供する。
【解決手段】
重量平均分子量Mwが10万〜70万であり、Z平均分子量Mzと重量平均分子量Mwとの比で示される多分散度Mz/Mwが2.7〜6であるポリアクリロニトリル系重合体を5重量%以上30重量%未満の濃度で溶媒に溶解してなる紡糸溶液を湿式紡糸するに際し、その紡糸溶液を臨界濃度を超える溶媒濃度でかつ凝固糸条を成形することが可能な溶媒濃度の凝固浴中に吐出する炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【選択図】 なし
Description
[a]紡糸口金の紡糸溶液吐出面の凝固浴中につかる浸漬長が20mm以下になるように紡糸口金を配置し、湿式紡糸する。
[b]紡糸口金が凝固浴から離れ、凝固浴の表面張力を利用して紡糸口金の紡糸溶液吐出面のみが凝固浴表面と接する状態に紡糸口金を配置し、流下方式で湿式紡糸する。
[c]紡糸口金の凝固浴中に没する部分の全側面を断熱材または加熱材で覆い、紡糸口金の紡糸溶液吐出面のみが凝固浴液と接するように紡糸口金を配置し、流上方式で湿式紡糸する。
・紡糸ドラフト=(凝固糸の引き取り速度)/(吐出線速度)
上記の紡糸ドラフトを高めることは、繊維の細径化への寄与も大きい。紡糸ドラフトが1未満では、生産性向上効果が少なく、生産性の観点から紡糸ドラフトが50以下で十分である。
測定しようとする重合体が濃度0.1重量%でジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)に溶解した検体溶液を作製する。作製した検体溶液について、GPC装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線から分子量分布曲線を求め、Z平均分子量Mz、重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnを算出する。
・カラム :極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速 :0.5ml/分
・温度 :75℃
・試料濾過 :メンブレンフィルター(0.45μmカット)
・注入量 :200μl
・検出器 :示差屈折率検出器
Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出時間―分子量の検量線を作成し、その検量線上において、該当する溶出時間に対応するポリスチレン換算の分子量を読み取ることにより求める。
凝固浴の臨界濃度は、実施例に用いられる紡糸溶液、紡糸口金孔径や吐出速度などの吐出条件、凝固浴温度などの凝固条件に設定し、凝固浴の溶媒濃度のみ1重量%ずつ増やしてそれぞれ単繊維の糸切れもない限界の凝固糸の引き取り速度を測定し、その速度の極小点となる凝固浴の溶媒濃度を臨界濃度とする。溶媒濃度は大きく変化させて、おおまかな臨界濃度を調べてから、臨界濃度付近のみ溶媒濃度を1重量%ずつ変化させて、臨界濃度と糸条を形成しなくなる濃度(紡糸不能濃度と記述することがある。)を求めた。溶媒濃度は、混合した溶媒と凝固剤の重量比から求めた。また、混合した重量比から屈折率と溶媒濃度との検量線を測定し、屈折率から溶媒濃度を求めることも行った。
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキシル−カルボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃の温度で30分硬化させて作製する。また、炭素繊維のストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を引張強度とする。本実施例では、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製“ベークライト”(登録商標)ERL4221を用いた。
AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジメチルスルホキシド130重量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmになるまで窒素置換した後、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下、AIBNと略記する。)0.001重量部を投入し、撹拌しながら下記の(1)と(2)の条件(重合条件Aと呼ぶ。)の熱処理を行った。
(1)70℃の温度で4時間保持
(2)70℃の温度から30℃の温度へ降温(降温速度120℃/時間)
次に、その反応容器中に、ジメチルスルホキシド240重量部、重合開始剤としてAIBN 0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部を計量導入した後、撹拌しながら下記の(1)〜(4)の条件(重合条件Bと呼ぶ。)の熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。
(1)30℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
次いで、重合体濃度が20重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことによりイタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。重合体は、GPC法で測定されるMwが40万であり、Mz/Mwが2.7であり、45℃の温度における粘度が40Pa・sであった。
紡糸溶液の吐出温度を30℃に変更し、凝固浴温度を15℃に変更した他は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.5GPaであった。
紡糸溶液の吐出を下向きにして紡糸口金面を凝固浴の液面より高い位置に設置し、表面張力で凝固浴液に浸漬することにより湿式紡糸するように変更した他は、実施例2と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.6GPaであった。
凝固浴温度を5℃に変更した他は、実施例3と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程・および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.8GPaであった。
紡糸溶液の吐出を上向きにして、凝固浴底面と口金面が一致するようし、液深を10mmとして引き出し、ガイドを経由して、1段目と同じ濃度、凝固浴温度を5℃の2段目の凝固浴に投入するように変更した他は、実施例3と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.5GPaであった。
共重合成分にアクリル酸メチル2重量部を追加して用いたこと以外は、実施例1と同様にして同様仕様のPAN系重合体溶液を得た。その溶液を水で脱溶媒し、得られた重合体を凍結粉砕した上で、ジメチルアセトアミドに重合体濃度が22重量%となるように20℃の温度でスラリーを作製し、攪拌したまま80℃の温度に昇温し、6時間溶解することで紡糸溶液を作製した。紡糸口金孔数を500個にしたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維を得た。使用する溶媒を変えても製糸工程の工程通過性は良好であり、得られた炭素繊維前駆体繊維の繊度むらはないことが確認できた。
2回目に投入したオクチルメルカプタンを0.1重量部から0.2重量部に変更した他は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。得られたPAN系重合体のMwは20万であった。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.4GPaであった。
上記実施例1の重合条件Aにおいて70℃の温度の保持時間を4時間から8時間に変更した他は、実施例7と同様にして炭素繊維束を得た。得られたPAN系重合体のMwは40万であり、Mz/Mwは6であった。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は4.4GPaであった。
AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジメチルスルホキシド130重量部を混合し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmになるまで窒素置換した後、重合開始剤として、AIBN0.001重量部を投入し、撹拌しながら下記の(1)と(2)の条件(重合条件Cと呼ぶ。)の熱処理を行った。
(1)70℃の温度で2時間保持
(2)70℃の温度から30℃の温度へ降温(降温速度120℃/時間)
次に、その反応容器中に、ジメチルスルホキシド140重量部、重合開始剤としてAIBN 0.3重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.4重量部を計量導入した後、撹拌しながら上記実施例1の重合条件Bの熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た。次いで、重合体濃度が25重量%となるように調製した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことによりイタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し、紡糸溶液を作製した。重合体は、GPC法で測定されるMwが15万であり、Mz/Mwが2.7であり、20℃における粘度が50Pa・sであった。
上記実施例9の重合条件Cにおいて70℃の温度の保持時間を2時間から3.5時間に変更した他は、実施例9と同様にして炭素繊維束を得た。得られたPAN系重合体のMwは22万であり、Mz/Mwは4であった。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は5.6GPaであった。
凝固浴の溶媒濃度を84%に変更した他は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程および焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなかったが、若干単繊維間に融着が発生しており、炭素繊維束のストランド強度は4.0GPaであった。
凝固浴の溶媒濃度を78重量%に変更した他は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得ようとしたが、臨界濃度より凝固浴の溶媒濃度が低かったため、限界紡糸ドラフトが極めて低く、サンプリングできなかった。
AN100重量部、イタコン酸1重量部、ラジカル開始剤としてAIBN0.4重量部、および連鎖移動剤としてオクチルメルカプタン0.1重量部をジメチルスルホキシド370重量部に均一に溶解し、それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。反応容器内の空間部を窒素置換した後、撹拌しながら上記実施例1の重合条件Bの熱処理を行い、溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶液を得た。
凝固浴の溶媒濃度を78%に変更した他は、比較例2と同様にして炭素繊維束を得ようとしたが、臨界濃度より凝固浴濃度が低かったため、限界紡糸ドラフトが極めて低く、サンプリングできなかった。
紡糸口金孔径を0.05mmに、紡糸ドラフトを0.5倍に、加熱炉の延伸倍率を3.5倍に変更した他は、比較例2と同様にして炭素繊維束を得た。製糸工程および焼成工程ともに若干巻付きが発生し、工程通過性が悪化したが、得られた前駆体繊維の繊度むらはなかった。高速紡糸したため強度低下が起こり、炭素繊維束のストランド強度は2.5GPaであった。
紡糸口金孔数500個とし、紡糸口金を凝固浴液面から5mmの高さに設定し、吐出温度を50℃とし、凝固浴温度を5℃とした乾湿式紡糸を行い、炭素繊維前駆体繊維束を24本合糸して12000本とした上で焼成を行った他は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。製糸工程・焼成工程ともに工程通過性は良好であり、得られた前駆体繊維の繊度むらはなく、炭素繊維束のストランド強度は5.0GPaであったが、紡糸口金孔ピッチを広げなければ、強度が低下したため、紡糸口金径が同一であったにもかかわらず、孔数が少なかったため、生産性が低下した。
紡糸溶液の吐出温度を65℃に、凝固浴温度を65℃に変更した他は、比較例2と同様にして炭素繊維束を得ようとしたが、水洗工程、乾燥工程から繊維間の融着が激しく、サンプリングできなかった。
紡糸溶液の吐出温度を35℃に、凝固浴温度を35℃に変更した他は、比較例2と同様にして炭素繊維束を得ようとしたが、水洗工程、乾燥工程から繊維間の融着があり、サンプリングできなかった。
Claims (6)
- 重量平均分子量Mwが10万〜70万であり、Z平均分子量Mzと重量平均分子量Mwとの比で示される多分散度Mz/Mwが2.7〜6であるポリアクリロニトリル系重合体を5重量%以上30重量%未満の濃度で溶媒に溶解してなる紡糸溶液を湿式紡糸するに際し、該紡糸溶液を臨界濃度を超える溶媒濃度でかつ凝固糸条を成形することが可能な溶媒濃度の凝固浴中に吐出する炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
- 紡糸ドラフトを1〜50とした条件下で湿式紡糸する請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
- 紡糸溶液の吐出温度を15〜40℃とし、凝固浴温度を0〜30℃とした条件下で湿式紡糸する請求項1または2記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
- 凝固浴温度を紡糸溶液の吐出温度よりも5〜40℃低く設定し湿式紡糸する請求項3記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
- 湿式紡糸するに際して、次の[a]〜[c]のいずれかの方法で紡糸する請求項4記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
[a]紡糸口金の紡糸溶液吐出面の凝固浴中につかる浸漬長が20mm以下になるように紡糸口金を配置し、湿式紡糸する。
[b]紡糸口金が凝固浴から離れ、凝固浴の表面張力を利用して紡糸口金の紡糸溶液吐出面のみが凝固浴表面と接する状態に紡糸口金を配置し、流下方式で湿式紡糸する。
[c]紡糸口金の凝固浴中に没する部分の全側面を断熱材または加熱材で覆い、紡糸口金の紡糸溶液吐出面のみが凝固浴液と接するように紡糸口金を配置し、流上方式で湿式紡糸する。 - ポリアクリロニトリル系重合体が、アクリロニトリルにアクリロニトリルと共重合可能な単量体を0.5〜5モル%共重合させてなる共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
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