以下、本発明を、車両との無線通信を通じてロック装置としてのドア錠を電子的に施錠・解錠する電子キーシステムに具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電子キーシステム1は、例えば運転者等のユーザが所持する携帯機2と、車両3に搭載されるとともに携帯機2との無線通信を通じてドア錠4aの施錠・解錠を行う制御装置4とを備えている。ユーザが携帯機2を所持して車両の所定領域に接近すると、携帯機2は制御装置4から送信されるリクエスト信号を受信する。このリクエスト信号はIDコードの送信を携帯機2に要求する旨の信号である。携帯機2は前記リクエスト信号を受信すると、予め記録された自身のIDコードを含むID信号を送信する。制御装置4は、携帯機2から送信されてきたID信号を受信すると、このID信号に含まれる携帯機2側のIDコードと予め記憶された車両3側のIDコードとを照合し、両IDコードが一致したことを条件としてドア錠4aを解錠する。一方、携帯機2を所持したユーザが車両3から離間して前記所定領域外に移動すると、制御装置4は、携帯機2から送信されるID信号を受信不能となる。制御装置4は携帯機2側のID信号を受信不能になったことを条件として車両3のドア錠4aを施錠する。従って、ユーザが車両3に触れることなくドア錠4aの施錠・解錠が行われる。
図2(a)に示すように、携帯機2は、全体として長板形状に形成されている。携帯機2の内部には、前記制御装置4との間で無線通信を行うための通信回路等を構成するアンテナや各種電子部品が実装された回路基板2aが収容されている。また、携帯機2には、メカニカルキーとしてのキープレート(カードキー)5が収容可能なキー収容部2bが設けられている。回路基板2aとキー収容部2bは、携帯機2の厚さ方向に重なるように配置されている。キープレート5は、設置対象としての車両ドア3aに設けられた錠装置6(図3参照)に対応するものであり、当該携帯機2の電気系・通信系の不具合により電子キーシステム1が適切に動作しなくなった場合には、該キープレート5により前記ドア錠4aを手動で施錠・解錠することができるようになっている。
図2(b)に示すように、キープレート5は、樹脂材料からなり、全体として長方形の板状(カード状)に形成されている。キープレート5の中央よりも長手方向一端側の部位には、前記錠装置6に対応するキーコードとして、当該キープレート5を厚さ方向(図2(b)において紙面奥行き方向)に貫通する11個のコード孔5aが形成されている。各コード孔5aは、キープレート5の板厚方向から見て円形状に形成されている。キープレート5のコード孔5aが形成されていない側の端部(図2(b)において左側の端部)は、キープレート5を把持するための把持部となっている。
図3に示すように、錠装置6のケース10は、全体として車両の前後方向に延びる直方体状の外形を有しており、その一側面10aが車両ドア3aの意匠面3bと面一となるように車両ドア3aの内部に固定されている。ケース10には、その一側面10aにおいてその長手方向一側(図3において左側)に偏った位置に開口する作動体収容部11が設けられている。作動体収容部11の開口部11aは、ケース10の長手方向に延びる断面長方形状に形成されている。
図4に示すように、ケース10の厚さ方向(図4において上下方向)で対向する作動体収容部11の2つの内側面11b,11cにおいて、ケース10の中央よりもその一側面10a側(図4において左側)の部位には、断面円形状の軸受部12,13が凹設されている。ケース10の厚さ方向下側(図4において下側)に設けられた軸受部13の開口側の部分には、該軸受部13よりも大きな直径を有する断面円形状のばね収容部13aが凹設されている。
また、ケース10の厚さ方向上側(図4において上側)の内側面11bにおいて軸受部12よりも奥側(図4において右側)の部分には、21個のケース側収納孔14が凹設されている。本実施の形態では、ケース側収納孔14は、ケース10の長手方向(図4において紙面奥行き方向)に所定間隔毎に配設された7個を1列とし(図7参照)、ケース10の幅方向へ3列設けられている。
図5に示すように、作動体収容部11は、軸受部12,13を中心とする円弧面状に形成された案内面11dと、軸受部12,13を中心とし案内面11dよりも小さな半径を有する円弧面状に形成された許容面11eとを備えている。案内面11d及び許容面11eの間には、軸受部12,13よりもケース10の開口部11aとは反対側へずれた位置でケース10の幅方向に延びる平面状に形成されたストッパー面11fが設けられている。
図6に示すように、ケース10において前記開口部11aが設けられた一側面10aとは反対側の他側面10bには、その長手方向(図6において左右方向)中央部分から当該ケース10の長手方向一側(図6において右側)へ延びるスリット15が穿設されている。スリット15は、作動体収容部11の案内面11dに開口している(図5参照)。また、該他側面10bの長手方向中央部分には、ケース10の幅方向(図6において紙面手前側)に延びる略円柱状の支持軸16が設けられている。支持軸16は、スリット15が設けられた部位よりもケース10の厚さ方向上側(図6において上側)に、該スリット15から離間して設けられている。
図4に示すように、作動体収容部11には、作動体20が収容されている。作動体20のケース10の厚さ方向(図4において上下方向)両側の外側面20a,20bには、それぞれ上述した作動体収容部11の軸受部12,13に対応する円柱状の回転軸21,22が形成されている。作動体20は、作動体収容部11内に、ケース10の厚さ方向であって車両ドア3aの意匠面3bに沿って延びる回転軸21,22を中心として回転可能に支持されている。2つの回転軸21,22の内、上述したばね収容部13aを有する軸受部13に支持される回転軸22の外周には、ばね(捻りコイルばね)22aが設けられている。作動体20は、ばね22aの弾性力により、図5に示すケース10の長手方向一方側(図5において下側)の側面20cの奥側(図5において右側)の部位が前記ストッパー面11fに当接した中立位置に保持される。
また、同じく図5に示すように、作動体20は、中立位置に保持された状態で、そのケース10の開口部11aから露出する面20dが該ケース10の一側面10aと面一になるように形成されており、該露出する面20dには、ケース10の長手方向に延びる断面長方形状の鍵孔23が形成されている。作動体20の回転軸21,22は、当該回転軸21,22の軸方向から見て鍵孔23の内側面よりも内側に配置されている。キープレート5は、車両ドア3aの内部に設けられた錠装置6に対して、車両ドア3aの意匠面3bに略直交する方向であって、作動体20の回転軸21,22の軸方向に直交する方向(図5において左方向)から鍵孔23に挿し込まれる。キープレート5の挿入方向に沿った鍵孔23の深さは、キープレート5の長手方向の長さよりも小さくなっており、その長手方向に沿って鍵孔23に挿入されたキープレート5の先端が鍵孔23の奥側の内側面23aに当接した状態で、キープレート5のコード孔5aが設けられていない側の端部(把持部)が鍵孔23から突出する。鍵孔23に挿入されたキープレート5がその短手方向(図5において上下方向)に沿った操作方向へ操作されると、作動体20は、回転軸21,22を中心として反時計回り方向へ回転する。
また、図4に示すように、作動体20のケース10の厚さ方向上側(図4において上側)の外側面20aにおいて回転軸21よりも奥側(図4において右側)の部分には、21個の作動体側収納孔24が凹設されている。作動体側収納孔24は、ケース10の長手方向に所定間隔毎に配設された7個を1列とし(図7参照)、ケース10の幅方向へ3列設けられている。作動体側収納孔24は、作動体20が中立位置に保持された状態で上述したケース側収納孔14に対応して設けられている。
また、図5に示すように、作動体20において作動体収容部11の奥側(図5において右側)の先端面20eは、上述した案内面11dに対応する円弧面状に形成されている。該先端面20eの略中央部分には、作動体収容部11のスリット15を介してケース10の外側に突出する略円柱状の出力軸25が設けられている。上述した中立位置に保持されている作動体20が、鍵孔23に挿入されたキープレート5を通じて反時計回り方向へ回転操作されると、出力軸25は、作動体20の回転変位方向へ変位する。
図6に示すように、出力軸25には、出力レバー30が連結されている。なお、出力軸25及び出力レバー30により作動機構が構成される。出力レバー30は、ケース10の厚さよりも大きな長さを有する長板状に形成されている。出力レバー30は、その一端側(図6において上側)の部位には、ケース10に設けられた支持軸16の外形と略等しい内径を有する円形状の貫通孔31が形成されており、その他端側(図6において下側)の部位には、作動体20の出力軸25の直径と略等しい幅を有する長孔32が形成されている。出力レバー30の貫通孔31には、ケース10の支持軸16が回転可能に挿通支持されている。出力レバー30は、支持軸16により、車両ドア3aの意匠面3bに沿った方向へ回転可能に支持される。また、出力レバー30の長孔32には作動体20の出力軸25が挿通されている。上述したように、作動体20は、ケース10の中央よりもその一側面10a側の部位に設けられる回転軸21,22を中心として回転する。このため、図5に示すように、作動体20の鍵孔23の開口端部から作動体20の回転中心Oまでの距離d1は、出力軸25と出力レバー30の係合位置から作動体20の回転中心Oまでの距離d2よりも小さくなっている。
図9に示すように、作動体20は、鍵孔23に挿し込んだキープレート5を図9において矢印Rで示すその幅方向へ操作することにより、回転軸21,22を中心とした回転操作が可能である。作動体20がキープレート5を通じて反時計回り方向へ回転操作されると、作動体20の出力軸25がケース10のスリット15に沿って図9において矢印R1方向へ変位する。これにより、図10に示すように、出力軸25は、長孔32に対して支持軸16(貫通孔31)とは反対側へ相対的に変位し、これに伴い、出力レバー30が、支持軸16を中心として図10において矢印R2方向へ回転する。即ち、車両ドア3aの意匠面3bに沿うキープレート5の操作が、キープレート5の挿入方向に沿った方向であって車両ドア3aの意匠面3bに交差する支持軸16を中心とした出力レバー30の回転に変換され、ドア錠4aの機械的な操作力として該ドア錠4a側へ伝達される。このとき、出力レバー30の長孔32側の端部の変位量は、スリット15に沿った出力軸25の変位量よりも大きくなる。即ち、キープレート5を通じた作動体20の回転操作が出力レバー30によって拡大されてドア錠4a側へ伝達される。
車両ドア3aが施錠状態である場合にキープレート5が図9において矢印R方向へ操作され、作動体20が同図9において実線で示す回転変位位置をとると、車両ドア3aのドア錠4aが解錠状態となる。一方、車両ドア3aが解錠状態である場合にキープレート5が図9において矢印R方向へ操作され、作動体20が同図9において実線で示す回転変位位置をとると、車両ドア3aのドア錠4aが施錠状態となる。なお、キープレート5の操作力が解除されると、上述したばね22aの弾性力により、作動体20はストッパー面11fに当接する中立位置に復帰する。
図4に示すように、ケース10と作動体20との間には、21個のピンタンブラ40が収納されている。各ピンタンブラ40は、ケース10に凹設されたケース側収納孔14に移動可能な状態で収納されたピン形状を成すプランジャピン41と、作動体20に凹設された作動体側収納孔24に移動可能な状態で収納されたピン形状を成すロックピン42との一対のピン部品から構成されている。各ピンタンブラ40は、ケース側収納孔14に収納されたタンブラスプリング43によって作動体20(鍵孔23)側に常時付勢された取り付け状態をとっている。各作動体側収納孔24において対応するピンタンブラ40の鍵孔23側には、ボール44がそれぞれ配置されている。
また、ピンタンブラ40は、ロックピン42が短めに形成された第1ピンタンブラ40aと、ロックピン42が長めに形成された第2ピンタンブラ40bとの2種類のものが使用されている。第1ピンタンブラ40aは、正規のキープレート5の先端が鍵孔23の奥側の内側面23aに当接する位置まで挿入された場合に、該キープレート5のコード孔5aが設けられていない部位に対応するように配置されている。第1ピンタンブラ40aは、図4に示すように鍵孔23にキープレート5が挿し込まれていないときや、鍵孔23にキープレート5が挿し込まれた際にコード孔5aに嵌り込んだ位置状態をとったとき、タンブラスプリング43の付勢力によって鍵孔23の内面において作動体側収納孔24に対応する部位に押し当てられることにより、プランジャピン41がケース10及び作動体20の両者に係合する係止状態をとり、ケース10に対する作動体20の相対変位を規制する。一方、第1ピンタンブラ40aは、図8に示すように鍵孔23にキープレート5が挿し込まれた際にキープレート5のコード孔5aが設けられていない部位に向き合う位置状態をとると、タンブラスプリング43の付勢力に抗してキープレート5の板厚分だけ上方にスライド移動する。これにより、第1ピンタンブラ40aは、プランジャピン41とロックピン42との境界がケース10と作動体20との境界(作動体20の摺動面)に一致する非係止状態をとり、ケース10に対する作動体20の相対変位を許容する。
第2ピンタンブラ40bは、正規のキープレート5の先端が鍵孔23の奥側の内側面23aに当接する位置まで挿入された場合に、該キープレート5のコード孔5aに対応するように配置されている。第2ピンタンブラ40bは、図4に示すように鍵孔23にキープレート5が挿し込まれていないときや、鍵孔23にキープレート5が挿し込まれた際にコード孔5aに嵌り込んだ位置状態をとったとき、タンブラスプリング43の付勢力によって鍵孔23の内面において作動体側収納孔24に対応する部位に押し当てられることにより、プランジャピン41とロックピン42との境界がケース10と作動体20との境界に一致する非係止状態をとり、ケース10に対する作動体20の相対変位を許容する。一方、第2ピンタンブラ40bは、図8に示すように鍵孔23にキープレート5が挿し込まれた際にキープレート5のコード孔5aが設けられていない部位に向き合う位置状態をとると、タンブラスプリング43の付勢力に抗してキープレート5の板厚分だけ上方にスライド移動する。これにより、第2ピンタンブラ40bは、ロックピン42がケース10及び作動体20の両者に係合する係止状態をとり、ケース10に対する作動体20の相対変位を規制する。
次に、前述のように構成した錠装置6の動作を説明する。
鍵孔23にキープレート5が挿入されていない場合、図4に示すように、第2ピンタンブラ40bは非係止状態をとるものの、第1ピンタンブラ40aが係止状態をとるので、作動体20は第1ピンタンブラ40aによってケース10に対する相対変位を規制される。このため、例えば単に鍵孔23に指等を引っ掛けて作動体20を回転操作するといった不正操作によってドア錠4aが施錠・解錠されることはない。
施錠状態となっている車両ドア3aのドア錠4aを錠装置6の操作を通じて解錠する場合は、まず、車両ドア3aの意匠面3bに略直交する方向から作動体20の鍵孔23に正規のキープレート5を挿し込む。このとき、キープレート5の挿入方向に沿った鍵孔23の深さは、キープレート5の長手方向の長さよりも小さくなっているため、キープレート5のコード孔5aが設けられていない側の端部(把持部)が鍵孔23から突出する。従って、ユーザは、キープレート5の鍵孔23から突出する部位を把持して作動体20を回転操作することができる。
キープレート5を鍵孔23に挿し込んだ際、そのキー挿入過程においては、キープレート5の端縁が各ピンタンブラ40に対応するボール44の下側に順次潜り込み、ピンタンブラ40が、タンブラスプリング43の弾性力に抗して、キープレート5によって鍵孔23とは反対側へ持ち上げられる。そして、キープレート5が鍵孔23に完全に挿し込まれると、図8に示すように、第1ピンタンブラ40aにはキープレート5のコード孔5aが形成されていない部位が、また、第2ピンタンブラ40bには、コード孔5aが対応して位置する。
このとき、第1ピンタンブラ40aは、タンブラスプリング43の付勢力に抗して、キープレート5の板厚分だけ上方に押し上げられる状態をとり、プランジャピン41とロックピン42との境目が、ケース10と作動体20との境目に一致する非係止状態となる。また、第2ピンタンブラ40bは、キープレート5のコード孔5aに嵌り込むので、タンブラスプリング43により鍵孔23の内部に押し込まれた位置状態をとり、プランジャピン41とロックピン42との境目が、ケース10と作動体20との境目に一致する非係止状態をとる。これにより、第1ピンタンブラ40a及び第2ピンタンブラ40bの両者がともに非係止状態をとることから、ケース10に対する作動体20の相対変位が許容された操作許可状態となり、鍵孔23に挿し込んだキープレート5を通じて作動体20を回転変位させることが可能となる。
この状態において、図9に示すように、鍵孔23から突出するキープレート5の把持部を、上述したばね22aの付勢力に抗して、その挿入方向に直交する図9において矢印Rで示す短手方向へ操作すると、作動体20が図9において矢印R1方向へ回転し、作動体20の出力軸25がケース10のスリット15に沿ってその回転変位方向に応じた方向へ変位する。なお、本実施の形態では、錠装置6のケース10の長手方向及びキープレート5の短手方向と、車両の前後方向とが一致するように配置されているため、キープレート5は車両前方向へ操作される(図3参照)。
これにより、図10に示すように、出力レバー30が支持軸16を中心として図10における矢印R2方向へ回転する。この出力レバー30の回転が前記ドア錠4aに伝達され、車両ドア3aのドア錠4aが解錠状態となる。即ち、鍵孔23に挿入したキープレート5を、その長手方向に沿った挿入方向へ押圧することなく、その短手方向に沿った図9において矢印Rで示す操作方向へ操作することによってドア錠4aを作動させることができる。このため、操作する際に、キープレート5をその長手方向に沿った挿入方向へ圧縮する力が当該キープレート5に作用することを抑制することが可能となり、キープレート5が撓んでしまうことを好適に防止することができる。また、作動体20の操作方向と、ケース側収納孔14及び作動体側収納孔24の配列方向とが一致しないため、作動体20を操作する際にピンタンブラ40が対応するケース側収納孔14及び作動体側収納孔24とは異なるケース側収納孔14及び作動体側収納孔24に連続して引っかかってしまうことを好適に防止することができる。
また、作動体20が回転可能に支持されているため、鍵孔23に挿入されたキープレート5において作動体20の回転中心よりも鍵孔23の開口側に配置される部位だけを作動体20に押圧するだけで作動体20を操作することができる。このため、作動体20を操作する際にキープレート5のコード孔5aが形成されている部位に作用する負荷を低減することができる。また、本実施の形態では、作動体20の回転軸21,22は、鍵孔23に挿入されたキープレート5のコード孔5aが形成された部位よりも鍵孔23の開口側に設けられているため、作動体20を操作する際にキープレート5のコード孔5aが形成されている部位に作用する負荷をより確実に低減することができる。ところで、キープレート5においてコード孔5aが形成された部位は、コード孔5aが形成されていない他の部位よりも強度が低くなるため、その強度の低下が補われるようにキープレート5の厚さを設定する必要がある。本実施の形態では、上述したように、作動体20を操作する際にキープレート5のコード孔5aが形成されている部位に作用する負荷が低減されるため、その分だけキープレート5を薄くすることができる。
また、上述したように、作動体20の回転軸21,22は、当該回転軸21,22の軸方向から見て鍵孔23の内側面よりも内側に配置されている。このため、図9に示すように、作動体20の回転軸21,22は当該回転軸21,22の軸方向から見て鍵孔23に挿入されたキープレート5の外縁よりも内側でケース10に支持される。従って、キープレート5の回転中心からユーザによって把持されるキープレート5の端部までの距離が、キープレート5の長さよりも小さくなり、キープレート5を作動体20の回転軸21,22により近い位置で把持して操作することができる。
また、図9に示すように、作動体20の鍵孔23の開口端部から作動体20の回転中心Oまでの距離d1は、出力軸25と出力レバー30の係合位置から作動体20の回転中心Oまでの距離d2よりも小さくなるため、この距離の差に対応する分だけ、車両ドア3aの意匠面3bに沿ったキープレート5の操作量に対する出力軸25の回転変位量を大きくすることができる。このため、キープレート5の操作量が作動体20の回転変位によって拡大されて出力レバー30に伝達される。よって、ドア錠4aを操作するために要求されるキープレート5の操作量が小さくなる。
また、このとき、図10に示すように、出力レバー30の長孔32側の端部の変位量は、スリット15に沿った出力軸25の変位量よりも大きくなる。即ち、キープレート5を通じた作動体20の回転操作が出力レバー30によって拡大されてドア錠4a側へ伝達される。このため、このことによっても、ドア錠4aを操作するために要求されるキープレート5の操作量が小さくなる。
また、この錠装置6は、車両ドア3aの意匠面3bに沿う回転軸21,22を中心とした作動体20の回転変位が、車両ドア3aの意匠面3bに交差する支持軸16を中心とした出力レバー30の回転に変換される。即ち、出力レバー30は車両ドア3aの意匠面3bに沿った方向へ回転する。通常、車両ドア3aの内部における錠装置6の収容スペースは、その厚さ方向よりもその意匠面3bに沿った方向に広く設けられるため、当該錠装置6を車両ドア3aの内部に容易に配置することができる。
ところで、各々のピンタンブラ40はプランジャピン41とロックピン42とが一致する位置状態をとっていないと、ピンタンブラ40の上下動が許容されないので、各々のピンタンブラ40においてプランジャピン41とロックピン42とが向き合っていないとキープレート5を鍵孔23から取り出すことができない。本実施の形態では、図9に示す回転変位位置をとる作動体20は、上述したばね22aの付勢力により作動体20がストッパー面11fに当接する中立位置を取るように付勢される。よって、車両ドア3aのドア錠4aを解錠した後、鍵孔23に挿し込んだキープレート5を鍵孔23から取り出す時は、キープレート5に対する操作力を解除し、作動体20を図5に示す中立位置に復帰させて各々のプランジャピン41とロックピン42とを向き合わせた状態で、キープレート5を鍵孔23から引き抜く。ユーザは、このキープレート5を所持して車内に乗車する。
一方、解錠状態となっている車両ドア3aのドア錠4aを錠装置6の操作を通じて施錠する場合は、上述した車両ドア3aを解錠する場合と同様、作動体20の鍵孔23に正規のキープレート5を挿し込み、このキープレート5を図9において矢印Rで示す操作方向に操作して作動体20を回転変位させる。これにより、作動体20の出力軸25がケース10のスリット15に沿ってその回転変位方向に応じた方向へ変位し、出力レバー30が支持軸16を中心として図10における矢印R2方向へ回転する。この出力レバー30の回転が前記ドア錠4aに伝達され、車両ドア3aのドア錠4aが施錠状態となる。ドア錠4aを施錠状態とした後にキープレート5を鍵孔23から抜く場合には、ドア錠4aを解錠状態とする時と同様に、キープレート5に対する操作力を解除し、作動体20を図5に示す中立位置に復帰させた後、キープレート5を鍵孔23から引き抜くことにより行う。
なお、コード孔5aの形成パターンが正規のキープレート5とは異なる異コードキーが鍵孔23に挿し込まれた場合、複数存在する第1ピンタンブラ40aの中には、その対向位置にキープレート5のコード孔5aに対応するものが生じたり、また第2ピンタンブラ40bの中には、その対向位置にキープレート5のコード孔5aが設けられていない部位に対応するものが生じたりすることになる。
この場合、第1ピンタンブラ40aは、自身が向き合う位置にキープレート5のコード孔5aが位置すると、対応するボール44がこのコード孔5aに嵌り込む位置状態をとり、タンブラスプリング43の付勢力によって鍵孔23側に押し込まれた位置状態をとる。このため、第1ピンタンブラ40aは、プランジャピン41がケース10及び作動体20の両者に係合する係止状態となり、作動体20がケース10に対して回転することを規制する。また、第2ピンタンブラ40bは、自身が向き合う位置にキープレート5のコード孔5aが設けられていない部位が位置すると、タンブラスプリング43の付勢力に抗して、キープレート5によりキープレート5の板厚分だけ上方に押し上げられる状態をとる。このため、第2ピンタンブラ40bは、ロックピン42がケース10及び作動体20の両者に係合する係止状態となり、作動体20がケース10に対して回転することを規制する。このように、複数存在するピンタンブラ40の中で1つでも係止状態をとるものがあると、それが作動体20をケース10に固定する。このため、鍵孔23に挿し込んだキープレート5が異コードキーの場合には、そのキープレート5を通じて作動体20を回転することができないので、車両ドア3aのドア錠4aの施錠・解錠操作が行えないことになる。
次に、上記実施の形態の作用効果を以下に記載する。
(1)作動体20は、ケース10に対して回転可能に設けられているため、当該作動体20を鍵孔23に挿入した正規のキープレート5を通じて回転変位させることで、ドア錠4aを作動させることができる。従って、キープレート5をその挿入方向に押圧することなくドア錠4aを作動させることができる。このため、操作する際にキープレート5に作用する圧縮力を抑制することが可能となり、該圧縮力によるキープレート5の撓みを好適に防止することができる。よって、該圧縮力が抑制された分だけキープレート5の厚みを小さく設定することが可能となり、キープレート5の薄型化に貢献することができる。
(2)また、作動体20が回転可能に支持されているため、鍵孔23に挿入されたキープレート5において作動体20の回転中心Oよりも鍵孔23の開口側に配置される部位だけを作動体20に押圧するだけで作動体20を操作することができる。このため、作動体20を操作する際にキープレート5のコード孔5aが形成されている部位に作用する負荷を低減することができる。よって、キープレート5のより一層の薄型化を図ることができる。
(3)作動体20は意匠面3bに沿って延びる回転軸21,22を中心として回転可能に設けられているため、キープレート5を通じて作動体20を回転操作する際、キープレート5は車両ドア3aの意匠面3b側を変位する。このため、本実施の形態のように、当該錠装置6を車両ドア3aの内部に設けた場合でも、作動体20の回転操作に伴うキープレート5の回動スペースが確保されるため、当該錠装置6を車両ドア3aの意匠面3bから突出させることなく車両ドア3aに設けることができる。よって、車両ドア3a引いては車両3の意匠性を損なわせることなく錠装置6を車両ドア3aに設置することができる。また、当該錠装置6は、車両ドア3aの内部に設けることができるため、車体回りの空気抵抗を増加させることなく錠装置6を設置することができる。
(4)作動体20の回転軸21,22は当該回転軸21,22の軸方向から見て鍵孔23に挿入されたキープレート5の外縁よりも内側でケース10に支持される。このため、キープレート5の回転中心からユーザによって把持されるキープレート5の端部までの距離を、鍵孔23に対するキープレート5の挿入方向に沿ったキープレート5の長さよりも小さくすることが可能となり、キープレート5を作動体20の回転軸21,22により近い位置で把持して操作することができる。よって、キープレート5の変形を好適に防止することが可能となり、キープレート5のより一層の薄型化を図ることができる。また、鍵孔23に挿入されるキープレート5の面方向における錠装置6の小型化を図ることもできる。
(5)また、作動体20の鍵孔23の開口端部から作動体20の回転中心Oまでの距離d1が、出力軸25と出力レバー30の係合位置から作動体20の回転中心Oまでの距離d2よりも小さいため、この距離の差に対応する分だけ、車両ドア3aの意匠面3bに沿ったキープレート5の操作量に対する出力軸25の回転変位量を大きくすることができる。このため、キープレート5の操作量が作動体20によって拡大されて出力レバー30に伝達される。よって、ドア錠4aを操作するために要求されるキープレート5の操作量を小さくすることができる。
(6)また、キープレート5を通じた作動体20の回転操作に伴う出力レバー30の長孔32側の端部の変位量は、スリット15に沿った出力軸25の変位量よりも大きくなるため、キープレート5を通じた作動体20の回転操作が出力レバー30によって拡大されてドア錠4a側へ伝達される。このため、このことによっても、ドア錠4aを操作するために要求されるキープレート5の操作量を小さくすることができる。
(7)キープレート5の挿入方向に交差する回転軸21,22を中心とした作動体20の回転変位が、キープレート5の挿入方向に沿った支持軸16を中心とした出力レバー30の回転変位に変換される。このため、錠装置6の構成を極端に複雑化することなく、比較的単純な構成で、キープレート5を通じた作動体20の回転操作を、車両ドア3aの意匠面3bに交差する支持軸16を中心とした出力レバー30の回転変位に変換することができる。通常、車両ドア3aの内部における錠装置6の収容スペースは、その厚さ方向よりもその意匠面3bに沿った方向に広く設けられるため、当該錠装置6を車両ドア3aの内部に容易に配置することができる。
尚、本実施の形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態では、ケース10のケース側収納孔14と、作動体20の作動体側収納孔24とを、それぞれケース10の長手方向に所定間隔毎に配設された7個を1列とし、ケース10の幅方向へ3列設けたが、ケース側収納孔14及び作動体側収納孔24の配置及び個数は適宜変更可能である。また、キープレート5のコード孔5aの数も、対応する錠装置6に設定されたキーコードに応じて適宜変更可能である。
・上記実施の形態では、前記錠装置6に対応するキーコードとしてキープレート5を貫通するコード孔5aを設けたが、このような態様に限定されず、例えばキープレート5を貫通しない穴(凹部)でもよい。
・上記実施の形態では、作動体収容部11に作動体20を中立位置に保持するストッパー面11fを設け、該ストッパー面11fから離間する1方向へ作動体20を回転操作するようにしたがこのような態様に限定されない。例えば、ストッパー面11fを省略し、作動体20を中立位置からその両側へ回転操作可能な構成とし、該操作方向に対応する出力レバー30の回転方向に応じてドア錠4aを施錠・解錠する構成としてもよい。また、作動体20のケース10に対する回転方向は、錠装置6の設置対象や当該設置対象に対する錠装置6の開口方向等に応じて、ユーザがキープレート5を操作し易いよう、適宜変更可能である。
・上記実施の形態では、作動体20を、ケース10の厚さ方向に沿って延びる回転軸21,22を中心として回転可能に設けたが、このような態様に限定されない。作動体20の回転軸21,22の軸方向がケース10の開口方向に対して交差するように設けられていれば、回転軸21,22の軸方向とケース10の厚さ方向とが一致していなくてもよい。
・上記実施の形態では、作動体20の回転軸21,22を、当該回転軸21,22の軸方向から見て鍵孔23の内側面よりも内側に配置したが、鍵孔23の外側に回転軸21,22を配置してもよい。
・上記実施の形態では、作動体20の出力軸25に出力レバー30を連結したが、出力レバー30を省略して、出力軸25をドア錠4aに直接接続してもよい。
・上記実施の形態では、樹脂材料からなるキープレート5としたが、金属製でもよい。また、キープレート5を全体として長方形の板状(カード状)に形成したが、例えばキープレート5に別部材からなる把持部を設けてもよい。
・上記実施の形態では、錠装置6を、車両ドア3aに対して、キープレート5が車両前方へ操作されるように配置したが、車両後方へ操作されるように配置してもよい。また、例えば、錠装置6を、車両ドア3aに対して、該錠装置6のケース10の長手方向及びキープレート5の短手方向と、車両の上下方向とが一致するように設け、キープレート5を車両上方若しくは下方へ操作するようにしてもよい。また、錠装置6を、車両ドア3aに対して、キープレート5が車両前後方向及び上下方向に傾斜する方向へ操作されるように配置してもよい。
・上記実施の形態では、車両3のドア錠4aを施錠・解錠する錠装置6に具体化したが、このような態様に限定されず、例えば玄関ドア等に設けられたロック装置を施錠・解錠するための錠装置として具体化してもよい。
・上記実施の形態では、錠装置6を、設置対象としての車両ドア3aの内部に設けたが、該車両ドア3aから錠装置6を突出させてもよい。このように、錠装置6を設置対象から突出させた場合は、当該錠装置6に対して該設置対象の意匠面に沿った方向からキープレート5を挿入するように構成してもよい。
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記作動体の前記鍵孔の開口端部から前記作動体の回転中心までの距離が、前記出力軸と前記出力レバーとの係合位置から前記作動体の回転中心までの距離よりも小さくなるように設定されたことを特徴とする請求項4に記載の錠装置。本発明によれば、作動体の鍵孔の開口端部から作動体の回転中心までの距離と、出力軸と出力レバーの係合位置から作動体の回転中心までの距離との間の差に対応する分だけ、設置対象の意匠面に沿ったキープレートの操作量に対する出力軸の回転変位量を大きくすることができる。このため、キープレートの操作量が作動体によって拡大されて出力レバーに伝達される。よって、ロック装置を操作するために要求されるキープレートの操作量を小さくすることができる。
3a…設置対象としての車両ドア、3b…意匠面、4a…ロック装置としてのドア錠、5…キープレート、10…ケース、11a…開口部、16…支持軸、20…作動体、21,22…回転軸、23…鍵孔、25…作動機構を構成する出力軸、30…作動機構を構成する出力レバー、40…ピンタンブラ。