JP2009154248A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層と、Al2O3層と改質(Ti,Al)CNO層の交互積層からなる上部層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、改質(Ti,Al)CNO層は、層の縦断面研磨面の法線に対して、(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界と設定した場合、測定領域において粒界として識別される結晶粒相互間の界面のうち、(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さGBLと、測定した層の層厚Tの比の値GBL/Tが250〜500を示す。
【選択図】 なし
Description
(a)化学蒸着形成された、チタンの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層、
(b)化学蒸着形成された、0.5〜3μmの平均層厚を有し、微量のSを含有する酸化アルミニウム層と、0.01〜0.5μmの平均層厚を有するTiとAlの炭窒酸化物(以下、(Ti,Al)CNOで示す)層との交互積層からなり、合計平均層3〜15μmの上部層、
以上(a)、(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具(特許文献1参照。以下、従来被覆工具という)が知られており、この被覆工具は、上部層が靭性を有し厚膜化が可能であり、すぐれた耐チッピング性を示すことが知られている。
また、硬質被覆層として、Ti化合物層とAl2O3層とを蒸着形成した被覆工具において、両層の中間層として、TiとAlの炭窒酸化物層を介在形成した被覆工具(特許文献2、3参照)も知られており、この硬質被覆層は強固な層間密着性を有するため、軟鋼やステンレス鋼等の難削材の切削加工において、すぐれた耐チッピング性を示すことも知られている。
(イ)上記従来被覆工具の(Ti,Al)CNO層(以下、従来(Ti,Al)CNO層という)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成(容量%):TiCl4 :1〜5%、AlCl3 :0.5〜15%、CH4 :0.5〜5%、CO:1〜10%、N2 :1〜40%、H2 :残り、
反応雰囲気温度:850〜1050℃、
反応雰囲気圧力:4〜27kPa、
の条件で蒸着することにより形成されるが、
(ロ)上記の蒸着条件を変更し、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、AlCl3:1〜5%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件でチタンとアルミニウムの複合炭窒酸化物(以下、「改質(Ti,Al)CNO」という)層を蒸着形成すると、このような条件で蒸着形成された改質(Ti,Al)CNO層は、すぐれた高温強度とすぐれた耐熱性とを備えていること。
なお、上記特許文献2に記載される(Ti,Al)CNO層の蒸着条件は、
反応ガス組成(容量%):TiCl4:0.2〜2.7%、AlCl3:0.2〜2%、CH4 :0.2〜4%、CO2:0.05〜0.6%、N2:1〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:960〜980℃、
反応雰囲気圧力:6〜7kPa、であり、
また、上記特許文献3に記載される(Ti,Al)CNO層の蒸着条件は、
反応ガス組成(容量%):TiCl4:1〜2%、AlCl3:0.4〜1.5%、CH3CN:0.1〜0.8%、CO2:0.1〜0.5%、HCl:0.2〜0.7%、N2:1〜10%、H2:残り、
反応雰囲気温度:900〜960℃、
反応雰囲気圧力:6〜7kPa、
であるから、
本発明による改質(Ti,Al)CNO層の蒸着条件は、上記従来技術のいずれとも明らかに異なるものである。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定し、その上で電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記改質(Ti,Al)CNO層の縦断面研磨面を、例えば、層厚×幅30μmの範囲で測定し、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm。以下、GBLという)を求め、さらに、このGBLと改質(Ti,Al)CNO層の層厚(μm。以下、Tで示す)の比(即ち、GBL/T)を求めると、前記改質(Ti,Al)CNO層は、表7に示される通り、GBL/Tが250〜500という大きな値を示し、この高いGBL/Tの値は、成膜時の反応ガス組成、反応雰囲気温度、反応雰囲気圧力の組み合わせによって変化すること(なお、従来(Ti,Al)CNO層のGBL/Tは、表8に示される通り、いずれも小さな値である。)。
上記の改質(Ti,Al)CNO層はGBL/Tが250〜500という大きな値を示し、上記従来(Ti,Al)CNO層に比して一段とすぐれた高温強度と耐熱性とを備え、さらに強固な層間密着強度をも有しているため、改質(Ti,Al)CNO層とAl2O3層との交互積層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成した場合には、この硬質被覆層を備えた被覆工具は、高熱発生を伴う耐熱合金の切削加工においても、すぐれた耐チッピング性を発揮し、さらに、上部層の厚膜化が可能となるため、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するようになること。
「 炭化タングステン(WC)基超硬合金または炭窒化チタン(TiCN)基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層、炭窒酸化物(TiCNO)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層、
(b)1〜3μmの一層平均層厚を有する酸化アルミニウム(Al2O3)層と、1〜3μmの一層平均層厚を有するTiとAlの複合炭窒酸化物(改質(Ti,Al)CNO)層の、少なくとも3層以上の交互積層からなり、かつ、3〜30μmの合計平均層厚を有する上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層をいずれも化学蒸着で形成してなる表面被覆切削工具(被覆工具)において、
(c)上記上部層の交互積層を構成するTiとAlの複合炭窒酸化物(改質(Ti,Al)CNO)層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(GBL(μm))を求め、この粒界の長さ(GBL(μm))と測定したTiとAlの複合炭窒酸化物(改質(Ti,Al)CNO)層の層厚(T(μm))との比の値(GBL/T)が250〜500を示すTiとAlの複合炭窒酸化物(改質(Ti,Al)CNO)層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具(被覆工具)。」
に特徴を有するものである。
(a)下部層(Ti化合物層)
TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と、交互積層を構成する改質(Ti,Al)CNO層、Al2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が2μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、チッピングを起し易くなることから、その合計平均層厚を2〜15μmと定めた。
(b)交互積層の構成層であるAl2O3層
交互積層の構成層であるAl2O3層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その1層平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その1層平均層厚が3μmを越えると、改質(Ti,Al)CNO層との交互積層による上部層の特に高温強度向上効果が低減するので、その1層平均層厚を1〜3μmと定めた。
(c)交互積層の構成層である改質(Ti,Al)CNO層
通常の化学蒸着装置にて、例えば、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、AlCl3:1〜5%、CO:1〜5%、N2:50〜60%、H2:残り、
反応雰囲気温度:850〜900℃、
反応雰囲気圧力:10〜22kPa、
の条件で化学蒸着することにより形成される改質(Ti,Al)CNO層は、Tiとの合量に占める割合(Al/(Ti+Al))で、0.10〜0.70(但し、原子比)のAlを含有し、そして、格子点にTi、Al、炭素、窒素および酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有しており(図1参照)、さらに、この改質(Ti,Al)CNO層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する改質(Ti,Al)CNO層の結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2参照)を測定し、この結果得られた測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、改質(Ti,Al)CNO層の縦断面研磨面を、測定領域、例えば、層厚×幅30μmの範囲、で測定し、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界(以下、大傾角粒界という)についてその粒界の長さGBL(μm)を求め、そして、GBL(μm)と、改質(Ti,Al)CNO層の層厚T(μm)との比を求めると、GBL/Tは250〜500という値を示し、そして、GBL/Tがこのように大きな値を示す改質(Ti,Al)CNO層は、一段とすぐれた高温強度と耐熱性を備えるようになるため、耐熱合金の高速切削加工により切刃部が過熱されたとしても、改質(Ti,Al)CNO層自体の有する高温強度および改質(Ti,Al)CNO層を交互積層したことによる層間密着強度の向上によって上部層の強度が高められ、硬質被覆層の上部層にチッピングが発生することを防止でき、上部層の厚膜化が可能となり、さらに、偏摩耗、熱塑性変形の発生をも抑えることができることから、長期の使用にわたって、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を示す。
なお、GBL/Tの値は、反応ガス組成、反応雰囲気温度・圧力によって影響され、例えば、従来(Ti,Al)CNO層におけるGBL/Tの値は、50〜150程度の小さな値(表8参照)であって、耐熱性、高温強度の改善が図られていないため、耐熱合金の高速切削という厳しい切削条件では硬質被覆層にチッピングの発生が見られ(表9参照)、また、耐摩耗性の低下も見られた。
上記改質(Ti,Al)CNO層の層厚について、その1層平均層厚が1μm未満では、高温強度、耐熱性、層間密着強度の十分な向上効果を期待できず、一方、その平均層厚が3μmを超えると、上部層の高温硬さが低下傾向を示し、耐摩耗性が不十分になることから、その1層平均層厚を1〜3μmと定めた。
硬質被覆層の下部層としてTi化合物層を表3に示される条件で、表6に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、
ついで、改質(Ti,Al)CNO層を、表4に示される条件で、表7に示される組み合わせおよび1層目標層厚で蒸着し、
また、Al2O3層を、表3に示される条件にて、表7に示される1層目標層厚で蒸着し、
上記改質(Ti,Al)CNO層と上記Al2O3層との蒸着を交互に行うことにより、交互積層構造からなる上部層を形成し、
本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層としてのTi化合物層を表3に示される条件で、表6に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、
ついで、従来(Ti,Al)CNO層を、表5に示される条件で、表8に示される組み合わせおよび1層目標層厚で蒸着形成し、
また、Al2O3層を、表3に示される条件にて、表8に示される1層目標層厚で蒸着し、
上記従来(Ti,Al)CNO層と上記Al2O3層との蒸着を交互に行うことにより、交互積層構造からなる上部層を形成し、
比較被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
被削材: Ni:54%、Cr:19%、Mo:3%、Nb:5%、Fe:18.5%を含有するNi基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 120 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.2 mm/rev、
切削時間: 8 分、
の条件(切削条件A)でのNi基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、50m/min)、
被削材: Ni:42.7%、Cr:13.5%、Mo:6.2%、Fe:34%を含有するFe基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 170 m/min、
切り込み: 1.0 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 6 分、
の条件(切削条件B)でのFe基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、80m/min)、
被削材: Co:61%、Ni:3%、Cr:28%、W:4%、Fe:3%を含有するCo基耐熱合金の丸棒、
切削速度: 150 m/min、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 7 分、
の条件(切削条件C)でのCo基耐熱合金の湿式高速連続切削試験(通常の切削速度は、60m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ2〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層、
(b)1〜3μmの一層平均層厚を有する酸化アルミニウム層と、1〜3μmの一層平均層厚を有するTiとAlの複合炭窒酸化物層の、少なくとも3層以上の交互積層からなり、かつ、3〜30μmの合計平均層厚を有する上部層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層をいずれも化学蒸着で形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記上部層の交互積層を構成するTiとAlの複合炭窒酸化物層は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と測定したTiとAlの複合炭窒酸化物層の層厚(μm)との比の値が250〜500を示すTiとAlの複合炭窒酸化物層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
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