JP2009103280A - 動圧軸受装置およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】低コストにスラスト動圧発生部を有する部材の高精度化および高強度化を実現可能とし、高い軸受性能を長期に亘って安定維持可能な動圧軸受装置を低コストに提供可能とする。
【解決手段】ハウジング7は、平板円盤状の平面部7bと、平面部7bの外径端部から軸方向に延びる円筒状の側部7aとが一体の有底筒状をなし、このハウジング7はMIM成形品とされる。ハウジング7の平面部7bの上側端面7b1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部Cが、プレス加工で形成されている。
【選択図】図2
【解決手段】ハウジング7は、平板円盤状の平面部7bと、平面部7bの外径端部から軸方向に延びる円筒状の側部7aとが一体の有底筒状をなし、このハウジング7はMIM成形品とされる。ハウジング7の平面部7bの上側端面7b1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部Cが、プレス加工で形成されている。
【選択図】図2
Description
本発明は動圧軸受装置およびその製造方法に関する。
動圧軸受装置は、軸受隙間を満たす流体(例えば、潤滑油)に動圧作用を発生させ、その圧力で回転側部材を固定側部材に対して非接触で支持する軸受装置である。この動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、より具体的には、HDD等のディスク駆動装置に搭載されるスピンドルモータ、レーザビームプリンタに搭載されるポリゴンスキャナモータ、PCに搭載されるファンモータなどに組み込まれる軸受装置として好適に使用されている。
上記モータのうち、例えばディスク駆動装置用のスピンドルモータに組み込まれる動圧軸受装置は、回転側部材(例えば軸部材)をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、スラスト方向に支持するスラスト軸受部とを有する。近年では、ラジアル軸受部およびスラスト軸受部の双方を、ラジアル軸受隙間およびスラスト軸受隙間を介してそれぞれ対向する二面の何れか一方に動圧溝等の動圧発生部を設けた動圧軸受で構成する場合が多い。
近年のディスク駆動装置の大容量化に伴い、動圧軸受装置に搭載されるディスク枚数が増加する傾向にある。かかる搭載ディスク枚数の増加は、特に、スラスト軸受隙間を形成する回転側部材の端面と固定側部材の端面間における摺動抵抗の増大や、軸方向に作用する負荷荷重の増大を招くため、安定した軸受性能を長期に亘って維持可能とする上で、各構成部材の耐摩耗性や強度を向上する必要が生じている。その一方、情報機器の低価格化に伴い、動圧軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しさを増している。
これらの要求を同時に満足するための一手段として、例えば特開2003−239974号公報(特許文献1)に記載のように、スラスト軸受隙間を形成する一方側(固定側)の部材であり、一端面にスラスト動圧発生部を有するハウジングを、いわゆるMIM(メタル・インジェクション・モールド)成形品とすることが考えられる。詳細に述べると、当該ハウジングは、スラスト動圧発生部形状に対応した溝型を有する金型に、金属粉末と、これに流動性をもたせるバインダとを混練してなる混合材料を射出・充填し、これによって得られた成形品を脱脂、焼結等したものであり、射出成形と同時にスラスト動圧発生部が一端面に型成形されたものである。
特開2003−239974号公報
ところで、スラスト動圧発生部は、例えば、複数の動圧溝をスパイラル形状に配列したものとされるのが一般的であるが、動圧溝の溝深さは数μm〜十数μm程度の微小なものとされる。そのため、上記のように射出成形と同時にスラスト動圧発生部を型成形する場合、射出材料としての上記混合材料に含まれる金属粉末は、溝型内への充填性(換言すると、スラスト動圧発生部の成形精度)を考慮すると、その粒径がミクロンオーダーの極小のものを用いる必要がある。一般に、金属粉末は、その粒径が小さくなる程高価となるため、高精度なスラスト動圧発生部を形成しようとすると、高コスト化が避けられないものとなる。
また、射出成形と同時にスラスト動圧発生部を型成形する場合、成形収縮に起因して生じるヒケの影響により、スラスト動圧発生部の精度(例えば、平面度:JIS B 0621を参照)が悪化する場合が多い。このように、スラスト動圧発生部の精度が悪化した部材をそのまま用いると、スラスト軸受隙間の隙間幅を所定値に管理することができず、スラスト軸受部における軸受性能の低下を招く。
本発明の課題は、スラスト動圧発生部を有する部材の高精度化および高強度化を低コストに実現することができ、高い軸受性能を長期に亘って安定維持可能な動圧軸受装置を低コストに提供可能とすることにある。
上記課題を解決するため、本発明では、固定側部材と、固定側部材に対する相対回転時に、固定側部材との間にスラスト軸受隙間を形成する回転側部材と、スラスト軸受隙間を形成する固定側部材の面と回転側部材の面とのうち、何れか一方の面に形成されたスラスト動圧発生部とを備え、固定側部材と回転側部材の相対回転時に、スラスト動圧発生部で、スラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させる動圧軸受装置において、スラスト動圧発生部を有する部材がMIM成形品であり、かつスラスト動圧発生部がプレス加工で形成されていることを特徴とする動圧軸受装置を提供する。
上記のように、スラスト動圧発生部を有する部材をMIM成形品とすれば、スラスト動圧発生部の耐摩耗性向上や、部材強度の向上が低コストに実現可能となる。また、上記のようにスラスト動圧発生部をプレス加工で形成すれば、スラスト動圧発生部を有する部材の射出成形段階では、射出成形と同時にスラスト動圧発生部を型成形する場合のように、スラスト動圧発生部成形用の溝型への射出材料の充填性を考慮する必要がない。そのため、射出材料を構成する金属粉末として、その粒径が比較的大きいものを使用することが可能となり、材料コスト、ひいては製造コストを低廉化することができる。また一般に、MIM成形品には、射出成形後の成形収縮等に起因して形状変動が生じるが、プレス加工でスラスト動圧発生部を形成する際、スラスト動圧発生部が設けられる部分の平面度を矯正することもできる。
MIM成形品であるスラスト動圧発生部を有する部材は、軸受内部に充満される流体(例えば、潤滑油)の漏洩を防止する観点から、その相対密度を95%以上とするのが望ましい。なお「相対密度」とは、空隙(内部気孔)を除いた固体部分の密度をいい、真密度と称される場合もある。
上記本発明は、スラスト動圧発生部を有する部材が、スラスト動圧発生部を有する平面部と、平面部の一端から軸方向に延びる筒状の側部とを一体に備えるもののである場合にも好適である。かかる構成を有する部材の具体例として、ブラケット(モータブラケット)に固定されるハウジングやディスク搭載面を有するディスクハブを挙げることができる。
MIM成形品であると共に、スラスト動圧発生部がプレス加工で形成された上記部材は、金属粉末にバインダを混練してなる混合材料で射出成形した射出成形体からバインダを除去して中間成形体を製作し、該中間成形体にプレス加工によってスラスト動圧発生部を形成した後、中間成形体を焼結することで製造することができる。バインダ除去後(脱脂後)に得られる中間成形体は多数の内部気孔を有するものであり、焼結後に得られる焼結体に比べ軟質である。そのため、上記のようにバインダ除去後でかつ焼結前にプレス加工を施すようにすれば、高精度のスラスト動圧発生部を容易に形成することができる。また、プレス加工時の圧迫力を小さく設定することができるため、残留応力に起因した反り等の不具合発生も効果的に抑制可能となる。
上記製造方法において、焼結後(焼結体の形成後)、スラスト動圧発生部の平面度を矯正する矯正工程をさらに設けることも可能である。かかる矯正工程は必ずしも設ける必要はなく、焼結前後でスラスト動圧発生部の平面度に狂いが生じた場合等、必要に応じて設ければ足りる。スラスト動圧発生部を有する部材が、スラスト動圧発生部が設けられた平面部と、平面部の一端から軸方向に延びる筒状の側部とを一体に有するもの(例えば、上記のハウジング)の場合、矯正工程時には、スラスト動圧発生部と側部の内周面との間の直角度を同時に矯正することもできる。
以上に示すように、本発明によれば、低コストにスラスト動圧発生部を有する部材の高精度化および高強度化を図ることができ、高い軸受性能を長期に亘って安定維持可能な動圧軸受装置が低コストに提供可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する動圧軸受装置1と、軸部材2の一端に設けられたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、動圧軸受装置1のハウジング7を内周に固定したブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが複数枚(図示例は3枚)保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3およびこれに保持されたディスクDが、軸部材2と一体に回転する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る動圧軸受装置1を示している。同図に示す動圧軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2を内周に挿入した軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8を内周に固定したハウジング7と、ハウジング7の一端開口をシールするシール部材9とを主要な構成部材として備える。この実施形態では、軸部材2が回転側部材を、また、軸部材2以外の部材(ハウジング7等)が固定側部材を構成する。なお、説明の便宜上、シール部材9の側を上側、これとは軸方向反対側を下側として、以下説明を進める。
軸部材2は、高剛性の金属材料、例えばステンレス鋼で、軸部2aと、軸部2aの下端から外径側に張り出した平板状のフランジ部2bとを一体又は別体に有する断面逆T字状に形成される。本実施形態において、軸部2aの外周面2a1は、軸方向の略中央部に環状の凹部が設けられている点を除き凹凸のない平滑な円筒面とされ、また、フランジ部2bの両端面2b1,2b2は、それぞれ凹凸のない平滑な平坦面とされる。
軸受スリーブ8は、例えば、銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ8は、焼結金属以外にも、黄銅等の軟質金属材料や、焼結金属ではない他の多孔質体、例えば多孔質樹脂で形成することもできる。
軸受スリーブ8の内周面8aには、ラジアル軸受部R1、R2のラジアル軸受面となる円筒状領域が上下二箇所に離隔して設けられ、該二つの領域には、図3(a)に示すように、複数の動圧溝Aa1をヘリングボーン形状に配列してなるラジアル動圧発生部A1と、複数の動圧溝Aa2をヘリングボーン形状に配列してなるラジアル動圧発生部A2とがそれぞれ設けられる。本実施形態において、上側の動圧溝Aa1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。一方、下側の動圧溝Aa2は軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法はそれぞれ上記軸方向寸法X2と等しくなっている。なお、ラジアル動圧発生部A1,A2は、軸部2aの外周面2a1に形成することもでき、また、複数の動圧溝をスパイラル形状等に配列したものであっても良い。
軸受スリーブ8の下側端面8bには、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる環状領域が設けられ、該環状領域には、図3(b)に示すように、複数の動圧溝Baをスパイラル形状に配列してなるスラスト動圧発生部Bが設けられる。なお、スラスト動圧発生部Bは、フランジ部2aの上側端面2a1に形成することもでき、また、複数の動圧溝をヘリングボーン形状等に配列したものであっても良い。
軸受スリーブ8の外周面8dには、両端面8b,8cに開口した軸方向溝8d1が1又は複数本(本実施形態では3本。図3(b)を参照。)形成される。また、軸受スリーブ8の上側端面8cには、円環溝8c1、およびこの内径側に接続された1又は複数本の径方向溝8c2が形成される。
シール部材9は、例えば、黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは樹脂材料でリング状に形成される。このシール部材9の内周面9aと、軸部2aのテーパ面2a2との間には所定のシール空間S1が形成される。本実施形態において、シール部材9の内周面9aは径一定の円筒面とされる一方、軸部2aのテーパ面2a2は上方に向かって外径寸法を漸次縮小させた面とされる。従ってシール空間S1は、ハウジング7の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈する。シール部材9の下側端面9bのうち、半径方向略中央部よりも外径側の領域には、内径側の領域よりも上方に後退した段差面9b1が形成される。
ハウジング7は、金属粉末と、これに流動性をもたせるためのバインダとを混練してなる混合材料で射出成形された射出成形体を脱脂、焼結等することによって形成された、いわゆるMIM成形品であり、平板円盤状の平面部7bと、平面部7bの外径端部から上方に延びる筒状(厳密には円筒状)の側部7aとが一体の有底筒状をなす。さらに、本実施形態のハウジング7は、側部7aと平面部7bの境界内周に両部7a,7bと一体の段部7dを備える。動圧軸受装置1の組立時、この段部7dに下側端面8bが当接するまで軸受スリーブ8を挿入することにより、第1および第2スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の隙間幅が規定値に設定される。平面部7bの上側端面7b1には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる環状領域が設けられ、該環状領域には、図4に示すように、複数の動圧溝Caをスパイラル形状に配列してなるスラスト動圧発生部Cが設けられる。
このハウジング7は、図5に模式的に示すように、(A)射出成形工程11、(B)脱脂工程12、(C)スラスト動圧発生部形成工程13、(D)焼結工程14、および(E)矯正工程15を順に経て製造される。以下、各工程の詳細について説明を行う。
(A)射出成形工程
射出成形工程11では、金属粉末を主成分とし、これに流動性をもたせるためのバインダを所定量混練してなる混合材料を用いて、射出成形体が形成される。射出成形体は、完成品としてのハウジング7形状に倣い、側部7a、平面部7b、および段部7dを一体に有するものであるが、スラスト動圧発生部Cは形成されていない。射出材料として用いられる上記混合材料のうち、金属粉末としては、ステンレス系、鉄系、チタン系、銅系等の金属粉末が使用可能であるが、本実施形態では、ステンレス系金属粉末を用いている。一方、バインダとしては、例えば、パラフィンワックス、カルナバワックス、脂肪酸エステル等の有機化合物と、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等の比較的低融点の熱可塑性樹脂とを、それぞれ一又は複数種混合したものが用いられる。
射出成形工程11では、金属粉末を主成分とし、これに流動性をもたせるためのバインダを所定量混練してなる混合材料を用いて、射出成形体が形成される。射出成形体は、完成品としてのハウジング7形状に倣い、側部7a、平面部7b、および段部7dを一体に有するものであるが、スラスト動圧発生部Cは形成されていない。射出材料として用いられる上記混合材料のうち、金属粉末としては、ステンレス系、鉄系、チタン系、銅系等の金属粉末が使用可能であるが、本実施形態では、ステンレス系金属粉末を用いている。一方、バインダとしては、例えば、パラフィンワックス、カルナバワックス、脂肪酸エステル等の有機化合物と、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等の比較的低融点の熱可塑性樹脂とを、それぞれ一又は複数種混合したものが用いられる。
(B)脱脂工程
この脱脂工程12では、上記射出成形工程11で成形された射出成形体中に分散されたバインダを除去することにより、多数の内部気孔を有する多孔質の中間成形体が形成される。脱脂方法としては、光線の照射によって脱脂する光脱脂、加熱によって脱脂する加熱脱脂、あるいは水や有機溶媒等の溶媒中への浸漬によって脱脂する溶媒脱脂等、公知の脱脂方法の何れを採用しても良く、使用したバインダ種等に応じて選択すれば良い。
この脱脂工程12では、上記射出成形工程11で成形された射出成形体中に分散されたバインダを除去することにより、多数の内部気孔を有する多孔質の中間成形体が形成される。脱脂方法としては、光線の照射によって脱脂する光脱脂、加熱によって脱脂する加熱脱脂、あるいは水や有機溶媒等の溶媒中への浸漬によって脱脂する溶媒脱脂等、公知の脱脂方法の何れを採用しても良く、使用したバインダ種等に応じて選択すれば良い。
(C)スラスト動圧発生部形成工程
このスラスト動圧発生部形成工程13では、上記脱脂工程12を経て形成された多孔質の中間成形体に、スラスト動圧発生部C形状に対応した溝型を押し付けることにより、中間成形体の所定部位(ハウジング7の平面部7bの上側端面7b1に相当する部位)にスラスト動圧発生部Cが型成形される(プレス加工)。
このスラスト動圧発生部形成工程13では、上記脱脂工程12を経て形成された多孔質の中間成形体に、スラスト動圧発生部C形状に対応した溝型を押し付けることにより、中間成形体の所定部位(ハウジング7の平面部7bの上側端面7b1に相当する部位)にスラスト動圧発生部Cが型成形される(プレス加工)。
(D)焼結工程
スラスト動圧発生部Cが形成された中間成形体は焼結工程14に移送される。この焼結工程14では、スラスト動圧発生部Cが形成された中間成形体を所定温度の加熱炉内に投入し、この中間成形体に加熱処理(焼結処理)を施すことにより、金属粉末が相互にネック結合してなる焼結体が得られる。中間成形体に対する焼結処理は、均一温度で行っても良いし、加熱温度を徐々に、あるいは段階的に上昇させるようにして行っても良い。後者は、焼結体に割れや変形等の不具合が生じ易い場合に好適である。なお、焼結処理の温度、時間等は、焼結体の相対密度が95%以上となるように設定する。焼結体(ハウジング7)の相対密度が95%未満の場合、ハウジング7に必要とされる強度を満足できないおそれがある他、ハウジング7内部に充満される流体(潤滑油)が内部気孔を介して外部に漏れ出すおそれがあるからである。
スラスト動圧発生部Cが形成された中間成形体は焼結工程14に移送される。この焼結工程14では、スラスト動圧発生部Cが形成された中間成形体を所定温度の加熱炉内に投入し、この中間成形体に加熱処理(焼結処理)を施すことにより、金属粉末が相互にネック結合してなる焼結体が得られる。中間成形体に対する焼結処理は、均一温度で行っても良いし、加熱温度を徐々に、あるいは段階的に上昇させるようにして行っても良い。後者は、焼結体に割れや変形等の不具合が生じ易い場合に好適である。なお、焼結処理の温度、時間等は、焼結体の相対密度が95%以上となるように設定する。焼結体(ハウジング7)の相対密度が95%未満の場合、ハウジング7に必要とされる強度を満足できないおそれがある他、ハウジング7内部に充満される流体(潤滑油)が内部気孔を介して外部に漏れ出すおそれがあるからである。
(E)矯正工程
以上のようにして得られた焼結体は矯正工程15に移送される。矯正工程15では、焼結することにより、中間成形体に設けたスラスト動圧発生部Cの平面度や、スラスト動圧発生部C(平面部7bの上側端面)に対する側部7aの内周面7a1の直角度に狂いが生じた場合に、これらが所定値に矯正される。なお、この矯正工程15は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければ足りる。
以上のようにして得られた焼結体は矯正工程15に移送される。矯正工程15では、焼結することにより、中間成形体に設けたスラスト動圧発生部Cの平面度や、スラスト動圧発生部C(平面部7bの上側端面)に対する側部7aの内周面7a1の直角度に狂いが生じた場合に、これらが所定値に矯正される。なお、この矯正工程15は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければ足りる。
動圧軸受装置1は以上の構成からなり、シール部材9でシールされたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔も含め流体としての潤滑油が充満される。
以上の構成からなる動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aに軸方向に離隔して設けたラジアル動圧発生部A1,A2と、軸部2aの外周面2a1との間にはそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして、軸部材2の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間に形成される油膜は、動圧溝Aa1,Aa2の動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離隔形成される。
また、これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8bに設けたスラスト動圧発生部Bとフランジ部2bの上側端面2b1との間にスラスト軸受隙間が形成されると共に、ハウジング7の平面部7bの上側端面9b1に設けたスラスト動圧発生部Cとフランジ部2bの下側端面2b1との間にスラスト軸受隙間が形成される。そして、軸部材2の回転に伴い、両スラスト軸受隙間に形成される油膜は、動圧溝Ba,Caの動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが形成される。
また、軸部材2の回転時には、上述のように、シール空間S1が、ハウジング7の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、シール空間S1内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用により、シール空間が狭くなるハウジング7の内部方向に引き込まれる。さらに、本実施形態では、シール空間S1を形成する軸部2aのテーパ面2a2が上方に向かって外径寸法を漸次縮小させているため、軸部材2の回転時には遠心力シールとしての機能も付加される。これらのことから、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。また、シール空間S1は、ハウジング7の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内では、潤滑油の油面は常にシール空間S1内にある。
また、ラジアル軸受部R1を形成する上側の動圧溝Aa1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝Aa1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面2a1との間の隙間に満たされた潤滑油は下方に流動し、軸受スリーブ8の下側端面8bとフランジ部2bの上側端面2b1との間の隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8d1で形成される流体通路→シール部材9の段差面9b1で形成される流体通路→軸受スリーブ8の円環溝8c1および径方向溝8c2で形成される流体通路という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するようにすることで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、シール空間S1が連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S1内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
以上に示すように、スラスト動圧発生部Cを有するハウジング7をMIM成形品、特にステンレス系金属粉末を主体とするMIM成形品とすれば、スラスト動圧発生部C(の摺動面)の耐摩耗性向上が低コストに実現される。さらに本実施形態のハウジング7は、側部7aと平面部7bとが一体の有底筒状に形成されるから、平面部7bの抜け強度も効果的に向上する。
また、スラスト動圧発生部Cをプレス加工で形成したので、ハウジング7の射出成形段階では、射出成形と同時にスラスト動圧発生部Cを型成形する場合のように、スラスト動圧発生部C成形用の溝型への射出材料の充填性を考慮する必要がない。そのため、射出材料を構成する金属粉末として、その粒径が比較的大きいものを使用することができ、材料コスト、ひいては製造コストを低廉化することができる。また、プレス加工でスラスト動圧発生部Cを形成するのであれば、射出成形後の成形収縮等に起因して平面部7bの上側端面7b1の平面度に狂いが生じていた場合でも、プレス加工時に平面度の狂いを矯正することができる。
なお、金属粉末は、その粒径(平均粒径)が大きすぎても好ましくない事態が生じるおそれがある。すなわち、金属粉末の平均粒径が所定の大きさを超えると、完成品(ここではハウジング7)の相対密度が低くなり、潤滑油の漏洩を効果的に防止するのが難しくなる他、必要とされる強度を確保できないおそれがある。従って、ハウジング7の成形に用いる金属粉末は、この点も考慮して選択するのが望ましい。
さらに本発明では、バインダ除去後でかつ焼結処理前にスラスト動圧発生部Cをプレス加工で形成した。バインダ除去後に得られる成形体は多数の内部気孔を有する多孔質体であり、焼結後に得られる焼結体に比べて軟質である。そのため、バインダ除去後でかつ焼結前にプレス加工を施すようにすれば、高精度のスラスト動圧発生部Cを容易に形成することができる。また、プレス加工時の圧迫力を比較的小さく設定することができるため、プレス加工後に、残留応力等に起因して平面部7bに反り等の不具合が発生するのを可及的に防止することができる。
以上、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1について説明を行ったが、本発明は上記構成の動圧軸受装置1に限定適用されるものではない。以下、本発明を適用可能な動圧軸受装置1の他の実施形態について説明を行うが、説明の簡略化の観点から、以上で説明した構成に準ずるものには共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
図6は、本発明の構成を適用した動圧軸受装置1の第2実施形態を示すものである。同図に示す動圧軸受装置1が図2に示すものと異なる主な点は、軸受スリーブ8の上端部に、平板状の第1シール部19aと、第1シール部19aの外径側端部から下方に張り出した円筒状の第2シール部19bとを一体に備える断面逆L字形状のシール部材19を固定し、第1シール部19aの内周面19a2と軸部2aの外周面2a1との間に第1のシール空間S1を形成すると共に、第2シール部19bの外周面19b2とハウジング7の内周面との間に第2のシール空間S2を形成した点にある。かかる構成であれば、第2のシール空間S2をシール部材19の外周側に設けている分、第1のシール空間S1の軸方向寸法を図2に示す構成よりも小さくすることが可能である。そのため、例えば、ハウジング7の軸方向寸法を長大化させることなく軸受スリーブ8の軸方向長さ、換言すると両ラジアル軸受部R1、R2間の軸受スパンを図2に示す形態よりも大きくすることができ、モーメント剛性を高めることができる。この実施形態では、図2に示す第1実施形態と同様にハウジング7がMIM成形品であり、かつその平面部7bの上側端面7b1にスラスト動圧発生部Cがプレス加工で形成されている。
図7は、本発明の構成を適用した動圧軸受装置1の第3実施形態を示すものである。同図に示す動圧軸受装置1が以上で説明したものと異なる主な点は、ハウジング7が両端を開口させた円筒状をなし、その下端開口部がハウジング7と別体の蓋部材20で封止されている点にある。この実施形態では、蓋部材20が本発明でいう「スラスト動圧発生部を有する部材」に相当する。すなわち、蓋部材20は、平板状の平面部20aと、円筒状の側部20bとを一体に有する有底筒状のMIM成形品とされ、平面部20aの上側端面20a1にスラスト動圧発生部Cがプレス加工で形成されている。
図8は、本発明の構成を適用した動圧軸受装置1の第4実施形態を示すものである。同図に示す動圧軸受装置1が以上で説明したものと異なる主な点は、第2スラスト軸受部T2が、軸部材2の上端部に設けられたディスクハブ3の下側端面3a1とハウジング7の上側端面7a2との間に設けられた点、およびシール空間S1がハウジング7の上部外周面7a3とディスクハブ3の内周面3b1との間に設けられた点にある。この実施形態では、ディスクハブ3が本発明でいう「スラスト動圧発生部を有する部材」に相当する。すなわち、ディスクハブ3は、リング状の平面部3aと、平面部3aの外径端部から下方に延びる円筒状の側部3bとを一体に有するMIM成形品とされ、平面部3aの下側端面3a1にスラスト動圧発生部Cがプレス加工で形成されている。なお、ディスクハブ3は、これを単体でMIM成形した後、軸部材2に適宜の手段で固定する他、軸部材2(軸部2a)をインサートしてこれをMIM成形することも可能である。
上述した各実施形態においては、平板状の平面部と、平面部から軸方向に延びる筒状(円筒状)の側部とを一体に有する部材をMIM成形品とし、かつこの部材の平面部の端面にプレス加工でスラスト動圧発生部を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定適用されるものではない。すなわち、平面部のみからなる平板状の部材をMIM成形品とし、かつその端面にスラスト動圧発生部をプレス加工で形成することも可能である。かかる構成は、例えば、図2に示すシール部材9の下側端面にスラスト動圧発生部を設けるような場合や、図7に示す蓋部材20を平面部のみからなる平板状に形成し、この蓋部材20の上側端面にスラスト動圧発生部を設けるような場合に採用可能である(何れも図示は省略)。
以上では、各軸受部R1、R2、T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受、多円弧軸受、あるいは非真円軸受を、また、スラスト軸受部T1、T2として、いわゆるステップ軸受や波型軸受を採用しても良い。さらに、ラジアル軸受部は、軸方向に離隔した二箇所に設ける他、軸方向の一箇所あるいは軸方向に離隔した三箇所以上に設けることもできる(何れも図示は省略)。
また、以上では、軸部材2を回転側、ハウジング7等を固定側とした動圧軸受装置1について説明を行ったが、これとは逆に、軸部材2を固定側、ハウジング7等を回転側とした動圧軸受装置1についても本発明の構成を好適に適用することが可能である。
また、以上では、動圧軸受装置1の内部に充満する潤滑流体として潤滑油を例示しているが、潤滑油以外にも、空気等の気体や、グリースを使用することもできる。
1 動圧軸受装置
2 軸部材
3 ディスクハブ
7 ハウジング
7a 側部
7b 平面部
8 軸受スリーブ
11 射出成形工程
12 脱脂工程
13 スラスト動圧発生部形成工程
14 焼結工程
15 矯正工程
B,C スラスト動圧発生部
R1 第1ラジアル軸受部
R2 第2ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部
2 軸部材
3 ディスクハブ
7 ハウジング
7a 側部
7b 平面部
8 軸受スリーブ
11 射出成形工程
12 脱脂工程
13 スラスト動圧発生部形成工程
14 焼結工程
15 矯正工程
B,C スラスト動圧発生部
R1 第1ラジアル軸受部
R2 第2ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部
Claims (6)
- 固定側部材と、固定側部材に対する相対回転時に、固定側部材との間にスラスト軸受隙間を形成する回転側部材と、スラスト軸受隙間を形成する固定側部材の面と回転側部材の面とのうち、何れか一方の面に形成されたスラスト動圧発生部とを備え、固定側部材と回転側部材の相対回転時に、スラスト動圧発生部で、スラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させる動圧軸受装置において、
スラスト動圧発生部を有する部材がMIM成形品であり、かつスラスト動圧発生部がプレス加工で形成されていることを特徴とする動圧軸受装置。 - スラスト動圧発生部を有する部材の相対密度が95%以上である請求項1記載の動圧軸受装置。
- スラスト動圧発生部を有する部材は、スラスト動圧発生部が設けられた平面部と、平面部の一端から軸方向に延びる筒状の側部とを一体に有するものである請求項1記載の動圧軸受装置。
- 固定側部材と、固定側部材に対する相対回転時に、固定側部材との間にスラスト軸受隙間を形成する回転側部材と、スラスト軸受隙間を形成する固定側部材の面と回転側部材の面とのうち、何れか一方の面に形成されたスラスト動圧発生部とを備え、固定側部材と回転側部材の相対回転時に、スラスト動圧発生部で、スラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させる動圧軸受装置において、スラスト動圧発生部を有する部材を製造するに際し、
金属粉末にバインダを混練してなる混合材料で射出成形した射出成形体からバインダを除去して中間成形体を製作し、該中間成形体にプレス加工によってスラスト動圧発生部を形成した後、中間成形体を焼結することを特徴とする動圧軸受装置の製造方法。 - 焼結後、スラスト動圧発生部の平面度を矯正する矯正工程をさらに設けた請求項4記載の動圧軸受装置の製造方法。
- スラスト動圧発生部を有する部材が、スラスト動圧発生部が設けられた平面部と、平面部の一端から軸方向に延びる筒状の側部とを一体に有するものであり、
矯正工程時、スラスト動圧発生部と側部の内周面との間の直角度を同時に矯正する請求項5記載の動圧軸受装置の製造方法。
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