JP2009088191A - 焼結体の製造方法及びこの焼結体の製造方法により製造されるネオジウム鉄ボロン系焼結磁石 - Google Patents

焼結体の製造方法及びこの焼結体の製造方法により製造されるネオジウム鉄ボロン系焼結磁石 Download PDF

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Abstract

【課題】 従来のNd−Fe−B系の焼結磁石の製造方法では、組成比でNdの含有量が所定値を超えて多いと、αFeが生成しないインゴットの製造が可能であるものの、非磁性相のRリッチ相の体積比が増えて磁気特性を示す最大エネルギー積及び残留磁束密度が低下する。
【解決手段】 液相焼結によりネオジウム鉄ボロン系焼結磁石を得た後、この焼結磁石を処理室に収納して焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少させつつ、当該焼結磁石と同一または異なる処理室に収納した所定のDyやTbの金属蒸発材料を真空雰囲気中にて加熱して蒸発させ、この蒸発した金属原子を焼結磁石表面に付着させ、この付着した金属原子を、金属蒸発材料からなる薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、焼結体の製造方法に関し、より詳しくは、ネオジウム鉄ボロン系(Nd−Fe−B系)の焼結磁石から希土類元素を優先的に蒸発させる処理(真空蒸発処理)と、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)をその結晶粒界相に拡散させる処理(真空蒸気処理)とを同時に行うことで超高性能磁石を作製するための焼結体の製造方法に関する。
Nd−Fe−B系の焼結磁石(所謂、ネオジム磁石)は、鉄と、安価であって資源的に豊富で安定供給が可能なNd、Bの元素の組み合わせからなることで安価に製造できると共に、高磁気特性(最大エネルギー積はフェライト系磁石の10倍程度)を有することから、電子機器など種々の製品に利用され、ハイブリッドカー用のモーターや発電機などにも採用され、使用量が増えている。
Nd−Fe−B系の磁石は主に粉末冶金法で生産されており、この方法では、先ず、Nd、Fe、Bを所定の組成比で配合し、溶解、鋳造して合金原料を作製し、例えば水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、例えばジェットミル微粉砕工程により微粉砕して、合金原料粉末を得る。次いで、得られた合金原料粉末を磁界中で配向(磁場配向)させ、磁場を印加した状態で圧縮成形して成形体を得る。そして、この成形体を所定の条件下で焼結させて焼結磁石が作製される(特許文献1参照)。
特開2004−6761号公報
ところで、Nd−Fe−B系の焼結磁石の磁性を担うR14B相(主相成分)は、平衡状態では液相から直接生成せず、先ず初相としてγ鉄が生成し、液相とその鉄との反応(包晶反応)で生成する(γ鉄は温度低下と共にα鉄に変態する)。この場合、例えば、凝固冷却速度の速い急冷法であるストリップキャスティング法(SC法)により合金原料を溶解、鋳造したとしても、Ndの含有量を28.5%以下にすれば、α鉄の生成の抑制が難しく、合金中にデンドライト状に生成することが知られている。
α鉄が合金中にデンドライト状に生成し、立体的に繋がっていると、その後の粉砕工程での合金の粉砕性を著しく害する。つまり、粉砕性が悪いと、水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により微粉砕しようとしても、高磁気特性の焼結磁石を作製することに適した粒形の揃った微細な粉末粒子の粉末を得ることが困難となる。その上、ジェットミル中に粗大粒(デンドライト状に生成したα鉄に起因する)が残留したり、バッグフィルターで回収される微粉の量が増えることによって組成ずれが起こり易く、品質管理が困難であるという問題がある。
他方で、Ndの含有量を28.5%より多くすれば、α鉄が生成しないインゴットの製造が可能であるものの、Rリッチ相が増えて、磁性を担うR14B相の体積比が減少するため、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)の大きな高性能磁石の製造が難しくなるといった問題が生じる。
また、この種の磁石においては、保磁力(kOe)をさらに高めれば、磁石自体の厚みの薄くしても強い磁力を持ったものが得られるので、この種の磁石利用製品自体の小型、軽量化や小電力化を図ることができる。このことから、従来技術のものと比較して一層高い保磁力を有する超高性能磁石の開発も望まれている。
そこで、本発明の目的は、上記点に鑑み、例えば永久磁石の磁気特性の向上などの製品機能を改善できる焼結体の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明の焼結体の製造方法は、液相焼結により一次焼結体を得た後、この一次焼結体を処理室に収納して焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少あるいは消滅させつつ、当該一次焼結体と同一または異なる処理室に収納した所定の金属蒸発材料を真空雰囲気中にて加熱して蒸発させ、この蒸発した金属原子を一次焼結体表面に付着させ、この付着した金属原子を一次焼結体の結晶粒界相に拡散させることを特徴とする。
本発明によれば、焼結促進に寄与する液相成分のうち、蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて液相の体積比を減少等させることで、主相本来の特性を発揮させることができる。特に、一次焼結体がR14B相系磁石の場合、希土類元素を効率良く蒸発させて、Rリッチ相の体積比を減少させ、磁性を担うR14B相(主相成分)の体積比を増大させることにより、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)を向上することができる。
上記のような処理と同時に、主相の特性を向上させる所定の金属原子をその結晶粒界相に拡散させることで、主相本来の特性をより一層向上させることができる。特に、磁性を担うR14B相の体積比を増大させることにより、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)を向上させたものに対し、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるDyやTbをその結晶粒界相に拡散させることで、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を強化し、その結果、最大エネルギー積がほとんど損なわれることなく、保磁力が飛躍的に向上し、その結果、超高性能磁石が得られる。
このように本発明においては、液相成分のうち蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて液相の体積比を減少等させる処理と、主相の特性を向上させる所定の金属原子をその結晶粒界相に拡散させる処理とを同時に施すため、両処理を順次行う場合と比較して大幅に処理時間を短縮することができ、高い生産性を達成することが可能となる。
この場合、前記蒸発した金属原子を二次焼結体表面に金属蒸発材料からなる薄膜が形成される前に二次焼結体の結晶粒界相に拡散させることがよい。これによれば、磁石表面が劣化することが防止され、仕上げ加工が不要な生産性に優れた磁石が得られる。
本発明においては、前記一次焼結体は、原料合金をストリップキャスティング法あるいは遠心鋳造法で製造し、その後、粉砕、磁場成形、焼結の各工程を経て得たものであることが好ましい。
前記原料合金は、所定の希土類元素を有するネオジウム鉄ボロン系焼結磁石用のものであり、前記希土類元素の含有量が28.5重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
これによれば、主相成分がR14B相で構成され、Rが、Ndを主とする少なくとも1種の希土類元素、Tが、Feを主とする遷移金属であり、R14B相化学量論組成より過剰のRがRリッチ相として、特に焼結時に液相となって焼結の促進に役立つ焼結磁石である場合に、例えば、原料合金を溶解、鋳造するとき、合金中にデンドライト状のα鉄が生成しないように、希土類元素の含有量を多く設定し、α鉄が生成しないインゴットを製造し、公知の工程で焼結磁石を得た後、Rリッチ相の希土類元素のみを蒸発させることで、Ndリッチ相の体積比を減少させ、その結果、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)を向上できる。
上記処理と同時に、前記金属蒸発材料を、ジスプロシウム、テルビウムまたはこれらのいずれか一方を含む合金として、DyやTbを蒸発させ、Dy原子を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させることで、保磁力を向上でき、その結果、超高性能磁石が得られる。
前記真空雰囲気の圧力を、10−4Pa以下に設定することが好ましい。10−4Paより高い圧力では、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させつつ、DyやTbの金属原子を焼結磁石の結晶粒界相に効率よく拡散できない。
また、一次焼結体表面に金属蒸発材料からなる薄膜が形成されないように蒸発した金属原子を供給するために、前記蒸発した金属原子が、前記処理室に配置され、かつ、複数個の微細な開口が形成された調整板の各開口を通して前記焼結磁石に供給される構成を採用するのがよい。
なお、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法によって製造される焼結体は、例えばネオジウム鉄ボロン系焼結磁石である。
図1を参照して説明すれば、1は、ネオジウム鉄ボロン系の焼結磁石(一次焼結体)Sに対し、真空雰囲気にて焼結磁石Sから希土類元素を優先的に蒸発させる処理(真空蒸発処理)と、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)をその結晶粒界相に拡散させる処理(真空蒸気処理)とを同時に施して超高性能磁石を得るための真空処理装置である。真空蒸発装置1は、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、拡散ポンプなどの真空排気手段2を介して所定圧力(例えば10−5Pa)まで減圧して保持できる真空チャンバ3を有する。真空チャンバ内3には、上面を開口した円筒形状の焼結体ケース4が出入れ自在に設置でき、この焼結体ケース4で囲まれた空間が処理室4aを構成する。処理室4a内には、複数本の線材(例えばφ0.1〜10mm)を格子状に配置してなる載置部4bが、底面から高さ方向で所定の間隔を存して複数形成され、この載置部4bに複数個の焼結磁石Sを並べて載置できるようになっている。
また、焼結体ケース4には、焼結磁石Sと離間するようにその底面、側面または上面等に金属蒸発材料Vが適宜配置できるようになっている。金属蒸発材料Vとしては、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)またはこれらの少なくとも一方を含む合金が用いられ、当該合金には、保磁力を一層高めるために、Nd、Al、Cu及びGa等が含められる。金属蒸発材料Vは、所定の混合割合で配合し、例えばアーク溶解炉を用いてバルク状(略球状)の合金を得て、焼結磁石Sの1〜10重量%の割合で、単位体積当たりの表面積(比表面積)を小さくして処理室4aに配置される。
焼結体ケース4及び載置部4bは、後述するように焼結磁石S及び金属蒸発材料Vを加熱することで、当該焼結磁石Sから液相である希土類リッチ相のNd、Prなどの希土類元素Rを優先的に蒸発させると共に、DyやTbの金属蒸発材料Vを蒸発させたときに、これらの希土類元素Rと反応しない材料から構成されている。即ち、蒸発させた希土類元素Rが焼結体ケース4や載置部4bの表面に付着してその表面に反応生成物を形成したのでは、蒸発させたDy及びTbを含む希土類元素Rの回収が困難になる場合がある。このため、焼結体ケース4及び載置部4bを、表面に付着した希土類元素Rの剥離が容易なMoやSUSから製作するか、またはMo等を他の断熱材の表面に内張膜として成膜したものから構成している。この場合、真空チャンバ3の壁面にも、希土類元素Rが付着するため、その回収を容易にするため、表面に上記材料からなる内張膜を形成したシールド板(図示せず)を設けておくことが好ましい。
真空チャンバ3には、焼結体ケース4の周囲を囲うように加熱手段5が設けられている。加熱手段5は、焼結体ケース4の周囲を囲うようにその全長に亘って列設した複数本の環状のフィラメントから構成される電気ヒータ(図示せず)であり、各フィラメントは、真空チャンバ3内に設けた支持片(図示せず)で支持されている。この場合、フィラメントもまた、希土類元素Rと反応しないMo等から構成されている。そして、減圧下で、加熱手段5によって焼結体ケース4を加熱することで、焼結体ケース4を介して間接的に処理室4a、ひいては、載置部4bに載置した焼結磁石S及び金属蒸発材料Vを略均等に加熱できる。
焼結体ケース4の上方には、その開口した上面を覆うようにトラップ板6が配置され、このトラップ板6は、焼結磁石Sから蒸発した希土類元素R及び金属蒸発材料Vから蒸発したDy原子やTb原子のうち焼結磁石D表面に付着せずに焼結体ケース4上面の開口を通ってその外側に排出されたものを付着させて回収する役割を果たす。トラップ板6もまた、蒸発させたDy、Tbを含む希土類元素Rと反応せず、かつ、表面に付着したものが剥離し易い材料、例えばMoから構成されている。この場合、処理室4aの容積は、希土類元素Rの平均自由行程を考慮して、特に焼結磁石Sから蒸発させた希土類元素Rが直接または焼結体ケース4の内壁への衝突を繰返して上面開口を通って外側に排出されるように設定され、また、焼結体ケース4の上端からトラップ板6までの間隔は、排出された希土類元素Rの大部分が付着するように設定されている。この場合、焼結体ケース4に、例えば冷媒の循環による冷却手段を付設し、温度差によって蒸発した希土類元素Rがトラップ板6に付着して堆積するように構成してもよい。
次に、超高性能磁石(永久磁石)の作製について説明する。原料合金粉末は次のように作製される。即ち、Fe、Nd、Bが所定の組成比となるように、工業用純鉄、金属ネオジウム、低炭素フェロボロンを配合して真空誘導炉を用いて溶解し、急冷法、例えばストリップキャスト法により0.05mm〜0.5mmの原料合金を先ず作製する。あるいは、遠心鋳造法で5〜10mm程度の厚さの原料合金を作製してもよく、配合の際に、Dy、Tb、Co、Cu、Nb、Zr、Al、Ga等を添加しても良い。この場合、希土類元素の合計含有量を28.5%より多くし、α鉄が生成しないインゴットとする。
次いで、作製した原料合金を、公知の水素粉砕工程により粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により窒素ガス雰囲気中で微粉砕し、平均粒径3〜10μmの原料合金粉末を得る。次いで、原料合金粉末を、公知の圧縮成形機を用いて磁界中で所定形状に圧縮成形する。次いで、圧縮成形機から取出した成形体を、図示しない焼結炉内に収納し、真空中で所定温度(例えば、1050℃)で所定時間焼結(焼結工程)し、さらに所定温度(500℃)で熱処理して焼結磁石(一次焼結体)Sを得る。
次に、図1に示す真空処理装置1を用い、上記焼結磁石Sに対し、真空蒸発処理と、金属蒸発材料VとしてTbを用いた真空蒸気処理とを同時に施す。即ち、上記のように作製した焼結磁石Sを、焼結体ケース4の載置部4b上に載置すると共に、当該焼結体ケース4の底面に、金属蒸発材料Vとしてバルク状のTbを設置する。そして、焼結磁石Sと金属蒸発材料Vとを収納した焼結体ケース4を真空チャンバ3内の加熱手段5で囲まれる位置に設置した後、真空排気手段2を作動させて、所定圧力(例えば10−5Pa)に到達するまで真空チャンバ3を減圧する。真空チャンバ3内が所定圧力に到達した後、加熱手段5を作動させて処理室4a、ひいては焼結磁石S及び金属蒸発材料をV加熱し、所定温度に到達した後、この状態で所定時間保持する。
この場合の加熱温度は、900℃以上で焼結温度未満(例えば、1100℃)の温度に設定する。900℃より低い温度では、希土類元素R及び金属蒸発材料VたるTbを効率よく蒸発できず、また、焼結温度を超えると、異常粒成長が起こり、磁気特性が大きく低下すると共に、Tbの蒸気圧が高くなって蒸気雰囲気中のTb原子が焼結磁石S表面に過剰に供給される。併せて、真空チャンバ3と真空排気手段2とを連結する排気通路(排気管)7に開度調整自在な開閉バルブ8を設け、この開閉バルブ8の開度を調節して、真空チャンバ3、ひいては処理室4a内の圧力を10−4Pa以下の圧力に設定する。10−4Paより高い圧力では、希土類元素R及び金属蒸発材料VたるTbを効率よく蒸発させることができない。
これにより、一定温度下での蒸気圧の相違により(例えば、1000℃において、Ndの蒸気圧は10−3Pa、Feの蒸気圧は10−5Pa、Bの蒸気圧は10−13Pa)、Rリッチ相中の希土類元素Rのみが蒸発する。このため、Ndリッチ相の割合が減少して、磁気特性を示す最大エネルギー積((BH)max)及び残留磁束密度(Br)が向上する。それに加えて、上記温度範囲で蒸発したTb原子が直接または焼結体ケース4の側壁で衝突を繰返して複数の方向から所定温度に加熱されている焼結磁石S表面に向かって供給されて付着し、この付着したTb原子が焼結磁石Sの結晶粒界相に拡散され、結晶粒界相にTbリッチ相(Dyを5〜80%の範囲で含む相)が形成される。このため、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を強化し、最大エネルギー積を殆ど損なうことなく、保磁力が飛躍的に向上する。その結果、超高性能磁石となる。
ここで、上記処理の時間は、永久磁石の希土類元素Rの含有量を28.5wt%未満、または、希土類元素Rの平均濃度の減少量を0.5重量%以上となり、その上で結晶粒界相にTbリッチ相が形成されるように適宜設定される。
また、上記圧力及び加熱温度範囲で、Tbを蒸発させることで、Tbの蒸気圧を低くなってその蒸発量が少くなって焼結磁石SへのTb原子の供給量が抑制されることと、焼結磁石が最適な拡散速度が得られる範囲に加熱されていることとが相俟って、焼結磁石S表面に付着したTb原子が、焼結磁石S表面で堆積してTb層(薄膜)を形成する前にその結晶粒界相に効率よく拡散させて均一に行き渡るようになる(図2参照)。その結果、磁石Mの表面が劣化することが防止され、仕上げ加工が不要な生産性に優れた超高性能磁石(永久磁石)Mが得られる。この場合、真空蒸発処理と、真空蒸気処理とを順次行う場合と比較して大幅に処理時間を短縮することができ、さらに高い生産性を達成することが可能となる。
次いで、上記処理を実施した後、加熱手段5の作動を一旦停止すると共に、開閉バルブ8を全開して真空チャンバ3を排気しつつ冷却し、処理室4a内の温度を例えば500℃まで一旦下げる。引き続き、加熱手段5を再度作動させ、処理室4a内の温度を550℃〜650℃の範囲に設定し、一層磁気特性を向上させるための熱処理を施す。最後に、略室温まで冷却し、永久磁石Mを取り出す。
尚、本実施の形態においては、焼結体ケース4に設置する金属蒸発材料としてTbを用いるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、Dyを用いることができる。この場合、処理室4a内の温度が900℃〜1000℃のとき、Dyの飽和蒸気圧は約1×10−2〜1×10−1Paであるため、処理室4aを900℃を超えた温度で加熱すると、Dyの蒸気圧が高くなって蒸気雰囲気中のDy原子が焼結磁石S表面に過剰に供給される。このとき、Dyが結晶粒内に拡散し、結晶粒内の磁化を大きく下げるため、最大エネルギー積及び残留磁束密度が低下することになる。
そこで、図3(a)及び(b)に示すように、金属蒸発材料VがDyを主とするような場合には、焼結体ケース4の底面に、上面を開口した箱体11と当該箱体の上面開口を塞ぐ蓋体12とからなるMo製の蒸発箱13を設置し、蓋体12に形成した微細な貫通孔14(φ0.1〜5mm)を通して、焼結磁石に蒸発したDy原子が供給されるようにすることが好ましい。この場合、蓋体12が調整板を構成する。
他方で、特に図示しないが、真空チャンバ3に連通路を介して他の真空チャンバたる蒸発室(他の処理室)を連結し、当該他の真空チャンバ内に金属蒸発材料Vのみを設置し、真空チャンバ3とは別個に金属蒸発材料Vを加熱して蒸発させることができるようにし、焼結体ケース4の底面に設けた開口を介して焼結磁石に蒸発したDy原子が供給されるようにしてもよい。この場合、連通路に複数の微細な貫通孔を形成した調整板を設けるようにしてもよい。
さらに、本実施の形態では、焼結磁石Sの製造を例として説明したが、焼結体から特定物質を蒸発させ、特定の金属元素をその結晶粒界相に拡散させて焼結体の機能を向上できるものであれば、本発明の焼結体の製造方法を適用できる。
実施例1では、図1に示す真空処理装置1を用い、永久磁石を得た。まず、工業用純鉄、金属ネオジウム、低炭素フェロボロン、電解コバルト、純銅を原料として、配合組成で29Nd−1B−0.1Cu−1Co−Bal Fe(重量%)となるようにして、真空誘導溶解を行い、ストリップキャスティング法で厚さ約0.3mmの薄片状インゴットを得た。次に、水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、例えばジェットミル微粉砕工程により微粉砕して、原料合金粉末を得た。
次に、公知の構造を有する横磁場圧縮成形装置を用いて、成形体を得て、次いで真空焼結炉にて1050℃の温度下で2時間焼結させて焼結磁石Sを得た。そして、ワイヤカットにより一次焼結体を40×10×3mmの形状に加工した後、表面粗さが10μm以下となるように仕上げ加工した後、希硝酸によって表面をエッチングした。
次いで、図1に示す真空蒸発装置1を用い上記処理を施した。処理室4a内の載置部4bに100個の上記焼結磁石Sを等間隔で配置すると共に、焼結体ケース4の底面に、金属蒸発材料Vとして、純度99.9%で塊状のTb(約φ1mm)を3kgの総量で配置した。
次いで、焼結磁石Sと金属蒸発材料Vとをセットした焼結体ケース4を真空チャンバ3の所定位置に収納した後、真空排気手段2を作動させて真空チャンバを1×10−5Paまで減圧し、加熱手段5を作動させて加熱した。処理室4aの加熱温度を1000℃に設定し、処理室4aの温度が1000℃に達した後、上記処理を10時間行った。
図4は、開閉バルブ8の開度を調節して処理室4a内の圧力を1Paから2×10−5Paまで変化させて上記処理を行ったときの永久磁石Mの磁気特性(BHカーブトレーサーにより測定)の平均値を示す表である。これによれば、10−3Paの圧力では、磁気特性を示す最大エネルギー積が53.6MG0e、残留磁束密度が14.62kG、そして保磁力が12.6kOeであり、この圧力より高い圧力下では、超高性能の永久磁石が得られないことが判る。
それに対して、10−4Pa以下の圧力では、磁気特性を示す最大エネルギー積が56MG0e、残留磁束密度が14.87kGであり、しかも、保磁力が27.5kOeであり、10−3Paの圧力より高い圧力の場合に比べて倍以上の保磁力を有する超高性能の永久磁石が得られることが判る。
実施例2では、実施例1と同条件で焼結磁石Sを作製した。次いで、真空蒸発装置1を用い、加熱温度を900℃、蒸発時間を10時間と固定して、開閉バルブ8の開度を調節して処理室4a内の圧力を2Paから2×10−5Paまで変化させ、上記真空処理を実施した。
また、金属蒸発材料Vとして、純度99.9%で塊状のDy(約φ1mm)を用い、3kgの総量で蒸発箱13(図3参照)に配置した後、焼結体ケース4の底面に設置した。蒸発箱13の蓋体には、φ0.2〜0.5mmの貫通孔を、蓋体上面の面積に対する開口率が1%となるように形成した。
図5は、上記処理を行ったときの永久磁石Mの磁気特性(BHカーブトレーサーにより測定)の平均値を示す表である。これによれば、10−3Paの圧力では、磁気特性を示す最大エネルギー積が53.1MG0e、残留磁束密度が14.61kG、そして保磁力が13.5kOeであり、この圧力より高い圧力下では、超高性能の永久磁石が得られないことが判る。
それに対して、10−4Pa以下の圧力では、磁気特性を示す最大エネルギー積が55.6MG0e、残留磁束密度が14.86kGであり、保磁力が22.5kOeであり、10−3Paの圧力より高い圧力の場合に比べて超高性能の永久磁石が得られることが判る。
本発明の製造方法を実施する真空処理装置を概略的に説明する図。 真空処理を施したときの磁石の断面を模式的に説明する図。 本発明の製造方法を実施する真空処理装置の変形例を概略的に説明する図。 実施例1で作製した焼結磁石の磁気特性を示す表。 実施例2で作製した焼結磁石の磁気特性を示す表。
符号の説明
1 真空蒸発装置
3 真空チャンバ
4 焼結体ケース
4a 処理室
5 加熱手段
6 トラップ板
S 一次焼結体(焼結磁石)
R 希土類元素
V 金属蒸発材料(Dy、Tb)

Claims (8)

  1. 液相焼結により一次焼結体を得た後、この一次焼結体を処理室に収納して焼結温度より低い温度にて真空雰囲気中で加熱することにより、液相成分中の蒸気圧の高い元素を優先的に蒸発させて、液相の体積比を減少あるいは消滅させつつ、当該一次焼結体と同一または異なる処理室に収納した所定の金属蒸発材料を真空雰囲気中にて加熱して蒸発させ、この蒸発した金属原子を一次焼結体表面に付着させ、この付着した金属原子を一次焼結体の結晶粒界相に拡散させることを特徴とする焼結体の製造方法。
  2. 前記蒸発した金属原子を、一次焼結体表面に金属蒸発材料からなる薄膜が形成される前に一次焼結体の結晶粒界相に拡散させることを特徴とする請求項1記載の焼結体の製造方法。
  3. 前記一次焼結体は、原料合金をストリップキャスティング法あるいは遠心鋳造法で製造し、その後、粉砕、磁場成形、焼結の各工程を経て得たものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の焼結体の製造方法。
  4. 前記原料合金は、所定の希土類元素を有するネオジウム鉄ボロン系焼結磁石用のものであり、前記希土類元素の含有量が28.5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の焼結体の製造方法。
  5. 前記金属蒸発材料は、ジスプロシウム、テルビウムまたはこれらのいずれか一方を含む合金であることを特徴とする請求項4記載の焼結体の製造方法。
  6. 前記真空雰囲気の圧力を、10−4Pa以下に設定することを特徴とする請求項4または請求項5記載の焼結体の製造方法。
  7. 前記蒸発した金属原子が、前記処理室に配置されかつ-複数個の微細な開口が形成された調整板の各開口を通して前記焼結磁石に供給されるようにしたことを特徴とする請求項6記載の永久磁石の製造方法。
  8. 請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とするネオジウム鉄ボロン系焼結磁石。
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